説明

プリオンを除去するための超音波処理の使用

【課題】プリオンの破壊または不活性化のために従来必要とされている厳しい条件を用いることなく、プリオンの除去に有効な殺菌方法を提供する。
【解決手段】超音波エネルギーと酵素処理との組み合わせを用いてプリオン分子を破壊する。本発明の方法は、プリオンタンパク質またはその代替物で汚染された表面を殺菌する方法であって、前記表面を、超音波エネルギー、電界、磁界及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるプリオンタンパク質変性手段で処理するステップと、前記表面を、前記プリオンタンパク質を非感染性断片に開裂するのに有効な1つ若しくは複数の酵素を含有しかつ界面活性剤を実質的に含有しない分解組成物で処理するステップとを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、表面を殺菌する方法に関し、特に、プリオン分子を破壊する方法に関する。より具体的には、本発明の方法は、超音波エネルギーと酵素処理との組み合わせを用いてプリオンを変性させかつ分解する。本発明の方法は、プリオンまたはその代替物で汚染された表面、懸濁液または溶液を処理するのに使用され得る。
【背景技術】
【0002】
バクテリア、真菌、寄生虫、ウイルス及びウイロイドなどの感染性因子の多くは、様々な形態の殺菌及び滅菌(例えば、蒸気滅菌、乾燥滅菌、低温滅菌、ろ過滅菌、エチレン酸化物、グルタルアルデヒド、フェノールまたは他の化学殺菌剤による処理、放射線照射など)を含む十分に確立された制御方法を有する。
【0003】
ここ数年間、プリオン(タンパク性感染粒子)と呼ばれる新たな以前は未知であった新型病原体が出現し、科学刊行物に報告されている。プリオンが原因と思われる比較的類似する神経疾患が多数、ヒトと動物の両方において確認されている。これらの疾患は、一般的に、伝達性海綿状脳症(transmissible spongiform encephalopathy:TSE)と呼ばれている。TSEには、ヒトにおけるクロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease:CJD)、変異型CJD(vCJD)、クールー(Kuru)、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(Gerstmann-Straussler-Scheinker disease:GSS)及び致死性家族性不眠症(fatal familial insomnia:FFI)、ウシにおける牛海綿状脳症(bovine spongiform encephalopathy:BSE)(「狂牛病」としても知られている)、ヒツジ及びヤギにおけるスクレピー(scrapie)、並びに、ヘラジカ及びシカにおける慢性消耗病(chronic wasting disease:CWD)が含まれる。これらの疾患は全て、上記の特定の疾患に感染しやすい動物の神経器官を攻撃する。これらの疾患は、初期の長い潜伏期間、その後の短期間の神経症状(認知症及び協調運動障害を含む)、及び最終的な死によって特徴付けられる。
【0004】
プリオンの構造についての研究が精力的に行われており、様々な異なる見解が示されている。プリオンが非常に小さいウイルスであると考えている科学者も一部いるが、現在、ほとんどの専門家は、実際のところプリオンはDNAまたはRNAコアを持たない感染性タンパク質であると考えている。より具体的には、感染性プリオンは、ホストにおいて通常見られるタンパク質(すなわち、「プロテアーゼ耐性タンパク質(protease-resistant protein:PrP)」)の異常型であると考えられている。哺乳類のPrP遺伝子は、溶解性の非疾病性細胞型PrPまたは不溶性の疾病型PrPScであり得るタンパク質を発現する。多くの証拠が、プリオン病が、正常な細胞型から異常型PrPScへの形質転換に起因することを示している。前記2つの型のアミノ酸配列には、検出可能な差異はない。感染性プリオンは、主としてその3次元構造によって、細胞性プリオンタンパク質と区別される。特に、細胞性プリオンタンパク質は、主にαヘリックス構造から構成されており、βシートをほとんど含まない。しかし、PrPScは、改変された立体構造を持ち、具体的には、厳しい条件以外の全ての条件下でPrPScの耐性を高める高レベルのβシート構造及び多数の分子内ジスルフィド結合を有する。
【0005】
プリオン病の発症メカニズムは、正常な宿主コード化タンパク質の変化を伴うことが提唱されている。前記タンパク質は、自己増殖能力を有する異常型PrPScへの構造変化を起こす。この変化のはっきりとした原因は、現時点では不明である。異常型タンパク質は、体内では効果的に破壊されず、特定の組織(特に神経細胞)中に蓄積し、最終的には細胞死などの組織損傷を引き起こす。一旦、神経組織の著しい損傷が生じると、臨床兆候が観察される。
【0006】
一般的に、プリオン病は伝染性が高いと考えられていないにも関わらず、プリオン病は、或る種内で、及び特定の条件下で或る種から他の種へ、感染することができる。現在までに、プリオン病が、例えば脳、脊髄、脳脊髄液及び眼などの高リスク組織を介して感染し得ることが分かっている。硬膜移植、角膜移植、心膜同種移植、ヒトゴナドトロピン及びヒト成長ホルモン汚染を介しての感染を含む医原性感染もまた報告されている。医療用器具を介しての感染もまた報告されている。例えば、プリオンに感染した患者の手術処置後に、プリオンを含む残存物が、外科用器具(特に、脳神経外科用器具および眼科用器具)、深部電極、及び手術中に中枢神経系に極めて近接して使用される他の器具上に残留していることがある。また、主にヨーロッパでは、高リスク群に、ウシや牛肉と接触する、獣医、食肉処理場の作業員、精肉業者も含まれ得るという懸念もある。
【0007】
現在、プリオンを破壊するための従来の汚染除去方法及び滅菌方法の効果について、多くの推測がなされている。上述したように、プリオンは、周知のことだが非常に耐性が高く、定期的な汚染除去方法及び滅菌方法に対して耐性を示す。エチレン酸化物、プロピオラクトン、過酸化水素、ヨードフォア、過酢酸、カオトロピック及びフェノールなどの従来の病院用殺菌剤は、プリオン感染にはほとんど効果がない。さらに、感染性プリオンは、UV照射、アルデヒド固定、煮沸、121℃での標準重力オートクレービング、及び洗浄可溶化に対して耐性を示す。また、プリオンは、比較的高い温度に非常に長期間曝すことによって不活性化させることができるが、バクテリアの殺滅及びウイルスの不活性化に一般的に使用される温度範囲及び期間はプリオンを不活性化させるには不十分である。さらに、プリオンは核酸を持たないので、DNAまたはRNAの破壊または損傷により作用する従来の滅菌方法もまた、プリオンに対しては効果がない。
【0008】
プリオンを不活性化させるためのいくつかの推奨方法には、焼却、長期間の蒸気オートクレービング、高濃度での水酸化ナトリウム処理及び次亜塩素酸ナトリウム処理が含まれる。しかしながら、これらの積極的な処理は、多くの場合、高価な医療用器具及び外科用器具(特に可撓性内視鏡)や、プラスチック部品、真ちゅう部品、アルミニウム部品または非金属製部品を有する他の器具には適合しない。そのような器具の多くは、高温に曝すと損傷を受ける。また、一般的に、強アルカリなどで化学的に処理すると、医療用器具の材料または表面に損傷を与える。
【0009】
これらの制約により、外科用機器または歯科用機器におけるプリオン汚染除去は、多くの場合、CJD感染の疑いがある患者の処置後にのみ行われる。通常は、他の全ての患者の処置後に器具を滅菌するのに使用されるような、例えば定期的なオートクレービングなどの標準的な手法では、プリオンを不活性化させることはできない。汚染除去に関する前記問題点のために、脳外科手術に用いられる外科用器具は、好ましくは、1回だけの使用にすべきである提案されている。しかし、これは、高価になることに加えて廃棄のリスクも意味するため、実用的ではない。プリオンの破壊に必要とされる前記厳しい条件はまた、例えば手術環境または食肉加工環境などにおいて、表面の清浄を困難にする。さらに、前記厳しい条件は、殺菌される器具を使用して作業する人員に対する特別な配慮及び安全な手順を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、プリオンの破壊または不活性化のために従来必要とされている厳しい条件を用いることなく、プリオンの除去に有効な清浄方法が明らかに必要である。そのような方法は、TSEの医原性感染を防止するために、全ての外科用器具におけるプリオンの定期的な汚染除去に、及び、プリオンに汚染された他の表面、懸濁液及び溶液の汚染除去に好適に使用され得る。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、一般的に、表面を殺菌する方法に関する。より詳細には、本開示は、プリオン分子を破壊する方法に関する。具体的には、本発明の方法は、超音波エネルギーと酵素処理との組み合わせを用いて、プリオンを変性させかつ分解する。本発明の方法は、プリオンタンパク質またはその代替物で汚染された表面、懸濁液または溶液を処理するのに使用され得る。
【0012】
ある態様では、本開示は、プリオンタンパク質またはその代替物で汚染された表面を殺菌する方法に関する。この方法は、前記表面を、超音波エネルギー、電界、磁界及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるプリオンタンパク質変性手段で処理するステップと、前記表面を、前記プリオンタンパク質を非感染性断片に開裂するのに有効な1つ若しくは複数の酵素を含有しかつ界面活性剤を実質的に含有しない分解組成物で処理するステップとを含む。
【0013】
他の態様では、本開示は、プリオンタンパク質またはその代替物で汚染された表面を殺菌する方法に関する。この方法は、前記表面を、超音波エネルギー、電界、磁界及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるプリオンタンパク質変性手段で処理するステップと、前記表面を、前記プリオンタンパク質を非感染性断片に開裂するのに有効な1つ若しくは複数の酵素を含有しかつ約6ないし約8のpHを有する分解組成物で処理するステップとを含む。
【0014】
さらなる他の態様では、本開示は、表面を殺菌する方法に関する。この方法は、前記表面を、超音波エネルギー、電界、磁界及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるプリオンタンパク質変性手段で処理するステップと、前記表面を、プロテアーゼ、タンパク質分解酵素及びそれらの組み合わせからなる群より選択される1つ若しくは複数の酵素を含有しかつ約6ないし約8のpHを有する分解組成物で処理するステップとを含む。
【0015】
さらに別の態様では、本開示は、表面を殺菌する方法に関する。この方法は、前記表面を、超音波エネルギー、電界、磁界及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるプリオンタンパク質変性手段で処理するステップと、前記表面を、プロテアーゼ、タンパク質分解酵素及びそれらの組み合わせからなる群より選択される1つ若しくは複数の酵素を含有しかつ界面活性剤を実質的に含有しない分解組成物で処理するステップとを含む。
【0016】
他の目的及び特徴は、以下に一部分において明らかにされ、一部分において指摘されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1で説明したようにして、0%(w/v)(レーン1)、1%(w/v)(レーン2)、4%(w/v)(レーン3)または8%(w/v)(レーン4)のドデシル硫酸ナトリウムで前処理した後に、プロテアーゼKで消化したプリオン代替タンパク質(PSP)のウェスタンブロットである。
【図2】実施例2で説明したようにして、PSPのみ(超音波処理なし、プロテイナーゼK消化なし)の場合(レーン1)、PSPを超音波処理し、その後にプロテイナーゼK消化した場合(レーン2)、PSPを超音波処理したが、プロテイナーゼK消化は行わなかった場合(レーン3)のウェスタンブロットである。
【図3】実施例3に記載した条件下で作成したPSP及び/またはプロテアーゼKのサンプルのウェスタンブロットである。
【0018】
全図面を通して、対応する参照番号は、対応する部分を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示は、一般的に、プリオン分子を破壊するかまたはプリオンを非感染性にする方法に関する。特に、本発明の方法は、感染性プリオンで汚染された表面、溶液または懸濁液を殺菌するのに使用され得る。
【0020】
本明細書中で使用される「プリオン」、「プリオンタンパク質」、「感染性タンパク質」、「PrPScタンパク質」などの用語は、PrPタンパク質の感染型PrPScを指すのに互換的に使用される。本明細書中で使用される「プリオンの代替物」という用語は、βフォールディング(folding)の存在に起因して、感染性プリオンと同様に、プロテアーゼに対する耐性を有するタンパク質を指す。プリオン代替タンパク質(prion surrogate protein:PSP)の一種は、米国ノースカロライナ州チャペルヒルのバイオリソースインターナショナル社(BioResource International, Inc.)からカタログ番号PSP−001として入手可能である。
【0021】
上述したように、PrPScプリオン型は、非常に高い温度、非常に高いpHまたは強力な化学薬品などの厳しい条件以外では、全ての条件下で破壊に対して高い耐性を有する。さらに、PrPScタンパク質は、タンパク質分解酵素を含む酵素の攻撃に対して特徴的な耐性を示す。理論に拘束されることは望まないが、酵素の攻撃及びその他の一般的な殺菌方法に対するPrPScタンパク質の耐性は、感染性プリオンの改変されたフォールディング構造に起因すると考えられる。特に、PrPScは、除去に対する耐性を高める、αヘリカル構造の数と比較して高レベルのβシート構造と、多数の分子内ジスルフィド結合とを有する。
【0022】
多くのタンパク質は、その本来の三次元のフォールディングパターン(「二次及び三次構造」)を喪失して「変性」する傾向がある。変性には、分子内相互作用(特に水素結合及びジスルフィド結合)の崩壊と、それによる、実質的に全ての天然タンパク質が分子の少なくとも一部に有し一般的にタンパク質の活性に対して決定的に関与している二次構造の喪失が含まれる。一方、PrPScタンパク質は、アンフォールディング(unfolding)に対して高い耐性を示し、それ故に、タンパク質分解酵素の攻撃に対して耐性を示す。本開示は、プリオン破壊手段を提供し、酵素がPrPScタンパク質にアクセスして非感染性で安全な大きさ(例えば、27kDa以下の分子量)まで開裂するのに十分なほどにプリオンタンパク質を変性またはアンフォールディングさせることにより、この問題を解決する。
【0023】
具体的には、本発明の方法は、プリオン分子をアンフォールディング(すなわち変性)させ、アンフォールディングさせたプリオンを非感染性断片に開裂するための、化学的作用因子と物理的作用因子との組み合わせの使用を開示する。より具体的には、本発明の方法は、超音波エネルギーと酵素処理との組み合わせを用いて、プリオンまたはプリオン代替物を変性させかつ分解する。
【0024】
したがって、本開示の一態様では、プリオンまたはその代替物で汚染された表面などの表面(例えば外科用器具)を殺菌する方法が開示される。本明細書中では主に、プリオンで汚染された表面について説明するが、本明細書中で説明される本発明の方法は、プリオンで汚染された懸濁液や溶液などにも使用できることを理解されたい。さらに、本明細書中で説明される本発明の方法は、医療用、外科用及び食品加工用の機器を殺菌するための定期的な方法としても好適に適用される。例えば、主に、プリオンの除去に関して説明するが、本発明の方法は他の感染性微生物の除去にも有効であり得、医療用または外科用の器具もしくは機器や食品加工用装置(例えば食肉加工装置)などの表面の定期的な殺菌過程にも使用され得る。
【0025】
具体的には、本発明の方法は、殺菌される表面を、プリオンタンパク質を変性させる手段と、プリオンタンパク質を非感染性断片に開裂するのに有効な1つ若しくは複数の酵素を含有する分解組成物とで処理するステップを含む。前記表面は、変性手段と分解組成物とで同時に処理することができる。あるいは、前記表面は、まず変性手段で処理し、その後に、分解組成物で処理することができる。
【0026】
有利には、プリオンで汚染された表面に、例えば超音波エネルギー、磁界、電界などのエネルギーを加えることは、プリオンの変性に有効であることが分かっている。この点において、本開示の方法を有効にするためには、プリオンの完全な変性は不要であることを理解されたい。むしろ、プリオンは、分解組成物に含まれる酵素がプリオンタンパク質にアクセスして非感染性断片に開裂するのに十分な程度まで変性させれば十分である。
【0027】
特に好ましい実施形態では、変性は、超音波エネルギーの使用により達成される。より具体的には、処理中に、表面に超音波領域の音波を照射する。超音波処理は、高周波数の音波を利用して、液体溶液を分解する。理論に拘束されることは望まないが、この分解が微細気泡の形成及び崩壊を伴うキャビテーションを引き起こし、それにより殺菌する表面に付着しているプリオン粒子を前記表面から脱離させる大量のエネルギーが生成されると考えられている。超音波処理はまた、細胞内結合を破壊し、プリオンを変性させるように作用する。
【0028】
超音波処理は、好ましくは少なくとも約20kHz、より好ましくは約20kHzないし約30kHz、さらに好ましくは24kHzの周波数で行われる。超音波処理は、好ましくは約1ワットないし約20ワット、より好ましくは約7ワットないし約10ワット、さらに好ましくは約8ワットないし約9ワットの出力で行われ、約30ジュールないし約144000ジュール、より好ましくは約5000ジュールないし約36000ジュールのエネルギーを生成する。
【0029】
超音波処理が行われる時間は生成されるエネルギー量に応じて様々であり得、超音波処理は、好ましくは約0.5分間ないし約120分間、より好ましくは約20分間ないし約60分間行われる。一般的に、超音波処理を行う必要がある時間は、エネルギー量の増加に伴い減少する。超音波処理は、所与の期間の連続的な超音波処理であり得るか、あるいは、所与の期間の不連続的な超音波処理であり得ることも理解されたい。不連続的な超音波処理は、オン/オフまたはオフ/オン、パルス照射とも呼ばれる。様々な適切な超音波処理装置が市販されており、とりわけ、例えば、米国コネチカット州ニュートンのソニックス社(Sonics, Inc.)から入手可能なビブラセル(Vibra Cell)VC505型が好適である。
【0030】
超音波処理に加えて、プリオンの変性は、他の形態のエネルギー入力、例えば無線周波数スペクトルの放射線、磁気攪拌もしくは渦攪拌などの機械的手段からの電気機械的な放射線またはエネルギー的振動、電子ビーム照射、レーザー、電気分解などによって、または他の形態の音響エネルギーによっても誘導または補助され得る。特に好適な変性手段は、超音波エネルギー、電界、磁界及びそれらの組み合わせから成る群より選択される。
【0031】
有利には、本明細書中で説明される本発明の方法の変性ステップは、処理される表面または器具を腐食するかまたは他の方法で損傷を与えるように作用し得るような、例えば高いまたは低いpH、高温、または強力な殺菌剤もしくは化学薬品などの厳しい条件を用いることなく実施される。例えば、処理される表面(例えば、感染性プリオンで汚染された外科用器具)は、超音波処理中に、水、洗浄液、及び/または溶媒溶液、または他の非腐食性で低刺激性の薬剤の中に懸濁され得る。変性は、好ましくは約5ないし約9、より好ましくは約6ないし約8、さらに好ましくは約7.0のpH、及び、約10℃ないし約95℃、より典型的には約20℃ないし約50℃、さらに典型的には約30℃の温度で行われる。
【0032】
上述したように、前記表面は、まず変性手段で処理され、その後に、分解組成物で処理され得る。あるいは、前記表面は、変性手段と分解組成物とで同時に処理され得る。例えば、処理される器具または表面は、変性処理前または変性処理中に、分解性組成物中に懸濁され得る。
【0033】
上述したように、分解組成物は、プリオンタンパク質を非感染性断片に開裂するのに有効な1つ若しくは複数の酵素を含有する。そのような活性を有する任意の酵素を使用し得る。前記酵素は、プロテアーゼ、他のタンパク質分解酵素及びそれらの組み合わせから成る群より選択するのが好ましい。適切なプロテアーゼの例には、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、トレオニンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ及びグルタミン酸プロテアーゼが含まれる。セリンプロテアーゼの具体例には、例えばプロテイナーゼK及びプロペラーゼ(PROPERASE)(登録商標)酵素(ジェネンコア・インターナショナル社(Genencor International, Inc)製)などのスブチリシンセリンプロテアーゼ、及び、例えばキモトリプシン、トリプシン及びエラスターゼなどのキモトリプシン様セリンプロテアーゼが含まれる。システインプロテアーゼの具体例には、パパインプロテアーゼ、カテプシンプロテアーゼ、カスパーゼプロテアーゼ及びカルパインプロテアーゼが含まれる。他の適切なプロテアーゼの例には、ケラチナーゼ及びコラゲナーゼが含まれる。ある実施形態では、前記酵素は、例えば耐熱性メタロプロテアーゼなどの耐熱性酵素であることが好ましい。随意的に、前記プロテアーゼは、シェワネラ属(Shewanella sp.)から単離させたセリンアルカリプロテアーゼなどの耐冷性プロテアーゼであり得る。
【0034】
分解組成物は、約0.5μg/mLないし約150μg/mL、好ましくは約0.1μg/mLないし約80μg/mLのプロテアーゼ及び/または他のタンパク質分解酵素を含み得る。他の実施形態では、分解組成物は、約0.01%(w/w)ないし約10%(w/w)、好ましくは約1%(w/w)ないし約5%(w/w)、より好ましくは約3%(w/w)ないし約5%(w/w)のプロテアーゼ及び/または他のタンパク質分解酵素を含み得る。
【0035】
ある好ましい実施形態では、分解組成物は、変性剤を実質的に含まない。「変性剤を実質的に含まない」とは、分解組成物に追加的な変性剤が肯定的に追加されないことを意味する。特に、特定の界面活性剤が、変性タンパク質として知られている。しかし、そのような界面活性剤は、繊細な医療用機器または殺菌される他の種類の機器に損傷を与えることもある。あるいは、そのような界面活性剤は、場合によっては、分解組成物中に存在するプロテアーゼまたはたのタンパク質分解酵素を変性させるように作用するので、酵素の効果をなくし得る。したがって、ある実施形態では、分解組成物が界面活性剤を実質的に含まないとは、分解組成物に界面活性剤が肯定的に追加されないことを意味する。
【0036】
あるいは、場合によっては、プリオンのアンフォールディングをさらに補助するために、分解組成物中に変性を促進する薬剤を含めることが好ましいことがある。分解組成物中に追加的な変性剤を含める場合、前記追加的な変性剤は、プリオン分子を完全にアンフォールディングする必要はなく、その代わりに、上述した変性手段による処理によって達成されるアンフォールディングを補うように作用すべきである。したがって、代替実施形態では、分解組成物は、プリオンの変性を可能にする物質を含み得る。分解組成物に含有される変性剤の例には、例えば、界面活性剤、有機溶媒、無機塩、カオトロピック剤及びそれらの組み合わせが含まれる。
【0037】
適切なカオトロピック剤には、例えば、尿素、塩酸グアニジンなどが含まれる。
【0038】
適切な有機剤には、タンパク質を変性、溶解または膨張させる傾向がある製品が含まれる。一般的に、前記製品は、完全にアンフォールディングされておらず、天然の状態とは異なる規則正しい構造を有する。ヘリカル構造(すなわち、アンフォールディング)に好適な溶媒は、N−ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、m−クレゾール、ジオキサン、CHCl、ピリジン、ジクロロエチレン及び2−クロロエタノールなどがある。また、このグループには、例えばアルコール、エタノール、n−プロパノール、メタノール(特に0.01%HClとの混合物)などの、水素結合を形成する傾向が弱い溶媒も含まれる。また、例えば高濃度のジメチルスルホキシド(DMSO)、ジクロロ酢酸及びトリフルオロ酢酸などの前記構造を破壊する傾向がある溶媒、並びに他の求電子性溶媒も使用することができる。
【0039】
適切な無機塩には、タンパク質内の構造遷移を誘導することができるものが含まれる。例えば、LiBr、CaCl、KSCN、NaI、NaBr、ナトリウムアジドが、強力な変性剤である。これらの塩は必ずしもタンパク質を完全にアンフォールディングさせるわけではないが、残りの規則正しい構造は、例えば昇温などのエネルギー入力によって破壊され得る。CNS>I>Br>NO>Cl>CHCOO>SOなどのアニオンは、グアニジン塩やテトラアルキルアンモニウム塩と同様の特性を示す。しかし、(GuH)SOは、特定のタンパク質を変性から保護することが分かっている。
【0040】
ある特定の実施形態では、分解組成物は界面活性剤を含有する。界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性イオン界面活性剤、またはそれらのいくつかの組み合わせであり得る。界面活性剤は、アニオン性界面活性剤であることが好ましい。
【0041】
適切なアニオン性界面活性剤の例には、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ドデシルベンゼンスルホン酸、ノニルフェノールエトキシレート、アルファオレフィンスルホン酸、ラウレス硫酸アンモニウム、ラウレスエーテル硫酸アンモニウム、オクチル/デシルエーテル硫酸アンモニウム、ステアリン酸アンモニウム、ラウレス硫酸ナトリウム、硫酸オクチル、スルホン酸、スルホスクシニメイト、エーテル硫酸トリデシル、ラウレス硫酸トリエタノールアミン及びそれらの組み合わせが含まれる。アニオン性界面活性剤は、ドデシル硫酸ナトリウムであることが好ましい。
【0042】
適切な非イオン性界面活性剤の例には、アルコキシル、エトキシレート、フタルアマート、トリグリセリド、アミド、エステル及びそれらの組み合わせが含まれる。
【0043】
適切なカチオン性界面活性剤の例には、ポリクワテルニウム1、エステル四級化合物、四級アンモニウム塩素化合物、四級アンモニウム硫酸メチル化合物及びそれらの組み合わせが含まれる。
【0044】
適切な両性イオン界面活性剤の例には、ココアミドプロピルベタイン、ラウレルアミドプロピルベタイン、ラウレルジメチルアミン酸化物、ココアミドプロピルジメチルアミン酸化物、及びそれらの組み合わせが含まれる。
【0045】
分解組成物は、約0.1%(w/w)ないし約20%(w/w)、好ましくは約5%(w/w)ないし約15%(w/w)の界面活性剤を含み得る。
【0046】
プロテアーゼは、それ自体が酵素であることは理解されよう。しかし、前記表面の処理を本開示の変性手段と分解組成物とで同時に行った場合、あるいは、分解組成物が本明細書中に記載されているような変性剤を含有する場合、分解組成物中に存在するタンパク質分解酵素は変性手段または追加的な変性剤によって不活性化されないことが分かっている。このことは、実施例3で説明される結果に示されている。特定の理論に拘束されることは望まないが、分解組成物中に存在するタンパク質分解酵素は、分解されるプリオンと結合したときに安定化されると考えられる。
【0047】
それでも、特定の実施形態では、変性手段または追加的な変性剤によって分解組成物中に存在する酵素が変性及び不活性化することを防止するために、分解組成物中に安定化剤を含めることが望ましい。適切な安定化剤の例には、カルシウム及びマグネシウムなどの二価金属、ホウ素、ジオキサン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ピリジン、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、サッカロース、クエン酸塩、酢酸塩、リン酸塩など、及びそれらの組み合わせが含まれる。
【0048】
一般的に、分解組成物は、水も含有する。分解組成物は、追加的な界面活性剤、防腐剤、キレート剤、pH調整剤、芳香剤、酵素安定化剤、プロテアーゼ安定化剤、乳化剤など、及びそれらの組み合わせの他の成分をさらに含有することができる。ある特定の実施形態では、分解組成物は、約5%(w/w)ないし約15%(w/w)の界面活性剤(例えばノニルフェノールエトキシレート)、約15%(w/w)ないし約30%(w/w)のプロテアーゼ安定化剤(例えばプロピレングリコール)、約5%(w/w)ないし約10%(w/w)の乳化剤(例えばトリエタノールアミン)、約2%(w/w)ないし約5%(w/w)の酵素安定化剤(例えばホウ素)、約0%(w/w)ないし約3%(w/w)の防腐剤(例えば抗菌剤)、約3%(w/w)ないし約5%(w/w)のプロテアーゼ、約0%(w/w)ないし約0.1%(w/w)の芳香油、及び約7%(w/w)ないし約7.5%(w/w)のpH調整剤(例えば酢酸)を含み、残りには水を含む。
【0049】
分解組成物中に含有され得る追加的な乳化剤の例には、トリエタノールアミン、アルギン酸塩、酒石酸塩、カラギーナン、ソルビトール、ポリソルベートなど、及びそれらの組み合わせなどが含まれる。
【0050】
一般的に、分解組成物のpHは、中性または中性付近であることが好ましい。上述したように、高いまたは低いpHを有する分解組成物が、プリオンの除去に効果的であり得るが、そのような組成物は、清浄される非金属製の基板及び医療用、外科用またはその他の器具を腐食する、脆弱にするかまたは他の方法で損傷を与え得る。強アルカリまたは強酸の消毒組成物の損傷効果は、それらの組成物が繰り返して長時間に渡って使用される場合に特に見られる。
【0051】
有利には、本開示は、pHが中性または中性付近の分解組成物を提供することにより、これらの懸念を解決する。したがって、本開示の分解組成物は、好ましくは約5ないし約9のpH、より好ましくは約6ないし約8のpH、さらに好ましくは約7.0のpHを有する。
【0052】
典型的には、分解組成物の温度は、約10℃ないし約95℃、より典型的には約20℃ないし約50℃、さらに典型的には約30℃である。
【0053】
前記表面を分解組成物で処理する時間は様々であり得、典型的には約0.5分間ないし約120分間、より好ましくは約20分間ないし約60分間である。
【0054】
本明細書中で説明した方法は、プリオンで汚染された表面、懸濁液、溶液などを殺菌する方法としてだけではなく、表面を殺菌する一般的な方法としても適用される。本明細書中で使用される「表面」という用語は、一般的に、金属及び非金属表面、並びに、医療用、外科用及び/または歯科用器具、機器、装置などの器具の表面を含むことを意味する。また、「表面」という用語は、食品加工面及び装置(例えば食肉加工装置)、並びに、処理される肉(例えば家畜及び野生動物の肉)も含む。
【0055】
以上、本開示について詳細に説明したが、添付された特許請求の範囲に規定された本発明の範囲から逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることは明らかである。
【実施例】
【0056】
以下の非限定的な例は、本開示のさらなる説明のために提供される。
【0057】
実施例1:プリオン代替タンパク質の安定性
【0058】
この実施例では、プリオンモデルとしてのプリオン代替タンパク質(PSP)の安定性を評価した。特に、PSPは、感染性哺乳類プリオンの構造的特徴を複製すると報告されている。この実施例では、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)による感染性哺乳類プリオンの変性に好適であることが知られている条件下で、PSPの安定性を試験した。
【0059】
50μg/mlのPSP(米国ノースカロライナ州チャペルヒルのバイオリソースインターナショナル社(BioResource International, Inc.)からカタログ番号PSP−001として入手可能)を、0%(w/v)、1%(w/v)、4%(w/v)または8%(w/v)のいずれかのSDSで20分間処理した。PSPのみを含有するサンプル(0%(w/v)SDS)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液に懸濁させた。その後、以下の手順を用いて、PSPサンプルをプロテイナーゼKで消化した。
【0060】
PSP:プロテイナーゼKを100:1の比率にして、10μgの各サンプルをプロテイナーゼKで消化した。プロテイナーゼKでの消化は、37℃で30分間行った。37℃に加熱した8μL、0.5Mのフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)を加えることによって、前記消化を停止させた。ウェスタンブロット法によってサンプルを可視化した。
【0061】
ウェスタンブロット法は、イミュンスター(Immun-Star、登録商標)化学発光ブロッティングキット(米国カリフォルニア州ハーキュリーズのバイド・ラッド社(Bio-Rad)から入手可能)の取扱説明書に記載されている手順に従って実施される。特に指定がない限り、ウェスタンブロット法分析に使用された試薬は、イミュンスター化学発光ブロッティングキットに備え付けられているものである。
【0062】
まず、ドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE)を用いて、サンプルを電気泳動させた。5μgの各サンプルを、2×SDSサンプル緩衝液(ノベックス(Novex)・トリス・グリシンSDSサンプル緩衝液(2×))(米国カリフォルニア州カールズバッドのインビトロジェン社(Invitrogen)から入手可能)で1:1に希釈し、その後、100℃で12分間煮沸した。サンプルを、4〜12%のビス−トリスアクリルアミド・ゲル(米国カリフォルニア州カールズバッドのインビトロジェン社から入手可能)上に載置し、色素の先頭がゲルの底面に達するまで、30mAで電気泳動させた。支持板からゲルを取り出し、50%メタノール・10%酢酸・40%水の混合液中に15分間浸漬させ、その後、クマシーブルー染色液で染色し、その後、タンパク質結合が区別できるようになるまで45%メタノール・10%酢酸・45%水で脱色した。
【0063】
SDS−PAGEの後、タンパク質をニトロセルロース膜上に転写して一晩置いた。前記膜を、5%の脱脂乳とトリス緩衝食塩水/0.1%トウィーン(Tween)20との混合溶液中に浸漬させ、1:3000の比率で希釈した一次抗体(米国カリフォルニア州ハーキュリーズのバイド・ラッド・インターナショナル社製)と共に緩やかに攪拌しながら一晩培養した。翌日、前記膜を、トリス緩衝食塩水/0.1%トウィーン20で各10分間洗浄した(洗浄は6回行った)。各回の洗浄毎に洗浄液を交換した。前記膜を1:20000の比率で希釈した二次抗体中で60分間培養し、その後再び、前記膜を上述したような10分間の洗浄を6回行った。前記膜を、イミュンスター(登録商標)キット(バイド・ラッド・インターナショナル社製)に備え付けられている化学発光基質と共に5分間培養し、米国カリフォルニア州サンリアンドロのアルファイノテック社(Alpha Innotech)製のソフトウエア及び装置を使用して画像化した。その結果を図1に示す。
【0064】
図1から分かるように、1%(w/v)SDSで前処理したサンプル(レーン2)には、4%(w/v)SDSで前処理したサンプル(レーン3)よりも、多量のPSPが残留した。一方、8%(w/v)SDSで処理したサンプル(レーン4)にはPSPは残留しなかった。PSPのみを含有するサンプル(0%(w/v)SDS)の結果は、レーン1に示す。4%(w/v)の最小濃度でのSDSの使用は感染性プリオンを変性させるための信頼性が高い方法であると報告されているので、これらの結果は、SDS変性の条件下でも、PSPが感染性プリオンと同様に反応することを示唆する。
【0065】
実施例2:プリオン代替タンパク質の安定性に対する超音波処理の効果
【0066】
この実施例では、プリオン代替タンパク質(PSP)は、プリオン変性の誘導に対する超音波エネルギーの効果を実証するために使用した。特に、PSPを超音波エネルギーで連続的に処理し、その後、プロテイナーゼKで処理した場合の、プリオンの破壊に対する効果を評価した。
【0067】
50μgのPSP(米国ノースカロライナ州チャペルヒルのバイオリソースインターナショナル社からカタログ番号PSP−001として入手可能)を、2つの滅菌ポリスチレン製試験チューブ(5mL)に加え、米国コネチカット州ニュートンのソニックス社(Sonics, Inc.)から入手可能なビブラセル(Vibra Cell)VC505型を使用して超音波処理した。超音波処理は、36%の出力で、60分間行った(約9ワットで連続的に、35940ジュールのエネルギー)。その後、PSPサンプルを、プロテイナーゼKで消化するか、または、超音波に曝露させた後にプロテイナーゼKで処理したサンプルと同量になるように十分な量のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液と混合させた。プロテイナーゼKでの消化は、以下の手順を用いて行った。
【0068】
PSP:プロテイナーゼKを100:1の比率にして、10μgの超音波処理されたPSPをプロテイナーゼKで消化した。プロテイナーゼKでの消化は、37℃で30分間行った。37℃に加熱した8μLの0.5Mのフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)を加えることによって、前記消化を停止させた。実施例1で説明したようにして、ウェスタンブロット法によってサンプルを可視化した。
【0069】
その結果を図2に示す。レーン1は、PSPのみの場合(超音波での前処理及びプロテイナーゼKでの消化は行っていない)の結果を示す。レーン2は、PSPを超音波処理で1時間前処理し、その後、プロテイナーゼKで消化した場合の結果を示す。レーン3は、PSPを超音波処理で1時間前処理し、その後、PBSを加えた場合の結果を示す。これらの結果から分かるように、レーン2(症音波照射+プロテイナーゼK消化)にはPSPは検出されなかった。このことは、PSPを超音波に曝露させると(約〜9ワットで連続的に、35940ジュールのエネルギー)、プロテイナーゼK消化に対して敏感にするほど十分にPSPを変性させることを示す。
【0070】
実施例3:プリオン代替タンパク質の安定性に対する超音波処理の効果
【0071】
この実施例では、プリオン代替タンパク質(PSP)を超音波エネルギー及び/またはプロテアーゼで連続的または同時に処理した場合の、プリオンの破壊に対する効果を評価した。
【0072】
PSP(米国ノースカロライナ州チャペルヒルのバイオリソースインターナショナル社からカタログ番号PSP−001として入手可能)を使用して、ウェスタンブロット分析用のサンプルを10個作成した。サンプルは、次のようにして作成した。超音波処理は、約8ワットで連続的に、9340ジュールのエネルギーで行った。特に指定がない限り、超音波処理及びプロテアーゼ消化の他の条件は、実施例2で説明したのと同様である。
【0073】
サンプル1:未処理PSP。
【0074】
サンプル2:50μgのPSP。超音波処理を20分間行った。プロテアーゼ処理は行わなかった。
【0075】
サンプル3:50μgのPSP。超音波処理を20分間行い、その後、プロテアーゼKで消化した(PSP:プロテアーゼKの比率は100:1)。
【0076】
サンプル4:50μgのPSP。超音波処理を20分間行った。超音波処理中にプロテアーゼK(PSP:プロテアーゼKの濃度は100:1)を加えた。プロテアーゼ消化は30分間継続した。
【0077】
サンプル5:50μgのPSP。超音波処理を20分間行った。超音波処理中にプロテアーゼK(PSP:プロテアーゼKの濃度は100:1)を加えた。消化を停止させる前に、プロテアーゼ消化をさらに30分間継続した。
【0078】
サンプル6:50μgのPSP。超音波処理を20分間行った。超音波処理中にプロテアーゼ(濃度は不明)を加えた。
【0079】
サンプル7:PSP無し。サンプルには、分子量マーカーである7μLのベンチマーク(Bench Mark)(米国カリフォルニア州カールズバッドのインビトロジェン社製)が含有されていた。
【0080】
実施例1に説明したようにして、ウェスタンブロット法によってサンプルを可視化した。その結果を図3及び表1に示す。表1において、「+」はPSPが検出されたことを示し、「−」はPSPが検出されなかったことを示す。サンプル1〜7の結果は、図3のレーン1〜7にそれぞれ示す。
【0081】
【表1】

【0082】
これらの結果から分かるように、超音波とプロテアーゼで同時に処理したサンプル中(レーン4、5、6を参照)、または超音波とそれに続くプロテアーゼ消化で連続的に処理したサンプル中(レーン3参照)にはPSPは検出されなかった。これらの結果は、PSPを超音波エネルギー及びプロテアーゼで同時に処理する方法も連続的に処理する方法も、プリオンの破壊に効果的であることを示す。
【0083】
本開示またはその好適な実施形態の要素を説明するとき、「冠詞(a、an、the)」及び「前記(said)」は、1つまたはそれ以上の要素が存在し得ることを意味する。「含む、含有する(comprising、including)」及び「有する(having)」という用語は、包含的であることを意図し、記載されていない追加の要素が存在し得ることを意味する。
【0084】
以上のことを考慮すると、本発明のいくかの目的が達成されたこと及び他の有利な結果が得られたことが分かるであろう。
【0085】
本発明の範囲から逸脱しない範囲で種々の変更が可能であるので、上記の説明に含まれる及び添付図面に示される全ての事項は、例示的で非限定的な意味で解釈されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリオンタンパク質またはその代替物で汚染された表面を殺菌する方法であって、
前記表面を、超音波エネルギー、電界、磁界及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるプリオンタンパク質変性手段で処理するステップと、
前記表面を、前記プリオンタンパク質を非感染性断片に開裂するのに有効な1つ若しくは複数の酵素を含有しかつ界面活性剤を実質的に含有しない分解組成物で処理するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記酵素が、プロテアーゼ、タンパク質分解酵素及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、
前記プロテアーゼが、プロテイナーゼKであることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、
前記変性手段が、超音波エネルギーであることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、
前記表面を約20kHzないし約30kHzの周波数の超音波エネルギーで処理することを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、
前記表面を前記変性手段で約0.5分間ないし約120分間処理することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、
前記表面を前記分解組成物で約0.5分間ないし約120分間処理することを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、
前記表面を前記分解組成物で処理する前に、前記表面を前記変性手段で約0.5分間ないし約120分間処理することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、
前記表面を前記変性手段と前記分解組成物とで同時に処理することを特徴とする方法。
【請求項10】
プリオンタンパク質またはその代替物で汚染された表面を殺菌する方法であって、
前記表面を、超音波エネルギー、電界、磁界及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるプリオンタンパク質変性手段で処理するステップと、
前記表面を、前記プリオンタンパク質を非感染性断片に開裂するのに有効な1つ若しくは複数の酵素を含有しかつ約6ないし約8のpHを有する分解組成物で処理するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、
前記酵素が、プロテアーゼ、タンパク質分解酵素及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、
前記プロテアーゼが、プロテイナーゼKであることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項10に記載の方法であって、
前記変性手段が、超音波エネルギーであることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、
前記表面を約20kHzないし約30kHzの周波数の超音波エネルギーで処理することを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項10に記載の方法であって、
前記表面を前記変性手段で約0.5分間ないし約120分間処理することを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項10に記載の方法であって、
前記表面を前記分解組成物で約0.5分間ないし約120分間処理することを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項10に記載の方法であって、
前記表面を前記分解組成物で処理する前に、前記表面を前記変性手段で約0.5分間ないし約120分間処理することを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項10に記載の方法であって、
前記表面を前記変性手段と前記分解組成物とで同時に処理することを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項10に記載の方法であって、
前記分解組成物が、変性を促進する少なくとも1つの変性促進剤をさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項10に記載の方法であって、
該方法が約10℃ないし約95℃の温度で行われることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−526559(P2010−526559A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501622(P2010−501622)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【国際出願番号】PCT/IB2008/051129
【国際公開番号】WO2008/120140
【国際公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(504460441)キンバリー クラーク ワールドワイド インコーポレイテッド (396)
【Fターム(参考)】