説明

プリプレグの製造方法

【課題】生産性の低下やコストアップになることがなく、ボイドやワニスの未含浸部分がほとんどないプリプレグを製造することができるプリプレグの製造方法を提供する。
【解決手段】流動発生機槽14に貯留されたワニス1の上方にガイドロール16を配設すると共に流動発生機槽14に貯留されたワニス1中に反転ロール15を配置する。ワニス1を噴出または吸引するためのノズル4をその噴出吸引口17がガイドロール16と反転ロール15の間において基材2の片面の方に向くように配置する。ノズル4の噴出吸引口17を基材2の片面に近接あるいは接触するように配置する。ガイドロール16と反転ロール15との間で基材2をワニス1に浸漬しながら進行させる。ガイドロール16と反転ロール15との間において基材2に対してワニス1をノズル4で噴出または吸引し、あるいはこれらを繰り返してワニス1を流動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層板の製造等に使用されるプリプレグの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガラス不織布などの基材にワニスを含浸し、これを乾燥させた後、基材中の樹脂を半硬化状態(Bステージ状態)にまで硬化させることによって、プリプレグが製造されているが、基材にワニスを含浸させるにあたっては一般的にプレ含浸と浸漬(ディッピング)を組み合わせた工法が採用されている。すなわち、基材の片面にワニスを塗布して基材の片面からワニスを基材中に含浸させるようにしてプレ含浸を行った後、この基材をワニス中に浸漬することによって、基材にワニスを含浸させるようにしている。そして、この工法ではプレ含浸を行うことにより、基材のワニスを塗布していない他の片面から基材中の空気を押し出すことができるものであり、これにより、ボイドやワニスの未含浸部分が少ないプリプレグを形成することができるのである。
【0003】
しかし、プレ含浸と浸漬を組み合わせた工法であっても基材の内部にボイドや未含浸部分が多く残留したプリプレグしか製造することができず、このプリプレグを使用して成形しても成形後の積層板にボイドやカスレが生じて成形不良を起こすという問題があった。そこで、ワニスの含浸性を向上させる工法として、特許文献1に記載のように、基材にワニスを含浸させる前に、基材に溶剤を含浸させることが有効であるが、この場合、溶剤を含浸させたり溶剤を乾燥させたりしなければならないために、プリプレグの生産性(生産速度)の低下やコストアップを招くという問題があった。
【特許文献1】特公平7−55501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、生産性の低下やコストアップになることがなく、ボイドやワニスの未含浸部分がほとんどないプリプレグを製造することができるプリプレグの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1に係るプリプレグの製造方法は、基材2にワニス1を含浸させるプリプレグの製造方法において、流動発生機槽14に貯留されたワニス1の上方にガイドロール16を配設すると共に流動発生機槽14に貯留されたワニス1中に反転ロール15を配置し、ワニス1を噴出または吸引するためのノズル4をその噴出吸引口17がガイドロール16と反転ロール15の間において基材2の片面の方に向くように配置し、ノズル4の噴出吸引口17を基材2の片面に近接あるいは接触するように配置し、ガイドロール16と反転ロール15との間で基材2をワニス1に浸漬しながら進行させ、ガイドロール16と反転ロール15との間において基材2に対してワニス1をノズル4で噴出または吸引し、あるいはこれらを繰り返してワニス1を流動させることによって、基材2にその厚み方向でワニス1を通過させて基材2中の気泡Bを基材2外に押し出すことを特徴とするものである。
【0006】
本発明の請求項2に係るプリプレグの製造方法は、請求項1において、反転ロール15がワニス1の流動を発生させるためのロールとして形成し、このワニス1の流動により基材2に残存している気泡Bを基材2外に押し出すことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の請求項1の発明は、流動発生機槽に貯留されたワニスの上方にガイドロールを配設すると共に流動発生機槽に貯留されたワニス中に反転ロールを配置し、ガイドロールと反転ロールとの間で基材をワニスに浸漬しながら進行させ、ガイドロールと反転ロールとの間において基材に対してワニスをノズルで噴出または吸引し、あるいはこれらを繰り返してワニスを流動させることによって、基材にその厚み方向でワニスを通過させて基材中の気泡を基材外に押し出すので、基材中の気泡を除去することができ、ボイドやワニスの未含浸部分がほとんどないようにすることができるものである。しかも、基材中の気泡を除去するにあたってプリプレグに不要な溶剤を用いないので、プリプレグに溶剤を含浸させたり溶剤を乾燥させたりすることがなく、生産性の低下やコストアップになることがないものである。また、基材に対してワニスを噴出または吸引し、あるいはこれらを繰り返してワニスを流動させるので、ワニスの流動により基材中の気泡を除去することができ、ボイドやワニスの未含浸部分がほとんどないようにすることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0009】
図1に本発明のプリプレグの製造方法で用いる装置の一例を示す。この製造装置は、プレ含浸機10とワニス流動発生機3と浸漬機(ディップ機)20とを備えて形成されている。
【0010】
プレ含浸機10はプレ含浸用のワニス1を貯留するプレ含浸機槽11と、プレ含浸機槽11内に配置される塗布ロール(キッスロール)12と、プレ含浸機槽11の上方に配置される一対の搬送ロール13とを備えて形成されている。塗布ロール12及び搬送ロール13は後述の基材2の搬送方向と直交する方向を回転軸としてモータ等の駆動装置で回転駆動自在に形成されている。また、塗布ロール12はその下側略半分がプレ含浸機槽11に貯留されているワニス1に浸漬されている。また、塗布ロール12は一対の搬送ロール13の間で且つ搬送ロール13よりも下方に配置されている。
【0011】
ワニス流動発生機3は流動用のワニス1を貯留する流動発生機槽14と、流動発生機槽14内に配置される反転ロール15と、流動発生機槽14の上方に配置される一対のガイドロール16と、流動発生機槽14内に配置されるノズル4とを備えて形成されている。反転ロール15及びガイドロール16は後述の基材2の搬送方向と直交する方向を回転軸としてモータ等の駆動装置で回転駆動自在に形成されている。また、反転ロール15はその全体が流動発生機槽14に貯留されているワニス1に浸漬されている。また、反転ロール15は一対のガイドロール16の間で且つガイドロール16よりも下方に配置されている。ノズル4はその全体が流動発生機槽14に貯留されているワニス1に浸漬されており、このワニス1を噴出したり吸引したりするための噴出吸引口17がノズル4に設けられている。また、ノズル4の噴出吸引口17からワニス1を噴出したり吸引したりするための駆動源となるポンプ等が接続管18を介してノズル4に接続されている。
【0012】
浸漬機20は浸漬用のワニス1を貯留する浸漬機槽21と、浸漬機槽21内に配置されるディップロール22と、浸漬機槽21及びディップロール22の上方に配置される一対の除去ロール23とを具備して形成されている。ディップロール22及び除去ロール23は後述の基材2の搬送方向と直交する方向を回転軸としてモータ等の駆動装置で回転駆動自在に形成されている。また、ディップロール22はその全体が浸漬機槽21に貯留されているワニス1に浸漬されている。
【0013】
上記のワニス1としては従来からプリプレグの製造に用いられているものをそのまま使用することができ、例えば、エポキシ樹脂やメラミン樹脂などの熱硬化性樹脂をメチルエチルケトン(MEK)やジメチルホルムアミド(DMF)などの溶剤に溶解させてワニス1を調製することができる。ワニス1の粘度や樹脂濃度は任意に調製することができるが、例えば、粘度は1〜300cps、樹脂濃度は50〜70質量%にそれぞれ設定することができる。また、プレ含浸用のワニス1と流動用のワニス1と浸漬用のワニス1としては同一のものを用いても良いし、粘度や樹脂濃度や樹脂の種類が異なるものを用いても良い。また、上記のワニス1(特に、流動用のワニス1)は基材2に供給される前に予め脱泡しておくのが好ましい。脱泡方法は例えば、内部圧力を真空にしたタンクにワニスを投入することにより行なうことができる。このようにワニス1を脱泡しておくことにより、基材2にワニス1中の気泡が供給されることがなくなって、プリプレグにボイドやワニス1の未含浸部分が発生するのを少なくすることができるものである。
【0014】
本発明で用いる基材2は長尺に形成されるものであって、従来からプリプレグの製造に用いられているものをそのまま使用することができ、例えば、ガラス不織布、ガラス織布、ポリエステル繊維やポリアミド繊維などの合成繊維を用いた不織布や織布などを用いることができる。また、基材2の厚みや目付量には特に制限はないが、基材2から気泡Bを除去しやすくするために、基材2の厚みは0.06〜0.20mm、目付量は28〜120g/mにそれぞれ設定するのが好ましい。
【0015】
上記のプリプレグの製造装置を用いて基材2にワニス1を含浸させるにあたっては、次のようにして行う。まず、長尺の基材2が連続的にプレ含浸機10とワニス流動発生機3と浸漬機20とをこの順で通過して進行するように、基材2を図1に示すようにセットする。このように基材2をセットすると、プレ含浸機10においては一対の搬送ロール13の下側周面に基材2の上面(表面)が接触し、且つ塗布ロール12の上側周面に基材2の下面(裏面)が接触した状態となり、また、ワニス流動発生機3においては一対のガイドロール16の上側周面に基材2の下面が接触し、且つ反転ロール15の下側周面に基材2の上面が接触した状態となり、さらに、浸漬機20においては基材2の上面がディップロール22の下側周面に接触し、且つ一対の除去ロール23の間を基材2が通過した状態となる。また、ワニス流動発生機3においては噴出吸引口17が基材2の方に向くようにノズル4が配置されている。すなわち、ノズル4はその噴出吸引口17が一方(導入側)のガイドロール16と反転ロール15の間において基材2の片面(裏面)の方に向くように配置されている。また、ノズル4はその噴出吸引口17が基材2の片面に近接あるいは接触するように配置されている。
【0016】
そして、上記のように基材2をセットした状態を維持しつつ、搬送ロール13、塗布ロール12、ガイドロール16、反転ロール15、ディップロール22、除去ロール23を回転駆動させることにより、長尺の基材2をその長手方向に連続的に進行させて基材2にワニス1を含浸させていく。
【0017】
すなわち、まず、プレ含浸機10で基材2にワニス1をプレ含浸する。プレ含浸は塗布ロール12の上側周面を基材2の下面に接触させることにより塗布ロール12の周面に付着したワニス1を基材2の下面に塗布し、基材2の下面から内部及び上面へとワニス1を含浸させるものであり、これにより、基材2内の空気がワニス1の含浸により押されて基材2の下面側から上面側へと移動し、基材2の上面から基材2外へ押し出されて排出されるのである。
【0018】
次に、プレ含浸された基材2をワニス流動発生機3に導入し、ここでワニス1の流動により基材2の繊維間に残存している気泡(ボイド)Bを基材2外へ押し出して除去するのである。つまり、プレ含浸だけでは基材2から十分に空気を除去することができず、図2(a)に示すように、プレ含浸した基材2には空気が多数の気泡Bとして残存している。そこで、本発明では図2(b)に矢印で示すようにワニス流動発生機3において、ワニス1が基材2をその厚み方向(表裏方向)に通過するようにワニス1を流動させることによって、基材2中の気泡Bをワニス1の流動で基材2外に強制的に押し出すと共にワニス1を基材2中に強制的に供給して含浸させるものであり、これにより、図2(c)に示すように基材2中に気泡が存在しないようにすることができるものである。図1に示す実施の形態では、ノズル4の噴出吸引口17からワニス1を基材2に向けて連続的に噴出したり、あるいはノズル4の噴出吸引口17からワニス1を連続的に吸引したり、あるいはノズル4の噴出吸引口17からのワニス1の噴出や吸引を交互に繰り返し連続的に行ってワニス1を振動させることによって、上記のワニス1の流動を発生させるものである。この時、ワニス1の流速は基材2の進行速度等によっても異なるが、基材2の進行速度が2m/分の場合、ワニス1の流速は10mm/秒以上にするのが好ましい。尚、基材2の進行速度は通常2〜20m/分であるので、ワニス1の流速は10〜100mm/秒に設定することができる。
【0019】
次に、ワニス流動発生機3で気泡Bがほとんど除去された基材2を浸漬機20に導入し、ここでワニス1に基材2を浸漬する。上記のように基材2にはほとんど気泡Bが残存していないが、浸漬機20でワニス1に基材2を浸漬させることでより完全に気泡Bを基材2から除去するものである。また、ワニス流動発生機3でのワニス1の流動により基材2中でワニス1が偏在化してワニス1の未含浸部分が生じている場合もあるので、浸漬機20でワニス1に基材2を浸漬させることにより均一にワニス1を基材2に含浸させるものである。そして、基材2はワニス1に浸漬後に一対の除去ロール23間を通して引き上げられることになるが、一対の除去ロール23間を通過する際に基材2の両面に除去ロール23が接触するものであり、これにより、基材2の両面に付着した余剰のワニス1を除去するものである。
【0020】
このようにしてプレ含浸機10とワニス流動発生機3と浸漬機20によりワニス1を含浸した基材2を乾燥し、この後、加熱等により基材2中の樹脂を半硬化状態にまで硬化させることによりプリプレグを形成することができる。そして、このプリプレグはワニス1の流動により基材2中の気泡Bを基材2外に強制的に押し出して除去することにより形成されているので、ボイドやワニスの未含浸部分がほとんどないものである。しかも、基材2中の気泡Bを除去するにあたってプリプレグに不要な溶剤を含浸させるのではなく、プリプレグに必要なワニス1を含浸させているので、従来のようにプリプレグに不要な溶剤を含浸させたり溶剤を乾燥させたりすることがなく、生産性の低下やコストアップになることがないものである。
【0021】
図3に参考例を示す。このプリプレグの製造装置はプレ含浸機10と浸漬機20が上記と同様に形成されており、ワニス流動発生機3が上記と異なるもので形成されている。すなわち、ワニス流動発生機3はノズル4を具備せずに、図4に示すように、流動用のワニス1を貯留する流動発生機槽14と、流動発生機槽14内に配置される反転ロール15と、流動発生機槽14の上方に配置される一対のガイドロール16とを備えて形成されている。反転ロール15及びガイドロール16は後述の基材2の搬送方向と直交する方向を回転軸として回転駆動自在に形成されている。また、反転ロール15はその全体が流動発生機槽14に貯留されているワニス1に浸漬されている。また、反転ロール15は一対のガイドロール16の間で且つガイドロール16よりも下方に配置されている。そして、この反転ロール15は振動装置であって、ワニスを振動させて流動させるためのロール5として形成されている。
【0022】
反転ロール15は図5(a)(b)に示すように、周面が凹凸状に形成された振動発生回転体30と、多数の小孔31を全面に亘って設けた内側筒体32と、多数の大孔33を全面に亘って設けた外側筒体34とを備えて形成されている。小孔31は内側筒体32を貫通して形成されており、また、大孔33は外側筒体34を貫通するように形成されている。そして、外側筒体34の内側に内側筒体32を差し込んで配設すると共に内側筒体32の内側に振動発生回転体30を差し込んで配置することによって反転ロール15が形成されており、これにより、反転ロール15の基材接触面(反転ロール15の外周面)は多孔構造に形成されている。また、振動発生回転体30と内側筒体32と外側筒体34とは互いに回転自在に形成されている。さらに、振動発生回転体30と内側筒体32と外側筒体34とは基材2の搬送方向と直交する方向を回転軸としてモータ等の駆動装置で回転駆動自在に形成されているが、振動発生回転体30は内側筒体32及び外側筒体34と逆向きに回転するように設定されている。すなわち、内側筒体32及び外側筒体34はその下部が基材2の進行方向と同方向となるように回転駆動され、振動発生回転体30はその下部が基材2の進行方向と逆方向となるように回転駆動されるものである。
【0023】
このようなプリプレグの製造装置を用いて基材2にワニス1を含浸させるにあたっては、次のようにして行う。まず、図1に示す上記のものと同様にして長尺の基材2をプレ含浸機10とワニス流動発生機3と浸漬機20にセットする。次に、上記のように基材2をセットした状態を維持しつつ、搬送ロール13、塗布ロール12、ガイドロール16、反転ロール15、ディップロール22、除去ロール23を回転駆動させることにより、長尺の基材2をその長手方向に連続的に進行させて基材2にワニス1を含浸させていく。
【0024】
すなわち、まず、上記と同様にしてプレ含浸機10で基材2にワニス1をプレ含浸する。次に、プレ含浸された基材2をワニス流動発生機3に導入し、ここで上記と同様にワニス1の流動により基材2に残存している気泡(ボイド)Bを基材2外へ押し出して除去するのである。図3に示す参考例では、反転ロール15の振動発生回転体30を回転させることによって、ワニス1に連続的に振動を起こしてワニス1が基材2をその厚み方向(表裏方向)に通過するようにワニス1を流動させるものである。すなわち、振動発生回転体30を内側筒体32及び外側筒体34に対して回転させると、振動発生回転体30の周面の凹凸形状の作用により内側筒体32に流れ込んだワニス1が、図5(b)に矢印で示すように、小孔31と大孔33とを通じて連続的に反転ロール15から噴出したり反転ロール15内に吸引されたりあるいは噴出と吸引を繰り返したりするものであり、これにより、ワニス1を連続的に振動させてワニス1の流動を発生させるものである。そして、このワニス1の流動により図2(a)〜(c)に示す上記と同様の作用が起こり、基材2に残存している気泡Bを基材2外へ押し出して除去することができるものである。ワニス1の振動の周波数は基材2の進行速度等によっても異なるが、基材2の進行速度が2m/分の場合、ワニス1の振動の周波数は80〜120Hzにするのが好ましい。尚、基材2の進行速度は通常2〜20m/分であるので、ワニス1の振動の周波数は80〜1200Hzに設定することができる。また、外側筒体34は基材2の進行速度と同じ回転速度であってもよいし、異なった回転速度であってもよく、異なる回転速度のほうが、大孔33の位置が進行に従って基材2に対する場所を変えることができ、これにより、ワニス1を基材2に均一に含浸させることができるので好ましい。
【0025】
次に、ワニス流動発生機3で気泡Bがほとんど除去された基材2を浸漬機20に導入し、ここで上記と同様にしてワニス1に基材2を浸漬する。この後、上記と同様にして基材2を乾燥した後、加熱等により基材2中の樹脂を半硬化状態にまで硬化させることによりプリプレグを形成することができる。そして、このプリプレグにおいてもワニス1の流動により基材2中の気泡Bを基材2外に強制的に押し出して除去することにより形成されているので、ボイドやワニスの未含浸部分がほとんどないものである。しかも、基材2中の気泡Bを除去するにあたってプリプレグに不要な溶剤を含浸させるのではなく、プリプレグに必要なワニス1を含浸させているので、従来のようにプリプレグに不要な溶剤を含浸させたり溶剤を乾燥させたりすることがなく、生産性の低下やコストアップになることがないものである。
【0026】
また、図3に示す参考例では反転ロール15の内側筒体32の両端に接続されたワニス供給口を通して反転ロール15からワニス1の噴出のみを行ったり反転ロール15へのワニス1の吸引のみを行ったりすることができ、これにより、基材2に対してワニス1を噴出または吸引してワニス1が基材2をその厚み方向(表裏方向)に通過するようにワニス1を流動させるためのロール5として反転ロール15を形成することができる。この場合、反転ロール15は図6及び図7(a)(b)に示すように、多数の小孔31を下側略半分の面に設けた内側筒体32と、多数の大孔33を全面に亘って設けた外側筒体34とを備えて形成されている。小孔31は内側筒体32を貫通して形成されており、また、大孔33は外側筒体34を貫通するように形成されている。そして、外側筒体34の内側に内側筒体32を差し込んで配設することによって反転ロール15が形成されており、これにより、反転ロール15の基材接触面(反転ロール15の外周面)は多孔構造に形成されている。また、この反転ロール15では内側筒体32は固定で外側筒体34のみが回転するように形成されている。さらに、内側筒体32の両側端には内側筒体32の内部に連通するワニス供給口40が設けられている。
【0027】
このような反転ロール15において、ポンプ等を用いてワニス供給口40から内側筒体32の内部にワニス1を供給し、内側筒体32の内部に供給したワニス1を小孔31及び外側筒体34の大孔33を通じて噴出することによって、ワニス1が基材2をその厚み方向(表裏方向)に通過するようにワニス1を流動させることができるものである。また、上記の反転ロール15において、ポンプ等を用いてワニス供給口40から内側筒体32の内部に吸引作用を及ぼすことでワニス1を小孔31及び外側筒体34の大孔33を通じて内側筒体32の内部にワニス1を吸引することによって、ワニス1が基材2をその厚み方向(表裏方向)に通過するようにワニス1を流動させることができるものである。そして、このワニス1の流動により図2(a)〜(c)に示す上記と同様の作用が起こり、基材2に残存している気泡Bを基材2外へ押し出して除去することができるものである。尚、外側筒体34は基材2の進行速度と同じ回転速度であってもよいし、異なった回転速度であってもよく、異なる回転速度のほうが、大孔33の位置が進行に従って基材2に対する場所を変えることができ、これにより、ワニス1を基材2に均一に含浸させることができるので好ましい。また、図6及び図7(a)(b)に示す反転ロール15において、ワニス1の噴出や吸引を交互に繰り返し連続的に行ってワニス1を振動させることによって、上記のワニス1の流動を発生させるようにしても良い。
【0028】
図8に他の実施の形態を示す。このプリプレグの製造装置は、図1に示すワニス流動発生機3において、反転ロール15として図3の振動装置として形成されたものを用いたものであり、その他の構成は他の実施の形態及び参考例と同様に形成されている。このプリプレグの製造装置ではノズル4と反転ロール15の両方によりワニス1の流動を発生させることになる。
【0029】
そして、プレ含浸機10と浸漬機20のみを用いた従来のプリプレグの製造に比べて、本発明ではボイドやワニス1の未含浸部分の面積を80%減少させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態で用いる製造装置の一例を示す概略図である。
【図2】同上の基材を示し、(a)〜(c)は概略の断面図である。
【図3】同上の参考例の製造装置の一例を示す概略図である。
【図4】同上のワニス流動発生機の一例を示す概略図である。
【図5】同上の(a)は反転ロールの一例を示す一部が破断された斜視図、(b)は一部を拡大した断面図である。
【図6】同上のワニス流動発生機の他例を示す概略図である。
【図7】同上の(a)は反転ロールの他例を示す一部が破断された斜視図、(b)は一部を拡大した断面図である。
【図8】本発明の他の実施の形態で用いる製造装置の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0031】
1 ワニス
2 基材
3 ワニス流動発生機
4 ノズル
5 ロール
14 流動発生機槽
15 反転ロール
16 ガイドロール
17 噴出吸引口
B 気泡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材にワニスを含浸させるプリプレグの製造方法において、流動発生機槽に貯留されたワニスの上方にガイドロールを配設すると共に流動発生機槽に貯留されたワニス中に反転ロールを配置し、ワニスを噴出または吸引するためのノズルをその噴出吸引口がガイドロールと反転ロールの間において基材の片面の方に向くように配置し、ノズルの噴出吸引口を基材の片面に近接あるいは接触するように配置し、ガイドロールと反転ロールとの間で基材をワニスに浸漬しながら進行させ、ガイドロールと反転ロールとの間において基材に対してワニスをノズルで噴出または吸引し、あるいはこれらを繰り返してワニスを流動させることによって、基材にその厚み方向でワニスを通過させて基材中の気泡を基材外に押し出すことを特徴とするプリプレグの製造方法。
【請求項2】
反転ロールがワニスの流動を発生させるためのロールとして形成し、このワニスの流動により基材に残存している気泡を基材外に押し出すことを特徴とする請求項1に記載のプリプレグの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−342363(P2006−342363A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239454(P2006−239454)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【分割の表示】特願2001−361638(P2001−361638)の分割
【原出願日】平成13年11月27日(2001.11.27)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】