説明

プリント配線板用熱硬化性フィルム

【課題】硬化物と銅めっき層との密着性を高めることができ、かつ硬化物の厚みが薄くても十分な絶縁信頼性を得ることができるプリント配線板用熱硬化性フィルムを提供する。
【解決手段】本発明に係るプリント配線板用熱硬化性フィルムは、熱硬化性樹脂と硬化剤とシリカとを含む。上記熱硬化性フィルムを用いたデスミア処理された硬化物を得たときに、原子間力顕微鏡を用いて、100μm×100μmの大きさの測定領域における上記デスミア処理された硬化物の表面積を測定した場合に、測定領域における上記デスミア処理された硬化物の表面積が20000μm以上である。上記デスミア処理された硬化物と上記銅めっき層との積層体を得た後、該積層体の厚み方向の断面を露出させたときに、断面における上記デスミア処理された硬化物の厚み方向における凹部深さが2μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板の絶縁層を形成するために用いられる熱硬化性フィルムに関し、より詳細には、熱硬化性樹脂と硬化剤とシリカとを含む熱硬化性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多層基板又は半導体装置等を形成するために、様々な熱硬化性樹脂組成物が用いられている。例えば、多層プリント配線板では、絶縁層を形成するために、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂と、硬化剤と、無機化合物とを含む熱硬化性樹脂組成物が用いられている。
【0003】
近年、凹凸を表面に有する基材に対する埋め込み性を良好にし、凹凸表面に埋め込まれた絶縁層の表面の平坦性を高めるために、上記熱硬化性樹脂組成物をフィルム状に成形した熱硬化性フィルムが用いられている。上記熱硬化性フィルムは硬化後に絶縁層となる。
【0004】
上記熱硬化性フィルムの一例として、下記の特許文献1には、シアネートエステル樹脂と、アントラセン型エポキシ樹脂と、フェノキシ樹脂などの熱可塑性樹脂とを含む熱硬化性フィルムが開示されている。ここでは、無機充填材を添加してもよいこと、熱硬化性フィルムの熱膨張率が低いこと、並びにスミアの除去が容易である絶縁層を形成できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−291368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記熱硬化性フィルムを基板上に積層した後、熱硬化性フィルムを熱硬化させて硬化物層を形成し、次に硬化物層にビアを形成した後、硬化物層がデスミア処理されることがある。無機充填材を含む熱硬化性フィルムを用いた場合には、デスミア処理により、硬化物層の表面には複数の凹部が形成される。さらに、デスミア処理された硬化物層上に銅めっき処理により銅めっき層が形成されることがある。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のような従来の熱硬化性フィルムを用いた場合には、デスミア処理された硬化物層と銅めっき層との密着性が低いことがある。さらに、デスミア処理により形成された硬化物層の表面の凹部が大きすぎて、比較的大きな凹部の内部に入り込んだ金属めっき層(配線)が他の金属めっき層(配線)と近づいて、配線間の絶縁距離を十分に確保することが困難なことがある。例えば、絶縁層を介して上下に配置された配線間の絶縁距離を十分に確保できないことがある。
【0008】
本発明の目的は、硬化後の硬化物上に銅めっき層が形成された場合に、硬化物と銅めっき層との密着性を高めることができ、かつ硬化物の厚みが薄くても十分な絶縁信頼性を得ることができるプリント配線板用熱硬化性フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の広い局面によれば、熱硬化性樹脂と硬化剤とシリカとを含むプリント配線板用熱硬化性フィルムであり、熱硬化性フィルムを銅張り積層板上に積層し、170℃で1時間熱硬化性フィルムを硬化させて硬化物を得た後、膨潤液と粗化液とをデスミア処理液として用いて、該硬化物を該膨潤液により60℃で20分膨潤処理し、次に膨潤処理された硬化物を該粗化液により80℃で20分間粗化処理して、デスミア処理された硬化物を得たときに、原子間力顕微鏡を用いて、100μm×100μmの大きさの測定領域における上記デスミア処理された硬化物の表面積を測定した場合に、測定領域における上記デスミア処理された硬化物の表面積が20000μm以上であり、上記デスミア処理された硬化物上に銅めっき層を形成し、上記デスミア処理された硬化物と該銅めっき層との積層体を得た後、該積層体の厚み方向の断面を露出させたときに、該断面における上記デスミア処理された硬化物の厚み方向における凹部深さが2μm以下である、プリント配線板用熱硬化性フィルムが提供される。
【0010】
本発明に係るプリント配線板用熱硬化性フィルムのある特定の局面では、上記シリカの含有量が25重量%以上、80重量%以下であり、上記シリカの平均粒子径が0.6μm以下であり、上記シリカの最大粒子径が3μm以下である。
【0011】
本発明に係るプリント配線板用熱硬化性フィルムの他の特定の局面では、熱硬化性フィルムを170℃で1時間硬化させて硬化物を得た後、膨潤液と粗化液とをデスミア処理液として用いて、該硬化物を該膨潤液により60℃で20分膨潤処理し、次に膨潤処理された硬化物を該粗化液により80℃で20分間粗化処理して、デスミア処理された硬化物を得たときに、該デスミア処理された硬化物の表面から除去される第2の樹脂成分を含み、上記第2の樹脂成分が、上記デスミア処理された硬化物中に粒径が2μm以下であるように、上記熱硬化性樹脂と上記硬化剤とを含む第1の樹脂成分中に分散している。
【0012】
本発明に係るプリント配線板用熱硬化性フィルムのさらに他の特定の局面では、上記第2の樹脂組成分はポリビニルアセタール樹脂である。
【0013】
本発明に係るプリント配線板用熱硬化性フィルムの別の特定の局面では、熱硬化性フィルムを170℃で1時間硬化させて硬化物を得た後、膨潤液と粗化液とをデスミア処理液として用いて、該硬化物を該膨潤液により60℃で20分膨潤処理し、次に膨潤処理された硬化物を該粗化液により80℃で20分間粗化処理して、デスミア処理された硬化物を得たときに、該デスミア処理された硬化物の表面から上記シリカが除去される。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るプリント配線板用熱硬化性フィルムによれば、該熱硬化性フィルムを用いたデスミア処理された硬化物を得たときに、原子間力顕微鏡を用いて、100μm×100μmの大きさの測定領域における上記デスミア処理された硬化物の表面の表面積を測定した場合に、測定領域における上記デスミア処理された硬化物の表面の表面積が20000μm以上であり、更にデスミア処理された硬化物と銅めっき層との積層体を得た後、該積層体の厚み方向の断面を露出させたときに、断面における上記デスミア処理された硬化物の厚み方向における凹部深さが2μm以下であるので、デスミア処理された硬化物と銅めっき層との密着性を高めることができ、かつデスミア処理された硬化物の厚みが薄くても十分な絶縁信頼性を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0016】
(プリント配線板用熱硬化性フィルム)
本発明に係るプリント配線板用熱硬化性フィルムは、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、シリカとを含む。
【0017】
上記熱硬化性フィルムを銅張り積層板上に積層し、170℃で1時間熱硬化性フィルムを硬化させて硬化物を得た後、膨潤液と粗化液とをデスミア処理液として用いて、該硬化物を該膨潤液により60℃で20分膨潤処理し、次に膨潤処理された硬化物を該粗化液により80℃で20分間粗化処理して、デスミア処理された硬化物を得る。さらに、上記デスミア処理された硬化物上に銅めっき層を形成し、上記デスミア処理された硬化物と該銅めっき層との積層体を得る。このようにして、得られたデスミア処理された硬化物及び積層体において、本発明に係るプリント配線板用熱硬化性フィルムでは、下記の条件A)及び条件B)を満たす。
【0018】
条件A)
原子間力顕微鏡を用いて、100μm×100μmの大きさの測定領域における上記デスミア処理された硬化物の表面の表面積を測定した場合に、測定領域における上記デスミア処理された硬化物の表面の表面積が20000μm以上である。
【0019】
条件B)
上記積層体の厚み方向の断面を露出させたときに、該断面における上記デスミア処理された硬化物の厚み方向における凹部深さが2μm以下である。
【0020】
上記条件A)及びB)を満たすことにより、デスミア処理された硬化物と銅めっき層との密着性を高めることができ、かつデスミア処理された硬化物の厚みが薄くても十分な絶縁信頼性を得ることができる。以下、デスミア処理された硬化物を、硬化物と略記することがある。
【0021】
硬化物と銅めっき層との密着性をより一層高め、かつ厚みが薄い硬化物の絶縁信頼性をより一層高める観点からは、本発明に係るプリント配線板用熱硬化性フィルム100重量%中、上記シリカの含有量が25重量%以上、80重量%以下であり、上記シリカの平均粒子径が0.6μm以下であり、上記シリカの最大粒子径が3μm以下であることが好ましい。
【0022】
硬化物と銅めっき層との密着性をより一層高め、かつ厚みが薄い硬化物の絶縁信頼性をより一層高める観点からは、熱硬化性フィルムを170℃で1時間硬化させて硬化物を得た後、膨潤液と粗化液とをデスミア処理液として用いて、該硬化物を該膨潤液により60℃で20分膨潤処理し、次に膨潤処理された硬化物を該粗化液により80℃で20分間粗化処理して、デスミア処理された硬化物を得たときに、該デスミア処理された硬化物の表面から除去される第2の樹脂成分を含み、該第2の樹脂成分が、上記デスミア処理された硬化物中に粒径が2μm以下であるように、上記熱硬化性樹脂と上記硬化剤とを含む第1の樹脂成分中に分散していることが好ましい。
【0023】
上記第2の樹脂成分としては、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂及びポリサルフォン等が挙げられる。上記第2の樹脂成分は、ポリビニルアセタール樹脂であることが好ましい。
【0024】
なお、本明細書において、上記「粒径」とは、上記デスミア処理された硬化物中に存在する第2の樹脂成分における最大粒径を意味する。
【0025】
硬化物と銅めっき層との密着性をより一層高め、かつ厚みが薄い硬化物の絶縁信頼性をより一層高める観点からは、熱硬化性フィルムを170℃で1時間硬化させて硬化物を得た後、膨潤液と粗化液とをデスミア処理液として用いて、該硬化物を該膨潤液により60℃で20分膨潤処理し、次に膨潤処理された硬化物を該粗化液により80℃で20分間粗化処理して、デスミア処理された硬化物を得たときに、該デスミア処理された硬化物の表面から上記シリカが除去されることが好ましい。
【0026】
上記上記デスミア処理された硬化物上に銅めっき層を形成し、上記デスミア処理された硬化物と該銅めっき層との積層体を得る際に、上記デスミア処理された硬化物上に銅めっき層を形成し、次に180℃で1時間加熱して上記デスミア処理された硬化物と該銅めっき層との積層体を得ることが好ましい。
【0027】
上記銅張り積層板に積層される熱硬化性フィルムの厚さは10〜80μmであることが好ましい。上記条件A)及び上記条件B)に関する評価の際に、厚さ25μmの熱硬化性フィルムを用いることが好ましい。
【0028】
上記銅張り積層板は、上面全体が銅である銅張り積層板であってもよく、硬化物との密着性を高めるために該銅張り積層板の上面がエッチング処理されていてもよい。上記銅張り積層板の市販品としては、日立化成社製の「E−679F」(厚み0.6mm)が挙げられる。上記「E−67F」は、メック社製「CZ8101」にてエッチング処理されていてもよい。
【0029】
上記デスミア処理液として、膨潤液と粗化液とが用いられる。デスミア処理として、膨潤処理と、膨潤処理後に粗化処理とが行われる。
【0030】
上記デスミア処理液である上記膨潤液は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル20重量%とエチレングリコール8重量%とを含み、水酸化ナトリウムを3g/Lとなるように加え純水にて調整された水溶液であることが好ましい。このような膨潤処理液の市販品としては、アトテックジャパン社製「スウェリングディップ セキュリガントP」が挙げられる(これを原液として膨潤液を上記のように調整)。
【0031】
上記デスミア処理液である上記粗化液は、過マンガン酸ナトリウム6重量%を含み、水酸化ナトリウムを40g/Lとなるように加え純水にて調整された水溶液であることが好ましい。このような粗化液の市販品としては、アトテックジャパン社製「コンセントレートコンパクトCP」が挙げられる(これを原液として粗化液を上記のように調整)。
【0032】
以下、本発明に係るプリント配線板用熱硬化性フィルムに含まれている熱硬化性樹脂、硬化剤及びシリカなどの詳細を説明する。
【0033】
[熱硬化性樹脂]
本発明に係るプリント配線板用熱硬化性フィルムに含まれている熱硬化性樹脂は特に限定されない。該熱硬化性樹脂として、従来公知の熱硬化性樹脂を用いることができる。上記熱硬化性樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0034】
上記熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂及び熱硬化性ポリイミド等が挙げられる。硬化物と銅めっき層との密着性をより一層高め、かつ厚みが薄い硬化物の絶縁信頼性をより一層高める観点からは、エポキシ樹脂又はシアネート樹脂が好ましい。
【0035】
上記エポキシ樹脂は特に限定されない。該エポキシ樹脂として、従来公知のエポキシ樹脂を用いることができる。該エポキシ樹脂は、少なくとも1個のエポキシ基を有する有機化合物をいう。エポキシ樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0036】
上記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、アダマンタン骨格を有するエポキシ樹脂、トリシクロデカン骨格を有するエポキシ樹脂、及びトリアジン核を骨格に有するエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0037】
硬化物と銅めっき層との密着性をより一層高め、かつ厚みが薄い硬化物の絶縁信頼性をより一層高める観点からは、上記エポキシ樹脂は、ビスフェノール型エポキシ樹脂又はビフェニル型エポキシ樹脂であることが好ましい。上記ビスフェノール型エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂又はビスフェノールS型エポキシ樹脂であることが好ましい。また、ビスフェノールF型エポキシ樹脂又はビスフェノールS型エポキシ樹脂の使用により、硬化物の熱による寸法変化をより一層小さくすることができる。
【0038】
上記エポキシ樹脂は、ビスフェノールS型エポキシ樹脂であることが好ましい。ビスフェノールS型エポキシ樹脂の使用により、硬化物の線膨張率をかなり低くすることができる。また、ビスフェノールS型エポキシ樹脂の使用により、シリカの含有量が比較的少なくても、線膨張率を十分に低くすることができる。さらに、ビスフェノールS型エポキシ樹脂を用いた場合には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた場合と比較して、硬化物のガラス転移温度をより一層高くすることができる。
【0039】
デスミア処理された硬化物の表面粗さをより一層小さくし、かつ硬化物の表面により一層微細な配線を形成する観点からは、上記エポキシ樹脂は、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂又はジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂であることが特に好ましい。
【0040】
上記エポキシ樹脂は、常温(23℃)で液状であってもよく、固形であってもよい。上記エポキシ樹脂は、常温で液状である液状エポキシ樹脂であることが好ましい。液状エポキシ樹脂の使用により、熱硬化性フィルムのハンドリング性を高くすることができる。また、液状エポキシ樹脂の使用により、デスミア処理された硬化物の表面粗さをより一層小さくし、かつ硬化物の表面により一層微細な配線を形成することができる。
【0041】
エポキシ樹脂100重量%中、上記液状エポキシ樹脂の含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、更に好ましくは30重量%以上、特に好ましくは50重量%以上である。エポキシ樹脂の全量が液状エポキシ樹脂であってもよい。
【0042】
上記液状エポキシ樹脂としては、エポキシ当量が160〜190のビスフェノールF型エポキシ樹脂(三菱化学社製の「jER806」及び「jER807」等)等が挙げられる。
【0043】
硬化物と銅めっき層との接着強度を高めたり、デスミア処理された硬化物の表面の表面粗さをより一層小さくしたりする観点からは、上記エポキシ樹脂のエポキシ当量は、90〜1000の範囲内であることが好ましい。該エポキシ当量は好ましくは100以上、好ましくは800以下、より好ましくは400以下である。
【0044】
[硬化剤]
本発明に係るプリント配線板用熱硬化性フィルムに含まれている硬化剤は特に限定されない。該硬化剤として、従来公知の硬化剤を用いることができる。硬化剤は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0045】
上記硬化剤としては、シアネートエステル樹脂(シアネートエステル硬化剤)、フェノール化合物(フェノール硬化剤)、アミン化合物、チオール化合物(チオール硬化剤)、酸無水物、活性エステル化合物及びジシアンジアミド等が挙げられる。
【0046】
硬化物と銅めっき層との密着性をより一層高め、かつ厚みが薄い硬化物の絶縁信頼性をより一層高める観点からは、上記硬化剤は、シアネートエステル樹脂、フェノール化合物又は活性エステル化合物であることが好ましい。
【0047】
また、熱による寸法変化がより一層小さい硬化物を得る観点からは、上記硬化剤は、シアネートエステル樹脂又はフェノール化合物であることが好ましい。上記硬化剤は、シアネートエステル樹脂であることが好ましく、フェノール化合物であることも好ましい。上記硬化剤は、上記エポキシ樹脂のエポキシ基と反応可能な官能基を有することが好ましい。
【0048】
上記シアネートエステル樹脂の使用により、シリカの含有量が多い熱硬化性フィルムのハンドリング性を良好にすることができ、硬化物のガラス転移温度をより一層高くすることができる。上記シアネートエステル樹脂は特に限定されない。該シアネートエステル樹脂として、従来公知のシアネートエステル樹脂を用いることができる。上記シアネートエステル樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0049】
上記シアネートエステル樹脂としては、ノボラック型シアネート樹脂及びビスフェノール型シアネート樹脂等が挙げられる。上記ビスフェノール型シアネート樹脂としては、ビスフェノールA型シアネート樹脂、ビスフェノールE型シアネート樹脂及びテトラメチルビスフェノールF型シアネート樹脂等が挙げられる。
【0050】
上記シアネートエステル樹脂の市販品としては、フェノールノボラック型シアネート樹脂(ロンザジャパン社製「PT−30」及び「PT−60」)、並びにビスフェノールAジシアネートがトリアジン化され、三量体とされたプレポリマー(ロンザジャパン社製「BA230」、「BA200」及び「BA3000」)等が挙げられる。
【0051】
熱硬化性フィルムの硬化性を高め、デスミア処理された硬化物の表面の表面粗さをより一層小さくする観点からは、上記シアネートエステル樹脂は、シアネート基を2個有するシアネートエステル樹脂、又は該シアネート基を2個有するシアネートエステル樹脂の多量体であることが好ましい。
【0052】
上記フェノール化合物の使用により、硬化物のガラス転移温度を高くすることができ、更に硬化物と銅めっき層との密着性をより一層高めることができる。上記フェノール化合物としては、ノボラック型フェノール、ビフェノール型フェノール、ナフタレン型フェノール、ジシクロペンタジエン型フェノール、アラルキル型フェノール及びジシクロペンタジエン型フェノール等が挙げられる。
【0053】
上記フェノール化合物の市販品としては、アミノトリアジン骨格を有するフェノール化合物(DIC社製「LA1356」及び「LA3018−50P」)等が挙げられる。
【0054】
熱硬化性フィルムの硬化性を高くし、デスミア処理された硬化物の表面の表面粗さをより一層小さくする観点からは、上記フェノール化合物は、ノボラック型フェノール化合物又はトリアジン骨格を有するフェノール化合物であることが好ましい。
【0055】
上記硬化剤は、シアネートエステル樹脂又はフェノール化合物であることが好ましい。シアネートエステル樹脂又はフェノール化合物の使用により、熱による寸法変化がより一層小さい硬化物を得ることができ、更にデスミア処理された硬化物の表面の表面粗さをより一層小さくすることができる。
【0056】
上記硬化剤は、酸無水物であってもよい。酸無水物の使用により、硬化物のガラス転移温度をより一層高くすることができる。該酸無水物としては、多脂環式骨格を有する酸無水物、及びテルペン系化合物と無水マレイン酸との付加反応により得られる脂環式骨格を有する酸無水物等が挙げられる。
【0057】
デスミア処理された硬化物の表面粗さをより一層小さくし、かつ硬化物の表面により一層微細な配線を形成する観点からは、上記硬化剤の当量は、250以下であることが好ましい。上記硬化剤は、当量が250以下である硬化剤を含むことが好ましい。上記硬化剤の当量は、例えば、硬化剤がシアネートエステル樹脂である場合にはシアネートエステル基当量を示し、硬化剤がフェノール化合物である場合にはフェノール性水酸基当量を示し、硬化剤が酸無水物である場合には酸無水物基当量を示す。
【0058】
上記硬化剤100重量%中、当量が250以下である硬化剤の含有量は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上である。上記硬化剤の全量が、当量が250以下である硬化剤であってもよい。当量が250以下である硬化剤の含有量が上記下限以上であると、デスミア処理された硬化物の表面粗さをより一層小さくすることができ、かつ硬化物の表面により一層微細な配線を形成することができる。さらに、当量が250以下である硬化剤の含有量が上記下限以上であると、硬化物のガラス転移温度をより一層高くすることができる。
【0059】
熱硬化性樹脂と硬化剤との配合比は特に限定されない。熱硬化性樹脂と硬化剤との配合比は、熱硬化性樹脂と硬化剤との種類により適宜決定される。
【0060】
[シリカ]
本発明に係るプリント配線板用熱硬化性フィルムに含まれているシリカは特に限定されない。該シリカとして、従来公知のシリカを用いることができる。上記シリカは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0061】
上記シリカは、溶融シリカであることがより好ましい。シリカの使用により、デスミア処理された硬化物の表面の表面粗さを効果的に小さくすることができる。シリカの形状は略球状であることが好ましい。
【0062】
上記シリカの平均粒子径は、0.1〜20μmの範囲内であることが好ましい。上記平均粒子径は、より好ましくは0.2μm以上、より好ましくは1μm以下、更に好ましくは0.5μm以下である。上記充填剤の平均粒子径として、50%となるメディアン径(d50)の値が採用される。上記平均粒子径は、レーザー回折散乱方式の粒度分布測定装置を用いて測定できる。
【0063】
硬化物と銅めっき層との密着性をより一層高め、かつ厚みが薄い硬化物の絶縁信頼性をより一層高める観点からは、上記シリカの平均粒子径は0.6μm以下であることが好ましい。
【0064】
硬化物と銅めっき層との密着性をより一層高め、かつ厚みが薄い硬化物の絶縁信頼性をより一層高める観点からは、上記シリカの最大粒子径は3μm以下であることが好ましい。
【0065】
上記シリカは、表面処理されていることが好ましく、カップリング剤により表面処理されていることがより好ましい。これにより、熱硬化性フィルム中でのシリカの分散性及びシリカと他の成分との親和性が高くなる。
【0066】
上記カップリング剤としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤及びアルミニウムカップリング剤等が挙げられる。上記表面処理に用いるカップリング剤は、エポキシシラン、アミノシラン、ビニルシラン、メルカプトシラン、サルファーシラン、(メタ)アクリル酸シラン、イソシアネートシラン又はウレイドシランであることが好ましい。
【0067】
本発明に係るプリント配線板用熱硬化性フィルム100重量%中、上記シリカの含有量は、好ましくは25重量%以上、より好ましくは40重量%以上、更に好ましくは50重量%以上、好ましくは85重量%以下、より好ましくは80重量%以下である。上記シリカの含有量が上記下限以上であると、硬化物の熱による寸法変化をより一層小さくすることができる。上記シリカの含有量が上記上限以下であると、デスミア処理された硬化物の表面の表面粗さをより一層小さくすることができ、表面形状を良好にすることができる。熱硬化性フィルム100重量%中、上記熱硬化性樹脂と上記硬化剤との合計の含有量は、好ましくは60重量%以下、より好ましくは50重量%以下、好ましくは15重量%以上、より好ましくは20重量%以上である。
【0068】
(他の成分)
本発明に係るプリント配線板用熱硬化性フィルムは、フェノキシ樹脂を含んでいてもよい。該フェノキシ樹脂の使用により、熱硬化性フィルムの回路の凹凸への追従性を高めることができ、更にデスミア処理された硬化物の表面の表面粗さをより一層小さくすることができ、粗度を均一にすることができる。
【0069】
上記フェノキシ樹脂は特に限定されない。該フェノキシ樹脂として、従来公知のフェノキシ樹脂を用いることができる。上記フェノキシ樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0070】
上記フェノキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型の骨格、ビスフェノールF型の骨格、ビスフェノールS型の骨格、ビフェニル骨格、ノボラック骨格、及びナフタレン骨格などの骨格を有するフェノキシ樹脂等が挙げられる。上記フェノキシ樹脂の重量平均分子量は、5,000〜100,000の範囲内であることが好ましい。上記フェノキシ樹脂の具体例としては、例えば、東都化成社製の「YP50」、「YP55」及び「YP70」、並びに三菱化学社製の「1256B40」、「4250」、「4256H40」、「4275」、「YX6954BH30」、「YX8100BH30」、「YL7600DMAcH25」及び「YL7213BH30」等が挙げられる。
【0071】
硬化物の表面をデスミア処理した後に、銅めっき層を形成するためにめっき処理した場合に、硬化物と銅めっき層との接着強度を高めることができるので、上記フェノキシ樹脂は、ビフェニル骨格又はビフェノール骨格を有することが好ましく、ビフェノール骨格を有することがより好ましい。
【0072】
上記フェノキシ樹脂の含有量は特に限定されない。熱硬化性フィルムに含まれているシリカを除く全成分100重量%中、上記フェノキシ樹脂の含有量は0重量%以上、好ましくは40重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。上記フェノキシ樹脂を用いなくてもよい。上記フェノキシ樹脂の含有量が上記上限以下であると、デスミア処理された硬化物の表面の粗度をより一層均一にすることができる。
【0073】
硬化物と銅めっき層との密着性をより一層高め、かつ厚みが薄い硬化物の絶縁信頼性をより一層高める観点からは、本発明に係るプリント配線板用熱硬化性フィルムは、ポリビニルアセタール樹脂を含むことが好ましい。
【0074】
本発明に係るプリント配線板用熱硬化性フィルムは、重量平均分子量が5000以上である高分子量成分を含むことが好ましい。該高分子量成分の使用により、硬化後の硬化物の表面をデスミア処理したときに、デスミア処理された表面の表面粗さを小さくすることができ、かつ硬化物と銅めっき層との接着強度を高くすることができる。さらに、上記高分子量成分によって、熱硬化性フィルム又は硬化物層の厚さを均一にすることができる。上記高分子量成分は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0075】
上記高分子量成分としては、上記フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ゴム成分及び有機フィラー等が挙げられる。
【0076】
上記高分子量成分は、ポリビニルアセタール樹脂及びフェノキシ樹脂の内の少なくとも1種を含むことが好ましく、ポリビニルアセタール樹脂及びフェノキシ樹脂の内の少なくとも1種であることがより好ましい。ポリビニルアセタール樹脂又はフェノキシ樹脂の使用により、熱硬化性フィルム又は硬化物層の厚さをより一層均一にすることができる。
【0077】
本発明に係るプリント配線板用熱硬化性フィルムがポリビニルアセタール樹脂を含む場合には、該ポリビニルアセタール樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。上記ポリビニルアセタール樹脂として従来公知のポリビニルアセタール樹脂を使用できる。上記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルブチラール樹脂であることが好ましい。
【0078】
上記ポリビニルアセタール樹脂の市販品としては、エスレックBLシリーズ、エスレックBXシリーズ、エスレックBMシリーズ、エスレックBHシリーズ及びエスレックKSシリーズ(以上いずれも積水化学工業社製)等が挙げられる。
【0079】
本発明に係るプリント配線板用熱硬化性フィルムがゴム成分を含む場合には、該ゴム成分は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。上記ゴム成分として、従来公知のゴム成分を用いることができる。上記ゴム成分としては、アクリルゴム、ニトリルゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム及びスチレン−ブタジエンゴム等が挙げられる。
【0080】
上記ゴム成分の市販品としては、タフテックHシリーズ、タフテックMシリーズ及びタフテックPシリーズ(以上いずれも旭化成社製)等が挙げられる。
【0081】
上記高分子量成分の重量平均分子量は、好ましくは5000以上、より好ましくは10000以上である。上記高分子量成分の重量平均分子量の上限は特に限定されない。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されたポリスチレン換算での値である。
【0082】
本発明に係るプリント配線板用熱硬化性フィルム100重量%中、上記高分子量成分の含有量は好ましくは0.4重量%以上、より好ましくは0.7重量%以上、好ましくは5重量%以下、より好ましくは2.5重量%以下である。上記高分子量成分の含有量が上記下限値以上であると、成形体及び硬化物の厚さをより一層均一にすることができる。上記高分子量成分の含有量が上記上限値以下であると、硬化物の熱線膨張係数を低くすることができ、硬化物の歪み量を小さくすることができる。さらに、上記高分子量成分の含有量が上記上限値以下であると、デスミア処理により硬化物の表面に微細な凹凸を形成でき、かつ硬化物と銅めっき層との接着強度をより一層高めることができる。なお、上記高分子量成分は、成形体及び硬化物の厚さの均一性に大きく影響する成分である。また、上記高分子量成分の含有量が多いほど、硬化物と銅めっき層との接着強度が低くなる傾向がある。
【0083】
耐衝撃性、耐熱性、樹脂の相溶性及び作業性等の改善を目的として、プリント配線板用熱硬化性フィルムには、着色剤、酸化防止剤、紫外線劣化防止剤、消泡剤、増粘剤及び揺変性付与剤等を添加してもよい。
【0084】
(熱硬化性フィルム及び積層フィルム)
本発明に係るプリント配線板用熱硬化性フィルムは、熱硬化性樹脂と硬化剤とシリカとを含む樹脂組成物を、フィルム状に成形することにより得られる。ハンドリング性が良好なフィルム状の熱硬化性フィルムは、Bステージフィルムとも呼ばれる。更に、ハンドリング性をより一層高めるために、完全硬化に至らない範囲で半硬化状態とされたフィルム状の樹脂組成物も熱硬化性フィルムと称する。
【0085】
上記熱硬化性フィルムは、半硬化状態にある半硬化物である。半硬化物は、完全に硬化しておらず、硬化がさらに進行され得る。
【0086】
上記熱硬化性フィルム100重量%中、上記溶剤の含有量は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.3重量%以上、好ましくは6重量%以下、より好ましくは3重量%以下である。上記溶剤の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、熱硬化性フィルムの表面の粘着性が高くなりすぎず、ハンドリング性を高めることができる。さらに、熱硬化性フィルムを他の部材に積層した場合に、表面の平坦性を高めることができる。
【0087】
本発明に係るプリント配線板用熱硬化性フィルムは、基材と、該基材の一方の表面に積層された熱硬化性フィルムとを備える積層フィルムを形成するために好適に用いることができる。
【0088】
上記積層フィルムの上記基材としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム及びポリブチレンテレフタレートフィルムなどのポリエステル樹脂フィルム、ポリエチレンフィルム及びポリプロピレンフィルムなどのオレフィン樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、銅箔及びアルミニウム箔などの金属箔等が挙げられる。上記基材の表面は、必要に応じて、離型処理されていてもよい。
【0089】
(デスミア処理)
本発明に係るプリント配線板用熱硬化性フィルムを硬化させることにより得られた硬化物の表面に微細な凹凸を形成するために、硬化物はデスミア処理される。
【0090】
また、本発明に係るプリント配線板用熱硬化性フィルムを硬化させることにより得られた硬化物に、貫通孔が形成されることがある。上記プリント配線板などでは、貫通孔として、ビア又はスルーホール等が形成される。例えば、ビアは、COレーザー等のレーザーの照射により形成できる。ビアの直径は特に限定されないが、60〜80μm程度である。上記貫通孔の形成により、ビア内の底部には、硬化物層に含まれている樹脂成分に由来する樹脂の残渣であるスミアが形成されることが多い。
【0091】
上記スミアを除去するために、硬化物層の表面は、デスミア処理される。該デスミア処理は、膨潤処理と、膨潤処理後の粗化処理とを含むことが好ましい。
【0092】
粗化処理の前に、硬化物は膨潤処理されることが好ましい。硬化物は、硬化の後、かつ粗化処理される前に、膨潤処理されており、さらに粗化処理の後に硬化されていることが好ましい。ただし、硬化物は、必ずしも膨潤処理されなくてもよい。
【0093】
上記膨潤処理の方法としては、例えば、エチレングリコールなどを主成分とする化合物の水溶液又は有機溶媒分散溶液などにより、予備硬化物を処理する方法が用いられる。具体的には、例えば、上記膨潤処理は、20重量%エチレングリコール水溶液等を用いて、処理温度30〜85℃で1〜20分間、予備硬化物を処理することにより行なわれる。上記膨潤処理の温度は50〜85℃の範囲内であることが好ましい。上記膨潤処理の温度が低すぎると、膨潤処理に長時間を要し、更に硬化物と銅めっき層との密着性(接着強度)が低くなる傾向がある。
【0094】
上記粗化処理には、例えば、マンガン化合物、クロム化合物又は過硫酸化合物などの化学酸化剤等が用いられる。これらの化学酸化剤は、水又は有機溶剤が添加された後、水溶液又は有機溶媒分散溶液として用いられる。
【0095】
上記マンガン化合物としては、過マンガン酸ナトリウム及び過マンガン酸カリウム等が挙げられる。上記クロム化合物としては、重クロム酸カリウム及び無水クロム酸カリウム等が挙げられる。上記過硫酸化合物としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
【0096】
上記粗化処理の方法は特に限定されない。上記粗化処理の方法として、例えば、30〜90g/L過マンガン酸又は過マンガン酸塩溶液及び30〜90g/L水酸化ナトリウム溶液を用いて、処理温度30〜85℃及び1〜20分間の条件で、1回又は2回、硬化物を処理する方法が好適である。上記粗化処理の温度は50〜85℃の範囲内であることが好ましい。
【0097】
以下、実施例及び比較例を挙げることにより、本発明を具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0098】
実施例及び比較例では、以下に示す材料を用いた。
【0099】
(溶剤)
MEK(メチルエチルケトン、特級試薬、和光純薬工業社製)
(熱硬化性樹脂)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学製「エピクロン828−EL)
(硬化剤)
フェノール硬化剤(明和化成社製「MEH7851−H」)
(フェノキシ樹脂)
ビフェニル型フェノキシ樹脂(三菱化学製「YX6954BH30」)
(ポリビニルアセタール樹脂)
ポリビニルアセタール(積水化学社製「BX−5」)
(硬化促進剤)
イミダゾール化合物(四国化成工業社製「2E4MZ」)
(シリカ)
シリカ(平均粒子径0.6μm、最大粒子径5μm)
シリカ(平均粒子径1.0μm、最大粒子径5μm)
【0100】
(実施例1)
MEK40.0gを室温にて撹拌しながら、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学製「エピクロン828−EL)17.0g、フェノール硬化剤(明和化成社製「MEH7851−H」)16.2g、ビフェニル型フェノキシ樹脂(三菱化学社製「YX6954BH30」)2.4g、イミダゾール化合物(四国化成工業社製「2E4MZ」)0.4g、及びシリカ(平均粒子径0.6μm、最大粒子径5μm)24.0gを添加し、均一な樹脂溶液を得た。この樹脂溶液を、離型処理された透明なポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム、リンテック社製「PET5011 550」)上に塗工した後、溶剤を除去するためにオーブン内で乾燥させることで、PETフィルム上に厚さ25μmの未硬化状態の熱硬化性フィルムを得た。
【0101】
(実施例2)
ビフェニル型フェノキシ樹脂(三菱化学社製「YX6954BH30」)の添加量を2.4gから1.2gに変更したこと、並びにポリビニルアセタール(積水化学製「BX−5」)1.2gを更に添加したこと以外は実施例1と同様にして、PETフィルム上に厚さ25μmの未硬化状態の熱硬化性フィルムを得た。
【0102】
(比較例1)
MEK40.0gを室温にて撹拌しながら、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学製「エピクロン828−EL)14.5g、フェノール硬化剤(明和化成社製「MEH7851−H」)13.9g、ポリビニルアセタール(積水化学社製「BX−5」)7.2g、イミダゾール化合物(四国化成工業社製「2E4MZ」)0.4g、及びシリカ(平均粒子径1.0μm、最大粒子径5μm)24.0gを添加し、均一な樹脂溶液を得た。この樹脂溶液を、離型処理が施された透明なポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム、リンテック社製「PET5011 550」)上に塗工した後、溶剤を除去するためにオーブン内で乾燥させることで、PETフィルム上に厚さ25μmの未硬化状態の熱硬化性フィルムを得た。
【0103】
(比較例2)
シリカ(平均粒子径1.0μm、最大粒子径5μm)24.0gをシリカ(平均粒子径0.6μm、最大粒子径5μm)24.0gに変更したこと以外は比較例1と同様にして、PETフィルム上に厚さ25μmの未硬化状態の熱硬化性フィルムを得た。
【0104】
(評価)
(1)評価サンプルの作製
上面全体が銅である日立化成社製の「E−679F」(厚み0.6mm)を、メック社製「CZ8101」にてエッチング処理して、銅張り積層板を用意した。得られたPETフィルムと熱硬化性フィルムとの積層フィルムを熱硬化性フィルム側から、銅張り積層板上に、真空加圧式ラミネーターを用いてラミネートした。その後、ポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離して、オーブン内にて、170℃で1時間加熱乾燥させることで、銅張り積層板上に半硬化状態の硬化物を形成した。
【0105】
次に、銅張り積層板と硬化物との積層体を、60℃の膨潤液(アトテックジャパン社製「スウェリングディップ セキュリガントP」)1000mlを純水1000mlで2Lに調整し、そこに水酸化ナトリウム6gを加え、撹拌して得た膨潤液中で、10分間揺動させた。その後、硬化物を純水でよく洗浄した後に乾燥させた。
【0106】
次に、膨潤処理された積層体を、80℃の過マンガン酸ナトリウム水溶液(アトテックジャパン社製「コンセントレートコンパクトCP」)1280mlを純水720mlで2Lに調整し、そこに水酸化ナトリウム80gを加え、撹拌して得た粗化液中で、20分間揺動させた。
【0107】
その後、デスミア処理された硬化物を、室温にて、洗浄液(アトテックジャパン社製「リダクションセキュリガントP」)に2分間浸漬させた後に、純水にて洗浄し、乾燥させ、デスミア処理された硬化物を得た。
【0108】
次に、銅張り積層板上のデスミア処理された硬化物上に、無電解銅めっき及び電解銅めっき処理を以下の手順で行った。
【0109】
デスミア処理された硬化物の表面を、55℃のアルカリクリーナ(クリーナーセキュリガント902)で5分間処理し、脱脂洗浄した。洗浄後、デスミア処理された硬化物を23℃のプリディップ液(プリディップネオガントB)で2分間処理した。その後、上記デスミア処理された硬化物を40℃のアクチベーター液(アクチベーターネオガント834)で5分間処理し、パラジウム触媒を付けた。次に、30℃の還元液(リデューサーネオガントWA)により、デスミア処理された硬化物を5分間処理した。
【0110】
次に、デスミア処理された硬化物を化学銅液(ベーシックプリントガントMSK−DK、カッパープリントガントMSK、スタビライザープリントガントMSK)に入れ、無電解めっきをめっき厚さが0.5μm程度になるまで実施した。無電解めっき後に、残留している水素ガスを除去するため、120℃の温度で30分間アニールをかけた。無電解めっきの工程までのすべての工程は、ビーカースケールで処理液を1Lとし、デスミア処理された硬化物を揺動させながら実施した。
【0111】
次に、無電解めっき処理されたデスミア処理された硬化物に、電解めっきをめっき厚さが25μmとなるまで実施した。電気銅めっきとして硫酸銅(リデューサーCu)を用いて、0.6A/cmの電流を流した。銅めっき処理後、硬化物を180℃で1時間加熱し、硬化させ、デスミア処理された硬化物上に銅めっき層を形成した。このようにして、デスミア処理された硬化物と銅めっき層との積層体を得た。
【0112】
(2)デスミア処理された硬化物の凹部深さ
デスミア処理硬化物と銅めっき層との密着面を分析するために、デスミア処理された硬化物と銅めっき層との積層体の厚み方向の断面を露出させた。具体的には、2cm×1cmの大きさに積層体を切断し、切断物を樹脂中に埋めて、樹脂とともに切断物を研磨して、デスミア処理された硬化物と銅めっき層との断面を露出させた。
【0113】
露出した断面を、SEM(走査型電子顕微鏡、日本電子データム社製「JSM−5610LV」)にて観察し、デスミア処理された硬化物の厚み方向における凹部深さを測定した。5000倍で20μmの範囲で凹部深さを測定し、その最大深さを凹部深さとした。
【0114】
(3)SAD
ハイブリッドAFM(原子間力顕微鏡、キーエンス社製「VN−8010」)を用いて、100μm×100μmの測定領域におけるデスミア処理された硬化物の表面積を測定し、下記式(X)により求められるSADを評価した。デスミア処理された硬化物のデスミア処理された表面にて評価した。
【0115】
SAD=デスミア処理された硬化物の表面積(μm)/(100μm×100μm) ・・・式(X)
【0116】
(4)層間絶縁信頼性
上面全体が銅である日立化成社製の「E−679F」(厚み0.6mm)を、メック社製「CZ8101」にてエッチング処理して、10cm×10cmの大きさの銅張り積層板を用意した。
【0117】
得られたPETフィルムと熱硬化性フィルムとの積層フィルムを熱硬化性フィルム側から積層し、銅張り積層板上に、真空加圧式ラミネーターを用いてラミネートした。その後、ポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離して、オーブン内にて、170℃で1時間加熱乾燥させることで、銅張り積層板上に半硬化状態の硬化物を形成した。その後、上記(1)の評価サンプルの作製と同様にして膨潤処理と粗化処理とを行った。
【0118】
次に、無電解めっき処理工程、ドライフィルム積層工程、マスクを用いた露光工程、現像工程、不要の無電解めっき部分の除去工程、電解めっき工程、セミアディティブプロセスにて10cm角の中央に直径1.0cmの電極を作成する工程を行った。JEDEC規格(JESD22−A110B)のHAST試験規格に従って、層間マイグレーション評価用パターン(ベタ導体間)を作成し、デスミア処理された硬化物の層間絶縁信頼性を評価した。130℃、85%RH及び5V印加の各条件で、96時間以上硬化物の抵抗値が10Ω以上(JPCAのET−01に準拠)であることを合否判定の基準とした。
【0119】
(5)最小絶縁距離
上記(1)で得られたデスミア処理された硬化物と銅めっき層との積層体の厚み方向の断面を露出させた。具体的には、2cm×1cmの大きさに積層体を切断し、切断物を樹脂中に埋めて、樹脂とともに切断物を研磨してデスミア処理された硬化物と銅めっき層との断面を露出させた。
【0120】
上記SEMにて銅張り積層板の上面から、デスミア処理された硬化物の凹部の最深部までの最小絶縁距離を測定した。測定エリアは、硬化物上の円形パターン(1cm)中央部の露出した断面部分とした(1cm)。測定エリア内で、デスミア処理された凹部の最も深い部分(最深点)から、銅張り積層板の上面までの距離を最小絶縁距離とした。
【0121】
(6)銅めっき密着性
デスミア処理された硬化物上の銅めっき層の表面に10mm幅に切り欠きを入れた。その後、引張試験機(島津製作所社製「オートグラフ」)を用いて、クロスヘッド速度5mm/分の条件で、銅めっき層とデスミア処理された硬化物との接着強度を測定し、得られた測定値をピール強度とした。
【0122】
(7)第2の樹脂成分(ポリビニルアセタール樹脂)の除去性
上記第2の樹脂成分を含む熱硬化性フィルムに関しては、(1)の評価で得られたデスミア処理された硬化物(銅めっき層の形成前)において、第2の樹脂成分(ポリビニルアセタール樹脂)が硬化物の表面から除去されているか否かを評価した。デスミア処理された硬化物の表面の上記SEMによる観察で確認した。
【0123】
(8)第2の樹脂成分(ポリビニルアセタール樹脂)の分散性
上記第2の樹脂成分を含む熱硬化性フィルムに関しては、(1)の評価で得られたデスミア処理された硬化物(銅めっき層の形成前)において、透過型電子顕微鏡により1万倍で観察することにより、上記第1の樹脂成分中に分散しているか否かと、ポリビニルアセタール樹脂の粒径とを評価した。
【0124】
(9)シリカの除去性
上記(1)の評価で得られたデスミア処理された硬化物(銅めっき層の形成前)において、シリカが硬化物の表面から除去されているか否かを評価した。デスミア処理された硬化物の表面の上記SEMによる観察で確認した。
【0125】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と硬化剤とシリカとを含むプリント配線板用熱硬化性フィルムであり、
熱硬化性フィルムを銅張り積層板上に積層し、170℃で1時間熱硬化性フィルムを硬化させて硬化物を得た後、膨潤液と粗化液とをデスミア処理液として用いて、該硬化物を該膨潤液により60℃で20分膨潤処理し、次に膨潤処理された硬化物を該粗化液により80℃で20分間粗化処理して、デスミア処理された硬化物を得たときに、原子間力顕微鏡を用いて、100μm×100μmの大きさの測定領域における前記デスミア処理された硬化物の表面積を測定した場合に、測定領域における前記デスミア処理された硬化物の表面積が20000μm以上であり、
前記デスミア処理された硬化物上に銅めっき層を形成し、前記デスミア処理された硬化物と前記銅めっき層との積層体を得た後、該積層体の厚み方向の断面を露出させたときに、該断面における前記デスミア処理された硬化物の厚み方向における凹部深さが2μm以下である、プリント配線板用熱硬化性フィルム。
【請求項2】
前記シリカの含有量が25重量%以上、80重量%以下であり、
前記シリカの平均粒子径が0.6μm以下であり、
前記シリカの最大粒子径が3μm以下である、請求項1に記載のプリント配線板用熱硬化性フィルム。
【請求項3】
熱硬化性フィルムを170℃で1時間硬化させて硬化物を得た後、膨潤液と粗化液とをデスミア処理液として用いて、該硬化物を該膨潤液により60℃で20分膨潤処理し、次に膨潤処理された硬化物を該粗化液により80℃で20分間粗化処理して、デスミア処理された硬化物を得たときに、該デスミア処理された硬化物の表面から除去される第2の樹脂成分を含み、
前記第2の樹脂成分が、前記デスミア処理された硬化物中に粒径が2μm以下であるように、前記熱硬化性樹脂と前記硬化剤とを含む第1の樹脂成分中に分散している、請求項1又は2に記載のプリント配線板用熱硬化性フィルム。
【請求項4】
前記第2の樹脂組成分がポリビニルアセタール樹脂である、請求項3に記載のプリント配線板用熱硬化性フィルム。
【請求項5】
熱硬化性フィルムを170℃で1時間硬化させて硬化物を得た後、膨潤液と粗化液とをデスミア処理液として用いて、該硬化物を該膨潤液により60℃で20分膨潤処理し、次に膨潤処理された硬化物を該粗化液により80℃で20分間粗化処理して、デスミア処理された硬化物を得たときに、該デスミア処理された硬化物の表面から前記シリカが除去される、請求項1〜4のいずれか1項に記載のプリント配線板用熱硬化性フィルム。

【公開番号】特開2012−74606(P2012−74606A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219456(P2010−219456)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】