説明

プリント配線板用銅箔

【課題】絶縁基板と積層し、エッチングにより銅箔に回路を形成し、回路にSnメッキ層を形成して作製した銅張積層体にフュージング処理を行っても脆化し難いプリント配線板用銅箔を提供する。
【解決手段】プリント配線板用銅箔は、銅箔表面にスズめっき層を施すプリント配線板用銅箔であって、幅12.7mmの前記銅箔の両面及び両端面に0.35μm厚のSnめっきを施した後、125℃で1時間の熱処理を行ったSnめっき層付き銅箔の伸び率(B)が1.0%以上となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板用の銅箔に関し、特にフレキシブルプリント配線板用の銅箔に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁基板の表面に銅からなる配線が多数形成されたプリント配線板には、実装する電子部品との電気的接続を確立するために、あるいは、プリント配線板の相互接続を行うために、端子部分にSn等からなるメッキ層が形成されているのが一般的である。
【0003】
プリント配線板は銅箔に絶縁基板を接着させて銅張積層板とした後に、エッチングにより銅箔面に回路パターンを形成するという工程を経て製造されるのが一般的である。ここで、回路パターンにSnメッキ層を形成する場合、ウィスカーが生じることがある。ウィスカーとは、Snの針状結晶が成長したものであり、場合によっては数十μmにも結晶組織が成長して電気的な短絡を引き起こすことがある。このため、その製造工程において、ウィスカーを抑制するためのフュージング処理(熱処理)が行われる。
【0004】
しかしながら、Snメッキ層を形成した銅箔をフュージング処理した場合、銅箔とSnメッキ層との界面にカーケンドール効果によると思われるボイドやクラックが発生し、銅箔が脆化して回路が断線するという問題が生じることがある。
【0005】
このような問題に対する技術として、例えば、特許文献1には、可撓性を有する絶縁基板と、その絶縁基板の片面上に形成する回路パターンと、その回路パターンの接続端子部に隣接する領域上に設け、耐Snメッキ液性に優れている第1のソルダーレジストと、少なくとも前記回路パターンの接続端子部を除いて前記回路パターン上に設け、可撓性に優れている第2のソルダーレジストと、回路パターンの接続端子部に設けるSn合金メッキとを備えるフレキシブルプリント配線板が開示されている。そして、このような構成により、第1および第2のソルダーレジストを形成してからSnメッキを行うようにすれば、ソルダーレジストを塗布するときの加熱処理で回路パターンの銅がSnメッキに拡散して脆い性質のSn−銅合金が形成されることを防いで、断線のない信頼性を向上したフレキシブルプリント配線板を提供することができると記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、未処理銅箔中のCl含有量が30ppm未満である銅箔が開示されている。そして、このようにCl含有量を30ppm未満とすることで、Snメッキ後のフュージング処理でボイドが発生し難くなると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−253247号公報
【特許文献2】特開2006−52441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
Snメッキ層が形成された銅箔のフュージング処理による脆化の抑制については、上述のように従来種々の手段が研究・開発されているが、未だ改善の余地がある。
【0009】
本発明は、絶縁基板と積層し、エッチングにより銅箔に回路を形成し、回路にSnメッキ層を形成して作製した銅張積層体にフュージング処理を行っても脆化し難いプリント配線板用銅箔、及び、それを用いた銅張積層板及びプリント配線板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討の結果、絶縁基板と積層し、エッチングにより銅箔に回路を形成し、回路にSnメッキ層を形成した後フュージング処理を行う銅張積層体において、特定の銅箔を用いることで、フュージング処理された際の脆化が良好に抑制されることを見出した。
【0011】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、銅箔表面にスズめっき層を施すプリント配線板用銅箔であって、幅12.7mmの前記銅箔の両面及び両端面に0.35μm厚のSnめっきを施した後、125℃で1時間の熱処理を行ったSnめっき層付き銅箔の伸び率(B)が1.0%以上となることを特徴とするプリント配線板用銅箔である。
【0012】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の一実施形態においては、銅箔が圧延銅箔である。
【0013】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の別の実施形態においては、Snめっきを施す前の前記銅箔単体の伸び(A)に対するSnめっき層を形成して熱処理した後の前記Snめっき層付き銅箔の伸び(B)の比(B/A)が0.3以上である。
【0014】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の更に別の一実施形態においては、銅箔が、タフピッチ銅又は無酸素銅で形成されている。
【0015】
本発明は更に別の一側面において、本発明に係る銅箔を備えた銅張積層板である。
【0016】
本発明は更に別の一側面において、本発明に係る銅張積層板を材料としたプリント配線板である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、絶縁基板と積層し、エッチングにより銅箔に回路を形成し、回路にSnメッキ層を形成して作製した銅張積層体にフュージング処理を行っても脆化し難いプリント配線板用銅箔、及び、それを用いた銅張積層板及びプリント配線板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(プリント配線板用銅箔の構成)
本発明に係るプリント配線板用銅箔は、銅箔を絶縁基板と積層し、エッチングにより銅箔に回路を形成し、回路にSnメッキ層を形成し、その後、熱処理を行う銅張積層体に用いられる銅箔である。具体的には、幅12.7mmの前記銅箔に両面及び両端面に0.35μm厚のSnめっきを施し、125℃で1時間の熱処理を行った後に伸び率が1.0%以上となる銅箔である。ここで、125℃で1時間の熱処理は、銅箔の回路にSnメッキ層を形成して作製した銅張積層体に行うフュージング処理を意図している。プリント配線板上の回路は、電気機器において応力が集中する箇所に用いられると断線するおそれがある。特にSnメッキ等が施されていると、従来の銅箔では伸びが低下してしまうため、断線の発生が促進されてしまう。これに対し、本発明に係るプリント配線板用銅箔は、Snメッキ層が形成されても、125℃で1時間の熱処理を行った後に伸び率が1.0%以上となるものであるため、電気機器において応力が集中する箇所に用いられても断線の発生が良好に抑制される。
本発明に係るプリント配線板用銅箔は、このようにSnめっき層を施し、熱処理を施した後に良好な伸び率を有する銅箔である。しかしながら、このような良好な伸び率をする銅箔は、必ずしも銅箔単体(めっき層を施さず、熱処理もしない)の伸び率の高い銅箔ではない特定の銅箔である。本発明は、その特定の銅箔を見出したことに意義がある。具体的には、幅12.7mmの前記銅箔に両面及び両端面を0.35μm厚のSnめっきを施し、125℃で1時間の熱処理を行った後に伸び率が1.0%以上となる銅箔である。
本発明に用いることのできる銅箔基材としては、圧延銅箔が好ましい。一般的には、圧延銅箔は圧延ロールによる塑性加工と熱処理を繰り返して製造される。
圧延銅箔の材料としては、タフピッチ銅や無酸素銅を用いた圧延銅箔である。
さらには、タフピッチ銅及び無酸素銅をベースした銅合金箔も使用可能である。タフピッチ銅及び無酸素銅をベースした銅合金箔は、具体的には、Ag、As、Sb、Bi、Se、Te、Pb及びSnの少なくとも1種を不純物として合計0.003質量%以下含むものである。
なお、本明細書において用語「銅箔」を単独で用いたときには銅合金箔も含むものとし、「タフピッチ銅及び無酸素銅」を単独で用いたときにはタフピッチ銅及び無酸素銅をベースとした銅合金箔を含むものとする。
本発明では、特にAg含有銅合金箔が好ましく、Agを0.01〜0.04質量%含有し、タフピッチ銅をベースとした銅合金箔を用いるのがより好ましい。
また、銅箔・銅合金箔において、Sは、10質量ppm以下含んでいるのが好ましい。Sの含有量が10質量ppmを超えると、熱処理(例えば125℃1時間)後の伸びが劣化する。
【0019】
本発明に用いることのできる銅箔の厚さとしては、6〜10μmが好ましい。銅箔の厚さが6μm未満であると銅箔のハンドリングが悪くなり、10μm超であるとファインエッチング性が低下する。
【0020】
プリント配線板用銅箔を用いてフュージング処理等を経て形成された回路基板の回路は、銅箔の伸び率が大きいほど断線し難くなる。このため、本発明に係る銅箔は、絶縁基板と積層し、エッチングにより銅箔に回路を形成し、回路にSnメッキ層を形成して作製した銅張積層体に、125℃で1時間の熱処理を行った後に、伸び率が1.0%以上となるように調整されている。また、プリント配線板用銅箔の伸び率は、0.8%以上が好ましく、1.0%以上がより好ましい。
また、本発明者は、回路パターンが形成された銅箔にSnメッキ層を形成した後にフュージング処理を行ったもの伸び率(B)と、回路パターン形成前の銅箔の伸び率(A)との関係も、回路の断線に影響を与えることを見出した。具体的には、伸び率(B)/伸び率(A)が小さいほどプリント配線板用銅箔を用いてフュージング処理等を経て形成された回路基板の回路の断線が生じ易くなる。このため、B/A>0.30であるのが好ましい。また、B/A>0.35がより好ましく、B/A>0.40が更に好ましい。
【0021】
(本発明に係るプリント配線板の製法)
本発明に係るプリント配線板の製造方法としては、まず、圧延銅箔等を準備し、この銅箔上に回路パターンをエッチングにより形成する。続いて、回路パターンが形成された銅箔に、Sn層をメッキ処理により形成する。ここでのメッキ処理は、電気Snメッキや無電解Snメッキのような湿式メッキ、或いはCVDやPVDのような乾式メッキを用いることができる。生産性、コストの観点からは、電気メッキが好ましい。
続いて、ウィスカーを抑制するためにフュージング処理(熱処理)を行う。フュージング処理としては、100〜180℃で0.5〜5時間の加熱を行うことができる。
【0022】
プリント配線板(PWB)は、上記銅箔を用い、常法に従って製造することができる。以下に、プリント配線板の製造例を示す。
まず、銅箔と絶縁基板とを貼り合わせて銅張積層板を製造する。銅箔が積層される絶縁基板はプリント配線板に適用可能な特性を有するものであれば特に制限を受けないが、例えば、リジッドPWB用に紙基材フェノール樹脂、紙基材エポキシ樹脂、合成繊維布基材エポキシ樹脂、ガラス布・紙複合基材エポキシ樹脂、ガラス布・ガラス不織布複合基材エポキシ樹脂及びガラス布基材エポキシ樹脂等を使用し、FPC用にポリエステルフィルムやポリイミドフィルム等を使用することができる。
【0023】
貼り合わせの方法は、リジッドPWB用の場合、ガラス布などの基材に樹脂を含浸させ、樹脂を半硬化状態まで硬化させたプリプレグを用意する。プリプレグと銅箔とを重ね合わせて加熱加圧させることにより行うことができる。
【0024】
本発明に係る銅張積層板は各種のプリント配線板(PWB)に使用可能であり、特に制限されるものではないが、例えば、回路パターンの層数の観点からは片面PWB、両面PWB、多層PWB(3層以上)に適用可能であり、絶縁基板材料の種類の観点からはリジッドPWB、フレキシブルPWB(FPC)、リジッド・フレックスPWBに適用可能である。
【0025】
銅張積層板からプリント配線板を製造する工程は当業者に周知の方法を用いればよく、例えばエッチングレジストを銅張積層板の銅箔面に回路パターンとしての必要部分だけに塗布し、エッチング液を銅箔面に噴射することで不要銅箔を除去して回路パターンを形成し、次いでエッチングレジストを剥離・除去して回路パターンを露出することができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0027】
(実施例)
銅箔基材として、タフピッチ銅を用いた圧延銅箔(JX日鉱日石金属社製)、タフピッチ銅をベースにAgを180ppm添加した圧延銅合金箔(JX日鉱日石金属社製HA)、無酸素銅インゴット(日立電線社製)を熱間圧延で厚さ10mmの板に加工し、その後、冷間圧延と再結晶焼鈍を繰り返し、最後に冷間圧延した圧延銅箔を用いた。
銅箔はそれぞれ400℃で3時間焼鈍し、あらかじめ軟化させたものを用いた。その後、12.7mm×150mmに裁断したものを銅箔基材とした。
銅箔基材の表面に以下の条件でSn層をメッキ処理により形成した。
〔Snメッキ条件〕
1.銅箔前処理(電解脱脂)
液:パクナ溶液(ユケン工業製)40g/L
液温:55℃
電流:0.5A 30秒
材料を負極にして電解脱脂により表面清浄化を行った。
2.銅箔前処理(酸洗)
液:硫酸200g/L
液温:室温
30秒間含浸し、表面清浄化を行った。
3.無電解Snめっき
液:石原化学薬品製無電解めっき580M
液温:60℃
3分間含浸、Snめっきを行った。
続いて、Sn層に対して、125℃×1時間のフュージング処理を行った。
【0028】
(比較例)
比較例1は、銅箔基材として、メタライズドCCLであるエスパーフレックス(住友金属鉱山社製)からポリイミド及びタイコート層を以下の手順で除去して得られた電解銅箔を用いた。
1.ポリイミドエッチング
液:TPE3000(東レエンジニアリング製)
液温:70℃
30分間エスパーフレックスを含浸し、ポリイミド層を溶解除去した。
2.タイコート層除去
液:FLICKER−MH(日本化学産業)
液温:40℃
2分間の含浸により、タイコート層を除去した。
比較例2は、電解銅箔(JX日鉱日石金属社製AM箔)を用いた。
これら銅箔基材の表面に、実施例と同様の条件でSn層をメッキ処理により形成した。
続いて、実施例と同様の条件でSn層をフュージング処理した。
【0029】
(伸び率測定)
実施例及び比較例に係るSn層形成前の銅箔、及び、フュージング処理後のSn層形成銅箔について、それぞれ以下の方法により伸び率の測定を行った。
〔伸び率測定条件〕
引張試験機:AGS−X 5kN(島津製作所製)
引張幅:12.7mm
チャック間距離:100mm
引張速度:5%/分
実施例及び比較例に係る銅箔の構成及び測定結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
(評価結果)
実施例1〜3の銅箔は、いずれも0.35μm厚のSnめっきを施した後、125℃で1時間の熱処理を行ったときの伸び率(B)が1.0%以上であり、Snめっきを施す前の銅箔単体の伸び(A)に対するSnめっき層付き銅箔の伸び(B)の比(B/A)が0.3以上であった。
一方、比較例1及び2の銅箔は、いずれも0.35μm厚のSnめっきを施した後、125℃で1時間の熱処理を行ったときの伸び率(B)が1.0%未満であり、Snめっきを施す前の銅箔単体の伸び(A)に対するSnめっき層付き銅箔の伸び(B)の比(B/A)が0.3未満であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔表面にスズめっき層を施すプリント配線板用銅箔であって、
幅12.7mmの前記銅箔の両面及び両端面に0.35μm厚のSnめっきを施した後、125℃で1時間の熱処理を行ったSnめっき層付き銅箔の伸び率(B)が1.0%以上となることを特徴とするプリント配線板用銅箔。
【請求項2】
前記銅箔が圧延銅箔である請求項1に記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項3】
Snめっきを施す前の前記銅箔単体の伸び(A)に対するSnめっき層を形成して熱処理した後の前記Snめっき層付き銅箔の伸び(B)の比(B/A)が0.3以上である請求項1又は2に記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項4】
前記銅箔が、タフピッチ銅又は無酸素銅で形成されている請求項2又は3に記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の銅箔を備えた銅張積層板。
【請求項6】
請求項5に記載の銅張積層板を材料としたプリント配線板。

【公開番号】特開2012−59778(P2012−59778A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199165(P2010−199165)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】