説明

プレキャストコンクリート版用樹脂組成物およびそれを用いたプレキャストコンクリート版

【課題】耐熱性、耐水性および耐アルカリ性に優れ、コンクリート表面のような強アルカリ性環境下でも長期間にわたって物性および接着性を維持でき、エフロレッセンスを防止できるプレキャストコンクリート版用樹脂組成物の提供。
【解決手段】テトラメチルキシリレンジイソシアネートと、ポリオール化合物とを反応させて得られるウレタンプレポリマー(A)と、ケトンまたはアルデヒドと、アミンとから導かれるイミノ(>C=N−)結合を有するイミン化合物(B)とを含有するプレキャストコンクリート版用樹脂組成物。目地部2に相当する間隔をおいて設置された2個以上の化粧板3と、化粧板3の裏面に塗布された裏面処理材5と、化粧板3の裏面に裏面処理材5を介して一体的に取り付けられたコンクリート7aと鉄筋7bとからなる板状基材7と、目地部2に充填された目地材9とを有する。裏面処理材5および目地材9が、上述の組成物から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート版用樹脂組成物およびそれを用いたプレキャストコンクリート版に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高層ビルの建設現場では、工場であらかじめ生産されたプレキャストコンクリート版(PC版)をクレーンで吊り込んでボルトで固定する、いわゆるカーテンウォール工法が一般的に用いられている。このPC版は、建物の外壁の他、内壁面、床面等にも用いられている。
従来、PC版の製造においては、化粧板の裏面をシリコーン系材料や変成シリコーン・エポキシ系材料で処理したり、目地にこれらの材料を充填することにより、化粧板をコンクリート基材に接着させると共に、化粧板の空隙や目地からの水分の侵入を防いで、エフロレッセンス(白華現象)を防止していた(例えば、特許文献1および2参照。)。
【0003】
【特許文献1】特公昭61−13986号公報
【特許文献2】特開平2−308877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載のシリコーン系材料を用いた場合は、シリコーンオイルが経時的に染み出し、化粧板表面を汚染する問題があった。
一方、特許文献2に記載の変成シリコーン・エポキシ系材料を用いた場合は、熱や水の影響により柔軟性が低下し、異種材料の歪みの吸収、クラック追従、割れ飛散防止等の性能が低下する問題があった。また、一般的にコンクリートは水酸化カルシウム等を含むため強アルカリ性であるが、変成シリコーン・エポキシ系材料は耐アルカリ性が十分でなく、特に、耐アルカリ温水接着性に問題があり、裏面処理材や目地材が剥離した場合にはエフロレッセンスが生ずるおそれがあった。
【0005】
したがって、本発明は、耐熱性、耐水性および耐アルカリ性に優れ、コンクリート表面のような強アルカリ性環境下でも長期間にわたって物性および接着性を維持でき、エフロレッセンスを防止できるプレキャストコンクリート版用樹脂組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、耐熱性、耐水性および耐アルカリ性に優れ、長期間にわたって物性および接着性を維持でき、エフロレッセンスを防止できるプレキャストコンクリート版を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討した結果、テトラメチルキシリレンジイソシアネートと、ポリオール化合物とを反応させて得られるウレタンプレポリマー(A)と、ケトンまたはアルデヒドと、アミンとから導かれるイミノ(>C=N−)結合を有するイミン化合物(B)とを含有すると、耐熱性、耐水性および耐アルカリ性に優れ、コンクリート表面のような強アルカリ性環境下でも長期間にわたって物性および接着性を維持でき、エフロレッセンスを防止できるプレキャストコンクリート版用樹脂組成物となることを知見し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は、下記(1)〜(8)を提供する。
(1)テトラメチルキシリレンジイソシアネートと、ポリオール化合物とを反応させて得られるウレタンプレポリマー(A)と、ケトンまたはアルデヒドと、アミンとから導かれるイミノ(>C=N−)結合を有するイミン化合物(B)とを含有するプレキャストコンクリート版用樹脂組成物。
(2)更に、ウレタン化合物で表面処理された炭酸カルシウム(C)を含有する上記(1)に記載のプレキャストコンクリート版用樹脂組成物。
(3)更に、エポキシ樹脂(D)を含有する上記(1)または(2)に記載のプレキャストコンクリート版用樹脂組成物。
(4)前記ウレタン化合物で表面処理された炭酸カルシウム(C)を、前記ウレタンプレポリマー(A)および前記エポキシ樹脂(D)の合計100質量部に対して1〜500質量部含有する上記(2)または(3)に記載のプレキャストコンクリート版用樹脂組成物。
(5)前記イミン化合物(B)を、前記ウレタンプレポリマー(A)が有するイソシアネート基および前記エポキシ樹脂(D)が有するエポキシ基の合計の数に対する前記イミン化合物(B)から発生し得る活性水素の数の比が0.01〜4になる量含有する上記(1)〜(4)のいずれかに記載のプレキャストコンクリート版用樹脂組成物。
(6)前記エポキシ樹脂(D)を、前記ウレタンプレポリマー(A)100質量部に対して0.5〜100質量部含有する上記(3)〜(5)のいずれかに記載のプレキャストコンクリート版用樹脂組成物。
(7)目地部に相当する間隔をおいて設置された2個以上の化粧板と、前記化粧板の裏面に塗布された裏面処理材と、前記化粧板の裏面に前記裏面処理材を介して一体的に取り付けられたコンクリートからなる板状基材と、前記目地部に充填された目地材とを有するプレキャストコンクリート版であって、
前記裏面処理材が上記(1)〜(6)のいずれかに記載のプレキャストコンクリート版用樹脂組成物であるプレキャストコンクリート版。
(8)前記目地材が上記(1)〜(6)のいずれかに記載のプレキャストコンクリート版用樹脂組成物である上記(7)に記載のプレキャストコンクリート版。
【発明の効果】
【0008】
本発明のプレキャストコンクリート版用樹脂組成物は、耐熱性、耐水性および耐アルカリ性に優れ、コンクリート表面のような強アルカリ性環境下でも長期間にわたって物性および接着性を維持でき、エフロレッセンスを防止できる。
また、本発明のプレキャストコンクリート版は、耐熱性、耐水性および耐アルカリ性に優れ、コンクリート表面のような強アルカリ性環境下でも長期間にわたって物性および接着性を維持でき、エフロレッセンスを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明のプレキャストコンクリート版用樹脂組成物(以下、「本発明の組成物」ともいう。)は、テトラメチルキシリレンジイソシアネートと、ポリオール化合物とを反応させて得られるウレタンプレポリマー(A)と、ケトンまたはアルデヒドと、アミンとから導かれるイミノ(>C=N−)結合を有するイミン化合物(B)とを含有するものである。
【0010】
<ウレタンプレポリマー(A)>
本発明の組成物に用いられるウレタンプレポリマー(A)は、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)と、ポリオール化合物とを反応させて得られる。
上記ポリオール化合物は、炭化水素の複数個の水素をヒドロキシ基で置換したアルコール類である。例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン等のアルキレンオキサイドの少なくとも1種を、分子中に活性水素を2個以上有する活性水素含有化合物に付加重合させた生成物が挙げられる。
【0011】
上記活性水素含有化合物としては、例えば、多価アルコール類、アミン類、アルカノールアミン類、多価フェノール類等が挙げられる。
多価アルコール類としては、具体的には、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、グリセリン、ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
アミン類としては、具体的には、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
アルカノールアミン類としては、具体的には、例えば、エタノールアミン、プロパノールアミン等が挙げられる。
多価フェノール類としては、具体的には、例えば、レゾルシン、ビスフェノール類等が挙げられる。
【0012】
上記ポリオール化合物としては、具体的には、例えば、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシブチレングリコール等のポリエーテル系ポリオール;ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール等のポリオレフィン系ポリオール;アジペート系ポリオール;ラクトン系ポリオール;ヒマシ油等のポリエステル系ポリオールが挙げられる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
上記ポリオール化合物は、重量平均分子量が500〜10000程度であるのが好ましく、2000〜6000程度であるのがより好ましい。
【0014】
上記ウレタンプレポリマー(A)の製造時におけるTMXDIとポリオール化合物とを混合する割合は、ポリオール化合物のヒドロキシ基の数に対するTMXDIのイソシアネート基の数の比(NCO/OH)が、1.2以上であるのが好ましく、1.5〜2.0であるのがより好ましい。
【0015】
上記ウレタンプレポリマー(A)の製造は、通常のウレタンプレポリマーと同様に、通常は、所定量比のイソシアネート基含有化合物およびポリオール化合物を混合し、常圧下、60〜100℃で、加熱撹拌することによって行うことができる。
【0016】
<イミン化合物(B)>
本発明の組成物に用いられるイミン化合物(B)は、ケトンまたはアルデヒドと、アミンとから導かれるイミノ(>C=N−)結合を有する化合物であり、具体的には、ケトンとアミンとから導かれるケチミン、アルデヒドとアミンとから導かれるアルジミンが挙げられる。
【0017】
このようなイミン化合物(B)の合成に用いられるケトンまたはアルデヒドとしては、広く公知のものを使用することができ、例えば、下記式(1)または(2)で表される化合物が挙げられる。中でも、ケトンのカルボニル基の少なくとも一方のα位の炭素、または、上記アルデヒドのカルボニル基のα位の炭素が、第二級炭素または第三級炭素となる下記式(1)で表される化合物であるのが好ましい。
【0018】
【化1】

【0019】
上記式(1)中、R11およびR13は、それぞれ独立に、メチル基、エチル基または水素原子を表し、R12は、メチル基またはエチル基を表し、R14は炭素数1〜6のアルキル基を表す。ただし、R14は、R11またはR12と結合して環を形成することができる。また、R14がR12と結合して環を形成し、さらに、カルボニル基のα位の炭素原子のうち、該環に含まれる炭素原子が、R12またはR14と二重結合で結合する場合、R13は存在しない。なお、R14が、R11またはR12と結合して環を形成する場合、形成されてなる環状炭化水素としては、例えば、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素が挙げられる。
上記式(2)中、R15およびR16は、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基を表し、R15とR16は、お互いに結合して環を形成することができる。なお、R15とR16が結合して環を形成する場合、形成されてなる環状炭化水素としては、例えば、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素が挙げられる。
【0020】
上記式(1)で表される化合物は、上述したように、イミノ化された際にイミノ結合を構成する炭素原子(以下、「イミン炭素原子」ともいう。)のα位の炭素原子の一方が、2個または3個の置換基を有しており、いわば分岐炭素原子となっている。上記式(1)で表される化合物は、このようにイミン炭素原子が、嵩高い基と比較的嵩の小さな基とを有するため、硬化性と可使時間とがいずれも好適範囲になる。
【0021】
また、上記式(2)で表される化合物は、イミン炭素原子のα位の炭素原子の両方が、いずれも分岐炭素原子ではないが、いずれも炭素原子数1〜6のアルキル基と結合している。また、当該炭素原子数1〜6のアルキル基2個は、お互いに結合して環を形成することができる。上記式(2)で表される化合物は、このようにイミン炭素原子が2個の炭素原子数2〜7のアルキル基を有するため、硬化性と可使時間とがいずれも好適範囲になる。
【0022】
上記式(1)で表される化合物としては、具体的には、例えば、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチル−t−ブチルケトン(MTBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、ピバルアルデヒド(トリメチルアセトアルデヒド)、カルボニル基に分岐炭素が結合したイソブチルアルデヒド((CH3)2CHCHO)、メチルシクロヘキサノン、エチルシクロヘキサノン、メチルシクロヘキシルケトン、アセトフェノン、プロピオフェノン等が挙げられ、これらを単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのうち、MTBK、MIPKが好ましい。
【0023】
また、上記式(2)で表される化合物としては、具体的には、例えば、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジブチルケトン、エチルプロピルケトン、エチルブチルケトン、ブチルプロピルケトン、エチルイソプロピルケトン、エチルアミルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられ、これらを単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのうち、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジブチルケトンが好ましい。
【0024】
一方、上記イミン化合物(B)の合成の原料として用いることができるアミン化合物としては、広く公知のものを使用することができ、分子内にアミノ基を2個以上有するポリアミンであるのが好ましく、脂肪族ポリアミンおよび/または脂環式のポリアミンであるのがより好ましい。また、反応調整が容易という観点から下記式(3)で表されるポリアミンであるのが更に好ましい。
【0025】
【化2】


(式中、nは、2〜6の整数を表す。)
【0026】
アミン化合物としては、具体的には、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、イミノビスプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、1,5−ジアミノ−2−メチルペンタン(MPMD、デュポン・ジャパン社製)のような脂肪族ポリアミン;メタフェニレンジアミン、オルトフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン(MXDA)、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、ジアミノジエチルジフェニルメタンのような芳香族ポリアミン;N−アミノエチルピペラジン;3−ブトキシイソプロピルアミンのような主鎖にエーテル結合を有するモノアミン;サンテクノケミカル社製のジェファーミンEDR148に代表されるポリエーテル骨格のジアミン;イソホロンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン(1,3BAC、三菱ガス化学社製)、1−シクロヘキシルアミノ−3−アミノプロパン、3−アミノメチル−3,3,5−トリメチル−シクロヘキシルアミンのような脂環式ポリアミン;ノルボルナンジアミン(NBDA、三井化学社製)のようなノルボルナン骨格のジアミン;ポリアミドの分子末端にアミノ基を有するポリアミドアミン;2,5−ジメチル−2,5−ヘキサメチレンジアミン、メンセンジアミン、1,4−ビス(2−アミノ−2−メチルプロピル)ピペラジン、ポリプロピレングリコール(PPG)を骨格に持つサンテクノケミカル社製のジェファーミンD230、ジェファーミンD400;等が挙げられ、これらを単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0027】
これらのうち、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン(1,3BAC)、ノルボルナンジアミン(NBDA)、m−キシリレンジアミン(MXDA)、ジェファーミンEDR148(商品名)、ポリアミドアミンであるのが好ましい。
【0028】
上記イミン化合物(B)は、上述したように、ケトンまたはアルデヒドと、アミンとから導かれる化合物であり、上記で例示した各種ケトンまたはアルデヒドと、各種アミンとの組み合わせによるものが挙げられる。
具体的には、MIBKとプロピレンジアミンとから得られるもの;MIPKおよび/またはMTBKとジェファーミンEDR148とから得られるもの;MIPKおよび/またはMTBKと1,3BACとから得られるもの;MIPKおよび/またはMTBKとNBDAとから得られるもの;MIPKおよび/またはMTBKとMXDAとから得られるもの;MIPKおよび/またはMTBKとポリアミドアミンとから得られるもの;ジエチルケトンとMXDAとから得られるもの;等が好適に例示される。
これらのうち、MIPKまたはMTBKと1,3BACとから得られるもの;MIPKまたはMTBKとNBDAとから得られるもの;MIPKまたはMTBKとMXDAとから得られるものが、得られる組成物の貯蔵安定性および硬化性が優れるため好ましい。
【0029】
また、アルデヒドとポリアミンとの組み合わせから得られるイミン化合物(B)としては、具体的には、ピバルアルデヒド、イソブチルアルデヒドおよびシクロヘキサンカルボクスアルデヒドからなる群より選択される少なくとも1種のアルデヒドと、NBDA、1,3BAC、ジェファーミンEDR148およびMXDAからなる群より選択される少なくとも1種のアミンとの組み合わせから得られるものが好適に例示される。
【0030】
このようなイミン化合物(B)は、ケトンまたはアルデヒドと、アミンとを、無溶媒下、またはベンゼン、トルエン、キシレン等の溶媒存在下、加熱環流させ、脱離してくる水を共沸により除きながら反応させることにより得ることができる。
【0031】
イミン化合物(B)の含有量は、ウレタンプレポリマー(A)が有するイソシアネート基および後述するエポキシ樹脂(D)が有するエポキシ基の合計の数に対する(エポキシ樹脂(D)を含有しない場合はウレタンプレポリマー(A)が有するイソシアネート基の数に対する)、イミン化合物(B)から発生し得る活性水素の数の比が0.01〜4になる量であるのが好ましく、0.5〜2.0になる量であるのがより好ましく、0.8〜1.2になる量であるのが更に好ましい。イミン化合物(B)の含有量がこの範囲であれば、得られる本発明の組成物の接着性がより向上する。
【0032】
<ウレタン化合物で表面処理された炭酸カルシウム(C)>
本発明の組成物は、更に、ウレタン化合物で表面処理された炭酸カルシウム(C)(以下、「炭酸カルシウム(C)」という。)を含有することが好ましい。上記炭酸カルシウム(C)は、特に限定されず、公知のウレタン化合物で表面処理された炭酸カルシウムを用いることができる。
【0033】
炭酸カルシウム(C)の表面処理に用いられるウレタン化合物は、ウレタン結合(−NHCOO−)を分子内に少なくとも1個有する化合物であれば特に限定されず、イソシアネート化合物とポリオール化合物との反応により得られるもの、イソシアネート化合物とカルボン酸との反応により得られるもの、およびウレタン化合物とイソシアネート化合物との反応により得られるアロハネート等が挙げられる。
上記イソシアネート化合物としては、芳香族系、脂肪族系、脂環系、またはこれらの2種以上を混合したものを用いることができる。
上記ポリオール化合物としては、例えば、上述したウレタンプレポリマーの製造に用いられるポリオールを用いることができる。
【0034】
また、上記ウレタン化合物は、下記式(4)で表される化合物(以下、式(4)のウレタン化合物という)であることが好ましい。
【0035】
【化3】

【0036】
式中、Xはイソシアネート化合物からイソシアネート基を除いた残基、またはアミン化合物からアミノ基を除いた残基を表す。mは1〜4の整数を表し、R′は炭化水素基を表し、mが2、3または4のとき、複数のR′は同一であっても異なっていてもよい。また、R′のうち少なくとも1つは炭素数8以上の炭化水素基を表す。
【0037】
上記式(4)のウレタン化合物の合成方法としては、具体的には、例えば、イソシアネート化合物(X−(NCO))とアルコール(R′OH)とを反応させる方法、イソシアネート化合物とカルボン酸とを反応させる方法、塩化カルボニル(X−(OCOCl))とアミンとを反応させる方法等を用いることができる。
【0038】
上記式(4)のウレタン化合物の合成に用いられるイソシアネート化合物としては、分子内にイソシアネート基を1〜4個有する化合物で、ウレタン樹脂等の合成に利用される公知のイソシアネート化合物がすべて利用可能である。
【0039】
上記イソシアネート化合物としては、モノイソシアネート化合物、ジイソシアネート化合物、トリイソシアネート化合物、テトライソシアネート化合物等が以下に例示される。
モノイソシアネート化合物としては、具体的には、例えば、フェニルイソシアネート、ステアリルイソシアネート等が挙げられる。
ジイソシアネート化合物としては、具体的には、例えば、パラフェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、4、4′−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート;テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタデシルジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート;イソホロンジイソシアネート等の脂環式イソシアネート;キシリレンジイソシアネート等のアリール脂肪族イソシアネート;上記各イソシアネートの変性イソシアネート等が挙げられる。
【0040】
トリイソシアネート化合物としては、具体的には、例えば、上記ジイソシアネート化合物等と、グリセリン、ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類との反応生成物、またはテトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物がイソシアヌレート環を作ることにより得られる1分子に3個のイソシアネート基を持つ化合物等が挙げられる。
テトライソシアネート化合物としては、具体的には、例えば、上記ジイソシアネート化合物等と、ジアルコールとの反応により得られるジウレタンと、さらに2分子のジイソシアネートとの反応により得られる1分子に4個のイソシアネート基を持つ化合物等が挙げられる。
これらのイソシアネート化合物は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0041】
上記式(4)のウレタン化合物の合成に用いられるアルコール(R′OH)としては、具体的には、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、ベンジルアルコール、アリルアルコール等の低級アルコールの他、n−オクチルアルコール、2−エチルヘキサノール、ノニルアルコール、n−デシルアルコール、ウンデシルアルコール、n−トリデシルアルコール、ミスチルアルコール、n−ヘキサデシルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコールが挙げられる。
上記イソシアネート化合物とアルコールとの組み合わせとしては、特に、トリレンジイソシアネートとステアリルアルコールとの組み合わせが好ましい。
【0042】
上記式(4)のウレタン化合物の合成に用いられるカルボン酸としては、具体的には、例えば、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の脂肪酸、樹脂酸等が挙げられる。
上述のイソシアネート化合物とカルボン酸の組み合わせとしては、特に、トリレンジイソシアネートとステアリン酸との組み合わせが好ましい。
【0043】
また、上記式(4)のウレタン化合物の合成に用いられる塩化カルボニル(X−(OCOCl))としては、具体的には、例えば、クロロ炭酸メチル、クロロ炭酸エチル、クロロ炭酸プロピル、クロロ炭酸ブチル、クロロ炭酸ベンジル、クロロ炭酸オクチル、クロロ炭酸ノニル、クロロ炭酸デシル、クロロ炭酸ウンデシル、クロロ炭酸オクダデシル、クロロ炭酸ベンジル等が挙げられる。
【0044】
上記式(4)のウレタン化合物の合成に用いられるアミンとしては、具体的には、例えば、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン等が挙げられる。
上述の塩化カルボニルとアミンの組み合わせとしては、特に、m−フェニレンジアミンとクロロ炭酸オクダデシルとの組み合わせが好ましい。
【0045】
上記式(4)中のR′は、炭化水素基であるが、R′の少なくとも1つは、炭素数8以上の炭化水素基である必要がある。1分子中に炭素数8以上の炭化水素基が存在すると、上記式(4)のウレタン化合物を配合した組成物の貯蔵安定性がよくなるため好ましい。
【0046】
また、上記式(4)のウレタン化合物を含め、本発明に用いるウレタン化合物は、融点が50℃以上であることが、一液型湿気硬化性樹脂組成物の製造時に、ウレタン化合物が溶融しないという理由から好ましい。
【0047】
上記式(4)のウレタン化合物を含め、本発明に用いるウレタン化合物の使用量は、特に制限はないが、炭酸カルシウムに対して、ウレタン化合物を1〜20質量%、好ましくは2〜10質量%である。ウレタン化合物の使用量がこの範囲であれば、表面処理の効果が十分得られ、硬化後の組成物の物性が低下しないという理由から好ましい。
【0048】
炭酸カルシウム(C)の表面処理は、上記ウレタン化合物に加えて、カルボン酸、スルホン酸、またはこれらの金属塩を併用して行ってもよい。カルボン酸、スルホン酸、またはこれらの金属塩と、本発明に用いられる上記ウレタン化合物とを、炭酸カルシウム(C)の表面処理に併用することにより、炭酸カルシウム(C)を含有する本発明の組成物の貯蔵安定性が向上するため好ましい。
【0049】
カルボン酸、スルホン酸、またはこれらの金属塩(以下、脂肪酸等ともいう)としては、一般に炭酸カルシウムの処理剤として使用されるものがすべて利用可能であり、具体的には、例えば、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の脂肪酸、樹脂酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等のスルホン酸、またはこれらの金属塩等が挙げられる。
上記金属塩中の金属としては、具体的には、例えば、カリウム、ナトリウム、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム等が挙げられる。これらのうち、特に脂肪酸の金属塩を用いることが好ましい。
【0050】
カルボン酸、スルホン酸、またはこれらの金属塩を用いた炭酸カルシウムの表面処理の方法としては、特に限定されず、例えば、水スラリー中、含水ケーキ中で炭酸カルシウムと、カルボン酸、スルホン酸、またはこれらの金属塩とをミキサー等で激しく撹拌する方法等が挙げられる。
カルボン酸、スルホン酸、またはこれらの金属塩の使用量は、特に制限はないが、炭酸カルシウムに対して、0.5〜10質量%、好ましくは1〜8質量%である。カルボン酸、スルホン酸、またはこれらの金属塩の使用量がこの範囲であると、表面処理の効果が十分得られ、一液型湿気硬化性樹脂として十分な貯蔵安定性が得られるため好ましい。
【0051】
炭酸カルシウム(C)を得るための未処理の炭酸カルシウムとしては、BET法による比表面積が3m2/g以上のものを用いる。未処理の炭酸カルシウムとして、沈降炭酸カルシウムを用いることが、炭酸カルシウム(C)のチクソ性が優れたものとなる理由から好ましい。
【0052】
また、炭酸カルシウムを表面処理するために添加する上記ウレタン化合物、さらに所望により添加する脂肪酸等の添加する方法は特に限定されず、具体的には、例えば、炭酸カルシウム、またはすでに脂肪酸等で処理された炭酸カルシウムと、本発明に用いられるウレタン化合物とを混合し、該ウレタン化合物の融点以上に加熱する方法(乾式処理);
炭酸カルシウム、またはすでに脂肪酸等で処理された炭酸カルシウムの水スラリーに、本発明に用いられるウレタン化合物を混合し、該ウレタン化合物の融点以上に加熱し、脱水、乾燥、粉砕する方法(湿式処理);
通常の沈降炭酸カルシウムを製造する際に、好ましくは粒径が100μm以下の本発明に用いられるウレタン化合物を添加し、該ウレタン化合物の融点以上の温度で乾燥する方法(脂肪酸等は、この工程中、任意の場所で添加することができる)等が挙げられる。
【0053】
炭酸カルシウム(C)の含有量は、ウレタンプレポリマー(A)および後述するエポキシ樹脂(D)の合計100質量部に対して(エポキシ樹脂(D)を含有しない場合はウレタンプレポリマー(A)100質量部に対して)、1〜500質量部であるのが好ましく、10〜300質量部であるのがより好ましく、50〜200質量部であるのが更に好ましい。この範囲であると、硬化物性に優れる。
【0054】
本発明の組成物は、炭酸カルシウム(C)を含有するため貯蔵安定性や硬化物性に優れる。
【0055】
<エポキシ樹脂(D)>
本発明の組成物は、更にエポキシ樹脂(D)を含有するのが好ましい。エポキシ樹脂(D)を含有することにより、接着性がより向上する。
本発明の組成物に用いられるエポキシ樹脂(D)は、少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物である。具体的には、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ヘキサヒドロビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールA、ピロカテコール、レゾルシノール、クレゾールノボラック、テトラブロモビスフェノールA、トリヒドロキシビフェニル、ビスレゾルシノール、ビスフェノールヘキサフルオロアセトン、テトラメチルビスフェノールF、ビキシレノール、ジヒドロキシナフタレン等の多価フェノールとエピクロルヒドリンとの反応によって得られるグリシジルエーテル型;グリセリン、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコールとエピクロルヒドリンとの反応によって得られるポリグリシジルエーテル型;p−オキシ安息香酸、β−オキシナフトエ酸等のヒドロキシカルボン酸とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるグリシジルエーテルエステル型;フタル酸、メチルフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラハイドロフタル酸、ヘキサハイドロフタル酸、エンドメチレンテトラハイドロフタル酸、エンドメチレンヘキサハイドロフタル酸、トリメリット酸、重合脂肪酸等のポリカルボン酸から誘導されるポリグリシジルエステル型;アミノフェノール、アミノアルキルフェノール等から誘導されるグリシジルアミノグリシジルエーテル型;アミノ安息香酸から誘導されるグリシジルアミノグリシジルエステル型;アニリン、トルイジン、トリブロムアニリン、キシリレンジアミン、ジアミノシクロヘキサン、ビスアミノメチルシクロヘキサン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン等から誘導されるグリシジルアミン型;さらにエポキシ化ポリオレフィン、グリシジルヒダントイン、グリシジルアルキルヒダントイン、トリグリシジルシアヌレート等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
また、上記エポキシ樹脂(D)は、少なくとも1つの芳香環を有するのが、硬化物の物性、耐熱性および耐水性に優れる点から好ましい。特に、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型エポキシ化合物が、入手の容易さおよび硬化物の性質(性能)のバランスが良好であることから好ましい。
【0057】
エポキシ樹脂(D)の含有量は、ウレタンプレポリマー(A)100質量部に対して0.5〜100質量部であるのが好ましく、1〜50質量部であるのがより好ましく、5〜10質量部であるのが更に好ましい。エポキシ樹脂(D)の含有量がこの範囲であると、耐熱性、耐水性および耐アルカリ性を高いレベルで維持できる。
【0058】
<添加剤>
本発明の組成物は、必要に応じて、本発明の目的を損わない範囲で、充填剤、反応遅延剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、可塑剤、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、溶剤、界面活性剤(レベリング剤を含む)、分散剤、脱水剤、接着付与剤、帯電防止剤等の各種添加剤等を含有することができる。
【0059】
可塑剤としては、具体的には、例えば、ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP);アジピン酸ジオクチル、コハク酸イソデシル;ジエチレングリコールジベンゾエート、ペンタエリスリトールエステル;オレイン酸ブチル、アセチルリシノール酸メチル;リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル;アジピン酸プロピレングリコールポリエステル、アジピン酸ブチレングリコールポリエステル等が挙げられる。
【0060】
接着付与剤としては、具体的には、例えば、テルペン樹脂、フェノール樹脂、テルペン−フェノール樹脂、ロジン樹脂、キシレン樹脂;エポキシシラン、イソシアネートシラン等のシランカップリング剤等が挙げられる。
【0061】
脱水剤としては、具体的には、例えば、オルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル、オルト酢酸メチル、オルト酢酸エチル、オルトプロピオン酸トリメチル、オルトプロピオン酸トリエチル、オルトイソプロピオン酸トリメチル、オルトイソプロピオン酸トリエチル、オルト酪酸トリメチル、オルト酪酸トリエチル、オルトイソ酪酸トリメチル、オルトイソ酪酸トリエチル等の加水分解性エステル化合物;または、ジメトキシメタン、1,1−ジメトキシエタン、1,1−ジメトキシプロパン、1,1−ジメトキシブタン;または、エチルシリケ−ト(テトラメトキシシラン)、メチルシリケ−ト(テトラメトキシシラン)、メチルトリメトキシシラン;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルシラン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、脱水効果の点から、ビニルシランが好ましい。
【0062】
本発明の組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、反応容器に上記の各必須成分と任意成分とを入れ、減圧下で混合ミキサー等のかくはん機を用いて十分に混練する方法を用いることができる。
【0063】
本発明の組成物は1液湿気硬化型とすることができ、上述したように、イミン化合物(B)が湿気により加水分解してアミノ基を生じるため、硬化性に優れる。
また、本発明の組成物は、耐熱性、耐水性および耐アルカリ性に優れ、コンクリート表面のような強アルカリ性環境下でも長期間にわたって物性および接着性を維持できる。その結果、水分の侵入を長期間にわたって抑制できるのでエフロレッセンスを防止できる。
【0064】
以下、本発明のプレキャストコンクリート版について詳細に説明する。
本発明のプレキャストコンクリート版(以下、「本発明のPC版」という。)は、目地部に相当する間隔をおいて設置された2個以上の化粧板と、上記化粧板の裏面に塗布された裏面処理材と、上記化粧板の裏面に上記裏面処理材を介して一体的に取り付けられたコンクリートからなる板状基材と、上記目地部に充填された目地材とを有するプレキャストコンクリート版であって、上記裏面処理材が上述した本発明のプレキャストコンクリート版用樹脂組成物であるプレキャストコンクリート版である。
なお、本発明のPC版において「裏面」とは、本発明のPC版における板状基材側(図2下側)をいい、「表面」とは本発明のPC版における化粧板側(図2上側)をいう。
【0065】
本発明のPC版は、上記目地材が、本発明のプレキャストコンクリート版用樹脂組成物であるのが好ましい。本発明のPC板は、少なくとも上記裏面処理材が本発明の組成物であればよいが、更に、目地材も本発明の組成物である場合、目地材と裏面処理材とが同じ材料で形成されるため、材料の歪みが生じた場合にも目地材と裏面処理材との境界に隙間を生じにくくなるので好ましい。また、上記裏面処理材および上記目地材が本発明の組成物から構成されることにより、耐熱性、耐水性および耐アルカリ性に優れ、長期間にわたって物性および接着性を維持できる。その結果、水分の侵入を長期間にわたって抑制できるのでエフロレッセンスを防止できる。
【0066】
以下、本発明のPC版の好適な実施態様の一例を図面を用いて具体的に説明する。
図1は、本発明のPC版の好適な実施態様の一例の斜視図である。図2は、図1中のA−A′の拡大断面図である。
本発明のPC版1は、目地部2に相当する間隔をおいて設置された2個以上の化粧板3と、化粧板3の裏面に塗布された裏面処理材5と、化粧板3の裏面に裏面処理材5を介して一体的に取り付けられたコンクリート7aと鉄筋7bとからなる板状基材7と、目地部2に充填された目地材9とを有するプレキャストコンクリート版であって、裏面処理材5および目地材9が、上述した本発明の組成物から構成されている。
【0067】
なお、板状基材7は、鉄筋7bを有さずコンクリート7aのみから構成されていてもよいが、強度に優れる点から鉄筋7bを埋設したコンクリート7aから構成されるのが好ましい。
また、目地材9は、本発明の組成物以外の組成物から構成されていてもよい。本発明の組成物以外の従来の目地材としては、例えば、弾性エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、シリコーンゴム(SR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、変成シリコーン樹脂等が挙げられる。
更に、目地材9の表面側の凹部にシーリング材を充填することができる。このシーリング材としては、例えば、ウレタン樹脂、変成シリコーン樹脂、ポリサルファイドゴム、ポリイソブチレンゴム等が挙げられる。
【0068】
本発明のPC版に用いられる化粧板3の数は、2個以上であれば特に限定されない。化粧板3の材料は、通常PC版に用いられるものであれば特に限定されず、石材、陶板等が挙げられる。
【0069】
また、本発明のPC版における目地部2の間隔、コンクリート7aおよび鉄筋7bやPC版の大きさ等は、通常のPC版と同様でよく、特に限定されない。
【0070】
次に、本発明のPC版の製造方法の一例を図3を用いて具体的に説明する。
図3(a)〜(e)は、それぞれ本発明のPC版の製造工程における一部分の拡大断面図である。まず、型枠Kに所定枚数の化粧板3をその表面(図示下面)が型枠Kに接するよう目地部2に相当する間隔をおいて載置する(図3(a)参照)。
目地部2内において、型枠Kに接するように発泡ポリエチレン製のバックアップ材11を挿入すると共に、各化粧板3の裏面(図示上面)に裏面処理材5を塗布する(図3(b)参照)。なお、裏面処理材5は、予め、化粧板3の裏面に塗布しておいてもよい。
次に、目地部2の内部に目地深さの略中間部に達するよう目地材9を充填する(図3(c)参照)。
次に、裏面処理材5および目地材9を覆うようにコンクリート7aを打ち込み、コンクリート7aの肉厚が板状基材7の所定寸法の半分程度に達したところで、鉄筋7bを適当な間隔をおいて設置し、更に、肉厚が板状基材の所定寸法に達するまでコンクリート7aを打ち込み、この状態で打ち込んだコンクリート7aが固まるまで養生する(図3(d)参照)。
養生後、型枠Kから取り外すと共に、各目地部2に挿入したバックアップ材を取り出し、本発明のプレキャストコンクリート版を得ることができる(図3(e)参照)。
更に、バックアップ材を取り出してできた凹部にシーリング材を充填してもよい(図示せず)。
【0071】
上述したように、本発明のPC版は、少なくとも上記裏面処理材が本発明の組成物から構成されるので、耐熱性、耐水性および耐アルカリ性に優れ、長期間にわたって物性および接着性を維持でき、エフロレッセンスを防止できる。更に、上記目地材が本発明の組成物から構成される場合は、目地材と裏面処理材とが同じ材料で形成されるため、材料の歪みが生じた場合にも目地材と裏面処理材との境界に隙間を生じにくくなる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を示して、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜6および比較例1〜2)
下記第1表の各成分を、第1表に示す組成(質量部)で、撹拌機を用いて混合し、第1表に示される各組成物を得た。なお、第1表中、イミン化合物の量は、TMXDIプレポリマーが有するイソシアネート基およびエポキシ樹脂が有するエポキシ基の合計に対するイミン化合物から発生し得る活性水素の当量比を示す。
得られた各組成物を用いて、下記の方法により、粘度、タックフリータイム(表面硬化性)、ダンベル物性、接着性について評価した。
結果を第2表に示す。
【0073】
<粘度>
実施例1〜3の組成物について、得られた直後の各組成物をBS型粘度計により、7号ローターを用いて、23℃、1rpmで回転させ、粘度を測定した。
また、実施例4〜6および比較例1〜2の組成物について、得られた直後の各組成物をBH型粘度計により、6号ローターを用いて、23℃、2rpmで回転させ、粘度を測定した。
【0074】
<タックフリータイム>
得られた直後の各組成物を23℃、50%RHの条件で硬化させ、JIS A1439−2004に準じて、タックフリータイムを測定した。
【0075】
<ダンベル物性>
(初期)
JIS K6251−2004に準じて、各組成物を23℃、50%RHで336時間硬化させた後、ダンベル状(ダンベル状5号形)に切り出し試験片とした。この試験片を用いて、破断強度(TB)および破断伸び(EB)を測定した。
(耐熱性)
上記と同様にして作製した試験片を更に80℃で168時間放置したものを用いて、破断強度(TB)および破断伸び(EB)を測定した。
(耐アルカリ温水性)
初期物性と同様にして作製した試験片を更に60℃の飽和水酸化カルシウム水溶液に168時間浸漬したものを用いて、破断強度(TB)および破断伸び(EB)を測定した。
【0076】
<接着性>
(初期)
JIS A1439−2004に準じて、石板に得られた各組成物を塗布して23℃、50%RHで672時間硬化させて、H型試験体を作製した。なお、石板としては御影石を用いた。
得られた試験体を用いて、100mm/分の速度で引張り、破壊時の引張応力(TB)を測定した。また、破壊状態を目視で観察し、組成物の硬化物の全体にわたって凝集破壊していたものを「CF」とし、組成物の硬化物の一部が界面剥離したものを「AF」として界面剥離した面積の割合を百分率(%)で示した。
(耐熱性)
上記と同様にして作製した試験体を更に80℃で168時間放置したものを用いて、上記と同様の方法で、破壊時の引張応力(TB)を測定し、破壊状態を目視で観察した。
(耐アルカリ温水性)
初期物性と同様にして作製した試験片を更に60℃の飽和水酸化カルシウム水溶液に168時間浸漬したものを用いて、上記と同様の方法で、破壊時の引張応力(TB)を測定し、破壊状態を目視で観察した。
【0077】
<エフロレッセンス>
また、上述した図3に示す方法と同様にして、裏面処理材および目地材に得られた各組成物を用いたPC版を作製した。
得られた各PC版を屋外曝露で4ヶ月間放置した後、化粧板を目視で観察し、エフロレッセンスの有無を評価した。エフロレッセンスが無かったものを「○」とした。
結果を第2表に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
第1表中の各成分は、下記のとおりである。
・TMXDIプレポリマー:エクセノール5030(旭硝子社製)とエクセノール3030(旭硝子社製)とを質量比3/1で混合し、TMXDI(日本サイテック社製)をNCO/OH=2.0となる量添加し、撹拌混合して得られたウレタンプレポリマー(NCO%=2.3%)
・変成シリコーン系樹脂:MSP−S203、カネカ社製
・エポキシ樹脂(ビスフェノールA型):YD128、東都化成社製
・脂肪酸エステル処理炭酸カルシウム:シーレッツ200、丸尾カルシウム社製
・ウレタン化合物処理炭酸カルシウム:ビスコライトMBP、白石工業社製
・スズ触媒:No.918、三共有機合成社製
・イミン化合物:HOK−01、大都産業社製
・可塑剤:DINP、ジェイ・プラス社製
・脱水剤(ビニルシラン):A171、日本ユニカー社製
・接着付与剤(エポキシシラン):A187、日本ユニカー社製
【0081】
第2表に示す結果から明らかなように、比較例1および2の組成物は、熱老化後およびアルカリ温水浸漬後の破断伸び、ならびにアルカリ温水浸漬後の接着性が劣っていた。
一方、実施例1〜6の組成物は、比較例1および2の組成物に比べて、破断伸びが極めて高く、熱老化後およびアルカリ温水浸漬後においても物性および接着性を維持していた。更に、実施例1〜6のPC版は、エフロレッセンスを防止できた。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は、本発明のPC版の好適な実施態様の一例の斜視図である。
【図2】図2は、図1中のA−A′の拡大断面図である。
【図3】図3(a)〜(e)は、それぞれ本発明のPC版の製造工程における一部分の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0083】
1 本発明のPC版
2 目地部
3 化粧板
5 裏面処理材
7 板状基材
7a コンクリート
7b 鉄筋
9 目地材
11 バックアップ材
K 型枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラメチルキシリレンジイソシアネートと、ポリオール化合物とを反応させて得られるウレタンプレポリマー(A)と、ケトンまたはアルデヒドと、アミンとから導かれるイミノ(>C=N−)結合を有するイミン化合物(B)とを含有するプレキャストコンクリート版用樹脂組成物。
【請求項2】
更に、ウレタン化合物で表面処理された炭酸カルシウム(C)を含有する請求項1に記載のプレキャストコンクリート版用樹脂組成物。
【請求項3】
更に、エポキシ樹脂(D)を含有する請求項1または2に記載のプレキャストコンクリート版用樹脂組成物。
【請求項4】
前記ウレタン化合物で表面処理された炭酸カルシウム(C)を、前記ウレタンプレポリマー(A)および前記エポキシ樹脂(D)の合計100質量部に対して1〜500質量部含有する請求項2または3に記載のプレキャストコンクリート版用樹脂組成物。
【請求項5】
前記イミン化合物(B)を、前記ウレタンプレポリマー(A)が有するイソシアネート基および前記エポキシ樹脂(D)が有するエポキシ基の合計の数に対する前記イミン化合物(B)から発生し得る活性水素の数の比が0.01〜4になる量含有する請求項1〜4のいずれかに記載のプレキャストコンクリート版用樹脂組成物。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂(D)を、前記ウレタンプレポリマー(A)100質量部に対して0.5〜100質量部含有する請求項3〜5のいずれかに記載のプレキャストコンクリート版用樹脂組成物。
【請求項7】
目地部に相当する間隔をおいて設置された2個以上の化粧板と、前記化粧板の裏面に塗布された裏面処理材と、前記化粧板の裏面に前記裏面処理材を介して一体的に取り付けられたコンクリートからなる板状基材と、前記目地部に充填された目地材とを有するプレキャストコンクリート版であって、
前記裏面処理材が請求項1〜6のいずれかに記載のプレキャストコンクリート版用樹脂組成物であるプレキャストコンクリート版。
【請求項8】
前記目地材が請求項1〜6のいずれかに記載のプレキャストコンクリート版用樹脂組成物である請求項7に記載のプレキャストコンクリート版。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−130799(P2007−130799A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323646(P2005−323646)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【出願人】(595133596)
【Fターム(参考)】