説明

プロスタグランジンE2受容体、EP4アゴニストおよびそれを含有する組成物

【課題】天然の供給源から簡便に調製することが可能なEP4受容体アゴニストを提供すること、および新規のEP4受容体アゴニストを提供すること、本発明の課題とする。
【解決手段】イカリン脂質抽出物、カツオ心筋リン脂質抽出物およびアミエビリン脂質抽出物が、EP4受容体アゴニストを含有すること、そして、14−ヒドロキシドコサヘキサエン酸がEP4受容体アゴニスト活性を有することを見出すことによって、上記課題が達成された。また、本発明は、イカリン脂質抽出物、カツオ心筋リン脂質抽出物もしくはアミエビリン脂質抽出物、または、14−ヒドロキシドコサヘキサエン酸を含有する、EP4受容体関連疾患の治療および/または予防のための薬学的組成物および飲食用組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イカリン脂質、カツオ心筋リン脂質またはアミエビリン脂質抽出物、あるいは14−ヒドロキシドコサヘキサエン酸を含有する、プロスタグランジンE2(PGE2)受容体アゴニストに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロスタグランジンとは、生理活性物質の一種でありアラキドン酸から生合成されるエイコサノイド(プロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエン)の1つであり、様々な強い生理活性を持つ。プロスタグランジンは、五員環部分に結合する酸素と二重結合の違いに応じて、A〜Jの各群が区別される。また、側鎖の二重結合の数によって1〜3群があり、両者を組み合わせて、PGE1、PGE2、PGH2などというように、分類表記される。
【0003】
プロスタグランジンの中でもPGE2は、発熱作用、排卵・受精促進作用、血圧降下作用、骨吸収抑制作用、発痛作用、免疫抑制作用、胃酸分泌抑制作用、腸管ぜん動促進作用、血管透過性亢進作用等を有している(非特許文献1)。
【0004】
近年、PGE2受容体にはそれぞれの役割の異なったサブタイプが存在することが知られている。現時点で知られているサブタイプは、4つありそれぞれEP1、EP2、EP3、EP4である(非特許文献2)。
【0005】
これらのうち、EP4受容体アゴニストは潰瘍性大腸炎、腎炎、骨粗鬆症、肺動脈閉鎖症の予防および治療に有用であると考えられている(潰瘍性大腸炎について、非特許文献3〜4および特許文献1、腎炎について非特許文献5および特許文献2〜3、骨粗鬆症について、特許文献4、肺動脈閉鎖症について、非特許文献6)。
【0006】
EP4アゴニストならびにEP4アゴニストを含有する潰瘍性大腸炎、腎炎、骨粗鬆症、肺動脈閉鎖症の予防・治療薬およびその有効成分を供給するには、多大なコストと労力を要する。そのため、EP4アゴニストならびにEP4アゴニストを含有する潰瘍性大腸炎、腎炎、骨粗鬆症、肺動脈閉鎖症の予防・治療薬のおよび有効成分を大量かつ安価に供給するための供給源を見出すことが、潰瘍性大腸炎、腎炎、骨粗鬆症、肺動脈閉鎖症の予防・治療薬、あるいは潰瘍性大腸炎、腎炎、骨粗鬆症、肺動脈閉鎖症に対する薬理作用を有する飲食用組成物の提供のために求められている。また、新規のEP4アゴニストを見出すことも求められている。
【0007】
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【特許文献1】特開2005-104836号公報
【特許文献2】特開2001-233792号公報
【特許文献3】特開2006-182788号公報
【特許文献4】特開2007-197467号公報
【非特許文献1】脂質生物学がわかる、羊土社、p65,92
【非特許文献2】実験医学、ダイナミックに新展開する脂質研究、羊土社、p99
【非特許文献3】Kenji Kabashima et al. The prostaglandin receptor EP4 suppressescolitis, mucosal damage and CD4 cell activation in the gut, J Clin Invest109:883-893 (2002)
【非特許文献4】M. Nitta et al. Expression of the EP4 Prostaglandin E2 ReceptorSubtype with Rat Dextran Sodium Sulphate Colitis, Colitis Suppression by aSelective Agonist, ONO-AE1-329, Scand. J Immunol. 56:66-75 (2002),
【非特許文献5】Tadashi Nagamatsu et al. Protective Effect of ProstaglandinEP4-Receptor Agonist on Anti-glomerular Basement Membrane Antibody-AssociatedNephritis, J Pharmacol Sci 102:182-188(2006)
【非特許文献6】瀬木恵理、プロスタグランジンE受容体サブタイプEP4欠損マウス作製とその表現型の解析、121(1):35-45(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
大量調製可能なEP4アゴニストの供給源を提供すること、ならびに、新規のEP4アゴニストおよびそのような新規なEP4アゴニストを含有する潰瘍性大腸炎、腎炎、骨粗鬆症、肺動脈閉鎖症の予防および/または治療のための組成物を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、イカリン脂質抽出物およびカツオ心筋リン脂質抽出物中にEP4アゴニストが含まれていることを見出すことによって、達成された。
【0010】
従って、一つの実施形態においては、本発明は、イカリン脂質抽出物および/またはカツオ心筋リン脂質抽出物を含有する、EP4アゴニストを提供する。別の実施形態においては、本発明は、EP4アゴニスト関連疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、腎炎、骨粗鬆症、および、肺動脈閉鎖症が挙げられるが、これに限定されない)の治療および/または予防のための組成物を提供する。
【0011】
従って、本発明は以下を提供する。
(項目1) イカリン脂質抽出物、カツオ心筋リン脂質抽出物およびアミエビリン脂質抽出物からなる群から選択されるリン脂質抽出物を含有する、EP4関連疾患の予防または治療のための、薬学的組成物。
(項目2) 前記リン脂質抽出物がエタノール抽出物である、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目3) 前記EP4関連疾患が、潰瘍性大腸炎、腎炎、骨粗鬆症、および、肺動脈閉鎖症からなる群から選択される疾患である、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目4) 前記リン脂質抽出物が、紫外部吸収の235nmに特異的吸収を持つ共役ジエン構造を有する化合物を含有する、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目5) イカリン脂質抽出物、カツオ心筋リン脂質抽出物およびアミエビリン脂質抽出物からなる群から選択されるリン脂質抽出物を含有する、EP4アゴニスト。
(項目6) 前記リン脂質抽出物がエタノール抽出物である、項目4に記載のEP4アゴニスト。
(項目7) 前記リン脂質抽出物が、紫外部吸収の235nmに特異的吸収を持つ共役ジエン構造を有する化合物を含有する、項目5に記載のEP4アゴニスト。
(項目8) 項目5に記載のEP4アゴニストを含有する、潰瘍性大腸炎、腎炎、骨粗鬆症、および、肺動脈閉鎖症からなる群から選択される疾患の予防または治療のための、薬学的組成物。
(項目9) 項目5に記載のEP4アゴニストを含有する、潰瘍性大腸炎、腎炎、骨粗鬆症、および、肺動脈閉鎖症からなる群から選択される疾患の予防または治療のための、飲食用組成物。
(項目10) イカリン脂質抽出物、カツオ心筋リン脂質抽出物およびアミエビリン脂質抽出物からなる群から選択されるリン脂質抽出物を含有する、EP4関連疾患の予防または治療のための、飲食用組成物。
(項目11) 前記リン脂質抽出物がエタノール抽出物である、項目10に記載の飲食用組成物。
(項目12) 前記EP4関連疾患が、潰瘍性大腸炎、腎炎、骨粗鬆症、および、肺動脈閉鎖症からなる群から選択される疾患である、項目10に記載の飲食用組成物。
(項目13) 前記リン脂質抽出物が、紫外部吸収の235nmに特異的吸収を持つ共役ジエン構造を有する化合物を含有する、項目10に記載の飲食用組成物。
(項目14) 14−ヒドロキシドコサヘキサエン酸を含有する、EP4関連疾患の予防または治療のための、薬学的組成物。
(項目15) 前記EP4関連疾患が、潰瘍性大腸炎、腎炎、骨粗鬆症、および、肺動脈閉鎖症からなる群から選択される疾患である、項目14に記載の薬学的組成物。
(項目16) 14−ヒドロキシドコサヘキサエン酸を含有する、EP4アゴニスト。
(項目17) 14−ヒドロキシドコサヘキサエン酸を含有する、EP4関連疾患の予防または治療のための、飲食用組成物。
(項目18) 前記EP4関連疾患が、潰瘍性大腸炎、腎炎、骨粗鬆症、および、肺動脈閉鎖症からなる群から選択される疾患である、項目17に記載の飲食用組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、EP4アゴニストを大量に調製することを容易にする供給源が提供される。本発明によって、新規なEP4アゴニストが提供される。さらに本発明によって、そのような新規なEP4アゴニストを含有する潰瘍性大腸炎、腎炎、骨粗鬆症、肺動脈閉鎖症の予防・治療のための薬学的組成物または飲食用組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念も含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
【0014】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0015】
本発明において使用する場合、「リン脂質抽出物」とは、所定の供給源から抽出される物質であって、リン脂質を含有する物質をいう。
【0016】
本発明において使用する場合、「リン脂質」にはグリセロリン脂質およびスフィンゴリン脂質が包含される。
【0017】
本発明において使用する場合、用語「スフィンゴリン脂質」とは、リンを含有するしスフィンゴ脂質である。本発明において使用する場合、用語「スフィンゴ脂質とは」スフィンゴシンなどの長鎖塩基を有する脂質をいう。スフィンゴ脂質としては、スフィンゴシンが挙げられるが、これに限定されない。
【0018】
本明細書において使用する場合、用語「グリセロリン脂質」とはグリセロールリン酸およびその誘導体をいう。グリセロールリン酸は、異性体として、sn−グリセロール1−リン酸、sn−グリセロール2−リン酸、およびsn−グリセロール3−リン酸が存在する。生体内では、sn−グリセロール3−リン酸(すなわち、L−グリセロール3−リン酸、D−グリセロール1−リン酸、およびL−α−グリセロリン酸)が存在する。本明細書においてグリセロリン脂質の定義に含まれるグリセロールリン酸のリン酸基に、コリン、エタノールアミン、イノシトール、およびセリンなどを結合した、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、およびホスファチジルセリン、ならびにホスファチジン酸を結合した物質が挙げられるが、これらに限定されない。これらのリゾリン脂質もまた、本発明のグリセロールリン酸の誘導体としてのグリセロリン脂質に含まれる。
【0019】
本発明において使用するリン脂質の供給源としては、動物、植物、魚介類、藻類、微生物が挙げられる。採取効率および作業・操作の容易性等の点を考慮すれば、動物性原料または魚介類由来の原料を選択し、これから抽出することが望ましい。動物性原料としては牛、豚、鶏、アザラシ、ハープシール、オットセイ、セイウチ、トド等の各種動物臓器、ならびに魚介類を使用することが可能である。好ましい供給源は、魚介類である。
【0020】
魚介類の供給源としてはカツオ、マグロ、イワシ等の魚類の組織が挙げられるが、これらに限定されない。魚類の組織としては、例えば、心筋、精巣および卵巣が挙げられるがこれらに限定されない。好ましい供給源は、心筋である。
【0021】
魚介類のさらなる供給源としては、イカが好ましく、例えば、ケンサキイカ、コウイカ、マイカ、スルメイカ、ホタルイカ、ヤリイカ等のイカ組織およびこれらの皮(例えば、可食部)が挙げられるが、これらに限定されない。イカ組織から抽出して得られる油分は、本発明のリン脂質の好ましい供給源である。魚介類のさらなる供給源としては、エビが好ましく、例えば、アミエビが挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
本発明の「リン脂質抽出物」を抽出する方法としては、例えば、圧搾法、煮とり法、溶剤抽出法等の公知の方法を用いることができる。
【0023】
溶剤抽出法の場合、上記供給源を何ら前処理することなく、または、上記供給源を凍結乾燥した後に、溶媒で活性成分を抽出することによって、行うことができる。
【0024】
溶媒としては、例えば、脂溶性有機溶剤、脂溶性有機溶剤と親水性アルコールとの混合溶剤、および親水性アルコール含有溶剤が挙げられるが、これらに限定されない。脂溶性有機溶剤としては、アセトン、ヘキサン、エーテル、および石油エーテル、ならびにこれらの組合せ等が挙げられるが、これらに限定されない。親水性アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、およびブタノールならびにこれらの組合せ等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
溶剤抽出は、常温または加温下で、常圧または加圧下で、必要に応じて攪拌して、油分の画分を抽出することによって行われる。この抽出された油分画分は一般に原油と称せられ、グリセリドを主成分とするものであるため、これに水を添加して脱ガム処理し、分離したガム質区分を乾燥してリン脂質含量が20〜60重量%のリン脂質含有画分を得ることができる。あるいは、前記親水性アルコールの含水溶剤を用いて抽出すると、抽出物として前記同様のリン脂質含有油分が得られる。
【0026】
かかる油分の分画物を得るためには、有効成分の溶剤に対する溶解性の差異を利用する液−液分離法が簡便かつ実用的である。例えば、エタノールを用いて調製された抽出物にアセトン沈殿処理を施してリン脂質含量をさらに高めた分画物を得ることができ。また、エタノール抽出物を、シリカゲル、アルミナ等の吸着剤を充填したカラムクロマトグラフィー処理に供することにより、リン脂質含量が90重量%以上の分画物を得ることもできる。
【0027】
このようにして得られるリン脂質含有油分およびこの分画物の望ましい態様は、リン脂質の含量が10重量%以上、より好ましくは30重量%以上である。以下の実施例に示す方法で調製されたリン脂質では、高度不飽和脂肪酸がリン脂質の構成脂肪酸として含有されているため、魚油等の高度不飽和脂肪酸トリグリセリドと比較して酸化安定性が優れており、精製後の戻り臭や不快臭がほとんどない。
【0028】
本発明の薬学的組成物および飲食用組成物は、前記リン脂質またはこれを含む油分を有効成分として含有する。本発明の薬学的組成物および飲食用組成物は、望ましくはリン脂質の含有量が10重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上である。本発明の所望の効果を阻害しない範囲および程度であれば、他の公知の成分あるいは原材料を適宜に併用せしめてもよい。これらの例としてアスコルビン酸、アミノ酸、ペプチド、蛋白質およびこの分解物、各種糖質、澱粉およびこの分解物、ミネラル類、ビタミンE、トコフェロール、フィトステロール、カテキン、グァバ葉等のポリフェノール類等およびこれらの誘導体を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0029】
これらの併用物質がアスコルビン酸パルミテート、フィトステロール、ビタミンE等のように油溶性の場合は、本発明に係るリン脂質またはこれを含む油分と混合して均一状態となし、また、アスコルビン酸、アミノ酸、ミネラル、蛋白質等のように水溶性ないしは水分散性の場合は、例えばその乾燥粉末を本発明に係るリン脂質またはこれを含む油分と混練して分散状態にするか、水および適宜に界面活性剤を共存させて乳化状態となすこともできる。
【0030】
本発明では、前述のように、イカリン脂質抽出物、カツオ心筋リン脂質、アミエビリン脂質を有効成分としてなる飲食用組成物/薬学的組成物が提供される。さらに、本願発明においては、14−ヒドロキシドコサヘキサエン酸を含有する飲食用組成物/薬学的組成物が提供される。この組成物の態様としては、薬学的組成物および飲食用組成物が好適である。
【0031】
(薬学的組成物の処方)
本発明はまた、有効量の治療剤の被験体への投与によってEP4を作動することによって治療および/または予防され得る疾患または障害(例えば、潰瘍性大腸炎、腎炎、骨粗鬆症)の処置および/または予防の方法を提供する。治療剤とは、薬学的に受容可能なキャリア型(例えば、滅菌キャリア)と組み合せた、本発明の組成物を意味する。
【0032】
治療剤を、個々の患者の臨床状態(特に、治療剤単独処置の副作用)、送達部位、投与方法、投与計画および当業者に公知の他の因子を考慮に入れ、医療実施基準(GMP=good medical practice)を遵守する方式で処方および投薬する。従って、本明細書において目的とする「有効量」は、このような考慮を行って決定される。
【0033】
一般的提案として、用量当り、経口的に投与される治療剤の合計薬学的有効量は、患者体重の、約2μg/kg/日〜1000mg/kg/日の範囲にあるが、上記のようにこれは治療的裁量に委ねられる。さらに好ましくは、本発明の抽出物について、この用量は、少なくとも10mg/kg/日、最も好ましくはヒトに対して約20mg/kg/日と約1000mg/kg/日との間である。また、一般的提案として、用量当り、非経口的に投与される治療剤の合計薬学的有効量は、患者体重の、約0.2μg/kg/日〜250mg/kg/日の範囲にあるが、上記のようにこれは治療的裁量に委ねられる。さらに好ましくは、本発明の抽出物について、この用量は、少なくとも1mg/kg/日、最も好ましくはヒトに対して約5mg/kg/日と約25mg/kg/日との間である。
【0034】
治療剤を、経口的、直腸内、非経口的、槽内(intracistemally)、膣内、腹腔内、局所的(粉剤、軟膏、ゲル、点滴剤、または経皮パッチによるなど)、口内あるいは経口または鼻腔スプレーとして投与し得る。本発明の薬学的組成物の代表的投与経路は、経口投与である。
【0035】
「薬学的に受容可能なキャリア」とは、非毒性の固体、半固体または液体の充填剤、希釈剤、被包材または任意の型の処方補助剤をいう。
【0036】
本発明の治療剤はまた、徐放性システムにより適切に投与される。徐放性治療剤の適切な例は、経口的、直腸内、非経口的、槽内(intracistemally)、膣内、腹腔内、局所的(粉剤、軟膏、ゲル、点滴剤、または経皮パッチによるなど)、口内あるいは経口または鼻腔スプレーとして投与され得る。「薬学的に受容可能なキャリア」とは、非毒性の固体、半固体または液体の充填剤、希釈剤、被包材または任意の型の処方補助剤をいう。本明細書で用いる用語「非経口的」とは、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸骨内、皮下および関節内の注射および注入を含む投与の様式をいう。
【0037】
本発明の治療剤はまた、徐放性システムにより適切に投与される。徐放性治療剤の適切な例は、適切なポリマー物質(例えば、成形品(例えば、フィルムまたはマイクロカプセル)の形態の半透過性ポリマーマトリックス)、適切な疎水性物質(例えば、許容品質油中のエマルジョンとして)またはイオン交換樹脂、および貧可溶性誘導体(例えば、貧可溶性塩)を包含する。
【0038】
徐放性マトリックスとしては、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号、EP58,481)、L−グルタミン酸およびγ−エチル−L−グルタメートのコポリマー(Sidmanら、Biopolymers 22:547−556(1983))、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)(Langerら、J.Biomed.Mater.Res.15: 167−277(1981)、およびLanger,Chem.Tech.12:98−105(1982))、エチレンビニルアセテート(Langerら、同書)またはポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸(EP133,988)が挙げられる。
【0039】
徐放性治療剤はまた、リポソームに包括された本発明の治療剤を包含する(一般に、Langer,Science 249:1527−1533(1990);Treatら,Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer,Lopez−Berestein and Fidler(編),Liss,New York,317−327頁および353−365(1989)を参照のこと)。治療剤を含有するリポソームは、それ自体が公知である方法により調製され得る:DE3,218,121;Epsteinら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:3688−3692(1985);Hwangら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4030−4034(1980);EP52,322;EP36,676;EP88,046;EP143,949;EP142,641;日本国特許出 願第83−118008号;米国特許第4,485,045号および同第4,544,545号ならびにEP第102,324号。通常、リポソームは、小さな(約200〜800Å)ユニラメラ型であり、そこでは、脂質含有量は、約30モル%コレステロールよりも多く、選択された割合が、最適治療剤のために調整される。
【0040】
なおさらなる実施態様において、本発明の治療剤は、ポンプにより送達されうる(Langer、前出;Sefton、CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201(1987);Buchwaldら、Surgery 88:507(1980);Saudekら、N.Engl.J.Med.321:574(1989)を参照のこと)。
【0041】
他の制御放出系は、Langer(Science 249:1527−1533(1990))による総説において議論される。
【0042】
非経口投与のために、1つの実施態様において、一般に、治療剤は、それを所望の程度の純度で、薬学的に受容可能なキャリア、すなわち用いる投薬量および濃度でレシピエントに対して毒性がなく、かつ処方物の他の成分と適合するものと、単位投薬量の注射可能な形態(溶液、懸濁液または乳濁液)で混合することにより処方される。例えば、この処方物は、好ましくは、酸化、および治療剤に対して有害であることが知られている他の化合物を含まない。
【0043】
一般に、治療剤を液体キャリアまたは微細分割固体キャリアあるいはその両方と均一および緊密に接触させて処方物を調製する。次に、必要であれば、生成物を所望の処方物に成形する。好ましくは、キャリアは、非経口的キャリア、より好ましくはレシピエントの血液と等張である溶液である。このようなキャリアビヒクルの例としては、水、生理食塩水、リンゲル溶液およびデキストロース溶液が挙げられる。不揮発性油およびオレイン酸エチルのような非水性ビヒクルもまた、リポソームと同様に本明細書において有用である。
【0044】
キャリアは、等張性および化学安定性を高める物質のような微量の添加剤を適切に含有する。このような物質は、用いる投薬量および濃度でレシピエントに対して毒性がなく、このような物質としては、リン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、酢酸および他の有機酸またはその塩類のような緩衝剤;アスコルビン酸のような抗酸化剤;低分子量(約10残基より少ない)ポリペプチド(例えば、ポリアルギニンまたはトリペプチド);血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンのようなタンパク質;ポリビニルピロリドンのような親水性ポリマー;グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸またはアルギニンのようなアミノ酸;セルロースまたはその誘導体、ブドウ糖、マンノースまたはデキストリンを含む、単糖類、二糖類、および他の炭水化物;EDTAのようなキレート剤;マンニトールまたはソルビトールのような糖アルコール;ナトリウムのような対イオン;および/またはポリソルベート、ポロキサマーもしくはPEGのような非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0045】
治療剤は、代表的には約10mg/ml〜1000mg/ml、好ましくは50〜1000mg/mlの濃度で、約6〜9のpHで、このようなビヒクル中に処方される。前記の特定の賦形剤、キャリアまたは安定化剤を使用することにより、塩が形成されることが理解される。
【0046】
治療的投与に用いられるべき任意の薬剤は、有効成分としてのウイルス以外の生物・ウイルスを含まない状態、すなわち、無菌状態であり得る。滅菌濾過膜(例えば0.2ミクロンメンブレン)で濾過することにより無菌状態は容易に達成される。一般に、治療剤は、滅菌アクセスポートを有する容器、例えば、皮下用注射針で穿刺可能なストッパー付の静脈内用溶液バッグまたはバイアルに配置される。
【0047】
治療剤は、通常、単位用量または複数用量容器、例えば、密封アンプルまたはバイアルに、水溶液または再構成するための凍結乾燥処方物として貯蔵される。凍結乾燥処方物の例として、10mlのバイアルに、滅菌濾過した5%(w/v)治療剤水溶液5mlを充填し、そして得られる混合物を凍結乾燥する。凍結乾燥した治療剤を、注射用静菌水を用いて再構成して注入溶液を調製する。
【0048】
本発明はまた、本発明の治療剤の1つ以上の成分を満たした一つ以上の容器を備える薬学的パックまたはキットを提供する。医薬品または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関が定めた形式の通知が、このような容器に付属し得、この通知は、ヒトへの投与に対する製造、使用または販売に関する政府機関による承認を表す。さらに、治療剤を他の治療用化合物と組み合わせて使用し得る。
【0049】
本発明の治療剤は、単独または他の治療剤と組合わせて投与され得る。組合わせは、例えば、混合物として同時に;同時にまたは並行してだが別々に;あるいは経時的のいずれかで投与され得る。これは、組み合わされた薬剤が、治療用混合物として共に投与されるという提示、およびまた、組み合わされた薬剤が、別々にしかし同時に、例えば、同じ個体に別々の静脈ラインを通じて投与される手順を含む。「組み合わせて」の投与は、一番目、続いて二番目に与えられる化合物または薬剤のうち1つの別々の投与をさらに含む。
【0050】
本発明のイカリン脂質抽出物、カツオ心筋リン脂質抽出物の製剤化にあたっては、前述の抽出物をそのまま使用してもよいが、これをさらに分画処理して有効成分であるリン脂質をより高濃度に含有する分画物として用いてもよい。
【0051】
(飲食用組成物の製造)
本発明の好適な態様は飲食用組成物である。すなわち、前述のようにして得られるリン脂質を有効成分として含む薬学的組成物または飲食用組成物は、これをそのまま液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えばジュース、清涼飲料、コーヒー、紅茶、日本茶、ウーロン茶、野菜ジュース、天然果汁、乳飲料、牛乳、豆乳、スポーツ飲料、ニアウォーター系飲料、栄養補給飲料、コーヒー飲料、ココア、スープ、ドレッシング、ムース、ゼリー、ヨーグルト、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、加工乳、スポーツドリンク、栄養ドリンク、ケーキミックス、パン、ピザ、パイ、クラッカー、ビスケット、ケーキ、クッキー、スパゲティー、マカロニ、パスタ、うどん、そば、ラーメン、キャンデー、ソフトキャンデー、ガム、チョコレート、おかき、ポテトチップス、スナック、アイスクリーム、シャーベット、クリーム、チーズ、粉乳、練乳、乳飲料などの粉末状または液状の乳製品、饅頭、ういろ、もち、おはぎ、醤油、たれ、麺つゆ、ソース、だしの素、シチューの素、スープの素、複合調味料、カレーの素、マヨネーズ、ケチャップ、レトルトカレー、レトルトシチュー、レトルトスープ、レトルトどんぶり、缶詰、ハム、ハンバーグ、ミートボール、コロッケ、餃子、ピラフ、おにぎり、冷凍食品および冷蔵食品、ちくわ、蒲鉾、弁当のご飯、寿司、乳児用ミルク、離乳食、ベビーフード、スポーツ食品、栄養補助食品、サプリメント、健康食品等に添加したり、必要に応じてデキストリン、乳糖、澱粉等の賦型剤や香料、色素等とともにペレット、錠剤、顆粒等に加工したり、またゼラチン等で被覆してカプセルに成形加工して健康食品や栄養補助食品等として利用できる。これらの食品類あるいは飲食用組成物における本発明のリン脂質抽出物の配合量は、当該食品や組成物の種類や状態等により一律に規定しがたいが、約0.01〜50重量%、より好ましくは0.1〜30重量%である。配合量が0.01重量%未満では経口摂取による所望の効果が小さく、50重量%を超えると食品の種類によっては風味を損なったり当該食品を調製できなくなる場合がある。なお、本発明のリン脂質抽出物は、これをそのまま食用に供してもさしつかえない。
【0052】
(14−ヒドロキシドコサヘキサエン酸を含有する組成物の製造)
上記薬学的組成物または飲食用組成物を作製する場合、リン脂質抽出物のかわりに、14−ヒドロキシドコサヘキサエン酸を用いても良い。
【0053】
以下に実施例等により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
(実施例1:イカリン脂質抽出物の調製)
境港に水揚げされたスルメイカから内臓を取り除き、水洗いした後、裁断し凍結乾燥により水分を除去した。この乾燥スルメイカ10kgに99%(V/V)エタノール20Lを加え、60℃で2時間、適宜ゆるやかに撹拌して抽出した。ろ過、抽出液を得た後、残渣に99%(V/V)エタノール20Lを加え、同様に抽出した。ろ過し、抽出液を得、1回目の抽出液と合わせて、エタノールを減圧留去してペースト状の抽出物2kgを得た。この抽出物全量を8Lのクロロホルムと4Lのメタノールの混合液に溶解した後、3Lの水を加えた。適宜な攪拌を行い、攪拌を止め静置した。溶液が2層に分離した後、下層のクロロホルム層を回収した。クロロホルムを減圧留去してペースト状の精製物を得た。これに20倍量(v/w)のアセトンを加えて5℃にて12時間静置し、生じた沈殿物を濾別した後、99%(v/v)エタノール4Lに再溶解させ、この濾液からエタノールを減圧留去してペースト状物1kgを得た。このペースト状物について高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー(GLC)および薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いて分析した結果、該ペースト状物のグリセロリン脂質含量:85.4重量%(内訳はホスファチジルコリン:51.9%、リゾホスファチジルコリン:1.2%、ホスファチジルエタノールアミン:20.1%、リゾホスファチジルエタノールアミン:5.7%、ホスファチジルイノシトール:0.9%、その他:20.2%)、総脂肪酸中のDHA含量:39.2重量%、EPA含量:14.9重量%であり、グリセロリン脂質の構成脂肪酸中のDHA含量:40.7重量%、EPA含量:15.0重量%であった。
【0055】
(実施例2:カツオ心筋リン脂質抽出物の調製)
枕崎に水揚げされたカツオから心筋を採取し、水洗いした後、凍結乾燥により水分を除去した後粉砕した。この乾燥カツオ心筋10kgに99%(V/V)エタノール20Lを加え、60℃で2時間、適宜ゆるやかに撹拌して抽出した。ろ過、抽出液を得た後、残渣に99%(V/V)エタノール20Lを加え、同様に抽出した。ろ過し、抽出液を得、1回目の抽出液と合わせて、エタノールを減圧留去してペースト状の抽出物2kgを得た。このペースト状物について高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー(GLC)および薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いて分析した結果、該ペースト状物のグリセロリン脂質含量:50.1重量%(内訳はホスファチジルコリン:48.2%、リゾホスファチジルコリン:6.2%、ホスファチジルエタノールアミン:18.6%、リゾホスファチジルエタノールアミン:4.6%、ホスファチジルイノシトール:0.9%、その他:21.5%)、総脂肪酸中のDHA含量:39.3重量%、EPA含量:4.2重量%であり、グリセロリン脂質の構成脂肪酸中のDHA含量:40.7重量%、EPA含量:5.0重量%であった。
【0056】
(実施例3:カツオ心筋リン脂質抽出物の加水分解精製物の調製)
カツオ心筋リン脂質抽出物40gにアルカリ性メタノール溶液を加え65℃で2時間加温した。アルカリ性メタノール溶液はメタノール72gと水48gを混合し、水酸化カリウム8gを溶解して全量を加えた。反応後、水を120mlを加え、さらに塩酸18gと水38gの混合溶液を加えて室温で60分間攪拌した。30分間静置した後上層の油分を分離しヘキサン80mlに溶解した。ヘキサン溶液に水50ml加え、水洗した。ヘキサン層を回収し、同様の水洗をさらに2回行った。ヘキサン層を濃縮し、24gの加水分解物を得た。シリカゲル5gをカラムに充填し、加水分解物1gを付荷した後、石油エーテル:ジエチルエーテル(7:3)の混合溶液を50ml流した。次に石油エーテル:ジエチルエーテル(3:7)を50ml流し、溶出液を回収した。溶出液を濃縮し、加水分解精製物50mgを得た。
【0057】
(実施例4:共役ジエン構造を有する成分の調製)
実施例3によって得られた加水分解物50mgをシリカゲルクロマトグラフィー(1g、富士シリシア化学(株)PSQ60B)により精製を行った。すなわち、加水分解物を石油エーテルに溶解させた後、カラムに負荷し、10mlの石油エーテルさらに石油エーテル/ジエチルエーテル(7/3、V/V)10mlで洗浄した後、最終的に石油エーテル/ジエチルエーテル(3/7、V/V)10mlで溶出させ、3.4mgの紫外部吸収235nmに特異的吸収をもつ、共役ジエン構造を有する成分を得た。
【0058】
(実施例5:アミエビリン脂質抽出物および南極オキアミリン脂質抽出物の調製)
冷凍されたアミエビおよび南極オキアミを購入し、凍結乾燥により水分を除去した。乾燥したアミエビおよび南極オキアミ5kgにそれぞれ99%(v/v)エタノール20Lを加え、60℃で2時間、適宜ゆるやかに攪拌して抽出した。ろ過し、抽出液を得た後、それぞれの残渣に99%(v/v)エタノール20Lを加え、同様に抽出した。ろ過し、抽出液を得、それぞれ1回目の抽出液と合わせてエタノールを減圧留去しペースト状の抽出物を得た。これらに、それぞれ20倍量(v/w)のアセトンを加えて5℃にて12時間静置し、生じた沈殿物を濾別した。アミエビおよび南極オキアミの沈殿物をそれぞれクロロホルム2Lとメタノール1Lの混合溶媒に溶解した後0.75Lの水を加えた。適宜な攪拌の後静置し、溶液が2層に分離した後、下層のクロロホルム層を回収した。クロロホルムを減圧留去してペースト状の精製物をそれぞれ得た。精製物重量は、南極オキアミは450g、アミエビは250gであった。これらのペースト状物について、HPLC、GLC、TLC、を用いて分析した。アミエビより調製したペースト状物のグリセロリン脂質含量は83.5重量%(内訳はホスファチジルコリン:62.2%、リゾホスファチジルコリン:5.2%、ホスファチジルエタノールアミン:14.2%、リゾホスファチジルエタノールアミン:2.3%、その他:16.1%)であり、総脂肪酸中のDHA含量は5.7重量%、EPA含量は14.8重量%であり、グリセロリン脂質の構成脂肪酸中のDHA含量は8.2重量%、EPA含量は18.9重量%であった。南極オキアミのグリセロリン脂質含量は85.2重量%(内訳はホスファチジルコリン:68.1%、リゾホスファチジルコリン:1.2%、ホスファチジルエタノールアミン:18.5%、リゾホスファチジルエタノールアミン:0.5%、その他:11.7%)であり、総脂肪酸中のDHA含量は7.7重量%、EPA含量は16.8重量%であり、グリセロリン脂質の構成脂肪酸中のDHA含量は10.2重量%、EPA含量は23.9重量%であった。
【0059】
(実施例6:各種リン脂質抽出物のEP4受容体に対する競合的結合能)
実施例1〜2および4〜5によって得られたリン脂質抽出物のEP4受容体結合能活性を調べた。
【0060】
上記EP4受容体結合能活性は、ヒト由来の遺伝子操作した安定なHEK−293形質転換細胞を用いて常法で行った。具体的には0.3nMのH標識PGE2とサンプル(イカリン脂質抽出物、大豆リン脂質については200μg/ml、カツオ心筋リン脂質抽出物、アミエビリン脂質抽出物および南極オキアミリン脂質抽出物については100μg/ml、カツオ心筋由来共役ジエン構造を有する成分の調製については20μg/ml)との置換反応を、2時間、25℃で行い、置換反応を放射能活性により測定した。イカリン脂質抽出物は、実施例1において調製したイカリン脂質抽出物、カツオ心筋リン脂質は、実施例2において調製したカツオ心筋リン脂質抽出物、およびコントロールとしての大豆リン脂質(三重県松阪市嬉野新屋庄町565−1 辻製油株式会社)を用いた。サンプルを添加しない時のH標識PGE2結合量を総結合量とし、サンプル添加時のH標識PGE2結合量をサンプル結合量とし、総結合量から非特異的結合を引いた値を特異的結合量として、次の計算式で阻害率を求めた。
【0061】
阻害率=(総結合量−サンプル添加時結合量)/特異的結合量×100。
【0062】
なお、特異的結合量は95%であった。
【0063】
その結果、コントロールの大豆リン脂質による阻害率は5%に過ぎなかったが、実施例で調製したイカリン脂質抽出物の阻害率は92%、カツオ心筋リン脂質抽出物の阻害率は90%、カツオ心筋由来共役ジエン構造を有する成分の阻害率は58%、アミエビリン脂質抽出物の阻害率は68%、南極オキアミリン脂質抽出物の阻害率は19%であった(表1)。
【0064】
【表1】

この結果から、イカ、カツオ心筋、および、アミエビのリン脂質抽出物中には、EP4受容体に結合して、PGE2と競合する成分が含まれることが明らかとなった。
【0065】
(実施例7:イカリン脂質抽出物およびカツオ心筋リン脂質抽出物のEP4受容体に対するアゴニスト活性の測定)
実施例1〜2によって得られたリン脂質抽出物のEP4受容体アゴニスト活性およびアンタゴニスト活性を調べた。
【0066】
上記リン脂質抽出物のEP4受容体アゴニスト活性はSprague−Dawleyラットの気管を用いて常法により行った。具体的にはSprague−Dawleyラットの気管を摘出し、6個に切断した後、Krebs Buffer(Krebs液:KH2PO4 1.2mM, NaCl 120.0mM, KCl 5.0mM,MgSO4 1.2mM, NaHCO3 25.0mM, EDTA-2Na 0.027mM, CaCl22.4mM, glucose 11.0mM, (pH7.4))中で測定器のフックに装着した。なお、Bufferは37℃に設定し、2.8μMのインドメタシンを添加した。1μMのカルバコールを添加し、気管を収縮させ、1μMのPGE2を添加した時と、1000μg/ml濃度のサンプル(イカリン脂質抽出物、カツオ心筋リン脂質抽出物)を添加した時とで、気管の収縮度を比較した。収縮度は5分間に収縮または弛緩する長さを測定し、アゴニスト活性を求めた。アンタゴニスト活性は1μMのPGE2を添加し、惹起された気管の弛緩する長さを100とした場合、1000μg/ml濃度のサンプルによって抑制される%をアンタゴニスト活性として表した。その結果、本発明のイカリン脂質抽出物のアゴニスト活性は43%、カツオ心筋リン脂質抽出物のアゴニスト活性は69%であった。
【0067】
【表2】

また、従来公知のEP4アゴニストは、イカリン脂質抽出物中またはカツオ心筋リン脂質抽出物中に存在しないと考えられていることから、今回調製した、リン脂質に含有されるEP4アゴニストは、新規のEP4アゴニストであると考えられる。
【0068】
(実施例8:14−ヒドロキシドコサヘキサエン酸のEP4受容体に対するアゴニスト活性の測定)
上記の実施例6において実証されたように、実施例4で調製したカツオ心筋由来の共役ジエン構造を有する成分は、EP4受容体に対する結合においてPGE2と競合する成分が含まれていた。また、上記の実施例7において実証されたように、カツオ心筋リン脂質抽出物は、EP4アンタゴニスト活性を示さず、EP4アゴニスト活性のみを示した。したがって、実施例4で調製したカツオ心筋由来の共役ジエン構造を有する成分は、EP4アゴニスト活性を有すると結論付けられる。
【0069】
イカ、カツオ心筋、アミエビに含まれるリン脂質抽出物中、共役ジエン構造を有する物質として、14−ヒドロキシドコサヘキサエン酸が挙げられる。そこで、14−ヒドロキシドコサヘキサエン酸がEP4受容体に対する結合においてPGE2と競合するか否かについて検討した。
【0070】
2μg/mlの14−ヒドロキシドコサヘキサエン酸を用いて、実施例6と同様の実験を行った。その結果、42%という高いEP4受容体阻害率が示された。この結果から、カツオ心筋由来のリン脂質中で、EP4アゴニストとして作用する成分が、14−ヒドロキシドコサヘキサエン酸であることが明らかとなった。
【0071】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に従って、種々の薬理学的活性を有すると考えられるEP4受容体のアゴニストが、天然の供給源より簡便に提供される。本発明のイカリン脂質抽出物およびカツオ心筋リン脂質は、薬学的組成物および飲食用組成物として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イカリン脂質抽出物、カツオ心筋リン脂質抽出物およびアミエビリン脂質抽出物からなる群から選択されるリン脂質抽出物を含有する、EP4関連疾患の予防または治療のための、薬学的組成物。
【請求項2】
前記リン脂質抽出物がエタノール抽出物である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記EP4関連疾患が、潰瘍性大腸炎、腎炎、骨粗鬆症、および、肺動脈閉鎖症からなる群から選択される疾患である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記リン脂質抽出物が、紫外部吸収の235nmに特異的吸収を持つ共役ジエン構造を有する化合物を含有する、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
イカリン脂質抽出物、カツオ心筋リン脂質抽出物およびアミエビリン脂質抽出物からなる群から選択されるリン脂質抽出物を含有する、EP4アゴニスト。
【請求項6】
前記リン脂質抽出物がエタノール抽出物である、請求項5に記載のEP4アゴニスト。
【請求項7】
前記リン脂質抽出物が、紫外部吸収の235nmに特異的吸収を持つ共役ジエン構造を有する化合物を含有する、請求項5に記載のEP4アゴニスト。
【請求項8】
請求項5に記載のEP4アゴニストを含有する、潰瘍性大腸炎、腎炎、骨粗鬆症、および、肺動脈閉鎖症からなる群から選択される疾患の予防または治療のための、薬学的組成物。
【請求項9】
請求項5に記載のEP4アゴニストを含有する、潰瘍性大腸炎、腎炎、骨粗鬆症、および、肺動脈閉鎖症からなる群から選択される疾患の予防または治療のための、飲食用組成物。
【請求項10】
イカリン脂質抽出物、カツオ心筋リン脂質抽出物およびアミエビリン脂質抽出物からなる群から選択されるリン脂質抽出物を含有する、EP4関連疾患の予防または治療のための、飲食用組成物。
【請求項11】
前記リン脂質抽出物がエタノール抽出物である、請求項10に記載の飲食用組成物。
【請求項12】
前記EP4関連疾患が、潰瘍性大腸炎、腎炎、骨粗鬆症、および、肺動脈閉鎖症からなる群から選択される疾患である、請求項10に記載の飲食用組成物。
【請求項13】
前記リン脂質抽出物が、紫外部吸収の235nmに特異的吸収を持つ共役ジエン構造を有する化合物を含有する、請求項10に記載の飲食用組成物。
【請求項14】
14−ヒドロキシドコサヘキサエン酸を含有する、EP4関連疾患の予防または治療のための、薬学的組成物。
【請求項15】
前記EP4関連疾患が、潰瘍性大腸炎、腎炎、骨粗鬆症、および、肺動脈閉鎖症からなる群から選択される疾患である、請求項14に記載の薬学的組成物。
【請求項16】
14−ヒドロキシドコサヘキサエン酸を含有する、EP4アゴニスト。
【請求項17】
14−ヒドロキシドコサヘキサエン酸を含有する、EP4関連疾患の予防または治療のための、飲食用組成物。
【請求項18】
前記EP4関連疾患が、潰瘍性大腸炎、腎炎、骨粗鬆症、および、肺動脈閉鎖症からなる群から選択される疾患である、請求項17に記載の飲食用組成物。

【公開番号】特開2009−173556(P2009−173556A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11604(P2008−11604)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(391007356)備前化成株式会社 (16)
【Fターム(参考)】