説明

プロトン伝導性高分子膜の製造方法

【課題】電解質の洗い流しを防止し、広い温度範囲にわたって高効率、特に高伝導性を呈し、系を湿潤させる必要のない、高分子電解質膜を提供する。
【解決手段】15μm〜1000μmの範囲の厚さを有し、160℃における真性伝導率が0.001S/cm以上であるプロトン伝導性高分子膜の製造方法であって、ポリアゾールポリマーと特定の含ビニルホスホン酸とを混合して混合物を調製するステップ(A)と、ステップ(A)による前記混合物を用いて担体上に薄膜構造を形成するステップ(B)と、赤外光、近赤外光、紫外光、β線、γ線又は電子ビームでの照射によって遊離基を生成するステップ、あるいは、遊離基を生成可能な物質を使用するステップ(C’)と、ステップ(B)による薄膜構造中に存在する含ビニルホスホン酸を重合させて、相互浸透した網目構造(IPN)を形成するステップ(C)を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニルホスホン酸単量体を含んだ混合物、及びポリビニルホスホン酸を基本成分としたプロトン伝導性高分子電解質膜に関する。この電解質膜は、際立った化学的特性及び熱的特性のため多くの応用に用いることができ、所謂高分子電解質膜(PEM)燃料電池の高分子電解質膜として特に適している。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は通常、電解質と、電解質によって離隔されている2個の電極とを含んでいる。燃料電池では、2個の電極の一方が水素ガス又はメタノール−水混合物のような燃料であり、他方の電極に気体状酸素又は空気のような酸化剤を供給することにより、燃料の酸化からの化学的エネルギを電気的エネルギへ直接変換する。プロトン及び電子が酸化反応で形成される。
【0003】
電解質は水素イオンすなわちプロトンについて透過性であるが、水素ガス又はメタノール及び気体状酸素のような反応性燃料については透過性でない。
【0004】
燃料電池は一般的には、複数の独立したセル、所謂MEE(膜−電極ユニット)を含んでおり、MEEの各々が電解質と電解質によって離隔されている2個の電極とを含んでいる。
【0005】
高分子電解質膜のような固体又はリン酸のような液体が燃料電池用の電解質として用いられる。近年では、高分子電解質膜が燃料電池用の電解質として注目を集めている。原則として2種類の範疇の高分子膜を区別することができる。
【0006】
第1の範疇の中には、共有結合した酸基、好ましくはスルホン酸基を含有するポリマー骨格から成るカチオン交換膜がある。スルホン酸基は、水素イオンの放出と共にアニオンに転化し、従って、プロトンを伝導する。この関連で、プロトンの易動性、従ってプロトン伝導性は、水の含有量に直接関係する。メタノールと水との混和性は極めて良好であるため、かかるカチオン交換膜はメタノール透過性が高く、従って、直接型メタノール燃料電池での応用には適さない。例えば高温の結果として膜が乾燥すると、膜の伝導性が顕著に低下し、結果として燃料電池の性能が著しく低下する。このように、かかるカチオン交換膜を含んだ燃料電池の動作温度は水の沸点までに制限される。このため、例えばNafion(登録商標)のような従来のスルホン化膜を用いた高分子電解質膜燃料電池(PEMFC)の利用については、燃料電池の湿潤化が大きな技術的問題点となっている。
【0007】
従って、例えばパーフルオロスルホン酸ポリマーを高分子電解質膜の材料として用いる。パーフルオロスルホン酸ポリマー(例えばNafion(登録商標)等)は一般的には、テトラフルオロエチレンとトリフルオロビニルとの共重合体のような過フッ化炭化水素骨格と、該骨格に結合したスルホン酸基を有する側鎖、例えばパーフルオロアルキレン基に結合したスルホン酸基を有する側鎖等とを含んでいる。
【0008】
カチオン交換膜は好ましくは、共有結合した酸基、特にスルホン酸を有する有機ポリマーを含んでいる。ポリマーのスルホン化の方法については、"Polymer Engineering and Science"、第38巻、第5号、第783頁〜第792頁(1988年)のF.Kucera等の論文に記載されている。
【0009】
燃料電池用として商業的な重要性を達成した最も重要な種類のカチオン交換膜を以下に列挙する。最も重要な例は、パーフルオロスルホン酸ポリマーNafion(登録商標)(米国特許第3692569号)である。このポリマーは、米国特許第4453991号に記載されているように溶液とされた後にイオノマーとして用いることができる。カチオン交換膜はまた、かかるイオノマーで多孔質の担体材料を充填することにより得られる。この関連で、担体材料として増量ポリテトラフルオロエチレンが好ましくは用いられている(米国特許第5635041号)。さらにもう一つの過フッ化カチオン交換膜は、米国特許第5422411号に記載されているように、トリフルオロスチレンとスルホニルで改質したトリフルオロスチレンとの共重合によって生成することができる。このようなスルホニルで改質したトリフルオロスチレン共重合体から成るイオノマーで充填した多孔質の担体材料、特に増量ポリテトラフルオロエチレンから成る複合膜は、米国特許第5834523号に記載されている。
【0010】
米国特許第6110616号は、ブタジエンとスチレンとの共重合体、及び燃料電池用のカチオン交換膜の製造のために続いて行われるスルホン化を記載している。
【0011】
さらにもう一つの種別である部分的にフッ素化したカチオン交換膜は、放射線照射によるグラフト及び続いて行われるスルホン化によって製造することができる。この関連で、欧州特許第667983号又は独国特許第19844645号に記載されているように、好ましくはスチレンとのグラフト反応は、予備照射したポリマーフィルム上で行われる。次いで、後続のスルホン化反応において側鎖のスルホン化が起こる。また、グラフトと同時に架橋を行ってもよく、このようにして機械的特性を変化させることができる。
【0012】
以上に述べた膜に加え、高温安定な熱可塑性材料のスルホン化によるさらにもう一つの種別の非フッ化膜が開発されている。このように、スルホン化ポリエーテルケトンの膜(独国特許第4219077号、欧州特許第96/01177号)、スルホン化ポリスルホンの膜(J.Membr.Sci.、第83号、第211頁(1993年))、又はスルホン化ポリフェニレンスルフィドの膜(独国特許第19527435号)が公知である。
【0013】
スルホン化ポリエーテルケトンから生成されるイオノマーは、国際公開第00/15691号に記載されている。
【0014】
加えて、独国特許第19817374号又は国際公開第01/18894号に記載されているように、スルホン化ポリマーと塩基性ポリマーとを混合することにより生成される酸−塩基配合膜も公知である。
【0015】
膜特性を改善するために、従来技術で公知のさらにもう一つのカチオン交換膜を高温安定なポリマーと混在させてもよい。スルホン化PEKと、(a)ポリスルホン(独国特許第4422158号)、(b)芳香族ポリアミド(独国特許第42445264号)、又は(c)ポリベンズイミダゾール(独国特許第19851498号)のいずれかとの配合物から成るカチオン交換膜の製造及び特性がそれぞれ記載されている。
【0016】
これら全てのカチオン交換膜の欠点は、膜を湿潤させておかなければならないこと、動作温度が100℃までに制限されること、及び膜のメタノール透過性が高いことである。これらの欠点の理由は、プロトンの輸送が水分子の輸送と結合されるという膜の伝導機構にある。このことを「ビーイクル機構(vehicle mechanism)」と呼ぶ(K.−D.Kreuer、Chem.Mater.、第8号、第610頁〜第641頁(1996年))。
【0017】
第2の範疇として、塩基性ポリマーと強酸との複合体を有する高分子電解質膜が開発されている。このように、国際公開第096/13872号及び対応米国特許第5,525,436号は、ポリベンズイミダゾールのような塩基性ポリマーをリン酸や硫酸等のような強酸で処理するプロトン伝導性高分子電解質膜の製造方法を記載している。
【0018】
リン酸でのポリベンズイミダゾールのドープが、J.Electrochem.Soc.、第142巻、第7号、第L121頁〜第L123頁(1995年)に記載されている。
【0019】
従来技術で公知の塩基性高分子膜の場合には、独国特許出願第10117686.4号、同第10144815.5号及び同第10117687.2号にあるように、所要のプロトン伝導性を達成するために用いられる無機酸(一般的には濃リン酸)を成形段階の後に用いるか、又は代替的には、ポリリン酸から直接、塩基性高分子膜を製造する。ポリマーはこの場合には、高度に濃縮されたリン酸又はポリリン酸から成る電解質の担体として役立つ。高分子膜はさらに本質的な作用を果たし、特に機械的安定性が高く、序で述べた2種類の燃料のセパレータとして役立たなければならない。
【0020】
リン酸又はポリリン酸でドープしたかかる膜の主な利点は、かかる高分子電解質膜を用いた燃料電池は、他の場合には必要であった燃料の湿潤を行わずに、100℃を上回る温度で動作し得ることである。このことは、所謂Grotthus機構により、水を追加せずにプロトンを輸送することが可能であるというリン酸の特性に基づくものである(K.−D.Kreuer、Chem.Mater.、第8号、第610頁〜第641頁(1996年))。
【0021】
この燃料電池系は、100℃を上回る温度で動作し得る可能性のためさらなる利点を有する。一方、気体不純物、特にCOに対するPt触媒の感受性が大幅に低下する。COは、例えば天然ガス、メタノール又はガソリンのような含炭素化合物からの水素に富んだ気体のリフォーミングでの副産物として形成するか、又はメタノールの直接酸化の中間生成物としても形成する。典型的には、100℃未満の温度での燃料のCO含有量は100ppm未満でなければならない。但し、150℃〜200℃の範囲の温度では、1000ppm以上のCO量も許容される(N.J.Bjerrum等、Journal of Applied Electrochemistry、第31号、第773頁〜第779頁(2001年))。これにより、上流に連結されているリフォーミング工程が大幅に簡略化され、従って燃料電池系全体での経費の節減に繋がる。
【0022】
燃料電池の主な利点は、電気化学反応において、燃料のエネルギが電気エネルギ及び熱に直接変換されることである。カソードでの反応生成物として水が生成する。これにより、電気化学反応の副産物として熱が発生する。例えば自動車応用のように電動モータを駆動するために電流のみを利用するような応用やバッテリ系の多用途代替としての応用では、系の過熱を防ぐために熱を散逸させなければならない。すると、冷却のためにエネルギを消費する追加設備が必要となり、燃料電池の全体的な電気的効率がさらに低下する。集中型又は分散型の発電及び発熱のような固定型の用途では、例えば熱交換器のような既存技術によって熱を効率的に活用することができる。効率を高めるためには、この場合には高温が望ましい。動作温度が100℃を上回り、且つ周囲温度と動作温度との間の温度差が大きい場合には、膜を湿潤させる必要性から100℃未満で動作させなければならない燃料電池に比べて、燃料電池系をさらに効率的に冷却するか又は小面積の冷却表面を用いることが可能で、追加設備を不要にすることが可能になる。
【0023】
しかしながら、これらの利点とは別に、かかる燃料電池系は重大な欠点を有する。すなわち、リン酸又はポリリン酸が電解質として存在し、これら電解質はイオン相互作用のため塩基性ポリマーと恒久的に結合せず、水で洗い流される可能性がある。上述のように、電気化学反応において、カソードに水が形成する。動作温度が100℃を上回る場合には水は蒸気として気体拡散電極を介して大部分が除去されるため、酸の損失は極く少ない。しかしながら、例えば電池の起動時及び終了時、又は空転動作時のように動作温度が100℃を下回ると、高い電流収量が必要とされる場合には、形成した水が凝縮して電解質である濃リン酸又はポリリン酸を益々洗い流すことになる可能性がある。これにより、以上に述べたような燃料電池の動作態様の場合には、伝導性及び電池出力の一定の損失が生じ、延いては燃料電池の実用寿命が短縮する可能性がある。
【0024】
加えて、リン酸でドープした公知の膜は、所謂直接型メタノール燃料電池(DMFC)に用いることができない。しかしながら、かかる電池は、メタノール−水の混合物を燃料として用いるため、特に関心が持たれる。リン酸系の公知の膜を用いると、燃料電池は極く短時間の後に故障する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
従って、本発明の目的は、電解質の洗い流しを防止した新規の高分子電解質膜を提供することにある。特に、動作温度を0℃未満から200℃に到るまでに拡大することができなければならず、また、系を湿潤させなくてもよいものとしなければならない。本発明による高分子電解質膜を含んだ燃料電池は、多くの含炭素燃料、特に天然ガス、ガソリン、メタノール及びバイオマスばかりでなく純粋な水素に適していなければならない。この関連で、この膜は燃料電池の可能な限り高い活性を可能にするものでなければならない。具体的には、メタノール酸化が公知の膜と比較して特に高活性で起こらなければならない。
【0026】
加えて、本発明による膜は、経費効率的で単純な態様で製造することができなければならない。さらに、本発明のもう一つの目的は、広い温度範囲にわたって高効率、特に高伝導性を呈する高分子電解質膜を提供することにあった。この関連で、伝導性、特に高温での伝導性は、追加の湿潤を行わずに達成することができなければならない。
【0027】
さらに、高い機械的安定性、具体的には高い弾性率、高い引張り強さ、低いクリープ及び高い破壊抵抗を有する高分子電解質膜を提供しなければならない。
【0028】
加えて、本発明のさらにもう一つの目的は、動作時に例えば水素又はメタノールのような極めて広範囲の燃料に対しても低い透過性を有する膜を提供することにあり、この膜はまた、低い酸素透過性を呈するものでなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0029】
これらの目的は、ビニル含有ホスホン酸を含む混合物の製造、並びにこの混合物及びさらにもう1種類のポリマーから入手可能な高分子電解質膜の製造によって達成される。ポリビニルホスホン酸の濃度が高く、鎖の可撓性が高く、ポリビニルホスホン酸の酸の強さが強いため、伝導性がGrotthus機構に基づくものとなって、これにより系の追加の湿潤が不要になる。ポリビニルホスホン酸は、反応性の基によって架橋されていてもよく、高温安定なポリマーと共に相互浸透した網状構造を形成する。従って、形成する水、又はDMFCの場合には水性燃料による電解質の洗い流しが大幅に減少する。このように、本発明による高分子電解質膜は、メタノール透過性が極く小さく、DMFCでの利用に特に適している。従って、水素、天然ガス、ガソリン、メタノール又はバイオマスのような多数の燃料による燃料電池のさらに恒久的な動作が可能になる。この関連で、膜はこれらの燃料の特に高い活性を可能にする。高温のため、メタノール酸化は高活性で起こり得る。特定の実施形態では、これらの膜は、特に100℃〜200℃の範囲の温度で所謂蒸気型DMFCに用いるのに適している。
【0030】
100℃を上回る温度で動作し得る可能性のため、気体不純物、特にCOに対するPt触媒の感受性が急激に低下する。COは、例えば天然ガス、メタノール又はガソリンのような含炭素化合物からの水素に富んだ気体のリフォーミングでの副産物として形成するか、又はメタノールの直接酸化の中間生成物としても形成する。典型的には、Pt触媒の触媒活性を大幅に減じない状態で120℃を上回る温度での燃料のCO含有量は5000ppmを上回ってよい。但し、150℃〜200℃の範囲の温度では、10,000ppm以上のCO量も許容される(N.J.Bjerrum等、Journal of Applied Electrochemistry、第31号、第773頁〜第779頁(2001年))。これにより、上流に連結されているリフォーミング工程が大幅に簡略化され、従って燃料電池系全体での経費の節減に繋がる。
【0031】
本発明による膜は、広い温度範囲にわたって高い伝導性を呈し、またこのことは追加の湿潤化を行わないでも達成される。さらに、本発明による膜を備えた燃料電池はまた、低温例えば80℃でも、燃料電池の実用寿命をこれにより大幅に損なうことなく動作することができる。
【0032】
さらに、本発明の膜は、高い機械的安定性を呈し、具体的には高い弾性率、高い引張り強さ、低いクリープ及び高い破壊抵抗を呈する。これ以外にも、これらの膜は驚くほど長い実用寿命を有する。
【0033】
本発明は、次のステップを含む方法によって入手可能なポリビニルホスホン酸を基本成分としたプロトン伝導性高分子膜を提供する。
【0034】
(A)ポリマーを含ビニルホスホン酸と混合するステップ、
(B)ステップ(A)による混合物を用いて担体上に二次元構造を形成するステップ、及び
(C)ステップ(B)による二次元構造中に存在する含ビニルホスホン酸を重合させるステップ。
尚、ステップ(C)における前記重合は、赤外光、近赤外光、紫外光、β線、γ線又は電子ビームの照射によって遊離基を生成するステップ(C’)、あるいは、遊離基を生成可能な物質を使用するステップ(C’)を経て行なうことができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
ステップ(A)で用いられるポリマーは、含ビニルホスホン酸における溶解度が1重量%以上、好ましくは3重量%以上である1種または複数のポリマーを含んでおり、溶解度は温度に依存する。但し、二次元構造を形成するのに用いられる混合物は、広い温度範囲で得てよく、結果的に所要の最低溶解度を達成していさえすればよい。温度の下限は混合物に含まれる液体の融点によって決まり、温度の上限は一般的には、ポリマー又は混合物の成分の分解温度によって決まる。一般的には、混合物の生成は、0℃〜250℃、好ましくは10℃〜200℃の温度範囲で起こる。さらに、溶解のために上昇圧を用いることができ、この関連で圧力の限度は技術的な可能性によって決まる。特に好ましくは、ステップ(A)では、160℃及び1barにおいて含ビニルホスホン酸における溶解度が1重量%以上のポリマーを用いる。
【0036】
好ましいポリマーとしては特に、ポリ(クロロプレン)、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリ(p−キシリレン)、ポリアリールメチレン、ポリスチレン、ポリメチルスチレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリビニルエーテル、ポリビニルアミン、ポリ(N−ビニルアセトアミド)、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジン、ポリビニルクロリド、ポリビニリデンクロリド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、PTFEとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、パーフルオロプロピルビニルエーテルとの共重合体、トリフルオロニトロソメタンとの共重合体、カルバルコキシ−パーフルオロアルコキシビニルエーテルとの共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニルフルオリド、ポリビニリデンフルオリド、ポリアクロレイン、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ポリシアノアクリレート、ポリメタクリルイミド、特にノルボルネンのシクロオレフィン系共重合体等のようなポリオレフィン;主鎖にC−O結合を有するポリマー、例えばポリアセタール、ポリオキシメチレン、ポリエーテル、ポリプロピレンオキシド、ポリエピクロロヒドリン、ポリテトラヒドロフラン、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルケトン、ポリエステル、特にポリヒドロキシ酢酸、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヒドロキシベンゾエート、ポリヒドロキシプロピオン酸、ポリピバロラクトン、ポリカプロラクトン、ポリマロン酸、ポリカーボネート;
主鎖にポリマー性C−S結合を有するもの、例えばポリスルフィドエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン;
主鎖にポリマー性C−N結合を有するもの、例えばポリイミン、ポリイソシアニド、ポリエーテルイミン、ポリエーテルイミド、ポリアニリン、ポリアラミド、ポリアミド、ポリヒドラジド、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアゾール、ポリアゾールエーテルケトン、ポリアジン;
液晶ポリマー、特にVectra、並びに
無機ポリマー、例えばポリシラン、ポリカルボシラン、ポリシロキサン、ポリケイ酸、ポリシリケート、シリコーン、ポリホスファゼン及びポリチアジルがある。
【0037】
本発明の特定の態様によれば、一つの繰り返し単位又は複数の異なる繰り返し単位に1個または複数の窒素原子、酸素原子及び/又はイオウ原子を含有する高温安定なポリマーを用いる。
【0038】
本発明の意味の範囲内で高温安定であるとは、120℃を上回る温度で燃料電池の高分子電解質として恒久的に用いることのできるポリマーを指す。「恒久的」とは、本発明による膜が、国際公開第01/18894A2号に記載されている方法によって測定した出力を初期出力を基準として50%を超えて低下させることなく、120℃以上、好ましくは160℃以上の温度で、100時間以上、好ましくは500時間以上にわたって動作し得ることを意味する。
【0039】
ステップ(A)に用いられるポリマーは好ましくは、ガラス転移温度又はビカー軟化温度VST/A/50が100℃以上、好ましくは150℃以上、特に最も好ましくは180℃以上であるポリマーである。
【0040】
特に好ましいのは、一つの繰り返し単位に1個または複数の窒素原子を含有するポリマーである。特に好ましいのは、繰り返し単位当たり1個または複数の窒素ヘテロ原子を有する1個または複数の芳香環を含有するポリマーである。この群の範囲内では、ポリアゾレンを基本成分としたポリマーが特に好ましい。これらの基礎となっているポリアゾールポリマーは、繰り返し単位当たり1個または複数の窒素ヘテロ原子を有する1個または複数の芳香環を含有する。
【0041】
芳香環は好ましくは1個〜3個の窒素原子を有する五員環又は六員環であって、この環がもう1個の環、特にもう1個の芳香環と環化(annullate)していてもよい。
【0042】
ポリアゾールを基本成分としたポリマーは、以下の一般式(I)及び/又は(II)及び/又は(III)及び/又は(IV)及び/又は(V)及び/又は(VI)及び/又は(VII)及び/又は(VIII)及び/又は(IX)及び/又は(X)及び/又は(XI)及び/又は(XII)及び/又は(XIII)及び/又は(XIV)及び/又は(XV)及び/又は(XVI)及び/又は(XVI)及び/又は(XVII)及び/又は(XVIII)及び/又は(XIX)及び/又は(XX)及び/又は(XXI)及び/又は(XXII)のアゾール繰り返し単位を含む。
【0043】
【化1】

【0044】
【化2】

【0045】
【化3】

【0046】
【化4】

【0047】
式中、
Arは同じであるか又は異なっており、四価の芳香族基又は複素環式芳香族基を表し、単核であっても多核であってもよく、
Ar1は同じであるか又は異なっており、二価の芳香族基又は複素環式芳香族基を表し、単核であっても多核であってもよく、
Ar2は同じであるか又は異なっており、二価又は三価の芳香族基又は複素環式芳香族基を表し、単核であっても多核であってもよく、
Ar3は同じであるか又は異なっており、三価の芳香族基又は複素環式芳香族基を表し、単核であっても多核であってもよく、
Ar4は同じであるか又は異なっており、三価の芳香族基又は複素環式芳香族基を表し、単核であっても多核であってもよく、
Ar5は同じであるか又は異なっており、四価の芳香族基又は複素環式芳香族基を表し、単核であっても多核であってもよく、
Ar6は同じであるか又は異なっており、二価の芳香族基又は複素環式芳香族基を表し、単核であっても多核であってもよく、
Ar7は同じであるか又は異なっており、二価の芳香族基又は複素環式芳香族基を表し、単核であっても多核であってもよく、
Ar8は同じであるか又は異なっており、三価の芳香族基又は複素環式芳香族基を表し、単核であっても多核であってもよく、
Ar9は同じであるか又は異なっており、二価、三価又は四価の芳香族基又は複素環式芳香族基を表し、単核であっても多核であってもよく、
Ar10は同じであるか又は異なっており、二価又は三価の芳香族基又は複素環式芳香族基を表し、単核であっても多核であってもよく、
Ar11は同じであるか又は異なっており、二価の芳香族基又は複素環式芳香族基を表し、単核であっても多核であってもよく、
Xは同じであるか又は異なっており、酸素、イオウ、又はアミノ基を表し、この基はさらなる基として水素原子、1個〜20個の炭素原子を含有する基、好ましくは分岐型又は非分岐型アルキル基若しくはアルコキシ基、又はアリール基を有し、
Rは同じであるか又は異なっており、水素、アルキル基及び芳香族基を表し、
n及びmは10以上、好ましくは100以上の整数である。
【0048】
本発明によれば、好ましい芳香族基又は複素環式芳香族基は、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルメタン、ジフェニルジメチルメタン、ビスフェノン、ジフェニルスルホン、チオフェン、フラン、ピロール、チアゾール、オキサゾール、イミダゾール、イソチアゾール、イソキサゾール、ピラゾール、1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ジフェニル−1,3,4−オキサジアゾール、1,3,4−チアジアゾール、1,3,4−トリアゾール、2,5−ジフェニル−1,3,4−トリアゾール、1,2,5−トリフェニル−1,3,4−トリアゾール、1,2,4−オキサジアゾール、1,2,4−チアジアゾール、1,2,4−トリアゾール、1,2,3−トリアゾール、1,2,3,4−テトラゾール、ベンゾ[b]チオフェン、ベンゾ[b]フラン、インドール、ベンゾ[c]チオフェン、ベンゾ[c]フラン、イソインドール、ベンズオキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンズイミダゾール、ベンズイソキサゾール、ベンズイソチアゾール、ベンゾピラゾール、ベンゾチアジアゾール、ベンゾトリアゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、カルバゾール、ピリジン、ビピリジン、ピラジン、ピラゾール、ピリミジン、ピリダジン、1,3,5−トリアジン、1,2,4−トリアジン、1,2,4,5−トリアジン、テトラジン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、1,8−ナフチリジン、1,5−ナフチリジン、1,6−ナフチリジン、1,7−ナフチリジン、フタラジン、ピリドピリミジン、プリン、プテリジン又はキノリジン、4H−キノリジン、ジフェニルエーテル、アントラセン、ベンゾピロール、ベンゾオキサチアジアゾール、ベンゾオキサジアゾール、ベンゾピリジン、ベンゾピラジン、ベンゾピラジジン、ベンゾピリミジン、ベンゾトリアジン、インドリジン、ピリドピリジン、イミダゾピリミジン、ピラジノピリミジン、カルバゾール、アシリジン、フェナジン、ベンゾキノリン、フェノキサジン、フェノチアジン、アクリジジン、ベンゾプテリジン、フェナントロリン及びフェナントレンから誘導され、これらの基は選択随意で置換されていてもよい。
【0049】
この関連で、Ar1、Ar4、Ar6、Ar7、Ar8、Ar9、Ar10、Ar11の置換パターンは任意であり、例えばフェニレンの場合には、Ar1、Ar4、Ar5、Ar7、Ar8、Ar9、Ar10、Ar11はo−フェニレン、m−フェニレン及びp−フェニレンであってよい。特に好ましい基は、ベンゼン及びビフェニレンから誘導され、これらの基は選択随意で置換されていてもよい。
【0050】
好ましいアルキル基は1個〜4個の炭素原子を有する短鎖アルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基又はi−プロピル基及びt−ブチル基等である。
【0051】
好ましい芳香族基はフェニル基又はナフチル基である。これらのアルキル基及び芳香族基は置換されていてもよい。
【0052】
好ましい置換基は、例えばフッ素のようなハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシ基、又は例えばメチル基若しくはエチル基のような短鎖アルキル基である。
【0053】
好ましいのは、式(I)の繰り返し単位を有するポリアゾールであり、一つの繰り返し単位の基Xは同じである。
【0054】
ポリアゾールはまた原則として、例えば基Xが異なっているような異なる繰り返し単位を含んでいてもよい。但し、好ましくは一つの繰り返し単位には同じ基Xだけが含まれる。
【0055】
本発明のさらに他の実施形態では、アゾール繰り返し単位を含有するポリマーは、式(I)〜式(XXII)のうち互いに異なる2種類以上の単位を含有する共重合体又は配合物である。ポリマーは、ブロック共重合体(2ブロック、3ブロック)、ランダム共重合体、周期型共重合体及び/又は交互型ポリマーとして存在していてよい。
【0056】
ポリマーのアゾール繰り返し単位の数は好ましくは、10以上の大きい数である。特に好ましいポリマーは、100個以上のアゾール繰り返し単位を含有する。
【0057】
本発明の範囲内では、ベンズイミダゾール繰り返し単位を含有するポリマーが好ましい。ベンズイミダゾール繰り返し単位を含有する極めて適切なポリマーの幾つかの例を以下の式によって示す。
【0058】
【化5】

【0059】
【化6】

【0060】
【化7】

【0061】
【化8】

【0062】
【化9】

【0063】
式中、n及びmは、10以上、好ましくは100以上の整数である。
【0064】
ステップ(A)に用いられるポリアゾール、但し特にポリベンズイミダゾールは、高い分子量を特徴とする。固有粘度として測定すると、好ましくは0.2dl/g以上であり、特に0.7dl/g〜10dl/g、特に好ましくは0.8dl/g〜5dl/gである。
【0065】
さらに好ましいポリアゾールポリマーは、ポリイミダゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリトリアゾール、ポリオキサジアゾール、ポリチアジアゾール、ポリピラゾール、ポリキノキサリン、ポリ(ピリジン)、ポリ(ピリミジン)及びポリ(テトラザピレン)である。
【0066】
特に好ましいのは、Celanese社から入手されるCelazoleであり、特に独国特許出願第10129458.1号に記載されているようなスクリーニングによって製造されるポリマーを用いる。
【0067】
さらに、独国特許出願第10117687.2号に記載されている方法に従って得られたポリアゾールが好ましい。
【0068】
好ましいポリマーとしては、ポリスルホン、特に主鎖に芳香族基及び/又は複素環式芳香族基を有するポリスルホンがある。本発明の特定の態様によれば、好ましいポリスルホン及びポリエーテルスルホンは、ISO1133に従って測定した溶融容積率MVR300/21.6が40cm3/10分以下であり、特に30cm3/10分以下、特に好ましくは20cm3/10分以下である。この関連で、ビカー軟化温度VST/A/50が180℃〜230℃のポリスルホンが好ましい。本発明のさらに好適な実施形態では、ポリスルホンの数平均分子量は30,000g/molを上回る。
【0069】
ポリスルホンを基本成分としたポリマーとしては特に、次の一般式(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)及び/又は(G)に対応する結合性スルホン基を有する繰り返し単位を含むポリマーがある。
【0070】
【化10】

【0071】
式中、基Rは互いに独立に同じであるか又は異なっており、芳香族基又は複素環式芳香族基を表し、これらの基は上で詳述したものである。これらの基としては特に、1,2−フェニレン、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン、4,4'−ビフェニル、ピリジン、キノリン、ナフタレン、フェナントレンがある。
【0072】
本発明の範囲内で好ましいポリスルホンには単独重合体、及び共重合体例えばランダム共重合体がある。特に好ましいポリスルホンは、次式(H)〜(N)の繰り返し単位を含む。
【0073】
【化11】

【0074】
式中、n>oである。
【0075】
【化12】

【0076】
式中、n<oである。
【0077】
【化13】

【0078】
以上に述べたポリスルホンは、商標名(登録商標)Victrex200P、(登録商標)Victrex720P、(登録商標)UltrasonE、(登録商標)UltrasonS、(登録商標)Mindel、(登録商標)RadelA、(登録商標)RadelR、(登録商標)VictrexHTA、(登録商標)Astrel及び(登録商標)Udelで市販品を入手することができる。
【0079】
加えて、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン及びポリアリールケトンは特に好ましい。これらの高性能ポリマーはそれ自体公知であり、商標名(登録商標)Victrex PEEK(商標)、(登録商標)Hostatec、(登録商標)Kadelで市販品を入手することができる。
【0080】
以上に述べたポリマーは個別に用いてもよいし又は混合物(配合物)として用いてもよい。この関連で、ポリアゾール及び/又はポリスルホンを含有する配合物が特に好ましい。配合物を用いることにより、機械的特性を向上させ、材料経費を抑えることができる。
【0081】
本発明による高分子膜はまた、充填材及び/又は助剤をさらに追加で含んでいてよい。
【0082】
応用技術の工程を改善するために、さらに他の充填材、特にプロトン伝導性充填材、及び追加の酸を、膜に追加で加えてもよい。この添加は、例えばステップ(A)及び/又はステップ(B)中に行うことができる。さらに、これらの添加物が液体形態で存在する場合には、ステップ(C)による重合の後に添加してもよい。
【0083】
プロトン伝導性充填材の非限定的実例は次の通りである。
【0084】
CsHSO4、Fe(SO42、(NH43H(SO42、LiHSO4、NaHSO4、KHSO4、RbSO4、LiN25SO4、NH4HSO4等のような硫酸塩、
Zr3(PO44、Zr(HPO42、HZr2(PO43、UO2PO4・3H2O、H8UO2PO4、Ce(HPO42、Ti(HPO42、KH2PO4、NaH2PO4、LiH2PO4、NH42PO4、CsH2PO4、CaHPO4、MgHPO4、HSbP28、HSb3214、H5Sb5220のようなリン酸塩、
3PW1240・nH2O(n=21〜29)、H3SiW1240・nH2O(n=21〜29)、HxWO3、HSbWO6、H3PMo1240、H2Sb411、HTaWO6、HNbO3、HTiNbO5、HTlTaO5、HSbTeO6、H5Ti49、HSbO3、H2MoO4のような多酸、
(NH43H(SeO42、UO2AsO4、(NH43H(SeO42、KH2AsO4、Cs3H(SeO42、Rb3H(SeO42のような亜セレン酸塩及びヒ素塩、
Al23、Sb25、ThO2、SnO2、ZrO2、MoO3のような酸化物、
ゼオライト、ゼオライト(NH4+)、層状ケイ酸塩、骨格状ケイ酸塩、H−ソーダ沸石、H−モルデン沸石、NH4−方沸石、NH4−方ソーダ石、NH4−没食子酸、H−モンモリロナイトのようなケイ酸塩、
HClO4、SbF5のような酸、
カーバイド、特にSiC、Si34、繊維、特にガラス繊維、ガラス粉及び/又は好ましくはポリアゾールを基本成分としたポリマー繊維のような充填材。
【0085】
これらの添加物は、プロトン伝導性高分子膜に通常量で含まれていてよいが、但し、膜の高い伝導性、長い実用寿命及び高い機械的安定性のようなプラスの特性が過剰量の添加物の添加によってあまりに大きな悪影響を受けるようであってはならない。一般的には、重合ステップ(C)による重合の後の膜は、80重量%以下、好ましくは50重量%以下、特に好ましくは20重量%以下の添加物を含む。
【0086】
加えて、この膜はまた、過フッ化スルホン酸添加物を含んでいてもよい(好ましくは0.1重量%〜20重量%、さらに好ましくは0.2重量%〜15重量%、特に最も好ましくは0.2重量%〜10重量%)。これらの添加物は、性能を改善し、カソードの近隣での酸素溶解度及び酸素拡散を増大させ、リン酸及びリン酸塩の白金への吸収を減少させる。(Chem.Depend.A、Tech.Univ.Denmark(デンマーク、Lyngby)のGang,Xiao、Hjuler,H.A.、Olsen,C.、Berg,R.W.、Bjerrum,N.J.による"Electrolyte addtives for phsophoric acid fuel cells"、J.Electrochem.Soc.、第140巻、第4号、第896頁〜第902頁(1993年)、及びCase Cent.Electrochem.Sci.,Case West.Reserve Univ.(米国オハイオ州Cleveland)のRazaq,M.、Razaq,A.、Yeager,E.、DesMarteau,Darryl D.、Singh,Sによる"Perfluorosulfonimide as an additive in phosphoric acid fuel cell"、J.Electrochem.Soc.、第136巻、第2号、第385頁〜第390頁(1989年))。
【0087】
過スルホン化添加物の非限定的実例は、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸アンモニウム、パーフルオロヘキサンスルホン酸カリウム、パーフルオロヘキサンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロヘキサンスルホン酸リチウム、パーフルオロヘキサンスルホン酸アンモニウム、パーフルオロヘキサンスルホン酸、フルオロブタンスルホン酸カリウム、フルオロブタンスルホン酸ナトリウム、フルオロブタンスルホン酸リチウム、ノナフルオロブタンスルホン酸アンモニウム、ノナフルオロブタンスルホン酸セシウム、ノナフルオロブタンスルホン酸、パーフルオロヘキサスルホン酸トリエチルアンモニウム及びパーフルオロスルホイミドである。
【0088】
含ビニルホスホン酸は当業者には公知である。これらの酸は、1個または複数の炭素−炭素二重結合と、1個または複数のホスホン酸基とを含有する化合物である。好ましくは、炭素−炭素二重結合を形成する2個の炭素原子が、二重結合の立体障害を小さくする基への2個以上、好ましくは3個の結合を含んでいる。これらの基としては特に、水素原子、及びハロゲン原子、特にフッ素原子がある。本発明の範囲内では、ポリビニルホスホン酸は、単独で、又はさらに他の単量体及び/若しくは架橋剤と共に行われる含ビニルホスホン酸の重合によって得られる重合生成物から形成される。
【0089】
含ビニルホスホン酸は、1個、2個、3個又はこれよりも多い炭素−炭素二重結合を含んでいてよい。加えて、含ビニルホスホン酸は、1個、2個、3個又はこれよりも多いホスホン酸基を含んでいてよい。
【0090】
一般的には、含ビニルホスホン酸は2個〜20個、好ましくは2個〜10個の炭素原子を含有する。
【0091】
ステップ(A)で用いられる含ビニルホスホン酸は好ましくは、次式の化合物、
【0092】
【化14】

【0093】
(式中、
Rは単結合、C1〜C15アルキル基、C1〜C15アルコキシ基、エチレンオキシ基、又はC5〜C20アリール基若しくはヘテロアリール基を表し、以上の基はその各部分においてハロゲン、−OH、−COOZ、−CN、NZ2によって置換されていてもよく、
Zは互いに独立に、水素、C1〜C15アルキル基、C1〜C15アルコキシ基、エチレンオキシ基、又はC5〜C20アリール基若しくはヘテロアリール基を表し、以上の基はその各部分においてハロゲン、−OH、−CNによって置換されていてもよく、
xは整数1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10であり、
yは整数1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10である。)、並びに/又は次式の化合物、
【0094】
【化15】

【0095】
(式中、
Rは単結合、C1〜C15アルキル基、C1〜C15アルコキシ基、エチレンオキシ基、又はC5〜C20アリール基若しくはヘテロアリール基を表し、以上の基はその各部分においてハロゲン、−OH、−COOZ、−CN、NZ2によって置換されていてもよく、
Zは互いに独立に、水素、C1〜C15アルキル基、C1〜C15アルコキシ基、その各部分においてハロゲン、−OH、−CNによって置換されていてもよく、
xは整数1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10である。)、並びに/又は次式の化合物、
【0096】
【化16】

【0097】
(式中、
Aは式COOR2、CN、CONR22、OR2及び/又はR2の基を表し、R2は水素、C1〜C15アルキル基、C1〜C15アルコキシ基、エチレンオキシ基、又はC5〜C20アリール基若しくはヘテロアリール基を表し、以上の基はその各部分においてハロゲン、−OH、COOZ、−CN及びNZ2によって置換されていてもよく、
Rは単結合、二重結合C1〜C15アルキレン基、C1〜C15アルキレンオキシ基例えばエチレンオキシ基、又は二重結合C5〜C20アリール基若しくはヘテロアリール基を表し、以上の基はその各部分においてハロゲン、−OH、−COOZ、−CN、NZ2によって置換されていてよく、
Zは互いに独立に、水素、C1〜C15アルキル基、C1〜C15アルコキシ基、エチレンオキシ基、又はC5〜C20アリール基若しくはヘテロアリール基を表し、以上の基はその各部分においてハロゲン,−OH、−CNによって置換されていてよく、
xは整数1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10である。)
を含んでいる。
【0098】
好ましい含ビニルホスホン酸としては特に、エテンホスホン酸、プロペンホスホン酸、ブテンホスホン酸のようなホスホン酸基を含有するアルケン;2−ホスホノメチルアクリル酸、2−ホスホノメチルメタクリル酸、2−ホスホノメチルアクリル酸アミド及び2−ホスホノメチルメタクリル酸アミドのようなホスホン酸基を含有するアクリル酸及び/又はメタクリル酸化合物がある。
【0099】
特に好ましくは、例えばAldrich社又はClariant GmbHから入手可能なもののような市販のビニルホスホン酸(エテンホスホン酸)を用いる。好ましいビニルホスホン酸は、純度が70%を上回り、特に90%を上回り、特に好ましくは97%を上回る。
【0100】
含ビニルホスホン酸はさらにまた、後に酸に転化し得る誘導体の形態で用いてよく、この関連で、酸への転化もまた重合状態で生じてよい。これらの誘導体としては特に、含ビニルホスホン酸の塩、エステル、アミド及びハロゲン化物がある。
【0101】
ステップ(A)で生成される混合物は好ましくは、全重量を基準として10重量%以上、特に50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上の含ビニルスルホン酸を含有する。本発明の特定の態様によれば、ステップ(A)で生成される混合物は、全重量を基準として60重量%以下のポリマー、特に50重量%以下のポリマー、特に好ましくは30重量%以下のポリマーを含有する。
【0102】
ステップ(A)で生成される混合物は加えて、有機溶媒及び/又は無機溶媒をさらに含んでいてもよい。有機溶媒としては特に、ジメチルスルホキシド(DMSO)のような極性非プロトン性溶媒、酢酸エチルのようなエステル、並びにアルコール、例えばエタノール、プロパノール、イソプロパノール及び/又はブタノールのような極性プロトン性溶媒がある。無機溶媒としては特に、水、リン酸及びポリリン酸がある。
【0103】
これらの溶媒は、加工性にプラスの影響を与え得る。具体的には、有機溶媒の添加によってポリマーの溶解度を高めることができる。かかる溶液内の含ビニルホスホン酸の含有量は5重量%以上、好ましくは10重量%以上、特に好ましくは10重量%〜97重量%である。
【0104】
本発明のさらに他の実施形態では、含ビニルホスホン酸は、架橋を生ずることが可能な単量体をさらに含有する。これらの単量体は特に、2個以上の炭素−炭素二重結合を含む化合物である。好ましいものは、ジエン、トリエン、テトラエン、ジメタクリレート、トリメタクリレート、テトラメタクリレート、ジアクリレート、トリアクリレート、テトラアクリレートである。
【0105】
特に好ましいものは、下記の式のジエン、トリエン及びテトラエン、
【0106】
【化17】

【0107】
下記の式のジメチルアクリレート、トリメチルアクリレート及びテトラメチルアクリレート、
【0108】
【化18】

【0109】
並びに下記の式のジアクリレート、トリアクリレート及びテトラアクリレート
【0110】
【化19】

【0111】
であり、式中、
RはC1〜C15アルキル基、C5〜C20アリール基若しくはヘテロアリール基、NR'、−SO2、PR'、Si(R')2を表し、以上の基はその各部分において置換されていてもよく、
R'は互いに独立に、水素、C1〜C15アルキル基、C1〜C15アルコキシ基、C5〜C20アリール基若しくはヘテロアリール基を表し、
nは2以上である。
【0112】
上述の基Rの置換基は好ましくは、ハロゲン基、ヒドロキシル基、カルボキシ基、カルボキシル基、カルボキシルエステル基、ニトリル基、アミン基、シリル基又はシロキサン基である。
【0113】
特に好ましい架橋剤は、アリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート及びポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、グリセロールジメタクリレート、ジウレタンジメタクリレート、トリメチルプロパントリメタクリレート、エポキシアクリレート、例えばエバクリル、N'N−メチレンビスアクリルアミド、カルビノール、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、ジビニルベンゼン、並びに/又はビスフェノールA/ジメチルアクリレートである。これらの化合物は、例えば米国ペンシルバニア州ExtonのSartomer社からCN−120、CN−104及びCN−980との名称で商品として入手可能である。
【0114】
架橋剤の利用は選択随意であるが、これらの化合物は通常、含ビニルホスホン酸を基準として0.05重量%〜30重量%、好ましくは0.1重量%〜20重量%、特に好ましくは1重量%〜10重量%の量で用いることができる。
【0115】
ステップ(A)で生成されるポリマーの混合物は、溶液であってよく、これに関連して、分散型又は懸濁型ポリマーも、この混合物に追加で含まれていてよい。
【0116】
ステップ(B)による二次元構造の形成は、ポリマーフィルムの製造で従来技術で公知であるそれ自体公知の手法(注型、吹付け、ナイフ塗布、押出し)によって行われる。従って、この混合物は二次元構造を形成するのに適している。混合物は対応して溶液又は懸濁液であってよく、可溶性の小さい成分の比は、二次元構造の形成を可能にする量までに制限される。担体として適しているのは、関連する条件下で不活性であることが知られている全ての担体である。これらの担体としては特に、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリヘキサフルオロプロピレン、PTFEとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド(PPS)及びポリプロピレン(PP)のそれぞれのフィルムがある。
【0117】
粘度を調節するために、水及び/又は容易に気化する有機溶媒を選択随意で混合物に添加してよい。このようにして、粘度を所望の値に調節して膜の形成を容易にすることができる。二次元構造の厚みは、一般的には15μm〜2000μmであり、好ましくは30μm〜1500μm、特に50μm〜1200μmであるが、これらの数値は限定を意味している訳ではない。
【0118】
ステップ(C)における含ビニルホスホン酸の重合は好ましくは、遊離基によって行われる。遊離基の形成は、熱的、光化学的、化学的、及び/又は電気化学的いずれで生じてもよい。
【0119】
例えば、遊離基を形成することが可能な1種または複数の物質を含有する開始溶液をステップ(A)による混合物に加えてよい。加えて、ステップ(B)で形成される二次元構造に開始溶液を塗工してもよい。この塗工は、従来技術で公知であるそれ自体公知の方法(例えば吹付け、浸漬等)によって行ってよい。
【0120】
適当な遊離基形成剤には特に、アゾ化合物、ペルオキシ化合物、過硫酸化合物又はアゾアミジンがある。非限定的実例は、ジベンゾイルペルオキシド、ジクメンペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、過硫酸二カリウム、過硫酸アンモニウム、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)(AIBN)、2,2'−アゾビス(イソ酪酸アミジン)塩酸、ベンズピナコール、ジベンジル誘導体、メチルエチレンケトンペルオキシド、1,1−アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、メチルエチルケトンペルオキシド、アセチルアセトンペルオキシド、ジラウリルペルオキシド、ジデカノイルペルオキシド、tert−ブチルペル−2−エチルヘキサノエート、ケトンペルオキシド、メチルイソブチルケトンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシベンゾエート、tert−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルペルオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン、tert−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、tert−ブチルペルオキシイソブチレート、tert−ブチルペルオキシアセテート、ジクミルペルオキシド、1,1−ビス(tert−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルペルオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、クミルヒドロペルオキシド、tert−ブチルヒドロペルオキシド、ビス(4−tert−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、並びにDuPont社から(登録商標)Vazo、例えば(登録商標)VazoV50及び(登録商標)VazoWSの名称で入手可能な遊離基形成剤がある。
【0121】
加えて、放射線照射によって遊離基を形成する遊離基形成剤を用いてもよい。好ましい化合物としては特に、α,α−ジエトキシアセトフェノン(DEAP、Upjohn Corp.)、n−ブチルベンゾインエーテル((登録商標)Trigonal−14、AKZO)、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン((登録商標)Irgacure651)、1−ベンゾイルシクロヘキサノール((登録商標)Irgacure184)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド((登録商標)Irgacure819)及び1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−フェニルプロパン−1−オン((登録商標)Irgacure2959)があり、Irgacureは各々の例でCiba Geigy Corp.から商品として入手可能である。
【0122】
通例、0.0001重量%〜5重量%、特に0.01重量%〜3重量%(含ビニルホスホン酸を基準とする)の遊離基形成剤を添加する。遊離基形成剤の量は、所望の重合度に応じて変えてよい。
【0123】
重合はまた、IR又はNIR(IR=赤外、すなわち波長が700nmを超える光、NIR=近IR、すなわち波長が約700nm〜2000nmの光、又は約0.6eV〜1.75eVにわたるエネルギ)の作用によって行われてもよい。
【0124】
さらに、重合は波長が400nm未満のUV光の作用によって行われてもよい。この重合方法はそれ自体公知であり、例えばHans Joerg EliasによるMakromolekulare Chemie、第5版、第1巻、第492頁〜第511頁、D.R.Arnold、N.C.Baird、J.R.Bolton、J.C.D.Brand、P.W.M.Jacobs、P.de Mayo、W.R.Wareによる"Photochemistry − An Introduction"、Academic Press、New York、並びに M.K.Mishraによる"Radical Photopolymerization of Vinyl Monomers"、J.Macromol.Sci.−Revs.Macromol.Chem.Physical.第C22号、第409頁(1982〜1983年)に記載されている。
【0125】
重合はまた、β線若しくはγ線、及び/又は電子ビームの作用によって行われてもよい。本発明の特定の実施形態によれば、膜を1kGy〜300kGy、好ましくは3kGy〜200kGy、特に最も好ましくは20kGy〜100kGyにわたる線量で照射する。
【0126】
ステップ(C)での含ビニルホスホン酸の重合は、好ましくは室温(20℃)を超え200℃未満、特に40℃〜150℃、特に好ましくは50℃〜120℃の温度で行われる。重合は好ましくは、常圧で行われるが、昇圧下で行ってもよい。重合によって二次元構造が硬化し、この関連でこの硬化を微小硬度測定によって監視することができる。好ましくは、重合によって生ずる硬度の上昇は、ステップ(B)で得られた二次元構造の硬度を基準として20%以上である。
【0127】
本発明の特定の実施形態によれば、膜は高い機械的安定性を有する。この量は膜の硬度から決定され、膜の硬度はDIN50539に従って微小硬度測定によって得られる。この目的のために、ビッカースダイヤモンドによって膜に連続的に20秒間以内で3mNまでの力を加えて、貫通深さを決定する。従って、室温での硬度は0.01N/mm2以上であり、好ましくは0.1N/mm2以上であり、特に最も好ましくは1N/mm2以上であるが、この値は限定を意味する訳ではない。次いで、力を5秒間にわたって3mNで一定に保ち、貫通深さからクリープを算出する。好ましい膜ではクリープCHU0.003/20/5はこれらの条件では20%未満であり、好ましくは10%未満、特に最も好ましくは5%未満である。微小硬度測定によって決定されるモジュラスYHUは、0.5MPa以上であり、特に5MPa以上、特に最も好ましくは10MPa以上であるが、この値は限定を意味する訳ではない。
【0128】
所望の重合度に応じて、ポリマーフィルムの膨潤及び引き続き行われる重合によって得られる二次元構造は自立膜となる。好ましくは、重合度は繰り返し単位2以上であり、特に5以上、特に好ましくは30以上、さらに特に50以上、特に最も好ましくは100以上である。この重合度は、数平均分子量Mnによって決定され、数平均分子量MnはGPC法によって測定することができる。膜に含まれるポリビニルホスホン酸を分解せずに単離する問題のため、この値は標本に基づいて決定され、この決定は溶媒を用いず且つポリマーを添加しないビニルホスホン酸の重合によって行われる。なお、ビニルホスホン酸及び遊離基開始剤の重量比は、膜の溶解後の比に比較して一定に保たれる。比較重合において達成される転化率は好ましくは、用いられる含ビニルホスホン酸を基準として20%以上、特に40%以上、特に好ましくは75%以上である。
【0129】
ステップ(C)での重合が層厚みの減少を齎す場合がある。好ましくは、自立膜の厚みは15μm〜1000μmであり、好ましくは20μm〜500μm、特に30μm〜250μmである。本発明による高分子膜は、0.5重量%〜97重量%のポリマーと、99.5重量%〜3重量%のポリビニルホスホン酸とを含有する。好ましくは、本発明による高分子膜は、3重量%〜95重量%のポリマーと、97重量%〜5重量%のポリビニルホスホン酸とを含有し、特に好ましくは5重量%〜90重量%のポリマーと、95重量%〜10重量%のポリビニルホスホン酸とを含有する。加えて、本発明による高分子膜はまた、充填材及び/又は助剤をさらに含んでいてよい。
【0130】
ステップ(C)による重合に続いて、膜を熱的、光化学的、化学的及び/又は電気化学的に表面上で架橋する。この膜表面の硬化は加えて、膜の特性を改善する。
【0131】
特定の態様によれば、膜を150℃以上、好ましくは200℃以上、特に好ましくは250℃以上の温度に加熱してよい。熱架橋は好ましくは、酸素の存在下で行われる。この工程段階での酸素濃度は通常、5体積%〜50体積%にわたり、好ましくは10体積%〜40体積%にわたるが、この値は限定を意味する訳ではない。
【0132】
架橋はまた、IR若しくはNIR(IR=赤外、すなわち波長が700nmを超える光、NIR=近IR、すなわち波長が約700nm〜2000nmにわたる光、若しくは約0.6eV〜1.75eVにわたるエネルギ)、及び/又は紫外光の作用で行われてもよい。さらにもう一つの方法は、β線若しくはγ線、及び/又は電子ビームによる照射である。線量はこの関連で、好ましくは5kGy〜200kGy、特に10kGy〜100kGyである。照射は空気又は不活性ガス内で行ってよい。このようにして、膜の利用時特性、特に耐久性が改善される。
【0133】
所望の架橋度に応じて、架橋反応の持続時間は広範囲にわたっていてよい。一般的にはこの反応時間は1秒間〜10時間にわたり、好ましくは1分間〜1時間にわたるが、この値は限定を意味する訳ではない。
【0134】
本発明による高分子膜は、従来公知のドープ型高分子膜に比べて改善された材料特性を有する。特に、本発明による高分子膜は公知の非ドープ型高分子膜に比べて一定の真性伝導率(intrinsic conductivity)を既に有している。このことは特に、本発明のポリマー状ポリビニルホスホン酸による。
【0135】
160℃の温度での本発明による膜の真性伝導率(intrinsic conductivity)は、一般的には0.001S/cm以上であり、好ましくは10mS/cm以上、特に15mS/cm以上、特に好ましくは20mS/cm以上である。これらの値は湿潤を行わないでも達成される。比伝導度(specific conductivity)は、4極構成のインピーダンス分光測定によって定電位モードで白金電極(白金線、直径0.25mm)を用いて測定される。電流収集電極間の距離は2cmとする。得られるスペクトルを、オーム抵抗器及びキャパシタを用いない並列構成から成る単純なモデルによって評価する。リン酸ドープ膜の標本断面は、標本の組立の直前に測定される。温度依存性を測定するために、測定セルを炉内で所望の温度にまで加熱して、標本の直近に配置されているPt−100熱電対によって調節する。所望の温度に達したら、測定を開始する前に標本を10分間にわたってこの温度に維持する。
【0136】
特定の実施形態によれば、本発明による膜は、特に小さいメタノール透過性(メタノールクロスオーバー)を有する。この量は、クロスオーバー電流密度によって表すことができる。
【0137】
所謂液体式直接型メタノール燃料電池における0.5Mメタノール溶液で90℃での動作時のクロスオーバー電流密度は、好ましくは100mA/cm2未満であり、特に70mA/cm2未満、特に好ましくは50mA/cm2未満、特に最も好ましくは10mA/cm2未満である。所謂気体式直接型メタノール燃料電池における2Mメタノール溶液で160℃での動作時のクロスオーバー電流密度は、好ましくは100mA/cm2未満であり、特に50mA/cm2未満、特に最も好ましくは10mA/cm2未満である。
【0138】
クロスオーバー電流密度を決定するためには、カソードにおいて放出される二酸化炭素の量をCO2センサによって測定する。クロスオーバー電流密度は、P.Zelenay、S.C.Thomas、S.Gottesfeld in S.Gottesfeld、T.F.Fullerによる"Proton Conducting Membrane Fuel Cells II"、ECS Proc.、第98巻、第27号、第300頁〜第308頁に記載されているように、上述のようにして得られるCO2量の値から算出される。
【0139】
本発明はまた、本発明による高分子膜を1枚以上含む膜−電極ユニットに関する。膜−電極ユニットは、例えば白金、ルテニウム又はパラジウムのような触媒活性物質の含有量が小さくても高い効率を有する。この目的のために、触媒活性層を設けた気体拡散ユニットを用いることができる。
【0140】
気体拡散ユニットは一般的には、電子伝導性を呈する。通例、この目的のためには二次元の導電性の耐酸構造が用いられる。かかる構造としては、例えば炭素繊維紙、黒鉛化炭素繊維紙、炭素繊維布、黒鉛化炭素繊維布及び/又はカーボンブラックの添加によって導電性となる二次元構造がある。
【0141】
触媒活性層は触媒活性物質を含む。触媒活性物質としては特に貴金属、具体的には白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム及び/又はルテニウムがある。これらの物質はまた、互いとの合金の形態で用いてもよい。さらに、これらの物質はまた、例えばCr、Zr、Ni、Co及び/又はTiのような卑金属との合金として用いてもよい。さらに、以上に述べた貴金属及び/又は卑金属の酸化物を用いることもできる。本発明の特定の態様によれば、触媒活性化合物は好ましくは、粒度が1nm〜1000nm、特に10nm〜200nm、好ましくは20nm〜100nmにわたる粒子の形態で用いられる。
【0142】
以上に述べた物質を含む触媒活性粒子は金属粉末、所謂黒色貴金属、特に、白金及び/又は白金合金として用いることができる。かかる粒子は、一般的には粒度が5nm〜200nm、好ましくは10nm〜100nmにわたる。
【0143】
さらに、金属を担体材料上で用いてもよい。好ましくは、この担体材料は炭素を含んでおり、炭素は特に、カーボンブラック、黒鉛又は黒鉛化カーボンブラックの形態で用いてよい。これらの支持された粒子の金属含有量は、粒子の全重量を基準として、一般的には1重量%〜80重量%にわたり、好ましくは5重量%〜60重量%、特に好ましくは10重量%〜50重量%にわたるが、この値は限定を意味する訳ではない。担体の粒度、特に炭素粒子の粒度は、好ましくは20nm〜100nmにわたり、特に30nm〜60nmにわたる。担体に配置される金属粒子の粒度は、好ましくは1nm〜20nmにわたり、特に1nm〜10nm、特に好ましくは2nm〜6nmにわたる。
【0144】
様々な粒子の粒度は、平均重量の平均値を表しており、透過型電子鏡検法によって決定することができる。
【0145】
以上に列挙した触媒活性粒子は一般的には、商品として入手することができる。
【0146】
さらに、触媒活性層は従来の添加物を含有していてよい。これらの添加物としては特に、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなフッ化ポリマー及び界面活性物質がある。
【0147】
界面活性物質としては特に、イオン性界面活性剤、例えば脂肪酸塩、具体的にはラウリル酸ナトリウム及びオレイン酸カリウム;アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸塩、具体的にはパーフルオロヘキサンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロヘキサンスルホン酸リチウム、パーフルオロヘキサンスルホン酸アンモニウム、パーフルオロヘキサンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム、並びに非イオン性界面活性剤、具体的にはエトキシル化脂肪アルコール及びポリエチレングリコールがある。
【0148】
特に好ましい添加物はフッ化ポリマー、具体的にはテトラフルオロエチレンポリマーである。本発明の特定の実施形態によれば、1種または複数の貴金属と選択随意で1種または複数の担体材料とを含む触媒材料に対するフッ化ポリマーの重量比は0.1を上回り、好ましくは0.2〜0.6にわたる。
【0149】
本発明のもう一つの特定の実施形態によれば、触媒層は厚みが1μm〜1000μmにわたり、特に5μm〜500μm、好ましくは10μm〜300μmにわたる。この値は平均値を表しており、走査型電子顕微鏡(SEM)によって得ることのできる画像から断面での層厚みを測定することにより決定することができる。
【0150】
本発明のさらに他の特定の実施形態によれば、触媒層の貴金属含有量は0.1mg/cm2〜10.0mg/cm2であり、好ましくは0.3mg/cm2〜6.0mg/cm2、特に好ましくは0.3mg/cm2〜3.0mg/cm2である。これらの値は、二次元標本の元素分析によって決定することができる。
【0151】
膜−電極ユニットの製造は、特に熱間圧縮によって行うことができる。このために、触媒活性層と膜とを設けた気体拡散ユニットから成る電極の複合体を50℃〜200℃にわたる温度に加熱して0.1MPa〜5MPaの圧力で圧縮する。一般的には、触媒層を膜に結合させるためには数秒間で十分である。好ましくは、この時間は1秒間〜5分間にわたり、特に5秒間〜1分間にわたる。
【0152】
本発明はまた、触媒層で被覆された本発明によるプロトン伝導性高分子膜を提供する。
【0153】
触媒層を膜に塗工するためには様々な方法を用いてよい。このように、例えば、本発明による膜に触媒層を設けるために、触媒を含有するコーティングを設けた担体を用いることができる。
【0154】
この関連で、膜の片面又は両面に触媒層を設けることができる。膜の片面にのみ触媒層を設ける場合には、膜の裏面を、触媒層を含む電極に圧縮しなければならない。膜の両面に触媒層を設ける場合には、最適な結果を得るために以下に述べる方法を併用することができる。
【0155】
本発明によれば、触媒層は、触媒懸濁液を用いた方法によって塗工することができる。さらに、触媒を含有する粉末を用いてもよい。
【0156】
触媒懸濁液は触媒活性物質を含有する。これらの物質については、触媒活性層と関連して上で詳述してある。
【0157】
さらに、触媒懸濁液は従来の添加物を含んでいてよい。これらの添加物としては特に、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなフッ化ポリマー、並びに増粘剤、特に例えばセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール及び界面活性剤のような水溶性ポリマーがあり、これらについては触媒活性層と関連して上述されている。
【0158】
加えて、触媒懸濁液は、室温で液体である成分を含有していてよい。これらの成分としては特に、極性又は非極性であってよい有機溶媒、リン酸、ポリリン酸及び/又は水がある。触媒懸濁液は、好ましくは1重量%〜99重量%、特に10重量%〜80重量%の液体成分を含有する。
【0159】
極性有機溶媒としては特に、エタノール、プロパノール、イソプロパノール及び/又はブタノールのようなアルコールがある。有機非極性溶媒としては特に、ターペンタイン油を含有するDuPontの薄層希釈剤8470のような公知の薄層希釈剤がある。
【0160】
特に好ましい添加物はフッ化ポリマーであり、特にテトラフルオロエチレンポリマーである。本発明の特定の実施形態によれば、1種または複数の貴金属と選択随意で1種または複数の担体材料とを含む触媒材料に対するフッ化ポリマーの重量比は、0.1を超え、好ましくは0.2〜0.6にわたる。
【0161】
触媒懸濁液は、従来の方法によって本発明による膜に塗工することができる。懸濁液はペースト形態で存在していてもよく、懸濁液の粘度に応じて、懸濁液を塗工し得る様々な方法が公知である。適当なのはフィルム、布、織布及び/又は紙をコーティングする方法であって、特に、吹付け法、例えばスクリーン印刷及びシルクスクリーン印刷のような印刷法、インクジェット法、並びにローラ塗工があり、特にスクリーン印刷ローラ、スリットノズル塗工及びナイフブレード塗工がある。それぞれの方法、及び触媒懸濁液の粘度は膜の硬度によって決まる。
【0162】
粘度は、固形分含有量、特に触媒活性粒子の比及び添加物の比によって影響され得る。調節すべき粘度は触媒懸濁液の塗工方法によって決まり、最適な値及びその決定方法は当業者に共通の知識である。
【0163】
膜の硬度に応じて、触媒と膜との結合の改善を加熱及び/又は圧縮によって達成することができる。
【0164】
本発明の特定の態様によれば、触媒層は粉末法によって塗工される。このとき、触媒粉末を用い、触媒粉末は追加の添加物を含んでいてよく、添加物については例として上で述べた。
【0165】
触媒粉末を塗工するためには、特に吹付け法及びスクリーン法を用いてよい。スクリーン法では、粉末混合物をノズル例えばスリットノズルで膜に吹き付ける。一般的には、次いで、触媒と膜との間の結合を改善するために、触媒層を設けた膜を加熱する。加熱は例えば熱間圧延機によって行ってよい。かかる方法、及び粉末を塗工する装置については、特に独国特許第19509748号、同第19509749号及び同第19757492号に記載されている。
【0166】
スクリーン法では、振動スクリーンによって触媒粉末を膜に塗工する。触媒粉末を膜に塗工する装置は国際公開第00/26982号に記載されている。触媒粉末の塗工の後に触媒と膜との結合を加熱によって改善することができる。この関連で、1層以上の触媒層を設けた膜を50℃〜200℃、特に100℃〜180℃にわたる温度に加熱することができる。
【0167】
さらに、触媒を含有するコーティングを担体に塗工し、次いで担体に配置された触媒を含有するコーティングを本発明による膜に転写する方法によって触媒層を塗工してもよい。かかる方法は、国際公開第92/15121号に例として記載されている。
【0168】
触媒コーティングを設けた担体は、例えば前述の触媒懸濁液を調製することにより製造することができる。次いで、この触媒懸濁液を例えばポリテトラフルオロエチレンの担体フィルムに塗工する。懸濁液の塗工の後に、揮発性成分を除去する。
【0169】
触媒を含有するコーティングの転写は、特に熱間圧縮によって行うことができる。このために、触媒層及び膜、並びに担体フィルムを含む複合体を50℃〜200℃にわたる温度に加熱して0.1MPa〜5MPaの圧力で圧縮する。一般的には、触媒層を膜に結合させるためには数秒間で十分である。好ましくは、この時間は1秒間〜5分間にわたり、特に5秒間〜1分間にわたる。
【0170】
本発明の特定の実施形態によれば、触媒層は厚みが1μm〜1000μmにわたり、特に5μm〜500μm、好ましくは10μm〜300μmにわたる。この値は平均値を表しており、走査型電子顕微鏡(SEM)によって得ることのできる画像から断面での層厚みを測定することにより決定することができる。
【0171】
本発明の特定の実施形態によれば、1層以上の触媒層を設けた膜は、0.1mg/cm2〜10.0mg/cm2、好ましくは0.3mg/cm2〜6.0mg/cm2、特に好ましくは0.3mg/cm2〜3.0mg/cm2を構成する。これらの値は二次元標本の元素分析によって決定することができる。
【0172】
触媒でのコーティングに続いて、得られた膜を光化学的、化学的及び/又は電気化学的に架橋することができる。この膜表面の硬化は加えて、膜の特性を改善する。この目的のために、膜を150℃以上、好ましくは200℃以上、特に好ましくは250℃以上の温度に加熱してよい。特定の実施形態によれば、熱架橋は好ましくは、酸素の存在下で行われる。この工程段階での酸素濃度は、通常5体積%〜50体積%にわたり、好ましくは10体積%〜40体積%にわたるが、この値は限定を意味する訳ではない。
【0173】
架橋はまた、IR若しくはNIR(IR=赤外、すなわち波長が700nmを超える光、NIR=近IR、すなわち波長が約700nm〜2000nmにわたる光、若しくは約0.6eV〜1.75eVにわたるエネルギ)、及び/又は紫外光の作用で行われてもよい。さらにもう一つの方法は、β線若しくはγ線、及び/又は電子ビームによる照射である。線量はこの関連で好ましくは5kGy〜200kGyであり、特に10kGy〜100kGyである。照射は空気又は不活性ガス内で行ってよい。このようにして、膜の利用時特性、特に耐久性が改善される。
【0174】
所望の架橋度に応じて、架橋反応の持続時間は広範囲にわたっていてよい。一般的にはこの反応時間は1秒間〜10時間にわたり、好ましくは1分間〜1時間にわたるが、この値は限定を意味する訳ではない。
【0175】
触媒で被覆された本発明による高分子膜は、従来公知のドープ型高分子膜に比べて改善された材料特性を有する。特に、公知のドープ型高分子膜に比べて良好な性能値を有する。このことは特に、膜と触媒との間の接触が良好になったことによる。
【0176】
膜−電極ユニットを製造するために、本発明による膜を気体拡散ユニットに連結することができる。膜の両面に触媒層が設けられている場合には、気体拡散ユニットは圧縮段階の前に触媒を一切含んでいてはならない。
【0177】
本発明による膜−電極ユニットは驚くほど高い電力密度を有する。特定の実施形態によれば、好ましい膜−電極ユニットは0.1A/cm2以上、好ましくは0.2A/cm2以上、特に好ましくは0.3A/cm2の電流密度を与える。この電流密度は常圧(絶対圧1013mbar、開放セル出力による)及び0.6Vのセル電圧において、アノードを純粋な水素とし、カソードを空気(約20体積%酸素、約80体積%窒素)とした動作時に測定される。この関連で、150℃〜200℃にわたり、好ましくは160℃〜180℃、特に170℃の特に高い温度を用いてよい。
【0178】
上述の電力密度はまた、両面での燃料ガスの化学量論的量を小さくすることにより達成することもできる。本発明の特定の態様によれば、化学量論的量は2以下、好ましくは1.5以下、特に最も好ましくは1.2以下である。
【0179】
本発明の特定の実施形態によれば、触媒層の貴金属含有量を小さくする。本発明による膜に含まれる好ましい触媒層の貴金属含有量は、好ましくは2mg/cm2以下、特に1mg/cm2以下、特に最も好ましくは0.5mg/cm2以下である。本発明の特定の態様によれば、膜の片面は膜の裏面よりも金属含有量が高い。好ましくは、片面の金属含有量は裏面の金属含有量の2倍以上である。
【0180】
本発明の変形形態では、膜形成は担体上ではなく電極上で直接的に起こってもよい。これにより、ステップ(C)による処理を対応して短縮することができ、又は代替的には、膜は最早自立型でなくてよいので開始溶液の量を減少させることができる。かかる膜、又は本発明によるかかる高分子膜で被覆された電極もまた本発明の範囲内とする。
【0181】
さらに、積層型膜−電極ユニットにおいて含ビニルホスホン酸の重合を行うことも可能である。このために、電極に溶液を塗工して、第2の選択随意で同様に被覆した電極に接触させて圧縮する。次いで、前述したように積層型膜−電極ユニットにおいて重合を行う。
【0182】
コーティングは、厚みが2μm〜500μmであり、好ましくは5μm及び300μm、特に10μm〜200μmである。これにより、所謂超小型燃料電池、特にDMFC超小型燃料電池での利用が可能になる。
【0183】
かかる被覆電極は、本発明による高分子膜を選択随意で1枚以上含む膜−電極ユニットに組み入れることができる。
【0184】
さらに他の変形形態では、触媒活性層を本発明による膜に塗工して、これを気体拡散ユニットに接続してもよい。このために、ステップ(A)〜ステップ(C)に従って膜を形成して触媒を塗工する。一変形形態では、触媒を開始溶液の前に又は開始溶液と共に塗工してもよい。これらの構造も本発明の範囲内とする。
【0185】
加えて、ステップ(A)、ステップ(B)及びステップ(C)による膜の形成は、触媒を既に含有する担体又は担体フィルム上で起こってもよい。担体又は担体フィルムを取り除いた後に、本発明による膜上に触媒が配置される。これらの二次元構造も本発明の範囲内とする。
【0186】
本発明による高分子膜を1枚以上含む膜−電極ユニットに、選択随意でポリアゾールを基本成分としたさらに他の高分子膜を組み合わせたもの、又はポリマー配合物膜も本発明の範囲内とする。
【0187】
本発明による高分子膜の可能な利用領域としては特に、燃料電池、電気分解、キャパシタ及びバッテリ系での応用がある。高分子膜の全体的特性から、高分子膜は好ましくは燃料電池に利用される。
【実施例】
【0188】
実験による実施例
実施例1:PBI−VPA混合物の製造工程
独国特許第10052237.8号に記載されているように、固有粘度(intrinsic viscosity)が0.8dl/gのポリベンズイミダゾール(PBI)ポリマーをジメチルアセトアミドに溶かして、16%のPBI−DMAc溶液を形成する。次いで、強く攪拌して水を加えながらこの溶液からPBIポリマーを沈澱させて、坩堝型ガラス濾過器で濾過する。次いで、これにより得られた湿ったポリマーを、残留湿分が86%となるように、結晶皿で50℃で16時間にわたって処理する。次いで、これにより得られたPBIポリマー270gを平底フラスコ(plane ground flask)に投入する。ここに、Clariantから入手可能なビニルホスホン酸(97%)720gを加える。175℃で4時間にわたって緩やかに攪拌することにより混合物を調製する。
【0189】
実施例2:膜生成の工程
実施例1による混合物を150℃でポリエチレンテレフタレートの担体上にナイフ塗布して、非自立膜を得る。この非自立膜を、2,2'−アゾ−ビス(イソ酪酸アミジン)塩酸5%と、Clariantから入手可能なビニルホスホン酸(97%)50gと、N,N'−メチレンビスアクリルアミド0.356gとを含有する水溶液1.25gから成る溶液内で20時間にわたって室温に置く。次いで、膜を130℃で3時間にわたって処理する。このようにして得られた膜は、厚みが180μmである。かかる膜の伝導性についてインピーダンス分光測定によって測定した結果を表1にまとめる。熱処理の後に微小硬度測定によって機械的特性(弾性率、硬度HU及びクリープCr)を決定した。このために、ビッカースダイヤモンドによって膜に連続的に20秒間以内で3mNまでの力を加えて、貫通深さを決定する。次いで、力を3mNで5秒間にわたって一定に保ち、貫通深さからクリープを算出する。これらの膜の特性を表2にまとめる。
【0190】
【表1】

【0191】
実施例3:放射線照射による膜生成
実施例1による混合物を150℃でポリエチレンテレフタレートの担体上にナイフ塗布して、非自立膜を得る。この非自立膜を、33kGyの放射線量で電子線照射によって処理する。これにより得られた膜について、インピーダンス分光測定によって伝導性を決定する。これらの照射された膜の機械的特性(弾性率、硬度HU及びクリープCr)を微小硬度測定によって決定した。この膜の特性を表にまとめ、実施例2から得られる照射されていない膜と比較する。
【0192】
実施例4
実施例3を基本的に繰り返したが、66kGyの放射線量で処理を行った点が異なる。得られたデータを表2に示す。
【0193】
実施例5
実施例3を基本的に繰り返したが、99kGyの放射線量で処理を行った点が異なる。得られたデータを表2に示す。
【0194】
【表2】

【0195】
実施例6:架橋剤によるPBI−VPA膜の生成
実施例1による混合物を150℃でポリエチレンテレフタレートの担体上にナイフ塗布して、非自立膜を得る。この非自立膜を、Clariantから入手可能なビニルホスホン酸(97%)50gと、N,N'−メチレンビスアクリルアミド1.4gとから成る溶液内で20時間にわたって室温に置く。次いで、この膜を33kGyの放射線量で電子線照射によって処理する。このようにして得られた膜について、インピーダンス分光測定によって伝導性を測定する。これらの照射された膜の機械的特性を微小硬度測定によって決定した。これらの膜の特性を表3にまとめる。
【0196】
実施例7
実施例6を基本的に繰り返したが、66kGyの放射線量で処理を行った点が異なる。得られたデータを表3に示す。
【0197】
実施例8
実施例6を基本的に繰り返したが、99kGyの放射線量で処理を行った点が異なる。得られたデータを表3に示す。
【0198】
【表3】

【0199】
実施例9:VPA−PBI溶液の調製工程
固有粘度が1.0dl/gのポリベンズイミダゾールポリマー100gを89%リン酸溶液250ml内で160℃で4時間にわたって処理する。次いで、過剰な酸を濾過器で吸引濾過して3回水洗する。次いで、このようにして得られたポリマーを10%水酸化アンモニウム(NH4OH)溶液100mlで2回中和した後に、蒸留水で2回処理する。ついで、このポリマーを160℃で1時間にわたって処理して、残留湿分を8%にする。次いで、Clariantから入手可能なビニルホスホン酸(97%)600gをこのように予備処理されたPBIポリマー65gに加える。150℃で4時間にわたって穏やかに攪拌しながら均一な溶液を形成する。
【0200】
実施例10
非自立膜を150℃でこの実施例9からの溶液からナイフ塗布する。
【0201】
この非自立膜を33kGyの放射線量で電子線照射によって処理する。これにより得られた膜について、インピーダンス分光測定によって伝導性を決定する。これらの照射された膜の機械的特性を微小硬度測定によって決定した。これらの膜の特性を表4にまとめる。
【0202】
実施例11
実施例10を基本的に繰り返したが、66kGyの放射線量で処理を行った点が異なる。得られたデータを表4に示す。
【0203】
実施例12
実施例10を基本的に繰り返したが、99kGyの放射線量で処理を行った点が異なる。得られたデータを表4に示す。
【0204】
【表4】

【0205】
洗い流される可能性のある酸の量を決定するために、実施例10〜12による照射された膜を第1段階で室温で水に加え、10分間にわたって攪拌して、膜を除去した後に、放出された酸を滴定によって第2の滴定点までの0.1M水酸化ナトリウムの消費量から算出する。第2段階では、膜標本をビーカー内で30分間にわたって沸騰水で処理する。これにより放出された酸を再び、滴定によって第2の滴定点まで0.1M水酸化ナトリウムの消費量から測定する。第3段階では、このようにして予備処理された膜を再び、30分間にわたって沸騰水で処理して、これにより放出された酸を再び滴定によって決定する。得られた結果を表5にまとめる。
【0206】
この手順を照射されていない膜で行うと、第1段階での第2の終点までの0.1M水酸化ナトリウムの消費量は54.5mlであり、第2段階では2ml未満、第3段階では0.2ml未満である。
【0207】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
15μm〜1000μmの範囲の厚さを有し、160℃における真性伝導率が0.001S/cm以上であるプロトン伝導性高分子膜の製造方法であって、
(A)ポリマーと含ビニルホスホン酸とを混合して混合物を調製するステップと、
(B)ステップ(A)による前記混合物を用いて担体上に薄膜構造を形成するステップと、
(C’)赤外光、近赤外光、紫外光、β線、γ線又は電子ビームの照射によって遊離基を生成するステップ、あるいは、遊離基を生成可能な物質を使用するステップと
(C)ステップ(B)による薄膜構造中に存在する含ビニルホスホン酸を重合させて、相互浸透した網目構造(IPN)を形成するステップ、を含む方法:
但し、前記ポリマーは、一つの繰り返し単位中に少なくとも1個の窒素原子を含有するポリアゾールポリマーであり、また、前記含ビニルホスホン酸は、次式の化学構造
【化1】

(式中、Rは結合、C1〜C15アルキレン基、C1〜C15アルキレンオキシ基、又はC5〜C20アリーレン基若しくはヘテロアリーレン基を表し、以上の基はハロゲン、−OH、−COOZ、−CN、NZ2で置換されていてもよく、
Zは互いに独立に、水素、C1〜C15アルキル基、C1〜C15アルコキシ基、又はC5〜C20アリール基若しくはヘテロアリール基を表し、以上の基はハロゲン、−OH、−CNで置換されていてもよく、
xは整数1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10であり、
yは整数1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10である、)、
及び/又は次式の化学構造
【化2】

(式中、Rは結合、C1〜C15アルキレン基、C1〜C15アルキレンオキシ基、又はC5〜C20アリーレン基若しくはヘテロアリーレン基を表し、以上の基はハロゲン、−OH、−COOZ、−CN、NZ2で置換されていてもよく、
Zは互いに独立に、水素、C1〜C15アルキル基、C1〜C15アルコキシ基、又はC5〜C20アリール基若しくはヘテロアリール基を表し、以上の基はハロゲン、−OH、−CNで置換されていてもよく、
xは整数1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10である)、
及び/又は次式の化学構造
【化3】

(式中、Aは式COOR2、CN、CONR22、OR2及び/又はR2の基を表し、R2は水素、C1〜C15アルキル基、C1〜C15アルコキシ基、又はC5〜C20アリール基若しくはヘテロアリール基を表し、以上の基はハロゲン、−OH、COOZ、−CN及びNZ2で置換されていてもよく、
Rは結合、C1〜C15アルキレン基、C1〜C15アルキレンオキシ基、又はC5〜C20アリーレン基若しくはヘテロアリーレン基を表し、以上の基はハロゲン、−OH、−COOZ、−CN、NZ2で置換されていてもよく、
Zは互いに独立に、水素、C1〜C15アルキル基、C1〜C15アルコキシ基、又はC5〜C20アリール基若しくはヘテロアリール基を表し、以上の基はハロゲン、−OH、−CNで置換されていてもよく、
xは整数1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10である)
を有する化合物であり、ステップ(1)の混合物は前記含ビニルホスホン酸を10質量%以上含有する。
【請求項2】
前記膜が0.5質量%〜90質量%の前記ポリマーと、99.5質量%〜10質量%のポリビニルホスホン酸とを含有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記膜が触媒活性成分を含有する層を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2011−52221(P2011−52221A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224932(P2010−224932)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【分割の表示】特願2003−573730(P2003−573730)の分割
【原出願日】平成15年3月4日(2003.3.4)
【出願人】(510264501)ビーエーエスエフ フューエル セル リサーチ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1)
【氏名又は名称原語表記】BASF Fuel Cell Research GmbH
【Fターム(参考)】