説明

プロピレンオキサイドの製造方法

【課題】より高い水素基準選択率を与えるプロピレンオキサイドの製造方法が求められている。
【解決手段】貴金属触媒、MFI構造を有する結晶性チタノシリケート及び式(I)
−S(O)−R (I)
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜20の置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。該炭化水素基はヘテロ原子を含有していてもよい。nは0〜2の整数を表す。)
で示される有機硫黄化合物の存在下、水素、酸素及びプロピレンを反応させる工程を含むことを特徴とするプロピレンオキサイドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレンオキサイドの製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、パラジウム処理したTS-1結晶を水/メタノールでスラリー化し、該スラリーに液体プロピレンと、水素、酸素及び窒素を含む混合ガスとを混合して、プロピレンオキサイドを製造する方法が記載されている。該方法では、水素を基準とするプロピレンオキサイドの選択率(以下、水素基準選択率と記すことがある)として12.5%でプロピレンオキサイドが製造し得ることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−513987号公報([0065]実施例22、表5、2欄)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
より高い水素基準選択率を与えるプロピレンオキサイドの製造方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような状況下、本発明者らは鋭意検討した結果、以下の本発明に至った。
すなわち、本発明は、
<1> 貴金属触媒、MFI構造を有する結晶性チタノシリケート及び式(I)
−S(O)−R (I)
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜20の置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。該炭化水素基はヘテロ原子を含有していてもよい。nは0〜2の整数を表す。)
で示される有機硫黄化合物の存在下、水素、酸素及びプロピレンを反応させる工程を含むことを特徴とするプロピレンオキサイドの製造方法;
<2> MFI構造を有する結晶性チタノシリケートがTS-1であることを特徴とする<1>記載の製造方法;
【0006】
<3> 有機硫黄化合物が、スルフィド化合物であることを特徴とする<1>又は<2>記載の製造方法;
<4> スルフィド化合物が、ジアルキルスルフィド、アルキルアリールスルフィド又はジアリールスルフィドであることを特徴とする<3>記載の製造方法;
【0007】
<5> 前記工程が、さらに、溶媒が存在下し、かつ、有機硫黄化合物が該溶媒に溶解していることを特徴とする<1>〜<4>のいずれか記載の製造方法;
<6> 溶媒が、アルコール溶媒、ケトン溶媒、ニトリル溶媒、エーテル溶媒、脂肪族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、エステル溶媒、グリコール溶媒及び水からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒であることを特徴とする<5>記載の製造方法;
<7> 溶媒が、メタノール及び水の混合溶媒であることを特徴とする<5>又は<6>記載の製造方法;
<8> 前記工程が、さらに、アントラキノンの存在下であることを特徴とする<1>〜<7>のいずれか記載の製造方法;
【0008】
<9> 貴金属触媒が、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム及び金からなる群より選ばれる少なくとも1種の貴金属を含む触媒であることを特徴とする<1>〜<8>のいずれか記載の製造方法;
<10> 貴金属触媒が、貴金属を担体に担持した触媒であることを特徴とする<1>〜<9>のいずれか記載の製造方法;
<11> 担体が活性炭であることを特徴とする<10>記載の製造方法;
<12> 担体が、有機硫黄化合物を担持した担体であることを特徴とする<10>又は<11>記載の製造方法;
等である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、従来より高い水素基準選択率でプロピレンオキサイドが提供可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、貴金属触媒、MFI構造を有する結晶性チタノシリケート(以下、本チタノシリケートと記すことがある)及び有機硫黄化合物の存在下、水素、酸素及びプロピレンを反応させる工程(以下、本工程と記すことがある)を含むものである。
次に、本工程に用いる有機硫黄化合物、貴金属触媒及び本チタノシリケートについて順次説明し、続いて、本工程について説明する。
【0011】
<有機硫黄化合物>
本工程に用いられる有機硫黄化合物とは、式(I)
−S(O)−R (I)
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜20の置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。該炭化水素基はヘテロ原子を含有していてもよい。nは0〜2の整数を表す。)
で示される有機硫黄化合物である。有機硫黄化合物としては、例えば、n=0のスルフィド化合物、n=1のスルホキシド化合物及びn=2のスルホン化合物が挙げられる。
有機硫黄化合物として、1種のみ用いてもよいし、異なる複数種を混合して用いてもよい。
ここで、前記炭化水素基としては、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基及び置換基を有していてもよいアルケニル基等が挙げられる。
また、該炭化水素基は、窒素、酸素もしくは硫黄等のヘテロ原子を含有していてもよい。ここで、ヘテロ原子を含有する炭化水素基とは、該炭化水素基を構成する原子又は原子団の一部がヘテロ原子に置き換わった基を意味する。
【0012】
無置換のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基及びイコシル基等の直鎖もしくは分岐を有する炭素数1〜20のアルキル基等が挙げられる。
尚、本発明では、炭素数1〜20のアルキル基などの「炭素数1〜20」を「C1−20」と記すことがある。
置換基を有していてもよいアルキル基とは、前記に例示された無置換のアルキル基に含まれる水素原子の全部又は一部が後述する置換基に置換された基である。
【0013】
置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子もしくはヨウ素原子)、ヒドロキシ基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、アミノ基、モノ(C1−20アルキル)アミノ基、ジ(C1−20アルキル)アミノ基、カルボキシ基、炭素数2〜21のアルコキシカルボニル基、炭素数7〜20アリールオキシカルボニル基、アルカノイル基、アリールカルボニル基、ホルミル基、(C1−20アルキル)チオ基、(C6−20アリール)チオ基、(C1−20アルキル)スルフィニル基、(C6−20アリール)スルフィニル基、(C6−20アリール)スルフェニル基、(C1−20アルキル)スルホニル基及び(C6−20アリール)スルホニル基等を挙げることができる。
【0014】
アルキル基に含まれるメチレン基は、ヘテロ原子に置き換わっていてもよい。
【0015】
アリール基としては、例えば、置換基を有していてもよいC4−20アリール基等を挙げることができる。無置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、フラニル基、ピリジル基等を挙げることができる。
前記置換基を有していてもよいアリール基は、窒素、酸素もしくは硫黄等のヘテロ原子を含むヘテロアリール基であってもよい。
置換基としては前記と同様のものが例示される。
【0016】
置換基を有していてもよいアルケニル基としては、例えば、エテニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−メチルエテニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基等のC2−20アルケニル基等を挙げることができる。
アルケニル基に含まれるメチレン基は、ヘテロ原子に置き換わっていてもよい。
【0017】
スルフィド化合物とは、式(1)
−S−R (1)
(式中、R及びRは、前記と同じ意味を表す。)
で示される化合物である。
【0018】
スルフィド化合物としては、好ましくはジアルキルスルフィド、アルキルアリールスルフィド及びジアリールスルフィド、並びに、これらの化合物のアルキル基及び/又はアリール基が置換基を有するスルフィド化合物等が挙げられる。より好ましくはジ(C1−C20アルキル)スルフィド、(C1−C20アルキル)(C6−C20アリール)スルフィド及びジ(C6−C20アリール)スルフィド、並びに、これらの化合物のアルキル基及び/又はアリール基が置換基を有するスルフィド化合物が挙げられ、更により好ましくはジ(C1−C5アルキル)スルフィド、(C1−C5アルキル)(C6−C10アリール)スルフィド及びジ(C6−C10アリール)スルフィド、並びに、これらの化合物のアルキル基及び/又はアリール基がヒドロキシル基を有するスルフィド化合物が挙げられる。
【0019】
前記スルフィド化合物としては、例えば、ジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、イソプロピルメチルスルフィド、ジイソプロピルスルフィド、ジブチルスルフィド、ターシャリーブチルメチルスルフィド、ジターシャリーブチルスルフィド、ビス(メチルチオ)メタン、チオジグリコール、2−(エチルチオ)エタノール、2−(イソプロピルチオ)エタノール、2,2’−チオジエタノール、3,6−ジチア−1,8−オクタンジオール、チオモルホリン、エチルビニルスルフィド、テトラヒドロチオフェン、ジフェニルスルフィド、メチルフェニルスルフィド、4−メトキシチオアニソール、2−(フェニルチオ)エタノール、メトキシメチルフェニルスルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、ビス(2−アミノフェニル)スルフィド、ビス(フェニルチオ)メタン、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、チアントレン、2−アミノフェニルフェニルスルフィド、4,4’−ジピリジルスルフィド、1,2−ビス(フェニルチオ)エタン、フェニルトリフルオロメチルスルフィド、フェニルビニルスルフィド、アリルフェニルスルフィド、2−(メチルチオ)アニリン、2−(メチルチオ)ピリジン、2−フルオロチオアニソール、2−クロロチオアニソール、2−ブロモチオアニソール、4−ブロモチオアニソール、4−(メチルチオ)ベンズアルデヒド、(フェニルチオ)アセトニトリル、2−メトキシチオアニソール、2−メチル−3−(メチルチオ)フラン及びチオ酢酸S−フェニル等が挙げられる。
好ましくは、ジブチルスルフィド、2,2’−チオジエタノール、メチルフェニルスルフィド及びジフェニルスルフィド等が挙げられ、より好ましくは、メチルフェニルスルフィド及びジフェニルスルフィド等が挙げられる。
【0020】
スルホキシド化合物とは、式(2)
−S(O)−R (2)
(式中、R及びRは、前記と同じ意味を表す。)
で示される化合物である。
【0021】
スルホキシド化合物としては、例えば、ジアルキルスルホキシド、アルキルアリールスルホキシド及びジアリールスルホキシド、並びに、これらの化合物のアルキル基及び/又はアリール基が置換基を有するスルホキシド化合物を挙げることができる。好ましくは(C1−C20アルキル)スルホキシド、(C1−C20アルキル)(C6−C20アリール)スルホキシドおよびジ(C6−C20アリール)スルホキシドが挙げられ、より好ましくは(C1−C5アルキル)スルホキシド、(C1−C5アルキル)(C6−C10アリール)スルホキシド及びジ(C6−C10アリール)スルホキシドが挙げられる。
【0022】
スルホキシド化合物としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジプロピルスルホキシド、ジブチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルホキシド、メチルフェニルスルホキシド、フェニルビニルスルホキシド、ジベンジルスルホキシド、メチル(メチルスルフィニル)メチルスルフィド及び1,2−ビス(フェニルスルフィニル)エタン等が挙げられる。
【0023】
スルホン化合物とは、式(3)
−S(O)−R (3)
(式中、R及びRは、前記と同じ意味を表す。)
で示される化合物である。
【0024】
スルホン化合物としては、例えば、ジアルキルスルホン、アルキルアリールスルホン、ジアリールスルホン及びアルキレン構造を有する環状スルホン、並びにこれらの化合物のアルキル基及び/又はアリール基が置換基を有するスルホン化合物を挙げることができる。好ましくはジ(C1−C20アルキル)スルホン、(C1−C20アルキル)(C6−C20アリール)スルホンおよびジ(C6−C20アリール)スルホンが挙げられ、より好ましくはジ(C1−C5アルキル)スルホン、(C1−C5アルキル)(C6−C10アリール)スルホン及びジ(C6−C10アリール)スルホンが挙げられる。
【0025】
スルホン化合物としては、例えば、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、イソプロピルメチルスルホン、ジプロピルスルホン、ジブチルスルホン、2−ヒドロキシメチルエチルスルホン、3−スルホレン、ジビニルスルホン、スルホラン、メチルフェニルスルホン、エチルフェニルスルホン、フェニルビニルスルホン、ジフェニルスルホン、ビス(ビニルスルホニル)メタン、4,4−ジオキソ−1,4−オキサチアン、3−メチルスルホラン、メチルスルホニルアセトニトリル、4−クロロフェニルメチルスルホン、(フェニルスルホニル)酢酸エチル及びアリルフェニルスルホン等が挙げられる。
好ましくは、ジメチルスルホン、ジフェニルスルホン、スルホラン等が挙げられ、より好ましくは、ジフェニルスルホンが挙げられる。
【0026】
本工程における有機硫黄化合物の供給方法としては、例えば、該有機硫黄化合物を、後述する本工程に用いられる溶媒に溶解させた溶液としてから供する方法、本工程に用いられる貴金属触媒に該有機硫黄化合物を担持させる方法等を挙げることができる。
また、反応器内で酸素により酸化もしくは水素により還元されることで、前記のスルフィド化合物、スルホキシド化合物、あるいはスルホン化合物に変換される化合物を供してもよい。
【0027】
前記有機硫黄化合物の使用量は、本工程に用いられる溶媒1kgあたり、例えば、0.1μmol/kg〜500mmol/kgの範囲を挙げることができ、好ましくは1μmol/kg〜50mmol/kgの範囲、より好ましくは1μmol/kg〜5mmol/kgの範囲が挙げられる。
【0028】
<貴金属触媒>
本製造方法に用いる貴金属触媒としては、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム、金等の貴金属を含むものである。
貴金属触媒は1種類の貴金属を含んでいても、複数の貴金属を含んでいてもよい。また、複数種の貴金属からなる合金又は混合物を含んでいてもよく、例えば、白金、金、ロジウム、イリジウム、オスミウム等のパラジウム以外の貴金属とパラジウムとの混合物、前記以外の貴金属とパラジウムとの合金とを挙げることができる。
【0029】
好ましい貴金属としては、例えば、パラジウム、白金及び金からなる群より選ばれる少なくとも1種の貴金属であり、より好ましくはパラジウム又はパラジウムと金との混合物、パラジウムと白金との混合物等があげられる。
また、例えば、パラジウムコロイドなどの貴金属コロイドを用いてもよい。かかる貴金属コロイドは、市販のものを使用してもよいし、また、例えば、貴金属粒子をクエン酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンやヘキサメタリン酸ナトリウム等の分散剤で分散させることにより調製することもできる。
【0030】
貴金属触媒は、好ましくは、担体に貴金属を担持した形態で使用される。なお、貴金属触媒のうち、担体に貴金属を担持したものは、一般に担持貴金属触媒と呼ばれている。
担体としては、例えば、後述する本チタノシアネート、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア及びニオビア等の酸化物;ニオブ酸、ジルコニウム酸、タングステン酸及びチタン酸等の水酸化物;活性炭、カーボンブラック、グラファイト及びカーボンナノチューブ等などの炭素等が挙げられる。
担体として複数種の担体を用いてもよい。
好ましい担体としては、例えば、本チタノシリケート、炭素等を挙げることができ、より好ましくは、活性炭があげられる。
【0031】
担体に対する貴金属の担持方法(担持貴金属触媒の調製方法)としては、例えば、貴金属を含む化合物(以下、貴金属化合物と記すことがある)を、溶媒に溶解した溶液を担体上に含浸した後、還元する方法、例えば、貴金属のコロイド溶液を担体上に含浸した後、得られた担持物を必要に応じ不活性ガス下にて焼成する方法等を挙げることができる。
【0032】
貴金属触媒としてパラジウムを用いる場合を例にとり、前記貴金属化合物、すなわちパラジウム化合物を説明する。パラジウム化合物として、例えば、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸ナトリウム四水和物、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸カリウム等の4価のパラジウム化合物類;塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、パラジウムアセチルアセトナート(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)、ジクロロ(ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン)パラジウム(II)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロテトラアンミンパラジウム(II)、ジブロモテトラアンミンパラジウム(II)、ジクロロ(シクロオクタ−1,5−ジエン)パラジウム(II)、パラジウムトリフルオロアセテート(II)等の2価パラジウム化合物などが例示される。
【0033】
担体上に担持された貴金属化合物は、還元することが好ましい。具体的には、還元剤を用いて液相あるいは気相中で還元する方法が挙げられる。気相で還元する場合(気相還元)の還元剤としては、水素が例示される。気相還元の際の、好ましい反応温度(還元温度)は、0〜500℃の範囲等を挙げることができる。また、不活性ガス雰囲気下、熱分解時でアンモニアガスを発生する貴金属化合物を用いた場合では、このアンモニアガスを還元剤として用いることが可能である。この場合は、貴金属化合物を担体に担持した後、不活性ガス雰囲気下で熱処理すればよい。還元温度は、貴金属化合物の種類等によって異なるが、該貴金属化合物としてジクロロテトラアンミンパラジウム(II)を用いた場合は、100〜500℃の範囲が好ましく、200〜350℃の範囲がさらに好ましい。
一方、液相で還元する場合(液相還元)の還元剤としては、水素、ヒドラジン1水和物、ホルムアルデヒド及び水素化ホウ素ナトリウム等があげられる。ヒドラジン1水和物やホルムアルデヒドを用いる場合には、アルカリを添加して実施してもよい。該液相還元の反応条件は、貴金属化合物及び担体の種類や、用いる還元剤の種類及び量に応じて、適切な条件を調節することができる。
【0034】
担持貴金属触媒における貴金属の含有量としては、例えば、0.01〜20質量%の範囲を挙げることができ、好ましくは、0.1〜10質量%の範囲等が挙げられる。
本発明において、上記貴金属触媒の量は、後述する本工程に用いる溶媒に対し、好ましくは0.00001〜1質量%、より好ましくは0.0001〜0.1質量%である。
【0035】
担持貴金属触媒を用いる場合、有機硫黄化合物をこの担持貴金属触媒に担持しておいてもよい。有機硫黄化合物を担持した担持貴金属触媒は、例えば、Advanced Synthesis and Catalysis 350,406−410,(2008)に記載された方法に準じて調製できる。具体な調製例を挙げると、担持貴金属触媒と有機硫黄化合物とをアルコール中で攪拌し、その後、アルコール及び必要に応じて他の有機溶媒で洗浄することにより得る方法である。有機硫黄化合物を担持した担持貴金属触媒において、有機硫黄化合物の担持量は、硫黄原子換算で0.01〜25質量%の範囲が好ましく、0.01〜5質量%の範囲がさらに好ましい。
【0036】
本チタノシリケートは、MFI構造を有する結晶性チタノシリケートである。
チタノシリケートとは、4配位Ti(チタン原子)を持つシリケートの総称であり、多孔構造を有するものである。本チタノシリケートは、実質的に4配位Tiを持つチタノシリケートを意味し、200nm〜400nmの波長領域における紫外可視吸収スペクトルが、210nm〜230nmの波長領域で最大の吸収ピークが現れるものを表す(例えば、Chemical Communications 1026−1027,(2002) 図2(d)、(e)参照)。上記紫外可視吸収スペクトルは、拡散反射装置を付属した紫外可視分光光度計を用いて、拡散反射法にて測定することができる。
【0037】
MFI構造を有する結晶性チタノシリケートとは、IZA(国際ゼオライト学会)の構造コードでMFI構造を有する結晶性チタノシリケートを意味し、具体的にはTS−1が例示される。
【0038】
本チタノシリケートを合成する一般的な方法は、型剤あるいは構造規定剤として界面活性剤を使用し、チタン化合物とケイ素化合物を加水分解させ、必要に応じて水熱合成等で結晶化あるいは細孔規則性を向上させた後、焼成あるいは抽出により界面活性剤を除去する方法である。
【0039】
本チタノシリケートとしては、好ましくはTS−1が挙げられる。
【0040】
本チタノシリケートは、過酸化水素溶液で処理することにより活性化したものを使用することもできる。具体的な処理方法としては、例えば、過酸化水素の濃度が0.0001質量%〜50質量%の範囲の過酸化水素溶液と本チタノシリケートを接触させる方法等を挙げることができる。過酸化水素溶液の溶媒は、例えば、後述する本工程と同様の水及び有機溶媒の混合溶媒が、好ましい。
【0041】
<本工程>
本工程において、貴金属触媒と本チタノシリケートとの質量比(貴金属触媒の質量/該チタノシリケートの質量)は、0.01〜100質量%の範囲が好ましく、0.1〜100質量%の範囲がより好ましい。
【0042】
本工程に用いる溶媒としては、水、有機溶媒又はこれらの混合溶媒が好ましい。有機溶媒としては、例えば、アルコール溶媒、ケトン溶媒、ニトリル溶媒、エーテル溶媒、脂肪族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、エステル溶媒、グリコール溶媒またはそれらの混合物があげられる。好ましい有機溶媒としては、アルコール溶媒が挙げられる。
【0043】
アルコール溶媒としては、直鎖又は分岐鎖飽和脂肪族アルコール、あるいは芳香族アルコールが挙げられる。アルコール溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール及び炭素数6〜10のアリールアルコールが例示され、メタノールが好ましい。
溶媒としては、水とアルコールとの混合溶媒が好ましく、水とアルコールを例にしてその質量比率を説明すると、水:アルコールが、90:10〜0.01:99.99の範囲が好ましく、50:50〜0.1:99.9の範囲がより好ましく、40:60〜5:95の範囲がさらに好ましい。
【0044】
本工程は、貴金属触媒、MFI構造を有する結晶性チタノシリケート及び有機硫黄化合物の存在下、水素、酸素及びプロピレンを反応させ、プロピレンオキサイドを得る工程である。
酸素としては、酸素ガス等の分子状酸素が挙げられる。酸素ガスは、圧力スウィング法で製造した酸素ガスであってもよいし、深冷分離等で製造した高純度酸素ガスであってもよい。また、酸素としては空気を用いてよい。
水素としては、一般に、水素ガスが用いられる。また、酸素ガス及び/又は水素ガスは、本工程の進行を妨げない不活性ガスで希釈してから用いることもできる。不活性ガスとしては、窒素,アルゴン,二酸化炭素、メタン,エタン,プロパンが挙げられる。酸素ガス及び水素ガスの流通量、並びに、これらのガスを希釈するための不活性ガスの濃度は、用いるプロピレンの物質量や反応スケール等の他の条件に応じて調節する。
【0045】
酸素と水素の分圧比としては、例えば、酸素:水素=1:50〜50:1の範囲を挙げることができ、好ましくは、1:5〜5:1の範囲が挙げられる。
【0046】
本工程におけるプロピレンの量としては、酸素に対するモル比(=プロピレン:酸素)で表して、例えば、1:5〜5:1の範囲を挙げることができる。なお、本工程を連続形式の反応形式で行う場合、プロピレンは、本工程に用いられる溶媒1Lに対し0.01〜1000gの濃度であることが好ましい。
【0047】
本工程に用いる反応器は、流通式固定床反応器、流通式スラリー完全混合反応器等が挙げられる。
【0048】
本工程における反応温度としては、例えば、0〜150℃の範囲を挙げることができ、好ましくは、40〜90℃の範囲が挙げられる。
本工程における反応圧力は、ゲージ圧力で、例えば、0.1MPa〜20MPaの範囲を挙げることができ、好ましくは、1MPa〜10MPaの範囲が挙げられる。
本工程終了後、反応器から取り出した液相もしくは気相を蒸留分離することによりプロピレンオキサイドを得ることができる。
【0049】
本工程においては、多環化合物、キノイド化合物等のプロパン副生を抑制する作用を示す添加剤を共存させることが好ましい。該添加剤の共存は、水素を基準とするプロピレンオキサイドの選択率(以下、水素基準選択率と記すとがある)を向上させる傾向があることから好ましい。該添加剤としては、具体的には、アントラセン、テトラセン、9−メチルアントラセン、ナフタレン、テトラセン、ジフェニルエーテル等の多環化合物(例えば、特開2009−23998号公報)、アントラキノン、9,10−フェナントラキノン、ベンゾキノン、2−エチルアントラキノン等のキノイド化合物(例えば、特開2008−106030号公報参照)等が挙げられる。上記添加剤のうち好ましい添加剤としては、アントラセン、テトラセン、9−メチルアントラセン、ナフタレン、テトラセン、アントラキノン、9,10−フェナントラキノン、2−エチルアントラキノン等の縮合多環芳香族化合物が挙げられる。より好ましい添加剤としては、アントラキノンがあげられる。
【0050】
添加剤の使用量は、本工程に用いられる溶媒1kgあたり、0.001mmol/kg〜500mmol/kgの範囲が好ましく、0.01mmol/kg〜50mmol/kgの範囲がさらに好ましい。
【0051】
本工程においては、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオンまたはアルキルアリールアンモニウムイオンを含む塩(以下、これらの塩を「アンモニウム塩」と総称する場合がある。)を溶媒に加えてよい。アンモニウム系塩を加えることにより、水素基準選択率が向上する傾向がある。アンモニウム塩としては、例えば、硫酸アンモニウム塩、硫酸水素アンモニウム塩、炭酸水素アンモニウム塩、リン酸アンモニウム塩、リン酸水素アンモニウム塩、リン酸2水素アンモニウム塩、ピロリン酸水素アンモニウム塩、ピロリン酸アンモニウム塩、ハロゲン化アンモニウム塩、硝酸アンモニウム塩などの無機酸の塩、酢酸アンモニウム塩などの有機酸塩などを挙げることができる。好ましいアンモニウム塩としては、リン酸水素2アンモニウム塩が挙げられる。
アンモニウム塩の使用量としては、本工程に用いられる溶媒1kgあたりの物質量で表して、0.001mmol/kg〜100mmol/kgの範囲を挙げることができる。
【0052】
本工程は、水素を基準とするプロピレンオキサイドの選択率(水素基準選択率)が優れる。また、本工程は、本チタノシリケート重量あたり、1時間あたりのプロピレンオキサイドの生成量が優れる。
【0053】
<その他の工程>
本工程を経て、反応器から取り出された反応混合物は、目的物であるプロピレンオキサイド、未反応のプロピレン等や副生物であるプロパン等が含まれている。当該反応混合物からは公知の精製手段により、目的とするプロピレンオキサイドを分離することができる。かかる精製手段としては、例えば、蒸留分離等が挙げられる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を説明する。
【0055】
[参考例1:貴金属触媒(Pd/活性炭(AC)触媒)の調製]
予め2Lの水にて洗浄した活性炭(和光純薬製)6gと、水300mLと、を1Lナスフラスコ中に仕込み、空気雰囲気下、室温にて撹拌した。攪拌後の懸濁液に、パラジウム(Pd)コロイド0.60mmolを含む水分散液100mLを、空気雰囲気下、室温にてゆっくり滴下した。滴下終了後、さらに懸濁液を空気雰囲気下、室温にて8時間撹拌した。攪拌終了後、ロータリーエバポレータを用いて水分を除去し、80℃にて6時間真空乾燥し、さらに窒素雰囲気下300℃で6時間焼成することで、Pd/AC触媒を得た。また、ICP発光分析から求められたPd含量は0.95質量%であった。
【0056】
[実施例1]
容量0.3Lのオートクレーブを反応器として用い、反応器にTS−1(触媒学会参照触媒、ARC-TS1AS(1))及びPd/AC触媒(参考例1で得られたPd/AC触媒)を仕込んだ後、密閉した。
反応器中に、プロピレン/酸素/水素/窒素の体積比が7.2/4.0/4.2/85.6である原料ガスを20L/時間の供給速度で、0.07mmol/kgのアントラキノン及び5.4μmol/kgのジフェニルスルフィドを含む水/メタノール=20/80(質量比)の溶液を108mL/時間の供給速度でそれぞれ供給した。反応器からは、フィルターを介して液相及び気相を連続的に抜き出した。反応器における滞留時間は90分間であった。この間、反応器中の内容物の温度は60℃、反応器中の圧力は0.8MPa(ゲージ圧)に調整した。
反応器内に供給された溶媒133gに対し、TS−1の量が1.2g、Pd/AC触媒の量が0.08gとなるように、TS−1及びPd/AC触媒の使用量は調節した。
反応開始から5時間後に抜き出した液相及び気相を、ガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、チタノシリケート単位質量あたりのプロピレンオキサイド生成活性は5.2mmol−PO/g−チタノシリケート・時間(ここに示す「PO」はプロピレンオキサイドを意味する。)、水素基準選択率(生成したプロピレンオキサイドモル量/消費した水素モル量)は25%であった。
【0057】
[参考例2:貴金属触媒(PhS含有Pd/AC触媒)の調製]
活性炭(和光純薬製)は、予め10Lの熱水(100℃)で洗浄し、さらに洗浄後の活性炭20gを、150℃、窒素気流下で6時間乾燥させた。上記活性炭6gと水1Lとを1Lナスフラスコ中に仕込み、空気雰囲気下、室温(約20℃)にて撹拌した。攪拌後の懸濁液に、パラジウム(Pd)コロイド0.60mmolを含む水分散液100mLを、空気雰囲気下、室温にてゆっくり滴下した。滴下終了後、さらに懸濁液を空気雰囲気下、室温にて8時間撹拌した。攪拌終了後、ロータリーエバポレータを用いて水分を除去し、80℃にて6時間真空乾燥させて、黒色粉末を得た。
かくして得られた黒色粉末を、2Lの水、3Lの熱水(100℃)の順で洗浄し、150℃窒素気流下で6時間乾燥させ、Pd/AC触媒を得た。ICP発光分析から求められたS(硫黄)含量は0.041質量%であった。
【0058】
上記の方法で得られたPd/AC触媒0.6gと、ジフェニルスルフィド(PhS)0.021gを含むメタノール溶液8mLと、を10mL二口ナスフラスコ中に仕込み、空気雰囲気下、室温にて5日間攪拌した。得られた懸濁液をろ過した後、メタノール及びジエチルエーテルで洗浄し、50℃にて2時間真空乾燥し、PhS含有Pd/AC触媒を得た。また、ICP発光分析からPd含量が1.06質量%であり、S(硫黄)含量が0.067質量%であることが分かった。
【0059】
[実施例2]
ジフェニルスルフィドを含まず、0.07mmol/kgのアントラキノンを含む水/メタノールを用いることと、貴金属触媒として参考例3で調製されたものを用いること以外は実施例1と同様に行った。
反応開始から5時間後に抜き出した液相及び気相を、ガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、チタノシリケート単位質量あたりのプロピレンオキサイド生成活性は4.8mmol−PO/g−チタノシリケート・時間(ここに示す「PO」はプロピレンオキサイドを意味する。)、水素基準選択率(生成したプロピレンオキサイドモル量/消費した水素モル量)は20%であった。
【0060】
[比較例1]
ジフェニルスルフィドを含まず、0.07mmol/kgのアントラキノンを含む水/メタノールを用いることと以外は実施例1と同様に行った。
反応開始から5時間後に抜き出した液相及び気相を、ガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、チタノシリケート単位質量あたりのプロピレンオキサイド生成活性は、4.4mmol−PO/g−チタノシリケート・時間、水素基準選択率は18%であった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の製造方法によれば、従来より高い水素基準選択率でプロピレンオキサイドが提供可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属触媒、MFI構造を有する結晶性チタノシリケート及び式(I)
−S(O)−R (I)
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜20の置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。該炭化水素基はヘテロ原子を含有していてもよい。nは0〜2の整数を表す。)
で示される有機硫黄化合物の存在下、水素、酸素及びプロピレンを反応させる工程を含むことを特徴とするプロピレンオキサイドの製造方法。
【請求項2】
MFI構造を有する結晶性チタノシリケートがTS-1であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
有機硫黄化合物が、スルフィド化合物であることを特徴とする請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
スルフィド化合物が、ジアルキルスルフィド、アルキルアリールスルフィド又はジアリールスルフィドであることを特徴とする請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
前記工程が、さらに、溶媒が存在下し、かつ、有機硫黄化合物が該溶媒に溶解していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の製造方法。
【請求項6】
溶媒が、アルコール溶媒、ケトン溶媒、ニトリル溶媒、エーテル溶媒、脂肪族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、エステル溶媒、グリコール溶媒及び水からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒であることを特徴とする請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
溶媒が、メタノール及び水の混合溶媒であることを特徴とする請求項5又は6記載の製造方法。
【請求項8】
前記工程が、さらに、アントラキノンの存在下であることを請求項1〜7のいずれか記載の製造方法。
【請求項9】
貴金属触媒が、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム及び金からなる群より選ばれる少なくとも1種の貴金属を含む触媒であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載の製造方法。
【請求項10】
貴金属触媒が、貴金属を担体に担持した触媒であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載の製造方法。
【請求項11】
担体が活性炭であることを特徴とする請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
担体が、有機硫黄化合物を担持した担体であることを特徴とする請求項10又は11記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−6887(P2012−6887A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146038(P2010−146038)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】