説明

プロピレン系樹脂射出成形品

【課題】高い透明性を有し臭気のないプロピレン系樹脂射出成形品を提供する。
【解決手段】プロピレン系重合体A100重量部に対し、下記一般式1で示されるリン酸エステルナトリウム塩系造核剤B0.01〜0.5重量部と高級脂肪酸アルミニウム塩C0.01〜0.5重量部を含有するプロピレン系樹脂を射出成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン系樹脂射出成形品に関し、特に優れた透明性を有し、かつ臭気の改善されたプロピレン系樹脂射出成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは、優れた成形性、機械的特性、耐熱性および化学的な安定性を兼ね備えた汎用樹脂であるため、特にその射出成形品は、各種食品容器、キャップ、医療用器具、理化学実験器具、自動車部品、電気部品等、各種の広い分野に使用されている。
近年、プロピレン系樹脂射出成形品に関する要求性能は、ますます高くなっており、特に食品容器や医療用器具においては、内容物の視認性の点から、高い透明性を有するものが求められている。例えば、食品容器は、内容物が鮮明に透視できないと商品としての価値がアピールしにくいことから高透明のものが求められ、薬液をあらかじめ充填したプレフィルドシリンジやキット製剤等の医療用容器では、異物混入を目視で見つけるために高透明で、かつ、安全性の観点から薬液への溶出成分のないものが求められる。
【0003】
プロピレン系樹脂は、その高い結晶性のために、特にポリスチレン、ポリ塩化ビニル等に比較して透明性が著しく劣ると言う欠点がある。そのため、プロピレン系樹脂の透明性を改良する方法としては、例えば、α−オレフィンとの共重合を行って結晶性を低下させ透明性を改良したプロピレン系共重合体とすることが採用されている。しかしながら、このプロピレンとα−オレフィンとの共重合により透明性を改良する方法では、α−オレフィン量を多くするほど透明性が良くなるが、製品の剛性が著しく低下するため、α−オレフィンは少量しか使用できず、透明性改良効果はおのずと制限されるという問題点がある。
【0004】
このようにプロピレン系樹脂のみでは、十分な透明性を発揮させることが通常困難であり、プロピレン系樹脂のみの性能で高透明射出成形品を達成するには限界がある。
そこで、プロピレン系樹脂に、ジベンジリデンソルビトール系、有機カルボン酸、有機カルボン酸の金属塩、有機リン酸金属塩等の造核剤を添加配合して透明性を改良する方法が一般に用いられている。特にジベンジリデンソルビトール系の造核剤が最も効果があり、広く使用されている(特許文献1参照)。
しかしながら、ソルビトール系造核剤を用いた射出成形品は、透明性に優れるもののソルビトール系造核剤特有の臭気による臭気汚染が問題であり、射出成形時においても臭気の発生による環境の悪化や添加剤が射出成形機を汚染し良好な品質を得るための清掃作業が不可欠となり、連続射出成形の中断による生産性の低下問題があった。
【0005】
また、有機リン酸系造核剤(特許文献2参照)も使用されており、ソルビトール系造核剤ほどの臭気は無いものの、有機リン酸系造核剤を添加したものは、透明性を十分に発現することが困難であるという欠点を有している。このためポリプロピレンの透明性改良目的のためには、株式会社ADEKA製の有機リン酸系造核剤のうち透明核剤である「アデカスタブNA−21」が良く用いられ、それなりの透明性を発現できるが、米国においてはアメリカ食品医薬品局(FDA)の安全性基準によりその使用が制限され、100℃以上の加熱殺菌処理を要する食品容器や医療向けには使用できないという問題がある。
したがって、新たな手法により低臭気であって、優れた透明性をもつ、バランスの取れたプロピレン系樹脂射出成形品が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−339847号公報
【特許文献2】特開昭58−1736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、透明性に優れ、臭気の問題がないプロピレン系樹脂射出成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、プロピレン系樹脂に対し、特定の造核剤と特定の脂肪酸金属塩をそれぞれ特定量組み合わせて用いることにより、格段に高い透明性と、低臭気性に優れたプロピレン系樹脂射出成形品になり得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、プロピレン系重合体(A)100重量部に対し、下記一般式(1)で示されるリン酸エステルナトリウム塩系造核剤(B)0.01〜0.5重量部と高級脂肪酸アルミニウム塩(C)0.01〜0.5重量部を含有するプロピレン系樹脂組成物を射出成形して得られることを特徴とするプロピレン系樹脂射出成形品が提供される。
【0010】
【化1】

(式(1)において、Rは水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、R及びRは、同一又は異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素原子数1〜12のアルキル基を表す。)
が提供される。
【0011】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、プロピレン系重合体(A)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が、1〜200g/10分であることを特徴とするプロピレン系樹脂射出成形品が提供される。
【0012】
また、本発明の第3の発明によれば、第1または第2の発明において、射出成形品が医療用射出成形品であることを特徴とするプロピレン系樹脂射出成形品が提供される。
【0013】
さらに、本発明の第4の発明によれば、第3の発明において、医療用射出成形品がプレフィルドシリンジまたはキット製剤であることを特徴とする射出成形品が提供される。
【0014】
さらに、本発明の第5の発明によれば、第1または第2の発明において、射出成形品が、食品容器用射出成形品であることを特徴とするプロピレン系樹脂射出成形品が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明のプロピレン系樹脂射出成形品は、プロピレン系重合体(A)100重量部に対して前記一般式(1)で示されるリン酸エステルナトリウム塩系造核剤(B)を0.01〜0.5重量部、これに高級脂肪酸アルミニウム塩(C)を0.01〜0.5重量部を併せて配合したプロピレン系樹脂組成物を射出成形することにより、低臭気で、従来のポリプロピレン組成物では実現しえなかった高い透明性を有することができる。
そして、本発明のプロピレン系樹脂射出成形品は、透明性に優れ、臭気が改善されたものであり、食品容器、医療用器具等の各種用途に用いることができる。また、成形時に発生する臭気が抑制され環境の改善により連続成形が可能になり生産効率の改善に大きく寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のプロピレン系樹脂射出成形品に用いるプロピレン系樹脂組成物の各構成成分及びプロピレン系樹脂射出成形品の製造法について、詳細に説明する。
【0017】
[I]プロピレン系樹脂組成物を構成する成分
(1)プロピレン系重合体(A)
プロピレン系樹脂組成物に用いられるプロピレン系重合体(A)は、プロピレン単独重合体であっても、プロピレン系共重合体であっても、あるいはこれらの混合物であってもよい。
プロピレン系共重合体は、プロピレンとα−オレフィンとの共重合体であり、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもどちらでも良いが、透明性の観点からランダム共重合体が望ましい。共重合に用いられるα−オレフィンは、プロピレンを除く炭素数2〜20のα−オレフィンがあげられ、例えばエチレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1等を好ましく例示できる。プロピレンと共重合されるα−オレフィンは一種類でも二種類以上用いてもよい。これらのうちエチレン、ブテン−1がより好適であり、特に好ましくはエチレンである。
【0018】
具体的な共重合体の例を挙げると、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−エチレン−ジエン共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−ヘキセン−1共重合体、プロピレン−オクテン−1共重合体等を例示できる。このうちプロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体が特に好ましい。プロピレンと共単量体であるα−オレフィンの量の構成割合は、モル比で70〜99/30〜1であることが好ましい。通常は、α−オレフィン量は、0.05〜15重量%、好ましくは、0.05〜10重量%、0.1〜8重量%程度がより好ましい。α−オレフィンの含量が多すぎると、剛性が低くなり容器等として適さなくなるおそれがある。
プロピレン系重合体または共重合体(A)のガラス転移温度は、−100〜20℃のものが好ましく、また、このようなプロピレン系重合体は、二種以上混合して使用してもよい。
【0019】
また、医療用途では一般的に滅菌処理され、具体的には、高圧蒸気滅菌処理、放射線滅菌処理、エチレンオキサイドガスによる滅菌処理、紫外線滅菌処理などが挙げられる。例えば、121℃で20分間の高圧蒸気滅菌処理される場合は、プロピレン単独重合体やブロック共重合体、またはエチレン含有量が1%未満のランダム共重合体が好ましい。エチレン含有量の多いランダム共重合体を用いると、高圧蒸気滅菌処理の際に変形してしまう不具合が発生する。また、放射線滅菌処理を行う場合は、エチレン含有量の多いランダム共重合体が好ましく、プロピレン単独重合体やブロック共重合体を用いると放射線滅菌処理後の物性低下が著しく好ましくない。また、エチレン含有量の多いランダム共重合体に分子量調整剤として過酸化物を添加した組成物は放射線照射前後にて耐衝撃性が更に良好となる。
【0020】
また、本発明で用いられるプロピレン単独重合体は、アイソタクチックペンタッド分率が0.90以上が好ましく、より好ましくは0.94〜0.98である。アイソタクチックペンタッド分率が0.90未満であると、剛性やバリアー性が満足できない恐れがある。ここで、アイソタクチックペンタッド分率は、13C−NMRを用いたプロトンデカップリング法で測定する値である。
【0021】
本発明で用いられるプロピレン系重合体(A)は、JIS K7120(230℃、2.16kg荷重)に準拠したメルトフローレートが1〜200g/10分の範囲のものが好ましく、2〜150g/10分が好ましく、5〜100g/10分がさらに好ましい。メルトフローレートが1g/10分未満では、成形加工性の低下をきたし製品として満足できるものが得られ難くなるおそれがある。また、200g/10分を超えると、リン酸エステルナトリウム塩系造核剤(B)あるいは高級脂肪酸アルミニウム塩(C)のプロピレン系重合体(A)への均一分散性が悪化して透明性が発現しにくくる恐れがあり、また、機械的強度の低下が懸念される。
【0022】
(i)プロピレン系重合体(A)を得るために用いられる触媒
プロピレン系重合体の製造方法としては、特に限定されないが、立体規則性触媒を使用する重合法が好ましい。立体規則性触媒としては、チーグラー触媒やメタロセン触媒などが挙げられる。
【0023】
チーグラー触媒としては、三塩化チタン、四塩化チタン、トリクロロエトキシチタン等のハロゲン化チタン化合物、前記ハロゲン化チタン化合物とハロゲン化マグネシウムに代表されるマグネシウム化合物との接触物等の遷移金属成分とアルキルアルミニウム化合物又はそれらのハロゲン化物、水素化物、アルコキシド等の有機金属成分との2成分系触媒、更にそれらの成分に窒素、炭素、リン、硫黄、酸素、ケイ素等を含む電子供与性化合物を加えた3成分系触媒が挙げられる。
【0024】
メタロセン触媒としては、(i)シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を含む周期表第4族の遷移金属化合物(いわゆるメタロセン化合物)と、(ii)メタロセン化合物と反応して安定なイオン状態に活性化しうる助触媒と、必要により、(iii)有機アルミニウム化合物とからなる触媒であり、公知の触媒はいずれも使用できる。メタロセン化合物は、好ましくはプロピレンの立体規則性重合が可能な架橋型のメタロセン化合物であり、より好ましくはプロピレンのアイソ規則性重合が可能な架橋型のメタロセン化合物である。
【0025】
このようなメタロセン化合物(i)としては、例えば、特開昭60−35007号、特開昭61−130314号、特開昭63−295607号、特開平1−275609号、特開平2−41303号、特開平2−131488号、特開平2−76887号、特開平3−163088号、特開平4−300887号、特開平4−211694号、特開平5−43616号、特開平5−209013号、特開平6−239914号、特表平7−504934号、特開平8−85708号の各公報に開示されており、これらに記載されたものはいずれも好ましく使用できる。
【0026】
更に、具体的には、メチレンビス(2−メチルインデニル)ジルコニウムジクロリド、エチレンビス(2−メチルインデニル)ジルコニウムジクロリド、エチレン1,2−(4−フェニルインデニル)(2−メチル−4−フェニル−4H−アズレニル)ジルコニウムジクロリド、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、イソプロピリデン(4−メチルシクロペンタジエニル)(3−t−ブチルインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレン(2−メチル−4−t−ブチル−シクロペンタジエニル)(3’−t−ブチル−5’−メチル−シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(インデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス[1−(2−メチル−4−フェニルインデニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス[1−(2−エチル−4−フェニルインデニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス[4−(1−フェニル−3−メチルインデニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレン(フルオレニル)t−ブチルアミドジルコニウムジクロリド、メチルフェニルシリレンビス[1−(2−メチル−4,(1−ナフチル)−インデニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス[1−(2−メチル−4,5−ベンゾインデニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス[1−(2−メチル−4−フェニル−4H−アズレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス[1−(2−エチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス[1−(2−エチル−4−ナフチル−4H−アズレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジフェニルシリレンビス[1−(2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス[1−(2−エチル−4−(3−フルオロビフェニリル)−4H−アズレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルゲルミレンビス[1−(2−エチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルゲルミレンビス[1−(2−エチル−4−フェニルインデニル)]ジルコニウムジクロリドなどのジルコニウム化合物が好ましく例示できる。
【0027】
上記において、ジルコニウムをチタニウム、ハフニウムに置き換えた化合物も同様に使用できる。また、ジルコニウム化合物とハフニウム化合物等の混合物を使用することもできる。また、クロリドは他のハロゲン化合物、メチル、イソブチル、ベンジル等の炭化水素基、ジメチルアミド、ジエチルアミド等のアミド基、メトキシ基、フェノキシ基等のアルコキシド基、ヒドリド基等に置き換えることが出来る。
これらの内、インデニル基あるいはアズレニル基を珪素あるいはゲルミル基で架橋したメタロセン化合物が特に好ましい。
【0028】
また、メタロセン化合物は、無機または有機化合物の担体に担持して使用してもよい。担体としては、無機または有機化合物の多孔質化合物が好ましく、具体的には、イオン交換性層状珪酸塩、ゼオライト、SiO、Al、シリカアルミナ、MgO、ZrO、TiO、B、CaO、ZnO、BaO、ThO等の無機化合物、多孔質のポリオレフィン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、オレフィン−アクリル酸共重合体等からなる重合体、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0029】
メタロセン化合物と反応して安定なイオン状態に活性化しうる助触媒(ii)としては、有機アルミニウムオキシ化合物(たとえば、アルミノキサン化合物)、イオン交換性層状珪酸塩、ルイス酸、ホウ素含有化合物、イオン性化合物、フッ素含有有機化合物等が挙げられる。
【0030】
有機アルミニウム化合物(iii)としては、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウムハライド、アルキルアルミニウムセスキハライド、アルキルアルミニウムジハライド、アルキルアルミニウムハイドライド、有機アルミニウムアルコキサイド等が好ましく挙げられる。
【0031】
(ii)プロピレン系重合体の製造方法
プロピレン系重合体の製造方法としては、上記触媒の存在下に、不活性溶媒を用いたスラリー法、溶液法、実質的に溶媒を用いない気相法や、あるいは重合モノマーを溶媒とするバルク重合法等が挙げられる。
例えば、スラリー重合法の場合には、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の不活性炭化水素又は液状モノマー中で行うことができる。重合温度は、通常−80〜150℃であり、好ましくは40〜120℃である。重合圧力は、1〜60気圧が好ましく、また得られるプロピレン系重合体の分子量の調節は、水素もしくは他の公知の分子量調整剤で行うことができる。重合は連続式又はバッチ式反応で行い、その条件は通常用いられている条件でよい。さらに重合反応は一段で行ってもよく、多段で行ってもよい。
【0032】
(2)造核剤(B)
本発明の射出成形品に用いられるリン酸エステルナトリウム塩系造核剤(B)は、下記一般式(1)で表される芳香族リン酸エステルナトリウム塩系造核剤である。リン酸エステルナトリウム塩系造核剤(B)は、1種類のものを単独で或いは複数種類のものを併用することも出来る。
【0033】
【化2】

【0034】
式(1)において、Rは水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を表す。Rで示される炭素原子数1〜4のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第2ブチル、イソブチル基などが挙げられる。
及びRは、同一又は異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素原子数1〜12のアルキル基を表す。R及びRで示される炭素原子数1〜12のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第2ブチル、第3ブチル、アミル、第3アミル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、イソオクチル、第3オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、イソノニル、デシル、イソデシル、ウンデシル、ドデシル、第3ドデシル基などが挙げられる。
【0035】
式(1)で表されるリン酸エステルナトリウム塩系造核剤のうち、好ましいものとしては、例えば、R:H、R:t−ブチル基、R:t−ブチル基のものが挙げられる。
【0036】
一般式(1)で表される化合物の具体例としては、ナトリウム−2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−エチリデン−ビス(4−i−プロピル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−ブチリデン−ビス(4,6−ジ−メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−ブチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−t−オクチルメチレン−ビス(4,6−ジ−メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−t−オクチルメチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−メチレン−ビス(4−エチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−エチリデン−ビス(4−m−ブチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−エチルフェニル)フォスフェート等が好ましく挙げられ、これらの中では、ナトリウム−2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェートが特に好ましい。
【0037】
芳香族リン酸エステルナトリウム塩の合成方法は、特に限定されるものではなく、公知のいかなる方法により合成されたものでもよい。
リン酸エステルナトリウム塩系造核剤(B)のうち市販されているものとしては、例えばアデカ(株)製のアデカスタブNA−11が好ましく使用でき、これらは単独であるいは混合して使用することができる。
【0038】
本発明に用いられる造核剤(A)の粒径は、本発明の効果が得られる限り、特に限定されないが、溶融プロピレン系重合体に対する溶解速度(又は溶解時間)の観点から、できる限り粒径の小さいものが好ましい。レーザー回折光散乱法で得られる粒径の測定値を採用した場合、造核剤(A)の粒径としては、その最大粒径が200μm以下、好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm、特に10μm以下が推奨される。
【0039】
本発明の射出成形品に用いる造核剤(B)の配合量は、プロピレン系重合体(A)100重量部に対し、0.01〜0.5重量部である。0.01重量部未満であると透明性を十分に発揮させることが困難であり、また、0.5重量部を超えると、透明性が低下していく傾向となり、透明性を十分に発揮できなくなる。造核剤(B)の好ましい配合量は、0.03〜0.2重量部である。
また、医療用成形品の場合には、造核剤(B)の添加量は0.5重量部以下、好ましくは0.3重量部以下、より好ましくは0.2重量部以下、さらに好ましくは0.1重量部以下、特に好ましくは0.05重量部以下である。さらに、0.01重量部以上、好ましくは0.02重量部以上、より好ましくは0.03重量部以上、さらに好ましくは0.05重量部以上、特に好ましくは0.1重量部以上である。
【0040】
本発明で用いられるプロピレン系樹脂組成物には、造核剤(B)以外に、他の造核剤として、ソルビトール系造核剤、芳香族燐酸エステル類、タルクなど既知の造核剤を添加することができ、造核剤の組み合わせ次第で相乗効果を期待できる場合がある。
しかしながら、前記式(1)で示される造核剤(B)以外の造核剤は、得られる射出成形品の透明性が劣りやすく、更には、透明性に与える成形条件の依存性が大きくなりやすく、容易に透明性の高いポリプロピレン系射出成形品を製造することは難しい傾向にある。
【0041】
(3)高級脂肪酸アルミニウム塩(C)
本発明で用いられるプロピレン系樹脂組成物においては、上記リン酸エステルナトリウム塩系造核剤(B)に高級脂肪酸アルミニウム塩(C)を組み合わせて配合することが必要である。
高級脂肪酸アルミニウム塩として、好ましくは炭素数8〜30の飽和脂肪酸のアルミニウム塩を挙げることができる。脂肪酸として、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、モンタン酸等を挙げることができる。脂肪酸の炭素数が小さい場合には臭気移行防止性能が不充分となり、炭素数が大き過ぎる場合には造核助剤効果が不充分となる傾向がある。好ましい高級脂肪酸アルミニウム塩として、炭素数が12〜26の飽和高級脂肪酸のアルミニウム塩、たとえば、ミリスチン酸アルルミニウム、パルミチン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウムが好ましく、特にはステアリン酸アルミニウムが好ましい。
また、高級脂肪酸アルミニウム塩(C)としては、モノ、ジあるいはトリ塩のいずれであってもよく、またこれらの混合物であってもよい。
【0042】
高級脂肪酸アルミニウム塩(C)の配合量は、プロピレン系重合体(A)100重量部に対し、0.01〜0.5重量部の範囲であり、好ましくは0.02〜0.2重量部の範囲であることがより好ましい。配合量が0.5重量部を超えると、ブリードアウトの原因にもなり透明性を悪化させる。一方、0.01重量部より少ない場合、造核剤が分散されにくくなり、ブツ(フィッシュアイ)が発生しやすくなるので好ましくない。
また、医療用成形品の場合には、造核剤(B)の添加量は0.5重量部以下、好ましくは0.3重量部以下、より好ましくは0.2重量部以下、さらに好ましくは0.1重量部以下、特に好ましくは0.05重量部以下である。さらに、0.01重量部以上、好ましくは0.02重量部以上、より好ましくは0.03重量部以上、さらに好ましくは0.05重量部以上、特に好ましくは0.1重量部以上である。
【0043】
本発明で用いられるプロピレン系樹脂組成物には、高級脂肪酸アルミニウム塩(C)以外に、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムなどの金属脂肪酸塩、ハイドロタルサイト(協和化学工業(株)製商品名)等のマグネシウムアルミニウム複合水酸化物塩、ミズカラック(水沢化学(株)製商品名)等のリチウムアルミニウム複合水酸化物塩など、既知の中和剤として使用されるものを添加することができ、組み合わせて併用することで効果を期待できる場合があるが、リン酸エステルナトリウム塩系造核剤(B)との組み合わせにおいての併用は、得られる射出成形品の透明性が劣りやすく、更には、透明性に与える成形条件の依存性が大きくなりやすく、容易に透明性の高いポリプロピレン系射出成形品を製造することは難しい傾向にある。
【0044】
(4)滑剤
本発明の射出成形品においては、滑剤を配合することが望ましい。滑剤としては、既知の滑剤が挙げられるが、ステアリン酸ブチルやシリコーンオイルが好ましく、特にシリコーンオイルが良い。
具体的なシリコーンオイルとしては、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルヒドロジエンポリシロキサン、α−ωビス(3−ヒドロキシプロピル)ポリジメチルシロキサン、ポリオキシアルキレン(C〜C)ジメチルポリシロキサン、ポリオルガノ(C〜Cのアルキル基および/またはフェニル基)シロキサンとポリアルキレン(C〜C)グリコールの縮合物などが挙げられる。この中でもジメチルポリシロキサンとメチルフェニルポリシロキサンが好ましい。該滑剤は単独、又は複数用いても構わない。
ジメチルポリシロキサンなどのシリコーンを添加した場合、成形時に発生する傷を防止するだけでなく、シリンダー内やホットランナー内で発生する焼けを防止することができる。
【0045】
滑剤の配合量は、プロピレン系重合体(A)100重量部に対し、0.001〜0.5重量部が好ましく、0.01〜0.15重量部がより好ましく、0.03〜0.1重量部が特に好ましい。0.001重量部未満では効果が期待できず、0.5重量部を超えると更なる効果が期待できないばかりか経済的に好ましくない。
【0046】
(5)フィラー
本発明の射出成形品においては、フィラーを含有することも好ましい。フィラーとしては、シリカ、ケイ藻土、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、軽石粉、軽石バルーン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ドロマイト、硫酸カルシウム、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、アスベスト、短繊維ガラス繊維、長繊維ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、ゾノライト、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ケイ酸カルシウム、モンモリロナイト、ベントナイト、グラファイト、アルミニウム粉、硫化モリブデン、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ケナフ、ジュート、木粉等を挙げることができる。好ましくは、タルク、マイカ、モンモリロナイト等の板状フィラーであり、より好ましくはタルクである。
フィラーは、プロピレン系重合体との接着性或いは分散性を向上させる等の目的で、有機チタネート系カップリング剤、有機シランカップリング剤、不飽和カルボン酸、又はその無水物をグラフトした変性ポリオレフィン、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル等によって表面処理したものを用いてもよい。
【0047】
フィラーの配合量は、プロピレン系重合体(A)100重量部に対して、好ましくは5〜80重量部であり、より好ましくは10〜60重量部であり、特に好ましくは15〜40重量部である。フィラーの配合量が5重量部未満では成形品の剛性感が不足しやすく、80重量部を超えるとクラックが生じやすくなる
【0048】
(6)エラストマー
また、必要に応じて、熱可塑性エラストマーを配合することができる。熱可塑性エラストマーは、特に限定されないが、具体的にはエチレン系エラストマー、スチレン系エラストマー等を好ましく挙げることができる。
エチレン系エラストマーとしては、例えば、エチレン・プロピレン共重合エラストマー(EPR)、エチレン・ブテン共重合エラストマー(EBR)、エチレン・ヘキセン共重合エラストマー(EHR)、エチレン・オクテン共重合エラストマー(EOR)等のエチレン・α−オレフィン共重合体エラストマー;エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体エラストマー、エチレン・プロピレン・ブタジエン共重合体エラストマー、エチレン・プロピレン・イソプレン共重合体エラストマー等のエチレン・α−オレフィン・ジエン三元共重合体エラストマー(EPDM)などを挙げることができる。
また、スチレン系エラストマーとしては、スチレン・ブタジエン・スチレントリブロック体(SBS)、スチレン・イソプレン・スチレントリブロック体(SIS)、スチレン・ブタジエン・スチレントリブロック体の水素添加物(SEBS)、スチレン・イソプレン・スチレントリブロック体の水素添加物(SEPS)等のスチレン系エラストマー等が使用できる。なお、上記したスチレン・ブタジエン・スチレントリブロック体の水素添加物は、ポリマー主鎖をモノマー単位で見ると、スチレン−エチレン−ブテン−スチレンとなるので、通常、SEBSと略称されるものである。
【0049】
エラストマーを配合する場合の量は、プロピレン系重合体(A)100重量部に対して、好ましくは5〜80重量部であり、より好ましくは10〜60重量部である。
【0050】
(7)その他の添加剤
本発明の射出成形品においては、上述した成分に加えて、プロピレン系重合体の安定剤などとして使用されている各種酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加剤を配合することができる。
【0051】
酸化防止剤としては、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−フォスファイト、ジ−ステアリル−ペンタエリスリトール−ジ−フォスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−フォスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジ−フォスフォナイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジ−フォスフォナイト等のリン系酸化防止剤、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、テトラキス[メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)]メタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ハイドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ハイドロキシベンジル)イソシアヌレート等のフェノール系酸化防止剤、ジ−ステアリル−ββ’−チオ−ジ−プロピオネート、ジ−ミリスチル−ββ’−チオ−ジ−プロピオネート、ジ−ラウリル−ββ’−チオ−ジ−プロピオネート等のチオ系酸化防止剤等が挙げられる。
【0052】
紫外線吸収剤としては、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等の紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0053】
光安定剤としては、n−ヘキサデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピぺリジル)セバケート、コハク酸ジメチル−2−(4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジル)エタノール縮合物、ポリ{[6−〔(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ〕−1,3,5−トリアジン−2,4ジイル]〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕ヘキサメチレン〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕}、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン−2,4−ビス〔N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ〕−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物等の光安定剤を挙げることができる。
【0054】
さらに、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、顔料、帯電防止剤等を含んでいてもよい。さらにまた、ポリプロピレンには、上記成分の他に、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン等の樹脂成分を含んでいてもよい。
【0055】
[2]プロピレン樹脂組成物の製造方法
本発明の射出成形品に用いられるプロピレン樹脂組成物は、プロピレン系重合体(A)と、造核剤(B)、高級脂肪酸アルミニウム塩(C)および、必要に応じて他の添加剤とを、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、リボンブレンダー等に投入して混合した後、通常の単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、プラベンダー、ロール等で、通常190〜260℃の温度範囲で溶融混練した後、混練物をペレット状に成形して使用される。上記各成分は混練性がよく、容易に混練されて組成物を形成し得る。
【0056】
[3]射出成形品
本発明の射出成形品は、上記ポリプロピレン系樹脂組成物を射出成形法によって成形して得られるものである。本発明の射出成形品を得るために用いられる射出成形法としては、例えば、通常工業的に用いられている公知の成形法が挙げられ、例えば、一般的な射出成形法、射出発泡成形法、超臨界射出発泡成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、ガスアシスト射出成形法、サンドイッチ成形法、サンドイッチ発泡成形法、インサート・アウトサート成形法等の方法が挙げられる。また、目的に応じて同種のポリプロピレン系樹脂と貼合する成形法、または他の樹脂と貼合する成形法を適用することもできる。
【0057】
本発明の射出成形品としては、食品容器、キャップ、調理器具、医療用器具、理化学実験器具、自動車部品、電気部品等を挙げることができる。
中でも、注射筒、医療用器具および医療用容器、薬剤液を充填してなる注射筒および容器などに好適であり、具体的には、ディスポーザブルシリンジ及びその部品、カテーテル・チューブ、輸液バッグ、血液バッグ、真空採血管、手術用不織布、血液用フィルター、血液回路などのディスポーザブル器具や、人工肺、人工肛門などの人工臓器類の部品、ダイアライザー、プレフィルドシリンジ、キット製剤、薬剤容器、試験管、縫合糸、湿布基材、歯科用材料の部品、整形外科用材料の部品、コンタクトレンズのケース、PTP、SP・分包、Pバイアル、目薬容器、薬液容器、液体の長期保存容器、キャップなどを挙げることができる。
また、食品容器としても特に好適であり、カップ、キャップ、スタンディングパウチやスパウトパウチの吸い口、食品保存容器、哺乳瓶などの容器などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例及び比較例を挙げて、詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例で限定されるものではない。
なお、実施例、比較例で用いた評価方法及び使用樹脂は、以下の通りである。
【0059】
[1.評価方法]
(1)メルトフローレート(MFR)[単位:g/10分]:
プロピレン系樹脂は、JIS K7210:1999「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」のA法、条件M(230℃、2.16kg荷重)に準拠して測定した。
【0060】
(2)ヘイズ[単位:%]:
射出成形品を23℃、50%RHの雰囲気下にて24時間状態調整した後、JIS K7136:2000に準拠して、ヘイズメーターで測定した。得られた値が小さいほど透明性がよい。
【0061】
(3)光沢(グロス)[単位:%]:
射出成形品を用いて、ASTM D2457−1970に準拠して測定した。
【0062】
(4)射出成形品臭気評価
臭気評価:
JIS Z9080に準拠して等級付け官能評価を行った。6Lポリエチレンテレフタレート製におい袋に射出成形品100gと活性炭を通して得た無臭エアーを入れ、室温23℃、湿度50%下にて7日間保管したにおい袋内エアーの官能評価をパネラー5人により、以下の6段階評価を行った。
5:非常に強く臭う
4:強く臭う
3:臭う
2:弱く臭う
1:非常に弱く臭う
0:臭いを感じない
【0063】
(5)融解ピーク温度(Tm):
示差走査型熱量計(セイコー社製DSC)を用い、サンプル量5.0mgを採り、200℃で5分間保持した後、40℃まで10℃/分の降温スピードで結晶化させ、さらに10℃/分の昇温スピードで融解させたときの融解ピーク温度(Tm)を測定した。
【0064】
(6)溶出試験
第15改正 日本薬局方一般試験(日本薬局方試験):7.02プラスチック製医薬品容器試験に従って、測定を実施した。試料調製は、0.5ミリ厚で表面積1200cmに相当する重量のペレットを秤量し、220℃でプレスしてシート片として、長さ約5センチ、幅約0.5センチの大きさに細断し、水で洗った後、室温で乾燥した。これを内容積約300mlの硬質ガラス製容器に入れ、水200mlを正確に加え、適当な栓で密封した後、高圧蒸気滅菌器を用いて121℃で1時間加熱した後、室温になるまで放置し、この内溶液を試験液とした。これとは別に、水について、同様の方法で空試験液を調製した。試験結果は、以下の基準に従って合否を判定した。
(ア)強熱残分:0.10%以下
(イ)重金属:比較液以下(20ppm)
(ウ)鉛:0.5ppm以下
(エ)カドミウム:0.1ppm以下
(オ)泡立ち:3分以内に消失
(カ)PH:ブランクとの差が1.5以下
(キ)過マンガン酸カリウム還元性物質:標準溶液との過マンガン酸カリウム
消費量の差1.0ml以下
(ク)紫外吸収スペクトル
220nm以上241nm未満:吸光度0.08以下
241nm以上350nm未満:吸光度0.05以下
(ケ)蒸発残留分:1.0mg以下
この試験に合格した組成物のみがプラスチック製薬品容器の成形用に使用可能である。
【0065】
[2.使用した樹脂および添加剤]
(1)プロピレン系重合体(A)
(A−1)日本ポリプロ(株)製商品名「ノバテックMA04A」
チーグラー・ナッタ触媒によるプロピレンホモポリマー
MFRおよび融点Tmを表1に示した(以下、同じ)。
(A−2)日本ポリプロ(株)製商品名「ノバテックMG03BQ」
チーグラー・ナッタ触媒によるプロピレン−エチレンランダムコポリマー
(A−3)日本ポリプロ(株)製商品名「ウィンテックWMG03」
メタロセン触媒によるプロピレン−エチレンランダムコポリマー
上記プロピレン系重合体のMFRおよび融点Tmを以下の表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
(2)造核剤(B)
(B)ADEKA社製商品名「アデカスタブNA−11SF」
リン酸−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ナトリウム塩系造核剤
【0068】
(3)本発明の造核剤(B)以外の造核剤として、以下のものを使用した。
(B−a)ADEKA社製商品名「アデカスタブNA−21」
リン酸−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)アルミニウム塩系造核剤
(B−b)ADEKA社製商品名「アデカスタブNA−71」
リン酸−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)リチウム塩系造核剤
(B−c)ゲルオールMD:新日本理化社製商品名
ジメチルベンジリデンソルビトール系透明化核剤
【0069】
(4)高級脂肪酸アルミニウム塩(C)
(C−1)ステアリン酸アルミニウム塩
日東化成工業社製商品名「Al−St(103)」
(C−2)ステアリン酸アルミニウム塩
日東化成工業社製商品名「Al−St(102)」
(C−3)モンタン酸アルミニウム塩
日東化成工業社製商品名「AS−8」
【0070】
(5)高級脂肪酸アルミニウム塩(C)以外の脂肪酸金属塩として、以下のものを使用した。
(C−a)ステアリン酸カルシウム
日東化成工業社製商品名「Ca−St」
(C−b)ステアリン酸亜鉛
日東化成工業社製商品名「Zn−St」
(C−c)ステアリン酸リチウム
日東化成工業社製商品名「Li−St」
【0071】
(6)他の中和剤(D)
(D)ハイドロタルサイト化合物:
協和化学工業社製商品名「DHT−4A」
【0072】
(7)酸化防止剤(E)
(E−1)ヒンダードフェノール系酸化防止剤:
チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製商品名「イルガノックス1010」
テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシルフェニル)プロピオネート]メタン
(E−2)リン系酸化防止剤:
チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製商品名「イルガフォス168」
トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェノール)フォスファイト
【0073】
(実施例1〜3、比較例1〜12)
上記チーグラー・ナッタ触媒によるプロピレンホモポリマー(A−1)に、上記した各成分を、下記表2以下に示す割合で、ヘンシェルミキサーに投入、高速混合した後、スクリュー口径35mmの2軸押出機にて、スクリュー回転数200rpm、吐出量15kg/hr、押出機温度200℃で溶融混練し、ストランドダイから押し出された溶融樹脂を、冷却水槽で冷却固化させながら引き取り、ストランドカッターを用いてストランド直径約5mm、長さ約5mmに切断することで、プロピレン系樹脂組成物ペレットを得た。
【0074】
得られたペレットを東芝社製射出成形機(EC100)により、樹脂温度220℃、射出圧力900kg/cm及び金型温度40℃で射出成形し、タテ80mm×ヨコ120mm×厚さ2mmの試験片を作製した。
得られた射出成形品の物性評価を行った結果を以下の表に示した。
【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

【0077】
本発明の射出成形品(実施例1〜3)は、透明性に優れ、かつ臭気に優れた材料であった。一方、比較例1〜10は実施例1〜3に比べ、臭気は同等であるが透明性に劣る。さらに、比較例11、12は実施例1〜3に比べ、透明性は同等であるが臭気に劣る。
【0078】
(実施例4〜6、比較例13〜24)
プロピレン系重合体を上記チーグラー・ナッタ触媒によるプロピレン−エチレンランダムコポリマー(A−2)を使用し、上記実施例1と同様にして射出成形品を得た。
得られた射出成形品の物性評価を行った結果を、以下の表に示した。
【0079】
【表4】

【0080】
【表5】

【0081】
射出成形品(実施例4〜6)は透明性に優れ、かつ臭気に優れた材料であった。一方、比較例13〜22は実施例4〜6に比べ、臭気は同等であるが透明性に劣る。さらに、比較例23、24は実施例4〜6に比べ、透明性は同等であるが臭気に劣る。
【0082】
(実施例7〜9、比較例25〜36)
プロピレン系重合体を上記メタロセン触媒によるプロピレン−エチレンランダムコポリマー(A−3)を使用し、前記実施例1と同様にして射出成形品を得た。
得られた射出成形品の物性評価を行った結果を、以下の表に示した。
【0083】
【表6】

【0084】
【表7】

【0085】
同様に、実施例7〜9の射出成形品は透明性に優れ、かつ臭気に優れた材料であった。一方、比較例25〜34は実施例7〜9に比べ、臭気は同等であるが透明性に劣る。さらに、比較例35、36は実施例7〜9に比べ、透明性は同等であるが臭気に劣る。
【0086】
(実施例10、比較例37、38)
プロピレン系重合体を前記チーグラー・ナッタ触媒によるプロピレン−エチレンランダムコポリマー(A−2)を使用し、前記実施例1と同様にして、射出成形品を得、ヘイズの測定と、日本薬局方一般試験(日本薬局方試験):7.02プラスチック製医薬品容器試験に従って、前記(6)の溶出試験を行った。その結果を表8に示す。
【0087】
【表8】

【0088】
実施例10は、透明性に優れ、かつプラスチック製医薬品容器試験に適合する材料であった。一方、比較例37は実施例10と比べ透明性に劣る。さらに、比較例38は実施例10と比べ、透明性に劣り、かつプラスチック製医薬品容器試験に適合しない材料であった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のプロピレン系樹脂射出成形品は、透明感があり、優れた光沢性を持つため高級感があり、またブツの発生もなく、さらには臭気の改善された射出成形品として極めて商品価値の高いものであるので、食品容器、医療機器などの広い範囲の用途に好適に使用することができる。また、成形時に発生する臭気が抑制され環境の改善、成形機汚染の改善により連続成形が可能になり生産効率の改善に寄与するものであり、本発明のプロピレン系樹脂射出成形品の産業上の利用性は非常に高いものがある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン系重合体(A)100重量部に対し、下記一般式(1)で示されるリン酸エステルナトリウム塩系造核剤(B)0.01〜0.5重量部と高級脂肪酸アルミニウム塩(C)0.01〜0.5重量部を含有するプロピレン系樹脂組成物を射出成形して得られることを特徴とするプロピレン系樹脂射出成形品。
【化1】

(式(1)において、Rは水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、R及びRは、同一又は異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素原子数1〜12のアルキル基を表す。)
【請求項2】
プロピレン系重合体のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が、1〜200g/10分であることを特徴とする請求項1に記載の射出成形品。
【請求項3】
射出成形品が、医療用射出成形品であることを特徴とする請求項1または2に記載のプロピレン系樹脂射出成形品。
【請求項4】
医療用射出成形品が、プレフィルドシリンジまたはキット製剤であることを特徴とする請求項3に記載の射出成形品。
【請求項5】
射出成形品が、食品容器用射出成形品であることを特徴とする請求項1または2に記載のプロピレン系樹脂射出成形品。

【公開番号】特開2012−152933(P2012−152933A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11741(P2011−11741)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】