説明

プローブデータ解析システム

【課題】被験者にかかる負担を軽減し、かつ、情報入力の手間を省いて、被験者の人数を大規模に拡張しても解析可能であり、人が移動する際の移動の要衝とその内容をより詳細に把握できる、プローブデータ解析システムを提供する。
【解決手段】一定時間間隔で測位された移動端末の位置情報とその測位時刻とを含む測位点データを要素としたプローブデータ集合の中から、時系列で連続する2つの測位点データ間を一つの単位区間として識別する区間識別手段と、前記一つの単位区間における前記移動端末の速度を前記2つの測位点データに基づいて求める速度算出手段と、所定の時間ts以上に亘って、上記一つの単位区間あたり速度が所定の値Vs未満である2つ以上の連続する上記単位区間を構成する前記測位点データが所定の半径rの円内に収まる連続範囲を抽出する第一滞在トリップエンド抽出手段とを備えたプローブデータ解析システムを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、交通調査、個人動向などを分析するためのデータを、移動端末を利用して収集し、その収集したデータに基づいて自動的に移動目的地や移動手段などを解析するためのプローブデータ解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、交通インフラの整備にあたって参考にする交通調査は、個人個人が記入する紙ベースのアンケート調査や、個人を識別できない各地点の通過人数の計測が主として実施されていた。これらの調査は、マクロ的で情報量が不足しているために、交通行動に影響を与える要因や、改善の必要要素を十分に把握することができなかった。しかし、アンケート調査でより精密な情報を得ようとしても、結局は被験者の記憶に頼ることになり、データの精度が低下してしまっていた。
【0003】
近年、全地球測位システム(Global Positioning System、以下、「GPS」と略す。)を利用した測位機能が搭載された携帯電話(以下、単に「GPS携帯電話」と称する)が普及しており、個人単位でも位置情報を特定できる環境が整ってきた。
【0004】
また、PHS方式の携帯電話では、交信する基地局の位置から、ある程度の位置情報の特定が可能になっている。
【0005】
このような位置情報特定手段を利用することにより、時刻と位置とを含むデータであるプローブデータの自動的な取得及び解析の実現が検討されている。
【0006】
例えば、被験者が所持するGPS携帯電話端末や、調査対象である車両等に搭載されたGPS受信機が、これらに予め組み込まれたプログラムにより、一定時間間隔で位置情報とその測位時刻とを含む測位点データが自動的に取得し、その取得した測位点データを、所定時になると、自動的に公衆交換電話網(Public Switched Telephone Network、以下、「PSTN」と略記する。)、インターネット、車両等に搭載された移動体通信機に対応する移動体通信網等の通信網を介して解析センターに送信する機能を備えている(例えば、特許文献1、非特許文献1)。
【0007】
例えば、図15に示すように、非特許文献1に開示されたシステムは、WEBダイアリシステムを備え、被験者は、行動後に、パソコンやGPS携帯電話等により、その行動の履歴であるWEBダイアリデータをサーバに送信するようになっている。
【0008】
図15に示すシステムは、WEBダイアリデータと、自動送信して収集された測位点データから移動モードを判定した結果とを組み合わせ、地理情報システム(Geographic Information System)を参照するなどして、被験者の行動を解析することができる。このため、被験者の記憶に頼ることなく正確な時刻と位置情報による移動データを集めることができ、一方でその被験者が直接申告する行動目的地(プローブデータ解析の分野では「トリップエンド」と称される)の内容と比較して、それぞれの位置における行動内容が把握でき、それぞれの移動データの移動目的や移動手段を含めた精密な情報を自動的に解析できるようになった。
【0009】
これは、被験者の記憶のみに頼ったアンケートと違い、位置情報を自動送信するため、従来のアンケートによるものよりも得られるデータの精度が高い。また、従来のアンケートに比べて最終段階でデータを登録する作業を省くことができるため、解析を行う調査の規模を従来よりも大きく広げることができた。
【0010】
図12のようなシステムの他にも、GPS携帯電話を直接操作して位置情報を送信して、同様にデータを収集するシステムが非特許文献2に記載されている。さらに、GPSとPHSとを併用して交通行動データを取得するシステムが、非特許文献3に記載されている。
【0011】
しかし、GPSやPHSを利用して位置情報を取得するようにしても、その移動手段、移動目的ごとの内容をWEBダイアリにより入力するのは、紙のアンケートよりは楽なものの、やはり被験者にかかる負担が大きく、大規模化するには調査コストの増加が避けられず、現実には調査可能な被験者の数が限られてしまう。
【0012】
また、WEBダイアリを用いて情報を入力するには、被験者がある程度パソコンを使える人でなければならないため、被験者のサンプルが偏りやすいという問題点もある。
【0013】
これに対して、特許文献1のシステムによれば、GPS携帯端末から自動的に送信させたデータにより、自動的に移動手段を判別し、交通量を算出することができる。特許文献1のシステムは、人が移動手段を変えるごとに移動速度が変化することに着目し、移動速度の変化から、そのときどきにおいて人が用いている移動手段を解析するようにしたものである。
【0014】
【特許文献1】特開2005−115557号公報
【0015】
【非特許文献1】井坪慎二、羽藤英二、中嶋康博:情報技術の活用による交通行動調査の効率化・高度化に関する研究,土木計画学研究・講演集vol.31(春大会),2005.6
【非特許文献2】被験者回答フローに着目したプローブパーソン調査システムの有効性 三谷卓摩、羽藤英二、土木計画学研究・講演集,vol.30,2004
【非特許文献3】大森宣暁、室町泰徳、原田昇、太田勝敏:高度情報機器を用いた交通行動データ収集の可能性,都市計画論文集, No.34, pp.169−174
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、特許文献1のシステムは、移動経路と移動手段を解析することにより交通量を調査することが目的であり、移動する際の目的地や、立ち寄る頻度の高い要衝となる地点を自動的に解析し得るものではない。
【0017】
また、特許文献1のシステムで判別される移動手段は、測位点ごとに地図情報と比較しながら検討するため、GPSの測位誤差の影響を受けやすく、正確性に欠けるという問題がある。
【0018】
そこでこの発明は、移動端末の位置情報とその測位時刻とを含む測位点データを要素としたプローブデータを利用して自動的に解析する際に、行動目的地と考えられるトリップエンドを自動的に抽出することを第1の課題とし、地図情報データベースを参照することなく測位点データのみから移動手段を推定することを第2の課題とし、行動目的地である頻度が高い要衝となる地点を自動的に抽出することを第3の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この発明は、上記第1の課題を解決するため、一定時間間隔で測位された移動端末の位置情報とその測位時刻とを含む測位点データを要素としたプローブデータ集合の中から、時系列で連続する2つの測位点データ間を一つの単位区間として識別する区間識別手段と、前記一つの単位区間における前記移動端末の速度を前記2つの測位点データに基づいて求める速度算出手段と、所定の時間ts以上に亘って、上記単位区間あたり速度が所定の値Vs未満である2つ以上の連続する単位区間を構成する前記測位点データが所定の半径rの円内に収まる連続範囲を抽出する構成を採用した。
【0020】
すなわち、GPSなどの位置情報を測位できる移動端末を測定対象に所持させて、一定時間間隔で位置情報を測位して連続した測位点データについて解析を行うにあたって、
第一滞在トリップエンド抽出手段により、速度が一定の値以下であると解釈される単位区間が所定の時間以上に亘って連続しており、所定の半径rの円内に収まる連続範囲を抽出するようにした。
すなわち、一般的に徒歩として想定される所定の速度Vs以下となる状況は、停止又はそれに準じる状況である。この中でも、その状況が所定の時間以上に亘っており、所定の半径rの円内に収まる状況のみを抽出すると、単なる一時停止の状況を除外して、目的地へ到達したと解釈できる連続範囲を抽出できるようにしたのである。この抽出された連続範囲を、行動解析の基本単位の区切りであるトリップエンドとして解析を行うことができる。
【0021】
また、第二滞在トリップエンド抽出手段により、上記単位区間のうち、それを構成する2つの測位点データ間の測位時刻差が所定の時間tm以上であり、距離が所定の値2r未満である単位区間を抽出することで、より詳細な解析を可能とした。
すなわち、移動端末のエラーや、移動端末が電波の届かない場所に入ったことにより、測位点データの時間間隔が長時間に亘って途切れている場合でも、その途切れている単位区間の始点と終点となる測位点データの位置間隔が所定の値以下であるなら、その間はその二点の間に滞在していたと解釈して、その単位区間を抽出できるようにしたのである。この抽出された単位区間も、行動解析の基本単位の区切りであるトリップエンドとして解析を行うことができる。
【0022】
さらに、終起点トリップエンド抽出手段により、上記単位区間のうち、それを構成する2つの測位点データ間の測位時刻差が所定の時間tm以上であり、距離が所定の値2r以上である単位区間の始点となる測位点データと終点となる測位点データとを抽出することで、さらに詳細な解析を可能とした。
すなわち、測位点データの時間間隔が長時間に亘って途切れている場合で、その途切れている単位区間の始点と終点とが、その間に滞在していたと解釈するには離れすぎている場合には、その始点と終点となる測位点データを、行動解析の基本単位の区切りであるトリップエンドとして解析を行うことができる。
【0023】
従って、これらの抽出された連続範囲、単位区間、及び測位点データにより、時系列上で連続する複数の単位区間を区切ることで、その区切られた間をなんらかの目的を持った移動と解釈し、区切りとなる行動目的地であるトリップエンドと解釈して解析を行うことができる。なお、上記の所定の値は、解析対象となる地域の特性を考慮して定められる。目的地となる駅や大規模店舗の存在や、それらの密集具合、電波が途切れる地下鉄や地下街の存在の有無など、都市構造により、上記の手段、閾値に傾向が生じるからである。
【0024】
なお、上記移動端末としてGPS携帯電話を採用すれば、調査規模をシステムの演算限界まで容易に拡張することができ、大規模な数の移動端末を対象として、すなわち、大規模の人数を対象として人の行動パターン等を自動的に解析することができる。
【0025】
また、この発明は、上記第二の課題を解決するため、上記の区切りで区切られる連続区間ごとに、その連続区間を構成する全ての単位区間について、それぞれの単位区間の速度、速度の標準偏差、及び直前の複数の単位区間を含めたピーク速度の少なくとも一つについて、所定の移動手段のそれぞれに対応した規範に基づく評価点を合計して最も評価点の高い移動手段を、その連続区間の移動手段と一次判定する移動手段一次判定手段を有する構成を採用した。
すなわち、徒歩や自動車、電車等の移動手段ごとに、移動端末の移動速度の最大速度は大きく異なる。ただし、発進と停止時は高速な移動手段であっても移動速度が遅くならざるを得ない。そのため、一つの連続区間の中では速度が変わったとしても、一つの連続区間では単一の移動手段を用いて移動しており、移動手段を変更した場合には何らかの区切りを含むものと解釈した。上記連続区間ごとに、それぞれの単位区間について移動手段を、速度やその標準偏差、ピーク速度を規範として推定して、移動手段ごとに対応する評価点を付与すると、その評価点の合計が最も高い移動手段は、その連続区間の移動手段でると解釈できる。
【0026】
さらに、移動手段二次判定手段により、上記連続区間を構成する全ての単位区間の速度の60%タイル値及び80%タイル値と、規定の判別速度との比較により、移動手段の二次判定を行うことで、一次判定した移動手段を修正可能とした。
【0027】
なお、上記所定の移動手段、上記速度規範は、解析対象となる地域の特性を考慮して定められる。例えば、解析対象となる地域に存在する電車、バス等の公共交通手段の種類、高速道路の有無等により上記の手段、閾値に傾向が生じるからである。
【0028】
さらにまた、この発明は、上記第三の課題を解決するため、上記の抽出された連続範囲の中心点、単位区間の中点、及び測位点データからなる識別点の集合に対して、クラスタリングによりその識別点が規定の位置範囲内に規定の数以上集中した集中区域を抽出するアクティビティノード抽出手段を有する構成を採用した。
すなわち、行動目的地と解釈される識別点が何日にも亘って何回も集中していると、そこはその移動対象にとっての要衝となる地点であると解釈でき、行動目的地であることが多い要衝を自動的に解析できる。
【発明の効果】
【0029】
上述のように、この発明にかかるシステムは、移動端末の位置情報とその測位時刻とを含む測位点データを要素としたプローブデータ集合から、自動的に行動目的地と考えられるトリップエンドを抽出することが出来る。
また、この発明にかかるシステムは、移動手段一次判定手段及び移動手段二次判定手段を有する構成の採用により、地図情報データベースを参照することなく移動手段を推定することができる。
さらに、この発明にかかるシステムは、アクティビティノード抽出手段を有する構成の採用により、移動端末を有する者の要衝となる地点を自動的に解析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、この発明の一実施形態について図1乃至10を用いて詳細に説明する。
この実施形態は、図1に示すように、上記の区間識別手段111と、上記の速度算出手段112と、第一滞在トリップエンド抽出手段116と、第二滞在トリップエンド抽出手段117と、終起点トリップエンド抽出手段118と、トリップ抽出手段121と、移動手段一次判定手段122と、移動手段二次判定手段123と、上記のクレンジング手段113と、上記のアクティビティノード抽出手段126と、上記のアクティビティノードラベリング手段127と、図示していないトリップ最適値検証手段とを有する、プローブデータ解析システムである。なお、プローブデータとは、時刻と位置とを含むデータをいう。また、図中トリップエンドを「TE」と、アクティビティノードを「AN」と略記する。
【0031】
なお、上記の各手段を備えた実施形態に係るシステムは、図示を省略するが、情報演算処理装置、記憶装置、移動端末とのデータ通信用インターフェースを少なくとも備えたコンピュータをそれぞれの手段として機能させるプログラムがそのコンピュータにインストールされることにより実現されている。
【0032】
上記のコンピュータは、複数の情報演算処理装置を備えた分散処理型のもの、所定の記録媒体の読み出し装置等を備えたものなどに変更することができ、この発明の作用・効果をプログラムにより実現することができる限り、適宜のハードウェア構成にすることができる。
【0033】
この実施形態は、GPS携帯電話を上記の移動端末の対象として構成されている。
【0034】
なお、上記移動端末は、その移動端末に組み込まれたプログラム機能により、一定時間間隔で測位された移動端末の位置情報とその測位時刻とを含む測位点データを取得し、上記のコンピュータに所定時に自動的に送信するようになっている。
【0035】
また、GPS携帯電話の場合、基地局からの補正電波を利用して測位する機能、例えばDiffrential−GPS方式を実装させることができる。これにより、測位点データの位置情報の信頼性が高められる。
【0036】
なお、上記の移動端末は、個人に携帯させたり、自動二輪や自動車(以下、「自動車等」という。)に搭載させたりすることができ、かつ、一定時間間隔でその移動端末の位置を測位する機能と、各測位を実行した測位時刻を得る機能とを有し、測位によって得られた位置情報とその測位時刻の情報とを所定条件になると自動的に移動体通信網・PSTN・インターネット等の通信網を介して所定の送信先に送信するものであればよい。すなわち、測定対象となる個人又は自動車等が、移動端末を所持、または搭載したまま移動すると、その位置情報を一定時間間隔で測位することとなり、その測定対象の行動を時刻情報とともに追跡した情報となる測位点データを得ることができる。
【0037】
例えば、GPS搭載携帯電話に、指定した時間ごとに、GPSでその時点における緯度及び経度からなる位置情報を測定し、測定した時間を時間情報として、位置情報とともに自動的に送信するように実行させる常駐型のアプリケーションをインストールし、実行させる。送信は携帯電話網を用いて行い、直接に上記コンピュータ側に導入してもよい。
【0038】
上記の区間識別手段111は、インターネット等を介して上記コンピュータに送信された測位点データを上記記憶装置に設けられた所定の論理格納領域に記憶させる。この論理格納領域に記憶された複数の測位点データが、上記のプローブデータ集合となり、上記の区間識別手段111の解析対象となる。
【0039】
上記所定の送信先は、上記コンピュータに限定されず、一旦、別の受信・記憶専用コンピュータに送信し、そのコンピュータの記憶装置に記憶された測位点データを別途、記録媒体に書き出し、又はインターネットで上記コンピュータに送信するように構成することができる。
【0040】
また、GPS搭載携帯電話を用いる場合、上記測位点データを自動送信する上記の所定の条件としては、上記移動端末から逐次に無線送信するようにしてもよいし、一旦、上記移動端末の記憶装置に記憶させた後に一括して無線送信して上記コンピュータ側に導入してもよい。この一括送信は、所定時間間隔で行うようにしたり、所定の時刻で行うようにしたり、上記移動端末の電池容量が所定値以下になると行うようにしたり、これらを組み合わせたりして定めることができる。これらのように、測位点データが所定の送信先に自動送信されるように構成すれば、移動端末を所持するモニターの操作で送信される場合と比して、モニターの端末操作忘れによるデータ送信の欠如を防止することができる点で好ましいのである。勿論、移動端末が上記モニターの手動操作により測位点データを送信する機能を具備する構成も合わせて採用可能である。
【0041】
また別の移動端末としては、PHS(Personal Handy−phone System)が挙げられる。PHSはマイクロセル方式であるため、端末に電源が入っていて電波を送信していれば、その電波を受信した基地局ごとに、移動測定対象が存在する場所を絞り込むことができる。このため、基地局や管理会社側で、電波をやりとりする基地局から求めた端末が存在する位置情報とその時点での時間情報とからなる測位点データを記録して、順次送信してこの発明にかかるシステムに導入してもよいし、まとめて記録してからこの発明にかかるシステムに導入してもよいし、別途設けた記録装置に記録した後にこの発明にかかるシステムに導入してもよい。
【0042】
さらに、上記移動端末が、上記のGPSとPHSとの両方の機能を有しているとより好ましい。GPSはPHSよりも精密に位置情報を特定することができるが、衛星と通信できない地下では使用できない。そのため、GPSが使用できる状況ではGPSを使用し、GPSが使用できない状況ではPHSにより上記位置情報を測定することで、漏れの少ない位置情報の測定が可能となる。
【0043】
また、移動測定対象を自動車に限り、この発明にかかるシステムで自動二輪又は自動車の交通のみを調査する場合には、上記移動端末として、自動車に備えられたGPSを用いることもできる。この場合、別途携帯電話などの移動体通信網などの無線通信網を利用できる無線端末を用意し、ネットワークに接続して、この発明にかかるシステムや別途用意した記憶装置に測位点データを送信したり、一旦記憶媒体に記録した後にその記憶媒体の移動によりこの発明にかかるシステムに読み込ませても良い。
【0044】
なお、1システムにより複数の移動端末から得られた測位点データを取り扱うように構成する場合、各測位点データと各移動端末との対応を識別できるようにすればよい。例えば、上記測位点データに、どの移動端末から送信されたデータであるか識別できる識別IDを含めることができる。具体的には、上記移動端末が固有のID番号を上記測位点データに含めて送信し、上記区間識別手段111がID番号に基づいて予め移動端末ごとに設けられた上記論理格納領域に振り分けるようにする構成を採用することができる。このID番号は、移動端末が携帯電話である場合には電話番号であってもよいし、GPS端末やPHS端末のそれぞれの端末を認識するために用いられているIDでもよいし、この実施形態で用いる専用のIDを割り当てたものでもよい。
【0045】
特に、上記の測位点データが上記コンピュータに直接送信されるようにすると、送信された測位点データに対して順次、後述する処理手段を実行することで、リアルタイムに後述するショートトリップ(図中では単に「ST」とした。以降も同じとする。)を求めることができる。
【0046】
上記の区間識別手段111は、上記の測位点データを要素としたプローブデータ集合に対して識別、解析を行う。例えば、人の行動解析を実行する場合、プローブデータ集合は、少なくとも1日分の測位点データから構成することができる。また、後述するアクティビティノード(図中では単に「AN」とした。以降も同じとする。)の抽出を行う場合、1週間、1ヶ月分の測位点データからプローブデータ集合を構成することができる。
【0047】
なお、この実施形態にかかるシステムは、測位点データを記憶装置に記憶する測位点蓄積手段を有する。測位点蓄積手段は、周知のデータベースとして構成されており、移動端末の識別IDと測位点データを関連付けて記憶するようになっている。
【0048】
上記の区間識別手段111は、上記プローブデータ集合の中から、図2に示すような、時系列で連続する2点の測位点データ間を、測位点データに含まれる測位時刻から一つの単位区間として識別するようになっている。
【0049】
また、それぞれの単位区間は、それを構成する二点から移動距離と移動方向を求めることができる。この実施形態にかかる速度算出手段112は、この移動距離及び移動方向と、上記の時間間隔とから上記移動端末の一つの単位区間あたりの速度を求めるようになっている。
【0050】
ここで、速度とは、ベクトル量であり、移動距離と上記の時間間隔から求められる距離の速度だけではなく、その単位区間の移動方向と直前の単位区間の移動方向との角度差及び上記の時間間隔から求められる角速度も含まれる。これらの速度はすなわち、その測位点データを測位した移動端末の速度である。
【0051】
また、この単位区間は、元の測位点データの測位した測位時刻を参照することで、その行動を行った時刻が何曜日の何時であるか求めることができる。したがって、この実施形態にかかるシステムにおいて、単位区間の情報を扱うにあたっては、識別、算出した測位点データ間の移動距離や所要時間、速度などの情報だけではなく、元の測位点データを参照可能としておく必要がある。さらに、こうすることで、それぞれの単位区間の元になった測位点の位置も参照可能となり、その移動を行った位置の解析が可能となる。
【0052】
この実施形態にかかるシステムでは、識別した単位区間に関連付けて、算出した測位点データ間の移動距離、所要時間、速度、及びその単位区間を構成する2つの測位点データを管理するデータベースとして構成された区間蓄積手段を有している。なお、測位点蓄積手段と区間蓄積手段は、単一のデータベースとして構成することもできる。
【0053】
なお、複数の移動端末について同時に測定を行う場合には、それぞれの単位区間には、元の測位点データが有する上記識別IDを有している必要がある。
【0054】
上記測位点データには、測定の際に生じるエラーが不可避的に含まれる。これは、上記移動端末がGPSを用いた移動端末であると、測位を行うときに、GPS衛星信号の受信状態が悪いと、端末での自律測位機能とサーバ補助による測位機能とのいずれもが使えないという事態になることがある。この場合は、測位する上記測位点データの位置を、携帯電話回線の基地局との通信により、上記移動端末の測位位置を、基地局位置、又は複数の基地局位置を補間して得られる位置として、暫定的におくようにする。このような基地局の位置を基準とした位置となっていると、その測位点データの位置情報が、実際の存在位置から大きく離れてしまうことがある。それが許容範囲を超えた状態をハンドオーバー状態と呼ぶ。
【0055】
このような測位点データからなる単位区間にまで一律に解析を行うと、かえって正常な解析結果が得られなくなってしまう。このことに着目すれば、この発明にかかるシステムにおいては、上記の速度評価手段114の前の段階で、解析を行う測位点データを選別して、ハンドオーバー状態である測位点データを除外するクレンジング手段113を有していることが好ましい。
【0056】
ここでクレンジング手段113が行う内容は、時系列で連続する3つの単位区間のうち、時系列上3番目の上記単位区間の速度と、時系列上2番目及び3番目の上記単位区間の角速度との積が所定のパラメータを超える、または、時系列上3番目の上記単位区間の速度が想定されうる規定値を超える場合に、
時系列上2番目の上記単位区間の始点である測位点データと時系列上3番目の上記単位区間の終点である測位点データとを繋ぐ仮想的な単位区間を算出し、
前記仮想的な単位区間の速度と、時系列上1番目の単位区間と前記仮想的な単位区間とから算出される角速度との積が、所定のパラメータを超える場合、
時系列上2番目の上記単位区間の終点であり、すなわち時系列上3番目の上記区間の始点である上記測位点データを除外して、以後のこの発明を構成するそれぞれの手段の実行を、前記仮想的な単位区間を用いて行うようにするものである。
【0057】
すなわち、ハンドオーバーに該当して測位位置が本来の位置から大きく外れると、その前後で上記単位区間の示す方向が大きく変動する可能性が高く、角速度が大きくなりやすい。同時に、測位される位置が基地局となるため、本来の位置との間で距離が大きく離れるため、上記単位区間の距離の速度も大きくなりやすい。従ってこの速度と角速度の積が一定の値を超えたら、それがハンドオーバーによる測位位置のエラーである可能性が高いと判断して除外するのである。
【0058】
このクレンジング手段113を実際に実行する際の具体的なフローとしては、図3(a)乃至(e)のような手順により、直近4点の測位点データからなる、連続する3つの上記区間について検討し、基地局のハンドオーバーであると判断される測位点データを除外するものが挙げられる。以下、その手順について説明する。
【0059】
図3(a)乃至(e)において、「i」は判断の対象とする上記単位区間の、作業キューへの蓄積数に対応する最大値が3の変数である。「P」は時系列順に連続した「P」から「P」までの測位点データを示し、「LEG」は連続する2つの測位点データP及びPi−1から算出される上記単位区間を示す。これらのPi及びLEGiはそれぞれ、処理を行うキューであるPキュー及びLEGキューに格納される。また、HOは測位点Pi−1がハンドオーバー状態である可能性を示す分岐のためのフラグであり、真偽値を有する。VはLEGの速度を示し、ωはLEGj−1からLEGへの角速度を示す。また、Cは最適値を調整可能な定数であるパラメータを示す。また、真を「True」、偽を「False」で表す。
【0060】
まず、メインフローである図3(a)について説明する(401)。「i」の初期値は0である(402)。まず、時系列上最初の測位点データPを取得してPキューに入れる(403)。取得したら(404、405(i=0))、「i」に1加算して「i=1」とする(410)。次に、Pを取得してPキューに入れ(403,404)、このPとPから区間LEGを算出してLEGキューに入れる(406)。なお、この区間LEGは算出するのではなく、上記区間識別手段で算出した値を呼び出してもよい。このとき、この区間LEGの速度Vも算出するか、又は先に上記速度算出手段で求めた値を呼び出しておく。一方、Pが取得できない場合は(404)、そこで処理を終了する(430)。
【0061】
次に、i=1であるので処理1を行わずに(407)、かつ、i=3の条件を満たさないので(409(i=1))、「i」に1加算して「i=2」とする(410)。
【0062】
さらに次に、Pを取得してPキューに入れる(403)。取得出来ない場合は上記と同様にそこで処理を終了する(430)。取得したら、P及びPから、区間LEGを算出してLEGキューに入れる(406)。なお、上記と同様に、上記空間識別手段で算出した値を呼び出してもよい。このとき、この区間LEGの速度Vも算出するか、又は呼び出しておく。i=2であるので(407)、図3(b)に記載の処理1を行う(408)。
【0063】
上記の処理1では(451、i=2)、上記単位区間LEGからLEGへの角速度ωを算出する(452)。なお、算出する代わりに、上記速度算出手段で算出した角速度を呼び出しても良い。ここで、LEGの距離の速度Vが0でないことを前提に、ωとVとの積がパラメータC未満であるか否かを判断する(453)。このパラメータCについては後述する。すなわち、移動方向が大きく変化しているか、又は、距離の速度がありえない値となっていると、角速度と距離の速度とが一般的に考えられる値を上回ることとなり、これらがハンドオーバーである状況を示している可能性があると考える。従って、「ω−C/V<0」すなわち「ω×V<C」であれば、あり得る値であってハンドオーバーでない可能性が高いと判断してHOは偽とする(454)。逆に、ω×VがパラメータC以上であれば、ハンドオーバーである可能性が高いとみなして、HOを真とする(455)。このようなハンドオーバーとなる場合の例を図3(d)に示す。LEGとなるLEGと、LEGj−1となるLEGとの間の角度差が大きく、Pが異常値である可能性が高い。なお、GPSの測定において、位置情報が小数点以下の小さい桁まで一致することはまずありえないため、V=0となる場合はエラーとみなし、上記の判断を行わずにHOを真として取り扱う(455)。また、V=0でなくても、実際にほとんど動いていない場合は、上記の判定が真となる。
【0064】
この処理1を終えたら(456)、i=2であるので(409)、次へ進む(410、i=3となる)。
【0065】
次に、上記と同様に、Pを取得してPキューに入れる(403、404)。P及びPからLEGを生成、又は呼び出す(406)。上記と同様に処理1を実行して(408、451)、LEG及びLEGから角速度ωを算出して(452)、上記と同様にパラメータCで判断する(453)。HOの真偽値を判断し(454,455)、処理1を終える(456)。
【0066】
i=3であるので(409)、HOを判断するフローへ移る。ここで、HOが偽であり(421)、かつHOが偽であれば(422)、Pはそこまでの判断でハンドオーバーである可能性は低いとみなされるので出力する(424)。この出力とは、ハンドオーバーの状態である可能性が低い、正常な値であると判断することをいい、以降のそれぞれの手段は、この出力された測位点データに対して行うとよい。また、Pキューから判断を終えたPを取り出すとともに、LEGを取り出す。さらに、次の測位点データと単位区間を取得するために、iを2に変更して、LEGキュー中のLEGをLEGに、LEGをLEGに付番し直すとともに、Pキュー中のPをPに、PをPに、PをPに付番し直す(424)。その上でiに1加算してi=3とし(410)、次の測位点データをPとして取得して(403)、同様の処理を行う(406〜)。
【0067】
一方、HOとHOのいずれかが真である場合は(421,422)、これらを構成するPがハンドオーバーであるか否かの判断を行うため、処理2を実行する(423)。
【0068】
処理2では(461)、図3(c)に記載のような操作を行う。まず、PとPとの間に、ハンドオーバーである可能性のあるPを省いた仮想的な単位区間LEG’を作成し、その速度V’を算出する(462)。この仮想的な単位区間は図3(e)のような関係にある。すなわち、Pがハンドオーバー状態の測位点データである場合には、この仮想的な単位区間が、上記移動端末の実際の移動に近い挙動を示すものとなる。逆にPがハンドオーバーでない場合には、一つの正常な測位点データを飛ばしているため、この仮想的な単位区間は不自然なものとなる。
【0069】
このような検討のため、上記単位区間LEGから仮想的な単位区間LEG’への角速度ω’を算出して(463)、角速度ω’及び速度V’を処理1と同様のパラメータCにより判断する(464)。すなわち、「ω’×V’≧C」であれば、この仮想的な単位区間LEG’は、本来の正常な測位点データであるPを飛ばしてしまった異常なものであると考えられ、仮想的な単位区間LEG’に飛ばされた測位点データPは正常なデータであると考えられる。その場合は処理2を終了して(467、423)、構成する上記単位区間の判断の終わったPを出力するとともに、上記と同様にPとLEGとを取り出して、i=2としてLEG及びPを付番し直し(424)、次の測位点データを取得して処理を進める(410,403)。
【0070】
一方で、V’が0でなく、かつ「ω’−C/V’<0」すなわち「ω’×V’<C」であれば、この仮想的な単位区間LEG’が、正常なデータであると判断され、すなわち、省かれたPが異常な値を示すハンドオーバーであり、この測位点データを挟む二つの上記単位区間LEG、LEGが異常なデータであると判断される。従って、PをPキューから破棄し、LEGキューからLEG及びLEGを削除するとともに、LEGキューにLEG’を入れる(465)。さらに、仮想的な単位区間LEG’を正常な単位区間であるLEGと扱うようにし、Pが省かれたことに従ってPをPとして付番し直す(466)。処理2を終了した後(466、423)、i=2であるのでその後の破棄処理を行わずに(424)、その後、i=3として(410)、次の測位点データを取得し(403)、同様の処理を行う。
【0071】
以降、測位点データPiが取得できる限り上記と同様の判断を続け、取得できなくなった時点でその時点でのPi−1及びPi−2を出力して処理は終了する。これにより、ハンドオーバーであると考えられる測位点データは出力されず、正常であると判断された測位点データのみが出力される。従ってこの発明を構成する以下の手段では、このクレンジング手段113で出力された測位点データに対して処理を行い、出力されなかった測位点データについては処理を行わないようにする。この区別は、それぞれの測位点データにマーキングして、マークの有無によって行っても良い。また、同様に上記単位区間についても、処理2の(464)で削除された上記単位区間に対しては処理を行わず、その代わりに仮想的な上記単位区間に対して処理を行うものとする。
【0072】
上記の手順では、ハンドオーバーを起こしていても、それぞれの上記区間の角速度や距離の速度が大きくない場合は検出することが出来ないが、その場合は実際の位置との乖離が小さいため、検出出来なくても特に問題がない。
【0073】
この検出に用いる上記のパラメータCは、図4のような横軸に速度を、縦軸に角速度をとったグラフにおいて常識的な値と考えられる横軸や縦軸の近傍から大きく離れた単位区間を検出するためのものであり、その条件となるω>C/Vの不等式の境界線となるω=C/Vの反比例式の定数となるものである。この定数は都市構造や基地局の間隔などにより最適値が変化するが、100〜200(km/h・deg/sec)であると好ましい。
【0074】
また、上記のパラメータCによる判断の際に(453、464)、速度が時速20〜30km以下である上記区間はクレンジングのフラグ対象から除外してもよい。単位区間あたりの距離がこのような値以下である場合は、ハンドオーバーしていたとしても、実際の位置との乖離が大きくないと判断されるため、あえてクレンジングの対象としなくても良いからである。
【0075】
また、このようなクレンジング手段113の実行とともに、スムージング手段により、それぞれの測位点データの測位位置のスムージングを行うと、後述する第一滞在トリップエンド抽出手段116での抽出の際にエラーが生じにくくなるのでより好ましい。このスムージングの具体的な手順は、例えば指数平滑による方法が挙げられ、その詳細は以下の通りである。
【0076】
すなわち、0<a≦1である、最適値を選択可能な値aを用いて、時刻tにおける位置を下記式(1)のx(t)及びy(t)として求める。ここでx’及びy’は本来の測位位置である。
【0077】
【数1】

【0078】
また、測位位置や測位時刻が大きく離れている場合など、このようなクレンジング手段113だけでは除外しきれないエラーも存在している。そのようなデータは解析の際に、不明トリップとして除外したり、後述する第二滞在トリップエンド抽出手段117や、終起点トリップエンド抽出手段118により、その前後をトリップエンドとして処理する。
【0079】
上記の第一滞在トリップエンド抽出手段116は、所定の時間ts以上に亘る、上記単位区間当たり速度が所定の値Vs未満である2つ以上の連続する上記単位区間を構成する前記測位点データの全てが所定の半径rの円内に収まる連続範囲を抽出する。これは、時間軸とxy軸からなる空間で表すと、図5に記載のような円筒の範囲であり、すなわち、移動端末がある一定範囲に所定時間に亘って留まり続けている状況を示す。これは、なんらかの目的を持ってその連続範囲が示す場所に滞在していると解釈することができ、移動端末の所持者が目的地に到達した状況を示すと考えることができる。このような連続範囲は、上記プローブデータ集合に含まれる連続した上記単位区間を目的ごとの移動として区切る区切りとすることができる。以下、この区切りを便宜上滞在トリップエンドと呼ぶ。
【0080】
上記の所定の時間tsとは、その停止又は一定範囲内の滞在が、なんらかの目的を持ったものか否かを判定するための閾値であり、例えば踏切待ちや信号待ちなどの移動中における移動目的外の停止を、目的地への到達であると判断してしまうことを防ぐために除外する閾値である。この値は少なくとも信号待ちを除外するため3分以上であると好ましく、一方で、短時間で済ます買い物なども出来るだけ除外せずに済むように、10分以下であると好ましい。この中でも特に、5分前後の値であると最適である。
【0081】
上記の所定の値Vsは一般的な人間が移動する際の徒歩の平均速度である時速4kmよりもさらに遅い値である必要がある。人が何らかの目的地に到達した場合には、目的地へ向かって移動する際よりも速度は低下するためである。この値は時速1km以上3km未満であると好ましく、特に時速2kmであると最適である。時速3km以上では、個人差次第では通常の徒歩を含めてしまうためである。一方で、閾値を1km未満とすると、目的地に到達しても通常の徒歩移動と判断してしまう誤認識が多すぎてしまう。
【0082】
上記の所定の半径rは、一つの目的地を抽出するための半径であり、地域特性によって異なるものである。GPSの精度が高くても10m程度の測定誤差は存在するため、この半径rは10m以上であると好ましい。ただし、上記移動端末がGPSよりも精度の高い方式を用いているときはこの限りではなく、その測定精度に応じたより短い距離でもよい。一方で、100m以下であると好ましい。半径100mを超える目的施設というのは現実に考えにくく、かなりの都市で駅前周辺の中心区域が入ってしまう大きさとなり、目的地の抽出が困難になるためである。この範囲内でも特に、r=30m前後が最適な値となることが多いが、地域特性により変化する。
【0083】
上記第二滞在トリップエンド抽出手段117は、上記単位区間のうち、それを構成する2つの測位点データ間の測位時刻差が所定の時間tm以上であり、距離が所定の値2r未満である上記単位区間を抽出するようになっている。
【0084】
上記のプローブデータ集合を構成する測位点データは、上記移動端末で測位された測位点データの全てが保存されているわけではなく、電波が届かなかったりして測位点データが欠落してしまう場合がある。また、上記移動端末の電源が切れて、そもそも測位点データの測定が行われない場合もある。このような測位点データの欠落が生じている場合、その間に上記移動端末の所持者は何らかの移動目的地に滞在していることが多い。例えば地下街や電波が届きにくい建物に入っていたりする場合や、携帯電話の電源を切らねばならないコンサートホールなどに入っている場合などである。そのような電波の届かない区域から出てきて再び電波が届くようになったり、携帯電話の電源を入れたりして測位点データの受信が回復したら、その滞在目的が終わって新たな移動を開始したものと考えられる。
【0085】
このため、測位点データが所定の時間tm以上に亘って途切れる最後の測位点データと、記録が再開された最初の測位点データとの間が、所定の値2r未満であれば、その測位点データの間に、何らかの目的を持って滞在していたものと解釈する。前記の最後の測位点データと前記の最初の測位点データとの間の上記単位区間を、上記プローブデータ集合に含まれる連続した上記単位区間の集合を目的ごとの移動として区切る区切りとすることができる。以下、この区切りも同様に、便宜上、滞在トリップエンドと呼ぶ。
【0086】
なお、その上記単位区間の長さが所定の値2r未満であるか否かの判断は、すなわち、上記第一滞在トリップエンド抽出手段116における半径rの円内に含まれている場合と同じサイズの区域内に滞在していたか否かを判断することとなる。
【0087】
また、上記の所定の時間tmは、上記第一滞在トリップエンド抽出手段116における所定の時間ts以上であると好ましい。これより短いと適切な抽出が出来ないおそれがある。一方で、滞在を適切に抽出できるように15分以下であると好ましい。この中でも10分とすると多くの場合最適に抽出することができる。
【0088】
上記の終起点トリップエンド抽出手段118は、上記単位区間のうち、それを構成する2つの測位点データ間の測位時刻差が所定の時間tm以上であり、距離が所定の値2r以上である上記単位区間の始点となる測位点データと終点となる測位点データとを抽出するようになっている。この抽出対象となる上記単位区間を時間軸とxy軸からなる空間で表すと、図6に記載のような状況となる。すなわち、上記第二滞在トリップエンド抽出手段117において、時間の条件を満たすが、距離の条件が上限2r以上となっている上記単位区間である。地下鉄や地下道、長い地下街に入った場合など、電波が途切れてから再び電波が繋がるまでの間に大きく移動している場合は、その間のどこで滞在したかわからず、そもそも滞在せずに移動し続けている場合もある。このため、その上記単位区間の間は何をしていたか不明であるが、その上記単位区間の両端は少なくとも何らかの移動の最中であり、その測定の限界点であると解釈できる。
【0089】
すなわち、記録が途切れる前の最後の測位点データとなる、その上記単位区間の始点となる測位点データと、記録が再開された最初の測位点データとなる、その上記単位区間の終点となる測位点データとを、それぞれ、上記プローブデータ集合に含まれる上記単位区間の連続を目的ごとの移動として区切る区切りとすることができる。この区切りを構成する測位点データのうち、その一連の上記単位区間の始点となる測位点データを便宜上終点トリップエンドと呼び、その一連の上記単位区間の終点となる測位点データを便宜上始点トリップエンドと呼ぶ。
【0090】
これらの、上記第一滞在トリップエンド抽出手段116と、上記第二滞在トリップエンド抽出手段117と、上記終起点トリップエンド抽出手段118とを、一連のプログラムとして実行し、上記の区切りを抽出する場合の手順を、図7を用いて説明する。
【0091】
この手順では時系列順にそれぞれの上記単位区間について判定する。まず(201)、対象となる(n+L)番目の測位点データと(n+L+1)番目の測位点データからなる上位単位区間について、その時刻差が所定の値tm未満であるか否かを判断する(202)。tm以上であれば、第二滞在トリップエンド抽出手段117(301,302に相当する。)、及び終起点トリップエンド抽出手段118(301,303に相当する。)での判断を行う。tm未満であれば、第一滞在トリップエンド抽出手段116(211〜224)での判断を行う。以下、まず、第一滞在トリップエンド抽出手段116での手順について説明する。
【0092】
第一滞在トリップエンド抽出手段116では、まず、対象となるn番目の測位点データと(n+1)番目の測位点データからなる上記単位区間について、その速度が所定の値Vs未満であるか否かを判断する(211)。Vs以上であれば、上記移動端末は移動し続けているので、滞在トリップエンドではないと判断し(211,223)、次の上記単位区間の判断へ移る(224)。
【0093】
速度がVs未満である上記単位区間について行う抽出(212)について、図8を用いて説明する。n番目の測位点データと(n+1)番目の測位点データについて、重心、すなわちこの場合は中点を求め、図6のように両方の測位点データがこの中点から規定の半径r内に入る場合(212)、次の(213)、(n+1)番目と(n+2)番目の測位点データからなる上記単位区間の速度が閾値Vs未満であるか否かを同様に判断する(211)。
【0094】
この閾値Vs未満であれば、次に(n+2)番目の測位点データを含め、nから(n+2)の三点が、この三点の重心から半径r内に入るか否かの判断を行う(212)。(n+1)番目と(n+2)番目の測位点データからなる上記単位区間の速度がVs以上であるか、対象点がどれか一点でも半径rの円内に入らなければ、移動測定対象は停止又は目的達成状態から抜け出て移動を開始したと判断して、それまでの滞在が滞在トリップエンドか否かを、n番目から(n+2)番目までの時間が滞在判定時間Ts以上であるか否かにより判断する(221,222,223)。Ts以上であれば、何らかの目的と持った滞在である滞在トリップエンドと判断し(222)、Ts未満であれば、目的地への到達ではない一時的な停止であって滞在トリップエンドではないと判断する(223)。滞在トリップエンドか否かの判断が終わったら、次の上記単位区間について(224)、同様の判定を行う。
【0095】
逆に、上記単位区間の速度が閾値Vs未満であり(211)、それらの上記単位区間を構成する全ての測位点がそれらの重心から半径rの円内であれば(212)、次の上記単位区間についても(213)同様の判定を行い、一連の上記単位区間を一纏めにしつづけ、条件に反した上記単位区間が現れた時点で、合計時間の判定を行う(221)。なお、測位点データが途切れた場合も、そこで判断を終了し、そこまでの一連の上記単位区間が滞在判定時間Ts以上であるかを判断して(111)、滞在トリップエンドとなるか否かを判断する。
【0096】
一方、第二滞在トリップエンド抽出手段117及び終起点トリップエンド抽出手段118では、時間差がtm以上である上記単位区間について(202、203)、その上記単位区間の距離が所定の値2r未満であるか否かを判断し(301)、2r未満であればその上記単位区間を滞在トリップエンドとし(302)、2r以上であれば、n番目の測位点データを終点トリップエンド、(n+1)番目の測位点データを始点トリップエンドとする(203)。
【0097】
上記のような滞在トリップエンド及び終起点トリップエンドの抽出を、上記クレンジング手段113で除外されなかった全ての単位区間と、除外された単位区間の代わりとなった仮想的な単位区間とを構成する測位点データについて行う。
【0098】
なお、上記第一滞在トリップエンド抽出手段116における判断の途中(202,211〜213)で、時刻差が所定の値tmを越える上記単位区間が判断対象となった場合(202,203)、その直前の測位点データである(n+L)番目の測位点データまでの時間がTs以上であるか判断し(221)、条件を満たせばn〜(n+L)番目の測位点データが含まれる連続範囲を滞在トリップエンドとする(222)。その次に(224、203)、その上記単位区間の距離が2r未満であれば(301)、その上記単位区間も滞在トリップエンドとする(302)。この場合、滞在トリップエンドが隣接するが、目的地となる箇所が二つ隣接していた場合などが考えられる。一方、その上記単位区間の距離が2r以上であれば(302)、その上記単位区間の終わりである測位点データを起点トリップエンドとして、次の移動の始まりとする(303)。この場合、上記単位区間の始点である測位点データは終点トリップエンドとなるが、その前の滞在トリップエンドの終点でもあるので、あえて終点トリップエンドとして抽出しなくても良い。
【0099】
以上のような判断を、測位点データが終わるまで繰り返す(224,304)。図5中に図示していないが、全ての上記単位区間について判断し終わったらそこで判断は終了となる。ただし、順次測位点データが上記移動端末からこの実施形態のシステムに送られてくる場合は、測位点データが増えるごとに上記の判断を行う。
【0100】
上記トリップ抽出手段121は、上記の終点トリップエンド及び起点トリップエンド(以下、まとめて「終起点トリップエンド」と呼ぶ。)、並びに滞在トリップエンド(以下、これらをまとめて「トリップエンド」と呼ぶ。)によって、一連の測位点データからなるプローブデータ集合を、個々の連続区間に区切るようになっている。この連続区間は、それぞれの目的地までの移動を示すと解釈される。ここで目的地とは、自宅から職場までといった最終的な目的地だけではなく、その過程で中継する駐車場、バス停、駅なども含む。これらの地点でも、乗り換えの際に一時的な滞在があると考えられるためである。すなわち、上記連続区間は、それぞれが一の移動手段による移動であると解釈する。以下、この連続区間を、便宜上トリップと呼ぶ。
【0101】
なお、それぞれのトリップは、終起点トリップエンドが始点又は終点である場合はその測位点データを含み、滞在トリップエンドが始点又は終点である場合は、その滞在トリップエンドを構成する最後の測位点データを始点として含むか、その滞在型トリップエンドを構成する最初の測位点データを終点として含めるものとすると、便宜上、それぞれのトリップを定義しやすいので好ましい。
【0102】
上記の移動手段一次判定手段122は、上記トリップごとに、そのトリップを構成する全ての上記単位区間について、それぞれの上記単位区間の速度、速度の標準偏差、及び直前の複数区間を含めたピーク速度の少なくとも一つについて、所定の移動手段のそれぞれに対応した規範に基づく評価点を積算して最も評価点の高い移動手段を、そのトリップの移動手段と一次判定する。ここで速度とは距離の速度だけではなく、角速度も含む。
【0103】
上記の移動手段とは、例えば、徒歩の他に、自転車、自動二輪を含む自動車、電車などが挙げられる。これらの移動手段は最大速度が大きく異なり、また、現実にありうる角速度の上限も大きく異なり、速度の標準偏差やピーク速度も異なる。さらに、徒歩であれば移動方向が容易に変えられるが、自動車や電車では移動方向を急激に変更することが難しい。このため、直前の上記単位区間の移動方向と当該上記単位区間の移動方向との角度から求められる上記単位区間の角速度が高いと徒歩や自転車の可能性が高くなる。このように、上記単位区間の速度と角速度から、その上記単位区間の移動手段を大まかに推測して分類することができる。また、自動車や電車は停止時と最高速度の差が大きいため、過去数個の上記単位区間分の速度の標準偏差が徒歩よりも大きくなるという傾向がある。
【0104】
これらのような観点から、徒歩、自動車又は電車の三種類の移動手段のいずれかの可能性が高いとして、上記単位区間ごとに移動手段ごとの評価点を付与する。なお、この実施形態にかかるシステムでは、自転車は徒歩と自動車の中間の性質であるため、速度及び角速度のみから判別することは難しいので、自転車については移動手段一次判定手段122で判別することは避け、後述する移動手段二次判定手段123で判定する。また、電車の路線が存在しない地域で測位点データを測定している場合は、この発明にかかるシステムは電車への評価付けを予め除外しておくと好ましい。あり得ない結果を予め含めておく必要はないためである。
【0105】
その評価点を付与するには、上記の速度による評価と、速度の標準偏差による評価と、直前の複数区間を含めたピーク速度の少なくとも一つを用いて評価点を付与し、これらを全て用いて、それぞれで付与した評価点を総合計して一次判定を行うと、より正確性の高い判定が可能となる。
【0106】
まず、上記の速度による評価について説明する。その手順は以下の通りとなる。それぞれの上記単位区間を図9のような横軸に速度を、縦軸に角速度をとった仮想的な平面座標上にプロットすることを想定し、この平面座標上を区切った、徒歩、自動車、電車のそれぞれの可能性が高いと考えられる限定された領域の中にある上記単位区間を、それぞれの移動手段である可能性が高いと考えて評価点を付与する評価付けする方法が挙げられる。実際には、それぞれの上記単位区間がそれぞれの速度規範となる数値範囲に含まれるか否かを判断して評価点を付与する。
【0107】
上記平面座標上におけるそれぞれの移動手段の領域は、次の範囲で設定される。それぞれ最高値や最低値に幅があるのは、測定地域ごとに最適値が変わるためであり、下記の範囲で最適値を選択する。この最適値の値は後述するダイアリやアンケートなどを用いて検討することが出来る。また、それぞれの領域は、排他的なものとする必要はなく、二種類以上の移動手段の可能性があるとしてもよい。評価は、評価点の合計で行うため、二種類以上の移動手段の可能性がある上記単位区間を、上記単位区間ごとの判定であえて厳密に分類する必要は無いからである。なお、角速度は最低0deg/secであるがこれは直線運動を示しており、どの移動手段でも範囲に含む。
【0108】
まず徒歩の領域は、速度の最低値は時速0kmであり、最高値は時速8〜12kmである。歩く速度は目的地付近では0に近づくこともあり、また移動中に停止状態を挟むことも考えられる。また、この徒歩とは走る場合も含み、全力疾走のような極端な場合を除く駆け足程度であればこの速度範囲に含まれる。一方、徒歩の角速度は無制限、すなわち最大180deg/secである。徒歩は小回りが利き、移動方向を瞬時にして反転させることも容易だからである。
【0109】
自動車の領域は、速度の最低値は時速10〜20kmであり、最高値は時速60〜100kmである。実際には自動車は徐行も可能であり、停止する場合もあるが、徒歩との区別をつけるために一旦上記の範囲に分類することが好ましい。一方、好ましい最高値は測定を行った地域内に高速道路が存在するか否かにより大きく変化する。高速道路が存在する場合は、時速80kmを越えることが普通に起こりうるが、一般道しか無い場合は時速80kmを越えることはまず起こりえないと考えられる。一方、角速度の最高値は40〜60deg/secである。自動車は徒歩に比べて細かい回転がしにくく、交差点で曲がる場合でもこれ以上の角速度となることは考えにくい。
【0110】
電車の領域は、速度の最低値は時速50〜60kmであり、最高値は時速100〜140kmである。実際には停車駅の前後では上記の最低値以下の速度になるが、徒歩や自動車との区別をつけるために、一旦は上記の範囲で分類することが好ましい。一方最高値は、測定を行った地域内で運行している電車の最高速度に応じた値を選択するとよい。なお、移動測定対象が測定を行う地域外に出てしまう可能性が高いため、新幹線のような高速列車は考慮しないものとする。一方、角速度の最高値は20〜30deg/secである。
【0111】
上記のいずれの範囲にも含まれない上記単位区間は、判断不可能として、移動手段一次判定手段122での速度規範に基づく評価付けから除外するように設定するとよい。現実に起こりにくい移動が起こっているため、エラーである可能性が高いからである。除外した上記単位区間は、上記クレンジング手段113で除外した場合と同様に扱うとよい。
【0112】
上記のそれぞれの移動手段ごとの速度範囲に含まれる場合、それぞれの移動手段に対応した評価点を付与する。具体的には、当該上記単位区間が、2つ以上の移動手段の領域が重なる領域にある場合、それぞれの移動手段の評価点を1単位ずつ付与する。また、それぞれの上記単位区間が、1種類の移動手段の領域のみからなり他の移動手段の領域と重ならない領域にある場合は、移動手段の特徴を顕著に表す上記単位区間であるとして、その移動手段の評価点を3単位付与する。
【0113】
次に、上記の速度の標準偏差による評価点の付与について説明する。ここで、速度の標準偏差とは、距離の速度の標準偏差と角速度の標準偏差の両方を意味する。以下、速度の標準偏差とは距離の速度の標準偏差の意味で記述する。
【0114】
判断を行う上記単位区間の直近の過去である連続する複数の上記単位区間における速度と角速度の標準偏差を求め、仮想的な速度標準偏差−角速度標準偏差平面を区切ったそれぞれの移動手段ごとの範囲のいずれの移動手段によるものかを判別し、該当する移動手段の評価点を1単位分、その判断を行う当該上記単位区間に付与する。すなわち、実際には、上記の速度−角速度平面と同様に、それぞれの上記単位区間がそれぞれの移動手段ごとの数値範囲に含まれるか否かを判断して評価点を付与する。ここで複数の上記単位区間とは、3区間から5区間程度で判断すると偏差が求めやすい。ただしこの最適な上記単位区間の数は測位点データの時間間隔により変化する。
【0115】
それぞれの移動手段の速度標準偏差−角速度標準偏差平面上の範囲は、徒歩は速度標準偏差の下限が0かつ上限が3〜6であり、角速度標準偏差の下限が0かつ上限が80である。さらに自動車は、下限が4〜10かつ上限が15〜30であり、角速度標準偏差の上限が80〜100である。電車であれば速度標準偏差の下限が15〜30であり上限が40〜60であり、角速度標準偏差の上限が40〜60である。
【0116】
最後に、上記の直前の複数区間を含めたピーク速度による評価点の付与について説明する。ピーク速度とは、判断を行う上記単位区間の過去数区間中の最大速度をいい、自動車や電車が渋滞や駅などで一時停止した場合でも徒歩と誤判定しにくいように、直近の最高速度を判断材料として評価点を付与するものである。ここで過去数個の上記単位区間とは、過去3〜5単位区間分について行うと、信号待ちや駅停車などの時間を考慮しても、最高速度を検出することがしやすい。ただしこの最適な上記単位区間の数は測位点データの時間間隔により変化する。
【0117】
このピーク速度の判定は、例えば、ピーク速度が時速10km未満であれば徒歩、時速10km以上50km未満であれば自動車、時速50km以上100km未満であれば電車、のように判断し、該当する移動手段の評価点を、その上記単位区間に1単位分付与する。なお、この閾値は測定を行った地域の特性により最適値を調べ、適宜調整してよい値である。
【0118】
上記のようにして個々の上記単位区間に付与された評価点を、当該トリップ中にある全ての上記単位区間について累計し、最も評価点が高かった移動手段が、そのトリップにおける移動手段であると推定して一次判定する。
【0119】
上記移動手段二次判定手段123は、上記連続区間を構成する全ての単位区間の速度の累積出現頻度分布において、ある一定水準の累積出現頻度を示す速度と、規定の判別速度との比較により、移動手段の二次判定を行い、上記移動手段一次判定手段の判定結果を修正する。
【0120】
上記の速度と角速度を基準とした推定手段では、自転車による移動は徒歩と自動車の中間の性質を有するため、閾値を設定して抽出することが困難である。また、移動手段が徒歩や自動車である場合でも、上記移動手段一次判定手段122による一次判定は必ずしも正確ではない場合がある。上記移動手段二次判定手段123により、これらの状況を修正する二次判定を行う。
【0121】
上記トリップの中にも突出した値はあり、また、高速で走行可能な乗り物であっても低速になる場合もある。しかし、上記トリップを構成する全ての単位区間について速度の出現頻度を累積すれば、累積出現頻度を示す速度はそれぞれの移動手段ごとに大きく分かれてくる。具体的には、上記トリップを構成する全ての単位区間の速度の60%タイル値、80%タイル値、又はその両方を、規定の判別速度と比較して上記の二次判定を行う。
なお、タイル値とは、データを値の低い順に並べたときに、それぞれ60%及び80%の順位にあるデータの値をいう。
【0122】
ここで、そのトリップ中の全上記単位区間の速度の60%タイル値が時速8km以上であり、80%タイル値が時速20km未満である場合、上記の移動手段一次判定手段122で推定された移動手段が徒歩であっても、移動手段が自転車であると二次判定する。また、全上記単位区間の速度の80%タイル値が時速20km以上であると、上記の緯度手段一次判定手段で推定された移動手段が徒歩であっても、自動車であると二次判定する。さらに、上記単位区間の速度の80%タイル値が時速10km未満であると、上記の移動手段一次判定手段122で推定された移動手段が自動車であっても、徒歩であると二次判定する。
【0123】
これらの速度の境界値は、従来のWEBダイアリを用いて行われたプローブデータ解析システムでの解析を元にしたものであり、小数の移動測定対象に対してWEBダイアリを用いて調査した地域特性により最適値を変更させてもよい。すなわち、被験者から報告された移動手段ごとの60%タイル値を図10のように累積頻度をプロットした場合に、徒歩と自転車との頻度が最も離れたのが時速8kmであったため、この発明においても、その値を閾値として用いると好ましい。他の閾値も同様に頻度差から最適値を求めることができる。
【0124】
ただし、このような一次判定及び二次判定は、少なくとも5分以上に亘るトリップを対象としないと的中率が低下する。5分未満のトリップは前後のトリップエンドとの差異がはっきりしない場合があり、判定結果が不確実となるためである。
【0125】
この実施形態にかかるシステムは、上記のようにして推定、抽出されたトリップエンドを記録する、トリップエンド蓄積手段を有している。後述する抽出手段や解析手段を実行する解析のたびに、元の測位点データから上記の抽出手段等を算出していると、それまでの解析を何度も繰り返すことになってしまうためである。このトリップエンド蓄積手段で記録する場合には、それぞれのトリップの始点と終点であるトリップエンドとなる測位点の位置や測定時間を含めて記録しておくか、又は、元になった上記単位区間や測位点を参照できるものであると好ましい。いずれの情報も、後述するアクティビティノードのラベリングの際の推定材料となるためである。
【0126】
また、このトリップエンド蓄積手段には、トリップエンドだけでなく、トリップエンドとトリップエンドの間であるトリップ、それを構成する上記単位区間又は測位点データ、そのトリップの上記移動手段一次判定手段122又は上記移動手段二次判定手段123で推定された移動手段を参照できるように記憶しておくと、トリップの内容を検証する際にデータを検証、参照しやすいためより好ましい。
【0127】
なお、このようにトリップエンド蓄積手段でトリップ及びトリップエンドを記録する際には、全てのトリップ及びトリップエンドを判別できるように、それぞれに識別IDが付与されていることが好ましい。後述するアクティビティノードから、元になったトリップエンドやトリップを参照しやすくするためである。
【0128】
このトリップエンド蓄積手段は、上記測位点蓄積手段や上記区間蓄積手段と同一のデータベースとして構成することができるものであると好ましい。参照する上記単位区間及び測位点データと、関連づけて記録することができるためである。
【0129】
上記のアクティビティノード抽出手段126は、上記のようにして抽出されたトリップエンドのうち、滞在トリップエンドであればその連続範囲の中心点又は上記単位区間の中点、終起点トリップエンドであればそれぞれの測位点データのうちの少なくとも一つからなる識別点の集合に対して、その識別点が規定の位置範囲内に規定の数以上集中した集中区域をクラスタリングにより抽出するようになっている。ここで連続範囲の中心点や上記単位区間の中点とは、上記の滞在トリップエンドが一定の広さを持った範囲、又は長さを持った上記単位区間であるため、クラスタリングのためにその存在位置を点として固定したものである。
【0130】
上記のようにしても求められる集中区域は、図11に記載のように、図中黒点で表されるトリップエンド(TE)の中心点等が一定範囲内に一定数以上集中する白丸で示されるような区域をいい、これはその移動測定対象が何らかの目的を持って到達することが習慣づけられた地点を抽出したものとなる。
【0131】
具体的には半径が、80m以上、300m以下の範囲で、測定を行う地域特性に応じて選択する閾値を半径とする円である範囲内に、上記トリップエンドが規定数個以上集まっているものを抽出する。この範囲の閾値は、広げると駅勢圏を一つの区域として抽出することができ、狭めると駅勢圏の中の区画ごとに細分化した区域を抽出することができる。以下、この集中区域をアクティビティノード(AN)と呼ぶ。
【0132】
実際の運用にあたっては、都市部で半径80m、郊外で半径300m、その中間で半径100mという値を用いると好適な閾値として運用できる。また、アクティビティノードとして抽出されると判断されるトリップエンドの規定数は、測定を行った期間(日数)や全トリップエンドの個数、及び1トリップエンドごとの滞在時間を考慮して最適値を求めるものである。例えば、休日にのみ立ち寄るトリップエンドと、平日にのみ立ち寄るトリップエンドとでは、日数が違うため、アクティビティノードとして抽出する閾値が異なっていてもよい。また、休日に立ち寄るトリップエンドからアクティビティノードを求めるため、測定を行う日数は最低でも7日間(一週間)以上であることが好ましい。
【0133】
このアクティビティノードを抽出する上記アクティビティノード抽出手段126が実行する具体的な抽出手順としては、対象とする全てのトリップエンドについて隣接するトリップエンドとの相対論理距離を求めた後、一斉同時にアクティビティノード抽出処理を実行する階層クラスタ処理によりクラスタリングを行う。
【0134】
ここで論理距離の算出方法としては、ユークリッド距離、市街距離、ミンコフスキー距離、マハラノビスの汎距離などを用いられるが、このアクティビティノードの抽出においては特にユークリッド距離を用いると好ましい。ユークリッド距離とはxy座標系においてピタゴラスの定理を用いて下記式(2)で求められる距離Rをいう。ここで(X,Y)(X,Y)は緯度経度などから求められる座標である。
【0135】
R={(X−X+(Y−Y1/2 (2)
【0136】
なお、上記市街距離とは、2点間の座標のX軸における差の絶対値とY軸における差の絶対値との合計をいう。これは特に、直交する通りの連続からなる碁盤目状の道路網が形成された都市において現実の移動距離に近い値となる。上記ミンコフスキー距離とは上記ユークリッド距離と上記市街距離とを融合して一般化したものである。また、上記マハラノビスの汎距離とは、上記のように実測値としては測れない距離について用いる距離尺度である。
【0137】
上記のいずれかの計算方法を用いて、対象とする上記トリップエンドの全てについて、隣接する上記トリップエンドとのユークリッド距離を総当たり的に計算する。ただし全ての上記トリップエンド同士の距離を計算するのではなく、総当たり最大距離の上限をαと規定しておき、ユークリッド距離の計算結果がαを超えたところで、そのトリップエンドについてはそれ以上遠い上記トリップエンドとの間の距離は計算しない。このようにして、αの計算範囲内に含まれた上記トリップエンドをまとめて、計算のための一次群とおく。このαは緯度経度上であるため単純なメートルで示すことが出来ない場合があるが、測定を行った地域の構造、状況により、80m以上300m以下に相当する値の範囲で最適値を求めて閾値とする。都市部では施設が密集しているため80mとすると好ましく、郊外では300mとすると好ましく、その中間は100mとすると好ましい。
【0138】
それぞれの上記一次群ごとに、最短距離にある1対のトリップエンドの重心位置を求め、次にその重心位置に最も近い位置にあるトリップエンドを含めた重心を求める。さらに求めた重心に最も近い位置にあるトリップエンドを含めた重心を求める。なお、重心算定の際の重み付けは、トリップエンド1つあたり重み付け1つとし、全データを等価であると仮定する。これを繰り返し、重心から最も遠いトリップエンドまでの距離がαを超える直前の重心位置をもって、アクティビティノードの中心とし、そこからαの範囲にあるトリップエンドがアクティビティノードを形成する。
【0139】
なお、このように総当たり的に行うクラスタリングのアルゴリズムとしては、必ずしも上記のような重心法によらなくてもよく、ウォード法、最短距離法、最長距離法、メディアン法、群平均法、可変法などを用いることができる。特に、トリップエンドのばらつき偏差を鑑みた場合、最短距離法、群平均法を用いると、計算処理時間が重心法を用いるよりも短く済む場合がある。
【0140】
上記のようにして上記アクティビティノード抽出手段126で求めた上記アクティビティノードは、その移動端末を所持する移動測定対象が到達したり、通過の際に立ち寄ったり、または通過の際に移動手段を変更したりする箇所であることがわかる。このようにして、機械的に収集された測位点データから、機械的に上記移動測定対象が習慣的に立ち寄る地点を求めることができる。
【0141】
なお、上記アクティビティノードの情報は、それを構成するトリップエンドである滞在トリップエンドの起点となる測位点データと終点となる測位点データとの間の時刻差の合計や平均を含むか、又は参照できることが好ましい。この時刻差は、すなわち、上記アクティビティノードにおける、上記移動端末の滞在時間であると解釈でき、滞在トリップエンドごとの時刻差の平均や標準偏差により、そのアクティビティノードの性質を判断することも可能である。なお、測定間隔が開いた終起点トリップエンドの場合は滞在時間は不明となる。
【0142】
上記のアクティビティノードラベリング手段127は、上記のアクティビティノード抽出手段126により抽出されたアクティビティノードについて、それを構成するトリップエンドである測位点データが、所定の日時の条件を満たすものを抽出するようになっている。
【0143】
上記のラベリングとは、それぞれのアクティビティノードを、自宅、勤務先、通学先、立ち寄り箇所等といった、立ち寄る意味ごとに属性をつけて分類することをいう。なお、ラベリングを行ったアクティビティノードの属性を元にさらに前後のアクティビティノードをラベリングすることもありうる。ここで、所定の日時の条件とは、例えば、トリップエンドの始点である測位点データの時刻や曜日、トリップエンドの終点である測位点データの時刻や曜日、これらの間の時刻差、その測位点データの曜日などの値や平均値、統計値等が挙げられる。
【0144】
例えば、平日朝に入って、昼又は夕方まで滞在しつづけているアクティビティノードは、勤務先又は通学先であると推定してラベリングすることができ、逆に夕方から夜に入り、朝まで滞在し続けているアクティビティノードは、自宅であるとラベリングできる。上記アクティビティノードラベリング手段127では、自宅、勤務先及び通学先であると推定してラベリングできるアクティビティノードにラベリングを行う。
【0145】
このうち、自宅を推定する際のルールについて具体例を挙げて説明する。これは、夜間は自宅に滞在しているという仮説に基づく。そのアクティビティノードを構成する滞在トリップエンドで、午前5時の段階で滞在しているものに判別点を1点付与する。また、ある一日の起点トリップエンドのうち、午前7時から午前9時半の間に出発しているものについて、{0.8点÷(その条件に該当するトリップエンド数)}の判別点をそれぞれに付与する。さらに、ある一日の終点トリップエンドのうち、18時から24時に到着しているものについて、{0.2点÷(その条件に該当するトリップエンド数)}、の判別点をそれぞれ付与する。このように付与した判別点が1点以上であるもののうち、最大の判別点となったものを自宅であると判断する。
【0146】
これは、午前5時の段階ではほとんどの人は就寝していると考えられ、この時点で観測された測位点データは自宅である可能性が高いと考えられる。また、午前5時の段階では測位点データが得られない場合、例えば自宅に電波が届かなかったり、電源を切っていたりする場合があるが、その場合は終起点トリップエンドにより判断していることを示す。
【0147】
逆に勤務先では、上記の自宅の場合とは出発と到着の時刻が1時間ほどずれて逆となるような法則の下に判別点を付与して、同様の判別が可能となる。なお、このずれる時間は、平均的な通勤時間を決定する都市の規模による。例えば、起点トリップエンドのうち、17時から23時に出発しているものについて、{0.2点÷(その条件に該当するトリップエンド数)}の判別点をそれぞれに付与する。また、ある一日の終点トリップエンドのうち、午前6時半から午前9時半の間に到着しているものに、1点を付与する。このように付与した判別点が1点以上であるもののうち、最大の判別点となったものを勤務先であると判断する。
【0148】
また、アクティビティノードラベリング手段127を実行した後で、自宅であるとラベリングされたアクティビティノードと、勤務先であるとラベリングされたアクティビティノードとを直接繋ぐトリップと、間に滞在時間が30分未満である滞在トリップエンドを含んで繋がった一連のトリップからなるトリップチェーンのうち、自宅から勤務先への移動を出勤、帰りを帰宅とラベリングするトリップラベリング手段を実行すると、通勤過程であるトリップと帰宅過程であるトリップとを推定して抽出することができる。
【0149】
この実施形態にかかるシステムは、上記のようにして抽出されたアクティビティノードの中心地点を記録する、アクティビティノード蓄積手段を有している。アクティビティノードについて解析を行うたびに、上記測位点データから毎回抽出作業を行うことなく、簡易に解析を行うことができるのでより好ましい。また、この際に記録する情報としては、単純な中心位置だけではなく、アクティビティノードを抽出した範囲半径、構成するトリップエンド数、構成するトリップエンドの平均到着時刻、平均滞在時間等の情報、それぞれのラベリングした属性を含んでいると、より広範で複雑な解析が可能となるためより好ましい。
【0150】
このように用いるアクティビティノード蓄積手段は、上記の測位点蓄積手段や区間蓄積手段、トリップエンド蓄積手段などの蓄積手段と同一のデータベースとして構成することができるものであると好ましい。アクティビティノードの元になったトリップエンドのデータを関連づけて参照できるためである。
【0151】
上記のアクティビティノードを求めることによって、上記移動端末を有する移動測定対象が頻繁に立ち寄る移動の要衝を求めることができる。この求められたアクティビティノードは単に地点だけの情報だけではなく、そこに立ち寄る頻度や時刻、滞在時間まで参照可能であり、その立ち寄る地点の性質を解析、推定可能なものである。
【0152】
上記のトリップ最適値検証手段は、上記第一滞在トリップエンド抽出手段116で抽出される上記連続範囲、上記第二滞在トリップエンド抽出手段117で抽出される上記単位区間、及び、上記終起点トリップエンド抽出手段118で抽出される上記測位点データのうちの少なくとも一つ、すなわちトリップエンドにより区切られる連続区間の距離と、上記単位区間を用いずに求めた移動手段ごとの移動区間情報とを、距離範囲ごとに分類して距離範囲ごとの頻度を比較し、その頻度の偏差が最も小さくなるように、上記第一滞在トリップエンド抽出手段116、上記第二滞在トリップエンド抽出手段117、及び上記終起点トリップエンド抽出手段118における所定の値の最適値を求めるようになっている。
【0153】
ここで、上記単位区間を用いずに求めた移動手段ごとの移動区間情報とは、この発明にかかる手段で算出した移動の情報ではなく、上記移動端末を携帯する所有者によって、比較の為に別途用意した移動の情報である。
【0154】
このような別途用意した移動の情報の元となるデータは、例えば、上記の所有者によってWebページを経由して申告された行動記録であるWEBダイアリのデータを用いたり、単純なアンケート用紙に記入された内容を人力でコンピュータに入力してデータ化したり、マークシート形式のアンケート用紙を工学的な読みとり機械によりデータ化したりした情報が挙げられる。これらのデータはいずれも、申告する期間における上記の所有者が、いつどのような移動手段を用いて移動したかの記録である。
【0155】
アンケート用紙の場合は、その移動手段ごとの移動の始点と終点との時刻に最も近い、その申告者が携帯していた上記移動端末の測位点データを参照し、それぞれの測位点データの測位位置を、その時点における上記移動端末の存在位置とする。その二つの測位点データの間の上記単位区間の合計移動距離を、申告された移動手段に対応する移動区間情報として取り扱う。
【0156】
また、Webダイアリのデータは、例えば以下のように記録するとよい。まず、上記の所有者にGPS機能を有する携帯電話を所持させ、目的を持った移動ごとに、移動の始点と終点との時点で携帯電話を操作して、時刻と緯度経度を記録させる。次に、その記録をパソコンで参照しながら、それぞれの移動目的ごとの移動の移動手段、出発点と到着点の施設名を入力させて、先に測定した時刻及び緯度経度とまとめることで、上記移動区間情報とする。なお、パソコンでの入力にあたっては、予め主要施設は画面上に表示されるプルダウンメニューで選択可能としておき、それぞれの所有者が頻繁に立ち寄ることになる自宅や職場などについては、地図上からその地点を選択することで緯度経度情報と合わせた施設名をメニューに追加可能としておくと、それぞれの所有者の入力の手間を簡略化できる。
【0157】
これらの移動区間情報は、この発明にかかるシステムによる算出とは別の方法で算出された移動手段ごとの移動距離であり、この移動区間情報と、この発明により算出された上記トリップとを比較することでこの発明にかかるシステムで用いる閾値が状況に適した値がどうかを検証することが出来る。
【0158】
その比較方法としては、上記移動区間情報と、上記トリップとを、それぞれ、図12のように、対数スケール又はそれに近い距離範囲ごとに分類して、距離範囲ごとの頻度を比較する。一旦その頻度の偏差を求め、次に、上記滞在トリップエンドを求める上記第一滞在トリップエンド抽出手段116における所定の値ts,Vs,rを変更して滞在トリップエンドを求めた上でトリップを求め、同様に上記移動区間情報と、上記トリップとを距離範囲ごとに分類して同様に頻度の偏差を求める。なお、この頻度の母数は、移動手段ごとのトリップの数にあたる。
【0159】
また、上記第二滞在トリップエンド抽出手段117と上記終起点トリップエンド抽出手段118とにおける所定の値tm,2r(上記rの2倍の値として連動する。)を変更して、滞在トリップエンド及び終起点トリップエンドを求めた上でトリップを求め、同様に上記移動区間情報と、上記トリップとを距離範囲ごとに分類して同様に頻度の偏差を求める。
【0160】
このように、所定の値を変更して偏差を求める作業を、この発明にかかるシステムで解析する上記移動端末のうちの一部の上記移動端末について繰り返し、この偏差が最も小さくなる場合の、それぞれの手段における所定の値を、それぞれの手段における最適値とする。
【0161】
この実施形態にかかるプローブデータ解析システムは、機械的に大規模にプローブデータを解析して、得られたトリップエンドやアクティビティノードについて様々な分析を行うことができる。例えば、アクティビティノードを構成するトリップエンドを参照して、ある二点間の平均所要時間や、ある点における平均滞在時間や平均滞在時刻など、測定地域内における移動測定対象である人間の、自動的かつ大規模な行動分析が可能となる。
【0162】
また、この実施形態にかかるプローブデータ解析プログラムは、上記のシステムをコンピュータに実現させるために実行される、上記のそれぞれの手段を備えた一連のプログラムである。このプログラムは、光ディスク、磁気ディスクなどの一般的な記憶媒体に記憶されるものであり、プログラムを実行する演算装置とそのための一時メモリや、プローブデータ蓄積手段が記録する記憶装置とを備えたシステムに導入することで、この発明にかかるプローブデータ解析システムを製作することができる。
【実施例】
【0163】
以下、この実施形態にかかるプローブデータ解析システムを用いて、複数の移動測定対象の行動と地域における人の移動を解析した例を示す。
【0164】
この例は、移動端末として自律測位機能付きGPS搭載携帯電話を使用して32人の人間に6日間に亘って所持させ、30秒間隔で時刻と緯度と経度からなる測位点データを取得して、順次、識別IDを含めた測位点データを移動体通信網とインターネット網を通じてプローブデータ解析システムに自動送信し、プローブデータ蓄積手段により磁気ディスクに記録するものとした。
【0165】
プローブデータ解析システムは、記録された測位点データから区間識別手段により上記単位区間を識別し、それぞれの上記単位区間について速度算出手段で角速度を含む速度を求めた。これらの求めた上記単位区間と速度のデータは、プローブデータ蓄積手段により上記と同じ磁気ディスクに、元の測位点データを参照可能として記録した。
【0166】
記録した上記単位区間についてクレンジング手段を実行し、パラメータC=150(km/h・deg/sec)として抽出したハンドオーバーに相当する上記単位区間を、次の第一滞在トリップエンド抽出手段の対象から除外するマーキングを、磁気ディスク上のデータに対して行った。
【0167】
第一滞在トリップエンド抽出手段、第二滞在トリップエンド抽出手段、及び終起点トリップエンド抽出手段は、図5のフローチャートに従ってまとめて行った。それぞれ所定の値は、Vs=時速2km、規定の半径r=100m、規定の時間ts=5分、tm=10分、2r=200mとした。この条件により滞在トリップエンドと終起点トリップエンドを求めた。
【0168】
移動手段一次判定手段は、これらのトリップエンドにより区切られたトリップについて、そのトリップを構成する上記単位区間ごとに評価点を付与して移動手段の推定を行った。推定する移動手段は、徒歩、自動車、及び電車に対応するものとし、評価点の付与方法は、速度については、図7に記載の移動手段ごとの領域に含まれるものに評価点を一単位分付与し、特に他の移動手段と重ならない領域にある上記単位区間については三単位分付与した。また、標準偏差については、速度標準偏差が0以上5未満、角速度標準偏差が0〜80でるものに徒歩の評価点を、速度標準偏差が5以上20未満、角速度標準偏差が0〜80であるものに自動車の評価点を、速度標準偏差が20以上50未満、角速度標準偏差が0〜50であるものに電車の評価点を一単位分付与した。さらに、ピーク速度については、過去4区間分について最高速度を求め、それが時速10km未満を徒歩、10km以上50km未満を自動車、50km以上100km未満を電車として評価点を1単位分付与した。
以上により付与された評価点をトリップごとに合計して、最も評価点の高い移動手段をそのトリップの移動手段と一次判定した。
【0169】
次に移動手段二次判定手段は、一次判定の結果が徒歩であるトリップのうち、速度の60%タイル値が時速8km以上であり、かつ80%タイル値が時速20km未満であるものの移動手段を自転車と二次判定し、速度の80%タイル値が時速20km以上であるものの移動手段を自動車と二次判定して修正した。また、一次判定の結果が自動車であるトリップのうち、速度の80%タイル値が時速10km未満であるものの移動手段を徒歩と二次判定して修正した。
【0170】
一方、移動端末の所持者に別途WEBダイアリを用いてそれぞれのトリップにおける移動手段を記録させ、二次判定後の推定結果と比較した。縦に推定された移動手段を、横にダイアリから入力された移動手段を並べた。その結果を表1に示す。ただし、1トリップ中の測位点数が10個未満のものについては、評価の対象外とした。このため、推定移動手段ごとの合計値は表中の値と一致しない。なお、測定区域内において電車を利用したトリップが全体の1%程度であったため、電車については比較しなかった。この結果、自動車については90%の的中率を示し、徒歩も76%の的中率を示した。
【0171】
【表1】

【0172】
次に、アクティビティノード抽出手段により、全てのトリップエンドについて、元になった測位点データの識別IDごとに、アクティビティノードの抽出を行った。計算方法としては重心法を用いて、最大距離α=100mと設定した。計算は、まず全トリップエンドについて、隣接するトリップエンドとの距離を測定し、その距離が最も短い二点間の重心を算出する。次にこの重心と、その重心に最も近いトリップエンドとの重心を求める。これを繰り返し、求めた重心と次の計算対象となるトリップエンドとの距離が100mを超える前まで重心を計算した。それまでに、最終的な重心から半径100mの円内に含まれるトリップエンド数が5個以上となったものをアクティビティノードとし、その重心をアクティビティノードの中心位置とした。
【0173】
上記のアクティビティノードの抽出を全ての移動測定対象ごとの識別IDごとに行った。得られたアクティビティノードの中心位置と、それを構成するトリップエンドとを関連づけて、アクティビティノードからトリップ及びトリップエンドを参照できるようにしつつ、それぞれのアクティビティノードを識別できるようにIDを付して、プローブデータ蓄積手段により、上記と同一の記憶装置に記録した。
【0174】
上記のようにして得られたアクティビティノードの内容を、下記の手順で推定した。
そのアクティビティノードを構成する滞在トリップエンドで、午前5時の段階で滞在しているものに判別点を1点付与する。また、ある一日の起点トリップエンドのうち、午後5時から午前23時の間に出発しているものについて、{0.8点÷(その条件に該当するトリップエンド数)}の判別点をそれぞれに付与する。また、ある一日の終点トリップエンドのうち、18時から24時に到着しているものについて、{0.2点÷(その条件に該当するトリップエンド数)}、の判別点をそれぞれ付与する。このように付与した判別点が1点以上であるアクティビティノードのうち判別点が最大のものを、自宅であると判断する。
【0175】
一方、ある一日の始点トリップエンドのうち、午後5時から午後11時の間に出発しているものについて、{0.2点÷(その条件に該当するトリップエンド数)}の判別点をそれぞれに付与する。さらに、ある一日の始点トリップエンドのうち、午前6時半から午前9時半に到着しているものについて、{1.0点÷(その条件に該当するトリップエンド数)}、の判別点をそれぞれ付与する。このように付与した判別点が1点以上であるアクティビティノードラベリングのうち判別点が最大のものを、勤務先であると判断する。
【0176】
この判断が適切であるか否かを確認するために、被験者に測定期間中の行動を記録するダイアリを入力させ、上記の推定されたアクティビティノードと比較したところ、32人中28人について、自宅であるアクティビティノードを的中させることができた。ある被験者の、自宅と判断されたアクティビティノードにおける到着時刻と出発時刻の例を図13に示す。
【0177】
また、勤務先がダイアリに記録されている34人中、17人について勤務先であるアクティビティノードを的中させることができた。ある被験者の、勤務先と判断されたアクティビティノードにおける到着時刻と出発時刻の例を図14に示す。また、勤務先の判別点が規定値以上となるアクティビティノードがあるが、勤務先の裏付けが地図上で確認できない被験者が7人いたが、このうちの4人についてはほぼそのアクティビティノードの近傍が勤務先であると推定できた。ただし、34人中9人については、行動の時間帯が上記の抽出条件から離れていたり、規則性がみられなかったりして、勤務先を特定できなかった。また、最後の一人については、朝夕に起点トリップエンドと終点トリップエンドが断続的に現れて誤判定してしまった。
【0178】
また、自宅であると推定されたアクティビティノードと勤務先であると推定されたアクティビティノードとを繋ぐ一連のトリップと、間に滞在時間が30分未満である滞在トリップエンドを含む一連のトリップについて、トリップラベリング手段を実行し、自宅から勤務先への移動を出勤、帰りを帰宅と推定すると、通勤であるトリップの92%、帰宅であるトリップの68%を的中させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0179】
【図1】この発明にかかるシステムの概念図
【図2】測位点データと単位区間の概念図
【図3】クレンジング手段の具体的手順を示すフロー図
【図4】クレンジング手段のパラメータCの概念図
【図5】滞在トリップエンドの概念図
【図6】終起点トリップエンドの概念図
【図7】トリップエンドの抽出手順のフローチャート
【図8】トリップエンドの抽出の仕方を示す概念図
【図9】上記単位区間を速度−角速度平面にプロットし移動手段を推定するグラフの例図
【図10】従来の解析システムによる移動手段ごとの60%タイル値の頻度グラフ
【図11】トリップエンドとアクティビティノードの概念図
【図12】トリップの最適値検証の例を示す図
【図13】自宅と判断された例となるアクティビティノードの到着と出発の時刻を示すグラフ
【図14】勤務先と判断された例となるアクティビティノードの到着と出発の時刻を示すグラフ
【図15】従来のプローブデータ解析手段の概念図
【符号の説明】
【0180】
ST ショートトリップ
TE トリップエンド
AN アクティビティノード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定時間間隔で測位された移動端末の位置情報とその測位時刻とを含む測位点データを要素としたプローブデータ集合の中から、時系列で連続する2つの測位点データ間を一つの単位区間として識別する区間識別手段と、
前記一つの単位区間における前記移動端末の速度を前記2つの測位点データに基づいて求める速度算出手段と、
所定の時間ts以上に亘る、上記単位区間当たり速度が所定の値Vs未満である2つ以上の連続する単位区間を構成する前記測位点データの全てが所定の半径rの円内に収まる連続範囲を抽出する、第一滞在トリップエンド抽出手段を有する、プローブデータ解析システム。
【請求項2】
上記単位区間のうち、それを構成する2つの測位点データ間の測位時刻差が所定の時間tm以上であり、距離が所定の値2r未満である単位区間を抽出する、第二滞在トリップエンド抽出手段を有する、請求項1に記載のプローブデータ解析システム。
【請求項3】
上記単位区間のうち、それを構成する2つの測位点データ間の測位時刻差が所定の時間tm以上であり、距離が所定の値2r以上である単位区間の始点となる測位点データと終点となる測位点データとを抽出する、終起点トリップエンド抽出手段を有する、請求項1又は2に記載のプローブデータ解析システム。
【請求項4】
上記第一滞在トリップエンド抽出手段で抽出される上記連続範囲、上記第二滞在トリップエンド抽出手段で抽出される上記単位区間、及び、上記終起点トリップエンド抽出手段で抽出される上記測位点データのうちの少なくとも一つにより区切られる連続区間を抽出するトリップ抽出手段と、
その連続区間ごとに、その連続区間を構成する全ての単位区間について、それぞれの単位区間の速度、速度の標準偏差、及び直前の複数の単位区間を含めたピーク速度の少なくとも一つについて、所定の移動手段のそれぞれに対応した規範に基づく評価点を合計して最も評価点の高い移動手段を、その連続区間の移動手段と一次判定する移動手段一次判定手段を有する、請求項1乃至3のいずれかに記載のプローブデータ解析システム。
【請求項5】
上記連続区間を構成する全ての単位区間の速度の累積出現頻度分布において、ある一定水準の累積出現頻度を示す速度と、規定の判別速度との比較により、移動手段の二次判定を行い、上記移動手段一次判定手段の判定結果を修正する、移動手段二次判定手段を有する、請求項4に記載のプローブデータ解析システム。
【請求項6】
その測位点データの位置情報が実際の存在位置から許容範囲を超えて離れた基地局基準の位置となっているハンドオーバー状態に該当する測位点データを判別するクレンジング手段を有し、
その該当する測位点データの前後の測位点データから仮想的な単位区間を算出して、その測位点データの前後の上記単位区間の代わりに、前記仮想的な単位区間を対象として上記第一滞在トリップエンド抽出手段を実行する、請求項1乃至5のいずれかに記載のプローブデータ解析システム。
【請求項7】
上記第一滞在トリップエンド抽出手段で抽出される上記連続範囲の中心点、上記第二滞在トリップエンド抽出手段で抽出される上記単位区間の中点、及び、上記終起点トリップエンド抽出手段で抽出される上記測位点データのうちの少なくとも1つからなる識別点の集合に対して、その識別点が規定の位置範囲内に規定の数以上集中した集中区域をクラスタリングにより抽出するアクティビティノード抽出手段を有する、請求項1乃至6のいずれかに記載のプローブデータ解析システム。
【請求項8】
上記の集中区域の内容を、その集中区域を構成する上記測位点データのうち、所定の日時の条件を満たすものを抽出してラベリングする、アクティビティノードラベリング手段を有する、請求項7に記載のプローブデータ解析システム。
【請求項9】
上記第一滞在トリップエンド抽出手段で抽出される上記連続範囲、上記第二滞在トリップエンド抽出手段で抽出される上記単位区間、及び、上記終起点トリップエンド抽出手段で抽出される上記測位点データのうちの少なくとも一つにより区切られる連続区間の距離と、上記単位区間を用いずに求めた移動手段ごとの移動区間情報とを、距離範囲ごとに分類して距離範囲ごとの頻度を比較し、その頻度の偏差が最も小さくなるように、
上記第一滞在トリップエンド抽出手段、上記第二滞在トリップエンド抽出手段、及び上記終起点トリップエンド抽出手段における所定の値の最適値を求めるトリップ最適値検証手段を有する、請求項1乃至8のいずれかに記載のプローブデータ解析システム。
【請求項10】
コンピュータを、一定時間間隔で測位された移動端末の位置情報とその測位時刻とを含む測位点データを要素としたプローブデータ集合の中から、時系列で連続する2つの測位点データ間を一つの単位区間として識別する区間識別手段と、
前記一つの単位区間における前記移動端末の速度を前記2つの測位点データに基づいて求める速度算出手段と、
所定の時間ts以上に亘る、上記単位区間当たり速度が所定の値Vs未満である2つ以上の連続する単位区間を構成する前記測位点データの全てが所定の半径rの円内に収まる連続範囲を抽出する、第一滞在トリップエンド抽出手段として機能させることを特徴とするプローブデータ解析プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−146248(P2008−146248A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331034(P2006−331034)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名:社団法人土木学会土木計画学研究委員会 刊行物名:第33回土木計画学研究発表会(春大会)講演集CD−ROM 発行年月日:平成18年6月10日 掲載年月日:平成18年6月12日 掲載アドレス:http://www.i−transportlab.jp/ :http://www.i−transportlab.jp/publications/papers/index.html :http://www.i−transportlab.jp/publications/papers/pdf/IP33_June_2006_Sendai_PPrb_Horiguchi.pdf
【出願人】(399041158)西日本電信電話株式会社 (215)
【出願人】(501303840)株式会社アイ・トランスポート・ラボ (11)
【Fターム(参考)】