説明

プローブ顕微鏡およびプローブ顕微鏡の測定方法

【課題】 探針と試料を測定領域に位置決めする際の探針破損を低減させ、探針先端形状に起因する分解能の変化を抑えて、適切でしかも安定な測定ができるプローブ顕微鏡を提供すること。
【解決手段】 先端に粗動用探針21を有した粗動用カンチレバー23と、先端に測定用探針22を有した測定用カンチレバー24を構成したプローブ顕微鏡において、粗動用探針22で試料測定領域に位置決めされた後に、粗動用探針21と測定用探針22の試料表面との距離を変更するカンチレバー変換手段で、一旦、粗動用探針21を試料表面測定領域から離し、測定用探針22に切り替えた後に、測定用探針22を試料測定領域に位置決めして測定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料表面の表面粗さや段差などの形状情報や、誘電率や粘弾性などの物理情報を測定するプローブ顕微鏡およびプローブ顕微鏡の測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、微細形状の評価としての形状測定として、原子分解能を有する、原子間力顕微鏡をはじめとする、プローブ顕微鏡が期待されている。プローブ顕微鏡の一種である原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)は走査トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscope:STM)の発明者であるG.Binnigらによって考案されて以来、新規な絶縁性物質の表面形状観察手段として期待され、研究が進められている。(例えば、非特許文献1を参照)
プローブ顕微鏡の原理は、先端を充分に鋭くした探針と試料間に働く物理力を、前記探針が取り付けられているばね要素の変位として測定し、前記ばね要素の変位量が一定に保つように前記試料表面を走査し、その前記ばね要素の変位量を一定に保つための制御信号を形状情報として、前記試料表面の形状を測定するものである。
【0003】
ばね要素の変位検出手段としては光学的方式及び、バネ要素の変形ひずみを電気信号として検出する自己検出方式がある。
【0004】
光学的方式にはいわゆる干渉法そのものを使った例(例えば、非特許文献2を参照。)や、レーザ光をばね要素に照射し、その反射光の位置ずれを光検出素子で検出して変位信号とする、光てこ方式と呼ばれる例(例えば、非特許文献3を参照。)が報告されており、プローブ顕微鏡の検出方式として、主に用いられている。
【0005】
また、近年、先端に探針を設けたレバー部とそのレバー部を支持する支持部とが2つの屈曲部によって連結されて構成され、屈曲部をピエゾ抵抗体形成領域となし、2つのピエゾ抵抗体間において、カンチレバーの捩れにより生じる両屈曲部の変位差を示す抵抗値差を計測することでカンチレバーを制御する、自己検出方式が知られている。(例えば、特許文献1を参照。)
また、プローブ顕微鏡は、試料に対向する位置に配置された探針(プローブ)が試料から原子間力を受けるものならば原子間力顕微鏡と称され、磁気力ならば磁気力顕微鏡と称される様に試料から生じる様々な力を検出して試料の状態を観察できるものである。
【0006】
プローブ顕微鏡の概略システム構成の一例として、図10を用いて説明する。
【0007】
測定対象の試料3は試料を三次元に移動させる微動機構4上に配置されている。微動機構4は、電圧を印加すると変形を生じる圧電素子が用いられ、試料3をこの試料と相対した位置に配置された探針1に対して微小な位置決めを行うものである。探針1はカンチレバー2と称する片持ち状の梁材の先端に構成されている。
【0008】
一般的なカンチレバーの形状の一例を図11に示す。カンチレバー基板25に片持ち梁状のカンチレバー2が設けられ、カンチレバー2の先端に主に四角垂状で高さは1〜2μmの微細な探針(プローブ)1が形成されている。そして、これらのカンチレバー基板25やカンチレバー2や探針1はシリコンまたはシリコン系の材料からなり、異方性エッチング技術などを用いて一体ものとして加工されている。
【0009】
カンチレバー2を有したカンチレバー基板25は、カンチレバーホルダ13に保持される。
【0010】
また、微動機構4は試料3と探針1を3次元的に移動させるステージ等からなる粗動機構5上に構成されている。ここでは、粗動機構5は、ステッピングモータ駆動によるネジ送り機構が用いられている。
【0011】
カンチレバー2側に探針1が試料表面から受ける原子間力等の物理量力により片持ち状の梁材の変形を検出する変位検出系6が構成されている。変位検出系6は、カンチレバー2の裏面に照射する半導体レーザ7と、その反射光を検出する4分割された光検出器8とから構成され、カンチレバー2の変位により光検出器に入射するする位置が変化することでカンチレバーの変位(たわみ変形)を検出する光てこ検出と呼ばれる方式が使用されている。
【0012】
光検出器8の信号はアンプ9を介して、試料3と探針1のZ軸(鉛直方向)距離を制御するZ軸制御フィードバック回路10に送られ、微動機構4を稼動させて、探針1と試料3のZ軸位置関係が制御される。探針1と試料3の面内走査はXY駆動回路11からの信号により微動機構を走査して行われる。そして、Z軸制御およびXY駆動等はコンピュータおよび制御系12により制御させる。
【0013】
粗動機構5を用いてカンチレバー2の先端の探針1を試料3表面に近づけていく。そして、試料3表面から探針1が受ける原子間力や磁気力、粘弾性等の物理量力によるカンチレバー2の変形を変位検出系6で検出して、所定の変形に達したときに、測定領域に探針1が位置決めされたと判断して、粗動機構5を停止するとともに、試料側または、カンチレバー側に構成された試料3と探針1を相対的に移動させる微動機構4のZ軸を制御して探針1と試料3表面距離を保つ、また、微動機構4のZ軸を制御しつつ、粗動機構5を駆動させて、微動機構4のZ軸の変位量を調整して、探針1と試料3表面の位置決めを行う。そして、カンチレバー2の変形値が一定になるように制御し、微動機構4を試料面内に対して走査しながら計測することで試料面内の形状や物性を視覚的に画像化していた。
【0014】
従来のような、粗動機構5により探針1と試料3表面を近づける方法で、探針1が試料3表面から受ける原子間力等の何らかの物理量によりカンチレバー2の変形を検出して、粗動機構5を停止および微動機構4による探針1と試料3表面距離の制御を行う場合、探針1と試料3を近接させるにあたり、探針1と試料3の距離を光学顕微鏡等の手段で確認する方法や(例えば、特許文献2、3を参照。)、振動モードにおいて振動振幅量を変える方法が知られていた。(例えば、特許文献4を参照。)
ここで、粗動機構5は、ステップ送りであるステッピングモータを含むステージ等が用いられる。そのために、微動機構4の特にZ軸(垂直方向)に対する追従応答性が十分速くない場合に、粗動動作状態によっては、探針1先端が試料3表面に接した後、微動機構4が探針1と試料3表面の距離を制御することがある。探針1が試料3に少しでも接した場合、探針1先端が変形して、探針1先端形状が分解能を左右するプローブ顕微鏡において、測定分解能が低下することがある。また、試料3表面が探針1よりやわらかい材料である場合は、試料3表面を破損させてしまう可能性が生じるという問題点があった。
【0015】
また、粗動機構5の動作速度を遅くした場合は、探針1が接触する可能性は少なくなるが、探針1を試料3測定領域に位置決めするのに長時間がかかることになる。
【0016】
また、微動機構4や他の移動機構を駆動して、試料測定領域に近づいているかを探りながら、粗動機構5を動作させる、いわゆる、尺取虫の動作を行い、探針を試料測定領域に位置決めする方法がある。(例えば、特許文献5、6、7を参照。)この方法においても、微動機構や他の移動機構を駆動した分、一気に粗動機構を動作させる方法であるが、微動機構や他の移動機構を駆動して探査する時間が生じてしまい、設定条件によっては、時間を要することになる。
【0017】
そこで、探針1を試料3測定領域(たとえば原子間力)に探針破損させることなく、しかも、位置あわせに多くの時間を要せずに、位置決めして測定可能とするプローブ顕微鏡が求められている。
【非特許文献1】G. Binnig、 C.F. Quate and Ch. Gerber、 Atomic Force Microscope、 “Physical Review Letters”、American、 Physical Society、 1986、 Vol.56、 No.9、 p.931
【非特許文献2】R. Erlandsson、 G. M. McClelland、 C. M. Mate、 and S. Chiang、 Atomic force microscopy using optical interferometry、 “Journal of Vacuum Science Technology”、Mar/Apr 1988、 A6(2)、 pp. 266-270
【非特許文献3】S. Alexander、 L. Hellemans、 O. Marti、 J. Schneir、 V. Elings、 and P. K. Hansma、 Matt Longmire and John Gurley、 An atomic-resolution atomic-force microscope implemented using an optical lever、 “Journal of Applied Physics”、1989、 65(1)、 pp. 164-167
【特許文献1】特開2000−111563号公報
【特許文献2】特開平5−18743号公報
【特許文献3】特開平7−198729号公報
【特許文献4】特開2005−164278号公報
【特許文献5】特許3169227号公報
【特許文献6】特開平1−186742号公報
【特許文献7】特開2002−372488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記の問題点を解決し、測定時間が大きく増えることなく、探針を試料表面上の測定領域に位置決めができ、かつ測定する探針破損による探針先端形状に起因する分解能の変化を低減させ、安定的に高分解な測定ができるプローブ顕微鏡の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
【0020】
本発明のプローブ顕微鏡は、探針を試料表面に接近または接触させて、試料表面の形状情報または物理情報を計測するプローブ顕微鏡であって、
先端に測定用探針を有する測定用カンチレバーと、少なくても一つの先端に粗動用探針を有する粗動用カンチレバーとを有し、
粗動用探針が測定用探針より試料表面に対しての距離を制御するカンチレバー変換手段と、
測定用探針が粗動用探針より試料表面に接近させた状態で測定用カンチレバーの測定用探針を試料表面に接近または接触させた状態で、試料表面を測定するようにした。
【0021】
カンチレバーに構成された探針を試料測定領域(たとえば原子間力)に近づける、粗動時の探針と測定用の探針を構成し、粗動時の探針が試料測定領域に位置決めされた後、カンチレバーと試料間の距離を制御する手段により、一旦、粗動用探針を試料表面測定領域から離し、測定用の探針に切り替え、測定用探針を試料測定領域に位置決めする構成にした。
【発明の効果】
【0022】
粗動用探針と測定用探針を構成し、粗動用探針にて試料測定領域に位置決めし、その後、測定用探針に切り替えることで、測定用探針の先端を破損することなく、しかも、従来の位置決め時間より遅くなること無く、試料測定表面に位置決めすることが可能になる。
【0023】
これにより、測定用探針先端形状が測定前に変化することなく測定できることになるので、安定した測定分解能を得ることが可能となる。さらに、測定結果の再現性や安定性にもつながり、測定結果の信頼性が向上したプローブ顕微鏡を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係るプローブ顕微鏡の第一実施形態を、図1から図3を参照して説明する。尚、以下の実施形態では、図10で説明したプローブ顕微鏡の概略システム構成と基本的には同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0025】
図1は、本発明に係る第一実施形態のプローブ顕微鏡のカンチレバーの構成図である。
【0026】
カンチレバー基板25に粗動用カンチレバー23と測定用カンチレバー24が構成され、各カンチレバーの先端には粗動用探針21と、測定用探針22を有して、これらがシリコン系を材料として一体化されて形成されている。
【0027】
図2は、本発明に係る第一実施形態のプローブ顕微鏡のカンチレバーと試料測定表面との位置関係を示す正面図である。粗動時と計測時とで粗動用カンチレバー23と測定用カンチレバー24には、試料3表面に対して角度の差が生じさせ、粗動用探針21と測定用探針22の試料3測定表面との距離を変えている。
【0028】
図3は、本発明に係る第一実施形態のプローブ顕微鏡のカンチレバーホルダ部分を示す構成図の一例である。
【0029】
粗動用カンチレバー23と測定用カンチレバー24を有したカンチレバー基板25は、カンチレバーホルダ13上に設けられた傾斜ブロック26に固定バネ27を用いて固定される。また、カンチレバーホルダ13にはカンチレバーホルダの上方に配置された、光テコ機構を用いた変位検出系6のレーザ光を通すおよびカンチレバーを上方側から光学顕微鏡等で観察するための穴28が設けられ、カンチレバーホルダ13の両側面にある傾斜部29がプローブ顕微鏡の本体に設置する時に、位置決めとして、プローブ顕微鏡の本体側に設けられたあり溝に差し込まれるようになっている。
【0030】
また、カンチレバーホルダ13には取り扱いしやすいように取っ手30が構成されている。
【0031】
そして、カンチレバーホルダ13上に設けられた傾斜ブロック26には傾斜機構31が構成されている。この傾斜機構31が、試料表面に対して測定用探針22と前記粗動用探針21と距離関係を制御するカンチレバー変換手段となっている。傾斜機構31としては、積層型の圧電体を用いた。または、積層型の圧電体単体での変位量が十分でない場合は、圧電体を力点とし、カンチレバー取付部分を作用点とした、てこの機構を用いて、圧電体の少ない変位をカンチレバー取付部分で拡大する、いわゆる変位拡大機構を構成することでもよい。
【0032】
傾斜機構31の駆動は傾斜機構配線48を介してプローブ顕微鏡の本体に配線され、制御機構(図示せず)により制御される。傾斜機構31はカンチレバー基板25の粗動用カンチレバー23や測定用カンチレバー24の長手方向に直行する方向に対して偏芯した位置に設けられ、傾斜機構31を駆動させて、カンチレバー基板25の片側への押し込み量を変えることにより、カンチレバー基板25に捩れを生じさせ粗動用カンチレバー23の粗動用探針21と測定用カンチレバー24の測定用探針22の試料表面に対する姿勢を変えて、粗動用探針21か測定用探針22を選択して、どちらかを試料表面に対して突出させることができる。
【0033】
また、粗動時に用いる粗動用探針21の先端は測定用探針22と異なり、分解能を要求されないため、比較的曲率半径を大きくし、粗動時に、試料と探針が接した場合でも、試料表面への単位面積あたりの接触圧を低くすることで、試料表面への傷を少なくするようにしている。
【0034】
そして、このように構成されたカンチレバーを用いたプローブ顕微鏡において測定方法を以下に説明する。
【0035】
まず、傾斜機構31を駆動させて、粗動用探針21側を測定用探針22より試料3の表面に対して突出した(接近した)状態で、粗動機構5で粗動用探針21と試料3との距離近づける粗動を行う。試料3表面から探針1が受ける原子間力や磁気力、粘弾性等の物理量力による粗動用カンチレバー23の変形を変位検出系6で検出して、その変形が所定の値に達したときに、粗動機構5を停止するとともに、試料側に構成された試料3と粗動用探針21を相対的に移動させる微動機構4のZ軸を制御して粗動用探針21と試料3表面距離を保つ、また、微動機構4はZ軸方向の制御しつつ、粗動機構5を駆動させて、微動機構4のZ軸の変位量を調整して、粗動用探針21と試料3表面の位置を接近または接触させ所定の距離になるようにする。次に、一旦試料3と粗動用探針21間の距離を離す方向に試料側に設けられた微動機構4を用いてZ軸方向に移動させる。次に、傾斜機構31を駆動させて、測定用探針22が粗動用探針21より試料3に接近するように突出させる。次に、微動機構4を用いて、さらに測定用探針22と試料3表面間の距離を近づけて、測定用カンチレバー24の変形が所定の値に達したら、その変形値が一定になるように制御し、微動機構4を試料面内に対して走査しながら計測することで試料面内の形状や物性を視覚的に画像化する。
【0036】
これにより、測定用探針22を試料3表面の測定領域に位置決めすることで、従来の粗動機構と粗動時間に大差なく、しかも、測定用探針の破損する確率を低減して、プローブ顕微鏡の測定が行うことができ、測定結果の安定を図ることができる。
【0037】
尚、本実施形態において、一つの変位検出系6を用いて、粗動用カンチレバー23と測定用カンチレバー24の変動の検出を切り替えていたが、各々のカンチレバーの変動検出用として2つの変位検出系を設けてもよい。
【0038】
また、粗動用探針を比較的先端半径の大きいものを用いて、試料表面と探針間の位置決めの際に、試料への単位面積あたりの圧力を低くすることで、試料へのダメ−ジを小さくすることができる。
【0039】
尚、粗動用探針21と試料3表面の位置を接近または接触させ所定の距離になった状態に制御しながら、この粗動用探針を用いて、微動機構4を試料面内に対して走査しながら計測することで試料面内の形状や物性を視覚的に画像化する試し測定をして、測定用探針22を用いた測定前に測定領域、走査速度、制御条件等の測定条件出しを実施した後に、測定用探針で測定してもよい。このことで、測定用探針の破損をさらに低減することができる。
【0040】
また、測定用探針22に、金属膜をメッキ法やスパッタ法を用いて導電性膜を形成することで導電性をもたせることで、測定用探針22により試料表面と電気測定が可能となり、測定用探針22の表面に同様に磁性膜を形成することで磁気を持たせたものにすれば、磁気計測が可能になるような構成してもよい。
【0041】
また、試料表面の形状計測に関しても、測定用探針22に円筒状の探針を構成することで、深い形状を有した試料においても測定ができるようになる。
【0042】
しかも、深い形状測定に向いているが衝撃には弱いとされているアスペクト比(長さと太さの比)が大きい測定用探針でも、粗動を粗動用探針で行なった後に、この測定用探針を試料表面に位置決めするために、試料表面へ比較的探針に衝撃を与えず位置決めできるので、アスペクト比が大きい測定用探針を破損する率が低減できることになる。
【0043】
次に、本発明に係るプローブ顕微鏡装置の第二実施形態を、図4から図5を参照して説明する。
【0044】
尚、第二実施形態において、第一実施形態と同一の構成については同一の符号を付しその説明を省略する。
【0045】
図4は、本発明に係る第二実施形態のプローブ顕微鏡のカンチレバーの構成図である。
【0046】
本実施例はカンチレバーの共振周波数付近で振動させて、試料表面からの原子間力等、物理量を受けることで、振動周波数や振動振幅量の変動を検出する、いわゆる、振動モードによる測定の例である。
【0047】
先端に粗動用探針21を有した粗動用カンチレバー23と、先端に測定用探針22に有した測定用カンチレバー24は、カンチレバー基板25に形成している。ここで、粗動用カンチレバー23は共振周波数、約130KHz、測定用カンチレバー24は共振周波数、約300KHzと共振周波数の異なるものを用いている。
【0048】
図5は、本発明に係る第二実施形態のプローブ顕微鏡のカンチレバーホルダ部分を示す構成図の一例である。
【0049】
そして、このカンチレバー基板25は、カンチレバーホルダ13上に設けられた傾斜ブロック26に固定バネ27を用いて固定される。また、カンチレバーホルダ13にはカンチレバーホルダの上方に配置された、光テコ機構を用いた変位検出系6のレーザ光を通すおよびカンチレバーを上方側から光学顕微鏡等で観察するための穴28が設けられ、カンチレバーホルダ13の両側面にある傾斜部29がプローブ顕微鏡の本体に設置する時に、位置決めとして、プローブ顕微鏡の本体側に設けられたあり溝に差し込まれるようになっている。
【0050】
傾斜ブロック26とカンチレバーホルダ13の間には粗動用カンチレバー23と測定用カンチレバー24を振動させるための圧電素子からなる振動用圧電板32が構成されている。振動用圧電板32は振動板配線49を介して電源(図示せず)と配線され、振動用圧電板32に制御電圧を印加する。
【0051】
そして、このように構成されたカンチレバーを用いたプローブ顕微鏡において測定方法を以下に説明する。
【0052】
まず、振動用圧電板32が粗動用カンチレバー23の共振周波数になるように制御電圧の印加により振動させ、それにより粗動用カンチレバー23と測定用カンチレバー24を振動させる。これにより、粗動用カンチレバー23が測定用カンチレバー24よりの振幅が大きい状態にする。この状態で、粗動機構5で粗動用探針21と試料3との距離を近づける粗動を行い、試料3表面から探針1が受ける原子間力や磁気力、粘弾性等の物理量力による粗動用カンチレバー23の変形を変位検出系6で検出して、その変形が所定の値に達したときに、粗動機構5を停止するとともに、試料側に構成された試料3と粗動用探針21を相対的に移動させる微動機構4のZ軸を制御して粗動用探針21と試料3表面距離を保つ、また、微動機構4はZ軸方向の制御をしつつ、粗動機構5を駆動させて、微動機構4のZ軸の変位量を調整して、粗動用探針21と試料3表面の位置を接近または接触させ所定の距離になるようにする。次に、一旦試料3と粗動用探針21間の距離を離す方向に試料側に設けられた微動機構4を用いてZ軸方向に移動させる。次に、次に振動用圧電板32が測定用カンチレバー24の共振周波数になるように制御電圧の印加により振動させ、それにより粗動用カンチレバー23と測定用カンチレバー24を振動させる。これにより、測定用カンチレバー24が粗動用カンチレバー23よりの振幅が大きい状態にする。これにより、測定用カンチレバー24が粗動用カンチレバー23よりの振幅が大きい状態にする。次に、この状態で、微動機構3のZ軸を動作させて、さらに探針1と試料3表面間の距離を近づけて、変位検出系6で検出しながら測定用カンチレバー24の変形が所定の値に達したら、その変形値が一定になるように制御し、微動機構4を試料面内に対して走査しながら計測することで試料面内の形状や物性を視覚的に画像化する。
【0053】
このように、振動用圧電板32の制御電圧を各々の共振周波数に変更することでカンチレバー変換手段としている。
【0054】
次に、本発明に係るプローブ顕微鏡装置の第三実施形態を、図6から図7を参照して説明する。
【0055】
なお、第三実施形態において、第一、二実施形態と同一の構成については同一の符号を付しその説明を省略する。
本実施形態、はカンチレバーの変形を抵抗値の変化として検出する、いわゆる自己検出型カンチレバーを用いた。
【0056】
自己検出型カンチレバーは、先端に探針を有するカンチレバーと先端に探針を有しないダミー用カンチレバーが形成され、各カンチレバーにはピエゾ素子からなる抵抗層が設けられ、探針を有するカンチレバーの変形に伴う抵抗値の変化を検出することで、探針と試料間に働いた物理量によるカンチレバーの変形を検出するものである。いわゆる、ひずみゲージに用いられているホイーストンブリッジ回路の原理である。
【0057】
図6は、本発明に係る第三実施形態のプローブ顕微鏡のカンチレバーの構成図である。
【0058】
先端に粗動用探針21を有した粗動用カンチレバー23と先端に測定用探針22に有した測定用カンチレバー24、と先端に探針を有しないダミー抵抗41は、カンチレバー基板42に形成されている。さらに、粗動用カンチレバー23上と測定用カンチレバー24上にそれぞれ熱抵抗体40が形成されている。カンチレバー基板42は基板43に貼り付けられ、モールド部44でカンチレバー基板42と基板43間の自己検知信号配線45が結線されている。
【0059】
図7は、本発明に係る第三実施形態のプローブ顕微鏡のカンチレバーホルダ部分を示す構成図の一例である。
【0060】
この実施形態のカンチレバーを用いるプローブ顕微鏡は、第一実施形態などで説明したとプローブ顕微鏡とは、光てこ検出による変位検出系6が必要ない点を除き、同等の構成からなるものを用いる。
【0061】
そして、この基板43は、カンチレバーホルダ13上に設けられたカンチレバーマウント47に差し込むことで保持される。このとき、カンチレバーマウント47内の接点と基板43の接点電極46とが接することで、カンチレバーホルダ13に構成された配線50を介して、プローブ顕微鏡から検出や制御がおこなわれる。
【0062】
また、カンチレバーホルダ13には、上方からカンチレバーの状態を光学顕微鏡等で観察するための穴28が設けられ、プローブ顕微鏡本体に設置する時に位置決めるためのカンチレバーホルダ13の傾斜部29の両側が、プローブ顕微鏡側に設けられたあり溝に差し込むことで、カンチレバーホルダ13が固定される。また、取り扱いしやすいように取手30が構成されている
そして、このように構成されたカンチレバーを用いたプローブ顕微鏡において測定方法を以下に説明する。
【0063】
まず、測定用カンチレバー24の熱抵抗体40に電流を流し、抵抗体で発生する熱により測定用カンチレバー24を反らせて、粗動探針側21が測定用探針22より試料3に近い方向に突出するようにする。
【0064】
この状態で、粗動機構5で粗動用探針21と試料3との距離を近づける粗動を行い、試料3表面から探針1が受ける原子間力や磁気力、粘弾性等の物理量力による粗動用カンチレバー23の変形を、粗動用カンチレバー23に設けられたピエゾ素子(図示せず)の抵抗値の変化から検出して、その変形が所定の値に達したときに、粗動機構5を停止するとともに、試料側に構成された試料3と粗動用探針21を相対的に移動させる微動機構4のZ軸を制御して粗動用探針21と試料3表面距離を保つ、また、微動機構4のZ軸を制御しつつ、粗動機構5を駆動させて、微動機構4のZ軸の変位量を調整して、粗動用探針21と試料3表面の位置決めを行う。次に、試料側に設けられた微動機構4をZ軸方向に移動させて一旦、試料3と粗動用探針21間の距離を離す。次に、測定用カンチレバー24の熱抵抗体40に電流を止め、粗動用カンチレバー23の熱抵抗体40に電流を流し、測定用探針22が粗動用探針21より突出するようにする。この状態で、微動機構3のZ軸を動作させて、さらに探針1と試料3表面間の距離を近づけて、測定用カンチレバー24の変形を測定用カンチレバー24に設けられたピエゾ素子(図示せず)の抵抗値の変化から検出しながら、その変形が所定の値に達したら、その変形値が一定になるように制御し、微動機構4を試料面内に対して走査しながら計測することで試料面内の形状や物性を視覚的に画像化する。
【0065】
尚、本実施形態では電流を流すことでカンチレバーが試料から離れる方向に反らせたが、電流を流すことで試料に近づく方向に反らせてもよい。または、両方のカンチレバーに電流を流して、その電流量を制御することで探針の姿勢の差を生じさせてもよい。
【0066】
このように、熱抵抗体に電流を流して熱によるカンチレバーが反ることを利用してカンチレバー変換手段としている。
【0067】
次に、本発明に係るプローブ顕微鏡装置の第四実施形態を、図8から図9を参照して説明する。
【0068】
なお、第四実施形態において、第一、二、三実施形態と同一の構成については同一の符号を付しその説明を省略する。
【0069】
図8は、本発明に係る第四実施形態のプローブ顕微鏡のカンチレバーの構成図である。
【0070】
本実施例は第三実施例で示した自己検出型カンチレバーにおいて、粗動用探針21のついたカンチレバーと測定用探針22がついたカンチレバーは共振周波数が異なる形状をしている。
【0071】
カンチレバー23、24は図9に示すような、カンチレバー23、24を振動させるための圧電素子からなる振動用圧電板32が構成されたカンチレバーホルダ13を介して第三実施形態で説明したと同等なプローブ顕微鏡に取り付ける。
そして、粗動時には振動用圧電板32を粗動用探針21が構成されたカンチレバー23の共振周波数で駆動して、粗動用カンチレバー23を振動させ、粗動探針21側を測定用探針22側より振幅が大きい状態にして、第三実施形態のように粗動を行う。粗動が完了した後、微動機構4のZ軸を動作させて一旦、試料3と粗動探針21間の距離を離す。次に振動用圧電板32を測定用探針22が構成された測定用カンチレバー24の共振周波数で駆動して、カンチレバーを振動させ、計測探針22側を粗動用探針21側より振幅が大きい状態にしてZ軸を動作させて測定用探針22を試料表面に位置決めして測定可能な状態にする。
【0072】
このように、振動用圧電板32の制御電圧を各々の共振周波数に変更することでカンチレバー変換手段としている。
【0073】
尚、各実施形態において、試料側を三次元に走査する例を示しているが、探針側に微動機構4を設けたり、試料と探針の面内(二次元)位置あわせる機構(ステージ等)を探針側や、試料側に設ける等の構成もある。
【0074】
尚、各実施形態において、一つの粗動用カンチレバーの場合を用いたが、複数の粗動用カンチレバーを設けてもよい。これにより、試料表面の傾きの影響を低減でき、測定用カンチレバーの破損の可能性をさらに低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の第一実施形態のプローブ顕微鏡のカンチレバーの概要を示す構成図である。
【図2】本発明の第一実施形態のプローブ顕微鏡におけるカンチレバーの位置決めを示した状態図である。
【図3】本発明の第一実施形態のプローブ顕微鏡のカンチレバーホルダ部分の概要を示す構成図である。
【図4】本発明の第二実施形態のプローブ顕微鏡のカンチレバーの概要を示す構成図である。
【図5】本発明の第二実施形態のプローブ顕微鏡のカンチレバーホルダ部分の概要を示す構成図である。
【図6】本発明の第三実施形態のプローブ顕微鏡のカンチレバーの概要を示す構成図である。
【図7】本発明の第三実施形態のプローブ顕微鏡のカンチレバーホルダ部分の概要を示す構成図である。
【図8】本発明の第四実施形態のプローブ顕微鏡のカンチレバーの概要を示す構成図である。
【図9】本発明の第四実施形態のプローブ顕微鏡のカンチレバーホルダ部分の概要を示す構成図である。
【図10】プローブ顕微鏡の概略システムを示す構成図である
【図11】一般的なカンチレバー形状を示した構成図である。
【符号の説明】
【0076】
1 探針
2 カンチレバー
3 試料
4 微動機構
5 粗動機構
6 変位検出系
7 レーザ
8 光検出器
9 アンプ
10 Z軸制御フィードバック回路
11 XY駆動回路
12 コンピュータおよび制御系
13 カンチレバーホルダ
21 粗動用探針
22 測定用探針
23 粗動用カンチレバー
24 測定用カンチレバー
25 カンチレバー基板
26 傾斜ブロック
27 固定バネ
28 カンチレバーホルダの穴
29 傾斜部
30 取っ手
31 傾斜機構(カンチレバー変換手段)
32 振動用圧電板
40 熱抵抗体(カンチレバー変換手段)
41 ダミー抵抗
42 カンチレバー基板
43 基板
44 モールド部
45 自己検知信号配線
46 接点電極
47 カンチレバーマウント
48 傾斜機構配線
49 振動板配線
50 配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に探針を有したカンチレバーと、該カンチレバーと試料との距離を制御する粗動機構と微動機構とを含み、
前記探針を試料表面に接近または接触させて、前記試料表面の形状情報または物理情報を計測するプローブ顕微鏡であって、
前記カンチレバーは、測定用探針を有する測定用カンチレバーと、少なくても一つ以上の粗動用探針を有する粗動用カンチレバーと、からなり、
前記測定用探針と前記粗動用探針との前記試料表面に対する距離を制御するカンチレバー変換手段と、を含み、
前記粗動用探針が前記測定用探針より試料表面に接近するように突出した状態で前記粗動用カンチレバーの前記粗動用探針を試料表面に接近または接触させ、
前記カンチレバー変換手段で、前記測定用探針が前記粗動用探針より試料表面に接近するように突出させてから、前記測定用カンチレバーの測定用探針で前記試料表面を測定することを特徴とするプローブ顕微鏡。
【請求項2】
請求項1記載のプローブ顕微鏡において、
前記粗動用カンチレバーの前記粗動用探針を試料表面に接近または接触させた後に、
前記粗動機構または前記微動機構で前記粗動用カンチレバーを試料表面から離れる方向に移動させた後に、
前記カンチレバー変換手段で、前記測定用探針が前記粗動用探針より試料表面に接近するように突出させることを特徴とするプローブ顕微鏡。
【請求項3】
請求項1記載のプローブ顕微鏡において、
前記カンチレバーと前記試料とを相対的に移動させる微動機構を含み、
前記カンチレバー変換手段で、前記測定用探針が前記粗動用探針より試料表面に接近するように突出させてから、前記前記微動機構で走査しながら前記測定用探針で前記試料表面を測定することを特徴とするプローブ顕微鏡。
【請求項4】
請求項1記載のプローブ顕微鏡において、
前記カンチレバー変換手段が、前記測定用カンチレバーと前記粗動用カンチレバーが設けられたカンチレバー基板上に、前記測定用カンチレバーや前記粗動用カンチレバーの長手方向に直行するカンチレバー基板の幅方向に対して、中心から外側にずらして設けられた圧電体からなることを特徴とするプローブ顕微鏡。
【請求項5】
請求項4記載のプローブ顕微鏡において、
前記カンチレバー変換手段が、前記圧電体に変位拡大機構を付加したことを特徴とするプローブ顕微鏡。
【請求項6】
請求項1記載のプローブ顕微鏡において、
前記カンチレバー変換手段が、共振周波数が異なる前記測定用カンチレバーと前記粗動用カンチレバーであることを特徴とするプローブ顕微鏡。
【請求項7】
請求項1乃至6に記載のプローブ顕微鏡において、
前記測定用カンチレバーと前記粗動用カンチレバーが、自己検出型カンチレバーであることを特徴とするプローブ顕微鏡
【請求項8】
請求項1記載のプローブ顕微鏡において、
前記カンチレバー変換手段が、前記測定用カンチレバーと前記粗動用カンチレバーに少なくとも一方に熱抵抗体を備え、
前記熱抵抗体に電流を流して前記測定用カンチレバーまたは前記粗動用カンチレバーを反らすことを特徴とするプローブ顕微鏡。
【請求項9】
請求項1記載のプローブ顕微鏡において、
粗動用探針の先端半径が測定用探針の先端半径より大きいことを特徴とするプローブ顕微鏡。
【請求項10】
探針を試料表面に接近または接触させて、前記試料表面の形状情報または物理情報を計測するプローブ顕微鏡の測定方法であって、
少なくても一つ以上の粗動用カンチレバーの先端に設けられた粗動用探針を試料表面に接近または接触させる工程と、
前記試料表面に対して前記測定用探針と前記粗動用探針と距離関係を制御するカンチレバー変換手段で、測定用カンチレバーの先端に設けられた測定用探針が前記粗動用探針より試料表面に接近するように突出させる工程と、
前記測定用カンチレバーの測定用探針で前記試料表面を測定する工程と、を含むプローブ顕微鏡の測定方法。
【請求項11】
請求項10記載のプローブ顕微鏡の測定方法において、
前記粗動用カンチレバーの前記粗動用探針を試料表面に接近または接触させた後に、
前記粗動機構または前記微動機構で前記粗動用カンチレバーを試料表面から離れる方向に移動させる工程を加えたプローブ顕微鏡の測定方法。
【請求項12】
請求項10記載のプローブ顕微鏡の測定方法において、
前記カンチレバー変換手段で、前記測定用探針が前記粗動用探針より試料表面に接近するように突出させる工程の後に、前記カンチレバーと前記試料とを相対的に移動させる微動機構で、前記測定用探針で前記試料表面を走査しながら測定するプローブ顕微鏡の測定方法。
【請求項13】
請求項10記載のプローブ顕微鏡の測定方法において、
前記カンチレバー変換手段で前記測定用カンチレバーの先端に設けられた前記測定用探針が前記粗動用探針より試料表面に接近するように突出させる工程が、前記測定用カンチレバーと前記粗動用カンチレバーが設けられたカンチレバー基板上に、前記測定用カンチレバーや前記粗動用カンチレバーの長手方向に直行するカンチレバー基板の幅方向に対して、中心から外側にずらして設けられた圧電体を用いたことを特徴とするプローブ顕微鏡の測定方法。
【請求項14】
請求項10記載のプローブ顕微鏡の測定方法において、
共振周波数が異なる前記測定用カンチレバーと前記粗動用カンチレバーと、前記測定用カンチレバーと前記粗動用カンチレバーを振動させる振動用圧電板を用いて、
粗動用カンチレバーの先端に設けられた粗動用探針を試料表面に接近または接触させる工程では、前記振動用圧電板により前記粗動用カンチレバーの共振周波数で振動させ、
測定用カンチレバーの先端に設けられた測定用探針が前記粗動用探針より試料表面に接近するように突出させる工程では、前記振動用圧電板により前記測定用カンチレバーの共振周波数で振動させることを特徴とするプローブ顕微鏡の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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