プーリ構造体
【課題】ゴム弾性体を使用することなく、回転体に生じた回転変動を速やかに減衰させることが可能なプーリ構造体を提供することである。
【解決手段】プーリ構造体1は、ベルト106が巻き掛けられるプーリ2と、プーリ2に対して相対回転可能なハブ3と、プーリ2に設けられ、周方向に交互に配置された4つの第1磁石17と4つの磁性体25からなる第1環状磁石体20と、ハブ3に設けられ、周方向に交互に配置された4つの第2磁石18と4つの磁性体26からなる第2環状磁石体21とを備えている。第1環状磁石体20の磁性体25を挟む2つの第1磁石17は、磁性体25側の磁極が同極となっており、また、第2環状磁石体21の磁性体26を挟む2つの第2磁石18も、磁性体26側の磁極が同極となっている。
【解決手段】プーリ構造体1は、ベルト106が巻き掛けられるプーリ2と、プーリ2に対して相対回転可能なハブ3と、プーリ2に設けられ、周方向に交互に配置された4つの第1磁石17と4つの磁性体25からなる第1環状磁石体20と、ハブ3に設けられ、周方向に交互に配置された4つの第2磁石18と4つの磁性体26からなる第2環状磁石体21とを備えている。第1環状磁石体20の磁性体25を挟む2つの第1磁石17は、磁性体25側の磁極が同極となっており、また、第2環状磁石体21の磁性体26を挟む2つの第2磁石18も、磁性体26側の磁極が同極となっている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対回転可能な2つの回転体を有するプーリ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、相対回転可能に連結された2つの回転体を有するプーリ構造体として、2つの回転体の一方に回転変動が生じたときに、その回転変動を減衰させるための構成を備えたものが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のプーリ構造体は、ベルトが巻回されるプーリ(第1回転体)と、プーリの内側において、このプーリに対して相対回転可能に設けられ、且つ、エンジンの出力軸に連結されるハブ(第2回転体)と、プーリとハブとを連結するゴム弾性体(ゴムカップリング)とを有する。そして、エンジンのトルク変動に応じてハブに回転変動が生じたときには、ハブとプーリの間のゴム弾性体が弾性変形することによって、その回転変動を吸収するように構成されている。
【0004】
また、特許文献2に記載のプーリ構造体は、クランクシャフトに組み付けられたダンパ本体(第1回転体)と、ダンパ本体内側に設けられたダンパマス(第2回転体)とを有する。ダンパマスには、周方向に配置された複数の永久磁石が固定され、一方、ダンパ本体には、ダンパマスの複数の永久磁石と対向する銅板が固定されている。そして、クランクシャフトに生じた捩り振動に起因して、ダンパ本体とダンパマスの間に回転速度差が発生すると、永久磁石と銅板の間の速度差によって銅板に渦電流が発生する。このとき、銅板に発生した渦電流によって2つの回転体(ダンパ本体とダンパマス)の間に両者間の速度差を小さくするような力が作用し、ダンパ本体の回転変動が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭63−68540号公報
【特許文献2】特開2002−286094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のプーリ構造体のように、2つの回転体がゴム弾性体で連結されている場合には、ゴム弾性体の経年劣化や疲労破壊に起因する故障が発生する。また、一方の回転体に過大な回転変動が生じたときには、ゴム弾性体にその弾性変形の範囲を超える過大な力が作用し、ゴム弾性体が破損してしまう虞もある。さらに、ゴム弾性体の弾性変形時の発音が問題になる場合もある。
【0007】
一方、特許文献2のプーリ構造体のように、永久磁石と銅板との間の速度差に起因して銅板に生じる渦電流によって、2つの回転体に両者の速度差を小さくするような抑制力を作用させる構成では、ゴム弾性体を用いる必要がないことから、上述したような問題は生じない。しかし、渦電流により2つの回転体に作用させることのできる抑制力はかなり小さいものであり、一方の回転体に生じる回転変動が大きい場合には、その回転変動を速やかに減衰させることは困難である。
【0008】
本発明の目的は、ゴム弾性体を使用することなく、回転体に生じた回転変動を速やかに減衰させることが可能なプーリ構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0009】
第1の発明のプーリ構造体は、第1回転体と、前記第1回転体に対して相対回転可能な第2回転体と、前記第1回転体に設けられた第1磁石と、前記第2回転体に前記第1磁石と対向可能に設けられた第2磁石とを有し、
前記第1磁石と前記第2磁石のうちの少なくとも一方が、磁性体を挟んで周方向に複数配置され、前記磁性体を周方向に挟む2つの磁石の、前記磁性体側の磁極が同極であることを特徴とするものである。
【0010】
本発明によれば、第1回転体に設けられた第1磁石と第2回転体に設けられた第2磁石のうちの、少なくとも一方の磁石が、磁性体を挟んで周方向に複数配置されており、磁性体を周方向に挟む2つの磁石の、磁性体側の磁極が同極となっている。そして、前記一方の磁石から周方向に出た磁束が、その磁石と周方向に隣接する磁性体を通って、前記一方の磁石と対向する他方の磁石へ流れることで、相対向する第1磁石と第2磁石とが互いに引き合うことになる。また、第1回転体と第2回転体との間に回転速度差(位相差)が生じたときには、第1磁石と第2磁石の位相がずれることになるが、このとき、第1磁石と第2磁石の間を通る磁束が、両磁石が対向する方向に対して傾くため、位相がずれた第1磁石と第2磁石の間に周方向に引き合うように磁力が作用する。即ち、第1回転体と第2回転体の間に、回転速度差を解消するようトルクが作用するため、一方の回転体に生じた回転変動が減衰される。
【0011】
ここで、第1回転体と第2回転体に、回転速度差が小さくなるように作用する、第1磁石と第2磁石の間の磁力は、従来の渦電流によって回転体に作用する抑制力に比べると、はるかに強力である。そのため、一方の回転体に大きな回転変動が生じた場合でも、その回転変動を速やかに減衰させることが可能となる。また、回転変動を減衰するためにゴム弾性体を使用しないことから、ゴム弾性体の経年劣化や疲労破壊、あるいは、ゴム弾性体の弾性変形時の発音といった問題が生じない。
【0012】
さらに、本発明では、第1回転体と第2回転体との間に比較的小さな回転速度差(位相差)が生じて、第1磁石と第2磁石の位相が少しずれたときに、磁気的ポテンシャルが高い状態になるが、前記一方の磁石の、磁性体と接続していない面は、磁極でないことから、この面が他方の磁石と対向することによるポテンシャルの上昇は小さい。従って、2つの回転体の回転速度差が小さい場合に、この回転速度差を解消するように作用するトルクが大きくなりすぎることがなく、第1回転体と第2回転体の間で共振が発生するのを防止できる。
【0013】
第2の発明のプーリ構造体は、前記第1の発明において、前記第1回転体に複数の前記第1磁石が設けられ、前記複数の第1磁石と前記磁性体とが周方向に関して交互に配置されるとともに、前記第2回転体にも複数の前記第2磁石が設けられ、前記複数の第2磁石と前記磁性体とが周方向に介して交互に配置されていることを特徴とするものである。
【0014】
この構成によれば、複数の第1磁石と複数の第2磁石が周方向に分散して配置されることから、第1回転体と第2回転体との間で、周方向に関して均等にトルクを作用させることができる。
【0015】
第3の発明のプーリ構造体は、前記第1の発明において、前記第1磁石と前記第2磁石の他方は、前記磁性体を挟むことなく周方向に複数配置され、複数の前記他方の磁石は、前記周方向に隣接する磁石間で、前記一方の磁石との対向面における磁極が反対となるように配置されていることを特徴とするものである。
【0016】
このように、第1磁石と第2磁石の他方の磁石は磁性体を挟むことなく周方向に複数配置されることで、2つの回転体の回転速度差が小さい場合には、この回転速度差を解消するように作用するトルクが過大になるのを防止しつつ、位相差が大きくなると効率よく磁束の回転軸に対する傾きが大きくなるため、両回転体に大きなトルクを作用させて、回転変動を迅速に減衰させることが可能となる。
【0017】
第4の発明のプーリ構造体は、前記第1〜第3の何れかの発明において、前記一方の磁石と前記磁性体が周方向に交互に配置されて、環状の磁石体を構成していることを特徴とするものである。
【0018】
この構成によれば、磁性体と交互に並ぶ複数の磁石が、全周にわたって分散して配置されることから、第1回転体と第2回転体との間で、周方向に関して均等にトルクを作用させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る補機駆動システムの概略構成図である。
【図2】プーリ構造体の回転軸を含む面に関する断面図である。
【図3】プーリとハブとの間に配置された環状磁石体の斜視図である。
【図4】図2のIV-IV線断面図である。
【図5】プーリとハブの間に回転速度差がないときの、2つの環状磁石体間での磁束の流れを模式的に示した図である。
【図6】プーリとハブの間に回転速度差があるときの、プーリ構造体の図4相当の断面図である。
【図7】プーリとハブの間に回転速度差があるときの、2つの環状磁石体間での磁束の流れを模式的に示した図である。
【図8】変更形態に係るプーリ構造体の、回転軸を含む面に関する断面図である。
【図9】別の変更形態に係る環状磁石体の斜視図である。
【図10】図9の3つの環状磁石体間での磁束の流れを模式的に示した図である。
【図11】別の変更形態のプーリ構造体の、回転軸を含む面に関する断面図である。
【図12】図11のプーリ構造体の環状磁石体を、回転軸方向から見た図である。
【図13】磁石のみで構成された比較例1の環状磁石体の斜視図である。
【図14】実施例1〜5及び比較例1のプーリ構造体の回転角とトルクの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態について説明する。本実施形態は、自動車用エンジンの出力軸のトルクによって補機を駆動する、補機駆動システムに用いられるプーリ構造体に本発明を適用した一例である。
【0021】
図1は本実施形態の補機駆動システムの概略構成図である。図1に示すように、補機駆動システム100は、エンジンの出力軸101(レシプロエンジンのクランクシャフトや、ロータリーエンジンのエキセントリックシャフト等)に連結された駆動プーリ105と、ウォーターポンプやオルタネータ等の各種補機にそれぞれ連結された従動軸(補機軸)102,103と、従動軸102に取り付けられた従動プーリ104と、従動軸103に取り付けられた、本実施形態に係るプーリ構造体1のプーリ2と、駆動プーリ105、従動プーリ104、及び、プーリ構造体1のプーリ2にわたって架け渡された伝動ベルト106とを有する。尚、本実施形態では、伝動ベルト106として、ベルト長手方向に沿って互いに平行に延びる複数のVリブ106aを有するVリブドベルトが用いられている(図2参照)。
【0022】
出力軸101のトルクによって駆動プーリ105が回転駆動されると、その駆動プーリ105の回転により伝動ベルト106が駆動される。すると、この伝動ベルト106の走行に伴って、従動プーリ104やプーリ構造体1のプーリ2がそれぞれ回転駆動されることにより、従動軸102,103に連結されたウォーターポンプやオルタネータ等の補機がそれぞれ駆動される。
【0023】
次に、出力軸101から伝動ベルト106を介して伝達されるトルクを従動軸(補機軸)103に伝える、本実施形態のプーリ構造体1について詳細に説明する。図2は本実施形態のプーリ構造体1の回転軸Cを含む面に関する断面図である。図2に示すように、プーリ構造体1は、伝動ベルト106が巻回される円筒形状のプーリ2(第1回転体)と、従動軸(補機軸)103に連結されるとともにプーリ2の内側に設けられたハブ3(第2回転体)を備えている。また、プーリ2とハブ3は軸受5を介して相対回転可能に連結されている。尚、図2における右側をプーリ構造体1の先端側、図2における左側(従動軸(補機軸)103側)をプーリ構造体1の基端側と定義して以下説明する。
【0024】
プーリ2の外周部には、その周方向に沿って延びる複数のV溝11が形成されている。そして、伝動ベルト106は、その腹面側に形成された複数のVリブ106aが、複数のV溝11にそれぞれ係合した状態で、プーリ2の外周に巻回される。
【0025】
ハブ3は、回転軸方向に沿って同軸状に並ぶ2つの円筒部材3a,3bを有し、これら2つの円筒部材3a,3bは図示しない部分において連結され、一体化されている。このハブ3の2つの円筒部材3a,3bには従動軸103の先端部が嵌挿され、ボルト等の適宜の連結手段によって従動軸103とハブ3とが相対回転不能に連結される。尚、プーリ2、及び、ハブ3を構成する2つの円筒部材3a,3bは、それぞれ非磁性材料(常磁性体や反磁性体、あるいは、反強磁性体)で形成されている。尚、非磁性材料としては、例えば、アルミニウム合金、チタン合金、あるいは、合成樹脂等を挙げられる。
【0026】
2つの円筒部材3a,3bのうち、基端側に位置する円筒部材3aに軸受5が設けられ、この軸受5を介してプーリ2が円筒部材3aに回転自在に連結されている。一方、先端側に位置する円筒部材3bと、プーリ2との間には、環状の磁石収容室16が形成され、この磁石収容室16内に、プーリ2に固定された第1環状磁石体20と、ハブ3の円筒部材3bに固定された2つの第2環状磁石体21が収容されている。
【0027】
図3は、図2に示される環状磁石体20,21の斜視図、図4は、図2のIV-IV線断面図である。第1環状磁石体20はその外周面においてプーリ2に固定されている。図3、図4に示すように、この第1環状磁石体20は4つの第1磁石17と4つの磁性材料(好ましくは軟磁性材料)からなる磁性体25で構成されている。第1磁石17と磁性体25は、共に、中心角(45度)の略扇形形状を有し、4つの第1磁石17と4つの磁性体25が周方向に交互に並べて配置されることで、第1環状磁石体20が構成されている。
【0028】
第2環状磁石体21は、その内周面においてハブ3に固定されている。また、この第2環状磁石体21も、第1環状磁石体20と同じように、4つの第2磁石18と4つの磁性材料(好ましくは軟磁性材料)からなる磁性体26で構成されている。第2磁石18と磁性体26は、共に、中心角(45度)の略扇形形状を有し、4つの第2磁石18と4つの磁性体26が周方向に交互に並べて配置されることで、第2環状磁石体21が構成されている。
【0029】
また、プーリ2に固定された1つの第1環状磁石体20とハブ3に固定された2つの第2環状磁石体21は、プーリ2の回転軸Cの方向に隙間を空けて交互に配置されている。言い換えれば、第1磁石17を含む第1環状磁石体20が、回転軸方向に関して、第2磁石18を含む第2環状磁石体21に挟まれている。
【0030】
尚、第1磁石17と第2磁石18は、それぞれ永久磁石で構成されている。永久磁石としては、ネオジム、サマリウムコバルト、フェライト、アルニコ、プラチナ、クロム、鉄、マンガン、アルミニウム、プラセオジムなどを成分とするものを使用できる。
【0031】
また、磁性体25と磁性体26を構成する磁性材料としては、軟鉄やフェライト(Ni−Zn系フェライト、Mn−Zn系フェライト)等が挙げられる。他に、パーマロイ、センダスト、パーメンジュール、ケイ素鋼等が使用できる。
【0032】
さらに、第1磁石17と第2磁石18は、それぞれ周方向に磁化されている。そして、図3に示すように、第1環状磁石体20においては、1つの磁性体25を周方向に挟む2つの第1磁石17の、磁性体25側の磁極が同極になっている。同じく、第2環状磁石体21においても、1つの磁性体26を周方向に挟む2つの第2磁石18の、磁性体26側の磁極が同極となっている。
【0033】
尚、本実施形態では、回転軸Cの方向に関して交互に配置された3つの環状磁石体20,21のうち、中央に位置する第1環状磁石体20はプーリ2の内周面に取り付けられているが、その取付方法としては、接着や、圧入、あるいは、ネジやボルト等による固定等の方法を採用できる。また、回転軸方向に関して外側に位置する2つの第2環状磁石体21は、ハブ3(円筒部材3b)の外周面に取り付けられているが、これら2つの第2環状磁石体21のハブ3への取付方法も、接着や、圧入、あるいは、ネジやボルト等による固定等の方法を採用できる。
【0034】
次に、本実施形態のプーリ構造体1の作用について説明する。図4に示すように、プーリ2とハブ3の間に回転速度差(位相差)がない状態では、プーリ2に固定された第1環状磁石体20の4つの第1磁石17と、ハブ3に固定された第2環状磁石体21の4つの第2磁石18とが、回転軸方向(図4の紙面垂直方向)に関して互いに対向している。
【0035】
図5は、プーリ2とハブ3の間に回転速度差がないときの、2つの第2環状磁石体20,21間での磁束の流れを模式的に示した図である。尚、図5では、各環状磁石体20,21の、周方向に交互に配置された磁石17(18)と磁性体25(26)を、環状磁石体の半径方向外方から見た図(展開図)で示している。
【0036】
プーリ2とハブ3との間に回転速度差(位相差)がなく、両者が一体回転している状態では、図4、図5に示すように、第1環状磁石体20の第1磁石17と第2環状磁石体21の第2磁石18の周方向位置が一致しており、両磁石17,18が回転軸方向に対向している。そして、第1磁石17と第2磁石18の磁化の方向は共に周方向であることから、各磁石17(18)のN極から周方向へ磁束Bが出る。
【0037】
第1磁石17のN極から周方向に出た磁束Bは、第1磁石17と周方向に隣接する磁性体25に流れる。さらに、この磁束Bは、2つの環状磁石体20,21の隙間を通って、対向する磁性体26に流れ、第2磁石18のS極に至る。第2磁石18のN極から第1磁石17のS極へ至る磁束Bの流れも上と同様である。このように、プーリ2とハブ3との間に回転速度差がない状態では、2つの環状磁石体20,21の隙間において、磁性体25と磁性体26の間で流れる磁束Bの向きは回転軸方向(図5の左右方向)と平行となる。従って、第1環状磁石体20が設けられているプーリ2と、第2環状磁石体21が設けられているハブ3との間で、トルクは発生していない。
【0038】
このように、プーリ2とハブ3が一体的に回転している状態から、エンジンで発生したトルク変動がベルト106を介して伝達されて、プーリ2に回転変動が生じると、プーリ2とハブ3の間には回転速度差(位相差)が生じる。
【0039】
図7は、プーリ2とハブ3との間に回転速度差が生じた状態での、2つの環状磁石体20,21間での磁束の流れを模式的に示した図である。この図7に示すように、第1磁石17と第2磁石18の周方向位置(位相)がずれることによって、第1環状磁石体20と第2環状磁石体21との間における磁束Bの向きが、回転軸方向(図7の左右方向)に対して傾き、第1磁石17と第2磁石18の間に周方向に引き合う磁力が作用する。即ち、第1環状磁石体20が固定されているプーリ2と、第2環状磁石体21が固定されているハブ3との間に、両者の間の回転速度差を解消するようにトルクが作用するため、回転変動が減衰される。
【0040】
ここで、プーリ2とハブ3に、両者の間の回転速度差が小さくなるように作用する、第1磁石17と第2磁石18の間の磁力は、従来の渦電流によって回転体に作用する抑制力に比べると、はるかに強力である。そのため、プーリ2に大きな回転変動が生じた場合でも、その回転変動を速やかに減衰させることが可能となる。また、回転変動を減衰するためにゴム弾性体を使用しないことから、ゴム弾性体の経年劣化や疲労破壊、あるいは、ゴム弾性体の弾性変形時の発音といった問題が生じない。
【0041】
さらに、環状磁石体20,21は、周方向に磁化された磁石17(18)と磁性体25(26)が周方向に交互に配置された構成となっており、1つの磁性体25(26)が、2つの磁石17(18)の同極の面で挟まれている。そのため、図7に示すように、プーリ2とハブ3との間に比較的小さな回転速度差(位相差)が生じたときに、第1磁石17から見ると、先ほど対向していた第2磁石18と周方向に隣接する磁性体26と一部対向することになる。
【0042】
このとき、前述したように、相対向する2つの環状磁石体20,21間で、一方の磁石17(18)のN極から出た磁束は、磁性体25,26を経由して他方の磁石18(17)のS極に至る。そのため、第1磁石17と第2磁石18に位相差が生じても、第1環状磁石体20(磁性体25)と第2環状磁石体21(磁性体26)の隙間において、磁性体25と磁性体26の間で流れる磁束の、回転軸方向に対する傾きは小さく抑えられる。これは、磁束が磁性体25の中央部から磁性体26の中央部に至るのではなく、磁気抵抗の小さなルートを通るためである。また、別の言い方をすれば、第1磁石17と第2磁石18の間に位相差が生じたときには磁気的ポテンシャルが高い状態になるものの、一方の磁石17(18)の、磁性体25(26)と接続していない面(回転軸C方向の端面)は、磁極でないことから、この面が他方の磁石18(17)と対向することによるポテンシャルの上昇は小さくなる。従って、プーリ2とハブ3の回転速度差が小さく、磁石17,18が磁性体26,25と一部対向する程度の小さな位相差である場合に、プーリ2とハブ3の回転速度差を解消するように作用するトルクが大きくなりすぎることがなく、プーリ2とハブ3の間で共振が発生するのを防止できる。
【0043】
また、本実施形態では、プーリ2に設けられた第1磁石17とハブ3に設けられた第2磁石18の両方が、それぞれ磁性体25,26と周方向に関して交互に配置されており、環状の磁石体20,21を構成している。この構成によれば、複数の第1磁石と複数の第2磁石が周方向に分散して配置されることから、プーリ2とハブ3との間で、周方向に関して均等にトルクを作用させることができる。
【0044】
また、本実施形態では、4つの第1磁石17と4つの第2磁石18は、それぞれ永久磁石で構成されている。そのため、プーリ2とハブ3とが、永久磁石から半永久的に発せられる磁束によって連結されることになり、長期間の使用によって経年劣化や疲労破壊等が生じるゴム弾性体と比べると、回転変動を減衰させる機能が低下したり、減衰不能に陥ったりという問題が生じにくい。
【0045】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0046】
1]第1磁石17、第2磁石18、及び、それらに設けられる磁性体のサイズ、形状、数、材質、配置等は、プーリやハブの形状や発生しうる回転変動の程度等に応じて、適宜変更可能である。
【0047】
例えば、プーリ2の回転軸方向に並ぶ環状磁石体20,21の数は、前記実施形態のような3つ(1つの第1環状磁石体20と2つの第2環状磁石体21)に限られるものではない。例えば、図8に示すプーリ構造体1Aのように、回転軸Cの方向に関して配置される第1環状磁石体20と第2環状磁石体21の数がそれぞれ1つであってもよい。あるいは、4以上の第1環状磁石体20,21が回転軸方向に交互に並ぶように設けられてもよい。
【0048】
また、1つの環状磁石体20,21を構成する磁石17,18の数も4つである必要はなく、適宜変更できる。別の言い方をすれば、略扇状に形成された1つの磁石17,18の中心角は、45度である必要はなく、別の角度に変更してもよい。
【0049】
さらに、磁石17,18の中心角と磁性体25,26の中心角を等しくする必要も特になく、両者の中心角を異ならせてもよい。特に、磁性体25,26の中心角が大きくなるほど、第1磁石17と第2磁石18の間に、磁性体25,26の中心角よりも小さな位相差が生じたときに、第1磁石17に挟まれた磁性体25と第2磁石18に挟まれた磁性体26の対向面積が広く保たれる。そのため、2つの環状磁石体20,21の間(磁性体25と磁性体26の間)を流れる磁束の、環状磁石体20,21が対向する方向(回転軸方向)に対する傾きがさらに小さくなり、回転軸方向とほとんど平行になるため、プーリ2とハブ3の間に作用するトルクが小さくなる。
【0050】
さらには、磁石17(18)と磁性体25(26)が周方向全周にわたって配置されて環状の磁石体を構成している必要はなく、周方向一部分にのみ磁石17(18)と磁性体25(26)が配置された構成であってもよい。
【0051】
また、第1磁石17と第2磁石18の両方に対して周方向に磁性体が配置されている必要は必ずしもなく、第1磁石17と第2磁石18の一方にのみ磁性体が設けられてもよい。例えば、図9に示すように、プーリ2に固定された第1環状磁石体20は、周方向に交互に配置された6つの第1磁石17と6つの磁性体25で構成される一方で、ハブ3に固定される第2環状磁石体121は、磁性体を挟むことなく周方向に配置された複数(例えば、6つ)の第2磁石18のみで構成されてもよい。尚、複数の第2磁石は、周方向に隣接する磁石間で、第1磁石との対向面(図9の左右両側面)における磁極が反対となるように配置される。そして、図10に示すように、第1磁石17のN極から出た磁束は、これと周方向に隣接する磁性体25を介して、第2磁石18のS極に至る。また、第2磁石18のN極から出た磁束は、磁性体25を介して第1磁石17のS極に至る。
【0052】
このように、第1磁石17と第2磁石18の一方の磁石は磁性体を挟むように周方向に配置される一方で、他方の磁石は磁性体を挟むことなく周方向に複数配置されると、プーリ2とハブ3の回転速度差が小さい場合には、この回転速度差を解消するように作用するトルクが過大になるのを防止しつつ、回転速度差が大きい場合には、プーリ2とハブ3の間に大きなトルクを作用させて、回転変動を迅速に減衰させることが可能となる。
【0053】
2]前記実施形態では、プーリ側の第1磁石17とハブ側の第2磁石18が回転軸方向に対向しているが、第1磁石17と第2磁石18がプーリの径方向に対向してもよい。例えば、図11に示すプーリ構造体1Bにおいては、プーリ2Bに、第1環状磁石体20Bが固定される一方で、ハブ3Bには、第2環状磁石体21Bが固定されている。また、プーリ2B側の第1環状磁石体20Bが、ハブ3B側の第2環状磁石体21Bの径よりも径が大きいものに形成された上で、第1環状磁石体20Bの内側に径方向に隙間を空けて第2環状磁石体21Bが配置されている。
【0054】
図12は図11の環状磁石体20B,21Bを回転軸方向から見た図である。図12に示すように、径方向外側に位置する第1環状磁石体20Bは、周方向に交互に配置された4つの第1磁石17Bと4つの磁性体25Bで構成されている。4つの第1磁石17Bはそれぞれ周方向に磁化されており、1つの磁性体25Bを周方向に挟む2つの第1磁石17Bは、それらの磁性体25B側の磁極が同極となっている。また、内側に位置する第2環状磁石体21Bは、周方向に交互に配置された4つの第2磁石18Bと4つの磁性体26Bで構成されている。4つの第2磁石18Bもそれぞれ周方向に磁化されており、磁性体26Bを周方向に挟む2つの第2磁石18Bは、それらの磁性体26B側の磁極が同極となっている。
【0055】
このプーリ構造体1Bの、プーリ2Bとハブ3Bとの間に回転速度差が生じたときの作用は、前記実施形態のプーリ構造体1と基本的には同じである。即ち、プーリ2Bとハブ3Bとの間に回転速度差が生じたときには、2種類の磁石17B,18B間に作用する引き合う方向の磁力により、プーリ2Bとハブ3Bの間には、回転速度差を解消する方向のトルクが発生する。また、プーリ2Bとハブ3Bの間に比較的小さな回転速度差が生じて、第1磁石17Bと第2磁石18Bの位相がずれたときに、第1環状磁石体20Bと第2環状磁石体21Bとの間で周方向に作用する磁力は比較的小さいものとなるため、回転速度差を解消する方向に過大なトルクが発生することがない。
【0056】
3]プーリ2に生じた回転変動が非常に大きいと、第1磁石17と第2磁石18との間の磁力だけでは回転変動をすぐに減衰させることができないこともあり得る。そこで、プーリ2とハブ3との位相差が一定の角度に達したときに、それ以上の位相差の増大を抑制するストッパー構造が設けられてもよい。例えば、プーリ2の内周面とハブ3の内周面にそれぞれ突出部が設けられ、プーリ2とハブ3の位相差が一定の角度となったときに両者の突出部が周方向に当接(係合)することによりプーリ2とハブ3とを一体回転させ、位相差が増大する方向への相対回転するのを防止するようにしてもよい。
【0057】
以上、本発明の実施形態として、エンジンの補機駆動システムのプーリ構造体に本発明を適用した一例について説明したが、本発明の適用対象はこれに限られるものではない。例えば、建築建材、家具、機械装置などの分野において、窓、ドア、蓋等の開閉部材の開閉角度に応じてトルクを変化させるために使用されるプーリ構造体など、様々な用途に使用されるプーリ構造体にも適用することが可能である。
【実施例】
【0058】
次に、本発明の具体的な実施例について比較例と共に説明する。
【0059】
(実施例1)
プーリ2に設けられる第1磁石17としては、外径58mm、内径26mm、厚み6mmで、中心角20度の扇形の形状を有する、ネオジム磁石(残留磁束密度1.15T)を使用した。また、この第1磁石17と組み合わされる磁性体25は、外径、内径、厚みは第1磁石17と同じで、中心角が25度の扇形に形成されたS25C材を使用した。そして、8つの第1磁石17と8つの磁性体25とが周方向に交互に配置された、第1環状磁石体20を1つ作製した。
【0060】
ハブ3に設けられる第2磁石18としては、外径56mm、内径24mm、厚み6mmで、中心角20度の扇形の形状を有する、ネオジム磁石(残留磁束密度1.15T)を使用した。また、この第2磁石18と組み合わされる磁性体26は、外径、内径、厚みは第2磁石18と同じで、中心角が25度の扇形に形成されたS25C材を使用した。そして、8つの第2磁石18と8つの磁性体26とが周方向に交互に配置された、第2環状磁石体21を2つ作製した。
【0061】
上述した1つの第1環状磁石体20を2つの第2環状磁石体21で挟んだ状態で、これら3つの環状磁石体21,20,21を、図1に示すプーリ2及びハブ3に取り付けて、プーリ構造体を作製した。尚、3つの環状磁石体21,20,21の配置間隔は0.5mmとした。
【0062】
(実施例2)
第1磁石17と第2磁石18の中心角を25度、磁性体25,26の中心角を20度とした以外は、実施例1と同じ仕様とした。
【0063】
(実施例3)
第1磁石17と第2磁石18の中心角を30度、磁性体25,26の中心角を15度とした以外は、実施例1と同じ仕様とした。
【0064】
(実施例4)
第1磁石17と第2磁石18の中心角を35度、磁性体25,26の中心角を10度とした以外は、実施例1と同じ仕様とした。
【0065】
(実施例5)
プーリ2に設けられる第1磁石17としては、外径58mm、内径26mm、厚み6mmで中心角50度の扇形の形状を有する、ネオジム磁石(残留磁束密度1.15T)を使用した。また、この第1磁石17と組み合わされる磁性体25は、外径、内径、厚みは第1磁石17と同じで、中心角が10度の扇形に形成されたS25C材を使用した。そして、6つの第1磁石17と6つの磁性体25とが周方向に交互に配置された、第1環状磁石体20を1つ作成した。
また、前掲した図9のように、ハブ3に固定される2つの環状磁石体121を、磁性体を挟むことなく周方向に配置された複数(6つ)の第2磁石18のみで構成した。各々の第2磁石18は、外径56mm、内径24mm、厚み6mmで、中心角60度の扇形形状を有する。また、第2磁石18は、回転軸Cの方向に磁化されており、隣接する磁石間で、第1環状磁石体20との対向面(図9の左右側面)の磁極が反対となるように配置されている。さらに、第2磁石18で構成された第2環状磁石体121の、第1環状磁石体20と対向していない面(図9の左右外側面)には、バックヨークとして外径56mm、内径24mm、厚み5mmのS25C材を取り付けた。
【0066】
(比較例1)
図13に示すように、3つの環状磁石体121,120,121の各々を、回転軸Cの方向に磁化された8個の磁石17(18)で構成した。周方向に並ぶ8個の磁石17(18)は、隣接する磁石間で、別の環状磁石体との対向面(図13の左右側面)の磁極が反対となるように配置されている。また、各磁石17(18)の中心角は45度である。それ以外は実施例1と同じ仕様とした。尚、左右2つの環状磁石体121の、環状磁石体120と対向していない面に、バックヨークとして外径56mm、内径24mm、厚み5mmのS25C材を取り付けた。
【0067】
(比較例2)
3つの環状磁石体121,120,121の各々を中心角60度の扇形形状の磁石6つを用いて構成した以外は、比較例1と同じである。
【0068】
上述した実施例1〜5及び比較例1,2のプーリ構造体のそれぞれについて、プーリとハブの位相差とトルクとの関係を求めた。具体的には、ハブに装着された回転軸をトルクメータ(石戸電気製作所製:トルク測定機)の回転軸に挿入して、ハブをトルクメータと一体に回転可能とする一方で、プーリの表面を回転不能に機械的に固定した。この状態で、トルクメータを1.5rpmで反時計回り(正転)に回転させたときの、回転角とトルクの関係を求めた。その結果を図14に示す。
【0069】
図14に示すように、周方向に磁化された磁石と磁性体とを組み合わせた実施例1〜5では、回転軸方向に磁化された磁石のみで構成された比較例1,2と比べて、回転角の小さい初期のトルク変化率(傾き)が小さくなっている。つまり、プーリ2とハブ3の回転速度差が小さいときのトルクが小さく抑えられており、共振が起こりにくい。
【0070】
また、磁石の中心角よりも磁性体の中心角が大きく、実施例1〜4の中では磁性体の中心角の最も大きい、実施例1が、回転角の小さい初期のトルク変化率(傾き)が最も小さくなっている。また、磁性体の中心角を小さくするほど、初期のトルク変化率は大きくなっていることがわかる(実施例1:約0.1Nm/degree、実施例2:約0.2Nm/degree、実施例3:約0.35Nm/degree、実施例4:約0.8Nm/degree)。このことから、位相差が小さい範囲内でのトルクの変化率を、磁性体の中心角を変更することにより調整することが可能となる。
【0071】
また、実施例1〜4と比較例1を比較した場合と比べて、実施例5と比較例2とを比較した場合、実施例5は、回転角の小さい初期のトルク変化率は小さく、回転角が大きくなったときは、比較例2と比べて大きなトルクが得られる(比較例1の最大トルク約14Nmに対して実施例1〜4の最大トルクは8Nm程度、比較例2の最大トルク約11.5Nmに対して実施例5の最大トルク約12Nm)。このように、実施例5では、プーリとハブの回転角度差が小さいときには、その回転速度差を解消するように作用するトルクが過大になるのを防止しつつ、回転速度差が大きい場合には大きなトルクを作用させて、回転変動を迅速に減衰させることができることがわかる
【符号の説明】
【0072】
1,1A,1B プーリ構造体
2,2A,2B プーリ
3,3A,3B ハブ
17,17B 第1磁石
18,18B 第2磁石
25,25B 磁性体
26,26B 磁性体
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対回転可能な2つの回転体を有するプーリ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、相対回転可能に連結された2つの回転体を有するプーリ構造体として、2つの回転体の一方に回転変動が生じたときに、その回転変動を減衰させるための構成を備えたものが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のプーリ構造体は、ベルトが巻回されるプーリ(第1回転体)と、プーリの内側において、このプーリに対して相対回転可能に設けられ、且つ、エンジンの出力軸に連結されるハブ(第2回転体)と、プーリとハブとを連結するゴム弾性体(ゴムカップリング)とを有する。そして、エンジンのトルク変動に応じてハブに回転変動が生じたときには、ハブとプーリの間のゴム弾性体が弾性変形することによって、その回転変動を吸収するように構成されている。
【0004】
また、特許文献2に記載のプーリ構造体は、クランクシャフトに組み付けられたダンパ本体(第1回転体)と、ダンパ本体内側に設けられたダンパマス(第2回転体)とを有する。ダンパマスには、周方向に配置された複数の永久磁石が固定され、一方、ダンパ本体には、ダンパマスの複数の永久磁石と対向する銅板が固定されている。そして、クランクシャフトに生じた捩り振動に起因して、ダンパ本体とダンパマスの間に回転速度差が発生すると、永久磁石と銅板の間の速度差によって銅板に渦電流が発生する。このとき、銅板に発生した渦電流によって2つの回転体(ダンパ本体とダンパマス)の間に両者間の速度差を小さくするような力が作用し、ダンパ本体の回転変動が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭63−68540号公報
【特許文献2】特開2002−286094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のプーリ構造体のように、2つの回転体がゴム弾性体で連結されている場合には、ゴム弾性体の経年劣化や疲労破壊に起因する故障が発生する。また、一方の回転体に過大な回転変動が生じたときには、ゴム弾性体にその弾性変形の範囲を超える過大な力が作用し、ゴム弾性体が破損してしまう虞もある。さらに、ゴム弾性体の弾性変形時の発音が問題になる場合もある。
【0007】
一方、特許文献2のプーリ構造体のように、永久磁石と銅板との間の速度差に起因して銅板に生じる渦電流によって、2つの回転体に両者の速度差を小さくするような抑制力を作用させる構成では、ゴム弾性体を用いる必要がないことから、上述したような問題は生じない。しかし、渦電流により2つの回転体に作用させることのできる抑制力はかなり小さいものであり、一方の回転体に生じる回転変動が大きい場合には、その回転変動を速やかに減衰させることは困難である。
【0008】
本発明の目的は、ゴム弾性体を使用することなく、回転体に生じた回転変動を速やかに減衰させることが可能なプーリ構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0009】
第1の発明のプーリ構造体は、第1回転体と、前記第1回転体に対して相対回転可能な第2回転体と、前記第1回転体に設けられた第1磁石と、前記第2回転体に前記第1磁石と対向可能に設けられた第2磁石とを有し、
前記第1磁石と前記第2磁石のうちの少なくとも一方が、磁性体を挟んで周方向に複数配置され、前記磁性体を周方向に挟む2つの磁石の、前記磁性体側の磁極が同極であることを特徴とするものである。
【0010】
本発明によれば、第1回転体に設けられた第1磁石と第2回転体に設けられた第2磁石のうちの、少なくとも一方の磁石が、磁性体を挟んで周方向に複数配置されており、磁性体を周方向に挟む2つの磁石の、磁性体側の磁極が同極となっている。そして、前記一方の磁石から周方向に出た磁束が、その磁石と周方向に隣接する磁性体を通って、前記一方の磁石と対向する他方の磁石へ流れることで、相対向する第1磁石と第2磁石とが互いに引き合うことになる。また、第1回転体と第2回転体との間に回転速度差(位相差)が生じたときには、第1磁石と第2磁石の位相がずれることになるが、このとき、第1磁石と第2磁石の間を通る磁束が、両磁石が対向する方向に対して傾くため、位相がずれた第1磁石と第2磁石の間に周方向に引き合うように磁力が作用する。即ち、第1回転体と第2回転体の間に、回転速度差を解消するようトルクが作用するため、一方の回転体に生じた回転変動が減衰される。
【0011】
ここで、第1回転体と第2回転体に、回転速度差が小さくなるように作用する、第1磁石と第2磁石の間の磁力は、従来の渦電流によって回転体に作用する抑制力に比べると、はるかに強力である。そのため、一方の回転体に大きな回転変動が生じた場合でも、その回転変動を速やかに減衰させることが可能となる。また、回転変動を減衰するためにゴム弾性体を使用しないことから、ゴム弾性体の経年劣化や疲労破壊、あるいは、ゴム弾性体の弾性変形時の発音といった問題が生じない。
【0012】
さらに、本発明では、第1回転体と第2回転体との間に比較的小さな回転速度差(位相差)が生じて、第1磁石と第2磁石の位相が少しずれたときに、磁気的ポテンシャルが高い状態になるが、前記一方の磁石の、磁性体と接続していない面は、磁極でないことから、この面が他方の磁石と対向することによるポテンシャルの上昇は小さい。従って、2つの回転体の回転速度差が小さい場合に、この回転速度差を解消するように作用するトルクが大きくなりすぎることがなく、第1回転体と第2回転体の間で共振が発生するのを防止できる。
【0013】
第2の発明のプーリ構造体は、前記第1の発明において、前記第1回転体に複数の前記第1磁石が設けられ、前記複数の第1磁石と前記磁性体とが周方向に関して交互に配置されるとともに、前記第2回転体にも複数の前記第2磁石が設けられ、前記複数の第2磁石と前記磁性体とが周方向に介して交互に配置されていることを特徴とするものである。
【0014】
この構成によれば、複数の第1磁石と複数の第2磁石が周方向に分散して配置されることから、第1回転体と第2回転体との間で、周方向に関して均等にトルクを作用させることができる。
【0015】
第3の発明のプーリ構造体は、前記第1の発明において、前記第1磁石と前記第2磁石の他方は、前記磁性体を挟むことなく周方向に複数配置され、複数の前記他方の磁石は、前記周方向に隣接する磁石間で、前記一方の磁石との対向面における磁極が反対となるように配置されていることを特徴とするものである。
【0016】
このように、第1磁石と第2磁石の他方の磁石は磁性体を挟むことなく周方向に複数配置されることで、2つの回転体の回転速度差が小さい場合には、この回転速度差を解消するように作用するトルクが過大になるのを防止しつつ、位相差が大きくなると効率よく磁束の回転軸に対する傾きが大きくなるため、両回転体に大きなトルクを作用させて、回転変動を迅速に減衰させることが可能となる。
【0017】
第4の発明のプーリ構造体は、前記第1〜第3の何れかの発明において、前記一方の磁石と前記磁性体が周方向に交互に配置されて、環状の磁石体を構成していることを特徴とするものである。
【0018】
この構成によれば、磁性体と交互に並ぶ複数の磁石が、全周にわたって分散して配置されることから、第1回転体と第2回転体との間で、周方向に関して均等にトルクを作用させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る補機駆動システムの概略構成図である。
【図2】プーリ構造体の回転軸を含む面に関する断面図である。
【図3】プーリとハブとの間に配置された環状磁石体の斜視図である。
【図4】図2のIV-IV線断面図である。
【図5】プーリとハブの間に回転速度差がないときの、2つの環状磁石体間での磁束の流れを模式的に示した図である。
【図6】プーリとハブの間に回転速度差があるときの、プーリ構造体の図4相当の断面図である。
【図7】プーリとハブの間に回転速度差があるときの、2つの環状磁石体間での磁束の流れを模式的に示した図である。
【図8】変更形態に係るプーリ構造体の、回転軸を含む面に関する断面図である。
【図9】別の変更形態に係る環状磁石体の斜視図である。
【図10】図9の3つの環状磁石体間での磁束の流れを模式的に示した図である。
【図11】別の変更形態のプーリ構造体の、回転軸を含む面に関する断面図である。
【図12】図11のプーリ構造体の環状磁石体を、回転軸方向から見た図である。
【図13】磁石のみで構成された比較例1の環状磁石体の斜視図である。
【図14】実施例1〜5及び比較例1のプーリ構造体の回転角とトルクの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態について説明する。本実施形態は、自動車用エンジンの出力軸のトルクによって補機を駆動する、補機駆動システムに用いられるプーリ構造体に本発明を適用した一例である。
【0021】
図1は本実施形態の補機駆動システムの概略構成図である。図1に示すように、補機駆動システム100は、エンジンの出力軸101(レシプロエンジンのクランクシャフトや、ロータリーエンジンのエキセントリックシャフト等)に連結された駆動プーリ105と、ウォーターポンプやオルタネータ等の各種補機にそれぞれ連結された従動軸(補機軸)102,103と、従動軸102に取り付けられた従動プーリ104と、従動軸103に取り付けられた、本実施形態に係るプーリ構造体1のプーリ2と、駆動プーリ105、従動プーリ104、及び、プーリ構造体1のプーリ2にわたって架け渡された伝動ベルト106とを有する。尚、本実施形態では、伝動ベルト106として、ベルト長手方向に沿って互いに平行に延びる複数のVリブ106aを有するVリブドベルトが用いられている(図2参照)。
【0022】
出力軸101のトルクによって駆動プーリ105が回転駆動されると、その駆動プーリ105の回転により伝動ベルト106が駆動される。すると、この伝動ベルト106の走行に伴って、従動プーリ104やプーリ構造体1のプーリ2がそれぞれ回転駆動されることにより、従動軸102,103に連結されたウォーターポンプやオルタネータ等の補機がそれぞれ駆動される。
【0023】
次に、出力軸101から伝動ベルト106を介して伝達されるトルクを従動軸(補機軸)103に伝える、本実施形態のプーリ構造体1について詳細に説明する。図2は本実施形態のプーリ構造体1の回転軸Cを含む面に関する断面図である。図2に示すように、プーリ構造体1は、伝動ベルト106が巻回される円筒形状のプーリ2(第1回転体)と、従動軸(補機軸)103に連結されるとともにプーリ2の内側に設けられたハブ3(第2回転体)を備えている。また、プーリ2とハブ3は軸受5を介して相対回転可能に連結されている。尚、図2における右側をプーリ構造体1の先端側、図2における左側(従動軸(補機軸)103側)をプーリ構造体1の基端側と定義して以下説明する。
【0024】
プーリ2の外周部には、その周方向に沿って延びる複数のV溝11が形成されている。そして、伝動ベルト106は、その腹面側に形成された複数のVリブ106aが、複数のV溝11にそれぞれ係合した状態で、プーリ2の外周に巻回される。
【0025】
ハブ3は、回転軸方向に沿って同軸状に並ぶ2つの円筒部材3a,3bを有し、これら2つの円筒部材3a,3bは図示しない部分において連結され、一体化されている。このハブ3の2つの円筒部材3a,3bには従動軸103の先端部が嵌挿され、ボルト等の適宜の連結手段によって従動軸103とハブ3とが相対回転不能に連結される。尚、プーリ2、及び、ハブ3を構成する2つの円筒部材3a,3bは、それぞれ非磁性材料(常磁性体や反磁性体、あるいは、反強磁性体)で形成されている。尚、非磁性材料としては、例えば、アルミニウム合金、チタン合金、あるいは、合成樹脂等を挙げられる。
【0026】
2つの円筒部材3a,3bのうち、基端側に位置する円筒部材3aに軸受5が設けられ、この軸受5を介してプーリ2が円筒部材3aに回転自在に連結されている。一方、先端側に位置する円筒部材3bと、プーリ2との間には、環状の磁石収容室16が形成され、この磁石収容室16内に、プーリ2に固定された第1環状磁石体20と、ハブ3の円筒部材3bに固定された2つの第2環状磁石体21が収容されている。
【0027】
図3は、図2に示される環状磁石体20,21の斜視図、図4は、図2のIV-IV線断面図である。第1環状磁石体20はその外周面においてプーリ2に固定されている。図3、図4に示すように、この第1環状磁石体20は4つの第1磁石17と4つの磁性材料(好ましくは軟磁性材料)からなる磁性体25で構成されている。第1磁石17と磁性体25は、共に、中心角(45度)の略扇形形状を有し、4つの第1磁石17と4つの磁性体25が周方向に交互に並べて配置されることで、第1環状磁石体20が構成されている。
【0028】
第2環状磁石体21は、その内周面においてハブ3に固定されている。また、この第2環状磁石体21も、第1環状磁石体20と同じように、4つの第2磁石18と4つの磁性材料(好ましくは軟磁性材料)からなる磁性体26で構成されている。第2磁石18と磁性体26は、共に、中心角(45度)の略扇形形状を有し、4つの第2磁石18と4つの磁性体26が周方向に交互に並べて配置されることで、第2環状磁石体21が構成されている。
【0029】
また、プーリ2に固定された1つの第1環状磁石体20とハブ3に固定された2つの第2環状磁石体21は、プーリ2の回転軸Cの方向に隙間を空けて交互に配置されている。言い換えれば、第1磁石17を含む第1環状磁石体20が、回転軸方向に関して、第2磁石18を含む第2環状磁石体21に挟まれている。
【0030】
尚、第1磁石17と第2磁石18は、それぞれ永久磁石で構成されている。永久磁石としては、ネオジム、サマリウムコバルト、フェライト、アルニコ、プラチナ、クロム、鉄、マンガン、アルミニウム、プラセオジムなどを成分とするものを使用できる。
【0031】
また、磁性体25と磁性体26を構成する磁性材料としては、軟鉄やフェライト(Ni−Zn系フェライト、Mn−Zn系フェライト)等が挙げられる。他に、パーマロイ、センダスト、パーメンジュール、ケイ素鋼等が使用できる。
【0032】
さらに、第1磁石17と第2磁石18は、それぞれ周方向に磁化されている。そして、図3に示すように、第1環状磁石体20においては、1つの磁性体25を周方向に挟む2つの第1磁石17の、磁性体25側の磁極が同極になっている。同じく、第2環状磁石体21においても、1つの磁性体26を周方向に挟む2つの第2磁石18の、磁性体26側の磁極が同極となっている。
【0033】
尚、本実施形態では、回転軸Cの方向に関して交互に配置された3つの環状磁石体20,21のうち、中央に位置する第1環状磁石体20はプーリ2の内周面に取り付けられているが、その取付方法としては、接着や、圧入、あるいは、ネジやボルト等による固定等の方法を採用できる。また、回転軸方向に関して外側に位置する2つの第2環状磁石体21は、ハブ3(円筒部材3b)の外周面に取り付けられているが、これら2つの第2環状磁石体21のハブ3への取付方法も、接着や、圧入、あるいは、ネジやボルト等による固定等の方法を採用できる。
【0034】
次に、本実施形態のプーリ構造体1の作用について説明する。図4に示すように、プーリ2とハブ3の間に回転速度差(位相差)がない状態では、プーリ2に固定された第1環状磁石体20の4つの第1磁石17と、ハブ3に固定された第2環状磁石体21の4つの第2磁石18とが、回転軸方向(図4の紙面垂直方向)に関して互いに対向している。
【0035】
図5は、プーリ2とハブ3の間に回転速度差がないときの、2つの第2環状磁石体20,21間での磁束の流れを模式的に示した図である。尚、図5では、各環状磁石体20,21の、周方向に交互に配置された磁石17(18)と磁性体25(26)を、環状磁石体の半径方向外方から見た図(展開図)で示している。
【0036】
プーリ2とハブ3との間に回転速度差(位相差)がなく、両者が一体回転している状態では、図4、図5に示すように、第1環状磁石体20の第1磁石17と第2環状磁石体21の第2磁石18の周方向位置が一致しており、両磁石17,18が回転軸方向に対向している。そして、第1磁石17と第2磁石18の磁化の方向は共に周方向であることから、各磁石17(18)のN極から周方向へ磁束Bが出る。
【0037】
第1磁石17のN極から周方向に出た磁束Bは、第1磁石17と周方向に隣接する磁性体25に流れる。さらに、この磁束Bは、2つの環状磁石体20,21の隙間を通って、対向する磁性体26に流れ、第2磁石18のS極に至る。第2磁石18のN極から第1磁石17のS極へ至る磁束Bの流れも上と同様である。このように、プーリ2とハブ3との間に回転速度差がない状態では、2つの環状磁石体20,21の隙間において、磁性体25と磁性体26の間で流れる磁束Bの向きは回転軸方向(図5の左右方向)と平行となる。従って、第1環状磁石体20が設けられているプーリ2と、第2環状磁石体21が設けられているハブ3との間で、トルクは発生していない。
【0038】
このように、プーリ2とハブ3が一体的に回転している状態から、エンジンで発生したトルク変動がベルト106を介して伝達されて、プーリ2に回転変動が生じると、プーリ2とハブ3の間には回転速度差(位相差)が生じる。
【0039】
図7は、プーリ2とハブ3との間に回転速度差が生じた状態での、2つの環状磁石体20,21間での磁束の流れを模式的に示した図である。この図7に示すように、第1磁石17と第2磁石18の周方向位置(位相)がずれることによって、第1環状磁石体20と第2環状磁石体21との間における磁束Bの向きが、回転軸方向(図7の左右方向)に対して傾き、第1磁石17と第2磁石18の間に周方向に引き合う磁力が作用する。即ち、第1環状磁石体20が固定されているプーリ2と、第2環状磁石体21が固定されているハブ3との間に、両者の間の回転速度差を解消するようにトルクが作用するため、回転変動が減衰される。
【0040】
ここで、プーリ2とハブ3に、両者の間の回転速度差が小さくなるように作用する、第1磁石17と第2磁石18の間の磁力は、従来の渦電流によって回転体に作用する抑制力に比べると、はるかに強力である。そのため、プーリ2に大きな回転変動が生じた場合でも、その回転変動を速やかに減衰させることが可能となる。また、回転変動を減衰するためにゴム弾性体を使用しないことから、ゴム弾性体の経年劣化や疲労破壊、あるいは、ゴム弾性体の弾性変形時の発音といった問題が生じない。
【0041】
さらに、環状磁石体20,21は、周方向に磁化された磁石17(18)と磁性体25(26)が周方向に交互に配置された構成となっており、1つの磁性体25(26)が、2つの磁石17(18)の同極の面で挟まれている。そのため、図7に示すように、プーリ2とハブ3との間に比較的小さな回転速度差(位相差)が生じたときに、第1磁石17から見ると、先ほど対向していた第2磁石18と周方向に隣接する磁性体26と一部対向することになる。
【0042】
このとき、前述したように、相対向する2つの環状磁石体20,21間で、一方の磁石17(18)のN極から出た磁束は、磁性体25,26を経由して他方の磁石18(17)のS極に至る。そのため、第1磁石17と第2磁石18に位相差が生じても、第1環状磁石体20(磁性体25)と第2環状磁石体21(磁性体26)の隙間において、磁性体25と磁性体26の間で流れる磁束の、回転軸方向に対する傾きは小さく抑えられる。これは、磁束が磁性体25の中央部から磁性体26の中央部に至るのではなく、磁気抵抗の小さなルートを通るためである。また、別の言い方をすれば、第1磁石17と第2磁石18の間に位相差が生じたときには磁気的ポテンシャルが高い状態になるものの、一方の磁石17(18)の、磁性体25(26)と接続していない面(回転軸C方向の端面)は、磁極でないことから、この面が他方の磁石18(17)と対向することによるポテンシャルの上昇は小さくなる。従って、プーリ2とハブ3の回転速度差が小さく、磁石17,18が磁性体26,25と一部対向する程度の小さな位相差である場合に、プーリ2とハブ3の回転速度差を解消するように作用するトルクが大きくなりすぎることがなく、プーリ2とハブ3の間で共振が発生するのを防止できる。
【0043】
また、本実施形態では、プーリ2に設けられた第1磁石17とハブ3に設けられた第2磁石18の両方が、それぞれ磁性体25,26と周方向に関して交互に配置されており、環状の磁石体20,21を構成している。この構成によれば、複数の第1磁石と複数の第2磁石が周方向に分散して配置されることから、プーリ2とハブ3との間で、周方向に関して均等にトルクを作用させることができる。
【0044】
また、本実施形態では、4つの第1磁石17と4つの第2磁石18は、それぞれ永久磁石で構成されている。そのため、プーリ2とハブ3とが、永久磁石から半永久的に発せられる磁束によって連結されることになり、長期間の使用によって経年劣化や疲労破壊等が生じるゴム弾性体と比べると、回転変動を減衰させる機能が低下したり、減衰不能に陥ったりという問題が生じにくい。
【0045】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0046】
1]第1磁石17、第2磁石18、及び、それらに設けられる磁性体のサイズ、形状、数、材質、配置等は、プーリやハブの形状や発生しうる回転変動の程度等に応じて、適宜変更可能である。
【0047】
例えば、プーリ2の回転軸方向に並ぶ環状磁石体20,21の数は、前記実施形態のような3つ(1つの第1環状磁石体20と2つの第2環状磁石体21)に限られるものではない。例えば、図8に示すプーリ構造体1Aのように、回転軸Cの方向に関して配置される第1環状磁石体20と第2環状磁石体21の数がそれぞれ1つであってもよい。あるいは、4以上の第1環状磁石体20,21が回転軸方向に交互に並ぶように設けられてもよい。
【0048】
また、1つの環状磁石体20,21を構成する磁石17,18の数も4つである必要はなく、適宜変更できる。別の言い方をすれば、略扇状に形成された1つの磁石17,18の中心角は、45度である必要はなく、別の角度に変更してもよい。
【0049】
さらに、磁石17,18の中心角と磁性体25,26の中心角を等しくする必要も特になく、両者の中心角を異ならせてもよい。特に、磁性体25,26の中心角が大きくなるほど、第1磁石17と第2磁石18の間に、磁性体25,26の中心角よりも小さな位相差が生じたときに、第1磁石17に挟まれた磁性体25と第2磁石18に挟まれた磁性体26の対向面積が広く保たれる。そのため、2つの環状磁石体20,21の間(磁性体25と磁性体26の間)を流れる磁束の、環状磁石体20,21が対向する方向(回転軸方向)に対する傾きがさらに小さくなり、回転軸方向とほとんど平行になるため、プーリ2とハブ3の間に作用するトルクが小さくなる。
【0050】
さらには、磁石17(18)と磁性体25(26)が周方向全周にわたって配置されて環状の磁石体を構成している必要はなく、周方向一部分にのみ磁石17(18)と磁性体25(26)が配置された構成であってもよい。
【0051】
また、第1磁石17と第2磁石18の両方に対して周方向に磁性体が配置されている必要は必ずしもなく、第1磁石17と第2磁石18の一方にのみ磁性体が設けられてもよい。例えば、図9に示すように、プーリ2に固定された第1環状磁石体20は、周方向に交互に配置された6つの第1磁石17と6つの磁性体25で構成される一方で、ハブ3に固定される第2環状磁石体121は、磁性体を挟むことなく周方向に配置された複数(例えば、6つ)の第2磁石18のみで構成されてもよい。尚、複数の第2磁石は、周方向に隣接する磁石間で、第1磁石との対向面(図9の左右両側面)における磁極が反対となるように配置される。そして、図10に示すように、第1磁石17のN極から出た磁束は、これと周方向に隣接する磁性体25を介して、第2磁石18のS極に至る。また、第2磁石18のN極から出た磁束は、磁性体25を介して第1磁石17のS極に至る。
【0052】
このように、第1磁石17と第2磁石18の一方の磁石は磁性体を挟むように周方向に配置される一方で、他方の磁石は磁性体を挟むことなく周方向に複数配置されると、プーリ2とハブ3の回転速度差が小さい場合には、この回転速度差を解消するように作用するトルクが過大になるのを防止しつつ、回転速度差が大きい場合には、プーリ2とハブ3の間に大きなトルクを作用させて、回転変動を迅速に減衰させることが可能となる。
【0053】
2]前記実施形態では、プーリ側の第1磁石17とハブ側の第2磁石18が回転軸方向に対向しているが、第1磁石17と第2磁石18がプーリの径方向に対向してもよい。例えば、図11に示すプーリ構造体1Bにおいては、プーリ2Bに、第1環状磁石体20Bが固定される一方で、ハブ3Bには、第2環状磁石体21Bが固定されている。また、プーリ2B側の第1環状磁石体20Bが、ハブ3B側の第2環状磁石体21Bの径よりも径が大きいものに形成された上で、第1環状磁石体20Bの内側に径方向に隙間を空けて第2環状磁石体21Bが配置されている。
【0054】
図12は図11の環状磁石体20B,21Bを回転軸方向から見た図である。図12に示すように、径方向外側に位置する第1環状磁石体20Bは、周方向に交互に配置された4つの第1磁石17Bと4つの磁性体25Bで構成されている。4つの第1磁石17Bはそれぞれ周方向に磁化されており、1つの磁性体25Bを周方向に挟む2つの第1磁石17Bは、それらの磁性体25B側の磁極が同極となっている。また、内側に位置する第2環状磁石体21Bは、周方向に交互に配置された4つの第2磁石18Bと4つの磁性体26Bで構成されている。4つの第2磁石18Bもそれぞれ周方向に磁化されており、磁性体26Bを周方向に挟む2つの第2磁石18Bは、それらの磁性体26B側の磁極が同極となっている。
【0055】
このプーリ構造体1Bの、プーリ2Bとハブ3Bとの間に回転速度差が生じたときの作用は、前記実施形態のプーリ構造体1と基本的には同じである。即ち、プーリ2Bとハブ3Bとの間に回転速度差が生じたときには、2種類の磁石17B,18B間に作用する引き合う方向の磁力により、プーリ2Bとハブ3Bの間には、回転速度差を解消する方向のトルクが発生する。また、プーリ2Bとハブ3Bの間に比較的小さな回転速度差が生じて、第1磁石17Bと第2磁石18Bの位相がずれたときに、第1環状磁石体20Bと第2環状磁石体21Bとの間で周方向に作用する磁力は比較的小さいものとなるため、回転速度差を解消する方向に過大なトルクが発生することがない。
【0056】
3]プーリ2に生じた回転変動が非常に大きいと、第1磁石17と第2磁石18との間の磁力だけでは回転変動をすぐに減衰させることができないこともあり得る。そこで、プーリ2とハブ3との位相差が一定の角度に達したときに、それ以上の位相差の増大を抑制するストッパー構造が設けられてもよい。例えば、プーリ2の内周面とハブ3の内周面にそれぞれ突出部が設けられ、プーリ2とハブ3の位相差が一定の角度となったときに両者の突出部が周方向に当接(係合)することによりプーリ2とハブ3とを一体回転させ、位相差が増大する方向への相対回転するのを防止するようにしてもよい。
【0057】
以上、本発明の実施形態として、エンジンの補機駆動システムのプーリ構造体に本発明を適用した一例について説明したが、本発明の適用対象はこれに限られるものではない。例えば、建築建材、家具、機械装置などの分野において、窓、ドア、蓋等の開閉部材の開閉角度に応じてトルクを変化させるために使用されるプーリ構造体など、様々な用途に使用されるプーリ構造体にも適用することが可能である。
【実施例】
【0058】
次に、本発明の具体的な実施例について比較例と共に説明する。
【0059】
(実施例1)
プーリ2に設けられる第1磁石17としては、外径58mm、内径26mm、厚み6mmで、中心角20度の扇形の形状を有する、ネオジム磁石(残留磁束密度1.15T)を使用した。また、この第1磁石17と組み合わされる磁性体25は、外径、内径、厚みは第1磁石17と同じで、中心角が25度の扇形に形成されたS25C材を使用した。そして、8つの第1磁石17と8つの磁性体25とが周方向に交互に配置された、第1環状磁石体20を1つ作製した。
【0060】
ハブ3に設けられる第2磁石18としては、外径56mm、内径24mm、厚み6mmで、中心角20度の扇形の形状を有する、ネオジム磁石(残留磁束密度1.15T)を使用した。また、この第2磁石18と組み合わされる磁性体26は、外径、内径、厚みは第2磁石18と同じで、中心角が25度の扇形に形成されたS25C材を使用した。そして、8つの第2磁石18と8つの磁性体26とが周方向に交互に配置された、第2環状磁石体21を2つ作製した。
【0061】
上述した1つの第1環状磁石体20を2つの第2環状磁石体21で挟んだ状態で、これら3つの環状磁石体21,20,21を、図1に示すプーリ2及びハブ3に取り付けて、プーリ構造体を作製した。尚、3つの環状磁石体21,20,21の配置間隔は0.5mmとした。
【0062】
(実施例2)
第1磁石17と第2磁石18の中心角を25度、磁性体25,26の中心角を20度とした以外は、実施例1と同じ仕様とした。
【0063】
(実施例3)
第1磁石17と第2磁石18の中心角を30度、磁性体25,26の中心角を15度とした以外は、実施例1と同じ仕様とした。
【0064】
(実施例4)
第1磁石17と第2磁石18の中心角を35度、磁性体25,26の中心角を10度とした以外は、実施例1と同じ仕様とした。
【0065】
(実施例5)
プーリ2に設けられる第1磁石17としては、外径58mm、内径26mm、厚み6mmで中心角50度の扇形の形状を有する、ネオジム磁石(残留磁束密度1.15T)を使用した。また、この第1磁石17と組み合わされる磁性体25は、外径、内径、厚みは第1磁石17と同じで、中心角が10度の扇形に形成されたS25C材を使用した。そして、6つの第1磁石17と6つの磁性体25とが周方向に交互に配置された、第1環状磁石体20を1つ作成した。
また、前掲した図9のように、ハブ3に固定される2つの環状磁石体121を、磁性体を挟むことなく周方向に配置された複数(6つ)の第2磁石18のみで構成した。各々の第2磁石18は、外径56mm、内径24mm、厚み6mmで、中心角60度の扇形形状を有する。また、第2磁石18は、回転軸Cの方向に磁化されており、隣接する磁石間で、第1環状磁石体20との対向面(図9の左右側面)の磁極が反対となるように配置されている。さらに、第2磁石18で構成された第2環状磁石体121の、第1環状磁石体20と対向していない面(図9の左右外側面)には、バックヨークとして外径56mm、内径24mm、厚み5mmのS25C材を取り付けた。
【0066】
(比較例1)
図13に示すように、3つの環状磁石体121,120,121の各々を、回転軸Cの方向に磁化された8個の磁石17(18)で構成した。周方向に並ぶ8個の磁石17(18)は、隣接する磁石間で、別の環状磁石体との対向面(図13の左右側面)の磁極が反対となるように配置されている。また、各磁石17(18)の中心角は45度である。それ以外は実施例1と同じ仕様とした。尚、左右2つの環状磁石体121の、環状磁石体120と対向していない面に、バックヨークとして外径56mm、内径24mm、厚み5mmのS25C材を取り付けた。
【0067】
(比較例2)
3つの環状磁石体121,120,121の各々を中心角60度の扇形形状の磁石6つを用いて構成した以外は、比較例1と同じである。
【0068】
上述した実施例1〜5及び比較例1,2のプーリ構造体のそれぞれについて、プーリとハブの位相差とトルクとの関係を求めた。具体的には、ハブに装着された回転軸をトルクメータ(石戸電気製作所製:トルク測定機)の回転軸に挿入して、ハブをトルクメータと一体に回転可能とする一方で、プーリの表面を回転不能に機械的に固定した。この状態で、トルクメータを1.5rpmで反時計回り(正転)に回転させたときの、回転角とトルクの関係を求めた。その結果を図14に示す。
【0069】
図14に示すように、周方向に磁化された磁石と磁性体とを組み合わせた実施例1〜5では、回転軸方向に磁化された磁石のみで構成された比較例1,2と比べて、回転角の小さい初期のトルク変化率(傾き)が小さくなっている。つまり、プーリ2とハブ3の回転速度差が小さいときのトルクが小さく抑えられており、共振が起こりにくい。
【0070】
また、磁石の中心角よりも磁性体の中心角が大きく、実施例1〜4の中では磁性体の中心角の最も大きい、実施例1が、回転角の小さい初期のトルク変化率(傾き)が最も小さくなっている。また、磁性体の中心角を小さくするほど、初期のトルク変化率は大きくなっていることがわかる(実施例1:約0.1Nm/degree、実施例2:約0.2Nm/degree、実施例3:約0.35Nm/degree、実施例4:約0.8Nm/degree)。このことから、位相差が小さい範囲内でのトルクの変化率を、磁性体の中心角を変更することにより調整することが可能となる。
【0071】
また、実施例1〜4と比較例1を比較した場合と比べて、実施例5と比較例2とを比較した場合、実施例5は、回転角の小さい初期のトルク変化率は小さく、回転角が大きくなったときは、比較例2と比べて大きなトルクが得られる(比較例1の最大トルク約14Nmに対して実施例1〜4の最大トルクは8Nm程度、比較例2の最大トルク約11.5Nmに対して実施例5の最大トルク約12Nm)。このように、実施例5では、プーリとハブの回転角度差が小さいときには、その回転速度差を解消するように作用するトルクが過大になるのを防止しつつ、回転速度差が大きい場合には大きなトルクを作用させて、回転変動を迅速に減衰させることができることがわかる
【符号の説明】
【0072】
1,1A,1B プーリ構造体
2,2A,2B プーリ
3,3A,3B ハブ
17,17B 第1磁石
18,18B 第2磁石
25,25B 磁性体
26,26B 磁性体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転体と、
前記第1回転体に対して相対回転可能な第2回転体と、
前記第1回転体に設けられた第1磁石と、
前記第2回転体に前記第1磁石と対向可能に設けられた第2磁石と、
を有し、
前記第1磁石と前記第2磁石のうちの少なくとも一方が、磁性体を挟んで周方向に複数配置され、
前記磁性体を周方向に挟む2つの磁石の、前記磁性体側の磁極が同極であることを特徴とするプーリ構造体。
【請求項2】
前記第1回転体に複数の前記第1磁石が設けられ、前記複数の第1磁石と前記磁性体とが周方向に関して交互に配置されるとともに、
前記第2回転体にも複数の前記第2磁石が設けられ、前記複数の第2磁石と前記磁性体とが周方向に介して交互に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のプーリ構造体。
【請求項3】
前記第1磁石と前記第2磁石の他方は、前記磁性体を挟むことなく周方向に複数配置され、
複数の前記他方の磁石は、前記周方向に隣接する磁石間で、前記一方の磁石との対向面における磁極が反対となるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載のプーリ構造体。
【請求項4】
前記一方の磁石と前記磁性体が周方向に交互に配置されて、環状の磁石体を構成していることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のプーリ構造体。
【請求項1】
第1回転体と、
前記第1回転体に対して相対回転可能な第2回転体と、
前記第1回転体に設けられた第1磁石と、
前記第2回転体に前記第1磁石と対向可能に設けられた第2磁石と、
を有し、
前記第1磁石と前記第2磁石のうちの少なくとも一方が、磁性体を挟んで周方向に複数配置され、
前記磁性体を周方向に挟む2つの磁石の、前記磁性体側の磁極が同極であることを特徴とするプーリ構造体。
【請求項2】
前記第1回転体に複数の前記第1磁石が設けられ、前記複数の第1磁石と前記磁性体とが周方向に関して交互に配置されるとともに、
前記第2回転体にも複数の前記第2磁石が設けられ、前記複数の第2磁石と前記磁性体とが周方向に介して交互に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のプーリ構造体。
【請求項3】
前記第1磁石と前記第2磁石の他方は、前記磁性体を挟むことなく周方向に複数配置され、
複数の前記他方の磁石は、前記周方向に隣接する磁石間で、前記一方の磁石との対向面における磁極が反対となるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載のプーリ構造体。
【請求項4】
前記一方の磁石と前記磁性体が周方向に交互に配置されて、環状の磁石体を構成していることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のプーリ構造体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−196740(P2010−196740A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40340(P2009−40340)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】
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