説明

ヘアライン外観を有する高耐食性Zn系合金めっき鋼材

【課題】
ステンレス鋼材の用途と同じ用途に適用できるヘアライン外観を有する高耐食性亜鉛系合金めっき鋼材を提供すること。
【解決手段】
めっき付着量が10〜600g/mで、Al:1〜60質量%、Mg:0.1〜10質量%含有し、残部がZn及び不可避不純物からなるめっき層の表層に形成されたヘアラインを有し、該ヘアラインは、ヘアラインと直角方向の表面粗さRaが0.2〜2.5μm、ピーク数PPIが50〜400で、ヘアライン方向の表面粗さRaが0.1〜1.2μm、ピーク数PPIが1〜100で、かつ、ヘアラインと直角方向の表面粗さRaはヘアライン方向の表面粗さRaの1.2倍以上、ヘアラインと直角方向のPPIはヘアライン方向のPPIの2.0倍以上であることを特徴とするヘアライン外観を有する高耐食性Zn系合金めっき鋼材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物や車両等の内装材や外装材、電気機器の表層材等に使用されるヘアライン外観を有する高耐食性Zn系合金めっき鋼材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のヘアライン外観を有する鋼材としては、ステンレス鋼材が良く知られている。即ち、ステンレス鋼材の表面仕上げの一つとしてヘアライン仕上げ(HL仕上げ)がJIS G 4305および4307に規定されていて、ヘアライン仕上げは、「適当な粒度の研摩材で連続した磨き目がつくように研磨して仕上げたもの」と定義されている様に、研磨表面が髪の毛の様に長く連続した表面仕上げを意味する。
【0003】
図1は、ヘアライン仕上げの概要を示す図である。
【0004】
通常のヘアライン仕上げ方法は、図1に示すように、コンタクトホイール1とアイドルロール2に掛け渡したエンドレスペーパー研磨ベルト3を、コンタクトホイールを回転させることで高速回転させアンコイラー4からコイラー5に移動するステンレス鋼材6表面を研磨ベルトで研磨する加工方法であることは良く知られている(例えば、特許文献1、2参照)。ヘアライン仕上げされたステンレス鋼材は耐食性があるとともに、独特の表面模様があるので意匠性が重視される建材の内装材や外装材、電気機器の表層材等に広く使用されている。
【0005】
しかしながら、ステンレス鋼材は高価であるので、ステンレス鋼材に変わる新たな安価な材料でステンレス鋼材と同様な高耐食性を備えていて、建材や電気機器等に使用するに適したヘアライン外観を有する鋼材が望まれる。
【0006】
そこで、本発明者は、ステンレス鋼材と同様に耐食性に優れかつ安価な亜鉛めっき鋼材に着目し、これにヘアライン仕上げを施すことについて研究した。
【0007】
めっき層にヘアライン仕上げを施す従来の技術としては、薄肉軽量なマグネシウム系部材の表面にめっき被覆層を形成し、ヘアライン仕上げによりめっき被覆層表面にヘアライン模様を形成しようとすると、めっき被覆層の下地が出てきて耐食性が悪くなり、安定して良質の部材を得られないという問題を解決した技術が提案されている。
【0008】
すなわち、Mg系部品表面に、乾式めっき法により形成した、Cu、Cu合金、Au、Au合金、Al、Al合金から選ばれるめっき被覆層(1)と、該めっき被覆層(1)の上に、さらに湿式めっき法により形成したCu、Ni、Au、Cr、Zn、Pa、Pt、Rh、Fe、Co、Sn、Cd、Ru、及びそれらの合金から選ばれるめっき被覆層(2)を有するMg系部品表面にヘアライン仕上げを施す技術である(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、この技術は厚肉のめっき被覆層を2重に設けなければならず、また、乾式めっき法と湿式めっき法を組み合わせる必要があることから、この技術をそのまま亜鉛めっき鋼材に適応させることは困難である。
【0009】
また、高耐食性Zn系合金めっき鋼板については種々の発明がなされていて、例えば、Zn−Al−Mg系合金めっき鋼板には、質量%で、Al:3〜17%、Mg:1〜5%、残部Znからなるめっき浴を用いためっき鋼板や、これにTi、Bを添加しためっき浴を用いためっき鋼板(例えば、特許文献4参照)、或は、Zn−Al−Mg−Si系合金めっき鋼板には、質量%で、Al:5〜8%、Mg:1〜10%、Si:0.01〜2%、必要に応じてFe:1%以下、或はさらに、Sn:0.1〜2%を含有させためっき層を有するめっき鋼板が知られている(例えば、特許文献5参照)。
【0010】
【特許文献1】特開平1-306162号公報
【特許文献2】特公平7-96183号公報
【特許文献3】特開2000-219977号公報
【特許文献4】特開平10-306357号公報
【特許文献5】特開2001-355053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ヘアライン外観を有するステンレス鋼材の用途と同じ用途に、同様に適用することができるヘアライン外観を有する高耐食性亜鉛系合金めっき鋼材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、ヘアライン外観を有するステンレス鋼材に代わる材料として、ステンレス鋼材よりも安価で同様の耐食性を有する材料である亜鉛めっき鋼材にヘアライン仕上げをすることについて鋭意研究した。その結果、純亜鉛めっき鋼材にヘアライン仕上げを施すと、亜鉛は軟質であるため、形成したヘアラインが潰れ易く、また、ヘアライン仕上げ用研磨ベルトが加工時に目詰まりし易く、このため、良好なヘアラインが得られず、かつヘアライン仕上げが困難であった。さらに、ヘアライン仕上げした亜鉛めっき鋼材は、大気中で亜鉛表面に白サビが生じ、白サビが生じるとヘアライン外観が消失してしまってヘアラインを形成したことの効果がなくなってしまった。
【0013】
そこで、本発明ではめっき層中に硬質の相を含む高耐食性Zn系合金めっきに着目し、これにヘアライン仕上げを施すと、良好なヘアライン外観を有する高耐食性亜鉛めっき鋼材が得られることを知見して本発明を完成した。
【0014】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0015】
(1) めっき付着量が10〜600g/m2で、Alを1〜60質量%、Mgを0.1〜10質量%含有し、残部がZn及び不可避不純物からなるめっき層の表層に形成されたヘアラインを有し、該ヘアラインは、ヘアラインと直角方向の表面粗さRaが0.2〜2.5μm、ピーク数PPIが50〜400で、ヘアライン方向の表面粗さRaが0.1〜1.2μm、ピーク数PPIが1〜100で、ヘアラインと直角方向の表面粗さRaはヘアライン方向の表面粗さRaの1.2倍以上、ヘアラインと直角方向のPPIはヘアライン方向のPPIの2.0倍以上であることを特徴とするヘアライン外観を有する高耐食性Zn系合金めっき鋼材。
【0016】
(2) めっき層は、さらに、Siを0.001〜3質量%含有することを特徴とする上記(1)記載のヘアライン外観を有する高耐食性Zn系合金めっき鋼材。
【0017】
(3) めっき層は、さらに、Tiを0.0001〜0.1質量%、Bを0.0001〜0.1質量%の1種または2種を含有することを特徴とする上記(1)または(2)に記載のヘアライン外観を有する高耐食性Zn系合金めっき鋼材。
【0018】
(4) めっき層は、ZnとAlの二元共晶が体積占有率で1〜80vol%、ZnとAlとZnMg合金の三元共晶が体積占有率で10〜90vol%で、両者の合計が50%以上であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のヘアライン外観を有する高耐食性Zn系合金めっき鋼材。
【0019】
(5) めっき層表面に、クロメート処理層を1〜200mg/m2有することを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載のヘアライン外観を有する高耐食性Zn系合金めっき鋼材。
【0020】
(6) めっき層表面に、Crを含有しないクロメートフリー処理層を1〜1000mg/m2有することを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載のヘアライン外観を有する高耐食性Zn系合金めっき鋼材。
表面に厚さ0.5〜100μmの透明樹脂皮膜層を有することを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載のヘアライン外観を有する高耐食性Zn系合金めっき鋼材。
めっき層表面とクロムを含有しないクロメートフリー処理層との界面近傍に、Co、Fe、Ni、Pt、Mnの一種または二種以上の金属状態もしくは水酸化物状態の付着物層が0.1〜10mg/m2有し、湿潤環境下での耐黒変性に優れることを特徴とする上記1〜7のいずれかに記載のヘアライン外観を有する高耐食性Zn系合金めっき鋼材。
【発明の効果】
【0021】
本発明のヘアライン外観を有する高耐食性亜鉛めっき鋼材は、良好なヘアライン外観を備えていて、耐食性にも優れているから、従来のヘアライン外観を有するステンレス鋼材の用途と同様な用途に適用することが可能である。しかも、高価なステンレス鋼材よりも安価な値段で供給することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下本発明を詳細に説明する。
【0023】
ヘアライン外観を有する鋼材としては、ヘアライン仕上げを施したステンレス鋼材があるが、ステンレス鋼材は高価である。そこで、本発明者らは、ステンレス鋼材と同様に高耐食性を備えている亜鉛系めっき鋼材に着目し、亜鉛系めっき鋼材にヘアライン仕上げをすることについて研究した。
【0024】
純亜鉛めっき鋼材にヘアライン仕上げを施すと、ヘアラインの山部がダレたりヘアラインが潰れたりして良好な外観を有するヘアラインが得られず、地金が露出した部分もあった。また、ヘアライン仕上げ用研磨ベルトが目詰まりするという問題も発生し、更に、ヘアライン仕上げ後に大気中に放置すると白サビが発生し、ヘアライン外観が消失してしまうという問題もあった。
【0025】
このように良好なヘアラインが得られないのは、亜鉛めっき層が硬度約50Hv程度で軟質であることに起因しているものと考えられる。そこで、硬質相を含有している亜鉛合金系めっき層に着目し、これにヘアライン仕上げを実施したところ、外観に優れた良好なヘアラインを得ることができた。そして、硬質層を含有している亜鉛合金系めっき層としては、Al、Mgを含有する亜鉛合金系めっき層であって、ZnとAlの二元共晶およびZnとAlとZnMg合金との三元共晶の硬質層とを含有するめっき層が適していることが分かった。めっき層の成分は、質量%で、Al:1.0〜60%、Mg:0.1〜10%、残部Zn及び不可避的不純物からなるめっき層であって、耐食性向上の目的でSi:0.001〜3.0%、外観性向上の目的でTi:0.0001〜0.1%、B:0.0001〜0.1%の1種または2種を必要に応じて選択し含有させても良い。
【0026】
亜鉛合金系めっき層の成分を限定した理由について説明する。
【0027】
Alは、めっき層中で硬質相のZn/Alの二元共晶及びZn/Al/Zn2Mgの三元共晶を形成すると共に、めっき層の耐食性を改善し、かつ、めっき浴中のドロス発生を抑制する作用がある。Alが1.0%未満であると硬質相となる二元共晶及び三元共晶の体積占有率が不足し、ヘアライン仕上げで外観の優れた良好なヘアラインが得られず、また、めっき鋼材の耐食性が劣ることとなる。一方、Alが60%を超えるとめっき表面にひけ状の凹凸が発生し、外観が均一なめっき層とすることができないと共に、耐食性改善効果が飽和すると同時に素地鉄に対する犠牲防食作用が消失し、疵部の耐食性が悪化する。したがって、Al含有量を1.0〜60%とした。
【0028】
Mgは、三元共晶を形成させるに必要な成分であると共に、めっき表面に腐食生成物を形成してめっき鋼材の耐食性を向上させる効果がある。Mgが、0.1%未満では三元共晶の体積占有率が不足し、ヘアライン仕上げで外観に優れた良好なヘアラインが得られず、かつ、耐食性を向上させるに必要な腐食生成物を形成させることができない。一方、Mgが10%を超えると、めっき浴が大気接触により酸化が進行して黒色酸化物(ドロス)を生じめっき処理が困難になると共に、耐食性改善効果が飽和する。したがって、Mg含有量を0.1〜10%とした。
【0029】
Siは、耐食性向上、めっき密着性向上のために必要に応じて添加する。添加量が0.001%未満ではこれらの効果が得られず、3.0%超ではこれらの効果が飽和し、かえってドロス生成が増加することとなるので、Si添加量は0.001〜3.0%とした。
【0030】
Tiは、初晶Al相の析出核を生成し、組織を微細化し、外観を向上させるために必要に応じて添加する成分であり、0.0001%以上の添加が必要である。しかし、0.1%を超えて添加するとめっき浴中での溶解度以上となり、Ti−Al系析出物が成長し、めっき層の表面に凹凸が生じ、外観品位が悪化するので、Tiは0.0001〜0.1%とした。
【0031】
Bは、Tiと同様にめっき外観を改善する効果があるが、0.0001%未満ではその効果が得られず、0.1%を超えるとその効果が飽和するので、Bは0.0001〜0.1%とした。
【0032】
めっき付着量は、10g/m2以下では耐食性に劣る事から下限とし、600g/m2以上では、めっき層の均一付着性が悪化してタレ外観となり好ましくない、また、折り曲げ加工等によるめっき層の割れが生じやすくなる。従って、600g/m2を上限とした。
【0033】
図2(a)は本発明のZn系合金めっき層の組織の顕微鏡写真、(b)はその組織の模式図である。
【0034】
図2に示すように、例えばZn−11%Al−3%Mg−0.2%Siからなる高耐食性Zn系合金めっき層の断面組織は、[Zn/Al/Zn2Mg]の三元共晶相7の組織中に[Zn/Al]の二元共晶相8が混在していて、さらに[Zn2Mg単相]9が島状に存在している組織となっている。
【0035】
この三元共晶の相は、軟質なZnおよびAlの相と硬質なZn2Mgが複合・分散された構造からなり、組織全体としては、粘りと硬さを兼ね備えた特性を示す。このような相が表面にも存在しているめっき鋼材にヘアライン仕上げを施すと、めっき表面は、研磨ベルトによってめっき表面から容易に剥離され、ヘアラインの山にダレを生じることなく美麗なヘアラインとなり、また、研磨ベルトに目詰まりを生じさせることなく、外観に優れた良好なヘアラインが得られる。
【0036】
図3は、ヘアライン仕上げを行った高耐食性Zn系合金めっき鋼材(Zn−11%Al−3Mg−0.2Siめっき、めっき目付け量:90g/m2)を#80エメリー研磨した後の表面の断面顕微鏡写真(倍率:1000倍)である。図3に示されるようにヘアラインの溝にダレを生じることなく良好な外観を有している。
【0037】
高耐食性Zn系合金めっき鋼材にヘアライン仕上げを施して外観に優れたヘアラインを得るためには、めっき層の組織として、[Zn/Al]二元共晶相が体積占有率で1〜80vol%、[Zn/Al/Zn2Mg]三元共晶相が体積占有率で10〜90vol%存在し、残部Zn、Zn2Mg合金、Mg2Si、TiAl3等からなる組織であることが好ましい。[Zn/Al]二元共晶相は、三元共晶相と比較すると軟質であるが、Zn及びAl単相相と比較すれば硬質である。従って、体積占有率は小さいほどヘアライン処理性は向上する。90vol%以上では、めっき層全体が軟質化し、ヘアライン性が劣り、1vol%以下にすることは工学的に困難である。三元共晶の体積比率が小さくなると、めっき層の硬度と粘りの特性が減少し、ヘアライン処理時の外観が悪化し、かすによる研磨材の目詰まりが生じやすくなる。従って、三元共晶の体積占有率の下限は10vol%とした。一方、上限は、めっき層の凝固の過程でAl相やZn2Mg相が生じやすく、90vol%が工学的な製造においての上限であった。又、両者をあわせた共晶相の体積占有率が低下すると、めっき層全体の硬度、粘りが低下し、ヘアライン外観が不良となるため、50%以上とした。
【0038】
ヘアライン仕上げを行うに適しためっき層の厚さは、めっき付着量が10〜600g/m2、好ましくは100〜500g/m2の範囲内である。めっき付着量が10g/m2未満であるとめっき層が薄いため、耐食性が不足すると共に、ヘアライン仕上げで鋼材素地が露出してしまうことになる。めっき付着量が600g/m2を超えるとめっき層が厚くなり過ぎて外観の均一なめっき層とすることができないばかりでなく、めっき層が剥離し易くなりコストの面からも好ましくない。したがって、めっき付着量を10〜600g/m2とした。
【0039】
めっき鋼材に形成した外観に優れたヘアライン形状としては、ヘアラインと直角方向の(C方向)の表面粗さが、表面粗さRa:0.2〜2.5μm、好ましくは1.2〜1.8μmでピーク数PPI:50〜400であってヘアライン方向(L方向)の表面粗さがRa:0.1〜1.2μm、好ましくは0.5〜1.0μmでピーク数PPIが1〜100、かつヘアライン直角方向(C方向)のRaは、ヘアライン方向の(L方向)のRaの1.2倍以上(C方向Ra/L方向Ra≧1.2)で、そしてヘアライン直角方向(C方向)のPPIは、ヘアライン方向(L方向)のPPIの2倍以上(C方向PPI/L方向PPI≧2)とすることが好ましい。
【0040】
これらで規定するC方向及びL方向の表面粗度Ra、ピーク数PPIおよびそれらの比の数値の下限未満であると、ヘアラインが目立たなくなり、ヘアライン仕上げをしたことが無駄になる。また、逆に、C方向及びL方向の表面粗度Ra、ピーク数PPIの数値の上限をこえると、ヘアラインが粗くなり過ぎて、美麗なヘアラインとならずヘアラインとしての意匠性が損なわれて商品価値が無くなる。
【0041】
従って、本発明ではヘアラインの形状を上記の通り表面粗度、ピーク数、及びそれらの比によって規定した。なお、表面粗度Raは、JIS B060(1997)に規定されている測定法に従って、基準長さ0.8mmを採用して測定した。また、ピーク数PPI(Peaks Per Inch)はSAEJ911−1986の規定に従い測定長さは1inch、正負の基準レベル間の幅2Hを50μinchとして測定した。
【0042】
本発明で規定する表面粗度、ピーク数、及びそれらの比の要件を満たすヘアラインを形成するためには、#60〜#320程度のベルトサンダー(研磨ベルト)を用いてヘアライン仕上げを行うことが好ましい。
【0043】
ヘアライン仕上げを行った後に、めっき層にクロメート処理、或いはクロメートフリー処理を施して一次防錆処理を行うことが好ましい。
【0044】
亜鉛めっき鋼材は白錆が発生し易いので、これを防止する目的で、めっき層にヘアライン仕上げを行った後に、クロメート処理、或いはクロメートフリー処理により防錆被膜層を形成する一次防錆処理を行う。
クロメート処理の場合には公知のクロメート処理、例えばクロム酸と反応促進剤とを主成分として含有するクロメート処理液によるクロメート処理を適用することができ、クロメート付着量を1〜200mg/m2とする。
【0045】
クロメート付着量が1mg/m2未満であると充分な防錆効果が得られず、また200mg/m2を超えるとヘアライン仕上げが目立たなくなるばかりでなく、防錆効果が飽和してしまい経済的にコスト高となる。
【0046】
また、クロメート処理と同様に公知のクロメートフリー処理(ノンクロメート処理)でも一次防錆処理を行うことができる。
【0047】
クロメートフリー処理(ノンクロメート処理)は、環境上有害な六価クロムを処理液中に含有していなく、例えばZr、Tiの塩などを含む処理液、シランカップリング剤を含む処理液などがあり、公知のクロメートフリー処理液を用いるクロメートフリー処理が適用できる。これらのクロメートフリー処理では、Ti,Zr,P,Ce,Si,Al,Li等を主成分とするクロムを含有しないクロメートフリー処理層が形成され、付着量を1〜1000mg/m2とすることが好ましい。
【0048】
クロメートフリー処理の付着量が1mg/m2未満であると充分な防錆効果が得られず、また1000mg/m2を超えるとヘアライン仕上げが目立たなくなるばかりでなく防錆効果が飽和してしまい経済的にコスト高となる。
【0049】
また、亜鉛めっき鋼材にヘアライン仕上げを施して、大気中に放置すると、めっき表面が酸化して黒く変色する。黒く変色(黒変)すると、ヘアライン仕上げが目立たなくなってヘアラインの外観を損ねる。また、亜鉛めっき層は、硬質の物と衝突したりすると疵がつき易い。このため、ヘアライン仕上げを施しためっき表面に、透明樹脂被膜層を0.5〜100μmの厚さで形成させれば、耐黒変性や耐疵付性を改善することができる。透明樹脂被膜層は従来公知の有機クリアー塗料を用い、従来公知の塗装方法で形成することができる。このような有機クリアー塗料としては、具体的には、アクリル系焼付けクリアー塗料、ウレタン系クリアー塗料、エポキシ系クリアー塗料、ポリエステル系クリアー塗料、メラミンアルキッド系クリアー塗料などが挙げられる。中でも、ポリエステル系及びアクリル系焼付けクリアー塗料が好ましく用いられる。
【0050】
有機クリアー塗料の塗装方法としては、具体的には、ロールコーター法、カーテンコーター法、スプレーガン法、静電法などの方法が挙げられる。これらの中では、ロールコーター法、カーテンコーター法が好ましい。
【0051】
耐黒変性の向上には、クロメートもしくはクロメートフリー処理層との界面近傍にCo、Fe、Ni、Pt、Mnの一種または二種以上の金属状態もしくは水酸化物状態の付着物層を付与させると良い。この付着物層は、付着量が0.1〜10mg/m2が良、望ましくは、0.5〜3.0mg/m2が良い。この処理により、湿潤環境下での耐黒変性が大幅に向上する。付着量が0.1mg/m2以下では耐黒変性の効果が十分ではなく、10mg/m2以上では、耐食性の悪化が生じ望ましくない。この処理層の付与方法は、特に限定されるものではないが、一例として当該塩水溶液の浸漬法やスプレー法、真空蒸着法、等がある。浸漬法は、ヘアライン処理しためっき鋼板を、0.1〜10g/Lの当該金属塩水溶液に0.5〜10秒浸漬後水洗がある。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0053】
板厚が0.8mm及び1.6mmである2種類の板厚の低炭素鋼板をめっき原板として用いた。
【0054】
めっきは無酸化炉タイプの連続熔融亜鉛めっきラインにて加熱、焼鈍、めっきを行った。焼鈍雰囲気は、10%水素、残90%窒素ガス雰囲気を囲い、露点を−30℃とした。焼鈍温度は730℃、焼鈍時間は3分である。めっき浴組成は、質量%で、Al:11.0%,Mg:3.0%,Si:0.2%,残部Zn及び不可避的不純物からなり、めっき浴温は450℃であった。めっき付着量は通常の窒素ガスワイピング法により付着量を調整した。
【0055】
めっき後、番手の異なるベルトサンダー(サイズ100mm×915mm)を用いて、ベルト速度約3.5/秒、研磨時間3〜4秒の条件でヘアライン仕上げを行った。その後表面粗度(Ra)及びピーク数(PPI)を調べた。
【0056】
その結果を表1に示す。
【0057】
表1に示すように、No.1,2及び5は、本発明で規定する表面粗度(Ra)、ピーク数(PPI)及びそれらの比の条件を満たしていて、奇麗なヘアライン外観を有する高耐食性めっき鋼材となっていた。
【0058】
これに対して、#80番のビーズブラスト処理を行ったNo.3は、表面に均一の微細凹凸が形成されていたが、L方向の表面粗度及びピーク数が小さく、かつ、表面粗度、ピーク数の比も小さくて本発明で規定する要件を満たしていなく、ビーズブラスト処理とヘアライン仕上げとは明確に異なっていた。
【0059】
No.4は、ヘアライン仕上げを行ったが、ベルトサンダーが#600番と粗さが細かすぎて、本発明で規定するヘアラインの要件を満たしておらず、外観でヘアラインを明確に観察できなかった。
【0060】
また、No.6及びNo.7は、ヘアライン仕上げを行わなかった場合であるが、この場合はC方向の表面粗度及びピーク数が小さく、かつそれらの比も小さかった。この場合も当然ヘアラインは観察されなかった。
【0061】
以上の試験結果から、本発明で規定する要件を満たすヘアライン仕上げをめっき鋼板のみが、奇麗なヘアライン外観を有するめっき鋼板となっていた。
【0062】
次に、めっき層の組成を種々変化させためっき鋼板を作成し、めっき後、番手#80のベルトサンダー(サイズ100mm×915mm)を用いて、ベルト速度約3.5/秒、研磨時間3〜4秒の条件でヘアライン仕上げを行った。その際の、ヘアライン外観、かすの付着状況を調査した。
【0063】
その結果を表2に示す。No.1〜17は、本発明で規定するめっき組成を有し、ヘアライン外観、サンダーのかすつまり、耐食性のいずれにおいても良好な結果であった。一方、No.18〜20は本発明の規定する組成以外のめっきであり、表面粗さの値は本発明の規定する値を満足するものの、ヘアラインの外観が明確に観察できず、かすの発生や耐食性が不良であった。ヘアラインの外観が明確に観察できなかった理由は、かすの発生や研磨疵のだれ等があるためと考えられる。
【0064】
さらに、めっき層中の共晶相の体積占有率を変化させためっきを作成し、その性能を調査した。結果を表3に示す。No.1〜5は、本発明で規定する相構造を有し、ヘアライン外観、サンダーのかすつまり、耐食性のいずれにおいても良好な結果であった。一方、No.6,7は、本発明の規定する相構造以外のめっきであり、ヘアラインの外観が劣り、かすの発生が不良であった。
【0065】
さらに、Zn−11Al−3Mg−0.2Siの組成を有するめっき鋼板を用いて、クロメート処理、クロメートフリー処理、クリア塗装処理、耐黒変処理を行った。クロメート処理は、クロム酸100g/l溶液を塗布した後60℃の熱風炉で30秒間乾燥させた。クロメートフリー処理は、炭酸ジルコニウムアンモニウム、硝酸コバルト、シリカ、リン酸アンモニウムからなる薬剤を塗布した後60℃の熱風炉で30秒間乾燥させた。さらに、メラミンアルキッド系クリア塗料(溶剤系)、アクリル系クリア塗料(水分散系)を塗布し220℃(メラミンアルキッド系)および150℃(アクリル系)の板温まで加熱した。耐黒変処理は、1g/Lの硫酸Ni水溶液に3秒間浸漬し、その後水洗乾燥後、上記クロメートフリー処理とメラミンアルキッド系クリア塗装を施した。平面部耐食性の評価は、JIS Z2331の塩水噴霧試験240時間後の白錆発生量で、○:白錆発生1%以下、×:10%以上で判断した。クロスカット部は、塩水噴霧試験1000時間後のブリスター巾で評価し、○:2mm未満、×:2mm以上で判断した。耐黒変性の評価は、処理鋼材を60℃、相対湿度85%の高温高湿槽に7日間静置し、静置前後の色差δE値で評価した。色差δEの測定はJIS Z8722に従った。δEが1以下は、黒変が無く良好(○)、1から2は僅かに認められやや良好(△)、2より大きい場合は黒変が認められて不良(×)とした。
【0066】
No.1〜46は本発明で規定する耐黒変処理、前処理、塗装要件を満足しており、平面部、クロスカット部共に耐食性が良好であった。さらに、耐黒変処理を施したNo.23、46は耐黒変性も優れていた。一方、No.47〜49は、本発明の要件から外れており、耐食性が不良であった。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】ヘアライン仕上げの概要を示す図である。
【図2】本発明のZn系合金めっき層の組織を模式的に示す断面図である。
【図3】ヘアライン仕上げを行った高耐食性Zn系合金めっき鋼材(Zn−11%Al−3Mg−0.2Siめっき、めっき目付け量:90g/m2)を#80エメリー研磨した後の表面の断面顕微鏡写真(倍率:1000倍)である。
【符号の説明】
【0072】
1 コンタクトホイール
2 アイドルロール
3 研磨ベルト
4 アンコイラー
5 コイラー
6 ステンレス鋼板
7 [Zn/Al/Zn2Mg]三元共晶相
8 [Zn/Al]二元共晶相
9 [Zn2Mg単相]

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき付着量が10〜600g/m2で、Alを1〜60質量%、Mgを0.1〜10質量%含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなるめっき層の表層に形成されたヘアラインを有し、該ヘアラインは、ヘアラインと直角方向の表面粗さRaが0.2〜2.5μm、ヘアライン方向の表面粗さRaが0.1〜1.2μm、かつ、ヘアラインと直角方向の表面粗さRaはヘアライン方向の表面粗さRaの1.2倍以上であることを特徴とするヘアライン外観を有する高耐食性Zn系合金めっき鋼材。
【請求項2】
めっき付着量が10〜600g/m2で、Alを1〜60質量%、Mgを0.1〜10質量%含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなるめっき層の表層に形成されたヘアラインを有し、該ヘアラインは、ヘアラインと直角方向のピーク数PPIが50〜400、ヘアライン方向のピーク数PPIが1〜100、かつ、ヘアラインと直角方向のPPIはヘアライン方向のPPIの2.0倍以上であることを特徴とするヘアライン外観を有する高耐食性Zn系合金めっき鋼材。
【請求項3】
めっき付着量が10〜600g/m2で、Alを1〜60質量%、Mgを0.1〜10質量%含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなるめっき層の表層に形成されたヘアラインを有し、該ヘアラインは、ヘアラインと直角方向の表面粗さRaが0.1〜2.5μm、ピーク数PPIが50〜400で、ヘアライン方向の表面粗さRaが0.1〜1.2μm、ピーク数PPIが1〜100で、かつ、ヘアラインと直角方向の表面粗さRaはヘアライン方向の表面粗さRaの1.2倍以上、ヘアライン直角方向のPPIはヘアライン方向のPPIの2.0倍以上であることを特徴とするヘアライン外観を有する高耐食性Zn系合金めっき鋼材。
【請求項4】
めっき層は、さらに、Siを0.001〜3質量%含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のヘアライン外観を有する高耐食性Zn系合金めっき鋼材。
【請求項5】
めつき層は、さらに、Tiを0.0001〜0.1質量%、Bを0.0001〜0.1質量%の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のヘアライン外観を有する高耐食性Zn系合金めっき鋼材。
【請求項6】
めっき層は、ZnとAlの二元共晶が体積率で1〜80vol%、ZnとAlとZnMg合金の三元共晶が体積率で10〜90vol%で、両者の合計が50%以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のヘアライン外観を有する高耐食性Zn系合金めっき鋼材。
【請求項7】
めっき層表面に、クロメート処理層を1〜1000mg/m2有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のヘアライン外観を有する高耐食性Zn系合金めっき鋼材。
【請求項8】
めっき層表面に、クロムを含有しないクロメートフリー処理層を1〜200mg/m2有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のヘアライン外観を有する高耐食性Zn系合金めっき鋼材。
【請求項9】
表面に厚さ0.5〜100μmの透明樹脂皮膜層を有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のヘアライン外観を有する高耐食性Zn系合金めっき鋼材。
【請求項10】
めっき層表面とクロムを含有しないクロメートフリー処理層との界面近傍に、Co、Fe、Ni、Pt、Mnの一種または二種以上の金属状態もしくは水酸化物状態の付着物層が0.1〜10mg/m2有し、湿潤環境下での耐黒変性に優れることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載のヘアライン外観を有する高耐食性Zn系合金めっき鋼材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−124824(P2006−124824A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−31542(P2005−31542)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】