説明

ヘッドアップディスプレイ

【課題】機体に急ブレーキがかかるような大きな衝撃を受けた時に、使用者の頭部コンバイナに激突する前に、コンバイナが使用者前方の回避位置に向かって自然に回避するようにして使用者の頭部を保護するようにした機構を提供する。
【解決手段】 コンバイナBをハウジングAに対して使用者眼前の使用位置から使用者前方上位の回避位置まで回動可能に保持するコンバイナ保持手段Cと、コンバイナを回避位置から使用位置に向かって常時付勢する弾性部材3と、コンバイナBを使用位置で停止させるストッパー機構4と、コンバイナBを回避位置で保持する係合手段5と、該係合手段5の係合を解除する解除手段6とを備え、前記コンバイナ使用者の頭部がコンバイナBに向かって煽動されるような重力加速度がコンバイナに負荷されたときに、コンバイナBが弾性部材3の弾力に抗して回避位置に向かって自然回動するように、前記弾性部材3の弾力が予め設定されている構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者が外界の景色に画像や情報を重畳させて見ることのできるコンバイナを備えたヘッドアップディスプレイに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にヘッドアップディスプレイは、航空機や車両のフレイムに取りつけられて使用者の眼前に画像や情報を出射する画像表示装置と、この画像表示装置に表示された画像の虚像を使用者の眼前に設置されたコンバイナの前方に結像させる光学系とを備えており、画像表示装置からの画像を外景光と合わせて表示させるものであって、例えば特許文献1や特許文献2に示すものがある。
【0003】
このようなヘッドアップディスプレイを航空機のコクピットに取りつけて使用する際、乱気流等によって機体に急ブレーキがかかるような大きな衝撃を受けたとき、重力加速度によって使用者の頭部が前方に煽られてコンバイナに激突し、頭部に損傷を受ける恐れがある。そこで従来では、例えば特許文献1の図5で示すように、頭部が当たるとその力でコンバイナが前方に回動するようにして衝撃を緩和するようにしている。
【特許文献1】特開2001−51228号公報
【特許文献2】特開平10−138794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来手段では、コンバイナを使用しているときは、コンバイナが機体の振動によって共振したり、前方に煽られることのないように安定よく保持する必要があるためコンバイナの回動許容値が固めに設定されており、そのため頭部が当たったときの反動は大きく、特に大きな重力加速度がかかったときはその衝撃度も比例的に大きくなり、やはり頭部に損傷を与える可能性は否めないといった問題点があった。
【0005】
そこで本発明は、機体に急ブレーキがかかるような大きな衝撃を受けたときに、使用者の頭部が前方に向かって煽られてコンバイナに激突する前に、コンバイナが使用者前方の回避位置に向かって自然に回避するようにして使用者の頭部を保護するようにしたヘッドアップディスプレイを提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する為に本発明では次のような技術的手段を講じた。即ち、本発明にあっては、コンバイナを備えたヘッドアップディスプレイにおいて、コンバイナをヘッドアップディスプレイのハウジングに対して使用者の眼前に相当する使用位置から使用者前方上位の回避位置まで回動可能に保持するコンバイナ保持手段と、コンバイナを常時使用位置に付勢する弾性部材と、コンバイナを使用位置で停止させるストッパー機構と、コンバイナを回避位置で保持する係合部と、該係合部の係合を解除する解除手段とを備え、前記コンバイナ使用者の頭部がコンバイナに向かって煽動されるような重力加速度がコンバイナに負荷されたときに、コンバイナが弾性部材の弾力に抗して回避位置に向かって自然回動するように、前記弾性部材の弾力が予め設定されている構造とした。
【発明の効果】
【0007】
本発明のヘッドアップディスプレイは上記のごとく構成したから、このヘッドアップディスプレイを装着した乗物に急ブレーキがかかるような大きな衝撃を受けて、使用者の頭部が前方に向かって煽られたときに、使用者の頭部がコンバイナに激突する前にコンバイナが使用者前方の回避位置に向かって自然に回避して使用者の頭部を未然に保護することができる。また、回避位置に移動したコンバイナは係合手段の係合部によってその位置で保持されるので、反動によって戻ってきたコンバイナで頭が打擲されることを防止することができ、加えて、解除手段で係合部の係合を解除することにより、簡便にコンバイナを使用位置に復帰させることができる、といった種々の効果がある。
【0008】
(その他の課題を解決するための手段及び効果)
上記発明において、前記弾性部材の弾力が、コンバイナに標準重力加速度の2〜3倍以上の重力加速度が負荷されたときにコンバイナが弾性部材の弾力に抗して回避位置に向かって自然回動するような強さで設定するのが好ましい。これは、上記の値の重力加速度がコンバイナ使用者に対してコンバイナ方向に突発的に負荷されると、概ね使用者の頭部が前方に煽られるからである。尚、標準重力加速度(G)の値は、1901年の国際度量衡総会で 9.80665m/sと定義されている。
【0009】
また上記発明において、前記弾性部材がねじりバネであって、コンバイナの回動軸部分に装着されている構造とするのがよい。
これにより、ねじりバネをコンバイナの回動軸部分にコンパクトに組み込むことができると共に、ねじりバネ自体が安価であるので、コストの低減化を図ることができるといった効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下において、本発明にかかるヘッドアップディスプレイを図1〜図3に基づき説明する。図1は、本発明の一実施形態であるヘッドアップディスプレイを示す側面図(一部断面を含む)であり、コンバイナを使用位置にしたときの図である。図2は、図1と同様の図であり、コンバイナを回避位置にしたときの図である。図3は、図1のヘッドアップディスプレイの横断面図である。
図において、符号Aは航空機のコクピットに取りつけて使用されるヘッドアップディスプレイのハウジングであって、光透過材料からなるコンバイナBがコンバイナ保持手段Cを介して保持されている。
【0011】
前記ハウジングA内には、図示は省略するが、画像や情報を出射する画像表示装置と、この画像表示装置に表示された画像の虚像を使用者の眼前に設置されるコンバイナBの前方に結像させる光学系とが設けられており、画像表示装置からの画像表示光を、光学系を介してコンバイナBに投射して、画像の虚像をコンバイナの前方に結像させるものであって、これらの技術は従来公知のものである。
【0012】
前記コンバイナ保持手段Cは、コンバイナBをヘッドアップディスプレイのハウジングAに対して使用者の眼前で垂れ下がった図1の使用位置から、図2の使用者前方上位の回避位置まで回動可能に保持するものであって、ハウジングAに支持された枢軸1を含み、この枢軸1にコンバイナBと一体的な回動軸2が回動できるように保持されている。更にコンバイナBと一体的な回動軸2は弾性部材3によって常時回避位置から使用位置の方向に向かって弾性力が付与されている。本実施例では前記弾性部材3としてねじりバネが使用されている。ねじりバネに付与される弾性力は、2G以上の重力加速度が負荷されたときに回避位置に向かって回動するように調整されている。なお、回避位置に向かって回動を開始するための閾値は、ねじりバネを交換することにより調整することができるが、2Gから3G程度の範囲に設定しておくのが好ましい。
【0013】
前記回動軸2は、コンバイナBが使用位置にあるときにそれ以上使用者側に向かって回動しないようにストッパー機構4が設けられている。このストッパー機構4は、回動軸2に設けられた突起4aとハウジングAに形成された当接面4bからなり、両者の当接によってコンバイナBが使用位置から使用者方向(図中時計方向)に回動することが阻止されている。また前記弾性部材3の弾力が当接面4b方向に負荷されているので、この弾力によりコンバイナBが使用位置に保持されている。
【0014】
前記弾性部材3の弾力は、コンバイナ使用者の頭部がコンバイナBに向かって煽動されるような大きな重力加速度がコンバイナに負荷されたときに、コンバイナBと共に回動軸2が弾性部材3の弾力に抗して回避位置に向かって自然回動するような強さで予め設定されている。即ち、コンバイナ使用者の頭部がコンバイナBに向かって煽られると同時にコンバイナBも回避位置に向かって跳ね上がるように形成されている。
【0015】
更に、コンバイナBが回避位置まで回動したときにその位置でコンバイナBを保持する係合手段5と、該係合手段5の係合を解除する解除手段6とが設けられている。
【0016】
前記係合手段5は、スプリング5aによってコンバイナの回動軸2の周面に向かって弾力的に付勢されたプランジャー5bと、プランジャー5bの先端に形成された係合爪5cと、回動軸2の外周面に形成されてコンバイナ回避位置で前記係合爪5cが係入する係合凹部5dとからなる。
【0017】
また前記解除手段6は、プランジャー5bをスプリング5aに抗して後退させる解除レバー6aを備え、該解除レバー6aは、ハウジングAに支軸6bを介して揺動可能に取りつけられ、中間部に連結ピン6cを介してプランジャー5bに連結されている。これにより、図2の係合位置から解除レバー6aをスプリング5aに抗して揺動させることにより、プランジャー5bを後退させて係合爪5cを係合凹部5dより離反させて両者の係合を解除することができる。
【0018】
上記のごとく構成されたヘッドアップディスプレイを搭載した航空機が、乱気流等によって機体に急ブレーキがかかるような大きな衝撃を受けて使用者の頭部が前方に向かって煽られたとき、使用者の頭部がコンバイナBに激突する前にコンバイナBが使用者前方の回避位置に向かって自然に回避して使用者の頭部を未然に保護する。回避位置に移動したコンバイナBはその位置で係合手段6の係合爪5cがスプリング5aに押されて係合凹部5dに係入して保持されるので、跳ね上がった反動によってコンバイナBが戻ることはない。また、解除レバー6aを操作して係合爪5cと係合凹部5dとの係合を解除することにより、簡便にコンバイナを使用位置に復帰させることができる。
【0019】
尚、本発明では、上記した実施例に限らず、その構成要旨を逸脱しない範囲内で適宜改変して実施することが可能である。例えば、上記した係合手段5並びに解除手段6は、コンバイナBが回避位置に跳ね上げられたときにその位置でコンバイナBを係合して保持し、コンバイナBを使用位置に復帰させたいときに前記係合を手動で解除する機構であればどのような構造であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、航空機や車両等の乗物に装着して外界に画像や情報を重畳させて表示させる表示装置全般に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明にかかるヘッドアップディスプレイの一実施例を示す一部断面側面図であってコンバイナの使用位置を示す。
【図2】図1同様の一部断面側面図であって、コンバイナの回避位置を示す。
【図3】上記ヘッドアップディスプレイの横断面図。
【符号の説明】
【0022】
A ヘッドアップディスプレイのハウジング
B コンバイナ
C コンバイナ保持装置
1 枢軸
2 コンバイナの回動軸
3 弾性部材
4 ストッパー機構
5 係合手段
6 解除手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンバイナを備えたヘッドアップディスプレイにおいて、コンバイナをヘッドアップディスプレイのハウジングに対して使用者の眼前に相当する使用位置から使用者前方上位の回避位置まで回動可能に保持するコンバイナ保持手段と、コンバイナを回避位置から使用位置に向かって常時弾圧する弾性部材と、コンバイナを使用位置で停止させるストッパー機構と、コンバイナを回避位置で保持する係合手段と、該係合手段の係合を解除する解除手段とを備え、前記コンバイナ使用者の頭部がコンバイナに向かって煽動されるような重力加速度がコンバイナに負荷されたときに、コンバイナが弾性部材の弾力に抗して回避位置に向かって自然回動するように、前記弾性部材の弾力が予め設定されているヘッドアップディスプレイ。
【請求項2】
前記弾性部材の弾力は、コンバイナに標準重力加速度の2〜3倍以上の重力加速度が負荷されたときにコンバイナが弾性部材の弾力に抗して回避位置に向かって自然回動するような強さで設定されている請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項3】
前記弾性部材がねじりバネであって、コンバイナの回動軸部分に装着されている請求項1又は請求項2に記載のヘッドアップディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−279800(P2006−279800A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−98838(P2005−98838)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】