説明

ヘッドライト近傍の車体メンバ構造

【課題】ヘッドライト近傍の一部側面を切り欠いて切り欠き部を設けた場合であっても、アッパメンバの剛性低減を極力抑制して所定の剛性を確保することにある。
【解決手段】アッパメンバ16a(16b)は、内壁22aと外壁22bとの間の隔壁からなる内リブ28を有する横長の日の字断面に押し出し成形され、ヘッドライト32近傍で前記外壁22bから前記アッパメンバ16a(16b)の一端部の前記内リブ28までを曲線状に切り欠いて形成される切り欠き部30が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車等の車両のヘッドライト近傍における車体のメンバの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両のフレームを構成するサイドメンバ等の縦断面を、矩形状閉断面構造とすることによって、フレームの強度を向上させることが知られている。例えば、特許文献1には、サイドメンバの車両前後方向に沿った前後側部及び中間部のそれぞれに適した強度を確保するために、前記サイドメンバの車両前後方向中間部における矩形状閉断面部の段数を、車両前後側部における矩形状閉断面部の段数よりも多段とすることにより、前記前後側部及び中間部において、それぞれ所定の強度を容易に確保することができるとした車両のフレーム構造が開示されている。
【0003】
すなわち、特許文献1に開示された車両のフレーム構造では、サイドメンバの車両前後方向に沿った中間部位において、矩形状閉断面部が上下方向(縦方向)に4段に積層された4段構造となっており、また、車両前後方向に沿った前側部のフロントタイヤと略対向する部位において、矩形状閉断面部が上下方向に3段に積層された3段構造となっており、フロントタイヤよりも前方の部位においては、矩形状閉断面部が上下方向に2段に積層された2段構造となっている。
【特許文献1】特開平8−104253号公報(段落0006、0013〜0016、図1、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1に開示された車両のフレーム構造では、矩形状閉断面部が上下2段構造からなるフロントタイヤの前方部位と、矩形状閉断面部が上下3段構造からなるフロントタイヤと略対向する部位との間に、段数が異なることによって段差部が発生し、例えば、車両が前方衝突した際、前記サイドメンバが前記段差部から折れ易くなって所望の剛性、強度を確保することが難しいという問題がある。
【0005】
また、前記問題を解消するために、サイドフレームを構成する各矩形状閉断面部の肉厚を厚く形成することが考えられるが、車両の車体重量が増加して軽量化の要請と矛盾するという他の問題がある。
【0006】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであり、ヘッドライト近傍におけるメンバの一部側面を切り欠いて切り欠き部を設けた場合であっても、前記メンバの剛性低減を極力抑制して所定の剛性を確保することが可能なヘッドライト近傍の車体メンバ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、アッパメンバは、内壁及び外壁と、前記内壁及び前記外壁を連結する上壁及び下壁と、前記内壁と前記外壁との間の隔壁からなる内リブとを有する横長の日の字断面に成形され、前記アッパメンバには、ヘッドライト近傍で前記外壁から前記アッパメンバの一端部の前記内リブまでを曲線状に切り欠いて形成される切り欠き部が設けられる。
【0008】
従って、本発明では、アッパメンバに対し曲線状からなる切り欠き部を形成すると共に、内壁と外壁との間に内リブを有する横長の日の字断面とすることにより、前記アッパメンバに対する局所的な屈曲部や段差部を無くして剛性変化が緩やかになると共に、前方衝突した際に折れ難くなるように構成される。また、本発明では、アッパメンバの軸方向と直交する縦断面を横長の日の字断面とすることにより、左右方向の変形に対する剛性を向上させ、車両の左右旋回時に変形しにくくなって旋回性能を安定させることができる。この場合、アッパメンバの縦断面における縦寸法と横寸法とによって所望の横長比とすることにより、前方衝突の際における上下曲がりモードを制御することが容易となる。
【0009】
また、本発明によれば、アッパメンバの内壁の縦寸法が、外壁の縦寸法よりも大きく設定され、上壁及び下壁によって断面台形状に形成されることにより、アッパメンバを太い骨格構造とすることができ、前記アッパメンバの壁部の肉厚を厚肉とすることがなく剛性を向上させ、しかも軽量化を達成することができる。
【0010】
さらに、本発明によれば、アッパメンバを構成する内壁、内リブ及び外壁の肉厚を、上壁及び下壁の肉厚よりも厚肉に形成することにより、左右方向の変形に対する剛性を一層向上させることができる。この場合、上壁及び下壁の肉厚を薄く形成することができるため、軽量化を達成することができる。
【発明の効果】
【0011】
ヘッドライト近傍におけるアッパメンバの一部側面を切り欠いて切り欠き部を設けた場合であっても、前記アッパメンバの剛性低減を極力抑制して所定の剛性を確保することが可能なヘッドライト近傍の車体メンバ構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係るヘッドライト近傍の車体メンバの構造が適用された車両のボデイの一部省略斜視構造図である。なお、以下の説明において、左右方向、前後方向及び上下方向は、それぞれ、図1に示される矢印の方向にしたがうものとする。
【0013】
図1に示されるように、自動車等の車両10のボデイ(車体)12の前部は、車幅方向の左右両側にそれぞれ配設され、前記ボデイ12の前後方向に沿って延在する一対のフロントサイドフレーム14a、14bと、前記一対のフロントサイドフレーム14a、14bの上方に所定間隔離間してそれぞれ設けられ、前記ボデイ12の前後方向に沿って延在する一対のアッパメンバ16a、16bとを備える。
【0014】
また、前記ボデイ12の前部は、前記一対のフロントサイドフレーム14a、14bの前端部に連結され、複数の部材によって略矩形状の枠体に構成されたバルクヘッド連結体18を有する。前記各アッパメンバ16a、16bの中央部付近には、図示しないストラットを支持するストラットタワー20、20が設けられ、前記ストラットタワー20、20の下端部は、前記一対のフロントサイドフレーム14a、14bにそれぞれ連結される。
【0015】
前記各アッパメンバ16a、16bは、図4(図3の矢印X方向からみた端面図)に示されるように、上下方向に沿った縦寸法よりも車幅方向に沿った横寸法が大きく設定された断面横長の矩形状構造体からなる。このアッパメンバ16a、16bは、軸方向と直交する縦断面において、上下方向に沿ってそれぞれ延在し略平行に対向するエンジンルーム側(内側)の内壁22a及びフロントタイヤFR側(外側)の外壁22bと、前記内壁22a及び前記外壁22bの上下面をそれぞれ連結する上壁24a及び下壁24bと、前記内壁22aと外壁22bとの間に略平行に延在し内部に形成された空間部を第1室26aと第2室26bとに分割する隔壁からなる内リブ28とを有する日の字断面に成形された成形体からなる。なお、前記日の字断面の成形体の成形方法としては、例えば、押し出し成形、引き抜き成形、ロール成形、鍛造成形等によって遂行されるとよい。
【0016】
この場合、図4に示されるように、内壁22aの鉛直方向に沿った縦寸法L1は、外壁22bの鉛直方向に沿った縦寸法L2と比較して大きく設定され(L1>L2)、アッパメンバ16a、16bを軸方向と直交する方向から縦断面視したときに台形状に形成される。また、上壁24a及び下壁24bの肉厚T1と比較して、内壁22a、外壁22b及び内リブ28の肉厚T2が厚く形成される(T1<T2)。なお、前記内壁22a、外壁22b及び内リブ28の各肉厚T2は、それぞれ略均一に設けられる。加えて、例えば、内リブ28の肉厚を内壁22a及び外壁22bよりも厚く形成することにより、切り欠き部30の剛性、強度低下をリカバリすることができる利点がある。
【0017】
また、バルクヘッド連結体18に近接する前記各アッパメンバ16a、16bの一端部側には、例えば、切削加工等によって前記成形体の外側の一部側面が切り欠かれて形成された切り欠き部30が設けられる(図1及び図3参照)。
【0018】
この切り欠き部30は、図2及び図3に示されるように、ヘッドライト32に最も近接するA部位からアッパメンバ16a、16bの軸方向に沿った中間部のB部位まで延在し、平面視して緩やかな曲線状に切り欠かれている。換言すると、前記切り欠き部30は、ヘッドライト32の近傍において、アッパメンバ16a、16bの中間部の外壁22bから前記アッパメンバ16a、16bの軸方向に沿った一端部の内リブ28までを、平面視して緩やかな曲線によって切り欠いて形成される。なお、アッパメンバ16a、16bの切り欠き部30とヘッドライト32の外表面との間には、相互の干渉を回避するために十分なクリアランスが確保されている。
【0019】
この切り欠き部30のA部位−B部位間は、平面視して、アッパメンバ16a、16bの軸方向と略平行に直線状に延在する直線部34aと、前記直線部34aに連続し図示しない単一の中心によって形成される円弧部34bとを有する(図2参照)。また、前記切り欠き部30を横方向(左側)から側面視した場合、開口部36から内リブ28が外部に露呈した閉断面構造となっている(図3参照)。
【0020】
本実施形態に係るヘッドライト近傍の車体メンバの構造が適用された車両10のボデイ12は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
【0021】
ここで、内壁22aと外壁22bとの間に内リブ28が形成されていない比較例に係るアッパメンバ40を図5に示す。この比較例に係るアッパメンバ40は、本実施形態のアッパメンバ16a、16bと比較して内リブ28の有無のみが異なり、切り欠き部30が設けられている等その他の構造は同一となっており、本実施形態と同一の構成要素には同一の参照符号を付している。
【0022】
この比較例に係るアッパメンバ40では、切り欠き部30の開口部36を閉塞する壁部が何ら設けられておらず、開口状態のオープン断面となっていることから、内リブ28を有する本実施形態と比較して、断面二次モーメントが低減して剛性が低下する。
【0023】
これに対して、本実施形態では、内壁22aと外壁22bとの間に内リブ28が設けられた閉断面からなり、緩やかな曲線状からなる切り欠き部30の構造とすることにより、中空の角筒体の一部側面を曲線状に切り欠いて前記切り欠き部30を形成した場合であっても、断面二次モーメントの低減を極力抑制することができると共に、切り欠き部30における剛性変化を極力小さくすることができる。
【0024】
また、本実施形態では、図2に示されるように、アッパメンバ16a、16bの一部側面に対し平面視して緩やかな曲線状からなる切り欠き部30を形成することにより、前記アッパメンバ16a、16bに対する局所的な屈曲部や段差部を無くして剛性変化が緩やかになると共に、前方衝突した際に折れ難くなるように構成される。
【0025】
さらに、本実施形態では、図4に示されるように、アッパメンバ16a、16bの軸方向と直交する縦断面を横長の日の字断面とすることにより、左右方向の変形に対する剛性を向上させ、車両10の左右旋回時に変形しにくくなって旋回性能を安定させることができる。この場合、アッパメンバ16a、16bの縦断面における縦寸法と横寸法とによって所望の横長比とすることにより、前方衝突の際における上下曲がりモードを制御することが容易となる。
【0026】
さらにまた、本実施形態では、図4に示されるように、内壁22aの縦寸法が外壁22bの縦寸法よりも大きい縦断面台形形状とすることにより、アッパメンバ16a、16bを太い骨格構造とすることができ、前記アッパメンバ16a、16bの壁部の肉厚を厚肉とすることがなく剛性を向上させ、しかも軽量化を達成することができる。
【0027】
またさらに、本実施形態では、アッパメンバ16a、16bのB部位−C部位間(図2及び図3参照)における形状の図心O1(均質材料と仮定し重心と一致する)から左右方向に離間する壁部である内壁22a及び外壁22bの肉厚が、図4に示されるように、上壁24a及び下壁24bの肉厚と比較して厚く形成されることにより、左右方向の(鉛直軸回りの)断面二次モーメントが大きくなり、終局的には、左右方向の変形に対する剛性を一層向上させることができる。
【0028】
同様に、切り欠き部30を有するA部位−B部位間(図2及び図3参照)における図心O2(均質材料と仮定し重心と一致する)から左右方向に離間する壁部である内リブ28及び内壁22aの肉厚が、図4に示されるように、上壁24a及び下壁24bの肉厚と比較して厚く形成されることにより、左右方向の剛性をより一層向上させることができる。なお、前記A部位−B部位間では、切り欠き部30が形成されているために外壁22bは設けられていない。この場合、上壁24a及び下壁24bの肉厚を薄く形成することができるため、アッパメンバ16a、16bの全体における軽量化を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係るヘッドライト近傍の車体メンバの構造が適用された車両のボデイの一部省略斜視構造図である。
【図2】前記車両のボデイを構成するアッパメンバの平面図である。
【図3】本実施形態に係るアッパメンバの斜視図である。
【図4】図3の矢印X方向からみた端面図である。
【図5】比較例に係るアッパメンバの斜視図である。
【符号の説明】
【0030】
10 車両
12 ボデイ
16a、16b アッパメンバ
22a 内壁
22b 外壁
24a 上壁
24b 下壁
28 内リブ
30 切り欠き部
32 ヘッドライト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のボデイの前後方向に延在し前記ボデイの左右両側に一対のアッパメンバが設けられ、
前記各アッパメンバは、
内壁及び外壁と、
前記内壁及び前記外壁を連結する上壁及び下壁と、
前記内壁と前記外壁との間の隔壁からなる内リブと、
を有する横長の日の字断面に成形され、
前記各アッパメンバには、ヘッドライト近傍で前記外壁から前記アッパメンバの一端部の前記内リブまでを曲線状に切り欠いて形成される切り欠き部が設けられることを特徴とするヘッドライト近傍の車体メンバ構造。
【請求項2】
請求項1記載のヘッドライト近傍の車体メンバ構造において、
前記アッパメンバの前記内壁の縦寸法は、前記外壁の縦寸法よりも大きく設定され、前記上壁及び前記下壁によって断面台形状に形成されることを特徴とするヘッドライト近傍の車体メンバ構造。
【請求項3】
請求項1又は2記載のヘッドライト近傍の車体メンバ構造において、
前記内壁、前記内リブ及び前記外壁の肉厚は、前記上壁及び前記下壁の肉厚よりも厚肉に形成されることを特徴とするヘッドライト近傍の車体メンバ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−96251(P2009−96251A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267873(P2007−267873)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】