説明

ヘッドランプの光軸調整装置

【課題】ヘッドランプの光軸調整を行う場合における調整精度を向上する。
【解決手段】ヘッドランプの光軸調整装置は、車輌に設けられたヘッドランプの光軸を調整するための装置であって、第1方向に延びた光を放射する光出力部20,21,22と、第1方向に沿って配列された複数の受光素子26を有する受光部と、光出力部及び受光部の各々と接続された演算部と、を含む。上記演算部は、受光部の複数の受光素子の各々の出力信号に基づいて、光出力部により光が照射された位置に対応する複数の座標値を算出する座標演算部と、複数の座標値に基づいて車輌の傾斜角度を算出し、当該傾斜角度に基づいて、ヘッドランプの光軸を調整するための制御信号を生成する角度検出部と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌に設けられるヘッドランプ(前照灯)による照射光の光軸を調整するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車輌においては、乗車人員の数や荷物の積載状況、あるいは路面の凹凸や車輌の加減速によって、車体の前後方向の角度が水平方向に対して何れかに傾くことがある。このとき、ヘッドランプの向きも車体の傾斜角度に応じて変化してしまう。そこで、車体の前後方向の傾斜角度(ピッチ角)に応じてヘッドランプの光軸を上下方向に調整するシステム(オートレベリングシステム)が知られている。
【0003】
上記したオートレベリングシステムとしては、例えば、前輪と後輪にそれぞれサスペンションアームとリンクで結合したストロークセンサを用いて、各々の車輪の上下動をこのストロークセンサの回転角度に変換し、この回転角度の検出結果に基づいてヘッドランプの光軸調整を行うものがある。このシステムでは、ストロークセンサの出力電圧がコントロールユニット(ECU)に入力されると、コントロールユニットは、入力された前輪と後輪の上下動のデータと、予め与えられている車軸間の距離のデータとを用いてピッチ角を計算する。具体的には、ストロークセンサの出力電圧に基づいて得られる前輪と後輪の高さの差をΔh、車軸間の距離をLとすると、ピッチ角θは次式で表される。
θ=tan−1(Δh/L)
そして、上式で求められたピッチ角θの初期位置に対する変化分(角度)に応じて、アクチュエータによってランプ光軸を上下方向に変化させる。制御タイミングは車輌状態(IG信号,H/L信号,車速パルス)によって決められる。
【0004】
しかし、上記したストロークセンサを用いたオートレベリングシステムでは、構造が複雑な車輌のサスペンション機構部にストロークセンサを取り付ける必要があるため、取り付け作業性が悪いという問題や、取り付けスペースの確保が難しいという問題がある。これに対し、特開平8−238979号公報(特許文献1)には、自車輌の前照灯によって照射されている路面の路面輝度パターンを光電素子によって検出し、当該検出結果に基づいて、照射光により照射されている部位と照射されていない部位との境界位置と自車輌との距離を検出し、当該距離に基づいて車輌の傾斜角度を算出し、前照灯の光軸調整を行う光軸自動調整装置が開示されている。
【0005】
ところで、特許文献1に開示の光軸自動調整装置は、前照灯の照射光による路面輝度パターンを検出するという原理上、光電素子を車輌の前部に取り付ける必要がある。このため、光電素子が泥や雨などによる汚れの影響を受けやすく、路面輝度パターンの検出精度が低下しやすい。路面輝度パターンの検出精度が低下すると、上記した境界位置と自車輌との距離の検出精度が低下し、車輌の傾斜角度の算出精度も低下するため、結果として光軸調整の精度が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−238979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明に係る具体的態様は、ヘッドランプの光軸調整を行う場合における調整精度を向上し得る技術を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る一態様のヘッドランプの光軸調整装置は、車輌に設けられたヘッドランプの光軸を調整するための装置であって、(a)第1方向に延びた光を放射する光出力部と、(b)第1方向に沿って配列された複数の受光素子を有する受光部と、(c)光出力部及び受光部の各々と接続された演算部と、を含む。上記した演算部は、(d)受光部の複数の受光素子の各々の出力信号に基づいて、光出力部により光が照射された位置に対応する複数の座標値を算出する座標演算部と、(e)複数の座標値に基づいて車輌の傾斜角度を算出し、当該傾斜角度に基づいて、ヘッドランプの光軸を調整するための制御信号を生成する角度検出部と、を有する。
【0009】
上記の光軸調整装置によれば、従来のストロークセンサを用いないため、複雑なサスペンション周りに、センサや取付け部品(リンク等)を設置する必要がなくなり、サスペンション部のレイアウトの自由度が上がる。また、リンク等の特別な取り付け部品も必要ないので製造工程が簡素化され、コスト削減を実現できる。また、原理的に上記の光軸調整装置は、車輌側方に光を照射し得る適宜な位置(例えばドアミラー等)に取り付けることができ、かつ光出力部および受光部を下向きにして取り付けることができる。このため、上記した特許文献1に開示された光軸自動調整装置の場合のような不都合が生じにくい。したがって、車輌の傾斜角度の算出精度を高め、結果として光軸調整の精度を向上させることが可能となる。
【0010】
上記した光出力部は、例えば、発光素子と、当該発光素子の光出射方向に配置されたスリットとを有して構成される。
【0011】
これにより、光出力部の構造を簡素化できる。
【0012】
また、上記した発光素子が赤外光を出力することも好ましい。
【0013】
これにより、車輌の外部環境から受光部へ入射するノイズ光と発光素子に起因する光とを峻別することが容易になる。
【0014】
また、上記の光軸調整装置は、角度検出部から出力される制御信号に基づいてヘッドランプの光軸を調整するアクチュエータを更に備えて構成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一実施形態のヘッドランプの光軸調整装置の構成を示すブロック図である。
【図2】光学センサの詳細構成を示す模式断面図である。
【図3】光学センサの取り付け箇所の一例について説明する模式図である。
【図4】光学センサの検出動作について説明する図である。
【図5】車輌の傾斜角度を算出する原理について説明するための図である。
【図6】光軸調整装置の全体の制御フローを示す図である。
【図7】光軸制御角αの検出フローを示す図である。
【図8】距離Dnの上限値および下限値について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、一実施形態のヘッドランプの光軸調整装置の構成を示すブロック図である。図1に示す光軸調整装置1は、コントロールユニット(演算部)3、メモリ4、光学センサ5を含んで構成されており、コントロールユニット3からアクチュエータ6に対して所定の制御信号を供給することによりヘッドランプ7の光軸を調整するために用いられる。コントロールユニット3にはウォーニングランプ(パイロットランプ)8も接続されており、光軸調整時にはコントロールユニット3から供給される制御信号に応じてウォーニングランプ8が点灯する。
【0018】
コントロールユニット3は、光軸調整装置1の全体動作を制御するものであり、プロセッサ等を含んで構成される。このコントロールユニット3は、メモリ4および光学センサ5と接続されており、所定の制御プログラムを実行することにより、測定ポイント座標演算部3a、走行検知部3bおよび角度検出部3cのそれぞれとして機能する。測定ポイント座標演算部3a等の機能部の動作の詳細については後述する。
【0019】
メモリ4は、コントロールユニット3と接続されており、コントロールユニット3の動作に必要な各種データを記憶する。このメモリ4は、例えば、ROM、RAM、あるいはEEPROM等の不揮発メモリによって構成されている。
【0020】
光学センサ5は、路面に対してライン状の光を照射して当該光による路面からの反射光を受光し、反射光の強度に応じた電気信号を出力する。この光学センサ5から出力される電気信号を用いてコントロールユニット3において所定の演算を行うことにより、車輌の傾斜角度を求めることができる。演算の詳細については後述する。
【0021】
図2は、光学センサ5の詳細構成を示す模式断面図である。本実施形態の光学センサ5は、発光素子20、スリット21、レンズ(第1レンズ)22、光学フィルタ23、レンズ(第2レンズ)24、スリット25および複数の受光素子26を含んで構成されている。
【0022】
発光素子20は、コントロールユニット3から供給される信号に応じて発光する。発光素子20としては、例えば発光ダイオード(LED)が好適に用いられる。本実施形態では、発光素子20として赤外波長の光(赤外光)を出力するもの(赤外LED等)を用いる。
【0023】
スリット21は、X方向に長く形成された開口部を有しており、発光素子20の光出射方向に配置されている。発光素子20から出射した光がこのスリット21を通ることにより、X方向に延びたライン状の光が形成される。
【0024】
レンズ22は、スリット21を挟んで発光素子20の光出射方向に配置されている。このレンズ22は、発光素子20から出射し、スリット21を経て形成されたライン状の光が目的とするライン状の光として路面に投影されるように、光を配光させる。すなわち、本実施形態においては、発光素子20とスリット21とレンズ22が「光出力部」に相当する。
【0025】
光学フィルタ23は、路面からの反射光のうち、赤外波長(発光素子20の発光波長)の成分を選択的に透過させるバンドパスフィルタ(BPF)である。光学フィルタ23を用いることにより、街灯光などのノイズ光の影響を排除することができる。
【0026】
レンズ24は、複数の受光素子26のそれぞれの受光面に対向配置されている。このレンズ24は、光学フィルタ23を通過した反射光を集光し、スリット25へ導く。
【0027】
スリット25は、X方向に長く形成された開口部を有しており、周囲の赤外光(ノイズ)が受光素子26に入射されないように遮断する役割をもつ。
【0028】
複数の受光素子26は、X方向に沿って配列されており、各々の受光面がスリット25と対向している。これらの受光素子26によって受光部が構成されている。各受光素子26としては、例えば、少なくとも赤外光を受光し、その強度に応じた電気信号を出力可能なフォトダイオードが好適に用いられる。なお、各受光素子26としては、上記の他に例えば、CCD(電荷結合素子)やCMOS素子などの光電変換素子を用いてもよいし、これらを含んで構成されたイメージセンサを用いてもよい。
【0029】
なお、本実施形態においては、発光素子20、スリット21、レンズ22、光学フィルタ23、レンズ24、スリット25および複数の受光素子26は、図示のように筐体内に納められてユニット化されている。レンズ22を通過した光は、透明な窓部を介してユニット外へ進行する。また、路面からの反射光は、透明な窓部を介してユニット内へ進行し、レンズ24に入射する。
【0030】
図3は、光学センサ5の取り付け箇所の一例について説明する模式図である。図3(a)は車輌の側面を示す模式図であり、図3(b)は車輌の正面を示す模式図である。各図に示すように、光学センサ5は、例えば車輌のドアミラー下部に取り付けられる。取り付け箇所は左右どちらのドアミラーでもよい。また、光学センサ5を車輌両側にそれぞれ配置してもよい。それにより、検出精度を高めることや、一方の光学センサ5で測定できなかった場合の補助センサとすることができる。図示のように、光学センサ5は、車輌側の路面上の前後方向に沿ってスリット状の光を照射し、路面からの反射光に基づいて、路面上の複数(本例では7つ)の測定ポイントPnのそれぞれと光学センサ5との間の距離を測定する。複数の測定ポイントを設定することにより、路面状態を識別することが容易になる。そして、各測定ポイントにおいて得られる距離測定結果を用いて、路面に対する傾斜角度が算出される。
【0031】
なお、コントロールユニット3およびメモリ4は、車室内、エンジンルーム内、トランク内あるいはアクチュエータ6やヘッドランプ7等に適宜取り付けられる。また、光学センサ5の取り付け箇所については、車輌側方の路面に測定ポイントを設定し得る限りにおいて、ドアミラーに限定されない。
【0032】
図4は、光学センサ5の検出動作について説明する図である。図4(a)は、路面上の7つの測定ポイントのうち、図中の左端(車輌の前方向に対応)に位置する測定ポイントP1に対応する反射光の光路を示す。図示のように、測定ポイントP1の反射光は、レンズ24によって集光され、スリット25を通過し、図中右端(車輌の後方向に対応)に位置する受光素子26によって受光される。また、図4(b)は、路面上の7つの測定ポイントのうち、図中の中央に位置する測定ポイントP4に対応する反射光の光路を示す。図示のように、測定ポイントP4の反射光は、レンズ24によって集光され、スリット25を通過し、図中の中央に位置する受光素子26によって受光される。また、図4(c)は、路面上の7つの測定ポイントのうち、図中右端(車輌の後方向に対応)に位置する測定ポイントP7に対応する反射光の光路を示す。図示のように、測定ポイントP7の反射光は、レンズ24によって集光され、スリット25を通過し、図中左端(車輌の前方向に対応)に位置する受光素子26によって受光される。なお、図示を省略するが他の測定ポイントP2、P3、P5、P6についても同様である。
【0033】
図5は、各測定ポイントと光学センサ5との距離を検出し、それに基づいて傾斜角度を算出する原理について説明するための図である。ここで、測定ポイントPnと光学センサ5との距離をDnと表す。ここでいう距離Dnとは、光学センサ5において予め設定された位置(例えば発光素子20の位置)と各測定ポイントPnとの距離をいう。本実施形態では、発光素子20から放射される光が路面で反射し、各受光素子26へ届くまでの光の飛行時間(遅れ時間)と光の速度(3×10m/s)に基づいて、光学センサ5から路面上の各測定ポイントPnまでの距離Dnが算出される。すなわち、距離測定方式としてTOF(Time
Of Flight)法が用いられる。
【0034】
本実施形態では、光学センサ5からほぼ垂直な方向に予め基準線(図中一点鎖線で示す)を設定する。そして、各測定ポイントPnと光学センサ5の間を結ぶ線(図中点線で示す)と上記の基準線とがなす角度をθn(固定値)と規定する。各測定ポイントPnまでの距離Dnが算出されると、これに基づいて、各測定ポイントPnの位置をxy座標として認識できる。例えば、測定ポイントPnにおけるxy座標は、以下の式で表すことができる。
(x,y)=(Dn・sinθn,Dn・cosθn)
【0035】
これにより、以下のように各測定ポイントの座標を検出することができる。
(x,y)=(x,y),(x,y),・・・(x,y
【0036】
次に、最小二乗法により一次近似式を算出する。
【数1】

【数2】

【数3】

【0037】
上記の一次近似式におけるaが車輌の傾斜角度(ピッチ角)を意味する。基準となる状態(例えば、ドライバーのみ乗車中であり、荷物なしの状態)のときの傾斜角度をaとする。この基準状態に対応するaの値は、予めメモリ4に記憶されている。例えば、工場出荷時に、水平面上で車輌の傾斜角度を検出させ、これを基準状態としてメモリ4に記憶させる。このとき、ヘッドランプの光軸調整に用いるべき光軸制御角αは、以下のように表せる。
α=−(a−a
【0038】
次に、上記の光軸制御角αを用いて実行される光軸制御について説明する。
【0039】
図6は、光軸調整装置1の全体の制御フローを示す図である。本実施形態の光軸調整装置1は、車輌の停車中または一定速度走行中において、現在の光軸制御角αと以前の光軸制御角αにズレが生じているときに、ヘッドランプ7の光軸調整を行う。
【0040】
コントロールユニット3の角度検出部3cは、車輌側から得られるドアミラー開閉信号に基づいて、ドアミラーが開状態であるか否かを判定する(ステップS11)。なお、光学センサ5をドアミラー以外の可動しない位置に取り付けた場合には、本ステップの処理並びに図1中における「ドアミラー開閉信号」は不要となる。
【0041】
また、コントロールユニット3の走行検知部3bは、車輌側から得られる車速パルス信号に基づいて、車輌が停車中又は一定速度で走行中であるか否かを判定する(ステップS12)。具体的には、車速が0km/hである場合には停車中であると判断できる。また、例えば、車速が20km/h以上かつ車速の変化が3km/h以下であり、車輌の傾斜角度の変化分が±0.3°以内であるという条件が5秒間以上連続した場合には、一定速度で走行中(すなわち安定走行中)であると判断できる。なお、車輌の傾斜角度については角度検出部3cから得られる。また、上記の各数値は一例でありこれに限定されない。
【0042】
ドアミラーが開状態であり(ステップS11;YES)、車輌が停車中または一定速度で走行中である場合(ステップS12;YES)には、コントロールユニット3は光軸制御角αを検出する処理を実行する(ステップS13)。当該処理の詳細については後述する。
【0043】
次に、角度検出部3cは、車輌ピッチ検出フラグ「Flag」が「1」であるか否かを判定する(ステップS14)。ここでいう「Flag」については光軸の制御角αを検出する処理の詳細を説明する際に併せて説明する。
【0044】
車輌ピッチ検出フラグが「1」である場合(ステップS14;YES)に、角度検出部3cは、以前に算出されていた光軸制御角αと現在の光軸制御角αとの差が0.2°以上であるか否かを判定する(ステップS15)。なお、判定基準である「0.2°」については一例であり、これに限定されない。
【0045】
以前と現在の光軸制御角αの差が0.2°以上である場合(ステップS15;YES)に、角度検出部3cは、ヘッドランプ7の光軸制御を実行する(ステップS16)。具体的には、角度検出部3cは、以前と現在の光軸制御角αの差分に応じた制御信号をアクチュエータ6に供給する。制御信号を受けたアクチュエータ6は、ヘッドランプ7の光軸を調整する。
【0046】
一方、上記ステップS11、S12、S14、S15の何れかにおいて否定判断(NO)がなされた場合には、角度検出部3は、光軸制御を実行しない(ステップS17)。
【0047】
次に、上記したステップS13において実行される光軸制御角αの検出処理について図7に基づいて詳細に説明する。
【0048】
角度検出部3cは、代数fに測定ポイント数を設定する(ステップS21)。上記したように本実施形態では測定ポイント数を7としているので、ここでは代数fに7が代入される。また、角度検出部3cは、代数nおよび代数cのそれぞれに初期値0を設定する(ステップS22)。
【0049】
次いで、角度検出部3cは、代数nを1増加させる(ステップS23)。この代数nは、測定ポイントPnの座標を求める処理(ステップS24〜S28)が実行された回数を示す変数である。
【0050】
次いで、測定ポイント座標演算部3aは、いずれか1つの測定ポイントPnと光学センサ5との距離Dnを測定する(ステップS24)。
【0051】
次いで、測定ポイント座標演算部3aは、ステップS24で測定された測定ポイントPnに対応する距離Dnの値が所定の下限値Dn(min)以上、かつ所定の上限値Dn(max)以下であるか否かを判定する(ステップS25)。
【0052】
ここで、距離Dnの上限値および下限値について図8に基づいて説明する。車輌には、乗員人数、配置、荷物積載量などによって浮き沈みや傾斜角度(ピッチ角)が生じる。このため、本実施形態では、実際に起こり得る乗車状況や荷物積載状況を考慮し、平坦路での各測定ポイントにおける距離Dnの有効測定範囲を予め設定している。この有効測定範囲を規定する上限値がDn(max)であり、下限値がDn(min)である。例えば本実施形態では、測定ポイントP1における有効測定範囲について、図8に示すように下限値Dn(min)=0.8m、上限値Dn(max)=0.9mと規定している。他の測定ポイントについても同様である。これらの有効測定範囲は予めメモリ4に記憶されている。そして、例えば図示のように測定ポイントP1に対応する距離Dnが有効測定範囲から外れる値(本例では0.75m)であったとすると、この測定ポイントP1には、何らかの障害物30が存在すると判断できる。このように、距離Dnが所定の有効測定範囲から外れた値となった場合には、測定エラーであるとして、この距離Dnの測定結果は除外される。これにより、光軸制御角αの算出精度を高められる。
【0053】
測定ポイントPnに対応する距離Dnの値が所定の下限値Dn(min)以上、かつ所定の上限値Dn(max)以下である場合に(ステップS25;YES)、測定ポイント座標演算部3aは、代数cを1増加させる(ステップS26)。この代数cは、ステップS25における測定データが除外されずに採用された測定ポイントの数を示すものである。
【0054】
次いで、測定ポイント座標演算部3aは、ステップS24で測定された距離Dnに基づいて、測定ポイントPnの座標を計算する(ステップS27)。具体的には、測定ポイントPnにおける座標は、x=Dn・sinθn、y=Dn・cosθnと求められる。
【0055】
次いで、測定ポイント座標演算部3aは、ステップS27において計算した座標(x,y)をメモリ4に格納する(ステップS28)。
【0056】
また、測定ポイントPnに対応する距離Dnの値が所定の下限値Dn(min)以上、かつ所定の上限値Dn(max)以下であるという条件を満たさない場合には(ステップS25;NO)、測定ポイント座標演算部3aは、ステップS26〜S28の各処理を実行しない。
【0057】
次いで、測定ポイント座標演算部3aは、上記した代数nが代数f(測定ポイント数;本例では「7」)と等しいか否かを判定する(ステップS29)。代数nと代数fが等しくない場合には(ステップS29;NO)、まだ座標計算がされていない測定ポイントPnがあるので、測定ポイント座標演算部3aは、上記したステップS23に戻り、以降の処理を実行する。
【0058】
一方、代数nが代数fに等しい場合には(ステップS29;YES)、全ての測定ポイントPnについて座標計算がされたということになる。この場合に、測定ポイント座標演算部3aは、代数cが所定の有効測定ポイント数m以上であるか否かを判定する(ステップS30)。ここでいう有効測定ポイント数mとは、車輌の傾斜角度を一定以上の精度で検出するために必要なデータ数を予め定めたものであり、例えば本実施形態ではm=5と定める。代数cが有効測定ポイント数mに満たない場合、すなわちデータ数が少ない場合には(ステップS30;NO)、車輌の傾斜角度を正確に検出できない可能性があるため、測定ポイント座標演算部3aは、光軸調整が実行されないようにするため、車輌ピッチ検出フラグFlagを「0」に設定する(ステップS34)。
【0059】
一方、代数cが有効測定ポイント数m以上である場合、すなわちデータ数が必要十分である場合には(ステップS30;YES)、角度検出部3cは、メモリ4に格納された角測定ポイントPnの座標に基づいて、上記した一次近似式の傾きaを計算する(ステップS31)。
【0060】
次いで、角度検出部3cは、ステップS31にて計算した傾きaを用いて、光軸制御角αを計算する(ステップS32)。具体的には、光軸制御角αは、上記したように−(a−a)と求められる。この光軸制御角αに基づいて、上記のように光軸制御が実行される。
【0061】
次いで、角度検出部3cは、光軸調整を実行可能とするため、車輌ピッチ検出フラグFlagを「1」に設定する(ステップS33)。また、角度検出部3cは、メモリ4に格納された座標を消去する(ステップS35)。
【0062】
以上のような本実施形態によれば、従来のストロークセンサを用いないため、複雑なサスペンション周りに、センサや取付け部品(リンク等)を設置する必要がなくなり、サスペンション部のレイアウトの自由度が上がる。また、リンク等の特別な取り付け部品も必要ないので製造工程が簡素化され、コスト削減を実現できる。また、原理的に、本実施形態の光軸調整装置は、車輌側方に光を照射し得る適宜な位置(本実施形態ではドアミラー)に取り付けることができ、かつ光出力部および受光部を下向きにして取り付けることができる。このため、上記した特許文献1に開示された光軸自動調整装置の場合のような不都合が生じにくい。したがって、車輌の傾斜角度の算出精度を高め、結果として光軸調整の精度を向上させることが可能となる。
【0063】
なお、本発明は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。
【0064】
例えば、上記した実施形態においては距離測定方式としてTOF(Time Of Flight)法が用いられていたが、採用し得る距離測定方式はこれに限定されない。
【0065】
また、上記した実施形態においては、光軸調整装置の構成としてアクチュエータを含まない旨の説明をしていたが、アクチュエータを含んで光軸調整装置が構成されてもよい。さらに、上記の光軸調整装置と、アクチュエータ、ヘッドランプを含んで車輌用灯具が構成されてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1…光軸調整装置、3…コントロールユニット(演算部)、3a…測定ポイント座標演算部、3b…走行検知部、3c…角度検出部、4…メモリ、5…光学センサ、6…アクチュエータ、7…ヘッドランプ、8…ウォーニングランプ、20…発光素子、21…スリット、22…(第1)レンズ、23…光学フィルタ、24…(第2)レンズ、25…スリット、26…受光素子、30…障害物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輌に設けられたヘッドランプの光軸を調整するための装置であって、
第1方向に延びた光を放射する光出力部と、
前記第1方向に沿って配列された複数の受光素子を有する受光部と、
前記光出力部及び前記受光部の各々と接続された演算部と、
を含み、
前記演算部は、
前記受光部の前記複数の受光素子の各々の出力信号に基づいて、前記光が照射された位置に対応する複数の座標値を算出する座標演算部と、
前記複数の座標値に基づいて車輌の傾斜角度を算出し、当該傾斜角度に基づいて、前記ヘッドランプの光軸を調整するための制御信号を生成する角度検出部と、
を有する、
車輌用灯具の光軸調整装置。
【請求項2】
前記光出力部は、発光素子と、当該発光素子の光出射方向に配置されたスリットとを有する、請求項1に記載の車輌用灯具の光軸調整装置。
【請求項3】
前記発光素子が赤外光を出力する、請求項2に記載の車輌用灯具の光軸調整装置。
【請求項4】
前記角度検出部から出力される前記制御信号に基づいて前記ヘッドランプの光軸を調整するアクチュエータを更に備える、請求項1〜3の何れか1項に記載のヘッドランプの光軸調整装置。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−168225(P2011−168225A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35409(P2010−35409)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】