説明

ヘパリン結合配列に融合した増殖因子を使用して心臓修復を促進する方法

本発明は、ヘパリン結合ペプチドが細胞増殖および生存を促進する増殖因子に融合されているタンパク質に関する。このように形成される化合物は、その後損傷した組織に投与される細胞の表面に結合される。上記増殖因子は、それによって、修復を促進する投与部位に維持される。本発明は、損傷した心臓組織へ移植する前に、IGF−1を心筋に結合するための手順の開発に基づく。IGF−1をヘパリン結合ペプチド(HBP)に結合し、培養細胞の生存に対して有益な効果を維持する融合タンパク質を得ることが可能であることが見いだされた。上記融合タンパク質は、IGF−1単独より良好に心筋に(おそらく、細胞表面ヘパリンに)結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2006年11月13日に出願された米国仮特許出願第60/858,406号に対する優先権、およびその利益を請求する。米国仮特許出願第60/858,406号の内容は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
(発明の分野)
本発明は、細胞の増殖および/または生存を促進するポリペプチドが、ヘパリンに結合するペプチドに融合されているタンパク質に関する。これらタンパク質は、心筋に結合され得、修復の促進を補助するために、損傷した心臓組織に投与され得る。
【背景技術】
【0002】
インスリン様増殖因子−1(IGF−1)は、心筋の増殖および生存を促進するタンパク質である。IGF−1が欠損しているマウスは、心筋梗塞後に増大されたアポトーシスを示す(非特許文献1)のに対して、心筋特異的IGF−1過剰発現は、梗塞後の心筋アポトーシスおよび心室拡張から保護する(非特許文献2;非特許文献3)。IGF−1過剰発現はまた、心臓幹細胞(cardiac stem cell)の数および増殖を増大させ、心筋ターンオーバーの増大および加齢している心臓における機能をもたらす。梗塞後、IGF−1は、心筋へ移植された胚性幹細胞の生着、分化、および機能的改善を促進する(非特許文献4)。さらに、IGF−1の血清レベルは、年配の患者のサブセットにおいて先天性心不全の危険性と逆相関する(非特許文献5)。
【0003】
上記の特徴は、心臓組織に対する損傷を経験した患者(例えば、心筋梗塞を経験した患者)にとって、IGF−1を魅力的な治療剤にする。しかし、IGF−1は、組織中に迅速に拡散する低分子タンパク質である。結果として、長期間にわたる組織損傷の部位に、高濃度のこの因子を維持することは困難である。高い局所濃度を維持するためにとられてきた1つのアプローチは、IGF−1を自己アセンブリする生物学的膜に結合することである(特許文献1を参照のこと)。心筋梗塞のラットモデルを使用して、この膜を新生児心筋に沿って移植する場合、上記移植した細胞の生存および増殖は、非結合IGF−1とともに移植した細胞と比較して改善されていることが見いだされた。従って、上記細胞が損傷した心臓にコロニー形成しかつ機能を改善する能力は、増大される。類似のアプローチを使用して、ポジティブな結果がまた、PDGFを用いて得られた(特許文献2を参照のこと)。これら結果は見込みがありそうであるものの、膜を構築し移植する必要性を避ける代替の手順が望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0088510号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0148703号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Palmenら,Cardiovasc.Res.50:516−524(2001)
【非特許文献2】Liら,J.Clin.Invest.100:1991−1999(1997)
【非特許文献3】Torellaら,Circ.Res.94:514−524(2004)
【非特許文献4】Kofidisら,Stem Cells 22:1239−1245(2004)
【非特許文献5】Vasanら,Ann.Intern.Med.139:642−648(2003)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、損傷した心臓組織へ移植する前に、IGF−1を心筋に結合するための手順の開発に基づく。IGF−1をヘパリン結合ペプチド(HBP)に結合し、培養細胞の生存に対して有益な効果を維持する融合タンパク質を得ることが可能であることが見いだされた。上記融合タンパク質は、IGF−1単独より良好に心筋に(おそらく、細胞表面ヘパリンに)結合する。多くの異なる細胞タイプが、細胞表面ヘパリンを有するので、上記IGF−1/HBPタンパク質を全身に単に注射することが心臓病患者(cardiac patient)に非常に利益があるとは予測されない。しかし、標的化は、移植前に、心筋をIGF−1/HBPとともにインキュベートすることによって達成され得る。より少ない程度に、局在性はまた、上記タンパク質を心臓組織へ直接注射することによって達成され得る。同様のアプローチは、(細胞の移植ありまたはなしで)増殖因子に応答する他の状態(例えば、創傷)を処置するにあたって有用であるはずである。
【0007】
その第1の局面において、本発明は、式:B−(J)−(Z)、または(Z)−(J)−Bを有する化合物に関する。ここでnは、0〜10の整数であり;qは、1〜5の整数であり;Bは、心筋の増殖および/または生存を促進するペプチドであり(例えば、血清を除去させた細胞を用いて測定される場合)、そしてZは、ヘパリン結合ペプチドである。本明細書に記載されるペプチドのすべてを含む当該分野で公知の任意のヘパリン結合ペプチドが使用され得る。Jは、タンパク質新生(proteinogenic amino acid)アミノ酸またはペプチドを一緒にするために使用され得る(例えば、ビオチン/アビジン)のいずれかである。本発明の目的で、すべてのペプチド配列は、N末端(最も左)からC末端(最も右)へ書かれており、別段示されなければ、すべてのペプチドは、「タンパク質新生」アミノ酸(すなわち、それらは、以下のアラニン(A);アルギニン(R);アスパラギン(N);アスパラギン酸(D);システイン(C);グルタミン酸(E);グルタミン(Q);グリシン(G);ヒスチジン(H);イソロイシン(I);ロイシン(L);リジン(K);メチオニン(M);フェニルアラニン(F);プロリン(P);セリン(S);スレオニン(T);トリプトファン(W);チロシン(Y);またはバリン(V)のL体)から作製されている。
【0008】
好ましい実施形態において、上記に示される式の化合物は、Lがタンパク質新生アミノ酸でありかつAがインスリン様増殖因子−1(IGF−1)または血小板由来増殖因子−1(PDGF)のいずれかである融合タンパク質である。ヒトIGF−1の全長配列(GenBankアクセッション番号NM 00618)は、以下のとおりである:
MGKISSLPTQLFKCCFCDFLKVKMHTMSSSHLFYLALCLLTFTSSATAGPETLCGAELVDALQFVCGDRGFYFNKPTGYGSSSRRAPQTGIVDECCFRSCDLRRLEMYCAPLKPAKSARSVRAQRHTDMPKTQKEVHLKNASRGSAGNKNYRM(配列番号1)。しかし、下線を付した配列は、本明細書に記載される手順によれば、心筋増殖および生存の促進に十分であり、IGF−1は、以下のコア配列:PETLCGAELVDALQFVCGPRGFYFNKPTGYGSSIRRAPQTGIVD ECCFRSCDLRRLEMYCAPLKPTKSA(配列番号2)を有すると定義され、そして必要に応じて、配列番号1の配列の任意のさらなる部分を含み得る。例えば、上記C末端は、G、AG、TAGなどで始まり得る。同様に、上記配列番号2のN末端は、配列番号1に従って拡がり得る。従って、上記ペプチドは、R、RS、RSVなどで終わり得る。PDGFの全長アミノ酸配列はまた、当該分野で周知であり(Raoら,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 83:2392−2396(1986)を参照のこと)、そして特に、GenBankアクセッション番号P01127として見いだされ得る。上記で示される式において、nは、好ましくは0であり、qは好ましくは1である。
【0009】
好ましいヘパリン結合ペプチド(すなわち、式中のZ)は、以下である:
KKKRKGKGLGKKRDPCLKKYKG(配列番号3);
RIQNLLKITNLRIKFVK(配列番号4);
PYVVLPRPVCFEKGMNYTVR(配列番号5);
KQNCLSSRASFRGCVRNLRLSR(配列番号6);
KDGRKICLDLQAPLYKKIIKKLLES(配列番号7);
CKNGGFFLRIAPDGRVDGVREK(配列番号8);
YSSWYVALKRTGQYKLGPKTGPGQKAILFLP(配列番号9);
AKLNCRLYRKANKSSKLVSANRLFGDK(配列番号10);
LRKLRKRLLRDADDLQKRLAVYQ(配列番号11);
PLQERAQAAWQERLRARMEEMGSRTRDRLDEVKEQVAERAKL(配列番号12);
KGKMHKTCYY(配列番号13);
MGKMHKTCYN(配列番号14);
PPTIIWKHKGRDVILKKDVRFIVLSNNY(配列番号15);
KKHEAKNWFVGLKKNGSCKRGP(配列番号16);
KGGRGTPGKPGPRGQRGPTGRGERGPRGITGK(配列番号17);
GEFYDLRLKGDK(配列番号18);
HRHHPREMKKRVEDL(配列番号19);
EKTLRKWLKMFKKR(配列番号20);および
AEAAARAAARRAARRAAAR(配列番号21)。
【0010】
本発明はまた、上記に記載される融合タンパク質のいずれかをコードするDNA分子、これらDNA分子を含むベクター、および上記ベクターで形質転換された宿主細胞を包含する。上記宿主細胞は、本明細書に記載される治療方法において使用するための融合タンパク質を生成するために使用され得る。上記DNAはまた、細胞を形質転換するために使用され得、この細胞は、組織損傷の部位において上記融合タンパク質を分泌する。一旦分泌されると、上記タンパク質は、付近にある他の細胞に結合し、それによって、比較的高い局所濃度が維持されるはずである。
【0011】
本発明はまた、上記融合タンパク質もしくは化合物のうちの1種以上を使用して、IGF−1もしくはPDGFに応答性の任意の状態に関して患者を処置するための方法を包含する。一実施形態において、上記化合物または融合タンパク質は、それらを内因性細胞の表面に結合させるために、処置部位に直接投与される。より好ましくは、それらは、組織増殖もしくは修復が必要とされかつこのプロセスを補助するために使用され得る利用可能な細胞が存在する状態を処置するにあたって使用される。これらの場合において、上記化合物または融合タンパク質は、移植前にそれらを結合させるために、上記細胞とともに予めインキュベートされる。特に好ましい方法において、患者は、心筋を、上記化合物または融合タンパク質と、一定の期間にわたって、それらを結合させるに十分な条件下でインキュベートすることによって、損傷した心臓組織(例えば、心筋梗塞に起因する)に関して処置される。次いで、上記細胞は、上記患者の心臓組織に注射または移植される。
【0012】
上記化合物および融合タンパク質はまた、損傷した軟骨を修復するために使用され得る。通常は、IGF−1は、軟骨から拡散し、従って、移植した軟骨細胞に対するその効果は、減少されるかまたは喪失される。移植前に、上記軟骨細胞を、ヘパリン結合IGF−1とともにインキュベートすることによって、上記増殖因子の局所濃度は増大し、結果として、上記軟骨細胞は、より多くの軟骨を作る。
【0013】
ヘパリンに結合するように操作された増殖因子(特に、IGF−1)はまた、ニューロンを修復および再生するために、例えば、神経変性疾患(例えば、ALS)を有する患者において、脳卒中を経験したことがある患者において、または傷害の結果として神経機能を喪失してしまった患者において、移植される細胞に結合され得る。IGF−1は、ALSにおける臨床試験のための候補であり、皮質脊髄運動ニューロンにおける軸索成長を促進することが見いだされた(Ozdinlerら,Nature Neurosci.9:1371−1381(2006))。移植前に上記IGF−1を上記ニューロンに結合させることによって、インビボでのそれらの増殖は、増強される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、傷害が増殖因子(例えば、IGF−1もしくはPDGF)の高い局所濃度を維持することによって促進された後に、組織を回復させるという概念に基づく。当該分野で記載されている実験は、投与部位に治療剤を維持するために、生物学的に適合性の膜を用いてこのアプローチを支援した(US20060088510およびUS20060148703を参照のこと)。増殖因子は、ヘパリン結合ペプチドに融合されかつ心臓組織にこれらを移植する前に心筋に結合され得ることが今や発見された。上記融合されたタンパク質は、その細胞増殖および生存を促進する能力を維持し、生物学的に適合性の膜を作製および使用する必要性なくして、移植部位において維持される。
【0015】
(ペプチドの作製)
上記ヘパリン結合ペプチドを上記治療剤に結合する1つの方法は、非ペプチドリンカーの使用を介してである。例えば、分子を連結するためのビオチンおよびアビジンの使用は、当該分野で周知であり、標準的な方法論が、ヘパリン結合ペプチドを増殖因子(例えば、IGF−1)に結合させるために使用され得る。上記ビオチン/アビジン群とペプチドとの間の立体障害を予防するために、スペーサーがその2つの間に含められ得る。上記スペーサーは、1〜15(好ましくは1〜10)の脂肪酸または1〜15(好ましくは、1〜10)アミノ酸の形態をとり得る。このタイプのスペーサーを組み込むための方法論は、当該分野で周知である。
【0016】
好ましくは、ヘパリン結合ペプチドおよび増殖因子(例えば、IGF−1およびPDGF)は、融合タンパク質の形態で一緒に結合される。融合タンパク質は、化学的二号されるかまたは組換えDNA技術を用いて作製されるかのいずれかであり得る。化学的方法は、標準的なN−tert−ブトキシカルボニル(butyoxycarbonyl)(t−Boc)化学を使用する固相ペプチド合成およびn−メチルピロリドン化学を使用するサイクルを包含する。一旦ペプチドが合成されたら、ペプチドは、逆相カラム上での高速液体クロマトグラフィーのような手順を使用して精製され得る。精製はまた、HPLCによって評価され得、そして正確な組成の存在が、アミノ酸分析によって決定される。
【0017】
(細胞への結合)
心筋または他の細胞は、標準的な手順を使用して得られ得、次いで、上記融合タンパク質を細胞表面に結合させるに十分な期間にわたって、融合組成物または融合タンパク質とともにインキュベートされ得る。上記インキュベーションは、約1時間から数日間、どんな程度にせよ続き得、そして細胞生存(例えば、約37℃で、中性pH、および細胞生存を保証する培養培地中での)を可能にする条件下で実施されるべきである。存在するタンパク質の量は、一般に、上記細胞を被覆するに十分であるべきであるが、正確な量は重要ではない。上記細胞は、シリンジまたはカテーテルによって心臓組織へ投与され得る。使用される細胞の正確な量は重要ではないが、一般に、1×10〜1×10の間が使用される。
【0018】
(薬学的組成物および投与量)
融合タンパク質は、キャリア(例えば、生理食塩水、水、リンゲル溶液および他の薬剤)もしくは賦形剤を含む薬学的組成物に組み込まれ得、そして細胞は、生存性を維持するために標準培地中で維持され得る。調製物は、一般に、特に、心臓組織への移植、注入または注射のために設計されるが、局所処置は、例えば、創傷の処置において有用である。すべての薬学的組成物は、当該分野で標準的な方法を使用して調製され得る(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,第16版、A.Oslo.編,Easton,PA(1980)を参照のこと)。
【0019】
当業者は、臨床医療において十分確立された方法を使用して、症例毎のベースで投与量を調節することが予測される。最適な投与量は、当該分野で公知の方法によって決定され、患者の年齢、疾患状態、および他の臨床的に関連する要因のような要因によって影響を受ける。
【実施例】
【0020】
実施例1:心筋の生存
本実施例は、IGF−1がES由来心筋の生存を改善することを実証し、かつ注射された細胞の生存を改善するように操作された新規なヘパリン結合(HB)−IGF−1融合タンパク質の開発を記載する。
【0021】
(方法および結果)
奇形腫形成を最小にするために、本発明者らは、心筋系統になるように約束されたES細胞を研究した。α−心筋ミオシン重鎖レセプター駆動性の増強緑色蛍光タンパク質(EGFP)で安定にトランスフェクトしたマウスES細胞は、ハンギングドロップ法(hanging drop method)によって心筋へと分化し、EGFP陽性細胞を、蛍光セルソーティングによって精製した。これらES由来心筋において、IGF−1は、血清除去により誘導された細胞死を低下させ(13.6±1.9% 対 コントロールにおいて25.9±2.5%,p<0.05)、血清除去によって誘導されたアポトーシスを減少させた(それぞれ、TUNEL陽性細胞 8.0±1.5%〜4.3±0.5%,p<0.05)。さらに、IGF−1は、ドキソルビシン(1μM,24時間)誘導性またはケレリスチン(chelerythrin)(3μM,1時間)誘導性のアポトーシスを減少させた(p<0.01)。ホスホイノシチド−3キナーゼインヒビターである、LY294002(10μM)は、ドキソルビシン誘導性アポトーシスに対するIGF−1の保護効果を阻害した(p<0.05)。IGF−1が注射した部位から迅速に攪拌するので、本発明者らは、次いで、N末端HBドメインを有する新規な組換えIGF−1融合タンパク質を設計および発現させた。上記タンパク質を、ニッケルアフィニティークロマトグラフィーによって精製し、次いで、酸化的再折りたたみに供して、生物学的活性を回復させた。細胞表面に結合したHB−IGF−1は、ネイティブIGF−1と同程度に強力に、新生児心筋細胞および3T3線維芽細胞におけるIGF−1活性化AtkおよびHB−IGF−1活性化Aktより劇的に良好であった。
【0022】
(結論)
IGF−1は ES由来心筋の生存をインビトロで改善するので、この新たなヘパリン結合IGF−1は、注射した細胞の表面に結合することによって、細胞治療を改善するはずである。このことは、局所的に送達された治療的タンパク質を介して細胞性微小環境を変化させる可能性を実証する。
【0023】
(実施例2:軟骨修復)
この実施例において、本発明者らは、新規なタンパク質ヘパリン結合IGF−1(HB−IGF−1)を設計および精製した。このタンパク質は、ネイティブIGF−1と、ヘパリン結合表皮増殖因子様増殖因子のヘパリン結合ドメインとの融合タンパク質である。HB−IGF−1は、ヘパリンおよび3T3線維芽細胞、新生児心筋細胞、および分化しつつある胚性幹細胞の細胞表面に選択的に結合した。HB−IGF−1は、同一の反応速度でそしてIGF−1の用量依存的に、IGF−1レセプターおよびAktを活性化した。このことは、ヘパリン結合ドメインに起因して、生物学的活性の妥協を示さない。軟骨は、プロテオグリカンが豊富な環境でありかつIGF−1は、軟骨細胞生合成のための公知の刺激であるので、本発明者らは、次いで、軟骨におけるHB−IGF−1の有効性を研究した。HB−IGF−1を、軟骨外植片によって選択的に維持し、IGF−1と比較して、持続した軟骨細胞プロテオグリカン生合成がもたらされた。これらデータは、局所送達のためにIGF−1のような「長距離」増殖因子を操作するストラテジーが、組織修復に有用であり得、全身効果を最小化することを示す。
【0024】
(材料および方法)
(ベクター構築)
ラットIGF−1 cDNAを、プライマー(5’から3’へ) GGACCAGAGGACCCTTTGCG(順方向,配列番号22)およびAGCTGACTTT GTAGGCTTCAGC(逆方向,配列番号23)を用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増殖した。本発明者らは、エキソン3および4をコードする成熟ペプチドIGF−1(70アミノ酸)を使用した(Hameedら,J.Physiol.547:247−254(2003);Shavlakadzeら,Growth Horm IGF Res 15:4−18(2005);Musaroら,Exp Gerontol.42:76−80(2007))。この生成物を、IGF−1のC末端に終止コドン(TAG)を付加するpTrcHis−TOPOベクター(Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)にサブクローニングして、このようにして、Xpressタグ化IGF−1(Xpress−IGF−1)をコードする。HB−IGF−1をコードするために、ラットHB−EGF(AAAAAGAAGAGGAAAGGCAAGGGG TTAGGAAAGAAGAGAGATCCATGCCT TAAGAAATACAAG (配列番号24))のヘパリン結合配列(AA 93−113)は、変異誘発を介して、上記X−pressタグと、IGF−1配列との間に挿入した。
【0025】
増幅を、PfuUltra HF DNAポリメラーゼ(Stratagene,Cedar Creek,TX,USA)で行い、テンプレートプラスミドを、E.coliにおける形質転換の前に、DpnI(New England Biolabs,Beverly,MA,USA)で消化した。すべての配列を、DNA配列決定によって確認した。
【0026】
(タンパク質精製)
Xpress−IGF−1およびHB−IGF−1を、E.coli BL21細胞において発現させ、4lバッチにおいてLB培地中で増殖させた。タンパク質合成を、4時間にわたって、1mM イソプロピルβ−D−チオガラクトシドで誘導し、次いで、細胞を遠心分離によって回収し、溶解緩衝液中で溶解し(6M 塩酸グアニジン、20mM リン酸ナトリウム、500mM NaCl、pH7.8)、ホモジナイズした。最初の精製工程は、融合タンパク質中のポリヒスチジンタグと、Ni−NTA(Invitrogen)とによるアフィニティー精製からなった。Ni−NTA樹脂を、洗浄緩衝液(8M 尿素、500mM NaCl、20mM ホスフェート、pH6.2)で洗浄し、結合したタンパク質をpH4で溶出した。次いで、溶出したタンパク質を、酸化的再折りたたみに供して、生物学的活性を回復させた。上記タンパク質を、4℃で一晩、再折りたたみ緩衝液(50mM Tris、75mM NaCl、100μM 酸化型グルタチオンおよび100μM 還元型グルタチオン,pH7.8)とともにインキュベートした。再折りたたみ後、上記サンプルを、最終精製工程として、0.1% トリフルオロ酢酸に調節し、C18逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)カラム(Delta−Pak C18,Waters,Milford,MA,USA)上に載せた。上記カラムを、0.1% トリフルオロ酢酸中の25%〜40% アセトニトリルの直線勾配に供した。
【0027】
(細胞培養)
心筋細胞の初代培養物を、新生児Sprague Dawleyラットの心室から調製し、7% ウシ胎児血清(Invitrogen)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM,Invitrogen)中で培養し;培地を、24時間後に、無血清培地と交換した。3T3線維芽頤左棒を、10% 新生児仔牛血清(Invitrogen)を含有するDMEM中で培養し、その培地を、実験の24時間前に無血清培地と交換した。マウス胚(ES)細胞を、フィーダー細胞なしで、15% KNOCKOUT SR(Invitrogen)および白血病阻害因子(Chemicon,Billerica,MA,USA)を補充したグラスゴー最小必須培地(Invitrogen)中、ゼラチン被覆ディッシュ上で増殖させた。細胞を、3日ごとに継代した。分化を誘導するために、細胞を、最初に酵素的に分離させ、以前に記載されるように(Takahashiら,Circulation 107:1912−1916(2003))、胚様体形成のためにハンギングドロップとして培養した.分化培地(白血病阻害因子を含まない10% ES細胞適性ウシ胎児血清(ES cell−qualified fetal bovine serum)(Invitrogen)含有)を、添加された。これらES細胞を、心筋への分化後に、緑色蛍光タンパク質(GFP)陽性になった。なぜなら、それらは、α−ミオシン重鎖プロモーター駆動増強GFPベクターで安定にトランスフェクトした。胚様体形成後(7日目)、細胞を、ゼラチン被覆ディッシュにプレートした。
【0028】
(軟骨の回収および培養)
ウシ関節軟骨外移植片(3mm直径、1mm厚のディスク)を、1〜2週齡の仔牛の代替の膝外溝(femoropatellar groove)から回収し、37℃で5% CO 雰囲気中、低グルコースDMEM(10mM HEPES、0.1mM 非必須アミノ酸、0.4mM L−プロリン、20μg/ml アスコルビン酸、100U/ml ペニシリンおよび100μg/ml ストレプトマイシンを含有)中で培養した。
【0029】
(タンパク質分析)
新生児心筋細胞および3T3線維芽細胞を、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)(1% Triton−X、0.25% デオキシコール酸ナトリウム、1mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、1mM フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)、1mM NaF、1mM NaVOおよび1:1000 プロテアーゼインヒビターカクテル(Sigma,St.Louis,MD,USA)を含有する)を使用して溶解した。軟骨ディスクを粉砕し、100mM NaCl、50mM Tris、0.5% Triton−X、5mM EDTA、1mM PMSFおよび1:1000 プロテアーゼインヒビターカクテル(Sigma)で溶解した。タンパク質濃度を、Bradfordアッセイによって測定し、10μgタンパク質を、ウェスタンブロット分析のために各ウェル中に載せた。類似のGAG含有量を、DMMB色素結合によって測定される場合、すべてのサンプル中で観察した。抗Xpress抗体(Invitrogen)、抗ポリクローナルIGF−1抗体(Abcam,Cambridge,MA,USA)、抗ホスホ−IGF−1レセプター抗体(Cell Signaling,Danvers,MA,USA)、抗ホスホ−Akt抗体(Cell Signaling)および抗アクチン抗体(Sigma)を使用した。IGF−1を、コントロールタンパク質としてSigmaから購入した。
【0030】
酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)によって上記融合タンパク質を検出するために、96ウェルプレートを、抗Xpress抗体(10μg/ml)で一晩被覆した。軟骨抽出物由来のタンパク質の同一の量を、各ウェルに添加した。ポリクローナルIGF−1抗体を、一次抗体として使用し、抗ウサギ西洋ワサビペルオキシダーゼ(Bio−Rad,Hercules,CA, USA)を、二次抗体として使用した。ABTSペルオキシダーゼ基質(KPL,Gaithersburg,MD,USA)の添加後に、プレートを、405nmで読み取った。
【0031】
(結合アッセイ)
ヘパリンアガロースビーズ(Sigma)を、300pmol HB−IGF−1またはXpress−IGF−1とともに、2時間にわたってインキュベートし、PBSで3回洗浄した。ヘパリンアガロースビーズと結合した融合タンパク質を、SDS−PAGEサンプル緩衝液(Invitrogen)と膚脹させることによって抽出した。3T3線維芽細胞または新生児ラット心筋を、100nM HB−IGF−1またはコントロールIGF−1(Sigma)とともに、2時間にわたってインキュベートし、次いで、PBSで3回洗浄した。上記細胞を、溶解緩衝液と溶解し、次いで、抗IGF−1抗体を用いてウェスタンブロット分析に供した。胚様体(分化を誘導して10日間後)を、融合タンパク質とともに2時間にわたってインキュベートし、PBSで3回洗浄し、抗Xpress抗体による免疫組織化学の前に、パラホルムアルデヒドで固定した。軟骨ディスクを、無血清DMEM(500nM HB−IGF−1または500nM Xpress−IGF−1のいずれかを補充した)中で培養した。48時間後(0日目)、ディスクをPBSで3回洗浄し、次いで、IGF−1なしのDMEM中でインキュベートした。ディスクを、0日目、1日目、2日目および4日目に回収した。軟骨抽出物中に残っているタンパク質を、ウェスタンブロット分析およびELISAによって検出した。
【0032】
(軟骨生合成アッセイ)
軟骨細胞プロテオグリカン合成を、以前に記載されたように(Sahら,J.Orthop.Res.7:619−636(1989))、[35S]スルフェート(PerkinElmer,Waltham,MA,USA)の組み込みによって測定した。軟骨ディスクを、無血清培地中で1日間にわたって平衡化し、100nM HB−IGF−1、Xpress−IGF−1またはコントロールIGF−1(Sigma)を含む培地中で2日間にわたってインキュベートした。次に、上記ディスクを、PBSで3回洗浄し、IGF−1非含有培地に変更した。培養したディスクを、5μCi/ml[35S]スルフェートで、培養の最後の24時間にわたって放射性標識した。標識後、各ディスクを、4℃の1.0mlのPBS(0.8mM プロリンおよび1mM NaSO含有)中で3回洗浄して、遊離の放射性標識を除去した。ディスクを、1.0mlのプロテイナーゼK(0.1M NaSO、5mM EDTAおよび5mM システイン(pH6.0)中に、125μg/ml)中で消化した。サンプルを、20μlの消化物と、180μlのHoechst色素33258(24)との反応によって、蛍光測定分析によってDNA含有量について分析した。次いで、上記消化物の[35S]スルフェート含有量を、あふれ出し(spillover)および消滅について較正したシンチレーションカウンター(Wallac MicroBeta TriLux,PerkinElmer,Waltham,MA,USA)で測定した。
【0033】
(統計分析)
統計分析を、受容レベルα=0.05でスチューデントt検定によって行った。t検定を、α=1−(1−α1/n(ここでα=0.05およびn=比較総数)を使用してマルチ比較に関して較正した。すべてのデータを、平均±SEとして表した。
【0034】
(結果)
(HB−IGF−1の精製)
IGF−1は、3つのジスルフィド結合を有し、そして70アミノ酸を含む。上記IGF−1融合タンパク質は、タンパク質精製のためのポリヒスチジンタグおよびタンパク質検出のためのXpressタグの両方を含む。HB−IGF−1およびXpress−IGF−1の分子量は、それぞれ、14,018Daおよび11,548Daである。HB−IGF−1は、IGF−1のN末端にHBドメインを含む。上記HBドメインは、21アミノ酸を有し、そして12個の正に荷電したアミノ酸を含む。折りたたみ後の上記新たな融合タンパク質の最後の精製を、RP−HPLCで行った。正確に折りたたみされたタンパク質の同定を、以前に記載されたように行い(Milnerら,Biochem.J.308(Pt 3):865−871(1995))、生体活性アッセイで確認した。クマシーブルー染色、およびRP−HPLC後の上記再折りたたみされたIGF−1タンパク質の抗Xpress抗体によるウェスタン分析によって、単一のバンドであることが明らかになった。
【0035】
(HB−IGF−1はヘパリンおよび細胞表面に結合する)
本発明者らは、HB−IGF−1がヘパリンに選択的に結合するか否かを最初に試験した。ヘパリンアガロースビーズと300pmol HB−IGF−1もしくはXpress−IGF−1との2時間のインキュベーションの後に、結合したタンパク質を、煮沸することによりビーズから抽出した。ヘパリンアガロースビーズの結合タンパク質のクマシーブルー染色は、HB−IGF−1が、Xpress−IGF−1と比較して、ヘパリンに選択的に結合することを示した。次に、本発明者らは、3T3線維芽細胞および新生児ラット心筋細胞を用いて、HB−IGF−1が、ヘパリン硫酸プロテオグリカンを有する細胞表面に結合する能力を試験した。0〜100nMのHB−IGF−1での2時間にわたる前処置の後、細胞をPBSで3回洗浄した。これら実験に関して、市販のIGF−1をコントロールとして使用した。HB−IGF−1は、10nMおよび100nMの濃度で処理した場合に、3T3線維芽細胞に結合した。新生児心筋細胞に結合するHB−IGF−1は、10nMおよび100nMのHB−IGF−1の明らかな選択的結合および100nMのIGF−1に非常に弱いバンドを示した。これら結果は、マイクロモル濃度範囲未満のへパリンに対するこのHBドメインの結合と一致する。本発明者らはまた、複数の細胞タイプを含む胚様体において、HB−IGF−1が胚性幹細胞に結合する能力を研究した。HB−IGF−1を、Xpressエピトープタグに対する免疫蛍光によって、胚様体中の細胞の表面上で容易に検出した。このことは、HB−IGF−1が複数の細胞タイプに結合し得ることを示している。
【0036】
(HB−IGF−1生体活性)
上記HBドメインが生体活性と干渉するか否かを決定するために、IGF−1レセプターリン酸化およびAkt活性化に対する生体活性を、行った。コントロールIGF−1、HB−IGF−1およびXpress−IGF−1はすべて、用量依存的に新生児心筋細胞のIGF−1レセプターを活性化し、等しくAktリン酸化を誘導した。コントロールIGF−1、HB−IGF−1およびXpress−IGF−1はすべて、類似の時間過程内でAktを活性化した。これらデータは、上記ヘパリン結合ドメインの付加が、IGF−1の生体活性を妨げないことを実証する。
【0037】
(軟骨におけるHB−IGF−1輸送)
軟骨は、プロテオグリカンが豊富な組織であり、軟骨細胞は、増大した細胞外マトリクス合成とともに、IGF−1に応答する。IGF−1シグナル伝達の長期の局所刺激は、従って、軟骨修復にとって有益であり得るので、本発明者らは、HB−IGF−1が軟骨に結合する能力を研究した。等しい大きさにしたウシ関節軟骨ディスクを、1日間、3日間または6日間にわたって、500nM HB−IGF−1またはXpress−IGF−1とともにインキュベートしたところ、この期間に軟骨に拡散したIGF−1タンパク質の量に何ら差異はなかった。HB−IGF−1またはXpress−IGF−1とともに48時間プレインキュベートした後、軟骨ディスクを、0日目にPBSで洗浄し、同様の量のIGF−1を検出した。しかし、IGF−1タンパク質を除去してから1日目、2日目、および4日目に、HB−IGF−1のみが軟骨内に残った。このことは、HB−IGF−1が、上記プロテオグリカンが豊富な細胞外マトリクスに結合したことを示唆する。対照的に、Xpress−IGF−1は、洗浄してから1日目ですら検出不能であった。本発明者らはまた、軟骨抽出物およびELISA測定で、この選択的結合実験を行った。これら結果は、HB−IGF−1が軟骨によって選択的に保持される一方で、Xpress−IGF−1は迅速に喪失することを確認した。
【0038】
(HB−IGF−1は、軟骨細胞生合成を増大させる)
軟骨へのHB−IGF−1の選択的保持は、この融合タンパク質が、軟骨細胞生合成に関する持続した刺激を送達し得ることを示唆する。従って、本発明者らは、[35S]スルフェートの組み込みによる細胞外マトリクスプロテオグリカンの軟骨細胞生合成を測定した。軟骨ディスクを、100nM HB−IGF−1、コントロールIGF−1またはXpress−IGF−1とともに、2日間インキュベートし、そしてPBSで3回洗浄し、続いて、IGF−1を含まない培地中で培養した。[35S]スルフェート組み込みを、0日目(洗浄前)、2日目(洗浄直後)、4日目、6日目および8日目に始めて、24時間にわたって測定した。0日目のIGF−1構築物とのインキュベーションの間、コントロールIGF−1、Xpress−IGF−1およびHB−IGF−1群はすべて、予測どおり、プロテオグリカン合成を刺激した。しかし、洗浄後、コントロールIGF−1もXpress IGF−1も、4日目以降は、プロテオグリカン合成を刺激しなかった。対照的に、HB−IGF−1は、6日間にわたってプロテオグリカン合成の持続した刺激をもたらした。プロテオグリカン合成は、2日目、4日目、および6日目に、Xpress−IGF−1に対して、HB−IGF−1とともにインキュベートした軟骨において有意に高かった。これらデータは、HB−IGF−1(これは、軟骨中で選択的に保持される)が、より持続した期間にわたって、軟骨細胞生合成を刺激することを実証する。
【0039】
(考察)
IGF−1の局所送達は、組織修復および再生を改善すると同時に、全身の有害な効果を最小にする可能性を有する。この実施例において、本発明者らは、プロテオグリカンが豊富な組織および細胞表面に結合するが、IGF−1と同じ生体活性を有する新規なIGF−1タンパク質であるHB−IGF−1を記載する。本発明者らのデータは、HB−IGF−1がIGF−1レセプターおよびAktを活性化し得るので、上記ヘパリン結合ドメインは、IGF−1およびそのレセプターの相互作用を妨害しないことを示す。IGF−1は、4つのドメインを有する:Bドメイン(AA1−29)、Cドメイン(AA30−41)、Aドメイン(AA42−62)およびDドメイン(AA63−70)(上記Cドメインは、IGF−1レセプターへの結合において最も重要な役割を果たす)。Cドメイン全体の置換は、IGF−1レセプターに対するアフィニティーにおいて30分の1への低下を引き起こす。従って、IGF−1のN末端への上記ヘパリン結合ドメインの付加は、IGF−1 Cドメインとの相互作用を妨害するとは認められない。
【0040】
細胞外マトリクスおよび細胞表面はともに、プロテオグリカンが豊富であり、プロテオグリカン結合増殖因子のためのレザバとして働き得る。伝統的な例は、線維芽細胞増殖因子−2(FGF−2)系(プロテオグリカンレセプターの低アフィニティー、高収容力プールがその高いアフィニティーレセプターのためのFGF−2のレザバとして働き得る)である。本発明者らの実験は、HB−IGF−1は細胞表面上に選択的に保持されるので、HB−IGF−1が、類似の様式でいくつかの環境で機能し得ることを示唆する。IGF−1はまた、IGF結合タンパク質(IGFBP)を介して細胞外マトリクスと結合し得る;循環中において、IGF−1の少なくとも99%は、IGFBP(IGFBP−1からIGFBP−6)に結合される。
【0041】
IGF−1は、軟骨細胞外マトリクスの合成を促進し得、軟骨分解を阻害し得る(Bonassarら,Arch.Biochem.Biophys.379:57−63(2000));しかし、軟骨へのIGF−1送達の実際の様式は、未だ開発されている(Schmidtら,Osteoarthritis Cartilage 14:403−412(2006))。ヘパラン流酸プロテオグリカンは、軟骨の細胞周囲マトリクスにおいて、特に、パールカンおよびシンデカン−2上の鎖として優勢であり、FGF−2のような他のリガンドを結合することが公知である。本発明者らの実験は、HB−IGF−1タンパク質は、マトリクスと結合し得、軟骨細胞に対して局所的な長期のバイオアベイラビリティーを増大させ得るので、軟骨修復を改善し得ることを示唆している。
【0042】
軟骨に加えて、HB−IGF−1は、他の組織における使用に関する可能性を有する。例えば、IGF−1は、PC12細胞および皮質脊髄運動ニューロンの軸索成長を誘導し、よって、IGF−1は、運動ニューロン変性疾患に有益であり得る。表皮創傷治癒において、IGF−1はまた有効である。なぜなら、IGF−1はコラーゲン合成、ならびに線維芽細胞およびケラチノサイトの有糸分裂促進を刺激するからである。HB−IGF−1が細胞の表面に結合する能力は、細胞治療および他の再生ストラテジーを増強し得る。
【0043】
本明細書に引用されるすべての参考文献は、十分に参考として援用される。今や十分に本発明を記載したが、本発明が、広くかつ等しい範囲の条件内、パラメーターなどの範囲内で本発明の趣旨および範囲からも本発明のいずれの実施形態からも逸脱することなく実施され得ることは、当業者によって理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:B−(J)−(Z)、または(Z)−(J)−Bを有する化合物であって、
ここで:
Bは、心筋の増殖および/または生存を促進するペプチドであり;
Jは、タンパク質新生アミノ酸またはリンカーであり;
Zは、ヘパリン結合ペプチドであり;
nは、0〜10の整数であり;そして
qは、1〜5の整数である、
化合物。
【請求項2】
前記化合物は、Jがタンパク質新生アミノ酸でありかつBがインスリン様増殖因子−1(IGF−1)もしくは血小板由来増殖因子(PDGF)のいずれかである融合タンパク質である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Zは、以下からなる群:
KKKRKGKGLGKKRDPCLKKYKG(配列番号3);
RIQNLLKITNLRIKFVK(配列番号4);
PYVVLPRPVCFEKGMNYTVR(配列番号5);
KQNCLSSRASFRGCVRNLRLSR(配列番号6);
KDGRKICLDLQAPLYKKIIKKLLES(配列番号7);
CKNGGFFLRIAPDGRVDGVREK(配列番号8);
YSSWYVALKRTGQYKLGPKTGPGQKAILFLP(配列番号9);
AKLNCRLYRKANKSSKLVSANRLFGDK(配列番号10);
LRKLRKRLLRDADDLQKRLAVYQ(配列番号11);
PLQERAQAAWQERLRARMEEMGSRTRDRLDEVKEQVAERAKL(配列番号12);
KGKMHKTCYY(配列番号13);
MGKMHKTCYN(配列番号14);
PPTIIWKHKGRDVILKKDVRFIVLSNNY(配列番号15);
KKHEAKNWFVGLKKNGSCKRGP(配列番号16);
KGGRGTPGKPGPRGQRGPTGRGERGPRGITGK(配列番号17);
GEFYDLRLKGDK(配列番号18);
HRHHPREMKKRVEDL(配列番号19);
EKTLRKWLKMFKKR(配列番号20);および
AEAAARAAARRAARRAAAR(配列番号21)
より選択される、請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
n=0である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
q=1である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1項に記載の融合ペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、DNA分子。
【請求項7】
損傷した心臓組織を有する患者を処置するための方法であって、該方法は、
a)心筋を、請求項1に記載の化合物とともに、一定の時間にわたってかつ該化合物が該心筋に結合することを可能にするに十分な条件下でインキュベートする工程;
b)工程a)の該インキュベートした心筋を、該患者の該心臓組織に注射または移植する工程、
を包含する、方法。
【請求項8】
前記化合物は、Jがタンパク質新生アミノ酸でありかつBがインスリン様増殖因子−1(IGF−1)もしくは血小板由来増殖因子(PDGF)のいずれかである融合タンパク質である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記融合タンパク質のZは、以下からなる群:
KKKRKGKGLGKKRDPCLKKYKG(配列番号3);
RIQNLLKITNLRIKFVK(配列番号4);
PYVVLPRPVCFEKGMNYTVR(配列番号5);
KQNCLSSRASFRGCVRNLRLSR(配列番号6);
KDGRKICLDLQAPLYKKIIKKLLES(配列番号7);
CKNGGFFLRIAPDGRVDGVREK(配列番号8);
YSSWYVALKRTGQYKLGPKTGPGQKAILFLP(配列番号9);
AKLNCRLYRKANKSSKLVSANRLFGDK(配列番号10);
LRKLRKRLLRDADDLQKRLAVYQ(配列番号11);
PLQERAQAAWQERLRARMEEMGSRTRDRLDEVKEQVAERAKL(配列番号12);
KGKMHKTCYY(配列番号13);
MGKMHKTCYN(配列番号14);
PPTIIWKHKGRDVILKKDVRFIVLSNNY(配列番号15);
KKHEAKNWFVGLKKNGSCKRGP(配列番号16);
KGGRGTPGKPGPRGQRGPTGRGERGPRGITGK(配列番号17);
GEFYDLRLKGDK(配列番号18);
HRHHPREMKKRVEDL(配列番号19);
EKTLRKWLKMFKKR(配列番号20);および
AEAAARAAARRAARRAAAR(配列番号21)
より選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記融合タンパク質においてn=0である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記融合タンパク質においてq=1である、請求項9または10のいずれか1に記載の方法。
【請求項12】
前記心筋は、胚性幹細胞由来である、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記心臓組織損傷は、心筋梗塞の結果である、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
損傷した軟骨を修復するために患者を処置するための方法であって、該方法は、
a)軟骨細胞を、請求項1に記載の化合物と、一定の期間にわたってかつ該化合物が該軟骨細胞に結合するに十分な条件下でインキュベートする工程;および
b)工程a)の該インキュベートした軟骨細胞を、軟骨損傷の部位に注射または移植する工程
を包含する、方法。
【請求項15】
前記化合物は、Jがタンパク質新生アミノ酸でありかつBはインスリン様増殖因子−1(IGF−1)もしくは血小板由来増殖因子(PDGF)のいずれかである融合タンパク質である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記融合タンパク質におけるZは、以下からなる群:
KKKRKGKGLGKKRDPCLKKYKG(配列番号3);
RIQNLLKITNLRIKFVK(配列番号4);
PYVVLPRPVCFEKGMNYTVR(配列番号5);
KQNCLSSRASFRGCVRNLRLSR(配列番号6);
KDGRKICLDLQAPLYKKIIKKLLES(配列番号7);
CKNGGFFLRIAPDGRVDGVREK(配列番号8);
YSSWYVALKRTGQYKLGPKTGPGQKAILFLP(配列番号9);
AKLNCRLYRKANKSSKLVSANRLFGDK(配列番号10);
LRKLRKRLLRDADDLQKRLAVYQ(配列番号11);
PLQERAQAAWQERLRARMEEMGSRTRDRLDEVKEQVAERAKL(配列番号12);
KGKMHKTCYY(配列番号13);
MGKMHKTCYN(配列番号14);
PPTIIWKHKGRDVILKKDVRFIVLSNNY(配列番号15);
KKHEAKNWFVGLKKNGSCKRGP(配列番号16);
KGGRGTPGKPGPRGQRGPTGRGERGPRGITGK(配列番号17);
GEFYDLRLKGDK(配列番号18);
HRHHPREMKKRVEDL(配列番号19);
EKTLRKWLKMFKKR(配列番号20);および
AEAAARAAARRAARRAAAR(配列番号21)
より選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記融合タンパク質においてn=0である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記融合タンパク質においてq=1である、請求項16または17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
損傷した神経組織を修復するために患者を処置するための方法であって、該方法は、
a)ニューロンを、請求項1に記載の化合物とともに、一定時間にわたってかつ該化合物が該ニューロンに結合することを可能にするに十分な条件下でインキュベートする工程;および
b)工程a)の該インキュベートしたニューロンを、神経組織損傷の部位に注射または移植する工程
を包含する、方法。
【請求項20】
前記化合物は、Jがタンパク質新生アミノ酸でありかつBがインスリン様増殖因子−1(IGF−1)または血小板由来増殖因子−1(PDGF)のいずれかである融合タンパク質である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記融合タンパク質におけるZは、以下からなる群:
KKKRKGKGLGKKRDPCLKKYKG(配列番号3);
RIQNLLKITNLRIKFVK(配列番号4);
PYVVLPRPVCFEKGMNYTVR(配列番号5);
KQNCLSSRASFRGCVRNLRLSR(配列番号6);
KDGRKICLDLQAPLYKKIIKKLLES(配列番号7);
CKNGGFFLRIAPDGRVDGVREK(配列番号8);
YSSWYVALKRTGQYKLGPKTGPGQKAILFLP(配列番号9);
AKLNCRLYRKANKSSKLVSANRLFGDK(配列番号10);
LRKLRKRLLRDADDLQKRLAVYQ(配列番号11);
PLQERAQAAWQERLRARMEEMGSRTRDRLDEVKEQVAERAKL(配列番号12);
KGKMHKTCYY(配列番号13);
MGKMHKTCYN(配列番号14);
PPTIIWKHKGRDVILKKDVRFIVLSNNY(配列番号15);
KKHEAKNWFVGLKKNGSCKRGP(配列番号16);
KGGRGTPGKPGPRGQRGPTGRGERGPRGITGK(配列番号17);
GEFYDLRLKGDK(配列番号18);
HRHHPREMKKRVEDL(配列番号19);
EKTLRKWLKMFKKR(配列番号20);および
AEAAARAAARRAARRAAAR(配列番号21)
より選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記融合タンパク質においてn=0である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記融合タンパク質においてq=1である、請求項21または22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記損傷した神経組織は、神経変性疾患、脳卒中または傷害の結果である、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記損傷した神経組織は、ALSの結果である、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
前記ニューロンは、皮質脊髄運動ニューロンである、請求項19に記載の方法。

【公表番号】特表2010−508845(P2010−508845A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536294(P2009−536294)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際出願番号】PCT/US2007/023527
【国際公開番号】WO2008/063424
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(504412945)ザ ブライハム アンド ウイメンズ ホスピタル, インコーポレイテッド (54)
【Fターム(参考)】