説明

ベルトの製造方法

【課題】延び難く周長の変化が少ないベルトの製造方法を提供する。
【解決手段】ベルトの製造方法が、結晶性熱可塑樹脂で形成された繋ぎ目の無いシームレス状の基体を、周方向にテンションが加わるように張架した状態で、式(1)に示す熱処理温度(Te1)で保持する熱処理工程を有する。
Tg≦Te1≦Ts (1)
(Tg:熱可塑性樹脂のガラス転移点、Te1:熱処理温度、Ts:熱可塑性樹脂の軟化点)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置に用いるベルト、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、画像形成装置として、電子写真方式のプリンタや複写機、及びインクジェット方式のプリンタ等がある。これらの画像形成装置に具備されている中間転写ベルトや紙搬送ベルトは、周状の基体とその表面に機能層を有するベルトである。周状の基体の製造方法としては、シート状フィルムを熱溶着でつなぎ合わせる方法、および、ブロー成形法等がある。また、周状の基体の表面に形成される機能層としては、塗料が加熱することや発熱をともなう反応により固化され形成される導電層、抵抗層、高摩擦係数層、低摩擦係数層等がある(例えば、特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−282260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記の方法により、製造される周状の基体は各々課題を有している。例えば、溶着部材を用いてシート状フィルム両端を熱溶着でつなぎ合わせる方法により製造される周状の基体は、つなぎ目の段差及び引っ張り強度の低下が問題となる。そのため、この周状の基体と機能層とを有するベルトを用いた中間転写ベルトや紙搬送ベルトは、つなぎ目部分が破断しやすくなる。さらに、このベルトを用いた中間転写ベルトは、この厚さの段差部分で、適切なトナー転写ができないことがある。
【0005】
また、ブロー成形法で製造される周状の基体は、ヤング率が小さく伸び易い。そのため、この周状の基体と機能層とを有するベルトを用いた中間転写ベルトは、伸び易く周長が変わってしまう。さらに、この周状の基体は、耐熱温度も低いため、周状の基体の表面に機能層を形成する際に加わる熱ストレスにより、熱収縮を引き起こす。そのため、機能層が周状の基体表面に強い密着強度を持った層とならないことがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するために以下の形態、又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
本適用例のベルトの製造方法は、結晶性熱可塑樹脂で形成された周状の基体を前記基体の周方向にテンションが加わるように張架した状態で、式(1)に示す熱処理温度(Te1)で熱処理する熱処理工程を有することを特徴とする。
Tg≦Te1<Ts (1)
(Tg:熱可塑性樹脂のガラス転移点、Te1:熱処理温度、Ts:熱可塑性樹脂の軟化点)
【0008】
この製造方法によれば、結晶性熱可塑樹脂で形成された基体が上記の熱処理工程において周方向にテンションが加わるように張架した状態で熱処理される。この結果、基板を構成する分子は周方向に延伸して配向する。つまり、上記熱処理工程を経ることで、基体のヤング率は大きくなる。そして、基体のヤング率が大きいため、延び難く周長の変化が少ないベルトが得られる。なお、基体を結晶性熱可塑樹脂の軟化点未満の温度で熱処理するため、基体が溶融することは無い。したがって、熱処理工程中に基体が切れることはない。
【0009】
[適用例2]
本適用例のベルトの製造方法は、結晶性熱可塑樹脂で形成された周状の基体を前記基体の周方向にテンションが加わるように張架した状態で、式(2)に示す熱処理温度(Te2)で熱処理する熱処理工程と、前記熱処理された前記基体の少なくとも一表面に導電層を形成する導電層形成工程と、前記導電層の表面に抵抗層を形成する抵抗層形成工程とを有し、且つ、前記導電層形成工程および前記抵抗層形成工程の少なくとも一方は、前記導電層および前記抵抗層の少なくとも一方を式(2)に示す固化温度(Tc)で固化する固化工程を有することを特徴とする。
Tg≦(Tc+10度)≦Te1<Ts (2)
(Tg:熱可塑性樹脂のガラス転移点、Tc:固化時の温度(固化温度)、Te1:熱処理温度、Ts:熱可塑性樹脂の軟化点)
【0010】
この製造方法によれば、結晶性熱可塑樹脂で形成された基体が上記の熱処理工程において周方向にテンションが加わるように張架した状態で熱処理される。この結果、基体を構成する分子は周方向に延伸して配向する。つまり、上記熱処理工程を経ることで基体のヤング率が大きくなる。そして、基体のヤング率が大きいため、延び難くて周長の変化が少ないベルトが得られる。なお、基体を結晶性熱可塑樹脂の軟化点未満の温度で熱処理するため、基体が溶融することは無い。したがって、熱処理工程中に基体が切れることはない。
【0011】
また、上記製造方法によれば、基体の幅方向は、固化温度より高い温度の熱ストレスを受けて収縮するため、導電層または抵抗層を形成する際に受ける熱ストレスによる熱収縮が少なくなる。そのため、基体の収縮に起因する内部応力の発生が小さく抑えられることにより、基体と導電層の密着強度が大きく、基体から導電層および導電層上の抵抗層が剥れ難い。
【0012】
[適用例3]
また、上記適用例1または2であって、前記熱処理工程の前の前記基体は、前記基体に繋ぎ目が生じないように、前記結晶性熱可塑樹脂から前記周状に成形されている。
【0013】
基体の形状を周状とするために繋ぎ目を設ける場合には、繋ぎ目での破断が生じ得る。しかしながら、上記構成によれば基体に繋ぎ目がないことからそのような破断が生じず、そしてこのため、切れ難いベルトが得られる。
【0014】
[適用例4]
好ましくは、前記熱処理工程の前の前記周状の基体は、前記基体に繋ぎ目が生じないように、ブロー成形、押出成形、およびインフレーション成形のいずれか一つによって前記結晶性熱可塑性樹脂から前記周状に成形されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施例を図面に従って説明する。なお、以下に述べる実施例では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされている。しかし、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【実施例1】
【0016】
まず、基体について、一例であるコールドパリソン法ブロー成形により形成した例を挙げて説明する。このコールドパリソン法ブロー成形の成形工程は、パリソン射出成形工程と、パリソン加熱工程と、ブロー成形工程と、両端部除去工程とを有する。図1はパリソン射出成形工程図であり、射出成形機11でパリソン12を成形する。そのために、図1に示す材料ホッパー13内に、基体の材料である結晶性熱可塑樹脂14を補給する。結晶性熱可塑樹脂14は、ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、PETという)、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂または、これらの樹脂を含む樹脂組成物が好ましい。実施例1で使用した結晶性熱可塑樹脂14は、PETで帝人化成製TR8550である。補給した結晶性熱可塑樹脂14は、ヒーター(図示せず)を有する加熱シリンダー15内に供給され、加熱溶融される。溶融した結晶性熱可塑樹脂14は、押出スクリュー16の回転によって混練、計量され、固定ダイスプレート17のダイス部より圧縮、射出され、金型18内に注入される。結晶性熱可塑樹脂14は、金型18内でパリソン12に成形される。このような射出成形で成形されたパリソン12は、厚さが均一であり、基体の厚さの均一性が優れる一因である。
【0017】
図2はパリソン加熱工程図であり、パリソン12は、ヒーター21を有する加熱炉(図示せず)で、矢印で示すように回転しながら、ガラス転移点以上の所望の温度に加熱される。この加熱温度は、結晶性熱可塑樹脂の材質、パリソンの形状、ブロー成形金型形状、及びブロー成形条件に応じて適時設定される。加熱炉(図示せず)は、両側にヒーター21が配設され、パリソンが移動し加熱されるタイプが作業性や加熱安定性の観点から好ましい。しかし、この限りではない。
【0018】
図3はブロー成形工程を説明する図であり、(a)はパリソン供給時状態図、(b)ブロー成形初期状態図、(c)はブロー成形完了状態図である。所望の温度に加熱されたパリソン12を図3(a)に示すブロー金型31に搭載する。その後、図3(b)で示す延伸ロッド32がパリソン12の底を押すことにより、パリソン12は縦方向に延伸する。それと同時に、パリソン12に高圧の気体を流入させることにより、パリソン12は、図3(b)及び図3(c)に示す矢印方向へ膨張する。パリソン12は、図3(c)に示す状態まで延伸及び膨張し、ブロー金型31の内壁に倣ったボトル状のブロー成形物(以下、ブロー成形物33という)になる。ブロー金型31はハイス鋼を使用し、内壁は鏡面加工されている。そのため、ブロー金型31の内壁に倣った形状に延伸及び膨張したブロー成形物33は、異常な凹凸がない表面になり、基体の表面の平滑性が優れる一因となる。また、ブロー金型31の内部や延伸ロッド32の温度は、結晶性熱可塑樹脂14のガラス転移点以上の所望温度に保たれている。上記条件のブロー成形工程にて、パリソン12は、縦方向及び周方向に、約4倍の倍率で延伸及び膨張される。ただし、延伸及び膨張の倍率はこの限りではなく、結晶性熱可塑樹脂の材質、パリソンの形状、ブロー成形金型形状、及びブロー成形条件に応じて適時設定される。
【0019】
図4は両端部除去工程を説明する図であり、(a)は切断位置図、(b)は基体の概略図である。ブロー成形物33は、図4(a)に示す破線の略位置で、両端が超硬合金製スリーター刃や超音波カッターなどにより切断される。切断後の基体41は、図4(b)に示すように周状であり、しかも基体41には繋ぎ目がない(シームレス)。上記の方法で形成され、本実施形態で用いた基体41は、材質がPET、厚さが約100μm、径(Φ41)が約200mm、及び幅(W41)が約300mmである。しかし、材質はPETに限定されない。また、厚さ、径(Φ41)及び幅(W41)もこの寸法に限定されない。
【0020】
基体41の成形方法は、ブロー成形以外に、押出成形やインフレーション成形であってもよく、これらの成形方法によっても、繋ぎ目が生じないように基体41を周状に成形できる。しかし、基体の成形物の厚さが約50μmから約200μmまでのものを所望する場合は、厚さの均一性という観点から、ブロー成形がより好ましい。また、ブロー成形の中でも、コールドパリソン法ブロー成形がより好ましい。
【0021】
基体41の熱処理工程について説明する。図5は熱処理治具の要部を説明する図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。図5に示す熱処理治具50は、一対の両端に軸51を有するローラー52と、一対のサイドフレームユニット53とを有する。ローラー52は、軸51の部分で軸受(図示せず)を介してサイドフレームユニット53に脱着可能な状態で配設されている。また、ローラー52は、軸51がモーター(図示せず)などに連結されていて、任意の速度で回転可能な状態になっている。2つのローラー52の軸間距離L52は、サイドフレームユニット53の距離調整部(詳細説明は後述)により、精度良く調整できる。ローラー52は、アルミニューム、ステンレス、黄銅、鉄などの材質であり、表面を鏡面加工したローラーである。ローラー52の材質は熱伝導性の良いアルミニュームが好ましい。また、ローラー52の表面は、低摩擦係数の耐熱膜を形成したローラーが好ましい。
【0022】
図6はサイドフレームユニット53の要部を説明する側面図である。サイドフレームユニット53は、サイドプレート61Aと、サイドプレート61Bと、距離調整部と、軸51を固定するフック62とを有する。距離調整部は、案内プレート63と、ネジ64Aと、ネジ64Bと、ピン65とを有する。案内プレート63は、一端がネジ64Aでサイドプレート61Aに固定され、他端側が案内穴66を介して、ネジ64Bでサイドプレート61Bに固定されている。ネジ64Bを弛めた後、サイドプレート61Bの位置を図6の矢印で示す方向へ任意にスライドさせることができる。また、案内プレート63とサイドプレート61Bのスライド方向と垂直方向の相対位置は、サイドプレート61Bから出ているピン65の外周部が案内プレート63の案内穴66と当接し決まる。この構成により、2つのローラー52の軸間距離L52を任意に変えることができる。
【0023】
基体41は、サイドフレームユニット53から取り外された2つのローラー52に架設される。基体41が架設された2つのローラー52は、軸51が軸受(図示せず)を介して軸受溝67に配設され、フック62によりサイドフレームユニット53に固定される。その後、サイドプレート61Bを軸間距離L52が長くなる方向へスライドし、ネジ64Bを締め付けることにより、サイドプレート61Bと案内プレート63とが固定される。その結果、基体41は、任意のテンションが掛けられた状態で、2つローラー52に張架される。基体41に掛けるテンションは、テンションゲージで図5のM5で示す位置のテンションを測定しながら軸間距離L52を変えることにより適時決定される。本実施形態では、M5で示す位置のテンションは略5N毎cmに設定した。
【0024】
図7は恒温槽内で基体41を熱処理する工程を説明する平面図である。上記の基体41が張架された状態の熱処理治具50は、軸51がカップリング71を介してモーター72に接続され、恒温槽73内に置かれる。基体41の周速度が毎秒1mになるように、モーター72を回転させる。周速はこの限りではなく、基体41に変形などの異常が起こらない周速度であれば良い。その後、恒温槽73の雰囲気温度を徐々に昇温させ、135±5度で10分間保持する。本実施形態において、雰囲気温度の保持温度を135±5度に設定したのは、基体41であるPETのガラス転移点が70度であり、後述の機能層(導電層および抵抗層)固化時の固化温度が最高で120度であることを考慮した。この雰囲気温度の保持温度(熱処理温度ともいう)は、下記の式(1)で示されたTe1であり、式(1)を満足する範囲内で適時設定されれば良い。また、雰囲気温度の保持時間も上記の限りではない。
Tg≦Te1<Ts (1)
(Tg:熱可塑性樹脂のガラス転移点、Te1:熱処理温度、Ts:熱可塑性樹脂の軟化点)
【0025】
続いて、雰囲気温度を下げて略40度以下になったら、モーター72の回転を停止し、基体41を熱処理治具50より取り外す。
【0026】
これで基体41の熱処理工程が終了する。その結果、基体41は、図7に示す矢印方向(以下、周方向という)に分子配向が進むことにより、ヤング率が向上したベルトの基体81(図8)となった。また、基体41は、矢印と直交する方向(以下、幅方向という)に収縮することにより、120度以下の熱ストレスを受けても収縮が少ないベルトの基体81となった。なお、熱処理工程中に基体41は軟化点に達しないので、熱処理工程中に基体41が切れることはない。
【0027】
本実施形態の工程で製造されたベルトの基体81は、平均厚さ=122μm、最大厚さ−最小厚さ=12μm、周方向ヤング率=3.4GPa、幅方向ヤング率=3.0GPa、および熱収縮率=0.3%の物性を有する。このヤング率は2軸延伸PETフィルムのヤング率と略同等の大きさであり、伸び難い基体81となった。
【0028】
厚さ測定は、最小表示量1μmのダイヤルシックネスゲージを用い、基体81の両端部から50mm、中央について周方向に等間隔で8点全周にわたって測定した。また、ヤング率測定は、周方向および幅方向に長さ150mm、幅10±0.1mmの短冊状試験片を切り出し、チャック間初期距離を100mmとして引張試験機にて測定した。熱収縮率測定は、常温で周方向および幅方向に略200mmの間隔有する2本の基線を描いた基体81を、120度の恒温層に1時間放置し熱ストレスを加え、常温で熱ストレスを加える前後の基線間距離を精密測定用ガラススケールで測定し算出した。
【0029】
次に、機能層形成工程について、導電層と抵抗層とを有する機能層形成工程を例に挙げて説明する。図8は基体81の表面に導電層と抵抗層とを有する機能層を有するベルトの幅方向の断面図である。上記の熱処理工程を経て製造された基体81の表面に、導電性塗料を塗装し、加熱固化させて導電層82を形成する。その後、幅方向の片側に一定幅の導電層82が露出するように、抵抗塗料を塗装し、加熱固化させて抵抗層83を形成する。この機能層形成工程を経て、機能層84が基体81の表面に形成されたベルト80ができる。
【0030】
図9は塗料の塗装に用いる塗装機の要部を説明する図であり、(a)は側面図、(b)は平面図である。基体81を駆動ローラー91と従動ローラー92とに張架し、モーター(図示せず)の駆動により図9(a)に示す矢印方向へ周動させる。この周動速度は塗装欠陥が生じない速度に適時調整する。基体81を周動させた後、導電性塗料をエアースプレーガン93より吐出させ、基体81の表面に適量塗装する。その際、エアースプレーガン93は、図9(b)の矢印で示す基体81の幅方向に往復移動しながら、導電性塗料を基体81の表面に吹き付ける。塗装が終了した基体81は、駆動ローラー91と従動ローラー92から取り外され、図5の熱処理治具50と同一構成の固化治具(図示せず)に張架される。その後、図7の恒温槽73と同一機能の恒温層(図示せず)を用いて、式(2)を満足する固化温度Tcで導電性塗料を固化し、基体81の表面に導電層82を形成する。
Tg≦(Tc+10度)≦Te1<Ts (2)
(Tg:熱可塑性樹脂のガラス転移点、Tc:固化時の温度(固化温度)、Te1:熱処理温度、Ts:熱可塑性樹脂の軟化点)
なお、本実施例の固化温度Tcは、115±5度である。
【0031】
同様に、抵抗層83を導電層82の表面に形成することにより、機能層84が形成される。また、幅方向の片側に一定幅の導電層82が露出する機能層84を形成するため、導電層82の露出させたい部分にマスキングテープを貼った後、抵抗塗料を塗装する。あるいは、抵抗塗料が導電層82の露出させたい部分に吹きかからないように、遮蔽板を塗装機に配設しても良い。
【0032】
上記の機能層形成工程により、基体81の表面に機能層84が形成されたベルト80は、機能層形成時の熱ストレスによる変形や大きな収縮がなく、且つ、基体81から機能層84の脱落がないベルト80となった。
【0033】
比較例として、熱処理工程を含まないブロー成形工程で製造された基体は、上記本実施形態と同様の機能層形成工程で機能層を形成した時、基体の収縮量が大きいため、機能層に内部応力を発生させ、基体表面との密着性が高い機能層を形成できなかった。
【0034】
本実施形態で形成された導電層82と抵抗層83について詳細に説明する。導電層82は、ポリウレタン樹脂と、カーボンブラックと、水とを有する組成の水性塗料が固化することにより形成される導電層であり、且つ、層厚が略10μm、体積固有抵抗値(ρ1)が102≦ρ1≦104Ω・cmである。但し、ポリウレタン樹脂に限定されず、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネイト樹脂などが使用できる。さらに、カーボンブラックに限定されず、金属フィラーも使用できる。また、導電層82に替えて、Snなどの蒸着により導電層を形成しても良い。次に、抵抗層83は、ポリウレタン樹脂と滑剤樹脂と、電子導電性の固体添加剤と、水とを有する水性エマルジョン塗料が固化することにより形成される抵抗層であり、層厚が略20μm、体積固有抵抗値(ρ2)が107≦ρ2≦1014Ω・cmである。但し、ポリウレタン樹脂に限定されず、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネイト樹脂などが使用できる。滑剤樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を使用したがこの限りではなく、フッ素系樹脂が使用できる。電子伝導性の固体添加剤としては、カーボンブラックを使用したがこの限りではなく、アンチモンがドープされた酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化チタン、チタン酸カリウムなどが使用できる。
【0035】
本実施形態で形成されたベルト80を画像形成装置の中間転写ベルト107(図10)に適用した例を説明し、その性能を比較例のシーレスベルトと比較する。図10は画像形成装置の概略を説明する模式図である。この画像形成装置はイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のトナーを用いてフルカラー画像を形成することのできる装置である。
【0036】
感光体101は矢印102の方向に周動する。感光体101は、帯電ローラー103により均一な電位に帯電され、レーザー書き込みユニット104よりイエロー色に現像されるべき画像情報信号で変調されたレーザー光線105が照射され静電像が形成される。次に感光体101は、イエロートナー現像器106Yにより静電像に対応した負帯電性カラートナー像が形成される。
【0037】
中間転写ベルト107は、感光体101に接して周動するように駆動ローラー108と従動ローラー109とバックアップローラー110の間に付勢装置(図示せず)の作用で一定の張力で張架され、感光体101の周動と同期し矢印111の方向に周動する。このとき、中間転写ベルト107の表面と感光体101の表面との回転速度は一致している。この中間転写ベルト107は、図8に示すように導電層82の端部が露出していて、この部分に電極ローラー112が接触して周動している。中間転写ベルト107は、この電極ローラー112により感光体101と逆極性の転写電圧が印可される。これにより中間転写ベルト107の導電層82と感光体101の間に電界が発生し、中間転写ベルト107に感光体101表面のトナーが静電的に吸着されてトナー像が転写される。
【0038】
感光体101に残留した転写残りトナーは、感光体クリーナーブレード113で除去され、続いて感光体表面電位は除電ユニット114により可視光線を照射されリセットされる。
【0039】
同様の動作を中間転写ベルト107の位置とレーザー書き込みユニット104の発光タイミングの同期を取りながらマゼンタトナー現像器106M、シアントナー現像器106C、ブラックトナー現像器106Bについても繰り返すことで中間転写ベルト107に各色のトナーが重ね合わされ、フルカラートナー像が完成する。この間2次転写ローラー115及びベルトクリーナーブレード116は中間転写ベルト107から離間している。
【0040】
一方転写体117は、中間転写ベルト107の表面のフルカラートナー像と同期をとってバックアップローラー110と、2次転写ローラー115とによって構成される2次転写部を通過して矢印120で示す方向へ搬送される。2次転写ローラー115には定電流制御の高圧電源(図示せず)より2次転写電圧が印加されており、接離可能な付勢装置(図示せず)によって中間転写ベルト107を挟んでバックアップローラー110に押しつけられている。したがって転写体117にも同様の電位が発生し、これにより中間転写ベルト107に静電的に吸着されたトナー像は転写体117の表面に転写される。フルカラートナー像が転写された転写体117は、除電チャージャー118の作用で中間転写ベルト107から分離された後、定着器119Aと定着器119Bとによって構成される定着部に搬送される。フルカラートナー像は定着器119Aおよび定着器119Bにより転写体117へ定着され、転写体117にフルカラー画像が完成する。
【0041】
上記の画像形成装置に用いられる中間転写ベルト107は、駆動ローラー108と従動ローラー109とバックアップローラー110に一定の張力で張架され周動する。そのため、各ローラーの表面を通過する時に、大きな引張応力を受けながら小さな曲率に曲げられ、通過後急激に曲げられた状態から開放される状態になるようなストレスを受ける。しかし、このようなストレスを受ける使われ方をしても、繋ぎ目のない物性の均一な本実施形態のベルト80は破断し難くかった。
【0042】
図11は比較例の熱溶着ベルトの断面図である。比較例の熱溶着ベルトは繋ぎ目のある熱溶着ベルト(以下、熱溶着ベルト200という)であり、中間転写ベルト107に用いた時、本実施形態のベルトと比較して破断し易かった。この熱溶着ベルト200は、厚さ120μmの2軸延伸PETフィルム(以下、PETフィルム201という)の両端に厚さ75μmの2軸延伸PETフィルムからなる溶着部材202を当接させ、PETフィルム201の端部201Aおよび端部201Bに隙間をもたせたまま、端部201A、端部201Bおよび溶着部材202を溶着し、隙間を埋めることにより形成された基体203と本実施形態と同じ導電層204と抵抗層205とを有するベルトである。熱溶着は超音波溶着機(図示せず)を使用し、振動による摩擦熱にて行った。熱溶着により2軸延伸PETフィルムが軟化点を越えて溶融し再硬化するため、この熱溶着部はヤング率、引張破断強度が劣化する。その結果、熱溶着部での破断が起こり易かった。
【0043】
また上記の2次転写部において、中間転写ベルト107に厚みむらがあると電界強度が変化し、転写されるトナー像にみだれが生じることがあるが、本実施形態のベルトは問題なかった。しかし、比較例の熱溶着ベルトは、熱溶着部の厚さが他の部分より厚い厚みばらつきがあるため、転写されるトナー像のみだれが生じることがあった。
【0044】
さらに、中間転写ベルト107は、張架されているところへ感光体101が接触しているので、伸びるようなストレスが掛かった状態で使用されている。特に、周方向に伸ばされるストレスが大きい。このようなストレスを受ける中間転写ベルト107として使用された本実施形態のベルトは、問題になるような伸びがなかった。一方、比較例として、熱処理工程を含まないブロー成形工程で製造された基体と本実施形態と同じ導電層と抵抗層とを有するベルトは、伸びが大きく周長が変わってしまうため、張架条件を可変できる複雑な機構が必要となるなどの問題が生じることがあった。
【実施例2】
【0045】
図12は実施例2に適用される熱処理治具の要部を説明する正面図である。この実施例2に適用される熱処理治具(以下、第二熱処理治具300)は、実施例1の図5に示す熱処理治具50とベースフレームユニット301とを有し、熱処理治具50のローラー52がベースフレームユニット301の内側に形成され溝部302に配設される構造のものである。実施例1と同じように、基体41が略5N毎cmで張架された熱処理治具50を、溝部302に配設する。
【0046】
図13は第二熱処理治具300のローラー軸間距離調整部を説明する側面図である。熱処理治具50を溝部の底面(以下、溝底面401という)に配設する時、サイドプレート61Bのサイドプレート61A側に近い端面(以下、サイドプレート61Bの端面407という)が、マイクロメーター402の先端に接触するように配設する。その後、ベースフレーム403とサイドプレート61Aとを固定するために、ネジ404Aを締める。また、サイドプレート61Bが溝底面401から浮き上がらないようにするため、ベースフレーム403に設けられた案内穴405の内壁に外周部が接触するピン406をサイドプレート61Bに設けられたピン穴(図示せず)に挿入する。その後、サイドプレート61Bが軸間方向へ移動できるようにネジ64Bを弛めた状態にする。サイドプレート61Bは、サイドプレート61Bの端面407でマイクロメーター402に胴当たりしている状態にあり、ローラー軸間距離が小さくなる方向へ移動することはない。また、サイドプレート61Bは、基体41のテンション力によりローラー軸間距離が大きくなる方向へ移動することもない。
【0047】
次に、上記状態の第二熱処理治具300を図7で示す恒温層と同じ機能を有する恒温槽内に配設した後、実施例1と同様に恒温槽の雰囲気温度を135±5度に昇温させる。基体41の温度が135±5度になった後、マイクロメーター402がサイドプレート61Bの端面407を押すことにより、サイドプレート61Bを軸間距離L52が大きくなる方向に移動させる。本実施形態においては、軸間距離を5mm大きくしたが、この限りではない。その後、実施例1と同様に10分間保持時間を持った後、基体41をローラー52から取り外した。以上が第二熱処理治具300を用いた実施例2の熱処理工程の説明である。
【0048】
第二の本実施形態により形成された基体81’は、実施例1の形態で形成された基体81よりもヤング率がさらに大きくなった。特に、基体81’の周方向のヤング率が増大し、3.7GPaとなった。その結果、実施例1と同様に画像形成装置の中間転写ベルトとして使用した時、より伸び難いベルトとなった。
【実施例3】
【0049】
図14は実施例3に適用される熱処理治具の要部を説明する図である。この実施例3に適用される熱処理治具(以下、第三熱処理治具500)は、軸間距離が固定されている駆動ローラー501および従動ローラー502と、テンションローラー503とを有する基体41の熱処理治具である。
【0050】
実施例1の実施形態で形成された基体41を駆動ローラー501、従動ローラー502、およびテンションローラー503に架設する。その後、テンションローラー503をマイクロメーターなどの位置調整手段(図示せず)により移動し、基体41に所望のテンションを掛ける。基体41に掛かるテンションの調整は、テンションゲージ504で測定しながら、テンションローラー503の位置を適時変えて行う。実施例3では、基体41に略5N毎cmのテンションを掛けた。その後、実施例1と同様に、135±5度で10分間の熱処理を行い、実施例1の基体81と同等の物性を有する基体81’’を得た。
【0051】
また、実施例2の実施形態と同じように、基体41の温度が135±5度になった後、位置調整手段により、基体41の周長を長くする方向にテンションローラー503を移動させ、基体41を135±5度で10分間熱処理した。その結果、基体81’’はヤング率が増大し、3.8GPaとなり、実施例1と同様に画像形成装置の中間転写ベルトとして使用した時、より伸び難いベルトとなった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】パリソン射出成形工程図である。
【図2】パリソン加熱工程図である。
【図3】ブロー成形工程を説明する図であり、(a)はパリソン供給時状態図、(b)はブロー成形初期状態図、(c)はブロー成形完了状態図である。
【図4】両端部除去工程を説明する図であり、(a)は切断位置図、(b)は基体の概略図である。
【図5】熱処理治具の要部を説明する図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図6】サイドフレームユニット53の要部を説明する側面図である。
【図7】恒温槽内で基体を熱処理する工程を説明する平面図である。
【図8】図8は基体81の表面に導電層と抵抗層とを有する機能層を有するベルトの幅方向の断面図である。
【図9】塗料の塗装に用いる塗装機の要部を説明する図であり、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【図10】画像形成装置の概略を説明する模式図である。
【図11】比較例の熱溶着ベルトの断面図である。
【図12】実施例2に適用される熱処理治具の要部を説明する正面図である。
【図13】第二熱処理治具300のローラー軸間距離調整部を説明する側面図である。
【図14】実施例3に適用される熱処理治具の要部を説明する図である。
【符号の説明】
【0053】
11…射出成形機、12…パリソン、13…材料ホッパー、14…結晶性熱可塑樹脂、15…加熱シリンダー、16…押出スクリュー、17…固定ダイスプレート、18…金型、21…ヒーター、31…ブロー金型、32…延伸ロッド、33…ブロー成形物、41…基体、50…熱処理治具、51…軸、52…ローラー、53…サイドフレームユニット、61A…サイドプレート、61B…サイドプレート、62…フック、63…案内プレート、64A…ネジ、64B…ネジ、65…ピン、66…案内穴、67…軸受溝、71…カップリング、72…モーター、73…恒温槽、80…ベルト、81…基体、82…導電層、83…抵抗層、84…機能層、91…駆動ローラー、92…従動ローラー、93…エアースプレーガン、101…感光体、103…帯電ローラー、104…レーザー書き込みユニット、105…レーザー光線、106Y…イエロートナー現像器、106M…マゼンタトナー現像器、106C…シアントナー現像器、106B…ブラックトナー現像器、107…中間転写ベルト、108…駆動ローラー、109…従動ローラー、110…バックアップローラー、112…電極ローラー、113…感光体クリーナーブレード、114…除電ユニット、115…2次転写ローラー、116…ベルトクリーナーブレード、117…転写体、118…除電チャージャー、119A…定着器、119B…定着器、200…熱溶着ベルト、201…PETフィルム、201A…端部、201B…端部、202…溶着部材、203…基体、300…第二熱処理治具、301…ベースフレームユニット、302…溝部、401…溝底面、402…マイクロメーター、403…ベースフレーム、404A…ネジ、404B…ネジ、405…案内穴、406…ピン、407…サイドプレート61B端面、500…第三熱処理治具、501…駆動ローラー、502…従動ローラー、503…テンションローラー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性熱可塑樹脂で形成された周状の基体を前記基体の周方向にテンションが加わるように張架した状態で、式(1)に示す熱処理温度(Te1)で熱処理する熱処理工程を有することを特徴とするベルトの製造方法。
Tg≦Te1<Ts (1)
(Tg:熱可塑性樹脂のガラス転移点、Te1:熱処理温度、Ts:熱可塑性樹脂の軟化点)
【請求項2】
結晶性熱可塑樹脂で形成された周状の基体を前記基体の周方向にテンションが加わるように張架した状態で、式(2)に示す熱処理温度(Te2)で熱処理する熱処理工程と、前記熱処理された前記基体の少なくとも一表面に導電層を形成する導電層形成工程と、前記導電層の表面に抵抗層を形成する抵抗層形成工程とを有し、且つ、前記導電層形成工程および前記抵抗層形成工程の少なくとも一方は、前記導電層および前記抵抗層の少なくとも一方を式(2)に示す固化温度(Tc)で固化する固化工程を有することを特徴とするベルトの製造方法。
Tg≦(Tc+10度)≦Te1<Ts (2)
(Tg:熱可塑性樹脂のガラス転移点、Tc:固化時の温度(固化温度)、Te1:熱処理温度、Ts:熱可塑性樹脂の軟化点)
【請求項3】
請求項1または2記載のベルトの製造方法であって、
前記熱処理工程の前の前記基体は、前記基体に繋ぎ目が生じないように、前記結晶性熱可塑樹脂から前記周状に成形されていることを特徴とするベルトの製造方法。
【請求項4】
請求項3記載のベルトの製造方法であって、
前記熱処理工程の前の前記周状の基体は、前記基体に繋ぎ目が生じないように、ブロー成形、押出成形、およびインフレーション成形のいずれか一つによって前記結晶性熱可塑性樹脂から前記周状に成形されていることを特徴とするベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−32956(P2010−32956A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197489(P2008−197489)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】