説明

ベルト式無段変速機およびその組立方法

【課題】可動片および壁部材が取り付けられている回転部材の軸長を、相対的に短縮することの可能なベルト式無段変速機を提供する。
【解決手段】動力が伝達されて回転する回転部材22と、回転部材22が回転する場合の中心となる軸線A1と、回転部材22の外周に設けられ、かつ、軸線A1に沿った方向に移動できない固定片31と、回転部材22の外周に設けられ、かつ、軸線A1に沿った方向に移動できる可動片33と、回転部材22の外側に形成された油圧室46と、回転部材22に設けられ、かつ油圧室46を取り囲む壁部材38と、壁部材38が回転部材22から外れることを防止する固定機構42とを備えたベルト式無段変速機において、回転部材22に、軸線A1に沿った方向の深さを有する孔28が設けられており、孔28内に固定機構42が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数のプーリにベルトを巻き掛けて、そのプーリ同士の間で動力伝達をおこなう構成のベルト式無段変速機、およびその組立方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、動力源から被駆動部材に至る間に形成される動力伝達経路として、変速機を設けたものが知られている。この変速機は入力回転数と出力回転数との比、つまり変速比を変更する伝動装置である。この変速機には、変速比を無段階に変更可能な無段変速機と、変速比を段階的に変更可能な有段変速機とがある。この無段変速機の一例が、特許文献1に記載されている。この特許文献1には、エンジンから車輪に至る動力伝達経路に設けた、ベルト式無段変速機が記載されている。このベルト式無段変速機は、トランスアクスルケース内に設けられている。また、ベルト式無段変速機はプライマリシャフトおよびセカンダリシャフトを有している。プライマリシャフトにはプライマリプーリが設けられ、セカンダリシャフトにはセカンダリプーリが設けられている。そして、セカンダリプーリおよびプライマリプーリに、ベルトが巻き掛けられている。前記プライマリプーリは、固定片および可動片を有している。この固定片および可動片は、プライマリシャフトと一体回転する構成である。また、固定片は、プライマリシャフトの外周側に連続して形成されており、この固定片は、プライマリシャフトの軸線に沿った方向には動作不可能に構成されている。
【0003】
これに対して、可動片は軸線を中心として環状に構成されており、その可動片は、軸線に沿った方向に動作可能に構成されている。さらに、プライマリシャフトの外周には壁部材が取り付けられている。この壁部材は、前記軸線を中心として環状に構成されている。この壁部材と可動片との間に油圧室が形成されている。さらにまた、プライマリシャフトの外周には雄ねじ部が形成されており、雌ねじ部を有するナットが設けられている。このナットを締め付けることにより、可動片がプライマリシャフトに固定されている。具体的には、プライマリシャフトの外周に段部が形成されており、可動片の内周端が、ナットと段部とにより挟み付けられて可動片が固定され、その可動片がプライマリシャフトから外れることが防止されている。また、プライマリシャフトおよび可動片にはそれぞれ油路が形成されており、その油路が油圧室に通じている。そして、前記油圧室の油圧が制御されて、可動片に与えられる推力、つまり、軸線に沿った方向の推力が制御されるように構成されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−3035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の特許文献1に記載されたベルト式無段変速機においては、壁部材の内周端およびナットが、プライマリシャフトの軸線に沿った方向に並べて配置されている。このため、プライマリシャフトの軸長が相対的に長くなる問題があった。
【0006】
この発明は上記の事情を背景としてなされたものであり、可動片および壁部材が設けられている回転部材の軸長を、相対的に短縮することの可能なベルト式無段変速機およびその組立方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、動力が伝達されて回転する回転部材と、この回転部材が回転する場合の中心となる軸線と、前記回転部材の外周に設けられ、かつ、前記軸線に沿った方向には動かない固定片と、前記回転部材の外周に設けられ、かつ、前記軸線に沿った方向に動くことのできる可動片と、前記回転部材の外周側に形成され、かつ、前記可動片に前記軸線に沿った方向の推力を与える油圧室と、前記回転部材に設けられ、かつ、前記油圧室を取り囲む壁部材と、この壁部材が前記回転部材から外れることを防止する固定機構とを備えたベルト式無段変速機において、前記回転部材に、前記軸線に沿った方向の深さを有する孔が形成されており、この孔の内部に前記固定機構が設けられていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記壁部材は、前記軸線を中心とする半径方向で、前記回転部材の外側に配置された環状部と、この環状部の内周端に連続され、かつ、前記半径方向で内側に向けて延ばされた突出部と、この突出部の内周端に連続され、かつ、前記軸線に沿った方向に延ばされた円筒部とを有しており、この円筒部が前記孔の内部に配置されており、前記固定機構は、前記円筒部の外周面と前記回転部材の内周面との間に設けられていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または2の構成に加えて、前記軸線に沿った方向における回転部材の端部と、前記突出部との間に、前記油圧室に通じる油路が設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1ないし3の構成に加えて、前記固定機構が、前記回転部材に形成された雌ねじ部と、前記円筒部に形成された雄ねじ部とを有するねじ機構であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかの構成に加えて、前記円筒部の内部に挿入された圧入部材を有しており、前記圧入部材を前記円筒部に圧入した際に、予め設けられている前記雄ねじ部または雌ねじ部のいずれか一方が相手部材に押し付けられて、雄ねじ部または雌ねじ部のいずれか他方が形成されたものであることを特徴とするものである。
【0012】
請求項6の発明は、請求項4または5の構成に加えて、前記回転部材と前記円筒部との間に、前記軸線を中心とする円周方向の係合力により、前記回転部材と前記壁部材とが相対回転することを防止する回り止め機構が設けられていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項7の発明は、請求項2ないし6のいずれかの構成に加えて、前記円筒部の自由端を塞ぐ栓部が設けられていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項8の発明は、金属材料により構成された回転部材を用意し、この回転部材に、その軸線に沿った方向に動くことができる可動片を取り付け、ついで、前記回転部材に、前記可動片との間に油圧室を形成し、かつ、金属材料により構成された壁部材を取り付けた後、この壁部材が回転部材から外れることを防止するように固定する、ベルト式無段変速機の組立方法において、前記壁部材を前記回転部材に取り付ける前に、その回転部材に、前記軸線に沿った方向の深さを有する孔を形成するとともに、その回転部材の内周面に雌ねじ部を形成し、かつ、前記回転部材の内周面に軸線を中心として半径方向に突出された係合部を形成する第1工程と、前記壁部材を回転部材に取り付ける前に、その壁部材に前記軸線を中心とする円筒部を形成する第2工程と、前記第1工程および第2工程に次いでおこなわれ、かつ、前記壁部材の円筒部を前記回転部材の孔内に挿入する第3工程と、この第3工程に次いでおこなわれ、かつ、前記円筒部の内部に前記軸線に沿った方向に圧入部材を圧入して、前記円筒部を前記回転部材の内周面に押し付けて、前記円筒部を前記軸線を中心とする外側に向けて塑性変形させることにより、前記円筒部の外周に、前記雌ねじ部に噛合する雄ねじ部を形成し、かつ、前記係合部に係合されて前記回転部材と前記壁部材との相対回転を防止する被係合部を形成する第4工程とを有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、回転部材の孔の内部に固定機構が設けられているため、壁部材および固定機構が、軸線に沿った方向に並んで配置されることを回避できる。したがって、回転部材の軸長を相対的に短縮することができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、円筒部の外周面と、回転部材の内周面との間に固定機構が設けられている。
【0017】
請求項3の発明によれば、請求項1または2の発明と同様の効果を得られる他に、回転部材の端部と突出部との間に、油圧室に通じる油路が設けられている。したがって、回転部材および壁部材に油路を貫通して形成せずに済む。したがって、回転部材および壁部材の製造コストが上昇することを抑制できる。
【0018】
請求項4の発明によれば、請求項1ないし3のいずれかの発明と同様の効果を得られる他に、壁部材が回転部材から外れることを、ねじ機構により防止できる。
【0019】
請求項5の発明によれば、請求項1ないし4のいずれかの発明と同様の効果を得られる他に、円筒部の内部に圧入部材を圧入して、ねじ機構が形成されているため、製造コストの上昇を抑制できる。
【0020】
請求項6の発明によれば、請求項4または5の発明と同様の効果を得られる他に、回転部材と壁部材とが相対回転することを防止できる。したがって、ねじ機構が緩むことを防止できる。
【0021】
請求項7の発明によれば、請求項4ないし6のいずれかの発明と同様の効果を得られる他に、円筒部の自由端が栓部により塞がれている。したがって、円筒部が半径方向で内側に変形しにくくなり、ねじ機構の耐久性が向上する。
【0022】
請求項8の発明によれば、第1工程では、壁部材を回転部材に取り付ける前に、その回転部材に、軸線の沿った方向の深さを有する孔を形成するとともに、その回転部材の内周面に雌ねじ部を形成し、かつ、回転部材の内周面に軸線を中心として半径方向に突出された係合部を形成する。また、第2工程では、壁部材を回転部材に取り付ける前に、その壁部材に軸線を中心とする円筒部を形成する。さらに、第1工程および第2工程に次いで、第3工程では、壁部材の円筒部を回転部材の孔内に挿入する。第3工程のつぎの第4工程では、円筒部材の内部に軸線に沿った方向に圧入部材を圧入して、円筒部を回転部材の内周面に押し付けて、円筒部を前記軸線を中心とする外側に向けて塑性変形させる。すると、円筒部の外周に、雌ねじ部に噛合する雄ねじ部が形成され、かつ、係合部に係合する被係合部が形成される。このようにして、壁部材が回転部材から外れることを、ねじ機構により防止できる。また、係合部と被係合部とが係合して回り止め機構が形成され、回転部材と壁部材との相対回転が防止される。したがって、ねじ機構が緩むことを防止できる。さらに、回転部材の孔内に固定機構が設けられているため、軸線に沿った方向に、壁部材の内周端および固定機構が並んで配置されることを回避できる。したがって、回転部材の軸長を相対的に短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
この発明は、車両、工作機械などに用いることが可能である。具体的には、動力源から被駆動部材に至る動力伝達経路にベルト式無段変速機が配置される。この発明を車両に用いる場合、駆動力源から車輪(被駆動部材)に至る動力伝達経路に、ベルト式無段変速機を配置することが可能である。この発明を車両に用いる場合、駆動力源としては、エンジン、電動機、油圧モータ、フライホイールシステムなどのうち、少なくとも1種類の駆動力源を用いることが可能である。複数の駆動力源を用いる場合、同じ車輪に対して複数の駆動力源が伝達されるように構成された第1パワートレーン、または、各駆動力毎に異なる車輪に動力が伝達されるように構成された第2パワートレーンのいずれでもよい。第1パワートレーンはいわゆる二輪駆動車であり、第2パワートレーンは四輪駆動車が挙げられる。前記二輪駆動車においては、駆動力源の動力が前輪または後輪のいずれに伝達される構成であってもよい。また、エンジンは燃料を燃焼させた場合の熱エネルギを運動エネルギに変換する動力装置であって、エンジンとしては内燃機関、例えば、ガソリンエンジン、LPGエンジン、メタノールエンジンなどを用いることが可能である。さらに、電動機は、電気エネルギを運動エネルギに変換して出力する動力装置であり、直流電動機、または交流電動機のいずれでもよい。また、電動機としては、電動機としての機能(力行機能)と発電機としての機能(回生機能)とを兼備したモータ・ジェネレータを用いることも可能である。油圧モータは、圧油の流体エネルギを回転部材の運動エネルギに変換する動力装置である。さらに、フライホイールシステムは、慣性質量体の慣性エネルギを、回転部材の運動エネルギとして用いる動力装置である。
【0024】
前記車両には、乗用車、バス、トラックなどが含まれる。この発明を工作機械に用いる場合、動力源から工作物または工具(被駆動部材)に至る動力伝達経路にベルト式無段変速機を配置することが可能である。この発明において、回転部材は動力を伝達する要素であり、この回転部材には、軸部材、コネクティングドラム、歯車などの要素が含まれる。また、この発明における回転部材とは、回転することが可能な部材という意味であり、常時回転することを意味するものではなく、現在、回転しているという意味でもない。したがって、回転部材は、停止することも可能である。さらに、回転部材には、軸線に沿った方向の深さを有する孔が形成されている。この孔は回転部材を、軸線に沿った方向に貫通していてもよいし、回転部材を軸線に沿った方向に貫通していなくてもよい。この発明における固定機構は、壁部材が回転部材から外れること、具体的には、壁部材と回転部材とが軸線に沿った方向に相対移動して、壁部材が回転部材から脱落することを防止する機構である。
【0025】
この発明における壁部材は、可動片と協働して油圧室を形成する仕切部材である。したがって、壁部材は油圧室の圧油が浸透漏れしない材料、例えば金属材料により構成されている。この発明のベルト式無段変速機は、複数の回転部材同士の間で、環状の巻き掛け伝動部材であるベルトを介して、動力伝達がおこなわれる伝動装置であり、入力部材の回転数と、出力部材の回転数との比、つまり、変速比を無段階もしくは連続的に変更可能な変速機である。さらに、この発明におけるベルト式無段変速機が車両に搭載される場合、支持機構によりベルト式無段変速機が支持される。ここで、支持機構は、内部が中空に構成されたケーシングもしくはハウジングの他、枠部材またはブラケットであってもよい。また、支持機構によりベルト式無段変速機が支持されるとは、具体的には、回転部材が、直接または間接的に、軸受を介在させて支持機構に支持されることを意味する。さらに、ベルト式無段変速機で用いられるベルトは、無端状に構成されたベルトであり、押圧力により動力伝達をおこなうベルト、または引っ張り力により動力伝達をおこなうベルト(チェーン)のいずれでもよい。
【0026】
一方、ベルト式無段変速機の組立て方法においては、第1工程および第2工程は、並行して、つまり、同時におこなってもよいし、第1工程または第2工程のいずれか一方を先におこない、他の工程を後でおこなってもよい。
【0027】
つぎに、この発明のベルト式無段変速機を車両に用いた場合の具体例を、図面に基づいて説明する。図2は、車両の駆動力源から車輪に至る動力伝達経路に、ベルト式無段変速機を配置した具体例を示すスケルトン図である。図2に示された車両1には、走行のための駆動力を発生させる駆動力源としてエンジン2が設けられている。このエンジン2としては内燃機関、具体的にはガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどが用いられる。このエンジン2は、燃料を燃焼させてその熱エネルギをクランクシャフト3の運動エネルギとして出力する動力装置である。このエンジン2の出力軸であるクランクシャフト3は、車両1の幅方向(左右方向)に配置されている。このクランクシャフト3は軸線A1を中心として回転可能に設けられており、軸線A1は略水平に配置されている。
【0028】
前記エンジン2の外壁にはトランスアクスルケース4が固定されている。このトランスアクスルケース4は、軸線A1に沿った方向に分割されたハウジング5およびケーシング6およびリヤカバー7を有している。ハウジング5およびケーシング6およびリヤカバー7は、共に金属材料により構成されている。この金属材料としては、アルミニウムまたはアルミニウム合金が挙げられる。そして、ハウジング5およびケーシング6およびリヤカバー7は、別部材として成形および加工されている。また、軸線A1に沿った方向で、ハウジング5とリヤカバー7との間に、ケーシング6が配置されている。そして、ハウジング5とケーシング6とが、図示しない固定機構、例えば、ボルトおよびナットを用いて締め付け固定されている。また、ケーシング6とリヤカバー7とが、図示しない固定機構、例えば、ボルトおよびナットを用いて締め付け固定されている。
【0029】
このように構成されたトランスアクスルケース4の内部には、流体伝動装置8および前後進切換機構9およびベルト式無段変速機10およびデファレンシャル11が配置されている。これらの流体伝動装置8および前後進切換装置9およびベルト式無段変速機10およびデファレンシャル11は、エンジン2から車輪12に至る動力伝達経路を構成する伝動装置である。なお、車輪12は、トランスアクスルケース4の外部に設けられており、その車輪12は、図示しない懸架装置を介して、図示しない車体により支持されている。
【0030】
前記軸線A1に沿った方向で、前後進切換装置9とエンジン2との間に、流体伝動装置8が配置されている。流体伝動装置8は、ポンプインペラ13およびタービンランナ14を有する。そのポンプインペラ13とクランクシャフト3とが動力伝達可能に接続され、タービンランナ14とインプットシャフト15とが動力伝達可能に接続されている。このインプットシャフト15は軸線A1を中心として回転可能に配置されている。さらに、ポンプインペラ13とインプットシャフト15とを動力伝達可能に接続するロックアップクラッチ16が設けられている。このように構成された流体伝動装置8においては、ロックアップクラッチ16が解放されている場合は、ポンプインペラ13とタービンランナ14との間で、流体の運動エネルギにより動力伝達がおこなわれる。また、ロックアップクラッチ16が係合された場合は、クランクシャフト3とインプットシャフト15との間で摩擦力により動力伝達がおこなわれる。
【0031】
一方、前後進切換装置9は、軸線A1に沿った方向で、ベルト式無段変速機10と流体伝動装置8との間に配置されている。この前後進切換装置9は、この具体例では、ダブルピニオン形式の遊星歯車機構を有している。この遊星歯車機構は、前記インプットシャフト15と一体回転するサンギヤ17と、このサンギヤ17の外周側に、サンギヤ17と同軸上に配置されたリングギヤ18と、前記サンギヤ17に噛み合わされたピニオンギヤ19と、このピニオンギヤ19およびリングギヤ18に噛み合わされたピニオンギヤ20と、ピニオンギヤ19,20を自転可能に、かつ、公転可能な状態で保持したキャリヤ21とを有している。そして、このキャリヤ21と、ベルト式無段変速機10のプライマリシャフト22とが動力伝達可能に接続されている。
【0032】
また、前後進切換装置9は、出力要素であるキャリヤ21の回転方向を正逆に切り替える切替機構を有している。この実施例では、切替機構として摩擦係合装置、具体的には、フォワードクラッチ23およびリバースブレーキ24を用いている。このフォワードクラッチ23は、前記インプットシャフト15と前記キャリヤ21とを選択的に連結・解放するものである。このフォワードクラッチ23としては、油圧により動作する油圧クラッチ、または、電磁力により動作する電磁クラッチを用いることが可能である。さらに、リバースブレーキ24は、前記リングギヤ18に制動力を与えて、そのリングギヤ18を停止させることができる。このリバースブレーキ24としては、油圧により動作する油圧ブレーキ、または、電磁力により動作する電磁ブレーキを用いることが可能である。
【0033】
つぎに、前記ベルト式無段変速機10の構成を説明する。このベルト式無段変速機10は、プライマリシャフト22およびセカンダリシャフト25を有している。まず、前記プライマリシャフト22は軸線A1を中心として回転可能に構成されている。前記セカンダリシャフト25は、軸線B1を中心として回転可能に設けられている。そして、軸線A1と軸線B1とが平行に配置されている。さらに、プライマリシャフト22にはプライマリプーリ26が設けられており、セカンダリシャフト25にはセカンダリプーリ27が設けられている。
【0034】
ここで、プライマリシャフト22およびプライマリプーリ26の「第1の具体例」を、図1に基づいて説明する。プライマリシャフト22には、軸線A1に沿った方向で異なる位置に、2つの孔28,29が形成されている。2つの孔28,29は、共に軸線A1に沿った方向の深さを有している。また、軸線A1に沿った方向で、孔28は孔29よりも、リヤカバー7に近い位置に形成されている。さらに、軸線A1に沿った方向で、孔29は孔28よりも、前後進切換装置9に近い位置に形成されている。孔28,29は共に軸線A1を中心として形成されている。さらに、軸線A1に沿った方向で、孔28と孔29との間に隔壁32が形成されている。つまり、孔28と孔29とが、隔壁32により仕切られている。一方、前記キャリヤ21は円筒部30を有しており、その円筒部30が孔29に挿入されている。具体的には、円筒部30とプライマリシャフト22とがスプライン結合またはセレーション結合されて、キャリヤ21とプライマリシャフト22とが一体回転する構成となっている。
【0035】
このように構成されたプライマリシャフト22の外周に連続して、固定片31が形成されている。このプライマリシャフト22および固定片31は、金属材料により一体成形されている。したがって、固定片31は、プライマリシャフト22と一体回転し、かつ、プライマリシャフト22に対して軸線A1に沿った方向には動作不可能である。また、固定片31は、軸線A1を中心とする半径方向で外側に向けて突出されたフランジ形状を有している。さらに、軸線A1に沿った方向で、孔29が形成された領域と同じ領域内に、前記固定片31が設けられている。一方、前記プライマリシャフト22の外周には可動片33が取り付けられている。この可動片33は、円筒形状に構成された円筒部34と、その円筒部34の外周に連続して形成されたフランジ部35とを有している。このフランジ部35は、軸線A1を中心とする半径方向で、外側に向けて突出されている。さらに、フランジ部35の外周にはOリング37が取り付けられている。また、前記円筒部34がプライマリシャフト22の外側を取り囲むように配置されており、円筒部34とプライマリシャフト22とが、スプライン結合またはセレーション結合されている。
【0036】
さらに、可動片33とプライマリシャフト22とは一体回転するように連結されており、軸線A1に沿った方向で、可動片33とプライマリシャフト22とが相対移動することができる。また、軸線A1に沿った方向で、可動片33の動作領域と、前記孔28の配置領域とが重なっている。さらに、プライマリシャフト22における前記リヤカバー7に近い方の端部には、環状のシート36が固定されている。このシート36の外径は、可動片33の内径よりも大きく構成されている。このため、可動片34が図1で左側に向けて動作すると、シート36に可動片34が接触して、可動片34の可動範囲が規制される。なお、プライマリシャフト22の軸端の端面と、シート36の端面とがほぼ同一平面上に位置している。このように構成された可動片33および前記固定片31により、プライマリプーリ26が構成されており、可動片33と固定片31との間に溝C1が形成されている。なお、プライマリシャフト22およびプライマリプーリ33は、金属材料、例えば、炭素鋼、クロム鋼などにより構成されている。
【0037】
つぎに、可動片33を軸線A1に沿った方向に動作させる機構について説明する。前記プライマリシャフト22にはシリンダ38が設けられている。このシリンダ38は、金属材料、例えば圧延鋼鈑により構成されている。このシリンダ38は、全体として環状に構成されており、シリンダ38は湾曲部39および突出部40および円筒部41を有している。前記湾曲部39は、前記プライマリシャフト22の外側に配置されており、軸線A1に沿った方向の平面内で湾曲部39がほぼS字形状に湾曲されている。その湾曲部39の外側部分は、前記可動片33のフランジ部35の外側に配置されており、Oリング37が湾曲部38に接触してシール面を形成している。そして、湾曲部39の内周端に前記突出部40が連続して形成されている。この突出部40は、湾曲部39の内周端から半径方向で内側に向けて突出されている。つまり、突出部40は、軸線A1に対して直行する平面と平行に構成された円板形状を有している。
【0038】
さらに、突出部40の内周端に、前記円筒部41が連続して形成されている。この円筒部41は、突出部40の内周端から、軸線A1に沿った方向に延びている。そして、円筒部41が孔28内に配置され、かつ、円筒部41の外周面とプライマリシャフト22とが接合固定されている。具体的には、電子ビーム溶接により円筒部41とプライマリシャフト22とが溶接されて、接合部42が形成されている。このようにして、プライマリシャフト22とシリンダ38とが溶接固定されているため、プライマリシャフト22とシリンダ38とが一体回転でき、かつ、シリンダ38は軸線A1に沿った方向には移動できない。つまり、シリンダ38がプライマリシャフト22から外れない構成となっている。そして、前記シリンダ38が軸受43を介してリヤカバー7により回転可能に支持され、前記プライマリシャフト22が軸受44を介してケーシング6により回転可能に支持されている。前記軸受43は、内輪61および外輪62および転動体63を有している。この内輪61がシリンダ38を保持している。また、リヤカバー7の内周には環状の保持部64が形成されており、その保持部64に外輪62が圧入されている。さらに、リヤカバー7には、外輪62をリヤカバー7に、軸線A1に沿った方向に位置決め固定するプレート66が固定されている。このプレート66は、ボルト65によりリヤカバー7に固定されている。
【0039】
前記突出部40の具体的な構成を、図3に基づいて説明する。突出部40は、軸線A1に沿った方向に交互に屈曲された波形形状を有している。そして、突出部40が前記シート36に接触した場合においても、突出部40がシート36と接触しない部分、つまり、溝が形成されている。この溝が油路45を構成している。そして、前記可動片33と湾曲部39との間には油圧室46が形成されており、その油圧室36に油路45が通じている。さらに、前記円筒部42の構成を、図4に基づいて説明する。この図4は、軸線A1と直交する方向の断面図である。前記円筒部41の外周面には軸線A1に沿った方向に溝が形成されており、その溝が油路47を構成している。この油路47は円周方向に複数設けられており、各油路47が各油路45と通じている。
【0040】
そして、円筒部41の円周方向で、油路47同士の間に接合部42が形成されている。また、油路47は孔28に通じている。そして、孔28および油路47,45を経由して圧油を油圧室46に供給することが可能である。また、油圧室46の圧油を、油路45,47を経由させて孔28に排出することが可能である。このようにして、油圧室46の油圧が制御されて、可動片33に与えられる軸線方向の推力が制御される。上記のように、この具体例では、軸線A1に沿った方向で、接合部42を形成した領域と、可動片33の動作できる領域とが一部で重なっている。また、軸線A1に沿った方向で、シリンダ38の配置領域の一部と、接合部42の配置領域の全部とが重なっている。さらに、リヤカバー7に連続して、トランスアクスルケース4の内部に向けて延びた円筒部53が形成されている。この円筒部53は軸線A1を中心として配置されており、軸線A1を中心とする半径方向で、円筒部53の外側に円筒部41が配置されている。そして、円筒部41と円筒部53との間にOリング54が配置されている。このOリング54は、孔28の圧油が、円筒部41と円筒部53との間を経由して、トランスアクスルケース4内に漏れ出すことを防止するものである。
【0041】
つぎに、セカンダリシャフト25およびセカンダリプーリ27の構成を説明する。セカンダリプーリ27は、固定片48および可動片49を有している。固定片48は、セカンダリシャフト25と一体回転し、かつ、軸線B1に沿った方向には移動できない構成である。これに対して、可動片49は、セカンダリシャフト25と一体回転し、かつ、セカンダリシャフト25に対して軸線B1に沿った方向に動作できる構成である。さらに、可動片49に軸線に沿った方向の推力を与える油圧室(図示せず)が設けられている。この可動片49と固定片48との間に溝D1が形成されている。そして、プライマリプーリ26およびセカンダリプーリ27にベルト50が巻き掛けられている。このベルト50は、リング状の保持器に対して、円周方向に沿って複数のエレメントを積層した状態で取り付けたものである。さらに、前記セカンダリシャフト25からデファレンシャル11に至る経路には、伝動装置として歯車伝動装置51が設けられている。さらに、デファレンシャル11の出力軸であるドライブシャフト52に、前記車輪12が連結されている。
【0042】
つぎに、図1に示すパワートレーンの制御および動作を説明する。例えば、車速およびアクセル開度などのパラメータに基づいて、エンジン2の駆動・停止が制御される。そして、エンジン2が運転されており、かつ、流体伝動装置8におけるロックアップクラッチ16が解放されている場合は、ポンプインペラ13とタービンランナ14との間で、作動油の運動エネルギにより動力伝達がおこなわれる。これに対して、ロックアップクラッチ16が係合された場合は、クランクシャフト3とインプットシャフト15との間で摩擦力により動力伝達がおこなわれる。このようにして、エンジントルクがインプットシャフト15に伝達される。
【0043】
さらに、前後進切換装置9の制御について説明する。シフトポジションとして前進ポジションが選択された場合は、フォワードクラッチ23が係合され、かつ、リバースブレーキ24が解放されて、インプットシャフト15とプライマリシャフト22とが一体回転するように連結される。この状態においては、エンジントルクがインプットシャフト15に伝達されると、インプットシャフト15およびキャリヤ21およびプライマリシャフト22が一体回転する。これに対して、後進ポジションが選択された場合はフォワードクラッチ23が解放され、かつ、リバースブレーキ24が係合されて、リングギヤ18が固定される。すると、このリングギヤ18が反力要素となり、インプットシャフト15の回転に伴って、キャリヤ21およびプライマリシャフト22が、インプットシャフト15の回転方向とは逆の方向に回転する。
【0044】
ついで、ベルト式無段変速機10の変速比および伝達トルクの制御を説明する。このベルト式無段変速機10では、ベルト50が複数のエレメントを積層して構成されており、エレメント同士の間に生じる押圧力により、プライマリプーリ26の動力が、セカンダリプーリ27に伝達される。また、プライマリプーリ26油圧室46の油圧を制御することにより、プライマリプーリ26からベルト50に加えられる挟圧力が制御され、プライマリシャフト22の回転数と、セカンダリシャフト25の回転数との比、すなわち変速比が無段階(連続的)に変更される。さらに、セカンダリプーリ27の油圧室(図示せず)の油圧を制御することにより、セカンダリプーリ27からベルト50に加えられる挟圧力が変化し、伝達トルクが制御される。このようにして、セカンダリプーリ27に伝達されたトルクは、セカンダリシャフト25および歯車伝動装置51およびデファレンシャル11を経由してドライブシャフト52に伝達されて、駆動力が発生する。
【0045】
図1および図2および図3に示す「第1の具体例」では、プライマリシャフト22の孔28内に接合部42が設けられている。具体的には、シリンダ38の配置領域の一部と、接合部42の配置領域の全部とが、軸線A1に沿った方向で重なっている。このため、シリンダ38の配置領域と、接合部42の配置領域とが、軸線A1に沿った方向に並んで配置されることを回避できる。したがって、プライマリシャフト22の軸長が、軸線A1に沿った方向に相対的に長くなることを抑制できる。また、第1の具体例においては、油圧室46に通じる油路45,47が、プライマリシャフト22とシリンダ38との間に形成されている。このため、プライマリシャフト22およびシリンダ38に油路を貫通して形成せずに済む。したがって、プライマリシャフト22およびシリンダ38の製造コストが上昇することを抑制できる。さらに、シリンダ38は、金属材料をプレス加工して成形されたものであり、そのシリンダ38のプレス工程で、油路45,47となる溝をシリンダ38に形成することができる。したがって、製造コストの上昇を一層抑制できる。
【0046】
さらに、プライマリシャフト22の回転数を検知するセンサ(図示せず)をリヤカバー7の内壁に取り付けることが可能である。ここで、センサとして電磁ピックアップ式のセンサを用いれば、シリンダ38の突出部40の側面により構成された凹凸部を利用して、プライマリシャフト22の回転数を検知することも可能である。凹凸部とは、軸線A1に沿った方向に変位する凹凸部の意味である。さらに、シリンダ38の突出部40は波形状に構成されており、軸線A1に沿った方向の曲げ荷重に対する強度が、相対的に高められている。このため、油圧室46の油圧がシリンダ38に作用して、湾曲部39をリヤカバー7に押し付ける向きの荷重が作用した場合でも、シリンダ38が突出部40で弾性変形することを抑制できる。したがって、Oリング37により形成されたシール面を通って、油圧室46の圧油が漏れることを回避できる。
【0047】
この「第1の具体例」に基づいて説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、軸線A1が、この発明における軸線に相当し、プライマリシャフト22が、この発明における回転部材に相当し、固定片31が、この発明における固定片に相当し、可動片33が、この発明における可動片に相当し、油圧室46が、この発明における油圧室に相当し、シリンダ38が、この発明における壁部材に相当し、接合部42が、この発明における固定機構に相当し、孔28が、この発明における孔に相当し、湾曲部39が、この発明の環状部に相当し、突出部40が、この発明の突出部に相当し、円筒部41が、この発明の円筒部に相当し、油路45が、この発明における油路に相当する。
【0048】
つぎに、プライマリシャフト22およびプライマリプーリ33の「第2の具体例」を、図5に基づいて説明する。この「第2の具体例」において、第1の具体例と同様の構成部分については、第1の具体例と同じ符号を用いている。この図5は、軸線A1に沿った方向の断面図である。この第2の具体例では、軸線A1に沿った方向において、円筒部41の長さが、第1の具体例で説明した円筒部41よりも長く構成されている。この第2の具体例では、軸線A1に沿った方向で、円筒部41の自由端とプライマリシャフト22とが、ねじ機構55により固定されている。具体的には、このねじ機構55は、プライマリシャフト22の内周に形成された雌ねじ部56と、円筒部41の外周に形成された雌ねじ部57とを有している。このねじ機構55により、プライマリシャフト22からシリンダ38が外れないように固定されている。つまり、プライマリシャフト22とシリンダ38とが、軸線A1に沿った方向に相対移動することが防止されている。さらに、軸線A1に沿った方向で、湾曲部38が形成された領域と、ねじ機構55が形成された領域とが重なっている。さらに、第2の具体例では、軸線A1に沿った方向で、ねじ機構55と突出部40との間に、油路58が設けられている。この油路58は円筒部41を半径方向に貫通して設けられている。この油路58は、軸線A1を中心とする円周方向に複数設けられている。この油路58により、孔28と油路47とが通じている。
【0049】
また、軸線A1と直交する平面内で、前記円筒部41の孔28の形状は六角形に構成されている。この孔28に六角レンチを差し込み、その六角レンチを軸線A1を中心として回転させると、ねじ機構55を緩めたり締め付けたりすることが可能である。この「第2の具体例」においても、第1の具体例と同様の構成部分については、第1の具体例と同様の作用効果を得られる。また、第2の具体例においては、軸線A1に沿った方向で、湾曲部38が形成された領域と、ねじ機構55が形成された領域とが重なっている。このため、プライマリシャフト22が、軸線A1に沿った方向に相対的に長くなることを抑制できる。この第2の具体例では、ねじ機構55が、この発明の固定機構に相当する。第2の具体例におけるその他の構成と、この発明の構成との対応関係は、第1の具体例の構成と、この発明の構成との対応関係と同じである。
【0050】
つぎに、プライマリシャフト22およびシリンダ38の「第3の具体例」を、図6に基づいて説明する。図6は、軸線A1に沿った方向の断面図である。この「第3の具体例」において、図5の構成と同じ構成部分については、図5と同じ符号を付してある。この「第3の具体例」では、プライマリシャフト22に形成された孔28が、プライマリシャフト22を軸線A1に沿った方向に貫通していることが、第2の具体例と相違する。このため、第3の具体例では、孔28内に円筒部41および円筒部30が配置されている。さらに第3の具体例では、円筒部41の自由端に連続して栓部59が形成されている。すなわち、円筒部41の開口端が栓部59により塞がれている。この栓部59は軸線A1を中心とする円板形状を有している。この「第3の具体例」において、シリンダ38は金属材料をプレス加工して製造されている。このようにして、円筒部41内に油路60が形成されている。この油路60は油路58を介して油路47に通じている。
【0051】
この第3の具体例において、第1の具体例および第2の具体例と同様の構成部分については、第1の具体例および第2の具体例と同じ作用効果を得られる。また、この第3の具体例では、孔28と油路60とが栓部59により液密に仕切られている。したがって、第3の具体例では、第2の具体例のように、プライマリシャフト22に隔壁32を設けずに済む。このため、プライマリシャフト22を製造する工程では、棒状の被加工物を軸線に沿った方向で片側から、工具により切削加工して孔22を形成すれば済む。あるいは、管形状の被加工物の外周に固定片31を設ければ、プライマリシャフト22を製造可能である。つまり、プライマリシャフト22の製造コストが上昇することを抑制できる。また、栓部59が設けられていることで円筒部41の剛性が高まり、雄ねじ部57の耐久性が向上する。この「第3の具体例」と、この発明の構成との対応関係を説明すると、栓部59が、この発明における栓部に相当する。第3の具体例におけるその他の構成と、この発明の構成との対応関係は、第1の具体例および第2の具体例の構成と、この発明の構成との対応関係と同じである。
【0052】
つぎに、プライマリシャフト22およびシリンダ38の「第4の具体例」を、図7に基づいて説明する。第4の具体例において、第3の具体例と同様の構成部分については、第3の具体例と同じ符号を付してある。この第4の具体例では、円筒部41には前記栓部59は設けられていない。また、第4の具体例ではプライマリシャフト22を軸線A1に沿った方向に貫通する孔28が設けられており、その孔28に円筒部41が配置されている。円筒部41とプライマリシャフト22との接触部分には、ねじ機構55に加えて、回り止め機構67が設けられている。この回り止め機構67は、シリンダ38とプライマリシャフト22とが、軸線A1を中心として円周方向に相対回転することを防止する機構である。具体的には、プライマリシャフト22と円筒部41とが、スプライン結合もしくはセレーション結合されて、回り止め機構67が形成されている。すなわち、円筒部41の外周面に外歯70が形成され、プライマリシャフト22の内周面に内歯69が形成されている。そして、内歯69と外歯70とが係合されて円周方向の係合力が発生している。さらに、円筒部41内にはプラグ68が圧入固定されている。このプラグ68により、円筒部41内の油路60と、孔28とが液密に仕切られている。このプラグ68は金属材料により円柱形状に構成されている。また、プラグ68はシリンダ38よりも硬度の高い金属材料により構成されている。
【0053】
さらに、第4の具体例のベルト式無段変速機の組立方法を説明する。まず、第1工程について説明する。この第1工程はプライマリシャフト22の製造工程であり、この第1工程では、金属材料により構成された回転部材を加工して、孔28内に雌ねじ56および内歯69を形成したプライマリシャフト22を製造する。この第1工程では、プライマリシャフト22に対してシリンダ38は取り付けられていない。つぎに、第2工程について説明する。この第2工程は、シリンダ38の製造工程である。この第1工程および第2工程は、同時にまたは並行しておこなってもよいし、第1工程と第2工程とに時間差が生じてもよい。この第2工程では、金属材料をプレス加工して、シリンダ38が製造される。この第2工程では、シリンダ38はプライマリシャフト22には取り付けられない。
【0054】
上記の第1工程および第2工程についで、プライマリシャフト22を、図8のように、ケーシング6の内部に配置する。その後、第3工程では、シリンダ38をケーシング6の内部に挿入し、シリンダ38の円筒部41をプライマリシャフト22の孔28内に挿入する。この第3工程では、円筒部41の外周面には、雄ねじ57および外歯70は、未だ形成されていない。この第3工程において、油路45,47が形成される。この第3工程についで第4工程がおこなわれる。この第4工程では、プラグ68が軸線A1に沿って移動され、そのプラグ68が円筒部41内に圧入される。すると、円筒部41を外側に向けて拡大させる荷重が発生する。その結果、円筒部41がプライマリシャフト22の内周面に押し付けられて塑性変形し、円筒部41の外周面に雄ねじ部57および外歯70が形成される。
【0055】
このように、第4工程で、雄ねじ部57と雌ねじ部56とが噛み合ったねじ機構55が形成され、かつ、内歯69と外歯70とが係合された回り止め機構67が形成される。一方、リヤカバー7に軸受43を取り付けたユニットが組み立てられている。このユニットの組み立て作業は、第1工程ないし第3工程と並行しておこなわれてもよいし、第1工程ないし第3工程とは異なる時間におこなってもよい。そして、前記第4工程の後に、リヤカバー7に軸受43を取り付けたユニットを、ケーシング6に近づけて、軸受43の内輪63によりシリンダ38を保持するとともに、図示しないボルトを締め付けて、ケーシング6とリヤカバー7とを相互に固定する。このようにして、ベルト式無段変速機10をトランスアクスルケース4内に取り付ける作業、つまり、組み立て作業が完了する。
【0056】
上記第4の具体例においては、プラグ68を円筒部41内に圧入して、ねじ機構55および回り止め機構67を形成すると、ねじ機構55が設けられているため、プライマリシャフト22とシリンダ38とが、軸線A1に沿った方向に相対移動することがない。また、回り止め機構67が設けられているため、プライマリシャフト22とシリンダ38とが、軸線A1を中心として相対回転することがない。したがって、油圧室46の油圧がシリンダ38に作用して、シリンダ38に、軸線A1に沿った方向の荷重が加えられた場合でも、ねじ機構55が緩むことを確実に防止でき、ねじ機構55の抜け止め機能が一層向上する。さらに、円筒部41の内周にプラグ68が圧入されているため、円筒部41が軸線A1を中心として内側に変形することを防止でき、ねじ機構55の噛み合い力が低下することを一層確実に防止できる。なお、第4の具体例において、第3の具体例と同じ構成部分については、第3の具体例と同じ作用効果を得られる。ここで、第4の具体例における構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、プラグ68が、この発明の圧入部材に相当し、回り止め機構67が、この発明における回り止め機構に相当し、外歯69が、この発明における係合部に相当し、内歯70が、この発明における被係合部に相当する。
【0057】
つぎに、プライマリシャフト22およびシリンダ38の「第5の具体例」を、図9に基づいて説明する。第5の具体例において、第1の具体例ないし4と同様の構成部分については、第1の具体例ないし第4の具体例と同じ符号を付してある。この「第5の具体例」では、プライマリシャフト22および固定片31が、金属材料により別々に構成されており、そのプライマリシャフト22と固定片31とが一体回転するように連結されている点が、第1の具体例ないし第4の具体例とは異なる。この「第4の具体例」において、プライマリシャフト22および固定片31は、炭素鋼または、クロム鋼などにより構成されている。前記プライマリシャフト22は、孔28を有するパイプ状を有しており、そのプライマリシャフト22と固定片31とが一体回転するように連結されている。また、キャリヤ21の円筒部31が、固定片31およびプライマリシャフト22に対して、一体回転するように連結されている。さらに、プライマリシャフト22における固定片31が設けられている位置とは反対側の端部には、外向きフランジ71が形成されている。この外向きフランジ71は、半径方向で外側に向けて突出されており、プライマリシャフト22の全周に亘って設けられている。
【0058】
そして、プライマリシャフト22の外周側において、軸線A1に沿った方向で、固定片31と外向きフランジ71との間に可動片33が設けられている。このため、可動片33は外向きフランジ71に接触すると、軸線A1に沿った方向の動作が規制される。また、プライマリシャフト22と可動片38とが一体回転できるように連結されている。さらに、プライマリシャフト22の端部と、シリンダ38の突出部40との間に油路45が形成され、シリンダ22と円筒部41との間に油路47が形成されている点は、第4の具体例の構成と同じである。また、プライマリシャフト22と円筒部41との間に、抜け止め機構となるねじ機構55が設けられている点も、第4の具体例と同じである。さらに、円筒部41とプライマリシャフト22との間に回り止め機構67が設けられている点も、第4の具体例と同じである。さらに、円筒部41内にプラグ68が圧入されている点も、第4の具体例と同じである。
【0059】
この「第5の具体例」のベルト式無段変速機の組立方法を説明する。まず、第1工程について説明する。この第1工程はプライマリシャフト22の製造工程であり、この第1工程では、金属材料により構成されたパイプを加工して、孔28内に雌ねじ56および内歯69を形成したプライマリシャフト22を製造する。この第1工程では、プライマリシャフト22に対してシリンダ38は取り付けられていない。また、プライマリシャフト22とは別に、固定片31および可動片38が製造されており、先に、プライマリシャフト22の外周に可動片38が取り付けられる。その後、プライマリシャフト22の外周に固定片31が取り付けられ、かつ、キャリヤ21が、プライマリシャフト22および固定片31に、一体回転するように取り付けられて、プライマリシャフト22にプライマリプーリ26が取り付けられたユニットが構成される。
【0060】
つぎに、第2工程について説明する。この第2工程は、シリンダ38の製造工程である。この第1工程および第2工程は、同時にまたは並行しておこなってもよいし、第1工程および第2工程に時間差が生じてもよい。この第2工程では、金属材料をプレス加工して、シリンダ38が製造される。この第2工程では、シリンダ38はプライマリシャフト22には取り付けられない。上記の第1工程および第2工程についで、プライマリシャフト22およびプライマリプーリ26のユニットを、図10のように、ケーシング6の内部に配置する。その後におこなわれる第3工程および第4工程は、第4の具体例の場合と同じであるため、説明を省略する。この「第5の具体例」において、第1の具体例ないし第4の具体例と同じ構成部分については、第1の具体例ないし第4の具体例と同じ作用効果を得られる。さらに、この「第5の具体例」においては、パイプを用いてプライマリシャフト22を製造しているため、孔28を成形する場合に切削加工を施さずに済み、一層製造コストを抑制できる。なお、図2に示すパワートレーンでは、エンジン2からベルト式無段変速機10に至る動力伝達経路に前後進切換装置9が配置されているが、ベルト式無段変速機10から車輪12に至る動力伝達経路に前後進切換装置が配置されたパワートレーンにおいても、この発明を適用可能である。また、前後進切換装置9は遊星歯車機構を有しているが、平行軸歯車式の前後進切換装置を用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】この発明のベルト式無段変速機において、プライマリシャフトおよびプライマリプーリの構成の「第1の具体例」を示す断面図である。
【図2】この発明におけるベルト式無段変速機を有する車両のパワートレーンを示すスケルトン図である。
【図3】図1のIII −III におけるシリンダの断面図である。
【図4】図1のプライマリシャフトおよびシリンダの断面図である。
【図5】この発明のベルト式無段変速機において、プライマリシャフトおよびプライマリプーリの構成の「第2の具体例」を示す断面図である。
【図6】この発明のベルト式無段変速機において、プライマリシャフトおよびプライマリプーリの構成の「第3の具体例」を示す断面図である。
【図7】この発明のベルト式無段変速機において、プライマリシャフトおよびプライマリプーリの構成の「第4の具体例」を示す断面図である。
【図8】図7に示されたプライマリシャフトおよびプライマリプーリの組立工程を示す断面図である。
【図9】この発明のベルト式無段変速機において、プライマリシャフトおよびプライマリプーリの構成の「第5の具体例」を示す断面図である。
【図10】図9に示されたプライマリシャフトおよびプライマリプーリの組立工程を示す断面図である。
【符号の説明】
【0062】
10…ベルト式無段変速機、 22…プライマリシャフト、 28…孔、 31…固定片、 33…可動片、 38…シリンダ、 42…接合部、 46…油圧室、 39…湾曲部、 40…突出部、 41…円筒部、 45…油路、 55…ねじ機構、 56…雌ねじ部、 57…雄ねじ部、 69…内歯、 70…外歯、A1…軸線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力が伝達されて回転する回転部材と、この回転部材が回転する場合の中心となる軸線と、前記回転部材の外周に設けられ、かつ、前記軸線に沿った方向には動かない固定片と、前記回転部材の外周に設けられ、かつ、前記軸線に沿った方向に動くことのできる可動片と、前記回転部材の外周側に形成され、かつ、前記可動片に前記軸線に沿った方向の推力を与える油圧室と、前記回転部材に設けられ、かつ、前記油圧室を取り囲む壁部材と、この壁部材が前記回転部材から外れることを防止する固定機構とを備えたベルト式無段変速機において、
前記回転部材に、前記軸線に沿った方向の深さを有する孔が形成されており、この孔の内部に前記固定機構が設けられていることを特徴とするベルト式無段変速機。
【請求項2】
前記壁部材は、前記軸線を中心とする半径方向で、前記回転部材の外側に配置された環状部と、この環状部の内周端に連続され、かつ、前記半径方向で内側に向けて延ばされた突出部と、この突出部の内周端に連続され、かつ、前記軸線に沿った方向に延ばされた円筒部とを有しており、この円筒部が前記孔の内部に配置されており、
前記固定機構は、前記円筒部の外周面と前記回転部材の内周面との間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のベルト式無段変速機。
【請求項3】
前記軸線に沿った方向における回転部材の端部と、前記突出部との間に、前記油圧室に通じる油路が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のベルト式無段変速機。
【請求項4】
前記固定機構が、前記回転部材に形成された雌ねじ部と、前記円筒部に形成された雄ねじ部とを有するねじ機構であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のベルト式無段変速機。
【請求項5】
前記円筒部の内部に挿入された圧入部材を有しており、前記圧入部材を前記円筒部に圧入した際に、予め設けられている前記雄ねじ部または雌ねじ部のいずれか一方が相手部材に押し付けられて、雄ねじ部または雌ねじ部のいずれか他方が形成されたものであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のベルト式無段変速機。
【請求項6】
前記回転部材と前記円筒部との間に、前記軸線を中心とする円周方向の係合力により、前記回転部材と前記壁部材とが相対回転することを防止する回り止め機構が設けられていることを特徴とする請求項4または5に記載のベルト式無段変速機。
【請求項7】
前記円筒部の自由端を塞ぐ栓部が設けられていることを特徴とする請求項2ないし6のいずれかに記載のベルト式無段変速機。
【請求項8】
金属材料により構成された回転部材を用意し、この回転部材に、その軸線に沿った方向に動くことができる可動片を取り付け、ついで、前記回転部材に、前記可動片との間に油圧室を形成し、かつ、金属材料により構成された壁部材を取り付けた後、この壁部材が回転部材から外れることを防止するように固定する、ベルト式無段変速機の組立方法において、
前記壁部材を前記回転部材に取り付ける前に、その回転部材に、前記軸線に沿った方向の深さを有する孔を形成するとともに、その回転部材の内周面に雌ねじ部を形成し、かつ、前記回転部材の内周面に軸線を中心として半径方向に突出された係合部を形成する第1工程と、
前記壁部材を回転部材に取り付ける前に、その壁部材に前記軸線を中心とする円筒部を形成する第2工程と、
前記第1工程および第2工程に次いでおこなわれ、かつ、前記壁部材の円筒部を前記回転部材の孔内に挿入する第3工程と、
この第3工程に次いでおこなわれ、かつ、前記円筒部の内部に前記軸線に沿った方向に圧入部材を圧入して、前記円筒部を前記回転部材の内周面に押し付けて、前記円筒部を前記軸線を中心とする外側に向けて塑性変形させることにより、前記円筒部の外周に、前記雌ねじ部に噛合する雄ねじ部を形成し、かつ、前記係合部に係合されて前記回転部材と前記壁部材との相対回転を防止する被係合部を形成する第4工程と
を有することを特徴とするベルト式無段変速機の組立方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−115265(P2009−115265A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291226(P2007−291226)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】