説明

ベルト式無段変速機の空気流入防止装置

【課題】プーリ油室への空気流入を防止し、ベルト滑りを防止できるベルト式無段変速機の空気流入防止装置を提供する。
【解決手段】一端部がプーリ油室13へ作動油を給排する給排油路41と接続され、他端部にプーリ油室13の頂部より高い位置に大気開放口93を有する空気導入通路92を設け、空気導入通路内のプーリ油室13の頂部より高い位置に、空気導入通路へ作動油が供給された時に作動油の流出を阻止し、空気導入通路の作動油がドレーンされた時に大気開放口93を介して空気の流入を許容するチェック弁94を設ける。プーリ油室13の油圧が排出されたとき、先にチェック弁94が開いて空気が空気導入通路92に流入するので、プーリ油室13への空気流入を遅らせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト式無段変速機において、そのプーリ油室への空気流入を防止する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プライマリプーリとセカンダリプーリとの間にベルトを巻き掛け、両プーリに設けられた油室の供給油量/油圧を制御することにより、変速制御とベルト挟圧制御とを行うベルト式無段変速機が知られている。この無段変速機を制御する場合、プライマリプーリの油室への作動油量をレシオコントロール弁(流量制御弁)で制御することによって、プーリ比を制御すると共に、セカンダリプーリの油室への供給油圧を挟圧コントロール弁(圧力制御弁)で制御することによって、ベルト挟圧を制御するのが一般的である。
【0003】
ところで、車両停止時にエンジンを自動停止させ、アイドリング中の無駄な燃料消費や排出ガスの発生を抑えるアイドルストップ車が知られている。このアイドルストップ車に前述のようなベルト式無段変速機を搭載し、この無段変速機への油圧をエンジンにより駆動されるオイルポンプのみで発生するように構成したものがある。このような車両では、アイドルストップに伴いオイルポンプも停止するため、無段変速機のプーリ油室から油路を介して作動油が排出される。一般に、プーリ油室はオイルパンの油面より高い位置にあるため、その水頭差によってプーリ油室の作動油が継続して排出され、それに代わって、排出された作動油の体積相当分の空気がシール部を介してプーリ油室内に流入してしまう。シール部とは、例えば変速機ケースに形成された油路(固定部)とプーリ油室(回転部)との間に設けられたシールリング等である。
【0004】
図9は、プーリ油室への空気流入を示す原理図である。図9において、100はオイルパン、110はオイルポンプ、120は各種バルブを収容したバルブボデー、130は給排油路、140はプーリ油室である。油路130とプーリ油室140との間にシール部150が設けられている。プーリ油室140はオイルパン100の油面よりHだけ高い位置に設定されている。油路130には、バルブボデー120に内蔵された調圧バルブ等によってオイルポンプ110の吐出圧を調圧した油圧が供給される。
【0005】
アイドルストップ状態になってオイルポンプ110が停止すると、プーリ油室140への油圧供給がなくなるので、シール部150が大気圧となり、水頭差Hによってプーリ油室140内の作動油が油路130を介してバルブボデー120のバルブ隙間160などから排出され、それに代わってシール部150から空気がプーリ油室140に流入する。その後、アイドルストップ状態から発進しようとして、エンジンによりオイルポンプ110が駆動されると、油路130を介してプーリ油室140に作動油が供給されるが、空気(空気は圧縮性流体である)が流入したプーリ油室140では油圧上昇が遅れるため、ベルト滑りや発進のもたつき感が発生する可能性がある。
【0006】
前記のような空気流入の問題は、アイドルストップ車に限るものではなく、プーリ油室がオイルパンの油面より上方に位置するベルト式無段変速機において一般に起こり得るものである。例えば、減速状態から車両停止に至る場合、車両停止までの間にプーリ比を最大変速比(最Low)状態まで戻す必要があるため、プライマリ油室から作動油を流量制御弁を介して急速に排出する。しかし、車両停止直前の車速ではプーリ比の検出精度が悪化し、プーリ比が最Low状態に戻ったかどうかを検出できないので、最Low状態を確実にするため、最Low状態の到達予想後もプライマリ油室から作動油を排出し続けている。プーリ比が最Lowに到達するとプライマリプーリの可動シーブはストッパに当接するため、プライマリ油室の容積変化がなくなる。しかし、プライマリ油室はオイルパンの油面より高い位置にあるため、その水頭差によって作動油が流量制御弁を介して継続して排出され、空気がシール部を介してプライマリ油室内に流入してしまう。そして、次に再発進しようとすると、プライマリ油室へ作動油を供給する際に油圧の立ち上がりが遅れ、ベルト滑りや発進の遅れが発生する可能性がある。
【0007】
特許文献1には、自動変速機に内蔵されたクラッチの作動休止中に、クラッチの押圧ピストン室と連通してオイルパン油面の上方に排出口を有する排出経路を設け、この排出口を閉塞し、排出口からの作動油の排出のみを許容する逆止弁を設けた液圧制御装置が開示されている。
【0008】
この液圧制御装置では、自動変速機の休止中にオイル排出経路が大気圧に開放されないようにして、排出口から排出経路内への空気の侵入を阻止するものである。この逆止弁の機能は、排出口からの作動油の排出は許容するが、外部からの空気流入を防止するものであり、図9に示すようなベルト式無段変速機のシール部からの空気流入に対しては、効果がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−34024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、プーリ油室への空気流入を防止し、ベルト滑りを防止できるベルト式無段変速機の空気流入防止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明は、ベルトが巻きかけられたプライマリプーリとセカンダリプーリとを有し、前記両プーリにはそれぞれ可動シーブを作動させるプーリ油室が設けられ、前記プーリ油室はオイルパンの油面より上方に位置しており、給排油路を介して前記プーリ油室へ作動油を給排することにより、ベルト巻き掛け径を可変としたベルト式無段変速機において、一端部が前記給排油路と接続され、他端部に前記プーリ油室の頂部より高い位置に大気開放口を有する空気導入通路を設け、前記空気導入通路内の前記プーリ油室の頂部より高い位置に、前記空気導入通路へ作動油が供給された時に作動油の流出を阻止し、前記空気導入通路の作動油がドレーンされた時に前記大気開放口を介して空気の流入を許容するチェック弁を設けたことを特徴とする、ベルト式無段変速機の空気流入防止装置を提供する。
【0012】
給排油路を介してプーリ油室へ作動油が供給されている状況では、空気導入通路も作動油で満たされているので、チェック弁は閉じられ、作動油の流出が阻止される。一方、プーリ油室から作動油が排出される状況になると、空気導入通路の作動油も同様に排出される。このとき、シール部から空気がプーリ油室へ流入する懸念が生じるが、チェック弁はプーリ油室の頂部より高い位置にあるので、チェック弁の水頭圧の方がプーリ油室の水頭圧より高い。そのため、シール部より先にチェック弁が開いて大気開放口から空気を流入させ、シール部からの空気流入を遅らせることができる。その結果、再発進時のプーリ油室への作動油充填の遅れを解消でき、ベルト滑りや発進のもたつき感を解消できる。
【0013】
本発明の空気流入防止装置は、エンジンにより駆動されるオイルポンプを備えたアイドルストップ車に適用した場合に特に効果的である。アイドルストップ車の場合、アイドルストップ時にオイルポンプも停止するので、無段変速機のプーリ油室への油圧供給がなくなる。そのため、上述と同様にプーリ油室へ空気が流入する懸念が生じるが、給排油路にプーリ油室の頂部より高い位置にチェック弁を持つ空気導入通路を接続することで、プーリ油室への空気流入を遅らせることができ、アイドルストップ復帰時におけるベルト滑りを抑制することができる。
【0014】
アイドルストップ時にチェック弁の高さからプーリ油室の頂部と同じ高さまで空気導入通路の液面が降下する時間を、アイドルストップの最長設定時間以上に設定しておくのが望ましい。アイドルストップ時にはオイルポンプが停止するので、空気導入通路内の作動油の液面は時間と共に降下し、空気導入通路から排出された油量に相当する空気がチェック弁を介して空気導入通路に流入する。空気導入通路内の液面がプーリ油室の頂部と同じ高さまで降下すると、シール部からプーリ油室へ空気が流入する可能性がある。そこで、空気導入通路の液面がチェック弁の高さからプーリ油室の頂部と同じ高さまで降下する時間を、アイドルストップの最長設定時間以上に設定しておけば、アイドルストップ時間が最長設定時間まで長くなっても、プーリ油室に空気が流入するのを確実に防止できる。一般に、アイドルストップ最長設定時間は数分程度に制限されているので、例えば空気導入通路からドレーンされる油量を絞ることによって、空気導入通路内の液面がプーリ油室の頂部と同じ高さまで降下する時間を稼ぐことができる。
【0015】
本発明の空気導入通路の一端部はプーリ油室への給排油路と接続されている。ここで、空気導入通路に満たされた油圧がプーリ油室の油圧と同圧である必要はないが、プーリ油室から作動油がドレーンされる場合には、空気導入通路の作動油も共通のドレーン口(又はバルブ隙間)からドレーンされる必要がある。もし、空気導入通路と給排油路とが個別のドレーン口に接続されている場合には、チェック弁とシール部とから個別に空気を流入させる可能性があり、プーリ油室への空気流入を阻止できないからである。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、プーリ油室から作動油がドレーンされる状況になると、空気導入通路の作動油も同様にドレーンされるので、プーリ油室の頂部より高い位置に配置されたチェック弁の方がシール部より早く開いて大気開放口から空気導入通路へ空気を流入させることができる。そのため、プーリ油室への空気流入を遅らせることができ、再発進時のベルト滑りや発進のもたつき感を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る車両の構成を示すスケルトン図である。
【図2】プライマリプーリ及びセカンダリプーリの詳細断面図である。
【図3】図1に示す無段変速機の油圧制御装置の油圧回路図である。
【図4】本発明にかかる空気流入防止装置の第1実施例の概略図である。
【図5】(a)は図4において作動油が給排油路及空気導入通路に充填された状態、(b)は給排油路及び空気導入通路から作動油がドレーンされた状態を示す原理図である。
【図6】本発明にかかる空気流入防止装置の第2実施例の原理図である。
【図7】本発明にかかる空気流入防止装置の第3実施例の原理図である。
【図8】空気流入防止装置の比較例の原理図である。
【図9】従来の無段変速機の油圧制御装置の原理図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は本発明に係るベルト式無段変速機を搭載した車両の構成の一例を示す。エンジン1の出力軸1aは、無段変速機2を介してドライブシャフト(出力軸)32に接続されている。無段変速機2には、トルクコンバータ3、変速装置4、油圧制御装置7及びエンジン1により駆動されるオイルポンプ6などが設けられている。
【0019】
無段変速機2は、トルクコンバータ3のタービン軸5の回転を正逆切り替えてプライマリ軸10に伝達する前後進切替装置8、プライマリプーリ11、セカンダリプーリ21及び両プーリ間に巻き掛けられたベルト15を有する変速装置4、セカンダリ軸20の動力をドライブシャフト32に伝達するデファレンシャル装置30などで構成されている。
【0020】
前後進切替装置8は、遊星歯車機構80と逆転ブレーキB1と直結クラッチC1とで構成されている。遊星歯車機構80のサンギヤ81が入力部材であるタービン軸5に連結され、リングギヤ82が出力部材であるプライマリ軸10に連結されている。逆転ブレーキB1はピニオンギヤ83を支えるキャリア84とトランスミッションケースとの間に設けられ、直結クラッチC1はキャリア84とサンギヤ81との間に設けられている。直結クラッチC1を解放して逆転ブレーキB1を締結すると、ドライブシャフト32がエンジン回転方向と同方向に回転するため、前進走行状態となる。逆に、逆転ブレーキB1を解放して直結クラッチC1を締結すると、ドライブシャフト32がエンジン回転方向と逆方向に回転するため、後進走行状態となる。
【0021】
図2は変速装置4の具体的構造を示す。プライマリプーリ11は、プライマリ軸10上に一体に形成された固定シーブ11aと、プライマリ軸10上に軸方向移動自在に、かつ一体回転可能に支持された可動シーブ11bとを備えている。可動シーブ11bの背後には、プライマリ軸10に固定されたシリンダ12が設けられ、可動シーブ11bとシリンダ12との間に油室13が形成されている。最Low状態では、プライマリプーリ11の可動シーブ11bはストッパ12aに当接する。油室13には、変速機ケース40に設けられた給排油路41からプライマリ軸10の軸心穴10aを介して作動油が供給される。この作動油を後述するレシオコントロール弁76,77で流量制御することにより、変速制御が実施される。油路41と軸心穴10aとの接続部には回転摺動するシール42が設けられている。油室13の頂部はオイルパンの油面からの高さHpの位置にある。
【0022】
セカンダリプーリ21は、セカンダリ軸20上に一体に形成された固定シーブ21aと、セカンダリ軸20上に軸方向移動自在に、かつ一体回転可能に支持された可動シーブ21bとを備えている。可動シーブ21bの背後には、セカンダリ軸20に固定されたピストン22が設けられ、可動シーブ21bとピストン22との間に油室23が形成されている。この油室23への供給油圧(セカンダリ圧)を制御することにより、トルク伝達に必要なベルト挟圧力が与えられる。なお、油室23には初期挟圧力を与えるバイアススプリング24が配置されている。油室23には、変速機ケース40に設けられた給排油路43からセカンダリ軸20の軸心穴20aを介して作動油が供給される。この作動油を後述する挟圧コントロール弁79で圧力制御することにより、ベルト挟圧制御が実施される。油路43と軸心穴20aとの接続部には回転摺動するシール44が設けられている。油室23の頂部はオイルパンの油面からの高さHsの位置にあり、通常は油室23の高さHsはプライマリプーリ11の油室13の高さHpよりやや高い。セカンダリプーリ21の油室23近傍の給排油路43中には、セカンダリ圧を検出する油圧センサ108(図3参照)が設けられている。
【0023】
セカンダリ軸20の一方の端部はエンジン側に向かって延び、この端部に出力ギヤ27が固定されている。出力ギヤ27はデファレンシャル装置30のリングギヤ31に噛み合っており、デファレンシャル装置30から左右に延びるドライブシャフト32に動力が伝達され、車輪が駆動される。
【0024】
無段変速機2は電子制御装置100(図1参照)によって制御される。電子制御装置100には、エンジン回転数センサ101、セカンダリプーリ回転数センサ(車速センサ)102、スロットル開度(又はアクセル開度)センサ103、シフトポジションセンサ104、プライマリプーリ回転数センサ105、ブレーキ信号センサ106、CVTの作動油温センサ107、及びセカンダリ圧を検出する油圧センサ108からそれぞれ検出信号が入力されている。入力信号として、その他の信号を入力してもよいことは勿論である。プライマリプーリ回転数センサ105及び車速センサ102の検出信号により、プーリ比を検出できる。セカンダリプーリ回転数は車速と対応するので、センサ102は車速センサを兼ねている。電子制御装置100は、図示しないエンジン制御用ECUと連携しており、エンジン制御用ECUからアイドルストップ実施判定信号が入力される。アイドルストップ実施判定条件(エンジン停止条件)としては、車速0、アクセルオフ、ブレーキオンなどがあり、エンジンの再始動条件(復帰条件)としては、ブレーキオフ、アクセルオンなどがある。
【0025】
電子制御装置100は、油圧制御装置7に内蔵されたソレノイド弁を制御している。油圧制御装置7は、オイルポンプ6、プライマリプーリ11の油室13、セカンダリプーリ21の油室23、逆転ブレーキB1、直結クラッチC1とそれぞれ油路接続されている。電子制御装置100は、油圧制御装置7内のソレノイド弁を制御することによって、無段変速機2のプライマリプーリ11及びセカンダリプーリ21の油室13,23の油量/油圧を調整し、プライマリ回転数を目標値へと制御すると共に、ベルト挟圧力をベルト滑りを発生させない目標値へと制御している。また、油圧制御装置7は逆転ブレーキB1及び直結クラッチC1への供給油圧を制御する機能も有している。
【0026】
図3は油圧制御装置7の一例の油圧回路図である。図3において、71はレギュレータ弁、72はクラッチモジュレータ弁、73はソレノイドモジュレータ弁、74はガレージシフト弁、75はマニュアル弁、76はアップシフト用レシオコントロール弁、77はダウンシフト用レシオコントロール弁、78はレシオチェック弁、79は挟圧コントロール弁である。また、SLSはソレノイド圧Psls を出力するリニアソレノイド弁であり、ライン圧の調圧制御、逆転ブレーキB1及び直結クラッチC1の過渡制御、及びセカンダリプーリ21の油室23の圧力制御を行うために用いられる。DS1はアップシフト用信号圧Pds1を発生するアップシフト用ソレノイド弁、DS2はダウンシフト用信号圧Pds2 を発生するダウンシフト用ソレノイド弁である。ソレノイド弁DS1,DS2は、変速制御だけでなく、閉じ込み制御を実施する機能も有する。本実施形態では、リニアソレノイド弁SLSは常開型のリニアソレノイド弁、ソレノイド弁DS1,DS2は共に常閉型のソレノイド弁を使用している。
【0027】
ソレノイド弁DS1,DS2は、走行状態に応じて次のように制御される。
【表1】

【0028】
表1において、○は作動状態、×は非作動状態を示す。なお、○及び×はON状態又はOFF状態だけでなく、デューティ制御状態を含む。両方のソレノイド弁を同時にOFFする閉じ込み制御は、車両停止状態で最Low状態を保持し、再発進時のベルト滑り防止のために実施される。一方、両方のソレノイド弁をONする閉じ込み制御は、ガレージシフト時に実施される。
【0029】
図3では、プライマリプーリ11、セカンダリプーリ21、逆転ブレーキB1及び直結クラッチC1に関する油圧回路だけを示してあるが、トルクコンバータ3に内蔵されたロックアップクラッチ3a等の油圧回路については、本発明と直接関係がないので省略する。レギュレータ弁71は、オイルポンプ6の吐出圧を所定のライン圧PL に調圧する弁であり、クラッチモジュレータ弁72は、直結クラッチC1および逆転ブレーキB1への供給圧(PC1,PB1)の元圧となるクラッチモジュレータ圧Pcmを出力する弁である。ソレノイドモジュレータ弁73は、クラッチモジュレータ圧Pcmを調圧して、スプリング荷重に相当する一定のソレノイドモジュレータ圧Psmを発生する弁である。ガレージシフト弁74は、シフトレバーをN→D又はN→Rへ切り替えた時(ガレージシフト時)に、直結クラッチC1及び逆転ブレーキB1への供給圧を過渡制御できるように油路を切り替えるための切替弁である。マニュアル弁75はシフトレバーと機械的に連結された手動操作弁であり、P、R、N、D、S、Bの各レンジに切り換えられる。
【0030】
アップシフト用レシオコントロール弁76及びダウンシフト用レシオコントロール弁77は、アップシフト用信号圧Pds1 とダウンシフト用信号圧Pds2との相対関係によってバルブ開口面積を変化させ、プライマリプーリ11の油室13への作動油量を調整する流量制御弁である。レシオチェック弁78は、閉じ込み制御の際に、プライマリプーリ11の油室13の油圧を流量制御から圧力制御に切り替えて、プライマリ圧をセカンダリ圧との比率に応じた所定圧に保持するための圧力制御弁である。
【0031】
挟圧コントロール弁79は、ライン圧を調圧して、セカンダリプーリ21の油室23の油圧(セカンダリ圧)を制御するための圧力制御弁である。挟圧コントロール弁79の一端側には、リニアソレノイド弁SLSのソレノイド圧Psls が信号圧として導入され、セカンダリ圧はこのソレノイド圧Psls に比例した油圧に制御される。なお、セカンダリ圧は油圧センサ108によって検出される。
【0032】
図3に示すように、ライン圧油路にチェック弁94を有する空気導入通路92が接続されている。この空気導入通路92は、後述するように、アイドルストップ時のようなオイルポンプ停止時におけるプーリ11、21の油室13、23への空気流入を防止するものである。すなわち、オイルポンプ停止時には、プライマリプーリ11の給排油路41はレシオコントロール弁76、77及びレシオチェック弁78を介してライン圧油路と連通し、セカンダリプーリ21の給排油路43も挟圧コントロール弁79を介してライン圧油路と連通する。プライマリプーリ11の油室13及びセカンダリプーリ21の油室23はオイルパンの油面より高い位置にあるので、水頭圧によって油室13、23の油はライン圧油路を通り各種バルブ隙間からドレーンされる。そのため、油室13、23から排出された油量に相当する空気がシール部42、44(図2参照)から油室13、23に流入する可能性がある。そこで、ライン圧油路に空気導入通路92を接続することで、オイルポンプ停止時におけるプライマリプーリ11の油室13及びセカンダリプーリ21の油室23への空気流入を防止又は遅らせることができる。この場合、空気導入通路92のチェック弁94は、プライマリプーリ11の油室13及びセカンダリプーリ21の油室23の頂部より高い位置にある必要がある。なお、空気導入通路92を各プーリ11、21の給排油路41、43に個別に接続してもよい。ライン圧油路に空気導入通路92を接続した場合には、1本の空気導入通路92で、プーリ油室13、23以外の油圧装置(例えばクラッチC1、ブレーキB1)への空気流入を同時に防止することも可能である。
【0033】
一方、走行中に最Lowへ戻す際、プライマリプーリ11の油室13へ空気が流入するのを防止するには、空気導入通路92をライン圧油路ではなくプライマリプーリ11の給排油路41に接続する必要がある(図3に破線で示す)。その理由は、最Low戻し時に供給油路41はレシオコントロール弁76、レシオコントロール弁77のドレーンポート77aを介してドレーンされるが、供給油路41はライン圧油路とは連通していないからである。
【0034】
−第1実施例−
図4は、本発明にかかる空気流入防止装置の一例の概略図である。90は油圧制御装置7を構成するバルブボデーであり、このバルブボデー90内に図3に示す各種バルブが設けられている。バルブボデー90はオイルパン91に貯留された作動油の中に浸漬されている。オイルポンプ6から吐出された作動油はバルブボデー90内に導入され、給排油路41を介してプーリ油室13へ供給される。バルブボデー90には、空気導入通路92の一端部が接続されており、この空気導入通路92と給排油路41は給排口95(図5参照)と接続されている。空気導入通路92の他端部には、プーリ油室13の頂部より高い位置に大気開放口93が設けられ、大気開放口93の近傍にはチェック弁94が設けられている。チェック弁94は、作動油の流出を阻止し、かつ大気開放口93からの空気流入を許容するものであり、プーリ油室13の頂部より高い位置に配置されている。油面OLからプーリ油室13の頂部までの高さをH1、油面OLからチェック弁94までの高さをH2とすると、H2>H1に設定されている。
【0035】
図5の(a)は、給排口95から作動油が供給され、給排油路41及びプーリ油室13に作動油が充填されると共に、空気導入通路92にも充填された状態を示す。空気導入通路92にはチェック弁94が設けられているため、作動油が大気開放口93から流出することがない。図5の(b)は、給排口95がドレーンされ、給排油路41及びプーリ油室13の作動油が排出された状態を示す。給排油路41がドレーンされると同時に、空気導入通路92もドレーンされるので、プーリ油室13の頂部より高い位置にあるチェック弁94から先に空気が空気導入通路92に流入する。空気導入通路92に流入する空気量は時間と共に増大するが、その空気量は空気導入通路92から排出される作動油の量に相当するため、作動油の排出流量を絞ることにより、空気導入通路92内の液面降下時間を確保することができる。なお、ドレーン時に空気導入通路92及び給排油路41から排出される作動油の流量を絞るため、それぞれの通路にオリフィス92a,41aを設定してもよい(図5の(b)参照)。その結果、空気導入通路92内の液面がH1の高さまで降下するまでの間、シール部42からプーリ油室13に空気が流入するのを遅らせることができる。一般に、シール部42からの空気流入抵抗は、チェック弁94からの空気流入抵抗に比べて大きいので、空気導入通路92内の液面が高さH1まで降下しても、直ちにシール部42から空気が流入することはない。なお、図5では、給排口95を作動油の供給時も排出時も共通する口として説明したが、排出時のみ共通しておればよく、供給時には別の供給口を介してプーリ油室13と空気導入通路92とに作動油を充填してもよい。したがって、プーリ油室13と空気導入通路92とに異なる油圧が供給されてもよい。
【0036】
ここで、本発明にかかる空気流入防止装置の作動を、アイドルストップ車について説明する。所定のアイドルストップ条件が成立すると、エンジンが停止し、オイルポンプ6も停止するため、油圧回路の全ての部位への油圧供給が停止する。その際、オイルパンの油面より上方に位置するプーリ油室13、23内の作動油は水頭圧によってドレーン口(バルブ隙間など)95から排出され、空気導入通路92内の作動油も共通のドレーン口(バルブ隙間など)95から排出される(図5の(b)参照)。チェック弁94はプーリ油室13、23の頂部より上方に位置しているので、先にチェック弁94から空気が空気導入通路92に流入する。そのため、空気導入通路92内の液面が高さH1に降下するまでの間、シール部42,44からプーリ油室13,23に空気が流入するのを遅らせることができる。一般に、アイドルストップの最長持続時間は数分程度に制限されているので、その最長時間内にチェック弁94を介して流入する空気量(空気導入通路92から排出される作動油量)が、高さH2から高さH1までの空気導入通路92の容積以下になるように設定すれば、アイドルストップ時間が最長時間まで継続されても、プーリ油室13,23への空気流入を阻止できる。したがって、アイドルストップからの復帰/再発進時において、プーリ油室での油圧上昇の遅れ、ひいてはベルト滑りや発進のもたつき感の発生を防止できる。
【0037】
上述では、アイドルストップ時における空気流入防止装置の作動について説明したが、減速状態から車両停止に至る場合にも、空気流入防止装置によってプライマリ油室13への空気流入を防止することができる。すなわち、減速状態から車両停止に至る場合、車両停止までに無段変速機のプーリ比を最Low状態まで戻す必要があるため、ソレノイド弁DS1をOFF、ソレノイド弁DS2をONさせる。そのため、プライマリ油室13の作動油はレシオコントロール弁76,77を介して排出され、最Low到達後も作動油の排出は継続される。最Lowに到達すると、プライマリプーリ11の可動シーブ11bはストッパ12aに当接するため、プライマリ油室13の容積変化がなくなり、それ以後は排出された作動油の体積相当分の空気がプライマリ油室13内に流入する可能性がある。具体的には、作動油が軸心穴10aとオイルパンとの油面差(水頭H)によってレシオコントロール弁76,77を介して排出されるため、シール42が配置された変速機ケース40の油路41とプライマリ軸10の軸心穴10aとの接続部から空気が流入する可能性がある(図2参照)。
【0038】
しかし、プライマリ油室13の油圧がドレーンされたとき、給排油路41に接続された空気導入通路92内の作動油も共通の給排口95からドレーンされる(図5の(b)参照)。チェック弁94はプライマリ油室13の頂部より上方に位置しているので、チェック弁94から先に空気が空気導入通路92に流入し、空気導入通路92内の液面が高さH1に低下するまで、プライマリ油室13へ空気が流入するのを遅らせることができる。車両が停止すれば、ソレノイド弁DS1、DS2は共にOFFされ、プライマリ油室13の作動油は閉じ込み制御されるので、レシオコントロール弁76,77を介する作動油の排出は停止する。つまり、給排口95は閉じられるため、プライマリ油室13へ空気が流入する心配がない。
【0039】
−第2実施例−
図6は、本発明にかかる空気流入防止装置の第2実施例の概略図を示す。図5と同一機能部分には同一符号を付して重複説明を省略する。この実施例では、空気導入通路92の上部、特にプーリ油室13より高い位置に、容積拡大部96を形成したものである。この場合には、給排口95がドレーンされ、チェック弁94を介して大気開放口93から空気が導入されたとき、容積拡大部96によって空気導入通路92内の液面がH1の高さまで降下するのに時間がかかるように構成している。そのため、空気がプーリ油室13に流入するのをさらに遅らせることができる。
【0040】
−第3実施例−
図7は、本発明にかかる空気流入防止装置の第3実施例の概略図を示す。図5と同一機能部分には同一符号を付して重複説明を省略する。この実施例では、空気導入通路92を給排油路41の上端部に接続してある。この場合も、チェック弁94はプーリ油室13の頂部より上方に位置しており、給排口95がドレーンされたとき、チェック弁94を介して大気開放口93から空気が導入されることで、空気がプーリ油室13に流入するのを防止できる。この実施例では、空気導入通路92を給排油路41の先端部に接続するだけでよいので、空気導入通路92を短くでき、空気流入防止装置を小型に構成できるという利点がある。
【0041】
−比較例−
図8は、本発明と対比される比較例を示す。この比較例では、プーリ油室13へ作動油を給排する給排油路41と空気導入通路92とに個別の給排口97,98を設けたものである。この場合には、両方の給排口97,98が共にドレーンされたとき、図8に示すように、チェック弁94をプーリ油室13の頂部より高い位置に設定しても、チェック弁94及びシール部42から個別に空気が流入するため、プーリ油室13への空気流入を阻止できない。したがって、本発明の給排油路41と空気導入通路92は、図5〜図7に示すようにドレーン時において共通の給排口95と接続されている必要がある。
【0042】
前記実施例では、アイドルストップ時や急減速時のプーリ油室への空気流入について説明したが、本発明の空気流入防止装置は、エンジン停止状態での長期放置によるプーリ油室や油圧装置(クラッチ、ブレーキ)への空気流入に対しても効果がある。また、本発明の空気流入防止装置が適用される油圧制御装置としては、図3に示すようなバルブ及び油路構造に限るものではなく、他の油圧制御装置(例えば特開2007−263207号公報参照)にも適用可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0043】
1 エンジン
2 無段変速機
4 変速装置
6 オイルポンプ
7 油圧制御装置
11 プライマリプーリ
13 プライマリ油室
21 セカンダリプーリ
23 セカンダリ油室
41,43 給排油路
42,44 シール部
76 アップシフト用レシオコントロール弁
77 ダウンシフト用レシオコントロール弁
78 レシオチェック弁
79 挟圧コントロール弁
90 バルブボデー
91 オイルパン
92 空気導入通路
93 大気開放口
94 チェック弁
95 給排口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトが巻きかけられたプライマリプーリとセカンダリプーリとを有し、前記両プーリにはそれぞれ可動シーブを作動させるプーリ油室が設けられ、前記プーリ油室はオイルパンの油面より上方に位置しており、給排油路を介して前記プーリ油室へ作動油を給排することにより、ベルト巻き掛け径を可変としたベルト式無段変速機において、
一端部が前記給排油路と接続され、他端部に前記プーリ油室の頂部より高い位置に大気開放口を有する空気導入通路を設け、
前記空気導入通路内の前記プーリ油室の頂部より高い位置に、前記空気導入通路へ作動油が供給された時に作動油の流出を阻止し、前記空気導入通路の作動油がドレーンされた時に前記大気開放口を介して空気の流入を許容するチェック弁を設けたことを特徴とする、ベルト式無段変速機の空気流入防止装置。
【請求項2】
請求項1に記載のベルト式無段変速機と、
所定のエンジン停止条件が成立したときにアイドルストップされ、前記ベルト式無段変速機を介して車輪を駆動するエンジンと、
前記エンジンによって駆動され、前記ベルト式無段変速機への油圧を発生するオイルポンプと、を備えたアイドルストップ車であって、
アイドルストップ時に前記空気導入通路の液面が前記チェック弁の高さから前記プーリ油室の頂部と同じ高さまで降下する時間を、アイドルストップの最長設定時間以上に設定したことを特徴とする、アイドルストップ車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−247369(P2011−247369A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122396(P2010−122396)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】