説明

ベルト式無段変速機構の油路構造

【課題】ダブルピストン型の無段変速機構において、大型部品の加工を少なく抑えた簡単な構成でありながら、シリンダ室に作動油を流通させるための油路を確保できる油路構造を提供する。
【解決手段】回転軸11に固定された固定プーリ21と、回転軸11にローラ部材33でスプライン嵌合された可動プーリ25とを備え、第1シリンダ室28と第2シリンダ室48とを有する二重構造のシリンダ室を備えたダブルピストン型のベルト式無段変速機構10において、回転軸11に形成したスプライン溝11aと可動プーリ25に形成したスプライン溝26aとの隙間に設けられて第1シリンダ室28側と第2シリンダ室48側とを連通する油路36とを備えると共に、ローラ部材33に、該ローラ部材33の軸方向の両側の油路36を連通するための通路37を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動プーリと固定プーリに挟まれたVベルトを有するベルト式無段変速機構の油路構造に関し、詳細には、可動プーリを軸方向に移動させるための推力を発生させるアクチュエータ機構として、二重構造のシリンダ室を備えたダブルピストン型のベルト式無段変速機構の油路構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両などに搭載される自動変速機として、例えば特許文献1に示すように、ベルト式無段変速機構を備えた自動変速機がある。特許文献1に示す自動変速機のベルト式無段変速機構は、可動プーリを軸方向に移動させるための推力を発生させるアクチュエータ機構として、二つのピストンによる二重構造のシリンダ室を備えたダブルピストン型のベルト式無段変速機構である。このようなダブルピストン型のベルト式無段変速機構では、プーリ軸(回転軸)に対して可動プーリを相対回転不能かつ軸方向に移動可能に取り付けるための構造として、プーリ軸の外周面と可動プーリの内周面とに形成した軸方向に延びるスプライン溝(キー溝)にボールスプラインを嵌合させている。また、ボールスプラインに代えて、円柱型のローラ部材を嵌合させたローラスプライン構造もある。
【0003】
そして、このようなダブルピストン型のベルト式無段変速機構では、二つのシリンダ室の間で作動油を流通させるための油路構造として、ボールスプラインを設置したプーリ軸のスプライン溝と可動プーリのスプライン溝とに沿う油路を設け、該油路を介して二つのシリンダ室の間で作動油を流通させる構造がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−3012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ベルト式無段変速機構が備えるプーリ軸や可動プーリに上記のような油路用の溝を形成すると、比較的大型の部品であるプーリ軸や可動プーリに必要な加工工程が増えるため、製品の製造に手間と時間がかかるという問題がある。また、当該油路は、スプライン溝に設置したボールスプラインあるいはローラスプラインと干渉しないように配置する必要がある。そのため、油路を設ける配置やスペースに制約が生じるという問題もある。なお、特許文献1に記載のベルト式無段変速機構では、一方のシリンダ室に通じる油路をプーリ軸の径方向に延びる貫通穴としてスプライン溝とは別の箇所に設けているが、この構造では、プーリ軸や可動プーリに当該油路用の貫通穴を形成するための加工が別途必要になるため、やはりプーリ軸や可動プーリの製造に手間や時間を要することになる。
【0006】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ダブルピストン型の無段変速機構において、大型部品の加工を少なく抑えた簡単な構成でありながら、シリンダ室に作動油を流通させるための油路を確保できる油路構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明にかかるベルト式無段変速機構の油路構造は、回転軸(11)と、回転軸(11)に固定されて一体に回転する固定プーリ(21)と、回転軸(11)にスプライン嵌合用のローラ部材(33)でスプライン嵌合されて、該回転軸(11)に対して相対回転不能かつ軸方向に移動可能に係合する可動プーリ(25)と、固定プーリ(21)と可動プーリ(25)の間に形成した挟持溝(32)に挟持されたベルト部材(13)と、を備え、可動プーリ(25)を軸方向に移動させるための推力を発生させるアクチュエータ機構(30)として、可動プーリ(25)の背面側に画成された第1シリンダ室(28)と、回転軸(11)側に固定した部材(42)によって画成された第2シリンダ室(48)とを有する二重構造のシリンダ室からなるアクチュエータ機構(30)を備えたベルト式無段変速機構(10)において、回転軸(11)の外周面(11b)に形成したスプライン溝(11a)と可動プーリ(25)の内周面(26b)に形成したスプライン溝(26a)との隙間に設けられて第1シリンダ室(28)側と第2シリンダ室(48)側とを連通する油路(36)を備えると共に、ローラ部材(33)に、該ローラ部材(33)の軸方向の両側の油路(36)を連通する油路連通用の通路(37)を形成したことを特徴とする。
【0008】
本発明にかかるベルト式無段変速機構の油路構造によれば、回転軸の外周面に設けたスプライン溝と可動プーリの内周面に設けたスプライン溝との隙間に設けた油路を備えると共に、回転軸に対して可動プーリをスプライン嵌合させているローラ部材に、該ローラ部材の軸方向の両側の油路を連通するための通路を形成した。このように、スプライン嵌合用のローラ部材に油路を連通するための通路を形成したことで、回転軸の外周面に設けたスプライン溝と可動プーリの内周面に設けたスプライン溝との隙間を用いた油路で、第1シリンダ室側と第2シリンダ室側とを連通することができる。これにより、大型の部品であるプーリ軸や可動プーリに油路用の溝を別途に加工する必要がなく、小型の部品であるスプライン嵌合用のローラ部材に通路の加工を施すだけで、第1シリンダ室と第2シリンダ室とを連通するための通路を確保できる。したがって、大型部品の加工を少なく抑えた簡単な構成でありながら、ダブルピストン型のベルト式無段変速機構に必要な油路を構成できる。これにより、ベルト式無段変速機構の製造工程の簡素化及びコストダウンを図ることができる。
【0009】
また、本発明にかかるベルト式無段変速機構の油路構造では、上記の油路連通用の通路は、ローラ部材の軸心を貫通する貫通穴であってよい。あるいは、ローラ部材の外周側面に形成した軸方向に延びる溝部であってもよい。これらによれば、ローラ部材に対する簡単な加工で、ローラ部材の軸方向の両側を連通する通路を形成できる。
なお、上記の括弧内の符号は、後述する実施形態における構成要素の符号を本発明の一例として示したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかるベルト式無段変速機構の油路構造によれば、大型部品の加工を少なく抑えた簡単な構成でありながら、ダブルピストン型の無段変速機構における複数のシリンダ室間に作動油を流通させるための油路を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態にかかる油路構造を備えたベルト式無段変速機構を有する変速機の全体構成例を示す主断面図である。
【図2】プライマリプーリ及びその周辺の詳細構成を示す部分拡大図である。
【図3】ローラ部材に形成した通路の構成例を示す図で、(a)は、可動プーリに取り付けたローラ部材の部分拡大図、(b)は、ローラ部材の斜視図である。
【図4】ローラ部材に形成した通路の他の構成例を示す図で、(a)は、可動プーリに取り付けたローラ部材の部分拡大図、(b)は、ローラ部材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる油路構造を備えたベルト式無段変速機構(CVT:Continuously Variable Transmission)10を有する自動変速機(以下、単に「変速機」と記す。)1の全体構成例を示す主断面図である。同図に示す変速機1は、クランクシャフト2を介して図示しないエンジンの駆動力が伝達される入力軸3を備えている。入力軸3上には、トルクコンバータTCが設置されており、トルクコンバータTCの下流側(出力側)には、遊星歯車機構とクラッチ及びブレーキ機構とで構成された前後進切換機構4が設置されている。前後進切換機構4のさらに下流側には、入力軸3に対して同軸配置した駆動軸11上に設けたプライマリプーリ20と、駆動軸11に対して所定間隔で平行に設置した従動軸31上に設けたセカンダリプーリ50と、これらプライマリプーリ20とセカンダリプーリ50との間に巻き掛けた無端状のVベルト12とを備えたベルト式無段変速機構10が設置されている。
【0013】
ベルト式無段変速機構10が備えるプライマリプーリ20は、固定プーリ21と可動プーリ25とで構成されている。固定プーリ21と可動プーリ25との間には、Vベルト12を挟持するための挟持溝32が形成されている。固定プーリ21は、駆動軸11と一体に固定されている。可動プーリ25は、軸方向に沿って固定プーリ21と反対側に延びる筒状のフランジ部26を有し、該フランジ部26がローラ部材(ローラスプライン)33を介して駆動軸11に対してスプライン嵌合(ローラスプライン嵌合)している。これにより、可動プーリ25は、駆動軸11上で相対回転不能かつ軸方向に移動可能に取り付けられている。
【0014】
セカンダリプーリ50は、固定プーリ51と可動プーリ55とで構成されている。固定プーリ51と可動プーリ55との間には、Vベルト17を挟持するための挟持溝62が形成されている。固定プーリ51は、従動軸31と一体に固定されている。一方、可動プーリ55は、軸方向に沿って固定プーリ51と反対側に延びる筒状のフランジ部56を有し、フランジ部56がローラ部材63を介して従動軸31に対してスプライン嵌合している。これにより、可動プーリ55は、従動軸31上で相対回転不能かつ軸方向に移動可能に取り付けられている。
【0015】
また、従動軸31の端部には駆動ギヤ13が固着されており、この駆動ギヤ13は、アイドラ軸14に設けられたアイドラギヤ14a、ピニオンギヤ14b、及び差動装置15のファイナルギヤ15aを介して、図示しない車輪に至るドライブシャフト16a,16bを駆動するようになっている。
【0016】
プライマリプーリ20の可動プーリ25は、ダブルピストン型の油圧アクチュエータ機構30により駆動可能になっており、セカンダリプーリ50の可動プーリ55は、ダブルピストン型の油圧アクチュエータ機構60により駆動可能になっている。ここで、プライマリプーリ20が備える油圧アクチュエータ機構30について詳細に説明する。なお、セカンダリプーリ50が備える油圧アクチュエータ機構60は、プライマリプーリ20が備える油圧アクチュエータ機構30と同様の構成であるため、ここではその詳細な説明は省略する。
【0017】
図2は、プライマリプーリ20の詳細構成を示す部分拡大図である。同図に示すように、プライマリプーリ20の油圧アクチュエータ機構30は、駆動軸11の端部近傍に固定した固定壁42を備えている。固定壁42は、その内周端が駆動軸11上に固定されており、外周側は、可動プーリ25のフランジ部26を囲む略円筒状の固定筒状部42aとして形成されている。固定筒状部42aは、可動プーリ25に向けて開口している。一方、可動プーリ25は、その外周縁に固定筒状部42aに向けて延びる略円筒状の可動筒状部25aを有している。可動筒状部25aの先端は、固定筒状部42aを外側から囲むように配置されている。
【0018】
可動筒状部25a内には、第1ピストン27が配置されており、第1ピストン27は、可動筒状部25aの内周面及びフランジ部26の外周面に対して、それぞれシール部材27aを介し液密に摺接している。そして、第1ピストン27と可動プーリ25との間には、第1シリンダ室28が区画されている。
【0019】
一方、固定筒状部42a内には、第2ピストン47が配置されており、第2ピストン47は、その外周がシール部材47aを介して固定筒状部42aの内周面に摺接している。第2ピストン47の内周端は、フランジ部26の端部に嵌合している。フランジ部26の端部には、第2ピストン47の抜け止めとしてスナップリング47bが設置されている。そして、第2ピストン47と固定壁42との間には、第2シリンダ室48が区画されている。
【0020】
可動プーリ25のフランジ部26には、その内径側と外径側とを連通する連通路29が形成されている。当該連通路29を介して、駆動軸11内に設けた油路18から第1シリンダ室28に作動油が供給されるようになっている。また、第1シリンダ室28と第2シリンダ室48との間には、駆動軸11と可動プーリ25との隙間に形成した油路36が設けられており、当該油路36を通じて第1シリンダ室28側と第2シリンダ室48側との間で作動油が流通するようになっている。したがって、駆動軸11の油路18に作動油を供給する図示しないオイルポンプや調圧弁などを含む油圧制御手段によって、第1シリンダ室28及び第2シリンダ室48内の油圧が制御されるようになっている。
【0021】
上記構成の油圧アクチュエータ機構30を備えたプライマリプーリ20では、第1、第2シリンダ室28,48内の油圧が高くなると、第1シリンダ室28内の油圧で可動プーリ25が右方に押圧され、第2シリンダ室48内の油圧で第2ピストン47が右方に押圧される。これらによって、可動プーリ25が右方に移動する。すなわち、第1、第2シリンダ室28,48内の油圧が高まると、第1、第2ピストン27,47は、互いに協働して可動プーリ25を右方に移動させる。これにより、プライマリプーリ20の挟持溝32の溝幅が減少する。
【0022】
ここで、プライマリプーリ20の第1シリンダ室28と第2シリンダ室48とを連通する油路構造について詳細に説明する。図2に示すように、駆動軸11と可動プーリ25との間には、スプライン嵌合用のローラ部材33が嵌合している。図3は、ローラ部材33及びその周辺の詳細構成例を示す図で、(a)は、図2のA部分の部分拡大図、(b)は、ローラ部材33の斜視図である。同図(a)に示すように、ローラ部材33は、可動プーリ25におけるフランジ部26の内周面26bに形成した軸方向に延びるスプライン溝26aの途中に嵌め込まれている。ローラ部材33は、その軸方向を駆動軸11の軸方向に向けて配置した円柱状の部材からなる。このローラ部材33は、軸方向の両側の端面33a,33bがスプライン溝26aに取り付けたスナップリング39,39で固定されている。これにより、ローラ部材33は、可動プーリ25のスプライン溝26aに対して軸方向に相対移動不能な状態で係合している。さらに、このローラ部材33は、駆動軸11の外周面11bに形成した軸方向に延びるスプライン溝11aに係合している。当該ローラ部材33は、駆動軸11のスプライン溝11aに対しては、軸方向に移動可能となっている。これにより、可動プーリ25は、駆動軸11に対して相対回転不能かつ軸方向に相対移動可能な状態で係合している。
【0023】
また、駆動軸11の外周面11bに設けたスプライン溝11aと可動プーリ25の内周面26bに設けたスプライン溝26aとの隙間には、第1シリンダ室28側と第2シリンダ室48側とを連通する油路36が設けられている。そして、ローラ部材33には、該ローラ部材33の軸方向の両側の油路36を連通するための通路37が形成されている。このローラ部材33に形成した通路37は、図3(b)に示すように、円柱状のローラ部材33における軸方向の一方の端面33aから他方の端面33bまで軸心に沿って延びる直線状の貫通穴からなる。また、この貫通穴からなる通路37は、断面が円形の円筒状に形成されている。
【0024】
これにより、スプライン溝11a,26aの隙間に設けた油路36と、ローラ部材33に設けた通路37とを通して、第1シリンダ室28側と第2シリンダ室48側とが連通している。すなわち、本実施形態のベルト式無段変速機構10では、可動プーリ25を駆動軸11にスプライン嵌合させているスプライン溝11a,26aに油路36を形成し、かつ、ローラ部材33にその両側の油路36を連通するための通路37を形成したことで、第1シリンダ室28側と第2シリンダ室48側との間で作動油を流通させるための経路を確保している。
【0025】
図4は、ローラ部材33に形成した通路37の他の構成例を示す図で、(a)は、図2のA部分の部分拡大図、(b)は、ローラ部材33の斜視図である。ローラ部材33に形成した通路37は、図3に示すように、ローラ部材33の軸心を通る直線状の貫通穴とする以外にも、図4に示すように、ローラ部材33の外周側面33cに設けた溝状の部分とすることもできる。この場合の通路37は、ローラ部材33の軸方向に沿って若干螺旋状に旋回しながら延びる溝部として形成されている。各溝部は、その断面が円形の筒状に形成されている。この溝部からなる通路37は、ローラ部材33の外周側面33cにおいて周方向に複数本が形成されている。このような構成の通路37によっても、ローラ部材33の両側の油路36を連通させることができる。
【0026】
なお、駆動軸11と可動プーリ25との間に嵌合させたローラ部材33は、駆動軸11の外周面11bの周方向において少なくとも1箇所に設ければよいが、必要に応じて、駆動軸11の外周面11bの周方向における複数箇所(例えば、等間隔の3箇所)に配置することも可能である。
【0027】
なお、本実施形態の変速機1が備えるベルト式無段変速機構10では、セカンダリプーリ50が備える第1シリンダ室28と第2シリンダ室48とを連通する油路構造についても、プライマリプーリ20が有する上記の油路構造と同様の構成であるため、ここではその詳細な説明は省略する。
【0028】
以上説明したように、本実施形態では、プライマリプーリ20の可動プーリ25を軸方向に移動させるための推力を発生させるアクチュエータ機構30として、駆動軸(回転軸)11側に固定した第1ピストン27と可動プーリ25との間に区画した第1シリンダ室28と、可動プーリ25側に固定した第2ピストン47と駆動軸11側に固定した固定壁42との間に区画した第2シリンダ室48とを有する二重構造のシリンダ室からなるアクチュエータ機構30を備えたベルト式無段変速機構10において、駆動軸11の外周面11bに形成したスプライン溝11aと可動プーリ25の内周面26bに形成したスプライン溝26aとの隙間に設けられて第1シリンダ室28側と第2シリンダ室48側とを連通する油路36を備えると共に、駆動軸11に対して可動プーリ25をスプライン嵌合させているローラ部材33に、該ローラ部材33の軸方向の両側の油路36を連通するための通路37を形成した。
【0029】
このように、スプライン嵌合用のローラ部材33に油路36を連通するための通路37を形成したことで、駆動軸11の外周面11bに設けたスプライン溝11aと可動プーリ25の内周面26bに設けたスプライン溝26aとの隙間を用いた油路36で、第1シリンダ室28側と第2シリンダ室48側とを連通することができる。これにより、大型の部品である駆動軸11や可動プーリ25に油路用の溝を別途に加工する必要がなく、小型の部品であるスプライン嵌合用のローラ部材33に通路37用の加工を施すだけで、第1シリンダ室28と第2シリンダ室48とを連通するための通路を確保できる。したがって、大型部品の加工を少なく抑えた簡単な構成でありながら、ダブルピストン型のベルト式無段変速機構10に必要な油路を構成できる。これにより、ベルト式無段変速機構10の製造工程の簡素化及びコストダウンを図ることができる。
【0030】
また、ローラ部材33に設けた油路連通用の通路37は、図3(b)に示すように、ローラ部材33の軸心を貫通する貫通穴であるとよい。あるいは、図4(b)に示すように、ローラ部材33の外周側面33cに形成した軸方向に延びる溝部であってもよい。これらによれば、ローラ部材33に対する簡単な加工で、ローラ部材33の軸方向の両側を連通する通路を形成できる。
【0031】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、本発明にかかる油路構造として、プライマリプーリ20の可動プーリ25をスプライン嵌合させているローラ部材33に形成した通路37を例に説明したが、本発明にかかる油路構造は、セカンダリプーリ50の可動プーリ55を従動軸31にスプライン嵌合させているローラ部材63にも適用が可能である。すなわち、セカンダリプーリ50においても、第1シリンダ室58と第2シリンダ室78を連通するための油路構造として、従動軸31に形成したスプライン溝31aと可動プーリ55に形成したスプライン溝56aとの隙間に設けた油路66を備えると共に、ローラ部材63に、該ローラ部材63の両側の油路66を連通するための通路67を形成することができる。
【0032】
また、上記実施形態に示すベルト式無段変速機構10のダブルピストン形式は、駆動軸11側に固定した第1ピストン27と可動プーリ25との間に区画された第1シリンダ室28と、可動プーリ25側に固定した第2ピストン47と駆動軸11側に固定した固定壁42との間に区画された第2シリンダ室48とを備えるものであるが、本発明を適用可能なダブルピストン形式の構造としては、可動プーリの背面側に画成された第1シリンダ室と、回転軸側に固定した部材によって画成された第2シリンダ室とを有する構成であれば、その具体的な構造は上記実施形態に示すものには限定されず、他の構造であってもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 変速機
2 クランクシャフト
3 入力軸
4 前後進切換機構
10 ベルト式無段変速機構
11 駆動軸
11a スプライン溝
11b 外周面
12 Vベルト
13 駆動ギヤ
14 アイドラ軸
14a アイドラギヤ
14b ピニオンギヤ
15 差動装置
15a ファイナルギヤ
17 Vベルト
18 油路
20 プライマリプーリ
21 固定プーリ
25 可動プーリ
25a 可動筒状部
26 フランジ部
26a スプライン溝
26b 内周面
27 第1ピストン
28 第1シリンダ室
29 連通路
30 油圧アクチュエータ機構
31 従動軸
31a スプライン溝
32 挟持溝
33 ローラ部材
33a 端面
33b 端面
33c 外周側面
36 油路
37 通路
39 スナップリング
42 固定壁
42a 固定筒状部
47 第2ピストン
48 第2シリンダ室
50 セカンダリプーリ
51 固定プーリ
55 可動プーリ
56 フランジ部
56a スプライン溝
58 第1シリンダ室
59 連通路
60 油圧アクチュエータ機構
63 ローラ部材
66 油路
67 通路
78 第2シリンダ室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸に固定されて一体に回転する固定プーリと、
前記回転軸にスプライン嵌合用のローラ部材でスプライン嵌合されて、該回転軸に対して相対回転不能かつ軸方向に移動可能に係合する可動プーリと、
前記固定プーリと前記可動プーリの間に形成した挟持溝に挟持されたベルト部材と、を備え、
前記可動プーリを軸方向に移動させるための推力を発生させるアクチュエータ機構として、前記可動プーリの背面側に画成された第1シリンダ室と、前記回転軸側に固定した部材によって画成された第2シリンダ室とを有する二重構造のシリンダ室からなるアクチュエータ機構を備えたベルト式無段変速機構において、
前記回転軸の外周面に形成したスプライン溝と前記可動プーリの内周面に形成したスプライン溝との隙間に設けられて前記第1シリンダ室側と前記第2シリンダ室側とを連通する油路を備えると共に、
前記ローラ部材に、該ローラ部材の軸方向の両側の前記油路を連通する油路連通用の通路を形成した
ことを特徴とするベルト式無段変速機構の油路構造。
【請求項2】
前記油路連通用の通路は、前記ローラ部材の軸心を貫通する貫通穴である
ことを特徴とする請求項1に記載のベルト式無段変速機の油路構造。
【請求項3】
前記油路連通用の通路は、前記ローラ部材の外周側面に形成した軸方向に延びる溝部である
ことを特徴とする請求項1に記載のベルト式無段変速機の油路構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−220432(P2011−220432A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89667(P2010−89667)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】