説明

ベルト表面の変形検査装置

【課題】ベルト表面の変形を効率的にかつ精度良く検査する。
【解決手段】光学式の変位測定器16が、プーリ12,14に巻き掛けられたベルト10の表面の変位を測定する。変位測定器16で測定された測定データは、ベルト10の表面の変形量を算出する変形算出部24に入力される。変形検出装置20の記憶部22には、プーリが回転した場合におけるプーリ表面の位置変位情報が予め記憶されている。測定データが入力されると、変形算出部24は、記憶部22からプーリ表面の位置変位情報を読み出し、これらの測定データとプーリ表面の位置変位情報とからベルト10の表面の変形量を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト表面の変形検査装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、製品出荷前にベルト表面の変形検査が行われている。例えば、無断変速機(CVT)のスチールベルトのスチールコマをたがめるスチールバンド(フープ)の表面の検査では、表面の傷や長さ方向に沿った波形状の変形、ひねり等の変形が発見される。この変形検査は、例えば、目視検査や触針式表面形状測定器を用いて行われている。
【0003】
触針式表面形状測定器による検査では、スチールバンドをプーリ等に巻き掛けて一定の張力を与え、直線状に張られたスチールバンド表面に形状測定器の検査針を接触させて、表面の形状の測定を行い、変形を検出する。
【0004】
また、下記特許文献1には、車両用のベルト式無断変速機に用いられる伝導Vベルト等の帯状部材の端面傷の検査装置が開示されている。この特許文献1では、プーリーに検査対象となる環状のV伝導ベルトが巻き掛けられ、ベルトの幅方向のそれぞれの端面に対向して変位センサが設けられる。プーリーをモータで回転させると、変位センサが移動するベルトの両端面の変位を検出し、傷等の変形を検出する。
【0005】
【特許文献1】特開平11−108657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した触針式表面形状測定器を用いた検査では、検査針を検査対象のベルトに接触させなければならないので、検査時にベルト表面に不要な傷をつけてしまう恐れがある。また、このような形状測定器では、1回の測定で測定可能な測定範囲が限られるので、ベルトの周長がその測定範囲を超えている場合には、複数回測定する必要がある。例えば、形状測定器の測定範囲が90mmに対し、730mm周長のベルト全周を検査する場合がある。このように、形状測定器を用いて複数回に分けて測定した場合、測定データが分断してしまい、ベルト全長に亘って連続した測定データを得ることができないという問題がある。
【0007】
また、上述した特許文献1に開示された帯状部材の端面傷を検査する装置を変位センサの設置位置を変えてベルト表面の検査に適用することも考えられる。しかしながら、この場合、回転するプーリの軸ずれ等により、ベルトが振れその振れが測定データに影響してしまう可能性がある。
【0008】
そこで、本発明は上記課題を解決するためになされたもので、ベルト表面の変形を効率的にかつ精度良く検査することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のベルト表面の変形検査装置は、無端状のベルト表面の変形を検査するベルト表面の変形検査装置であって、検査対象となるベルトが巻き掛けられるプーリと、プーリにより回転させられるベルト表面の変位を非接触で測定する変位測定器と、変位測定器で測定された測定データに基づいて、ベルト表面の変形を検出する変形検出装置と、を含み、変形検出装置は、プーリが回転した場合におけるプーリ表面の位置変位情報を予め記憶する記憶部と、記憶部に記憶された位置変位情報と変位測定器で測定された測定データに基づいてベルト表面の変形量を算出する変形算出部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明のベルト表面の変形検査装置において、変位測定器は、ベルト幅の複数箇所のベルト表面の変位を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プーリにより回転させられたベルト表面の変位の測定データと、予め求めたプーリ表面の位置変位情報と、に基づいてベルト表面の変形量を算出するので、精度良くベルト表面の変形を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、発明を実施するための形態(以下、実施形態という)について、図面を参照し説明する。
【0013】
図1は、本実施形態のベルト表面の変形検査装置の構成を示す図である。このベルト表面の変形検査装置は、無断変速機(CVT)のスチールベルト、すなわち、スチールコマをたがめるスチールバンド(フープ)の表面の変形の検査に好適に用いられる。スチールバンド(以下、単にベルトという)表面の変形としては、従来技術で説明したように、表面の傷や長さ方向に沿った波形状の変形、ひねり等の変形がみられ、これら変形が検出される。
【0014】
図1に示すように、ベルト表面の変形検査装置は、大別して、検査対象のベルト10が巻き掛けられるプーリ12,14と、ベルト表面の変位を測定する変位測定器16と、プーリ14の回転位置を検出する回転位置検知器18と、変位測定器16で測定された測定データ等に基づいて、ベルト表面の変形を検出する変形検出装置20と、で構成されている。変形検出装置20は、プーリ14の表面の位置変位情報を予め記憶する記憶部22と、ベルト10の表面の変形量を算出する変形算出部24と、で構成されている。
【0015】
本実施形態において特徴的な点は、予めプーリ14を回転させたときのプーリ14の位置変位を検出しておき、この位置変位情報と変位測定器16で測定された測定データに基づいて、ベルト表面の変形量を算出する点である。以下、順次説明する。
【0016】
プーリは、駆動プーリ12と従動プーリ14で構成され、駆動プーリ12がモータ(図示せず)で回転するようになっている。この一対のプーリ12,14間に検査対象となるベルト10が巻き掛けられ、ベルト10は、駆動プーリ12が駆動すると長手方向に移動する。ベルト10は、ベルト10が回転したときにプーリ12,14の表面と滑らない程度の張力で、かつ、ベルト10の検出すべき表面の変形が伸張しない程度の張力でプーリ12,14に巻き掛けられている。なお、この張力の調整は、駆動プーリ12と従動プーリ14の軸間距離を調整したり、プーリ12,14の径を調整することで行うことができる。
【0017】
なお、駆動プーリ12と従動プーリ14の軸間距離は、ある程度の距離変更可能であることが好適である。このプーリ12,14の軸間距離を変えると、周長の異なる様々なベルトを検査することができる。CVTのスチールベルトの検査では、軸間距離を変えることによって、様々のトルク容量のベルトを検査することができる。
【0018】
変位測定器16は、光学式の変位測定器が用いられ、ベルト10に接触しない位置に設置されベルト10の表面の変位を連続波形として検出する。本実施形態において、変位測定器16は、ベルト10が巻き掛けられた従動プーリ14上に配置されている。変位測定器16には、例えば、レーザ変位計を用いることができ、内設された半導体レーザからレンズによって収束されたレーザ光26をベルト10に向けて照射し、ベルト10に反射して変位測定器16に戻るレーザ光26を内設された光位置検出素子によって受光し、ベルト10の変位を測定する。変位測定器16は、このベルト10の変位を連続波形として検出し、測定データとして連続波形データを出力する。変位測定器16で測定されたベルト10の測定データはアンプ28に入力され、ノイズ、増幅等の処理後、変形検出装置20の変形算出部24に入力される。
【0019】
回転位置検知器18は、プーリ14の回転位置を検出する。回転位置検知器18は、例えば、プーリ14に付された回転位置検出用マーク30を検出し、回転位置検出用マーク30の検出時刻とプーリ14の回転数のカウントを取る。回転位置検知器18で検出された検出データは、変形検出装置20の変形算出部24に入力され、上述した変位測定器16の測定データとプーリ14の回転位置との対応付けに用いられる。なお、この回転位置検知器18は、磁気的にプーリ14の回転位置を検知しても良く、ロータリーエンコーダ等で構成しても良い。
【0020】
変形検出装置20は、上述したように、プーリ表面の位置変位情報を予め記憶する記憶部22と、ベルト10の表面の変形量を算出する変形算出部24と、を有する。この変形検出装置20は、オシロスコープ等で構成することができ、各種統計処理や標準偏差処理等の機能を有することが好適である。また、変形検出装置20は、CPU,ROM,RAM等で構成することもできる。
【0021】
変形算出部24には、上述した様に変位測定器16で測定された測定データと回転位置検知器18の検出データが入力される。変位測定器16と回転位置検知器18の既知の位置関係に基づいて、変形算出部24は、変位測定器16の測定データと回転位置検知器18の検出データを対応付けて、ベルト10の測定位置を特定し、測定距離に対するベルト10の変位量を示す測定データを生成する。図2は、ベルト10の表面の変位を示す測定データの例である。なお、図2に示すような測定データには、ベルト10の表面の変位にプーリ表面の位置変位が含まれていると考えられる。すなわち、プーリ14の表面に凹凸あったり、プーリ14の回転時に軸がずれることによって、プーリ14の表面の位置が変動してしまうからである。
【0022】
そこで、本実施形態においては、プーリ14が回転した場合におけるプーリ14自体の位置変位を予め測定し、このプーリ表面の位置変位情報を考慮して、ベルト10の変形を検出している。
【0023】
ベルト10の測定に先立って、プーリ14の表面の位置変位を予め測定する。このプーリ14の表面の位置変位の測定は、例えば、ベルト10の表面の変位測定と同様の装置を用いて行うことができる。プーリ12,14にテスト用ベルトを巻き掛け、上述したように、変位測定器16で、テスト用ベルトの表面の変位を検出すると共に、回転位置検知器18で、プーリ14の回転位置等を検出する。これらデータが、変形算出部24に入力され、プーリ14の測定距離に対してプーリ14の表面の変位を算出する。図3は、プーリ14の表面の変位量を示す図であり、プーリ表面の位置変位情報を示す例である。図3に示すプーリ表面の位置変位情報では、測定距離に対してプーリ14の平均位置からの変位で示している。本実施形態におけるプーリ14は、約−0.015〜約0.015mm間でプーリ表面が変位していることが解る。
【0024】
記憶部22は、例えば図3に示すような、プーリ表面の位置変位情報を予め記憶している。
【0025】
なお、テスト用ベルトは、その表面に変形がないものを用いることが好ましい。プーリ14の特性として、プーリ表面の自身の位置変位を検出することを目的としているからである。また、テスト用ベルトに掛ける張力は、検査対象のベルト10表面の変形を検出するときと同じ張力であることが好適である。何故なら、検査時における張力の違いによって、プーリ14の軸ずれによるプーリ表面の位置変位が変動する可能性があるからである。
【0026】
変形算出部24は、記憶部22からプーリ表面の位置変位情報を読み出し、測定データとプーリ表面の位置変位情報とからベルト10の表面の変形量を算出する。測定データと位置変位情報に含まれるプーリ14の位置情報に基づいて、これら2つのデータの対応付けを行う。本実施形態においては、測定データからプーリ表面の位置変位情報を減算して、ベルト表面の変形量を算出している。図4は、ベルト10の表面の変形量を示す図である。図4に示すように、ベルト10の測定データからプーリ表面の周期的な位置変位が取り除かれ、ベルト10自体の変形が検出されている。本実施形態においては、測定データからプーリ表面の位置変位情報を減算した差分データを表示させ、測定者等がベルト10の表面の変形を判断することができる。また、ベルト表面の変形とされる所定のしきい値を定め、そのしきい値を越えた箇所のみを表示しても良い。また、所定のしきい値を越えた場合に、ベルト表面の変形と判定する判定部を変形検出装置に設けても好適である。変形と判定とされた場合に、測定データに変形箇所をマーキングしたり、音声表示等の警告を行っても良い。
【0027】
このように、本実施形態では、ベルト10の測定データからプーリの位置変位情報に基づいてベルト10の変形を検出することとしたので、より精確にベルト表面の変形を検出することができる。特に、ベルト10の長さ方向に沿った波形状の変形、ひねりの変形を好適に検出することができる。また、図4に示すように、プーリ14の回転位置と対応付けたベルト表面の変形量が算出されるので、変形箇所の特定が容易であるというメリットを有する。
【0028】
次に、ベルト表面の変形検査装置の作用について簡単に説明する。図5は、ベルト表面の変形検査装置の動作を説明するフローチャートである。
【0029】
まず、プーリ表面の位置変位を測定し、この位置変位情報を変形検出装置20の記憶部22に記憶させておく(S10)。次に、プーリ12,14にベルト10をセットして、プーリ12を駆動させ、ベルト10を長手方向に移動させ、変位測定器16が移動するベルト10の表面の変位を測定する(S12)。このとき、回転位置検知器18が、プーリ14の回転位置を検出する。変位測定器16及び回転位置検知器18のデータが変形検出装置20の変形算出部24に入力され、変形算出部24は、ベルト10の測定データを生成する(S14)。変形算出部24は、記憶部22からプーリ表面の位置変位情報を読み出し、ベルト10の測定データとプーリ表面の位置変位情報とからベルト10の表面の変形量を算出する(S16)。
【0030】
なお、変位測定器16をレーザ変位計で構成した場合、レーザスポット径は通常ベルト10の幅より小さくなると考えられる。従って、変位測定器16を複数備え、ベルト10の幅に対して複数箇所のベルト表面の変位を測定しても好適である。これにより、ベルトの幅方向に1カ所しか現れていないベルト表面の変形、例えば、厚み方向に延びた微少な傷を検出することができる。また、変位測定器16をベルトの幅方向に沿って相対的に移動させ、ベルト10の幅に対して複数箇所の変位を検出しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施形態のベルト表面の変形検査装置の構成を示す図である。
【図2】ベルトの表面の変位を示す測定データの例である。
【図3】プーリ表面の位置変位情報を示す例である。
【図4】ベルトの表面の変形量を示す図である。
【図5】ベルト表面の変形検査装置の動作を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0032】
10 ベルト、12 駆動プーリ、14 従動プーリ、16 変位測定器、18 回転位置検知器、20 変形検出装置、22 記憶部、24 変形算出部、26 レーザ光、28 アンプ、30 回転位置検出用マーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状のベルト表面の変形を検査するベルト表面の変形検査装置であって、
検査対象となるベルトが巻き掛けられるプーリと、
前記プーリにより回転させられるベルト表面の変位を非接触で測定する変位測定器と、
前記変位測定器で測定された測定データに基づいて、ベルト表面の変形を検出する変形検出装置と、
を含み、
前記変形検出装置は、
前記プーリが回転した場合におけるプーリ表面の位置変位情報を予め記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された位置変位情報と変位測定器で測定された測定データに基づいてベルト表面の変形量を算出する変形算出部と、
を備えることを特徴とするベルト表面の変形検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載のベルト表面の変形検査装置であって、
前記変位測定器は、ベルト幅の複数箇所のベルト表面の変位を測定することを特徴とするベルト表面の変形検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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