説明

ベルト

【課題】高耐久性、高耐熱性を有するベルトの提供。
【解決手段】化学構造式−[−O−ph−CO−]−,−[−O−na−CO−]−,−[−CO−ph−CO−]−,−[−O−[ph]−O−]−,−[−O−ph−NH−]−,の反復構成単位からなる部分が90重量%以上であり、かつ−[−O−ph−CO−]−:−[−O−nf−CO−]−:−[−CO−ph−CO−]−:−[−O−[ph]−O−]−:−[−O−ph−NH−]−=100:1〜20:5〜100:2〜80:2〜20のモル比を有する芳香族ポリエステルアミドで構成された溶融異方性ポリエステルアミド繊維であって、150℃雰囲気下での強度(T150)が17cN/dtex以上であり、かつ150℃雰囲気下の弾性率(E150)が710cN/dtex以上である溶融異方性ポリエステルアミド繊維を用いて形成されたベルトにより、上記課題は解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐久性であり、かつ、高耐熱性を有するベルトに関する。特に、本発明は、高温雰囲気下のもとで、高耐久性を示すベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
歯付きベルト、Vベルト、平ベルトなどの動力伝達ベルトは、芯線を埋設したベルト本体に、歯付きベルトの場合はベルトの長手方向に沿って多数の歯部を設け、歯部表面および歯底部を織物又は編物からなるカバークロスで被覆することによって作製されている。又、Vベルトにはベルト周囲をカバークロス、本体はウレタン樹脂、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、水素化二トリルゴムなどのエラストマーやゴムで成型されている。カバークロスとしては、ベルト本体の長手方向に沿って配置される緯糸に捲縮加工(仮撚り加工)された伸縮性のナイロン糸を、ベルト本体の幅方向に配置される経糸にはナイロン糸の非捲縮糸を用いて製織された織物が一般的に用いられている。このように伸縮性のある捲縮糸をベルトの長手方向に沿って配置することにより、ベルトの長手方向に凹凸を形成している歯部表面及び歯底部は、ベルト成型時にカバークロスによって容易に被覆される。カバークロスの織物組織は通常平織り、綾織、朱子織等が用いられるが、中でも2/2綾織、朱子織が、布目がベルト成型(加硫)時に容易に変形し、歯部をうまくカバーするので、好適に用いられている。上述のように、カバークロスはベルトの長手方向に織物の緯糸方向が一致した形で用いられ、伸縮性の捲縮糸は織物の緯糸方向に用いられるのが一般的であるが、織物の経糸方向がベルトの長手方向となる使い方を採用する場合は伸縮性のある捲縮糸は経糸として使用される。勿論カバークロスの性能によっては緯糸・経糸共に伸縮性の捲縮糸を用いることができる。
【0003】
歯付きベルトは自動車の燃料ポンプの駆動、自動車用エンジンのカム駆動等に用いられるが、近年自動車の居住性向上のためにエンジンルームが狭くなり、エンジンルームの温度が従来よりも高温になってきている。このため、歯付きベルトは高熱と高い負荷の下で長時間稼動することが要求される。歯付きベルトの耐久性(寿命)は歯を構成するゴムの熱劣化による破損(歯欠け)が主体であり、これを防ぐためにはゴムの耐熱老化性向上は勿論重要であるが、それだけでは不十分であり、歯を保護し、ベルト回転による歯の破損を防止する役目のカバークロスにもより高い耐久性(特に耐熱老化性)が求められている。
【0004】
歯付きベルトの破損(歯欠け)は、ベルトの歯が伝動プーリーの歯部と噛み合う時に受ける力を歯ゴム及びカバークロスにより受け止めるが、カバークロスの熱老化が進行すると、カバークロス自体が非常に脆くなって歯ゴムを保護することができなくなり、歯ゴムの破損が進行する。その対策として、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維等、いわゆる耐熱高機能繊維を応用することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。これらの高機能繊維は耐熱性が非常に良好なるものの、伸びが少なく高機能繊維のみでは歯付きベルト用カバークロスのベルト長手方向に用いることができなかった。そのため伸度の大きいポリウレタン繊維や仮撚り加工したナイロン糸を芯糸にしてその外側に高機能繊維を巻き付けた撚り糸を作製し、撚り糸として構造的に伸度を持たせる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。又、Vベルトでは耐熱性能等を維持したまま摩擦性能を向上させるために、ポリアリレート繊維も検討されている(例えば特許文献3参照)。歯付きベルトにおいてもポリアリレート繊維をベルトの長手方向に使うことによりベルトの耐久性が向上することが報告されている(例えば特許文献4参照)。しかし、高温下での耐久性を向上させるには至らなかった。
【0005】
近年、高強力繊維を用いた織物は、産業資材に広く浸透してきており、中でもそれを用いた歯付きベルトは産業機械から家電製品に至るまでの様々な用途で使用されており、特に自動車エンジンの駆動力を車軸の回転運動に伝達する駆動部品のタイミングベルトや無段階変速機用(CVT)の芯線や歯布として芳香族ポリアミド繊維が用いられている。更に車輌の燃費向上につながる車両の軽量化、小型化を進める上でエンジンルームのコンパクト化が強く求められ、この要求を満たすために歯付きベルトの歯部表面を形成する織物には、従来の歯付きベルト幅よりも狭い設計でエンジンルーム内の高温雰囲気下に長時間耐えうることができる性能が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-332160号公報
【特許文献2】特開平9−119483号公報
【特許文献3】特開平9−273605号公報
【特許文献4】特開2007−46676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐熱性が高く、高温下において高い耐久性を有するベルトを提供することにある。特に、本発明の目的は、高温下において高い耐久性を有する繊維をカバークロスとして用いて、高温下における耐久性を改良したベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記目的を達成すべく、高温下において高い耐久性を有する繊維について鋭意検討を行った結果、溶融異方性ポリエステルアミドポリマーから得られる紡糸原糸を、紡糸原糸を構成するポリマ−の融点に対する特定の温度領域で特定時間、加熱処理を行うことにより、常温のみならず、高温下においても機械的物性に優れる溶融異方性のポリエステルアミド繊維が得られることを見出し、それをベルトのカバークロスとして用いることにより、高温下で耐久性のあるベルトを完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記[A]、[B]、[C]、[D]、[E]の反復構成単位からなる部分が90モル%以上であり、[A]:[B]:[C]:[D]:[E]=100:1〜20:5〜100:2〜80:2〜20のモル比を有する芳香族ポリエステルアミドで構成された溶融異方性ポリエステルアミド繊維であって、150℃雰囲気下の強度(T150)が17cN/dtex以上であり、かつ150℃雰囲気下の弾性率(E150)が710cN/dtex以上である溶融異方性ポリエステルアミド繊維を用いたベルトである。
【0010】
【化1】

【0011】
前記溶融異方性ポリエステルアミド繊維において、その融点ピーク温度は370℃以上であってもよい。
【0012】
さらに前記溶融異方性ポリエステルアミド繊維では、動的粘弾性測定により得られるガラス転移点(Tg)が81℃以上であってもよい。
【0013】
また、前記溶融異方性ポリエステルアミド繊維では、25℃雰囲気下で動的粘弾性から測定した貯蔵弾性率(E’25)と、150℃雰囲気下で動的粘弾性から測定した貯蔵弾性率(E’150)との比(E’150/E’25)が0.50以上であってもよい。
【0014】
本発明において用いられる溶融異方性ポリエステルアミド繊維は、高温下での強度および弾性率の低下を有効に防止することができ、例えば、150℃雰囲気下の強度(T150)と、25℃雰囲気下の強度(T25)との比(T150/T25)が0.70以上であってもよく、また150℃雰囲気下の弾性率(E150)と、25℃雰囲気下の弾性率(E25)との比(E150/E25)が0.85以上であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、前記の特定の溶融異方性ポリエステルアミド繊維を、カバークロスとして用いることにより、高温下においても耐久性の高いベルトを得ることができる。特に、本発明のベルトは、100℃の雰囲気下の耐久試験(試験方法:後記)において500時間以上の耐久性を示し、かつ、140℃における耐久性が100℃における耐久性の50%以上であるという優れた高温耐久性を発揮する。このため、本発明のベルトは、80℃以上の環境雰囲気下で長時間使用可能であるので、特に、自動車のエンジンルーム内で使用される、燃料ポンプの駆動用、エンジンのカム駆動に用いられる歯付ベルトとして用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】歯付ベルトの概要を示すベルト長手方向断面図である。
【図2】高負荷耐久試験に使用された走行試験装置の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において用いられる溶融異方性ポリエステルアミド繊維(または、芳香族ポリエステルアミド繊維)は、下記に記載する芳香族ポリエステルアミドから溶融紡糸されている。
【0018】
(芳香族ポリエステルアミド)
芳香族ポリエステルアミドは、下記式に示す[A]、[B]、[C]、[D]、[E]の反復構成単位からなる部分が90モル%以上であり、[A]:[B]:[C]:[D]:[E]=100:1〜20:5〜100:2〜80:2〜20のモル比、好ましくは、[A]:[B]:[C]:[D]:[E]のモル比が100:3〜10:15〜60:10〜45:5〜15のモル比を有する。
【0019】
【化2】

【0020】
なお、ここで、[A]:[B]:[C]:[D]:[E]=100:1〜20:5〜100:2〜80:2〜20とは、反復構成単位[A]に対する、それ以外の構成単位[B]〜[E]までの比を表している。
【0021】
特に、紡糸性、強度、弾性率、耐疲労性、耐切創性、非吸水性等の観点から、化1に示
す反復構成単位の中で構成単位[A]が40〜80モル%、また構成単位[D]がn=2
である芳香族ポリエステルアミドが好ましい。
【0022】
本発明において用いられる芳香族ポリエステルアミド繊維(以下、単にポリエステルアミド繊維と称することがある)の特性が損なわれない程度に、他の芳香族、脂環族、脂肪族のジオ−ル、ジカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、ジアミン、ヒドロキシアミン等を含んでいてもよい。具体的には、イソフタル酸、ナフチレンジカルボン酸、ジオキシナフタレン、べンゼンジアミン等が挙げられる。しかしながら、これらのモノマ−が10モル%を越えると芳香族ポリエステルアミド繊維の特性が損なわれる虞がある。
【0023】
なお本発明にいう溶融異方性とは、溶融相において光学的異方性を示すことである。例
えば試料をホットステ−ジにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を観察する
ことにより認定できる。
【0024】
溶融異方性ポリマ−は分解開始温度(Td)と融点(Tm)の温度差が40℃以上であ
ることが好ましい。溶融紡糸は紡糸機を融点以上に加温して行うのだが、設定温度に対し
てある程度の幅をもって温度が変化するため、設定温度よりも高温になることがある。も
し溶融異方性ポリマ−の分解開始温度(Td)と融点(Tm)の温度差が40℃未満であ
れば、ポリマ−が配管を滞留中、温度が融点を越えて分解温度に達し、ポリマ−に分解が
生じ、紡糸ノズル付近でビス即ち断糸が発生する。
【0025】
ビスが生じない場合でも、繊維中に分解ガスと考えられる気泡が発生し、力学的性能が
低下する。ここで述べる分解開始温度(Td)とはTG曲線(熱重量曲線)における減量
開始温度であり、ここで述べるTmとは、示差走査熱量(DSC:例えばmettler社製、TA3000)で観察される主吸熱ピ−クのピ−クトップ温度であり、以下、融点ピーク温度と称する場合がある(JIS K 7121)。
【0026】
(芳香族ポリエステルアミド繊維)
本発明において用いられるポリエステルアミド繊維は、常法によりポリマ−を溶融紡糸して得られるが、該芳香族ポリエステルアミドの融点よりさらに10℃以上高い紡糸温度(かつ溶融液晶を形成している温度範囲内)で、剪断速度10sec−1以上、紡糸ドラフト20以上の条件で紡糸するのが好ましい。かかる剪断速度および紡糸ドラフトで紡糸することにより、分子の配向化が進行し優れた強度等の性能を得ることができる。剪断速度(γ)は、ノズル半径をr(cm)、単孔当たりのポリマ−と吐出量をQ(cm/sec)とするときr=4Q/πrで計算される。ノズル横断面が円でない場合には、横断面積と同値の面積を有する円の半径をrとする。
【0027】
本発明において用いられる繊維を得るためには、強度、弾性率、耐疲労性および耐切創性を向上させるために、紡糸原糸を熱処理及び/あるいは延伸熱処理する必要がある。熱処理は、不活性雰囲気のみで行っても良いし、途中から活性雰囲気下で熱処理を行なっても良い。
【0028】
なお、不活性雰囲気下とは、窒素、アルゴン等の不活性ガス中あるいは減圧下を意味し
、酸素等の活性ガスが0.1体積%以下であることをいう。また活性雰囲気下とは、酸素
等の活性ガスを1%以上含んでいる雰囲気を言い、好ましくは10%以上の酸素含有気体
であり、コスト的には空気を用いることが好ましい。水分が存在すると加水分解反応も併
行して進行するので、露点が−20℃以下,好ましくは−40℃以下の乾燥気体を使用す
る。
【0029】
好ましい熱処理の温度条件は、溶融紡糸前のポリマ−の融点Tm対して、Tm−35℃
からTm−2℃の温度範囲であり、このような温度条件で加熱することにより高温下にお
いて高い強度をおよび弾性率を実現できる高強力高弾性率ポリエステルアミド繊維を得る
ことができる。また、加熱処理は、一定の温度で行っても良いし、加熱により漸進的に上
昇する繊維の融点にあわせて、順次昇温してもよい。
【0030】
また、熱処理条件は、単繊維繊度(dtex)あたりに加熱された、(融点との温度差
:℃)と(加熱時間:時間)との積によって表わすことも可能であり、この場合、
50≦(融点との温度差)×(加熱時間)/(単繊維繊度)≦100
程度の熱処理により、150℃雰囲気下での強度(T150)が17cN/dtex以上であり、かつ150℃雰囲気下の弾性率(E150)が710cN/dtex以上である高強度高弾性率ポリエステルアミド繊維を得ることが可能となる。
【0031】
熱の供給は、気体等の媒体によって行う場合、加熱板、赤外ヒ−タ−等による輻射を利
用する方法、熱ロ−ラ−、プレ−ト等に接触させて行う方法、高周波等を利用した内部加
熱方法等があり、目的により、緊張下あるいは無緊張下で行われる。熱処理は、フィラメント糸を、カセ状、またはチ−ズ状にして、または、トウ状にしてバッチ式で行うか、あるいは、フィラメントをロ−ラ−上を走行させながら連続式で行うことが出来る。また、繊維をカットファイバ−にして、金網等にのせて熱処理を行っても良い。
【0032】
さらに、本発明において用いられるポリエステルアミド繊維は、必要に応じて酸化チタン、カオリン、シリカ、酸化バリウム等の無機物、カ−ボンブラック、染料や顔料等の着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加剤を含んでいても良い。
【0033】
また、本発明において、ベルトを製造するに際して、必要に応じて、ポリエチレンテレフタレ−ト、ポリオレフィン、ポリカ−ボネ−ト、ポリアリレ−ト、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエ−テルエステルケトン、ポリウレタン、フッソ樹脂等の熱可塑性ポリマ−から形成された繊維との複合糸としてもよい。
【0034】
(ポリエステルアミド繊維の強度)
本発明において用いられるポリエステルアミド繊維は、150℃雰囲気下の強度(T150)が17cN/dtex以上(例えば、17.5〜40cN/dtex程度)、好ましくは18cN/dtex以上(例えば、18.5〜38cN/dtex程度)であってもよい。
【0035】
また前記ポリエステルアミド繊維は、室温下(例えば25℃)の強度(T25)が、1
8cN/dtex以上(例えば、18.5〜45cN/dtex程度)、好ましくは20
cN/dtex以上(例えば、20.5〜40cN/dtex程度)を示してもよい。
【0036】
また、前記ポリエステルアミド繊維は、高温下と低温下での強度の変化が少ないため、
例えば、150℃雰囲気下の強度(T150)と、25℃雰囲気下の強度(T25)との比が、T150/T25=0.70以上(例えば、0.71〜1.0程度)、好ましくは0.73以上(例えば、0.74〜0.95程度)であってもよい。
【0037】
さらにまた、前記ポリエステルアミド繊維は、例えば、150℃雰囲気下の強度(T
50)と、−70℃雰囲気下の強度(T−70)との比が、T150/T−70=0.63以上(例えば、0.64〜1.0程度)、好ましくは0.65以上(例えば、0.66〜0.95程度)であってもよい。
【0038】
(ポリエステルアミド繊維の弾性率)
本発明において用いられるポリエステルアミド繊維は、150℃雰囲気下の弾性率(E150)が710cN/dtex以上(例えば、720〜1500cN/dtex程度)であり、好ましくは730cN/dtex以上(例えば、740〜1400cN/dtex程度)であってもよい。
【0039】
また前記ポリエステルアミド繊維は、室温下(例えば25℃)の弾性率(E25)が、
750cN/dtex以上(例えば、755〜1500cN/dtex程度)、好ましく
は760cN/dtex以上(例えば、765〜1300cN/dtex程度)であって
もよい。
【0040】
また、前記ポリエステルアミド繊維は、高温下と低温下での弾性率の変化も少ないため
、例えば、150℃雰囲気下の弾性率(E150)と、25℃雰囲気下の弾性率(E25)との比が、E150/E25=0.85以上(例えば、0.86〜1.0程度)、好ましくは0.87以上(例えば、0.88〜0.98程度)であってもよい。
【0041】
(ポリエステルアミド繊維の融点)
本発明で用いられるポリエステルアミド繊維は、耐熱性が高く、その融点ピーク温度は、370℃以上(例えば、375〜450℃程度)、好ましくは380℃以上(例えば、385〜440℃程度)であってもよい。なお、融点ピーク温度の測定方法については、以下の実施例に詳細に記載されている。
【0042】
(ポリエステルアミド繊維の動的粘弾性)
本発明において用いられるポリエステルアミド繊維は、高温下でも低温下でも優れた貯蔵弾性率(または動的弾性率)を示すため、25℃雰囲気下において、動的粘弾性から測定した貯蔵弾性率(E’25)と、150℃雰囲気下において、動的粘弾性から測定した貯蔵弾性率(E’150)との比が、E’150/E’25=0.50以上(例えば、0.51〜1.0)であり、好ましくは0.52以上(例えば、0.53〜0.90程度)であってもよい。このような貯蔵弾性率を有するポリエステルアミド繊維は、室温(例えば25℃雰囲気下)及び高温下(例えば150℃雰囲気下)での物性変化を低減することができる。
【0043】
また、本発明において用いられるポリエステルアミド繊維では、動的粘弾性測定により得られるガラス転移点(Tg)が81℃以上(例えば、81〜118℃程度)であってもよく、好ましくは83℃以上(例えば、84〜110℃程度)であってもよい。このようなガラス転移点を有するポリエステルアミド繊維は、室温の場合とほぼ同じ物性を示すことができる。なお、貯蔵弾性率およびガラス転移点の測定方法については、以下の実施例に詳細に記載されている。
【0044】
本発明において用いられるポリエステルアミド繊維では、高温下で高い強力および弾性率を発現する観点から、高融点の結晶構造を分子構造の中に有するのが好ましい。その結晶に関しては、広角X線回折測定により得られる2θ=29°に現れる回折ピーク強度の半価幅より、その結晶サイズを算出することができ、例えば、そのような結晶サイズとしては、7nm〜11nm程度であってよく、好ましくは8nm〜10nm程度であってもよい。なお、具体的な測定方法については、以下の実施例に詳細に記載されている。
【0045】
本発明においては、上記の特定のポリエステルアミド繊維をベルトのカバークロス用素材として使用してベルトを製造することにより、高温耐久性の優れたベルトを得ることができる。本発明のベルトは、歯付ベルト、Vベルト、Vリブドベルト、ラップドベルト、平ベルト、コンベアベルト等の様々な種類のベルトを含み、動力伝動用だけでなく、搬送用にも用いられる。以下には、1例として本発明の歯付ベルトについて述べる。
【0046】
図1は、歯付ベルトの1実施態様の概要を示す断面図である。図1において、歯付ベルト1は、芯材2をゴム(またはエラストマー)に埋設したベルト本体3の片面に、その長手方向に沿って多数の歯部4が一体に突出して設けられ、歯部4の表面及び歯底部5にカバークロス6が配置されている。
【0047】
(歯付ベルトのカバークロス)
従来、カバークロス6は、経糸(ナイロン66、ポリエステル等)と、経糸と直交する方向に沿って延びる緯糸(アラミド、ポリアリレート繊維等の耐熱性繊維とポリウレタン弾性糸等の伸縮性繊維との複合糸)が織られて形成された、例えば、平織、綾織、朱子織等の織物である。緯糸は、より詳しくは、伸縮性繊維を中心に、その周囲に耐熱性繊維が巻きまわされ、さらに耐熱性繊維の周りにさらにカバー繊維(ナイロン66等)が巻きまわされている。
本発明で用いられる上記のポリエステルアミド繊維は、高温時の強度、弾性率が高いため、カバークロスの経糸または緯糸素材として使用可能であるが、なかでも、従来の耐熱繊維(アラミド、ポリアリレート等)の替わりに用いられて、カバークロスを形成することができる。
なお、カバークロスは、ゴム層と積層される前に、常法によりRFL処理、ゴム糊処理が行われ、カバークロスは、後述の加硫によりゴム層と接着する。
【0048】
(ベルトのゴム層)
ベルト本体の本体を構成する原料ゴムとしては、水素添加ニトリルゴム、スチレンーブタジエンゴム、クロロプレンゴム、天然ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン3元重合体ゴム、エチレン−プロピレンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ブタジエンゴム等の単体または混合物が常法にしたがって用いられ、これらの原料は、ベルトの本体素材及びゴム糊素材として使用することができる。
【0049】
(歯付ベルトの製造)
上記のカバークロスと、芯線およびゴムを用いて、常法の方法により歯付ベルトを製造することができる。すなわち、歯付ドラムに上記のカバークロスが被せられ、その上に芯線が螺旋状に巻きつけられ、その上にさらにゴムシートが巻きつけられる。ゴムシート等が巻きつけられた歯付ドラムは、加硫釜に入れられ、所定の温度、圧力で加圧加熱されて、歯付ベルトが製造される。
【0050】
本発明のベルトは、上記のように、ポリエステルアミド繊維をカバークロス素材として用いて形成される。カバークロス素材として用いる場合、カバークロスの経糸または緯糸として、また、緯糸が複合糸である場合には、その一部の素材として用いられればよい。また、本発明のベルトは、ゴムベルトだけでなく、樹脂ベルトであってもよい。さらにまた、無端ベルト、有端ベルトであってもよい。これらの態様はいずれも本発明の範囲に含まれる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより何等限定される
ものではない。
【0052】
[融点ピーク温度]
DSC装置(metrler社製TA3000)にサンプルを10〜20mgとり、ア
ルミ製パンへ封入した後、キャリヤ−ガスとしてNを100cc/分流し、昇温速度2
0℃/分で測定し、吸熱ピ−クの位置の示す温度を測定する。
【0053】
[強度および弾性率]
JIS L 1013に準じ、試長20cm、初荷重0.1g/d、引張速度10cm
/minの条件で破断強伸度及び弾性率(初期引張抵抗度)を求め、5点以上の平均値を
採用した。
【0054】
[結晶サイズ]
広角X線回折測定装置として、ブルカー社製、「D8 Discover with
GADDS」を用いて、カメラ距離10cm、露光時間:600秒、電流110mA、電
圧:45kV、コリメータ径0.3mmにより繊維の赤道方向における広角X線回折図を
得た。次いで、2θが29°に現れる回折ピーク強度の半価幅より次式を用いて、結晶サ
イズ(C)を算出した。
【0055】
【数1】

【0056】
ここで、Bは回折ピーク強度の半価幅、θは回折角、λはX線の波長(1.54178
オングストローム)を表わす。
【0057】
[動的粘弾性による貯蔵弾性率、損失弾性率およびガラス転移点]
レオロジー社製「DVEレオスペクトラー」を使用して、昇温速度10℃/分、周波数
10Hz、自動静荷重方式にて測定を行ない、貯蔵弾性率(E’)と損失弾性率(E”)
との比からtanδ=E”/E’を算出した。次いで、各温度について、横軸を温度とし
、縦軸をtanδとする温度(℃)−tanδ曲線を作図し、tanδの変曲点(ピーク
温度)をガラス転移点とした。また、25℃雰囲気下の貯蔵弾性率(E’25)と150℃雰囲気下の貯蔵弾性率(E’150)との比をE’150/E’25として算出した。
【0058】
[高温耐久性試験]
実施例1、比較例1および比較例2において得られた歯付ベルトについて、図2に示す走行試験装置11を用いて高温耐久性試験を行った。走行試験装置11は、駆動歯付プーリー12、従動歯付プーリー13、アイドラープーリー14、およびアイドラー歯付プーリー15を有する。この装置11の駆動歯付プーリー12と従動歯付プーリー13に、歯付ベルト16を掛けて、100℃または140℃の雰囲気下で歯付ベルト16を図1の矢印の方向に回転させた。ベルトの緩み側には、アイドラープーリー14およびアイドラー歯付プーリー15によってテンションをかけた。駆動歯付プーリー12の歯数は18、従動歯付プ−リ−13の歯数は36であり、駆動歯付プーリー12を3500rpmで回転させた。歯付ベルト16が回転中、従動歯付プーリー13によって、1歯当たり7.3N/mの荷重を作用させた。このようにしてベルトを走行させて、ベルトの破断が起こる時間を測定した。
【0059】
<実施例1>
(溶融異方性ポリエステルアミド繊維の製造)
p−アセトキシ安息香酸[A]60モル、6−アセトキシ−2−ナフトエ酸[B]4モ
ル、テレフタル酸[C]18モル、4−4’−ビスフェノ−ル[D]14モル、およびp
−アミノフェノ−ル[E]4モルから溶融異方性芳香族ポリエステルアミドを得た。この
ポリマ−の融点は340℃であった。該ポリマ−を、ノズル径0.1mmφ、ホ−ル数50個の口金より、紡糸温度360℃、紡糸速度1000m/min,剪断速度55200sec−1、ドラフト30で溶融紡糸し、280dtex/50fのフィラメントを得た。
得られた紡糸原糸の繊維性能は、
強度 (DT)=7.8cN/dtex
伸度 (DE)=1.5%
弾性率 (YM)=577cN/dtex
であった。この紡糸原糸を310℃で8時間熱処理した。得られた熱処理糸は繊維間膠着
がほとんどなかった。
【0060】
熱処理されたポリエステルアミド糸の強度、弾性率の測定値を表1に示す。また、融解ピーク温度は378℃、結晶サイズは9nm、ガラス転移点(Tg)は87℃、25℃雰囲気下の貯蔵弾性率(E’25)と150℃雰囲気下の貯蔵弾性率(E’150)との比(E’150/E’25)が0.57であった。
【0061】
(カバークロスの製造)
上記のポリエステルアミド繊維(280dtex)を、ウレタン弾性糸(470dtex)の周りに巻き回し、更にその上にナイロン66(110dtex)を使用した複合糸を作製してこれを緯糸とし、ナイロン66(110dtex)を経糸として、これらの経糸・緯糸を用いてレピア織機にて2/2綾織物を製織し、該織物を100℃の液流染色機にてリラックス加工を行い、さらに170℃の熱風乾燥機(株式会社ヒラノテクシード製「シュリンクサーファー」)にて乾燥した。次いでラテックスとしてH−NBRを用いたRFLによるディッピング加工を行い、RFL処理済の歯付きベルト用カバークロスを得た。なお、RFLの付着率は繊維絶乾重量に対して12.0%であった。
【0062】
(歯付ベルトの製造)
上記カバークロスに、さらに歯付きベルトと同一のゴム配合物を用いたゴム糊をゴム引きした。該カバークロスの伸縮性撚り糸を用いた方向がベルト長さ方向になるようにして、常法にしたがい織物の裁断と縫い合わせを行い、外周面が歯型を形成する円筒状金型に織物をかぶせ、その上に芯線のガラスコードを巻き付けた。さらにH−NBRゴム配合物で外周を覆い、次いで圧入法にて加硫し、できた成型品を取り出して所定幅に切断して歯付ベルトを製造した。
【0063】
(高温耐久性試験)
このベルトの100℃、140℃の高温耐久性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0064】
<比較例1>
実施例1におけるポリエステルアミド繊維の替わりに、ポリアリレート繊維ベクトランHT糸を用いる以外、実施例1と同様の方法で歯付きベルトを作成し、高温耐久性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0065】
<比較例2>
実施例1におけるポリエステルアミド繊維の替わりに、アラミド繊維テクノーラ(R)(帝人テクノプロダクト社製)を用いる以外、実施例1と同様の方法で歯付きベルトを作成し、高温耐久性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1から明らかな様に、本発明において用いられるポリエステルアミド繊維は、100〜140℃の高温下で、従来のポリアリレート繊維およびアラミド繊維と比べ、高い耐久性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のベルトは、上記の特定の溶融異方性のポリエステルアミド繊維を、カバークロスとして用いて形成された、Vベルト、歯付ベルトまたは平ベルト等の形式で、自動車または一般産業用の伝動ベルトまたは搬送用ベルトとして広く用いられることが可能である。特に、本発明に係るベルトは、80℃以上の高温の環境雰囲気下、高負荷のもとで、長時間使用可能であるので、従来のベルトでは充足できなかった用途にも展開することができる。
【0069】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0070】
1 歯付ベルト
2 補強用芯線
3 ベルト本体
4 歯部
5 歯底部
6 カバークロス
11 走行試験装置
12 駆動歯付プーリー
13 従動歯付プーリー
14 アイドラープーリー
15 アイドラー歯付プーリー
16 歯付ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記[A]、[B]、[C]、[D]、[E]の反復構成単位からなる部分が90重量%以上であり、かつ[A]:[B]:[C]:[D]:[E]=100:1〜20:5〜100:2〜80:2〜20のモル比を有する芳香族ポリエステルアミドで構成された溶融異方性ポリエステルアミド繊維であって、150℃雰囲気下での強度(T150)が17cN/dtex以上であり、かつ150℃雰囲気下の弾性率(E150)が710cN/dtex以上である溶融異方性ポリエステルアミド繊維を用いたベルト。
【化1】

【請求項2】
請求項1において、融点ピークが370℃以上である溶融異方性ポリエステルアミド繊維を用いたベルト。
【請求項3】
請求項1または2において、動的粘弾性測定により得られるガラス転移点(Tg)が81℃以上である溶融異方性ポリエステルアミド繊維を用いたベルト。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、25℃雰囲気下で動的粘弾性から測定した貯蔵弾性率(E’25)と、150℃雰囲気下で動的粘弾性から測定した貯蔵弾性率(E’150)との比(E’150/E’25)が0.50以上である溶融異方性ポリエステルアミド繊維を用いたベルト。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、150℃雰囲気下の強度(T150)と、25℃雰囲気下の強度(T25)との比(T150/T25)が、0.70以上であるとともに、150℃雰囲気下の弾性率(E150)と、25℃雰囲気下の弾性率(E25)との比(E150/E25)が、0.85以上である溶融異方性ポリエステルアミド繊維を用いたベルト。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項において、前記溶融異方性ポリエステルアミド繊維を用いたベルトが、100℃の雰囲気下の耐久試験において500時間以上の耐久性を示し、かつ、140℃における耐久性が100℃における耐久性の50%以上であるベルト。
【請求項7】
請求項1において、前記溶融異方性ポリエステルアミド繊維をカバークロス用として用いたベルト。
【請求項8】
請求項1において、80℃以上の環境雰囲気下で使用されるベルト。
【請求項9】
請求項1において、自動車のエンジンルーム内で使用されるベルト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−196214(P2010−196214A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44718(P2009−44718)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】