説明

ベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤の新規な血中濃度測定方法

【課題】 イミダゾール系プロトンポンプ阻害剤および代謝の血中濃度を測定する方法を提供する。
【解決手段】 オメプラゾール(OPZ)およびランソプラゾール(LPZ)に代表されるベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤及びその代謝物を含む血漿試料を固相抽出カラムを用いて前処理し、測定試料とした後、逆相分析用カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーを行い、その溶出液を紫外吸光光度計にて分析し、ベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤及びその代謝物h-OPZ、OPZ-snをクロマトグラム上で分離することにより、ベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤の定量を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬品として投与されたベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤及びその代謝物をクロマトグラム上で分離し、正確に、極めて低濃度までベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤の血中濃度を定量することができる迅速測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品を投与して、吸収、分布、代謝及び排泄について十分な検討を加えることは、その医薬品の効果および持続時間ならびに作用機序等の予測に必要であるばかりでなく、生体内分布、貯留時間及び濃度等を知ることによりその医薬品の副作用発現の推定に係る情報が得られる等極めて重要である。
【0003】
投与された薬物が吸収され、体内に分布して作用部位に到達し、また代謝され、未変化体または代謝物として体外へ排泄される全過程、すなわち薬物の体内動態を明らかにするためには、感度、特異性に優れる多成分含有試料の簡便な一斉分析法の確立が重要である。
【0004】
ベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤(PPI)は胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎及びZollinger-Ellison症候群などの治療剤として広く用いられている医薬品で、中でも、オメプラゾール(OPZ)及びランソプラゾール(LPZ)は胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助にも効果があることから、近年注目を集めている。
オメプラゾール(OPZ)は経口投与後、主に肝臓で代謝され、主代謝物として5-ヒドロキシオメプラゾール(h-OPZ)、オメプラゾールスルフォン(OPZ-sn)及びオメプラゾールスルフィド(OPZ-sd)を生成することが知られている。
【0005】
【化1】

【0006】
オメプラゾールの体内動態を明らかにするためには、血漿中のOPZおよび3種類の主代謝物を簡便に効率よく、高い精度で分離し、OPZを定量できる測定法が必要である。
【0007】
OPZ及びその代謝物の血中濃度測定には、当初より高速液体クロマトグラフ(HPLC)が用いられており、有機ハロゲン化物を用いて血漿試料から測定対象物を抽出し、試料溶液を濃縮乾燥した後に再溶解し、HPLC-UV検出器を用いて測定する方法が報告されている。〔Mihaly G.W. et al., J. Chromatogr., 278 (1983) 311-9., Persson B.-A., et al., Lagerstroem P.-O. et al., J. Chromatogr., 309 (1984) 347-56., Scand. J. Gastroenterol. Suppl. 108 (1985) 71-7., and Amantea M.A. et al., J. Chromatogr., 426 (1988) 216-22.〕しかしながら、これらの方法には、測定対象物(OPZ及びその代謝物)と夾雑物の分離が不十分であること、測定対象物の抽出に手間がかかること、および有機ハロゲン化物が人体にとって極めて有害であること等の問題がある。
【0008】
先の方法の問題点を解決した改良法として、固相抽出法を用いて血漿試料から測定対象物を抽出し、試料溶液を濃縮乾燥した後に再溶解し、HPLC-質量分析装置を用いて測定する方法が開示されている。〔Woolf E.J. et al., J. Chromatogr. A, 828 (1998) 229-38., and Kanazawa H. et al., J. Chromatogr. A, 949 (2002) 1-9 〕ただし、これらの方法には、新たな問題点として試料溶液の濃縮乾燥に時間がかかること、質量分析装置が極めて高価な装置であること等がある。
【0009】
オメプラゾールおよび代謝物の光学異性体の分離をした例として、Orlandoらの測定法が知られている。〔Orlando R.M. et al., J. Chromatogr. B, 795 (2003) 227-35.〕この方法では、固相抽出法を用いて血漿試料から測定対象物を抽出し、試料溶液を濃縮乾燥した後に再溶解し、HPLC-UV検出器を用いて測定する。質量分析装置を用いてはいないが、上記の濃縮乾燥に時間がかかる問題は解決しておらず、測定時間が比較的長いこと(約25分)、定量限界値が高いこと(50 ng/mL)、および高価なキラルカラムが必要である等の問題がある。
【0010】
生体内代謝に関してランソプラゾール(LPZ)は、オメプラゾールに似た挙動を示し、主代謝物として5-ヒドロキシランソプラゾール(h-LPZ)、ランソプラゾールスルフォン(LPZ-sn)及びランソプラゾールスルフィド(LPZ-sd)へと変換される。
【0011】
【化2】

【0012】
ランソプラゾール(LPZ)及びその主代謝物の血中濃度測定もOPZの場合と同様に、未だ簡便な高感度の測定法の確立には至っていない。
【0013】
当初の方法〔Aoki I. et al., J Chromatogr., 571 (1991) 283-90., and Karol M.D. et al., J. Chromatogr. B, 668 (1995) 182-6.〕では,有機ハロゲン化物を用いて血漿試料から測定対象物を抽出し、試料溶液を濃縮乾燥した後に再溶解し、HPLC-UV検出器を用いて測定を行い、上記3種類の代謝物全てを同定しているが、測定対象物の抽出に手間がかかること、有機ハロゲン化物が人体にとって極めて有害であること、測定時間が長い(約30分)こと等の問題がある。
【0014】
Landesらの方法〔Landes B.D. et al., J Chromatogr. 577 (1992) 117-22.〕では、有機ハロゲン化物を用いず、t-ブチルメチルエーテルを用いて血漿試料から測定対象物を抽出して、試料溶液を濃縮乾燥した後に再溶解し、HPLC-UV検出器を用いて測定を行っている。この方法では、ランソプラゾールの保持時間が約11分と測定時間は短い。しかし、この方法でも、測定対象物の抽出に手間がかかること、t-ブチルメチルエーテルも有機ハロゲン化物ほどではないが人体に極めて有害であること、などの問題がある。
【0015】
Oliveiraらの方法〔Oliveira C.H. et al., J. Chromatogr. B, 783 (2003) 453-9.〕では、有機ハロゲン化物を用いて血漿試料から測定対象物を抽出し、試料溶液を濃縮乾燥した後に再溶解し、HPLC-タンデム質量分析装置を用いて測定を行う。この方法では、測定時間がさらに短く(約5分)なるものの、測定対象物の抽出に手間がかかる、有機ハロゲン化物が人体にとって極めて有害である等の問題は解決しておらず、質量分析装置が極めて高価な装置と言う別の問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、ベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤の血中濃度測定の為、以下の条件を満たす方法を提供することである。
・ 前処理法が簡便かつ安全で、十分に血漿由来の夾雑物を除去できること。
・ 測定装置や試薬などが安価であること。
・ クロマトグラム上で薬物の未変化体及びその主代謝物のピークが十分に分離できていること。
・ 血漿由来の夾雑物のピークに阻害されずに測定対象物の定量を行えること。
・ 分析時間が短いこと。
・ 薬物投与時の血中濃度変化を補足するために十分な低濃度まで、精度よく分析可能なこと。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明はベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤及びその代謝物を含む血漿試料を陽イオン交換型の固相抽出カラムを用いて前処理し、測定試料とした後、オクタデシル基結合型の逆相分析用カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーを行い、その溶出液を紫外吸光光度計で分析することを特徴とする該ベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤の血中濃度測定法である。
【0018】
また、本発明におけるベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤がオメプラゾール又はランソプラゾールから選ばれることを特徴とする血中濃度測定法である。
【0019】
さらに、本発明におけるベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤がオメプラゾールであり、代謝物が5-ヒドロキシオメプラゾール、オメプラゾールスルフォン及びオメプラゾールスルフィドであることを特徴とする血中濃度測定法である。
【0020】
また、本発明におけるベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤がランソプラゾールであり、代謝物が5-ヒドロキシランソプラゾール、ランソプラゾールスルフォン及びランソプラゾールスルフィドであることを特徴とする血中濃度測定法である。
【0021】
さらに、本発明における固相抽出カラムが陽イオン交換型で、逆相分析用カラムがオクタデシル基結合型であり、水/アセトニトリル/トリエチルアミン混合溶媒を移動相として高速液体クロマトグラフを行い、測定波長302もしくは284 nmで紫外吸光光度計にて分析することを特徴とする血中濃度測定法である。
【0022】
本発明の被験液としては、採血した血液から、血球及び血小板を分離除去した血漿が用いられる。血漿は、陽イオン交換型の固相抽出カラムを用いて除蛋白処理を行い、抽出溶液に1%トリエチルアミン溶液を加えて試料溶液とする。陽イオン交換型の固相抽出カラムとしては、シリカゲルあるいはポリマーなどからなるものが例示され、具体的には、Oasis MCX、Bond Elut SCX、Empore MPC等が挙げられる。
【0023】
本方法では、有機ハロゲン化物などの人体に極めて有害な溶媒を使用せず、簡便に血漿中の夾雑物を除去する事ができる。
【0024】
上記の処理後、オクタデシル基結合型の逆相分析用カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーを行う。オクタデシル基結合型の逆相分析用カラムとしては、シリカゲルあるいはポリマーなどからなるものが例示され、具体的な例としては、Cadenza CD-C18、Deverosil ODS、CAPCELL PAK UG C18等がある。
【0025】
高速液体クロマトグラフィーに使用される移動相としては、水/アセトニトリル/トリエチルアミン/酢酸、水/アセトニトリル/トリエチルアミン、水/メタノール/トリエチルアミン/酢酸、水/メタノール/トリエチルアミン等が例示され、特に酢酸でpH10.0に調整した1.0 v/v%トリエチルアミン水溶液3容量をアセトニトリル2容量と混合したものが好適に使用される。移動相のpHは、通常9.5〜10.5、好適には10.0である。トリエチルアミン水溶液の濃度は、通常0.5 v/v%以上であり、好適には1.0 v/v%である。アセトニトリル濃度は通常30〜50 v/v%であり、好適には40 v/v%である。
【0026】
本発明では、上記の溶出物を紫外吸光分析することによってその測定が行われる。UV検出器の検出波長は、OPZについては290〜313 nm、好ましくは300〜303 nmであり、LPZについては272〜296 nm、好ましくは282〜286 nmである。
【発明の効果】
【0027】
以上、説明したように、本発明は、以下の条件を満たして、クロマトグラム上でベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤及びその代謝物を分離し、ベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤の定量を行う方法を提供する。
・ 前処理法が簡便かつ安全で、十分に血漿由来の夾雑物を除去できること。
・ 測定装置や試薬などが安価であること。
・ クロマトグラム上で薬物の未変化体及びその主代謝物のピークが十分に分離できていること。
・ 血漿由来の夾雑物のピークに阻害されずに測定対象対象物の定量を行えること。
・ 分析時間が短いこと。
・ 薬物投与時の血中濃度変化を補足するために十分な低濃度まで、精度よく分析可能なこと。
特に、 本発明はベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤がオメプラゾール又はランソプラゾールである場合に有用であり、これら薬物の体内動態、あるいは副作用発現の推定に係る情報の調査・分析の為の、簡便で効率的な測定方法を与える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に本発明の代表的な方法の例を実施例として示し、本発明をより具体的に説明する。
・OPZの測定(内部標準物質:LPZ)
1. 装置
分析装置:高速液体クロマトグラフ(HPLC)
検出装置:紫外可視分光光度計
2. 試薬、測定試料等
1)オメプラゾール(OPZ):測定対象物
2)オメプラゾール代謝物(h-OPZ、OPZ-sn及びOPZ-sd):OPZ水溶液に代謝酵素CYP2C19あるいはCYP3A4を加え、反応させたもの。なお、代謝物ピークの種類は、代謝反応条件及びクロマトグラムでの保持時間等から推定した。
3)ランソプラゾール(LPZ):内部標準物質
4)コントロール血漿:健常人のブランク血漿
5)その他の試薬:高速液体クロマトグラフ用もくしは特級グレード
6)試液
a. 標準希釈液:リン酸水素二ナトリウム十二水和物3.58 gを水に溶かし、1000 mLにしたもの。
b. 洗浄液1:標準希釈液をリン酸でpH 6.9に調整したもの。
c. 洗浄液2:10 mLのアセトニトリルを90 mLの水と混合したもの。
d. 抽出液:アンモニア水5 mLを95 mLのメタノールと混合したもの。
e. 1%トリエチルアミン溶液:10 mLのトリエチルアミンを水で希釈しておよそ900 mLにし,酢酸で調整してpH 10.0にした後,水で希釈して1000 mLにしたもの。
f. 移動相:1%トリエチルアミン溶液600 mLとアセトニトリル400 mLを混合する。
7)試薬標準溶液
a. オメプラゾール標準溶液:オメプラゾール25 mgを正確に量り、メタノールに溶かして正確に100 mLとして、250 μg/mLの標準原液とし、この原液を標準希釈液で希釈し、50.0、120.0、500.0、1200.0、5000.0、8000.0及び12000.0 ng/mL(7濃度)の標準溶液としたもの。
b. 内部標準物質(I.S.)溶液:ランソプラゾール10 mgを正確に量り、メタノールに溶かし正確に100 mLとして100 μg/mLの標準原液とし、この原液を標準希釈液で希釈し、5000.0 ng/mLのI.S.溶液としたもの。
8)測定試料
a. 被験検体:健常成人男性59名の血漿試料(20 mgのオメプラゾールを投与し、一定の時間に採血した全血より血漿を分離したもの、オメプラゾール及び代謝物を含む)。
b. 標準試料:コントロール血漿0.9 mLにオメプラゾール標準溶液0.1 mLを加え標準試料(7濃度)としたもの。
3. 前処理
上記測定試料のa. 及びb. につき、以下のように処理してHPLC用試料溶液とした。
被験検体及び標準試料各1.0 mLにI.S.溶液0.1 mLを加えて混合した。混合試料0.9 mLをメタノール1.0 mLおよび水1.0 mLで平衡化した固相抽出カラム(Oasis MCX 1cc 30mg)に添加して、洗浄液1 および洗浄液2 それぞれ0.5 mLにより洗浄した後、抽出液0.5 mLで抽出した。抽出溶液0.2 mLを1%トリエチルアミン溶液0.3 mLと混合して、HPLC用試料溶液とした。
4. HPLCの分析条件
HPLC用試料溶液について、以下の条件でHPLC分析を行った。
分析条件
HPLC:Alliance 2690
分析カラム:Cadenza CD-C18(内径4.6 mm×長さ250 mm)
移動相:2.6)参照
カラム温度:40℃
流量:オメプラゾールの保持時間が約6.0分になるように調整
分析時間:10分
検出法:紫外吸光法(検出波長:302 nm)
試料注入量:0.1 mL
5. OPZ、I.S.及び代謝物ピークの同定
上記の分析条件で、OPZ、I.S.及びOPZの代謝物の分析を行い、それぞれのピークの保持時間を確認した。本条件では、OPZ及びその代謝物は、h-OPZ、OPZ-sn、OPZ、OPZ-sdの順に溶出する。
6. OPZの定量
上記のように同定したOPZとLPZ(I.S.)のピーク面積比による内部標準法により定量を行った。具体的には、標準試料7濃度の分析結果よりもとめた回帰式から試料濃度を算出した。
回帰式は、以下のようにもとめた。
回帰式:y = ax+b y:ピーク面積比(OPZピーク面積値/I.S.ピーク面積値)
x:標準試料濃度(ng/mL)
a:検量線の傾き
b:y-切片

7. 各分析対象物ピークの同定結果(OPZの定量)
本発明方法によるOPZ定量結果のクロマトグラムを図1に示す。
図1中、OPZ及びLPZ(I.S.)のピークはオメプラゾール標準溶液及びI.S.標準溶液の測定結果から同定した。また、OPZの3種類の代謝物のピークはオメプラゾール代謝物(2. 2 参照)の測定結果から同定した。OPZ及びLPZ(I.S.)の保持時間は、それぞれ約6.0及び8.5分である。OPZの3種類の代謝物、h-OPZ、OPZ-sn、及びOPZ-sdの保持時間はそれぞれ約5.2、5.8及び12.0分(図1には記載なし)である。
以上の結果から、OPZ及びLPZ(I.S.)は、OPZの3種類の代謝物とクロマトグラム上で十分に分離していることが分かる。

【0029】
・LPZの測定(内部標準物質:OPZ)
1. 装置
分析装置:高速液体クロマトグラフ(HPLC)
検出装置:紫外可視分光光度計
2. 試薬、測定試料等
1)ランソプラゾール(LPZ):測定対象物
2)ランソプラゾール代謝物(h-LPZ、LPZ-sn及びLPZ-sd):LPZ水溶液に代謝酵素CYP2C19あるいはCYP3A4を加え、反応させたもの。なお、代謝物ピークの種類は、代謝反応条件及びクロマトグラムでの保持時間等から推定した。
3)オメプラゾール(OPZ):内部標準物質
4)コントロール血漿:健常人のブランク血漿
5)その他の試薬:高速液体クロマトグラフ用もくしは特級グレード
6)試液
a. 標準希釈液:リン酸水素二ナトリウム十二水和物3.58 gを水に溶かし、1000 mLにしたもの。
b. 洗浄液1:標準希釈液をリン酸でpH 6.9に調整したもの。
c. 洗浄液2:10 mLのアセトニトリルを90 mLの水と混合したもの。
d. 抽出液:アンモニア水5 mLを95 mLのメタノールと混合したもの。
e. 1%トリエチルアミン溶液:10 mLのトリエチルアミンを水で希釈しておよそ900 mLにし,酢酸で調整してpH 10.0にした後,水で希釈して1000 mLにしたもの。
f. 移動相:1%トリエチルアミン溶液600 mLとアセトニトリル400 mLを混合する。
7)試薬標準溶液
a. ランソプラゾール標準溶液:ランソプラゾール30 mgを正確に量り、メタノールに溶かして正確に100 mLとして、300 g/mLの標準原液とし、この原液を標準希釈液で希釈し、120.0、300.0、600.0、1200.0、3000.0、6000.0、12000.0及び30000.0 ng/mL(8濃度)の標準溶液としたもの。
b. 内部標準物質(I.S.)溶液
オメプラゾール10 mgを正確に量り、メタノールに溶かし正確に100 mLとして100 μg/mLの標準原液とし、この原液を標準希釈液で希釈し、10000.0 ng/mLのI.S.溶液としたもの。
8)測定試料
a. 被験検体:健常成人男性名の血漿試料(30 mgのランソプラゾールを投与し、一定の時間に採血した全血より血漿を分離したもの)。
b. 標準試料:コントロール血漿0.9 mLにランソプラゾール標準溶液0.1 mLを加え標準試料(8濃度)としたもの。
3. 前処理
上記測定試料のa. 及びb. につき、以下のように処理してHPLC用試料溶液とした。
被験検体及び標準試料各1.0 mLにI.S.溶液0.1 mLを加えて混合した。混合試料0.9 mLをメタノール1.0 mLおよび水1.0 mLで平衡化した固相抽出カラム(Oasis MCX 1cc 30mg)に添加して、洗浄液1 および洗浄液2 それぞれ0.5 mLにより洗浄した後、抽出液0.5 mLで抽出した。抽出溶液0.2 mLを1%トリエチルアミン溶液0.3 mLと混合して、HPLC用試料溶液とした。
4. HPLCの分析条件
HPLC用試料溶液について、以下の条件でHPLC分析を行った。
分析条件
HPLC:Alliance 2690
分析カラム:Cadenza CD-C18(内径4.6 mm×長さ250 mm)
移動相:2.6)参照
カラム温度:40℃
流量:ランソプラゾールの保持時間が約8.5分になるように調整。
分析時間:10分
検出法:紫外吸光法(検出波長:284 nm)
試料注入量:0.1 mL
5. LPZ、I.S.及び代謝物ピークの同定
上記の分析条件で、LPZ、I.S.及びLPZの代謝物の分析を行い、それぞれのピークの保持時間を確認した。本条件では、LPZ及びその代謝物は、h-LPZ、LPZ-sn、LPZ、LPZ-sdの順に溶出する。
6. LPZの定量
上記のように同定したLPZとOPZ(I.S.)のピーク面積比による内部標準法により定量を行った。具体的には、標準試料7濃度の分析結果よりもとめた回帰式から試料濃度を算出した。
回帰式は、以下のようにもとめた。
回帰式:y = ax+b y:ピーク面積比(LPZピーク面積値/I.S.ピーク面積値)
x:標準試料濃度(ng/mL)
a:検量線の傾き
b:y-切片

【0030】
各分析対象物ピークの同定結果(LPZの定量)
本発明方法によるLPZ定量結果のクロマトグラムを図2に示す。
図2において、LPZ及びOPZ(I.S.)のピークはオメプラゾール標準溶液及びI.S.標準溶液の測定結果から同定した。LPZの3種類の代謝物のピークはオメプラゾール代謝物(2. 2 参照)の測定結果から同定した。LPZ及びOPZ(I.S.)の保持時間は、それぞれ約6.0及び8.5分である。LPZの3種類の代謝物、h-LPZ、LPZ-sn、及びLPZ-sdの保持時間はそれぞれ、5.6、6.9及び13.0分(図2には記載なし)である。
以上の結果から、LPZ及びOPZ(I.S.)は、LPZの3種類の代謝物とクロマトグラム上で十分に分離していることが分かる。

【0031】
本発明方法の分析法バリデーション結果(OPZの定量)
表1に本発明方法の分析法バリデーション結果を記載する。
【0032】
【表1】

【0033】
本発明方法の分析法バリデーション結果(LPZの定量)
表2に本発明方法の分析法バリデーション結果を記載する。
【0034】
【表2】

【0035】
表1及び2のように、本発明方法では、OPZ及びLPZの測定において、妨害ピークは見られなかった。また、直線性、真度、併行精度及び室内再現精度について、定量を行うのに十分良好な数値を示した。さらに、定量限界値がOPZ及びLPZの測定において、それぞれ5.0及び12 ng/mLと血中薬物濃度の測定に十分な低濃度を示した。

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明方法による血中OPZ濃度測定のクロマトグラムである。
【図2】本発明方法による血中LPZ濃度測定のクロマトグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤及びその代謝物を含む血漿試料を固相抽出カラムを用いて前処理し、測定試料とした後、逆相分析用カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーを行い、その溶出液を紫外吸光光度計にて分析し、ベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤及びその代謝物をクロマトグラム上で分離することにより、ベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤の定量を行うことを特徴とする血中濃度測定方法。
【請求項2】
該ベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤がオメプラゾール又はランソプラゾールから選ばれることを特徴とする請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
該ベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤がオメプラゾールであり、代謝物が5-ヒドロキシオメプラゾール、オメプラゾールスルフィド及びオメプラゾールスルフォンであることを特徴とする請求項1に記載の測定方法。
【請求項4】
該ベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤がランソプラゾールであり、代謝物が5-ヒドロキシランソプラゾール、ランソプラゾールスルフィド及びランソプラゾールスルフォンであることを特徴とする請求項1に記載の測定方法。
【請求項5】
該固相抽出カラムが陽イオン交換型で、逆相分析用カラムがオクタデシル基結合型であり、水/アセトニトリル/トリエチルアミン混合溶媒を移動相として高速液体クロマトグラフを行い、測定波長302もしくは284 nmで紫外吸光光度計にて分析することを特徴とする請求項1に記載の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−105649(P2006−105649A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−289693(P2004−289693)
【出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【出願人】(591040753)東和薬品株式会社 (23)
【Fターム(参考)】