説明

ベーンポンプ

【課題】 騒音を低減することが可能なベーンポンプを提供すること。
【解決手段】 吸入側背圧ポートの作動油の圧力を、大気圧よりも低く、吸入領域のポンプ室内の作動油の圧力よりも高くなるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロータのスリット溝にベーンを出没可能に収容し、カムリング内周面とロータ外周面とベーンとの間に形成したポンプ室の容積をカムリングの揺動により変化させる可変容量形のベーンポンプが知られている。例えば、特許文献1に記載のベーンポンプは、ベーンの先端部がポンプの吐出領域または吸込領域のいずれかにあるとき、当該ベーンの基端部にベーン先端部と略同一の圧力(背圧)を作用させる。これにより、ベーン先端部がカムリング内周面に摺動するときの抵抗を減らし、ポンプを駆動する動力の損失を低減する。また、ポンプの吸入領域において吐出領域へ移行する手前からベーンの基端部に吐出側圧力(高圧)を作用させる。これにより、作動流体の粘性が高い低温時においても、当該ベーンをスリットから飛び出させ、ポンプ室のシール性の低下を抑制して、ポンプ作動性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−259754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載のベーンポンプでは、騒音が発生するという問題があった。本発明の目的とするところは、騒音を低減することが可能なベーンポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明のベーンポンプは、吸入側背圧ポートの作動油の圧力を、大気圧よりも低く、吸入領域のポンプ室内の作動油の圧力よりも高くなるようにした。
【発明の効果】
【0006】
よって、騒音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1のベーンポンプが適用されるCVTのブロック図である。
【図2】実施例1のベーンポンプの内部を回転軸方向から見た断面図である。
【図3】実施例1のプレートをz軸正方向側から見た平面図である。
【図4】実施例1のリアボディをz軸正方向側から見た図である。
【図5】実施例1のフロントボディをz軸負方向側から見た図である。
【図6】実施例1の図5におけるI-I断面図である。
【図7】実施例1の油圧回路の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施例1]
〔ベーンポンプの概要〕
実施例1のベーンポンプ1の概要を説明する。ベーンポンプ1は、自動車の油圧式アクチュエータへの油圧供給源として用いられる。具体的には、ベルト式の連続可変トランスミッション(CVT100)の油圧供給源として使用される。なお、他の油圧式アクチュエータ、例えばパワーステアリングシステムの油圧供給源として使用しても良い。
ベーンポンプ1は内燃機関のクランクシャフトにより駆動され、作動流体を吸入・吐出する。作動流体として作動油、具体的にはATF(オートマチック・トランスミッション・フルード)を用いる。作動油(ATF)は、弾性係数が比較的小さく、僅かな容積変化に対して圧力が大きく変化する性質を有している。
図1は、ベーンポンプ1が適用されるCVT100の一例を示すブロック図である。
コントロールバルブ200内には、CVTコントロールユニット300により制御される各種のバルブ201〜213が設けられている。ベーンポンプ1から吐出された作動油は、コントロールバルブ200を介してCVT100の各部(プライマリプーリ101、セカンダリプーリ102、フォワードクラッチ103、リバースブレーキ104、トルクコンバータ105、潤滑・冷却系等106等)に供給される。
ベーンポンプ1は、吐出容量(1回転当たりに吐出する流体量。以下、ポンプ容量という。)を可変にできる可変容量形であり、作動油を吸入・吐出するポンプ部2と、吐出容量を制御する制御部3とを、一体のユニットとして有している。
【0009】
〔ポンプ部の構成〕
ポンプ部2は主な構成要素として、クランクシャフトにより駆動される駆動軸5と、駆動軸5により回転駆動されるロータ6と、ロータ6の外周に形成された複数のスリット61のそれぞれに突没可能に収容されたベーン7と、ロータ6を囲んで配置されるカムリング8と、カムリング8を囲んで配置されるアダプタリング9と、カムリング8およびロータ6の軸方向側面に配置され、カムリング8、ロータ6およびベーン7とともに複数のポンプ室rを形成するプレート41と、貫通孔400を有し、貫通孔400の底部402にプレート41を収容するとともに、貫通孔400内にカムリング8、ロータ6およびベーン7を収容するリアボディ40と、リアボディ40の貫通孔400を閉塞するとともに、カムリング8、ロータ6およびベーン7とともに複数のポンプ室rを形成するフロントボディ42を有している。
図2は、ベーンポンプ1の内部を回転軸方向から見た一部断面図である。説明の便宜上、三次元直交座標系を設け、ベーンポンプ1の径方向にx軸およびy軸、ベーンポンプ1の回転軸方向にz軸を設定する。ベーンポンプ1の回転軸O上にz軸を設け、回転軸Oに対してカムリング8の中心軸Pが揺動する方向にx軸を設け、x軸およびz軸に直交する方向にy軸を設ける。図2の紙面上方をz軸正方向とし、Oに対してPが離れる側(第2閉じ込み領域に対する第1閉じ込み領域の側。図3参照。)をx軸正方向とし、吸入領域に対して吐出領域の側をy軸正方向とする。
【0010】
(アダプタリングの構成)
リアボディ40には、z軸方向に延びる略円筒状の貫通孔400が形成されている。この貫通孔400には、円環状のアダプタリング9が設置されている。
アダプタリング9の内周面は、z軸方向に延びる略円筒状の収容孔90を構成している。収容孔90のx軸正方向側には、yz平面と略平行な第1平面部91が形成されている。収容孔90のx軸負方向側には、yz平面と略平行な第2平面部92が形成されている。第2平面部92のz軸方向略中央には、段差部920がx軸負方向側に形成されている。
収容孔90のy軸正方向側であって回転軸Oに対して若干x軸正方向寄りには、z軸と略平行な第3平面部93が形成されている。第3平面部93には、z軸方向から見て半円状の溝(凹部930)が形成されている。凹部930を挟んだ両側には、アダプタリング9を径方向に貫通する連通路931,932が形成されている。凹部930のx軸正方向側における第3平面部93には第1連通路931が開口し、第3平面部93のx軸負方向側に隣接して第2連通路932が開口している。収容孔90のy軸負方向側には、xz平面と略平行な第4平面部94が形成されている。第4平面部94には、z軸方向から見て矩形状の溝(凹部940)が形成されている。
【0011】
(カムリングの構成)
アダプタリング9の収容孔90内には、円環状のカムリング8が揺動自在に設置されている。言い換えると、アダプタリング9は、カムリング8を取り囲むように配置されている。z軸方向から見て、カムリング8のカムリング内周面80およびカムリング外周面81は略円形であり、カムリング8の径方向幅は略一定である。カムリング8のy軸正方向側のカムリング外周面81には、z軸方向から見て半円状の溝(凹部810)が形成されている。
カムリング8のx軸負方向側のカムリング外周面81には、x軸方向に軸を有する略円筒状の凹部811が所定深さまで穿設されている。アダプタリング内周の凹部930とカムリング外周の凹部810との間には、z軸方向に延びるピン10が、これらの凹部930,810に挟み込まれるように、各凹部930,810に当接して設置される。
前述のアダプタリング内周の凹部940には、シール部材11が設置される。シール部材11は、カムリング外周面81のy軸負方向側に当接する。
アダプタリング内周の段差部920には、弾性部材としてのスプリング12の一端が設置される。スプリング12はコイルスプリングである。カムリング外周の凹部811には、スプリング12の他端が嵌挿される。スプリング12は圧縮状態で設置され、アダプタリング9に対してカムリング8をx軸正方向側に常時付勢する。
アダプタリング9の収容孔90のx軸方向寸法、すなわち第1平面部91と第2平面部92との間の距離は、カムリング外周面81の直径よりも大きく設けられている。カムリング8は、アダプタリング9に対して平面部93で支持され、平面部93を支点にxy平面内で揺動自在に設置されている。ピン10はアダプタリング9に対するカムリング8の位置ズレ(相対回転)を抑制する。
カムリング8の揺動は、x軸正方向側では、カムリング外周面81がアダプタリング9の第1平面部91に当接することで規制され、x軸負方向側では、カムリング外周面81がアダプタリング9の第2平面部92に当接することで規制される。カムリング8の中心軸Pの回転軸Oに対する偏心量をδとする。カムリング外周面81が第2平面部92に当接する位置(最小偏心位置)では、偏心量δが最小値となる。カムリング外周面81が第1平面部91に当接する図2の位置(最大偏心位置)では、偏心量δが最大となる。カムリング8が揺動する際には、平面部93がカムリング外周面81に摺接するとともに、シール部材11がカムリング外周面81に摺接する。
【0012】
(制御室の構成)
アダプタリング内周面95とカムリング外周面81との間の空間は、そのz軸負方向側がプレート41に、z軸正方向側がフロントボディ42により封止される一方、平面部93とシール部材11とにより、2つの制御室R1,R2に液密に隔成されている。
x軸正方向側には第1制御室R1が形成され、x軸負方向側には第2制御室R2が形成されている。第1制御室R1には第1連通路931が開口し、第2制御室R2には第2連通路932が開口している。なお、上記規制位置で、カムリング外周とアダプタリング内周との間には所定の隙間が確保されており、第1、第2制御室R1,R2の容積は所定以上でありゼロとならない。
【0013】
(ロータの構成)
ボディ4(リアボディ40、プレート41、フロントボディ42)には駆動軸5が回転自在に軸支されている。駆動軸5は、チェーンを介して内燃機関のクランクシャフトに結合されており、クランクシャフトに同期して回転する。駆動軸5の外周には、ロータ6が同軸に固定(スプライン結合)されている。ロータ6は略円柱状であり、カムリング8の内周側に設置されている。言い換えると、カムリング8は、ロータ6を取り囲むように配置されている。ロータ6のロータ外周面60とカムリング8のカムリング内周面80とプレート41、フロントボディ42との間に、環状室R3が形成されている。ロータ6は、駆動軸5とともに、回転軸Oの周りに、図2の時計回り方向に回転する。
ロータ6には、複数の溝(スリット61)が放射状に形成されている。各スリット61は、z軸方向から見て、ロータ外周面60から回転軸Oに向かって所定深さまで、ロータ径方向に延びて直線状に設けられており、ロータ6のz軸方向全範囲にわたって形成されている。スリット61は、ロータ6を周方向に等分割する位置に11箇所、形成されている。
ベーン7は、略矩形状の板部材(羽根)であり、複数(11枚)設けられ、各スリット61に1枚ずつ出没可能に収容されている。ベーン7のロータ外径側(回転軸Oから離れる側)の先端部(ベーン先端部70)は、カムリング内周面80に対応して緩やかな曲面状に形成されている。なお、スリット61とベーン7の数は11に限らない。
各スリット61のロータ内径側(回転軸Oに向かう側)の端部(スリット基端部610)は、略円筒状に形成されており、z軸方向から見て、ロータ周方向におけるスリット本体部611の幅よりも大径の略円形である。なお、スリット基端部610を特に円筒状に形成しなくてもよく、例えばスリット本体部611と同様の溝形状としてもよい。スリット基端部610と、このスリット61に収容されたベーン7のロータ内径側の端部(ベーン基端部71)との間には、このベーン7の背圧室br(受圧部)が形成されている。
【0014】
ロータ外周面60には、各ベーン7に対応する位置に、z軸方向から見て略台形状の突出部62が設けられている。突出部62は、ロータ6のz軸方向全範囲にわたって、ロータ外周面60から所定高さまで突出するように形成されている。突出部62の略中央位置には、各スリット61の開口部が設けられている。スリット61のロータ径方向長さ(突出部62およびスリット基端部610を含む)は、ベーン7のロータ径方向長さと略同じに設けられている。
突出部62を設けることで、スリット61のロータ径方向長さが所定以上確保され、例えば第1閉じ込み領域でベーン7がスリット61から最大限突出したとしてもスリット61におけるベーン7の保持性が確保されている。言い換えると、突出部62によりベーン7の保持性を向上しつつ、ロータ外周面60から突出部62以外の肉を除いているため、この除肉分だけポンプ室rの容積を大きくしてポンプ効率を向上し、かつロータ6全体を軽量化して動力損失を軽減している。
環状室R3は、複数のベーン7によって、複数(11個)のポンプ室(容積室)rに区画されている。以下、ロータ6の回転方向(図2の時計回り方向。以下、単に回転方向という。)において隣り合うベーン7同士の間(2つのベーン7の側面間)の距離を、1ピッチという。1つのポンプ室rの回転方向幅は、1ピッチであり不変である。
カムリング8の中心軸Pが回転軸Oに対して(x軸正方向側に)偏心した状態では、x軸負方向側からx軸正方向側に向かうにつれて、ロータ外周面60とカムリング内周面80との間のロータ径方向距離(ポンプ室rの径方向寸法)が大きくなる。この距離の変化に応じ、ベーン7がスリット61から出没することで、各ポンプ室rが隔成されるとともに、x軸正方向側のポンプ室rのほうが、x軸負方向側のポンプ室rよりも、容積が大きくなる。このポンプ室rの容積の差異により、x軸を境としてy軸負方向側では、ロータ6の回転方向(図2の時計回り方向)であるx軸正方向側に向かうにつれて、ポンプ室rの容積が拡大する一方、x軸を境としてy軸正方向側では、ロータ6の回転方向(図2の時計回り方向)であるx軸負方向側に向かうにつれて、ポンプ室rの容積が縮小する。
【0015】
〔プレートの構成〕
図3は、プレート41をz軸正方向側から見た平面図である。プレート41には、吸入ポート43と、吐出ポート44と、吸入側背圧ポート45と、吐出側背圧ポート46と、ピン設置孔47と、貫通孔48とが形成されている。ピン設置孔47にはピン10が挿入され固定設置される。貫通孔48には駆動軸5が挿入され回転自在に設置される。
【0016】
(吸入ポートの構成)
吸入ポート43は、外部から吸入側のポンプ室rに作動油を導入する際の入り口となる部分であり、ロータ6の回転に応じてポンプ室rの容積が拡大するy軸負方向側の区間に設けられている。吸入ポート43は、吸入側円弧溝430と吸入孔431と連通孔432とを有している。吸入側円弧溝430は、プレート41のz軸正方向側の面410に形成され、ポンプ吸入側の油圧が導入される溝であって、吸入側のポンプ室rの配置に沿って、回転軸Oを中心とする略円弧状に形成されている。
吸入側円弧溝430に対応する角度範囲、すなわち回転軸Oに対して吸入側円弧溝430のx軸負方向側の始点Aとx軸正方向側の終点Bとがなす略4.5ピッチ分に相当する角度αの範囲に、ベーンポンプ1の吸入領域が設けられている。吸入側円弧溝430の始点Aおよび終点Bは、x軸に対して略0.5ピッチに相当する角度βだけy軸負方向側に離れた位置に設けられている。
吸入側円弧溝430の終端部436は、回転方向に凸の略半円弧状に形成されている。吸入側円弧溝430の始端部435には、回転負方向に凸の略半円弧状に形成された本体始端部433と、本体始端部433に連続するノッチ434とが形成されている。ノッチ434は、本体始端部433からポンプ回転方向と回転負方向に延びるように、略0.5ピッチの長さだけ形成されており、その先端は始点Aと一致している。吸入側円弧溝430のロータ径方向幅は、回転方向全範囲で略等しく設けられており、カムリング8が最小偏心位置にあるときの環状室R3のロータ径方向幅と略等しい(図2参照)。
吸入側円弧溝430のロータ内径側の縁437は、ロータ外周面60(突出部62を除く)よりも若干ロータ外径側に位置する。吸入側円弧溝430のロータ外径側の縁438は、最小偏心位置にあるカムリング8のカムリング内周面80よりも若干ロータ外径側に位置し、その終端側で、最大偏心位置にあるカムリング8のカムリング内周面80よりも僅かにロータ外径側に位置する。カムリング8の偏心位置に関わらず、吸入側の各ポンプ室rは、z軸方向から見て吸入側円弧溝430と重なり、吸入側円弧溝430と連通している。
【0017】
吸入側円弧溝430の回転方向略中央には、吸入孔431が開口している。吸入孔431は、z軸方向から見て略長円状であり、ロータ径方向幅が吸入側円弧溝430と略等しく、回転方向における長さが略1ピッチである。吸入孔431は、プレート41をz軸方向に貫通して、y軸と重なる位置に形成されている。
吸入側円弧溝430には、吸入孔431に隣接して回転負方向寄り(始点A側)に、連通孔432が開口している。連通孔432は、吸入孔431と同様の形状であり、プレート41をz軸方向に貫通している。吸入側円弧溝430は、本体始端部433、連通孔432と吸入孔431との間、および終端部436において、プレート41の(z軸方向)厚さの20%弱の(z軸方向)深さを有している。
本体始端部433から連通孔432までの間は、傾斜が設けられており、回転方向に徐々に深くなり、連通孔432に達する部位ではプレート41の厚さと同じ深さとなるように形成されている。吸入孔431から終端部436までの間は、傾斜が設けられており、回転方向に徐々に浅くなり、終端部436に達する部位では本体始端部433と同じ深さとなるように形成されている。
ノッチ434は、z軸方向から見て、回転方向に向かうにつれて徐々にロータ径方向幅が大きくなる略鋭三角形状に設けられている。ノッチ434のロータ径方向幅の最大値は、吸入側円弧溝430の幅よりも小さく設けられている。ノッチ434の(z軸方向)深さは、回転方向に向かうにつれてゼロからプレート41の厚さの数%まで徐々に増加する。すなわち、ノッチ434の流路断面積は、吸入側円弧溝430の本体部よりも小さく、ノッチ434は、回転方向に流路断面積が徐々に大きくなる絞り部を構成している。
【0018】
(吐出ポートの構成)
吐出ポート44は、吐出側のポンプ室rから外部へ作動油を吐出する際の出口となる部分であり、ロータ6の回転に応じてポンプ室rの容積が縮小するy軸正方向側の区間に設けられている。吐出ポート44は、吐出側円弧溝440と連通孔441と吐出孔441,442とを有している。吐出側円弧溝440は、第1プレート41の面410に形成され、ポンプ吐出側の油圧が導入される溝であって、吐出側のポンプ室rの配置に沿って、回転軸Oを中心とする略円弧状に形成されている。
吐出側円弧溝440に対応する角度範囲、すなわち回転軸Oに対して吐出側円弧溝440のx軸正方向側の始点Cとx軸負方向側の終点Dとがなす角度αの範囲に、ベーンポンプ1の吐出領域が設けられている。吐出側円弧溝440の始点Cおよび終点Dは、x軸に対して略0.5ピッチ分に相当する角度βだけy軸正方向側に離れた位置に設けられている。
吐出側円弧溝440のロータ径方向幅は、回転方向全範囲で略等しく設けられており、吸入側円弧溝430のロータ径方向幅よりも若干小さい。吐出側円弧溝440のロータ内径側の縁446は、(突出部62を除く)ロータ外周面60よりも若干ロータ外径側に位置する。吐出側円弧溝440のロータ外径側の縁447は、最小偏心位置にあるカムリング8のカムリング内周面80と略重なる。吐出側の各ポンプ室rは、カムリング8の偏心位置に関わらず、z軸方向から見て吐出側円弧溝440と重なり、吐出側円弧溝440と連通している。
吐出側円弧溝440の回転方向側の終端部444には、吐出孔442が開口している。吐出孔442は、z軸方向から見て略長円状であり、ロータ径方向における幅が吐出側円弧溝440と略等しく、回転方向における長さが略1ピッチよりも若干長い。吐出孔442は、プレート41をz軸方向に貫通して形成されている。吐出孔442の回転方向側縁は、回転方向に凸の略半円弧状に形成されており、終端部444の回転方向側縁と一致している。
【0019】
吐出側円弧溝440の回転負方向寄りには、回転軸Oを挟んで吸入側の連通孔432と対向する位置に、連通孔441が開口している。連通孔441は、吐出孔442と同様の形状であり、回転方向における長さが略1ピッチであり、プレート41をz軸方向に貫通して形成されている。吐出側円弧溝440の始端部443は、始点Cから連通孔441の回転負方向側の縁445まで延びて形成されている。縁445は、z軸方向から見て、回転負方向に凸の略半円弧状に形成されており、その先端Eは、始点Cから回転方向に略1ピッチの距離をおいた位置にある。回転方向で吸入側円弧溝430の終点Bと対向する始端部443の先端は、z軸方向から見て略矩形状に形成されており、ロータ径方向に延びる縁を有している。
吐出側円弧溝440の連通孔441と吐出孔442との間に設けられた本体部448の(z軸方向)深さは、プレート41の(z軸方向)厚さの略25%である。始端部443は本体部448よりも溝深さが浅く、始点Cから縁445に至るまで傾斜が設けられている。始点Cでの溝深さは0で、縁445に向かうにつれて徐々に深くなり、縁445に達する部位では第1プレート41の厚さの10%弱の深さとなる。
始端部443は、その流路断面積が本体部448よりも小さく、かつ回転方向に向かうにつれて徐々に(z軸方向)深さが大きくなる形状に設けられており、回転方向に流路断面積が徐々に大きくなる絞り部を構成している。吸入側円弧溝430の終点Bと吐出側円弧溝440の始点Cとの間の面410には溝が設けられておらず、この区間に対応する角度範囲、すなわち回転軸Oに対して終点Bと始点Cとがなす角度2βの範囲に、ベーンポンプ1の第1閉じ込み領域が設けられている。第1閉じ込み領域の角度範囲は、略1ピッチ分に相当する。
同様に、吐出側円弧溝440の終点Dと吸入側円弧溝430の始点Aとの間の面410には溝が設けられておらず、この区間に対応する角度範囲、すなわち回転軸Oに対して終点Dと始点Aとがなす角度2βの範囲に、第2閉じ込み領域が設けられている。第2閉じ込み領域の角度範囲は、略1ピッチ分に相当する。
【0020】
(閉じ込み領域)
第1閉じ込み領域および第2閉じ込み領域は、この領域内にあるポンプ室rの作動油を閉じ込め、吐出側円弧溝440と吸入側円弧溝430とが連通することを抑制する部分であり、x軸に跨る区間に設けられている(図3参照)。
(背圧ポート)
プレート41には、ベーン7の根元(背圧室br、スリット基端部610)に連通する背圧ポート45,46が、吸入側と吐出側でそれぞれ分離して設けられている(図3参照)。
【0021】
〈吸入側背圧ポート〉(図3参照)
吸入側背圧ポート45は、吸入領域の大部分に位置する複数のベーン7の背圧室brと吸入ポート43とを連通するポートである。ベーン7が「吸入領域に位置する」とは、z軸方向から見て、ベーン7のベーン先端部70が吸入ポート43(吸入側円弧溝430)と重なっていることをいう。吸入側背圧ポート45は、吸入側背圧円弧溝450と連通孔451とを有している。
吸入側背圧円弧溝450は、プレート41の面410に形成され、ポンプ吸入側の油圧が導入される溝であって、ベーン7の背圧室br(ロータ6のスリット基端部610)の配置に沿って、回転軸Oを中心とする略円弧状に形成されている。吸入側背圧円弧溝450は、略3ピッチ分に相当する角度の範囲(吸入側円弧溝430よりも狭い範囲)で形成されている。
吸入側背圧円弧溝450の始点aは、吸入側円弧溝430(ノッチ434)の始点Aよりも若干回転方向側であって本体始端部433の回転方向側に隣接する位置にある。吸入側背圧円弧溝450の終点bは、吸入側円弧溝430の終点Bよりも回転負方向側に略1.5ピッチ分に相当する角度だけ離れた位置にある。吸入側背圧円弧溝450のロータ径方向寸法(溝幅)は、回転方向全範囲で略等しく設けられており、吸入側円弧溝430と略等しく、スリット基端部610のロータ径方向寸法と略等しい。
吸入側背圧円弧溝450のロータ内径側の縁454は、スリット基端部610のロータ内径側縁よりも若干ロータ内径側に位置する。吸入側背圧円弧溝450のロータ外径側の縁455は、スリット基端部610のロータ外径側縁よりも僅かにロータ内径側に位置する。カムリング8の偏心位置に関わらず、z軸方向から見て、吸入側背圧円弧溝450は、スリット基端部610(背圧室br)と大部分重なるロータ径方向位置に設けられており、スリット基端部610(背圧室br)と重なるとき、これと連通する。
吸入側背圧円弧溝450の回転負方向寄り(始点a側)には、ロータ径方向で吸入側円弧溝430の連通孔432と重なる位置に、連通孔451が開口している。連通孔451は、z軸方向から見て略長円状であり、ロータ径方向における幅が吸入側背圧円弧溝450と略等しく、回転方向における長さが略1ピッチである。連通孔451は、プレート41をz軸方向に貫通して形成されており、後述するリアボディ40の低圧室491を介して吸入側円弧溝430の連通孔432と連通している。
吸入側背圧円弧溝450において、始点aから吸入孔431までの間には、始端部452が設けられている。z軸方向から見て、始端部452の先端は、回転負方向に凸の略半円弧状に形成されている。吸入側背圧円弧溝450の終端部453は、回転方向に凸の略半円弧状に形成されている。始端部452の(z軸方向)深さは、プレート41の厚さの40%弱であり、終端部453の深さは、プレート41の厚さの20%弱である。終端部453から連通孔451までの区間には傾斜が設けられており、回転負方向に連通孔451に向かうにつれて徐々に深くなり、連通孔451に達する部位ではプレート41の厚さと同じ深さとなるように形成されている。
【0022】
〈吐出側背圧ポート〉(図3参照)
吐出側背圧ポート46は、吐出領域、第1閉じ込み領域、第2閉じ込み領域の大半、および吸入領域の一部に位置する複数のベーン7の背圧室brと、吐出ポート44とを連通するポートである。ベーン7が「吐出領域等に位置する」とは、z軸方向から見て、ベーン7のベーン先端部70が吐出ポート44(吐出側円弧溝440)等と重なっていることをいう。吐出側背圧ポート46は、吐出側背圧円弧溝460と連通孔461とを有している。
吐出側背圧円弧溝460は、プレート41の面410に形成され、ポンプ吐出側の油圧が導入される溝であって、ベーン7の背圧室br(スリット基端部610)の配置に沿って、回転軸Oを中心とする略円弧状に形成されている。吐出側背圧円弧溝460は、略7ピッチ分に相当する角度の範囲(吐出側円弧溝440よりも広い範囲)で形成されている。
吐出側背圧円弧溝460は吸入領域まで臨むように形成されており、吐出側背圧円弧溝460の始点cは、吐出側円弧溝440の始点Cよりも回転負方向側に、第1閉じ込み領域を越え、さらに吸入側円弧溝430の終点Bよりも回転負方向側に位置している。始点cは、終点Bから略1ピッチの(2βに相当する)距離をおいた位置にある。
吐出側背圧円弧溝460の終点dは、吐出側円弧溝440の終点Dよりも回転方向側に1ピッチ弱に相当する角度だけ離れており、第2閉じ込み領域の終端部近くに位置している。
吐出側背圧円弧溝460のロータ径方向寸法(溝幅)は、回転方向全範囲で略等しく設けられており、吐出側円弧溝440よりも僅かに小さく、スリット基端部610のロータ径方向寸法よりも若干小さい。
【0023】
吐出側背圧円弧溝460のロータ内径側の縁464は、スリット基端部610のロータ内径側縁よりも若干ロータ外径側に位置する。吐出側背圧円弧溝460のロータ外径側の縁465は、スリット基端部610のロータ外径側縁よりも僅かにロータ内径側に位置する。カムリング8の偏心位置に関わらず、z軸方向から見て、吐出側背圧円弧溝460は、スリット基端部610(背圧室br)と大部分重なるロータ径方向位置に設けられており、スリット基端部610(背圧室br)と重なるとき、これと連通する。
吐出側背圧円弧溝460の回転負方向寄り(始点c側)には、第1閉じ込み領域の始端側において、吸入側円弧溝430の終点Bとx軸(第1閉じ込み領域の中間点)とに挟まれた角度位置に、連通孔461が開口している。連通孔461の直径は、吐出側背圧円弧溝460のロータ径方向幅と略等しい。連通孔461は、プレート41内をz軸負方向側に向かうにつれてロータ外径側に位置するように、z軸方向に対して斜めにプレート41を貫通して形成されている。連通孔461は、第1プレート41のz軸負方向側の面に開口し、後述するリアボディ40の高圧室492を介して吐出ポート44(吐出側円弧溝440)の連通孔441と連通している。吐出側背圧円弧溝460は、始端部462と背圧ポート本体部468を有している。
【0024】
〔制御部の詳細〕
図2に戻って説明すると、制御部3は、リアボディ40に設けられており、制御弁30と第1、第2通路31,32と制御室R1,R2とを有している。
制御弁30は油圧制御弁(スプール弁)であり、リアボディ40内の収容孔401に収容されたスプール302を、ソレノイド301により駆動することで、リアボディ40内に形成された第1通路31、第2通路32への作動油の供給を切り替える。第1通路31は第1連通路931と連通して第1制御油路を構成している。第2通路32は第2連通路932と連通して第2制御油路を構成している。制御弁30の作動は、CVTコントロールユニット300により、例えば内燃機関の回転数とスロットルバルブ開度とに基づき制御される。
【0025】
〔リアボディの詳細〕
図4は、リアボディ40をz軸正方向側から見た図である。リアボディ40の底部402には、貫通孔490、低圧室491、高圧室492、吐出室493が形成されている。
貫通孔490には、駆動軸5が挿入され回転自在に設置される。低圧室491は、底部402に凹状に形成されている。この低圧室491の開口部は、プレート41に形成された吸入ポート43の吸入孔431、連通孔432および吸入側背圧ポート45の連通孔451のz軸負方向側開口部を覆うように設けられている。すなわち、吸入ポート43および吸入側背圧ポート45は低圧室491を介して連通しており、吸入ポート43および吸入側背圧ポート45には吸入圧が作用することとなる。
高圧室492は、底部402に凹状に形成されている。この高圧室492の開口部は、プレート41に形成された吐出ポート44の連通孔441および吐出側背圧ポート46の連通孔461のz軸負方向側開口部を覆うように設けられている。すなわち、吐出ポート44および吐出側背圧ポート46は高圧室492を介して連通しており、吐出ポート44および吐出側背圧ポート46には吐出圧が作用することとなる。
吐出室493は、底部402に凹状に形成されている。この吐出室493の開口部は、プレート41に形成された吐出ポート44の吐出孔442のz軸負方向側開口部を覆うように設けられている。この吐出室493は吐出通路65(図2参照)と連通しており、この吐出通路65から高圧の作動油が吐出される。
また高圧室492と吐出室493の外周を覆うようにシール溝494が形成されている。このシール溝494にはシール部材495が設けられている。プレート41のz軸負方向側の面がリアボディ40の底部402と対向して設置された状態では、シール部材495がz軸方向に圧縮されてプレート41のz軸負方向側の面に密着し、これにより高圧室492と吐出室493とが液密に保たれる。シール部材495によって、シール部材495外部の低圧領域496とシール部材495内部の高圧領域497とが画成されている。
【0026】
〔フロントボディの詳細〕
図5は、フロントボディ42をz軸負方向側から見た図である。図6は図5におけるI-I断面図である。
フロントボディ42は、z軸負方向に突出したプレート面50を有している。プレート面50には、吸入ポート51、吐出ポート52と、吸入側背圧ポート53と、吐出側背圧ポート54と、ピン設置孔55と、貫通孔56とが形成されている。ピン設置孔55にはピン10が挿入され固定設置される。貫通孔56には駆動軸5が挿入され回転自在に設置される。吸入ポート51、吐出ポート52と、吸入側背圧ポート53および吐出側背圧ポート54は、プレート41に形成された吸入ポート43と、吐出ポート44と、吸入側背圧ポート45と、吐出側背圧ポート46と対応する位置に形成されている。
(吸入ポートの構成)(図5参照)
吸入ポート51は、吸入側のポンプ室rと連通しており、ロータ6の回転に応じてポンプ室rの容積が拡大するy軸負方向側の区間に設けられている。吸入ポート51は、吸入側円弧溝510と吸入孔511と連通孔512とを有している。吸入側円弧溝510は、吸入側のポンプ室rの配置に沿って、回転軸Oを中心とする略円弧状に形成されている。
吸入側円弧溝510の終端部516は、回転方向に凸の略半円弧状に形成されている。吸入側円弧溝510の始端部515には、回転負方向に凸の略半円弧状に形成されている。吸入側円弧溝510のロータ径方向幅は、回転方向全範囲で略等しく設けられており、カムリング8が最小偏心位置にあるときの環状室R3のロータ径方向幅と略等しい。
吸入側円弧溝510のロータ内径側の縁517は、ロータ外周面60(突出部62を除く)よりも若干ロータ外径側に位置する。吸入側円弧溝510のロータ外径側の縁518は、最小偏心位置にあるカムリング8のカムリング内周面80よりも若干ロータ外径側に位置し、その終端側で、最大偏心位置にあるカムリング8のカムリング内周面80よりも僅かにロータ外径側に位置する。カムリング8の偏心位置に関わらず、吸入側の各ポンプ室rは、z軸方向から見て吸入側円弧溝510と重なり、吸入側円弧溝510と連通している。
吸入側円弧溝510の回転方向終端部から中央部付近にかけて吸入孔511が開口している。吸入孔511は、ロータ径方向幅が吸入側円弧溝510と略等しく、回転方向における長さが略3ピッチである。吸入孔511は、フロントボディ42に形成された吸入通路64に接続されており、この吸入通路64から作動油が供給される。
吸入側円弧溝510には、吸入孔511に隣接して回転方向終端側に、連通孔512が開口している。連通孔512は、ロータ径方向幅が吸入側円弧溝510と略等しく、回転方向における長さが略1ピッチである。連通孔512も、フロントボディ42に形成された吸入通路64に接続されている。
【0027】
(吐出ポートの構成)(図5参照)
吐出ポート52は、ロータ6の回転に応じてポンプ室rの容積が縮小するy軸正方向側の区間に設けられている。吐出ポート52は、オリフィス溝521を有する吐出側円弧溝520を有している。吐出側円弧溝520は、吐出側のポンプ室rの配置に沿って、回転軸Oを中心とする略円弧状に形成されている。
吐出側円弧溝520のロータ径方向幅は、回転方向全範囲で略等しく設けられており、吸入側円弧溝510のロータ径方向幅よりも若干小さい。吐出側円弧溝520のロータ内径側の縁526は、ロータ外周面60(突出部62を除く)よりも若干ロータ外径側に位置する。吐出側円弧溝520のロータ外径側の縁527は、最小偏心位置にあるカムリング8のカムリング内周面80と略重なる。吐出側の各ポンプ室rは、カムリング8の偏心位置に関わらず、z軸方向から見て吐出側円弧溝520と重なり、吐出側円弧溝520と連通している。
吐出側円弧溝520の回転負方向側の端部には、オリフィス溝521が形成されている。このオリフィス溝521は、吐出側円弧溝520よりも深さが浅く形成されている。
吐出側円弧溝520の回転正方向側端部は、回転正方向に向かって凸の略半円状に形成されている。また吐出側円弧溝520の回転負方向側であって、オリフィス溝521との境部分は回転負方向に向かって凸の略半円状に形成されている。またオリフィス溝521の回転負方向側の縁は、矩形に形成されている。
【0028】
(吸入側背圧ポートの構成)(図5参照)
プレート面51には、ベーン7の根元(背圧室br、スリット基端部610)に連通する背圧ポート53,54が、吸入側と吐出側でそれぞれ分離して設けられている。吸入側背圧ポート53は、吸入領域の大部分に位置する複数のベーン7の背圧室brと吸入ポート51とを連通するポートである。吸入側背圧ポート53は、吸入側背圧円弧溝530と連通孔531とを有している。
吸入側背圧円弧溝530は、ベーン7の背圧室br(ロータ6のスリット基端部610)の配置に沿って、回転軸Oを中心とする略円弧状に形成されている。吸入側背圧円弧溝530は、略3ピッチ分に相当する角度の範囲(吸入側円弧溝510よりも狭い範囲)で形成されている。
吸入側背圧円弧溝530のロータ径方向寸法(溝幅)は、回転方向全範囲で略等しく設けられており、吸入側円弧溝510と略等しく、スリット基端部610のロータ径方向寸法と略等しい。
吸入側背圧円弧溝530のロータ内径側の縁534は、スリット基端部610のロータ内径側縁よりも若干ロータ内径側に位置する。吸入側背圧円弧溝530のロータ外径側の縁515は、スリット基端部610のロータ外径側縁よりも僅かにロータ内径側に位置する。カムリング8の偏心位置に関わらず、z軸方向から見て、吸入側背圧円弧溝530は、スリット基端部610(背圧室br)と大部分重なるロータ径方向位置に設けられており、スリット基端部610(背圧室br)と重なるとき、これと連通する。
吸入側背圧円弧溝530の回転負方向寄りには、ロータ径方向で吸入側円弧溝510の連通孔512と重なる位置に、連通孔531が開口している。連通孔531は、z軸方向から見て略長円状であり、ロータ径方向における幅が吸入側背圧円弧溝530と略等しく、回転方向における長さが略1ピッチである。
z軸方向から見て、吸入側背圧円弧溝530の回転方向両側は回転方向に凸の略半円弧状に形成されている。
【0029】
(吐出側背圧ポートの構成)(図5参照)
吐出側背圧ポート54は、吐出側背圧円弧溝540とオリフィス溝541とを有している。
吐出側背圧円弧溝540は、ベーン7の背圧室br(スリット基端部610)の配置に沿って、回転軸Oを中心とする略円弧状に形成されている。吐出側背圧円弧溝540は、略7ピッチ分に相当する角度の範囲(吐出側円弧溝520よりも広い範囲)で形成されている。
吐出側背圧円弧溝540は吸入領域まで臨むように形成されており、吐出側背圧円弧溝540の始点は、吐出側円弧溝520の始点よりも回転負方向側に、第1閉じ込み領域を越え、さらに吸入側円弧溝510の終点よりも回転負方向側に位置している。
吐出側背圧円弧溝540の終点は、吐出側円弧溝520の終点よりも回転方向側にまで形成されており、第2閉じ込み領域の終端部近くに位置している。
吐出側背圧円弧溝540のロータ径方向寸法(溝幅)は、回転方向全範囲で略等しく設けられており、吐出側円弧溝520よりも僅かに小さく、スリット基端部610のロータ径方向寸法よりも若干小さい。
吐出側背圧円弧溝540のロータ内径側の縁544は、スリット基端部610のロータ内径側縁よりも若干ロータ外径側に位置する。吐出側背圧円弧溝540のロータ外径側の縁545は、スリット基端部610のロータ外径側縁よりも僅かにロータ内径側に位置する。カムリング8の偏心位置に関わらず、z軸方向から見て、吐出側背圧円弧溝540は、スリット基端部610(背圧室br)と大部分重なるロータ径方向位置に設けられており、スリット基端部610(背圧室br)と重なるとき、これと連通する。
吐出側背圧円弧溝540の回転正方向側端部は、回転正方向に向かって凸の略半円状に形成されている。また吐出側背圧円弧溝540の回転負方向側であって、オリフィス溝521との境部分は矩形に形成されている。またオリフィス溝541の回転負方向側の縁は、矩形に形成されている。
【0030】
(潤滑油溝)(図5参照)
吐出ポート52の吐出側円弧溝520の回転正方向側端には、第2閉じ込み領域であって吸入ポート51、吐出ポート52よりも外周側に連通する潤滑油溝57が形成されている。また吐出側円弧溝520の回転正方向側には、第1閉じ込み領域であって吸入ポート51、吐出ポート52よりも外周側に連通する潤滑油溝58が形成されている。この潤滑油溝57,58から作動油が潤滑油として揺動するカムリング8とプレート面50との間に供給される。
吸入ポート51の外周には、潤滑油溝59が形成されている。この潤滑油溝59は、潤滑油吸入孔591から第1制御室R1の作動油を潤滑油として揺動するカムリング8とプレート面50との間に供給する。
〔リークもどし孔〕(図4参照)
リアボディ40およびフロントボディ42にはリークもどし孔63が形成されている。このリークもどし孔63は、リアボディ40の制御弁30を収容する収容孔401からフロントボディ42の吸入側背圧ポート53を繋ぐように形成されている。
リアボディ40の収容孔401には、内周側面に開口する開口部630が形成されている。この開口部630とリアボディ40の表面であって貫通孔400よりも外周とを連通する連通孔631が形成されている。フロントボディ42には、リアボディ40とフロントボディ42とを組み付けたときに、連通孔631の開口部と連通するように連通孔632が形成されている。この連通孔632は、フロントボディ42の内部側に向けて穿設されている。またフロントボディ42の側面から連通孔632と吸入側背圧ポート53を連通するように連通孔633が形成されている。この連通孔633のフロントボディ42の側面側開口部は閉止栓634により閉塞されている。
【0031】
[作用]
実施例1のベーンポンプ1の作用を説明する(図3参照)。
(ポンプ作用)
カムリング8を回転軸Oに対してx軸正方向に偏心して配置した状態でロータ6を回転させることにより、ポンプ室rは回転軸周りに回転しつつ周期的に拡縮する。ポンプ室rが回転方向に拡大するy軸負方向側で、吸入ポート43からポンプ室rに作動油を吸入し、ポンプ室rが回転方向に縮小するy軸正方向側で、ポンプ室rから吐出ポート44へ上記吸入した作動油を吐出する。
具体的には、あるポンプ室rに着目すると、吸入領域において、このポンプ室rの回転負方向側のベーン7(以下、後側ベーン7)が吸入側円弧溝430の終点Bを通過するまで、言い換えると、回転正方向側のベーン7(以下、前側ベーン7)が吐出側円弧溝440の始点Cを通過するまで、当該ポンプ室rの容積は増大する。この間、当該ポンプ室rは吸入側円弧溝430と連通しているため、作動油を吸入ポート43から吸入する。
第1閉じ込み領域において、当該ポンプ室rの後側ベーン7(の回転正方向側の面)が吸入側円弧溝430の終点Bと一致し、前側ベーン7(の回転負方向側の面)が吐出側円弧溝440の始点Cと一致する回転位置では、当該ポンプ室rは吸入側円弧溝430とも吐出側円弧溝440とも連通せず、液密に確保される。
当該ポンプ室rの後側ベーン7が吸入側円弧溝430の終点Bを通過(前側ベーン7が吐出側円弧溝440の始点Cを通過)した後は、吐出領域において、回転に応じて当該ポンプ室rの容積は減少し、吐出側円弧溝440と連通するため、ポンプ室rから作動油を吐出ポート44へ吐出する。
第2閉じ込み領域において、当該ポンプ室rの後側ベーン7(の回転正方向側の面)が吐出側円弧溝440の終点Dと一致し、前側ベーン7(の回転負方向側の面)が吸入側円弧溝430の始点Aと一致する位置では、当該ポンプ室rは吐出側円弧溝440とも吸入側円弧溝430とも連通せず、液密に確保される。
【0032】
実施例1では、第1、第2閉じ込み領域の範囲がそれぞれ1ピッチ分(1つのポンプ室rの分)だけ設けられているため、吸入領域と吐出領域とが連通することを抑制しつつ、ポンプ効率を向上することができる。なお、閉じ込み領域(吸入ポート43と吐出ポート44の間隔)を1ピッチ以上の範囲にわたって設けることとしてもよい。言い換えると、閉じ込み領域の角度範囲は、吐出領域と吸入領域を連通させない範囲であれば、任意に設定可能である。
なお、前側ベーン7(の回転負方向側の面)が第1閉じ込み領域から吐出領域へ移行するとき、始端部443の絞り作用により、ポンプ室rと吐出側円弧溝440の連通が急激に行われないため、吐出ポート44およびポンプ室rの圧力の変動が抑制される。すなわち、高圧の吐出ポート44から低圧のポンプ室rへ作動油が急激に流入することが抑制されるため、吐出ポート44から吐出孔442を介して接続された外部の配管に供給される流量の急激な減少が抑制される。よって、配管における圧力変動(油撃)を抑制することができる。また、ポンプ室rに供給される流量の急激な増加が抑制されるため、ポンプ室rにおける圧力変動も抑制することができる。なお、始端部443を適宜省略することとしてもよい。
また、前側ベーン7(の回転負方向側の面)が第2閉じ込み領域から吸入領域へ移行するとき、ノッチ434の絞り作用により、ポンプ室rと吸入側円弧溝430の連通が急激に行われないため、吸入ポート43およびポンプ室rの圧力の変動が抑制される。すなわち、ポンプ室rの容積が一気に増大することが抑制され、高圧のポンプ室rから低圧の吸入ポート43へ作動油が急激に流出することが抑制されるため、気泡の発生(キャビテーション)を抑制することができる。なお、ノッチ434を適宜省略することとしてもよい。
【0033】
(容量可変作用)
カムリング8がx軸正方向側に揺動して偏心量δがゼロでないとき、y軸負方向側では、ロータ6が回転するにつれてポンプ室rの容積は拡大し、x軸正方向側でx軸上に位置するとき最大となる。y軸正方向側では、ロータ6が回転するにつれてポンプ室rの容積は縮小し、x軸負方向側でx軸上に位置するとき最小となる。図2に示す最大偏心位置で、ポンプ室rの縮小時と拡大時の容積差は最大となり、ポンプ容量も最大となる。
一方、カムリング8がx軸負方向側に揺動して偏心量δが最小(ゼロ)となる最小偏心位置で、y軸負方向側でもy軸正方向側でも、ロータ6の回転につれてポンプ室rの容積は拡大も縮小もしない。言い換えると、ポンプ室r間の容積差は最小(ゼロ)となり、ポンプ容量も最小となる。
このように、カムリング8の揺動量に応じて容積差が変化し、これに対応してポンプ容量も変化する。
第1、第2制御室R1,R2に作動油が供給されていない状態で、カムリング8はスプリング12によりx軸正方向側に付勢され、偏心量δは最大となっている。
第1制御室R1には、制御弁30から第1制御油路を介して作動油が供給される。供給された作動油圧は、スプリング12の付勢力に抗してカムリング8をx軸負方向側に向かって押圧する第1油圧力を発生する。第2制御室R2には、制御弁30から第2制御油路を介して作動油が供給される。供給された作動油圧は、スプリング12の付勢力に加勢してカムリング8をx軸正方向側に向かって押圧する第2油圧力を発生する。
CVTコントロールユニット300は、制御弁30の作動を制御し、第1、第2制御室R1,R2に供給する作動油(カムリング8に作用する第1、第2油圧力)を適宜変化させることで、カムリング8が揺動し、偏心量δを変化させる。これにより、ポンプ容量を可変制御する。
具体的には、第1制御室R1の作動油圧が高くなると、第1油圧力が大きくなる。また、第2制御室R2の作動油の圧力が高くなると、第2油圧力が大きくなる。第1、第2油圧力の合計がカムリング8をx軸負方向側に押す方向である場合、この油圧力よりも、スプリング12による(カムリング8をx軸正方向側に押す)付勢力が小さいと、カムリング8はx軸負方向側に移動する。すると、偏心量δが小さくなり、ポンプ室rの縮小時と拡大時の容積差が小さくなるため、ポンプ容量が減少する。
逆に、第1、第2油圧力の合計がカムリング8をx軸負方向側に押す方向である場合であって、この油圧力よりもスプリング12による付勢力が大きいときや、上記油圧力の合計がカムリング8をx軸正方向側に押す方向である場合には、カムリング8はx軸正方向側に移動する。すると、偏心量δが大きくなり、ポンプ室rの縮小時と拡大時の容積差が大きくなるため、ポンプ容量が増える。
なお、第2制御室R2を設けず、第1制御室R1の油圧力のみにより制御してもよい。また、カムリング8を付勢する弾性部材として、コイルスプリング以外のものを利用してもよい。
所定の高回転域では、このようにポンプ容量を可変制御することで、駆動に必要なトルク(駆動トルク)を低減し、出力を必要最低限に抑える。これにより、固定容量ポンプに比べて損失トルク(動力損失)を低減することができる。
【0034】
(背圧ポートの分離による動力損失低減)(図2参照)
ロータ6の回転時、ベーン7には遠心力(ベーン7をロータ外径方向へ移動させる力)が作用するため、回転数が十分に高い等、所定の条件が整えば、ベーン7のベーン先端部70はスリット61から突出し、カムリング8のカムリング内周面80に摺接する。ベーン先端部70がカムリング内周面80に当接することで、ベーン7のロータ外径方向の移動が規制される。ベーン7がスリット61から突出するとベーン7の背圧室brの容積が拡大し、ベーン7がスリット61へ没入する(収納される)とベーン7の背圧室brの容積が縮小する。
カムリング8が回転軸に対してx軸正方向に偏心した状態でロータ6が回転すると、カムリング内周面80に摺接する各ベーン7の背圧室brは、回転軸の周りで回転しながら周期的に拡縮する。
ここで、背圧室brが拡大するy軸負方向側では、ベーン7の背圧室brに作動油が供給されないと、ベーン7の突出(飛び出し)が阻害され、ベーン先端部70がカムリング内周面80に当接せず、ポンプ室rの液密性が確保されないおそれがある。一方、背圧室brが縮小するy軸正方向側では、ベーン7の背圧室brから作動油が円滑に排出されないと、ベーン7のスリット61への収納(引込み)が阻害され、ベーン先端部70とカムリング内周面80との摺動抵抗が増加する。
ベーンポンプ1では、y軸負方向側では、吸入側背圧ポート45から背圧室brに作動油を供給する。これにより、ベーン7の飛び出し性を向上する。y軸正方向側では、背圧室brから吐出側背圧ポート46へ作動油を排出する。これにより、ベーン7の摺動抵抗を低減する。
【0035】
ここで、y軸負方向側では、ベーン7のベーン先端部70には吸入ポート43内の圧力が作用し、ベーン基端部71(根元)には吸入側背圧ポート45内の圧力が作用する。吸入側背圧ポート45は吸入ポート43と低圧室491を介して連通しているため、吸入ポート43内の圧力と吸入側背圧ポート45内の圧力は略等しい。よって、ベーン7のベーン先端部70とベーン基端部71には略同一の圧力が作用する。したがって、例えば背圧室brに吐出側のポートから高圧の作動油を供給した場合に比べて、ベーン先端部70がカムリング内周面80に遠心力以外の油圧力により不必要に強く押し付けられることが抑制され、ベーン7がカムリング内周面80に摺接する際の摩擦による損失トルクが低く抑えられる。言い換えると、ベーン先端部70のカムリング内周面80への摺動抵抗が軽減され、吸入領域における全てのベーン基端部71に高圧のポンプ吐出側圧力を作用させる場合に比べ、動力損失を低減できる。
一方、y軸正方向側では、ベーン7のベーン先端部70には吐出ポート44内の圧力が作用し、ベーン基端部71には吐出側背圧ポート46内の圧力が作用する。吐出側背圧ポート46は吐出ポート44と高圧室492を介して連通しているため、ベーン7のベーン先端部70とベーン基端部71には略同一の圧力が作用する。よって、ベーン先端部70がカムリング内周面80に不必要に強く押し付けられることが抑制され、ベーン7がカムリング内周面80と摺接する際の摩擦による損失トルクが低く抑えられる。
このように、ベーンポンプ1では、ベーン7の背圧室brと連通する背圧ポートが吸入側と吐出側とで分離しており、吸入工程と吐出工程の両方で、ベーン7のベーン先端部70とベーン基端部71に略同じ圧力が作用する。このため、遠心力によりベーン7を適度にカムリング8に押し付けつつ、摺動抵抗を低減することができる。よって、摩耗を低減できるとともに、ロータ6を回転させるために余分な駆動トルクが浪費されることがないため、動力損失を低減できる。
言い換えると、ベーンポンプ1は、回転数に対する駆動トルクが低く、高効率な(すなわち動力損失を低減して燃費を向上できる)、いわゆる低トルク式ポンプであり、通常の可変容量ベーンポンプに比べ、同一体格でも吐出量が大きい(すなわち小型化できる)という特長を有している。
【0036】
(ベーン押し付けによる吹き抜け抑制)(図2参照)
上記のように、吸入工程のベーン7は、スリット61内に没した状態からカムリング内周面80に向かって突き出すために、主に遠心力を利用している。よって、内燃機関の始動時やアイドル状態等のポンプ低回転域では、遠心力が小さく、吸入工程でベーン7の突き出しが不十分となり、ベーン先端部70がカムリング内周面80から離間した状態になるおそれがある。すなわち、ベーンの突き出し量は、ベーン7を突き出す(または突き出しを妨げる)方向に作用する力に応じて決まる。この作用力は、主に遠心力と、作動油の粘性抵抗と、スリット61に対するベーン7の摩擦力とで決まる。これらのうち、遠心力の割合が最も大きい。
複数のポンプ室rは順番に、ロータ6の回転に応じて第1、第2閉じ込み領域に差し掛かると、吸入工程と吐出工程が切り替わる。突き出し量が小さい任意のベーン7が、カムリング内周面80から離間した状態のままで、吸入領域と吐出領域が切り替わる上記回転位置に差し掛かると、以下の問題が生じる。
すなわち、ベーンポンプ1では、第1閉じ込み領域が1ピッチ分だけ設定されているため、あるポンプ室r(第1ポンプ室rという。)の後側ベーン7(上記突き出し量の小さいベーン7)が第1閉じ込み領域内にあるとき、第1ポンプ室rの前側ベーン7は吐出領域にあり、第1ポンプ室rは吐出ポート44と連通しているため、高圧である。一方、第1ポンプ室rに対して回転負方向側に隣接するポンプ室r(第2ポンプ室rという。)の後側ベーン7は吸入領域にあるため、第2ポンプ室rは吸入ポート43と連通しており、低圧である。
このように、あるベーン7を挟んで隣り合うポンプ室rの圧力が、一方のポンプ室rは低圧であり他方のポンプ室rは高圧である場合、当該ベーン7の突出(カムリング8への押し付け)が不十分であると、ベーン先端部70とカムリング内周面80との間の隙間を通って、高圧のポンプ室rから低圧のポンプ室rへと作動油が漏出する現象(作動油の吹き抜け)が発生する。特に低温環境下では、吹き抜けが発生する可能性が高まる。吹き抜けにおいては、急激な作動油の流れが発生する。
この場合、吐出ポート44内および吸入ポート43内の圧力が大きく変動して、騒音が発生する。また、ロータ6の回転に伴い周期的に吐出ポート44内の圧力低下が生じるため、吐出圧の脈動が発生する原因となる。また、吐出量が低下してポンプ吐出側の圧力が十分に得られないため、ポンプ効率が低下するとともに、ポンプ吐出圧を利用したシステム(CVT100)の始動性が悪化する。
ベーンポンプ1では、ベーン7が第1閉じ込み領域に移行する手前で、このベーン7の背圧室brに高圧を作用させる。よって、このベーン7の第1閉じ込み領域内における突出を確保し、このベーン7を挟んで隣り合う高圧のポンプ室rと低圧のポンプ室rとを液密に隔成(シール)することができる。
また、ベーン7が第1閉じ込み領域に移行した後においても、このベーン7の背圧室brを吐出側背圧ポート46と連通させ、高圧を作用させることで、ベーン7の押し付けを確保している。
言い換えると、吸入工程から吐出工程へ切り替わる部位(第1閉じ込み領域)にあるポンプ室rを区画するベーン7には、その背圧室brに高圧を作用させ、ベーン先端と根元の圧力差により、ベーン先端をカムリング内周面80に押し付ける。これにより、吐出工程へ切り替わる直前のポンプ室rの液密性を確保し、低圧の吸入側と高圧の吐出側との間をシールしている。
よって、低温始動時等において作動油の粘性が高く、遠心力によるベーン7の飛び出し性が悪くても、油圧によりベーン7を突出させ、ポンプの吸入・吐出動作を行わせることが可能である。よって、低温時の始動性を向上させることができる。
【0037】
(吐出領域、吸入領域内でのベーンの押しつけ作用)
ここで、吸入ポート43,51、吐出ポート44,52、吸入側背圧ポート45,53、吐出側背圧ポート46,54のそれぞれの間の油圧回路について説明する。図7は、油圧回路の概略図である。
作動油はリザーバから吸入通路64を経て、吸入孔431、連通孔432から吸入ポート43,51に、連通孔451から吸入側背圧ポート45,53に供給される。ベーンポンプ1の駆動時には吸入領域では作動油は吸入され続けているため、吸入ポート43,51内の圧力(吸入圧Pi)は負圧、すなわち大気圧以下となっている。吸入側背圧ポート45,53は、低圧室491を介して吸入ポート43,51と連通しているため、吸入側背圧ポート45,53には吸入圧Piの作動油が供給されることとなる。ここで吸入領域にあるベーン7は、ロータ6の回転にしたがってスリット61から突き出ていく。つまり、ベーン基端部71の背圧室brの体積はロータ6の回転にしたがって拡大していく。そのため、吸入側背圧ポート45,53内には、吸入圧Piよりも更に低い圧力が作用することとなる。
ベーンポンプ1の駆動時には吐出領域ではポンプ作用により作動油の圧力が上昇するため、吐出ポート44,52内の圧力(吐出圧Pd)は大気圧よりも大きい高圧となっている。吐出側背圧ポート46,54は、高圧室492を介して吐出ポート44,52と連通しているため、ロータ6の回転当初には吐出側背圧ポート46,54には吐出圧Pdの作動油が供給されることとなる。ここで吐出領域にあるベーン7は、ロータ6の回転にしたがってスリット61に押し込まれていく。つまり、ベーン基端部71の背圧室brの体積はロータ6の回転にしたがって縮小していく。そのため、吐出側背圧ポート46,54内には吐出圧Pdよりも更に高い圧力が作用することとなる。
吐出側背圧ポート46,54の作動油は、連通孔461、高圧室492を経て連通孔465から吐出ポート44,52に供給される。吐出領域のポンプ室rで圧縮された作動液と、吐出領域のベーン基端部71の背圧室brで圧縮された作動油は、吐出孔442を経て高圧室493に供給される。高圧室493の作動油は、制御弁30を通って第1制御室R1、第2制御室R2に、また吐出通路65を通ってCVT100に供給される。ここで第1制御室R1への供給通路と第2制御室R2への供給通路との間にはメータリングオリフィスが設けられている。つまり、第1制御室R1と第2制御室R2とに供給される作動油の圧力は差圧を持つこととなり、この差圧の大きさによってカムリング8の揺動量が決められる。
制御弁30ではリーク油が発生する。通常このリーク油はリザーバへ還流されるが、実施例1ではリークもどし孔63により吸入側背圧ポート45,53に供給される。これにより、吸入側背圧ポート45,53の作動油の圧力は吸入圧Piよりも高くすることが可能となる。ここで、制御弁30には吐出圧Pdが供給されているが、制御弁30が大きなオリフィスの役割を果たすためリーク油の圧力はそれほど高くなく、またリーク量も吸入側背圧ポート45,53内の作動油の量に比べると少ない。そのため、吸入側背圧ポート45,53の作動油の圧力は吸入圧Piよりも高いが、大気圧よりも低い程度にしかならない。
【0038】
〈吐出側背圧ポートの圧力増大作用〉
仮に、吐出ポート44,52内の圧力と吐出側背圧ポート46,54内の圧力とが等しかったとする。この場合、ベーン先端部70とベーン基端部71には等しい力が作用することとなる。そのため、ベーン7がロータ6の回転による遠心力だけでスリット61から突き出なければならない。内燃機関の始動時やアイドル状態等のポンプ低回転域では、遠心力が小さく、吐出領域内のベーン7の突き出しが不十分となり、ベーン先端部70がカムリング内周面80から離間した状態になるおそれがある。
実施例1のベーンポンプ1では、前述のように吐出領域にあるベーン7は、ロータ6の回転にしたがってスリット61に押し込まれ、ベーン基端部71の背圧室brの体積はロータ6の回転にしたがって縮小していく。そのため、吐出側背圧ポート46,54内には吐出圧Pdよりも更に高い圧力が作用することとなる。
また連通孔461を吐出側背圧円弧溝460の回転負方向寄りに配置し、直径を吐出側背圧円弧溝460のロータ径方向幅と略等しく形成している。そのためオリフィス効果により、吐出側背圧ポート46,54で吐出圧Pdよりも高圧となった作動油が排出され難くなっている。
この構成により、ベーン基端部71に作用する力に対しベーン先端部70に作用する力が大きくなり、ベーン7をカムリング内周面80に当接させることができる。
【0039】
〈吸入側背圧ポートの圧力増大作用〉
仮に、吸入ポート43,51内の圧力と吸入側背圧ポート45,53内の圧力とが等しかったとする。この場合、ベーン先端部70とベーン基端部71には等しい力が作用することとなる。
また前述のように吸入領域にあるベーン7は、ロータ6の回転にしたがって突き出していくため、ベーン基端部71の背圧室brの体積はロータ6の回転にしたがって拡大していく。そのため、吸入側背圧ポート45,53内の圧力は吸入ポート43,51内の圧力よりも小さくなるおそれがある。
そのため、ベーン7はロータ6の回転による遠心力だけでスリット61から突き出なければならない。
内燃機関の始動時やアイドル状態等のポンプ低回転域では、遠心力が小さく、吐出領域内のベーン7の突き出しが不十分となり、ベーン先端部70がカムリング内周面80から離間した状態になるおそれがある。
ベーン7の背圧室brが吐出側背圧ポート46,54の回転負方向端部にかかると、ベーン先端部70には低圧の吸入圧Piが作用し、ベーン基端部71には高圧の吐出圧Pdが作用する。このときベーン先端部70がカムリング内周面80と離間していると、ベーン7が急に突き出て、カムリング内周面80に衝突して騒音が発生することとなる。また高圧のポンプ室rから低圧のポンプ室rへと作動油が漏出する現象(作動油の吹き抜け)が発生する。
実施例1のベーンポンプ1では、前述のようにリークもどし孔63により吸入側背圧ポート45,53に制御弁30のリーク油を供給するようにした。
この構成により、吸入側背圧ポート45,53の作動油の圧力を吸入圧Piよりも高くすることが可能となり、ベーン基端部71に作用する力をベーン先端部70に作用する力よりも大きくすることができる。よって、ベーン7をカムリング内周面80に常時当接させることが可能となり、ベーン7がカムリング内周面80に衝突することを低減することができ騒音の発生を抑制することができる。
ここでベーン7を確実に突出させるためには、吸入側背圧ポート45,53の作動油の圧力は大気圧よりも高くても構わない。しかしながら実施例1のベーンポンプ1は、低トルク式ポンプである。低トルク式ポンプは、前述のようにベーン7のベーン先端部70とベーン基端部71には略同一の圧力が作用することにより、ベーン先端部70がカムリング内周面80に不必要に強く押し付けられることが抑制され、ベーン7がカムリング内周面80と摺接する際の摩擦による損失トルクが低く抑えている。
実施例1のベーンポンプ1では、大気圧より低い領域において吸入側背圧ポート45,53内の作動液の圧力を吸入ポート43,51内の作動液の圧力よりも高くなるようすることで、損失トルクを抑制して低トルク式ポンプを実現している。
【0040】
[効果]
以下、実施例1から把握されるベーンポンプ1の効果を列挙する。
(1)駆動軸5により回転駆動されるロータ6と、ロータ6の外周に形成された複数のスリット61のそれぞれに突没可能に収容されたベーン7と、ロータ6を囲んで配置されるカムリング8と、カムリング8およびロータ6の軸方向側面に配置され、カムリング8、ロータ6およびベーン7とともに複数のポンプ室rを形成するプレート41と、貫通孔400を有し、貫通孔400の底部402にプレート41を収容するとともに、貫通孔400内にカムリング8、ロータ6およびベーン7を収容するリアボディ40と、リアボディ40の貫通孔400を閉塞するとともに、カムリング8、ロータ6およびベーン7とともに複数のポンプ室rを形成するフロントボディ42と、プレート41およびフロントボディ42の側面であって、ロータ6およびベーン7と対向する対向側面に形成され、ロータ6の回転に応じて複数のポンプ室rの容積が拡大する吸入領域に開口する吸入ポート43,51と、対向側面に形成され、吸入側の圧力が導入されるとともに、吸入領域に位置する複数のベーン7を収容するスリット61の基端部に連通する吸入側背圧ポート45,53と、を備えたベーンポンプ1において、吸入側背圧ポート45,53の作動油の圧力を、大気圧よりも低く、吸入ポート43,51の作動油の圧力よりも高くなるようにした。
よって、吸入側背圧ポート45,53の作動油の圧力を吸入ポート43,51の作動油の圧力よりも高くすることが可能となり、ベーン基端部71に作用する力をベーン先端部70に作用する力よりも大きくすることができる。よって、ベーン7をカムリング内周面80に当接させることが可能となり、ベーン7がカムリング内周面80に衝突することを低減することができ騒音の発生を抑制することができる。更に作動油の吹き抜けを低減できる。また、損失トルクを抑制して低トルク式ポンプを実現することができる。
【0041】
(2)対向側面に形成され、ロータ6の回転に応じて複数のポンプ室rの容積が縮小する吐出領域に開口する吐出ポート44,52と、吐出ポート44,52から排出される作動油によってカムリング8の揺動量を制御する制御弁30と、を設け、吸入側背圧ポート45,53に制御弁30からリークした作動油を供給するようにした。
よって、吸入圧よりも高い制御弁30からのリーク油を吸入側背圧ポート45,53に供給することで、吸入側背圧ポート45,53の作動油の圧力を吸入ポート43,51の作動油の圧力よりも高くすることが可能となる。よって、ベーン基端部71に作用する力をベーン先端部70に作用する力よりも大きくすることができ、ベーン7をカムリング内周面80に当接させることが可能となり、ベーン7がカムリング内周面80に衝突することを抑制することができ騒音の発生を抑制することができる。
【0042】
〔他の実施例〕
以上、本願発明を実施例1に基づいて説明してきたが、各発明の具体的な構成は各実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
実施例1ではリークもどし孔63により吸入側背圧ポート45,53に制御弁30のリーク油を供給することにより、吸入側背圧ポート45,53の作動油の圧力を、大気圧よりも低く、吸入ポート43,51の作動油の圧力よりも高くなるようにしている。この圧力差を、吸入ポート43の吸入孔431と連通孔432の開口面積と、吸入側背圧ポート45の連通孔451の開口面積によって生じさせるようにしても良い。具体的には、吸入ポート43の吸入孔431と連通孔432の開口面積の和をS1、吸入ポート43の吸入孔431と連通孔432の流量の和をQ1とし、吸入側背圧ポート45の連通孔451の開口面積をS2、吸入側背圧ポート45の連通孔451の流量の和をQ2としたとき(図3参照)、下記の式を満たすようにする。
(Q1/S1)>(Q2/S2)
すなわち、吸入ポート43へ作動油が流れ込む開口面積S1に対する吸入ポート43に流れ込む作動油の流量Q1の割合が、吸入側背圧ポート45へ作動油が流れ込む開口面積S2に対する吸入背圧ポート45に流れ込む作動油の流量Q2の割合よりも大きくなるように形成している。
この構成により、ベーン基端部71に作用する力をベーン先端部70に作用する力よりも大きくすることができ、ベーン7をカムリング内周面80に当接させることが可能となり、ベーン7がカムリング内周面80に衝突することを抑制することができ騒音の発生を抑制することができる。
実施例1のベーンポンプ1では制御弁30のリーク油を吸入側背圧ポート45,53に供給するようにしていたが、この構成に代えてリザーバから吸入ポート43,51に作動油を供給する通路状にオリフィスを設けるようにしても良い。これにより、吸入側背圧ポート45,53の作動油の圧力は、吸入ポート43,51の作動油の圧力よりも高くすることが可能となる。具体的には、吸入孔431や連通孔432の径を小さくするようにする。
また実施例1では、プレート41とフロントボディ42の両方に吸入ポート43,51、吐出ポート44,52、吸入側背圧ポート45,53、吐出側背圧ポート46,54を形成しているが、一方側にのみ設けるようにしても良い。
【符号の説明】
【0043】
1 ベーンポンプ
6 ロータ
7 ベーン
8 カムリング
30 制御弁
40 リアボディ
41 プレート
42 フロントボディ
43 吐出ポート
44 吸入側背圧ポート
45 吐出側背圧ポート
51 吸入ポート
52 吐出ポート
53 吸入側背圧ポート
54 吐出側背圧ポート
61 スリット
400 貫通孔
402 底部
r ポンプ室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸により回転駆動されるロータと、
前記ロータの外周に形成された複数のスリットのそれぞれに突没可能に収容されたベーンと、
前記ロータを取り囲んで揺動自在に配置されたカムリングと、
前記カムリングおよび前記ロータの軸方向側面に配置され、前記カムリング、前記ロータおよび前記ベーンとともに複数のポンプ室を形成するプレートと、
開口部を有し、前記開口部の底部に前記プレートを収容するとともに、前記開口部内に前記カムリング、前記ロータおよび前記ベーンを収容するリアボディと、
前記リアボディの前記開口部を閉塞するとともに、前記カムリング、前記ロータおよび前記ベーンとともに複数のポンプ室を形成するフロントボディと、
前記プレートおよび/または前記フロントボディの側面であって、前記ロータおよび前記ベーンと対向する対向側面に形成され、前記ロータの回転に応じて前記複数のポンプ室の容積が拡大する吸入領域に開口する吸入ポートと、
前記対向側面に形成され、吸入側の圧力が導入されるとともに、前記吸入領域に位置する前記複数のベーンを収容する前記スリットの基端部に連通する吸入側背圧ポートと、
を備えたベーンポンプにおいて、
前記吸入側背圧ポートの作動油の圧力を、大気圧よりも低く、前記吸入ポートの作動油の圧力よりも高くなるようにしたことを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載のベーンポンプにおいて、
前記対向側面に形成され、前記ロータの回転に応じて前記複数のポンプ室の容積が縮小する吐出領域に開口する吐出ポートと、
前記吐出ポートから排出される前記作動油によって前記カムリングの揺動量を制御する制御弁と、
を設け、
前記吸入側背圧ポートに前記制御弁からリークした前記作動油を供給することを特徴とするベーンポンプ。
【請求項3】
駆動軸により回転駆動されるロータと、
前記ロータの外周に形成された複数のスリットのそれぞれに突没可能に収容されたベーンと、
前記ロータを取り囲んで揺動自在に配置されたカムリングと、
前記カムリングおよび前記ロータの軸方向側面に配置され、前記カムリング、前記ロータおよび前記ベーンとともに複数のポンプ室を形成するプレートと、
開口部を有し、前記開口部の底部に前記プレートを収容するとともに、前記開口部内に前記カムリング、前記ロータおよび前記ベーンを収容するリアボディと、
前記リアボディの前記開口部を閉塞するとともに、前記カムリング、前記ロータおよび前記ベーンとともに複数のポンプ室を形成するフロントボディと、
前記プレートおよび/または前記フロントボディの側面であって、前記ロータおよび前記ベーンと対向する対向側面に形成され、前記ロータの回転に応じて前記複数のポンプ室の容積が拡大する吸入領域に開口する吸入ポートと、
前記プレートに形成され、前記吸入ポート内へ開口する連通孔の第1の開口面積と、
前記対向側面に形成され、吸入側の圧力が導入されるとともに、前記吸入領域に位置する前記複数のベーンを収容する前記スリットの基端部に連通する吸入側背圧ポートと、
前記プレートに形成され、前記吸入側背圧ポートへ開口する連通孔の第2の開口面積と、
を備えたベーンポンプにおいて、
前記吸入ポートへ作動油が流れ込む前記第1の開口面積に対する前記吸入ポートに流れ込む作動油の流量の割合が、前記吸入側背圧ポートへ作動油が流れ込む前記第2の開口面積に対する前記吸入背圧ポートに流れ込む作動油の流量の割合よりも大きくなるようにしたことを特徴とするベーンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−196358(P2011−196358A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67324(P2010−67324)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】