説明

ベーンポンプ

【解決手段】 給油パイプ12からの潤滑油は、給油通路11の軸方向給油孔11a、直径方向給油孔11b、軸方向給油溝11cを介してポンプ室2Aに供給される。気体通路13は、直径方向気体孔13aと軸方向気体溝13bとを備え、直径方向気体孔13aは、直径方向給油孔11bが軸方向給油溝11cに連通された際に、軸方向気体溝13bに連通される。気体通路の流路面積をS、給油通路の流路面積をS、給油パイプの流路面積をS、直径方向給油孔の直径をd、ロータの回転方向における軸方向給油溝の幅をLとしたときに、給油通路の流路面積SをS<S≦3×Sの範囲に、給油パイプの流路面積SをS<S≦3×Sの範囲に、さらに給油溝幅Lをd<L<4×dの範囲に設定してある。
【効果】 気体通路13から空気がポンプ室内に吸い込まれてエンジンの駆動トルクが増大するのを可及的に防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベーンポンプに関し、より詳しくは、ロータ内部に潤滑油の流通する給油通路が形成され、ロータの回転によって間欠的に潤滑油をポンプ室内に供給するベーンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、略円形のポンプ室を備えたハウジングと、ポンプ室の中心に対して偏心した位置で回転するロータと、ロータによって回転し、ポンプ室を常に複数の空間に区画するベーンと、上記ロータの回転により間欠的にポンプ室と連通する給油通路と、この給油通路に接続され、油圧ポンプからの潤滑油を給油通路に供給する給油パイプと、上記ロータの回転により上記給油通路がポンプ室と連通したときに、該ポンプ室と外部空間とを連通させる気体通路とを備え、
上記給油通路は、上記ロータの軸部にその直径方向に設けられた直径方向給油孔と、上記ハウジングに設けられてポンプ室に連通するとともに、ロータの回転により上記直径方向給油孔の開口が間欠的に重合連通される軸方向給油溝とを備え、また上記気体通路は、上記ロータの軸部にその直径方向に設けられて上記給油通路に連通する直径方向気体孔と、上記ハウジングに設けられて外部空間に連通するとともに、ロータの回転により上記直径方向気体孔の開口が間欠的に重合連通される軸方向気体溝とを備え、上記直径方向気体孔は、直径方向給油孔が軸方向給油溝に連通された際に、軸方向気体溝に連通されるようになっているベーンポンプが知られている。(特許文献1)
【0003】
上記ベーンポンプにおいては、給油通路の直径方向給油孔が軸方向給油溝に連通された状態でロータが停止した際には、ポンプ室内部の負圧により給油通路内部の潤滑油がポンプ室内に引き込まれるようになる。そして仮に、多量の潤滑油がポンプ室内に引き込まれると、次にベーンポンプを始動する際に、その潤滑油を排出するためにベーンに過大な荷重が加わり、ベーンが破損するおそれがある。
しかるに上記構成を有するベーンポンプにおいては、給油通路の直径方向給油孔が軸方向給油溝に連通された状態でロータが停止した際には、これと同時に気体通路の直径方向気体孔が軸方向気体溝に連通されるようになっているので、気体通路から外部空間の空気をポンプ室内に流入させることができる。したがって、それによってポンプ室内の負圧を解消することができるので、ポンプ室内に大量の潤滑油が入り込むのを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−226164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記ベーンポンプにおいては、エンジンのアイドリング時のように油圧ポンプから給油通路に供給される潤滑油の油圧が低い時に、気体通路から外部空間の空気がポンプ室内に吸い込まれてしまい、エンジンの駆動トルクを増大させてしまうことが判明した。
本発明はそのような事情に鑑み、油圧ポンプから給油通路に供給される潤滑油の油圧が低くても、気体通路から空気がポンプ室内に吸い込まれることを可及的に防止し、それによってエンジンの駆動トルクが増大するのを防止できるようにしたベーンポンプを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、略円形のポンプ室を備えたハウジングと、ポンプ室の中心に対して偏心した位置で回転するロータと、ロータによって回転し、ポンプ室を常に複数の空間に区画するベーンと、上記ロータの回転により間欠的にポンプ室と連通する給油通路と、この給油通路に接続され、油圧ポンプからの潤滑油を給油通路に供給する給油パイプと、上記ロータの回転により上記給油通路がポンプ室と連通したときに、該ポンプ室と外部空間とを連通させる気体通路とを備え、
上記給油通路は、上記ロータの軸部にその直径方向に設けられた直径方向給油孔と、上記ハウジングに設けられてポンプ室に連通するとともに、ロータの回転により上記直径方向給油孔の開口が間欠的に重合連通される軸方向給油溝とを備え、また上記気体通路は、上記ロータの軸部にその直径方向に設けられて上記給油通路に連通する直径方向気体孔と、上記ハウジングに設けられて外部空間に連通するとともに、ロータの回転により上記直径方向気体孔の開口が間欠的に重合連通される軸方向気体溝とを備え、上記直径方向気体孔は、直径方向給油孔が軸方向給油溝に連通された際に、軸方向気体溝に連通されるようになっているベーンポンプにおいて、
上記気体通路の流路面積をS、給油通路の流路面積をS、給油パイプの流路面積をS、直径方向給油孔の直径をd、ロータの回転方向における軸方向給油溝の幅をLとしたときに、
給油通路の流路面積Sを、S<S≦3×Sの範囲に設定するとともに、
給油パイプの流路面積Sを、S<S≦3×Sの範囲に設定し、
さらに軸方向給油溝幅Lを、d<L<4×dの範囲に設定したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
一般に、上記気体通路の流路面積Sは、油圧ポンプから給油通路に供給される潤滑油の油圧が高い時に、その潤滑油が気体通路を介して外部空間に、すなわちエンジンの内部空間に漏洩するのを低減するために、できるだけ小さな流路面積Sとなるように設定されている。
他方、従来は、上記給油通路の流路面積S、給油パイプの流路面積S、直径方向給油孔の直径d、ロータの回転方向における給油溝の幅Lについては、所要の潤滑油がポンプ室に供給されればよいとの観点から、こられの大小関係には格別の注意は払われていなかった。
【0008】
しかるに本発明においては、油圧ポンプから給油通路に供給される潤滑油の油圧が低い時に、気体通路から外部空間の空気がポンプ室内に吸い込まれることを可及的に防止するために、給油通路の流路面積Sを、S<S≦3×Sの範囲に設定している。すなわち給油通路の流路面積Sを、気体通路のできるだけ小さな流路面積Sに対して3倍以内の小さな流路面積とすることにより、空気を吸い込みにくくしている。なお、上記特許文献1の図3に開示された給油通路の流路面積Sは、図面上の比較ではあるが、気体通路の流路面積Sに対して約16倍の大きさに設定されている。
他方、上記給油通路の流路面積Sは、気体通路の流路面積Sに対して、それよりは大きく設定して、ベーンポンプのアイドリングを超えた運転中に所要の潤滑油が確実にポンプ室に供給されるようにしている。
【0009】
次に、本発明においては、給油パイプの流路面積Sを、相対的に小さく設定した給油通路の流路面積Sに対して、S<S≦3×Sの範囲に設定している。これは、給油パイプの流路面積Sを給油通路の流路面積Sよりも大きくすることによって絞り効果を得るようにしたものであり、それによってアイドリング時の少ない潤滑油量でも給油通路における油圧をできるだけ高く保つことができるようにしてある。
【0010】
さらに本発明においては、軸方向給油溝幅Lを、d<L<4×dの範囲に設定してある。上記直径方向給油孔の開口は、ロータの回転により間欠的に軸方向給油溝を横切るようになり、その横切る際に重合されて連通されるようになっている。しかるに、軸方向給油溝幅Lをあまり大きくすると、連通されている時間すなわちオーバーラップ時間が長くなり、特にアイドリング時の給油通路の油圧が低い時に、ポンプ室の真空により空気が吸い込まれやすくなってしまう。
このような観点から、軸方向給油溝幅Lを上記範囲に設定して、空気が吸い込まるのを抑制している。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例を示すベーンポンプの正面図。
【図2】図1におけるII−IIでの断面図。
【図3】図2におけるIII−IIIでの断面図。
【図4】回転数と駆動トルクとの関係を試験した試験結果図。
【図5】ポンプ室2Aへの給油量と駆動トルクとの関係を試験した試験結果図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下図示実施例について本発明を説明すると、図1、図2は本発明にかかるベーンポンプ1を示し、このベーンポンプ1は図示しない自動車のエンジンの側面に固定され、図示しないブレーキ装置の倍力装置に負圧を発生させるようになっている。
このベーンポンプ1は略円形のポンプ室2Aの形成されたハウジング2と、ポンプ室2Aの中心に対して偏心した位置でエンジンの駆動力によって回転するロータ3と、上記ロータ3によって回転し、ポンプ室2Aを常に複数の空間に区画するベーン4と、上記ポンプ室2Aを閉鎖するカバー5とを備えている。
上記ハウジング2には、ポンプ室2Aの上方に上記ブレーキの倍力装置と連通して倍力装置からの気体を吸引するための吸気通路6と、ポンプ室2Aの下方に倍力装置から吸引された気体を排出するための排出通路7とがそれぞれ設けられている。そして、上記吸気通路6には特にエンジン停止の際、倍力装置の負圧を保持するために逆止弁8が設けられている。
【0013】
上記ロータ3はポンプ室2A内で回転する円筒状のロータ部3Aを備え、当該ロータ部3Aの外周はポンプ室2Aの内周面に接するように設けられ、当該ロータ部3Aの回転に対して上流側に上記吸気通路6が位置し、ロータ部3Aよりも下流側に排出通路7が形成されている。
またロータ部3Aには直径方向に溝9が形成されており、上記ベーン4を当該溝9内に沿ってロータ3の軸方向と直交する方向に摺動自在に移動させるようになっている。そしてロータ部3Aの中央に形成された中空部3aとベーン4との間には、後述する給油通路からの潤滑油が流入するようになっている。
さらに、上記ベーン4の両端にはキャップ4aが設けられており、このキャップ4aを常にポンプ室2Aの内周面に摺接させながら回転させることで、ポンプ室2Aを常時2または3つの空間に区画するようになっている。
具体的に言うと、図1の状態ではポンプ室2Aはベーン4によって図示左右方向に区画されており、さらに図示右方側の空間では、ポンプ室はロータ部3Aによって上下方向に区画され、合計で3つの空間に区画されている。
この図1の状態からロータ3の回転によってベーン4がポンプ室2Aの中心とロータ3の回転中心とを結ぶ位置の近傍まで回転すると、ポンプ室2Aは上記吸気通路6側の空間と、排出通路7側の空間との2つの空間に区画されることとなる。
【0014】
図2は上記図1におけるII−II部についての断面図を示しており、この図においてハウジング2におけるポンプ室2Aの図示右方側には、上記ロータ3を構成する軸部3Bを軸支するための軸受部2Bが形成されており、上記軸部3Bは上記ロータ部3Aと一体に回転するようになっている。
そして上記ポンプ室2Aの左端には上記カバー5が設けられており、上記ロータ部3Aおよびベーン4の図示左方側の端面はこのカバー5に摺接しながら回転するようになっており、また上記ベーン4の右方側の端面はポンプ室2Aの軸受部2B側の内面に摺接しながら回転するようになっている。
また上記ロータ3に形成された溝9の底面9aは、ポンプ室2Aとベーン4の摺接する面よりも若干軸部3B側に形成されており、ベーン4と当該底面9aとの間に間隙が形成されている。
さらに、上記軸部3Bはハウジング2の軸受部2Bより図示右方側に突出しており、この突出した位置にはエンジンのカムシャフトによって回転するカップリング10が連結され、上記ロータ3は上記カムシャフトの回転によって回転するようになっている。
【0015】
そして軸部3Bにはその内部に潤滑油を流通させる給油通路11を形成してあり、この給油通路11は給油パイプ12を介して図示しないエンジンによって駆動される油圧ポンプに接続されている。
上記給油通路11は、軸部3Bの軸方向に形成した軸方向給油孔11aと、この軸方向給油孔11aに連通して軸部3Bの直径方向に穿設した直径方向給油孔11bとを備えている。
また上記ハウジング2の軸受部2Bには、上記軸部3Bとの摺動部に上記ポンプ室2Aと上記直径方向給油孔11bとを連通させるように形成された給油通路11を構成する軸方向給油溝11cが形成されており、本実施例では当該軸方向給油溝11cを上記軸受部2Bの図2で示す上方に形成している。
この構成により、図2に示すように直径方向給油孔11bの開口部が軸方向給油溝11cに重合して連通すると、軸方向給油孔11aからの潤滑油が直径方向給油孔11bおよび軸方向給油溝11cを介してポンプ室2A内へと流入し、上記ベーン4と溝9の底面との間隙から、ロータ3の中空部3a内に流入するようになっている。
【0016】
そして本実施例のベーンポンプ1は、ロータ3の回転により上記給油通路11がポンプ室2Aと連通したときに、より具体的には直径方向給油孔11bの開口部が軸方向給油溝11cに重合した際に、上記ポンプ室2Aを外部空間に連通させる気体通路13を備えている。
上記気体通路13は、上記給油通路11を構成する軸方向給油孔11aを貫通させて軸部3Bに穿設した直径方向気体孔13aを備えており、この直径方向気体孔13aは、上記給油通路11の直径方向給油孔11bと90度位置をずらして形成してある。
さらに図2のIII−III部における断面図を図3に示すと、上記ハウジング2の軸受部2Bには、軸部3Bとの摺動部に直径方向気体孔13aを外部空間に連通させる軸方向気体溝13bが形成されている。
この軸方向気体溝13bの位置は上記軸方向給油溝11cに対し、軸受部2Bに沿って90°回転した位置に形成されており、このため上記給油通路11の直径方向給油孔11bが軸方向給油溝11cと連通するのと同時に、直径方向気体孔13aが軸方向気体溝13bと連通するようになっている。
【0017】
以上の構成を有するベーンポンプ1について、以下にその動作を説明すると、従来のベーンポンプ1と同様、エンジンの作動によってロータ3が回転すると、それに伴ってロータ3の溝9内を往復動しながらベーン4も回転し、当該ベーン4によって区画されたポンプ室2Aの空間はロータ3の回転に応じてその容積を変化させる。
その結果、上記吸気通路6側のベーン4によって区画された空間では、容積が増大してポンプ室2A内に負圧が生じ、吸気通路6を介して倍力装置から気体が吸引されて倍力装置に負圧が生じる。そして吸引された気体はその後排出通路7側の空間の容積が減少することで圧縮され、排出通路7より排出されるようになっている。
一方、ベーンポンプ1の始動とともに潤滑油がエンジンによって駆動される油圧ポンプから給油パイプ12を介して給油通路11に供給されており、この潤滑油はロータ3の回転によって直径方向給油孔11bとハウジング2の軸方向給油溝11cとが連通したときに、ポンプ室2A内に流入するようになっている。
ポンプ室2Aに流入した潤滑油は、上記ロータ部3Aに形成された溝9部の底面9aとベーン4との間隙からロータ部3Aの中空部3aへと流入し、この潤滑油はベーン4と溝9との間隙や、ベーン4とカバー5との間隙からポンプ室2A内に噴出してこれらの潤滑とポンプ室2Aのシールを行っており、その後潤滑油は上記気体とともに排出通路7から排出されるようになっている。
【0018】
上記運転状態からエンジンを停止させると、それに応じてロータ3が停止し、倍力装置からの吸気が終了する。
ここで、ロータ3の停止によってベーン4によって区画された上記吸気通路6側の空間は負圧状態のまま停止することとなるが、このとき上記直径方向給油孔11bの開口部と軸方向給油溝11cとが一致していなければ、軸方向給油孔11a内の潤滑油がポンプ室2A内に流入してしまうことはない。
これに対し、直径方向給油孔11bの開口部と軸方向給油溝11cとが一致した状態でロータ3が停止すると、ポンプ室2Aは負圧となっているため、給油通路11内の潤滑油がポンプ室2A内に大量に流入しようとする。
しかしながら、上記直径方向給油孔11bの開口部と軸方向給油溝11cとが一致した際には、これと同時に上記直径方向気体孔13aと軸方向気体溝13bとが一致するようになっているので、この直径方向気体孔13aから大気が流入されてポンプ室2A内の負圧を解消するようになり、それによって大量の潤滑油がポンプ室2A内に流入するのを防止することができる。
【0019】
しかして、上記構成を有するベーンポンプ1においては、上記気体通路13の流路面積をS、給油通路11の流路面積をS、給油パイプ12の流路面積をS、直径方向給油孔11bの直径をd、ロータ3の回転方向における軸方向給油溝の幅をLとしたときに、給油通路の流路面積Sを、S<S≦3×Sの範囲に設定するとともに、給油パイプの流路面積Sを、S<S≦3×Sの範囲に設定し、さらに軸方向給油溝幅Lを、d<L<4×dの範囲に設定して、油圧ポンプから給油通路11に供給される潤滑油の油圧が低い時に、気体通路13から外部空間の空気がポンプ室2A内に吸い込まれることを可及的に防止するようにしている。
【0020】
上記気体通路13の流路面積Sは、油圧ポンプから給油通路11に供給される潤滑油の油圧が高い時に、その潤滑油が気体通路13を介して外部空間に漏洩するのを低減するために、できるだけ小さな流路面積Sとなるように設定してある。
本実施例の場合、気体通路13を構成する直径方向気体孔13aの流路面積を上記流路面積Sとして設定してあり、気体通路13を構成する他の軸方向気体溝13bの流路面積は、直径方向気体孔13aの流路面積Sよりも大きく設定してある。
この直径方向気体孔13aとしてはなるべく小さな孔が好ましいが、加工技術やコストとの兼ね合いにより、例えば直径1.5mmの孔を採用することが好ましく、この場合、直径方向気体孔13aの流路面積Sは1.77mmとなる。
【0021】
次に、本実施例においては、給油通路11を構成する直径方向給油孔11bの流路面積を上記流路面積Sとして設定してあり、給油通路11を構成する他の軸方向給油孔11a及び軸方向給油溝11cの流路面積は、いずれも直径方向給油孔11bの流路面積Sよりも大きく設定してある。
上記直径方向給油孔11bとしては、例えば直径d=2mm〜2.5mmの孔を採用することが好ましく、この場合、直径方向給油孔11bの流路面積Sは3.14〜4.91mmとなる。すなわちこの場合、直径方向給油孔11bと直径方向気体孔13aとの流路面積比は、S=1.8×S〜2.8×Sとなる。
このように、給油通路11の流路面積Sを、気体通路13の小さな流路面積Sに対して3倍以内となる小さな流路面積とすることにより、空気を吸い込みにくくすることができる。一方、給油通路11の流路面積Sを、気体通路13の流路面積Sよりは大きく設定することにより、所要の潤滑油が確実にポンプ室2Aに供給されるようにしてある。
【0022】
次に、本実施例においては、給油パイプ12の流路面積Sを、上述した給油通路11の流路面積Sよりも大きく設定してある。
上記給油パイプ12の孔の直径としては、例えば3.5mmの孔を採用することが好ましく、この場合、給油パイプ12の流路面積Sは9.62mmとなる。すなわち本実施例では、給油パイプ12と供給通路11との流路面積比は、S=2.0×S〜3×Sの範囲となる。
このように、給油パイプ12の流路面積Sを給油通路11の流路面積Sよりも大きくすれば、給油通路11による絞り効果を期待することができ、それによってアイドリング時の少ない潤滑油量でも給油通路11における油圧をできるだけ高く保つことができるようになる。
【0023】
さらに本実施例においては、上記給油通路11における軸方向給油溝11cの幅Lを、d<L<4×dの範囲に設定してある。本実施例の場合、上記直径方向給油孔11bの直径をd=2mm〜2.5mmの範囲に設定しているので、軸方向給油溝11cの幅Lは、2mmより大きく、10mm未満の範囲となる。
上記軸方向給油溝幅Lをあまり大きくすると、直径方向給油孔11bと軸方向給油溝11cとのオーバーラップ時間が長くなり、特にアイドリング時の給油通路の油圧が低い時に、ポンプ室の真空により空気が吸い込まれやすくなるので、軸方向給油溝幅Lを上記範囲に設定して、空気が吸い込まるのを抑制している。
【0024】
図4、図5はそれぞれ試験結果を示した図である。図4は回転数と駆動トルクとの関係を試験した試験結果図で、従来例の駆動トルクの大きさを基準として本発明例のものの駆動トルクがどの程度増減したかをトルク低減率(%)で示してある。
また図5はポンプ室2Aへの給油量と駆動トルクとの関係を試験した試験結果図で、図4の場合と同様に、従来例の試験結果を基準として本発明例のものの駆動トルクがどの程度増減したかをトルク低減率(%)で示してある。
上記図4の試験においては、各回転数で給油量が0.3〜0.4L/分となるように潤滑油の供給圧力を調整し、また図5の試験においてはポンプ回転数を略一定に保ちながら(約300rpm)、図5に示す供給量が得られるように潤滑油の供給圧力を調整している。
【0025】
図4、図5における◇印と□印は本発明例を示しており、◇印のものは直径方向給油孔11bの直径dを2mm(流路面積S=3.14mm)とし、□印のものは2.5mm(流路面積S=4.91mm)としてある。また従来例の直径方向給油孔の直径は、3mm(流路面積S=7.07mm)としてある。
さらに各図において(従来例を含めて)、上記直径方向気体孔13aの直径を1.5mmとしてあり、したがって気体通路13の流路面積Sは1.77mmに設定してある。また給油パイプ12の流路面積Sは3.5mmの孔を採用してあり、したがって給油パイプ12の流路面積Sは9.62mmとし、さらに上記給油通路11における軸方向給油溝11cの幅Lは、7.5mmとしてある。
【0026】
図4に示す試験結果から理解されるように、本発明例(◇、□)のように直径方向気体孔13aの直径を小さくして給油通路11の流路面積Sを小さくすると、給油通路11の流路面積Sが大きい従来例に比較して、特に500rpm程度の低回転領域において、大きなトルク低減率を期待することができる。
これは、給油通路11の流路面積Sが大きい従来例では、ポンプ回転数が500回転以下となるに従ってポンプ室2Aに吸い込まれる空気量が増大し、ベーン4の回転に伴って吸い込んだ空気を再びポンプ室2Aの外部に排出するために、ポンプ室2Aに吸い込まれる空気量の増大に伴って駆動トルクが大きくなるのに対し、本発明例によれば、ポンプ室2Aに吸い込まれる空気量を低減できることを示している。
また図5に示す試験結果からは、本発明例(◇、□)によれば、特に給油量が小さな0.2〜0.4L/分の領域において、従来例に比較して大きなトルク低減率を期待できることが理解される。
【0027】
なお、上記各実施例では1枚のベーン4を備えたベーンポンプ1を用いて説明を行っていたが、従来知られるような複数枚のベーン4を備えたベーンポンプ1であっても適用可能であり、またその用途も倍力装置に負圧を発生させるためだけに限られないのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0028】
1 ベーンポンプ 2 ハウジング
2A ポンプ室 2B 軸受部
3 ロータ 3A ロータ部
3B 軸部 4 ベーン
11 給油通路 11a 軸方向給油孔
11b 直径方向給油孔 11c 軸方向給油溝
12 給油パイプ 13 気体通路
13a 直径方向気体孔 13b 軸方向気体溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円形のポンプ室を備えたハウジングと、ポンプ室の中心に対して偏心した位置で回転するロータと、ロータによって回転し、ポンプ室を常に複数の空間に区画するベーンと、上記ロータの回転により間欠的にポンプ室と連通する給油通路と、この給油通路に接続され、油圧ポンプからの潤滑油を給油通路に供給する給油パイプと、上記ロータの回転により上記給油通路がポンプ室と連通したときに、該ポンプ室と外部空間とを連通させる気体通路とを備え、
上記給油通路は、上記ロータの軸部にその直径方向に設けられた直径方向給油孔と、上記ハウジングに設けられてポンプ室に連通するとともに、ロータの回転により上記直径方向給油孔の開口が間欠的に重合連通される軸方向給油溝とを備え、また上記気体通路は、上記ロータの軸部にその直径方向に設けられて上記給油通路に連通する直径方向気体孔と、上記ハウジングに設けられて外部空間に連通するとともに、ロータの回転により上記直径方向気体孔の開口が間欠的に重合連通される軸方向気体溝とを備え、上記直径方向気体孔は、直径方向給油孔が軸方向給油溝に連通された際に、軸方向気体溝に連通されるようになっているベーンポンプにおいて、
上記気体通路の流路面積をS、給油通路の流路面積をS、給油パイプの流路面積をS、直径方向給油孔の直径をd、ロータの回転方向における軸方向給油溝の幅をLとしたときに、
給油通路の流路面積Sを、S<S≦3×Sの範囲に設定するとともに、
給油パイプの流路面積Sを、S<S≦3×Sの範囲に設定し、
さらに軸方向給油溝幅Lを、d<L<4×dの範囲に設定したことを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
上記給油通路は、上記ロータ内部にその軸方向に設けられて上記給油パイプに連通する軸方向給油孔を備えており、上記直径方向給油孔は、この軸方向給油孔に連通していることを特徴とする請求項1に記載のベーンポンプ。
【請求項3】
上記直径方向気体孔は、上記軸方向給油孔に連通していることを特徴とする請求項2に記載のベーンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−231676(P2011−231676A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102249(P2010−102249)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000207791)大豊工業株式会社 (152)
【Fターム(参考)】