説明

ペプチドの高発現に適した融合タンパク質システム

本発明は、細菌細胞内で所望の組換えペプチドを高レベルで発現させるための新規融合パートナーとしてG-CSFを使用することにより、細菌細胞に所望の組換えペプチドを産生させる改良方法を開示する。本発明はさらに、G-CSFが対象のペプチドに、前記ペプチドと融合パートナーとの分離に使用できる酵素的または化学的切断部位を介して作動可能に連結している融合タンパク質を含む発現システムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えペプチドの産生分野に関する。より詳細には、本発明は、細菌細胞内で所望の組換えペプチドを高レベルで発現させるための新規融合パートナーとしてG-CSFを使用することにより、細菌細胞に所望の組換えペプチドを産生させる改良方法を開示する。本発明はさらに、G-CSFが対象のペプチドに、前記ペプチドと融合パートナーとの分離に使用できる酵素的または化学的切断部位を介して作動可能に連結している融合タンパク質を含む発現システムを提供する。
【背景技術】
【0002】
ペプチドは、アミノ酸のカルボキシル基およびアミノ基を介して、アミド結合によって結合しているアミノ酸のヘテロポリマーである。上記の定義はタンパク質にも同様に当てはまるので、ペプチドは多くの場合、その鎖長に基づいてタンパク質と区別され、通常、鎖長が2から数アミノ酸残基、さらには数十アミノ酸残基であるヘテロポリマーとされる。
【0003】
分子量および機能性が大きく異なるペプチドの数例をここに記載する[Geysen, H. M.ら、J. Immunol. Methods, 102:259〜274頁(1987); Milich, D. R. Semin. Immunol., 2(5):307〜315頁(1990); Cochran, A. G. Chemistry & Biology, 7:R85〜R94頁(2000)]。活性ペプチドであるインスリン(51残基、5773Da)は、より大きいが不活性なペプチドであるプロインスリン(86残基)のプロセシング後に形成され、体内のグルコース代謝において重大な役割を担い、その欠乏により1型糖尿病が導かれる。副甲状腺ホルモン(84残基)は、血中のカルシウム濃度およびリン濃度の最も重要な内分泌調節因子である。ずっと小さい種類の副甲状腺ホルモンであるテリパラチド(34残基)は骨粗鬆症の治療用としてEli Lillyにより販売されている。カルシトニン(32残基)も、カルシウム代謝において重大な役割を担い、副甲状腺ホルモンと反対の作用を有する。カルシトニンも骨粗鬆症の治療に用いられる。アンジオテンシンI、II、IIIおよびIVは、それぞれ10残基、8残基、7残基および6残基を有し、内分泌ホルモン、パラ分泌ホルモン、および細胞内分泌ホルモンとして多様な役割を有し、血管収縮を引き起こし、血圧を上昇させ、副腎皮質からのアルドステロンの放出を引き起こす。ノンカロリーの甘味料であるアスパルテーム(アスパラギン酸とエステル化フェニルアラニンのジペプチド)は、砂糖の代替品として用いられる。これらの例は、ペプチド間で機能性、鎖長、および有用性に広大な多様性があることを例証している。これらのペプチドは、重要な生物学的機能のメディエーター、例えば、ホルモン、酵素の基質または阻害剤、神経伝達物質、免疫調節剤および抗ウイルス剤としての役割を有することから、治療剤として特に魅力的になっている。今日、世界市場では40種を超える治療用ペプチドが入手可能であり、400種を超えるペプチドが、世界的に薬剤開発の前臨床段階の進行期である[Parmar, H. Therapeutic Peptides in Europe: Finding the Opportunities, Frost and Sullivan Market Insight、2004年11月26日]。したがって、ペプチドの治療用途には莫大な可能性がある。
【0004】
当初、治療的に重要なペプチドは生物組織から単離されていた。例えば、インスリンは、ウシの膵臓から産生され[Collip, J. J. Physiol., 66:416〜430頁(1928)]、カルシトニンは魚の鰓後腺から産生された[Parkes, CO.ら、Fed. Proc.,28:413頁(1969)]。これらのペプチドが組織由来であったために、単離方法が難しく煩わしいものになり、産物の純度が非理想的になり、感染伝播の危険性が伴い、また、商業的な適応性に広く影響して、最終的に治療薬としてのペプチドの商品化が制限されている。
【0005】
上記の商業生産の問題の解決法の1つとして、少なくとも、約5〜80残基の中小サイズのペプチドの生産に関しては、化学的な方法がある[Kimmerlin, T. and Seebach, D. J. Pept. Res., 65(2):229〜260頁(2005)]。しかし、この方法にも、ラセミ化の可能性、保護ペプチド断片の難溶性、ペプチド長の制限、および逐次的な副反応などの、費用効率の悪さを招く不都合が数多くある。この方法に付随する望ましくない副反応により、収率が低下し、難しく非常に長い精製手順が必要になる。したがって、化学合成は、今日最も成熟したペプチド合成技術であるが、ペプチド生産の総費用を増大させる問題を伴う。よって、明確に異なる他のペプチド生産方法を開発する必要性が存在する。
【0006】
原則として、上記の問題の多くは、微生物細胞において内因性遺伝子および外来遺伝子の発現を選択、増幅、および操作することを可能にする組換えDNA技術を採用することにより解決できる。この技術は、生物がそうするように自然に進化してきたように、ラセミ体でなく、完全に正しいアミノ酸配列が自然に産生されるので、化学的な技術よりもすぐれている。さらにこの技術は、より環境に配慮した製造方法および精製方法をも可能にする。しかし、この技術は、一般に、微生物宿主において高レベルのペプチド発現を得ることができないという事実により制限される。ペプチドは、その長さが短いために、E.coliのタンパク質分解機構により容易に分解される[Marston, F. A. Biochem. J., 240:1〜12頁(1986); Makrides, S. C. Microbiol. Rev., 60:512〜538頁(1996)]。真核生物の外来ペプチドの多くは、Escherichia coli内で異常なものと認識され、発現宿主内で速やかに分解される[Goldschmidt, R. Nature, 228:1151〜1154頁(1970); Lin, S. & Zabin, I. J. Biol. Chem., 247:2205〜2211頁(1972)]。E.coliにおけるヒトプロインスリンの半減期は、わずか2分であると報告されている[Talmadge, K. & Gilbert, W. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79:1830〜1833頁(1982)]。
【0007】
発現宿主内におけるペプチド分解の問題を克服するための一般的な戦略は、ペプチドを、融合パートナーとして働く他のより大きなペプチドまたはタンパク質と組み合わせて、融合タンパク質として発現させることである。発現後、予め融合産物中に設計した部位で、化学的切断またはタンパク質分解的切断により、ペプチドと融合パートナーとを互いに分離する。この点に関して、細胞内で、可溶型および不溶型の融合タンパク質を産生する融合パートナーとして多くのタンパク質が用いられてきた。Rayら、[Ray, M. V. L.ら、Bio/Technology, 11:64〜70頁(1993)]には、E.coliにおけるサケカルシトニンの可溶性細胞内発現を得るための融合パートナーとしてのグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)の使用が記載されており、このサケカルシトニンは臭化シアンによって融合タンパク質から切断された。Dykesら、[Dykes, C. W.ら、Eur. J. Biochem., 174:411〜416頁(1988)]には、E.Coliにおける、ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチドとクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼとからなる融合タンパク質の可溶性細胞内発現について記載されており、そこでは、この融合タンパク質をトロンビンもしくはエンテロキナーゼによってタンパク質分解的に切断するか、または2-(2-ニトロフェニルスルフェニル)-メチル-3'-ブロモインドレニンによって化学的に切断することにより、対象のペプチドを遊離させている。マルトース結合タンパク質およびチオレドキシンも可溶性融合パートナーとして使用されている[Baneyx, F. Curr. Opin. Biotechnol., 10:411〜421頁(1999)]。他の例としては、細胞膜周辺腔において可溶性タンパク質を発現させるためにPTH(1〜34)との融合パートナーとしてompAを使用することが記載されている米国特許第5223404号がある。
【0008】
多くの場合、可溶性融合産物は良好な発現をもたらし[Cipakova, I.ら、Protein Expr. Purif., 37:207〜212頁(2004); Forrer, P. & Jaussi, R. Gene, 224:45〜52頁(1998); Hoffman, F.ら、Enz. and Microb. Technol., 34:235〜241頁(2004); Baneyx, F. Curr. Opin. Biotechnol.,10:411〜421頁(1999)]、また融合タンパク質の正しい折りたたみ構造も保たれるが[Marco, V. D.ら、Biochem. Biophys. Res. Commun. 322:766〜771頁(2004); Zou, Z.ら、Journal of Biotechnology, 135:333〜339頁(2008)]、この技術は商業的には魅力がないままであった。それは、この産物が細胞質内に何百または何千の他の宿主タンパク質と一緒に存在し、したがって精製方法が非常に高価で非効率的になるためである。一方、ペリプラズムにおける可溶性発現は、この空間のサイズが小さいことにより制限される。したがって、可溶性発現ペプチドの市販例が、完全に存在しないとまではいかずとも希少であることは不思議ではない。これらの問題を回避するために、多くの場合、細胞内でのタンパク質の沈殿および凝集によって封入体を形成する不溶性融合産物としてペプチドを産生させる[Williams, D. C.ら、Science 215:687〜688頁(1982)]。封入体の形成により、タンパク質の商業生産に関していくつかの利点がもたらされる。封入体は、対象産物を細胞プロテアーゼの作用から保護することによって、発現したタンパク質の分解を防ぐだけでなく[Singh, S. M. and Panda, A. K.、J. Biosci. Bioengg. 99(4):303〜3 10頁(2005)]、確実に、相対的に非常に高い純度で産物を産生させる[Panda, A. K. Adv. Biochem. Engg./Biotechnol. 85:43〜93頁(2003)]。封入体の大きさおよび密度が細胞と比べて異なることにより、細胞からのこれらの封入体の単離が容易になる[Bowden, G. A.ら、Bio/Technol. 9:725〜730頁(1991)]。また、封入体内の対象タンパク質が均一であることが、純粋なタンパク質を回収するための精製ステップ数を減らす助けになる[Panda, A. K. Adv. Biochem. Engg./Biotechnol. 85:43〜93頁(2003)]。封入体タンパク質はまた、発現した組換えタンパク質のE.coli細胞に対する毒作用を最小限にする[Lee, J.ら、Biochem. Biophys. Res. Commun.,277:575〜580頁(2000); Lee, J.ら、Appl. Microbiol. Biotechnol.,58:790〜796頁(2002); Wei, Q.ら、Appl. Environ. Microbiol.,71(9):5038〜5043頁(2005); Rao, X. C.ら、Protein Expr. Purif.,36:11〜18頁(2004)]。概して、標的タンパク質を封入体の形で発現させることで、確実に標的タンパク質が経済的に産生される[Fahnert, B.ら、Adv. Biochem Engg./Biotechnol. 89:93〜142頁(2004); Walsh, G. Nat. Biotechnol. 21:865〜870頁(2003); Mukhopadhyay, A. Adv. Biochem. Engg./Biotechnol. 56:61〜109頁(1997)]。
【0009】
実際、主要バイオ企業の多くが、治療用ペプチドを封入体の形で発現させるために、融合タンパク質を使用している。欧州特許出願公開第0055945号において、Genentechは、プロインスリンを発現させるための融合パートナーとしてTrpEおよびB-ガラクトシダーゼ(lacZ)を使用し、それを後で臭化シアンを用いて切断することを報告している。欧州特許出願公開第0211299A号の記載によると、Hoechst AGは、プロインスリンとヒルジンの融合ペプチドを発現させるための融合パートナーとして、E.Coli Trp遺伝子のDペプチドを使用している。米国特許第5670340号において、Suntory Ltd、大阪、日本は、融合産物を封入体として発現させるために、ヒトカルシトニンに連結させたリーダーペプチドと一緒に、融合パートナーとしてベータガラクトシダーゼ断片を使用し、カルシトニンを発現後にV8プロテアーゼを用いて切断することを報告している。米国特許第6500647号において、Mogam Biotechnology Instituteは、ヒトPTHと、融合パートナーとしてロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)またはその変異遺伝子のホスホリブロキナーゼ遺伝子断片とを融合させ、融合産物にウロキナーゼ特異的切断部位も含めることにより、ヒトPTHを封入体として産生させることを例示している。[Wingender, E.ら、J. Biol. Chem. 264(8):4367〜4373頁(1989)]には、PTHの融合パートナーとしての、後で酸加水分解により切断されるさまざまな大きさのcro-ベータガラクトシダーゼの使用が記載されている。治療用ペプチドの産生のために融合パートナーを使用することに関連付けられる上記の成功にもかかわらず、文献上にはこの技術になお存在する多くの問題がある。下記のいくつかの例は、これらの問題を例示し、より良好な融合パートナーの発明の必要性について支持している。
【0010】
全ての融合パートナーが安定な封入体を形成するわけではない。Shen[Shen, S-H. PNAS、81:4627〜4631頁(1984)]は、β-ガラクトシダーゼの80アミノ酸長のアミノ末端断片を融合パートナーとして用いた、プロインスリンの細菌発現について記載している。この融合パートナーによると、融合産物の発現は、SDS-PAGEで検出されない非常に不安定なものになった。封入体の形態の安定した発現は、上記の融合パートナーと一緒に、プロインスリン遺伝子の2つのタンデムコピーを使用した場合にのみ得られた。したがって、融合パートナーの理想的な大きさが、封入体の形成にとって重要な基準であると思われる。
【0011】
多くの場合、高発現率の結果、封入体が形成されるが[Kane, J. F. and Hartley, D. L. Trends Biotechnol. 6:95〜101頁(1988); Fahnert, B.ら、Adv. Biochem Engg./Biotechnol. 89:93〜142頁(2004)]、そのような相関は常に正しいわけではないことを文献は教示している。Mac[Mac, T-T. Towards solid-state NMR spectroscopic studies of the ETBR/ET-1 complex. Ph.D. Thesis (2007), Freie Universitat Berlin]は、チオレドキシンのサイズが小さく(12kDa)、E.coli内でそれが可溶性であることにより、確実に可溶性融合産物が得られるだろうことを企図して、BigET-1ペプチドを発現させるためにチオレドキシンを融合パートナーとして用いた。この予想に反して、融合産物は封入体を形成したが、発現レベルは非常に低かった(45mg/L)。ET-1を封入体の形で発現させるためにGSTを融合タンパク質として用いた場合、融合産物の発現レベルは増加したが、なおわずかmg/Lのレベルにとどまった。融合パートナーとしてベータガラクトシダーゼ断片を使用しても、ET-1は封入体の形態で発現したが、発現レベルは低いままであり、このプロセスの最後に得られたET-1の量はわずか数mg/Lであった[Ohashi, H.ら、Appl. Microbiol. Biotechnol. 41:677〜683頁(1994); Yasufaku, K.ら、J. Biochem. 112:360〜365頁(1992)]。したがって、融合パートナーの封入体誘導能だけでは、高発現およびその後の商業化が確実にはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5223404号
【特許文献2】欧州特許出願公開第0055945号
【特許文献3】欧州特許出願公開第0211299A号
【特許文献4】米国特許第5670340号
【特許文献5】米国特許第6500647号
【特許文献6】国際特許出願公開第2007/102174A2号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Geysen, H. M.ら、J. Immunol. Methods, 102:259〜274頁(1987)
【非特許文献2】Milich, D. R. Semin. Immunol., 2(5):307〜315頁(1990)
【非特許文献3】Cochran, A. G. Chemistry & Biology, 7:R85〜R94頁(2000)
【非特許文献4】Parmar, H. Therapeutic Peptides in Europe: Finding the Opportunities, Frost and Sullivan Market Insight、2004年11月26日
【非特許文献5】Collip, J. J. Physiol., 66:416〜430頁(1928)
【非特許文献6】Parkes, CO.ら、Fed. Proc.,28:413頁(1969)
【非特許文献7】Kimmerlin, T. and Seebach, D. J. Pept. Res., 65(2):229〜260頁(2005)
【非特許文献8】Marston, F. A. Biochem. J., 240:1〜12頁(1986)
【非特許文献9】Makrides, S. C. Microbiol. Rev., 60:512〜538頁(1996)
【非特許文献10】Goldschmidt, R. Nature, 228:1151〜1154頁(1970)
【非特許文献11】Lin, S. & Zabin, I. J. Biol. Chem., 247:2205〜2211頁(1972)
【非特許文献12】Talmadge, K. & Gilbert, W. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79:1830〜1833頁(1982)
【非特許文献13】Ray, M. V. L.ら、Bio/Technology, 11:64〜70頁(1993)
【非特許文献14】Dykes, C. W.ら、Eur. J. Biochem., 174:411〜416頁(1988)
【非特許文献15】Baneyx, F. Curr. Opin. Biotechnol., 10:411〜421頁(1999)
【非特許文献16】Cipakova, I.ら、Protein Expr. Purif., 37:207〜212頁(2004)
【非特許文献17】Forrer, P. & Jaussi, R. Gene, 224:45〜52頁(1998)
【非特許文献18】Hoffman, F.ら、Enz. and Microb. Technol., 34:235〜241頁(2004)
【非特許文献19】Marco, V. D.ら、Biochem. Biophys. Res. Commun. 322:766〜771頁(2004)
【非特許文献20】Zou, Z.ら、Journal of Biotechnology, 135:333〜339頁(2008)
【非特許文献21】Williams, D. C.ら、Science 215:687〜688頁(1982)
【非特許文献22】Singh, S. M. and Panda, A. K.、J. Biosci. Bioengg. 99(4):303〜310頁(2005)
【非特許文献23】Panda, A. K. Adv. Biochem. Engg./Biotechnol. 85:43〜93頁(2003)
【非特許文献24】Bowden, G. A.ら、Bio/Technol. 9:725〜730頁(1991)
【非特許文献25】Lee, J.ら、Biochem. Biophys. Res. Commun.,277:575〜580頁(2000)
【非特許文献26】Lee, J.ら、Appl. Microbiol. Biotechnol.,58:790〜796頁(2002)
【非特許文献27】Wei, Q.ら、Appl. Environ. Microbiol.,71(9):5038〜5043頁(2005)
【非特許文献28】Rao, X. C.ら、Protein Expr. Purif.,36:11〜18頁(2004)
【非特許文献29】Fahnert, B.ら、Adv. Biochem Engg./Biotechnol. 89:93〜142頁(2004)
【非特許文献30】Walsh, G. Nat. Biotechnol. 21:865〜870頁(2003)
【非特許文献31】Mukhopadhyay, A. Adv. Biochem. Engg./Biotechnol. 56:61〜109頁(1997)
【非特許文献32】Wingender, E.ら、J. Biol. Chem. 264(8):4367〜4373頁(1989)
【非特許文献33】Shen, S-H. PNAS、81:4627〜4631頁(1984)
【非特許文献34】Kane, J. F. and Hartley, D. L. Trends Biotechnol. 6:95〜101頁(1988)
【非特許文献35】Mac, T-T. Towards solid-state NMR spectroscopic studies of the ETBR/ET-1 complex. Ph.D. Thesis (2007), Freie Universitat Berlin
【非特許文献36】Ohashi, H.ら、Appl. Microbiol. Biotechnol. 41:677〜683頁(1994)
【非特許文献37】Yasufaku, K.ら、J. Biochem. 112:360〜365頁(1992)
【非特許文献38】Maniatisら、Molecular cloning; A Laboratory Manual (Cold Spring harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.), (1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記の参照文献の多数は、細菌に小ペプチドを産生させることには種々の理由で問題があることを示している。微生物細胞においてペプチドがタンパク質分解されるという問題は、通常そのペプチドを融合タンパク質として発現させることによって非常に首尾よく対処されるが、これらのプロセスを商業的に実現可能にするには多数の課題が伴う。ペプチドを不溶性融合タンパク質として発現させることは、組換え法によるペプチドの商業生産の好ましい方法であるが、融合パートナーの選択は容易ではない。これまでに報告された融合タンパク質は、封入体の形成および/または高度かつ安定した発現に関する限り、常に予測通りに挙動するわけではない。さらに、それらの融合タンパク質の多くは、商業的供給源からあまり容易に入手できないか、または、所望のペプチドの商業生産への使用が十分に確立されていない。それゆえに、当技術分野には、低費用で、種々のペプチドの安定かつ高度な発現を一貫して得られるような融合パートナーを含む適切な発現システムに対する切実な必要性がある。これを視野に入れて、本発明の目的は、そのような融合パートナーを含む発現システムを開発し、ペプチドを高収率かつ現存のプロセスと同等またはそれよりも良い産生効率で産生させる方法を確立することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、ペプチドを封入体の形で高発現させるために一貫して使用できる新規融合パートナーであるG-CSFを用いた新規発現システムを開示する。この融合パートナーを用いて発現できる対象のペプチドは、そのアミノ酸含有量だけでなく、その鎖長も異なり、融合産物中に予め設計した切断部位での切断後に融合パートナーから分離される。次いで、そのように得られた融合ペプチドは、標準的な下流の精製方法を用いて精製することができる。そのような発現システムを利用した産生プロセスは、試験に用いた3種のペプチドに対する安定した高発現により、非常に適応性があり、容易であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】3種の融合産物、すなわち、プロインスリン、アンジオテンシン、およびPTHの、それら融合産物をコードする発現ベクターで形質転換したE.coliのIPTG誘導性培養物と非誘導性培養物とにおける発現を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の目的
本発明は、一態様において、GCSFまたはその適切なバリアント(variant)を融合パートナーとして使用することを含む、ペプチド産生方法を提供する。一実施形態において、新規融合パートナーであるG-CSFまたはその適切なバリアントを用いて、ペプチドを融合産物として発現させる方法を提供する。本発明の他の態様において、ペプチドを融合産物として発現させるための新規融合パートナー、G-CSFを提供する。
【0018】
他の態様において、切断部位を介して対象のペプチドに連結されたG-CSFを含む新規融合産物を提供し、この切断部位は必要に応じて、化学的および/または酵素的切断剤の切断部位として働く適切なリンカーを介したものでもよい。他の態様において、上記の新規融合産物をコードするヌクレオチド構築物を提供する。さらに他の態様においては、上記ヌクレオチド構築物を含む発現ベクターを提供する。さらに他の態様において、上記発現ベクターを含む発現システムを提供する。
【0019】
他の態様において、上記の融合産物構築物をコードする上記発現ベクターの構築方法を提供する。
【0020】
さらに他の態様において、ペプチドを融合産物として高レベルで発現させるための発現システムの構築方法を提供する。
【0021】
さらに他の態様において、ペプチドを高レベルで発現させるための新規融合産物構築物を含む上記発現システムの使用について提供する。
【0022】
ある実施形態において、本発明の融合パートナーおよび発現システムを用いて所望のペプチドを発現させる方法を提供する。適切な対象のペプチドとしては、長さが約10〜90アミノ酸残基のペプチドが挙げられるが、それらに限定されない。そのようなペプチドとしては、PTHとその類似体、インスリンとその類似体、カルシトニンとその類似体、アンジオテンシン類のペプチドなど、および同様に作用するそれらの短鎖ペプチドバリアントが挙げられるが、それらに限定されない。
【0023】
概要
本発明は、新規融合パートナーであるG-CSFを使用することにより、広範囲にわたる大きさおよび薬効分類の組換えペプチドを産生させる方法を提供する。これらのペプチドは、化学的または酵素的切断部位を介してG-CSFのC末端と連結していることが好ましい。この新規発現システムは、E.coli宿主細胞の生合成機構を利用し、形質転換した宿主細胞内で上記融合ペプチドを発現させるが、この発現は融合産物の不溶性凝集体の形態であることが好ましい。封入体は宿主細胞から容易に単離でき、ペプチドはその封入体から、公知の技法によって融合パートナーのG-CSFから切断した後、標準的なタンパク質精製方法を用いて精製可能である。
【0024】
本発明の説明
本発明は、宿主細胞内でペプチドを産生させるための発現システムを提供し、ここで所望のペプチドは融合パートナーに作動可能に連結されている。この連結または結合は、適当な切断部位の作製により行い、それによって完全な融合産物が形成される。融合産物は、不溶性の凝集体であることが好ましい。
【0025】
融合パートナー
本発明に記載の新規発現システムは、適切なペプチドと融合して融合タンパク質を形成する融合パートナーであるG-CSF(Genbank受託番号gi:27437050)を含む。G-CSFの適切なミュータント(mutant)またはバリアント(variant)も、G-CSFと同じ機能を果たす限りは融合パートナーとして企図され、包含される。融合タンパク質の好ましい利点は、融合タンパク質が前記ペプチドの高レベルでの発現をもたらすことである。より詳細には、本発明の融合パートナーは、メチオニルヒトGCSF(配列番号1)である。
【0026】
融合ペプチド
融合ペプチドは、融合パートナーと一緒に単一の融合産物構築物の形で発現されるペプチドである。この融合ペプチドは、いくつかの形態を有してよい。融合ペプチドには、天然の対象のペプチドおよび/または任意のそのミュータントもしくはバリアントが含まれ、かつ/または、自然界で発見されていない新規ペプチド、および完全に人間が設計した新規ペプチドが含まれてよい。
【0027】
ペプチドは、長さが約10〜90アミノ酸であるペプチドから選択されることが好ましい。ある実施形態においては、融合ペプチドは、カルトリン(caltrin)、カルシトニン、インスリン、アンジオテンシン、組織プラスミノーゲン活性化因子、成長ホルモン、成長因子、成長ホルモン放出因子、エリスロポエチン、インターフェロン、インターロイキン、オキシトシン、バソプレシン、ACTH、コラーゲン結合性タンパク質、副甲状腺ホルモン、グルカゴン様ペプチド、グルカゴン、プロインスリン、腫瘍壊死因子、サブスタンスP、脳性ナトリウム利尿ペプチド、個々の抗体重鎖および抗体軽鎖(individual heavy and light antibody chains)、フューゼオン(Fuzeon)、オクトレオチド、ソマトスタチン、およびこれらのペプチドの、ミュータントを含むバリアント、合成類似体、および模倣物から選択してよい。本発明の好ましい実施形態においては、PTH、アンジオテンシン、およびプロインスリンを含む融合ペプチドを提供する。好ましい実施形態例として、PTH(1〜34)(配列番号4)、アンジオテンシン(配列番号12)、およびプロインスリン(配列番号9)のアミノ酸配列を含む融合ペプチドを提供する。
【0028】
融合産物または融合産物構築物
本発明の融合産物構築物は次式で表される。
【0029】
【化1】

【0030】
式中、対象の融合ペプチドは生理活性ペプチドであり、CSは融合パートナーもしくは融合ペプチドのアミノ酸(a.a.)配列に存在する切断部位か、または適切なアミノ酸残基長の適切なリンカーであり、融合パートナーはGCSFまたはそのバリアントである。
【0031】
本発明において企図される好ましい融合産物または融合産物構築物は、以下の式を有してよい。
N末端 融合パートナー-------CS-------対象ペプチド C末端
N末端 対象ペプチド-------CS-------融合パートナー C末端
本発明のさらに好ましい実施形態において、以下の式の融合産物が企図されている。
N末端 対象ペプチド-------CS-------融合パートナー C末端
式中、CSは酵素的または化学的切断部位を表す。本発明の好ましい実施形態として、以下の式の融合タンパク質が企図されている。
G-CSF-------エンテロキナーゼ切断部位-------PTH(G-CSF-PTH)、配列番号4
G-CSF-------CNBr切断部位-------プロインスリン(G-CSF-プロインスリン)、配列番号9
G-CSF-------エンテロキナーゼ切断部位-------アンジオテンシン(G-CSF-アンジオテンシン)、配列番号12
【0032】
切断部位
上記発明において企図されている切断部位は、臭化シアンまたは2-(2-ニトロフェニルスルフェニル)-メチル-3'-ブロモインドレニン、BNPS-スカトール(3-ブロモ-3-メチル-2-(2-ニトロフェニル)チオール-3H-インドール)、N-ブロモスクシンアミド、O-ヨードソ安息香酸、HBr/DMSO、NTCB(2-ニトロ-5-チオシアノベンゾエート)、金属ナトリウムの液体アンモニア溶液、ヒドロキシルアミン、酸加水分解用の希酸などによって切断可能な化学的切断部位、またはエンテロキナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、ペプシン、パパイン、サブチリシン、サーモリシン、V8プロテアーゼ、エンドプロテイナーゼArg C(顎下腺プロテアーゼ)、クロストリペイン(Clostripain)、トロンビン、コラゲナーゼ、リソバクター・エンザイモゲネス(Lysobacter enzymogenes)(Lys C)、粘液細菌Al-1プロテアーゼ、血液凝固因子Xa(Factor Xa)などによって認識される酵素的切断部位を含む。この切断部位は、ポリメラーゼ連鎖反応などの標準的な分子生物学的技法を用いて挿入し、その反応は上記の遺伝子(ペプチドおよび融合パートナー)の片方または両方を鋳型として、前記部位を導入することができる変異オリゴを反応のプライマーとして用いて行う。あるいは、切断部位は、ペプチドまたは融合パートナー内に天然に存在してもよい。
【0033】
発現ベクター
発現ベクターは、例えば上記の融合産物または融合産物構築物などの遺伝子をコードする発現カセットを含む適切なプラスミドベクターであり、ここで発現カセットは、上記の誘導産物を発現させるために発現ベクターが形質転換またはトランスフェクトされた発現宿主内で機能する適切なプロモーターおよび他の適切な調節要素に作動可能に連結されている。発現ベクターの例としては、E.coliにおいて融合産物を発現できるベクターが挙げられる。そのような発現ベクターの例としては、T7プロモーターシステムを用いるpET27、pET11、pET3、pET32など、アラビノースオペロンおよびAraC活性化因子に基づくpBADまたはpARA(Invitrogen社)ベクターシリーズが挙げられる。他の例としては、pGW7などのラムダPLプロモーター含有ベクター、ラムダPLプロモーターを含有する、pBR322に基づくベクター、温度を42℃に変えることにより誘導されるPLベクターシリーズ(Invitrogen社)、または、E.coliにおいて発現させるためにlac、lacUV5、tac、trc(IPTG誘導性)、trp(トリプトファン)、araBAD(アラビノース)、phoA(リン酸欠乏)、cst-l(グルコース欠乏)、cspA(低温誘導性)、SP6、T3プロモーターを含むように設計された他のプラスミドベクターが挙げられる。
【0034】
発現システム
外来タンパク質の遺伝子をコードする組換え発現ベクターと、宿主細胞の生合成機構の相互作用によって前記タンパク質を発現させる技法は、タンパク質の生化学合成において周知のものである。「発現システム」という用語は、例えば上記の融合産物または融合産物構築物などの遺伝子をコードする発現ベクター、およびその細胞内で融合産物を産生する、形質転換されたE.coli宿主細胞を指す。
【0035】
本発明において、対象のペプチドの発現に利用するE.coli発現システムは、所望のペプチドと融合パートナーであるG-CSFとが任意の順序で作動可能に連結されており、ペプチドまたは融合パートナーがC末端側にあり、この2つのユニット間に切断部位がある、発現ベクターを含む。優先的には、ペプチドはG-CSFのC末端側でコードされている。好ましい発現ベクターの一例として、融合産物G-CSF-PTH(1〜34)をコードするpET27B-GCSF-PTHがある。上記ベクターで形質転換されたE.coli DH5αは、pET-GFL-PTH1〜34細胞として、受託番号MTCC 5425で、Microbial Type Culture Collection and Gene Bank, Institute of Microbial Technology, Indiaに寄託されている。そのような発現ベクターの他の好ましい例としては、融合産物G-CSF-プロインスリンをコードするpET27B-GCSF-プロインスリンが挙げられる。上記ベクターで形質転換されたE.coli DH5αは、pET-GFL-プロインスリン細胞として、受託番号MTCC 5424で、Microbial Type Culture Collection and Gene Bank, Institute of Microbial Technology, Indiaに寄託されている。
【0036】
例えば上記のような発現ベクターによって形質転換された後に作製され、対象のペプチドを融合産物として発現するE.coli細胞も本発明の一部である。本発明のこの態様での好ましい実施形態において、形質転換細胞は、E.coliのBL21(DE3)株を形質転換することによって得られたものである。
【0037】
本発明に記載の発現システムは、G-CSFを融合パートナーとして用いて任意のペプチドを融合産物の形で発現させることに使用されうる。優先的には、ペプチド長は10から86アミノ酸残基までさまざまである。
【0038】
宿主細胞におけるペプチド産生
ペプチドを融合産物の形で産生させるために、予め企図された融合産物構築物をコードする発現ベクターで宿主細胞を形質転換する。発現ベクターは、対象の宿主に適合する任意のベースベクターから、融合産物をコードするDNAセグメントを適当な宿主適合性プロモーターの制御下でベースベクター中にクローニングすることにより得ることができる。プロモーターに加えて、ベースベクターはさらに、遺伝子産物の転写および翻訳の調節に関連するような他の宿主適合性調節要素からなっていてもよい。一般に、ベースベクターおよびその中の調節要素の選択は、融合産物を高発現で得るための、ベクターと宿主の適合性に基づく。本発明で企図される宿主細胞は、細胞内でのタンパク質の高発現に際して封入体を形成しやすい任意の微生物宿主細胞であってよい。本発明の好ましい一実施形態においては、微生物宿主細胞はE.coliである。
【0039】
一般には、宿主細胞を形質転換するために使用する適当なベースベクター中に挿入される組換え遺伝子は、形質転換された宿主細胞内における、融合産物の、可溶性産物かまたは不溶性産物のどちらかとしての発現を導く。本発明においては、融合産物の好ましい発現型は、結果として封入体が形成される不溶性産物である。ペプチドは、上記の、および本明細書の他の部分に記載のものから選択可能である。具体的には、融合産物は、PTH(1〜34)、配列番号4、アンジオテンシン、配列番号12、およびプロインスリン、配列番号9からなる群から選択される、E.coli宿主細胞内で封入体として発現される対象のペプチドの単一コピーを含む。
【0040】
本発明に記載のペプチド高発現の一例として、高レベルのPTHを発現させるための本発明の発現システムの使用が挙げられる。まず、副甲状腺ホルモンの配列に基づいて設計された2つの相補的なオリゴヌクレオチドを互いにアニーリングさせ、次いでポリメラーゼ連鎖反応を行って残りの間隙を満たすことによって、ヒトPTH(1〜34)遺伝子を合成した。続いて、酵素切断部位、ならびに5'末端および3'末端制限酵素部位を、特異的プライマーを用いた別のPCR反応によって遺伝子内に組み込んだ。今回5'末端に酵素切断部位を有し、また両端に必要な制限酵素部位も有していたこの改変PTH遺伝子をさらに、GCSF遺伝子をすでに含むpETベクター中にクローニングした。このクローニングは、このベクターによって形質転換された細胞が発現する融合産物が、G-CSFアミノ酸配列、続いて酵素切断部位、さらに続いてPTH(1〜34)アミノ酸配列を単一の融合産物として含むように行った。
【0041】
上記発明において企図されている好ましい発現システムの1つは、エンテロキナーゼ切断部位によって分離されたG-CSFとPTHとからなる融合産物の発現を含む。本発明において企図されている別の発現システムは、CNBr切断部位によって分離されたG-CSFとプロインスリンとからなる融合産物の発現を含む。本発明において企図されているさらに別の好ましい発現システムは、エンテロキナーゼ切断部位によって分離されたG-CSFとアンジオテンシンとからなる融合産物の発現を含む。
【0042】
上記対象のペプチドは、文献に記載されている通り、標準的な発酵方法を用いて、E.coli宿主内で、封入体を形成する不溶性融合産物として、工業的に実施可能なように産生されうる。所望の融合産物をコードする発現ベクターを有する組換えE.coliの単一コロニーを、5mLのカナマイシン含有(50mg/L)ルリア-ベルターニ培地(LB培地)中に移す。この培養物を37℃、200rpmで12〜15時間増殖させる。この培養液を100mLのカナマイシン含有(50mg/L)LB培地への播種に用いる。この培養物を継代培養して約1Lの培養液を得、その培養液を発酵槽内の10L培養培地への播種に用いる。発酵の増殖段階は、バッチ培養かフェッドバッチ培養のどちらかで行う。バッチ培養およびフェッドバッチ培養の供給培地の組成は以下の通りである。
バッチ培地の組成
成分 濃度(1/L)
KH2PO4 13.3g
(NH4)2HPO4 4.0g
酵母抽出物 1.0g
グルコース 20.0g
クエン酸 1.7g
MgSO47H2O 1.2g
微量金属溶液 20ml
カナマイシン 50mg
フェッドバッチ供給培地の組成
成分 濃度(1/L)
グルコース 700g
MgSO47H2O 20g
カナマイシン 500mg
微量金属溶液 20ml
【0043】
発酵は、37℃、pH6.8〜7.0、溶存酸素30〜70%において、攪拌しながら行う。供給培地は連続的に、または非連続的に添加する。十分な吸光度(600nmにおいて30〜100AU)が得られた後に、培養液中にIPTG(0.1〜2mM)を加えることによって遺伝子発現を誘導し、それによって産生段階を開始させる。産生段階は、バッチ方式、フェッドバッチ方式、繰り返しフェッドバッチ方式のいずれかで行う。タンパク質が封入体の形で十分に発現した後に、バッチを回収し遠心分離する。培養液から得られた細胞ペーストを下流の処理に移す。
【0044】
ペプチドと融合パートナーとを含む融合産物を含む封入体を、文献で報告されている任意の適切な方法を用いた破壊によりE.coli細胞から単離する。融合産物を、文献で報告されている任意の常法を用いて単離した封入体から可溶化する。所望のペプチドを適当な切断分子、すなわち酵素または化学薬剤で処理することにより融合パートナーから分離する。次にこの混合物から対象のペプチドを得、文献で広く報告されている沈殿法、カラムクロマトグラフィーなどの精製の常法を用いて高レベルの純度および収率を得る。種々の下流段階における切断の順序、および本発明で使用する精製法の数と種類は、標準的な文献で報告されている任意の適切なプロトコールに従ってよい。本発明の発現システムは、インスリン、カルシトニン、エキセンディンなどの他のペプチドに対しても同様に用いてそれらのペプチドを高レベルに発現させることができる。以下の実施例を通して本発明をさらに詳細に説明して当業者に本発明の実行について教示する。これらの実施例は例示であり、当業者は、特定のペプチドに関するこれらの実施例の教示に従って、必要に応じて適切な改変、変更などを加えて、教示したものを再現すること、また、それは、本発明の範囲に含まれるよう企図された他のペプチドに関しても当業者の範囲に含まれることが理解されよう。
【実施例1】
【0045】
GCSF発現ベクターの構築
所望のGCSF(174アミノ酸バリアント)遺伝子配列を逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)に基づいてクローニングするための鋳型として、ヒト胎盤の全RNA(Clontech社)を使用した。遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプライマー対(配列番号2および3a)を用いてPCRを行った。このオリゴヌクレオチドは、クローニング部位と、メチオニンをコードする開始コドンも含み、アミノ酸配列に影響を及ぼさずに5'領域のGC含有量を減少させて、その最適化したコドンもE.coliによって効率的に使用されるように、遺伝子の5'末端を改変するよう設計した。5'末端において7つのコドンを改変した。二本鎖cDNAを、MMLV逆転写酵素(MBI Fermentas社、USA)を用いた遺伝子特異的プライミングによってヒト胎盤全RNAから合成した[Maniatisら、Molecular cloning; A Laboratory Manual (Cold Spring harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.), (1990)]。次いでこのcDNAについて、Tris-Cl(pH8.3)50mM、MgCl22.5mM、4dNTPそれぞれ200μM、およびPfuポリメラーゼ2.5ユニットを含む体積100μl中100ピコモルの遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCR増幅を40サイクル行った。PCRの各増幅サイクルは、94℃30秒(変性)、61℃30秒(アニーリング)、および72℃1分(伸長)のインキュベーションで構成した。ここで増幅されたPCR産物をGel extraction Kit(Qiagen社)を用いて不純物を取り除き、制限エンドヌクレアーゼNdeIおよびBamHIで消化した。消化されたPCR産物を、Gel Extraction kit(Qiagen社)を用いてさらに精製した。プラスミドベクターpET27b(+)(Novagen社)を、制限エンドヌクレアーゼNdeIおよびBamHIで消化し、続いて直線化されたプラスミドベクターを、Gel extraction kit(Qiagen社)を用いてゲル精製した。この精製された直線化ベクターDNAを、NdeIおよびBamHIで消化した精製GCSF PCR産物とライゲーションさせた。このライゲーション産物をE.coli DH5αに形質転換し、形質転換体をアンピシリン耐性に基づいて評価した。そのような10コロニーから単離したプラスミドDNAについて、種々の制限酵素を用いた制限消化によってGCSF遺伝子の存在を分析した。そのようなプラスミドの1つについて、自動DNAシーケンサー(ABI)を用いて配列決定し、その結果、タンパク質遺伝子の正しい組み込みおよび配列を有することが認められた。このプラスミドDNAをpET27b(+)-GCSF-1と名付けた。このプラスミドDNAを、CaCl2を用いた化学的転換法により、E.coli BL21 DE3コンピテント細胞中に導入し形質転換して、G-CSFを発現するE.coli細胞クローンを得た。そのようなE.coliクローンの1つを早い段階で使用し、国際特許出願公開第2007/102174A2号に記載の発酵方法を用いて、最大9.5g/Lという非常に高い発現レベルを得た。
【実施例2】
【0046】
PTH融合タンパク質発現ベクターの構築
ヒトGCSF遺伝子を、NdeI制限部位を含むフォワードプライマー(配列番号2)とBamHI制限酵素部位を含むリバースプライマー(配列番号3b)とのオリゴヌクレオチドプライマー対を用いて、それより前に調製しておいたpET27b(+)-GCSF-1プラスミドベクターからPCR増幅させた。この増幅PCR産物をGel extraction Kit(Qiagen社)を用いて不純物を除去し、制限エンドヌクレアーゼNdeIおよびBamHIで消化した。消化されたPCR産物を、Gel Extraction kit(Qiagen社)を用いてさらに精製した。
【0047】
ヒト副甲状腺ホルモン(1〜34)遺伝子のコード鎖および非コード鎖に対応する2つの相補的オリゴヌクレオチド(配列番号5および6)を用いてヒト副甲状腺ホルモン(1〜34)遺伝子を合成した。等モル濃度の両オリゴヌクレオチドをサーマルサイクラー中、95℃で5分間加熱し、次いで1時間室温で冷ましてアニーリングさせた。次にアニーリングしたオリゴヌクレオチドについて、Tris-Cl(pH8.3)50mM、MgCl22.5mM、4dNTPそれぞれ200μM、およびPfuポリメラーゼ2.5ユニットを含む体積100μl中100ピコモルの遺伝子特異的オリゴヌクレオチドのフォワードプライマーおよびリバースプライマー(配列番号7および8)を用いてPCR増幅を40サイクル行った。PCRの各増幅サイクルは、94℃30秒(変性)、62℃30秒(アニーリング)、および72℃1分(伸長)のインキュベーションで構成した。フォワードプライマーには、エンテロキナーゼ切断部位のほかに、BamHI制限部位を含有させた。PCR反応による増幅産物を2.5%アガロースゲルで分離し、Gel Extraction kit(Qiagen社)を用いて精製した。単離したPTH遺伝子をBamHIおよびBpul 102 I制限エンドヌクレアーゼを用いて消化し、続いてgel extraction kit(Qiagen社)を用いて精製した。
【0048】
プラスミドベクターpET27b(+)(Novagen社)をNdeIおよびBpul 102 I制限エンドヌクレアーゼを用いて消化し、続いて直線化されたプラスミドベクターをGel extraction kit(Qiagen社)を用いてゲル精製した。
【0049】
3断片ライゲーション反応により、直線化ベクターとGCSFおよびPTH(1〜34)遺伝子断片とのライゲーションを行った。ライゲーション混合物をE.coli DH5 α-FTに形質転換してカナマイシン含有LB培地上に播いた。コロニーを種々の制限酵素を用いてスクリーニングした。さらに、自動DNAシーケンサー(ABI)を用いた配列決定により配列を確認し、その結果HuGCSF-PTH(1〜34)融合タンパク質遺伝子(配列番号4)の正しい組み込みおよび配列を有することが認められた。このプラスミドクローンをpET27b-GCSF-PTH(1〜34)と名付けた。
【実施例3】
【0050】
プロインスリン融合タンパク質発現ベクターの構築
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)に基づいた、所望のプロインスリン遺伝子配列クローニングの鋳型として、ヒト膵臓の全RNA(Clontech社)を使用した。プロインスリン遺伝子(配列番号9)のコード領域に対応する遺伝子特異的オリゴヌクレオチドのフォワードプライマーおよびリバースプライマーの対(配列番号10および11)を用いてPCRを行った。二本鎖cDNAを、MMLV逆転写酵素(MBI Fermentas社、USA)を用いた遺伝子特異的プライミングによってヒト胎盤全RNAから合成した[Maniatisら、Molecular cloning; A Laboratory Manual (Cold Spring harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.)、(1990)]。次いでこのcDNAについて、Tris-Cl(pH8.3)50mM、MgCl22.5mM、4dNTPそれぞれ200μM、およびPfuポリメラーゼ2.5ユニットを含む体積100μl中、100ピコモルの遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCR増幅を40サイクル行った。PCRの各増幅サイクルは、94℃30秒(変性)、58℃30秒(アニーリング)、および72℃1分(伸長)のインキュベーションで構成した。PCR反応による増幅産物を1.5%アガロースゲルで分離した。大きさが約280塩基対である所望の断片をゲルから切り出してQiagen Gel extraction kitを用いて精製した。この精製DNA断片を、ベクターと精製PCR産物の両方をBamHIおよびBpul 102 I(MBI Fermentas社、USA)で制限消化した後、pET27b-GCSF-PTH(1〜34)内にライゲーションさせた。BamHIおよびBpul 102 Iによるベクター構築物の消化により、構築物からPTH(1〜34)遺伝子を切り出し、消化された発現ベクターをQiagen Gel extraction kitを用いて精製した。精製したベクターを、消化、精製したプロインスリンPCR産物とのライゲーションに用いた。ライゲーション産物をE.coli DH5αに形質転換し、形質転換体をカナマイシン耐性に基づいて評価した。そのような10コロニーから単離したプラスミドDNAについて、種々の制限酵素を用いた制限消化によってプロインスリン遺伝子の存在を分析した。そのようなプラスミドの1つについて、自動DNAシーケンサー(ABI)を用いて配列決定し、その結果Hu-GCSF-プロインスリン融合タンパク質(配列番号9)の正しい組み込みおよび配列を有することが認められた。このプラスミドDNAをpET27B-GCSF-プロインスリンと名付けた。
【実施例4】
【0051】
アンジオテンシン(1〜10)融合タンパク質発現ベクターの構築
アンジオテンシン融合タンパク質をコードする遺伝子を、配列番号13および14のオリゴヌクレオチドフォワードプライマー、リバースプライマーを用いたPCR反応の鋳型としてpET27b-GCSF-PTHベクター構築物を用いて構築した。ここで、フォワードプライマーはベクターの上流領域に相補的であり、リバースプライマーはエンテロキナーゼ切断部位とアンジオテンシン(1〜10)非コード領域とを含み、G-CSFの3'末端に相補的であり、それによってその反応のPCR産物がG-CSF-エンテロキナーゼ-アンジオテンシン融合産物(配列番号12)のコード配列になった。PCR反応は、Tris-Cl(pH8.3)50mM、MgCl22.5mM、4dNTPそれぞれ200μM、およびPfuポリメラーゼ2.5ユニットを含む体積100μl中100ピコモルの遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCR増幅を40サイクル行った。PCRの各増幅サイクルは、94℃30秒(変性)、55℃30秒(アニーリング)、および72℃1分(伸長)のインキュベーションで構成した。PCR反応による増幅産物を1%アガロースゲルで分離した。大きさが約600塩基対である所望の断片をゲルから切り出してQiagen Gel extraction kitを用いて精製した。この精製DNA断片を、ベクターと精製PCR産物の両方をXbaIおよびBpul 102 I(MBI Fermentas社、USA)で制限消化した後、pET27b内にライゲーションさせた。このライゲーション産物をE.coli DH5αに形質転換し、形質転換体をカナマイシン耐性に基づいて評価した。そのような10コロニーから単離したプラスミドDNAについて、種々の制限酵素を用いた制限消化によってGCSF-アンジオテンシン融合タンパク質遺伝子の存在を分析した。そのようなプラスミドの1つについて、自動DNAシーケンサー(ABI)を用いて配列決定し、その結果、融合タンパク質の正しい組み込みおよび配列を有することが認められた。このプラスミドDNAをpET27b-GCSF-アンジオテンシンと名付けた。
【実施例5】
【0052】
融合タンパク質構築物の発現分析
上記3種の融合タンパク質発現ベクター構築物全てを、上記各自のE.coli DH5α宿主から抽出し、CaCl2化学的転換法を用いてE.coli BL21(DE3)中に導入し再度形質転換した。それぞれの組から得られた個々のコロニーをカナマイシン含有(50mg/L)LB培養液中に接種した。OD600が0.8に達したところで2mM IPTGを用いて培養を誘導した。誘導の16時間後に細胞を回収した。細胞懸濁液25μlをSDSおよびベータメルカプトエタノール(ゲルローディング緩衝液)の存在下で溶解させて、15%SDS PAGEにローディングし、誘導されたタンパク質バンドを濃度測定により定量化した(Image quant 400, image quant TL ver 2005, 1D gel analysis.)。
【0053】
図1に、非誘導培養、誘導培養における種々の融合産物を表すゲル写真を示す。これらのゲルの濃度測定分析は、GCSF-PTH融合タンパク質が、全細菌タンパク質の55.56%という非常に高い発現レベルで培養物中に蓄積したことを示している。GCSF-プロインスリン融合タンパク質もまた、全細菌タンパク質の40%という高レベルで発現した。10アミノ酸の小ペプチドであるアンジオテンシンは、GCSF-アンジオテンシン融合タンパク質として発現させた場合は、やはり全細菌タンパク質の50.28%という高い発現レベルで産生された。プロインスリンおよびPTH融合タンパク質クローンについては、可溶性または不溶性の誘導タンパク質の存在を試験した。細胞を高圧細胞ホモジナイザーによって溶解し、不溶性封入体を遠心分離して分離、可溶化した。可溶化した封入体と上清の両方をゲル電気泳動によって分析した。90%を超える誘導タンパク質が、不溶性封入体の形で存在することがわかった。
【実施例6】
【0054】
発酵槽におけるPTH融合タンパク質の発現
本発明の発現システムを使用すると、発酵槽における組換えPTH融合タンパク質の産生が、工業的に実行可能なようになされ得る。PTH融合タンパク質発現ベクターを有する組換えE.coli BL21(DE3)の単一コロニーを、カナマイシン含有(50mg/L)LB培地5mLに移した。培養物を37℃、200rpmにて12〜15時間増殖させた。その培養液をカナマイシン含有(50mg/L)LB培地100mLへの播種に用いた。培養物を継代培養して約1Lの培養液を得、その培養液を30Lの発酵槽内の培養培地10Lへの播種に用いた。発酵の増殖段階は、バッチ培養かフェッドバッチ培養のどちらかで行うことができ、バッチ培養およびフェッドバッチ培養の供給培地の組成は以下の通りである。具体的には、本実施例ではフェッドバッチ方式で発酵増殖段階を実施した。
バッチ培地の組成
成分 濃度(1/L)
KH2PO4 13.3g
(NH4)2HPO4 4.0g
酵母抽出物 1.0g
グルコース 20.0g
クエン酸 1.7g
MgSO47H2O 1.2g
チアミン 0.1g
微量金属溶液 20ml
カナマイシン 50mg
フェッドバッチ供給培地の組成
成分 濃度(1/L)
グルコース 700g
MgSO47H2O 20g
カナマイシン 500mg
微量金属溶液 20ml
【0055】
発酵は、37℃、pH6.8〜7.0、溶存酸素30〜70%において、攪拌しながら行った。供給培地は連続的に、または非連続的に添加可能である。具体的には、本実施例においては、基質制限フェッドバッチ方式で、フェッドバッチ培地を連続的に添加した。十分な吸光度(600nmにおいて30〜100AU)が得られた後に、培養液中にIPTG(0.1〜2mM)を加えることによって遺伝子発現を誘導し、それによって産生段階を開始させた。産生段階は、バッチ方式、フェッドバッチ方式、繰り返しフェッドバッチ方式のいずれかで行うことができる。具体的には、本実施例においては、フェッドバッチ方式で産生段階を実施し、使用したフェッドバッチ培地の組成は以下の通りであった。
産生段階用のフェッドバッチ供給培地の組成
成分 濃度(1/L)
グルコース 270g
酵母抽出物 214g
MgSO47H2O 1g
カナマイシン 500mg
【0056】
産生段階用のフェッドバッチ培地を連続的に、基質制限フェッドバッチ方式で添加しながら12時間、産生段階を行った。タンパク質が十分発現した後に、バッチを回収して遠心分離する。培養液から得られた細胞ペーストを下流の処理に移す。PTH融合タンパク質の容量収率をSDS-PAGEゲルの濃度測定分析によって測定し、4.62g/Lであると決定された。
【実施例7】
【0057】
発酵槽におけるプロインスリン融合タンパク質の発現
本発明の発現システムを使用すると、組換えプロインスリン融合タンパク質が、発酵槽において、工業的に実行可能なように産生され得る。プロインスリン融合タンパク質発現ベクターを有する組換えE.coli BL21(DE3)の単一コロニーを、カナマイシン含有(50mg/L)LB培地5mLに移した。培養物を37℃、200rpmにて12〜15時間増殖させた。その培養液をカナマイシン含有(50mg/L)LB培地100mLへの播種に用いた。培養物を継代培養して約1Lの培養液を得、その培養液を30Lの発酵槽内の培養培地10Lへの播種に用いた。発酵の増殖段階は、バッチ培養かフェッドバッチ培養のどちらかで行うことができ、バッチ培養およびフェッドバッチ培養の供給培地の組成は以下の通りである。具体的には、本実施例ではフェッドバッチ方式で発酵増殖段階を実施した。
バッチ培地の組成
成分 濃度(1/L)
KH2PO4 13.3g
(NH4)2HPO4 4.0g
酵母抽出物 1.0g
グルコース 20.0g
クエン酸 1.7g
MgSO47H2O 1.2g
チアミン 0.1g
微量金属溶液 20ml
カナマイシン 50mg
フェッドバッチ供給培地の組成
成分 濃度(1/L)
グルコース 700g
MgSO47H2O 20g
微量金属溶液 20ml
【0058】
発酵は、37℃、pH6.8〜7.0、溶存酸素30〜70%において、攪拌しながら行った。供給培地は連続的に、または非連続的に添加可能である。十分な吸光度(600nmにおいて30〜100AU)が得られた後に、培養液中にIPTG(0.1〜2mM)を加えることによって遺伝子発現を誘導し、それによって産生段階を開始させた。産生段階は、バッチ方式、フェッドバッチ方式、繰り返しフェッドバッチ方式のいずれかで行うことができる。具体的には、本実施例においては、フェッドバッチ方式で産生段階を実施し、使用したフェッドバッチ培地の組成は以下の通りであった。
産生段階用のフェッドバッチ供給培地の組成
成分 濃度(1/L)
グルコース 270g
酵母抽出物 214g
MgSO47H2O 1g
【0059】
誘導してから適切な期間が経った後(0〜12時間)にカナマイシン(20〜450mg/L)を添加した。産生段階用のフェッドバッチ培地を連続的に、基質制限フェッドバッチ方式で添加しながら12時間、産生段階を行った。タンパク質が十分発現した後に、バッチを回収して遠心分離する。培養液から得られた細胞ペーストを下流の処理に移す。融合プロインスリンの容量収率をSDS-PAGEゲルの濃度測定分析によって測定し、3.38g/Lであると決定された。
【0060】
タンパク質、ヌクレオチド、およびオリゴヌクレオチド(配列番号1〜19)の配列は下記の通りである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融合パートナーとしてGCSFまたはその適切なバリアントを使用することを含む、ペプチドの産生方法。
【請求項2】
GCSFがペプチドとの融合産物を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
融合産物構築物が次式で表される、請求項1または2に記載の方法。
【化1】

(式中、融合ペプチドは対象のペプチドであり、CSは適切な切断部位であり、融合パートナーはGCSFまたはその適切なバリアントである)
【請求項4】
融合ペプチドが生理活性ペプチドである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
CSが融合パートナーもしくは融合ペプチドのアミノ酸配列内に存在するか、または適切なリンカーである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
融合パートナーのC末端とペプチドのN末端が切断部位を介して連結している、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
生理活性ペプチドが、長さが約10アミノ酸〜約90アミノ酸であるポリペプチドから選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
生理活性ペプチドが、カルトリン、カルシトニン、インスリン、アンジオテンシン、組織プラスミノーゲン活性化因子、成長ホルモン、成長因子、成長ホルモン放出因子、サイトカイン、エリスロポエチン、インターフェロン、インターロイキン、オキシトシン、バソプレシン、ACTH、コラーゲン結合性タンパク質、副甲状腺ホルモン、グルカゴン様ペプチド、グルカゴン、プロインスリン、腫瘍壊死因子、サブスタンスP、脳性ナトリウム利尿ペプチド、個々の抗体重鎖および抗体軽鎖、ペプチド抗生物質、フューゼオン、オクトレオチド、ソマトスタチン、およびこれらのペプチドの適切なバリアントからなる群から選択されるペプチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
融合産物構築物をコードする発現カセットが適切な発現ベクター中にクローニングされている、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
融合産物構築物が、E.coliにおいて融合産物を発現できる発現ベクターから選択される適切な発現ベクターにコードされている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
生理活性ペプチドが、PTH(1〜34)、アンジオテンシン、およびプロインスリンから選択される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項12】
生理活性ペプチドが、配列番号6のPTH(1〜34)である、請求項7、8または11に記載の方法。
【請求項13】
生理活性ペプチドのPTH(1〜34)が、MTCC受託番号5425で寄託されている発現ベクターpET27B-GCSF-PTHによって発現される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
生理活性ペプチドが、配列番号12および13のプロインスリンである、請求項7、8または11に記載の方法。
【請求項15】
生理活性ペプチドのプロインスリンが、MTCC受託番号5424で寄託されている発現ベクターpET27B-GCSF-プロインスリンによって発現される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
生理活性ペプチドが、配列番号16および17のアンジオテンシンである、請求項7、8または11に記載の方法。
【請求項17】
生理活性ペプチドのプロインスリンが、発現ベクターpET27B-GCSF-アンジオテンシンによって発現される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
切断部位が酵素的または化学的切断部位である、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
切断部位が化学的切断部位である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
切断部位が酵素的切断部位である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
切断部位が、臭化シアン、2-(2-ニトロフェニルスルフェニル)-メチル-3'-ブロモインドレニン、BNPS-スカトール、N-ブロモスクシンアミド、O-ヨードソ安息香酸、HBr/DMSO、NTCB、金属ナトリウムの液体アンモニア溶液、ヒドロキシルアミン、または希酸から選択される化学薬品によって切断可能なものである、請求項18または19に記載の方法。
【請求項22】
化学薬品が臭化シアンである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
酵素的切断部位が、エンテロキナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、ペプシン、パパイン、サブチリシン、サーモリシン、V8プロテアーゼ、エンドプロテイナーゼArg C(顎下腺プロテアーゼ)、クロストリペイン、トロンビン、コラゲナーゼ、リソバクター・エンザイモゲネス(Lys C)、粘液細菌Al-1プロテアーゼ、または血液凝固因子Xaによって認識されるものである、請求項18または20に記載の方法。
【請求項24】
酵素がエンテロキナーゼである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
(a)融合産物構築物をコードする遺伝子を適切な発現ベクター中にクローニングするステップと、
(b)適切な宿主細胞を上記発現ベクターで形質転換するステップと、
(c)宿主細胞において所望のポリペプチドを融合タンパク質として発現させるステップと、
(d)前記宿主細胞を破壊し、融合タンパク質を封入体として回収するステップと、
(e)融合タンパク質を含有する封入体を他の宿主成分から分離するステップと、
(f)融合タンパク質を適切な変性剤で可溶化するステップと、
(g)切断部位を適切な酵素または化学薬品で切断して融合ペプチドを遊離させるステップと、
(h)反応混合物から融合ペプチドを精製するステップと
をさらに含む、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
融合産物を発現させるための宿主細胞がE.coliである、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記GCSF融合パートナーが、配列番号1および2で示すヌクレオチド配列によってコードされる、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
請求項1から27のいずれか一項に記載の融合産物。
【請求項29】
次式を有する、請求項28に記載の融合産物。
【化2】

(式中、融合ペプチドは対象のペプチドであり、CSは適切な切断部位であり、融合パートナーはGCSFまたはその適切なバリアントである)
【請求項30】
請求項1から29のいずれか一項に記載の融合産物構築物をコードする発現カセットを含む発現ベクター。
【請求項31】
発現カセットが、発現宿主内で機能するプロモーターおよび他の適切な調節要素に作動可能に連結されている、請求項30に記載の発現ベクター。
【請求項32】
pET27B-GCSF-PTH、pET27B-GCSF-プロインスリン、およびpET27B-GCSF-アンジオテンシンから選択される、請求項30または31に記載の発現ベクター。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2010−539898(P2010−539898A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−525497(P2010−525497)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【国際出願番号】PCT/IN2008/000599
【国際公開番号】WO2009/066320
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(507365927)カディラ・ヘルスケア・リミテッド (26)
【Fターム(参考)】