説明

ペリンドプリルエルブミンの新しい結晶型

ペリンドプリルエルブミンの二つの新しい結晶型、δ結晶型およびε結晶型を開示する。これら結晶型は、心血管系の病気、特に高血圧および心不全の治療のための医薬に関し治療上の活性物質として好適である。ε結晶型は1.5−2.0%(v/v)の含水MTBE中、30−45℃、好ましくは34-45℃における結晶化により得られる;この結晶化は撹拌しながら行うのが有利である。有利には共沸的な蒸留を好ましくは35−37℃で行って水分を除去し、30−45℃、好ましくは35−37℃で少なくとも15時間撹拌を継続すると、ε結晶型がδ結晶型へと転移する。δ結晶型はまた、α結晶型およびβ結晶型を、0.9−1.4%(v/v)の含水tert-ブチルメチルエーテル中、δ結晶型を接種して33−38℃で撹拌することにより得られる。ε結晶型はまた、α結晶型若しくはβ結晶型を、0.9−1.4%(v/v)の含水tert-ブチルメチルエーテル中、ε結晶型を接種して28−35℃で撹拌することにより;またはα結晶型若しくはβ結晶型を、1.5−2.0%(v/v)の含水tert-ブチルメチルエーテル中、35−38℃で撹拌することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はペリンドプリルエルブミンの二つの新しい結晶型に関する。
ペリンドプリル、(2S,3aS,7aS)-1-[2-(1-エトキシカルボニル-(S)-ブチルアミノ)-(S)-プロピオニル]-オクタヒドロインドール-2-カルボン酸は下記の式(I)で表される。
【化1】

ペリンドプリルエルブミンはペリンドプリルのtert-ブチルアミン塩である。
【背景技術】
【0002】
ペリンドプリルはACE阻害剤(ACE=アンジオテンシン転換酵素)として作用し、心血管病の治療、特に高血圧および心不全の治療に用いられる。
ペリンドプリルの製造法はEP 49658、US 4,508,729、EP 308341およびUS 4,914,214、更にEP 1256590およびWO 01/58868に記載されている。
WO 01/87835、WO 01/87836およびWO 01/83439にはペリンドプリルエルブミンを酢酸エチル(WO 01/87835)から、ジクロロメタン若しくは酢酸エチルから(WO 01/87836)、およびクロロホルム(WO 01/83439)からそれぞれ結晶化させる工程の記述がある。そして、それぞれα結晶型(WO 01/87835)、β結晶型(WO 01/87836)およびγ結晶型(WO 01/83439)が得られることが記載されている。
【発明の開示】
【0003】
今般、ペリンドプリルエルブミンの任意の結晶型を0.9−2.5%(v/v)の含水tert-ブチルメチルエーテル中から結晶化させるか、またはペリンドプリルエルブミンのα結晶型若しくはβ結晶型を0.9−2.5%(v/v)の含水tert-ブチルメチルエーテル中で転移させると、δおよびεの二つの新しい結晶型が正確な条件に依存して得られることを見出した。これらの新しいδおよびεの結晶型は以下のX線回折データにより特徴づけられる(表1および2参照)。
【0004】
【表1】

【0005】
【表2】

脚注:テクスチュア効果により強度が変化し得ることはよく知られている。
【0006】
本発明によると、30−45℃、好ましくは34−45℃においてペリンドプリルエルブミンの任意の結晶型を1.5−2.5%(v/v)の含水tert-ブチルメチルエーテル中から結晶化させるとε結晶型が得られる;この結晶化は撹拌しつつ行うことが有利である。ここで、有利には共沸的な蒸留を好ましくは35−37℃で行って水分を除去し、30−45℃、好ましくは35−37℃で少なくとも15時間撹拌を継続すると、ε結晶型がδ結晶型へと転移する。
加えて、既に知られているペリンドプリルエルブミンのα結晶型およびβ結晶型は、0.9−1.4%(v/v)、好ましくは1.0−1.1%(v/v)の含水tert-ブチルメチルエーテル(MTBE)中、33−38℃、好ましくは35−37℃で撹拌し、δ結晶型を接種することによりδ結晶型へと変換できる。
【0007】
また、既に知られているα結晶型およびβ結晶型は、0.9−1.4%(v/v)、好ましくは1.0−1.1%(v/v)の含水tert-ブチルメチルエーテル(MTBE)中、28−35℃、好ましくは31−33℃でε結晶型を接種することによりε結晶型へと変換できる。
これらの結晶型変換はまた、接種を行わなくても進行させ得るが、当然ながらその境界領域においてδ結晶型、ε結晶型またはこれらの混合物が得られるか正しく予測することはできない。
【0008】
α結晶型およびβ結晶型からε結晶型への変換はまた、1.5−2.0%(v/v)の含水tert-ブチルメチルエーテル(MTBE)中35−38℃においても進行させることができる。
ペリンドプリルエルブミンのδおよびεの結晶型はいずれも新規であり、本発明はこれらに関するものである。
本発明に従って、これらは治療上の活性物質として、また薬学的に許容される担体物質と共に医薬品を製造するために使用することができる。当該医薬品は心血管系の病気、特に高血圧および心不全の治療に有用である。医薬品の製造に用いられる薬学的に許容される担体物質は当業者にとって一般によく知られている。
【0009】
薬学的な活性物質の異なる形態、例えば、新しい結晶型は、一般に異なる生物学的利用率、溶解度、溶出速度等を示すので、薬物の投与量を減少させ、薬物投与間隔を長くし、結果的に医療費を圧縮させて、該当する患者には非常に有利に働くかもしれない。
以下の実施例は本発明を説明するためであり、発明の範囲及び用途を限定する意図は全くない。
X線回折スペクトルはフィリップス(Philips)ADP1700粉末X線回折機、電圧40kV、Cu照射Kα1=0.15406 nm、Kα2=0.15444 nm を用いて測定した。
【実施例1】
【0010】
ペリンドプリルエルブミンのε結晶型
ペリンドプリルエルブミン5.00gをMTBE 50ml中で懸濁し水 0.95mlを加えた。得られた懸濁液を撹拌しながら48℃で加熱すると透明な液体が得られた。溶液を撹拌しながら41℃に冷却した。同温度で接種するとその後結晶化が始まった。40−41℃で撹拌を30分間継続し、混合物を34℃で1時間冷却した。得られた沈殿を濾取してMTBE 10mlで洗浄した。乾燥すると、ペリンドプリルエルブミンのε結晶型1.85g が得られた。
【実施例2】
【0011】
ペリンドプリルエルブミンのδ結晶型
ペリンドプリルエルブミン11.09gをMTBE 130ml中に懸濁し水 2.0mlを加えた。得られた懸濁液を撹拌しながら51℃で加熱すると透明な液体が得られた。溶液を撹拌しながら120分で35℃に冷却した。44℃で接種するとその後結晶化が始まった。35−37℃で45分間かけてMTBE 50mlを減圧蒸留で除いた。同時に水を共沸的に除去した。MTBE 50mlを再度加え、35−37℃で60分間かけて、MTBE 50mlを減圧蒸留で再び除いた。35−37℃で15時間撹拌を継続し、得られた沈殿を濾取してMTBE 10mlで洗浄した。乾燥すると、ペリンドプリルエルブミンのδ結晶型8.42gが得られた。
【実施例3】
【0012】
α結晶型からδ結晶型への変換
ペリンドプリルエルブミンのα結晶型8.50gをMTBE 85ml中に懸濁し、該懸濁液を撹拌しながら35−37℃に加熱した。これに水0.85mlを加え、続いてδ結晶型0.17gを接種した。得られた懸濁液を35−37℃で23時間撹拌し、それから沈殿を濾取した。乾燥すると、δ結晶型7.00gが得られた。
【実施例4】
【0013】
α結晶型からε結晶型への変換
ペリンドプリルエルブミンのα結晶型21.66gをMTBE 216ml中に懸濁し、該懸濁液を撹拌しながら33−35℃に加熱した。これに水2.16mlを加え、得られた懸濁液を33−35℃で14時間撹拌した。沈殿を濾取して乾燥し、ε結晶型18.68gを得た。
【実施例5】
【0014】
β結晶型からδ結晶型への変換
ペリンドプリルエルブミンのβ結晶型4.00gをMTBE 40ml中に懸濁し、水0.36mlを加えた。該懸濁液を35−37℃に加熱し、35−37℃で20時間撹拌した。沈殿を濾取して乾燥すると、δ結晶型を得た。
【実施例6】
【0015】
α結晶型からε結晶型への変換
ペリンドプリルエルブミンのα結晶型7.55gをMTBE 75ml中に懸濁し、該懸濁液を撹拌しながら35−37℃に加熱した。これに水1.32mlを加えて、該懸濁液を35−37℃で20時間撹拌した。沈殿を濾取して乾燥し、ε結晶型2.31gを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のX線回折データ
【表1】

(CuKα照射による粉末X線回折で測定)
により特徴づけられる、ペリンドプリルエルブミンのδ結晶型。
【請求項2】
下記のX線回折データ
【表2】

(CuKα照射による粉末X線回折で測定)
により特徴づけられる、ペリンドプリルエルブミンのε結晶型。
【請求項3】
治療上の活性物質として使用するための請求項1または2のペリンドプリルエルブミンの結晶型。
【請求項4】
請求項1または2のペリンドプリルエルブミンの結晶型を含む、医薬。
【請求項5】
心血管系の病気の治療および該当する医薬の調製のための請求項1または2のペリンドプリルエルブミンの結晶型の使用。
【請求項6】
心血管系の病気が高血圧および心不全である、請求項5の使用。
【請求項7】
a)1.5−2.5%(v/v)の含水tert-ブチルメチルエーテル中30−45℃でペリンドプリルエルブミンの任意の結晶型を再結晶し、水を除いた後その沈殿を30−45℃で少なくとも15時間撹拌すること;または
b)0.9−1.4%(v/v)の含水tert-ブチルメチルエーテル中δ結晶型を接種して、33−38℃でペリンドプリルエルブミンのα結晶型若しくはβ結晶型を撹拌することを特徴とする、請求項1のペリンドプリルエルブミンのδ結晶型の製造方法。
【請求項8】
a)1.5−2.5%(v/v)の含水tert-ブチルメチルエーテル中30−45℃でペリンドプリルエルブミンの任意の結晶型を再結晶すること;
b)0.9−1.4%(v/v)の含水tert-ブチルメチルエーテル中ε結晶型を接種して、28−35℃でペリンドプリルエルブミンのα結晶型若しくはβ結晶型を撹拌すること;または
c)1.5−2.0%(v/v)の含水tert-ブチルメチルエーテル中、35−38℃でペリンドプリルエルブミンのα結晶型若しくはβ結晶型を撹拌することを特徴とする、請求項2のペリンドプリルエルブミンのε結晶型の製造方法。

【公表番号】特表2007−507418(P2007−507418A)
【公表日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515624(P2006−515624)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【国際出願番号】PCT/CH2004/000374
【国際公開番号】WO2004/113293
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(505473020)レ・ラボラトワール・セルヴィエ (1)
【氏名又は名称原語表記】LES LABORATOIRES SERVIER
【Fターム(参考)】