説明

ペンタフルオロフェニルオキシ化合物、それを用いた非水電解液及びリチウム二次電池

【課題】新規ペンタフルオロフェニル化合物及びその製造方法、並びに、電気容量、サイクル特性、保存特性等の電池特性に優れたリチウム二次電池を形成することができる非水電解液及びリチウム二次電池を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表されるペンタフルオロフェニルオキシ化合物、及びその製造方法、並びに、それを含有する非水電解液及びリチウム二次電池である。


(式中、R1は、−COCO−基、S=O基、又はS(=O)2基を示し、R2は、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又はアラルキル基を示す。ただし、R2が有する水素原子の1つ以上がハロゲン原子で置換されていてもよく、R1が−COCO−基の場合は、R2にアリール基は含まない。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種材料の中間原料又は電池材料として有用な新規ペンタフルオロフェニルオキシ化合物及びその製造方法、並びに、それを含有する非水電解液及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池は小型電子機器等の駆動用電源として広く使用されている。リチウム二次電池は、主にリチウム複合酸化物からなる正極、炭素材料やリチウム金属からなる負極、及び非水電解液から構成されている。その非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)等のカーボネート類が使用されている。
正極として、例えばLiCoO2、LiMn24、LiNiO2等を用いたリチウム二次電池は、非水電解液中の溶媒が充電時に局部的に一部酸化分解することにより、該分解物が電池の望ましい電気化学的反応を阻害するため、電池性能の低下を生じる。これは正極材料と非水電解液との界面における溶媒の電気化学的酸化に起因するものと考えられる。
また、負極として、例えば天然黒鉛や人造黒鉛等の高結晶化した炭素材料を用いたリチウム二次電池は、非水電解液中の溶媒が充電時に負極表面で還元分解し、非水電解液溶媒として汎用されているECでも充放電を繰り返す間に一部還元分解が起こり、電池性能の低下が起こる。
【0003】
このリチウム二次電池の電池性能を向上させるものとして、例えば特許文献1〜6が知られている。
特許文献1には、ペンタフルオロアニソール等の電子供与基を有するペンタフルオロベンゼン化合物を添加したリチウム二次電池が開示されているが、このコイン電池は200サイクル後の放電容量維持率が80%程度であり、サイクル特性が十分でない。
特許文献2には、非水電解液二次電池の化学的過充電保護手段として、ペンタフルオロアニソールが酸化還元試薬として使用可能と記載されているが、サイクル特性に関する記載はない。
特許文献3には、2−プロピニルフェニルカーボネートを含有する非水電解液が示唆され、特許文献4には、シュウ酸2−プロピニルフェニルを含有する非水電解液が示唆されている。
特許文献5の実施例5には、ペンタフルオロフェニルメチルカーボネートを含有する非水電解液が記載され、特許文献6には、ペンタフルオロフェニルメタンスルホネート等とビニレンカーボネート及び/又は1,3−プロパンスルトンを含有する非水電解液が記載されている。
これらの非水電解液は、ある程度電池等が改善されているが、高容量、長寿命に対する要求は益々高まっており、更なる性能向上が求められている。
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/110735号明細書
【特許文献2】特開平7−302614号公報
【特許文献3】特開2000−195545号公報
【特許文献4】特開2002−124297号公報
【特許文献5】国際公開第03/77351号パンフレット
【特許文献6】国際公開第05/29631号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、各種材料の中間原料又は電池材料として有用な新規ペンタフルオロフェニル化合物及びその製造方法、並びに、電気容量、サイクル特性、保存特性等の電池特性に優れたリチウム二次電池を形成することができる非水電解液及びリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、シュウ酸ペンタフルオロフェニルメチル等の新規ペンタフルオロフェニルオキシ化合物を合成し、これを非水電解液中に含有させることにより、サイクル特性等に優れたリチウム二次電池を提供できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、下記の(1)〜(4)を提供するものである。
(1)下記一般式(I)で表されるペンタフルオロフェニルオキシ化合物。
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、R1は、−COCO−基、S=O基、又はS(=O)2基を示し、R2は、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数3〜12のアルキニル基、炭素数6〜18のアリール基、又は炭素数7〜20のアラルキル基を示す。ただし、R2が有する水素原子の1つ以上がハロゲン原子で置換されていてもよく、R1が−COCO−基の場合は、R2にアリール基は含まない。)
(2)ペンタフルオロフェノールと、一般式R2O−R1−X(式中、Xはハロゲン原子を示し、R1及びR2は前記と同じである。)で表される酸ハライド又はハロゲン化チオニルとを、塩基の存在下で反応させることを特徴とする、下記一般式(I)で表されるペンタフルオロフェニルオキシ化合物の製造方法。
(3)非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、該非水電解液中に下記一般式(II)又は(III)で表されるペンタフルオロフェニルオキシ化合物を含有することを特徴とする非水電解液。
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、R3は、−COCO−基、C=O基、S=O基、又はS(=O)2を示し、R4は、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数3〜12のアルキニル基、炭素数6〜18のアリール基、又は炭素数7〜20のアラルキル基を示す。ただし、R4が有する水素原子の1つ以上がハロゲン原子で置換されていてもよい。また、R3がC=O基の場合には、R4は炭素数2〜12のアルケニル基又は炭素数3〜12のアルキニル基である。)
【0011】
【化3】

(式中、Yは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、nは1又は2を示す。)
(4)正極、負極及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液からなるリチウム二次電池において、該非水電解液中に前記一般式(II)又は(III)で表されるペンタフルオロフェニルオキシ化合物を含有することを特徴とするリチウム二次電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、医薬、農薬、電子材料、高分子材料等の中間原料、又は電池材料として有用な、新規なペンタフルオロフェニルオキシ化合物及びその製造方法を提供することができる。
また、非水電解液中に添加剤として、前記一般式(II)又は(III)で表されるペンタフルオロフェニルオキシ化合物を含有させることにより、電気容量、サイクル特性、保存特性等の電池特性に優れ、かつ長期にわたり優れた電池性能を発揮することができるリチウム二次電池を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
〔新規ペンタフルオロフェニルオキシ化合物〕
本発明の新規ペンタフルオロフェニルオキシ化合物は、下記一般式(I)で表される。
【0014】
【化4】

【0015】
式中、R1は、−COCO−基、S=O基、又はS(=O)2基を示し、R2は、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数3〜12のアルキニル基、炭素数6〜18のアリール基、又は炭素数7〜20のアラルキル基を示す。ただし、R2が有する水素原子の1つ以上が、フッ素原子や塩素原子等のハロゲン原子で置換されていてもよく、R1が−COCO−基の場合は、R2にアリール基は含まない。
【0016】
一般式(I)のR2において、炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等が挙げられる。これらの中では、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が特に好ましい。これらは、イソプロピル基、tert−ブチル基のように分枝したアルキル基であってもよい。
また、炭素数3〜12、好ましくは炭素数3〜7のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、炭素数2〜12、好ましくは炭素数2〜6のアルケニル基としては、ビニル基、2−プロペニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、4−ペンテニル基等が挙げられ、炭素数3〜12、好ましくは炭素数3〜7のアルキニル基としては、2−プロピニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、4−ペンチニル基、5−ヘキシニル基等が挙げられ、炭素数6〜18のアリール基としては、ペンタフルオロフェニル基、ヘプタフルオロナフチル基、パーフルオロビフェニル基等が挙げられ、炭素数7〜20のアラルキル基としては、ベンジル基、トリチル基等が挙げられる。
【0017】
1が−COCO−基である化合物の好適例としては、シュウ酸ペンタフルオロフェニルメチル、シュウ酸ペンタフルオロフェニルエチル、シュウ酸ペンタフルオロフェニルブチル、シュウ酸ペンタフルオロフェニルシクロヘキシル等が挙げられる。
これらの中では、各種物質・材料への適用性の観点から、アルキル基を有するシュウ酸ペンタフルオロフェニルメチル又はシュウ酸ペンタフルオロフェニルエチルが特に好ましい。
【0018】
1がS=O基である化合物の好適例としては、ペンタフルオロフェニルメチルサルファイト、ペンタフルオロフェニルエチルサルファイト、ペンタフルオロフェニルブチルサルファイト、ペンタフルオロフェニルシクロヘキシルサルファイト、2−プロペニルペンタフルオロフェニルサルファイト、2−プロピニルペンタフルオロフェニルサルファイト、ビス(ペンタフルオロフェニル)サルファイト等が挙げられる。
これらの中では、各種物質・材料への適用性の観点から、ペンタフルオロフェニルメチルサルファイト、ペンタフルオロフェニルエチルサルファイト、2−プロピニルペンタフルオロフェニルサルファイト、ビス(ペンタフルオロフェニル)サルファイトが好ましい。
【0019】
1がS(=O)2基である化合物の好適例としては、ペンタフルオロフェニルメチルサルフェイト、ペンタフルオロフェニルエチルサルフェイト、ペンタフルオロフェニルブチルサルフェイト、ペンタフルオロフェニルシクロヘキシルサルフェイト、2−プロペニルペンタフルオロフェニルサルフェイト、2−プロピニルペンタフルオロフェニルサルフェイト、ビス(ペンタフルオロフェニル)サルフェイト等が挙げられる。
これらの中では、各種物質・材料への適用性の観点から、ペンタフルオロフェニルメチルサルフェイト、ペンタフルオロフェニルエチルサルフェイト、ビス(ペンタフルオロフェニル)サルフェイトが好ましい。
【0020】
〔新規ペンタフルオロフェニルオキシ化合物の製造方法〕
一般式(I)で表されるペンタフルオロフェニルオキシ化合物の製造方法に特に制限はないが、本発明の方法によれば効率的に製造することができる。すなわち、ペンタフルオロフェノールと、一般式R2O−R1−X(式中、Xはハロゲン原子を示し、R1及びR2は前記と同じである。)で表される酸ハライド又はハロゲン化チオニルとを、塩基の存在下で反応させることが好ましい。
一般式R2O−R1−Xで表される酸ハライドとしては、一般式R2O−R1−Clで表される酸クロライドが好ましく、例えばクロログリオキシル酸メチル、クロログリオキシル酸エチル、クロログリオキシル酸プロピニル、クロロギ酸プロピニル等が挙げられる。また、ハロゲン化チオニルとしては、塩化チオニルが好ましい。
この反応においては、ペンタフルオロフェノール1モルに対し、酸ハライド又はハロゲン化チオニルを通常0.5〜2モル、好ましくは0.8〜1.5モル使用する。
【0021】
本発明方法で用いられる塩基としては、ピリジン、ピコリン、ルチジン、ジメチルアミノピリジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等のアミン類、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムtert−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド等が挙げられる。これらの中では、特にピリジン、ピコリン、トリエチルアミンなどのアミン類が好ましい。
塩基の使用量は、ペンタフルオロフェノール1モルに対し、通常0.01〜0.2モル、好ましくは0.02〜0.15モルである。反応は、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類等の溶媒中で行うのが好ましい。
反応温度は、通常−10℃〜80℃、好ましくは−5℃〜50℃、特に好ましくは0℃〜40℃である。
【0022】
〔非水電解液〕
本発明の非水電解液は、非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液中に、下記一般式(II)又は(III)で表されるペンタフルオロフェニルオキシ化合物を含有することを特徴とする。
【0023】
【化5】

【0024】
(式中、R3は、−COCO−基、C=O基、S=O基、又はS(=O)2を示し、R4は、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数3〜12のアルキニル基、炭素数6〜18のアリール基、又は炭素数7〜20のアラルキル基を示す。ただし、R4が有する水素原子の1つ以上がハロゲン原子で置換されていてもよい。また、R3がC=O基の場合には、R4は炭素数2〜12のアルケニル基又は炭素数3〜12のアルキニル基である。)
【0025】
【化6】

(式中、Yは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、nは1又は2を示す。)
【0026】
本発明の非水電解液において、一般式(II)又は(III)で表されるペンタフルオロフェニルオキシ化合物の含有量は、過度に多いと電池性能が低下することがあり、また、過度に少ないと期待した十分な電池性能が得られない。したがって、ペンタフルオロフェニルオキシ化合物の含有量は、非水電解液の重量に対して0.01重量%以上が好ましく、0.1重量%以上がより好ましく、0.3重量%以上が最も好ましい。またその上限は、非水電解液の重量に対して10重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましく、3重量%以下が最も好ましい。
【0027】
一般式(II)のR3の中では、サイクル特性等の電池特性向上の観点から、−COCO−基、C=O基、又はS=O基が好ましく、−COCO−基又はS=O基が特に好ましい。
一般式(II)のR4は、R4が有する水素原子のうち少なくとも1つがフッ素原子や塩素原子等のハロゲン原子で置換された、フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基であってもよい。また、R3がC=O基の場合には、R4は炭素数2〜12、好ましくは炭素数3〜6のアルケニル基又は炭素数3〜12、好ましくは炭素数3〜7のアルキニル基である。
4である、炭素数1〜12、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜12、好ましくは炭素数3〜7のシクロアルキル基、炭素数2〜12、好ましくは炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数3〜12、好ましくは炭素数3〜7のアルキニル基としては、一般式(I)のR2として、前記したものが挙げられる。
また、炭素数6〜18のアリール基としては、フェニル基、フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基等が挙げられ、炭素数7〜20のアラルキル基としては、ベンジル基、トリチル基等が挙げられる。
【0028】
3が−COCO−基である化合物の好適例としては、シュウ酸ペンタフルオロフェニルメチル、シュウ酸ペンタフルオロフェニルエチル、シュウ酸ペンタフルオロフェニルブチル、シュウ酸ペンタフルオロフェニルシクロヘキシル、シュウ酸2−プロペニルペンタフルオロフェニル、シュウ酸2−プロピニルペンタフルオロフェニル、シュウ酸ペンタフルオロフェニルフェニル、シュウ酸ビス(ペンタフルオロフェニル)、シュウ酸ペンタフルオロフェニルベンジル等が挙げられる。
これらの中では、サイクル特性等の電池特性向上の観点から、アルキル基を有するシュウ酸ペンタフルオロフェニルメチル又はシュウ酸ペンタフルオロフェニルエチル、又はアルキニル基を有するシュウ酸2−プロピニルペンタフルオロフェニルが特に好ましい。
【0029】
3がC=O基である化合物の好適例としては、ビニルペンタフルオロフェニルカーボネート、2−プロペニルペンタフルオロフェニルカーボネート、3−プロペニルペンタフルオロフェニルカーボネート、2−プロピニルペンタフルオロフェニルカーボネート、2−ブチニルペンタフルオロフェニルカーボネート、3−ブチニルペンタフルオロフェニルカーボネート、4−ペンチニルペンタフルオロフェニルカーボネート等が挙げられる。
これらの中では、サイクル特性等の電池特性向上の観点から、2−プロピニルペンタフルオロフェニルカーボネートが特に好ましい。
【0030】
3がS=O基である化合物の好適例としては、ペンタフルオロフェニルメチルサルファイト、ペンタフルオロフェニルエチルサルファイト、ペンタフルオロフェニルブチルサルファイト、ペンタフルオロフェニルシクロヘキシルサルファイト、2−プロペニルペンタフルオロフェニルサルファイト、2−プロピニルペンタフルオロフェニルサルファイト、ペンタフルオロフェニルフェニルサルファイト、ビス(ペンタフルオロフェニル)サルファイト、ペンタフルオロフェニルベンジルサルファイト等が挙げられる。
これらの中では、サイクル特性等の電池特性向上の観点から、ペンタフルオロフェニルメチルサルファイト、ペンタフルオロフェニルエチルサルファイト、2−プロピニルペンタフルオロフェニルサルファイト、ビス(ペンタフルオロフェニル)サルファイトが好ましく、ビス(ペンタフルオロフェニル)サルファイトが特に好ましい。
【0031】
3がS(=O)2基である化合物の好適例としては、ペンタフルオロフェニルメチルサルフェイト、ペンタフルオロフェニルエチルサルフェイト、ペンタフルオロフェニルブチルサルフェイト、ペンタフルオロフェニルシクロヘキシルサルフェイト、2−プロペニルペンタフルオロフェニルサルフェイト、2−プロピニルペンタフルオロフェニルサルフェイト、ペンタフルオロフェニルフェニルサルフェイト、ビス(ペンタフルオロフェニル)サルフェイト、ペンタフルオロフェニルベンジルサルフェイト等が挙げられる。
これらの中では、サイクル特性等の電池特性向上の観点から、ペンタフルオロフェニルメチルサルフェイト又はペンタフルオロフェニルエチルサルフェイト、ビス(ペンタフルオロフェニル)サルフェイトが特に好ましい。
【0032】
一般式(III)において、Yは、Li、Na、K等のアルカリ金属、又は、Ma、Ca、Ba等のアルカリ土類金属である。
一般式(III)で表されるペンタフルオロフェニルオキシ化合物の好適例としては、リチウムペンタフルオロフェノキシド、ナトリウムペンタフルオロフェノキシド、カリウムペンタフルオロフェノキシド、マグネシウムビスペンタフルオロフェノキシド、カルシウムビスペンタフルオロフェノキシド、バリウムビスペンタフルオロフェノキシド等が挙げられる。これらの中では、サイクル特性等の電池特性向上の観点から、リチウムペンタフルオロフェノキシドが特に好ましい。
【0033】
〔その他の添加剤〕
本発明の非水電解液には、充放電特性向上の観点から、一般式(II)又は(III)で表されるペンタフルオロフェニルオキシ化合物と共に、ビニレンカーボネート(VC)、1,3−プロパンスルトン(PS)、及び三重結合含有化合物から選ばれるなる一種以上を併用することが好ましい。
ビニレンカーボネート、及び1,3−プロパンスルトンの含有量は、過度に多いと電池性能が低下することがあり、また、過度に少ないと期待した十分な電池性能が得られない。したがって、ビニレンカーボネートの含有量は、非水電解液の容量に対して0.1容量%以上が好ましく、0.5容量%以上がより好ましく、1容量%以上が最も好ましい。またその上限は、非水電解液の容量に対して10容量%以下が好ましく、5容量%以下がより好ましく、3容量%以下が最も好ましい。
また、1,3−プロパンスルトンの含有量は、非水電解液の容量に対して0.1容量%以上が好ましく、0.5容量%以上がより好ましく、1容量%以上が最も好ましい。またその上限は、非水電解液の容量に対して10容量%以下が好ましく、5容量%以下がより好ましく、3容量%以下が最も好ましい。
【0034】
また、高容量電池において電池の電極合剤密度を大きくすると、一般にサイクル特性の低下がみられるが、三重結合含有化合物を併用すると、サイクル特性が向上するので好ましい。
三重結合含有化合物としては、メチルプロパルギルカーボネート(MPC)、エチルプロパルギルカーボネート(EPC)、ジプロパルギルカーボネート(DPC)、シュウ酸ジプロパルギル(DPO)、メタンスルホン酸プロパルギル、ジプロパルギルサルファイト、メチルプロパルギルサルファイト、エチルプロパルギルサルファイト等が挙げられる。
三重結合含有化合物の含有量は、非水電解液の容量に対して0.01容量%以上が好ましく、0.1容量%以上がより好ましく、0.5容量%以上が最も好ましい。またその上限は、非水電解液の容量に対して10容量%以下が好ましく、5容量%以下がより好ましく、3容量%以下が最も好ましい。
【0035】
〔非水溶媒〕
本発明の非水電解液に使用される非水溶媒としては、環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、鎖状エステル類、エーテル類、アミド類、リン酸エステル類、スルホン類、ラクトン類、ニトリル類、S=O含有化合物等が挙げられる。
環状カーボネート類としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート等が挙げられ、特に、高誘電率を有するECを含むことが最も好ましい。
鎖状カーボネート類としては、メチルエチルカーボネート(MEC)、メチルプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート等の非対称鎖状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート等の対称鎖状カーボネートが挙げられる。
【0036】
また、鎖状エステル類としては、プロピオン酸メチル、ピバリン酸メチル、ピバリン酸ブチル、ピバリン酸ヘキシル、ピバリン酸オクチル、シュウ酸ジメチル、シュウ酸エチルメチル、シュウ酸ジエチル等が挙げられ、エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン等が挙げられる。アミド類としてはジメチルホルムアミド等、リン酸エステル類としてはリン酸トリメチル、リン酸トリオクチル等、スルホン類としてはジビニルスルホン等、ラクトン類としてはγ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、α−アンゲリカラクトン等、ニトリル類としてはアセトニトリル、アジポニトリル等が挙げられる。
S=O含有化合物としては、1,4−プロパンスルトン、ジビニルスルホン、1,4−ブタンジオールジメタンスルホネート、グリコールサルファイト、プロピレンサルファイト、グリコールサルフェート、プロピレンサルフェート、ジプロパルギルサルファイト、メチルプロパルギルサルファイト、エチルプロパルギルサルファイト、ジビニルスルホン等が挙げられる。
【0037】
上記の非水溶媒は通常、適切な物性を達成するために、混合して使用される。その組合せは、例えば、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類の組合せ、環状カーボネート類とラクトン類との組合せ、ラクトン類と鎖状エステルの組合せ、環状カーボネート類とラクトン類と鎖状エステルとの組合せ、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類とラクトン類との組合せ、環状カーボネート類とエーテル類との組合せ、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類とエーテル類の組合せ、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類と鎖状エステル類との組合せなど種々の組合せが挙げられ、その混合比率は特に制限されない。
これらの中でも、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類の組合せが好ましく、具体的には、EC、PC等の環状カーボネート類と、MEC、DEC等の鎖状カーボネート類との組合せが特に好ましい。環状カーボネート類と鎖状カーボネート類の割合は、環状カーボネート類:鎖状カーボネート類(容量比)が20:80〜40:60が好ましく、25:75〜35:65が特に好ましい。
【0038】
本発明で使用される電解質塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiCF3SO3、LiC(SO2CF33、LiPF4(CF32、LiPF3(C253、LiPF3(CF33、LiPF3(iso−C373、LiPF5(iso−C37)等の鎖状のアルキル基を含有するリチウム塩や、(CF22(SO22NLi、(CF23(SO22NLi等の環状のアルキレン鎖を含有するリチウム塩が挙げられる。
これらの中でも、特に好ましい電解質塩は、LiPF6、LiBF4、LiN(SO2CF32であり、最も好ましい電解質塩はLiPF6である。これらの電解質塩は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
これらの電解質塩の好適な組合せとしては、LiPF6とLiBF4との組合せ、LiPF6とLiN(SO2CF32との組合せ、LiBF4とLiN(SO2CF32との組合せ等が挙げられる。特に好ましいのは、LiPF6とLiBF4との組合せであり、LiPF6:LiBF4(容量比)が80:20〜99:1が好ましく、90:10〜98:2が特に好ましい。
電解質塩は任意の割合で混合することができるが、LiPF6と組み合わせて使用する場合の他の電解質塩が全電解質塩に占める割合(モル比)は、好ましくは0.01〜45%、より好ましくは0.03〜20%、更に好ましくは0.05〜10%、最も好ましくは0.05〜5%である。
これら全電解質塩が溶解されて使用される濃度は、前記の非水溶媒に対して、通常0.3M以上が好ましく、0.5M以上がより好ましく、0.7M以上が最も好ましい。またその上限は、3M以下が好ましく、2.5M以下がより好ましく、2M以下が最も好ましい。
【0040】
本発明の電解液は、例えば、前記の非水溶媒を混合し、これに前記の電解質塩、ペンタフルオロフェニルオキシ化合物を溶解し、更に必要に応じてビニレンカーボネート(VC)、1,3−プロパンスルトン(PS)、及び三重結合含有化合物から選ばれる一種以上を溶解することにより得ることができる。
この際、用いる非水溶媒、ペンタフルオロフェニルオキシ化合物、VC、PS、三重結合含有化合物、その他の添加剤は、生産性を著しく低下させない範囲内で、予め精製して、不純物が極力少ないものを用いることが好ましい。
【0041】
本発明の非水電解液には、例えば、空気や二酸化炭素を含ませることにより、電解液の分解によるガス発生の抑制や、長期サイクル特性や充電保存特性等の電池特性を向上させることができる。
非水電解液中に空気又は二酸化炭素を含有(溶解)させる方法としては、(1)予め非水電解液を電池内に注液する前に空気又は二酸化炭素含有ガスと接触させて含有させる方法、(2)注液後、電池封口前又は後に空気又は二酸化炭素含有ガスを電池内に含有させる方法等を採用することができる。空気又は二酸化炭素含有ガスは、極力水分を含まないものが好ましく、露点−40℃以下であることが好ましく、露点−50℃以下であることが特に好ましい。
本発明においては、高温における充放電特性向上の観点から、非水電解液中に二酸化炭素を溶解させた電解液を用いることが特に好ましい。二酸化炭素の溶解量は、非水電解液の重量に対して0.001重量%以上が好ましく、0.05重量%以上がより好ましく、0.2重量%以上がより好ましく、非水電解液に二酸化炭素を飽和するまで溶解させることが最も好ましい。
【0042】
本発明の電解液においては、さらに芳香族化合物を含有させることにより、過充電時の電池の安全性を確保することができる。
かかる芳香族化合物としては、例えば、次の(a)〜(c)が挙げられる。
(a)シクロヘキシルベンゼン、フルオロシクロヘキシルベンゼン化合物(1−フルオロ−2−シクロヘキシルベンゼン、1−フルオロ−3−シクロヘキシルベンゼン、1−フルオロ−4−シクロヘキシルベンゼン)、ビフェニル。
(b)tert−ブチルベンゼン、1−フルオロ−4−tert−ブチルベンゼン、tert−アミルベンゼン、4−tert−ブチルビフェニル、4−tert−アミルビフェニル。
(c)ターフェニル(o−、m−、p−体)、ジフェニルエーテル、2−フルオロジフェニルエーテル、4−ジフェニルエーテル、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン(o−、m−、p−体)、2−フルオロビフェニル、4−フルオロビフェニル、2,4−ジフルオロアニソール、ターフェニルの部分水素化物(1,2−ジシクロヘキシルベンゼン、2−フェニルビシクロヘキシル、1,2−ジフェニルシクロヘキサン、o−シクロヘキシルビフェニル)。
これらの中では、(a)及び(b)が好ましく、シクロヘキシルベンゼン、フルオロシクロヘキシルベンゼン化合物(1−フルオロ−4−シクロヘキシルベンゼン等)、tert−ブチルベンゼン、tert−アミルベンゼンから選ばれる1種以上が最も好ましい。
前記芳香族化合物の全含有量は、非水電解液の重量に対して0.1〜5重量%が好ましい。
【0043】
〔リチウム二次電池〕
本発明のリチウム二次電池は、正極、負極及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液からなる。非水電解液以外の正極、負極等の構成部材は特に制限なく使用できる。
例えば、正極活物質としては、コバルト、マンガン、ニッケルを含有するリチウムとの複合金属酸化物が使用される。これらの正極活物質は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
このような複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO2、LiMn24、LiNiO2、LiCo1-xNix2(0.01<x<1)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/32、LiNi1/2Mn3/24等が挙げられる。また、LiCoO2とLiMn24、LiCoO2とLiNiO2、LiMn24とLiNiO2のように併用してもよい。これらの中では、LiCoO2、LiMn24、LiNiO2のような満充電状態における正極の充電電位がLi基準で4.3V以上で使用可能なリチウム複合金属酸化物が好ましく、LiCo1/3Ni1/3Mn1/32、LiNi1/2Mn3/24のような4.4V以上で使用可能なリチウム複合酸化物がより好ましい。また、リチウム複合酸化物の一部は他元素で置換してもよく、例えば、LiCoO2のCoの一部をSn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、Cu等で置換してもよい。
【0044】
また、正極活物質として、リチウム含有オリビン型リン酸塩を用いることもできる。その具体例としては、LiFePO4、LiCoPO4、LiNiPO4、LiMnPO4、LiFe1-xxPO4(MはCo、Ni、Mn、Cu、Zn、及びCdから選ばれる少なくとも1種であり、xは、0≦x≦0.5である。)等が挙げられる。これらの中では、LiFePO4又はLiCoPO4が高電圧用正極活物質として好ましい。
リチウム含有オリビン型リン酸塩は、他の正極活物質と混合して用いることもできる。
【0045】
正極の導電剤は、化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チェンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類等が挙げられる。また、グラファイト類とカーボンブラック類を適宜混合して用いてもよい。導電剤の正極合剤への添加量は、1〜10重量%が好ましく、特に2〜5重量%が好ましい。
【0046】
正極は、正極活物質をアセチレンブラック、カーボンブラック等の導電剤、及びポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、スチレンとブタジエンの共重合体、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体、カルボキシメチルセルロース、エチレンプロピレンジエンターポリマー等の結着剤と混合し、これに1−メチル−2−ピロリドン等の高沸点溶剤を加えて混練して正極合剤とした後、この正極材料を集電体としてのアルミニウム箔やステンレス製のラス板に圧延して、50℃〜250℃程度の温度で2時間程度真空下で加熱処理することにより作製することができる。
【0047】
負極(負極活物質)としては、リチウム金属やリチウム合金、及びリチウムを吸蔵・放出可能な炭素材料〔熱分解炭素類、コークス類、グラファイト類(人造黒鉛、天然黒鉛等)、有機高分子化合物燃焼体、炭素繊維〕、スズ、スズ化合物、ケイ素、ケイ素化合物等を1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中では、炭素材料が好ましく、格子面(002)の面間隔(d002)が0.340nm以下、特に0.335〜0.340nmである黒鉛型結晶構造を有する炭素材料がより好ましい。
負極の製造は、上記の正極の製造方法と同様な結着剤、高沸点溶剤を用いて、同様な方法により行うことができる。
【0048】
本発明においては、一般式(II)又は(III)で表されるペンタフルオロフェニルオキシ化合物の添加効果を高めるために、電池の電極合剤密度を高めることが好ましい。特に、アルミニウム箔上に形成される正極(正極合剤層)の密度は3.2g/cm3以上が好ましく、3.3g/cm3以上がより好ましく、3.4g/cm3以上が最も好ましい。またその上限は、4.0g/cm3を超えると実質上作製が困難となる場合があるため、4.0g/cm3以下が好ましく、3.9g/cm3以下がより好ましく、3.8g/cm3以下が最も好ましい。
一方、銅箔上に形成される負極(負極合剤層)の密度は、1.3g/cm3以上が好ましく、1.4g/cm3がより好ましく、1.5g/cm3が最も好ましい。その上限は、2.0g/cm3を超えると実質上作製が困難となる場合があるため、2.0g/cm3以下が好ましく、1.9g/cm3以下がより好ましく、1.8g/cm3以下が最も好ましい。
【0049】
また、正極の電極層の厚さ(集電体片面当たり)は、電極材料層の厚みが薄すぎると、電極材料層での活物質量が低下して電池容量が小さくなるため、30μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい。また、その厚さが厚すぎると、充放電のサイクル特性やレート特性が低下するので好ましくない。したがって、正極の電極層の厚さは、120μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。
負極の電極層の厚さ(集電体片面当たり)は薄すぎると、電極材料層での活物質量が低下して電池容量が小さくなるため、1μm以上が好ましく、3μmがより好ましい。また、その厚さが厚すぎると、充放電のサイクル特性やレート特性が低下するので好ましくない。したがって、負極の電極層の厚さは、100μm以下が好ましく、70μm以下がより好ましい。
【0050】
リチウム二次電池の構造には特に限定はなく、単層又は複層のセパレータを有するコイン型電池、円筒型電池、角型電池、ラミネート式電池等を適用できる。
電池用セパレータとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンの単層又は積層の多孔性フィルム、織布、不織布等を使用できる。
電池用セパレータは、製造条件によっても異なるが、透気度が高すぎるとリチウムイオン伝導性が低下し、電池用セパレータとしての機能が十分でなくなる。そのため、透気度は1000秒/100cc以下が好ましく、800秒/100cc以下がより好ましく、500秒/100cc以下が最も好ましい。また逆に、透気度が低すぎると機械的強度が低下するので、50秒/100cc以上が好ましく、100秒/100cc以上がより好ましく、300秒/100cc以上が最も好ましい。その空孔率は、電池容量特性向上の観点から、30〜60%が好ましく、35〜55%がより好ましく、40〜50%が最も好ましい。
さらに、電池用セパレータの厚みは、薄い方がエネルギー密度を高くできるため、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、25μm以下が最も好ましい。また、機械的強度の面から、その厚みは5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、15μm以上が最も好ましい。
【0051】
本発明におけるリチウム二次電池は、充電終止電圧が4.2V以上、特に4.3V以上の場合にも長期間にわたり優れたサイクル特性を有しており、さらに、4.4Vにおいてもサイクル特性は良好である。放電終止電圧は、2.5V以上、さらに2.8V以上とすることができる。電流値については特に限定されないが、通常0.1〜3Cの定電流放電で使用される。また、本発明におけるリチウム二次電池は、−40〜100℃、好ましくは0〜80℃で充放電することができる。
【0052】
本発明においては、リチウム二次電池の内圧上昇の対策として、封口板に安全弁を設けたり、電池缶やガスケット等の部材に切り込みを入れる方法も採用することができる。
本発明におけるリチウム二次電池は、必要に応じて複数本を直列及び/又は並列に組んで電池パックに収納される。電池パックには、PTC素子、温度ヒューズ、バイメタル等の過電流防止素子のほか、安全回路(各電池及び/又は組電池全体の電圧、温度、電流等をモニターし、電流を遮断する機能を有する回路)を設けることができる。
【実施例】
【0053】
本発明について円筒型電池の実施例及び比較例を説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、特に溶媒の組み合わせ等に限定されるものではない。
【0054】
実施例1(シュウ酸ペンタフルオロフェニルメチルの合成)
ペンタフルオロフェノール10g(54mmol)とピリジン5ml(61mmol)をトルエン35mlに溶解し、氷冷下、クロログリオキシル酸メチル7.2g(59mmol)を滴下して反応させた。室温で1時間攪拌した後、反応液を濾過、濃縮した。得られた粗生成物の蒸留精製を行い、シュウ酸ペンタフルオロフェニルメチル10.1gを得た。この化合物の融点は34−35℃であった。
得られたシュウ酸ペンタフルオロフェニルメチルについて、質量分析(株式会社日立製作所製、型式:M80B使用)、及び赤外分光分析(IR)(米国バリアン社製、型式:FTS7000E使用)の測定を行い、その構造を確認した。結果を以下に示す。
(1)質量分析:CI−MS、m/e=271(M+1)
(2)IR:1805、1766、1522、1308、1149、1123、999cm-1
【0055】
実施例2(シュウ酸ペンタフルオロフェニルエチルの合成)
ペンタフルオロフェノール16.5g(90mmol)とピリジン8ml(99mmol)をトルエン50mlに溶解し、氷冷下、クロログリオキシル酸エチル12.9g(94mmol)を滴下して反応させた。室温で1時間攪拌した後、反応液を濾過、濃縮した。得られた粗生成物の蒸留精製を行い、シュウ酸ペンタフルオロフェニルエチル13.5g(無色液体)を得た。この化合物の沸点は70−71℃/2mmHgであった。
得られたシュウ酸ペンタフルオロフェニルエチルについて、合成例1と同様にして、質量分析とIRの測定を行い、その構造を確認した。結果を以下に示す。
(1)質量分析:CI−MS、m/e=285(M+1)
(2)IR:2992、1805、1761、1521、1473、1305、1149、1122、991、859cm-1
【0056】
実施例3(シュウ酸2−プロピニルペンタフルオロフェニルの合成)
塩化オキサリル10g(79mmol)を塩化メチレン100mlに溶解し、氷冷下、プロパルギルアルコール4.4g(79mmol)とピリジン6.4ml(79mmol)を塩化メチレン30mlに溶解したものを1時間かけてゆっくりと滴下し、室温下で30分攪拌、反応系中にてクロログリオキシル酸プロピニルを生成させた。引き続き、氷冷下、ペンタフルオロフェノール14.5g(79mmol)とピリジン6.4ml(79mmol)を塩化メチレン30mlに溶解したものをゆっくりと滴下して反応させた。室温下で1時間攪拌した後、反応物を濾過し、水洗後、無水硫酸マグネシウムで乾燥、濃縮した。得られた粗生成物を晶析精製し、シュウ酸2−プロピニルペンタフルオロフェニル2.1gを得た。
得られたシュウ酸2−プロピニルペンタフルオロフェニルについて、1H−NMR(日本電子株式会社製、型式:AL300使用)と前記IRの測定を行い、その構造を確認した。結果を以下に示す。
(1)1H−NMR(CDCl3/TMS):2.59ppm(s,1H,C≡CH)、4.89ppm(s,2H,−CH2−)
(2)IR: 3249、1744、1182、943、729,715cm-1
【0057】
実施例4(ビス(ペンタフルオロフェニル)サルファイトの合成)
ペンタフルオロフェノール10g(54mmol)とピリジン5ml(61mmol)をトルエン35mlに溶解し、氷冷下、塩化チオニル3.3g(28mmol)を滴下して反応させた。その後、蒸留精製を行い、ビス(ペンタフルオロフェニル)サルファイト7.6g(無色液体)を得た。この化合物の沸点は95−95.5℃/2mmHgであった。
得られたビス(ペンタフルオロフェニル)サルファイトについて、合成例1と同様にして、質量分析とIRの測定を行い、その構造を確認した。結果を以下に示す。
(1)質量分析:CI−MS、m/e=415(M+1)
(2)IR:1517、1467、1313、1252、1140、997、984cm-1
【0058】
実施例5(2−プロピニルペンタフルオロフェニルカーボネートの合成)
トリホスゲン7.3g(25mmol)を塩化メチレン100mlに溶解し、氷冷下、プロパルギルアルコール4.2g(74mmol)とピリジン6.0ml(74mmol)を塩化メチレン30mlに溶解したものを1時間かけてゆっくりと滴下し、室温下で30分攪拌、反応系中にてクロロギ酸プロピニルを生成させた。引き続き、氷冷下、ペンタフルオロフェノール13.7g(74mmol)とピリジン6.0ml(74mmol)を塩化メチレン30mlに溶解したものをゆっくりと滴下して反応させた。室温下で1時間攪拌した後、反応物を濾過し、水洗後、無水硫酸マグネシウムで乾燥、濃縮した。得られた粗生成物を晶析精製し、2−プロピニルペンタフルオロフェニルカーボネート7.5gを得た。この化合物の融点は66−67℃であった。
得られた2−プロピニルペンタフルオロフェニルカーボネートについて、合成例1と同様にして、質量分析とIRの測定を行い、その構造を確認した。結果を以下に示す。
(1)質量分析:CI−MS、m/e=267(M+1)
(2)IR:3286、1783、1524、1439、1377、1278、1234、1162、1007、993、977、941、910、774、723、659cm-1
【0059】
実施例6
〔非水電解液の調製〕
乾燥窒素雰囲気下で、エチレンカーボネート(EC):ビニレンカーボネート(VC):メチルエチルカーボネート(MEC)(容量比)=30:2:68の非水溶媒を調製し、これに電解質塩としてLiPF6及びLiBF4をそれぞれ、0.95M、0.05Mの濃度になるように溶解して非水電解液を調製した後、更に非水電解液に対してシュウ酸ペンタフルオロフェニルメチルを1重量%となるように加えた。
〔リチウム二次電池の作製〕
正極の調製は、LiNi1/3Mn1/3Co1/32(正極活物質)を94重量%、アセチレンブラック(導電剤)を3重量%、ポリフッ化ビニリデン(結着剤)を3重量%の割合で混合し、これに1−メチル−2−ピロリドン溶剤を加えて混合したものをアルミニウム箔上に塗布し、乾燥、加圧成型、加熱処理して行った。
負極の調製は、格子面(002)の面間隔(d002)が0.335nmである黒鉛型結晶構造を有する人造黒鉛(負極活物質)を95重量%、ポリフッ化ビニリデン(結着剤)を5重量%の割合で混合し、これに1−メチル−2−ピロリドン溶剤を加え、混合したものを銅箔上に塗布し、乾燥、加圧成型、加熱処理して行った。
ポリエチレン微多孔性フィルムのセパレータを用い、上記で得られた非水電解液を注入後、露点−60℃の二酸化炭素を非水電解液に飽和するまで含有させて電池を封口し、18650サイズの円筒電池(直径18mm、高さ65mm)を作製した。電池には、圧力開放口及び内部電流遮断装置(PTC素子)を設けた。この時、正極の電極密度は3.5g/cm3であり、負極の電極密度は1.6g/cm3であった。正極の電極層の厚さ(集電体片面当たり)は70μmであり、負極の電極層の厚さ(集電体片面当たり)は60μmであった。
〔電池特性の測定〕
得られた18650電池を用いて、常温(25℃)下、2.2A(1C)の定電流で4.2Vまで充電した後、終止電圧4.2Vとして定電圧下に合計3時間充電した。次に2.2A(1C)の定電流下、終止電圧3.0Vまで放電し、この充放電を繰り返した。初期充放電容量は、シュウ酸ペンタフルオロフェニルメチルを添加しない0.95M LiPF6+0.05M LiBF4−EC:VC:MEC(容量比)=30:2:68を非水電解液として用いた場合(比較例1)とほぼ同等であり、300サイクル後の電池特性を測定したところ、初期放電容量を100%としたときの放電容量維持率は81%であった。
電池の作製条件及び電池特性の結果を表1に示す。
【0060】
実施例7
実施例6において、シュウ酸ペンタフルオロフェニルメチルに代えて、シュウ酸2−プロピニルペンタフルオロフェニルを用いた他は、実施例6と同様にして円筒電池を作製し、電池特性を測定した。結果を表1に示す。
実施例8
実施例6において、シュウ酸ペンタフルオロフェニルメチルに代えて、ビス(ペンタフルオロフェニル)サルファイトを用いた他は、実施例6と同様にして円筒電池を作製し、電池特性を測定した。結果を表1に示す。
実施例9
実施例6において、シュウ酸ペンタフルオロフェニルメチルに代えて、2−プロピニルペンタフルオロフェニルカーボネートを用いた他は、実施例6と同様にして円筒電池を作製し、電池特性を測定した。結果を表1に示す。
【0061】
実施例10
実施例6において、シュウ酸ペンタフルオロフェニルメチルに代えて、シュウ酸ビス(ペンタフルオロフェニル)を用いて、非水電解液に対して0.1重量%使用した他は、実施例6と同様にして円筒電池を作製し、電池特性を測定した。結果を表1に示す。
実施例11
実施例6において、シュウ酸ペンタフルオロフェニルメチルの添加量を0.5重量%、さらに、メチルプロパルギルカーボネートを0.5重量%添加した他は、実施例6と同様にして円筒電池を作製し、電池特性を測定した。結果を表1に示す。
【0062】
比較例1
実施例6において、シュウ酸ペンタフルオロフェニルメチルを添加しなかった他は、実施例6と同様にして円筒電池を作製し、電池特性を測定した。結果を表1に示す。
比較例2及び3
実施例6において、シュウ酸ペンタフルオロフェニルメチルに代えて、表1に示す化合物を用いた他は、実施例6と同様にして円筒電池を作製し、電池特性を測定した。結果を表1に示す。
【0063】
実施例12
乾燥窒素雰囲気下で、エチレンカーボネート(EC):1,3−プロパンスルトン(PS):メチルエチルカーボネート(MEC)(容量比)=30:2:68の非水溶媒を調製し、これに電解質塩としてLiPF6及びLiBF4をそれぞれ、0.95M、0.05Mの濃度になるように溶解して非水電解液を調製した後、更に非水電解液に対してシュウ酸ペンタフルオロフェニルエチルを用いた他は、実施例6と同様にして円筒電池を作製し、電池特性を測定した。結果を表1に示す。
実施例13
実施例12において、シュウ酸ペンタフルオロフェニルメチルに代えて、リチウムペンタフルオロフェノキシドを0.05重量%使用した他は、実施例12と同様にして円筒電池を作製し、電池特性を測定した。結果を表1に示す。
【0064】
比較例4
実施例12において、シュウ酸ペンタフルオロフェニルメチルを添加しなかった他は、実施例12と同様にして円筒電池を作製し、電池特性を測定した。結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
上記実施例のリチウム二次電池は、一般式(II)又は(III)で表されるペンタフルオロフェニルオキシ化合物を含有しない比較例のリチウム二次電池に比べて、長期サイクル特性及び充電保存特性が優れていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるペンタフルオロフェニルオキシ化合物。
【化1】

(式中、R1は、−COCO−基、S=O基、又はS(=O)2基を示し、R2は、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数3〜12のアルキニル基、炭素数6〜18のアリール基、又は炭素数7〜20のアラルキル基を示す。ただし、R2が有する水素原子の1つ以上がハロゲン原子で置換されていてもよく、R1が−COCO−基の場合は、R2にアリール基は含まない。)
【請求項2】
ペンタフルオロフェノールと、一般式R2O−R1−X(式中、Xはハロゲン原子を示し、R1及びR2は前記と同じである。)で表される酸ハライド又はハロゲン化チオニルとを、塩基の存在下で反応させることを特徴とする、下記一般式(I)で表されるペンタフルオロフェニルオキシ化合物の製造方法。
【化2】

(式中、R1及びR2は前記と同じである。)
【請求項3】
非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、該非水電解液中に下記一般式(II)又は(III)で表されるペンタフルオロフェニルオキシ化合物を含有することを特徴とする非水電解液。
【化3】

(式中、R3は、−COCO−基、C=O基、S=O基、又はS(=O)2を示し、R4は、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数3〜12のアルキニル基、炭素数6〜18のアリール基、又は炭素数7〜20のアラルキル基を示す。ただし、R4が有する水素原子の1つ以上がハロゲン原子で置換されていてもよい。また、R3がC=O基の場合には、R4は炭素数2〜12のアルケニル基又は炭素数3〜12のアルキニル基である。)
【化4】

(式中、Yは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、nは1又は2を示す。)
【請求項4】
一般式(II)又は(III)で表されるペンタフルオロフェニルオキシ化合物の含有量が、非水電解液の重量に対して0.01〜10重量%である請求項3に記載の非水電解液。
【請求項5】
非水溶媒が、環状カーボネート類及び鎖状カーボネート類を含有する請求項3又は4に記載の非水電解液。
【請求項6】
非水電解液が、更にビニレンカーボネート、1,3−プロパンスルトン及び三重結合含有化合物から選ばれる一種以上を含有する請求項3〜5のいずれかに記載の非水電解液。
【請求項7】
正極、負極及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液からなるリチウム二次電池において、該非水電解液中に下記一般式(II)又は(III)で表されるペンタフルオロフェニルオキシ化合物が含有されていることを特徴とするリチウム二次電池。
【化5】

(式中、R3及びR4は前記と同じである。)
【化6】

(式中、Yは前記と同じである。)

【公開番号】特開2007−112737(P2007−112737A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−304850(P2005−304850)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】