説明

ページ記述データ処理装置、方法及びプログラム並びに印刷物生産方法

【課題】特定のシェーディングパターンを含むページ記述データに対してラスタライズ処理を行う際に生じ得る印刷不具合を防止可能なページ記述データ処理装置、方法及びプログラム並びに印刷物生産方法を提供する。
【解決手段】描画領域201の一部(シェーディングパターン202の領域)をシェーディングで塗り潰し、且つ、背景部204を所定の背景色で均一に塗り潰す描画オブジェクト200を記述するオペレータ群100を、第1オペレータ群106と第2オペレータ群108とに置換する。第1オペレータ群106は、描画領域201の全体を前記背景色で均一に塗り潰す第1描画オブジェクト206を記述する。第2オペレータ群108は、描画領域201の一部をシェーディングで塗り潰す第2描画オブジェクト208を記述する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ページ記述言語(Page Description Language;PDL)で記述されたページ記述データのうち、所定の属性を有するページ記述データに対して特定の処理を行い、よりロバスト性を有するページ記述データ(この明細書において、ロバスト化ページ記述データという。)に変換するページ記述データ処理装置、方法及びプログラム並びに印刷物生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、印刷製版の分野において、オペレータがコンピュータを利用して作った文字や画像を、DTP(DeskTop Publishing)アプリケーションソフトウエアが組み込まれた前記コンピュータを使って電子的なページに組み込むDTP処理が普及している。
【0003】
上記のDTPアプリケーションソフトウエアでは、作業者によって編集された文字や画像等の要素を基に、ページ毎のイメージを表現するページ記述データが作成される。
【0004】
ページ記述データは、プリンタやプレートセッタ等の出力機の解像度等に依存しないベクトルデータであり、このままでは出力機から出力することができない。そこで、ページ記述データをRIP(Raster Image Processor)でラスタライズ処理(標本化)することにより、ページを構成する文字や画像等の要素を画素(ドット)の集合として表すラスタイメージデータに変換する。
【0005】
ラスタイメージデータが、プリンタあるいはプレートセッタ等の出力機に供給されると、出力機は、ラスタイメージデータに基づく画像を形成したハードコピーあるいは刷版を出力する(特許文献1参考)。
【0006】
ところで、ページ記述データの一種であるPDF(Portable Document File)version1.3には、ペイント対象領域を覆う滑らかな色の変化を制御する「シェーディングパターン」(オペレータあるいは辞書)が実装されている。このシェーディングパターンには、軸・円形に沿って色が変化するタイプのみならず、関数ベースで色が変化するタイプも適用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−70957号公報([0003])
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】PDFリファレンス 第2版、 Adobe Portable Document Format Version1.3、2008年11月20日初版第5刷発行、著者;アドビシステムズ、発行所;株式会社ピアソン・エデュケーション、ISBN4−89471−338−1、106−109ページ、185−212ページ等参照。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、PDFの上記仕様を用いて、種々のシェーディングパターンを生成した後、RIPによりラスタライズ処理する場合に予期しない問題が生じ得る場合がある。
【0010】
例えば、図9Aに示す描画オブジェクト2の描画領域3には、所定の色(背景色)に均一に塗り潰された背景部4と、円形状のシェーディングパターン6とが設けられている。
【0011】
シェーディングパターン6において、シェーディングを開始する円(以下、開始円という。)の中心座標Oは(0,0)であり、その半径は50である。一方、シェーディングを終了する円(以下、終了円という。)の中心座標は(−35,−35)であり、その半径は10である。
【0012】
この描画オブジェクト2の記述方法は、ページ記述データ作成ソフトウエアの種類及びバージョンにより異なる場合がある。第1例として、矩形状の第1描画オブジェクト(描画オブジェクト2)に、該第1描画オブジェクトとは独立した円形状の第2描画オブジェクト(シェーディングパターン6)が重畳していると記述することができる。第2例として、1個の描画オブジェクト2のうち描画領域3の全体を背景色で均一に塗り潰し、その上に上書きして、所定の円領域をシェーディングパターン6として再度塗り潰していると記述することができる。また、第2例の中でも、シェーディングで上書きして塗り潰す適用範囲を、前記円領域内に限定(クリッピングパスを設定)することもできるし、あるいは描画領域3の全体にまで及ぶようにしてもよい。
【0013】
同一の描画内容であるが記述方法がそれぞれ異なるページ記述データをラスタライズ処理する際、RIPの演算アルゴリズムやソフトウエアバージョンに応じて、目論見と異なる処理結果が得られる場合がある。本発明者の実験結果によれば、図9B例に示すように、シェーディングパターン6(図9A参照)の代わりに、その左下部が三日月状に突出したシェーディングパターン8が描画される場合があった。
【0014】
このように、特定のシェーディングパターンを生成する際、記述方法とRIPとの組み合わせに応じて、目論見と異なるシェーディングの塗り潰しが実行される場合がある。そのため、特定のシェーディングパターンを含むページ記述データに対してラスタライズ処理する場合、発生原因の特定が困難である予期しない印刷不具合の一因となり得る。例えば、シェーディング辞書に「Background」属性(背景色を指定するエントリ)を付加したページ記述データをラスタライズ処理する場合、特に顕在化する傾向があった。
【0015】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、特定のシェーディングパターンを含むページ記述データに対してラスタライズ処理を行う際に生じ得る印刷不具合を防止可能なページ記述データ処理装置、方法及びプログラム並びに印刷物生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係るページ記述データ処理装置は、入力されたページ記述データの中から、描画領域の一部をシェーディングで塗り潰し、且つ、残余の領域を所定の背景色で均一に塗り潰す特定描画オブジェクトの有無を識別する特定描画オブジェクト識別部と、前記特定描画オブジェクト識別部により前記特定描画オブジェクトがあると識別された場合に、該特定描画オブジェクトを記述するオペレータ群を、前記描画領域の全体を前記背景色で均一に塗り潰す第1描画オブジェクトを記述する第1オペレータ群と、前記描画領域の一部をシェーディングで塗り潰す第2描画オブジェクトを記述する第2オペレータ群とに置換するオペレータ置換部とを有することを特徴とする。
【0017】
また、前記特定描画オブジェクト識別部は、前記オペレータ群の中に、前記描画領域を定義する領域定義オペレータがあると識別し、且つ、前記描画領域の前記背景色が指定されたシェーディングオペレータがあると判別した場合に、前記特定描画オブジェクトがあると識別することが好ましい。
【0018】
さらに、前記オペレータ置換部は、前記第1オペレータ群の直後に前記第2オペレータ群が実行されるように置換することが好ましい。
【0019】
本発明に係るページ記述データ処理方法は、入力されたページ記述データの中から、描画領域の一部をシェーディングで塗り潰し、且つ、残余の領域を所定の背景色で均一に塗り潰す特定描画オブジェクトの有無を識別するステップと、前記特定描画オブジェクトがあると識別された場合に、該特定描画オブジェクトを記述するオペレータ群を、前記描画領域の全体を前記背景色で均一に塗り潰す第1描画オブジェクトを記述する第1オペレータ群と、前記描画領域の一部をシェーディングで塗り潰す第2描画オブジェクトを記述する第2オペレータ群とに置換するステップとを備えることを特徴とする。
【0020】
本発明に係るプログラムは、コンピュータを、入力されたページ記述データの中から、描画領域の一部をシェーディングで塗り潰し、且つ、残余の領域を所定の背景色で均一に塗り潰す特定描画オブジェクトの有無を識別する特定描画オブジェクト識別部、前記特定描画オブジェクトがあると識別された場合に、該特定描画オブジェクトを記述するオペレータ群を、前記描画領域の全体を前記背景色で均一に塗り潰す第1描画オブジェクトを記述する第1オペレータ群と、前記描画領域の一部をシェーディングで塗り潰す第2描画オブジェクトを記述する第2オペレータ群とに置換するオペレータ置換部として機能させることを特徴とする。
【0021】
また、前記識別ステップでは、前記オペレータ群の中に、前記描画領域を定義する領域定義オペレータがあると識別し、且つ、前記描画領域の前記背景色が指定されたシェーディングオペレータがあると判別した場合に、前記特定描画オブジェクトがあると識別することが好ましい。
【0022】
さらに、前記置換ステップでは、前記第1オペレータ群の直後に前記第2オペレータ群が実行されるように置換することが好ましい。
【0023】
本発明に係る印刷物生産方法は、印刷しようとするページ記述データに基づいて校正画像を出力する校正ステップと、上記したいずれかのページ記述データ処理方法を用いて、前記校正ステップの実行前に前記ページ記述データを処理する処理ステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るページ記述データ処理装置、方法及びプログラム並びに印刷物生産方法によれば、描画領域の一部をシェーディングで塗り潰し、且つ、残余の領域を所定の背景色で均一に塗り潰す特定描画オブジェクトがあると識別された場合に、該特定描画オブジェクトを記述するオペレータ群を、前記描画領域の全体を前記背景色で均一に塗り潰す第1描画オブジェクトを記述する第1オペレータ群と、前記描画領域の一部をシェーディングで塗り潰す第2描画オブジェクトを記述する第2オペレータ群とに置換するようにしたので、RIPによるラスタライズの過程で、描画領域の全体を背景色で均一に塗り潰す処理と、前記描画領域の一部をシェーディングで塗り潰す処理とが相互に影響を受けることなく確実に実行される。すなわち、シェーディングパターンの描画結果が不定になる現象を未然に防止可能である。これにより、特定のシェーディングパターンを含むページ記述データに対してラスタライズ処理を行う際に生じ得る印刷不具合を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施の形態に係るページ記述データ処理方法を実施する出版システムの概略構成図である。
【図2】図1に示すページ記述データ処理装置の機能ブロック図である。
【図3】本実施の形態に係るページ記述データ処理装置の動作説明に供されるフローチャートである。
【図4】入力されたページ記述データ(PDFファイル)の一例を示す説明図である。
【図5】シェーディングオペレータの分離・置換方法を説明するフローチャートである。
【図6】図6A〜図6Dは、シェーディングオペレータの分離・置換過程を説明するための模式図である。
【図7】図7A及び図7Bは、図4に示すページ記述データの置換経過を表す概略説明図である。
【図8】図4に示すページ記述データに対し、本実施の形態に係るページ記述データ処理方法を用いて得られたページ記述データの一例を示す説明図である。
【図9】図9Aは、描画オブジェクトの適切な描画内容を表す概略説明図である。図9Bは、描画オブジェクトの適切でない描画例を表す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係るページ記述データ処理装置、方法及びプログラムの実施形態について、これを実施する出版システムを例として、添付の図面を参照しながら説明する。
【0027】
図1は、本実施の形態に係るページ記述データ処理方法を実施する出版システム10の概略構成図を示している。
【0028】
出版システム10は、プリプレス工程と印刷工程並びに図示しない製本工程とから構成される。
【0029】
プリプレス工程には、DTPコンピュータ12と、パーソナルコンピュータ等により構成されるページ記述データ処理装置14と、RIP16と、プリンタ20と、プレートセッタ22とが備えられる。
【0030】
DTPコンピュータ12は、オペレータによって編集された文字や画像等の要素を基に、ページ毎のイメージを表現するページ記述言語で記述されたページ記述データDpを作成する。
【0031】
ページ記述データ処理装置14は、DTPコンピュータ12から出力されたページ記述データDpの内容(属性)を調べ、調査結果に応じて、所定の属性を有するページ記述データDpに対して特定の処理を行い、処理後のロバスト化ページ記述データDp´を作成するか、所定の属性を有さないページ記述データDpをそのまま出力する。なお、ページ記述データ処理装置14による処理機能は、DTPコンピュータ12に一体的に組み込み、ページ記述データ処理装置14を省略することもできる。
【0032】
RIP16は、ページ記述データ処理装置14から出力されたページ記述データDp又はロバスト化ページ記述データDp´を、例えばCMYK4版それぞれのラスタイメージデータDrに変換する。
【0033】
プリンタ20は、ラスタイメージデータDrに基づきハードコピーであるプルーフ18(校正画像)を出力する。
【0034】
プレートセッタ22は、プリンタ20によりプリントされたプルーフ18がオペレータによってOKであると判断された場合に、オペレータによる開始スイッチの操作後、RIP16の出力であるラスタイメージデータDrからCMYK4版のそれぞれの刷版PPを作成して出力する。
【0035】
印刷工程には、印刷機24が備えられる。印刷機24には、CMYK4版の刷版PPが装着され、刷版PPに担持されたCMYKのインキが本紙上に転移されて多色(4色)刷りが行われることで印刷物26が完成する。
【0036】
図2は、ページ記述データ処理装置14のCPUがROMに記録されたプログラムを実行することで実現される機能のブロック図を示している。
【0037】
ページ記述データ処理装置14は、入力I/F(インタフェース)32を通じて入力したページ記述データDpを分析処理したロバスト化ページ記述データDp´を作成し又は手を加えない元のままのページ記述データDpを作成し、出力I/F(インタフェース)34を通じて出力する。
【0038】
ページ記述データ処理装置14は、上記した入力I/F32、出力I/F34のほか、特定の描画オブジェクト(特定描画オブジェクト)の有無を識別する描画オブジェクト識別部36(特定描画オブジェクト識別部)と、特定の描画オブジェクトがあると識別された場合に前記描画オブジェクトを記述するオペレータ群を置換するオペレータ置換部38とを備える。
【0039】
本明細書中の「描画オブジェクト」は、二次元グラフィクス(又は三次元グラフィクス)の各構成要素を意味し、ソフトウエア工学の技術分野で用いられる「オブジェクト」よりも狭い概念である。また、「オペレータ群」には、複数のオペレータの集合のみならず、単一のオペレータも含まれるものとする。
【0040】
描画オブジェクト識別部36は、ページ記述データDpの構造を解析する構造解析部40と、領域定義オペレータの有無を識別する領域定義オペレータ識別部42と、描画領域の背景色が指定されたシェーディングオペレータの有無を判別するシェーディングオペレータ判別部44とを備える。
【0041】
なお、本明細書における「領域定義オペレータ」は、描画領域(閉領域)を定義するパスオブジェクトの記述に用いるオペレータ群である。「パスオブジェクト」は、直線、矩形、曲線(例えば3次ベジェ曲線)で構成される任意の形状である。
【0042】
また、本明細書における「シェーディングオペレータ」は、ペイント対象領域を覆う滑らかな色の変化を制御するオペレータをいう。そして、シェーディングオペレータには、オペレータ形式のみならず、辞書形式が含まれる。
【0043】
シェーディングオペレータ判別部44は、シェーディングオペレータの有無を確認するオペレータ有無確認部46と、シェーディングオペレータ中で背景色が指定されているか否かを確認する背景色指定有無確認部48とを備える。
【0044】
基本的には、以上のように構成される出版システム10のページ記述データ処理装置14の動作について、図3のフローチャートを参照しながら説明する。
【0045】
ステップS1において、ページ記述データ処理装置14は、DTPコンピュータ12から出力されるページ記述データDpをページ毎に取り込む。
【0046】
図4は、入力されたページ記述データDp(PDFファイル)の一例を示す説明図である。ページ記述データDpは、10番目のオブジェクト(ラインL1001〜L1003)と、11番目のオブジェクト(ラインL1101〜L1109)と、12番目のオブジェクト(ラインL1201〜L1208)と、20番目のオブジェクト(ラインL2001〜L2051)とを少なくとも備える。
【0047】
以下、ページ記述データDp(PDFファイル)中のオペレータのうち、本発明の技術的特徴を明確にするために必要なオペレータのみに関して説明する。詳細は、上記した非特許文献(PDFリファレンス 第2版)を参照されたい。
【0048】
10番目のオブジェクト中の辞書94は、11番目のオブジェクトで記述されたシェーディング辞書を「Sh1」として定義する。
【0049】
11番目のオブジェクト中の辞書96は、円形シェーディングの詳細について定義する。シェーディングの開始円の中心座標は(−0.7,−0.7)であり、その半径は0.1である。一方、シェーディングの終了円の中心座標は(0,0)であり、その半径は1である。
【0050】
12番目のオブジェクト中の辞書98は、11番目のオブジェクトで参照される関数形を定義する。具体的には、デバイスCMYK空間において、C=0.3t、M=0.4t、Y=0.5t、K=0.6tの関数形を表している。ここで、0≦C、M、Y、K、t≦1である。
【0051】
20番目のオブジェクト中のオペレータ群100は、辞書94、96及び98を参照しながら、所定のページ領域内に描画オブジェクト2(図9A参照)を描画する。
【0052】
ステップS2において、構造解析部40は、ページ記述データDpの構造を解析してページに含まれるオブジェクトを抽出する。その後、領域定義オペレータ識別部42は、構造解析部40から取得したオブジェクトに、領域定義オペレータが含まれているか否かを識別する。領域定義オペレータが含まれていない場合には、ページ記述データDpを、変更せずそのまま出力I/F34を通じて出力する(ステップS6)。
【0053】
例えば、領域定義オペレータ識別部42は、パス構築オペレータの有無、オペレータの配置順等を考慮することで、領域定義オペレータの有無を識別する。パス構築オペレータには、カレントポイントを移動する「m」、カレントパスに直線を追加する「l」、カレントパスに曲線を追加する「c」「v」「y」等が含まれる。図4例では、領域定義オペレータ識別部42は、ラインL2011〜L2015の記述から、矩形状の描画領域を記述する領域定義オペレータが含まれていると識別する。この場合、領域定義オペレータ識別部42は、シェーディングオペレータ判別部44にページ記述データDpを供給する。
【0054】
ステップS3において、オペレータ有無確認部46は、ステップS2により識別された領域定義オペレータが記述する描画領域内に、シェーディングを適用するシェーディングオペレータがあるか否かを確認する。シェーディングオペレータがない場合には、ページ記述データDpを、変更せずそのまま出力I/F34を通じて出力する(ステップS6)。
【0055】
例えば、オペレータ有無確認部46は、対象範囲の起点となるオペレータ「m」と、次のカレントパスを形成するためのオペレータ「m」との間に、シェーディングオペレータ「sh」があるか否かを確認する。図4例では、ラインL2011、L2019及びL2021の記述から、シェーディングオペレータがあると判別する。この場合、オペレータ有無確認部46は、背景色指定有無確認部48にページ記述データDpを供給する。
【0056】
ステップS4において、背景色指定有無確認部48は、ステップS3により確認されたシェーディングオブジェクトに背景色が指定されているか否かを確認する。背景色が指定されていない場合には、ページ記述データDpを、変更せずそのまま出力I/F34を通じて出力する(ステップS6)。
【0057】
例えば、背景色指定有無確認部48は、シェーディングオペレータに応じた辞書のリソース名を参照し、前記辞書に「Background」属性が付与されているか否かを確認する。なお、「Background」では単一の色値を指定可能であり、シェーディング辞書(オペレータ)にこの属性を含めるか否かは任意である。
【0058】
図4例では、背景色指定有無確認部48は、ラインL1002、L1102〜L1107(特に、ラインL1104)、L2019の記述から、シェーディングオペレータ「Sh1」には背景色が指定されていると判別する。この場合、背景色指定有無確認部48は、オペレータ置換部38にページ記述データDpを供給する。
【0059】
ステップS5において、オペレータ置換部38は、ステップS3及びS4により確認・判別されたシェーディングオペレータ(図4のオペレータ群100)を、後述する第1オペレータ群106と第2オペレータ群110(図8参照)とに分離して置換する。
【0060】
以下、シェーディングオペレータの分離・置換処理について、図5のフローチャートを参照しながら詳細に説明する。
【0061】
ステップS51において、オペレータ置換部38は、本処理の対象範囲を決定する。オペレータ置換部38は、描画オブジェクト識別部36から一度に取得したページ記述データDpをすべて対象範囲に含めてもよい。あるいは、オペレータ置換部38は、描画オブジェクト識別部36により決定された対象範囲を取得した上で、対象範囲を決定してもよい。図4例では、オペレータ置換部38は、ストリームオブジェクト(20番目のオブジェクト)のうちオペレータ群100を、本処理の対象範囲として決定したとする。
【0062】
図6Aに示すように、オペレータ群100の記述によって、所定のページ領域に描画オブジェクト200が描画される。描画オブジェクト200の描画領域201には、円形状のシェーディングパターン202と、所定の背景色で均一に塗り潰された背景部204とが表されている。なお、説明の便宜のため、図6A、及び後述する図6B〜図6Dでは、シェーディングパターン202の着色を省略している。
【0063】
ステップS52において、オペレータ置換部38は、対象データをコピーする。すなわち、図4のオペレータ群100(ラインL2011〜L2020)と同一内容のデータを複製し、ラインL2020及びL2021の間に挿入する。
【0064】
そうすると、図7Aに示すように、ラインL2011〜L2020には元のオペレータ群100aが記述され、ラインL2021〜L2030には複製のオペレータ群100bが記述される。
【0065】
図6Bに示すように、元のオペレータ群100aの記述によって、所定のページ領域に元の描画オブジェクト200a(描画領域201、シェーディングパターン202a、背景部204a)が描画される。また、複製のオペレータ群100bの記述によって、複製の描画オブジェクト200b(描画領域201、シェーディングパターン202b、背景部204b)が描画される。
【0066】
実際は、元の描画オブジェクト200aの描画領域201は、複製の描画オブジェクト200bの描画領域201と一致する。説明の便宜上、複製の描画オブジェクト200bの位置を左上方向に若干ずらして表記している。
【0067】
なお、元のオペレータ群100aは複製のオペレータ群100bよりも先のラインに記述されている。よって、元のオペレータ群100aでの描画処理は、複製のオペレータ群100bでの描画処理よりも先に実行される。すなわち、元の描画オブジェクト200aは、複製の描画オブジェクト200bの背面側に配置される。
【0068】
ステップS53において、オペレータ置換部38は、前半のデータ(元のオペレータ群100a)の一部を書き換えることで、第1オペレータ群106を生成する。この第1オペレータ群106は、元のオペレータ群100aから、シェーディングパターン202a(図6B参照)の描画オペレータを除外したものである。
【0069】
先ず、オペレータ置換部38は、図4のラインL1103の記述に基づいてカラー空間の定義(図4例ではデバイスCMYK空間)を取得する。そして、オペレータ置換部38は、ラインL1104の記述に基づいて背景色の色値(図4例では、C=10%、M=20%、Y=30%、K=40%)を取得する。
【0070】
そして、図7A及び図7Bに示すように、オペレータ置換部38は、ラインL2018の記述をオペレータ102に書き換え、ラインL2019の記述をオペレータ104に書き換える。オペレータ102は、カレントカラー(グラフィックス状態の変数)にデバイスCMYK空間の色値(図7B例では、C=10%、M=20%、Y=30%、K=40%)を設定するオペレータである。また、オペレータ104は、カレントパスが生成する閉領域{図7例では、座標(100,100)、(−100,100)、(−100,−100)、及び(100,−100)を頂点とする正方形状の領域}を塗り潰すオペレータである。
【0071】
図6Cに示すように、生成された第1オペレータ群106の記述によって、所定のページ領域に、元のオブジェクト200a(図6B参照)に代替して第1描画オブジェクト206が描画される。第1描画オブジェクト206は、その描画領域201を背景色で均一に塗り潰した背景部204を有している。
【0072】
このように、オペレータ置換部38は、図7Aに示すページ記述データDpを、図7Bに示すページ記述データDp’に一旦置換する。その際、新たに生成される第1オペレータ群106は、描画領域201の全体を背景色で均一に塗り潰す第1描画オブジェクト206を記述するオペレータ群に相当する。
【0073】
最後に、ステップS54において、オペレータ置換部38は、後半のデータ(複製のオペレータ群100b)の一部を書き換えることで、第2オペレータ群110を生成する。この第2オペレータ群110は、複製のオペレータ群100bから、背景部204b(図6C参照)の描画を除外したものである。
【0074】
先ず、オペレータ置換部38は、図4のラインL2019の記述に基づいて参照するリソース名(図4例では「Sh1」)を取得する。そして、オペレータ置換部38は、ラインL1002の記述に基づいて更に参照するリソース名(図4例では、11番目のオブジェクト)を取得する。
【0075】
そして、図7B及び図8に示すように、オペレータ置換部38は、11番目のオブジェクト(辞書96)中の、背景色の指定エントリに相当するL1104を削除する。
【0076】
図6Dに示すように、生成された第2オペレータ群108の記述によって、所定のページ領域に、元のオブジェクト200b(図6B参照)に代替して第2描画オブジェクト208が描画される。第2描画オブジェクト208は、シェーディングパターン202と、描画領域201の残余の領域である余白部210とを有している。
【0077】
このように、オペレータ置換部38は、図7Bに示すページ記述データDp’を図8に示すページ記述データDp’に置換する。その際、新たに生成される第2オペレータ群108は、描画領域201の一部をシェーディングパターン202で塗り潰す第2描画オブジェクト208を記述するオペレータ群に相当する。なお、新たな第2オペレータ群108は複製のオペレータ群100bと一致するが、参照された辞書98、110の内容が異なっているので、異なる参照符号を付している。
【0078】
このようにして、オペレータ置換部38は、シェーディングオペレータの分離・置換処理を実行する(ステップS5)。なお、オペレータの分離・置換方法は、上記した方法に限定されることなく、同等の演算結果を得られる種々の方法を採り得る。また、第1オペレータ群106の直後に第2オペレータ群110が実行されるように置換してもよい。
【0079】
図3に戻って、ステップS6において、オペレータ置換部38により、第1オペレータ群106と第2オペレータ群108とに分離・置換されたページ記述データDp’を、出力I/F34を通じて出力する。
【0080】
このようにして、図1に示すように、ページ記述データ処理装置14に入力されたページ記述データDpは、そのまま(Dp)又はオペレータ置換処理が施された後(Dp’)、RIP16側に供給される。
【0081】
その結果、ステップS53で生成された第1描画オブジェクト206に、ステップS54で生成された第2描画オブジェクト208を重畳することで、描画オブジェクト200(図6A参照)と同等の出力が得られる。そして、特定のシェーディングパターンを含むページ記述データDpであっても安定して出力することができる。
【0082】
このように、入力されたページ記述データDpの中から、描画領域201の一部をシェーディングパターン202で塗り潰し、且つ、背景部204(残余の領域)を所定の背景色で均一に塗り潰す描画オブジェクト200の有無を識別し、描画オブジェクト200があると識別された場合に、描画オブジェクト200を記述するオペレータ群100を、描画領域201の全体を前記背景色で塗り潰す第1描画オブジェクト206を記述する第1オペレータ群106と、描画領域201の一部(シェーディングパターン202の領域)をシェーディングで塗り潰す第2描画オブジェクト208を記述する第2オペレータ群110とに置換するようにしたので、RIP16によるラスタライズの過程で、描画領域201の全体を背景色で均一に塗り潰す処理と、描画領域201の一部をシェーディングで塗り潰す処理とが相互に影響を受けることなく確実に実行される。
【0083】
すなわち、シェーディングパターン202の描画結果が不定になる現象を未然に防止可能である。これにより、特定のシェーディングパターンを含むページ記述データDpに対してラスタライズ処理を行う際に生じ得る印刷不具合を防止できる。
【0084】
また、印刷しようとするページ記述データDpに基づいて、プリンタ20や表示装置等で校正画像(プルーフ18等)を出力する前に、本実施の形態に係るページ記述データ処理方法を用いてもよい。これにより、校正時のRIP処理によるシェーディングパターンの描画結果と、出力時(刷版又は印刷)のRIP処理によるシェーディングパターンの描画結果とが略一致する。すなわち、特定のシェーディングパターンを含むページ記述データに対してラスタライズ処理を行う際に生じ得る印刷不具合を防止できる。特に、印刷物26を生産する過程で複数のRIP処理工程を経る場合には、可能な限り上流の工程で、本実施の形態に係るページ記述データ処理方法を用いることが好ましい。
【0085】
なお、この発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。
【0086】
本実施の形態ではPDFを中心に説明したが、ページ記述言語はこれに限定されることはない。例えば、AdobeSystems社のPostScript(登録商標)やXPS(XML Paper Specification)等に対しても本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0087】
10…出版システム 12…DTPコンピュータ
14…ページ記述データ処理装置 16…RIP
18…プルーフ 20…プリンタ
22…プレートセッタ 24…印刷機
26…印刷物 36…描画オブジェクト識別部
38…オペレータ置換部 40…構造解析部
42…領域定義オペレータ判別部 44…シェーディングオペレータ判別部
46…オペレータ有無確認部 48…背景色指定有無確認部
100…オペレータ群 100a…元のオペレータ群
100b…複製のオペレータ群 106…第1オペレータ群
108…第2オペレータ群 200…描画オブジェクト
201…描画領域 202(a、b)…シェーディングパターン
204(a、b)…背景部 206…第1描画オブジェクト
208…第2描画オブジェクト 210…余白部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力されたページ記述データの中から、描画領域の一部をシェーディングで塗り潰し、且つ、残余の領域を所定の背景色で均一に塗り潰す特定描画オブジェクトの有無を識別する特定描画オブジェクト識別部と、
前記特定描画オブジェクト識別部により前記特定描画オブジェクトがあると識別された場合に、該特定描画オブジェクトを記述するオペレータ群を、前記描画領域の全体を前記背景色で均一に塗り潰す第1描画オブジェクトを記述する第1オペレータ群と、前記描画領域の一部をシェーディングで塗り潰す第2描画オブジェクトを記述する第2オペレータ群とに置換するオペレータ置換部と
を有することを特徴とするページ記述データ処理装置。
【請求項2】
請求項1記載のページ記述データ処理装置において、
前記特定描画オブジェクト識別部は、前記オペレータ群の中に、前記描画領域を定義する領域定義オペレータがあると識別し、且つ、前記描画領域の前記背景色が指定されたシェーディングオペレータがあると判別した場合に、前記特定描画オブジェクトがあると識別する
ことを特徴とするページ記述データ処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のページ記述データ処理装置において、
前記オペレータ置換部は、前記第1オペレータ群の直後に前記第2オペレータ群が実行されるように置換する
ことを特徴とするページ記述データ処理装置。
【請求項4】
入力されたページ記述データの中から、描画領域の一部をシェーディングで塗り潰し、且つ、残余の領域を所定の背景色で均一に塗り潰す特定描画オブジェクトの有無を識別する識別ステップと、
前記特定描画オブジェクトがあると識別された場合に、該描画オブジェクトを記述するオペレータ群を、前記描画領域の全体を前記背景色で均一に塗り潰す第1描画オブジェクトを記述する第1オペレータ群と、前記描画領域の一部をシェーディングで塗り潰す第2描画オブジェクトを記述する第2オペレータ群とに置換する置換ステップと
を備えることを特徴とするページ記述データ処理方法。
【請求項5】
請求項4記載のページ記述データ処理方法において、
前記識別ステップでは、前記オペレータ群の中に、前記描画領域を定義する領域定義オペレータがあると識別し、且つ、前記描画領域の前記背景色が指定されたシェーディングオペレータがあると判別した場合に、前記特定描画オブジェクトがあると識別する
ことを特徴とするページ記述データ処理方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のページ記述データ処理方法において、
前記置換ステップでは、前記第1オペレータ群の直後に前記第2オペレータ群が実行されるように置換する
ことを特徴とするページ記述データ処理方法。
【請求項7】
コンピュータを、
入力されたページ記述データの中から、描画領域の一部をシェーディングで塗り潰し、且つ、残余の領域を所定の背景色で均一に塗り潰す特定描画オブジェクトの有無を識別する描画オブジェクト識別部、
前記特定描画オブジェクトがあると識別された場合に、該特定描画オブジェクトを記述するオペレータ群を、前記描画領域の全体を前記背景色で均一に塗り潰す第1描画オブジェクトを記述する第1オペレータ群と、前記描画領域の一部をシェーディングで塗り潰す第2描画オブジェクトを記述する第2オペレータ群とに置換するオペレータ置換部
として機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項8】
印刷しようとするページ記述データに基づいて校正画像を出力する校正ステップと、
請求項4〜6のいずれか1項に記載のページ記述データ処理方法を用いて、前記校正ステップの実行前に前記ページ記述データを処理する処理ステップと
を備えることを特徴とする印刷物生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−32850(P2012−32850A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169081(P2010−169081)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】