説明

ペースト組成物、電子部品、積層セラミックコンデンサおよびその製造方法

【課題】特に内部電極層の厚みを薄層化した場合であっても、誘電体材料の組成に影響を与えることなく、良好なメタライズ性を有し、その結果、電極被覆率や信頼性が向上された積層セラミックコンデンサなどの電子部品、その製造方法、その製造方法に用いられるペースト組成物を提供すること。
【解決手段】平均粒子径が15〜45nmである第1酸化ニッケル粒子と、平均粒子径が70〜200nmである第2酸化ニッケル粒子と、を有し、前記第1酸化ニッケル粒子と前記第2酸化ニッケル粒子との含有割合が、重量比で、第1酸化ニッケル粒子:第2酸化ニッケル粒子=95:5〜65:35の関係にあることを特徴とするペースト組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペースト組成物、電子部品、積層セラミックコンデンサおよびその製造方法に係り、さらに詳しくは、共材粒子などの無機成分を添加せずとも、焼成時における酸化ニッケルの還元に伴う体積収縮を緩和し、さらに還元されたニッケル粒子の球状化を防止して電極層の被覆率を向上できるペースト組成物に関する。また、このペースト組成物を用いることにより、電極層の薄層化と、高信頼性とを両立できる積層セラミックコンデンサなどの電子部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサは、誘電体層と内部電極層とが交互に複数配置された積層構造の素子本体を有する。この素子本体の両端部には、一対の外部端子電極が形成してある。この積層セラミックコンデンサは、まずセラミックグリーンシートと所定パターンの内部電極ペースト膜とを必要枚数だけ交互に複数積層させて焼成前素子本体を製造し、次にこれを焼成した後、素子本体の両端部に一対の外部端子電極を形成して製造される。
【0003】
このように、積層セラミックコンデンサの製造に際しては、セラミックグリーンシートと内部電極ペースト膜とを同時に焼成することになる。このため、内部電極ペースト膜に含まれる導電材には、セラミックグリーンシートに含まれる誘電体材料の焼結温度よりも高い融点を持つこと、誘電体材料と反応しないこと、焼成後誘電体層に拡散していないこと、などが要求される。
【0004】
従来は、これらの要求を満足させるために、内部電極ペースト膜に含まれる導電材には、PtやPdなどの貴金属を使用してきた。しかしながら、貴金属はそれ自体が高価であり、結果として最終的に得られる積層セラミックコンデンサがコスト高になるという欠点があった。そこで、誘電体材料として耐還元性を有するものを用い、その焼結温度を900〜1100℃に低下させることで、内部電極ペースト膜に含まれる導電材には、安価な卑金属であるニッケルが特に好適に用いられている。
【0005】
近年、各種電子機器の小型化により、電子機器の内部に装着される積層セラミックコンデンサの小型化および大容量化が進んでいる。この積層セラミックコンデンサの小型化および大容量化を進めるために、誘電体層および内部電極層をできる限り薄くし(薄層化)、かつできる限り多く積層する(多層化)必要がある。
【0006】
内部電極層を薄層化するには、内部電極ペーストに含まれる金属ニッケル粒子を微粒子化して、内部電極ペースト膜を形成する必要がある。しかしながら、たとえば、内部電極層の厚みが1.0μm以下の場合には、金属ニッケル粒子の微粒子化は困難であり、微粒子化できたとしても、非常に高価になってしまうという問題があった。
【0007】
ところで、内部電極ペーストに酸化ニッケル粉末を含有させ、これを熱処理により還元して金属ニッケルから構成される内部電極層とする技術が知られている(たとえば、特許文献1)。特許文献1では、内部電極ペーストに酸化ニッケル粉末およびBaTiO等の無機成分を含有させることが開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された内部電極ペーストに含まれる無機成分は、誘電体層を構成する誘電体材料の組成に影響を与え、その結果、特性が悪化することがあった。特に、内部電極層を薄層化すると、焼成時に内部電極ペーストに含まれる無機成分が誘電体層に移動しやすくなるため、上記の問題が顕著になっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平3−48414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、特に内部電極層の厚みを薄層化した場合であっても、誘電体材料の組成に影響を与えることなく、良好なメタライズ性を有し、その結果、電極被覆率や信頼性が向上された積層セラミックコンデンサなどの電子部品、その製造方法、その製造方法に用いられるペースト組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係るペースト組成物は、
平均粒子径が15〜45nmである第1酸化ニッケル粒子と、
平均粒子径が70〜200nmである第2酸化ニッケル粒子と、を有し、
前記第1酸化ニッケル粒子と前記第2酸化ニッケル粒子との含有割合が、重量比で、第1酸化ニッケル粒子:第2酸化ニッケル粒子=95:5〜65:35の関係にあることを特徴とする。
【0012】
このようなペースト組成物を用いて電極ペースト膜を形成することで、電極ペースト膜の焼成時において、酸化ニッケル粒子の還元反応が広い温度範囲で起こるようになり、還元反応に伴う急激な体積収縮を緩和することができる。また、互いの粒子が、他方の粒子の過剰なネッキングを抑制し、粒子の球状化を効果的に防止する。その結果、電極層の薄層化を実現しつつ、その被覆率を向上させることができる。なお、電極被覆率は、内部電極層が実際に誘電体層を覆う面積比率として定義される。
【0013】
好ましくは、前記第1酸化ニッケル粒子および前記第2酸化ニッケル粒子の合計100重量%に対して、前記第1酸化ニッケル粒子および前記第2酸化ニッケル粒子以外の無機成分が、0.4重量%以下含有されている。
【0014】
電極層を形成するためのペースト組成物には、通常、共材粒子等の無機成分が含有される。しかしながら、このような無機成分は、焼成時に誘電体層に移動し、誘電体層の組成を変動させてしまい、特性低下の要因となってしまう。本発明では、このような無機成分の含有量を低減できるため、上記のような不具合が発生することはない。
【0015】
好ましくは、前記第1酸化ニッケル粒子および前記第2酸化ニッケル粒子の酸化度が60%以上である。
【0016】
本発明では、酸化ニッケル粒子の粒子全体の体積を100%とした場合に、酸化物から構成されている体積割合を「酸化度」(%)と定義する。すなわち、酸化ニッケル粒子全体において、酸化物が占める体積が60%以上であればよい。
【0017】
好ましくは、有機成分をさらに有する。具体的な有機成分としては、溶剤、バインダ、分散剤、可塑剤等が挙げられる。このような成分が含まれることで、ペースト組成物の成形性や分散性などを向上させることができる。
【0018】
本発明に係る電子部品は、電極層と誘電体層とを有する電子部品であって、
前記電極層が、上記のいずれかに記載のペースト組成物を用いて形成されている。また、好ましくは、前記電極層の厚みが、1.0μm以下である。
【0019】
本発明に係る電子部品は、電極層が上記のペースト組成物を用いて形成されているため、電極層の薄層化を実現しつつ、電極被覆率も向上している。また、誘電体層との良好なメタライズ性を示すので、クラック等も低減できる。このような効果は、特に電極層の厚みが1.0μm以下である場合に顕著である。
【0020】
本発明に係る電子部品の製造方法は、電極層と誘電体層とを有する電子部品を製造する方法であって、
上記のいずれかに記載のペースト組成物を用いて、焼成後に前記電極層となる電極ペースト膜を形成する工程と、
前記電極ペースト膜を還元する工程と、を有する。
【0021】
本発明に係る積層セラミックコンデンサの製造方法は、内部電極層と誘電体層とが交互に積層してある素子本体を有する積層セラミックコンデンサを製造する方法であって、
上記のいずれかに記載のペースト組成物を用いて、焼成後に前記内部電極層となる内部電極ペースト膜を形成する工程と、
前記内部電極ペースト膜を還元する工程と、を有する。
【0022】
なお、本発明に係る電子部品としては、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品が例示される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0025】
まず、本発明に係る電子部品の一実施形態として、積層セラミックコンデンサの全体構成について説明する。
【0026】
図1に示すように、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2は、コンデンサ素体4と、第1端子電極6と、第2端子電極8とを有する。コンデンサ素体4は、誘電体層10と、内部電極層12とを有し、誘電体層10の間に、これらの内部電極層12が交互に積層してある。交互に積層される一方の内部電極層12は、コンデンサ素体4の第1端部4aの外側に形成してある第1端子電極6の内側に対して電気的に接続してある。また、交互に積層される他方の内部電極層12は、コンデンサ素体4の第2端部4bの外側に形成してある第2端子電極8の内側に対して電気的に接続してある。
【0027】
誘電体層10の材質は、特に限定されず、たとえばチタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムまたはこれらの混合物などの誘電体材料で構成される。本実施形態では、この誘電体層10は還元雰囲気焼成が可能な誘電体材料で構成してある。
【0028】
各誘電体層10の厚みは、特に限定されないが、数μm〜数百μmのものが一般的である。特に本実施形態では、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは1.0μm以下に薄層化されている。
【0029】
内部電極層3
本実施形態では、内部電極層3はNiまたはNi合金で構成してある。Ni合金としては、Mn,Cr,CoおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P等の各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。内部電極層3の厚みは用途等に応じて適宜決定すればよいが、1.0μm以下、特に0.7μm以下であることが好ましい。下限は特に制限されないが、0.5μm程度である。
【0030】
図1において、端子電極6および8の材質は特に限定されないが、通常、銅や銅合金、ニッケルやニッケル合金などが用いられ、また、銀や銀とパラジウムの合金なども使用することができる。端子電極6および8の厚みも特に限定されないが、通常10〜50μm程度である。
【0031】
積層セラミックコンデンサ2の形状やサイズは、目的や用途に応じて適宜決定すればよい。積層セラミックコンデンサ2が直方体形状の場合は、通常、縦(0.4〜5.6mm、好ましくは0.4〜3.2mm)×横(0.2〜5.0mm、好ましくは0.2〜1.6mm)×厚み(0.1〜1.9mm、好ましくは0.1〜1.6mm)程度である。
【0032】
次に、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2の製造方法の一例を説明する。本実施形態の積層セラミックコンデンサ2としては、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、端子電極を印刷または塗布して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0033】
まず、焼成後に図1に示す誘電体層10を構成することになるセラミックグリーンシートを形成するために、誘電体層用ペーストを準備する。
【0034】
誘電体層用ペーストは、通常、誘電体材料の原料と有機ビヒクルとを混練して得られた有機溶剤系ペースト、または水系ペーストで構成される。
【0035】
誘電体材料の原料としては、上述したチタン酸バリウムなどの複合酸化物や酸化物に加え、焼成により上記の複合酸化物や酸化物となる各種化合物、たとえば炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物などから適宜選択して用いればよく、混合して用いてもよい。誘電体材料の原料は、通常、平均粒子径が0.1〜3.0μm程度の粉末として用いられる。なお、きわめて薄いグリーンシートを形成するためには、グリーンシート厚みよりも細かい粉末を使用することが望ましい。
【0036】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いられるバインダとしては、特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、アクリル樹脂などの通常の各種バインダが例示される。また、有機ビヒクルに用いられる有機溶剤も特に限定されず、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエンなどの有機溶剤が用いられる。
【0037】
また、水系ペーストにおけるビヒクルとしては、水に水溶性バインダを溶解させたものを用いればよい。水溶性バインダとしては特に限定されず、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、水溶性アクリル樹脂、エマルジョンなどが用いられる。
【0038】
誘電体層用ペースト中の各成分の含有量は特に限定されず、通常の含有量、たとえばバインダは1〜5重量%程度、溶剤(または水)は10〜50重量%程度とすればよい。
【0039】
次に、焼成後に図1に示す内部電極層12を構成することになる電極ペースト膜を形成するためのペースト組成物を準備する。
【0040】
本実施形態では、内部電極層12を形成するために用いるペースト組成物は、第1酸化ニッケル粒子および第2酸化ニッケル粒子と、有機ビヒクルと、を混練して調製される。
【0041】
第1酸化ニッケル粒子の平均粒子径(D50)は、15〜45nm、好ましくは25〜35nmであり、その粒度分布のピークは単一で、かつシャープであることが好ましい。平均粒子径が小さすぎると、比表面積が大きく、反応が速く進みすぎるため、急激な体積収縮が発生する傾向にある。逆に、平均粒子径が大きすぎると、第2酸化ニッケル粒子の平均粒子径に近づくため、狭い温度範囲において、両方の粒子の還元反応が急激に進んでしまう。その結果、金属ニッケル粒子のネッキングが過剰に進行し、球状化が進んでしまい、内部電極層の薄層化が実現できないことに加え、被覆率も低下してしまう傾向にある。
【0042】
第2酸化ニッケル粒子の平均粒子径(D50)は、70〜200nm、好ましくは90〜150nmであり、その粒度分布のピークは単一で、かつシャープであることが好ましい。平均粒子径が小さすぎると、第1酸化ニッケル粒子の平均粒子径に近づくため、狭い温度範囲において、両方の粒子の還元反応が急激に進んでしまう。その結果、金属ニッケル粒子のネッキングが過剰に進行し、球状化が進んでしまい、内部電極層の薄層化が実現できないことに加え、被覆率も低下してしまう傾向にある。逆に、平均粒子径が大きすぎると、電極層を突き抜けてしまい、電極層の薄層化が困難となるとともに、電極層の厚みの均一性が損なわれるため、信頼性が低下してしまう傾向にある。
【0043】
このような平均粒子径の異なる酸化ニッケル粒子を用いることで、酸化ニッケル粒子の還元反応が広い温度範囲で起こる。したがって、還元反応により生じる粒子の体積収縮を緩和できる。しかも両方の粒子が互いに他方の粒子の過剰なネッキングを抑制するため、球状化を有効に防止することができる。
【0044】
なお、第1酸化ニッケル粒子および第2酸化ニッケル粒子の形状に特に制限はないが、球状のものを用いることが好ましい。また、平均粒子径(D50)は、たとえば、原料粉末の粒子径を測定する手段として一般的に用いられているレーザー回折散乱法により算出された平均粒子径であることが好ましい。
【0045】
第1酸化ニッケル粒子と、第2酸化ニッケル粒子との含有割合は、重量比で、第1酸化ニッケル粒子:第2酸化ニッケル粒子=95:5〜65:35、好ましくは90:10〜80:20である。第1酸化ニッケル粒子の含有割合が多すぎると(第2酸化ニッケル粒子の含有割合が少なすぎると)、還元された第1酸化ニッケル粒子が、過剰なネッキングを起こし球状化してしまう傾向にある。逆に、第1酸化ニッケル粒子の含有割合が少なすぎると(第2酸化ニッケル粒子の含有割合が多すぎると)、第2酸化ニッケル粒子間の隙間に存在する第1酸化ニッケル粒子が少ないため、空隙が多くなり、内部電極層の連続性(被覆率)が低下してしまう傾向にある。
【0046】
このようにすることで、最初に還元される第1酸化ニッケル粒子の集合の中に、適度な間隔で第2酸化ニッケル粒子が存在することになり、第1酸化ニッケル粒子由来の金属ニッケル粒子同士が過剰にネッキングするのを効果的に防止できる。
【0047】
一方、第2酸化ニッケル粒子が還元される場合には、その含有割合が少ないため、急激な体積収縮は起こらない。また、体積収縮により、近傍に存在する金属ニッケル粒子との距離が大きくなるため、ネッキングが起こりにくくなり、球状化が効果的に抑制される。
【0048】
本実施形態では、第1酸化ニッケル粒子および第2酸化ニッケル粒子は、ニッケルの酸化物だけでなく、上記したニッケル合金の酸化物から構成されていてもよい。さらに、これらの粒子が完全に酸化物から構成されている必要はなく、粒子全体の体積のうち、酸化物で構成されている体積割合が特定の範囲であればよい。
【0049】
本実施形態では、酸化ニッケル粒子の粒子全体の体積を100%とした場合に、酸化物から構成されている体積割合を「酸化度」(%)と定義する。なお、酸化物で構成されていない部分は、金属ニッケルあるいはニッケル合金で構成されている。
【0050】
第1酸化ニッケル粒子および第2酸化ニッケル粒子のような平均粒子径を有する酸化ニッケル粒子は、通常、酸化物からすべて構成されているわけではない。たとえば、球状の酸化ニッケル粒子の場合には、その中心部(コア)は金属ニッケルあるいはニッケル合金で構成されており、酸化物は中心部を覆うようにして構成されている。
【0051】
第1酸化ニッケル粒子および第2酸化ニッケル粒子の酸化度は、好ましくは60%以上、より好ましくは60%〜95%である。酸化度が低すぎると、酸化ニッケル粒子が還元される際に急激な球状化を引き起こすため、内部電極層の薄層化が困難となってしまう傾向にある。逆に、酸化度が高すぎると、誘電体層の組成に対する影響が現れてしまう傾向にある。
【0052】
また、第1酸化ニッケル粒子および第2酸化ニッケル粒子は、ペースト組成物全体に対して、好ましくは35〜65重量%で含まれる。
【0053】
本実施形態では、第1酸化ニッケル粒子および第2酸化ニッケル粒子以外の無機成分(主に共材粒子)は、第1酸化ニッケル粒子および第2酸化ニッケル粒子の合計を100重量%とすると、0.4重量%以下であることが好ましい。また、その平均粒子径は、50nm以下程度であることが好ましい。特に、無機成分が含有されないことが好ましい。このような無機成分は、焼成時に誘電体層に移動し、誘電体層の組成を変動させ、信頼性の低下を招くからである。本発明では、無機成分(共材粒子等)を含有させなくても、内部電極層の形成を制御し、内部電極層の薄層化を実現しつつ、被覆率を向上させることができる。
【0054】
有機ビヒクルとしては、上記した誘電体層用ペーストと同様のものを使用すればよい。また、グリーンシートとの接着性を改善する目的で可塑剤または粘着剤をさらに含んでいてもよいし、第1酸化ニッケル粒子および第2酸化ニッケル粒子の分散性の向上とペースト組成物の安定性を改善する目的で分散剤をさらに含んでいてもよい。
【0055】
ペースト組成物は、上記各成分を、ボールミルや3本ロールミルなどで混合・混練し、スラリー化することにより作製することができる。
【0056】
次に、上記にて作製した誘電体層用ペーストを用いて、ダイコート法、ドクターブレード法などにより、支持体としてのキャリアシート上に、グリーンシートを形成する。グリーンシートの厚みは、2μm以下とすることが好ましい。グリーンシートをこのような厚みで形成することにより、焼成後の誘電体層10を薄層化することができる。
【0057】
次に、上記にて作製したペースト組成物を用いて、印刷法などの厚膜形成方法により、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは1.0μm以下の厚みで、グリーンシートの表面に電極ペースト膜を形成する。上記のペースト組成物を用いて電極ペースト膜を形成することにより、焼成後の内部電極層12の厚みを、好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.7μm以下と薄層化することができる。
【0058】
次に、内部電極ペースト膜が形成されたグリーンシートを、内部電極ペースト膜が形成されていないグリーンシート(外層用グリーンシート)の上に積層し、その前または後に、キャリアシートを剥離する。そして、この作業を繰り返し、内部電極ペースト膜が形成されたグリーンシートを所望の積層数まで複数積層する。そして、最後に外層用グリーンシートを積層して、焼成前の積層体を得る。この積層体を所定サイズに切断し、グリーンチップを得て、脱バインダ処理を施す。
【0059】
具体的な脱バインダ処理条件としては、保持温度:200〜800℃、保持時間:0.5〜20時間、雰囲気:大気中または加湿したNとHとの混合ガスとすることが好ましい。
【0060】
次いで、脱バインダ処理を行ったグリーンチップについて、焼成および熱処理を施す。
【0061】
焼成は還元雰囲気で行う。具体的には、焼成時の雰囲気中の酸素分圧は、10−7Pa以下とすることが好ましい。また、雰囲気ガスとしては、加湿したNとHとの混合ガス等を用いることが好ましい。
【0062】
焼成工程では、350〜450℃の範囲において、まず、比表面積の大きい第1酸化ニッケル粒子が還元ガス(雰囲気ガス)と反応し還元されて金属ニッケルとなる。このとき、第1酸化ニッケル粒子が酸素を吐き出し体積収縮が起こるが、第2酸化ニッケル粒子の介在により酸素の抜けがよく、急激な体積収縮は起こらない。また、還元された金属ニッケル同士のネッキングについても、第2酸化ニッケル粒子の介在により抑制される。
【0063】
次いで、600〜900℃の範囲において、第2酸化ニッケル粒子が還元され始める。第1酸化ニッケル粒子と同様に、酸素を吐き出し、体積収縮が発生するが、その含有割合が小さいため、急激には進行しない。しかも、体積収縮により、近傍に存在している粒子との距離が大きくなるため、ネッキングが起こりにくくなり、結果として、球状化を抑制できる。
【0064】
上記の還元反応が終了した後、保持温度を1050〜1350℃、保持時間を0.5〜8時間として、グリーンチップを焼結させる。
【0065】
このような焼成を行った後の熱処理(アニール)は、保持温度または最高温度を、好ましくは900℃以上として行うことが好ましい。熱処理時の保持温度または最高温度が、前記範囲未満では誘電体材料の酸化が不十分なために絶縁抵抗寿命が短くなる傾向にあり、前記範囲をこえると内部電極のNiが酸化し、容量が低下するだけでなく、誘電体素地と反応してしまい、寿命も短くなる傾向にある。熱処理の際の酸素分圧は、焼成時の還元雰囲気よりも高い酸素分圧であり、好ましくは10−3Pa〜1Paである。前記範囲未満では、誘電体層10の再酸化が困難であり、前記範囲をこえると内部電極層12が酸化する傾向にある。
【0066】
そして、そのほかの熱処理条件としては、保持時間:0〜6時間、雰囲気用ガス:加湿したNガス等とすることが好ましい。
【0067】
このように、焼成工程では、まず第1酸化ニッケル粒子が還元され、その後第2酸化ニッケル粒子が還元される、すなわち、金属ニッケル粒子が段階的に生成される。そうすると、体積収縮が緩和されるとともに、ネッキングも起こりにくくなり、球状化を抑制できるため、内部電極層の薄層化を実現しつつ、電極被覆率をも向上させることができる。その結果、構造欠陥等を抑制され、特性が向上された信頼性の高い電子部品を得ることができる。
【0068】
なお、脱バインダ処理、焼成および熱処理は、それぞれを連続して行っても、独立に行ってもよい。
【0069】
このようにして得られた焼結体(素子本体4)には、例えばバレル研磨、サンドブラスト等にて端面研磨を施し、端子電極用ペーストを焼きつけて端子電極6,8が形成される。端子電極用ペーストの焼成条件は、例えば、加湿したNとHとの混合ガス中で600〜800℃にて10分間〜1時間程度とすることが好ましい。そして、必要に応じ、端子電極6,8上にめっき等を行うことによりパッド層を形成する。なお、端子電極用ペーストは、上記した導電性ペーストと同様にして調製すればよい。
【0070】
このようにして製造された本発明の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0071】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0072】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る電子部品としては積層セラミックコンデンサに限らず、誘電体層を有する電子部品であれば何でもよい。
【実施例】
【0073】
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0074】
実施例1
ペースト組成物の作製
まず、第1酸化ニッケル粒子として、平均粒径30nmのNiOと、第2酸化ニッケル粒子として、平均粒径120nmのNiOを準備した。そして、第1酸化ニッケル粒子および第2酸化ニッケル粒子を、表1に示す重量比で混合し、さらに、有機ビヒクル(バインダ樹脂としてエチルセルロース樹脂4.5質量%をターピネオール228質量%に溶解したもの)を加え、3本ロールにより混練し、スラリー化して、内部電極層形成用のペースト組成物を得た。
【0075】
なお、第1酸化ニッケル粒子および第2酸化ニッケル粒子の酸化度は65%であった。また、酸化ニッケル粒子以外の無機成分は添加しなかった。
【0076】
誘電体層用ペーストの作製
BaTiOを主成分とする誘電体材料と、有機ビヒクルとを、ボールミルで混合し、誘電体層用ペーストを得た。有機ビヒクルは、誘電体材料100重量%に対して、バインダとしてポリビニルブチラール:6重量%、可塑剤としてフタル酸ビス(2エチルヘキシル)(DOP):3重量%、酢酸エチル:55重量%、トルエン:10重量%、剥離剤としてパラフィン:0.5重量%の配合とした。
【0077】
グリーンシートの形成
まず、上記の誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルム上に、ワイヤーバーコーターを用いて、乾燥後の厚みが0.9μmとなるようにグリーンシートを形成した。
【0078】
内部電極ペースト膜の形成
上記で作製したペースト組成物を用いて、スクリーン印刷により、グリーンシートの表面に、乾燥後の厚みが0.6μmとなるように所定パターンの内部電極ペースト膜を形成した。
【0079】
最終積層体(焼成前素子本体)の形成
次に、内部電極ペースト膜およびグリーンシートを次々に積層し、最終的に、300層の電極ペースト膜が積層された最終積層体を得た。
【0080】
焼結体の作製
次いで、最終積層体を所定サイズに切断してグリーンチップを得て、脱バインダ処理、焼成およびアニール(熱処理)を行って、チップ形状の焼結体を作製した。
【0081】
脱バインダは、保持温度:250〜350℃、保持時間:0.5〜20時間、雰囲気ガス:加湿したNとHの混合ガス、の条件で行った。
【0082】
焼成は、保持温度:1000〜1300℃、保持時間:0.5〜8時間、雰囲気ガス:加湿したNとHの混合ガス、酸素分圧:10−7Pa、の条件で行った。なお、酸化ニッケル粒子の還元反応は、焼成の昇温過程において段階的に起こった。
【0083】
アニール(再酸化)は、保持温度:1050℃、保持時間:2時間、雰囲気ガス:加湿したNガス、酸素分圧:10−1Pa、の条件で行った。なお、雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを用い、水温を0〜75℃とした。
【0084】
次いで、チップ形状の焼結体の端面をサンドブラストにて研磨したのち、端子電極用ペーストを端面に転写し、加湿したN+H雰囲気中において、800℃にて10分間焼成して端子電極を形成し、図1に示す構成の積層セラミックコンデンサの試料を得た。
【0085】
このようにして得られた各試料のサイズは、2.0mm×1.2mm×0.4mmであり、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は300、その平均厚さは0.85μmであった。
【0086】
得られたコンデンサ試料について、焼成後の内部電極層の平均電極厚みおよび被覆率を以下の方法により、それぞれ測定した。
【0087】
平均電極厚み
まず、得られたコンデンサ試料を内部電極に垂直な面で切断し、その切断面を研磨し、その研磨面の複数箇所を金属顕微鏡で観察した。次に、金属顕微鏡で観察した画像についてデジタル処理を行うことにより焼結後の各内部電極層の厚みを求め、その平均値を算出し、これを平均電極厚みとした。結果を表1に示す。
【0088】
電極被覆率
電極被覆率は、積層セラミックコンデンサのサンプルを電極表面が露出するように切断し、その電極面をSEM観察し、画像処理することにより算出した。すなわち、電極が形成されるべき面積を100%とした場合に、実際に電極が形成されている面積を算出した。電極被覆率は80%以上を良好とした。
【0089】
さらに、各試料について信頼性(ショート不良)を、次のようにして評価した。
【0090】
ショート不良
ショート不良は、積層セラミックコンデンサのサンプル10個に対して測定した。測定では、絶縁抵抗計(HEWLETT PACKARD社製E2377Aマルチメーター)を使用した。測定においては、各サンプルの抵抗値を測定し、抵抗値が100kΩ以下となったサンプルを、ショート不良を起こしたサンプルとした。結果を表1に示す。表1では、測定したサンプル数(10個)に対して、ショート不良を起こしたサンプルの個数を示した。ショート不良を起こしたサンプルの個数は0であることが好ましい。
【0091】
【表1】

【0092】
表1より、本発明の範囲内の試料(試料番号2〜6)については、電極厚みを薄くすることができ、しかも電極被覆率および信頼性が良好であることが確認できた。
【0093】
実施例2
第1酸化ニッケル粉末および第2酸化ニッケル粉末の平均粒子径を、表2に示す値とした以外は、実施例1の試料番号4と同様にしてペースト組成物を作製し、コンデンサのサンプルを作製し、特性評価を行った。結果を表2に示す。
【0094】
【表2】

【0095】
表2より、本発明の範囲内の試料(試料番号24〜26)については、電極厚みを薄くすることができ、しかも電極被覆率および信頼性が良好であることが確認できた。
【符号の説明】
【0096】
2… 積層セラミックコンデンサ
4… コンデンサ素体
6,8… 端子電極
10… 誘電体層
12… 内部電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が15〜45nmである第1酸化ニッケル粒子と、
平均粒子径が70〜200nmである第2酸化ニッケル粒子と、を有し、
前記第1酸化ニッケル粒子と前記第2酸化ニッケル粒子との含有割合が、重量比で、第1酸化ニッケル粒子:第2酸化ニッケル粒子=95:5〜65:35の関係にあることを特徴とするペースト組成物。
【請求項2】
前記第1酸化ニッケル粒子および前記第2酸化ニッケル粒子の合計100重量%に対して、前記第1酸化ニッケル粒子および前記第2酸化ニッケル粒子以外の無機成分が、0.4重量%以下含有されている請求項1に記載のペースト組成物。
【請求項3】
前記第1酸化ニッケル粒子および前記第2酸化ニッケル粒子の酸化度が60%以上である請求項1または2に記載のペースト組成物。
【請求項4】
有機成分をさらに有する請求項1〜3のいずれかに記載のペースト組成物。
【請求項5】
電極層と誘電体層とを有する電子部品であって、
前記電極層が、請求項1〜4のいずれかに記載のペースト組成物を用いて形成されている電子部品。
【請求項6】
前記電極層の厚みが、1.0μm以下である請求項5に記載の電子部品。
【請求項7】
電極層と誘電体層とを有する電子部品を製造する方法であって、
請求項1〜4のいずれかに記載のペースト組成物を用いて、焼成後に前記電極層となる電極ペースト膜を形成する工程と、
前記電極ペースト膜を還元する工程と、を有する電子部品の製造方法。
【請求項8】
内部電極層と誘電体層とが交互に積層してある素子本体を有する積層セラミックコンデンサを製造する方法であって、
請求項1〜4のいずれかに記載のペースト組成物を用いて、焼成後に前記内部電極層となる内部電極ペースト膜を形成する工程と、
前記内部電極ペースト膜を還元する工程と、を有する積層セラミックコンデンサの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−82000(P2011−82000A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232742(P2009−232742)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】