説明

ホイールを可変に駆動するための装置

【課題】制御装置が、適切にかつ機能に即して駆動モーメントをアクスルのホイールに分配するようにする。
【解決手段】制御装置11,12が、機械的な制御エレメント13と、流体静力学的な制御エレメント14とを有しており、両制御エレメント13,14が協働するようになっており、両制御エレメント13,14を介して、自動車1の各ホイール3;4に、規定された駆動トルクが配分されるようになっているようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のアクスルのホイールを可変に駆動するための装置であって、当該装置が、ホイールに加えられる駆動モーメントに影響を与えるための制御装置を有している形式のものに関する。
【背景技術】
【0002】
操舵過程時の自動車の側方への逸脱をエレクトロニックスタビリティプログラム(ESP)によって阻止することが知られている。ビークルダイナミックコントロール(FDR)とも呼ばれる、有効性の高いこのスタビリティプログラムは、自動車のブレーキ・トラクションシステムに介入し、自動車部分システム:アンチロックブレーキシステム(ABS)、トラクションコントロールシステム(ASR)、エンジンブレーキトルクコントロールシステム(MSR)、オートマチックブレーキディストリビューションシステム(ABV)およびヨーモーメントコントロールシステム(GMR)を統合する。
【0003】
システムに起因して、エレクトロニックスタビリティプログラムの運転時には、運動エネルギが消滅させられる。このことは、自動車の、規定された走行動力学的な状況下では望ましくない。スイス連邦共和国の定期刊行物「Automob. Rev. 99(2004)35 第15頁」には、自動車に用いられる駆動システムが記載される。この駆動システムでは、1つのディファレンシャルと複数のホイールとを有する第1のアクスルに制御装置が設けられている。この制御装置によって、第1のアクスルの1つのホイールに加えられる駆動モーメントが、第2のアクスルにおける操舵角に関連して高められる。このような形式の装置は、英語の概念「ACTIVE YAW」および「TORQUE VECTORING」に相俟っても知られている。
【0004】
DE69301434T2に基づき、駆動モーメントを車両の左右の側に分配するための装置が明らかである。この装置は、ディファレンシャルと、第1の摩擦クラッチおよび第2の摩擦クラッチを備えた分配ユニットとを有している。この分配ユニットによって、左側のホイールアクスルのホイールもしくは右側のホイールアクスルのホイールへの駆動トルクの配分が行われる。
【0005】
駆動モーメントを左側のホイールアクスルと右側のホイールアクスルとに分配するための別の装置は、さらに、DE69304144T2にも扱われる。
【非特許文献1】「Automob. Rev. 99(2004)35 第15頁」
【特許文献1】DE69301434T2
【特許文献2】DE69304144T2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、自動車のアクスルを可変に駆動するための装置を改良して、制御装置が、適切にかつ機能に即して駆動モーメントをアクスルのホイールに分配するようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するために本発明の構成では、制御装置が、機械的な制御エレメントと、流体静力学的な制御エレメントとを有しており、両制御エレメントが協働するようになっており、両制御エレメントを介して、自動車の各ホイールに、規定された駆動トルクが配分されるようになっているようにした。本発明を成す別の特徴は、従属請求項に記載してある。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって主として得られる利点は、機械的な制御エレメントと流体静力学的な制御エレメントとを有する制御装置によって、規定されてかつ理想的な機能で駆動モーメントがアクスルの所定のホイールに配分されることに見ることができる。機械的な制御エレメントは、たとえば2つの段を備えた遊星歯車伝動装置ユニットによって形成される。この遊星歯車伝動装置ユニットは、制御装置への使用に対して確実な利点を有している。このことは、斜板ポンプとして形成された流体静力学的な制御エレメントにも同様に当てはまる。斜板ポンプの技術的な特性は、制御装置に使用するために特徴付けられて提供される。遊星歯車伝動装置ユニットと斜板ポンプとは、互いに異なる構造にもかかわらず、許容可能な手間で組み合わされて、制御装置を形成することができる。この場合、斜板ポンプの個々のポンプは問題なしにプラネタリピニオンの内側にまたはプラネタリピニオンの外側に連動式に組み付けることができる。各ホイールに対する駆動トルクの制御は、斜板ポンプの斜板のストロークの調節によって行うことができる。しかし、ハイドロリック媒体に対する絞りとして働く、斜板ポンプのポンプに影響を与える制御ディスクを使用することも可能である。さらに、ホイール駆動アクスルへの完成された制御ユニットの組込みが難なく可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の有利な実施の形態を図面につき詳しく説明する。
【0010】
たとえば全輪駆動を有する(冒頭で引用したDE69301434T2参照)自動車1のうち、右側のホイール3と左側のホイール4とを備えたリヤアクスル2だけが原理的に図示してある。このリヤアクスル2には、ディファレンシャル5が組み込まれている。このディファレンシャル5は、図示していない駆動システムAsの構成要素であり、たとえば車両長手方向A−Aに延びる入力軸6と部分駆動アクスル7,8とに作用結合されている。
【0011】
両部分駆動アクスル7,8には、ホイール3、4を可変に駆動することができる装置9,10が組み込まれている。このためには、制御装置11,12が設けられている、この制御装置11,12は、ホイール3,4に加えられる駆動モーメントに影響を与えるために働く。各制御装置(たとえば12)は、機械的な制御エレメント13だけでなく、流体静力学的な制御エレメント14も有している。両制御エレメント13,14は、部分駆動アクスル7に所属のホイール3に、規定された駆動トルクが配分されるように協働する。
【0012】
機械的な制御エレメント13は多段式の遊星歯車伝動装置ユニット15によって形成される。この遊星歯車伝動装置ユニット15は、本実施例では、2つの段、つまり、第1の段16と第2の段17とを有している。さらに、遊星歯車伝動装置ユニット15は、スラスト軸受けAlの介在下で互いに隣接する2つのサンギヤ18,19を有している。両サンギヤ18,19は、たとえば5つの共通のプラネタリピニオン20に噛み合っている。これらのプラネタリピニオン20はプラネタリキャリヤ21,22の間に配置されている。
【0013】
流体静力学的な制御エレメント14は斜板ポンプ23として形成されている。この斜板ポンプ23は遊星歯車伝動装置ユニット15と協働する。この場合、この遊星歯車伝動装置ユニット15と斜板ポンプ23とは互いに同軸的に配置されていて、しかも、ディファレンシャル5と部分駆動アクスル7のホイール3との間に配置されている。斜板ポンプ23は、1つの斜板24と、有利には5つのポンプ25とを有している。各ポンプ25はシリンダ26とピストン27とを備えている(図2参照)。
【0014】
斜板ポンプ23のポンプ25は、プラネタリピニオン20によって取り囲まれているように配置されている。しかし、ポンプ25をプラネタリピニオン20の外側にもしくは隣り合ったプラネタリピニオン20の間に連動式に設けることも可能である。
【0015】
ホイール3に対する駆動トルクの規定された制御のために、第1の構成によれば、斜板ポンプ23の斜板24のストロークが変化させられる。このためには、ハイドロリック的なまたは機械的なアクチュエータが適している。このアクチュエータはスピンドル伝動装置によって実現することができる。第2の構成では、ホイールに対する駆動トルクが、ハイドロリック媒体に対する絞りの介在下で配分される。この絞りは、圧力通路29と吸込み通路30とを備えた制御ディスク28によって形成することができる。この制御ディスク28は斜板ポンプ23のポンプ25と協働し、遊星歯車伝動装置ユニット15のプラネタリキャリヤ21に案内されており、これによって、前述した制御ディスク28が遊星歯車伝動装置ユニット15に対して同軸的に配置されている。
【0016】
制御ディスク28と、遊星歯車伝動装置ユニット15と、斜板ポンプ23とはまとめられて、1つの構成ユニット31を形成している。この構成ユニット31は収容ハウジング32内に収納されている。この収容ハウジング32は、駆動システムAsの、ディファレンシャル5を取り囲む支承ハウジング33と共にブロック化されている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】制御装置を有する本発明による装置を備えた自動車のリヤアクスルの駆動装置を上方から見た概略図である。
【図2】図1の個別部分Xをより大きな尺度で示す図である。
【図3】複数の個別部分を備えた制御装置の斜視図である。
【図4】リヤアクスルのディファレンシャルに相俟って示した制御装置の別の斜視図である。
【図5】制御装置の制御ディスクの斜視図である。
【符号の説明】
【0018】
1 自動車、 2 リヤアクスル、 3 ホイール、 4 ホイール、 5 ディファレンシャル、 6 入力軸、 7 部分駆動アクスル、 8 部分駆動アクスル、 9 装置、 10 装置、 11 制御装置、 12 制御装置、 13 制御エレメント、 14 制御エレメント、 15 遊星歯車伝動装置ユニット、 16 段、 17 段、 18 サンギヤ、 19 サンギヤ、 20 プラネタリピニオン、 21 プラネタリキャリヤ、 22 プラネタリキャリヤ、 23 斜板ポンプ、 24 斜板、 25 ポンプ、 26 シリンダ、 27 ピストン、 28 制御ディスク、 29 圧力通路、 30 吸込み通路、 31 構成ユニット、 32 収容ハウジング、 33 支承ハウジング、 A−A 車両長手方向、 Al スラスト軸受け、 As 駆動システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のアクスルのホイールを可変に駆動するための装置であって、当該装置が、ホイールに加えられる駆動モーメントに影響を与えるための制御装置を有している形式のものにおいて、制御装置(11,12)が、機械的な制御エレメント(13)と、流体静力学的な制御エレメント(14)とを有しており、両制御エレメント(13,14)が協働するようになっており、両制御エレメント(13,14)を介して、自動車(1)の各ホイール(3;4)に、規定された駆動トルクが配分されるようになっていることを特徴とする、ホイールを可変に駆動するための装置。
【請求項2】
機械的な制御エレメント(13)が、遊星歯車伝動装置ユニット(15)によって形成されるようになっている、請求項1記載の装置。
【請求項3】
遊星歯車伝動装置ユニット(15)が、複数の段、有利には2つの段(16,17)を有している、請求項2記載の装置。
【請求項4】
遊星歯車伝動装置ユニット(15)が、互いに隣接した2つのサンギヤ(18,19)を備えており、両サンギヤ(18,19)が、共通のプラネタリピニオン(20)に噛み合っている、請求項2または3記載の装置。
【請求項5】
プラネタリピニオン(20)が、間隔を置いて配置されたプラネタリキャリヤ(21,22)の間に支承されている、請求項4記載の装置。
【請求項6】
流体静力学的な制御エレメント(14)が、遊星歯車伝動装置ユニット(15)と協働する、遊星状に配置されたポンプ(25)と、斜板(24)とを備えた斜板ポンプ(23)によって形成されるようになっており、各ポンプ(25)が、シリンダ(26)とピストン(27)とを有している、請求項1記載の装置。
【請求項7】
遊星歯車伝動装置ユニット(15)と斜板ポンプ(23)とが、互いに同軸的に配置されている、請求項1から6までのいずれか1項記載の装置。
【請求項8】
遊星歯車伝動装置ユニット(15)と斜板ポンプ(23)とが、駆動システム(As)のディファレンシャル(5)と、自動車(1)のホイール(3;4)との間に配置されている、請求項7記載の装置。
【請求項9】
斜板ポンプ(23)のポンプ(25)が、プラネタリピニオン(20)によって取り囲まれている、請求項6または7記載の装置。
【請求項10】
斜板ポンプ(23)のポンプ(25)が、プラネタリピニオン(20)の外側で延びていて、該プラネタリピニオン(20)と共に回転するようになっている、請求項6または7記載の装置。
【請求項11】
各ホイール(3;4)に対する駆動トルクの制御が、斜板(24)を介したストロークの調節によって行われるようになっている、請求項1から10までのいずれか1項記載の装置。
【請求項12】
斜板(24)の傾きの調整が、アクチュエータ、たとえばスピンドル伝動装置の介在下で行われるようになっている、請求項11記載の装置。
【請求項13】
各ホイールに対する駆動モーメントの制御が、ポンプ(25)に影響を与える、絞りとして形成された制御ディスク(28)によって生ぜしめられるようになっている、請求項1から12までのいずれか1項記載の装置。
【請求項14】
制御ディスク(28)が、遊星歯車伝動装置ユニット(15)もしくは斜板ポンプ(23)に対して同軸的に配置されている、請求項1から13までのいずれか1項記載の装置。
【請求項15】
制御ディスク(24)と、遊星歯車伝動装置ユニット(15)と、斜板ポンプ(23)とが、収容ハウジング(32)内にまとめられており、これによって、1つの構成ユニット(31)が形成されている、請求項1から14までのいずれか1項記載の装置。
【請求項16】
収容ハウジング(32)が、駆動システム(As)の支承ハウジング(33)と共にブロック化されている、請求項15記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−139189(P2007−139189A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−301394(P2006−301394)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(506373136)ホーファー ゲトリーベテヒニーク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1)
【氏名又は名称原語表記】hofer Getriebetechnik GmbH
【住所又は居所原語表記】Brandgehaege 28, D−38444 Wolfsburg, Germany
【Fターム(参考)】