説明

ホイール駆動装置

【課題】減速機構と一対の転がり軸受とを共通のオイルで潤滑するホイール駆動装置において、その転がり軸受内への異物の侵入を防止する。
【解決手段】固定スピンドル1の外径面上の一対の円すいころ軸受B、Bによってホイール2を回転自在に支持する。固定スピンドル1のインナボード側の端部に設けられたモータ4によって駆動される駆動シャフト5を固定スピンドル1内に挿通し、その駆動シャフト5の回転を減速してホイール2に伝達する減速機構10を固定スピンドル1のアウタボード側に配置し、その減速機構10と円すいころ軸受B、Bをホイール2内に貯留された共通のオイルで潤滑する。減速機構10側に位置するアウタボード側の円すいころ軸受Bを片シール付き円すいころ軸受とし、そのシール部材はアウタボード側に位置し、通油孔を形成し、その通油孔をフィルタで覆い、そのフィルタの周囲部に永久磁石を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータおよびそのモータの回転を減速する減速機構を有し、その減速機構から出力される回転をホイールに伝達して、そのホイールを回転駆動する車両用ホイールの駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のホイール駆動装置として、特許文献1に記載されたものが従来から知られている。このホイール駆動装置は、鉱山用ダンプトラックのホイール駆動装置を示し、車体に固定される筒状車軸の外径面上に一対の転がり軸受を取付け、その一対の転がり軸受によりホイールを回転自在に支持し、上記車軸のインボード側に設けられたモータを駆動源として回転駆動される駆動シャフトを車軸内に挿通し、その駆動シャフトの回転を上記車軸のアウトボード側に設けられた遊星歯車式の減速機構により減速してホイールに伝達するようにしている。
【0003】
なお、インボード側とは、車体の幅方向の内側方をいい、アウトボード側とは幅方向の外側方をいう。
【0004】
上記ホイール駆動装置においては、ホイールの両端開口を密閉し、そのホイール内に貯留されたオイルによって減速機構を潤滑し、同時、ホイールを回転自在に支持する一対の転がり軸受を潤滑するようにしている。
【0005】
ここで、一対の転がり軸受には非常に大きなラジアル荷重が負荷されるため、その転がり軸受として円すいころ軸受を用い、その一対の円すいころ軸受を背面組み合わせとし、そのアウトボード側に配置された円すいころ軸受の内方軌道輪を加圧リングにより軸方向に押圧して、一対の円すいころ軸受に予圧を付与している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−204016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記従来のホイール駆動装置においては、ホイールを回転自在に支持する一対の円すいころ軸受がシールを有していないため、以下のような問題がある。
【0008】
すなわち、従来のホイール駆動装置においては、減速機構と一対の円すい軸受のそれぞれを共通のオイルによって潤滑する構成であり、そのオイルには歯車の摩耗粉(鉄粉等)等の異物が含まれているため、その異物が一対の円すいころ軸受内に侵入する可能性が非常に高く、その異物、特に、歯車等の摩耗粉が円すいころ軸受に侵入することにより、軌道面や転動面に剥離や傷、圧痕等の損傷が生じ、円すいころ軸受の耐久性を低下させることになる。
【0009】
この発明の課題は、減速機構と一対の転がり軸受とを共通のオイルで潤滑するホイール駆動装置において、その転がり軸受内への異物の侵入を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、この発明においては、固定の配置とされた筒状の車軸と、その車軸の外径面上において軸方向に間隔をおいて設けられた一対の転がり軸受と、その一対の転がり軸受によって回転自在に支持されたホイールと、前記車軸内に挿通され、モータを駆動源として回転駆動される駆動シャフトと、前記車軸のアウトボード側に組込まれて前記駆動シャフトの回転を減速して前記ホイールに伝達する減速機構とを有し、前記一対の転がり軸受と減速機構のそれぞれを共通のオイルによって潤滑するようにしたホイール駆動装置において、前記一対の転がり軸受のうち前記減速機構側に位置するアウタボード側の転がり軸受が、シール部材を片側に有し、そのシール部材がアウタボード側に位置する組込みとされた片シール付き軸受とされ、その片シール付き軸受のシール部材に通油孔を形成し、その通油孔をフィルタで覆い、そのフィルタの周囲部に永久磁石を設けた構成を採用したのである。
【0011】
上記のように、アウタボード側の転がり軸受に片シール付き軸受を採用し、その転がり軸受をシール部材がアウトボード側に配置される組付けとして、そのシール部材に通油孔を形成することにより、減速機構を潤滑するオイルを流入孔から軸受内部に流入させることができ、一対の転がり軸受を減速機構と共通のオイルでもって潤滑することができる。
【0012】
ここで、流入孔はフィルタで覆われているため、そのフィルタによって潤滑オイルに含まれる歯車摩耗粉等の異物を捕捉することができる。このため、軸受内への異物の侵入を防止し、転がり軸受の軌道面や転動面に剥離や傷、圧痕等の損傷が生じて耐久性が低下するのを抑制することができる。
【0013】
また、フィルタの周囲部には永久磁石が設けられているため、その永久磁石によってオイルに混入する摩耗粉等の金属異物を吸着保持することができる。このため、オイル中の金属異物の混入量を減少させることができ、フィルタの目詰まりおよび潤滑性能の低下を抑制することができる。
【0014】
この発明に係るホイール駆動装置において、シール部材として、転がり軸受の外方軌道輪と内方軌道輪の一方の軌道輪の端部に取付けられる芯金にゴムシールが固着され、そのゴムシールに他方の軌道輪と接触するシールリップが設けられた軸受シールを採用することができる。
【0015】
上記のような軸受シールの採用において、芯金に複数の通油孔を周方向に間隔をおいて形成し、かつ、隣接する通油孔間に磁石取付部を設け、上記複数の通油孔のそれぞれを前記フィルタで覆い、上記磁石取付部に永久磁石を設けることによって、フィルタ付き軸受シールの組付けと同時に永久磁石の組付けを行うことができ、永久磁石の組付けの容易化を図ることができる。
【0016】
また、上記のような軸受シールの採用において、磁石取付部を貫通孔とし、永久磁石を芯金の内表面に取付けて磁石取付部を覆い、あるいは、磁石取付部を凹部とし、その凹部の閉塞端部に永久磁石を取付けることにより、磁石取付部を磁性粉溜りとすることができるため、多くの磁性摩耗粉を吸着保持することができる。
【0017】
シール部材は、上記のような軸受シールに限定されるものでない。例えば、片シール付き軸受の外方軌道輪と内方軌道輪の一方の軌道輪端部に取付けられて他方の軌道輪との間に微小間隙を形成し、軸受空間のほぼ全体を覆う大きさの環状のスリンガからなるものであってもよい。
【0018】
上記のようなスリンガの採用において、そのスリンガに複数の通油孔を形成し、隣接する通油孔間に磁石取付部を設け、前記複数の通油孔のそれぞれをフィルタで覆い、磁石取付部に永久磁石を設けることによって、スリンガの組付けと同時に永久磁石の組付けを行うことができ、永久磁石の組付けの容易化を図ることができる。
【0019】
また、スリンガの採用において、そのスリンガと他方の軌道輪との間に形成される前記微小間隙に近接して環状の永久磁石を設けておくことによって、微小間隙から軸受内部に摩耗粉等の金属粉が侵入するのを防止することができる。
【0020】
なお、スリンガを採用する場合においても、磁石取付部を貫通孔とし、永久磁石を芯金の内表面に取付けて磁石取付部を覆うことにより、磁石取付部を磁性粉溜りとすることができるため、多くの磁性摩耗粉を吸着保持することができる。
【0021】
ここで、ホイールを回転自在に支持する一対の転がり軸受のうち、減速機構から離れた位置に配置されたインボード側の転がり軸受として、軸方向の一端部にホイールと一体に回転する外方軌道輪の回転速度を検出する回転センサ付き転がり軸受を採用し、その回転センサがインボード側に位置する組込みとすることにより、ホイールの回転速度を検出することができるため、トラクションコントロールシステム(TRC)やアンチスキッド・ブレーキ・システム(ABS)の制御部に制御信号を出力することができる。
【0022】
インボード側の転がり軸受に回転センサを設けることにより、アウトボード側の転がり軸受に設けられたフィルタにより潤滑オイルが濾過されて異物が捕捉され、異物の混入のきわめて少ない清浄なオイルがインボード側の転がり軸受側に流れ込んで、その転がり軸受を潤滑することになるため、回転センサに異物が付着することが少なく、回転速度を精度よく検出することができる。
【0023】
ここで、一対の転がり軸受間における車軸の外径面やホイールの内径面に環状の永久磁石を取付けておくと、アウトボード側の転がり軸受を通過してインボード側の転がり軸受に向けて流れる潤滑オイルに金属粉が微量に混入している場合に、その金属粉を上記永久磁石で吸着除去することができ、回転センサに対する金属粉の付着をより効果的に防止することができる。
【0024】
なお、転がり軸受に回転センサを備える場合、外方軌道輪側のエンコーダをパルサリングとし、内方軌道輪側のセンサ部に、バックマグネット式の磁気センサを備えた構成とすることができる。ダンプトラック等の各種建設用機械の足回り等で使用される転がり軸受は比較的大径のものが多いので、回転センサを、このようにバックマグネット式とすることで、回転センサの性能を安定させることができる。
【発明の効果】
【0025】
この発明においては、上記のように、アウタボード側の転がり軸受に片シール付き軸受を採用し、その転がり軸受をシール部材がアウトボード側に配置される組付けとして、そのシール部材に通油孔を形成したことにより、減速機構を潤滑するオイルを流入孔から軸受内部に流入させることができ、一対の転がり軸受を減速機構と共通のオイルでもって潤滑することができる。
【0026】
また、フィルタによって流入孔を覆うようにしたので、そのフィルタによって潤滑オイルに含まれる歯車摩耗粉等の金属異物を捕捉することができる。このため、軸受内への金属異物の侵入を防止し、転がり軸受の軌道面や転動面に剥離や傷、圧痕等の損傷が生じて耐久性が低下するのを抑制することができる。
【0027】
さらに、フィルタに周囲部に永久磁石を設けたことによって、その永久磁石により潤滑オイル中の摩耗粉等の金属異物を吸着保持することができる。このため、貯留オイルに混入する磁性摩耗粉の混入量を減少させることができ、フィルタの目詰まりおよび潤滑性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明に係るホイール駆動装置の実施の形態を示す縦断面図
【図2】図1のホイール支持部を拡大して示す断面図
【図3】図2に示す片シール付き転がり軸受の一部分を示す正面図
【図4】図3のIV−IV線に沿った断面図
【図5】図4の一部を拡大して示す断面図
【図6】図3のVI−VI線に沿った断面図
【図7】片シール付き転がり軸受の他の例を示す断面図
【図8】片シール付き転がり軸受のさらに他の例を示す断面図
【図9】片シール付き転がり軸受のさらに他の例を示す断面図
【図10】片シール付き転がり軸受のさらに他の例を示す断面図
【図11】磁石取付部の他の例を示す断面図
【図12】回転センサ付き転がり軸受の回転センサ部を拡大して示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、建設機械としてのダンプトラックにおけるホイール駆動装置を示す。図示のように、車軸としての固定スピンドル1は図示省略した車体に固定されている。固定スピンドル1の外径面上には一対の転がり軸受B、Bが軸方向に間隔をおいて取付けられ、その転がり軸受B、Bによって複列のタイヤ3を有するホイール2が回転自在に支持されている。
【0030】
固定スピンドル1のインボード側にはモータ4が設けられ、そのモータ4を駆動源として回転駆動される駆動シャフト5が固定スピンドル1内に挿通されて、その固定スピンドル1と同軸上の配置とされている。
【0031】
固定スピンドル1のアウトボード側には、固定スピンドル1の回転を減速してホイール2に伝達する減速機構10が設けられている。減速機構10は、第1遊星歯車式減速機構10aと第2遊星歯車式減速機構10bとからなる。
【0032】
第1遊星歯車式減速機構10aは、駆動シャフト5の軸端部に固定された太陽歯車11aと、その太陽歯車11aに噛合する遊星歯車12aと、その遊星歯車12aに噛合する内歯車13aとからなり、前記太陽歯車11aの回転を遊星歯車12aから内歯車13aに伝達して、その内歯車13aに連結された筒状のギヤカップリング14を減速回転させるようにしている。
【0033】
一方、第2遊星歯車式減速機構10bは、上記ギヤカップリング14の端部内に嵌合されてスプライン結合された太陽歯車11bと、その太陽歯車11bに噛合する遊星歯車12bと、その遊星歯車12bに噛合する内歯車13bとからなり、上記太陽歯車11bの回転により、その回転を遊星歯車12bから内歯車13bに伝達して、その内歯車13bが固定されたホイール2を減速回転させるようにしている。
【0034】
ここで、第2遊星歯車減速機構10bの遊星歯車12bを回転自在に支持するキャリア13cは円筒部13dを端部に有し、その円筒部13dが固定スピンドル1のアウタボード側端部内に嵌合されてスプライン結合されている。
【0035】
第2遊星歯車式減速機構10bの上記内歯車13bはホイール2のアウトボード側端部に連結され、その内歯車13bのアウトボード側端面に取付けられたホイールキャップ15によってホイール2内に密閉空間16が形成されている。密閉空間16内にはオイルが貯留され、そのオイルによって減速機構10が潤滑されるようになっている。
【0036】
なお、減速機構10として、実施の形態では遊星歯車式減速機構を採用したが、減速機構10は遊星歯車式減速機構に限定されず、周知の減速機構を採用することができる。
【0037】
図2に示すように、ホイール2を回転自在に支持する前述の一対の転がり軸受B、Bは、外輪20と、内輪21と、その両輪20、21間に組み込まれた円すいころ22およびその円すいころ22を保持する保持器23とで構成される円すいころ軸受からなる。この一対の円すいころ軸受B、Bは、背面組み合わせとされてホイール2を回転自在に支持している。
【0038】
一対の円すいころ軸受B、Bは、ホイール2内の密閉空間16内に貯留された前記オイルによって潤滑されるようになっている。このとき、オイルは、減速機構10も潤滑するため、そのオイルには歯車の摩耗粉(鉄粉等)等の異物が含まれている。これの異物が一対の円すいころ軸受B、B内に侵入すると、軌道面や転動面に剥離や傷、圧痕等の損傷が生じ、円すいころ軸受の耐久性を低下させることになる。
【0039】
そのような問題点を解決するため、実施の形態においては、一対の円すいころ軸受B、Bのうち、アウトボード側に配置された円すいころ軸受Bに片シール付き円すいころ軸受Bを採用している。一方、インボード側に配置された円すいころ軸受Bには、回転センサ付きの円すいころ軸受を採用している。
【0040】
図3乃至図6は、その片シール付き円すいころ軸受Bを示し、外輪20と内輪21間に形成された軸受空間の一端開口を軸受シール24によって密閉している。
【0041】
図5および図6に示すように、軸受シール24は、芯金25と、その芯金25に固着されたゴムシール26とからなる。芯金25は、円筒部25aの一端部に内向きフランジ25bを設けた構成とされ、上記円筒部25aが外輪20の一端部内周に形成されたシール嵌合面27に嵌合され、そのシール嵌合面27に形成されたシール取付溝28と円筒部25aの他端部外周に形成された突出部29の係合によって芯金25が抜止めされ、軸受シール24は取付け状態とされている。
【0042】
ここで、芯金25は、合成樹脂の成形品とされているが、金属製のものであってもよい。
【0043】
ゴムシール26は、耐摩耗性および耐油性に優れたゴムからなっている。そのようなゴムとしてニトリルゴムを挙げることができる。このゴムシール26は芯金25の内周部に加硫接着され、その内周部には内向きシールリップ26aと外向きシールリップ26bが設けられている。内向きシールリップ26aの先端部は内輪大つば21aの外径面に形成されたシール溝30の内側面30aに弾性接触し、一方、外向きシールリップ26bの先端部は、内輪大つば21aのシール溝30より外側に形成された円筒状のシール面31に弾性接触している。
【0044】
図3に示すように、芯金25には、複数の通油孔32と複数の磁石取付部33とが周方向に交互に形成され、その通油孔32および磁石取付部33のそれぞれは円弧状の貫通孔とされている。
【0045】
なお、磁石取付部33は貫通孔に限定されるものではない。例えば、図11に示すように、円弧状の窪みからなるものであってもよい。また、実施の形態では、複数の通油孔32と複数の磁石取付部33とを周方向に交互に形成したが、交互の配列でなくてもよい。
【0046】
図3および図6に示すように、複数の通油孔32のそれぞれはフィルタ34によって覆われている。フィルタ34として、ここでは、ガラスファイバからなるものを採用しているが、金属あるいは合成樹脂のメッシュ体からなるものであってもよい。このフィルタ34の取付けに際し、ここでは、芯金25の内表面に接着しているが、芯金25の成型時に、その芯金25にモールドしてもよい。
【0047】
図3および図5に示すように、複数の磁石取付部33のそれぞれは板状の永久磁石35によって覆われている。永久磁石35として、ここでは、ニトリルゴムからなるゴム材にフェライト等の磁性粉を混合したゴム磁石を採用している。この永久磁石35は、芯金25の内表面に外周部が衝合されて接着により固定されている。
【0048】
上記の構成からなる片シール付き円すいころ軸受Bは、軸受シール24がアウトボード側に配置される組込みとされている。片シール付き円すいころ軸受Bのそのような組み込みよって、減速機構10を潤滑するオイルは、通油孔32から軸受内部に流入して、その片シール付き円すいころ軸受Bを潤滑する。
【0049】
このとき、減速機構10を潤滑するオイルには多くの歯車摩耗粉等の異物が混入しており、これらの異物を含むオイルが通油孔32に流入する際、その通油孔32はフィルタ34で覆われているため、オイル中の異物はフィルタ34で捕捉されることになる。
【0050】
このため、片シール付き円すいころ軸受B内に異物が侵入するようなことがなく、その異物の噛み込みによって片シール付き円すいころ軸受Bが損傷するのを防止することができる。
【0051】
ここで、片シール付き円すいころ軸受Bを潤滑するオイルは、減速機構10を潤滑するオイルであり、そのオイルに含まれる異物は歯車摩耗粉等の金属異物を多く含む。その金属異物は減速機構10の作動によるホイール2の回転により徐々に増加し、その金属異物の増加によってフィルタ34が目詰まりし易くなる。
【0052】
しかし、軸受シール24には永久磁石35が設けられ、その永久磁石35は貯留オイル中を回転するため、その貯留オイルに混入する金属異物は永久磁石35により吸着保持されて、貯留オイル中から除去されることになり、貯留された貯留オイル中の金属異物は減少する。
【0053】
その結果、フィルタ34が早期に目詰まりするというようなことがなく、フィルタ34の目詰まりおよび潤滑性能の低下が抑制される。
【0054】
ここで、永久磁石35は、芯金25に形成された貫通孔からなる磁石取付部33を芯金25の内表面から覆う構成であるため、磁石取付部33は金属異物の溜り場となり、多くの金属異物を吸着保持することができる。
【0055】
図12は、インボード側に配置された回転センサ付きの円すいころ軸受Bを示し、その円すいころ軸受Bに組み込まれた回転センサ40でホイール2の回転速度を検出して、ABS制御やトラクションコントロールに用いることにしている。
【0056】
ここで、回転センサ40は、回転側である外輪20に、エンコーダ41としてパルサリングを固定している。また、固定側である内輪21に、バックマグネット式の磁気センサからなるセンサ部42を備えたセンサケース43を固定している。
【0057】
なお、回転センサ40はバックマグネット式磁気センサに限定されるものではない。
【0058】
上記回転センサ付きの円すいころ軸受Bは、図1に示すように、その回転センサ40がインボード側に配置される組込みとされている。このように、インボード側の円すいころ軸受Bに回転センサ40を設け、その回転センサ40がインボード側に配置される組込みとすることにより、アウトボード側の円すいころ軸受Bに設けられたフィルタ34により潤滑オイルが濾過されて異物が捕捉され、異物混入のきわめて少ない清浄なオイルがインボード側の転がり軸受B側に流れ込んで、その転がり軸受Bを潤滑することになる。このため、回転センサ40に異物が付着することが少なく、回転速度を精度よく検出することができる。
【0059】
ここで、図2に示すように、一対の円すいころ軸受B、B間における固定スピンドル1の外径面およびホイール2の内径面に環状の永久磁石44を取付けておくと、アウトボード側の円すいころ軸受Bを通過してインボード側の円すいころ軸受Bに向けて流れる潤滑オイルに金属異物が微量に混入している場合に、その金属異物を上記永久磁石44で吸着除去することができ、回転センサ40に対する金属異物の付着をより効果的に防止することができる。
【0060】
図3乃至図6は、転がり軸受として円すいころ軸受を示したが、転がり軸受は円すいころ軸受に限定されるものではない。例えば、円筒ころ軸受であってもよく、あるいは、深みぞ玉軸受であってもよい。
【0061】
また、図3乃至図6では、アウトボード側円すいころ軸受Bの外輪内径面に軸受シール24の芯金25に形成された円筒部25aを嵌合する取付けとしたが、上記芯金25を外輪外径面に取付けるようにしてもよい。なお、軸受シールを内輪に取付けるようにしてもよい。
【0062】
図3乃至図6では、アウトボード側円すいころ軸受Bの軸受空間の一端の開口を密封するシール部材として軸受シール24を示したが、シール部材は軸受シール24に限定されるものではない。
【0063】
図7乃至図10は、シール部材の他の例を示している。図7では、外輪20の端部内径面に取付けられるスリンガ50をシール部材としている。このスリンガ50は、外輪20の端部内径面に形成されたシール嵌合面27に嵌合される円筒部50aの一端部に内向きフランジ50bを設け、その内向きフランジ50bの内径部に内輪21の端部外径面間に微小間隙51を形成する内筒部50cを設けた構成とされ、上記円筒部50aをシール嵌合面27に圧入し、その円筒部50aの他端部外周に形成された突出部52とシール嵌合面27に形成されたシール取付溝28の係合により円筒部50aを抜止めしてスリンガ50を取付け状態としている。
【0064】
ここで、スリンガ50の内向きフランジ50bには、図3に示す軸受シール24と同様に、複数の通油孔と複数の貫通孔かからなる磁石取付部33とが周方向に交互に設けられ、複数の通油孔のそれぞれがフィルタで覆われ、複数の磁石取付部33のそれぞれが板状の永久磁石35で覆われているが、通油孔およびフィルタについては図示省略している。また、内向きフランジ50bの外表面における内周部に環状の永久磁石53が微小間隙51に近接して取付けられている。
【0065】
図7に示されるスリンガ50においても、永久磁石35によってオイルに混入する金属異物を吸着保持することができ、フィルタの目詰まり防止に効果を挙げることができる。また、内向きフランジ50bの外表面に取付けた永久磁石53によって金属異物を吸着保持することができるため、多くの金属異物を吸着保持することができ、しかも、その永久磁石53によって微小間隙51から軸受内部に金属異物が侵入するのを防止することができる。
【0066】
図7では、外輪20の端部内径面にスリンガ50を取付けるようにしたが、図8に示すように、外輪20の端部外径面に形成された小径のシール嵌合面60にスリンガ50の外周部に形成された円筒部50aを嵌合し、その円筒部50aの他端部内周に形成された突出部61をシール嵌合面60に形成されたシール取付溝62に係合させるようにしてもよい。
【0067】
ここで、図8では、内輪21の大つば21aにおける外径面に環状溝63を形成し、その環状溝63に環状の永久磁石64を取付けて、その永久磁石64により金属異物を吸着保持し、微小間隙51から軸受内部に金属異物が侵入するのを防止している。
【0068】
図9では、外輪20の端部に形成されたシール嵌合面60に嵌合される円筒部70aの一端に内向きフランジ70bを設けたスリンガ70をシール部材としている。このスリンガ70は、外輪20のシール嵌合面60に円筒部70aを嵌合し、その円筒部70aの端部内周に形成された突出部71とシール嵌合面60に形成されたシール取付溝62の係合によって取付状態とされる。その取付状態において、内向きフランジ70bは、内輪21の端部に形成された小径円筒面72およびその小径円筒面72の端部から径方向外方に向く端面73との間でラビリンス74を形成している。
【0069】
上記スリンガ70の内向きフランジ70bには、図3に示す軸受シール24と同様に、複数の通油孔と複数の貫通孔からなる磁石取付部33とが周方向に交互に設けられ、複数の通油孔のそれぞれがフィルタで覆われ、複数の磁石取付部33のそれぞれが板状の永久磁石35で覆われているが、通油孔およびフィルタについては図示省略している。
【0070】
図9では、内輪21の大つば21aの外周に設けられた小径円筒面72に環状溝75を形成し、その環状溝75に環状の永久磁石76を取付けて、ラビリンス74から軸受内部に金属異物が侵入するのを防止するようにしている。
【0071】
図9に示されるスリンガ70においても、永久磁石35によってオイルに混入する金属異物を吸着保持することができ、フィルタの目詰まり防止に効果を挙げることができる。また、小径円筒面72の環状溝75に取付けた永久磁石76よっても金属異物を吸着保持することができるため、多くの金属異物を吸着保持することができ、しかも、その永久磁石76によってラビリンス74から軸受内部に金属異物が侵入するのを防止することができる。
【0072】
図9では、小径円筒面72に環状溝75を形成し、その環状溝75に永久磁石76を取付けるようにしたが、図10に示すように、内向きフランジ70bの内表面における内周部に環状の永久磁石77を取付けて、ラビリンス74から軸受内部に金属異物が侵入するのを防止するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 固定スピンドル(車軸)
2 ホイール
4 モータ
5 駆動シャフト
10 減速機構
円すいころ軸受(転がり軸受)
円すいころ軸受(転がり軸受)
20 外輪(外方軌道輪)
21 内輪(内方軌道輪)
24 軸受シール(シール部材)
25 芯金
26 ゴムシール
32 通油孔
33 磁石取付部
34 フィルタ
35 永久磁石
40 回転センサ
44 永久磁石
50 スリンガ
51 微小間隙
53 永久磁石
64 永久磁石
70 スリンガ
74 ラビリンス
76 永久磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定の配置とされた筒状の車軸と、その車軸の外径面上において軸方向に間隔をおいて設けられた一対の転がり軸受と、その一対の転がり軸受によって回転自在に支持されたホイールと、前記車軸内に挿通され、モータを駆動源として回転駆動される駆動シャフトと、前記車軸のアウトボード側に組込まれて前記駆動シャフトの回転を減速して前記ホイールに伝達する減速機構とを有し、前記一対の転がり軸受と減速機構のそれぞれを共通のオイルによって潤滑するようにしたホイール駆動装置において、
前記一対の転がり軸受のうち前記減速機構側に位置するアウタボード側の転がり軸受が、シール部材を片側に有し、そのシール部材がアウタボード側に位置する組込みとされた片シール付き軸受とされ、その片シール付き軸受のシール部材に通油孔を形成し、その通油孔をフィルタで覆い、そのフィルタの周囲部に永久磁石を設けたことを特徴とするホイール駆動装置。
【請求項2】
前記シール部材が、片シール付き軸受の外方軌道輪と内方軌道輪の一方の軌道輪端部に取付けられる芯金の内周部にゴムシールが固着され、そのゴムシールに他方の軌道輪に接触されるシールリップが設けられた接触型軸受シールからなり、その軸受シールの芯金に複数の通油孔を周方向に間隔をおいて形成し、かつ、隣接する通油孔間に磁石取付部を設け、前記複数の通油孔のそれぞれを前記フィルタで覆い、前記磁石取付部に永久磁石を設けた請求項1に記載のホイール駆動装置。
【請求項3】
前記シール部材が、片シール付き軸受の外方軌道輪と内方軌道輪の一方の軌道輪端部に取付けられて他方の軌道輪との間に微小間隙を形成し、軸受空間のほぼ全体を覆う大きさの環状のスリンガからなり、そのスリンガに複数の通油孔を周方向に間隔をおいて形成し、かつ、隣接する通油孔間に磁石取付部を設け、前記複数の通油孔のそれぞれを前記フィルタで覆い、前記磁石取付部に永久磁石を設けた請求項1に記載のホイール駆動装置。
【請求項4】
前記スリンガと他方の軌道輪との間に形成された前記微小間隙に近接して環状の永久磁石を設けた請求項3に記載のホイール駆動装置。
【請求項5】
前記磁石取付部が、貫通孔とされ、前記永久磁石が、その貫通孔からなる磁石取付部をシール部材の内表面から覆う取付けとした請求項2乃至4のいずれかの項に記載のホイール駆動装置。
【請求項6】
前記磁石取付部が、凹部とされ、その凹部の閉塞端部に前記永久磁石を取付けた請求項2乃至4のいずれかの項に記載のホイール駆動装置。
【請求項7】
前記永久磁石がゴム状磁石からなる請求項1乃至6のいずれかの項に記載のホイール駆動装置。
【請求項8】
前記一対の転がり軸受のうち前記減速機構から離れた位置に配置されたインボード側転がり軸受が、軸方向の一端部に前記ホイールと一体に回転する外方軌道輪の回転速度を検出する回転センサ付き転がり軸受とされて、その回転センサがインボード側に位置する組込みとされた請求項1乃至7のいずれかの項に記載のホイール駆動装置。
【請求項9】
前記車軸の前記一対の転がり軸受間における外径面に環状の永久磁石を取付けた請求項1乃至8のいずれかの項に記載のホイール駆動装置。
【請求項10】
前記ホイールの前記一対の転がり軸受間における内径面に環状の永久磁石を取付けた請求項1乃至9のいずれかの項に記載のホイール駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−202417(P2012−202417A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64452(P2011−64452)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】