説明

ホウジャサイトゼオライト、その製造及び水素化分解への使用法

【課題】ナフサ、特に重質ナフサに対する選択性が高いホウジャサイトゼオライトを提供すること。
【解決手段】単位格子サイズが24.40〜24.50Åの範囲で、シリカ対アルミナ嵩比(SAR)が5〜10の範囲で、アルカリ金属含有量が0.15重量%未満であるホウジャサイト構造のゼオライト、その製造法、該ゼオライトを含む水素化分解用触媒組成物及びその水素化分解への使用法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、水素化分解用触媒組成物への用途を有するホウジャサイトゼオライト、その製造及び使用法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
水素化転化方法は、近代世界において日常生活に重要なベース燃料を供給する際、重要である。重質原油供給原料の利用がますます必要となるのに従って、製油工業は、近代社会が要求する軽質のベース燃料を供給する水素化分解法に向かっている。非晶質水素化分解触媒が使用されているが、近代の水素化分解触媒はゼオライト材料をベースとするものが多い。
【0003】
ホウジャサイト材料は、水素化分解用に提案された主なゼオライト系材料の1つである。単位格子サイズを小さくするため、US−A−3,130,007に記載されるベース材料を改質すると、所望の中間留分又は中間バレル生成物に対する選択性が向上することが先に発見された。これを達成するため、水蒸気焼成と脱アルミ化、通常、酸脱アルミ化とを種々組合わせた技術が提案されている。
【0004】
しかし中間留分生成物は、特定の地域、例えば北米では水素化分解で最も望ましい目的物ではなく、代りに191℃未満の沸点を有する更に軽質の液体生成物の需要が多い。このような生成物は、ナフサフラクションと呼ばれ、特に重質ナフサ(沸点92〜191℃のフラクション)が一層望ましい。単位格子サイズが24.40Å以上のホウジャサイトは、これよりも単位格子サイズの小さいホウジャサイト(中間留分選択性触媒に普通に使用されている)に比べてナフサ選択性が高いことが知られている。
【特許文献1】US−A−3,130,007
【特許文献2】US−A−4,085,069
【特許文献3】US−A−5,435,987
【特許文献4】国際特許明細書No.WO 95/03248
【特許文献5】WO−99/32582
【特許文献6】EP−A−310,164
【特許文献7】EP−A−310,165
【特許文献8】EP−A−428,224
【特許文献9】米国特許No.5,435,987
【非特許文献1】van Bekkum,Flanigen,Jansen 編“Introduction to zeolite science and practice”、第15章602〜603頁(表題:“Hydrocarbon processing with zeolites”);Elsevierにより出版(1991年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
単位格子サイズが24.40Åを超えるホウジャサイトは、単位格子サイズが大きい程、ナフサに対する選択性、特に重質ナフサに対する選択性が高いことが見い出された。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明は、単位格子サイズが24.40〜24.50Åの範囲で、シリカ対アルミナ嵩比(SAR)が5〜10の範囲で、アルカリ金属含有量が0.15重量%未満であるホウジャサイト構造のゼオライトを提供する。
【発明の効果】
【0007】
この単位格子サイズの小さいゼオライトを水素化分解に使用すると、高い重質ナフサ選択性と共に、通常、単位格子サイズの大きい、例えば24.53Å以上の材料を用いた触媒が単に普通に同伴する活性を生じる。更に、本発明ゼオライトの以上の特性及びその他の特性は、従来のこのような単位格子サイズの大きい材料で得られる特性よりも向上することが多い。
【0008】
本発明は更に、本発明ゼオライトの製造方法を提供する。この方法は、
a)シリカ対アルミナ比が4.5〜6.5で、アルカリ水準が1.5重量%未満であるホウジャサイト構造の出発ゼオライトを供給する工程、
b)該出発ゼオライトを温度550〜850℃の範囲及び存在する全ガスに対し水蒸気の分圧0〜100容量%の範囲で、単位格子サイズが24.35〜24.50Åの範囲である中間ゼオライトを生成するのに有効な時間、水熱的に処理する工程、
c)該中間ゼオライトを、単位格子サイズが24.40〜24.50Åの範囲でシリカ対アルミナ嵩比(SAR)が5〜10の範囲でアルカリ金属含有量が0.15重量%未満であるゼオライトを生成するのに有効な条件下で、酸及び任意にアンモニウム塩を含む酸性化溶液と接触させる工程、及び
d)該ゼオライトを回収する工程、
を含む。
【0009】
更に、前記ゼオライトと、バインダーと、任意に金属水素化成分とを含有するナフサ選択性水素化分解用触媒組成物;及び炭化水素質供給原料を、高温高圧で該触媒組成物と接触させることを特徴とする炭化水素質供給原料を該原料よりも低沸点の材料に転化する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
発明の詳細な説明
本発明のゼオライトは、ナフサ選択性水素化分解用触媒として使用するのに有利な特性を有する。
ホウジャサイトゼオライト、好ましくはゼオライトYの単位格子サイズは、24.40〜24.50Å、好ましくは24.42〜、特に24.44〜24.50Åの範囲である。更に好ましくは、単位格子サイズは24.44〜24.48Åの範囲である。ゼオライトのシリカ対アルミナ嵩モル比(ここでも“SAR”という)5〜10、好ましくは7.5〜9.0の範囲である。ゼオライトの表面積は、好ましくは650〜900m/g、最も好ましくは750〜875m/g、特に〜850m/gの範囲である。ゼオライトの表面積は、材料の細孔中の有用な又は活性の表面積についての指標であり、またゼオライトの結晶性能の指標でもある。
【0011】
またゼオライトのアルカリ水準は、ゼオライトに対し、好ましくは0.1重量%未満である。ゼオライトのアルカリ水準は、できるだけ低いことが望ましい。特定のゼオライトでは、現在の分析技術では検出できない程、構造中にアルカリが残存しない。したがって、本発明の特定のゼオライトのアルカリ水準は、検出できない程の量であってよい。
【0012】
本発明ホウジャサイトゼオライトのシリカ対アルミナのモル比は、嵩比又は総合(overall)比である。このモル比は、多数の化学分析技術のいずれか1つで測定できる。このような技術としては、X線蛍光法、原子吸着法及びICP(電磁結合プラズマ)法が挙げられる。いずれの方法もほぼ同じ嵩比値が得られる。
【0013】
ホウジャサイトゼオライトについての単位格子サイズは、一般的な特性で、標準的な方法により±0.01の精度まで評価できる。最も普通の測定法は、ASTM D3942−80によるX線回折(XRD)法である。
【0014】
表面積は、多くの場合、単にBET法と称される周知のBET(Brunauer−Emmett−Teller)窒素吸着法に従って測定される。ここでもゼオライトY材料については、BET法を適用し、ASTM D4365−95の一般的方法及び手引きに従う。被測定サンプルを定常状態に確保するには、全てのサンプルを予備処理するのが好適である。予備処理法は、好適には、サンプルを例えば400〜500℃の温度で、遊離水を除去するのに十分な時間、例えば3〜5時間、加熱する工程を含む。表面積(BET)の測定で使用される窒素多孔度測定法は、準(meso)細孔(直径2nm以上)面積のような他の特性の測定にも使用できる。本発明ゼオライトの準細孔面積は、一般に50m/gを超える。
以上の測定法は当業者に周知である。
【0015】
本発明のゼオライトは、ここに記載したように、低SAR、低アルカリ酸化物、ホウジャサイトゼオライトの低温高水蒸気分圧での蒸煮を、引続く中程度の酸脱アルミ化と組合わせた製造法により好適に製造される。
【0016】
低アルカリ水準の出発原料は、当該技術分野で周知の方法、例えばUS−A−4,085,069に記載されるように、アルカリ金属含有量の多いゼオライトに対し、所望のアルカリ金属水準になるまで、アンモニウムイオン交換を繰り返すことにより、或いはUS−A−5,435,987及び国際特許明細書No.WO 95/03248に開示されたカリウムイオン交換法により製造できる。出発ゼオライトの単位格子サイズは、24.60〜24.74Åの範囲が好適である。
【0017】
出発ゼオライトの重要な面は低アルカリ水準であり、出発ゼオライトの更に重要な面はSAR、好ましくは5.4〜6.5の範囲のSARであると考えられる。
用語アルカリ及びアルカリ金属に関しては、両方ともここでは交換可能に使用される。両用語とも、一般にアルカリ金属酸化物、例えば酸化ナトリウム及び/又は酸化カリウムを示すのに使用される。その量は、例えばXRF−迅速化学分析法により容易に測定される。出発ゼオライトに最も好適に存在するアルカリ酸化物の量は、約1重量%以下である。
【0018】
工程b)は、水蒸気焼成工程である。このような処理は、当該技術分野では普通のことであり、また水熱処理と呼んでもよい。ここでは両用語とも使用できる。両方とも水蒸気存在下での加熱を含む。水蒸気は、ゼオライト自体から単独で誘導してよい(いわゆる自己蒸煮)が、工程b)では外部から供給した水蒸気が焼成工程の全期間中、反応条件の定常性を確保することが好ましい。本発明で使用されるゼオライトを製造するため、水蒸気焼成は温度550〜800℃、好ましくは600〜700℃、更に好ましくは600〜650℃の範囲で行うのが有用である。蒸煮は、0.5〜5時間、好ましくは0.5〜3時間の範囲で行うのが最も有用である。
【0019】
工程b)で水蒸気分圧は、存在する全ガスに対し、0〜100容量%水蒸気の範囲である。これは、0〜1気圧の範囲に等しいと書ける。したがって、水蒸気は出発ゼオライトの内部水分だけ、いわゆる自己蒸煮で発生させてもよいし、或いは好ましくは追加の水蒸気が利用される。後者の場合、水蒸気は好適には少なくとも10容量%(0.1気圧)、例えば少なくとも15容量%、最も好適には少なくとも20容量%供給される。他のガスが存在する場合、このガスは、空気、窒素又は他の不活性ガスであってよい。有用な材料は、90〜100容量%の範囲の水蒸気条件を用いて製造された。低水蒸気分圧を用いた場合、所望の中間ゼオライトを得るには長い水蒸気焼成が必要かも知れない。
【0020】
加熱体制を用いる場合は、処理容器中に熱スポットが生じると、ゼオライトの特性にばらつきを与えるので、熱スポットが確実に生じないように注意しなければならない。
【0021】
蒸煮処理の性能は、脱アルミ化処理を行う条件を決定する。例えば若干厳しい蒸煮処理(例えば高温)は、所望のゼオライトを得るのに若干多量の酸を必要とする。使用する装置と材料との最良の組合わせは、慣用の実験により決定できる。
【0022】
ゼオライトのSARは、蒸煮法で殆ど変化しないことが望ましいが、酸脱アルミ段階中は増加する。
【0023】
工程c)は周囲温度、例えば25℃〜100℃の範囲で行ってよい。高温を使用するのが好ましく、最も好適には40〜80℃、例えば60〜80℃の範囲である。使用温度は、実験室規模(通常、バッチ処理の場合)から商業的規模(普通、連続処理の場合)まで変化でき、後者の場合、脱アルミ化時間は、処理容器での材料の通過流に従って変化し得る。脱アルミ化時間は、0.5〜10時間の範囲でよく、最も都合よいのは、1〜5時間である。使用する酸及び任意にアンモニウム塩の濃度は、高いほど、当然、処理時間は短くなる。また時間規模も実験室規模から商業的規模まで変化できる。
【0024】
使用する酸溶液の濃度は、所望の材料を得るために重要である。最も有用な材料は、ゼオライト1g当たりHCl 0.03〜0.2g、好ましくは0.03〜0.1g、例えば約0.05gの範囲の酸用量で製造される。HCl以外の異なる酸を使用する場合は、適切な酸当量は、当業者に問題なく容易に計算できる。
【0025】
アンモニウム塩を使用した場合、その濃度は重要ではない。ゼオライト1g当り約4〜約40ミリ当量NHの量、用いると、有用な材料が製造できる。最も有用な材料は、ゼオライト1g当り、約4〜約20ミリ当量NHの量、用いて製造できた。
【0026】
処理したゼオライトの結晶度を保持するには、一段階又は多段階脱アルミ化のいずれも行なうことが可能であるが、必要ならば、各工程で確実にマイルドな酸処理を行うことが可能である。各工程は同じ脱アルミ(dealuminant)材料を用い、同じ条件下で行うのが最も都合よい。
【0027】
工程c)で使用してよい酸は、無機又は有機の酸、例えば酢酸、蟻酸又はシュウ酸である。好ましい酸は、pKaが0未満の、多くの場合、“強酸”と呼ばれる無機酸である。本発明方法で使用できる無機酸の非限定的例は、塩酸、硝酸及び硫酸である。塩酸及び硝酸のような1価の酸が好ましく使用される。酸は、水溶液の形態で使用するのが有用である。
【0028】
一般にいかなるアンモニウム塩も好都合に使用してよく、好適な例は、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム及び硫酸アンモニウムである。硝酸アンモニウム及び塩化アンモニウムから選ばれたアンモニウム塩を使用するのが好ましい。
【0029】
本発明の触媒において、ゼオライト成分は、非晶質バインダー成分と混合する。非晶質バインダー成分は、いかなる耐火性無機酸化物又はこのような組成物に慣用の酸化物の混合物であってもよい。一般には、バインダー成分は、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ又はそれら2種以上の混合物である。しかし、当該技術分野では余り使用されていないが、ジルコニア、粘土、燐酸アルミニウム、マグネシア、チタニア、シリカ−ジルコニア、及びシリカ−ボリアを使用することも可能である。バインダーも存在する場合、触媒中のゼオライトの量は、全触媒に対し、90重量%以下であってよいが、好ましくは2重量%〜、更に好ましくは20重量%〜、特に50重量%〜80重量%の範囲である。
【0030】
非晶質シリカアルミナは、第二分解性成分としても、またバインダーとしても作用し得ることに注目すべきである。非晶質シリカアルミナは、第二分解性成分として、操作温度の高い方法で最も有用に使用される。また非晶質シリカアルミナは、バインダーとして、水及び/又は弗化物が存在するか、或いは発生する方法で使用すると、ゼオライトを、結晶度の損失、したがって、失活から保護するのに有用であることが見い出された。
【0031】
非晶質シリカアルミナ材料は、シリカを25〜95重量%、最も好ましくは少なくとも40重量%の範囲の量含有するのが有用である。しかし、最も好ましいバインダーは、アルミナ、特にベーマイト、疑似ベーマイト及びγ−アルミナである。
【0032】
本発明触媒の製造において、ゼオライトとバインダーとを混合後、この混合物に酸性水溶液を加え、次いで従来法に従って共(co−)磨砕し、押出し、焼成する。酸性溶液には、いかなる都合のよい一塩基酸、例えば硝酸及び酢酸も使用してよい。押出中、従来と同様、押出助剤が使用される。通常の押出助剤としては、Methocel及びSuperflocがある。
【0033】
押出は、いかなる従来の市販の押出機を用いて行ってもよい。特に、スクリュー型押出機は、混合物を強制的にダイプレートのオリフィスから押し出し、所要形状、例えば円柱形又は三葉体形(trilobed)の触媒押出物を生成するのに使用できる。次いで、押出で形成されたストランドは、適当な長さ、例えば1.6mm、2.5mm、2.8mmに切断してよい。所望ならば、触媒押出物は、焼成の前に、例えば100〜300℃の温度で10分〜3時間乾燥してよい。
【0034】
焼成は、空気中、300〜850℃の範囲の温度で30分〜4時間行なうのが都合よい。
【0035】
本発明の触媒には、少なくとも1種の水素化成分を取込むことが好ましい。この添加は、従来法を用いて触媒製造中のいずれの段階で行ってもよい。例えば水素化成分は、共磨砕によりゼオライト、又はゼオライトとバインダーとの混合物に添加できる。
【0036】
単位格子サイズが24.40Åを超えるゼオライトYを含有する触媒においては、焼成温度が触媒の活性及び選択性に影響を与える可能性があることを見い出した。高温で焼成した触媒は、3〜5℃もの高い活性(活性は、原料に対し特定の転化に要する温度で表される)と、0.5〜2重量%という軽質及び重質ナフサ生成物に対する選択率の向上を示すことができる。この効果は、共磨砕で、特にゼオライト及びバインダーだけの共磨砕か、或いは1種以上の水素化金属塩とゼオライト及びバインダーとの共磨砕で製造した触媒の場合、特に高まる。
【0037】
したがって、焼成温度は好ましくは600〜850℃の範囲で使用される。更に好ましくは焼成温度は650〜820℃の範囲であり、特に700〜750℃の範囲が好ましい。
焼成に要する時間は通常、重要ではない。
【0038】
或いは水素化成分は、焼成前又は焼成後、従来の含浸法、例えば第VIB族及び/又は第VIII族金属塩の1種以上の含浸用水溶液を用いて成形押出物に添加してよい。含浸を成形押出物の焼成後に行えば、更に乾燥及び焼成法が有用に使用される。
【0039】
共磨砕製造法にも含浸製造法にも好適な金属塩は、酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩及びアンモニウム塩、例えば当業者に周知の、酢酸ニッケル、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、メタタングステン酸アンモニウムである。環境上の理由から、酢酸塩水溶液よりも硝酸塩及び炭酸塩の溶液の方が好ましい。
【0040】
ここではCRC Handbook of Chemistry and Physics(“The Rubber Handbook”)、第66版の表紙内側にCAS改訂版注釈を用いて記載される元素の周期表を参照する。
【0041】
好適には水素化成分は、ニッケル、コバルト、モリブデン、タングステン、白金及びパラジウムから選ばれる。
【0042】
したがって、好適に使用できる水素化成分の例としては、第VIB族金属(例えばモリブデン及びタングステン)及び第VIII族金属(例えばコバルト、ニッケル、イリジウム、白金及びパラジウム)、それらの酸化物及び硫化物が挙げられる。触媒組成物は、例えばモリブデン及び/又はタングステン成分とコバルト及び/又はニッケル成分とを組合せた少なくとも2種の水素化成分を含むことが好ましい。特に好ましい組合わせは、ニッケル/タングステン及びニッケル/モリブデンである。これら金属の組合わせを硫化物の形態で使用すると、極めて有利な結果が得られる。
【0043】
本発明の触媒組成物は、水素化成分を、全触媒組成物100重量部(乾燥重量)当りの金属として計算して、50重量部以下含有してよい。例えば、触媒組成物は、第VIB族金属を、全触媒組成物100重量部(乾燥重量)当りの金属として計算して、2〜40重量部、更に好ましくは5〜30重量部、特に5〜10重量部、及び/又は第VIII族金属を、0.05〜10重量部、更に好ましくは0.5〜8重量部、有利には1〜5重量部含有してよい。
【0044】
本発明触媒の通常の特性としては、水細孔容量が0.6〜0.75cc/g、好ましくは0.65〜0.7cc/gの範囲、平板(FP)圧潰強度が3.5ポンド/mmを超え、好適には4ポンド/mm以上、好ましくは5ポンド/mm以上、更に好ましくは5〜7ポンド/mm、特に6〜7ポンド/mmの範囲である。触媒の平均粒長は、通常、4〜6nmであってよい。本発明触媒の圧縮嵩密度(CBD)は、通常、0.50g/cc以上、好ましくは0.55g/cc以上、更に好ましくは0.58g/cc以上であり、このCBDは、好適には0.65g/cc以下、更に好適には0.60g/cc以下である。ここでCBDは、振動テーブル上に固定した250mlメスシリンダー内の試験サンプル上に突き棒を置き、このサンプルを予備乾燥することなく、評価し、別途に下記式に従って補正を行う他は、ASTM D4180−03法に従って評価する。
【0045】
CBD=CBD測定値×(100−LOI)\100
ここでLOIは、材料を加熱した時の損失質量の相対量、即ち、水分である。この水分は、以下の方法に従って材料を485℃に加熱して測定する。まず、サンプルをむらなく十分に混合する。秤量したサンプルを予備焼成した秤量済みのルツボに移す。ルツボを、485℃で最小15分間、但し、通常は1時間、予熱したオーブンに入れる。乾燥サンプルを入れたルツボを再び秤量し、下記式に従ってLOIを測定する。
LOI%=(w−w計算値)/w*100%
ここで、wはサンプルの元の重量、w計算値は、オーブンで加熱後の焼成サンプルの重量で、両重量はルツボの重量で補正する。
【0046】
この触媒組成物は、ナフサ選択性触媒組成物としての特定の用途があることが判る。したがって、本発明は、炭化水素質供給原料を、高温高圧で本発明の触媒組成物と接触させることを特徴とする炭化水素質供給原料を該原料よりも低沸点の材料に転化する方法も提供する。
【0047】
このような方法の例は、一段水素化分解、二段水素化分解、及び直列流水素化分解を含む。これら方法の定義は、van Bekkum,Flanigen,Jansen編“Introduction to zeolite science and practice”、第15章602〜603頁(表題:“Hydrocarbon processing with zeolites”);Elsevierにより出版(1991年)に見られる。
【0048】
本発明の水素化転化法が、当該技術分野で通常のいかなる反応容器でも行えることは理解されよう。したがって、この方法は、固定床又は移動床反応器で行ってよい。本発明の触媒も、当該技術分野で通常のいかなる好適な助触媒又は他の材料と組合せて使用してもよい。したがって、例えば本発明の触媒は、水素化処理に有用な1種以上の他の触媒、例えば異なるゼオライトを含有する触媒、単位格子サイズの異なる、最も好ましくは単位格子サイズが24.50Åを超えるホウジャサイトを含有する触媒、非晶質担体を使用した触媒等と積層した床を形成して、使用してもよい。各種積層床の組合わせは、例えば文献:WO−99/32582、EP−A−310,164、EP−A−310,165及びEP−A−428,224に記載されているものでよい。
【0049】
本発明で有用な炭化水素質供給原料は、広範な沸点範囲内で変化し得る。これら原料としては、常圧ガス油、コーカーガス油、真空ガス油、脱アスファルト油、フィッシャー・トロプシュ合成法で得られたワックス、ロング及びショート残留物(レシジュー)、接触分解した循環油、熱又は接触分解したガス油、及び任意にタールサンド、シェールオイル、残留物格上げ法及びバイオマス由来の合成原油が挙げられる。各種炭化水素油の組合わせも使用してよい。通常、本発明方法に最適の供給原料は、供給原料を分解又は分別処理して得られた軽質供給原料又はフラクションである。このような供給原料としては、常圧及び真空ガス油、分解法で形成されたガス油、循環油及び類似沸点範囲の供給原料が挙げられる。沸点範囲は、一般に約90〜650℃のオーダーである。供給原料の窒素含有量は、5000ppmw(100万重量部当り部)以下であってよく、硫黄含有量は、6%w以下であってよい。通常、窒素含有量は、10〜、例えば100〜4000ppmwの範囲であり、硫黄含有量は、0.01〜、例えば2〜5%wの範囲である。供給原料の一部又は全部に対し、予備処理、例えば水素化脱窒素、水素化脱硫又は水素化脱金属のような当該技術分野で公知の予備処理法を行うことができるし、また時には望ましいかも知れない。
【0050】
本発明方法は、250〜500℃の範囲の反応温度で行うのが都合がよいかも知れない。
本発明方法は、好ましくは3×10〜3×10Pa、更に好ましくは8×10〜2.0×10Paの範囲の全圧(反応器入口で)で行われる。水素化分解を低圧、例えば1.2×10Pa以下で行う場合は、“マイルドな水素化分解”と称してよい。
【0051】
水素の分圧(反応器入口で)は、好ましくは3×10〜2.9×10Pa、更に好ましくは8×10〜1.75×10Paの範囲である。
使用される空間速度は、1時間当り触媒1リットル当り供給原料0.1〜10kg(kg.l−1.h−1)が都合よい。空間速度は、好ましくは0.1〜8kg.l−1.h−1、特に0.2〜5kg.l−1.h−1の範囲である。
本発明を以下の実施例によって説明する。
【0052】
本発明方法で使用される水素ガス対供給原料比(全ガス速度)は、一般に100〜5000Nl/kgの範囲であるが、好ましくは200〜3000Nl/kgの範囲である。
本発明を以下の実施例によって説明する。
【実施例】
【0053】
実施例では以下の試験法を使用した。
単位格子サイズ:ASTM D−3942−80法を用いて、X線回折により測定。
表面積:文献S.Brunauer,P.Emett及びE.Teller,J.Am.Chem.Soc.,60,309(1938)、並びにASTM法 D4365−95に記載される従来のBET(Brunauer−Emett−Teller)法窒素吸着技術に従って測定。以下の測定結果は、高温予備処理後、窒素分圧0.03で取った一点評価として示す。
【0054】
シリカ対アルミナモル比(SAR):
化学分析により測定。引用数値は、‘嵩’SAR(即ち、総合SARと言うものである)で、明確には結晶組織のSARではない。
【0055】
実施例1:ゼオライトの製造
SARが5.6で単位格子サイズが24.64Åで酸化ナトリウムが12.40重量%のホウジャサイトゼオライト(Zeolyst Internationalから)を、米国特許No.5,435,987に記載の方法(ナトリウム形ゼオライトのKイオン交換及び次いでアンモニウムイオン交換を含む)を用いて、低アルカリ(アルカリ酸化物1.5重量%未満)アンモニウム形Yゼオライトに転化した。得られたゼオライトの単位格子サイズは24.70Å、SARは5.6、酸化カリウム含有量は0.45重量%、酸化ナトリウム含有量は0.35重量%であった。
【0056】
次いで、この低アルカリアンモニウム形Yゼオライトを回転炉中、水蒸気100容量%、温度630℃で45分間、水蒸気焼成して、単位格子サイズが24.42Å、SARが5.6のゼオライトを得た。次いで、この蒸煮ゼオライトに対し、一段処理として、0.05gHCl/ゼオライト1g量の塩酸水溶液により60℃で1時間以上、酸脱アルミ化処理を行った。
最終ゼオライトの単位格子サイズは24.46Å、SARは8.1、アルカリ含有量は0.08重量%、表面積は810m/gであった。
【0057】
実施例2:触媒の製造
実施例1で製造したゼオライトYを低速度の磨砕機に装入し、下記金属溶液と5分間混合し、次いでアルミナ(HMPAアルミナ、Criterion Catalyst & Technologiesから)をゼオライト対アルミナの重量比が乾燥基準で80:20となるのに十分な量及びMethocel K−15MSを全乾燥固形分基準で1.8重量%加え、全体を高速度で1〜2分間混合した。金属溶液は、硝酸ニッケル溶液(ニッケル14.4重量%)及びメタタングステン酸溶液(タングステン73重量%)の水溶液で、全金属溶液はニッケルを6.3重量%及びタングステンを20.5重量%含有し、またpHは2.0〜2.4の範囲である。
【0058】
次いで、生成物の50%強熱減量を得るため脱イオン水及びアルミナを解凝固するため硝酸(全乾燥固形分2重量%)を加え、混合物の色調が暗緑色に変化し、材料の凝集で混合物中に大きな塊が現れるまで高速度で混合を続けた。次いで、Superflocを乾燥固形分基準で1.0重量%加え、押出可能な混合物が形成されるまで全体を更に3〜5分間混合した。次に混合物をスクリュー押出機で断面が三葉体形の押出物に押出した。押出物を回転ドラム中、130℃を超えない温度で約90分、乾燥し、更に730℃で約2時間焼成した。
【0059】
最終触媒は、いずれも全触媒基準で、酸化ニッケルとして3.3重量%(ニッケル2.6重量%)、酸化タングステンとして10.6重量%(タングステン8.4重量%)、ゼオライトY68.9重量%及びアルミナバインダー17.2重量%の組成を持っていた。
【0060】
実施例3:活性試験
押出物を1.6mmの円柱状に形成し、実施例1のタイプのゼオライトを用いた他は、実施例2と同じ方法で製造した触媒の水素化分解性能を多数の第二段直列流疑似試験において比較用触媒と平行して評価した。試験は、0.1mmのSiC粒子15mlで希釈した試験触媒15mlを含む触媒床を装填したワンススルー微小流装置で行った。触媒床は、試験前に予め硫化した。
【0061】
各試験は、ワンスルー操作において、下記プロセス条件下で炭化水素質供給原料を触媒床と連続的に接触させて行った。空間速度=1時間当たり触媒1リットル当たり原料油1.3kg(kg.l−1.h−1.)、水素ガス/原料油比=1000Nl/kg、全圧=9,600kPa(96バール)(入口で)
【0062】
試験用供給原料は以下の特性を有する。
炭素含有量 : 87.03重量%
水素含有量 : 12.95重量%
硫黄含有量 : 0.024重量%
窒素(N)含有量 : 13重量ppm
添加したn−デシルアミン : 0.91g/kg
(150容量ppmのNH
得るため)
添加した硫黄Sulfrzol54 : 6.21g/kg
(2500容量ppmのHSを得る
ため)
密度(15/4℃) : 0.8719g/ml
初期沸点 : 162℃
50重量%沸点 : 308℃
最終沸点 : 533℃
沸点370℃未満のフラクション : 18.40重量%
沸点191℃未満のフラクション : 3.13重量%
【0063】
沸点191℃を超える複数の原料成分について総転化率範囲65〜92重量%の転化水準で水素化分解性能を評価した。水素化分解活性は、沸点191℃を超える原料成分について総転化率75重量%を得るのに要した温度として評価した。
【0064】
得られた結果を第1表に示す。比較用触媒は、25.50Åを超える異なる単位格子サイズを有するゼオライトY材料を用いるが、さもなければ実施例1のゼオライトと同様の物性を有するゼオライトY(Zeolyst Intercontinentalから)を用いて製造した。試験触媒及び比較用触媒には、同じ触媒製造法、金属装填及びゼオライト/バインダー含有量に従い、前記と同じ方法で全ての触媒を試験し評価した。いずれの場合も水素消費量は、約2.2重量%であった。
【0065】
これらの結果から、単位格子サイズが小さくなると、普通は活性が低下し(比較例A、Bで要した温度上昇参照)、ナフサ収率も低下することが判る。しかし、単位格子サイズが非常に小さい本発明の触媒は、比較例Aよりもなお一層良好な活性及び選択率を示し、更に比較例と比べて、驚くほど高いiC4/nC4比が得られる。
【0066】
【表1】

【0067】
実施例4:ゼオライトの製造
SARが5.2で単位格子サイズが24.64Åで酸化ナトリウムが12.99重量%のホウジャサイトゼオライト出発原料(Zeolyst Internationalから)から実施例1の方法(但し、トン規模)に従ってゼオライトYサンプルを製造した。
最終の脱アルミ工程での酸の使用量は、最終材料中のSARが8.25となるように調節した。
最終ゼオライトの単位格子サイズは24.50Å、SARは8.25、アルカリ含有量は0.06重量%、表面積は865m/gであった。
【0068】
実施例5:触媒の製造
実施例4で製造したゼオライトYを、実施例2と同じ方法に従って造形した触媒を得た。
最終触媒は、酸化ニッケルとして3.3重量%、酸化タングステンとして10.6重量%、ゼオライトY68.9重量%及びアルミナバインダー17.2重量%の組成を持っていた。
【0069】
実施例6:触媒の製造
実施例4と同じ出発原料から実施例1の方法(但し、トン規模)に従って、ゼオライトYサンプルを製造した。最終の脱アルミ工程での酸の使用量は、得られる材料中のSARが高い値となるように調節した。
最終ゼオライトの単位格子サイズは24.48Å、SARは9.9、アルカリ含有量は0.04重量%、表面積は897m/gであった。
【0070】
実施例7:触媒の製造
実施例6で製造したゼオライトYを、実施例2と同じ方法に従って造形した触媒を得た。
最終触媒は、酸化ニッケルとして3.3重量%、酸化タングステンとして10.6重量%、ゼオライトY68.9重量%及びアルミナバインダー17.2重量%の組成を持っていた。
【0071】
実施例8:活性試験
実施例3で詳述したのと同じ試験法及び条件を用いて実施例5、7で製造した触媒の水素化分解性能を、再び1.6mm円柱状に形成した押出物で評価した。
これらの結果を実施例2の触媒と共に第2表に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
以上の結果から、この種のゼオライトYの傾向については、WO 04/047988に記載の単位格子サイズの小さいホウジャサイト材料で見られる効果に反して、表面積の増大が活性の向上とはならないことが判る。
またゼオライトにおいて、単位格子サイズを24.50Åか、その直下にしたままSARを高めると(表の実施例4、6参照)、重質ナフサの収率は低下するが、全体のナフサ収率は、殆ど変化しないように、軽質ナフサ生成物(沸点82℃未満のフラクション)に対する選択率が向上することも判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単位格子サイズが24.40〜24.50Åの範囲で、シリカ対アルミナ嵩比(SAR)が5〜10の範囲で、アルカリ金属含有量が0.15重量%未満であるホウジャサイト構造のゼオライト。
【請求項2】
表面積が650〜900m/gの範囲である請求項1に記載のゼオライト。
【請求項3】
単位格子サイズが24.44〜24.48Åの範囲である請求項1又は2に記載のゼオライト。
【請求項4】
SARが7.5〜9.0の範囲である請求項1〜3のいずれか1項に記載のゼオライト。
【請求項5】
a)シリカ対アルミナ比が4.5〜6.5で、アルカリ水準が1.5重量%未満であるホウジャサイト構造の出発ゼオライトを供給する工程、
b)該出発ゼオライトを温度550〜850℃の範囲及び存在する全ガスに対し水蒸気の分圧0〜100容量%の範囲で、単位格子サイズが24.35〜24.50Åの範囲である中間ゼオライトを生成するのに有効な時間、水熱的に処理する工程、
c)該中間ゼオライトを、単位格子サイズが24.40〜24.50Åの範囲でシリカ対アルミナ嵩比(SAR)が5〜10の範囲でアルカリ金属含有量が0.15重量%未満であるゼオライトを生成するのに有効な条件下で、酸及び任意にアンモニウム塩を含む酸性化溶液と接触させる工程、及び
d)該ゼオライトを回収する工程、
を含む請求項1に記載のゼオライトの製造方法。
【請求項6】
工程(a)において、出発ゼオライトのSARが5.4〜6.5の範囲である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
焼成温度が600〜650℃の範囲であり、水蒸気の分圧が100容量%である請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
酸性化溶液の量は、酸対ゼオライト比がゼオライト1g当たりHCl 0.03〜0.2gの範囲の酸対ゼオライト比又は酸当量を得るのに十分な量である請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1に記載のゼオライト又は請求項5に記載の方法で製造したゼオライトと、バインダーと、任意に金属水素化成分とを含有するナフサ選択性水素化分解用触媒組成物。
【請求項10】
炭化水素質供給原料を、高温高圧で請求項9に記載の触媒組成物と接触させることを特徴とする炭化水素質供給原料を該原料よりも低沸点の材料に転化する方法。

【公表番号】特表2008−514533(P2008−514533A)
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532898(P2007−532898)
【出願日】平成17年9月23日(2005.9.23)
【国際出願番号】PCT/EP2005/054774
【国際公開番号】WO2006/032698
【国際公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
【Fターム(参考)】