説明

ホスフィニット−イミダゾリン及びその金属錯体

式(I)及び(Ia)(式中、X1は、第2級ホスフィノであり;R3は、1〜20個のC原子を有する炭化水素基、C原子を介して結合しており、かつ2〜20個の原子並びにO、S、NH及びNRよりなる群から選択される少なくとも1個のヘテロ原子を有するヘテロ炭化水素基、又は−SO2−R基であり;Rは、C1−C18−アルキル、フェニル又はベンジルであり;R4基は、それぞれ相互に独立に、水素又は1〜20個のC原子を有する炭化水素基であるか、あるいは2個のR4基は、これらが結合しているC原子と一緒になって、3員〜8員炭化水素環を形成しており;R01は、1〜20個のC原子を有する炭化水素基であり;そしてR02及びR’02は、それぞれ水素原子又は独立にR01の意味を有するか、あるいはR01及びR02は、これらが結合しているC原子と一緒になって、3員〜8員の炭化水素又はヘテロ炭化水素環を形成している)で示される化合物。化合物は、不斉付加反応、例えばプロキラル不飽和有機化合物への水素の不斉付加反応用の触媒として作用する遷移族I及びVIIIの金属錯体のためのキラルリガンドである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キラルなリン含有イミダゾリン;その製造方法;製造に使用される中間体;元素周期律表の遷移族I及びVIII(d−10及びd−8金属、本明細書では以降TM8金属と呼ぶ)から選択される金属と配位子としてのリン含有イミダゾリンとを含む金属錯体;触媒量の金属錯体の存在下での、プロキラル有機化合物中の炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子多重結合への水素、水素化ホウ素又はシランの付加による、あるいはアリル化合物へのC−求核試薬又はアミンの付加による、不斉合成のための、特に水素を用いる炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子多重結合の不斉水素化のためのプロセス;並びにプロキラル有機化合物中の炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子多重結合への水素、水素化ホウ素又はシランの、あるいはアリル化合物へのC−求核試薬又はアミンの付加による、不斉合成のための、特に水素を用いる炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子多重結合の不斉水素化のための触媒としての金属錯体の使用に関する。
【0002】
錯化基により置換されたオキサゾリン及びイミダゾリンに基づくキラル配位子は、近年重要性を増してきた。このような配位子を含む金属錯体は、二重結合を有する有機化合物との付加反応によるキラル合成のための良好な触媒である。以下の構造(A)〜(D)は、文献に報告されている:
【0003】
【化15】

【0004】
【化16】

【0005】
A) G. HelmchenとA. Pfaltz, Accounts of Chemical Research, Volume 33, Number 6, pages 336-345 (2000);
B) WO 01/18012、F. Mengesら, Organic Letters (2002), Vol. 4, No. 26, pages 4713-4716;C.A. Busaccaら, Organic Letters (2003), Vol. 5, Number 4, pages 595-598、及び
C) EP-A2-1,191,030、A. Pfaltzら, Adv. Synth. Catal. 2003, 345, Numbers 1 + 2, pages 33-43。
【0006】
Synlett 2003, Number 1, pages 102-106において、M. Caseyらは、下記式:
【0007】
【化17】

【0008】
で示される第2級イミダゾリンアルコールを、第2級アルコールを生成するためのジエチル亜鉛とアルデヒドとのエナンチオ選択的反応のための直接触媒として記述している。
【0009】
ホスフィニット−オキサゾリン、ホスフィン−オキサゾリン及びホスフィン−イミダゾリンは、これらを用いると基質に応じた良好な触媒活性と、また明白〜並はずれたエナンチオ選択性とを達成できる、キラル金属錯体触媒のための有用な配位子であることが見い出されている。研究により、その達成可能な選択性は、基質(substrate)に強く依存することが判明しているため、既知の配位子を使用して目標をことごとく達成できるとは限らない。よって、基質の有効なエナンチオ選択的反応の機会を拡大するために、更なる配位子に対するニーズが存在する。
【0010】
驚くべきことに、イミダゾリンに基づき、そしてそのリン−O−メチル基が、イミダゾリン環内の非キラルC原子に、2個のN原子に対してα位で結合しており、そしてイミダゾリン環内に少なくとも1個のキラルC原子を含む、P,N−配位子は、簡単に調製できることが見い出された。TM8金属と共に、これらの置換イミダゾリンは、プロキラル有機化合物中の炭素−炭素若しくは炭素−ヘテロ原子多重結合への水素、水素化ホウ素若しくはシランの、又はアリル化合物へのC−求核試薬若しくはアミンのエナンチオ選択的付加のための、あるいはオレフィンへのアリールトリフラート又はアルケニルトリフラートのエナンチオ選択的カップリング(ヘック(Heck)反応)のための、並はずれた触媒である、キラル錯体を生成する。この触媒活性は、驚くほど高く、そして以前に報告されている配位子に匹敵するかそれ以上である。N原子の置換によって、立体選択性及び触媒活性に強い影響を及ぼし、プロキラル基質に適合させることができる。このリン含有イミダゾリンは、エナンチオ選択性に関して、特にオレフィンのプロキラルなシス異性体の水素化において優れていることが見い出された(2個のプロキラル中心を有するジオレフィンであっても高いジアステレオ選択性が達成可能である)。
【0011】
本配位子は、中心的な中間体を第1級芳香族アミンと反応させることによって、簡単な新規プロセスにより調製することができる。このプロセスにより、続いてのリン基の導入での高いモジュール性が得られるため、触媒活性及び立体選択性に関する配位子の立体及び電子物性を、反応させる基質に非常によく適合させることができる。
【0012】
本発明は、式(I)及び(Ia):
【0013】
【化18】

【0014】
[式中、
1は、第2級ホスフィノであり;
3は、1〜20個のC原子を有する炭化水素基、C原子を介して結合しており、かつ2〜20個の原子並びにO、S、NH及びNRよりなる群から選択される少なくとも1個のヘテロ原子を有するヘテロ炭化水素基、又は−SO2−R基であり;
Rは、C1−C18−アルキル、フェニル又はベンジルであり;
4基は、それぞれ相互に独立に、水素又は1〜20個のC原子を有する炭化水素基であるか、あるいは2個のR4基は、これらが結合しているC原子と一緒になって、3員〜8員炭化水素環を形成しており;
01は、1〜20個のC原子を有する炭化水素基であり;そして
02及びR’02は、それぞれ水素原子又は独立にR01の意味を有するか、あるいは
01及びR02は、これらが結合しているC原子と一緒になって、3員〜8員の炭化水素又はヘテロ炭化水素環を形成している]で示される化合物を提供する。
【0015】
本発明の目的には、第2級ホスフィノという用語は、下記式:
【0016】
【化19】

【0017】
[式中、C原子は、水素又は1〜3個の炭化水素基により置換されており、そしてO原子は、1個の炭化水素基により置換されており、そしてN原子は、2個の炭化水素基により置換されているか、あるいは2個の炭化水素基が、これらが結合している原子と一緒になって、4員〜8員環を形成しており、そしてN原子は、更に別の炭化水素基を有する]で示される構造を包含する。N原子はまた、炭化水素−スルホニル基により置換されていてもよい。第1式について以下に示される炭化水素基はまた、O原子、N−炭化水素基又はN−炭化水素−スルホニル基を、P−C結合の間の開鎖又は環状の炭化水素基に挿入することにより、残りの式にも適用できる。
【0018】
ホスフィン基P(C)CとしてのX1は、2個の同一の又は2個の異なる炭化水素基を含むことができるか、あるいは2個の炭化水素基が、P原子と一緒になって、3員〜8員環を形成することができる。このホスフィン基は、好ましくは2個の同一の炭化水素基を含む。炭化水素基は、非置換であっても、置換されていてもよく、そして1〜22個のC原子、好ましくは1〜12個のC原子を含むことができる。式(I)及び(Ia)の化合物の中で、特に好ましいのは、ホスフィン基が、直鎖又は分岐のC1−C12−アルキル;非置換又はC1−C6−アルキル−若しくはC1−C6−アルコキシ−置換のC5−C12−シクロアルキル又はC5−C12−シクロアルキル−CH2−;フェニル又はベンジル;及びフェニル又はベンジル[ハロゲン(例えば、F、Cl及びBr)、C1−C6−アルキル、C1−C6−ハロアルキル(例えば、トリフルオロメチル)、C1−C6−アルコキシ、C1−C6−ハロアルコキシ(例えば、トリフルオロメトキシ)、(C653Si、(C1−C12−アルキル)3Si、第2級アミノ又は−CO2−C1−C6−アルキル(例えば、−CO2CH3)により置換されている]よりなる群から選択される、2個の同一の又は異なる基を含むものである。
【0019】
ホスフィン基中の2個の基はまた、一緒になって非置換又はハロゲン−、C1−C6−アルキル−若しくはC1−C6−アルコキシ−置換のジメチレン、トリメチレン、テトラメチレン又はペンタメチレンを形成することができる。この置換基は、好ましくはP原子に対して2個のオルト位で結合している。
【0020】
ホスフィン基は、下記式:
【0021】
【化20】

【0022】
[式中、o及びpは、それぞれ相互に独立に、2〜10までの整数であり、かつo+pの合計は、4〜12、好ましくは8〜8であり、そしてフェニル環は、非置換であるか、あるいはC1−C4−アルキル及び/又はC1−C4−アルコキシにより置換されている]で示される基であってよい。例には、下記式:
【0023】
【化21】

【0024】
で示される[3.3.1]ホビル(phobyl)及び[4.2.1]ホビルがある。
【0025】
2個の炭化水素基がP原子と一緒になって、3員〜8員環を形成する第2級ホスフィン基の例には、特に、下記式:
【0026】
【化22】

【0027】
で示される基があり、そしてこれは、C1−C4−アルキル又はC1−C4−アルコキシにより、P原子に対してオルト位の一方又は両方で、及び所望であればメタ位でも置換されていてもよい。
【0028】
好ましくは1〜6個のC原子を含むP上のアルキル置換基の例は、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル並びにペンチル及びヘキシルの異性体である。P上の非置換又はアルキル−置換シクロアルキル置換基の例は、シクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル及びエチルシクロヘキシル並びにジメチルシクロヘキシルである。P上のアルキル−、アルコキシ−、ハロアルキル−及び/又はハロアルコキシ−置換フェニル及びベンジル置換基の例は、メチルフェニル、ジメチルフェニル、トリメチルフェニル、エチルフェニル、メチルベンジル、メトキシフェニル、ジメトキシフェニル、トリフルオロメチルフェニル、ビストリフルオロメチルフェニル、トリストリフルオロメチルフェニル、トリフルオロメトキシフェニル及びビストリフルオロメトキシフェニルである。
【0029】
1が、O原子を含む第2級ホスフィノ基であるとき、P上の置換基は、例えば、直鎖又は分岐のC1−C12−アルコキシ;非置換又はC1−C6−アルキル−若しくはC1−C6−アルコキシ−置換のC5−C12−シクロアルコキシ又はC5−C12−シクロアルキルメトキシ;フェノキシ又はベンジルオキシ[ここで、環状基は、ハロゲン(例えば、F、Cl及びBr)、C1−C6−アルキル、C1−C6−ハロアルキル(例えば、トリフルオロメチル)、C1−C6−アルコキシ、C1−C6−ハロアルコキシ(例えば、トリフルオロメトキシ)、(C653Si、(C1−C12−アルキル)3Si、第2級アミノ又は−CO2−C1−C6−アルキル(例えば、−CO2CH3)により置換されている]であってよい。幾つかの例には、メトキシ、エトキシ、n−及びi−プロポキシ、n−、i−及びt−ブトキシ、シクロヘキシルオキシ、フェノキシ並びにベンジルオキシがある。
【0030】
1が、N原子を含む第2級ホスフィノ基であるとき、P上の置換基は、例えば、開鎖又は環状の第2級アミノ又はジスルホニルアミノであってよい。幾つかの例には、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジ−n−及びi−プロピルアミノ、ジ−n−ブチルアミノ、メチルプロピルアミノ、フェニルメチルアミノ、ピロリジン−N−イル、ピペリジン−N−イル、モルホリン−N−イル、ジ(メチルスルホニル)アミド、ジ(エチルスルホニル)アミド、ジ(プロピルスルホニル)アミド、ジ(ブチルスルホニル)アミド、ジ(メチルスルホニル)アミド、ジ(p−トルエンスルホニル)アミド、ジ(トリフルオロメチルスルホニル)アミドがある。
【0031】
環を形成する二価基の例には、−(C1−C4−アルキル)N−C(R’)2−[C(R”)21-4−N(C1−C4−アルキル)−、−O−C(R’)2−[C(R”)21-4−N(C1−C4−アルキル)−、−O−C(R’)2−[C(R”)21-4−O−、−CH2−CH2−CH2−O−及び−CH2−CH2−CH2−N(C1−C4−アルキル)−(ここで、R’及びR”は、それぞれ相互に独立に、水素又はC1−C4−アルキルである)がある。α位で結合しているO原子を有する環状ホスフィン基の他の例には、下記式:
【0032】
【化23】

【0033】
で示される基がある。
【0034】
好ましいホスフィン基X1は、C1−C6−アルキル、非置換のシクロペンチル又はシクロヘキシル、及びシクロペンチル又はシクロヘキシル(置換基として1〜3個のC1−C4−アルキル又はC1−C4−アルコキシ基を有する)、ベンジル及び特にフェニル(非置換であるか、又は1〜3個のC1−C4−アルキル、C1−C4−アルコキシ、F、Cl、C1−C4−フルオロアルキル若しくはC1−C4−フルオロアルコキシにより置換されている)よりなる群から選択される、同一の又は異なる(好ましくは同一の)基を含むものである。
【0035】
式(I)の化合物において、X1は、好ましくは−PR12基[ここで、R1及びR2は、それぞれ相互に独立に、1〜20個のC原子を有する炭化水素基であり、かつ非置換であるか、又はハロゲン、C1−C6−アルキル、C1−C6−ハロアルキル、C1−C6−アルコキシ、C1−C6−ハロアルコキシ、(C653Si、(C1−C12−アルキル)3Si若しくは−CO2−C1−C6−アルキルにより置換されているか;あるいはR1及びR2は、一緒になって、非置換又はC1−C4−アルキル−若しくはC1−C4−アルコキシ−置換のジメチレン、トリメチレン、テトラメチレン又はペンタメチレンを形成している]である。
【0036】
1及びR2は、好ましくは、分岐C3−C6−アルキル、非置換シクロペンチル若しくはシクロヘキシル及びシクロペンチル若しくはシクロヘキシル(置換基として1〜3個のC1−C4−アルキル又はC1−C4−アルコキシ基を有する)、非置換ベンジル及びベンジル(置換基として1〜3個のC1−C4−アルキル又はC1−C4−アルコキシ基を有する)、並びに特に非置換フェニル及びフェニル(1〜3個のC1−C4−アルキル、C1−C4−アルコキシ、−NH2、OH、F、Cl、C1−C4−フルオロアルキル又はC1−C4−フルオロアルコキシ基により置換されている)よりなる群から選択される、同一の又は異なる(特に同一の)基である。
【0037】
1及びR2は、特に好ましくは、非置換フェニル及びフェニル(1〜3個のC1−C4−アルキル、C1−C4−アルコキシ又はC1−C4−フルオロアルキル基により置換されている)よりなる群から選択される、同一の又は異なる(特に同一の)基である。
【0038】
基R3及びR4は、非置換であっても、又は例えば、C1−C6−アルキル、C1−C6−アルコキシ、シクロヘキシル、C6−C10−アリール、C7−C12−アラルキル、C1−C4−アルキル−C6−C10−アリール、C1−C4−アルコキシ−C6−C10−アリール、C1−C4−アルキル−C7−C12−アラルキル、C1−C4−アルコキシ−C7−C12−アラルキル、−CO−OR5、ハロゲン(好ましくは、F又はCl)、−CO−NR67若しくは−NR67[ここで、R5は、H、アルカリ金属、C1−C6−アルキル、シクロヘキシル、フェニル又はベンジルであり、そしてR6及びR7は、それぞれ相互に独立に、水素、C1−C6−アルキル、シクロヘキシル、フェニル又はベンジルであるか、あるいはR6及びR7は、一緒になってテトラメチレン、ペンタメチレン又は3−オキサペンチレンを形成する]により置換されていてもよい。
【0039】
炭化水素基R3は、好ましくは1〜16個、そして特に好ましくは1〜12個のC原子を含む。炭化水素基R3は、C1−C18−アルキル、好ましくはC1−C12−アルキル、そして特に好ましくはC1−C8−アルキル;C3−C12−シクロアルキル、好ましくはC4−C8−シクロアルキル、そして特に好ましくはC5−C6−シクロアルキル;又はC6−C16−アリール、そして好ましくはC6−C12−アリールであってよい。
【0040】
3が、アルキルであるとき、好ましくはC1−C8−アルキルである。アルキルの例は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル及びエイコシルである。分岐アルキルの例は、イソプロピル、イソブチル、tert−ブチル、イソペンチル、イソヘキシル及び1,1,2,2−テトラメチルエチルである。
【0041】
3が、シクロアルキルであるとき、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロデシル又はシクロドデシルであってよい。
【0042】
芳香族炭化水素基R3は、好ましくは6〜18個、そして特に好ましくは6〜14個のC原子を含む。ヘテロ芳香族炭化水素基R3は、好ましくは3〜14個、そして特に好ましくは3〜11個のC原子を含む。炭化水素基R3は、C6−C14−アリール、そして好ましくはC6−C10−アリール、又はC3−C11−アリール、そして好ましくはC4−C10−ヘテロアリールであってよい。
【0043】
アリールの幾つかの例には、フェニル、ナフチル、アントラセニル、フェナントリル及びビフェニルがある。
【0044】
ヘテロ炭化水素基R3は、好ましくは全部で2〜16個の原子、特に好ましくは全部で2〜12個の原子、並びにO、S及びNRよりなる群から選択される1〜3個のヘテロ原子を含む。ヘテロ炭化水素基R3は、C2−C18−ヘテロアルキル、好ましくはC2−C12−ヘテロアルキル、そして特に好ましくはC2−C8−ヘテロアルキル;C3−C12−ヘテロシクロアルキル、好ましくはC4−C8−ヘテロシクロアルキル、そして特に好ましくはC4−C5−ヘテロシクロアルキル;又はC3−C16−ヘテロアリール、そして好ましくはC4−C11−ヘテロアリールであってよい。
【0045】
3が、ヘテロアリールであるとき、好ましくはC2−C8−アルキルである。ヘテロアルキルの例には、メトキシメチル、メトキシエチル、エトキシメチル、エトキシエチル、エトキシプロピル、イソプロポキシメチル、イソプロポキシエチル、イソブトキシエチル、tert−ブトキシエチル、メチルチオエチル、ジメチルアミノエチルがある。
【0046】
3が、ヘテロシクロアルキルであるとき、例えば、オキセタニル、テトラヒドロフラニル、オキサシクロヘキシル、ジオキサニル、ピロリジニル又はN−メチルアザシクロヘキシルであってよい。
【0047】
3が、ヘテロアリールであるとき、例えば、フラニル、チオフェニル、ピロリル、イミダゾリニル、オキサゾリニル、チアゾリル、ピラゾリニル、ベンゾフラニル、ピリジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、ピラジニル、キナゾリニル、キノキサリニル、インドリル、ベンゾイミダゾリル、キノリニル、イソキノリニル又はアクリジニルであってよい。
【0048】
3上の好ましい置換基は、C1−C4−アルキル、C1−C4−アルコキシ、シクロヘキシル、C6−C10−アリール、C7−C12−アラルキル、C1−C4−アルキル−C6−C10−アリール、C1−C4−アルコキシ−C6−C10−アリール、C1−C4−アルキル−C7−C12−アラルキル、C1−C4−アルコキシ−C7−C12−アラルキル、−CO−OR5、ハロゲン(好ましくは、F又はCl)、−CO−NR67又は−NR67[ここで、R5は、C1−C6−アルキル、シクロヘキシル、フェニル又はベンジルであり、そしてR6及びR7は、それぞれ相互に独立に、水素、C1−C6−アルキル、シクロヘキシル、フェニル又はベンジルであるか、あるいはR6及びR7は、一緒になってテトラメチレン、ペンタメチレン又は3−オキサペンチレンを形成する]である。
【0049】
好ましいサブグループにおいて、R3は、C1−C12−アルキル、C5−C6−シクロアルキル及びC6−C12−アリール[ここで、環状基は、非置換であるか、又はハロゲン(F、Cl、Br)、C1−C4−アルキル、C1−C4−ペルフルオロアルキル若しくはC1−C4−アルコキシにより置換されている]よりなる群から選択される、炭化水素基である。
【0050】
炭化水素基R4は、好ましくは1〜16個、特に好ましくは1〜12個、そして非常に好ましくは1〜8個のC原子を含む。炭化水素基R4は、C1−C18−アルキル、好ましくはC1−C12−アルキル、そして特に好ましくはC1−C8−アルキル;C3−C12−シクロアルキル、好ましくはC4−C8−シクロアルキル、そして特に好ましくはC5−C6−シクロアルキル;C6−C16−アリール、そして好ましくはC6−C12−アリール、又はC7−C16−アラルキル、そして好ましくはC7−C12−アラルキルであってよい。
【0051】
2個の基R4が、一緒になって炭化水素基を形成するとき、これは、好ましくは3〜7個、そして特に好ましくは4〜6個のC原子を含むアルキレンである。例には、1,3−プロピレン、1,3−又は1,4−ブチレン、1,3−、1,4−又は1,5−ペンチレン及び1,3−、1,4−、1,5−、2,5−、2,6−又は1,6−ヘキシレンがある。
【0052】
4が、アルキルであるとき、好ましくは直鎖又は分岐のC1−C8アルキルである。アルキルの例には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル及びエイコシルがある。分岐アルキルの例には、イソプロピル、イソブチル、tert−ブチル、イソペンチル、イソヘキシル及び1,1,2,2−テトラメチルエチルがある。
【0053】
4が、シクロアルキルであるとき、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロデシル又はシクロドデシルであってよい。
【0054】
4が、アリールであるとき、例えば、フェニル、ナフチル、アントラセニル、フェナントリル又はビフェニルであってよい。
【0055】
4が、アラルキルであるとき、ベンジル又はナフチルメチルであってよい。
【0056】
4上の好ましい置換基は、ハロゲン(F、Cl、Br)、C1−C4−アルキル又はC1−C4−アルコキシである。
【0057】
好ましいサブグループにおいて、R4は、C1−C6−アルキル、C5−C6−シクロアルキル及びベンジル[ここで、環状基は、非置換であるか、又はハロゲン(F、Cl、Br)、C1−C4−アルキル、C1−C4−ハロアルキル(例えば、トリフルオロメチル)若しくはC1−C4−アルコキシにより置換されている]よりなる群から選択される、炭化水素基である。
【0058】
炭化水素基R01は、好ましくは1〜16個、特に好ましくは1〜12個、そして非常に好ましくは1〜8個のC原子を含む。炭化水素基R01は、C1−C18−アルキル、好ましくはC1−C12−アルキル、そして特に好ましくはC1−C8−アルキル;C3−C12−シクロアルキル、好ましくはC4−C8−シクロアルキル、そして特に好ましくはC5−C6−シクロアルキル;C6−C16−アリール、そして好ましくはC6−C12−アリール、又はC7−C16−アラルキル、そして好ましくはC7−C12−アラルキルであってよい。R4に与えられる実施態様及び好ましさは、独立にR01、R02及びR’02に当てはまる。特に好ましい実施態様において、R01は、少なくとも3個のC原子を有するα−分岐アルキル、例えば、α−分岐C3−C12−アルキル、そして更に好ましくはC3−C8−アルキルである。α−分岐アルキルの例には、i−プロピル、ブタ−2−イル、t−ブチル、ペンタ−2−又は3−イル、ヘキサ−2−又は3−イル、ヘプタ−2−、−3−又は−4−イル及びイソオクチル(1,1,3,3,3−ペンタメチル−プロパ−1−イル)がある。
【0059】
01及びR02が、これらが結合しているC原子と一緒になって、3員〜8員炭化水素又はヘテロ炭化水素環を形成するとき、この環は、好ましくは3〜8個、そして特に5又は6個の環原子を有する、脂肪族、オレフィン不飽和又は芳香族縮合環系である。縮合脂肪族炭化水素環の例には、シクロプロパン−1,2−ジイル、シクロブタン−1,2−ジイル、シクロペンタン−1,2−ジイル、シクロヘキサン−1,2−ジイル、シクロヘプタン−1,2−ジイル及びシクロオクタン−1,2−ジイルがある。縮合ヘテロ脂肪族炭化水素環の例には、オキセタン−1,2−ジイル、テトラヒドロフラン−1,2−ジイル、オキサシクロヘキサ−1,2−ジイル、ジオキサン−1,2−ジイル、ピロリジン−1,2−ジイル及びN−メチルアザシクロヘキサ−1,2−ジイルがある。縮合芳香族炭化水素環の例には、1,2−フェニレン及び1,2−ナフチレンがある。縮合ヘテロ芳香族炭化水素環の例には、フラン−1,2−ジイル、チオフェン−1,2−ジイル、ピロール−1,2−ジイル、イミダゾリン−1,2−ジイル、オキサゾリン−1,2−ジイル、チアゾール−1,2−ジイル、ピラゾリン−1,2−ジイル、ベンゾフラン−1,2−ジイル、ピリジン−1,2−ジイル、ピリミジン−1,2−ジイル、ピリダジン−1,2−ジイル、ピラジン−1,2−ジイル、キナゾリン−1,2−ジイル、キノキサリン−1,2−ジイル、インドール−1,2−ジイル、ベンゾイミダゾール−1,2−ジイル、キノリン−1,2−ジイル、イソキノリン−1,2−ジイル及びアクリジン−1,2−ジイルがある。
【0060】
02及びR’02が、異なる基であるか、又はR02及びR’02が、一緒になって環を形成するとき、式(I)及び(Ia)の化合物は、更に別のキラルC原子を含む。本発明は、これらの化合物のラセミ体又はジアステレオマーを包含する。ジアステレオマーの相対配置は、本発明により触媒される付加反応におけるエナンチオ選択性に好ましい影響を及ぼすことができる。好ましくはR02及びR’02は、水素である。別の好ましい群において、R02及びR’02は、それぞれ水素であり、そしてR01は、α−分岐C3−C8−アルキルである。
【0061】
本発明の化合物の好ましいサブグループは、式(Ib)及び(Ic):
【0062】
【化24】

【0063】
[式中、
1は、−PR12であり、
1及びR2は、同一の又は異なる、そして特に同一の、α−分岐C3−C6−アルキル、非置換C5−C7−シクロアルキル及びC5−C7−シクロアルキル(置換基として1〜3個のC1−C4−アルキル又はC1−C4−アルコキシ基を有する)、並びに非置換フェニル及びフェニル(置換基として1〜3個のC1−C4−アルキル、C1−C4−アルコキシ又はC1−C4−フルオロアルキル基を有する)、並びに非置換又はC1−C4−アルキル−若しくはC1−C4−アルコキシ−置換のジメチレン、トリメチレン、テトラメチレン及びヘキサメチレンよりなる群から選択される基であり;
3は、ベンジル又はC6−C12−アリールであり、そしてアリール及びベンジルは、非置換であるか、又はハロゲン、C1−C4−アルキル、C1−C4−ハロアルキル若しくはC1−C4−アルコキシにより置換されており;
4は、C1−C6−アルキル又はベンジルであり、そして
01は、α−分岐C3−C8−アルキルである]で示される化合物で構成されている。
【0064】
式(I)及び(Ia)の化合物は、イミダゾリンメタノールを第2級ハロホスフィンと、有機金属化合物(例えば、リチウムアルキル)の存在下で反応させることにより、それ自体既知のやり方で調製することができる。イミダゾリンメタノールの調製法は、M. CaseyらによりSynlett 2003, No. 1, pages 102-106に記載されている。
【0065】
式(I)及び(Ia)の化合物は、中心的中間体としてハロイミンエステルを介する新規なプロセスにより幾つかの工程で調製することができる。この新規なプロセスにより、異なる置換基の組合せを得ることが可能になる。
【0066】
本発明は更に、式(I)及び(Ia):
【0067】
【化25】

【0068】
[式中、R01、R02、R’02、R3、R4及びX1は、上記と同義であり、そして〜は、R又はS形を表す]で示される化合物の製造方法であって、
a) 式(II):
【0069】
【化26】

【0070】
[式中、R8は、C1−C8−アルキルであり、そしてHalは、Cl、Br又はIである]で示される化合物を、第3級アミンの存在下で、少なくとも当量の式(III):
【0071】
【化27】

【0072】
[式中、R01及びR02は、上記と同義である]で示される化合物と反応させることにより、式(IV):
【0073】
【化28】

【0074】
で示される化合物を生成すること;
b) 式(IV)の化合物を、少なくとも当量のハロゲン化剤と反応させることにより、式(V):
【0075】
【化29】

【0076】
で示される化合物を生成すること;
c) 式(V)の化合物を、式:R3−NH2(X)の第1級アミンにより、第3級アミンの存在下で環化することにより、式(VI):
【0077】
【化30】

【0078】
で示される化合物を生成すること;
d) 式(VI)の化合物を、少なくとも2当量の式(VII)又は少なくとも1当量の式(VIIa):
【0079】
【化31】

【0080】
[式中、R4は、上記と同義であり、X2は、アルカリ金属又は−Me13であり、Me1は、Mg又はZnであり、そしてX3は、Cl、Br又はIである]で示される有機金属化合物と反応させることにより、式(VIII):
【0081】
【化32】

【0082】
で示される化合物を生成すること;並びに
e) 式(VIII)の化合物のヒドロキシル基を金属化し、続いて式(IX):
【0083】
【化33】

【0084】
[式中、X1は、上記と同義であり、そしてY1は、Cl、Br又はIである]で示されるハロホスフィンと反応させることにより、式(Ia)又は(Ib)の化合物を得ること
を特徴とする方法を提供する。
【0085】
Halは、好ましくはCl又はBr、そして特に好ましくはClである。R8は、好ましくはC1−C4−アルキル、そして特に好ましくはイソプロピルである。
【0086】
本発明はまた、R01、R02、R’02、R8及びHalが、好ましさを含めて上記と同義である、式(V)の化合物を提供する。
【0087】
工程a
シュウ酸モノエステルハロゲン化物は既知であり、幾つかは市販されているか、又はシュウ酸モノハロゲン化物のエステル化により簡単に調製することができる。この反応は、有利には−20〜20℃の温度で行われる。この反応は、有利には溶媒なしに行われる。
【0088】
式(III)の化合物は同様に既知であり、そして市販されているか、又は既知の方法若しくはそれと類似の方法により調製することができる。
【0089】
この反応は、有利にはアルカノール(メタノール、エタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル)、エーテル(ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン及びジオキサン)又はハロゲン化炭化水素(塩化メチレン、クロロホルム、テトラクロロエタン及びクロロベンゼン)のような不活性溶媒中で、低温(例えば、−20〜20℃)で行われる。
【0090】
第3級アミンは、生成するハロゲン化水素を結合させるのに役立ち、有利には少なくとも等モル量で加える。適切な第3級アミンの例には、トリアルキルアミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、メチルジエチルアミン又はジメチルエチルアミン)及びN原子がC1−C4−アルキルにより(単数又は複数)置換されている環状又は多環式アミン(N−エチルピペリジン及びN−メチルモルホリン)がある。
【0091】
式(IV)の化合物は高収率で得られる。これらは、既知のやり方で単離及び精製することができる。
【0092】
工程b)
式(V)のハロイミンを生成するためのハロゲン化による式(IV)の化合物の転位は、有利には比較的高温、例えば、50〜150℃で行われる。ハロゲン化剤が液体ならば、溶媒を使用する必要はない。この反応は、ハロゲン化炭化水素(塩化メチレン、クロロホルム、テトラクロロエタン及びクロロベンゼン)のような不活性溶媒の存在下で行うことができ、そして固体ハロゲン化剤の場合には行われる。反応を加速するために、ハロゲン化触媒、例えば、第3級アミン、N,N−ジアルキル化酸アミド又はN−アルキル化ラクタム(トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデカン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン)を利用することができる。この量は、例えば、式(IV)の化合物に基づいて0.1〜5mol%である。ハロゲン化触媒はまた、同時に溶媒として使用することができる。適切なハロゲン化剤は、例えば、SOCl2、SOBr2、PCl3、PCl5及びOPCl3である。ハロゲン化剤は、有利には過剰に使用される。式(V)のハロイミンは、非常に高収率で得られる。
【0093】
工程c)
式(IV)の化合物を生成するためのハロイミンの環化は、有利には比較的高温、例えば、70〜150℃で、そして不活性溶媒の存在下で行われる。適切な溶媒は、例えば、芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン)又はハロゲン化炭化水素(塩化メチレン、クロロホルム、テトラクロロエタン及びクロロベンゼン)である。第3級アミンは、生成するハロゲン化水素を結合させるのに役立ち、有利には少なくとも等モル量で加える。適切な第3級アミンは、例えば、トリアルキルアミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、メチルジエチルアミン又はジメチルエチルアミン)及びN原子がC1−C4−アルキルにより(単数又は複数)置換されている環状又は多環式アミン(N−メチルピペリジン及びN−メチルモルホリン)である。式(X)のアミンは、等モル量又は小過剰で加える。
【0094】
工程d)
カルボン酸エステルと金属−炭化水素化合物又は金属ハロゲン化物−炭化水素化合物との反応は、それ自体既知である。X2がアルカリ金属であるとき、これは、Na、K及び特にLiであってよい。Me13基において、Me1は、例えば、Mg又はZnであってよい。この反応は、有利には式(VII)又は(VIIa)の化合物を低温、例えば−30〜−80℃で、式(VI)の化合物の溶液に加え、次にこの混合物が、例えば室温まで温まるのを待つことにより行われる。この反応は次に、この温度又はより高温(使用する溶媒の沸点以下)で終了させることができる。適切な溶媒は、特に、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン及びジオキサンのようなエーテルである。
【0095】
工程e)
金属アルコキシドを生成するための式(VIII)の化合物の金属化は、アルカリ金属アルキル及び特にリチウムアルキル、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム若しくはブチルリチウムを用いて、又はメチルマグネシウム、エチルマグネシウム、プロピルマグネシウム、ブチルマグネシウム若しくはベンジルマグネシウムハロゲン化物のようなグリニャール試薬を用いて達成することができる。数当量又は小過剰のアルカリ金属アルキル又はグリニャール試薬を使用するのが有利である。添加は、有利には比較的低温、例えば、−20〜−80℃で行われる。トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン又はテトラメチルエチレンジアミンのような第3級アミンの存在は有利であろう。続いてこの反応は、室温で終了させることができ、式(IX)のハロホスフィンを加え、そしてこの反応はこの温度で終了させることができる。反応は、好ましくは不活性溶媒、例えば、エーテル又は炭化水素(ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン又はキシレン)の存在下で行われる。
【0096】
式(Ia)及び(Ib)の化合物は、良好な総括収率で得られる。出発化合物の選択により、本発明の化合物をモジュール式に構築することができ、簡単な出発化合物からR3及びR4に関して多種多様な置換が可能になる。
【0097】
式(I)及び(Ia)の新規な化合物は、TM8金属の群から、特にRu、Rh及びIrよりなる群から選択される金属の錯体のための配位子であり、そしてこの錯体は、不斉合成、例えば、プロキラルな不飽和有機化合物の不斉水素化のための優れた触媒又は触媒前駆体である。プロキラルな不飽和有機化合物が使用されるならば、有機化合物の合成において非常に大過剰の光学異性体を誘導することができ、そして短い反応時間で高い化学変換を達成することができる。選択された基質の場合にこのエナンチオ選択性は、既知の配位子に比較して非常に高い。
【0098】
本発明は更に、配位子としての式(I)及び(Ia)の化合物との、TM8金属の群から選択される金属の錯体を提供する。
【0099】
考えられる金属は、例えば、Cu、Ag、Au、Ni、Co、Rh、Pd、Ir、Ru及びPtである。好ましい金属は、ロジウム及びイリジウムであり、またルテニウム、白金及びパラジウムである。
【0100】
特に好ましい金属は、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムである。
【0101】
金属原子の酸化数及び配位数に応じて、金属錯体は、更に別の配位子及び/又はアニオンを含むことができる。これらはまた、カチオン性金属錯体であってもよい。このような類似金属錯体及びその調製法は、文献に広く記載されている。
【0102】
金属錯体は、例えば、一般式(XI)及び(XII):
【0103】
【化34】

【0104】
[式中、A1は、式(I)又は(Ia)の化合物であり、
Lは、同一の又は異なる単座のアニオン性又は非イオン性配位子を表すか、あるいは2個のLは、一緒になって同一の又は異なる二座のアニオン性又は非イオン性配位子を表し;
Lが単座配位子であるとき、nは、2、3又は4であるか、あるいはLが二座配位子であるとき、nは、1又は2であり;
zは、1、2又は3であり;
Meは、Rh及びIrよりなる群から選択される金属であり、そしてこの金属は、0、1、2、3又は4の酸化状態を有しており;
-は、オキソ酸又は錯酸のアニオンであり;そして
アニオン性配位子は、金属の酸化状態1、2、3又は4の電荷と釣り合う]を有することができる。
【0105】
上述の好ましさ及び実施態様は、式(XI)及び(XII)の化合物に当てはまる。
【0106】
単座非イオン性配位子は、例えば、オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン)、アリル(アリル、2−メタリル)、溶媒(ニトリル、直鎖又は環状エーテル、非アルキル化又はN−アルキル化アミド及びラクタム、アミン、ホスフィン、アルコール、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル)、一酸化窒素及び一酸化炭素よりなる群から選択することができる。
【0107】
単座アニオン性配位子は、例えば、ハロゲン化物(F、Cl、Br、I)、擬ハロゲン化物(シアニド、シアナート、イソシアナート)並びにカルボン酸、スルホン酸及びホスホン酸のアニオン(カルボナート、ホルマート、アセタート、プロピオナート、メチルスルホナート、トリフルオロメチルスルホナート、フェニルスルホナート、トシラート)よりなる群から選択することができる。
【0108】
二座非イオン性配位子は、例えば、直鎖又は環状ジオレフィン(例えば、ヘキサジエン、シクロオクタジエン、ノルボルナジエン)、ジニトリル(マロノニトリル)、カルボン酸の非アルキル化又はN−アルキル化ジアミド、ジアミン、ジホスフィン、ジオール、アセチルアセトナート、ジカルボン酸のジエステル及びジスルホン酸のジエステルよりなる群から選択することができる。
【0109】
二座アニオン性配位子は、例えば、ジカルボン酸、ジスルホン酸及びジホスホン酸(例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、メチレンジスルホン酸及びメチレンジホスホン酸)のアニオンよりなる群から選択することができる。
【0110】
好ましい金属錯体はまた、Eが、−Cl-、−Br-、−I-、ClO4-、CF3SO3-、CH3SO3-、HSO4-、BF4-、B(フェニル)4-、B(C654-、B(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)4-(BARF)、(CF5CF2O)4Al-のようなテトラ−(C1−C5−ペルフルオロアルキル)アルミナート、PF6-、SbCl6-、AsF6-又はSbF6-であるものを含む。
【0111】
水素化に特に適している特に好ましい金属錯体は、式(XIII)及び(XIV):
【0112】
【化35】

【0113】
[式中、
1は、式(I)又は(Ia)の化合物であり;
Me1は、ロジウム又はイリジウムであり;
Yは、2個のオレフィン又は1個のジエンを表し;
Zは、Cl、Br又はIであり;そして
1-は、オキソ酸又は錯酸のアニオンである]を有する。
【0114】
上述の実施態様及び好ましさは、式(I)及び(Ia)の化合物に当てはまる。
【0115】
Yがオレフィンであるとき、これはC2−C12−、好ましくはC2−C6−、そして特に好ましくはC2−C4−オレフィンであってよい。例には、プロペン、1−ブテン、及び特にエチレンがある。ジエンは、5〜12個、そして好ましくは5〜8個のC原子を含むことができ、そして開鎖、環状又は多環式ジエンであってよい。ジエンの2個のオレフィン基は、好ましくは1個又は2個のCH2基により連結されている。例には、1,3−ペンタジエン、シクロペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,4−シクロヘキサジエン、1,4−又は1,5−ヘプタジエン、1,4−又は1,5−シクロヘプタジエン、1,4−又は1,5−オクタジエン、1,4−又は1,5−シクロオクタジエン及びノルボルナジエンがある。Yは、好ましくは2個のエチレン又は1,5−ヘキサジエン、1,5−シクロオクタジエン若しくはノルボルナジエンを表す。
【0116】
式(XIII)中のZは、好ましくはCl又はBrである。E1の例には、ClO4-、CF3SO3-、CH3SO3-、HSO4-、BF4-、B(フェニル)4-、BARF、PF6-、SbCl6-、AsF6-又はSbF6-がある。
【0117】
本発明のルテニウム錯体は、例えば、式(XV):
【0118】
【化36】

【0119】
[式中、Zは、Cl、Br又はIであり;A1は、式(I)又は(Ia)の化合物であり;Lは、同一の又は異なる配位子を表し;E-は、オキソ酸、鉱酸又は錯酸のアニオンであり;Sは、配位子として配位することができる溶媒であり;そしてaは、1〜3であり、bは、0〜4であり、cは、0〜6であり、dは、1〜3であり、eは、0〜4であり、fは、1〜3であり、gは、1〜4であり、hは、0〜6であり、そしてkは、1〜4であって、錯体上の総電荷は0である]を有することができる。
【0120】
Z、A1、L及びE-についての上述の好ましさは、式(XV)の化合物に当てはまる。配位子Lは、更にアレーン又はヘテロアレーン(例えば、ベンゼン、ナフタレン、メチルベンゼン、キシレン、クメン、1,3,5−メシチレン、ピリジン、ビフェニル、ピロール、ベンゾイミダゾール又はシクロペンタジエニル)及びルイス酸として作用する金属塩(例えば、ZnCl2、AlCl3、TiCl4及びSnCl4)であってもよい。溶媒配位子は、例えば、アルコール、アミン、酸アミド、ラクタム及びスルホンであってよい。
【0121】
この型の錯体は、以下の参考文献及びそこに引用される参考文献に記載されている:
D.J. Ager, S.A. Laneman, Tetrahedron: Asymmetry, 8, 1997, 3327-3355;
T. Ohkuma, R. Noyori 「総合不斉触媒反応(Comprehensive Asymmetric Catalysis)」(E.N. Jacobsen, A. Pfaltz, H. Yamamoto編), Springer, Berlin, 1999, 199-246;
J.M. Brown 「総合不斉触媒反応(Comprehensive Asymmetric Catalysis)」(E.N. Jacobsen, A. Pfaltz, H. Yamamoto編), Springer, Berlin, 1999, 122-182;
T. Ohkuma, M. Kitamura, R. Noyori 「総合不斉触媒反応(Comprehensive Asymmetric Catalysis)第2版」(I. Ojima編), Wiley-VCH New York, 2000, 1-110;
N. Zanettiら, Organometallics 15, 1996, 860。
【0122】
本発明の金属錯体は、文献から公知の方法により調製される(US-A-5,371,256、US-A-5,446,844、US-A-5,583,241、及びE. Jacobsen, A. Pfaltz, H. Yamamoto編, 「総合不斉触媒反応(Comprehensive Asymmetric Catalysis)I〜III」, Springer Verlag, Berlin, 1999、及びここに引用される参考文献を参照のこと)。
【0123】
本発明の金属錯体は、反応条件下で活性化することができ、かつプロキラルな不飽和有機化合物の不斉付加反応に使用することができる、均一系触媒又は触媒前駆体として作用する。
【0124】
この金属錯体は、例えば、炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子二重結合を有するプロキラル化合物の、メタノール、エタノール、イソプロパノール又はギ酸のような、水素供与体の存在下での不斉水素化(水素の付加)又は水素移動型水素化のために使用することができる。可溶性均一系金属錯体を用いるこのような水素化は、例えば、Pure and Appl. Chem., Vol. 68, No. 1, pp. 131-138 (1996)に記載されている。水素化すべき好ましい不飽和化合物は、基:C=C、C=N及び/又はC=Oを含む。本発明では、水素化は、好ましくはルテニウム、ロジウム及びイリジウムの金属錯体を用いて行われる。
【0125】
本発明の金属錯体はまた、炭素−炭素二重結合を有するプロキラル有機化合物の不斉ヒドロホウ素化(水素化ホウ素の付加)のための触媒として使用することができる。このようなヒドロホウ素化は、例えば、Tamio HayashiによりE. Jacobsen, A. Pfaltz, H. Yamamoto編, 「総合不斉触媒反応(Comprehensive Asymmetric Catalysis)I〜III」, Springer Verlag, Berlin, 1999, pages 351-364に記載されている。適切な水素化ホウ素は、例えば、カテコールボランである。キラルなホウ素化合物は、合成に使用することができ、かつ/又はそれ自体既知のやり方で、キラル中間体又は活性物質の調製に有用な構成単位である他のキラル有機化合物に変換することができる。このような反応の一例は、3−ヒドロキシテトラヒドロフランの調製である(DE 19,807,330に記載されている)。
【0126】
本発明の金属錯体はまた、炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子二重結合を有するプロキラル有機化合物の不斉ヒドロシリル化(シランの付加)のための触媒として使用することができる。このようなヒドロシリル化は、例えば、G. PiodaとA. TogniによりTetrahedron: Asymmetry, 1998, 9, 3093に、又はS. UemuraらによりChem. Commun. 1996, 847に記載されている。適切なシランは、例えば、トリクロロシラン又はジフェニルシランである。例えば、C=O及びC=N基のヒドロシリル化は、好ましくはロジウム及びイリジウムの金属錯体を用いて行われる。例えば、C=C基のヒドロシリル化は、好ましくはパラジウムの金属錯体を用いて行われる。キラルなシリル化合物は、合成に使用することができ、かつ/又はそれ自体既知のやり方で、キラル中間体又は活性物質の調製に有用な構成単位である他のキラル有機化合物に変換することができる。このような反応の一例は、アルコールを生成するための加水分解である。
【0127】
本発明の金属錯体はまた、不斉アリル置換反応(アリル化合物へのC−求核試薬の付加)のための触媒として使用することができる。このようなアリル化は、例えば、A. PfaltzとM. LautensによりE. Jacobsen, A. Pfaltz, H. Yamamoto編, 「総合不斉触媒反応(Comprehensive Asymmetric Catalysis)I〜III」, Springer Verlag, Berlin, 1999, pages 833-884に記載されている。アリル化合物の適切な前駆体は、例えば、1,3−ジフェニル−3−アセトキシ−1−プロペン又は3−アセトキシ−1−シクロヘキセンである。この反応は、好ましくはパラジウムの金属錯体を用いて行われる。このキラルなアリル化合物は、キラル中間体又は活性物質を調製するための合成に使用することができる。
【0128】
本発明の金属錯体はまた、不斉アミノ化(アリル化合物へのアミンの付加)又はエーテル化(アリル化合物へのアルコール又はフェノールの付加)のための触媒として使用することができる。このようなアミノ化及びエーテル化は、例えば、A. PfaltzとM. LautensによりE. Jacobsen, A. Pfaltz, H. Yamamoto編, 「総合不斉触媒反応(Comprehensive Asymmetric Catalysis)I〜III」, Springer Verlag, Berlin, 1999, pages 833-884に記載されている。適切なアミンは、アンモニアと、第1級及び第2級アミンの両方を含む。適切なアルコールは、フェノール及び脂肪族アルコールである。アリル化合物のアミノ化又はエーテル化は、好ましくはパラジウムの金属錯体を用いて行われる。このキラルなアミン及びエーテルは、キラル中間体又は活性物質を調製するための合成に使用することができる。
【0129】
本発明の金属錯体はまた、不斉異性体化のための触媒として使用することができる(M. Bellerらの「有機合成のための遷移金属(Transition Metals for Organic Synthesis)」, Volume 1, Wiley-VCH, Weinheim 1998, pages 147-156を参照のこと)。
【0130】
本発明はまた、プロキラル有機化合物中の炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子多重結合への水素、水素化ホウ素又はシランの不斉付加により、あるいはアリル化合物へのC−求核試薬又はアミンの不斉付加により、キラル有機化合物を調製するための均一系触媒としての本発明の金属錯体の使用を提供する。
【0131】
本発明の更に別の態様は、触媒の存在下での、プロキラル有機化合物中の炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子多重結合への水素、水素化ホウ素又はシランの不斉付加による、あるいはアリル化合物へのC−求核試薬、アルコール又はアミンの不斉付加による、キラル有機化合物の調製方法であって、この付加反応が、触媒量の少なくとも1種の本発明の金属錯体の存在下で行われることを特徴とする方法である。
【0132】
水素化すべき好ましいプロキラル不飽和化合物は、1個以上の同一の又は異なる基:C=C、C=N及び/又はC=Oを開鎖又は環状有機化合物中に含むことができ、そして基:C=C、C=N及び/又はC=Oは、環系の一部であっても、あるいは環外基であってもよい。プロキラル不飽和化合物は、アルケン、シクロアルケン、ヘテロシクロアルケン、縮合ヘテロ芳香族又は開鎖若しくは環状ケトン、ケトンのケチミン及びヒドラゾンであってよい。これらは、例えば、式(XVI):
【0133】
【化37】

【0134】
[式中、R15及びR16は、化合物がプロキラルであるように選択され、そしてそれぞれ相互に独立に、開鎖又は環状の炭化水素基又はヘテロ炭化水素基(O、S及びNよりなる群から選択されるヘテロ原子を含む)であって、それぞれは、1〜30個、そして好ましくは1〜20個の炭素原子を含み;
Dは、O又は式:CR1718若しくはNR19の基であり;
17及びR18は、相互に独立に、R15及びR16と同じ意味を持ち、
19は、水素、C1−C12−アルキル、C1−C12−アルコール、C3−C12−シクロアルキル、C3−C12−シクロアルキル−C1−C6−アルキル、C3−C11−ヘテロシクロアルキル、C3−C11−ヘテロシクロアルキル−C1−C6−アルキル、C6−C14−アリール、C5−C13−ヘテロアリール、C7−C16−アラルキル又はC6−C14−ヘテロアラルキルであり、
15及びR16は、これらが結合しているC原子と一緒になって、3〜12個の環原子を有する炭化水素環又はヘテロ炭化水素環を形成し;
15及びR17は、これらが結合しているC=C基と一緒になって、3〜12個の環原子を有する炭化水素環又はヘテロ炭化水素環を形成し;
15及びR19は、これらが結合しているC=N基と一緒になって、3〜12個の環原子を有する炭化水素環又はヘテロ炭化水素環を形成し;
複素環中のヘテロ原子は、O、S及びNよりなる群から選択され;そして
15、R16、R17、R18及びR19は、非置換であるか、あるいはC1−C6−アルキル、C1−C6−アルコキシ、シクロヘキシル、C6−C10−アリール、C7−C12−アラルキル、C1−C4−アルキル−C6−C10−アリール、C1−C4−アルコキシ−C6−C10−アリール、C1−C4−アルキル−C7−C12−アラルキル、C1−C4−アルコキシ−C7−C12−アラルキル、−OH、=O、−NR2122、−CO−OR20又は−CO−NR2122により置換されている(ここで、R20は、H、アルカリ金属、C1−C6−アルキル、シクロヘキシル、フェニル又はベンジルであり、そしてR21及びR22は、それぞれ相互に独立に、水素、C1−C6−アルキル、シクロヘキシル、フェニル又はベンジルであるか、あるいはR21及びR22は一緒になって、テトラメチレン、ペンタメチレン又は3−オキサペンチレンを形成する)]を有することができる。
【0135】
置換基の例及び好ましさは、上述されている。
【0136】
15及びR16は、それぞれ例えば、C1−C20アルキル、そして好ましくはC1−C12−アルキル、O、S及びNよりなる群から選択されるヘテロ原子を含むC1−C20−ヘテロアルキル、そして好ましくはC1−C12−ヘテロアルキル、C3−C12−シクロアルキル、そして好ましくはC4−C8−シクロアルキル、O、S及びNよりなる群から選択されるヘテロ原子を含むC−結合C3−C11−ヘテロシクロアルキル、そして好ましくはC4−C8−ヘテロシクロアルキル、C3−C12−シクロアルキル−C1−C6−アルキル、そして好ましくはC4−C8−シクロアルキル−C1−C6−アルキル、O、S及びNよりなる群から選択されるヘテロ原子を含むC3−C11−ヘテロシクロアルキル−C1−C6−アルキル、そして好ましくはC4−C8−ヘテロシクロアルキル−C1−C6−アルキル、C6−C14−アリール、そして好ましくはC6−C10−アリール、O、S及びNよりなる群から選択されるヘテロ原子を含むC5−C13−ヘテロアリール、そして好ましくはC5−C9−ヘテロアリール、C7−C15−アラルキル、そして好ましくはC7−C11−アラルキル、O、S及びNよりなる群から選択されるヘテロ原子を含むC6−C12−ヘテロアラルキル、そして好ましくはC6−C10−ヘテロアラルキルであってよい。
【0137】
15及びR16、R15及びR17、又はR15及びR19が、それぞれの場合に、これらが結合している基と一緒になって、炭化水素環又はヘテロ炭化水素環を形成するとき、この環は、好ましくは4〜8個の環原子を含む。ヘテロ炭化水素環は、例えば、1〜3個、そして好ましくは1個又は2個のヘテロ原子を含むことができる。
【0138】
19は、好ましくは水素、C1−C6−アルキル、C1−C6−アルコキシ、C4−C8−シクロアルキル、C4−C8−シクロアルキル−C1−C4−アルキル、C4−C10−ヘテロシクロアルキル、C4−C10−ヘテロシクロアルキル−C1−C4−アルキル、C6−C10−アリール、C5−C9−ヘテロアリール、C7−C12−アラルキル及びC5−C13−ヘテロアラルキルである。
【0139】
不飽和有機化合物の幾つかの例には、アセトフェノン、4−メトキシアセトフェノン、4−トリフルオロメチルアセトフェノン、4−ニトロアセトフェノン、2−クロロアセトフェノン、非置換又は置換のベンゾシクロヘキサノン又はベンゾシクロペンタノンのイミン、非置換又は置換のテトラヒドロキノリン、テトラヒドロピリジン及びジヒドロピロールよりなる群からのイミン;並びにメチルスチルベン、メトキシフェニルブテン、不飽和カルボン酸エステル、アミド及び塩、例えば、α−及び適宜β−置換アクリル酸、クロトン酸又はケイ皮酸のようなプロキラルオレフィン、並びにオレフィン不飽和アルコール又はエーテルのシス及びトランス異性体がある。好ましいカルボン酸エステルは、下記式:
【0140】
【化38】

【0141】
[式中、R23は、C1−C6−アルキル、非置換C3−C8−シクロアルキル若しくは置換基として1〜4個のC1−C6−アルキル、C1−C6−アルコキシ、C1−C6−アルコキシ−C1−C4−アルコキシ基を有するC3−C8−シクロアルキル、又は非置換C6−C10−アリール、好ましくはフェニル、若しくは置換基として1〜4個のC1−C6−アルキル、C1−C6−アルコキシ、C1−C6−アルコキシ−C1−C4−アルコキシ基を有するC6−C10−アリール、好ましくはフェニルであり、R24は、直鎖若しくは分岐のC1−C6−アルキル(例えば、イソプロピル)、シクロペンチル、シクロヘキシル又はフェニル(これらのそれぞれは、非置換であっても、又は上述のように置換されていてもよい)あるいは保護アミノ(例えば、アセチルアミノ)であり、そしてR25は、C1−C4−アルキルである]で示されるもの、並びにまたこの酸の塩及びアミドである。更に別の水素化に適した基質は、例えば、プロキラルなアリルアルコール及びβ−エナミドである。
【0142】
ルテニウム錯体を用いる水素化に適した基質は、例えば、プロキラルなα−及びβ−ケトカルボン酸塩、エステル及びアミド、プロキラルな1,3−ジケトン及びプロキラルなケトン、α−及びβ−アルコキシケトン、並びにα−及びβ−ヒドロキシケトン、α−及びβ−ハロケトン並びにα−及びβ−アミノケトンである。
【0143】
本発明のプロセスは、低温又は高温、例えば、−40〜150℃、好ましくは−20〜100℃、そして特に好ましくは0〜80℃の温度で行うことができる。光学収率は、温度の選択により影響を及ぼすことができ、比較的高い光学収率も、比較的高い温度で達成することができる。
【0144】
本発明のプロセスは、大気圧又は超大気圧で行うことができる。圧力は、例えば、105〜2×107Pa(パスカル)であってよい。水素化は、好ましくは大気圧又は超大気圧で行われる。
【0145】
触媒は、水素化すべき化合物に基づいて、好ましくは0.00001〜10mol%、特に好ましくは0.0001〜5mol%、そして特に0.01〜5mol%の量で使用される。
【0146】
配位子及び触媒の調製、並びにまた付加反応は、溶媒なしに、又は不活性溶媒の存在下で行うことができるが、1種の溶媒又は溶媒の混合物を使用することができる。適切な溶媒は、例えば、脂肪族、脂環式及び芳香族炭化水素(ペンタン、ヘキサン、石油エーテル、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン)、脂肪族ハロゲン化炭化水素(塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン及びテトラクロロエタン)、ニトリル(アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル)、エーテル(ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールモノメチル又はモノエチルエーテル)、ケトン(アセトン、メチルイソブチルケトン)、カルボン酸エステル及びラクトン(酢酸エチル又はメチル、バレロラクトン)、N−置換ラクタム(N−メチルピロリドン)、カルボキサミド(ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド)、アクリル尿素(ジメチルイミダゾリン)並びにスルホキシド及びスルホン(ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシド、テトラメチレンスルホン)並びにアルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル)並びに水である。溶媒は、単独でも、又は少なくとも2種の溶媒の混合物としても使用することができる。
【0147】
この反応は、共触媒、例えば、第4級アンモニウムハロゲン化物(ヨウ化テトラブチルアンモニウム)の存在下で、及び/又はプロトン錯酸、例えば、HBArF(例えば、US-A-5,371,256、US-A-5,446,844及びUS-A-5,583,241並びにEP-A-0,691,949を参照のこと)の存在下で行うことができる。共触媒は、水素化には特に有用である。
【0148】
触媒として使用される金属錯体は、別々に調製した単離化合物として加えることができるか、又は反応の前にその場で生成して、次に水素化すべき基質と混合することができる。単離金属錯体を用いる反応に追加の配位子を加えることが有利であるか、又はその場での調製に過剰の配位子を使用することが有利であろう。過剰とは、調製に使用される金属化合物に基づいて、例えば、1〜10、そして好ましくは1〜5molであってよい。
【0149】
本発明に使用するための触媒は、反応の前にその場で調製することができる。この目的には、本発明の金属化合物及び配位子を別々に、適宜溶液として、それぞれ1つの容器中のキットとして市販することが可能であり、そしてこれは本発明の更に別の主題である。
【0150】
本発明のプロセスは、一般に触媒を反応容器に入れ、次に基質、所望であれば反応助剤、及び加えるべき化合物をそこに加えることにより行われ、続いて反応が開始する。加えるべき気体化合物、例えば、水素又はアンモニアは、好ましくは加圧下で導入する。このプロセスは、種々の型の反応器中で連続的に又はバッチ式に行うことができる。
【0151】
本発明により調製することができるキラル有機化合物は、特に医薬品、香水及び農薬の製造の分野における、活性物質又はこのような物質の調製のための中間体である。
【0152】
以下の実施例により本発明を例示する。
【0153】
A) 前駆体及び中間体の調製
例A1: (A1)の調製:
【0154】
【化39】

【0155】
a) 塩化オキサリル(40ml、0.47mol)を三つ口フラスコに入れて、氷浴を用いて0℃に冷却した。イソプロパノール(18ml、0.24mol)を滴下ロートからゆっくり加えた。室温まで加温後、生成物(26.0g、36%、無色の油状物)を132℃での分別蒸留(大気圧)を用いて蒸留した。
【0156】
【表1】

【0157】
b) (S)−バリノール(3.00g、29mmol)をイソプロパノール50mlに溶解して、トリエチルアミン(4.10ml、29mmol)と混合した。氷中で冷却しながら、シュウ酸のモノイソプロピルエステル塩化物(3.73ml、29mmol)をゆっくり加えた。4時間撹拌後、この溶液から減圧下で溶媒を留去し、次に酢酸エチル/H2O(12:1)110mlにとった。水相を酢酸エチル15mlで1回抽出して、合わせた有機抽出液を2NHCl水溶液各回5mlで3回洗浄した。この溶液を次にMgSO4で乾燥し、ロータリーエバポレーターで溶媒を留去した。これにより無色の固体5.92g(27.26mmol、94%)を得た。
【0158】
【表2】

【0159】
例A2: (A2)の調製:
【0160】
【化40】

【0161】
(S)−tert−ロイシノール4.00g(34mmol)を使用して例A1bの手順を繰り返すことにより、アミド(A2)5.37g(23.12mmol、68%)を得た。
【0162】
【表3】

【0163】
例A3: (A3)の調製:
【0164】
【化41】

【0165】
アミド(A1)(0.50g、2.2mmol)をSOCl2(3.0ml)に溶解し、ジメチルホルムアミド(DMF)(4μl、2.5mol%)を加えて、この混合物を85℃で16時間還流した。高真空でSOCl2を除去することにより、定量的収率のクロルイミン(A3)を無色の油状物の形態で得た。
【0166】
【表4】

【0167】
例A4: (A4)の調製:
【0168】
【化42】

【0169】
アミド(A2)(5.00g、21.6mmol)をSOCl2(12.0ml)に溶解し、DMF(40μl、2.5mol%)を加えて、この混合物を85℃で16時間還流した。高真空でSOCl2を除去後、粗生成物はバルブチューブ(bulb tube)蒸留(オーブン温度:100℃/0.15mbar)を用いて精製した。この生成物は、無色の油状物の形態で得た(5.21g/19.4mmol/90%)。
【0170】
【表5】

【0171】
例A5(比較例): (A5)の調製:
【0172】
【化43】

【0173】
クロルイミン(A3)(560mg、2.2mmol)を無水トルエン(5ml)に溶解して、トリエチルアミン(2ml)と混合した。トルエン3mlに溶解したシクロヘキシルアミン(290μl、2.5mmol)を滴下により加えた後、この混合物を110℃で12時間加熱した。処理のため溶液を室温まで冷却した。この混合物を1N KOH水溶液各回3mlで2回洗浄し、振盪して、水相をトルエン各回10mlで2回抽出した。MgSO4での乾燥及び濾過後、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去した。これにより、黄色の油状物が残ったが、これをカラムクロマトグラフィー(ペンタン/ジエチルエーテル/トリエチルアミン、8:1:1)により精製した。これにより純粋なイミダゾリン(A5)360mgを得た(1.28mmol、56%)。
【0174】
【表6】

【0175】
例A6 (A6)の調製:
【0176】
【化44】

【0177】
クロルイミン(A3)(406mg、1.6mmol)及びアニリン(290μl、3.2mmol)を使用して例A5の手順を繰り返すことにより、カラムクロマトグラフィー(ペンタン/ジエチルエーテル/トリエチルアミン、8:1:1)による精製後、イミダゾリン(A6)を黄色の油状物の形態で得た(275mg、1.00mmol、63%)。
【0178】
【表7】

【0179】
例A7(比較例): (A7)の調製:
【0180】
【化45】

【0181】
クロルイミン(A4)(400mg、1.49mmol)及びシクロヘキシルアミン(256μl、2.24mmol)を使用して例A5の手順を繰り返すことにより、カラムクロマトグラフィー(ペンタン/ジエチルエーテル(Et2O)/トリエチルアミン、7:2:1)による精製後、イミダゾリン(A7)を無色の油状物の形態で得た(294mg、1.00mmol、67%)。
【0182】
【表8】

【0183】
例A8: (A8)の調製:
【0184】
【化46】

【0185】
クロルイミン(A4)(例A13を参照のこと)(590mg、2.2mmol)及びベンジルアミン(280μl、2.6mmol)を使用して例A5の手順を繰り返すことにより、カラムクロマトグラフィー(ペンタン/Et2O/トリエチルアミン、8:1:1)による精製後、黄色の油状物280mgを得た(0.93mmol、43%)。
【0186】
【表9】

【0187】
例A9: (A9)の調製:
【0188】
【化47】

【0189】
クロルイミン(A4)(1.15g、4.3mmol)及びアニリン(475μl、5.2mmol)を使用して例A2の手順を繰り返すことにより、カラムクロマトグラフィー(ペンタン/Et2O/トリエチルアミン、4:5:1)後、イミダゾリン(A9)を橙色の油状物として得た(900mg、3.12mmol、72%)。
【0190】
【表10】

【0191】
例A10: (A10)の調製:
【0192】
【化48】

【0193】
クロルイミン(A4)(1.15g、4.3mmol)及びp−アニシジン(1.07g、8.6mmol)を使用して例A5の手順を繰り返すことにより、カラムクロマトグラフィー(ペンタン/Et2O/トリエチルアミン、8:1:1)による精製後、イミダゾリン(A10)を黄色の粘性油状物として得た(420mg、1.32mmol、31%)。
【0194】
【表11】

【0195】
例A11: (A11)の調製:
【0196】
【化49】

【0197】
クロルイミン(A4)(1.15g、4.3mmol)及び4−アミノベンゾトリフルオリド(1.07ml、8.6mmol)を使用して例A5の手順を繰り返すことにより、カラムクロマトグラフィー(ペンタン/トリエチルアミン、9:1)による精製後、イミダゾリン(A11)を赤色の油状物として得た(1.10g、3.07mmol、71%)。
【0198】
【表12】

【0199】
例A12: (A12)の調製:
【0200】
【化50】

【0201】
クロルイミン(A4)(400mg、1.49mmol)及び3,5−ジメトキシアニリン(342mg、2.24mmol)を使用して例A5の手順を繰り返すことにより、カラムクロマトグラフィー(ペンタン/トリエチルアミン、9:1)による精製後、イミダゾリン(A12)を無色の油状物として得た(117mg、0.336mmol、23%)。
【0202】
【表13】

【0203】
例A13: (A13)の調製:
【0204】
【化51】

【0205】
クロルイミン(A4)(0.50g、1.86mmol)及びo−トルイジン(0.30ml、2.80mmol)を使用して例A5の手順を繰り返すことにより、カラムクロマトグラフィー(ペンタン/トリエチルアミン、9:1)による精製後、イミダゾリン(A1)を無色の油状物として得た(160mg、0.652mmol、35%)。
【0206】
【表14】

【0207】
例A14: (A14)の調製:
【0208】
【化52】

【0209】
クロルイミン(A4)(0.50g、1.86mmol)、及びヨウ化テトラブチルアンモニウム(0.343g、0.93mmol)を加えた1−ナフチルアミン(0.347g、2.42mmol)を使用して、例A5の手順を繰り返すことにより、カラムクロマトグラフィー(ペンタン/ジエチルエーテル/トリエチルアミン、8:1:1)による精製後、イミダゾリン(A14)を無色の固体として得た(0.445g、1.31mmol、71%)。
【0210】
【表15】

【0211】
例A15: (A15)の調製:
【0212】
【化53】

【0213】
クロルイミン(A3)(584mg、2.30mmol)及び3,5−ジメトキシアニリン(458mg、2.99mmol)を使用して例A5の手順を繰り返すことにより、カラムクロマトグラフィー(ペンタン/トリエチルアミン、9:1)による精製後、イミダゾリン(A15)を無色の油状物として得た(339mg、1.01mmol、44%)。
【0214】
【表16】

【0215】
B) イミダゾリンメタノールの調製
例B1: (B1)の調製:
【0216】
【化54】

【0217】
イミダゾリン(A5)(200mg、0.71mmol)を乾燥させたシュレンク(Schlenk)フラスコに入れて、無水ジエチルエーテル(8ml)に溶解した。次に臭化メチルマグネシウムの溶液(3M、Et2O中、0.72ml、2.14mmol)を、激しく撹拌しながら−78℃でゆっくり滴下により加えた。反応溶液が室温にゆっくり温まるまで待ち、更に14時間撹拌した。処理のため、冷NH4Cl水溶液(8ml)を加えた。相分離後、水相をEt2O(10ml)で2回抽出した。合わせた有機抽出液をMgSO4で乾燥した。粗生成物は、更なる精製なしにホスフィニットを調製するために使用した。
【0218】
【表17】

【0219】
例B2: (B2)の調製:
【0220】
【化55】

【0221】
例B1の手順を用いて、イミダゾリン(A6)(200mg、0.73mmol)を臭化メチルマグネシウム溶液(0.73ml、2.19mmol)と反応させることにより、アルコール(B2)を生成した。非常に純粋な粗生成物を得た(165mg、0.67mmol、92%)。
【0222】
【表18】

【0223】
例B3: (B3)の調製:
【0224】
【化56】

【0225】
例B1の手順を用いて、イミダゾリン(A7)(260mg、0.88mmol)を臭化メチルマグネシウム溶液(0.88ml、2.65mmol)と反応させることにより、アルコール(B3)を生成した。非常に純粋な粗生成物を得た(180mg、0.67mmol、77%)。
【0226】
【表19】

【0227】
例B4: (B4)の調製:
【0228】
【化57】

【0229】
イミダゾリン(A10)(250mg、0.83mmol)を、例B1に記載されているように臭化ベンジルマグネシウム(1M、ジエチルエーテル中、2.5ml、2.5mmol)と反応させた。精製は、カラムクロマトグラフィー(ペンタン/ジエチルエーテル/トリエチルアミン、8:1:1)を用いて行うことにより、黄色の油状物250mg(0.566mmol、68%)を得た。
【0230】
【表20】

【0231】
例B5: (B5)の調製:
【0232】
【化58】

【0233】
例B1の手順を用いて、イミダゾリン(A9)(200mg、0.73mmol)を臭化メチルマグネシウム溶液(0.73ml、2.19mmol)と反応させることにより、アルコール(B4)を生成した。非常に純粋な粗生成物を得た(165mg、0.67mmol、92%)。
【0234】
【表21】

【0235】
例B6: (B6)の調製:
【0236】
【化59】

【0237】
例B1の手順を用いて、イミダゾリン(A10)(400mg、1.26mmol)を臭化メチルマグネシウム溶液(1.26ml、3.78mmol、Et2O中)と反応させた。これにより、黄色の油状物を得た(130mg、36%)。
【0238】
【表22】

【0239】
例B7: (B7)の調製:
【0240】
【化60】

【0241】
例B1の手順を用いて、イミダゾリン(B7)(200mg、0.56mmol)を臭化メチルマグネシウム溶液(Et2O中3M、0.56ml、1.68mmol)と反応させた。得られたアルコール(165mg、90%)は、粗生成物のまま更に使用した。
【0242】
【表23】

【0243】
例B8: (B8)の調製:
【0244】
【化61】

【0245】
例B1の手順を用いて、イミダゾリン(A12)(98mg、0.28mmol)を臭化メチルマグネシウム溶液(Et2O中3M、0.34ml、1.03mmol)と反応させた。得られたアルコール(83mg、92%)は、粗生成物のまま更に使用した。
【0246】
【表24】

【0247】
例B9: (B9)の調製:
【0248】
【化62】

【0249】
例B1の手順を用いて、イミダゾリン(A8)(111mg、0.367mmol)を臭化メチルマグネシウム溶液(Et2O中3M、0.37ml、1.10mmol)と反応させた。得られたアルコール(80mg、0.292mmol、80%)は、粗生成物のまま更に使用した。
【0250】
【表25】

【0251】
例B10: (B10)の調製:
【0252】
【化63】

【0253】
例B1の手順を用いて、イミダゾリン(A13)(149mg、0.493mmol)を臭化メチルマグネシウム溶液(Et2O中3M、0.49ml、1.48mmol)と反応させた。得られたアルコール(94mg、0.343mmol、70%)は、粗生成物のまま更に使用した。2種のジアステレオマーの生成により、NMRスペクトルでは倍加したシグナルのセットを幾つか観測した。この混合物は分離することができなかった。
【0254】
【表26】

【0255】
例B11: (B11)の調製:
【0256】
【化64】

【0257】
例B1の手順を用いて、イミダゾリン(A14)(80mg、0.236mmol)を臭化メチルマグネシウム溶液(Et2O中3M、0.29ml、0.863mmol)と反応させた。得られたアルコール(73mg、0.235mmol、99%)は、粗生成物のまま更に使用した。ジアステレオマー生成により、NMRスペクトルにシグナルの倍加が起こった。
【0258】
【表27】

【0259】
例B12: (B12)の調製:
【0260】
【化65】

【0261】
例B1の手順を用いて、イミダゾリン(A14)(140mg、0.40mmol)を塩化エチルマグネシウム溶液(Et2O中3M、0.40ml、1.20mmol)と反応させた。処理後、粗生成物は、カラムクロマトグラフィー(ペンタン/エチルエーテル/トリエチルアミン、8:1:1)を用いて精製した。所望の生成物は、無色の油状物の形態で得た(60mg、0.177mmol、44%)。ジアステレオマー生成により、NMRスペクトルにシグナルの倍加が起こった。
【0262】
【表28】

【0263】
例B13: (B13)の調製:
【0264】
【化66】

【0265】
例B1の手順を用いて、イミダゾリン(A14)(150mg、0.44mmol)を塩化n−ブチルマグネシウム溶液(Et2O中1M、1.53ml、1.33mmol)と反応させた。処理後、粗生成物は、カラムクロマトグラフィー(ペンタン/エチルエーテル/トリエチルアミン、8:1:1)を用いて精製した。所望の生成物は、無色の油状物の形態で得た(15mg、0.038mmol、9%)。ジアステレオマー生成により、NMRスペクトルにシグナルの倍加が起こった。
【0266】
【表29】

【0267】
例B14: (B14)の調製:
【0268】
【化67】

【0269】
例B1の手順を用いて、イミダゾリン(A15)(147mg、0.44mmol)を臭化メチルマグネシウム溶液(0.44ml、1.32mmol、Et2O中3M)と反応させた。これにより黄色の油状物を得た(120mg、89%)。
【0270】
【表30】

【0271】
C) ホスフィニットの調製
例C1: (C1)の調製:
【0272】
【化68】

【0273】
アルコール(B1)(60mg、0.24mmol)をペンタン15mlに懸濁した。−78℃で、n−ブチルLi(ヘキサン中1.6M、0.20ml、0.31mmol)、続いてテトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)(62μl)を滴下により加えた。冷却浴を除去後、この溶液を室温で1時間撹拌した。次にジフェニルクロロホスファン(Ph2PCl)(57μl、0.31mmol)を0℃で加えた。この溶液を一晩撹拌した。
【0274】
仕上げ処理のため、この懸濁液を最初に約1mlになるまで蒸発させた。続いて残渣を用意したシリカゲルカラムに直接適用した。粗生成物の精製は、カラムクロマトグラフィー(ペンタン/トリエチルアミン、9:1)を用いて行った。ホスフィニット(C1)を無色の油状物として単離した(32mg、30%)。
【0275】
【表31】

【0276】
例C2: (C2)の調製:
【0277】
【化69】

【0278】
例C1の手順を用いて、アルコール(B2)(135mg、0.49mmol)をPh2PCl(120μl、0.64mmol)と反応させた。カラムクロマトグラフィー(ペンタン/Et2O/トリエチルアミン、8:1:1)による精製後、明黄色の液体(80mg、0.19mmol、38%)を得た。
【0279】
【表32】

【0280】
例C3: (C3)の調製:
【0281】
【化70】

【0282】
例C1の手順を用いて、アルコール(B2)(120mg、0.487mmol)をビス(オルト−トリル)クロロホスファン(172mg、0.633mmol)と反応させた。カラムクロマトグラフィーにより、無色の油状物を得た(71mg、0.155mmol、32%)。
【0283】
【表33】

【0284】
例C4: (C4)の調製:
【0285】
【化71】

【0286】
例C1の手順を用いて、アルコール(B3)(70mg、0.26mmol)をジフェニルクロロホスファン(63μl、0.34mmol)と反応させた。カラムクロマトグラフィーにより、無色の油状物を得た(38mg、0.087mmol、33%)。
【0287】
【表34】

【0288】
例C5: (C5)の調製:
【0289】
【化72】

【0290】
例C1の手順を用いて、アルコール(B3)(70mg、0.26mmol)をビス(オルト−トリル)クロロホスファン(93mg、0.34mmol)と反応させた。カラムクロマトグラフィーにより、無色の油状物を得た(29mg、0.062mmol、24%)。
【0291】
【表35】

【0292】
例C6: (C6)の調製:
【0293】
【化73】

【0294】
例C1の手順を用いて、アルコール(B5)(150mg、0.58mmol、79%)をPh2PCl(106μl、0.57mmol)と反応させた。カラムクロマトグラフィー(ペンタン/トリエチルアミン、9:1)後、明黄色の液体(125mg、64%)を得た。
【0295】
【表36】

【0296】
例C7: (C7)の調製:
【0297】
【化74】

【0298】
例C1の手順を用いて、アルコール(B6)(175mg、0.60mmol)をPh2PCl(0.78mmol)と反応させた。カラムクロマトグラフィー(ペンタン/Et2O/トリエチルアミン、8:1:1)による精製後、清澄な油状物(162mg、0.34mmol、57%)を得た。
【0299】
【表37】

【0300】
例C8: (C8)の調製:
【0301】
【化75】

【0302】
例C1の手順を用いて、アルコール(B6)(90mg、0.31mmol)をo−トリル2PCl(100mg、0.40mmol)と反応させた。カラムクロマトグラフィー(ペンタン/トリエチルアミン、9:1)後、生成物を無色の油状物として得た(40mg、26%)。
【0303】
【表38】

【0304】
例C9: (C9)の調製:
【0305】
【化76】

【0306】
例C1の手順を用いて、アルコール(B4)(150mg、0.34mmol)をPh2PCl(0.442mmol)と反応させた。ホスフィニット(C9)を無色の油状物として得た(200mg、29mmol、86%、粗生成物)。
【0307】
【表39】

【0308】
例C10: (C10)の調製:
【0309】
【化77】

【0310】
例C1の手順を用いて、アルコール(B7)(109mg、0.33mmol)をPh2PCl(80μl、0.43mmol)と反応させた。カラムクロマトグラフィー(ペンタン/トリエチルアミン、9:1)による精製後、ホスフィニット(C10)を淡黄色の油状物として単離した(113mg、0.22mmol、66%)。
【0311】
【表40】

【0312】
例C11: (C11)の調製:
【0313】
【化78】

【0314】
例C1の手順を用いて、アルコール(B8)(77mg、0.24mmol)をPh2PCl(60μl、0.327mmol)と反応させた。カラムクロマトグラフィー(ペンタン/トリエチルアミン、9:1)による精製後、ホスフィニット(C11)を淡黄色の油状物として単離した(38mg、0.075mmol、31%)。
【0315】
【表41】

【0316】
例C12: (C12)の調製:
【0317】
【化79】

【0318】
例C1の手順を用いて、アルコール(B9)(80mg、0.29mmol)をPh2PCl(70μl、0.38mmol)と反応させた。カラムクロマトグラフィー(ペンタン/ジエチルエーテル/トリエチルアミン、8:1:1)による精製後、ホスフィニット(C12)を淡黄色の油状物として単離した(51mg、0.11mmol、38%)。
【0319】
【表42】

【0320】
例C13: (C13)の調製:
【0321】
【化80】

【0322】
例C1の手順を用いて、アルコール(B10)(94mg、0.343mmol)をPh2PCl(83μl、0.45mmol)と反応させた。カラムクロマトグラフィー(ペンタン/ジエチルエーテル/トリエチルアミン、8:1:1)による精製後、ホスフィニット(C13)を淡黄色の油状物として単離した(61mg、0.132mmol、39%)。
【0323】
【表43】

【0324】
例C14: (C14)の調製:
【0325】
【化81】

【0326】
例C1の手順を用いて、アルコール(B11)(60mg、0.20mmol)をPh2PCl(48μl、0.26mmol)と反応させた。カラムクロマトグラフィー(ペンタン/ジエチルエーテル/トリエチルアミン、8:1:1)による精製後、ホスフィニット(C14)を淡黄色の油状物として単離した(48mg、0.097mmol、48%)。
【0327】
【表44】

【0328】
例C15: (C15)の調製:
【0329】
【化82】

【0330】
例C1の手順を用いて、アルコール(B12)(60mg、0.18mmol)をPh2PCl(43μl、0.26mmol)と反応させた。溶媒の除去後、ホスフィニット(C15)を対応するイリジウム錯体にその場で変換した。
【0331】
例C16: (C16)の調製:
【0332】
【化83】

【0333】
例C1の手順を用いて、アルコール(B13)(15mg、0.063mmol)をPh2PCl(9.2μl、0.082mmol)と反応させた。溶媒の除去後、ホスフィニット(C16)を対応するイリジウム錯体にその場で変換した。
【0334】
例C17: (C17)の調製:
【0335】
【化84】

【0336】
例C1の手順を用いて、アルコール(B14)(120mg、0.392mmol)をPh2PCl(94μl、0.51mmol)と反応させた。カラムクロマトグラフィー(ペンタン/ジエチルエーテル/トリエチルアミン、9:1)による精製後、ホスフィニット(C17)を淡黄色の油状物として単離した(20mg、0.041mmol、10%)。
【0337】
【表45】

【0338】
D) 金属錯体の調製
例D1: ホスフィニット(C1)とのIr錯体(D1)(CODは、シクロオクタジエンである)
[Ir(COD)Cl]2(27mg、0.039mmol)をジクロロメタン(0.5ml)と一緒に反応容器に入れた。ホスフィニット(C1)(32mg、0.071mmol、ジクロロメタンに溶解、4.0ml)をこの溶液に滴下により加え、次にこの混合物を45℃に加熱した。2時間後、この溶液をテトラ(ビストリフルオロメチル)フェニル)ホウ酸ナトリウム(NaBArF)(74mg、0.078mmol)及び水と混合した。相分離及びジクロロメタン(10ml)による水相の抽出後、合わせた有機抽出液をMgSO4で乾燥し、続いてロータリーエバポレーターでジクロロメタンを除去した。生成した橙色の泡状物をシリカゲルのカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン)により精製した。これにより、錯体(D1)を橙色の固体として得た(105mg、91%)。
【0339】
【表46】

【0340】
例D2: ホスフィニット(C2)とのIr錯体(D2)
ホスフィニット(C2)(80mg、0.186mmol)、[Ir(COD)Cl]2(69mg、0.102mmol)及びNaBArF(193mg、0.205mmol)を使用して例D1の手順を繰り返すことにより、錯体(D2)を得た(210mg、71%)。
【0341】
【表47】

【0342】
例D3: ホスフィニット(C3)とのIr錯体(D3)
ホスフィニット(C3)(72mg、0.157mmol)、[Ir(COD)Cl]2(58mg、0.0864mmol)及びNaBArF(161mg、0.173mmol)を使用して例D1の手順を繰り返すことにより、錯体(D3)を得た(198mg、78%)。
【0343】
【表48】

【0344】
例D4: ホスフィニット(C4)とのIr錯体(D4)
ホスフィニット(C4)(38mg、0.087mmol)、[Ir(COD)Cl]2(32mg、0.0479mmol)及びNaBArF(89mg、0.0957mmol)を使用して例D1の手順を繰り返すことにより、錯体(D4)を得た(82mg、0.0508mmol、58%)。
【0345】
【表49】

【0346】
例D5: ホスフィニット(C5)とのIr錯体(D5)
ホスフィニット(C5)(29mg、0.0624mmol)、[Ir(COD)Cl]2(23mg、0.0343mmol)及びNaBArF(64mg、0.0686mmol)を使用して例D1の手順を繰り返すことにより、錯体(D5)を得た(65mg、0.0396mmol、63%)。
【0347】
【表50】

【0348】
例D6: ホスフィニット(C6)とのIr錯体(D6)
ホスフィニット(C6)(125mg、0.28mmol)、[Ir(COD)Cl]2(103mg、0.154mmol)及びNaBArF(264mg、0.28mmol)を使用して例D1の手順を繰り返すことにより、錯体(D6)を得た(260mg、58%)。
【0349】
【表51】

【0350】
例D7: ホスフィニット(C7)とのIr錯体(D7)
ホスフィニット(C7)(80mg、0.17mmol)、[Ir(COD)Cl]2(63mg、0.0935mmol)及びNaBArF(159mg、0.17mmol)を使用して例D1の手順を繰り返すことにより、錯体(D7)を得た(175mg、63%)。
【0351】
【表52】

【0352】
例D8: ホスフィニット(C8)とのIr錯体(D8)
ホスフィニット(C8)(40mg、0.082mmol)、[Ir(COD)Cl]2(30mg、0.045mmol)及びNaBArF(77mg、0.082mmol)を使用して例D1の手順を繰り返すことにより、錯体(D8)を得た(50mg、0.030mmol、37%)。
【0353】
【表53】

【0354】
例D9: ホスフィニット(C9)とのIr錯体(D9)
ホスフィニット(C9)(213mg、0.34mmol)、[Ir(COD)Cl]2(126mg、0.187mmol)及びNaBArF(352mg、0.37mmol)を使用して例D1の手順を繰り返すことにより、錯体(D9)を得た(380mg、62%)。
【0355】
【表54】

【0356】
例D10: ホスフィニット(C10)とのIr錯体(D10)
ホスフィニット(C10)(110mg、0.22mmol)、[Ir(COD)Cl]2(81mg、0.121mmol)及びNaBArF(226mg、0.24mmol)を使用して例D1の手順を繰り返すことにより、錯体(D10)を得た(200mg、55%)。
【0357】
【表55】

【0358】
例D11: ホスフィニット(C11)とのIr錯体(D11)
ホスフィニット(C11)(38mg、0.075mmol)、[Ir(COD)Cl]2(28mg、0.0414mmol)及びNaBArF(77mg、0.0825mmol)を使用して例D1の手順を繰り返すことにより、錯体(D11)を得た(98mg、0.058mmol、78%)。
【0359】
【表56】

【0360】
例D12: ホスフィニット(C12)とのIr錯体(D12)
ホスフィニット(C12)(51mg、0.11mmol)、[Ir(COD)Cl]2(41mg、0.061mmol)及びNaBArF(114mg、0.122mmol)を使用して例D1の手順を繰り返すことにより、錯体(C12)を得た(54mg、0.033mmol、30%)。
【0361】
【表57】

【0362】
例D13: ホスフィニット(C13)とのIr錯体(D13)
ホスフィニット(C13)(61mg、0.132mmol)、[Ir(COD)Cl]2(49mg、0.073mmol)及びNaBArF(135mg、0.145mmol)を使用して例D1の手順を繰り返すことにより、錯体(D13)を得た(153mg、0.093mmol、71%)。
【0363】
【表58】

【0364】
例D14: ホスフィニット(C14)とのIr錯体(D14)
ホスフィニット(C14)(48mg、0.097mmol)、[Ir(COD)Cl]2(36mg、0.053mmol)及びNaBArF(100mg、0.107mmol)を使用して例D1の手順を繰り返すことにより、錯体(D14)を得た(98mg、0.059mmol、61%)。
【0365】
【表59】

【0366】
例D15: ホスフィニット(C15)とのIr錯体(D15)
例D1の手順を用いて、ホスフィニット(C15)を[Ir(COD)Cl]2(65mg、0.097mmol)及びNaBArF(182mg、0.195mmol)とその場で反応させることにより、錯体(D15)を得た(131mg、46%)。
【0367】
【表60】

【0368】
例D16: ホスフィニット(C16)とのIr錯体(D16)
例D1の手順を用いて、ホスフィニット(C16)を[Ir(COD)Cl]2(14mg、0.021mmol)及びNaBArF(39mg、0.042mmol)とその場で反応させることにより、錯体(D16)を得た(45mg、74%)。
【0369】
【表61】

【0370】
例D17: ホスフィニット(C17)とのIr錯体(D17)
ホスフィニット(C17)(20mg、0.041mmol)、[Ir(COD)Cl]2(15mg、0.0224mmol)及びNaBArF(42mg、0.045mmol)を使用して例D1の手順を繰り返すことにより、錯体(D17)を得た(36mg、0.022mmol、53%)。
【0371】
【表62】

【0372】
E) 使用例
例E1: trans−α−メチルスチルベンの水素化
α−trans−メチルスチルベン19.4mg(0.1mmol)を1.6mg(0.002mmol)と一緒にジクロロメタン0.5mlに6時間溶解して、この溶液を、はめ込みガラス及び電磁撹拌器を取り付けた鋼製オートクレーブに移した。次にこのオートクレーブを室温(RT)でH2 50barで加圧した。2時間後、オートクレーブを減圧し、溶媒を除去し、残渣をヘプタンにとり、シリンジフィルター(クロマフィル(CHROMAFIL)O−20/15MS 0.2μm、マシュレ−ネーゲル(Macherey-Nagel))により濾過した。溶液のGC/MS分析(100℃で2分間、7℃/分で250℃まで)は、完全な変換を示した。エナンチオマー過剰率は、キラルHPLC(流量:20℃で0.5ml/分;固定相:ダイセル・キラルセル(Daicel Chiralcel)OJ、ヘプタン/イソプロパノール、99:1)を用いて測定すると、85%(tr:13.4(R)、20.4(S)分)であった。
【0373】
結果は表1に示した。
【0374】
【表63】

【0375】
例E2: trans−2−(4−メトキシフェニル)−2−ブテンの水素化
手順は、例E1と同様とした。エナンチオマー過剰率の測定は、キラルHPLC(ダイセル・キラセル(Daicel Chiracel)OD−H、100%ヘプタン)を用いて行った(tr:13.8(S)、15.5(R))。
【0376】
結果は表2に示した。
【0377】
【表64】

【0378】
例E3: cis−2−(4−メトキシフェニル)−2−ブテンの水素化
手順は、例E1と同様とした。エナンチオマー過剰率の測定は、キラルHPLC(ダイセル・キラセルOD−H、100%ヘプタン)を用いて行った(tr:13.8(S)、15.5(R))。
【0379】
結果は表3aに示した。
【0380】
【表65】

【0381】
比較例:
類似のホスフィニット−オキサゾリン配位子(構造(D)、Pfaltzら, Adv. Synth. Catal. 2003, 345, numbers 1+2, pages 33-43)を用いるcis−2−(4−メトキシフェニル)−2−ブテンの水素化:
【0382】
【化85】

【0383】
S:R’はi−プロピルであり、R”はフェニルである; T:R’はi−プロピルであり、R”はo−トリルである; U:R’はt−ブチルであり、R”はo−トリルである。
【0384】
結果は表3bに示した。
【0385】
【表66】

【0386】
純粋なジアステレオマーを、わずか1回又は非常に少ない回数の再結晶工程で得ることができるため、90%以上のエナンチオマー過剰率は、経済的に大変重要である。
【0387】
例E4: 2−(4−メトキシフェニル)−1−ブテンの水素化
水素化は、例E2と同様のやり方で行った。
【0388】
結果は表4に示した。
【0389】
【表67】

【0390】
例E5: trans−β−メチルケイ皮酸エチルの水素化
手順は、例E1と同様とした。エナンチオマー過剰率の測定は、キラルHPLC(ダイセル・キラセルOB−H、100%ヘプタン/イソプロパノール、99.5:0.5)を用いて行った(tr:24.3(S)、29.4(R))。
【0391】
結果は表5に示した。
【0392】
【表68】

【0393】
例E6: cis−2−メチル−3−フェニルプロパ−2−エノールの水素化
手順は、例E1と同様とした。エナンチオマー過剰率の測定は、キラルHPLC(ダイセル・キラセルOD−H、100%ヘプタン/イソプロパノール、95:5)を用いて行った(tr:15.4(+)、17.7(−))。
【0394】
結果は表6に示した。
【0395】
【表69】

【0396】
例D7: 6−メトキシ−1−メチル−3,4−ジヒドロナフタレンの水素化
手順は、例E1と同様とした。エナンチオマー過剰率の測定は、キラルHPLC(ダイセル・キラセルOD−H、100%ヘプタン)を用いて行った(tr:24.8(R)、29.7(S))。
【0397】
結果は表7に示した。
【0398】
【表70】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)及び(Ia):
【化1】


[式中、
1は、第2級ホスフィノであり;
3は、1〜20個のC原子を有する炭化水素基、C原子を介して結合しており、かつ2〜20個の原子並びにO、S、NH及びNRよりなる群から選択される少なくとも1個のヘテロ原子を有するヘテロ炭化水素基、又は−SO2−R基であり;
Rは、C1−C18−アルキル、フェニル又はベンジルであり;
4基は、それぞれ相互に独立に、水素又は1〜20個のC原子を有する炭化水素基であるか、あるいは2個のR4基は、これらが結合しているC原子と一緒になって、3員〜8員炭化水素環を形成しており;
01は、1〜20個のC原子を有する炭化水素基であり;そして
02及びR’02は、それぞれ水素原子又は独立にR01の意味を有するか、あるいは
01及びR02は、これらが結合しているC原子と一緒になって、3員〜8員の炭化水素又はヘテロ炭化水素環を形成している]
で示される化合物。
【請求項2】
ホスフィン基としてのX1が、1〜22個のC原子を有する、2個の同一の、又は2個の異なる炭化水素基を含むか、あるいはこの2個の炭化水素原子が、P原子と一緒になって、3員〜8員環を形成していることを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
1が、−PR12基[ここで、R1及びR2は、それぞれ相互に独立に、1〜20個のC原子を有する炭化水素基であり、かつ非置換であるか、又はハロゲン、C1−C6−アルキル、C1−C6−ハロアルキル、C1−C6−アルコキシ、C1−C6−ハロアルコキシ、(C653Si、(C1−C12−アルキル)3Si若しくは−CO2−C1−C6−アルキルにより置換されているか;あるいはR1及びR2は、一緒になって、非置換又はC1−C4−アルキル−若しくはC1−C4−アルコキシ−置換のジメチレン、トリメチレン、テトラメチレン又はペンタメチレンを形成している]であることを特徴とする、請求項2記載の化合物。
【請求項4】
1及びR2が、分岐C3−C6−アルキル、非置換シクロペンチル若しくはシクロヘキシル及びシクロペンチル若しくはシクロヘキシル(置換基として1〜3個のC1−C4−アルキル又はC1−C4−アルコキシ基を有する)、非置換ベンジル及びベンジル(置換基として1〜3個のC1−C4−アルキル又はC1−C4−アルコキシ基を有する)、並びに非置換フェニル及びフェニル(置換基として1〜3個のC1−C4−アルキル、C1−C4−アルコキシ、−NH2、OH、F、Cl、C1−C4−フルオロアルキル又はC1−C4−フルオロアルコキシ基を有する)よりなる群から選択される、同一の又は異なる基であることを特徴とする、請求項3記載の化合物。
【請求項5】
1及びR2が、非置換フェニル及びフェニル(1〜3個のC1−C4−アルキル、C1−C4−アルコキシ又はC1−C4−フルオロアルキル基により置換されている)よりなる群から選択される、同一の又は異なる基であることを特徴とする、請求項3記載の化合物。
【請求項6】
炭化水素基R3が、C1−C18−アルキル;C3−C12−シクロアルキル又はC6−C16−アリールであり;そしてヘテロ炭化水素基R3が、C2−C18−ヘテロアルキル;C3−C12−ヘテロシクロアルキル又はC3−C16−ヘテロアリール(O、S及びNRよりなる群から選択される1〜3個のヘテロ原子を含む)であり、そしてRが、C1−C4−アルキルであることを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項7】
芳香族炭化水素基R3が、C6−C14−アリールであることを特徴とする、請求項6記載の化合物。
【請求項8】
3が、C6−C10−アリール(非置換であるか、又はハロゲン、CF3、OCF3、C1−C4−アルキル若しくはC1−C4−アルコキシにより置換されている)であることを特徴とする、請求項7記載の化合物。
【請求項9】
4が、C1−C18−アルキル、C3−C12−シクロアルキル、C6−C16−アリール又はC7−C16−アラルキルよりなる群から選択される、炭化水素基であることを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項10】
01が、少なくとも3個のC原子を有するα−分岐アルキルであり、そしてR02及びR’02が、それぞれ水素であることを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項11】
式(Ib)及び(Ic):
【化2】


[式中、
1は、−PR12であり、
1及びR2は、同一の又は異なる、特に同一の、α−分岐C3−C6−アルキル、非置換C5−C7−シクロアルキル及びC5−C7−シクロアルキル(置換基として1〜3個のC1−C4−アルキル又はC1−C4−アルコキシ基を有する)、並びに非置換フェニル及びフェニル(置換基として1〜3個のC1−C4−アルキル、C1−C4−アルコキシ又はC1−C4−フルオロアルキル基を有する)、並びに非置換又はC1−C4−アルキル−若しくはC1−C4−アルコキシ−置換のジメチレン、トリメチレン、テトラメチレン及びヘキサメチレンよりなる群から選択される基であり;
3は、ベンジル又はC6−C12−アリールであり、そしてアリール及びベンジルは、非置換であるか、又はハロゲン、C1−C4−アルキル、C1−C4−ハロアルキル若しくはC1−C4−アルコキシにより置換されており;
4は、C1−C6−アルキル又はベンジルであり、そして
01は、α−分岐C3−C8−アルキルである]
を有することを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項12】
式(I)及び(Ia):
【化3】


[式中、R01、R02、R’02、R3、R4及びX1は、請求項1と同義であり、そして〜は、R又はS形を表す]で示される化合物の製造方法であって、
a) 式(II):
【化4】


[式中、R8は、C1−C8−アルキルであり、そしてHalは、Cl、Br又はIである]で示される化合物を、第3級アミンの存在下で、少なくとも当量の式(III):
【化5】


[式中、R01及びR02は、請求項1と同義である]で示される化合物と反応させることにより、式(IV):
【化6】


で示される化合物を生成すること;
b) 式(IV)の化合物を、少なくとも当量のハロゲン化剤と反応させることにより、式(V):
【化7】


で示される化合物を生成すること;
c) 式(V)の化合物を、式:R3−NH2(X)の第1級アミンにより、第3級アミンの存在下で環化することにより、式(VI):
【化8】


で示される化合物を生成すること;
d) 式(VI)の化合物を、少なくとも2当量の式(VII)又は(VIIa):
【化9】


[式中、R4は、請求項1と同義であり、X2は、アルカリ金属又は−Me13であり、Me1は、Mg又はZnであり、そしてX3は、Cl、Br又はIである]で示される有機金属化合物と反応させることにより、式(VIII):
【化10】


で示される化合物を生成すること;並びに
e) 式(VIII)の化合物のヒドロキシル基を金属化し、続いて式(IX):
【化11】


[式中、X1は、請求項1と同義であり、そしてY1は、Cl、Br又はIである]で示されるハロホスフィンと反応させることにより、式(Ia)又は(Ib)の化合物を得ること
を特徴とする方法。
【請求項13】
式(V):
【化12】


[式中、R01、R02、R’02、R3及びR4は、請求項1と同義であり、R8は、C1−C8−アルキルであり、そしてHalは、Cl、Br又はIである]で示される化合物。
【請求項14】
Halが、Clであることを特徴とする、請求項13記載の化合物。
【請求項15】
配位子としての式(I)及び(Ia)の化合物との、TM8金属の群から選択される金属の錯体。
【請求項16】
TM金属が、Cu、Ag、Au、Ni、Co、Rh、Ru、Pd、Ir及びPtであることを特徴とする、請求項15記載の金属錯体。
【請求項17】
TM金属が、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、白金及びパラジウムであることを特徴とする、請求項16記載の金属錯体。
【請求項18】
金属錯体が、式(XI)及び(XII):
【化13】


[式中、A1は、式(I)又は(Ia)の化合物であり、
Lは、同一の又は異なる単座のアニオン性又は非イオン性配位子を表すか、あるいは2個のLは、一緒になって、同一の又は異なる二座のアニオン性又は非イオン性配位子を表し;
Lが単座配位子であるとき、nは、2、3又は4であるか、あるいはLが二座配位子であるとき、nは、1又は2であり;
zは、1、2又は3であり;
Meは、Rh、Ir及びRuよりなる群から選択される金属であり、そしてこの金属は、0、1、2、3又は4の酸化状態を有しており;
-は、オキソ酸又は錯酸のアニオンであり;そして
アニオン性配位子は、金属の酸化状態1、2、3又は4の電荷と釣り合う]を有することを特徴とする、請求項15記載の金属錯体。
【請求項19】
Eが、−Cl-、−Br-、−I-、ClO4-、CF3SO3-、CH3SO3-、HSO4-、(CF3SO22-、(CF3SO23-、B(フェニル)4-、B[ビス(3,5−トリフルオロメチル)フェニル]4-、B[ビス(3,5−ジメチル)フェニル]4-、B(C654-、B(4−メチルフェニル)4-、テトラ−(C1−C5−ペルフルオロアルキル)アルミナート、BF4-、PF6-、SbCl6-、AsF6-又はSbF6-であることを特徴とする、請求項18記載の金属錯体。
【請求項20】
式(XIII)及び(XIV):
【化14】


[式中、
1は、式(I)又は(Ia)の化合物であり;
Me1は、ロジウム又はイリジウムであり;
Yは、2個のオレフィン又は1個のジエンを表し;
Zは、Cl、Br又はIであり;そして
1-は、オキソ酸又は錯酸のアニオンである]
を有することを特徴とする、請求項15記載の金属錯体。
【請求項21】
Yが、C2−C12−オレフィンであり、このジエンが、5〜12個のC原子を含み、Zが、Cl又はBrであり、そしてE1が、BF4-、ClO4-、CF3SO3-、CH3SO3-、HSO4-、B(フェニル)4-、B[ビス(3,5−トリフルオロメチル)フェニル]4-、PF6-、SbCl6-、AsF6-又はSbF6-であることを特徴とする、請求項20記載の金属錯体。
【請求項22】
触媒の存在下での、プロキラル有機化合物中の炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子多重結合への水素、水素化ホウ素又はシランの不斉付加による、あるいはアリル化合物へのC−求核試薬の不斉付加による、キラル有機化合物の製造方法であって、この付加反応が、触媒量の少なくとも1種の請求項16記載の金属錯体の存在下で行われることを特徴とする方法。
【請求項23】
プロキラル有機化合物中の炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子多重結合への水素、水素化ホウ素又はシランの不斉付加による、あるいはアリル化合物へのC−求核試薬又はアミンの不斉付加による、キラル有機化合物の製造のための均一系触媒としての請求項15記載の金属錯体の使用。

【公表番号】特表2007−504115(P2007−504115A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524367(P2006−524367)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【国際出願番号】PCT/EP2004/051915
【国際公開番号】WO2005/021562
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(599163159)ソルヴィーアス アクチェンゲゼルシャフト (22)
【氏名又は名称原語表記】Solvias AG
【Fターム(参考)】