説明

ホスホニウム基含有ゲル状ナノコンポジット、その製造方法及びイオン伝導体

【課題】ホスホニウム塩系イオン性液体が固定され、優れたイオン伝導度を有するゲル状ナノコンポジットを提供する。
【解決手段】下記式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するホスホニウム塩系イオン性液体、特定のアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、酸又はアルカリを加えて、前記アルコキシシリル基を加水分解する反応工程を行い、次いで反応溶媒を除去して得られることを特徴とする、ホスホニウム基含有ゲル状ナノコンポジット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスホニウム塩系のイオン性液体が固定化された、ホスホニウム基含有ゲル状ナノコンポジット、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオン性液体は、カチオンとアニオンから成る塩であり、常温、常圧では液体であり沸点を持たない物質であるが、そのうちのいくつかは、20世紀初頭から電気化学の分野で研究されてきた。しかし、他の用途については研究されていなかった。
【0003】
ところが、1990年代になりグリーンケミストリーが叫ばれるようになると、イオン性液体は、不燃性、不揮発性等の興味深い性質を示すことから、注目を集め始めた。そのため、種々のイオン性液体が開発されるようになった。そして近年、イオン性液体を、不燃性、不揮発性かつ極性の高い溶媒として利用することについて研究が進められている。
【0004】
しかし、溶媒としての用途以外については、イオン性液体の利用方法については未だ開発されておらず、今後、イオン性液体の新規な用途が期待される。
イオン性液体の新規な用途の1つとして、イオン性液体を含有する機能材料が考えられる。このため、本発明者らは、先に溶媒や樹脂に均一に分散させることができる粒子表面にイオン性液体を固定化した粉末状のシリカコンポジット粒子を提案した(特許文献1参照)。
【0005】
近年、イオン伝導性の高い高分子材料が注目され、固体状態でイオン伝導性の高い高分子材料は、次世代のリチウムイオン二次電池用電解質として、特に注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−270124号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
更に、本発明者らは、イオン性液体を含有する機能材料の開発を進める中で、アルコキシシリル基を有する特定のフルオロアルキル基含有オリゴマーと、アルコキシシリル基を有する特定のホスホニウム塩系イオン性液体とを用い、前記アルコキシシリル基の加水分解を溶媒中で行い、次いで溶媒を除去することにより、ホスホニウム塩系イオン性液体が固定化されたナノコンポジット粒子が得られること。更に該ナノコンポジット粒子はバルクの状態において、ゲル状になること。また、該ゲル状のナノコンポジットは優れたイオン伝導度を有するものであることを知見し、本発明を完成するに到った。
【0008】
したがって、本発明の課題は、ホスホニウム塩系イオン性液体が固定され、優れたイオン伝導度を有するゲル状ナノコンポジットを提供することにある。また、本発明の課題は、該ゲル状ナノコンポジットを工業的に有利な方法で、かつ高収率で製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明(1)は、下記一般式(1):
【化1】

(式中、R、R及びRは炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。Rは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。nは1〜8の整数を示す。Xはアニオン基を示す。)
で表されるアルコキシシリル基を有するホスホニウム塩系イオン性液体、下記一般式(2)
【化2】

(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、酸又はアルカリを加えて、前記アルコキシシリル基を加水分解する反応工程を行い、次いで反応溶媒を除去して得られることを特徴とする、ホスホニウム基含有ゲル状ナノコンポジットを提供するものである。
【0010】
また、本発明(2)は、下記一般式(1):
【化3】

(式中、R、R及びRは炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。Rは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。nは1〜8の整数を示す。Xはアニオン基を示す。)
で表されるアルコキシシリル基を有するホスホニウム塩系イオン性液体、下記一般式(2)
【化4】

(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、酸又はアルカリを加えて、前記アルコキシシリル基を加水分解する反応工程を行い、次いで反応溶媒を除去する工程を有することを特徴とするホスホニウム基含有ゲル状ナノコンポジットの製造方法を提供するものである。
【0011】
本発明(3)は、前記本発明の(2)のホスホニウム基含有ゲル状ナノコンポジットを含有することを特徴とするイオン伝導体を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ホスホニウム塩系イオン性液体が固定されたホスホニウム基含有ゲル状ナノコンポジットであって、イオン伝導性に優れたゲル状ナノコンポジットを提供することができる。また、本発明によれば、該ゲル状ナノコンポジットを工業的に有利な方法で、かつ高収率でほぼ定量的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例2で得られたゲル状ナノコンポジットのSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明のホスホニウム基含有ゲル状ナノコンポジット(以下、「ゲル状ナノコンポジット」ともいう)は、下記一般式(1):
【化5】

【0015】
(式中、R、R及びRは炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。Rは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。nは1〜8の整数を示す。Xはアニオン基を示す。)
で表されるアルコキシシリル基を有するホスホニウム塩系イオン性液体(以下、「ホスホニウム塩系イオン性液体」と略記する。)
、下記一般式(2)
【化6】

(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー(以下、「フルオロアルキル基含有オリゴマー」と略記する。)及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、酸又はアルカリを加えて、前記アルコキシシランを加水分解する反応工程を行い、次いで溶媒を除去することで得られるものである。
【0016】
反応工程に係る前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体は、ホスホニウム塩でありかつイオン性液体である。前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体の式中のR、R及びRは、炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、オクチル基、ドデシル基等が挙げられ、この中で、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、特に炭素数4〜10のアルキル基がより好ましい。R、R及びRはそれぞれが同一の基でも異なる基であってもよい。また、前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体の式中のRは、炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基が挙げられ、この中で、特にメチル基が好ましい。また、前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体の式中のnは1〜8の整数、好ましくは3である。また、前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体の式中のXはアニオン基を示す。Xのアニオン基としては、ベンゾトリアゾールイオン、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、BF、PF、N(SOCF、PO(OMe)、PS(OEt)、(COMe)PhSO等のアニオン基が挙げられ、この中で、塩素イオンが特に好ましい。
【0017】
本発明において、反応工程に係るフルオロアルキル基含有オリゴマーは、下記一般式(2)で表される。
【化7】

【0018】
(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
【0019】
反応原料溶液が、前記一般式(2)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーを含有することにより、本発明のゲル状ナノコンポジットは、前記一般式(2)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーを含有するゲル状ナノコンポジットとなる。本発明のゲル状ナノコンポジットが、前記一般式(2)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーを含有することにより、ゲル状ナノコンポジットは、種々の分散溶媒又は樹脂材料等への分散性が更に高くなり、更には撥油性等の特性も有することができる。
【0020】
前記一般式(2)中のR、R及びRで示される炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。
【0021】
前記一般式(2)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーは、例えば、トリメトキシビニルシラン等のトリアルコキシビニルシランを過酸化フルオロアルカノイルと反応させることにより製造することができる(例えば、特開2002−338691号公報参照)。
【0022】
反応工程に係る反応溶媒は、反応工程に係る一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体及び一般式(2)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを溶解するものが用いられる。反応工程に係る反応溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールが挙げられ、この中で、メタノールが特に好ましい。
【0023】
反応工程において、反応原料溶液を調製する際に、一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体及び一般式(2)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを反応溶媒に混合する順序は特に制限されるものではない。
【0024】
反応原料溶液中の前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体と、前記一般式(2)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの配合割合は一般式(2)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー1gに対して、前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体が0.1〜100ml、好ましくは1〜50mlである。反応原料溶液中の前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体の含有量が、上記範囲にあることにより、ゲル状ナノコンポジットのホスホニウム塩系イオン性液体の含有量が高くなる。一方、反応原料溶液中に含有させる前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体の含有量が、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーに対して、0.1ml未満だとイオン伝導度が劣りやすくなり、100mlより大きくなると目的物の調製が困難になり易い。
【0025】
本発明に係る反応工程において、反応原料溶液に加える酸又はアルカリとしては、ホスホニウム塩系イオン性液体とフルオロアルキル基含有オリゴマーが有するアルコキシシリル基の加水分解を行うことができるものであれば、特に制限されず、例えば、アルカリとしては、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等が挙げられ、酸としては、硫酸、塩酸、硝酸又は酢酸等が挙げられ、反応性が高い点で、好ましくは水酸化アンモニウム又は塩酸であり、特に好ましくは水酸化アンモニウムである。
【0026】
反応原料溶液に加える酸又はアルカリの混合量は、特に制限されず、適宜選択される。また、反応原料溶液に、酸又はアルカリを混合して、該アルコキシシリル基の加水分解を行う際の反応温度は、−5〜50℃、好ましくは0〜30℃である。反応温度が、−5℃未満だと、アルコキシシリル基の加水分解速度が遅くなり過ぎるので、反応効率が悪く、また、50℃を超えると、ホスホニウム基含有ゲル状ナノコンポジットが生成されにくい。また、反応原料溶液に、酸又はアルカリを混合して、アルコキシシリル基の加水分解を行う際の反応時間は、特に制限されず、適宜選択されるが、好ましくは1〜72時間、特に好ましくは1〜24時間である。
【0027】
そして、反応工程を行うことにより、ゲル状ナノコンポジットが生成し、ゲル状ナノコンポジットを含有する反応液が得られる。反応工程を行い得られる反応液中のゲル状ナノコンポジットは、分散性が高く、その粒子自体は反応液中で微細にかつ均一に分散している。
【0028】
反応工程を行い得られる、ゲル状ナノコンポジットを含有する反応液は、目視に固形物が観察されず、かつ、該反応液を遠心加速度800Gで30分間遠心分離処理したときに目視にて沈殿物が観察されないことも特徴の1つである。
【0029】
次いで、反応工程を行い得られる反応液から、ゲル状ナノコンポジットを回収して、本発明のホスホニウム基含有ゲル状ナノコンポジットを得る。
【0030】
本発明では、反応工程を行い得られる反応液から、反応溶媒を蒸発させ除去して、ゲル状ナノコンポジットを得る溶媒蒸発除去工程を行い、該反応液からゲル状ナノコンポジットを回収することができる。溶媒蒸発除去工程では、常圧又は減圧下で反応溶媒が蒸発する温度に加熱して、反応溶媒の蒸発除去を行う。
【0031】
そして、溶媒蒸発除去工程を行うことにより、本発明のゲル状ナノコンポジットを得ることができる。本発明では、反応工程を行って得られる反応液を、そのまま蒸発により溶媒を除去するので、ほぼ定量的に、ゲル状ナノコンポジットを得ることができる。
【0032】
本発明のホスホニウム基含有ゲル状ナノコンポジットは、従来の特開2007−270124号公報の粉末状のシリカコンポジット粒子に比べ、ホスホニウム塩系イオン性液体の含有率が高いことに、その1つの特徴がある。即ち、従来の特開2007−270124号公報の粉末状のシリカコンポジット粒子は、コアシリカ粒子の表面にホスホニウム塩系イオン性液体を固定したものであるため、ホスホニウム塩系イオン性液体の含有率は低い。実際には、ホスホニウム塩系イオン性液体の含有率が、P原子として、多くても0.60重量%である。これに対して、本発明のゲル状ナノコンポジットは、コアシリカ粒子やアルコキシシランを使用しないため、ホスホニウム塩系イオン性液体の含有率を高めることができる。ホスホニウム塩イオン性液体の含有率は、好ましくは1重量%以上、特に好ましくは5〜90重量%であり、P原子として、好ましくは0.1重量%以上、特に好ましくは0.2〜10重量%である。
【0033】
なお、本発明のゲル状ナノコンポジットは、溶媒中では高分散するので、該ゲル状ナノコンポジットを含む反応液をそのまま使用して、該ゲル状ナノコンポジットを分散媒体に分散させた分散液として用いることができる。
【0034】
本発明のゲル状ナノコンポジットは、所望の溶媒と混合することで、各粒子を再分散させることができるので、例えば、光散乱光度計により該ゲル状ナノコンポジットの粒子径を測定することができる。
【0035】
本発明のゲル状ナノコンポジットは、該ゲル状ナノコンポジットをメタノール溶媒に再分散して光散乱光度計で測定した該ゲル状ナノコンポジットの平均粒子径が好ましくは10〜800nm、特に好ましくは20〜500nmである。
【0036】
本発明のゲル状ナノコンポジットは、ホスホニウム塩系イオン性液体を固定したものであり、該ゲル状ナノコンポジットにおけるホスホニウム塩系イオン性液体の含有率は、P原子として、好ましくは0.1重量%以上、特に好ましくは0.2〜10重量%である。本発明のゲル状ナノコンポジットにおけるホスホニウム塩系イオン性液体の含有率は、該ホスホニウム基含有ゲル状ナノコンポジットをフッ化水素で溶解して溶液となし、該溶液をICP分析若しくは熱重量分析することで求めることができる。
【0037】
また、本発明のゲル状ナノコンポジットにおいて、前記一般式(2)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの含有率は、好ましくは5重量%以上、特に好ましくは10〜98重量%である。本発明のゲル状ナノコンポジットにおけるフルオロアルキル基含有オリゴマーの含有率は、Fを元素分析することで求めることができる。
【0038】
本発明のホスホニウム基含有ゲル状ナノコンポジットは、反応工程においてアルコキシシリル基の加水分解により形成されたシロキサン結合を介して、ホスホニウム塩系イオン性液体とフルオロアルキル基含有オリゴマーが結合した構造を持つものと考えられる。本発明のホスホニウム基含有ゲル状ナノコンポジットにおいて、Si原子の含有量は、SiO換算で、好ましくは2重量%以上、特に好ましくは5〜90重量%である。本発明のゲル状ナノコンポジットにおけるSi原子の含有量は、熱重量分析により求めることができる。
【0039】
本発明のゲル状ナノコンポジットは、フルオロアルキル基に起因する撥油性を有し、その一方で、ホスホニウム塩基に起因した帯電性、抗菌性、耐熱性を有しいる。また、溶媒や樹脂に高分散させることができることから、樹脂に配合し、これらの機能を発現する樹脂組成物として使用できる他、優れたイオン伝導性を有することから、特に、イオン伝導体として有用であり、例えば、リチウム二次電池、キャパシタ、光電変換素子等の高分子電解質として用いることが出来る。
【0040】
次いで、本発明のイオン伝導体を用いた高分子電解質について説明する。
本発明の高分子電解質は、該ゲル状ナノコンポジットを含有するものであり、該高分子電解質はゲル状の形態を有するものである。
【0041】
本発明において高分子電解質は、その形態がゲル状である限りにおいて、水又は非プロトン性溶媒を含有させることができる。
前記非プロトン性溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリジノン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロキシフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、蟻酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、ジエチルエーテル、1,3−プロパンサルトン、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の非プロトン性有機溶媒の1種または2種以上を混合した溶媒が挙げられる。
【0042】
更に、本発明の高分子電解質は、他の電解質と併用することが出来る。他の電解質としては、水叉は非プロトン性溶媒に溶解するものであれば特に限定されないが、例えば、LiClO4、LiCl、LiBr、LiI、LiBF4、LiPF6、LiCF3SO3 、LiAsF6、LiAlCl4、LiB(C664、CF3 SO3 Li、LiSbF6、LiB10Cl10、LiSiF6、LiN(SO2CF32、LiC(SO2CF32、LiN(CF3SO32、低級脂肪酸カルボン酸リチウム、クロロボランリチウム及び4フェニルホウ酸リチウム等が挙げられ、これらのリチウム塩は、1種又は2種以上で用いられる。これらのリチウム塩のうち、LiN(CF3SO32、LiPF6、CF3 SO3 Li、LiPF6が電解質のイオン伝導性の点から好ましく、LiN(CF3SO32が特に好ましい。これらのリチウム塩の好ましい添加量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されるものではない。
【0043】
本発明の高分子電解質は、特にリチウム二次電池、キャパシタ、光電変換素子等の高分子電解質として好適に用いることが出来る。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(合成例1)
トリメトキシビニルシラン(2.3g)を過酸化ペルフルオロ−2−メチル−3−オキサヘキサノイル(5.1g)を含むAK−225溶液150gに加え、窒素雰囲気下で45Cにて5時間反応を行った。反応終了後、反応溶液を除去し、次いで蒸留を行うことにより、目的とする一般式(2)に包含されるフルオロアルキル基含有オリゴマー(略称;RF−VMオリゴマー)3.0gを得た。その結果を表1に示す。なお、AK−225は、旭硝子社製の不燃性フッ素系溶剤であり、その構造式はCFCFCHCl/CClFCFCHClFで表される。
【表1】

*表1中、分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、ポリスチレン換算)による数平均分子量である。
【0045】
(ホスホニウム塩系イオン性液体)
ホスホニウム塩系イオン性液体としては、日本化学工業社製の下記のものを用いた。
試料A;一般式(1)において、R、R及びRがn−ブチル基、Rがメチル基であり、nが3、XがCl。
試料B;一般式(1)において、R、R及びRがn−オクチル基、Rがメチル基であり、nが3、XがCl。
【0046】
(実施例1〜3)
50mlのサンプル瓶に、メタノール20mlを入れ、次いで表2に示す添加量で、ホスホニウム塩系イオン性液体(試料A)、合成例1で調製したRF−VMオリゴマーを入れ攪拌混合した。次いで、十分に攪拌混合しながら室温下(25℃)で25重量%アンモニア水を5.0ml添加した。次に室温(25℃)で5時間攪拌した。
反応終了後、反応液から真空乾燥により溶媒を除去し、ゲル状ナノコンポジットを得た。反応収率を表2に示す。
該固形分をIRで分析した結果、いずれの実施例においても、1465cm−1及び1412cm−1付近、更には2900cm−1付近にホスホニウム塩に起因するピークが観察された。
【0047】
(参考例1〜3)
表2に示す添加量で、ホスホニウム塩系イオン性液体、合成例1で調製したRF−VMオリゴマー及びテトラエトキシシランを使用して、実施例1と同様の反応工程を行い、次いで反応溶媒を除去したところ、得られたものは粉末状のナノコンポジットで、ゲル状のものは得られなかった。
【0048】
【表2】

注)収率は実施例1〜3ではRF−VMオリゴマー、ホスホニウム塩系イオン性液体に基づく収率を示す。参考例1〜3ではRF−VMオリゴマー、ホスホニウム塩系イオン性液体及びSi(OEt)に基づく収率を示す。
【0049】
(実施例4〜6)
50mlのサンプル瓶に、メタノール20mlを入れ、次いで表3に示す添加量で、ホスホニウム塩系イオン性液体(試料B)、合成例1で調製したRF−VMオリゴマーを入れ攪拌混合した。次いで、十分に攪拌混合しながら室温下(25℃)で25重量%アンモニア水を5.0ml添加した。次に室温(25℃)で5時間攪拌した。
反応終了後、反応液からエバポレータで溶媒を除去し、ゲル状ナノコンポジットを得た。反応収率を表3に示す。
該固形分をIRで分析した結果、いずれの実施例においても、1465cm−1及び1412cm−1付近、更には2900cm−1付近にホスホニウム塩に起因するピークが観察された。
【0050】
【表3】

注)収率はRF−VMオリゴマー及びホスホニウム塩系イオン性液体に基づく収率を示す。
【0051】
(物性評価)
実施例1〜6で得られたゲル状ナノコンポジット試料について、平均粒子径、イオン性液体の含有量、ゼータ電位を測定した。また、実施例2で得られたゲル状ナノコンポジットのSEM写真を図1に示す。
(平均粒子径の評価)
得られたゲル状ナノコンポジットを、メタノールに再分散させて光散乱光度計(大塚電子製のDLS−6000HL)を用いて測定した。
(イオン性液体の含有量の評価)
ホスホニウム塩系イオン性液体の含有率は、該ゲル状ナノコンポジットをフッ化水素で溶解して溶液となし、該溶液をICP分析してP含有量を求め、P含有量からホスホニウム塩系イオン性液体の含有量を求めた。
【0052】
【表4】

【0053】
(イオン伝導度の評価)
実施例で得られたゲル状ナノコンポジットをパイレックス(登録商標)ガラスセルに入れ、真鍮で作成した上部電極を下部電極で挟み込み、導電率を室温(25℃)にて測定した。また、マイクロヘッドを用いてゲルの厚さを測定した。これらの測定値から、イオン伝導度(σ)を算出した。
【0054】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、ホスホニウム塩系イオン性液体が固定されたホスホニウム基含有ゲル状ナノコンポジットであって、イオン伝導性に優れたゲル状ナノコンポジットを提供することができる。また、本発明によれば、該ゲル状ナノコンポジットを工業的に有利な方法で、かつ高収率でほぼ定量的に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】

(式中、R、R及びRは炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。Rは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。nは1〜8の整数を示す。Xはアニオン基を示す。)
で表されるアルコキシシリル基を有するホスホニウム塩系イオン性液体、下記一般式(2)
【化2】

(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、酸又はアルカリを加えて、前記アルコキシシリル基を加水分解する反応工程を行い、次いで反応溶媒を除去して得られることを特徴とする、ホスホニウム基含有ゲル状ナノコンポジット。
【請求項2】
前記反応溶媒がメタノールであることを特徴とする請求項1記載のゲル状ナノコンポジット。
【請求項3】
前記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するホスホニウム塩系イオン性液体の式中のR、R及びRが炭素数1〜10のアルキル基、Rがメチル基、nが3であることを特徴とする請求項1記載のホスホニウム基含有ゲル状ナノコンポジット。
【請求項4】
下記一般式(1):
【化3】

(式中、R、R及びRは炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。Rは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。nは1〜8の整数を示す。Xはアニオン基を示す。)
で表されるアルコキシシリル基を有するホスホニウム塩系イオン性液体、下記一般式(2)
【化4】

(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、酸又はアルカリを加えて、前記アルコキシシリル基を加水分解する反応工程を行い、次いで反応溶媒を除去する工程を有することを特徴とするホスホニウム基含有ゲル状ナノコンポジットの製造方法。
【請求項5】
請求項1記載のホスホニウム基含有ゲル状ナノコンポジットを含有することを特徴とするイオン伝導体。
【請求項6】
高分子固体電解質として用いられる請求項5記載のイオン伝導体。

【図1】
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【公開番号】特開2010−209299(P2010−209299A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60081(P2009−60081)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】