説明

ホットメルト型シール材組成物

【課題】荷重を受けてもシール状態を確実に保持でき、例えば太陽電池のシール材として用いた場合に、ガラスパネルの荷重を受けてもセルへの水分の浸入を防止することができるホットメルト型シール材組成物を提供する。
【解決手段】ブチルゴム、スチレン系ブロック共重合体、ゲル分率が10%以上であり、平均粒子径が200〜1000μmである有機微粒子を含有するホットメルト型シール材組成物を用いてガラスパネルをシールする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷重を受けてもシール状態を確実に保持できるホットメルト型シール材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は光エネルギーを電力に変換する発電装置であり、燃料等を必要とせず持続的に発電でき、可動部がなくメンテナンス性に優れ、二酸化炭素等の温室効果ガスを排出せず、屋根や壁に設置可能で場所を取らない等の特長を有し、宇宙空間、山岳地、離島のように他の発電、給電方法が困難な場所や、クリーンな発電装置として事業所や家庭にも設置されるようになっている。
【0003】
太陽電池は、ガラスパネルと封止樹脂によって保護されたセルと呼ばれる発電素子を、さらに金属フレームにはめ込むことによりモジュール化されて設置される。セルを金属フレームにはめ込む際には、熱可塑性樹脂等からなるシール材が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
このようなシール材には防湿性の他、温度変化によるガラスパネルと金属フレームの膨張係数の違いによる内部歪みを緩和し、ガラスパネルが破損してしまうことを防止できる性能が要求されている。特許文献1には、このような要求に対応したシール用ホットメルト組成物が開示されている。
【特許文献1】特許第4104611号公報
【0005】
また、ガラスパネルの重量によってシール材が流動してしまうと、セルに対して十分なシール材の膜厚が確保されない部位が生じてしまい、この部位から水分がセルに侵入して不具合を引き起こしたり、外観上の問題も生じるため、ガラスパネルの重量に対して流動することなくシール状態を保持できることも求められている。しかし、このような性能が長期間保たれることを短期的な代替試験で実証することは困難であり、長期信頼性が要求される太陽電池用途へ採用されるための課題となっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、荷重を受けてもシール状態を確実に保持できるホットメルト型シール材組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記課題を解決するため、シール材の硬度の調整を試みたが、逆に内部歪みを緩和することができなくなる等の問題が発生した。本発明者らはさらに鋭意検討を重ねることによって、特定の有機微粒子をシール材に添加することにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明はブチルゴム、スチレン系ブロック共重合体、ゲル分率が10%以上である有機微粒子を含有することを特徴とするホットメルト型シール材組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のホットメルト型シール材組成物は、有機微粒子によって荷重を受け止めることができるため、シール材が流動してしまうことなくシール状態を確実に保持することができる。したがって、各種シール用途、特にシール材の硬化前や硬化後に荷重を受ける部位に対して好適に使用できる。具体例として、本発明のシール材組成物を太陽電池のシール材として用いた場合、ガラスパネルの荷重を受けても、少なくとも有機微粒子の粒子径分の膜厚はシール状態を保持できるため、セルへの水分の浸入を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1(左)及び比較例2(右)の試験評価結果
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のホットメルト型シール材組成物は、防湿性に優れた熱可塑性樹脂であるブチルゴムを含有する。ブチルゴムはムーニー粘度が20〜90程度、不飽和度0.5〜5.0程度ものが使用に適しており、日本ブチル社製の商品名065など市販されている公知の物を用いることができる。
【0011】
スチレン系ブロック共重合体はシール材に弾性、凝集力と基材への密着性などを確保するために配合されるものであって、弾性、凝集力を確保するためには平均分子量が30,000〜500,000のものが適合している。具体的にはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、α−メチルスチレン−ブタジエン−α−メチルスチレンブロック共重合体、α−メチルスチレン−イソプレン−α−メチルスチレンブロック共重合体や、これらの水素添加変性物、例えばスチレン−エチレン−(エチレン−プロピレン)−スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)等が挙げられる。
【0012】
本発明で使用される有機微粒子はゲル分率が10%以上である必要がある。また、より好ましいゲル分率は30%以上であり、さらに好ましいゲル分率は60%以上であり、特に好ましいゲル分率は90%以上である。本発明におけるゲル分率とは、次のように規定する。有機微粒子1gをアセトン30g中に入れ、ガラスビーカー中で1時間攪拌した後に遠心分離を行い、上澄みを除去して80℃で12時間減圧乾燥させた後に重量を測定する(Ag)。ゲル分率(%)=(A/1)×100
ゲル分率が10%未満の場合、シール材組成物の調製時や塗布時に軟化してしまったり、高温下での荷重に対して変形してしまう等の問題により、有機微粒子の粒子径分の膜厚のシール状態を保持するという目的を達成できないため、好ましくない。
また、有機微粒子に代えて無機微粒子のみを用いた場合、荷重を受けても変形しないため、応力が一点に集中してガラスが破損するおそれがある。
【0013】
また、有機微粒子の粒子径は使用条件や用途によって適宜選択されるが、小さ過ぎる場合は確保できるシール材の膜厚が薄くなってしまい、大き過ぎる場合はシール材の塗布装置への負荷が大きくなる等の問題が生じるため、有機微粒子の体積平均粒子径は200〜1000μmであることが好ましく、300〜800μmであることがより好ましい。
上記の体積平均粒子径はレーザー光回折・散乱式粒子径測定装置、MICROTRAC社製、マイクロトラックMT3000IIを使用し測定したものである。
【0014】
有機微粒子の種類としては、前記条件を満たすものであれば特に限定されないが、例えば以下に説明するように、疎水性のビニル単量体を懸濁重合することによって合成される有機微粒子が挙げられる。
【0015】
疎水性の重合性ビニル単量体としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン,ビニルトルエン等の芳香族ビニル単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸アルキルエステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸アルキルエステル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系単量体、(メタ)アクリロニトリル等のビニルシアン系単量体、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル単量体等のように、分子中に水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基等の親水性基を有しないものを使用することができる。
【0016】
前記疎水性の重合性ビニル単量体を水中に分散させる分散安定剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤、ゼラチン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩等の水溶性高分子、リン酸三カルシウム、炭酸マグネシウム等の難水溶性無機物が用いられる。これらの分散安定剤は単独でもまた二種以上の組み合わせでも用いることができ、通常の懸濁重合の際に用いられる使用量で安定に重合を行うことができる。
【0017】
重合開始剤としてはこの種の反応に通常用いられるもの、例えば過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等の過酸化物系開始剤、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−イソバレロニトリル等のアゾ重合開始剤が挙げられる。これらの重合開始剤は重合性ビニル単量体に溶解させて使用される。
【0018】
本発明のホットメルト型シール材組成物には、前記必須成分の他、以下の各種配合成分を添加できる。粘着性の付与等を目的として粘着付与樹脂を添加でき、具体例として、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂およびこれらの変性樹脂、水素添加樹脂等が挙げられる。
【0019】
溶融時の流動性や粘着性を制御するため、ワックスや液状樹脂を添加できる。ワックスの具体例としてパラフィンワックスが挙げられ、液状樹脂の具体例として液状ポリブタジエンや液状ポリブテン等が挙げられる。
【0020】
充填材として、タルク、クレー、シリカ、炭酸カルシウム、酸化チタンや、ガラスマイクロバルーン、パーライト、シリカバルーン、アルミナバルーン、カーボンバルーン、アルミノシリケートバルーン等の中空フィラーが挙げられる。
【0021】
耐熱老化性が必要な場合には酸化防止剤を添加することができる。酸化防止剤としては、銅系酸化防止剤、銅塩系酸化防止剤、ハロゲン化銅系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ヒンダートアミン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、芳香族アミン、キレート化剤からなる金属不活性化剤等が挙げられる。
【0022】
フェノール系酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチルフェノール誘導体、2−メチル−6−t−ブチルフェノール誘導体、オクタデシル−3−(3,5−ジブチル−4−ビトロキシフェニル)プロピオネート、4,4−ブチリデン−ビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、ペンタエリスリチル・テトラキス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}、2−{1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)−エチル}−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0023】
リン系酸化防止剤としては、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェイト、サイクリックネオペンタンテトラビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニルホスフェイト、ドステアリルペンタンエリスリトールジホスフェイト、リン酸2水素ナトリウム、リン酸1水素2ナトリウム等が挙げられる。
【0024】
ヒンダートアミン系酸化防止剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、1,2,3,4−テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルオキシカルボニル)ブタン、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシルエチル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合体、1−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−1,1−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルオキシカルボニル)ペンタン、N,N−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ビス(オクチロン−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート等が挙げられる。
【0025】
上記添加成分の他、顔料やシランカップリング剤等の公知の添加剤を配合することができる。
【0026】
ホットメルト型シール材組成物は上記各配合成分をバンバリーミキサー、加熱ニーダー、1軸エクストルーダー、2軸エクストルーダーなどで混練りすることにより得られる。
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0028】
有機微粒子の合成
攪拌羽を取り付けた5Lのガラス製セパラブルフラスコにPVA224(クラレ社製、ポリビニルアルコール)の5%水溶液94gを純水2700gに加えて混合し、水層とした。疎水性の重合性ビニル単量体としてメチルメタクリレート930gとエチレングリコールジメタクリレート9.4g、重合開始剤として2,2’―アゾビスイソブチロニトリル5gを均一になるまで混合して油層とし、これをフラスコに加えた。300rpmの回転数で5分攪拌し液滴を調整した。攪拌を100rpmに調整し60℃にて3時間反応した。反応物を固液分離した後、80℃で24時間乾燥し、体積平均粒子径500μm、ゲル分率99%の有機微粒子Aを得た。
【0029】
実施例1
ブチルゴムであるButyl065(日本ブチル社製、商品名)100重量部、スチレン系ブロック共重合体であるセプトン2063(クラレ社製、SEPS、商品名)25重量部、液状ポリブテン樹脂であるHV−300(新日本石油社製、商品名)30重量部、テルペンフェノール樹脂であるYSポリスターU115(ヤスハラケミカル社製、商品名)150重量部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤であるIRGANOX1010(チバ社製、商品名)0.5重量部、ポリオレフィンワックスであるビスコール550−P(三洋化成工業社製、商品名)30重量部、シランカップリング剤である1,3-ビス(アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(チッソ社製、商品名)1重量部、カーボンブラックであるダイアブラックMA100(三菱化学社製、商品名)0.1重量部、酸化チタンであるダイオキサイドTR92(ハンツマン社製、商品名)10重量部、有機微粒子A10重量部をシグマブレイド型ニーダーで加熱混合して実施例1のホットメルト型シール材組成物を得た。
【0030】
比較例1
実施例1において、有機微粒子Aを添加しなかった他は実施例1と同様に行い、比較例1のホットメルト型シール材組成物を調製した。得られた各ホットメルト型シール材組成物について厚さ0.5mmのフィルムを作製し、以下の方法で評価を行った。
【0031】
試験評価方法
ガラス板上に各シール材のフィルム(20mm×20mm)をセットし、フィルムの上にさらに別のガラス板(30g)をセットした試験体を作成した。試験体を150℃雰囲気下で1時間静置した後に取り出し、フィルム形状を観察した。
【0032】
図1のように、実施例1のシール材(左)は試験後においても当初の形状を保っているため、設計時の膜厚でシール状態を維持できていることが分かる。一方、比較例1のシール材(右)はガラス板の荷重によって流動して広がっているため、設計時よりもシール材の膜厚が減少し、水分等が浸入するおそれがある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチルゴム、スチレン系ブロック共重合体、ゲル分率が10%以上である有機微粒子を含有することを特徴とするホットメルト型シール材組成物。
【請求項2】
前記有機微粒子の平均粒子径が、200〜1000μmであることを特徴とする請求項1記載のホットメルト型シール材組成物。
【請求項3】
太陽電池に使用されることを特徴とする請求項1または2記載のホットメルト型シール材組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−57816(P2011−57816A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207949(P2009−207949)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【出願人】(592230542)ガンツ化成株式会社 (38)
【Fターム(参考)】