説明

ホットメルト接着フィルムおよびホットメルト接着フィルム積層体

【課題】
精密かつ高速穴打抜き加工でパンチおよびダイにホットメルト接着剤組成物が付着しないホットメルト接着フィルム積層体を提供せんことにある。
【解決手段】
本発明のホットメルト接着フィルム積層体は、
ホットメルト接着剤組成物が、飽和ポリエステル樹脂よりなり、10℃から40℃の温度領域における貯蔵弾性率(G’)が、1×10Pa以上1×1010Pa、且つ、100℃〜150℃の温度領域における損失弾性率(G”)が1×10〜1×10Paであり、厚さが5〜50μmであるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密打抜き加工に適したホットメルト接着フィルムおよびホットメルト接着フィルム積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ホットメルト接着フィルムは、それ単体、もしくは、シートまたはフィルム状の被着体と熱接着させた後、パンチ、ストリッパプレートおよびダイよりなる金型などの剪断を伴ったプレスよる打抜き加工機で所望の寸法、形状に打抜き加工を施されることがある。近年は、精密な打抜きサイズの要求が高まり、パンチとダイのクリアランスを0.03mm以下にされることが多い。これらの精密打抜き加工を連続で大量生産する場合には、生産性を考慮し、1対のパンチおよび/またはダイが1分間に50〜1000回という高速打抜きが行なわれる場合がある。このとき、金型のパンチおよび/またはダイの刃先や打抜き加工された製品の切断面にホットメルト接着剤組成物が付着したり、パンチ側面に付着し、堆積した接着剤成分よりなる抜きカスが、ストリッパプレートで掻き落され、パンチから取れて製品に異物として付着してしまい、不良品となる場合があった。これらを回避するために一定回数の精密打抜き加工を行う毎に、装置を止めて定期的にパンチおよび/またはダイの清掃を行う必要があり、精密打抜き加工自体は高速に行うことが可能にもかかわらず、工程の処理速度はそれほど向上しないという問題がある。
【0003】
このような問題点を解決する技術として、例えば打抜き加工の場合、パンチの外周面を、エタノールやアルコール等の液体が滲み込んだスポンジ状部材等で湿潤させる湿潤部材を備えたストリッパプレートを用いることが知られている(特許文献1)。
【0004】
しかしこれらの技術の場合、パンチのうち、被加工材に接触する部分が湿潤液で常に濡れた状態に保たれるようにしておくことが重要であり、定期的に打抜き加工機設備を停止し、湿潤液の補充をおこなう作業をしなければならず、処理速度の改善の観点では不十分といわざるを得ないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−214251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術の背景に鑑み、精密打抜き成形に適した、パンチおよびダイへのホットメルト接着剤組成物の付着が生じ難いホットメルト接着フィルム積層体を提供せんことにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、
(1)飽和ポリエステル樹脂を含む、10℃から40℃の温度領域における貯蔵弾性率(G’)が、1×10〜1×1010Pa、且つ、100℃〜150℃の温度領域における損失弾性率(G”)が1×10〜1×10Paであるホットメルト接着剤組成物からなる、厚さが5〜50μmであるホットメルト接着フィルム。
(2)(1)に記載のホットメルト接着フィルムの片面、または両面にヤング率が2〜15GPa以上であるプラスチックフィルムよりなるキャリアフィルムを積層したことを特徴とするホットメルト接着フィルム積層体。
(3)キャリアフィルムの厚みに対するホットメルト接着フィルムの厚みの比が、0.2〜1.0であることを特徴とする(2)に記載のホットメルト接着フィルム積層体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、精密打抜き加工に適した、パンチおよびダイへのホットメルト接着剤組成物の付着が生じ難いホットメルト接着フィルムおよびホットメルト接着フィルム積層体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ホットメルト接着剤組成物Aの貯蔵弾性率(G’)、および損失弾性率(G”)のグラフである。
【図2】ホットメルト接着剤組成物Bの貯蔵弾性率(G’)、および損失弾性率(G”)のグラフである。
【図3】ホットメルト接着剤組成物Cの貯蔵弾性率(G’)、および損失弾性率(G”)のグラフである。
【図4】ホットメルト接着剤組成物Dの貯蔵弾性率(G’)、および損失弾性率(G”)のグラフである。
【図5】ホットメルト接着剤組成物Eの貯蔵弾性率(G’)、および損失弾性率(G”)のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、前記課題、すなわち、精密打抜き加工に適した、具体的には、精密打抜き加工でパンチおよびダイにホットメルト接着剤組成物が付着しないホットメルト接着フィルムおよびホットメルト接着フィルム積層体について、鋭意検討し、特定の貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G”)を有する飽和ポリエステル樹脂よりなるホットメルト接着フィルムを配することにより、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0011】
本発明のホットメルト接着フィルムに用いられるホットメルト接着剤組成物は、飽和ポリエステル樹脂を含む。ホットメルト接着剤組成物としては、飽和ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、エチレン―酢酸ビニル共重合樹脂、ポリアミド樹脂、クロロプレン樹脂等を含むものから、被接着体の材質や耐熱温度、接着したものの使用温度等により、種類や融点を適宜選択して用いられることが一般的であるが、本発明においては、これらの中でも飽和ポリエステル樹脂を含むものが基材との接着力や、耐熱性などの点から好ましく用いられる。
【0012】
本発明のホットメルト接着フィルムの厚さは、5〜50μmである。より好ましくは5〜30μmである。厚さが5μmより薄い場合は、精密打抜き加工を行なう際、パンチ、またはダイの刃側面とホットメルト接着フィルムの切断面の接する面積は小さいため、パンチ、またはダイにホットメルト接着剤組成物が付着しにくくなるが、ホットメルト接着フィルム自体の製造時の擦り傷等によりピンホールが発生したり、厚さが薄いことにより、所望の接着強度を得られなくなる場合がある。その結果、接着強度のバラツキが発生する場合がある。また、ホットメルト接着フィルムの厚さが50μmより厚くなると、非着体と熱接着を行なう際、熱伝導が悪くなることによって接着強度のバラツキが生じたり、ホットメルト接着剤組成物が熱によって溶融することによる接着剤流れが発生し、所望の接着部分以外を汚してしまう場合がある。
【0013】
本発明において用いられるホットメルト接着剤組成物は、10℃から40℃の温度領域における貯蔵弾性率(G’)が、1×10〜1×1010Paの飽和ポリエステル樹脂である。10℃から40℃の温度領域における貯蔵弾性率(G’)は、1×10〜1×10Paであることが好ましい。10℃から40℃の温度領域における貯蔵弾性率(G’)が、1×10〜1×1010Paであるとは、10℃から40℃のいずれの温度においても、貯蔵弾性率(G’)が、1×10〜1×1010Paの範囲内にあることを表すものとする。10℃から40℃の温度領域において貯蔵弾性率(G’)が1×10Paに満たない値を示す温度があると、連続した打抜き成形においてパンチおよび/またはダイにホットメルト接着剤組成物が付着してしまうが、10℃から40℃の温度領域におけるいずれの温度でも貯蔵弾性率(G’)が1×10Pa以上であると、パンチおよびダイにホットメルト接着剤組成物が付着しにくく、連続して打抜き加工をすることが可能となる。これは、精密打抜き加工を行なうことによって、パンチと打抜き材料、およびダイとの間に摩擦熱等が発生し、パンチおよび/またはダイ自体が熱を蓄え、10℃から40℃の温度となる。その温度となったパンチおよび/またはダイが、ホットメルト接着剤組成物と切断面で接することにより、ホットメルト接着剤組成物が軟化し、パンチの側面にホットメルト接着剤組成物の付着が発生するが、10℃から40℃の温度領域における貯蔵弾性率(G’)が1×10Pa以上であると、パンチの側面にホットメルト成分が付着されないことによるものである。10℃から40℃の温度領域において貯蔵弾性率(G’)が1×1010Paより大きな値を示す温度があると、ホットメルト接着フィルムとして用いる際の接着温度が高いホットメルト接着フィルムとなってしまうことにより、適用製品の生産性が悪くなったり、基材フィルム、および/または被着体への熱による劣化、変形等のダメージが生じるためである。
【0014】
なお、ここで言う貯蔵弾性率(G’)は、剪断変形による測定周波数1Hzの粘弾性のことを言う。動的粘弾率には、引張り、圧縮変形と剪断変形があり、引張り、圧縮変形の粘弾性は、E、E’、E”等の記号を用い、剪断変形の粘弾性は、G、G’、G”等の記号を用いるのが一般的である。本発明における貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G”)は、剪断変形における測定周波数1Hzの粘弾性を用いるが、EとGの間には、下記式(1)(2)の関係が有り、引張り、圧縮変形の粘弾性測定で求められる貯蔵弾性率(E’)、損失弾性率(E”)に読み替えることも可能である。
【0015】
E’=2G’(1+ν) ・・・(1)
E”=2G”(1+ν) ・・・(2)
ν:ポアソン比
本発明において用いられるホットメルト接着剤組成物は、100℃〜150℃の温度領域における損失弾性率(G”)が1×10〜1×10Pa、好ましくは、1×10〜1×10Pa、より好ましくは、1×10〜1×10Paである。100℃から150℃の温度領域における損失弾性率(G”)が、1×10〜1×10Paであるとは、100℃から150℃のいずれの温度においても、損失弾性率(G”)が、1×10〜1×10Paの範囲内にあることを表すものとする。100℃〜150℃の温度領域において損失弾性率(G”)が1×10Paより小さな値を示す温度があると、被着体と熱シールを行なう際、ホットメルト接着剤組成物が流動してしまい、シール熱を与えている時間において粘着性が失われ、ホットメルト接着剤組成物そのものが冷却固化する前に被着体から剥れてしまう場合がある。100℃〜150℃の温度領域における損失弾性率(G”)が1×10Paを超える値を示す温度があると、ホットメルト接着フィルムとして用いる際の加熱時の流動性が小さいため、特に凹凸のある被着体に対して接着する面積が小さくなってしまい、強固に接着しない場合がある。100℃〜150℃の温度領域における損失弾性率(G”)が1×10〜1×10Paであると、熱シールを行なった時、シール熱で剥れてしまったり、接着面積が小さくなってしまったりすること無く強固に接着することが可能となる。
【0016】
本発明において用いるホットメルト接着剤組成物に含有される飽和ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸とジオールとを反応させて製造することができる。
【0017】
本発明において用いられるホットメルト接着剤組成物に含有される飽和ポリエステル樹脂の製造に用いるジカルボン酸は特に限定されず、例えば、テレフタル酸、ジメチルテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、β−メチルアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ヘキサデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、及び1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸などが挙げられる。これらのジカルボン酸は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本発明における特定の貯蔵弾性率(G’)を得るために、これらのうちでは、テレフタル酸、イソフタル酸、及びアジピン酸、セバシン酸等の炭素数5〜11、特に炭素数5〜10の脂肪族ジカルボン酸が用いられることが多い。また、テレフタル酸、イソフタル酸と、炭素数5〜11、特に炭素数5〜10の脂肪族ジカルボン酸とを組み合わせて用いることが好ましく、テレフタル酸と、炭素数5〜11、特に炭素数5〜10の脂肪族ジカルボン酸とを組み合わせて用いることがより好ましい。このジカルボン酸に代えて、酸無水物、エステル及び酸塩化物等を用いることもできる。また一部のジカルボン酸成分を、マレイン酸、フマル酸、ダイマー酸等の不飽和酸、及びトリメリット酸等の3官能以上の多官能酸を共重合させることもできる。これらのモノマーを共重合させた飽和ポリエステル樹脂は、接着性を付与すると同時に、本発明における特定の損失弾性率(G”)を得るために好ましく用いることができる。
【0018】
本発明において用いられるホットメルト接着剤組成物に含有される飽和ポリエステル樹脂の製造に用いるジオールは特に限定されず、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチルペンタンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール1,4−シクロヘキサンジオール、水添ビスフェノールA、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の脂肪族多価アルコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール等の脂環構造を有する脂肪族ジオール、ビスフェノールS、ビスフェノールA等のエチレンオキシド又はプロピレンオキシド付加物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール等のジオールが挙げられる。これらのジオールは1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうちでは、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の炭素数3〜6のアルキルジオールが用いられることが多い。また、ジオールとしては、炭素数3〜5のアルキルジオールが好ましく、特に1,4−ブタンジオールがより好ましい。また一部のジオール成分を、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコールを共重合させることもできる。これらのモノマーを共重合させた飽和ポリエステル樹脂は、接着性を付与すると同時に、本発明における特定の損失弾性率(G”)を得るために好ましく用いることができる。
本発明において用いられるホットメルト接着剤組成物に含有される飽和ポリエステル樹脂としては、ジカルボン酸残基の全量を100モル%とした場合に、ジカルボン酸残基として40〜80モル%、好ましくは50〜70モル%のテレフタル酸残基等のフタル酸残基が含有され、且つジオール残基の全量を100モル%とした場合に、30モル%以上(100モル%であってもよい。)の1,4−ブタンジオール、1,4−ヘキサンジオール等のブタンジオール残基やヘキサンジオールが含有される樹脂が特に好ましい。
【0019】
本発明において用いられるホットメルト接着剤組成物に含有される飽和ポリエステルを製造する方法は、特に制限されるものではなく、既知のポリエステルの製造方法によって製造することができる。例えば、ジカルボン、ジオールを原料とし、常法によって、150〜280℃の温度でエステル化又はエステル交換反応を行った後、重縮合触媒を添加し5hPa以下の減圧下、200〜300℃、好ましくは230〜280℃の温度で重縮合反応を行うことで調製することができる。
【0020】
本発明において用いられるホットメルト接着剤組成物に含有される飽和ポリエステル樹脂は、質量平均分子量(ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による測定値でポリスチレン換算値)が8,000〜100,000であることが好ましい。前記質量平均分子量が8,000より小さいときは、10℃から40℃の温度領域における貯蔵弾性率(G’)が、本発明において規定する特定の範囲より小さくなったり、凝集力に欠け、接着強度、特に、高温での接着強度が低下したり、軟化温度も小さくなる場合がある。また、前記質量平均分子量が100,000より大きいときは、100℃〜150℃の温度領域における損失弾性率(G”)が、本発明の特定の範囲より大きくなったり、塗工時の溶融粘度が高くなり、ホットメルト接着剤組成物の粘度を下げるため高い熱接着温度が必要となり、基材フィルムに積層する工程において、生産速度が著しく低下したり、ホットメルト接着フィルムを被着体に熱接着する際には、接着温度を高くする必要があり、この結果、基材フィルムおよび/または被着体の熱収縮や、分解、溶融等の熱負けが生じるなどの問題が発生する場合がある。本発明において好ましい飽和ポリエステル樹脂は、質量平均分子量10,000〜80,000のものである。質量平均分子量は、重縮合反応により得られたポリマーに、酸及び/又はグリコールを添加して、220〜280℃の温度で解重合反応を行う方法で調製することもできる。
本発明において用いられるホットメルト接着剤組成物は、ポリエチレン樹脂を含有したものでも良い。ポリエチレン樹脂は、例えば、各種のポリエチレン樹脂やポリαオレフィンを共重合したものを用いることができる。ポリエチレン樹脂としては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中高密度ポリエチレン等が挙げられる。これらのポリエチレン樹脂は1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリエチレン樹脂の含有量は特に限定されないが、飽和ポリエステル樹脂を100質量部とした場合に、5〜30質量部、特に10〜25質量部とすることができる。5〜30質量部のポリエチレン樹脂を含有させることにより、ペレットやフィルム化する時の加工性及びブロッキング防止性等をより向上させることができ、また、ホットメルト接着剤組成物の凝集力を高めることができる。
本発明において用いられるホットメルト接着剤組成物はエポキシ樹脂を含有したものでも良い。このエポキシ樹脂は特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等を用いることができるが、分子中に2個以上のグリシジル基を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂及びクレゾールノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。これらのエポキシ樹脂は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、10℃から40℃の温度領域における貯蔵弾性率(G’)が、本発明に規定する特定の範囲より小さいときにこれらのエポキシ樹脂を含有させることで特定の範囲になるように調整することができる。
エポキシ樹脂の含有量は特に限定されないが、飽和ポリエステル樹脂を100質量部とした場合に、3〜15質量部、特に5〜10質量部とすることができる。3〜15質量部のエポキシ樹脂を含有させることにより、十分な初期接着強さ、耐熱性及び耐水性等を有するホットメルト接着剤組成物とすることができる。
本発明において用いられるホットメルト接着剤組成物は有機アルコキシシランを含有したものでも良い。この有機アルコキシシランは特に限定されず、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニル−トリ(β−メトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピル−トリ(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらのうちでは、エポキシ基を有する有機アルコキシシランが特に好ましい。
有機アルコキシシランの含有量は特に限定されないが、飽和ポリエステル樹脂を100質量部とした場合に、0.1〜5質量部、特に0.3〜3質量部であることが好ましい。0.1〜5質量部の有機アルコキシシランを含有させることにより、初期接着強さ、基材への密着強さ等をより向上させることができる。
本発明において用いられるホットメルト接着剤組成物は無機充填剤を含有したものでも良い。この無機充填剤は特に限定されず、例えば、窒化ホウ素、酸化チタン、タルク、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、クレー、ベントナント、二硫化モリブデン、シリカ、黒鉛等の粉末を用いることができる。無機充填剤としては窒化ホウ素、酸化チタン、黒鉛が好ましい。これらの無機充填剤は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
無機充填剤の含有量も特に限定されないが、飽和ポリエステル樹脂を100質量部とした場合に、15質量部以下、特に12質量部以下、更に10質量部以下であることが好ましい。1〜15質量部の無機充填剤を含有させることにより、例えば、金属、樹脂等からなる回路部材である被着体の接着に用いたときに、回路パターン等を隠蔽することができる。
本発明において用いられるホットメルト接着剤には更に他の添加剤等を含有したものでも良い。この添加剤等としては、安定剤、紫外線吸収剤及び酸化防止剤等の、通常、ホットメルト接着剤組成物に配合して用いられる添加剤等が挙げられる。
【0021】
本発明において用いられるホットメルト接着剤組成物は、上述の組成物を種々配合し、特定の貯蔵弾性率(G’)、損失弾性率(G”)等を併せて有する飽和ポリエステル樹脂より作成することができる。例えば、ジカルボン酸残基の全量を100モル%とした場合に、55モル%のテレフタル酸、30モル%のアジピン酸、15モル%のセバシン酸およびジオール残基の全量を100モル%とした場合に、90モル%の1,6−ヘキサンジオール、7モル%のマレイン酸、3モル%のトリメチロールプロパンを共重合させ、飽和ポリエステル樹脂を調製し、本発明の損失弾性率(G”)とすることができ、かかる共重合組成から適宜組成を変更しても次に示すような条件調整を行うことで、必要な特性の合わせこみを容易に行うことができる。たとえば、損失弾性率(G”)が大きい方に外れた場合は質量平均分子量が小さくなるように、損失弾性率(G”)が小さい方に外れた場合は質量平均分子量が大きくなるように、共重合条件を調整すればよい。前記成分の配合で本発明の損失弾性率(G”)を得るためには、質量平均分子量を20,000〜35,000程度に調整することにより得ることができる。損失弾性率(G’)が本発明の範囲より小さい方向に外れた場合には、酸化チタン、タルク、炭酸カルシウム、シリカ等の無機充填剤を添加し、貯蔵弾性率(G”)が大きくならないようにモニタリングしながら、特定の貯蔵弾性率(G’)になるように調整することにより得ることができ、損失弾性率(G”)が本発明の範囲より大きい方向に外れた場合には、共重合組成中の多官能成分の比率を大きくすることにより得ることができる。このような飽和ポリエステル樹脂を用いたときは、打抜き性に加え、優れた初期接着強さ、耐熱性及び耐水性等を併せて有するホットメルト接着剤組成物とすることができる。
【0022】
つぎに本発明のホットメルト接着フィルム積層体について説明を行う。本発明のホットメルト接着フィルム積層体は、本発明のホットメルト接着フィルムの片面、または両面にヤング率が2〜15GPaであるプラスチックフィルムよりなるキャリアフィルムを積層した積層体であり、精密打抜き加工に供される。プラスチックフィルムのヤング率が2〜15GPaであると、精密打抜き加工を行なうとき、切断性が良好となり、ダレを小さくすることができる。ヤング率が2〜15GPaのプラスチックフィルムとしては、特に限定するものではないが、ポリエステルフィルムが、好適に用いられる。
本発明のホットメルト接着フィルム積層体に用いられるポリエステルフィルムは、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6−ナフタレート、ポリエチレンα,β−ビス(2−クロルフェノキシ)エタン4,4’−ジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレートなどからなるフィルムが好ましく、これらの中で機械的特性、作業性などの品質、経済性などを総合的に勘案すると、ポリエチレンテレフタレートからなる二軸延伸フィルムが特に好ましく用いられる。
【0023】
本発明のホットメルト接着フィルム積層体に用いられるキャリアフィルムの厚みに対するホットメルト接着フィルムの厚みの比が、0.2〜1.0であることが好ましく、0.25〜0.9であればより好ましく、0.3〜0.8であればさらに好ましいる。ここでキャリアフィルムの厚みとは、キャリアフィルムが片面に積層されている場合は片面のキャリアフィリムの厚みをそのまま表すが、両面に積層されている場合は両面に積層されたキャリアフィリムの厚みの合計を表すものとする。厚みの比が1.0より大きい場合、精密打抜き加工を行なう際、切断面のホットメルト接着フィルムが占める割合が大きくなり、その結果、パンチおよび/またはダイの側面にホットメルト接着剤組成物が付着してしまう場合が有る。0.2未満の場合は、パンチおよび/またはダイの側面にホットメルト接着剤組成物が付着することはないが、キャリアとして用いる場合、経済的に不利である。0.2〜1.0であると、パンチおよび/またはダイの側面にホットメルト接着剤組成物が付着することなく、また経済的であり好ましい。
【0024】
本発明のホットメルト接着フィルム積層体の製造方法は、特に限定されないが、製膜性や二次加工適性を付与させる目的で予めホットメルト接着剤組成物を、融点以上の温度で溶融状態にし、スリットダイを介して、予め準備されたプラスチックフィルムからなるキャリアフィルムの上に塗布し、冷却固化させる方法、ホットメルト接着剤組成物を有機溶剤に溶解した塗布液を作成し、予め準備されたプラスチックフィルムからなるキャリアフィルムの上に塗布し、乾燥して、塗膜とすることで形成することができる。
【0025】
前記塗布液の塗布方法は特に限定されないが、グラビアコート法、リバースコート法、キスコート法、ダイコート法、およびバーコート法などの方法を用いることができる。なお、塗布液濃度、塗膜乾燥条件または、塗膜の冷却条件は特に限定されるものではないが、塗膜乾燥条件は基材の諸特性に悪影響を及ぼさない範囲で行なうことが望ましい。
【0026】
また、本発明のホットメルト接着フィルム積層体においてホットメルト接着フィルムは、上記塗布液で予め膜状物を作り、それを予め準備されたプラスチックフィルムからなるキャリアフィルムに貼着することで形成することができる。貼着する場合は、シリコーン系樹脂フィルム等の離型フィルムに塗布液を塗工し、基材に転写する方法が採用される。
【実施例】
【0027】
以下に本発明を実施例により具体的に説明を行なうが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
(実施例1)
〔ホットメルト接着剤組成物の準備〕
表1に示す組成の質量平均分子量30,000の飽和ポリエステル樹脂100質量部に質量平均分子量100,000の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂10質量部とγーグリシドキシプロピルトリメトキシシラン1質量部よりなるホットメルト接着剤組成物Aを用意し、Bohlin社製レオメーター「GEMINI 200HR NANO」を用いて、20mmφのコーンプレート、GAPサイズ1.0mm、振幅掃引、周波数1Hz、応力オートモードで動的粘弾性測定を行い、5℃から5℃毎に、150℃までの温度領域の貯蔵弾性率(G’)、および損失弾性率(G”)を測定し、図1のグラフを得た。
【0028】
【表1】

【0029】
〔ホットメルト接着フィルム積層体の作成方法〕
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム“ルミラー”(登録商標)(タイプS10)38μm(東レ(株)製)の一方の面にシリコーン離型剤を塗布乾燥した離型フィルムをキャリアフィルムとした。また塗布液として、表1に示す組成のホットメルト接着剤組成物Aをトルエン/MEK(メチルエチルケトン)=4/1(質量比)に溶解した42質量%の溶液を用意した。この塗布液をコンマコーターにてキャリアフィルムの片面に67g/m塗布し、120℃で5分間乾燥してPET基材の片面にホットメルト層を有するホットメルト接着フィルム積層体A−1を得た。ホットメルト接着フィルム層の厚さは20μmであった。
〔打抜き加工方法〕
UHP(株)製パンチングマシンFP−1213を用い、サイズが4.100mm×1.500mm、R=0.040mmのパンチと、サイズが4.110mm×1.510mmのダイを用いてホットメルト接着フィルム積層体A−1に4.100mm×1.500mmのサイズの打抜き加工を3mmピッチで横移動させながら毎分100ショットの速度で2000個の穴打抜き加工を行ない、加工後のパンチおよびダイに付着したホットメルト接着剤組成物の付着および打抜き加工した試験片の異物付着状態を観察し、得られた結果を表2に示した。
〔接着力測定方法〕
作成した試験片からキャリアフィルムを剥離し、ホットメルト接着フィルムと、2枚のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム“ルミラー”(登録商標)(タイプS10)50μm(東レ(株)製)が、PET/ホットメルト接着フィルム/PETの順になるように重ね合わせ、温度150℃、圧力0.2MPa、シール時間2秒の条件でヒートシールを行ない、接着力測定用試験片を作成した。
次いで、接着力測定用試験片を23℃の恒温室に1時間放置後、島津製作所製オートグラフを用いて、2つのPETフィルムをつまみ剥離角度180度、剥離速度50mm/分の条件で接着力測定を行い、3N/cm以上の接着力があるものを「○」とし、3N/cm未満の接着力のものを「×」と判定した。
(実施例2)
塗布液をキャリアフィルムの片面に100g/m塗布し、120℃で120秒乾燥した以外は実施例1と同様にしてPET基材の片面に30μmのホットメルト接着剤組成物Aを有するホットメルト接着フィルム積層体A−2を作成し、実施例1と同様の評価を行った。
(実施例3)
ホットメルト接着剤組成物Aのテレフタル酸成分を65モル%、セバシン酸成分を5モル%に替え、質量平均分子量28,000とし、図2に示す貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G”)であるホットメルト接着剤組成物Bを得た。実施例1のホットメルト接着剤組成物Aをこのホットメルト接着剤組成物Bに代え、実施例1と同様にホットメルト接着フィルム積層体B−1を作成し、同様の評価を行なった。
(実施例4)
ホットメルト接着剤組成物A100質量部に対し、無機充填剤として酸化チタンを3質量部を加え、図3に示す貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G”)であるホットメルト接着剤組成物Cを得た。実施例1のホットメルト接着剤組成物Aをこのホットメルト接着剤組成物Cに代え、実施例1と同様にホットメルト接着フィルム積層体C−1を作成し、同様の評価を行なった。
(実施例5)
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム“ルミラー”(登録商標)(タイプS10)38μm(東レ(株)製)の一方の面にシリコーン離型剤を塗布乾燥した離型フィルムをキャリアフィルムとした。このキャリアフィルム上に230℃で溶融したホットメルト接着剤組成物Aを押し出して45μm厚さのホットメルト接着フィルム層を形成し、更にポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム“ルミラー”(登録商標)(タイプE20)100μm(東レ(株)製)とラミネートを行い、ホットメルト接着フィルムホットメルト接着フィルム積層体A−3を作成し、実施例1と同様の評価を行なった。
(比較例1)
実施例1のホットメルト接着剤組成物Aのテレフタル酸成分を85モル%、アジピン酸成分を20モル%、セバシン酸成分を0モル%に替え、質量平均分子量100,000とし、図4に示す貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G”)であるホットメルト接着剤組成物Dを得た。実施例1のホットメルト接着剤組成物Aをこのホットメルト接着剤組成物Dに代え、実施例1と同様にホットメルト接着フィルム積層体D−1を作成し、同様の評価を行なった。
(比較例2)
実施例1と同法でキャリアフィルムの片面に180g/m塗布し、120℃で5分間乾燥してPET基材の片面に55μmのホットメルト接着剤組成物Aを有するホットメルト接着フィルム積層体A−4を作成し、実施例1と同様の評価を行った。
(比較例3)
実施例5と同法で100μmのPET基材の片面に60μmのホットメルト接着剤組成物Aを有するホットメルト接着フィルム積層体A−5を作成し、実施例1と同様の評価を行った。
(比較例4)
実施例1のホットメルト接着剤組成物Aを図5に示す貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G”)であるホットメルト接着剤組成物Eに代え、実施例1と同様にホットメルト接着フィルム積層体E−1を作成し、同様の評価を行なった。
【0030】
【表2】

【0031】
表2から明らかなとおり、実施例1〜5に示すホットメルト接着フィルム積層体はいずれもパンチおよびダイの側面にホットメルト接着剤組成物が付着することなく、また試験片を汚すことなく連続して打抜き加工をすることができ、且つ、十分な接着力を有している。これに対し、比較例1〜3に示すホットメルト接着フィルム積層体は、パンチおよびダイの側面にホットメルト接着剤組成物が付着してしまったり、試験片を汚してしまったりした。比較例4は、打抜き加工においては、実施例と同様の良好な結果を得ることができたが、被着体に対する十分な接着力を保持することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飽和ポリエステル樹脂を含む、10℃から40℃の温度領域における貯蔵弾性率(G’)が、1×10〜1×1010Pa、且つ、100℃〜150℃の温度領域における損失弾性率(G”)が1×10〜1×10Paであるホットメルト接着剤組成物からなる、厚さが5〜50μmであるホットメルト接着フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載のホットメルト接着フィルムの片面、または両面にヤング率が2〜15GPa以上であるプラスチックフィルムよりなるキャリアフィルムを積層したことを特徴とするホットメルト接着フィルム積層体。
【請求項3】
キャリアフィルムの厚みに対するホットメルト接着フィルムの厚みの比が、0.2〜1.0であることを特徴とする請求項2に記載のホットメルト接着フィルム積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−72009(P2013−72009A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212112(P2011−212112)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】