ホルムアルデヒド検出方法及び検出装置
【課題】液体クロマトグラフィの感度及び選択性と、検体ガスを吸引する際の反応による光学的性質の変化の程度から検知及び濃度の測定する方法である検知菅に匹敵する簡便さを併せ持ったホルムアルデヒドガス直接測定するための装置の実現を目指す。
【解決手段】光導波路を用いてホルムアルデヒドを検出する方法であって、ホルムアルデヒドとの反応により呈色または発光する検出試薬を含む薄膜を透明基板の上に塗布した後、透明基板と検出試薬の薄膜全体を光導波路として機能させ、さらにホルムアルデヒドを含む気体に透明基板上の薄膜を曝露させ後、光源からの光を該透明基板と薄膜の断面において導波条件を満たす入射角度で導入し、薄膜中の検出試薬とホルムアルデヒドの生成物の光吸収による伝播損失または発光特性を検出することにより、気体中のホルムアルデヒドの濃度を検出することを特徴とするホルムアルデヒド検出方法。
【解決手段】光導波路を用いてホルムアルデヒドを検出する方法であって、ホルムアルデヒドとの反応により呈色または発光する検出試薬を含む薄膜を透明基板の上に塗布した後、透明基板と検出試薬の薄膜全体を光導波路として機能させ、さらにホルムアルデヒドを含む気体に透明基板上の薄膜を曝露させ後、光源からの光を該透明基板と薄膜の断面において導波条件を満たす入射角度で導入し、薄膜中の検出試薬とホルムアルデヒドの生成物の光吸収による伝播損失または発光特性を検出することにより、気体中のホルムアルデヒドの濃度を検出することを特徴とするホルムアルデヒド検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路の手法を用いて大気中のホルムアルデヒドを検出する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
(光学的特性を利用した方法)
従来、ホルムアルデヒドを検出する手法として、赤外光吸収を利用した方法がある。ホルムアルデヒドを含むケトン・アルデヒド類はC=O結合が波数1765〜1645cm-1に強い赤外光吸収を示す。この波数領域での吸収の程度を検出することにより、ケトン・アルデヒド類を検出することができる。
しかし、ケトン・アルデヒド類の混合ガスの分析において、この波数領域でのC=O結合に由来する吸収は、全てのケトン・アルデヒド類に共通なので、ホルムアルデヒドについてのみ信号分離することは困難であるという問題がある。したがって、この手法はホルムアルデヒドのみの検出には適用できない。
【0003】
(化学反応を利用した方法)
化学反応を利用した方法の多くは、アルデヒド類とアミン類との反応や、アルデヒド類の強い酸化力を利用したものが多い。それらの反応による生成物を直接的又は間接的に検出することにより、ホルムアルデヒドを検出するものである。
反応試薬として、フクシン亜硫酸類、アゾベンゼン-p-フェニルヒドラジン-スルホン酸(APHS)、4-アミノ-3-ペンテン-2-オン(フルオラル-P)等が知られる(非特許文献1参照)。但し、特定のケトン・アルデヒド類と反応試薬の組み合わせが存在するので、検出対象のケトン・アルデヒド類に合わせて使い分けられている。
これらの中で、ホルムアルデヒドの検出については、特にフルオラル-Pとその類似試薬がその選択性と感度に優れている。
【0004】
これらの反応試薬を利用した検出方法は、検体ガスを溶液に捕集し、その溶液中のケトン・アルデヒド類と反応試薬とによって、反応による生成物の呈色や発光の程度を、高速液体クロマトグラフィを用いて検出する方法、あるいは検出試薬をカラムに詰め、これに所定の量の検体ガスを吸引する際の反応による呈色の程度から検知及び濃度の測定する方法(検知菅)などが知られている。
しかし、前者のクロマトグラフィを用いる方法は感度及び選択性は優れているが、操作が煩雑であるという欠点があり、また後者の検知菅を用いる方法は簡便ではあるが、検知精度が劣るという問題があり、実用的ではないという欠点があった。
また、複合光導波路を用いたアンモニア等のセンサーが提案されている(非特許文献2、3参照)。しかし、これらは複合光導波路の製作プロセスが複雑であり、またプリズムを使用しなければならないので、実用性に欠けるという問題があった。
【非特許文献1】Analytica Chimica Acta 199(1980)349-357
【非特許文献2】電気化学および工業物理化学(Electrochemistry)「高感度複合導波路のアンモニアセンサへの応用」69,No.11(2001)p.863-865
【非特許文献3】Applied Spectroscopy“Analysis and Application of the TransmissionSpectrum of a Composite Optical wavegide”56,No.9(2002)p.1221-1227
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、液体クロマトグラフィの感度及び選択性と、検体ガスを吸引する際の反応による呈色の程度から検知及び濃度の測定する方法である検知菅に匹敵する簡便さを併せ持ったホルムアルデヒドガス直接測定するための装置の実現を目指すものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は、上記の課題を解決することを目的とし、次の発明を提供する。
(1)光導波路を用いてホルムアルデヒドを検出する方法であって、ホルムアルデヒドとの反応により呈色または発光する検出試薬を含む薄膜を透明基板の上に形成した後、透明基板と検出試薬の薄膜全体を光導波路として機能させ、さらにホルムアルデヒドを含む気体に透明基板上の薄膜を曝露させ後、光源からの光を該透明基板と薄膜の断面において導波条件を満たす入射角度で導入し、液膜中の検出試薬とホルムアルデヒドの生成物の光吸収による伝播損失または発光強度を検出することにより、気体中のホルムアルデヒドの濃度を検出することを特徴とするホルムアルデヒド検出方法
【0007】
さらに、本願は、次の発明を提供する。
(2)光導波路を用いてホルムアルデヒドを検出する装置であって、透明基板と、該透明基板上に形成したホルムアルデヒドとの反応により呈色する検出試薬を含む薄膜と、光を透明基板と薄膜の断面において導波条件を満たす入射角度で導入する光源と、薄膜におけるホルムアルデヒドと検出試薬との生成物の光吸収による光伝播損失を検出する装置とを備えていることを特徴とするホルムアルデヒドの大気中の濃度を検出する検出装置
【発明の効果】
【0008】
以上の光導波路を用いてホルムアルデヒドを検出する装置を用いることにより、本願発明は、液体クロマトグラフィの感度及び選択性と、検知菅を使用するという検体ガスを吸引する際の反応による呈色の程度から検知及び濃度の測定する方法に匹敵する簡便さとを併せ持った、ホルムアルデヒドガス直接測定することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を、図等を用いて具体的に説明する。なお、以下の説明は、本願発明の理解を容易にするためのものであり、これに制限されるものではない。すなわち、本願発明の技術思想に基づく変形、実施態様、他の例は、本願発明に含まれるものである。
【0010】
図1に本願発明の装置に使用する光導波路の模式図を示す。基本的にはこの図1に示す構造を備えているだけで良い。この図1に示す通り、薄い透明基板1の上に、ホルムアルデヒドとの反応により呈色する検出試薬を含む薄膜2を形成したものである。透明基板1と検出試薬の薄膜2全体が光導波路3として機能する。ホルムアルデヒドとの反応により呈色する検出試薬としては、ホルムアルデヒドとの選択性と検出感度に優れた4-アミノ-3-ペンテン-2-オン(フルオラル-P)及びその類似試薬である4-アミノ-4-フェニル-3ブテン-2-オン等を使用することができる。
透明基板1上の薄膜2部分をホルムアルデヒド雰囲気に暴露すると、ホルムアルデヒドは気相から薄膜内部へ侵入し、そのとき検出試薬と反応する。生成物を透明基板1と薄膜2を導波する光を用いて光学的に検出する。
【実施例】
【0011】
次に、本発明の実施例を説明する。これは本願発明の理解を容易にするためのものであり、これらに制限されるものではないことを知るべきである。すなわち、本願発明の技術思想に基づく変形、他の実施例又は態様等は、本願発明に全て含まれるものである。
【0012】
(吸収特性を利用した方法)
始めに吸収特性を利用した方法を示す。光源からの光は透明基板1の断面で導波条件を満たす入射角度で導入される。導波光は透明基板1及び検出試薬膜2中を、透明基板/大気界面又は呈色試薬膜/大気界面で全反射しつつ透明基板1及び検出試薬膜2を通り、もう一方の基板の断面へ到達する。
このとき、薄膜2でホルムアルデヒドと検出試薬との生成物の光吸収による伝播損失の程度を検出することによりホルムアルデヒドの大気中の濃度を間接的に見積もることができる。
【0013】
検出試薬としてホルムアルデヒドとの選択性と検出感度に優れたフルオラル-Pを用いた。図2に示すように、フルオラル-PはホルムアルデヒドとHantzszch反応と呼ばれる反応により、黄色に呈色するルチジン誘導体を生成する。このルチジン誘導体を検出することにより、ホルムアルデヒドを間接的に検出することができる。
【0014】
基板として24×24×0.18 mm3のソーダガラス板(カバーグラスとして市販されているもの、屈折率n = 1.512)を用いた。紫外線硬化性シリコンエラストマ(Gelest Zipcone UE、屈折率n = 1.470)にフルオラル-Pに加え、それをガラス基板上に塗布した。そして、この塗膜に、高圧水銀灯下で紫外線を照射し、液膜の液の粘度を調整した。基板上に形成された液膜を検出用の薄膜として用いた。
【0015】
ルチジン誘導体は、図3の吸収スペクトルに示されるように、410 nmに光吸収ピークを持つことから、生成物の光吸収を測定するための光源として波長408 nmの半導体レーザーを用いた。レザービームを基板断面へ入射角45度で導入し、導波路を伝播してもう一方の断面到達した光の強度を、フォトダイオードを用いて測定した。
【0016】
図4および図5はホルムアルデヒドガスに対する応答性を示す。図4は1 ppmのホルムアルデヒドガス中で1分間の暴露に対する応答性を示し、1分間の暴露と約9分間の静置とを4回繰り返し、曝露されるごとに透過光強度が減少する様子が示されている。図5は伝播光強度の変化を示す。
【0017】
ホルムアルデヒドは暴露時間と濃度に比例して液膜中に溶け込み、そこでフルオラル-Pと反応し、ルチジン誘導体を生成すると仮定すると、液膜中のルチジン誘導体の濃度c、曝露時間をt、ホルムアルデヒドガスの濃度をC、測定前の透過光強度をI’0、反応後の透過光強度をI、吸収係数をε、全吸収をA、基板と反応前の液膜の吸収をA0とするとき、これらの量の関係がランバート・ベールの法則に従うとすると、次式(1)のように書ける。
【数1】
【0018】
ホルムアルデヒドの濃度を測定するためには、予め校正用ホルムアルデヒドガスによりεを決定し、その後検体ガスの測定を行う。εと(1)式と曝露時間tと透過光強度I’0とIとから、検体ガス中のホルムアルデヒド濃度を見積もることができる。本例ではε= 6.39 min.ppmであった。図6は濃度と伝播光強度の関係を示し、また図7は曝露時間と濃度の積と伝播光強度の関係を示す図である。図4、図5及び図6の直線は、前記式のεに基づくものである。
このように、液膜中の検出試薬とホルムアルデヒドの生成物の光吸収による伝播損失を検出することにより、気体中のホルムアルデヒドの濃度を容易に検出することができる。
【0019】
(発光特性を利用した方法)
次に、蛍光特性を利用した方法を示す。図8は408 nmの励起光によって発光するルチジン誘導体の蛍光スペクトルに示し、そのピーク波長は510 nmである。ガラス基板上に作製したフルオラル-P膜が検体ガスに曝露されるとき、膜中に溶け込むホルムアルデヒドとフルオラル-Pとの反応によって生じるルチジン誘導体の濃度を、ルチジン誘導体が発する蛍光強度を測定することにより、間接的に検体ガス中のホルムアルデヒドの濃度を見積もる方法である。
【0020】
24×24×0.18 mm3のソーダガラス基板上に作製したフルオラル-P液膜を作成したものを光導波路として用いた。作製方法は吸収特性を利用した方法に示したものと同じものである。図9は蛍光特性を利用した方法に用いた装置の模式図を示す。半導体レーザーから導波路断面に励起光を導入し、導波路中を伝播する光は膜中のルチジン誘導体を励起し、ルチジン誘導体は発光する。この発光強度をフォトダイオードにより測定した。
【0021】
ホルムアルデヒドとフルオラル-Pとの反応によって生じる膜中のルチジン誘導体の濃度をc、吸収係数ε、導波光と検出器との距離をd、検出器の位置をx0 = L/2、検出器で観測される蛍光強度をIfとする。検出器の有効受光面に進入する光の強度と検出器が示す測定値との間の比例定数βを用いてIfは次式(2)で現すことができる。
【数2】
この式(2)の右辺の積分の解析解を得ることは困難なので、次式(3)
【数3】
により近似すると、次式(4)と書ける。
【数4】
【0022】
測定前の膜中のルチジン濃度をc0、検体ガスの膜への曝露時間t、検体ガス中のホルムアルデヒドの濃度をCとする。また、tとCとの積が膜中のルチジン誘導体の濃度に比例するときの比例定数をαとすると、次式(5)の関係となる。
【数5】
【0023】
検体ガス中のホルムアルデヒド濃度を測定する場合、予め標準ガスによる校正によりα、β、c0/εを決定する。その後、時間tの間に検体ガスを膜に曝露し、暴露前後で蛍光強度Ifを測定する。tとIfと式(2)からホルムアルデヒドの濃度を見積もることができる。図10は1.5 ppmのホルムアルデヒドガスに1分間曝露し9分間静し。これを4回繰り返したときの蛍光強度の変化を示す。本例ではd = 5.0 mm, L = 24.0 mmであり、次式(6)となる。
【数6】
図11は曝露時間と静置後の発光強度の関係を示す。本例ではα= 0.0138、β= 776.8、c0/ε = 0.0234であった。図中の曲線はこれら値に基づくものである。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の光導波路を用いてホルムアルデヒドを検出する方法及び装置を使用することにより、感度及び選択性が良好であり、かつ簡便に測定するために、ホルムアルデヒドガスの検出手段として直接極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】検出試薬を含む薄膜と透明基板からなる光導波路の模式図である。
【図2】フルオラル−Pとホルムアルデヒドの反応スキームを示す説明図である。
【図3】ルチジン誘導体の吸収スペクトルを示す図である。
【図4】伝播光強度の変化を示す図である。
【図5】積算時間に対する伝播光強度の変化を示す図である。
【図6】濃度と伝播光強度の関係を示す図である。
【図7】曝露時間と濃度の積と伝播光強度の関係を示す図である。
【図8】ルチジン誘導体の発光スペクトルを示す図である。
【図9】蛍光強度測定に用いた導波路の模式図である。
【図10】蛍光光度の変化を示す図である。
【図11】ホルムアルデヒドガス濃度と曝露時間の積と蛍光強度の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1:透明基板
2:検出試薬を含む薄膜
3:光導波路
4:光源
5:検出器
6:導波光
7:蛍光
8:データ記録装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路の手法を用いて大気中のホルムアルデヒドを検出する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
(光学的特性を利用した方法)
従来、ホルムアルデヒドを検出する手法として、赤外光吸収を利用した方法がある。ホルムアルデヒドを含むケトン・アルデヒド類はC=O結合が波数1765〜1645cm-1に強い赤外光吸収を示す。この波数領域での吸収の程度を検出することにより、ケトン・アルデヒド類を検出することができる。
しかし、ケトン・アルデヒド類の混合ガスの分析において、この波数領域でのC=O結合に由来する吸収は、全てのケトン・アルデヒド類に共通なので、ホルムアルデヒドについてのみ信号分離することは困難であるという問題がある。したがって、この手法はホルムアルデヒドのみの検出には適用できない。
【0003】
(化学反応を利用した方法)
化学反応を利用した方法の多くは、アルデヒド類とアミン類との反応や、アルデヒド類の強い酸化力を利用したものが多い。それらの反応による生成物を直接的又は間接的に検出することにより、ホルムアルデヒドを検出するものである。
反応試薬として、フクシン亜硫酸類、アゾベンゼン-p-フェニルヒドラジン-スルホン酸(APHS)、4-アミノ-3-ペンテン-2-オン(フルオラル-P)等が知られる(非特許文献1参照)。但し、特定のケトン・アルデヒド類と反応試薬の組み合わせが存在するので、検出対象のケトン・アルデヒド類に合わせて使い分けられている。
これらの中で、ホルムアルデヒドの検出については、特にフルオラル-Pとその類似試薬がその選択性と感度に優れている。
【0004】
これらの反応試薬を利用した検出方法は、検体ガスを溶液に捕集し、その溶液中のケトン・アルデヒド類と反応試薬とによって、反応による生成物の呈色や発光の程度を、高速液体クロマトグラフィを用いて検出する方法、あるいは検出試薬をカラムに詰め、これに所定の量の検体ガスを吸引する際の反応による呈色の程度から検知及び濃度の測定する方法(検知菅)などが知られている。
しかし、前者のクロマトグラフィを用いる方法は感度及び選択性は優れているが、操作が煩雑であるという欠点があり、また後者の検知菅を用いる方法は簡便ではあるが、検知精度が劣るという問題があり、実用的ではないという欠点があった。
また、複合光導波路を用いたアンモニア等のセンサーが提案されている(非特許文献2、3参照)。しかし、これらは複合光導波路の製作プロセスが複雑であり、またプリズムを使用しなければならないので、実用性に欠けるという問題があった。
【非特許文献1】Analytica Chimica Acta 199(1980)349-357
【非特許文献2】電気化学および工業物理化学(Electrochemistry)「高感度複合導波路のアンモニアセンサへの応用」69,No.11(2001)p.863-865
【非特許文献3】Applied Spectroscopy“Analysis and Application of the TransmissionSpectrum of a Composite Optical wavegide”56,No.9(2002)p.1221-1227
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、液体クロマトグラフィの感度及び選択性と、検体ガスを吸引する際の反応による呈色の程度から検知及び濃度の測定する方法である検知菅に匹敵する簡便さを併せ持ったホルムアルデヒドガス直接測定するための装置の実現を目指すものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は、上記の課題を解決することを目的とし、次の発明を提供する。
(1)光導波路を用いてホルムアルデヒドを検出する方法であって、ホルムアルデヒドとの反応により呈色または発光する検出試薬を含む薄膜を透明基板の上に形成した後、透明基板と検出試薬の薄膜全体を光導波路として機能させ、さらにホルムアルデヒドを含む気体に透明基板上の薄膜を曝露させ後、光源からの光を該透明基板と薄膜の断面において導波条件を満たす入射角度で導入し、液膜中の検出試薬とホルムアルデヒドの生成物の光吸収による伝播損失または発光強度を検出することにより、気体中のホルムアルデヒドの濃度を検出することを特徴とするホルムアルデヒド検出方法
【0007】
さらに、本願は、次の発明を提供する。
(2)光導波路を用いてホルムアルデヒドを検出する装置であって、透明基板と、該透明基板上に形成したホルムアルデヒドとの反応により呈色する検出試薬を含む薄膜と、光を透明基板と薄膜の断面において導波条件を満たす入射角度で導入する光源と、薄膜におけるホルムアルデヒドと検出試薬との生成物の光吸収による光伝播損失を検出する装置とを備えていることを特徴とするホルムアルデヒドの大気中の濃度を検出する検出装置
【発明の効果】
【0008】
以上の光導波路を用いてホルムアルデヒドを検出する装置を用いることにより、本願発明は、液体クロマトグラフィの感度及び選択性と、検知菅を使用するという検体ガスを吸引する際の反応による呈色の程度から検知及び濃度の測定する方法に匹敵する簡便さとを併せ持った、ホルムアルデヒドガス直接測定することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を、図等を用いて具体的に説明する。なお、以下の説明は、本願発明の理解を容易にするためのものであり、これに制限されるものではない。すなわち、本願発明の技術思想に基づく変形、実施態様、他の例は、本願発明に含まれるものである。
【0010】
図1に本願発明の装置に使用する光導波路の模式図を示す。基本的にはこの図1に示す構造を備えているだけで良い。この図1に示す通り、薄い透明基板1の上に、ホルムアルデヒドとの反応により呈色する検出試薬を含む薄膜2を形成したものである。透明基板1と検出試薬の薄膜2全体が光導波路3として機能する。ホルムアルデヒドとの反応により呈色する検出試薬としては、ホルムアルデヒドとの選択性と検出感度に優れた4-アミノ-3-ペンテン-2-オン(フルオラル-P)及びその類似試薬である4-アミノ-4-フェニル-3ブテン-2-オン等を使用することができる。
透明基板1上の薄膜2部分をホルムアルデヒド雰囲気に暴露すると、ホルムアルデヒドは気相から薄膜内部へ侵入し、そのとき検出試薬と反応する。生成物を透明基板1と薄膜2を導波する光を用いて光学的に検出する。
【実施例】
【0011】
次に、本発明の実施例を説明する。これは本願発明の理解を容易にするためのものであり、これらに制限されるものではないことを知るべきである。すなわち、本願発明の技術思想に基づく変形、他の実施例又は態様等は、本願発明に全て含まれるものである。
【0012】
(吸収特性を利用した方法)
始めに吸収特性を利用した方法を示す。光源からの光は透明基板1の断面で導波条件を満たす入射角度で導入される。導波光は透明基板1及び検出試薬膜2中を、透明基板/大気界面又は呈色試薬膜/大気界面で全反射しつつ透明基板1及び検出試薬膜2を通り、もう一方の基板の断面へ到達する。
このとき、薄膜2でホルムアルデヒドと検出試薬との生成物の光吸収による伝播損失の程度を検出することによりホルムアルデヒドの大気中の濃度を間接的に見積もることができる。
【0013】
検出試薬としてホルムアルデヒドとの選択性と検出感度に優れたフルオラル-Pを用いた。図2に示すように、フルオラル-PはホルムアルデヒドとHantzszch反応と呼ばれる反応により、黄色に呈色するルチジン誘導体を生成する。このルチジン誘導体を検出することにより、ホルムアルデヒドを間接的に検出することができる。
【0014】
基板として24×24×0.18 mm3のソーダガラス板(カバーグラスとして市販されているもの、屈折率n = 1.512)を用いた。紫外線硬化性シリコンエラストマ(Gelest Zipcone UE、屈折率n = 1.470)にフルオラル-Pに加え、それをガラス基板上に塗布した。そして、この塗膜に、高圧水銀灯下で紫外線を照射し、液膜の液の粘度を調整した。基板上に形成された液膜を検出用の薄膜として用いた。
【0015】
ルチジン誘導体は、図3の吸収スペクトルに示されるように、410 nmに光吸収ピークを持つことから、生成物の光吸収を測定するための光源として波長408 nmの半導体レーザーを用いた。レザービームを基板断面へ入射角45度で導入し、導波路を伝播してもう一方の断面到達した光の強度を、フォトダイオードを用いて測定した。
【0016】
図4および図5はホルムアルデヒドガスに対する応答性を示す。図4は1 ppmのホルムアルデヒドガス中で1分間の暴露に対する応答性を示し、1分間の暴露と約9分間の静置とを4回繰り返し、曝露されるごとに透過光強度が減少する様子が示されている。図5は伝播光強度の変化を示す。
【0017】
ホルムアルデヒドは暴露時間と濃度に比例して液膜中に溶け込み、そこでフルオラル-Pと反応し、ルチジン誘導体を生成すると仮定すると、液膜中のルチジン誘導体の濃度c、曝露時間をt、ホルムアルデヒドガスの濃度をC、測定前の透過光強度をI’0、反応後の透過光強度をI、吸収係数をε、全吸収をA、基板と反応前の液膜の吸収をA0とするとき、これらの量の関係がランバート・ベールの法則に従うとすると、次式(1)のように書ける。
【数1】
【0018】
ホルムアルデヒドの濃度を測定するためには、予め校正用ホルムアルデヒドガスによりεを決定し、その後検体ガスの測定を行う。εと(1)式と曝露時間tと透過光強度I’0とIとから、検体ガス中のホルムアルデヒド濃度を見積もることができる。本例ではε= 6.39 min.ppmであった。図6は濃度と伝播光強度の関係を示し、また図7は曝露時間と濃度の積と伝播光強度の関係を示す図である。図4、図5及び図6の直線は、前記式のεに基づくものである。
このように、液膜中の検出試薬とホルムアルデヒドの生成物の光吸収による伝播損失を検出することにより、気体中のホルムアルデヒドの濃度を容易に検出することができる。
【0019】
(発光特性を利用した方法)
次に、蛍光特性を利用した方法を示す。図8は408 nmの励起光によって発光するルチジン誘導体の蛍光スペクトルに示し、そのピーク波長は510 nmである。ガラス基板上に作製したフルオラル-P膜が検体ガスに曝露されるとき、膜中に溶け込むホルムアルデヒドとフルオラル-Pとの反応によって生じるルチジン誘導体の濃度を、ルチジン誘導体が発する蛍光強度を測定することにより、間接的に検体ガス中のホルムアルデヒドの濃度を見積もる方法である。
【0020】
24×24×0.18 mm3のソーダガラス基板上に作製したフルオラル-P液膜を作成したものを光導波路として用いた。作製方法は吸収特性を利用した方法に示したものと同じものである。図9は蛍光特性を利用した方法に用いた装置の模式図を示す。半導体レーザーから導波路断面に励起光を導入し、導波路中を伝播する光は膜中のルチジン誘導体を励起し、ルチジン誘導体は発光する。この発光強度をフォトダイオードにより測定した。
【0021】
ホルムアルデヒドとフルオラル-Pとの反応によって生じる膜中のルチジン誘導体の濃度をc、吸収係数ε、導波光と検出器との距離をd、検出器の位置をx0 = L/2、検出器で観測される蛍光強度をIfとする。検出器の有効受光面に進入する光の強度と検出器が示す測定値との間の比例定数βを用いてIfは次式(2)で現すことができる。
【数2】
この式(2)の右辺の積分の解析解を得ることは困難なので、次式(3)
【数3】
により近似すると、次式(4)と書ける。
【数4】
【0022】
測定前の膜中のルチジン濃度をc0、検体ガスの膜への曝露時間t、検体ガス中のホルムアルデヒドの濃度をCとする。また、tとCとの積が膜中のルチジン誘導体の濃度に比例するときの比例定数をαとすると、次式(5)の関係となる。
【数5】
【0023】
検体ガス中のホルムアルデヒド濃度を測定する場合、予め標準ガスによる校正によりα、β、c0/εを決定する。その後、時間tの間に検体ガスを膜に曝露し、暴露前後で蛍光強度Ifを測定する。tとIfと式(2)からホルムアルデヒドの濃度を見積もることができる。図10は1.5 ppmのホルムアルデヒドガスに1分間曝露し9分間静し。これを4回繰り返したときの蛍光強度の変化を示す。本例ではd = 5.0 mm, L = 24.0 mmであり、次式(6)となる。
【数6】
図11は曝露時間と静置後の発光強度の関係を示す。本例ではα= 0.0138、β= 776.8、c0/ε = 0.0234であった。図中の曲線はこれら値に基づくものである。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の光導波路を用いてホルムアルデヒドを検出する方法及び装置を使用することにより、感度及び選択性が良好であり、かつ簡便に測定するために、ホルムアルデヒドガスの検出手段として直接極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】検出試薬を含む薄膜と透明基板からなる光導波路の模式図である。
【図2】フルオラル−Pとホルムアルデヒドの反応スキームを示す説明図である。
【図3】ルチジン誘導体の吸収スペクトルを示す図である。
【図4】伝播光強度の変化を示す図である。
【図5】積算時間に対する伝播光強度の変化を示す図である。
【図6】濃度と伝播光強度の関係を示す図である。
【図7】曝露時間と濃度の積と伝播光強度の関係を示す図である。
【図8】ルチジン誘導体の発光スペクトルを示す図である。
【図9】蛍光強度測定に用いた導波路の模式図である。
【図10】蛍光光度の変化を示す図である。
【図11】ホルムアルデヒドガス濃度と曝露時間の積と蛍光強度の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1:透明基板
2:検出試薬を含む薄膜
3:光導波路
4:光源
5:検出器
6:導波光
7:蛍光
8:データ記録装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光導波路を用いてホルムアルデヒドを検出する方法であって、ホルムアルデヒドとの反応により呈色または発光する検出試薬を含む薄膜を透明基板の上に塗布した後、透明基板と検出試薬の薄膜全体を光導波路として機能させ、さらにホルムアルデヒドを含む気体に透明基板上の薄膜を曝露させ後、光源からの光を該透明基板と薄膜の断面において導波条件を満たす入射角度で導入し、薄膜中の検出試薬とホルムアルデヒドの生成物の光吸収による伝播損失または発光特性を検出することにより、気体中のホルムアルデヒドの濃度を検出することを特徴とするホルムアルデヒド検出方法。
【請求項2】
光導波路を用いてホルムアルデヒドを検出する装置であって、透明基板と、該透明基板上に形成したホルムアルデヒドとの反応により呈色または発光する検出試薬を含む薄膜と、光を透明基板と薄膜の断面において導波条件を満たす入射角度で導入する光源と、薄膜におけるホルムアルデヒドと検出試薬との生成物の光吸収による光伝播損失または発光を検出する装置とを備えていることを特徴とするホルムアルデヒドの大気中の濃度を検出する検出装置。
【請求項1】
光導波路を用いてホルムアルデヒドを検出する方法であって、ホルムアルデヒドとの反応により呈色または発光する検出試薬を含む薄膜を透明基板の上に塗布した後、透明基板と検出試薬の薄膜全体を光導波路として機能させ、さらにホルムアルデヒドを含む気体に透明基板上の薄膜を曝露させ後、光源からの光を該透明基板と薄膜の断面において導波条件を満たす入射角度で導入し、薄膜中の検出試薬とホルムアルデヒドの生成物の光吸収による伝播損失または発光特性を検出することにより、気体中のホルムアルデヒドの濃度を検出することを特徴とするホルムアルデヒド検出方法。
【請求項2】
光導波路を用いてホルムアルデヒドを検出する装置であって、透明基板と、該透明基板上に形成したホルムアルデヒドとの反応により呈色または発光する検出試薬を含む薄膜と、光を透明基板と薄膜の断面において導波条件を満たす入射角度で導入する光源と、薄膜におけるホルムアルデヒドと検出試薬との生成物の光吸収による光伝播損失または発光を検出する装置とを備えていることを特徴とするホルムアルデヒドの大気中の濃度を検出する検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−275817(P2006−275817A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−96388(P2005−96388)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]