説明

ホログラフィックセンサを含む眼科装置

【課題】ホログラフィックセンサを含む眼科装置の提供。
【解決手段】本発明は、眼科装置であって、媒体、及び、上記媒体上に配置したホログラムを含むホログラフィック素子を有し、媒体物性が変化すると素子の光学特性が変化し、媒体と眼液中の検体との相互作用により変化が生じることを特徴とする装置に関する。本装置によりグルコース等の検体を検出可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラフィックセンサを含む眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ホログラフィック素子を含む例えばコンタクトレンズ等の眼科装置が知られている。一般的に、入射光に対する焦点合わせにホログラフィック素子を使用する。ホログラフィック素子は、二種以上の光学力を生じるように設定した作動角を有してよい。ホログラフィック素子により、使用者は明瞭かつ完全な像を見ることが可能であるため、従来の同時視力(simultaneous vision)及び翻訳レンズ(translating lenses)の不足点の多くを克服可能である。ホログラフィック光学挿入物について、例えば特許文献1〜4中に記載される。
【0003】
侵襲性が最小限で使用容易なグルコースセンサが必要であるために多数の研究調査が実施された。関心が集まる分野の一つに眼科グルコースセンサ(すなわち眼中のグルコースを検出するセンサ)がある。眼中グルコースレベルと血中グルコースレベルとは互いに関連することが知られており、従って、涙等の眼液中での測定により血中グルコースレベルを間接的に観察可能である。
【0004】
特許文献5中にグルコース検出用の眼科用挿入物が記載される。挿入物は、ヒドロゲル中に重合させた重合結晶コロイド配列(PCCA)、及び、グルコースに応答可能な分子認識要素を含む。配列の格子間隔がヒドロゲルの体積変化により変化し、これにより配列の回折波長が変化する。
【0005】
特許文献6には、体積ホログラムに基づくホログラフィックセンサが開示される。このセンサは、全体積に渉って光変換構造を含む検体感受性マトリックスを有する。この変換構造の物理的配列により、上記センサが発する光信号は、検体感受性マトリックスと検体とが相互作用又は反応した結果起こる検体感受性マトリックスの体積変化又は構造配列変化に対して非常に感度が高い。例えば、ゼラチンに基づくホログラフィック媒体を含むセンサでトリプシンを検出可能である。トリプシンはゼラチン媒体に影響を及ぼし、整合性のあるホログラフィック支持媒体の構造を不可逆的に破壊する。ホログラフィックセンサにより、例えばpH等の変化も検出可能である。
【0006】
特許文献7中に記載の種のセンサにより眼中グルコースレベルを検出可能であるが、グルコース等の検体を正確かつリアルタイムに検出可能な眼科用センサが依然として必要である。
【特許文献1】国際特許WO−A−99/34239号
【特許文献2】国際特許WO−A−99/34244号
【特許文献3】国際特許WO−A−02/054137号
【特許文献4】国際特許WO−A−99/34248号
【特許文献5】米国特許第A−2003/0027240号
【特許文献6】国際特許WO−A−95/26499号
【特許文献7】米国特許第A−2003/0027240号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明の要約
本発明は、コンタクトレンズ又は他の眼科装置に組み込んでホログラフィー感知技術により正確かつ最小限の侵襲性で眼科検体を検出する方法の提供という認識に基づく。この感知技術により、グルコース又は他の炭水化物の連続的かつリアルタイムの感知が可能であろう。従って本発明により、糖尿病患者の生活を改善可能であり、かつ、糖尿病患者の低血中グルコース又は高血中グルコース発症の危険性を低減可能である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様は、眼科装置であって、媒体、及び、上記媒体上に配置したホログラムを含むホログラフィック素子を有し、媒体物性が変化すると素子の光学特性が変化し、媒体と眼液中の検体との相互作用により変化が生じることを特徴とする装置である。装置はコンタクトレンズ又は眼科用インプラントであってよい。
【0009】
本発明の別の態様は、眼液中の検体の検出方法であって、目の中で液体と共に存在する本発明の装置のホログラフィック素子の光学特性におけるあらゆる変化の検出を含むことを特徴とする方法である。
【0010】
本発明の別の態様は、ホログラフィック素子とコンタクトレンズとの接触を含み、素子とレンズとの接触領域は架橋可能であって、この接触領域の架橋を含むことを特徴とする本発明の装置の製造方法である。接触領域の少なくとも一つはPVAを含むことが好ましく、ネルフィルコン(Nelfilcon)(商標)を含むことがより好ましい。
【0011】
本発明によりグルコース又は乳酸エステル等の眼科検体を検出可能である。好ましくは、相互作用は可逆的であって、相互作用及び逆相互作用の両方が生じることにより検体の、好ましくはリアルタイムの連続検出が可能である。相互作用は化学反応であることが好ましい。
【0012】
発明の説明
用語「グルコース」は本明細書中において環状グルコース及び線形グルコースを指す。
【0013】
用語「眼科装置」は本明細書中において、(ハード及びソフト)コンタクトレンズ、角膜アンレー(corneal onlay)、移植用眼科装置等を指す。
【0014】
用語「コンタクトレンズ」は本明細書中において、眼又は眼近辺で視力矯正、診断、サンプル収集、ドラッグデリバリー、創傷治癒、美容的外観又は他の眼科用途に使用するあらゆるハード及びソフトコンタクトレンズを指す。レンズは一日使い捨て用、一日装着用又は長期装着用のレンズであってよい。
【0015】
用語「移植用眼科装置」は本明細書中において、眼又は眼近辺で、又は、その上で、又は、その周囲で使用する眼科装置を指す。この装置には眼内レンズ、結膜下レンズ、角膜内レンズ、及び、眼嚢中に配置可能な外科用シャント/インプラント(例えばステント又は緑内障用シャント)が含まれる。
【0016】
好ましい一実施形態において、挿入物はコンタクトレンズの形である。レンズは従来公知の任意の好適な材料で製造可能である。レンズ材料は、一種以上のモノマー、及び、任意に一種以上のプレポリマーの重合により形成可能である。材料には光開始剤、視界染色剤、UV阻害剤及び/又は感光性物質が含まれてよい。
【0017】
レンズ材料の好ましい群は水溶性かつ/又は溶解可能なプレポリマーである。材料は、(例えば限外ろ過精製した)本質的に純粋な一種以上のプレポリマーを含むことが好ましい。好ましいプレポリマーには、水溶性架橋型ポリ(ビニルアルコール)プレポリマー(米国特許US5583163号及びUS6303687号中に記載);イソシアネート末端ポリウレタンとエチレン性不飽和アミン(第一級又は第二級アミン)又はエチレン性不飽和モノヒドロキシ化合物との反応により得られるビニル末端水溶性ポリウレタン(イソシアネート末端ポリウレタンは、少なくとも一種のポリアルキレングリコール、水酸基を少なくとも二つ含む化合物、及び、イソシアネート基を二つ以上含む少なくとも一種の化合物を共重合したものであってよい);ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン又はポリビニルアミンの誘導体(例えば米国特許US5849841号参照);米国特許US6479587号中に記載の水溶性架橋型ポリウレアプレポリマー;架橋型ポリアクリルアミド;欧州特許EP−A−0655470号及び米国特許US5712356号中に記載の、ビニルラクタム、MMA及びコモノマーの架橋型統計コポリマー;欧州特許EP−A−0712867号及び米国特許US5665840号中に記載の、ビニルラクタム、酢酸ビニル及びビニルアルコールの架橋型コポリマー;欧州特許EP−A−0932635号中に記載の、架橋型側鎖を有するポリエーテル−ポリエステルコポリマー;欧州特許EP−A−0958315号及び米国特許US6165408号中に記載の分岐ポリアルキレングリコール−ウレタンプレポリマー;欧州特許EP−A−0961941号及び米国特許US6221303号中に記載のポリアルキレングリコール−テトラ(メタ)アクリレートプレポリマー;並びに、国際特許WO−A−00/31150号中に記載の架橋型ポリアリルアミングルコノラクトンプレポリマーを含む。
【0018】
レンズはヒドロゲル材料を含んでよい。一般的に、ヒドロゲル材料は、完全水和時に水を少なくとも10重量%吸収可能な高分子材料である。ヒドロゲル材料はポリ(ビニルアルコール)(PVA)、改変PVA(例えばネルフィルコンA(商標))、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(カルボン酸)を有するPVA(例えばカーボポール)、ポリ(エチレングリコール)、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、シリコーン含有ヒドロゲル、ポリウレタン、ポリウレア等を含む。
【0019】
また、装置は移植用眼科装置であってもよい。涙中のグルコースレベルは血中グルコースレベルよりずっと低くてもよい。移植用眼科センサにより、涙中のグルコースレベルよりずっと高い可能性のある体液又は間質液中のグルコースレベルを観察可能である。装置は、結膜下インプラント、角膜内レンズ、ステント又は緑内障用シャントの形状であることが好ましい。
【0020】
ホログラフィック支持媒体は、ホログラムを内部に配置可能であり、本明細書中に記載の感知機構の特性の一種以上を示すことが可能である。ホログラムを支持媒体の一部又は全体の上に、又は、その中に配置可能である。特にコンタクトレンズの場合には、支持媒体は装置と一体であってよく、例えば、レンズ体自身がホログラフィック支持媒体を含んでよい、又は、形成してよい。
【0021】
支持媒体は、検体種との相互作用により変化する粘弾特性を有する未改変の又は改変したマトリックスを含むことが好ましい。例えばマトリックスは(メタ)アクリルアミド及び/又は(メタ)アクリレート由来のコモノマーの共重合により形成可能である。特にHEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)モノマーは容易に重合及び架橋可能である。HEMAポリマーは膨張可能かつ親水性で生体適合性が広いため、支持体材料として広く用いられる。
【0022】
ホログラフィック素子形成によりコンタクトレンズ型の装置を取得後にコンタクトレンズ中に素子を埋め込むことが好ましい。例えばコンタクトレンズセンサを次のプロトコルで取得可能である:
(a)スライドガラス等の表面上に重合性ホログラフィックセンサを(例えばボロン酸フェニルリガンドにより)形成する;
(b)センサ表面上にポリビニルアルコール(PVA)、好ましくは「ネルフィルコン(商標)」の層を被覆した後でこの層を架橋させる;
(c)被覆したセンサから(例えば、メタノール:水の1:1混合物を使用して40℃で一晩かけて)有毒成分を全て抽出した後、オートクレーブする;
(d)スライドグラスからセンサを除去し、これから直径約4mmのディスクを切り出す;並びに、
(e)コンタクトレンズ及びPVA、好ましくはネルフィルコン(商標)を入れたコンタクトレンズ型の中にディスクを挿入し、架橋させた後で成分をオートクレーブし、最終的なレンズを形成する。
【0023】
本発明で使用するホログラフィックセンサは一般的にホログラフィック支持媒体を含み、上記媒体全体にホログラムが配置されている。支持媒体と検体との相互作用により媒体の物性が変化してよい。この変化によりホログラフィック素子の光学特性(分極性、反射率、屈折率又は吸光度等)の変化が生じる。広帯域入射光である非電離電磁放射線を使用したホログラムの再生中に何か変化が生じると、例えば色又は強度の変化を観察可能である。
【0024】
国際特許WO−A−95/26499号、WO−A−99/63408号及びWO−A−03/087789号中に開示の方法でセンサを作製可能である。上記明細書の内容を本明細書中に参照する。
【0025】
ホログラフィック素子の上に、又は、その中に一種を超えるホログラムを支持可能である。ホログラムの光学特性が変化するとホログラムから発せられる放射線が変化するが、この変化を感知可能である。ホログラフィック素子を特定の大きさにして配置することより、独立する二つの事象/種を感知して、上記放射線を異なる二方向に同時に又は別々に放射可能である。ホログラフィック素子は整然と配置してもよい。
【0026】
非電離放射線(例えば可視光)の光源によりホログラフィック素子の光学特性変化を観察可能である。ホログラフィック媒体と検体種の相互作用の程度は、光学特性の変化(好ましくは非電離放射線の波長シフト)として検出される物性の変化の程度に反映される。
【0027】
変化するホログラフィック素子の特性は、電荷密度、体積、形、密度、粘度、強度、硬度、電荷、疎水度、膨張度、整合度、架橋密度等の任意の物性であってよい。上記各物性が変化すると、分極性、反射率、屈折率又は吸光度等のホログラフィック素子の光学特性が変化する。
【0028】
物性を変化させることにより光学特性を変化させる基本的な方法は多数ある。物性は、支持媒体体積が変化し、次にホログラフィック素子のホログラフィック縞が変化することが好ましい。この変化は、支持マトリックス中に特定の基を組み込み、検体との相互作用によりこれらの基の、例えば立体配座、電荷又は架橋度を変化させて、支持媒体を拡張又は縮小させることにより実施可能である。このような基の例としては、検体種と特異的に結合する共役基が挙げられる。上記以外に、活性水、溶媒又は支持媒体の電荷含量が変化する。この場合、ホログラフィック支持媒体はゲル状であることが好ましい。
【0029】
素子中の少なくとも二種の官能基と反応可能な検体分子が支持マトリックスの異なる部分間に可逆的架橋を形成して、支持マトリックスの粘弾特性を変化させてもよい。従って、溶媒を含む環境で支持マトリックスが変化すると、支持マトリックスが縮小して縞間隔が狭くなる。特異的な結合部位が媒体内に確実に提供されることにより特異性が付与される可能性がある。
【0030】
支持媒体は検体と特異的に結合又は相互作用可能な受容体を含んでもよい。好適な受容体は、抗体、レクチン、ホルモン受容体、薬物受容体、酵素、アプタマー、核酸、核酸類似体及びその断片を含む。
【0031】
従来公知の任意の好適な方法で受容体を支持媒体中へ組み込み可能である。例えば、プレポリマー及び受容体は一対の官能基を含んでもよい;この二種の成分は互いに共有結合で結合可能である。また、レンズ形成材料の成分であるビニルモノマー中に受容体を組み込み可能である。
【0032】
系の応答を決定するパラメータの一つは架橋度である。モノマー重合による架橋点の数が多過ぎると、ポリマーフィルムが硬くなり過ぎてポリマーと検体結合基との複合体形成が比較的少なくなるため、好ましくない。これにより支持媒体の膨張が妨げられる可能性がある。
【0033】
グルコースセンサの一例として、ヒドロゲルに基づくホログラムは、ペンダントグルコース基を含む支持媒体、及び、レクチン、好ましくはコンカナバリンA(conA)を有してよい。レクチンはペンダントグルコース基に結合してポリマー構造中で架橋として作用する。自由拡散可能なグルコースの存在下では、レクチン上の結合部位に由来するポリマー付着グルコースが溶液中のグルコースで置き換わるのに伴って架橋度が減少し、ポリマーが膨張するであろう。ペンダントグルコース基及びconAを含むヒドロゲルフィルムの体積変化を反射ホログラムにより観察可能である。ヒドロゲル体積変化によりホログラフィー構造の縞間隔が変化し、これに続いてスペクトル型の反射応答のピーク波長がシフトする可能性がある。
【0034】
水系ではレクチンが有機溶媒暴露から保護されるため、このようなホログラフィックセンサ中では水系が好ましい。好適なグルコース成分の例としては、高分子量デキストラン、並びに、モノマーであるアリルグルコシド及び2−グリコシルオキシエチルメタクリレート(GEMA)が挙げられる。本来重合可能でないデキストランをアクリルアミドに基づくモノマーの重合中に捕獲可能である;アリルグルコシド及びGEMAは個々に又はコモノマーと共に重合可能である。ガラス支持体上に薄膜状でポリマーを調製するのが好ましい。
【0035】
ホログラフィックグルコースセンサは任意の好適なグルコース受容体(特にグルコース結合に対する支持媒体の物性の可逆変化を可能にする受容体)を含んでもよい。例えば、支持媒体はフェニルボロン酸又はその誘導体等のペンダントボロン酸基を含んでもよい。グルコースの二つの隣接したジオール基は可逆的縮合反応中にボロン酸基と結合する。従って、ホログラフィック素子中において、グルコースとペンダントフェニルボロン酸基との反応によりボロン酸エステルが形成されて支持媒体が拡張する。理論上では、負に荷電したボロン酸エステルによりドナン電位(Donan potential)が発生し、支持媒体中に水が浸入すると考えられる。この拡張は最大反射率の長波長側へのシフトとして観察される。ボロン酸基の感知能力は分子の外面的形態、及び、ボロン酸基が存在する芳香族種に強く依存する。従って、血中グルコースについてはmM単位、また、涙中のグルコースについてはμM単位といったように親和性の様々なグルコース感受性プローブを作成可能である。好ましいボロン酸基は国際特許WO−A−04/081624号中に記載のものを含む。
【0036】
ボロン酸化合物、特にフェニルボロン酸化合物は様々な炭水化物の検出に使用可能であるために受容体としての用途が広い。生理液中において、大部分の糖は糖タンパク質及び他の巨大分子構造上に見られるため、すなわち、既に結合しているために支持媒体のホウ素基に結合不可能であることから、上記の選択性の不足は問題ではない。グルコースは比較的高濃度で遊離している唯一の糖である。しかし、乳酸エステル(乳酸)はα−ヒドロキシ酸であってボロン酸基に結合し、眼液中では概してグルコースより高濃度であるため、問題となる可能性がある。
【0037】
装置中に乳酸エステル防止用の基を組み込むことにより、乳酸エステルの妨害についての問題に対処可能である。生理液中において乳酸エステルは全体的に負電荷を帯びているため、例えば、支持媒体は負に荷電した基を有する可能性があり、その荷電度は当業者には明白であろう。このような基の一例はグリコール酸であり、これを、(例えばアクリルアミドグリコール酸を含む)モノマーの重合により支持媒体中に組み込み可能である。負電荷を有するグリコール酸部位はフェニルボロン酸部位を争ってグルコース及び乳酸エステルと競合するが、乳酸エステルは防止してもグルコースは防止しない。また、例えば好適な電子供与基を有するホウ素原子との配位結合により、ホウ素受容体自身が実質的に負電荷又は分極性を有する可能性がある。このようなボロン酸の一例は5−フルオロ−2−メチルアクリルアミドフェニルボロン酸である。あるいは、ボロン酸フェニル受容体のフェニル基への負荷電基の付着も挙げられる。ホログラフィック素子又は装置の表面が負に荷電していて乳酸エステルによる妨害の影響が減少してもよい。
【0038】
支持媒体中へのペンダントアミン基の組み込みによってもセンサのグルコース選択性を強化可能である。アミン基の窒素原子がホウ素原子と分子内結合を形成することによりホウ素原子周囲における高反応性の四面体コンホメーションの形成を促進可能である。
【0039】
支持媒体は、多様なイオン種と可逆的に結合するクラウンエーテル等の一種以上の大環状基を含んでもよい。クラウンエーテルはI群及びII群の金属イオンと可逆的に結合することが知られる。従って、イオン性の検体に特異的なクラウンエーテルを支持媒体中に固定して検体の存在を連続的に観察可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下の実施例により本発明を説明する。
【実施例1】
【0041】
上記プロトコルでコンタクトレンズを作成した。埋め込まれたホログラフィック素子は3−アクリルアミドフェニルボロン酸12モル%を含み、その合成は国際特許WO−A−04/081624号中に記載される。
【0042】
人間の志願者の目にレンズを入れ、グルコースボーラス44gを摂取させた。反射波長シフトについてコンタクトレンズセンサの応答を測定した。従来のグルコースセンサによる血中グルコースレベルの直接観察も実施した。
【0043】
図1はコンタクトレンズセンサの応答を示し、図2は血中グルコースセンサの応答を示す。二種のセンサの応答が類似しており、グルコースのピークレベルの吸収はt=約25分であることが分かる。
【実施例2】
【0044】
センサを含む眼科インプラントを使用して実施例1と同様の実験を実施した。支持媒体をネルフィルコン(商標)(チバビジョン社)で被覆した。
【0045】
人間の志願者の代わりにウサギの目の真下に装置を皮下移植して実験した。その後、キシラジンに基づくプロトコルによりウサギを麻酔し、血中グルコースレベルを糖尿病患者に一般的なレベルに上昇させた(Cameronら,Diabetes Technology & Therapeutics,2001,3,201−207参照)。その後、グルコース濃度をインプラントにより観察した。血中グルコース濃度も再び直接観察した。
【0046】
図3はホログラフィックインプラントの応答を示し、図4は血中グルコースセンサの応答を示す。実施例1と同様に二種のセンサの応答は類似する。
【実施例3】
【0047】
5−フルオロ−2−メチルアクリルアミドフェニルボロン酸(国際特許WO−A−04/081624号により合成)13モル%及びMBA3%をアクリルアミド中で共重合することによりホログラフィック支持媒体を形成した。その後、得た媒体中でホログラフィック画像を記録し、pH7.4かつ温度30℃においてPBS中のグルコースをセンサで検出した。同様の実験を実施して乳酸エステルに対するセンサの応答を試験した。
【0048】
結果を図5中に示す。ボロン酸フェニル受容体のホウ素原子に配位結合した酸素及び窒素に基づく電子供与基に起因して、グルコースに対する選択性が乳酸エステルに対する選択性を上回って改善された。これらの基によりホウ素原子周囲の負の変化が増大する。
【実施例4】
【0049】
3−アクリルアミドフェニルボロン酸12モル%、アクリルアミドグリコール酸12モル%及びアクリルアミド76モル%の重合により、2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(フリーラジカル開始剤)の2%(w/v)ジメチルスルホキシド溶液を使用して媒体を得た。媒体中でホログラムを記録し、得たセンサでグルコース及び乳酸エステルに対するその応答を試験した。
【0050】
結果を図6中に示す。酸性部位の負電荷によりポリマー媒体が顕著に膨潤し、アクリルアミドグリコール酸の存在により二種の検体に対するセンサの応答が減少した。しかしグリコール酸成分が負電荷を有していてグルコース結合に著しい影響を及ぼさずに乳酸エステルを防止するため、センサは乳酸エステルに対してよりもグルコースに対してより良好に応答した。
【実施例5】
【0051】
3−アクリルアミドフェニルボロン酸11.9モル%、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミド9.2モル%、メチレンビスアクリルアミド2.9モル%、及び、アクリルアミド76モル%をUV光に1時間露出させて共重合することにより支持媒体を形成した。酢酸溶液中の銀イオンが媒体中に拡散し、酸性溶液はアミン成分による銀の「霧化現象」を防げた。媒体中でホログラムを記録し、得たセンサでグルコース及び乳酸エステルに対するその応答を試験した。
【0052】
結果を図7中に示す。センサは乳酸エステルに対するよりもグルコースに対して選択性があった;乳酸エステルのピーク波長シフトは同濃度のグルコースのもののわずか約12%であった。また、波長シフトはグルコースについては負であるが、乳酸エステルの結合は正のシフトを示す。「バックグラウンド」(4mM)乳酸エステルの存在は、グルコースに対するセンサの応答に対して無視可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】コンタクトレンズセンサの応答を示す。
【図2】血中グルコースセンサの応答を示す。
【図3】ホログラフィックインプラントの応答を示す。
【図4】血中グルコースセンサの応答を示す。
【図5】実施例3の結果を示す。
【図6】実施例4の結果を示す。
【図7】実施例5の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科装置であって、
媒体、及び、前記媒体上に配置したホログラムを含むホログラフィック素子を有し、媒体物性が変化すると素子の光学特性が変化し、媒体と眼液中の検体との相互作用により変化が生じる
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
媒体はポリマーである
ことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
アクリルアミドを含むモノマーの重合により媒体を得る
ことを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項4】
ホログラフィック素子は銀を含まない
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
相互作用は化学反応である
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
反応は可逆的である
ことを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
検体はグルコースである
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
媒体はフェニルボロン酸基を含む
ことを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項9】
3−アクリルアミドフェニルボロン酸又は5−フルオロ−2−メタクリルアミドフェニルボロン酸を含むモノマーの重合により媒体を得る
ことを特徴とする請求項8に記載の装置。
【請求項10】
媒体は乳酸エステルを防止可能な基を含み、この基は実質上負の変化を含む
ことを特徴とする請求項8又は9に記載の装置。
【請求項11】
ボロン酸基のホウ素は実質上負の変化を有する
ことを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項12】
アクリルアミドグリコール酸を含むモノマーの重合により媒体を形成する
ことを特徴とする請求項10又は11に記載の装置。
【請求項13】
媒体はアミン基を含む
ことを特徴とする請求項7〜12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
コンタクトレンズである
ことを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
移植可能である
ことを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
眼液中の検体の検出方法であって、
目の中で液体と共に存在する請求項1〜15のいずれか1項に記載の装置のホログラフィック素子の光学特性におけるあらゆる変化の検出を含む
ことを特徴とする方法。
【請求項17】
ホログラフィック素子とコンタクトレンズとの接触を含み、素子とレンズとの接触領域は架橋可能であって、この接触領域の架橋を含む
ことを特徴とする請求項14に記載の装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−506999(P2007−506999A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−527481(P2006−527481)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【国際出願番号】PCT/GB2004/004093
【国際公開番号】WO2005/031442
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(504370977)スマート ホログラムズ リミテッド (12)
【出願人】(501023524)ケンブリッジ大学テクニカルサービスリミテッド (17)
【氏名又は名称原語表記】Cambridge University Technical Services Limited
【Fターム(参考)】