説明

ホログラム光学素子

【課題】観察画角の大きい映像表示装置やHMDおよびHUDに適用可能で、画面全体にわたって画質が良好で、明るい映像を観察させることが可能なHOEを提供する。
【解決手段】反射型で体積位相型のHOEは、面内の領域によって回折波長の半値幅が異なる。このようなHOEは、例えば、領域によって膜厚を異ならせる、あるいはHOEを作製するときの条件(例えば露光量、熱処理温度、熱処理時間)を領域によって異ならせることにより実現可能である。例えば、HOEの周辺部の半値幅を中心部よりも狭めることにより、HOEの中心部で正反射に近い入射・反射特性となるようにHOEを使用したときでも、HOEの周辺部を通る光に対する、HOEの色分散の影響を低減することができる。したがって、本発明のHOEは、画面周辺でのHOEの色分散の影響が無視できなくなるような、観察画角の大きい映像表示装置に好適となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射型で体積位相型のホログラム光学素子(以下、HOEとも称する)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
反射型で体積位相型のHOEは、その波長選択性・角度選択性により、特定の波長領域の光束のみを任意の方向に導くことが可能であることから、高いシースルー性と光学レンズ特性とを併せ持つ薄型の光学素子として有用である。
【0003】
例えば、表示素子からの映像光を観察者の瞳の方向に反射させると同時に、外界光を透過させるコンバイナとして反射型のHOEを用いることで、表示映像の虚像に外界を重ね合わせて観察可能なシースルーの映像表示装置や、それを備えたヘッドマウントディスプレイ(以下、HMDとも称する)およびヘッドアップディスプレイ(以下、HUDとも称する)を実現することが可能である。このようなシースルーの映像表示装置を使用すれば、観察者は前方から視線をそらせることなく、映像表示装置から必要な情報を追加で観察可能である。したがって、このような映像表示装置は、様々なシーンで非常に有用なものとなる。
【0004】
ところで、HOEは回折光学素子なので、HOEに入射した光は波長によって異なる方向に回折する。このため、波長による分散(色分散)が生じ、HOEを映像表示装置に適用した場合に、HOEの色分散に起因する横色収差が発生する。
【0005】
そこで、例えば特許文献1では、画面中心とHOEで対応する領域(以下、中心部とも称する)で正反射に近い入射・反射特性となるようにHOEを使用することで、画面中心でHOEの色分散の影響を抑え、横色収差を低減している。
【0006】
また、近年、映像表示装置における視認性向上のため、HOEに対して様々な工夫が施されている。例えば特許文献2の装置では、HOEの中心部よりも周辺部の回折効率を低くすることで、表示映像の虚像と外界との目障りな境界(虚像の枠、エッジ)を不鮮明化している。また、例えば特許文献3の装置では、観察者の視線の変化やホログラムの取り付け角度の変化に対して明るさの低下と表示像のボケを防止するために、高効率狭帯域部と低効率広帯域部とからなり、かつ、これらの帯域の回折効率ピーク波長を一致させたHOEを用いている。つまり、HOEの高効率狭帯域部によって表示像のボケを低減し、低効率広帯域部によって表示像のボケをあまり感じさせないで明るさの増大を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−140079号公報
【特許文献2】特開平6−202037号公報
【特許文献3】特開平8−234022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のように、HOEの中心部で正反射に近い入射・反射特性となるようにHOEを使用する場合、HOEに光学レンズとしての特性(光学パワー)を持たせると、画面中心で横色収差が発生しないようにしても、画面周辺でHOEの色分散による横色収差が発生する。この画面周辺での横色収差については、HOEに極端に強い光学パワーを持たせなければ、HOEの色分散による影響を他の光学系の分散で打ち消して、実用上問題とならない範囲に抑えることができる。しかし、これは映像の観察画角が小さい場合だけであり、観察画角が大きくなるにつれて、画面周辺でのHOEの色分散の影響を無視することができなくなり、画面周辺での横色収差が増大する。
【0009】
また、特許文献2のように、HOEの中心部よりも周辺部の回折効率を低くすると、画面周辺は暗くなり、画面全体を明るく観察することはできない。さらに、特許文献3の構成では、HOEが低効率広帯域部を有しており、回折波長幅が広いので、特許文献1の場合と同様に、例えば画面周辺においてHOEの色分散に起因する横色収差が生じる。
【0010】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、画面周辺でのHOEの色分散の影響が無視できなくなるような、観察画角の大きい映像表示装置やHMDおよびHUDに適用したときでも、画面全体にわたって画質が良好で(横色収差の小さい)、明るい映像を観察させることができるHOEを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のホログラム光学素子は、反射型で体積位相型のホログラム光学素子であって、面内の領域によって回折波長の半値幅が異なることを特徴としている。
【0012】
本発明のホログラム光学素子において、前記回折波長の半値幅の最大の領域から周辺に向かって、前記回折波長の半値幅が狭くなることが望ましい。
【0013】
本発明のホログラム光学素子は、前記回折波長の半値幅の変化が対称となる少なくとも1本の対称軸を有し、前記対称軸の少なくとも一部を含む領域で前記回折波長の半値幅が最大であり、前記領域から前記対称軸に垂直な方向の周辺に向かって、前記回折波長の半値幅が狭くなることが望ましい。
【0014】
本発明のホログラム光学素子において、前記回折波長の半値幅は、複数の領域間で段階的に変化してもよい。
【0015】
本発明のホログラム光学素子において、前記回折波長の半値幅は、複数の領域間で連続的に変化してもよい。
【0016】
本発明のホログラム光学素子は、前記領域により膜厚が異なっていてもよい。
【0017】
本発明のホログラム光学素子において、最大回折効率は、領域によらずほぼ一定値であってもよい。
【0018】
本発明のホログラム光学素子において、回折波長の半値幅の異なる2領域のうち、半値幅がより広い領域を第1の領域とし、半値幅がより狭い領域を第2の領域とすると、半値幅の異なるどの2領域についても、第1の領域の膜厚は、第2の領域の膜厚よりも薄くてもよい。
【0019】
本発明のホログラム光学素子において、表面がシリンドリカル面であってもよい。
【0020】
本発明のホログラム光学素子は、シリンドリカル形状に曲げた基板上に、ホログラム感材液を塗布して作製されてもよい。
【0021】
本発明のホログラム光学素子は、領域によってホログラムの屈折率変調(Δn)が異なっていてもよい。
【0022】
本発明のホログラム光学素子は、レーザ光の2光束干渉により作製されるとともに、作製時のレーザ光の露光量が領域によって異なり、回折波長の半値幅の異なる2領域のうち、半値幅がより広い領域を第1の領域とし、半値幅がより狭い領域を第2の領域とすると、半値幅の異なるどの2領域についても、第1の領域における露光量は、第2の領域における露光量よりも高くてもよい。
【0023】
本発明のホログラム光学素子は、レーザ光の2光束干渉により作製されるとともに、レーザ光の露光後の熱処理温度が領域によって異なり、回折波長の半値幅の異なる2領域のうち、半値幅がより広い領域を第1の領域とし、半値幅がより狭い領域を第2の領域とすると、半値幅の異なるどの2領域についても、第1の領域における熱処理温度は、第2の領域における熱処理温度よりも高くてもよい。
【0024】
本発明のホログラム光学素子は、レーザ光の2光束干渉により作製されるとともに、レーザ光の露光後の熱処理時間が領域によって異なり、回折波長の半値幅の異なる2領域のうち、半値幅がより広い領域を第1の領域とし、半値幅がより狭い領域を第2の領域とすると、半値幅の異なるどの2領域についても、第1の領域における熱処理時間は、第2の領域における熱処理時間よりも長くてもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明では、HOEの面内の領域によって回折波長の半値幅が異なるので、例えば、HOEの周辺部の半値幅を中心部よりも狭めることにより、HOEの中心部で正反射に近い入射・反射特性となるようにHOEを使用したときでも、HOEの周辺部を通る光に対する、HOEの色分散の影響を低減することができる。一方、HOEの中心部では、周辺部よりも広い半値幅によって光の利用効率を高めることができる。なお、例えばHOEの周辺部の半値幅を狭めても、周辺部で最大回折効率が著しく低下することはない。
【0026】
このように、本発明によれば、HOEの周辺部を通る光に対する、HOEの色分散の影響を低減できるので、画面周辺でのHOEの色分散の影響が無視できなくなるような、観察画角の大きい映像表示装置に好適なHOEを実現することができる。そして、本発明のHOEを観察画角の大きい映像表示装置やHMD、HUDなどに適用したときでも、画面全体にわたって画質の良好な(横色収差の小さい)、明るい映像を観察させることができ、優れたレンズ特性を有する光学素子としてHOEを機能させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】HOEの回折特性を示す説明図である。
【図2】HOEの膜厚と回折波長の半値幅との関係を示す説明図である。
【図3】実施例1のHOEの概略の構成を示す平面図である。
【図4】図3のA−A’線上のHOEのポジションと膜厚との関係を示す説明図である。
【図5】図3のA−A’線上のHOEのポジションと回折波長の半値幅との関係を示す説明図である。
【図6】図3のA−A’線上のHOEのポジションと回折効率との関係を示す説明図である。
【図7】感光層1層でRGBの3色に感度を有するカラーHOEの中心での回折波長と回折効率との関係を示す説明図である。
【図8】上記カラーHOEのポジションと回折効率との関係を示す説明図である。
【図9】HOEの他の構成例を示す平面図である。
【図10】実施例2のHOEの概略の構成を示す平面図である。
【図11】図10のB−B’線上のHOEのポジションと膜厚との関係を示す説明図である。
【図12】図10のB−B’線上のHOEのポジションと回折波長の半値幅との関係を示す説明図である。
【図13】シリンドリカル形状の上記HOEの作製工程の一部を示す断面図である。
【図14】実施例3および実施例4のHOEの概略の構成を示す平面図である。
【図15】作製時にホログラム感光材料に照射されるレーザ光の露光量とHOEの回折効率との関係を示す説明図である。
【図16】図14のC−C’線上のHOEのポジションと露光量との関係を示す説明図である。
【図17】HOEの各ポジションごとの回折特性を示す説明図である。
【図18】図14のC−C’線上のHOEのポジションとホログラムの屈折率変調(Δn)との関係を示す説明図である。
【図19】図14のC−C’線上のHOEのポジションと熱処理温度との関係を示す説明図である。
【図20】図14のC−C’線上のHOEのポジションと熱処理時間との関係を示す説明図である。
【図21】各HOEを適用可能な映像表示装置の概略の構成を示す断面図である。
【図22】上記映像表示装置を適用可能なHMDの概略の構成を示す斜視図である。
【図23】上記映像表示装置を適用可能なHUDの概略の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0029】
反射型で体積位相型のHOEは、可干渉性の2光束を用いてホログラム感光材料を露光し、2光束による干渉縞をホログラム感光材料に記録することにより作製される。ホログラム感光材料としては、フォトポリマー、銀塩材料、重クロム酸ゼラチンなどが挙げられるが、中でもドライプロセスで製造できるフォトポリマーが望ましい。
【0030】
本発明のHOEは、面内の領域によって回折波長の半値幅が異なるように作製される。例えば、本発明のHOEでは、入射光束の中心光線付近の光が入射する領域(中心部)では回折波長の半値幅が広く、その周辺の光が入射する領域(周辺部)では、回折波長の半値幅が狭い。なお、回折波長の半値幅とは、ここでは、回折効率ピークの半値波長幅のことを指す。本実施形態では、HOE(ホログラム感光材料)の膜厚を制御したり、作製条件(露光量、露光後処理(温度、時間))を制御してホログラムの屈折率変調(Δn)を制御することにより、回折波長の半値幅を容易にかつ領域ごとに任意の値に制御している。以下、本発明のHOEについて、具体的に説明する。
【0031】
〔1.膜厚による半値幅制御〕
まず、HOEの膜厚と回折波長の半値幅との関係について説明する。図1は、HOEの回折特性を示す説明図である。HOEの回折波長の半値幅は、一般的に次式で概算することが可能である(ホログラフィ入門、久保田敏弘著、朝倉書店、参照)。
Δλ=λ2/(T(n±(n2−sin2θ)1/2)) (反射型:+、透過型:−)
Δλ:回折波長の半値幅(nm)
λ:回折波長(nm)
T:HOEの膜厚(μm)
n:HOEの平均屈折率
θ:HOEの作製時の物体光と参照光との角度差(°)
【0032】
例えば、θ=180°、n=1.5、λ=520nmとすると、反射型のHOEにおいて、回折波長の半値幅Δλは、上式より、Δλ=(520)2/3Tと表される。図2は、このときのHOEの膜厚Tと回折波長の半値幅Δλとの関係を示している。図2より、反射型HOE(リップマンホログラム)の回折波長の半値幅Δλは、HOEの膜厚Tに依存していることが分かる。したがって、領域によって膜厚を異ならせることにより、領域によって回折波長の半値幅を異ならせることができる。
【0033】
以下、領域によって膜厚が異なる(領域によって回折波長の半値幅が異なる)HOEの実施例について、実施例1および2として説明する。
【0034】
(実施例1)
図3は、実施例1のHOE1の概略の構成を示す平面図である。なお、図3では、膜厚の異なる領域については異なるハッチングで示している。また、図4は、図3のA−A’線上のHOE1のポジション(領域)と膜厚との関係を示す説明図である。なお、A−A’線は、後述する対称軸S1と同軸または平行であり、後述する対称軸S2と垂直である。
【0035】
実施例1のHOE1は、面内に複数の領域R1、R2、R3を有し、全体として矩形形状となっている。領域R1はHOE1の中心Oを含む矩形の領域であり、領域R2は領域R1の周辺に位置する矩形の領域(領域R1を囲む領域)であり、領域R3はさらに領域R2の周辺に位置する矩形の領域(領域R2を囲む領域)である。なお、面内の領域の数は、上記の3つに限定されるわけではない。そして、図4に示すように、HOE1の膜厚は、領域R1で最も薄く、一番外側の領域R3で最も厚く、領域R2でそれらの間の膜厚となっている。
【0036】
領域R1、R2、R3ごとに膜厚の異なるHOE1は、以下のようにして作製することが可能である。例えば、フィルム状のホログラム感光材料を用いる場合は、領域R1+領域R2+領域R3の形状、領域R2+領域R3の形状、領域R3の形状の3つのホログラム感光材料を用意しておき、互いに位置合わせをしながら(領域R3同士、領域R2同士が重なるように)これらを順に積層した後、2光束で露光することにより、領域ごとに膜厚の異なるHOE1を得ることができる。
【0037】
本実施例のHOE1では、領域R1、R2、R3ごとに膜厚が異なっているので、図2で示した関係により、HOE1の回折波長の半値幅を領域R1、R2、R3ごとに容易に異ならせることができる。図5は、図3のA−A’線上のHOE1のポジションと回折波長の半値幅との関係を示す説明図である。図4に示した膜厚分布の結果、図5に示すように、膜厚の最も薄い領域R1で回折波長の半値幅が最も広く、膜厚の最も厚い領域R3で回折波長の半値幅が最も狭く、領域R2でそれらの間の半値幅となっている。
【0038】
以上のように、本実施例では、HOE1の面内の領域R1、R2、R3によって回折波長の半値幅が異なるので、図5で示したように、回折波長の半値幅が最も内側の領域R1よりも最も外側の領域R3で狭いHOE1を実現することができる。これにより、HOE1を例えば後述する映像表示装置に適用し、HOE1の中心部(例えば領域R1)で正反射に近い入射・反射特性となるようにHOE1を使用したときでも、HOE1の周辺部(例えば領域R3)を通る光に対する、HOE1の色分散の影響を低減することができる。
【0039】
したがって、画面周辺でのHOEの色分散の影響が無視できなくなるような、観察画角の大きい映像表示装置に好適なHOE1を実現することができる。そして、本実施例のHOE1を観察画角の大きい映像表示装置やHMD、HUDなどに適用したときでも、画面全体にわたって画質が良好な(横色収差の小さい)映像を観察させることができ、優れたレンズ特性を有する光学素子としてHOEを機能させることができる。
【0040】
また、図6は、図3のA−A’線上のHOE1のポジションと回折効率との関係を示す説明図である。なお、ここでは、HOE1は、単色(例えば緑色)についてのみ感度を有するホログラム感光材料を露光することによって作製されているものとする。HOE1の膜厚が厚くなると、干渉縞の層数が多くなるので回折効率は上がるが、実施例1では、複数の領域R1、R2、R3にわたってほぼ一定の回折効率(例えば85%以上)を確保できていることが分かる。つまり、本実施例のように、HOE1の周辺部(例えば領域R3)の半値幅を狭めても、周辺部で最大回折効率が著しく低下することはない。
【0041】
このように、HOE1の回折波長の半値幅を領域R1、R2、R3によって異ならせても、HOE1の最大回折効率は、領域R1、R2、R3によらずほぼ一定値であるので、どの領域R1、R2、R3でも高い光利用効率を実現することができる。その結果、映像表示装置においては、画面全体にわたって明るい映像を観察させることができる。また、HOE1の中心部では周辺部に比べて回折波長の半値幅が広いので、HOEの全領域について一律に回折波長の半値幅を狭くする方法と比較して、必要な解像度を維持しつつ光利用効率を高くすることができ、有利である。
【0042】
また、本実施例のHOE1においては、回折波長の半値幅の最大の領域R1から周辺に向かって、回折波長の半値幅が狭くなっている(図3、図5参照)。これにより、HOE1の周辺部(例えば領域R3)の半値幅を狭くして、HOEの周辺部を通る光に対する、HOE1の色分散の影響を確実に低減することができる。また、半値幅の最大の領域R1では、光の利用効率が最も高くなる。
【0043】
ところで、本実施例では、領域R1、R2、R3で膜厚が互いに異なっていることと、図3に示したように、HOE1の中央の領域R1の外側に領域R2が枠状に形成され、さらに領域R2の外側に領域R3が枠状に形成されていることから、互いに垂直な2つの対称軸S1、S2に対して膜厚の変化が対称となっている。なお、対称軸S1は、HOE1の中心Oを通り、矩形形状のHOE1の長辺方向に平行な軸である。また、対称軸S2は、HOE1の中心Oを通り、矩形形状のHOE1の短辺方向に平行な軸である。これにより、回折波長の半値幅の変化も、対称軸S1、S2に対して対称となる。したがって、本実施例のHOE1は、回折波長の半値幅の変化が対称となる対称軸を2本有していると言える。
【0044】
そして、本実施例のHOE1では、対称軸S1、S2の一部を含む領域R1で回折波長の半値幅が最大であり、領域R1から対称軸S1、S2にそれぞれ垂直な方向の周辺に向かって、回折波長の半値幅が狭くなっている。このように、本実施例のHOE1では、回折波長の半値幅の変化が対称系であるので、HOE1の色分散の影響を対称に低減することができる。
【0045】
また、本実施例のHOE1では、回折波長の半値幅は、複数の領域R1、R2、R3の間で段階的に変化している(図5参照)。より詳しくは、回折波長の半値幅は、回折波長の半値幅の最大の領域R1から周辺に向かって(領域R1、R2、R3の順に)段階的に狭くなっている。ここで、「段階的な変化」とは、1つの領域内では回折波長の半値幅が一定であり、複数の領域間では半値幅が異なるような変化を指す。
【0046】
このような半値幅の段階的な変化により、例えば、HOE1の中心部(例えば領域R1)では半値幅をそのまま維持し、その周辺部(例えば領域R2、R3)の半値幅を変化させることができる。つまり、HOE1における必要な部分のみ半値幅を変化させることができ、半値幅の調整、制御が容易となる。
【0047】
また、本実施例のHOE1では、回折波長の半値幅の異なる2領域のうち、半値幅がより広い領域を第1の領域とし、半値幅がより狭い領域を第2の領域とすると、半値幅の異なるどの2領域についても、第1の領域の膜厚は、第2の領域の膜厚よりも薄い関係にある。例えば、第1の領域として領域R1を考え、第2の領域として領域R3を考えると、領域R1の膜厚は、領域R3の膜厚よりも薄い。また、例えば、第1の領域として領域R2を考え、第2の領域として領域R3を考えても、領域R2の膜厚は、領域R3の膜厚よりも薄い。このような関係を満たすことにより、回折波長の半値幅が、領域R1、R2、R3の順に狭くなるHOE1を実現することができる。
【0048】
ここで、HOE1の回折波長の半値幅の最大値をΔλRmax (mm)とし、回折波長の半値幅の最小値をΔλRmin (mm)としたとき、ΔλRmin /ΔλRmax は、以下の条件式を満足することが望ましい。
0.25<ΔλRmin /ΔλRmax <0.75
ΔλRmin /ΔλRmax が大きいと横色収差の補正効果が少なくなる。一方、ΔλRmin /ΔλRmax が小さいと、回折光の強度が低くなり、画面内での輝度差が大きくなる。いずれの場合も、結果として映像品位が低下する。上記の条件式を満足することにより、画面内での輝度差を大きくすることなく横色収差の発生を抑えることができ、良好な映像が得られる。
【0049】
ところで、本実施例では、HOE1を、単色にのみ感度を有する単色HOEで構成した場合について説明したが、赤(R)、緑(G)、青(B)の3色に感度を有するカラーHOEで構成してもよい。ただし、カラーHOEでは、RGBの相互作用により、RGBの各最大回折効率は単色HOEの最大回折効率よりも若干低下する。しかし、RGBのそれぞれについては、最大回折効率がほぼ一定である点に変わりはない。以下、この点について説明する。
【0050】
まず、カラーHOEの設定条件について説明する。カラーHOEは、感光層1層でRGBの3色に感度を有しているとする。つまり、カラーHOEは、RGBの3色の干渉縞が感光層1層に多重記録されることにより作製されており、RGBについての3つの回折ピーク波長を有している。ここでは、RGBの3色のレーザ光を1本に束ね、途中で2光束に分岐し、2光束干渉による3色同時露光により、上記3色の干渉縞が記録されている。なお、カラーHOEにおける領域ごとの膜厚は、図4と同様とする。
【0051】
一方、RGBのそれぞれの最大回折効率の比(例えばRの最大回折効率/Gの最大回折効率、Bの最大回折効率/Gの最大回折効率)は、各露光位置でのRGBの露光量の比(例えばRの露光量/Gの露光量、Bの露光量/Gの露光量)によって決まる。ここで、HOE上の位置によってRGBの最大回折効率比が異なると、色ムラ等の発生の原因になるので、どの位置でもRGBの最大回折効率比がほぼ一定、すなわち、どの位置でもRGBの露光量比がほぼ一定になるように(例えばRの露光量/Gの露光量、Bの露光量/Gの露光量の値が±10%程度の範囲に収まるように)、RGBのビーム径・広がりを調整し、干渉縞を記録する。このようにして3色の干渉縞を記録した場合のHOE中心での回折波長と回折効率との関係を図7に示す。ここでは、HOE中心にてRの最大回折効率:Gの最大回折効率:Bの最大回折効率=40%:70%:50%となる露光量比でHOEを作製した。
【0052】
カラーHOEにおいて、HOEのポジションと膜厚との関係、およびHOEのポジションと回折波長の半値幅との関係については、図4および図5と同様である。これに対して、カラーHOEのポジションと回折効率との関係については、図8のように表される。図8のように、RGBのいずれについても、膜厚の最も薄い領域R1の最大回折効率よりも、膜厚の最も厚い領域R3の最大回折効率のほうが若干高くなる。RGBの最大回折効率の比は、領域R3の最大回折効率/領域R1の最大回折効率で表記すると、
R=46/40=1.15
G=77/70=1.1
B=56/50=1.12
となっている。
【0053】
すなわち、RGBのそれぞれについて、最大回折効率の最大値と最小値との比が20%以内に収まっていれば(比の値が1.2以下であれば)、カラーHOEにおいても、RGBの最大回折効率は、領域によらずほぼ一定値であると言える。一方、単色HOEにおいては、図6より、最大回折効率の最大値と最小値との比は、95/90=1.06であり、20%以内に収まっていることは明らかである。よって、単色HOE、カラーHOEを問わず、最大回折効率の最大値と最小値との比が20%以内に収まっていれば、HOEの最大回折効率は、領域によらずほぼ一定値であると言える。
【0054】
なお、以上では、領域R1から2本の対称軸S1、S2にそれぞれ垂直な方向の周辺に向かって、回折波長の半値幅が段階的に狭くなる例について説明したが、例えば図9のように、1本の対称軸(例えば対称軸S2)に垂直な方向の周辺に向かってのみ、回折波長の半値幅が段階的に狭くなるように、半値幅を制御してもよい(領域R1、R2、R3を形成してもよい)。この場合は、対称軸S2の全部を含む領域R1で回折波長の半値幅が最大であり、領域R1から対称軸S2に垂直な方向の周辺に向かって、回折波長の半値幅が(領域R1、R2、R3の順に)狭くなる。
【0055】
なお、HOEの膜厚の変化させる範囲は、5〜100μmの範囲が望ましい。HOEの膜厚を薄くしすぎると(例えば5μm以下にすると)、回折効率が低くなるので、望ましくはない。この点は、次の実施例2でも同様である。
【0056】
(実施例2)
次に、実施例2のHOE1について説明する。図10は、実施例2のHOE1の概略の構成を示す平面図である。なお、図10では、膜厚の領域ごとの違いをグラデーションで示している。また、図11は、図10のB−B’線上のHOE1のポジションと膜厚との関係を示す説明図である。なお、B−B’線は、矩形のHOE1の長辺方向に平行であり、膜厚の変化が対称となる対称軸S2に対して垂直である。
【0057】
実施例2のHOE1は、面内の領域によって膜厚が異なっているが、複数の領域間で膜厚が連続的に変化している。より具体的には、本実施例のHOE1は、表面の面1aがシリンドリカル面となっており、中央の領域RCで膜厚が最も薄く、対称軸S2に垂直な方向の両端の2つの領域REで膜厚が最も厚くなっている。ここで、「連続的な変化」とは、各領域内では回折波長の半値幅が変化しており、かつ、複数の領域の境界付近の半値幅がほぼ同じになるような変化を指す。なお、シリンドリカル形状のHOE1の作製方法については後述する。
【0058】
本実施例では、HOE1の複数の領域(少なくとも領域RC、RE)間で膜厚を連続的に変化させることにより、図12に示すように、回折波長の半値幅も、複数の領域間で連続的に変化する。つまり、膜厚は中央の領域RCから両端の2つの領域REに向かって連続的に厚くなっているので、半値幅は中央の領域RCから両端の2つの領域REに向かって連続的に狭くなっている。
【0059】
本実施例にように、面内の複数の領域間で回折波長の半値幅が連続的に変化することにより、HOE1の複数の領域の境界で光路や回折特性が不連続に変化するのを回避することができ、境界の影響を無くすことができる。したがって、HOE1の光学素子としての性能がより良好となり、より望ましい形態となる。
【0060】
また、本実施例のHOE1の表面(面1a)は、シリンドリカル面であるので、複数の領域間で膜厚を容易に連続的に変化させることができる。つまり、領域によって膜厚の異なるHOE1を容易に実現することができる。
【0061】
また、表面をシリンドリカル面にして一方向(ここでは対称軸S2に垂直な方向)にのみ膜厚を変化させる構成のほうが、実施例1の図3のように両方向(2つの対称軸S1、S2に垂直な方向)に膜厚を変化させる構成よりも、HOE1の作製が容易となる。
【0062】
なお、本実施例では、1本の対称軸S2に垂直な方向の周辺に向かってのみ、回折波長の半値幅が連続的に狭くなっていることから、対称軸S2の全部を含む領域RCで回折波長の半値幅が最大であり、領域RCから対称軸S2に垂直な方向の周辺(領域RE)に向かって、回折波長の半値幅が連続的に狭くなっているとも言える。
【0063】
次に、表面がシリンドリカル面のHOE1の作製方法について説明する。シリンドリカル形状のHOE1を作製するにあたっては、ホログラム感光材料として、例えばジェル状の固体を有機溶剤に溶かしたホログラム感材液を用いるのが最も簡便である。一般的に、ホログラム感材膜の膜厚を均一にしてHOEを作製する場合は、平面性の高いガラス等のベース基材上にフィルム基板を配置し、その上に滴下したホログラム感材液をスキージ等のナイフコーター(ブレード)で平坦化して作製する。
【0064】
この手法を応用すれば、シリンドリカル形状のHOE1を容易に作製することが可能である。すなわち、図13に示すように、シリンドリカル形状に曲げた基板2上に、基板2の表面(シリンドリカル面)に沿わせる形でフィルム基板3を配置し、その上にホログラム感材液4を塗布する。その後、ホログラム感材液4の表面をナイフコーター5で平坦化する。ホログラム感材液4において平坦化した面とは反対側の面は、基板2(またはフィルム基板3)に沿ったシリンドリカル面となるので、ホログラム感材液4を乾燥させた後に露光、熱処理等を行うことにより、シリンドリカル形状のHOE1を得ることができる。
【0065】
以上のように、シリンドリカル形状に曲げた基板2上に、ホログラム感材液4を塗布してHOE1を作製することにより、表面がシリンドリカル面となるHOE1を容易に実現することができる。
【0066】
なお、平面性の高い基板上にホログラム感材液4を塗布し、ナイフコーター5を基板表面に垂直な方向に移動させながら同時に基板表面に平行に移動させる、つまり、ホログラム感材液4との接触部がシリンドリカル面を描くようにナイフコーター5を移動させ、余分なホログラム感材液4を取り除くことにより、シリンドリカル面としての面1aを直接形成してシリンドリカル形状のHOE1を作製することも可能である。
【0067】
〔2.作製条件による半値幅制御〕
上述したように、HOEの膜厚を領域によって異ならせる以外にも、HOEの作製条件を領域によって異ならせることにより、回折波長の半値幅を領域によって容易に異ならせることが可能である。これは、HOEの作製条件を領域によって異ならせることにより、ホログラムの屈折率変調(Δn)、言い換えれば、高屈折率部と低屈折率部との屈折率差を領域によって異ならせることができるからである。勿論、HOEの膜厚を領域によって異ならせる場合でも、以下に示す作製条件の制御を合わせて行ってもよい。この場合は、膜厚の影響と作製条件の影響とを両方掛け合わせた効果を得ることができる。
【0068】
ここで、ホログラム感光材料として例えばフォトポリマーを用いた場合、HOEは、一般的に、以下の(1)〜(3)の工程を経て作製される。
(1)レーザ光の2光束干渉により干渉縞を記録する露光工程。
(2)UV照射による定着工程(レーザ光に感度を有する色素の分解、および未反応モノマーの重合による定着)。
(3)熱処理による増感工程(低分子成分の拡散により、Δnが増大)。
【0069】
上記(1)〜(3)の工程のうち、(1)または(3)の工程における条件を領域によって異ならせることにより、ホログラムの屈折率変調(Δn)を領域によって容易に異ならせることができ、これによって回折波長の半値幅を容易に異ならせることができる。以下、(1)の露光条件の制御により作製されるHOEを実施例3として説明し、(3)の熱処理条件の制御により作製されるHOEを実施例4として説明する。なお、以下では、説明を理解しやすくするため、HOEの膜厚は一定とする。
【0070】
(実施例3)
図14は、本実施例のHOE1の概略の構成を示す平面図である。なお、図14では、回折波長の半値幅の違いをグラデーションで示している。ここで、説明の理解がしやすいように、HOE1の面内で例えば3つの領域R11、R12、R13を考える。領域R11は、HOE1の中心Oを含む円形の領域であり、領域R12は、領域R11の周辺に位置する領域(領域R11の少なくとも一部を囲む領域)であり、領域R13は、さらに領域R12の周辺に位置する領域(領域R12の少なくとも一部を囲む領域)である。
【0071】
図15は、ホログラム感光材料としてフォトポリマーを用いた場合において、作製時にホログラム感光材料に照射されるレーザ光の露光量とHOEの回折効率との関係を示している。同図に示すように、ある閾値以上の露光量でレーザ光をホログラム感光材料に照射することにより、HOEの回折効率は急激に上昇し、ある露光量以上(例えば露光量P1)でレーザ光を照射した場合は、HOEの回折効率はほぼ飽和した一定値を取る。通常、HOEを作製する場合、回折効率を安定させるため、回折効率が飽和する安定領域の露光量でレーザ光をホログラム感光材料に照射してHOEを作製するのが一般的である。
【0072】
本実施例では、領域によって回折波長の半値幅を異ならせるために、領域R11に対しては、回折効率が安定する露光量P1でレーザ光を照射し、領域R12および領域R13に対しては、安定領域でない露光量、すなわち、露光不足となる露光量P2、P3でレーザ光を照射することによりHOE1を作製する。なお、露光量の大小関係は、P1>P2>P3とする。図16は、図14のC−C’線上のHOE1のポジションと露光量との関係を示す説明図である。なお、C−C’線は、中心Oを通り、矩形のHOE1の長辺方向に平行である。
【0073】
また、図17は、各ポジションごとの回折特性を示している。同図より、領域R11、R12、R13における回折波長の半値幅をそれぞれΔλ1、Δλ2、Δλ3とすると、図16の露光量制御で露光した結果、HOE1の回折波長の半値幅は、Δλ1>Δλ2>Δλ3となった。つまり、回折効率が飽和していない領域R12、R13では半値幅は狭く、露光量増加に対してほとんど変化しないが(正確にはΔλ3よりもΔλ2のほうが僅かに広い)、領域R11では、急速に半値幅Δλ1が広がっている。このように、HOEの面内の領域R11、R12、R13によって露光量をP1、P2、P3と異ならせることにより、HOEの回折波長の半値幅を領域R11、R12、R13によって異ならせることができる。
【0074】
以上のように、本実施例では、HOE1の領域R11、R12、R13に対する露光量は、P1、P2、P3(ただしP1>P2>P3)であり、領域R11、R12、R13の回折波長の半値幅は、Δλ1、Δλ2、Δλ3(ただしΔλ1>Δλ2>Δλ3)であることから、回折波長の半値幅の異なる2領域のうち、半値幅がより広い領域を第1の領域とし、半値幅がより狭い領域を第2の領域としたときに、半値幅の異なるどの2領域についても、第1の領域における露光量は、第2の領域における露光量よりも高いと言える。例えば、第1の領域として半値幅Δλ1の領域R11を考え、第2の領域として半値幅Δλ3(<Δλ1)の領域R13を考えると、領域R11の露光量は、領域R13の露光量よりも高い。また、例えば、第1の領域として半値幅Δλ2の領域R12を考え、第2の領域として半値幅Δλ3(<Δλ2)の領域R13を考えても、領域R12の露光量は、領域R13の露光量よりも高い。
【0075】
ここで、図18は、HOE1のポジションとホログラムの屈折率変調(Δn)との関係を示している。HOE1がレーザ光の2光束干渉により作製されるときに、上記のようにレーザ光の露光量を領域ごとに制御することにより、ホログラムの屈折率変調(Δn)を領域によって容易に異ならせることができる。つまり、同図に示すように、露光量の相対的に高い領域(例えば領域R11)では、屈折率変調(Δn)を相対的に高くすることができ、露光量の相対的に低い領域(例えば領域R13)では、屈折率変調(Δn)を相対的に低くすることができる。その結果、膜厚に関係なく、図14および図17のように回折波長の半値幅を領域ごとに容易に異ならせることができる。
【0076】
また、一般的に、レーザ光はガウシアン的な強度分布を持っているので、その強度分布を利用すれば、HOE1の面内で露光量分布を軸対称(回転対称)にすることが可能かつ容易となり、図14で示したように、回折波長の半値幅の分布を軸対称とすることが可能である。例えば露光光学系に配置されるビームエキスパンダにおいて、レーザ光のビーム径(拡大率)を調整することにより、中心部で露光量が多く、周辺に向かって露光量が少なくなるような、領域によって異なる露光量を容易に実現することができ、領域によって回折波長の半値幅が異なるHOE1を作製することが可能となる。しかも、隣接する領域間で露光量を連続的に変化させることができるので、回折波長の半値幅を連続的に変化させることができる。
【0077】
なお、軸対称な露光量分布で露光し、HOE1を作製した場合は、図14のように、HOE1の面内において、回折波長の半値幅の変化が対称となる対称軸Sが無数に存在することになる。そして、対称軸Sの一部を含む領域で回折波長の半値幅が最大であり、上記の領域から対称軸Sに垂直な方向の周辺に向かって、回折波長の半値幅が狭くなる。なお、このような半値幅の変化は、HOE1の中心Oを通る全ての対称軸Sについて成り立つ。
【0078】
(実施例4)
次に、熱処理条件を領域によって異ならせることで、回折波長の半値幅を領域によって異ならせたHOEについて説明する。なお、HOEの回折波長の半値幅の分布については、実施例3の図14で代用する。
【0079】
通常、HOEを作製する場合、回折効率を高くするとともに半値幅を広くして、使用時の光利用効率を高めるため、十分な必要量の加熱処理を行い、ホログラムの屈折率変調(Δn)を最大化するのが一般的である。
【0080】
本実施例では、干渉縞の記録、定着後の熱処理工程において、加える熱量を領域により変更することで、回折波長の半値幅を領域ごとに異ならせる。すなわち、加熱処理を十分に行った領域に加えて、加熱処理不足の領域も設け、その領域における屈折率変調(Δn)をより小さくすることで、領域によって回折波長の半値幅を異ならせる。
【0081】
ここで、熱処理を異ならせる方法としては、(A)領域によって熱処理温度のみを異ならせる、(B)領域によって熱処理時間のみを異ならせる、(C)領域によって熱処理温度および熱処理時間の両方を異ならせる、の3通りの方法を用いることができる。(C)の方法は(A)と(B)の組み合わせで実現できるので、以下では、特に(A)および(B)の方法でHOE1を作製する場合について説明する。
【0082】
(A)領域によって熱処理温度を異ならせてHOEを作製
図19は、図14のC−C’線上のHOE1のポジションと熱処理温度との関係を示している。例えば、「120℃で2時間」の熱処理が必要なホログラム感光材料を用いた場合、領域R11に対しては、「120℃で2時間」の熱処理を行い、領域R13に対しては、「90℃で2時間」の熱処理を行い、領域R12に対しては、「それらの間の温度(例えば105℃)で2時間」の熱処理を行い、領域によって熱処理温度を異ならせる。
【0083】
なお、熱処理に際し、各領域に対応して複数のヒータ源を用い、各ヒータ源の温度を領域ごとに変えたり、ヒータ源とホログラム感光材料との距離を領域ごとに変えることにより、熱処理温度を領域によって異ならせることが可能である。また、例えばホログラム感光材料の裏面側に部分的に放熱部材を設けて、ヒータ源による加熱時の温度分布を領域によって異ならせることにより、熱処理温度を領域によって異ならせることも可能である。
【0084】
このような熱処理温度の制御により、図17と同様の回折特性を有するHOE1を作製することができる。つまり、熱処理温度の最も高い領域R11については、回折波長の半値幅をΔλ1と最も広くすることができ、熱処理温度の最も低い領域R13については、回折波長の半値幅をΔλ3と最も狭くすることができ、熱処理温度がそれらの間の領域R12については、回折波長の半値幅をΔλ2とそれらの間の半値幅にすることができる。
【0085】
以上のことから、回折波長の半値幅の異なる2領域のうち、半値幅がより広い領域を第1の領域とし、半値幅がより狭い領域を第2の領域とすると、半値幅の異なるどの2領域についても、第1の領域における熱処理温度は、第2の領域における熱処理温度よりも高いと言える。例えば、第1の領域として半値幅Δλ1の領域R11を考え、第2の領域として半値幅Δλ3(<Δλ1)の領域R13を考えると、領域R11の熱処理温度は、領域R13の熱処理温度よりも高い。また、例えば、第1の領域として半値幅Δλ2の領域R12を考え、第2の領域として半値幅Δλ3(<Δλ2)の領域R13を考えても、領域R12の熱処理温度は、領域R13の熱処理温度よりも高い。
【0086】
HOE1が、レーザ光の2光束干渉により作製されるときに、上記のように露光後の熱処理温度を領域ごとに制御することによっても、実施例3の図18と同様に、ホログラムの屈折率変調(Δn)を領域ごとに容易に異ならせることができる。したがって、膜厚に関係なく、回折波長の半値幅を領域ごとに容易に異ならせることができる。
【0087】
(B)領域によって熱処理時間を異ならせてHOEを作製
図20は、図14のC−C’線上のHOE1のポジションと熱処理時間との関係を示している。例えば、「120℃で2時間」の熱処理が必要なホログラム感光材料を用いた場合、領域R11に対しては、「120℃で2時間」の熱処理を行い、領域R13に対しては、「120℃で15分」の熱処理を行い、領域R12に対しては、「120℃でそれらの間の時間(例えば1時間)」の熱処理を行い、領域によって熱処理時間を異ならせる。なお、例えば、領域R12、R13のヒータ源側に断熱材等のマスクを設けて、時間の経過に合わせて領域R12、R13の前から各マスクを順に取り去ることにより、熱処理時間を領域によって異ならせることが可能である。
【0088】
このような熱処理時間の制御によっても、図17と同様の回折特性を有するHOE1を作製することができる。つまり、熱処理時間の最も長い領域R11については、回折波長の半値幅をΔλ1と最も広くすることができ、熱処理時間の最も短い領域R13については、回折波長の半値幅をΔλ3と最も狭くすることができ、熱処理時間がそれらの間の領域R12については、回折波長の半値幅をΔλ2とそれらの間の半値幅にすることができる。
【0089】
以上のことから、回折波長の半値幅の異なる2領域のうち、半値幅がより広い領域を第1の領域とし、半値幅がより狭い領域を第2の領域とすると、半値幅の異なるどの2領域についても、第1の領域における熱処理時間は、第2の領域における熱処理時間よりも長いと言える。例えば、第1の領域として半値幅Δλ1の領域R11を考え、第2の領域として半値幅Δλ3(<Δλ1)の領域R13を考えると、領域R11の熱処理時間は、領域R13の熱処理時間よりも長い。また、例えば、第1の領域として半値幅Δλ2の領域R12を考え、第2の領域として半値幅Δλ3(<Δλ2)の領域R13を考えても、領域R12の熱処理時間は、領域R13の熱処理時間よりも長い。
【0090】
HOE1が、レーザ光の2光束干渉により作製されるときに、上記のように露光後の熱処理時間を領域ごとに制御することによっても、実施例3の図18と同様に、ホログラムの屈折率変調(Δn)を領域ごとに容易に異ならせることができる。したがって、膜厚に関係なく、回折波長の半値幅を領域ごとに容易に異ならせることができる。
【0091】
なお、上述したHOE1の作製条件の制御によって回折波長の半値幅を領域ごとに異ならせる方法(実施例3、4)は、領域によって膜厚を変化させることによって半値幅を領域ごとに異ならせる方法(実施例1、2)とは異なり、半値幅の狭い領域(露光不足あるいは加熱処理不足の領域)のほうが、半値幅の広い領域に比べてホログラムの屈折率変調(Δn)が小さいため、回折効率が低くなる傾向にある(回折効率と半値幅とは逆の相関となる)。
【0092】
なお、実施例4のように熱処理条件(熱処理温度、熱処理時間)の制御によって回折波長の半値幅を制御する方法は、特に、後述するHUDに適用される面積の広いHOE1を作製する場合に有効となる。面積の広いHOE1を作製する場合には、大型のヒータ源を用いることが容易であり、そのような大型のヒータ源を用いた場合でも、上述した熱処理条件の制御が容易で、かつ、熱処理も効率的に行えるからである。
【0093】
(補足)
上述したように、HOEの作製条件の制御によって回折波長の半値幅を制御する場合、ホログラム感光材料としては、ホログラムの屈折率変調(Δn)を大きくできる材料を用いることが望ましい。また、このときのΔnは、0.02以上が望ましく、0.03以上がより望ましい。その理由は以下の通りである。なお、Δnを大きくできるホログラム感光材料の詳細については後述する。
【0094】
HOEの膜厚を一定とし、HOEは単色光を回折させる単色HOEとする。Δnが小さい材料を用いた場合(作製されたHOEのΔnが例えば0.01以下の場合)、屈折率差が小さすぎるため、回折波長の半値幅を効果的に広げる(変化させる)ことが困難である。また、HOEの中心部でも回折効率が高々80%程度と低く、また、回折効率が高い部分でも半値幅がほとんど広がらない。
【0095】
これに対して、Δnが大きい材料を用いた場合(作製されたHOEのΔnが例えば0.02以上、望ましくは0.03以上の場合)、HOEの回折波長の半値幅は、回折効率が90%以上となる回折効率飽和領域において効果的に広くなる。一方、回折効率が低い領域(非飽和領域)では、回折効率が増加しても、回折波長の半値幅がほとんど広がらない。
【0096】
つまり、Δnを大きくできるホログラム感光材料(Δn≧0.02、望ましくはΔn≧0.03となる材料)を用い、HOEの中心部で回折効率が90%以上の飽和領域となるように(中心部でΔnが0.02以上、望ましくは0.03以上となるように)HOEを作製することにより、HOEの中心部の半値幅を周辺部の半値幅よりも大きく広げて、HOEの領域によって半値幅に差を持たせることが容易にかつ確実にできる。また、単色HOEであれば、回折波長の半値幅の最も広い領域(例えば中心部)で回折効率90%以上を容易に実現することも可能となる。
【0097】
次に、Δnを大きくできるホログラム感光材料の詳細について説明する。
Δnを大きくできるホログラム感光材料(例えばΔn≧0.02、望ましくはΔn≧0.03)としては、以下の構成のフォトポリマーを用いることができる。このフォトポリマーは、RGBの感光性色素、重合開始材に加えて、重合性モノマー、マトリックスポリマー、必要に応じて可塑剤を含んでいる。
【0098】
上記構成のフォトポリマーを用いてHOEを作製する場合、露光により、干渉縞明部でのモノマー重合、暗部の未重合モノマーの明部への拡散、暗部におけるマトリックスポリマーの残存というシステムでホログラムを記録する。このとき、主にマトリックスポリマーと重合性モノマーとからなる明部と、主にマトリックスポリマーからなる暗部との屈折率差および密度差を大きくすることで、Δnを大きくできる。
【0099】
ここで、Δnが大きいフォトポリマーは、具体的に以下のいずれかの手法で得ることができる。
(1)マトリックスポリマーと重合性モノマーの屈折率差を大きくする。
具体的には、複数の重合性モノマーを併用するのが一般的であるが、その一つに、N−ビニルカルパゾールを用いるのがよい。N−ビニルカルパゾールは、代表的な高屈折の重合性モノマーであり、明部と暗部の屈折率差を大きくするのに有効に働く。
(2)マトリックスポリマーに対して重合性モノマーの割合を大きくする。
具体的には、フォトポリマー中のマトリックスポリマーの割合をP重量%とし、フォトポリマー中の重合性モノマーの割合をM重量%とすると、M/P≧0.7が望ましく、M/P≧1.0がより望ましい。この場合は、拡散するモノマー量を多くすることができ、大きな屈折率差を持たせることが可能となる。
(3)可塑剤を少量加える。
フォトポリマー中の可塑剤の割合を例えば1重量%以下とすることにより(1重量%以下の可塑剤を加えることにより)、重合性モノマーの拡散がより容易になり、大きな屈折率差を持たせることが可能となる。
【0100】
〔3.HOEの応用例について〕
次に、領域によって回折波長の半値幅が異なる上記したHOE1を適用可能な映像表示装置、HMDおよびHUDについて説明する。
【0101】
(映像表示装置について)
図21は、映像表示装置11の概略の構成を示す断面図である。映像表示装置11は、光源21と、照明光学系22と、表示素子23と、接眼光学系24とを有して構成されている。本実施形態では、水平方向の観察画角が例えば±13°、垂直方向の観察画角が例えば±7.5°となっており、いわゆるワイド画面の映像を観察することが可能となっている。
【0102】
光源21は、表示素子23を照明するものであり、本実施形態では、RGBの各波長領域の光を同一の発光面から発光する高演色白色光源で構成されている。つまり、光源21は、例えば、B光を発光する半導体発光素子であるLEDと、B光で励起されてG光を発光する緑色蛍光体と、B光で励起されてR光を発光する赤色蛍光体とを有して構成され、BGRの各光を同一の発光面から発光する。光源21(特に上記の同一の発光面)は、接眼光学系24によって形成される光学瞳Pと略共役となるように配置されている。なお、光源21は、RGBのいずれか1つまたは2つの光を発光する光源で構成されていてもよい。
【0103】
照明光学系22は、光源21からの光を集光して表示素子23に導く光学系であり、例えば凹面反射面を有するミラー22aで構成されている。表示素子23は、光源21から照明光学系22を介して入射する光を画像データに応じて変調して映像を表示するものであり、例えば透過型のLCDで構成されている。表示素子23は、矩形の表示画面の長辺方向が水平方向(図21の紙面に垂直な方向;左右方向と同じ)となり、短辺方向がそれに垂直な方向となるように配置されている。
【0104】
接眼光学系24は、表示素子23からの映像光を光学瞳P(または光学瞳Pの位置にある観察者の瞳)に導く観察光学系であり、接眼プリズム31と、偏向プリズム32と、HOE33とを有して構成されている。なお、HOE33は、上述したHOE1に対応するものである。
【0105】
接眼プリズム31は、表示素子23からの映像光を内部で全反射させてHOE33を介して光学瞳Pに導く一方、外界光を透過させて光学瞳Pに導くものであり、偏向プリズム32とともに、例えばアクリル系樹脂で構成されている。この接眼プリズム31は、平行平板の下端部を楔状にした形状で構成されている。接眼プリズム31の上端面は、映像光の入射面としての面31aとなっており、前後方向に位置する2面は、互いに平行な面31b・31cとなっている。
【0106】
偏向プリズム32は、平面視で略U字型の平行平板で構成されており(図22参照)、接眼プリズム31の下端部および両側面部(左右の各端面)と貼り合わされたときに、接眼プリズム31と一体となって略平行平板となるものである。偏向プリズム32は、HOE33を挟むように接眼プリズム31と隣接または接着して設けられている。これにより、外界光が接眼プリズム31の楔状の下端部を透過するときの屈折を偏向プリズム32でキャンセルすることができ、シースルーで観察される外界像に歪みが生じるのを防止することができる。
【0107】
HOE33は、表示素子23からの映像光(RGBの各光)を光学瞳Pの方向に回折反射させる一方、外界光を透過させて光学瞳Pに導くコンバイナとしての反射型で体積位相型のホログラム光学素子であり、接眼プリズム31において偏向プリズム32との接合面である面31dに形成されている。HOE33は、軸非対称な正の光学的パワーを有しており、正の光学的パワーを持つ非球面凹面ミラーと同様の機能を持っている。これにより、装置を構成する各光学部材の配置の自由度を高めて装置を容易に小型化することができるとともに、良好に収差補正された映像を観察者に提供することができる。
【0108】
上記構成の映像表示装置1において、光源21から出射された光は、照明光学系22のミラー22aによって反射、集光され、ほぼコリメート光となって表示素子23に入射し、そこで変調されて映像光として出射される。表示素子23からの映像光は、接眼光学系24の接眼プリズム31の内部に面31aから入射し、続いて面31b・31cで少なくとも1回ずつ全反射されてHOE33に入射する。
【0109】
HOE33は、光源21が発光するRGBの各波長領域の光を、各波長領域ごとに独立して回折する回折素子として機能する波長選択性を有しており、また、光源21が発光するRGBの光に対しては凹面反射面として機能するように設計されている。したがって、HOE33に入射した光は、そこで回折反射されて光学瞳Pに達し、同時に、外界光もHOE33を透過して、光学瞳Pに向かう。よって、光学瞳Pの位置に観察者の瞳を位置させることにより、観察者は、表示素子23に表示された映像を拡大虚像として観察することができると同時に、外界像をシースルーで観察することができる。なお、表示素子23に表示された映像を観察者が良好に観察できるように、接眼光学系24において諸収差(コマ収差、像面湾曲、非点収差、歪曲収差)が補正されている。
【0110】
また、光源21の発光面と接眼光学系24の光学瞳P(観察者の瞳)とは略共役であるので、光源21から射出された光を効率よく光学瞳Pに導くことができる。これにより、光学瞳Pの位置に観察者の瞳を位置させたときには、光源21からの光を観察者の瞳(瞳孔)に効率よく入射させることができ、観察者は、明るい高品位な映像を観察することができる。
【0111】
(HMDについて)
図22は、HMDの概略の構成を示す斜視図である。HMDは、上記した映像表示装置11と、支持手段12とで構成されている。
【0112】
映像表示装置11について補足すると、映像表示装置11は、少なくとも光源21および表示素子23(ともに図21参照)を内包する筐体13をさらに有している。この筐体13は、接眼光学系24の一部を保持している。接眼光学系24は、接眼プリズム31および偏向プリズム32の貼り合わせによって構成されており、全体として眼鏡の一方のレンズ(図22では右眼用レンズ)のような形状をしている。また、映像表示装置11は、筐体13を貫通して設けられるケーブル14を介して、光源21および表示素子23に少なくとも駆動電力および映像信号を供給するための回路基板(図示せず)を有している。
【0113】
支持手段12は、眼鏡のフレーム(ブリッジ、テンプルを含む)に相当する支持機構であり、映像表示装置11を観察者の眼前(例えば右眼の前)で支持している。また、支持手段12は、観察者の鼻と当接する鼻当て15(右鼻当て15R・左鼻当て15L)と、その鼻当て15を所定の位置で固定する鼻当てロックユニット16とを含んでいる。鼻当てロックユニット16は、ばね性の軸により鼻当て5を保持している。
【0114】
観察者がHMDを頭部に装着し、表示素子23に映像を表示すると、その映像光が接眼光学系24を介して光学瞳に導かれる。したがって、光学瞳の位置に観察者の瞳を合わせることにより、観察者は、映像表示装置11の表示映像の拡大虚像を観察することができる。また、これと同時に、観察者は、接眼光学系24を介して、外界像をシースルーで観察することができる。
【0115】
このように、映像表示装置11が支持手段12にて支持されることにより、観察者は映像表示装置11から提供される映像をハンズフリーで長時間安定して観察することができる。なお、映像表示装置11を2つ用いて両眼で映像を観察できるようにしてもよい。この場合は、両方の観察光学系の間の距離(眼幅距離)を調整するための調整機構(図示せず)を設けることが必要である。
【0116】
また、上記した鼻当て15を自由自在に動かすことにより、観察者に対して映像表示装置11の位置を相対的に前後、左右、上下の各方向に調整することができ、これによって、接眼光学系24の光学瞳の位置を、観察者の瞳の位置に配置することができる。位置調整後は、鼻当てロックユニット16によって鼻当て15の位置を固定することにより、光学瞳を良好な位置に固定することができる。
【0117】
以上のことから、鼻当て15および鼻当てロックユニット16は、少なくとも、映像表示装置11の接眼光学系24(または光学瞳)と観察者の瞳との距離を調整する調整機構(第1の調整機構)を構成していると言えるが、第1の調整機構は、映像表示装置11の上下、左右方向の位置を調整するための第2の調整機構と独立して構成されていてもよい。この場合は、各々の位置調整がさらに容易となる。
【0118】
(HUDについて)
図23は、HUDの概略の構成を示す断面図である。HUDに適用される映像表示装置11は、表示素子23を照明する光源として光源25を用い、照明光学系22として照明レンズ26を用い、接眼光学系24の代わりに観察光学系27を用いて構成されている。つまり、本実施形態のHUDは、このような構成の映像表示装置11を備え、観察光学系27の後述するHOE33が、観察者の視界内に配置される基板としてのウィンドシールド34に保持されている構成である。
【0119】
光源25は、単色光(例えば中心波長532nmのG光)を発光する高輝度LEDで構成されている。観察光学系27は、HOE33と、そのHOE33が形成される基板としてのウィンドシールド34とで構成されている。HOE33は、Gの波長領域にのみ回折ピーク波長(例えば521nm)を有する体積位相型で反射型のHOEで構成されているが、BやRの波長領域にも回折ピーク波長を有していてもよい。ウィンドシールド34は、例えば車両、船舶、鉄道、航空機などの輸送手段における運転席前面のフロントガラスに相当する。
【0120】
上記の構成によれば、光源25から出射される光は、照明レンズ26で集光されて表示素子23に入射する。表示素子23にて画像データに応じて変調された光(映像光)は、HOE33に入射し、そこで回折反射されて光学瞳に導かれる。したがって、光学瞳の位置では、観察者は、表示素子23にて表示された映像の拡大虚像を観察できると同時に、HOE33およびウィンドシールド34を介して外界を観察することができる。
【0121】
なお、ウィンドシールド34とは別体の基板にHOE33を保持し、上記基板を観察者の視界内に配置することによってHUDを構成してもよい。この場合は、プロンプタのような原稿表示装置としてHUDを機能させることができる。
【0122】
なお、以上で説明した構成や方法を適宜組み合わせてHOE、映像表示装置、HMDおよびHUDを構成することも勿論可能である。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明のHOEは、映像の観察画角が大きい映像表示装置やHMD、HUDに利用することが可能である。
【符号の説明】
【0124】
1 HOE(ホログラム光学素子)
1a 面(シリンドリカル面)
2 基板
4 ホログラム感材液
1 領域
2 領域
3 領域
C 領域
E 領域
11 領域
12 領域
13 領域
対称軸
1 対称軸
2 対称軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射型で体積位相型のホログラム光学素子であって、
面内の領域によって回折波長の半値幅が異なることを特徴とするホログラム光学素子。
【請求項2】
前記回折波長の半値幅の最大の領域から周辺に向かって、前記回折波長の半値幅が狭くなることを特徴とする請求項1に記載のホログラム光学素子。
【請求項3】
前記回折波長の半値幅の変化が対称となる少なくとも1本の対称軸を有し、前記対称軸の少なくとも一部を含む領域で前記回折波長の半値幅が最大であり、前記領域から前記対称軸に垂直な方向の周辺に向かって、前記回折波長の半値幅が狭くなることを特徴とする請求項1または2に記載のホログラム光学素子。
【請求項4】
前記回折波長の半値幅は、複数の領域間で段階的に変化することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のホログラム光学素子。
【請求項5】
前記回折波長の半値幅は、複数の領域間で連続的に変化することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のホログラム光学素子。
【請求項6】
前記領域により膜厚が異なることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のホログラム光学素子。
【請求項7】
最大回折効率は、領域によらずほぼ一定値であることを特徴とする請求項6に記載のホログラム光学素子。
【請求項8】
回折波長の半値幅の異なる2領域のうち、半値幅がより広い領域を第1の領域とし、半値幅がより狭い領域を第2の領域とすると、半値幅の異なるどの2領域についても、第1の領域の膜厚は、第2の領域の膜厚よりも薄いことを特徴とする請求項6または7に記載のホログラム光学素子。
【請求項9】
表面がシリンドリカル面であることを特徴とする請求項6から8のいずれかに記載のホログラム光学素子。
【請求項10】
シリンドリカル形状に曲げた基板上に、ホログラム感材液を塗布して作製されることを特徴とする請求項9に記載のホログラム光学素子。
【請求項11】
領域によってホログラムの屈折率変調(Δn)が異なることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のホログラム光学素子。
【請求項12】
レーザ光の2光束干渉により作製されるとともに、作製時のレーザ光の露光量が領域によって異なり、
回折波長の半値幅の異なる2領域のうち、半値幅がより広い領域を第1の領域とし、半値幅がより狭い領域を第2の領域とすると、半値幅の異なるどの2領域についても、第1の領域における露光量は、第2の領域における露光量よりも高いことを特徴とする請求項11に記載のホログラム光学素子。
【請求項13】
レーザ光の2光束干渉により作製されるとともに、レーザ光の露光後の熱処理温度が領域によって異なり、
回折波長の半値幅の異なる2領域のうち、半値幅がより広い領域を第1の領域とし、半値幅がより狭い領域を第2の領域とすると、半値幅の異なるどの2領域についても、第1の領域における熱処理温度は、第2の領域における熱処理温度よりも高いことを特徴とする請求項11に記載のホログラム光学素子。
【請求項14】
レーザ光の2光束干渉により作製されるとともに、レーザ光の露光後の熱処理時間が領域によって異なり、
回折波長の半値幅の異なる2領域のうち、半値幅がより広い領域を第1の領域とし、半値幅がより狭い領域を第2の領域とすると、半値幅の異なるどの2領域についても、第1の領域における熱処理時間は、第2の領域における熱処理時間よりも長いことを特徴とする請求項11または13に記載のホログラム光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図10】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−256631(P2010−256631A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106848(P2009−106848)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】