ホログラム処理装置およびホログラム処理方法
【課題】 簡素な構成で短時間の処理が可能であり、かつ、再生が繰り返されたとしても、記録されているホログラムの劣化が生じず、常に良好な再生を行うことが可能なホログラム処理装置を提供する。
【解決手段】 再生時において、ホログラフィックメモリ1に読み出し光が照射されるとともに、位相共役鏡2に対して励起光が照射される。ホログラフィックメモリ1に読み出し光が照射されると、記録されているホログラムによる回折光が出射される。また、この回折光と励起光とが位相共役鏡2に照射されることによって、該位相共役鏡2に、ホログラフィックメモリ1に記録されているホログラムと位相共役なホログラムが形成される。そして、この位相共役なホログラムに基づくフィードバック光がホログラフィックメモリ1に照射されることにより、ホログラムの再書き込みが実現される。
【解決手段】 再生時において、ホログラフィックメモリ1に読み出し光が照射されるとともに、位相共役鏡2に対して励起光が照射される。ホログラフィックメモリ1に読み出し光が照射されると、記録されているホログラムによる回折光が出射される。また、この回折光と励起光とが位相共役鏡2に照射されることによって、該位相共役鏡2に、ホログラフィックメモリ1に記録されているホログラムと位相共役なホログラムが形成される。そして、この位相共役なホログラムに基づくフィードバック光がホログラフィックメモリ1に照射されることにより、ホログラムの再書き込みが実現される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラフィックメモリとして例えばフォトリフラクティブ結晶を用い、該結晶中へのホログラムの記録・再生・消去を行うホログラム処理装置およびホログラム処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホログラフィックメモリ(ホログラムメモリ)は、物体をレーザ光などの干渉性の高い光で照明し、3次元の立体画像を記録できる技術(ホログラフィー)を応用し、2次元画像として表される情報を何層にも記録できるようにした記憶装置である。情報の再生は、ホログラフィックメモリに対して、情報を読み書きするための参照光を当てることによって、情報をもった画像が読み出されることによって実現される。
【0003】
例えば従来のCDやDVDなどの光ディスク記録装置は、回転する光ディスクにレーザを当て、ビット単位でデータの読み出し・書き込みを行う一方、ホログラフィックメモリは、レーザを一度当てるだけで同時に何千ビットもの読み出し・書き込みを行う。すなわち、ホログラフィックメモリは、従来の光ディスク記録装置と比較して、高速なデータ転送が可能となっている。
【0004】
また、ホログラフィックメモリは、情報としての2次元画像のホログラムをホログラム媒質中の同一個所に多重記録することが可能である。よって、情報の記録密度を極めて高くすることができるので、大容量化を実現することができる。
【0005】
以上のように、ホログラフィックメモリは、2次元データのダイレクトな記録再生方式に由来する高速性と、同一箇所への多重記録に由来する大容量性とを有しているので、次世代光メモリとして注目されている。
【0006】
従来のホログラフィックメモリは、原則的にはライトワンス(Write Once, 媒質の同一領域にはデータを一度しか書き込めず、書き込んだデータの変更はできない)のものが多い。一方、ホログラム媒質としてフォトリフラクティブ媒質(フォトリフラクティブ結晶)を用いたホログラフィックメモリでは、一旦記録されたホログラムを消去することが可能であり、書き換え型メモリへの応用が期待されている。
【0007】
フォトリフラクティブ媒質とは、光の照射によって屈折率が変化する媒質群を指し、鉄を不純物として含むリチウムニオブ酸(LiNbO3:Fe)や、セリウムを不純物として含むストロンチウムバリウムニオブ酸(SrxBa1...xNb2O6:Ce)等、数多くの媒質が知られている。
【0008】
一方、上記のように、データを記録した後でも、光のみによるデータの書き換えが可能なホログラフィックメモリは、読出し用の光によって記録されているデータが劣化したり、消去されたりという問題点を有している。このような読出し光による記録データの劣化・消去をふせぐために、電界や熱を用いるホログラムの定着技術も提案されている。
【0009】
しかしながら、このような定着技術を用いる場合、リアルタイム処理(実時間でのホログラム記録再生)が困難になるという問題が生じる。また、定着処理を行うための電子回路が必要となることにより、メモリシステム全体が複雑になり、装置コストの上昇を招来する。
【0010】
一方、最近では、ホログラムを形成する記録光(波長l1、参照光と物体光)に加えて,記録波長(l1)での記録感度を発生させる励起光(波長l2、l1>l2)と呼ぶもう1つの光を同時に照射することでホログラムを記録し、再生時には記録光と同波長の読出し光(波長l1)のみを照射する、2光子書込み/1光子読出しの手法を用いたホログラフィックメモリが注目されている。この方法によれば、光のみによるホログラムの非破壊再生を実現することが可能である。
【非特許文献1】L. Solymar, D. J. Webb and A. Grunnet-jepsen; The Physics and Applications of Photorefractive Materials, Oxford University Press (1996).
【非特許文献2】X. An, D. Psaltis and G. W. Burr; “Thermal fixing of 10,000 holograms in LiNbO3:Fe,” Appl. Opt. vol.38, pp.386-393 (1999).
【非特許文献3】B. Liu, L. Liu and L. Xu; “Characteristics of recording and thermal fixing in lithium niobate,” Appl. Opt. vol.37, no.11, pp.2170-2176 (1998).
【非特許文献4】J. Ma, T. Chang, J. Hong, R. Neurgaonkar, G. Barbastathis and D. Psaltis; “Electrical fixing of 1000 angle-multiplexed holograms in SBN:75,” Opt. Lett. vol.22, no.14, pp.1116-1118 (1997).
【非特許文献5】D. Kirillov and Jack Feinberg; “Fixable complementary gratings in photorefractive BaTiO3,” Opt. Lett. .vol.16, no.19, pp.1520-1522 (1991).
【非特許文献6】R. Matull and R. A. Rupp; “Microphotometric investigation of fixed holograms,” J. Phys. D: Appl. Phys. vol.21. pp.1556-1565 (1988).
【非特許文献7】H. Guenther, G. Wittmann, R. M. Macfarlane, R. R. Neurgaonkar; “Intensity dependence and white-light gating of two-color photorefractive gratings in LiNbO3,” Opt. Lett. vol.22, no.17, pp.1305-1307 (1997).
【非特許文献8】畑野秀樹,田中覚,山路崇,伊藤善尚,松下元 ; “ディジタルホログラムメモリー用記録材料の開発,” パイオニアR&D, vol.11, pp.73-82 (2001).
【非特許文献9】Y. Liu, K. Kitamura, S. Takekawa, G. Ravi, M. Nakamura, H. Hatano, and T. Yamaji; “Nonvolatile two-color holography in Mn-doped near-stoichiometric lithium niobate,” Appl. Phys. Lett. vol.81, pp.2686-2688 (2002).
【非特許文献10】M. D. Ewbank, R. A. Vazquez, R. R. Neurgaonkar and Jack Feinberg,“Mutually pumped phase conjugation in photorefractive strontium bariumniobate: theory and experiment”, JOSA B, Volume 7, Issue 12, pp.2306-,December 1990.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、2光子書込み/1光子読出しの手法を用いたホログラフィックメモリの場合、記録時において、記録光の波長(l1)で記録感度を発生させるために、記録・再生に用いる光とは波長の異なる励起光が必要とされるという問題や、LiNbO3結晶やLiTaO3結晶など、励起光が照射されているときにのみ記録光の波長で記録感度を発生させるために必要な電子の中間励起準位が存在する特定の無機フォトリフラクティブ材料を記録媒質として用いた場合にしか適用できないという問題がある。
【0012】
また、記録するデータが2値デジタル画像である場合、元の画像に何らかの雑音(ノイズ)が含まれていたり、記録中になんらかの雑音が付加されていたりすることによってデータが劣化していることが考えられる。ここで、従来のホログラフィックメモリは基本的にアナログ記録が行われるので、劣化したデータがそのまま記録・再生されることになる。
【0013】
これを避けるためには、記録前のデータが含まれる光信号を一旦電気信号に変換し、外部処理装置を用いて雑音の除去や劣化を補償する電子的処理を行った後、再び光信号に変換し光メモリに記録する処理が必要となる。また、ホログラム再生中に生じた雑音やデータの劣化に対しては、再生後にそれを取り除くための電子処理が必要となっている。
【0014】
以上より、現状における書き換え可能(リライタブル)なホログラムメモリの大きな問題点として、読み出し用の光によってデータが消去(もしくは劣化)されることと、記録再生に伴ってノイズによるデータの劣化が発生することの二つがあげられる。
【0015】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであって、その目的は、簡素な構成で短時間の処理が可能であり、かつ、再生が繰り返されたとしても、記録されているホログラムの劣化が生じず、常に良好な再生を行うことが可能なホログラム処理装置およびホログラム処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
以上の課題を解決するために、本発明に係るホログラム処理装置は、ホログラム記録媒質に読み出し光を照射することによって、該ホログラム記録媒質に記録されているホログラムを再生するホログラム処理装置であって、ホログラムを記録する位相共役ホログラム記録媒質を備え、上記読み出し光が上記ホログラム記録媒質に照射されて該ホログラム記録媒質から出射される回折光が上記位相共役ホログラム記録媒質に照射され、上記ホログラム記録媒質に記録されているホログラムと位相共役なフィードバック光が、該位相共役ホログラム記録媒質から上記ホログラム記録媒質に照射されることを特徴としている。
【0017】
また、本発明に係るホログラム処理方法は、ホログラム記録媒質に読み出し光を照射することによって、該ホログラム記録媒質に記録されているホログラムを再生するホログラム処理方法であって、上記読み出し光が上記ホログラム記録媒質に照射されて該ホログラム記録媒質から出射される回折光を、ホログラムを記録する位相共役ホログラム記録媒質に照射するステップと、上記位相共役ホログラム記録媒質から出射される、上記ホログラム記録媒質に記録されているホログラムと位相共役なフィードバック光を上記ホログラム記録媒質に照射するステップとを有することを特徴としている。
【0018】
上記の構成および方法では、まず、ホログラム記録媒質に記録されているホログラムを再生する際に、該ホログラム記録媒質に読み出し光が照射される。ホログラム記録媒質に読み出し光が照射されると、記録されているホログラムによる回折光が出射される。また、この回折光が位相共役ホログラム記録媒質に照射されると、ホログラム記録媒質に記録されているホログラムと位相共役なフィードバック光がホログラム記録媒質に照射されることになる。
【0019】
ここで、ホログラム記録媒質に対して、単に読み出し光を照射することによって再生を行う場合、この読み出し光によって、ホログラム記録媒質に記録されているホログラムの消去効果が生じることになり、再生が繰り返されたり、再生時間が長くなったりすることによって、ホログラム記録媒質に記録されているホログラムが劣化するという問題が生じる。
【0020】
これに対して、上記の構成および方法によれば、ホログラム記録媒質に対して、読み出し光が照射されるとともに、記録されているホログラムと位相共役な画像情報を含むフィードバック光が照射されることになる。これによって、読み出し光による消去効果を補完するようにフィードバック光による再書き込み効果がホログラム記録媒質内で生じるので、記録されているホログラムの劣化が生じないことになる。したがって、再生が繰り返されたとしても、記録されているホログラムの劣化が生じず、常に良好な再生を行うことが可能なホログラム処理装置を提供することが可能となる。
【0021】
また、定着技術などを利用していないので、再生処理に必要とされる時間も短時間で済み、リアルタイム処理も可能となるとともに、特別な電子回路なども不要とすることができる。
【0022】
また、再生時に必要とされる光は、読み出し光のみであるので、例えば異なる波長の光を出射させるための光源を複数設ける必要もなく、装置コストの低減および装置の簡素化、小型化を図ることができる。
【0023】
また、本発明に係るホログラム処理装置は、上記の構成において、上記位相共役ホログラム記録媒質に対して励起光を照射する励起光光源を備え、上記読み出し光が上記ホログラム記録媒質に照射されて該ホログラム記録媒質から出射される回折光と、上記励起光とにより生じる回折光によって、上記位相共役ホログラム記録媒質に、ホログラム記録媒質に記録されているホログラムと位相共役なホログラムが形成されるとともに、上記位相共役ホログラム記録媒質が、上記励起光および上記回折光が入射された際に、相互励起型の位相共役鏡が生成される上記位相共役ホログラム記録媒質が、上記励起光および上記回折光が入射された際に、相互励起型の位相共役鏡が生成される構成としてもよい。
【0024】
上記の構成では、位相共役ホログラム記録媒質に励起光および回折光が入射されると、その内部に相互励起型の位相共役鏡が生成するようになっている。この相互励起型の位相共役鏡は、詳細は後述するが、励起光の光強度に対する回折光の光強度の比が所定の閾値以上となっている場合にのみ生成される。ここで、ホログラム記録媒質に記録されているホログラムにノイズが生じている場合、このノイズによる回折光の光強度は、正常に記録されている部分からの回折光の光強度に比べて小さいことが予想される。よって、このノイズによる回折光の光強度の励起光に対する比が上記の閾値よりも小さければ、ノイズに関する情報は相互励起型の位相共役鏡には反映されないことになる。この場合、フィードバック光にはノイズの情報が含まれていないことになり、ホログラム記録媒質に記録されているホログラムに生じているノイズは、フィードバック光によって消去されることになる。
【0025】
すなわち、上記の構成によれば、ホログラム記録媒質に記録されているホログラムに生じているノイズを消去することによって、再生データの品質を向上させることが可能となる。例えば、アナログデータの再生に対しては雑音除去機能を有することになり、記録される画像の画質を改善することができる。また、デジタルデータに対しては、低ビット誤り率での再生を可能とする。
【0026】
また、励起光は、読み出し光と同じ波長の光で実現できるので、異なる波長の光を出射させるための光源を複数設ける必要もなく、装置コストの低減および装置の簡素化、小型化を図ることができる。
【0027】
また、本発明に係るホログラム処理装置は、上記の構成において、2次元画像情報に基づく空間変調を光に施し、物体光として上記ホログラム記録媒質に対して光を照射する光変調手段をさらに備え、上記ホログラム記録媒質に対して物体光および参照光を照射することによって、該ホログラム記録媒質にホログラムを記録する処理をさらに行う構成としてもよい。
【0028】
上記の構成によれば、ホログラム記録媒質に対して情報の記録を行うことも可能となる。よって、記録した情報を長期間劣化させずに保持することが可能なホログラム処理装置を提供することが可能となる。
【0029】
また、本発明に係るホログラム処理装置は、上記の構成において、上記読み出し光、上記励起光、上記物体光、および上記参照光の照射を制御し、上記光変調手段の動作を制御する制御部を備え、上記制御部が、記録時に、上記光変調手段に記録すべき情報に応じた光変調動作を行わせるとともに、上記物体光および上記参照光を上記ホログラム記録媒質に照射するように制御し、再生時に、上記読み出し光および上記励起光をそれぞれ上記ホログラム記録媒質および上記位相共役ホログラム記録媒質に照射するように制御する構成としてもよい。
【0030】
上記の構成によれば、制御部による上記のような制御に基づいて、記録処理および再生処理が行われることになる。よって、記録処理および再生処理を的確に制御することが可能なホログラム処理装置を提供することができる。
【0031】
また、本発明に係るホログラム処理装置は、上記の構成において、上記ホログラム記録媒質が、BaTiO3結晶によって構成される構成としてもよい。
【0032】
上記の構成によれば、ホログラム記録媒質をBaTiO3結晶によって構成しているので、例えばLiNbO3結晶などの書き込みに時間がかかる材料などを用いる必要がない。よって、処理時間の低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0033】
以上のように、本発明に係るホログラム処理装置は、ホログラムを記録する位相共役ホログラム記録媒質を備え、上記読み出し光が上記ホログラム記録媒質に照射されて該ホログラム記録媒質から出射される回折光が上記位相共役ホログラム記録媒質に照射され、上記ホログラム記録媒質に記録されているホログラムと位相共役なフィードバック光が、該位相共役ホログラム記録媒質から上記ホログラム記録媒質に照射される構成である。
【0034】
これにより、再生が繰り返されたとしても、記録されているホログラムの劣化が生じず、常に良好な再生を行うことが可能なホログラム処理装置を提供することが可能となるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明の一実施形態について、図1ないし図13に基づいて説明すると以下の通りである。
【0036】
(ホログラフィックメモリ装置の構成)
図13に、本発明の実施の一形態に係るホログラフィックメモリ装置(ホログラム処理装置)の概略構成を示す。同図に示すように、該ホログラフィックメモリ装置は、ホログラフィックメモリ(ホログラム記録媒質)1、位相共役鏡(位相共役ホログラム記録媒質)2、ビームスプリッタ3、第1光源4、第2光源5、第3光源6、SLM(光変調手段)7、光検出器(光検出手段)8、および制御部(制御手段)9を備えている。
【0037】
ホログラフィックメモリ1は、光によって書き換え可能なホログラム記録部である。位相共役鏡2は、後述するフィードバック光を生成するものである。このホログラフィックメモリ1および位相共役鏡2の詳細については後述する。
【0038】
第1光源4は、SLM7に対して光を照射するための光源である。SLM7は、第1光源4からの光に対して、記録すべきデータに応じた変調を加え、物体光としてビームスプリッタ3に入射させる。ビームスプリッタ3は、SLM7からの物体光をホログラフィックメモリ1に導光するとともに、ホログラフィックメモリ1から入射された再生光を光検出器8へ導光する。光検出器8は、ビームスプリッタ3から入射された再生光を検出し、データの再生を行う。
【0039】
第2光源5は、書き込み時における参照光および読み出し時における読み出し光をホログラフィックメモリ1に照射するための光源である。この第2光源5からホログラフィックメモリ1に入射される参照光は、第1光源4からSLM7、ビームスプリッタ3を介してホログラフィックメモリ1に入射される物体光とコヒーレントとなるよう、制御部9によって制御される。第3光源6は、励起光を位相共役鏡2に照射するための光源である。
【0040】
制御部9は、ホログラフィックメモリ装置における動作を統括的に制御する。具体的には、制御部9は、第1光源4、第2光源5、第3光源6、SLM7、および光検出器8の動作を制御する。以下に示すホログラムの記録・再生処理は、制御部9の制御に基づいて行われる。
【0041】
なお、上記の構成では、第1光源4、第2光源5、および第3光源6をそれぞれ別の構成として設けられているが、実際には、単一の光源から出射された光を、ビームスプリッタおよびミラーなどを用いて3つの光に分離し、これらを各光源として機能させる構成としてもよい。この場合、光源を単一にすることができるので、装置コストの低減および構成の簡素化を図ることができる。
【0042】
また、図13に示す構成では、ホログラムを多重記録する構成については考慮されていないが、このような構成を備えていてもよい。例えば、ホログラムの多重記録手法の一例として、ホログラムごとに参照光の波面を変えるスペックル多重記録手法を用いる場合には、後述する参照光の光路上にすりガラスを配置する構成としてもよい。また、ホログラムごとに参照光の波長を変える波長多重記録手法や、ホログラムごとに参照光の角度を変える角度多重記録法、ホログラムごとに参照光の位相を変化させる位相コード多重記録法、参照光として球面波を用い、ホログラムごとに記録媒質(ホログラフィックメモリ)を微小距離移動する球面参照光シフト多重記録法など他のホログラム多重記録手法を用いてもよい。
【0043】
また、上記の構成では、ホログラムを記録するための構成および再生するための構成の両方を備えた構成となっているが、ホログラムの再生のみを行う構成としてもよい。この場合、第1光源4、SLM7、ビームスプリッタ3などの構成を省略してもよい。
【0044】
図1に、上記ホログラフィックメモリ装置の要部の概略構成を示す。同図に示すように、ホログラフィックメモリ装置は、光によって書き換え可能(リライタブル)なホログラフィックメモリ1、および、フィードバック生成部としての相互励起型位相共役鏡(MPPCM(Mutually Pumped Phase Conjugate Mirror))2(以降、位相共役鏡2と称する)が設けられている。ホログラフィックメモリ1は、フォトリフラクティブ媒質によって構成される。このホログラフィックメモリ装置において、データの書き込みは物体光(Object beam)と参照光(Reference beam)とによって行われる。また、雑音除去されたデータの読み出し、および記録データを保持した状態での読み出しは読み出し光(Reading beam)と励起光(Pump beam)とによって行われる。以上の構成により、雑音除去機能を有した、光による非破壊読出し可能なリライタブル・ホログラフィック光メモリを実現することができる。
【0045】
(記録・書き換え動作)
次に、上記ホログラフィックメモリ装置におけるデータの記録動作および書き換え動作について図2を参照しながら説明する。
【0046】
ビームスプリッタ3を透過した物体光(Object beam)が、参照光(Reference beam)とともに書き換え可能なホログラフィックメモリ1に入射する。物体光中のデータはこれら2つの光波の干渉縞に応じて誘起されるホログラム(屈折率格子)Hとして記録される。ここで、ホログラフィックメモリ1に予め書き込まれていたホログラムHがある場合には、そのホログラムHは消去され、新たに入射した物体光(Object beam)に基づくホログラムHがホログラフィックメモリ1に書き込まれる。これにより、書き換え動作が行われる。
【0047】
(読み出し動作)
次に、上記ホログラフィックメモリ装置におけるデータの読み出し動作について図3を参照しながら説明する。
【0048】
ホログラフィックメモリ1に記録されているデータを読み出す際には、ホログラフィックメモリ1に読み出し光(Reading beam)が照射され、位相共役鏡2に励起光(Pump beam)が入射される。読み出し光は記録時に用いた参照光と同一の方向からホログラフィックメモリ1に対して入射される。読み出し光はホログラフィックメモリ1中のホログラムHによって回折され、その回折光(Diffraction beam)は位相共役鏡2に入射する。
【0049】
位相共役鏡2中では、回折光強度が、励起光強度によって決められる強度閾値よりも大きい場合にのみ、回折光および励起光の入射によって生じる相互励起型位相共役現象を介して、互いの位相共役光を発生させるようなホログラムが生成される。その結果、回折光の位相共役となるフィードバック光(Feedback beam)が発生し、ホログラムメモリ1中に記録されたホログラムHの位相整合条件を自動的に満足して入射する。
【0050】
ホログラフィックメモリ1中のホログラムHを透過したフィードバック光は、物体光の位相共役となっており、ビームスプリッタ3を介して出力光(Output beam)として出力される。この出力光を検出することによって再生が行われる。
【0051】
この再生過程において、ビームの露光によるホログラム消去効果と、以下に示されるような2つのホログラム再書き込みが同時に生じる。1つは読み出し光と回折光との干渉による再書き込みであり、もう1つはフィードバック光とフィードバック光の回折光との干渉による再書き込みである。この2つの再書き込みの組み合わせにより、最適な条件下では、ビームの露光による消去効果を上回る再書き込み効果を得ることができる。したがって、上記の構成によれば、熱定着や電場定着等の処理を施さなくてもホログラムは保持され、記録されたデータの全光学的な非破壊再生が可能となる。
【0052】
(再生時におけるデータの再書き込みによるホログラムの維持)
上記のように、本実施形態に係るホログラフィックメモリ装置では、読み出し光およびフィードバック光の同時入射、つまり、書き換え可能なホログラフィックメモリ1の両端からビームを同時に入射することによって得られる各々の再書き込み効果の組み合わせによって、ホログラフィックメモリ1に記録されているホログラムHの劣化を防止することが可能となっている。ここでは光のみで書き換え可能なホログラム材料として代表的なフォトリフラクティブ結晶を、ホログラフィックメモリ1の記録媒質として用いた場合について詳細に説明する。
【0053】
ホログラムの再書き込み効果は、読み出し光と、ホログラムによって回折された読み出し光(この読み出し光は記録されているデータの情報を有しており、以降回折光と称する)とが干渉縞を形成し、この干渉縞により再び元の物体光の情報を有するホログラムが記録されることによって実現される。再書き込みの強さは、読み出し光と回折光との強度比に依存する。この強度比が1:1のときに2つの光波による干渉縞のコントラストが最も高くなるため、最も強く書き込まれる。
【0054】
一方、フォトリフラクティブ結晶中のホログラムに、その格子が記録された際の光強度分布と異なる分布を有する光波が入射された際には、記録されているホログラムは消去されることになる。
【0055】
図4に、光波の伝搬方向zを横軸、読み出し光の照射開始からの時間経過を縦軸とし、光波がフォトリフラクティブ効果を介して相互作用する領域のz方向の長さとして定義される相互作用長をLとしたときのホログラムの時間的空間的変化を示す。ここで、フォトリフラクティブ結晶中に記録されているホログラムに、図4におけるz=0の方向から読み出し光を入射した場合について、フォトリフラクティブ結晶中に生じる再書き込み効果と消去効果とを合わせて考えると、図4に示されるように、z=0の点では消去効果のみが生じ、z=0+dz以降の点では再書き込み効果が生じる。
【0056】
まずz=0+dzの点について考えると、この点には読み出し光とz=0の点のホログラムによる回折光とが存在する。よって、この回折光と読み出し光との干渉縞により、記録されたホログラムと同一の情報を有したホログラムが書き込まれる。しかしながら、z=0の点に注目すると、ここには回折光が存在せずホログラムには読み出し光のみが入射されていることになる。当然読み出し光の光強度分布はホログラムを記録した際の光強度分布とは異なるため、z=0の点におけるホログラムは時間が経過するに従って減衰し、最終的には完全に消去される。
【0057】
時間的空間的に上記の現象が連続することにより、ホログラムの分布はzの正方向に移動しながら減衰することとなる。再書き込み効果を得られる領域がz=Lの結晶端面まで到達したとき、もはやそこには再書き込みを行う領域が存在しない。そのため強い消去効果のみが残ることとなり、時間が経過すると結晶中のホログラムは完全に消去されてしまう。
【0058】
また、フィードバック光のみが読み出し光の入射方向とは反対方向から入射された場合には、読み出し光のみを入射した時と同様の現象が逆方向であるzの負方向に向かって生じる。その結果、読み出し光のみを入射した場合と同様に、時間が経過すると結晶中のホログラムは完全に消去されてしまう。
【0059】
しかしながら、読み出し光とフィードバック光を結晶の両側からそれぞれ同時に入射させた場合、時間が経過してもホログラムは維持され続ける。この場合、図5に示されるように、以下に示す2つのホログラム補完作用が生じる。1つ目の作用は、フィードバック光とその回折光とによって発生する再書き込み効果が、読み出し光の入射によって生じる消去効果で弱められたホログラムを補完する作用である。2つ目の作用は、読み出し光とその回折光とによって発生する再書き込み効果が、フィードバック光の入射によって生じる消去効果で弱められたホログラムを補完するという作用である。フォトリフラクティブ結晶の結合強度が大きい場合、この2つの作用によって、時間が経過しても各々の再書き込み効果が消去効果を上回る位置において常に再書き込みを繰り返すことができる。以上のメカニズムによってホログラムは消去されずに維持されることになり、記録データの非破壊再生が可能となる。
【0060】
(位相共役鏡の閾値特性を用いた雑音除去)
相互励起型の位相共役鏡2とは、互いにインコヒーレントな2本の光波が入射されると、互いの位相共役光を発生することができる位相共役鏡である。位相共役鏡2を上記のような位相共役鏡として的確に機能させる、すなわち、位相共役鏡2中に相互励起型の位相共役鏡を生成するためには、入射させる2本の光波の強度比が重要な要素となる。適切な強度比を与えれば、位相共役鏡2を上記のような位相共役鏡として的確に機能させることができるが、不適切な強度比に対しては、位相共役鏡2を上記のような位相共役鏡として的確に機能させることができない。この適切な光強度比の限界は、詳細は後述するが、結合強度によって決定され、そのときの結合強度の値を結合強度閾値という。なお、相互励起型位相共役鏡の形成過程に関しては、前記の非特許文献10に示されている。
【0061】
図6に位相共役鏡2における入射強度比に対する結合強度閾値の関係を示す。ここで、2本の光波の強度をI1およびI2としている。入射強度比が1、つまり2本の入射光波の強度が等しい場合、最小の結合強度閾値2.0をとる。入射強度比が大きくあるいは小さくなる、つまり2本の入射光波の強度差が大きくなるにつれて、結合強度閾値は上昇する。
【0062】
図7に、入射強度差がほとんどない光波を位相共役鏡2の媒質に入射した場合と入射強度差が大きい光波を媒質に入射した場合を(a)および(b)として示す。例えば、位相共役鏡2の媒質の結合強度が3.0である場合、図7における(a)および(b)の状態は、それぞれ図6のグラフ中に示される(a)および(b)の入射強度比に対応する。図7における(a)に示すように、入射強度差がほとんどない場合、図6の関係によって求められる結合強度閾値は、位相共役鏡2の媒質における結合強度の値より十分小さくなる。よって、位相共役鏡2の媒質内に相互励起型位相共役鏡が生成され(位相共役鏡2が相互励起型の位相共役鏡2として機能し)、2つの光波における互いの位相共役光が発生する。
【0063】
一方、図7における(b)に示すように、入射強度差が大きい場合、図6の関係によって求められる結合強度閾値が位相共役鏡2の媒質の結合強度より大きくなる。よって、位相共役鏡2の媒質内に相互励起型位相共役鏡が生成されない(位相共役鏡2が相互励起型の位相共役鏡2として機能しない)。なお、図7において、位相共役鏡2の媒質内に相互励起型位相共役鏡が生成された場合(a)には、位相共役光(Phase conjugate beam)が発生している。
【0064】
以上を考慮すれば、図1などに示すように位相共役鏡2を光フィードバック回路として用いた場合、1本目の光である励起光強度(図1および図3におけるPump beam)を一定とすると、2本目の光としてノイズなどのこれより小さな強度の回折光(図1および図3におけるDiffraction beam)が入射されたとしても、位相共役鏡2の媒質内に相互励起型位相共役鏡が生成されず、フィードバック光(図1および図3におけるFeedback beam)は発生しないことになる。
【0065】
通常のホログラフィックメモリはアナログ記録が行われるので、元のデータに含まれる雑音成分や記録・再生中に生じた雑音成分は、除去されることないので、そのまま再生データの劣化を引き起こすことになる。これに対して、本実施形態の構成によれば、このような雑音成分が生じても、その強度が励起光強度よりも十分に小さく相互励起型位相共役鏡が生成されるのに十分な閾値に達しなければ、それらの雑音成分によるフィードバック光は生じず再生時に維持されることはない。したがって、このような雑音成分によって一時的にホログラムの書き込みが生じ、記録データが劣化したとしても、再生時には読出し光による消去作用によって消滅するものと考えられる。以上のようなメカニズムにより、雑音成分によって、記録されたホログラムが劣化されたり、雑音成分そのものが誤記録されて再生データの品質が低下したりする可能性を著しく低減することができる。
【0066】
(数値解析の実施例)
次に、本実施形態の構成による非破壊読み出し性能および雑音除去性能についての数値解析結果について説明する。図8は、この数値解析を行う上での処理の流れを模式的に示している。同図において、縦軸は時間経過を表している。また、同図において、OJは物体光(Object Beam)、RDは読み出し光(Reading Beam)、RFは参照光(Reference Beam)、DFは回折光(Diffraction Beam)、FBはフィードバック光(Feedback Beam)、および、PUは励起光(Pump Beam)を示している。各光波の相互作用は以下の結合波動方程式で表される。
【0067】
【数1】
【0068】
【数2】
【0069】
【数3】
【0070】
【数4】
【0071】
【数5】
【0072】
【数6】
【0073】
【数7】
【0074】
【数8】
【0075】
ここで、I2S(0)は物体光の光強度、I1S(0)は読み出し光または参照光の光強度、I3M(LM)は回折光の光強度、I3S(LS)はフィードバック光の光強度、I1M(0)は励起光の光強度を表している。また、Ajk(j=1〜4)は各光波の振幅を表し、添え字k(k=S,M)はそれぞれホログラフィックメモリ1および位相共役鏡2を表す。γkおよびτkは相互作用における結合係数および時定数、Qkはフォトリフラクティブ効果により誘起される空間電界に比例する関数である。また、ejk(数1中ではベクトルeハットとして記載)は偏光単位ベクトル、I0kは全光強度、Lkは光波の相互作用長を表す。本解析において、ホログラフィックメモリ1の時定数を光強度50mW/cm2に対し1sとし、τM/τS=0.05とした。いずれの解析においても、図8に示されるように50秒間物体光と参照光とをホログラフィックメモリ1に入射させてホログラムを記録した後、読み出し光と励起光とを入射させることによって再生を行うと仮定し、結合係数と相互作用長の積(γkLk)で表される結合強度をγLkとおく。
【0076】
(非破壊読み出し特性)
図9に、再生時において、ホログラフィックメモリ1の結合強度γLSを3種類の値とした場合における、それぞれの出力光強度I3S(0)の時間応答特性を示す。ここで、物体光強度I2S(0)、読み出し光強度I1S(0)および励起光強度I1M(0)をそれぞれ10mW/cm2、10mW/cm2、および20mW/cm2とし、位相共役鏡2の結合強度γLMを3とした。γLS=2.1の場合、出力光強度は一時的に上昇するものの、すぐに減少し約30秒後には消失してしまう。一方、γLS=2.4およびγLS=2.7の場合には、出力光は200秒以上にわたって発生し続けることが確認できる。以上から、ホログラフィックメモリ1として、比較的大きな結合係数を有する記録媒質を用いることによって、非破壊読み出しを達成できることがわかる。
【0077】
(雑音除去特性)
図10に、記録時に用いた物体光の信号レベルを4種類の値とした場合における、それぞれの読み出し時の出力光強度I3S(0)の時間応答特性を示す。ここで、読み出し光強度I1S(0)および励起光強度I1M(0)をそれぞれ10mW/cm2、および20mW/cm2とし、ホログラフィックメモリ1の結合強度γLSおよび位相共役鏡2の結合強度γLMをそれぞれ2.4および3とした。物体光の信号レベルが0dB、−10dBおよび−20dBの場合には出力光強度は発生し続け、一定値約6.5mW/cm2をとる。一方、物体光の信号レベルが−30dBの場合、出力光は発生しない。以上のことから、本実施形態の構成において、記録可能な信号レベルに対して強度閾値が存在し、その強度閾値を境にデータを2値化(デジタル化)する機能を有していることがわかる。
【0078】
以上のことから、本実施形態に係るホログラフィックメモリ装置は、アナログデータに対する雑音除去機能を有していること、また、デジタルデータの記録・再生に用いた場合には、物理層レベルにおける低ビット誤り率での記録・再生が可能となることがわかる。
【0079】
(実験例)
次に、本実施形態に係るホログラフィックメモリ装置を用いて実際に記録再生処理を行った実験例について説明する。本実験例では、ホログラフィックメモリ1および位相共役鏡2を構成する記録媒質として、BaTiO3結晶(フォトリフラクティブ結晶)を用い、レーザ光源として波長514.5nmのアルゴンイオンレーザを用いた。この場合の実験系の概略を図11(a)〜図11(c)に示す。また、実験結果としての再生画像の読み出し開始からの時間変化を図12(a)〜図12(c)に示し、実験で用いた入力画像を図12(d)に示す。なお、図12(a)〜図12(c)において、再生画像の下部に示す時間は、読み出し開始からの経過時間を示している。
【0080】
図11(a)に示す実験系は、ホログラフィックメモリ1のみを設け、位相共役鏡2を設けない公知のホログラフィックメモリ装置の系を示している。この系による再生画像の時間変化を図12(a)に示す。同図に示すように、読み出し開始時にはデータは正確に再生されているが、2分後には大部分のデータが消えており、5分後にはデータがほぼ完全に消去されていることがわかる。
【0081】
図11(c)に示す実験系は、本実施形態に係るホログラフィックメモリ装置に対応するものであり、ホログラフィックメモリ1および位相共役鏡2を備えた構成となっており、相互励起型の位相共役鏡2によるフィードバック光を用いている。この系による再生画像の時間変化を図12(c)に示す。同図に示すように、読み出し開始から20分が経過しても、記録されたデータが消去されておらず、非破壊読み出しに成功していることがわかる。また、長時間の読出しを行っても画像にノイズが混じることはなく、雑音除去効果があることがわかる。
【0082】
図11(b)は、本実施形態に係るホログラフィックメモリ装置の変形例として、位相共役鏡2’として、自己励起型の位相共役器(SPPCM(Self Pumped Phase Conjugate Mirror))を設け、このフィードバック光を用いた構成を示している。この系による再生画像の時間変化を図12(b)に示す。同図に示すように、この系の場合にも、読み出し開始から20分を経過しても、記録されたデータが消去されておらず、長時間にわたる読み出しが可能となっている。しかしながら、再生画像中にノイズが発生しており、時間経過によってもこのノイズが除去されておらず、不鮮明な再生画像が観測されている。すなわち、この系では、雑音除去効果はないことがわかる。以上より、相互励起型の位相共役鏡2を用いてフィードバックを行う構成は、画質ならびに非破壊読み出し時間の両面から有利であることがわかる。
【0083】
実験機材の都合上ホログラフィックメモリとレンズ及び位相共役器の距離は図11(b)と図11(c)との間で異なっているが、いずれの系においてもホログラフィックメモリとレンズ及び位相共役器の距離を等しくすることは可能である。両者の構成上の相違としては、SPPCMにおいては、位相共役器への励起光の入射が不要であり、位相共役器中で発生した光が結晶中で全反射となるような光線角度で光線を入射する。一方、MPPCMでは、位相共役器への励起光の入射が必要であり、位相共役器への2つの入射波が共にビームファニングを効率良く発生する角度で入射させる必要がある。
【0084】
なお、上記した具体的な実施の形態と実施例とは、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と特許請求の範囲に記載した範囲内で、種々変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明に係るホログラフィックメモリ装置は、大容量のデータを記録し、かつ、データの記録速度、読み出し速度を高速に行うことを要求される情報記録再生装置として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の実施の一形態に係るホログラフィックメモリ装置の要部の概略構成を示す図である。
【図2】記録・書き換え動作時におけるホログラフィックメモリ装置の要部の概略構成を示す図である。
【図3】再生動作時におけるホログラフィックメモリ装置の要部の概略構成を示す図である。
【図4】読み出し光の入射に伴う再書き込みと消去とによるホログラムの時間的空間的変化を模式的に示す図である。
【図5】読み出し光とフィードバック光との入射に伴う2つのホログラムの補完作用を模式的に示す図である。
【図6】相互励起型の位相共役鏡における入射強度比に対する結合強度閾値を示すグラフである。
【図7】相互励起型の位相共役鏡の生成の入射光強度比依存性を模式的に示す図である。
【図8】本実施形態の構成による非破壊読み出し性能および雑音除去性能についての数値解析を行う上での処理の流れを模式的に示す図である。
【図9】ホログラフィックメモリの結合強度に対する非破壊読み出し特性を示すグラフである。
【図10】物体光の信号レベルを4種類の値とした場合における、それぞれの読み出し時の出力光強度の時間応答特性を示すグラフである。
【図11】同図(a)〜同図(c)は、実験系の要部の概略構成を示す図である。
【図12】同図(a)〜同図(c)は、実験結果としての再生画像の読み出し開始からの時間変化を示す図であり、同図(d)は、実験で用いた入力画像を示す図である。
【図13】ホログラフィックメモリ装置の概略構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0087】
1 ホログラフィックメモリ(ホログラム記録媒質)
2 位相共役鏡(位相共役ホログラム記録媒質)
3 ビームスプリッタ
4 第1光源
5 第2光源
6 第3光源(励起光光源)
7 SLM(光変調手段)
8 光検出器(光検出手段)
9 制御部(制御手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラフィックメモリとして例えばフォトリフラクティブ結晶を用い、該結晶中へのホログラムの記録・再生・消去を行うホログラム処理装置およびホログラム処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホログラフィックメモリ(ホログラムメモリ)は、物体をレーザ光などの干渉性の高い光で照明し、3次元の立体画像を記録できる技術(ホログラフィー)を応用し、2次元画像として表される情報を何層にも記録できるようにした記憶装置である。情報の再生は、ホログラフィックメモリに対して、情報を読み書きするための参照光を当てることによって、情報をもった画像が読み出されることによって実現される。
【0003】
例えば従来のCDやDVDなどの光ディスク記録装置は、回転する光ディスクにレーザを当て、ビット単位でデータの読み出し・書き込みを行う一方、ホログラフィックメモリは、レーザを一度当てるだけで同時に何千ビットもの読み出し・書き込みを行う。すなわち、ホログラフィックメモリは、従来の光ディスク記録装置と比較して、高速なデータ転送が可能となっている。
【0004】
また、ホログラフィックメモリは、情報としての2次元画像のホログラムをホログラム媒質中の同一個所に多重記録することが可能である。よって、情報の記録密度を極めて高くすることができるので、大容量化を実現することができる。
【0005】
以上のように、ホログラフィックメモリは、2次元データのダイレクトな記録再生方式に由来する高速性と、同一箇所への多重記録に由来する大容量性とを有しているので、次世代光メモリとして注目されている。
【0006】
従来のホログラフィックメモリは、原則的にはライトワンス(Write Once, 媒質の同一領域にはデータを一度しか書き込めず、書き込んだデータの変更はできない)のものが多い。一方、ホログラム媒質としてフォトリフラクティブ媒質(フォトリフラクティブ結晶)を用いたホログラフィックメモリでは、一旦記録されたホログラムを消去することが可能であり、書き換え型メモリへの応用が期待されている。
【0007】
フォトリフラクティブ媒質とは、光の照射によって屈折率が変化する媒質群を指し、鉄を不純物として含むリチウムニオブ酸(LiNbO3:Fe)や、セリウムを不純物として含むストロンチウムバリウムニオブ酸(SrxBa1...xNb2O6:Ce)等、数多くの媒質が知られている。
【0008】
一方、上記のように、データを記録した後でも、光のみによるデータの書き換えが可能なホログラフィックメモリは、読出し用の光によって記録されているデータが劣化したり、消去されたりという問題点を有している。このような読出し光による記録データの劣化・消去をふせぐために、電界や熱を用いるホログラムの定着技術も提案されている。
【0009】
しかしながら、このような定着技術を用いる場合、リアルタイム処理(実時間でのホログラム記録再生)が困難になるという問題が生じる。また、定着処理を行うための電子回路が必要となることにより、メモリシステム全体が複雑になり、装置コストの上昇を招来する。
【0010】
一方、最近では、ホログラムを形成する記録光(波長l1、参照光と物体光)に加えて,記録波長(l1)での記録感度を発生させる励起光(波長l2、l1>l2)と呼ぶもう1つの光を同時に照射することでホログラムを記録し、再生時には記録光と同波長の読出し光(波長l1)のみを照射する、2光子書込み/1光子読出しの手法を用いたホログラフィックメモリが注目されている。この方法によれば、光のみによるホログラムの非破壊再生を実現することが可能である。
【非特許文献1】L. Solymar, D. J. Webb and A. Grunnet-jepsen; The Physics and Applications of Photorefractive Materials, Oxford University Press (1996).
【非特許文献2】X. An, D. Psaltis and G. W. Burr; “Thermal fixing of 10,000 holograms in LiNbO3:Fe,” Appl. Opt. vol.38, pp.386-393 (1999).
【非特許文献3】B. Liu, L. Liu and L. Xu; “Characteristics of recording and thermal fixing in lithium niobate,” Appl. Opt. vol.37, no.11, pp.2170-2176 (1998).
【非特許文献4】J. Ma, T. Chang, J. Hong, R. Neurgaonkar, G. Barbastathis and D. Psaltis; “Electrical fixing of 1000 angle-multiplexed holograms in SBN:75,” Opt. Lett. vol.22, no.14, pp.1116-1118 (1997).
【非特許文献5】D. Kirillov and Jack Feinberg; “Fixable complementary gratings in photorefractive BaTiO3,” Opt. Lett. .vol.16, no.19, pp.1520-1522 (1991).
【非特許文献6】R. Matull and R. A. Rupp; “Microphotometric investigation of fixed holograms,” J. Phys. D: Appl. Phys. vol.21. pp.1556-1565 (1988).
【非特許文献7】H. Guenther, G. Wittmann, R. M. Macfarlane, R. R. Neurgaonkar; “Intensity dependence and white-light gating of two-color photorefractive gratings in LiNbO3,” Opt. Lett. vol.22, no.17, pp.1305-1307 (1997).
【非特許文献8】畑野秀樹,田中覚,山路崇,伊藤善尚,松下元 ; “ディジタルホログラムメモリー用記録材料の開発,” パイオニアR&D, vol.11, pp.73-82 (2001).
【非特許文献9】Y. Liu, K. Kitamura, S. Takekawa, G. Ravi, M. Nakamura, H. Hatano, and T. Yamaji; “Nonvolatile two-color holography in Mn-doped near-stoichiometric lithium niobate,” Appl. Phys. Lett. vol.81, pp.2686-2688 (2002).
【非特許文献10】M. D. Ewbank, R. A. Vazquez, R. R. Neurgaonkar and Jack Feinberg,“Mutually pumped phase conjugation in photorefractive strontium bariumniobate: theory and experiment”, JOSA B, Volume 7, Issue 12, pp.2306-,December 1990.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、2光子書込み/1光子読出しの手法を用いたホログラフィックメモリの場合、記録時において、記録光の波長(l1)で記録感度を発生させるために、記録・再生に用いる光とは波長の異なる励起光が必要とされるという問題や、LiNbO3結晶やLiTaO3結晶など、励起光が照射されているときにのみ記録光の波長で記録感度を発生させるために必要な電子の中間励起準位が存在する特定の無機フォトリフラクティブ材料を記録媒質として用いた場合にしか適用できないという問題がある。
【0012】
また、記録するデータが2値デジタル画像である場合、元の画像に何らかの雑音(ノイズ)が含まれていたり、記録中になんらかの雑音が付加されていたりすることによってデータが劣化していることが考えられる。ここで、従来のホログラフィックメモリは基本的にアナログ記録が行われるので、劣化したデータがそのまま記録・再生されることになる。
【0013】
これを避けるためには、記録前のデータが含まれる光信号を一旦電気信号に変換し、外部処理装置を用いて雑音の除去や劣化を補償する電子的処理を行った後、再び光信号に変換し光メモリに記録する処理が必要となる。また、ホログラム再生中に生じた雑音やデータの劣化に対しては、再生後にそれを取り除くための電子処理が必要となっている。
【0014】
以上より、現状における書き換え可能(リライタブル)なホログラムメモリの大きな問題点として、読み出し用の光によってデータが消去(もしくは劣化)されることと、記録再生に伴ってノイズによるデータの劣化が発生することの二つがあげられる。
【0015】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであって、その目的は、簡素な構成で短時間の処理が可能であり、かつ、再生が繰り返されたとしても、記録されているホログラムの劣化が生じず、常に良好な再生を行うことが可能なホログラム処理装置およびホログラム処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
以上の課題を解決するために、本発明に係るホログラム処理装置は、ホログラム記録媒質に読み出し光を照射することによって、該ホログラム記録媒質に記録されているホログラムを再生するホログラム処理装置であって、ホログラムを記録する位相共役ホログラム記録媒質を備え、上記読み出し光が上記ホログラム記録媒質に照射されて該ホログラム記録媒質から出射される回折光が上記位相共役ホログラム記録媒質に照射され、上記ホログラム記録媒質に記録されているホログラムと位相共役なフィードバック光が、該位相共役ホログラム記録媒質から上記ホログラム記録媒質に照射されることを特徴としている。
【0017】
また、本発明に係るホログラム処理方法は、ホログラム記録媒質に読み出し光を照射することによって、該ホログラム記録媒質に記録されているホログラムを再生するホログラム処理方法であって、上記読み出し光が上記ホログラム記録媒質に照射されて該ホログラム記録媒質から出射される回折光を、ホログラムを記録する位相共役ホログラム記録媒質に照射するステップと、上記位相共役ホログラム記録媒質から出射される、上記ホログラム記録媒質に記録されているホログラムと位相共役なフィードバック光を上記ホログラム記録媒質に照射するステップとを有することを特徴としている。
【0018】
上記の構成および方法では、まず、ホログラム記録媒質に記録されているホログラムを再生する際に、該ホログラム記録媒質に読み出し光が照射される。ホログラム記録媒質に読み出し光が照射されると、記録されているホログラムによる回折光が出射される。また、この回折光が位相共役ホログラム記録媒質に照射されると、ホログラム記録媒質に記録されているホログラムと位相共役なフィードバック光がホログラム記録媒質に照射されることになる。
【0019】
ここで、ホログラム記録媒質に対して、単に読み出し光を照射することによって再生を行う場合、この読み出し光によって、ホログラム記録媒質に記録されているホログラムの消去効果が生じることになり、再生が繰り返されたり、再生時間が長くなったりすることによって、ホログラム記録媒質に記録されているホログラムが劣化するという問題が生じる。
【0020】
これに対して、上記の構成および方法によれば、ホログラム記録媒質に対して、読み出し光が照射されるとともに、記録されているホログラムと位相共役な画像情報を含むフィードバック光が照射されることになる。これによって、読み出し光による消去効果を補完するようにフィードバック光による再書き込み効果がホログラム記録媒質内で生じるので、記録されているホログラムの劣化が生じないことになる。したがって、再生が繰り返されたとしても、記録されているホログラムの劣化が生じず、常に良好な再生を行うことが可能なホログラム処理装置を提供することが可能となる。
【0021】
また、定着技術などを利用していないので、再生処理に必要とされる時間も短時間で済み、リアルタイム処理も可能となるとともに、特別な電子回路なども不要とすることができる。
【0022】
また、再生時に必要とされる光は、読み出し光のみであるので、例えば異なる波長の光を出射させるための光源を複数設ける必要もなく、装置コストの低減および装置の簡素化、小型化を図ることができる。
【0023】
また、本発明に係るホログラム処理装置は、上記の構成において、上記位相共役ホログラム記録媒質に対して励起光を照射する励起光光源を備え、上記読み出し光が上記ホログラム記録媒質に照射されて該ホログラム記録媒質から出射される回折光と、上記励起光とにより生じる回折光によって、上記位相共役ホログラム記録媒質に、ホログラム記録媒質に記録されているホログラムと位相共役なホログラムが形成されるとともに、上記位相共役ホログラム記録媒質が、上記励起光および上記回折光が入射された際に、相互励起型の位相共役鏡が生成される上記位相共役ホログラム記録媒質が、上記励起光および上記回折光が入射された際に、相互励起型の位相共役鏡が生成される構成としてもよい。
【0024】
上記の構成では、位相共役ホログラム記録媒質に励起光および回折光が入射されると、その内部に相互励起型の位相共役鏡が生成するようになっている。この相互励起型の位相共役鏡は、詳細は後述するが、励起光の光強度に対する回折光の光強度の比が所定の閾値以上となっている場合にのみ生成される。ここで、ホログラム記録媒質に記録されているホログラムにノイズが生じている場合、このノイズによる回折光の光強度は、正常に記録されている部分からの回折光の光強度に比べて小さいことが予想される。よって、このノイズによる回折光の光強度の励起光に対する比が上記の閾値よりも小さければ、ノイズに関する情報は相互励起型の位相共役鏡には反映されないことになる。この場合、フィードバック光にはノイズの情報が含まれていないことになり、ホログラム記録媒質に記録されているホログラムに生じているノイズは、フィードバック光によって消去されることになる。
【0025】
すなわち、上記の構成によれば、ホログラム記録媒質に記録されているホログラムに生じているノイズを消去することによって、再生データの品質を向上させることが可能となる。例えば、アナログデータの再生に対しては雑音除去機能を有することになり、記録される画像の画質を改善することができる。また、デジタルデータに対しては、低ビット誤り率での再生を可能とする。
【0026】
また、励起光は、読み出し光と同じ波長の光で実現できるので、異なる波長の光を出射させるための光源を複数設ける必要もなく、装置コストの低減および装置の簡素化、小型化を図ることができる。
【0027】
また、本発明に係るホログラム処理装置は、上記の構成において、2次元画像情報に基づく空間変調を光に施し、物体光として上記ホログラム記録媒質に対して光を照射する光変調手段をさらに備え、上記ホログラム記録媒質に対して物体光および参照光を照射することによって、該ホログラム記録媒質にホログラムを記録する処理をさらに行う構成としてもよい。
【0028】
上記の構成によれば、ホログラム記録媒質に対して情報の記録を行うことも可能となる。よって、記録した情報を長期間劣化させずに保持することが可能なホログラム処理装置を提供することが可能となる。
【0029】
また、本発明に係るホログラム処理装置は、上記の構成において、上記読み出し光、上記励起光、上記物体光、および上記参照光の照射を制御し、上記光変調手段の動作を制御する制御部を備え、上記制御部が、記録時に、上記光変調手段に記録すべき情報に応じた光変調動作を行わせるとともに、上記物体光および上記参照光を上記ホログラム記録媒質に照射するように制御し、再生時に、上記読み出し光および上記励起光をそれぞれ上記ホログラム記録媒質および上記位相共役ホログラム記録媒質に照射するように制御する構成としてもよい。
【0030】
上記の構成によれば、制御部による上記のような制御に基づいて、記録処理および再生処理が行われることになる。よって、記録処理および再生処理を的確に制御することが可能なホログラム処理装置を提供することができる。
【0031】
また、本発明に係るホログラム処理装置は、上記の構成において、上記ホログラム記録媒質が、BaTiO3結晶によって構成される構成としてもよい。
【0032】
上記の構成によれば、ホログラム記録媒質をBaTiO3結晶によって構成しているので、例えばLiNbO3結晶などの書き込みに時間がかかる材料などを用いる必要がない。よって、処理時間の低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0033】
以上のように、本発明に係るホログラム処理装置は、ホログラムを記録する位相共役ホログラム記録媒質を備え、上記読み出し光が上記ホログラム記録媒質に照射されて該ホログラム記録媒質から出射される回折光が上記位相共役ホログラム記録媒質に照射され、上記ホログラム記録媒質に記録されているホログラムと位相共役なフィードバック光が、該位相共役ホログラム記録媒質から上記ホログラム記録媒質に照射される構成である。
【0034】
これにより、再生が繰り返されたとしても、記録されているホログラムの劣化が生じず、常に良好な再生を行うことが可能なホログラム処理装置を提供することが可能となるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明の一実施形態について、図1ないし図13に基づいて説明すると以下の通りである。
【0036】
(ホログラフィックメモリ装置の構成)
図13に、本発明の実施の一形態に係るホログラフィックメモリ装置(ホログラム処理装置)の概略構成を示す。同図に示すように、該ホログラフィックメモリ装置は、ホログラフィックメモリ(ホログラム記録媒質)1、位相共役鏡(位相共役ホログラム記録媒質)2、ビームスプリッタ3、第1光源4、第2光源5、第3光源6、SLM(光変調手段)7、光検出器(光検出手段)8、および制御部(制御手段)9を備えている。
【0037】
ホログラフィックメモリ1は、光によって書き換え可能なホログラム記録部である。位相共役鏡2は、後述するフィードバック光を生成するものである。このホログラフィックメモリ1および位相共役鏡2の詳細については後述する。
【0038】
第1光源4は、SLM7に対して光を照射するための光源である。SLM7は、第1光源4からの光に対して、記録すべきデータに応じた変調を加え、物体光としてビームスプリッタ3に入射させる。ビームスプリッタ3は、SLM7からの物体光をホログラフィックメモリ1に導光するとともに、ホログラフィックメモリ1から入射された再生光を光検出器8へ導光する。光検出器8は、ビームスプリッタ3から入射された再生光を検出し、データの再生を行う。
【0039】
第2光源5は、書き込み時における参照光および読み出し時における読み出し光をホログラフィックメモリ1に照射するための光源である。この第2光源5からホログラフィックメモリ1に入射される参照光は、第1光源4からSLM7、ビームスプリッタ3を介してホログラフィックメモリ1に入射される物体光とコヒーレントとなるよう、制御部9によって制御される。第3光源6は、励起光を位相共役鏡2に照射するための光源である。
【0040】
制御部9は、ホログラフィックメモリ装置における動作を統括的に制御する。具体的には、制御部9は、第1光源4、第2光源5、第3光源6、SLM7、および光検出器8の動作を制御する。以下に示すホログラムの記録・再生処理は、制御部9の制御に基づいて行われる。
【0041】
なお、上記の構成では、第1光源4、第2光源5、および第3光源6をそれぞれ別の構成として設けられているが、実際には、単一の光源から出射された光を、ビームスプリッタおよびミラーなどを用いて3つの光に分離し、これらを各光源として機能させる構成としてもよい。この場合、光源を単一にすることができるので、装置コストの低減および構成の簡素化を図ることができる。
【0042】
また、図13に示す構成では、ホログラムを多重記録する構成については考慮されていないが、このような構成を備えていてもよい。例えば、ホログラムの多重記録手法の一例として、ホログラムごとに参照光の波面を変えるスペックル多重記録手法を用いる場合には、後述する参照光の光路上にすりガラスを配置する構成としてもよい。また、ホログラムごとに参照光の波長を変える波長多重記録手法や、ホログラムごとに参照光の角度を変える角度多重記録法、ホログラムごとに参照光の位相を変化させる位相コード多重記録法、参照光として球面波を用い、ホログラムごとに記録媒質(ホログラフィックメモリ)を微小距離移動する球面参照光シフト多重記録法など他のホログラム多重記録手法を用いてもよい。
【0043】
また、上記の構成では、ホログラムを記録するための構成および再生するための構成の両方を備えた構成となっているが、ホログラムの再生のみを行う構成としてもよい。この場合、第1光源4、SLM7、ビームスプリッタ3などの構成を省略してもよい。
【0044】
図1に、上記ホログラフィックメモリ装置の要部の概略構成を示す。同図に示すように、ホログラフィックメモリ装置は、光によって書き換え可能(リライタブル)なホログラフィックメモリ1、および、フィードバック生成部としての相互励起型位相共役鏡(MPPCM(Mutually Pumped Phase Conjugate Mirror))2(以降、位相共役鏡2と称する)が設けられている。ホログラフィックメモリ1は、フォトリフラクティブ媒質によって構成される。このホログラフィックメモリ装置において、データの書き込みは物体光(Object beam)と参照光(Reference beam)とによって行われる。また、雑音除去されたデータの読み出し、および記録データを保持した状態での読み出しは読み出し光(Reading beam)と励起光(Pump beam)とによって行われる。以上の構成により、雑音除去機能を有した、光による非破壊読出し可能なリライタブル・ホログラフィック光メモリを実現することができる。
【0045】
(記録・書き換え動作)
次に、上記ホログラフィックメモリ装置におけるデータの記録動作および書き換え動作について図2を参照しながら説明する。
【0046】
ビームスプリッタ3を透過した物体光(Object beam)が、参照光(Reference beam)とともに書き換え可能なホログラフィックメモリ1に入射する。物体光中のデータはこれら2つの光波の干渉縞に応じて誘起されるホログラム(屈折率格子)Hとして記録される。ここで、ホログラフィックメモリ1に予め書き込まれていたホログラムHがある場合には、そのホログラムHは消去され、新たに入射した物体光(Object beam)に基づくホログラムHがホログラフィックメモリ1に書き込まれる。これにより、書き換え動作が行われる。
【0047】
(読み出し動作)
次に、上記ホログラフィックメモリ装置におけるデータの読み出し動作について図3を参照しながら説明する。
【0048】
ホログラフィックメモリ1に記録されているデータを読み出す際には、ホログラフィックメモリ1に読み出し光(Reading beam)が照射され、位相共役鏡2に励起光(Pump beam)が入射される。読み出し光は記録時に用いた参照光と同一の方向からホログラフィックメモリ1に対して入射される。読み出し光はホログラフィックメモリ1中のホログラムHによって回折され、その回折光(Diffraction beam)は位相共役鏡2に入射する。
【0049】
位相共役鏡2中では、回折光強度が、励起光強度によって決められる強度閾値よりも大きい場合にのみ、回折光および励起光の入射によって生じる相互励起型位相共役現象を介して、互いの位相共役光を発生させるようなホログラムが生成される。その結果、回折光の位相共役となるフィードバック光(Feedback beam)が発生し、ホログラムメモリ1中に記録されたホログラムHの位相整合条件を自動的に満足して入射する。
【0050】
ホログラフィックメモリ1中のホログラムHを透過したフィードバック光は、物体光の位相共役となっており、ビームスプリッタ3を介して出力光(Output beam)として出力される。この出力光を検出することによって再生が行われる。
【0051】
この再生過程において、ビームの露光によるホログラム消去効果と、以下に示されるような2つのホログラム再書き込みが同時に生じる。1つは読み出し光と回折光との干渉による再書き込みであり、もう1つはフィードバック光とフィードバック光の回折光との干渉による再書き込みである。この2つの再書き込みの組み合わせにより、最適な条件下では、ビームの露光による消去効果を上回る再書き込み効果を得ることができる。したがって、上記の構成によれば、熱定着や電場定着等の処理を施さなくてもホログラムは保持され、記録されたデータの全光学的な非破壊再生が可能となる。
【0052】
(再生時におけるデータの再書き込みによるホログラムの維持)
上記のように、本実施形態に係るホログラフィックメモリ装置では、読み出し光およびフィードバック光の同時入射、つまり、書き換え可能なホログラフィックメモリ1の両端からビームを同時に入射することによって得られる各々の再書き込み効果の組み合わせによって、ホログラフィックメモリ1に記録されているホログラムHの劣化を防止することが可能となっている。ここでは光のみで書き換え可能なホログラム材料として代表的なフォトリフラクティブ結晶を、ホログラフィックメモリ1の記録媒質として用いた場合について詳細に説明する。
【0053】
ホログラムの再書き込み効果は、読み出し光と、ホログラムによって回折された読み出し光(この読み出し光は記録されているデータの情報を有しており、以降回折光と称する)とが干渉縞を形成し、この干渉縞により再び元の物体光の情報を有するホログラムが記録されることによって実現される。再書き込みの強さは、読み出し光と回折光との強度比に依存する。この強度比が1:1のときに2つの光波による干渉縞のコントラストが最も高くなるため、最も強く書き込まれる。
【0054】
一方、フォトリフラクティブ結晶中のホログラムに、その格子が記録された際の光強度分布と異なる分布を有する光波が入射された際には、記録されているホログラムは消去されることになる。
【0055】
図4に、光波の伝搬方向zを横軸、読み出し光の照射開始からの時間経過を縦軸とし、光波がフォトリフラクティブ効果を介して相互作用する領域のz方向の長さとして定義される相互作用長をLとしたときのホログラムの時間的空間的変化を示す。ここで、フォトリフラクティブ結晶中に記録されているホログラムに、図4におけるz=0の方向から読み出し光を入射した場合について、フォトリフラクティブ結晶中に生じる再書き込み効果と消去効果とを合わせて考えると、図4に示されるように、z=0の点では消去効果のみが生じ、z=0+dz以降の点では再書き込み効果が生じる。
【0056】
まずz=0+dzの点について考えると、この点には読み出し光とz=0の点のホログラムによる回折光とが存在する。よって、この回折光と読み出し光との干渉縞により、記録されたホログラムと同一の情報を有したホログラムが書き込まれる。しかしながら、z=0の点に注目すると、ここには回折光が存在せずホログラムには読み出し光のみが入射されていることになる。当然読み出し光の光強度分布はホログラムを記録した際の光強度分布とは異なるため、z=0の点におけるホログラムは時間が経過するに従って減衰し、最終的には完全に消去される。
【0057】
時間的空間的に上記の現象が連続することにより、ホログラムの分布はzの正方向に移動しながら減衰することとなる。再書き込み効果を得られる領域がz=Lの結晶端面まで到達したとき、もはやそこには再書き込みを行う領域が存在しない。そのため強い消去効果のみが残ることとなり、時間が経過すると結晶中のホログラムは完全に消去されてしまう。
【0058】
また、フィードバック光のみが読み出し光の入射方向とは反対方向から入射された場合には、読み出し光のみを入射した時と同様の現象が逆方向であるzの負方向に向かって生じる。その結果、読み出し光のみを入射した場合と同様に、時間が経過すると結晶中のホログラムは完全に消去されてしまう。
【0059】
しかしながら、読み出し光とフィードバック光を結晶の両側からそれぞれ同時に入射させた場合、時間が経過してもホログラムは維持され続ける。この場合、図5に示されるように、以下に示す2つのホログラム補完作用が生じる。1つ目の作用は、フィードバック光とその回折光とによって発生する再書き込み効果が、読み出し光の入射によって生じる消去効果で弱められたホログラムを補完する作用である。2つ目の作用は、読み出し光とその回折光とによって発生する再書き込み効果が、フィードバック光の入射によって生じる消去効果で弱められたホログラムを補完するという作用である。フォトリフラクティブ結晶の結合強度が大きい場合、この2つの作用によって、時間が経過しても各々の再書き込み効果が消去効果を上回る位置において常に再書き込みを繰り返すことができる。以上のメカニズムによってホログラムは消去されずに維持されることになり、記録データの非破壊再生が可能となる。
【0060】
(位相共役鏡の閾値特性を用いた雑音除去)
相互励起型の位相共役鏡2とは、互いにインコヒーレントな2本の光波が入射されると、互いの位相共役光を発生することができる位相共役鏡である。位相共役鏡2を上記のような位相共役鏡として的確に機能させる、すなわち、位相共役鏡2中に相互励起型の位相共役鏡を生成するためには、入射させる2本の光波の強度比が重要な要素となる。適切な強度比を与えれば、位相共役鏡2を上記のような位相共役鏡として的確に機能させることができるが、不適切な強度比に対しては、位相共役鏡2を上記のような位相共役鏡として的確に機能させることができない。この適切な光強度比の限界は、詳細は後述するが、結合強度によって決定され、そのときの結合強度の値を結合強度閾値という。なお、相互励起型位相共役鏡の形成過程に関しては、前記の非特許文献10に示されている。
【0061】
図6に位相共役鏡2における入射強度比に対する結合強度閾値の関係を示す。ここで、2本の光波の強度をI1およびI2としている。入射強度比が1、つまり2本の入射光波の強度が等しい場合、最小の結合強度閾値2.0をとる。入射強度比が大きくあるいは小さくなる、つまり2本の入射光波の強度差が大きくなるにつれて、結合強度閾値は上昇する。
【0062】
図7に、入射強度差がほとんどない光波を位相共役鏡2の媒質に入射した場合と入射強度差が大きい光波を媒質に入射した場合を(a)および(b)として示す。例えば、位相共役鏡2の媒質の結合強度が3.0である場合、図7における(a)および(b)の状態は、それぞれ図6のグラフ中に示される(a)および(b)の入射強度比に対応する。図7における(a)に示すように、入射強度差がほとんどない場合、図6の関係によって求められる結合強度閾値は、位相共役鏡2の媒質における結合強度の値より十分小さくなる。よって、位相共役鏡2の媒質内に相互励起型位相共役鏡が生成され(位相共役鏡2が相互励起型の位相共役鏡2として機能し)、2つの光波における互いの位相共役光が発生する。
【0063】
一方、図7における(b)に示すように、入射強度差が大きい場合、図6の関係によって求められる結合強度閾値が位相共役鏡2の媒質の結合強度より大きくなる。よって、位相共役鏡2の媒質内に相互励起型位相共役鏡が生成されない(位相共役鏡2が相互励起型の位相共役鏡2として機能しない)。なお、図7において、位相共役鏡2の媒質内に相互励起型位相共役鏡が生成された場合(a)には、位相共役光(Phase conjugate beam)が発生している。
【0064】
以上を考慮すれば、図1などに示すように位相共役鏡2を光フィードバック回路として用いた場合、1本目の光である励起光強度(図1および図3におけるPump beam)を一定とすると、2本目の光としてノイズなどのこれより小さな強度の回折光(図1および図3におけるDiffraction beam)が入射されたとしても、位相共役鏡2の媒質内に相互励起型位相共役鏡が生成されず、フィードバック光(図1および図3におけるFeedback beam)は発生しないことになる。
【0065】
通常のホログラフィックメモリはアナログ記録が行われるので、元のデータに含まれる雑音成分や記録・再生中に生じた雑音成分は、除去されることないので、そのまま再生データの劣化を引き起こすことになる。これに対して、本実施形態の構成によれば、このような雑音成分が生じても、その強度が励起光強度よりも十分に小さく相互励起型位相共役鏡が生成されるのに十分な閾値に達しなければ、それらの雑音成分によるフィードバック光は生じず再生時に維持されることはない。したがって、このような雑音成分によって一時的にホログラムの書き込みが生じ、記録データが劣化したとしても、再生時には読出し光による消去作用によって消滅するものと考えられる。以上のようなメカニズムにより、雑音成分によって、記録されたホログラムが劣化されたり、雑音成分そのものが誤記録されて再生データの品質が低下したりする可能性を著しく低減することができる。
【0066】
(数値解析の実施例)
次に、本実施形態の構成による非破壊読み出し性能および雑音除去性能についての数値解析結果について説明する。図8は、この数値解析を行う上での処理の流れを模式的に示している。同図において、縦軸は時間経過を表している。また、同図において、OJは物体光(Object Beam)、RDは読み出し光(Reading Beam)、RFは参照光(Reference Beam)、DFは回折光(Diffraction Beam)、FBはフィードバック光(Feedback Beam)、および、PUは励起光(Pump Beam)を示している。各光波の相互作用は以下の結合波動方程式で表される。
【0067】
【数1】
【0068】
【数2】
【0069】
【数3】
【0070】
【数4】
【0071】
【数5】
【0072】
【数6】
【0073】
【数7】
【0074】
【数8】
【0075】
ここで、I2S(0)は物体光の光強度、I1S(0)は読み出し光または参照光の光強度、I3M(LM)は回折光の光強度、I3S(LS)はフィードバック光の光強度、I1M(0)は励起光の光強度を表している。また、Ajk(j=1〜4)は各光波の振幅を表し、添え字k(k=S,M)はそれぞれホログラフィックメモリ1および位相共役鏡2を表す。γkおよびτkは相互作用における結合係数および時定数、Qkはフォトリフラクティブ効果により誘起される空間電界に比例する関数である。また、ejk(数1中ではベクトルeハットとして記載)は偏光単位ベクトル、I0kは全光強度、Lkは光波の相互作用長を表す。本解析において、ホログラフィックメモリ1の時定数を光強度50mW/cm2に対し1sとし、τM/τS=0.05とした。いずれの解析においても、図8に示されるように50秒間物体光と参照光とをホログラフィックメモリ1に入射させてホログラムを記録した後、読み出し光と励起光とを入射させることによって再生を行うと仮定し、結合係数と相互作用長の積(γkLk)で表される結合強度をγLkとおく。
【0076】
(非破壊読み出し特性)
図9に、再生時において、ホログラフィックメモリ1の結合強度γLSを3種類の値とした場合における、それぞれの出力光強度I3S(0)の時間応答特性を示す。ここで、物体光強度I2S(0)、読み出し光強度I1S(0)および励起光強度I1M(0)をそれぞれ10mW/cm2、10mW/cm2、および20mW/cm2とし、位相共役鏡2の結合強度γLMを3とした。γLS=2.1の場合、出力光強度は一時的に上昇するものの、すぐに減少し約30秒後には消失してしまう。一方、γLS=2.4およびγLS=2.7の場合には、出力光は200秒以上にわたって発生し続けることが確認できる。以上から、ホログラフィックメモリ1として、比較的大きな結合係数を有する記録媒質を用いることによって、非破壊読み出しを達成できることがわかる。
【0077】
(雑音除去特性)
図10に、記録時に用いた物体光の信号レベルを4種類の値とした場合における、それぞれの読み出し時の出力光強度I3S(0)の時間応答特性を示す。ここで、読み出し光強度I1S(0)および励起光強度I1M(0)をそれぞれ10mW/cm2、および20mW/cm2とし、ホログラフィックメモリ1の結合強度γLSおよび位相共役鏡2の結合強度γLMをそれぞれ2.4および3とした。物体光の信号レベルが0dB、−10dBおよび−20dBの場合には出力光強度は発生し続け、一定値約6.5mW/cm2をとる。一方、物体光の信号レベルが−30dBの場合、出力光は発生しない。以上のことから、本実施形態の構成において、記録可能な信号レベルに対して強度閾値が存在し、その強度閾値を境にデータを2値化(デジタル化)する機能を有していることがわかる。
【0078】
以上のことから、本実施形態に係るホログラフィックメモリ装置は、アナログデータに対する雑音除去機能を有していること、また、デジタルデータの記録・再生に用いた場合には、物理層レベルにおける低ビット誤り率での記録・再生が可能となることがわかる。
【0079】
(実験例)
次に、本実施形態に係るホログラフィックメモリ装置を用いて実際に記録再生処理を行った実験例について説明する。本実験例では、ホログラフィックメモリ1および位相共役鏡2を構成する記録媒質として、BaTiO3結晶(フォトリフラクティブ結晶)を用い、レーザ光源として波長514.5nmのアルゴンイオンレーザを用いた。この場合の実験系の概略を図11(a)〜図11(c)に示す。また、実験結果としての再生画像の読み出し開始からの時間変化を図12(a)〜図12(c)に示し、実験で用いた入力画像を図12(d)に示す。なお、図12(a)〜図12(c)において、再生画像の下部に示す時間は、読み出し開始からの経過時間を示している。
【0080】
図11(a)に示す実験系は、ホログラフィックメモリ1のみを設け、位相共役鏡2を設けない公知のホログラフィックメモリ装置の系を示している。この系による再生画像の時間変化を図12(a)に示す。同図に示すように、読み出し開始時にはデータは正確に再生されているが、2分後には大部分のデータが消えており、5分後にはデータがほぼ完全に消去されていることがわかる。
【0081】
図11(c)に示す実験系は、本実施形態に係るホログラフィックメモリ装置に対応するものであり、ホログラフィックメモリ1および位相共役鏡2を備えた構成となっており、相互励起型の位相共役鏡2によるフィードバック光を用いている。この系による再生画像の時間変化を図12(c)に示す。同図に示すように、読み出し開始から20分が経過しても、記録されたデータが消去されておらず、非破壊読み出しに成功していることがわかる。また、長時間の読出しを行っても画像にノイズが混じることはなく、雑音除去効果があることがわかる。
【0082】
図11(b)は、本実施形態に係るホログラフィックメモリ装置の変形例として、位相共役鏡2’として、自己励起型の位相共役器(SPPCM(Self Pumped Phase Conjugate Mirror))を設け、このフィードバック光を用いた構成を示している。この系による再生画像の時間変化を図12(b)に示す。同図に示すように、この系の場合にも、読み出し開始から20分を経過しても、記録されたデータが消去されておらず、長時間にわたる読み出しが可能となっている。しかしながら、再生画像中にノイズが発生しており、時間経過によってもこのノイズが除去されておらず、不鮮明な再生画像が観測されている。すなわち、この系では、雑音除去効果はないことがわかる。以上より、相互励起型の位相共役鏡2を用いてフィードバックを行う構成は、画質ならびに非破壊読み出し時間の両面から有利であることがわかる。
【0083】
実験機材の都合上ホログラフィックメモリとレンズ及び位相共役器の距離は図11(b)と図11(c)との間で異なっているが、いずれの系においてもホログラフィックメモリとレンズ及び位相共役器の距離を等しくすることは可能である。両者の構成上の相違としては、SPPCMにおいては、位相共役器への励起光の入射が不要であり、位相共役器中で発生した光が結晶中で全反射となるような光線角度で光線を入射する。一方、MPPCMでは、位相共役器への励起光の入射が必要であり、位相共役器への2つの入射波が共にビームファニングを効率良く発生する角度で入射させる必要がある。
【0084】
なお、上記した具体的な実施の形態と実施例とは、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と特許請求の範囲に記載した範囲内で、種々変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明に係るホログラフィックメモリ装置は、大容量のデータを記録し、かつ、データの記録速度、読み出し速度を高速に行うことを要求される情報記録再生装置として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の実施の一形態に係るホログラフィックメモリ装置の要部の概略構成を示す図である。
【図2】記録・書き換え動作時におけるホログラフィックメモリ装置の要部の概略構成を示す図である。
【図3】再生動作時におけるホログラフィックメモリ装置の要部の概略構成を示す図である。
【図4】読み出し光の入射に伴う再書き込みと消去とによるホログラムの時間的空間的変化を模式的に示す図である。
【図5】読み出し光とフィードバック光との入射に伴う2つのホログラムの補完作用を模式的に示す図である。
【図6】相互励起型の位相共役鏡における入射強度比に対する結合強度閾値を示すグラフである。
【図7】相互励起型の位相共役鏡の生成の入射光強度比依存性を模式的に示す図である。
【図8】本実施形態の構成による非破壊読み出し性能および雑音除去性能についての数値解析を行う上での処理の流れを模式的に示す図である。
【図9】ホログラフィックメモリの結合強度に対する非破壊読み出し特性を示すグラフである。
【図10】物体光の信号レベルを4種類の値とした場合における、それぞれの読み出し時の出力光強度の時間応答特性を示すグラフである。
【図11】同図(a)〜同図(c)は、実験系の要部の概略構成を示す図である。
【図12】同図(a)〜同図(c)は、実験結果としての再生画像の読み出し開始からの時間変化を示す図であり、同図(d)は、実験で用いた入力画像を示す図である。
【図13】ホログラフィックメモリ装置の概略構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0087】
1 ホログラフィックメモリ(ホログラム記録媒質)
2 位相共役鏡(位相共役ホログラム記録媒質)
3 ビームスプリッタ
4 第1光源
5 第2光源
6 第3光源(励起光光源)
7 SLM(光変調手段)
8 光検出器(光検出手段)
9 制御部(制御手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホログラム記録媒質に読み出し光を照射することによって、該ホログラム記録媒質に記録されているホログラムを再生するホログラム処理装置であって、
ホログラムを記録する位相共役ホログラム記録媒質を備え、
上記読み出し光が上記ホログラム記録媒質に照射されて該ホログラム記録媒質から出射される回折光が上記位相共役ホログラム記録媒質に照射され、上記ホログラム記録媒質に記録されているホログラムと位相共役なフィードバック光が、該位相共役ホログラム記録媒質から上記ホログラム記録媒質に照射されることを特徴とするホログラム処理装置。
【請求項2】
上記位相共役ホログラム記録媒質に対して励起光を照射する励起光光源を備え、
上記読み出し光が上記ホログラム記録媒質に照射されて該ホログラム記録媒質から出射される回折光と、上記励起光とにより生じる回折光によって、上記位相共役ホログラム記録媒質に、ホログラム記録媒質に記録されているホログラムと位相共役なホログラムが形成されるとともに、
上記位相共役ホログラム記録媒質が、上記励起光および上記回折光が入射された際に、相互励起型の位相共役鏡が生成されることを特徴とする請求項1記載のホログラム処理装置。
【請求項3】
2次元画像情報に基づく空間変調を光に施し、物体光として上記ホログラム記録媒質に対して光を照射する光変調手段をさらに備え、
上記ホログラム記録媒質に対して物体光および参照光を照射することによって、該ホログラム記録媒質にホログラムを記録する処理をさらに行うことを特徴とする請求項1記載のホログラム処理装置。
【請求項4】
上記読み出し光、上記励起光、上記物体光、および上記参照光の照射を制御し、上記光変調手段の動作を制御する制御部を備え、
上記制御部が、記録時に、上記光変調手段に記録すべき情報に応じた光変調動作を行わせるとともに、上記物体光および上記参照光を上記ホログラム記録媒質に照射するように制御し、再生時に、上記読み出し光および上記励起光をそれぞれ上記ホログラム記録媒質および上記位相共役ホログラム記録媒質に照射するように制御することを特徴とする請求項3記載のホログラム処理装置。
【請求項5】
上記ホログラム記録媒質が、BaTiO3結晶によって構成されることを特徴とする請求項3記載のホログラム処理装置。
【請求項6】
ホログラム記録媒質に読み出し光を照射することによって、該ホログラム記録媒質に記録されているホログラムを再生するホログラム処理方法であって、
上記読み出し光が上記ホログラム記録媒質に照射されて該ホログラム記録媒質から出射される回折光を、ホログラムを記録する位相共役ホログラム記録媒質に照射するステップと、
上記位相共役ホログラム記録媒質から出射される、上記ホログラム記録媒質に記録されているホログラムと位相共役なフィードバック光を上記ホログラム記録媒質に照射するステップとを有することを特徴とするホログラム処理方法。
【請求項1】
ホログラム記録媒質に読み出し光を照射することによって、該ホログラム記録媒質に記録されているホログラムを再生するホログラム処理装置であって、
ホログラムを記録する位相共役ホログラム記録媒質を備え、
上記読み出し光が上記ホログラム記録媒質に照射されて該ホログラム記録媒質から出射される回折光が上記位相共役ホログラム記録媒質に照射され、上記ホログラム記録媒質に記録されているホログラムと位相共役なフィードバック光が、該位相共役ホログラム記録媒質から上記ホログラム記録媒質に照射されることを特徴とするホログラム処理装置。
【請求項2】
上記位相共役ホログラム記録媒質に対して励起光を照射する励起光光源を備え、
上記読み出し光が上記ホログラム記録媒質に照射されて該ホログラム記録媒質から出射される回折光と、上記励起光とにより生じる回折光によって、上記位相共役ホログラム記録媒質に、ホログラム記録媒質に記録されているホログラムと位相共役なホログラムが形成されるとともに、
上記位相共役ホログラム記録媒質が、上記励起光および上記回折光が入射された際に、相互励起型の位相共役鏡が生成されることを特徴とする請求項1記載のホログラム処理装置。
【請求項3】
2次元画像情報に基づく空間変調を光に施し、物体光として上記ホログラム記録媒質に対して光を照射する光変調手段をさらに備え、
上記ホログラム記録媒質に対して物体光および参照光を照射することによって、該ホログラム記録媒質にホログラムを記録する処理をさらに行うことを特徴とする請求項1記載のホログラム処理装置。
【請求項4】
上記読み出し光、上記励起光、上記物体光、および上記参照光の照射を制御し、上記光変調手段の動作を制御する制御部を備え、
上記制御部が、記録時に、上記光変調手段に記録すべき情報に応じた光変調動作を行わせるとともに、上記物体光および上記参照光を上記ホログラム記録媒質に照射するように制御し、再生時に、上記読み出し光および上記励起光をそれぞれ上記ホログラム記録媒質および上記位相共役ホログラム記録媒質に照射するように制御することを特徴とする請求項3記載のホログラム処理装置。
【請求項5】
上記ホログラム記録媒質が、BaTiO3結晶によって構成されることを特徴とする請求項3記載のホログラム処理装置。
【請求項6】
ホログラム記録媒質に読み出し光を照射することによって、該ホログラム記録媒質に記録されているホログラムを再生するホログラム処理方法であって、
上記読み出し光が上記ホログラム記録媒質に照射されて該ホログラム記録媒質から出射される回折光を、ホログラムを記録する位相共役ホログラム記録媒質に照射するステップと、
上記位相共役ホログラム記録媒質から出射される、上記ホログラム記録媒質に記録されているホログラムと位相共役なフィードバック光を上記ホログラム記録媒質に照射するステップとを有することを特徴とするホログラム処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
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【公開番号】特開2006−208858(P2006−208858A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−22232(P2005−22232)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(391025730)岡野電線株式会社 (55)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(391025730)岡野電線株式会社 (55)
【Fターム(参考)】
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