説明

ホログラム記録・消去装置およびホログラム記録・消去方法

【課題】光学系の調整を必要とすることなく、小型でかつ簡単な装置構成で多重ホログラムの選択的消去を正確に行うことが可能なホログラム記録・消去装置およびホログラム記録・消去方法を提供する。
【解決手段】光源から送出される光は、第1の1/2波長板2を透過して偏光ビームスプリッタ3に入射し、偏光ビームスプリッタ3を透過した第1の光ビームと、偏光ビームスプリッタ3で反射された第2の光ビームとがホログラム材料に照射されて干渉縞を形成する。第1の1/2波長板2の回転角度を0°<θ<45°にしてホログラムを記録し、第1の1/2波長板2の回転角度を45°<θ<90°にしてホログラムを消去する。あるいは、第1の1/2波長板2の回転角度を45°<θ<90°にしてホログラムを記録し、第1の1/2波長板2の回転角度を0°<θ<45°にしてホログラムを消去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主に、多重記録されたホログラムの一部を選択的に消去するにあたり、簡単な構成で消去することが可能なホログラム記録・消去装置と、多重記録されたホログラムの一部を簡便な方法で消去し再書き込みすることが可能なホログラムの記録・消去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2次元的なデータをホログラムの形で記録・再生するホログラムメモリは、ホログラムをホログラム媒質中の同一箇所に多重記録することができるため、大容量化が可能であり、またデータ転送を高速で行うことができるという特質がある。特に、ホログラム媒質としてフォトリフラクティブ結晶を用いたホログラムメモリでは、一旦記録されたホログラムを消去することが可能であり、DVDやブルーレイディスクの次世代の光記録装置として研究開発が進められている、ホログラフィックデータストレージ(HDS)システムにおける記録データの消去・再書き込み手段としての利用が見込まれている。
【0003】
このようなフォトリフラクティブ媒質中に多重に記録されたホログラムは、一様なインコヒーレント光の照射や熱処理により、一括消去可能であり、一括消去に関する技術としては様々なものが存在するが、多重ホログラム中の任意の一枚のホログラムのみを選択的に消去することができると実用上便利である。
【0004】
ホログラムは、フォトリフラクティブ媒質中に、参照光と、2次元的なデータが付加された物体光との干渉によって形成される干渉縞として記録されるものであるが、一旦記録されたホログラムに対し、このホログラムを記録した時の干渉縞と空間的に位相がπラジアンずれた干渉縞を上書きすることで、任意の1枚のホログラムを選択的に消去することができる。
【0005】
記録時の干渉縞と空間的に位相がπラジアンずれた干渉縞は、図10に示すように、物体光或いは参照光のいずれか一方の位相を、移相器により位相をπラジアン変位することによって得ることができる。
図10において、参照光51と、2次元画像データを有する物体光52との干渉によって、フォトリフラクティブ媒質中に干渉縞54が形成されてホログラムが記録される。参照光51の光路上には移相器53が配置されており、この移相器53は、参照光51の位相を0かπのいずれかに切り換える機能を有するものである。記録時においては、位相の切り換えは行われず、移相量、すなわち位相を変化させる量は0である。ホログラムの多重記録は、通常、ホログラムごとに参照光の角度、波長、位相分布等を変化させることにより行われる。
【0006】
このようにして多重記録されたホログラムのうち、消去したいホログラムに対して、記録時と同一の角度、波長、位相分布を有する参照光51と、記録時と同一の物体光52とをフォトリフラクティブ媒質へ照射する。このとき、参照光51の位相は移相器53によって記録時に対して空間的にπラジアン変位した干渉縞55が消去対象のホログラムに上書きされ、これにより、消去対象のホログラムが消去される。
【0007】
このとき、他の多重ホログラムに対しては、これらの選択消去光、すなわち物体光に対して位相が変位した参照光はインコヒーレント消去光として機能する。しかし、図11の規格化回折効率の時間応答特性に示すように、選択的消去の速度はインコヒーレント消去のそれと比較して格段に高速なため、この選択消去光によって消去対象のホログラムのみが選択的に消去され、他の多重ホログラムは消去されない。従って、選択的消去が可能となる。
【0008】
上述した移相器53として、液晶位相変調器やピエゾミラーを参照光や物体光の光路上に配置して半波長分の光路差を作ることで干渉縞の位相を変位させる構成のものが、非特許文献1に記載されている。
しかし、移相器53として液晶位相変調器やピエゾミラーを用いたものでは、光学系が大型となって複雑化するとともに、液晶位相変調器やピエゾミラーが高価であるため、ホログラムメモリ装置が高価になるという問題点がある。
【0009】
また、多重ホログラムの選択的消去に必要な移相量は、記録時と再生時については0であり、消去時にはπのみであって、他の値は不要であるのに対して、液晶位相変調器やピエゾミラーを用いた移相器では、選択的消去に0とπ以外の、不要な連続的な中間値も採り得るため、位相の変位に誤差を生じやすく、多重ホログラムの選択的消去の性能が低下する原因となる。
【0010】
この位相変位の誤差を解消するために、二重マッハツェンダ−干渉光学系を用いて、記録時の干渉縞と位相がπ変位した干渉縞を得るようにしたホログラムメモリ装置が、特許文献1、非特許文献2に記載されている。
【0011】
このホログラムメモリ装置では、ホログラムの消去に用いられる光学素子は誘電体多層膜ビームスプリッタのみであるため、装置の小型化が実現でき、安価であるばかりでなく、この光学系によって生成される位相差は0とπに限定されるため、位相の変位に誤差を生じることがなく、多重ホログラムの選択的消去を正確に行うことができるという利点がある。
【0012】
しかし、記録時と消去時に、異なる光路を伝播する光ビームを用いており、これら2つの光ビームの入射位置、角度、波面を正確に調整することが必要であり、この方法で多重ホログラムの選択的消去を正確に行うためには、正確な光学系の調整が不可欠である。従って、大面積で精細なホログラムデータの消去には不向きである。
【0013】
【特許文献1】特開2006−126642号公報
【非特許文献1】H. Sasaki, J. Ma, Y. Fainman, and S. Lee, "Fast update of dynamic holographic memory," Opt. Lett. 17, 20, pp.1468-1470, 1992.
【非特許文献2】M.Bunsen,H.Furuta,and A.Okamoto, "Selective erasure of speckle-multiplexed holograms by use of a double Mach-Zehnder interferometric arrangement,"Appl.Opt.45, pp.7035-7042, 2006.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、特段に光学系の調整を必要とすることなく、小型でかつ簡単な装置構成でホログラムの記録、消去、再書き込みを行うことができ、特に多重ホログラムの選択的消去を正確に行うことが可能なホログラム記録・消去装置およびホログラム記録・消去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以上の課題を解決するために、本発明のホログラム記録・消去装置は、ホログラム材料に対して物体光と参照光とが照射されて形成される干渉縞によってホログラムが記録され、あるいは消去されるホログラム記録・消去装置において、光源から送出される光が入射する第1の1/2波長板と、前記第1の1/2波長板を透過した光が入射する偏光ビームスプリッタとを備え、前記偏光ビームスプリッタを透過した第1の光ビームと、前記偏光ビームスプリッタによって反射された第2の光ビームとが前記ホログラム材料に照射されて干渉縞を形成するものであり、前記第1の1/2波長板には回転手段が設けられており、前記第1の1/2波長板への入射光の偏光方向と前記第1の1/2波長板の速軸とがなす角度をθとすると、前記回転手段によって前記第1の1/2波長板が回転することにより、前記第1の1/2波長板の回転角度を0°<θ<45°の範囲に設定してホログラムの記録がなされたときに、前記第1の1/2波長板の回転角度を45°<θ<90°の範囲に設定してホログラムの消去がなされるか、あるいは、前記第1の1/2波長板の回転角度を45°<θ<90°の範囲に設定してホログラムの記録がなされたときに、前記第1の1/2波長板の回転角度を0°<θ<45°の範囲に設定してホログラムの消去がなされることを特徴とする。
【0016】
第1の1/2波長板の回転角度を0°<θ<45°の範囲に設定して形成された干渉縞と、第1の1/2波長板の回転角度を45°<θ<90°の範囲に設定して形成された干渉縞とは、その位相がπずれているため、第1の1/2波長板の回転角度を0°<θ<45°の範囲に設定して記録されたホログラムを、第1の1/2波長板の回転角度を45°<θ<90°の範囲に設定して干渉縞を形成することにより、消去することが可能である。同様に、第1の1/2波長板の回転角度を45°<θ<90°の範囲に設定して記録されたホログラムを、第1の1/2波長板の回転角度を0°<θ<45°の範囲に設定して干渉縞を形成することにより、消去することが可能である。また、消去した後にホログラム記録の再書き込みをすることが可能である。
【0017】
この手段によると、第1の1/2波長板の回転角度が0°<θ<45°のときと、45°<θ<90°のときとでは、干渉縞の位相が離散的にπ異なるため、位相ずれの誤差を生じることがなく、ホログラムの消去を正確に行うことができる。また、ホログラムの記録時と消去時において、干渉縞を形成するための光ビームは同一の光路上を伝播するため、特段に光路調整を行う必要がなく、大面積で精細なホログラムデータの消去を行うこともできる。さらに、構成部品が少なく、装置構成も簡単であるため、小型化が可能であり、安価であってかつ信頼性が高い。
【0018】
本発明のホログラム記録・消去装置においては、前記ホログラム材料に対する記録は多重記録であり、前記ホログラム材料に対する記録の消去は前記ホログラム材料に対する記録の一部のみを消去する選択的消去とすることができる。
多重記録の手段としては、スペックル多重、角度多重、波長多重、球面参照光シフト多重、位相コード多重等を用いることができる。
【0019】
本発明のホログラム記録・消去装置においては、前記偏光ビームスプリッタを透過した第1の光ビームの光路中に第2の1/2波長板を配置することができる。
この第2の1/2波長板は、ホログラム材料に干渉縞を形成する2つの光ビームである、第1の光ビームと第2の光ビームとの偏光方向を揃えるために配置されるものである。
【0020】
本発明のホログラム記録・消去装置においては、前記回転手段はステッピングモータにより制御されるものとすることができる。
本発明においては、ホログラム記録・消去を正確に行うために、第1の1/2波長板の回転角度を正確に制御することが必要であるが、回転手段としてステッピングモータを用いると、第1の1/2波長板の回転角度を精度良く制御することが可能である。
【0021】
本発明のホログラム記録・消去方法は、ホログラム材料に対して物体光と参照光とを照射して形成される干渉縞によってホログラムを記録し、あるいは消去するホログラム記録・消去方法において、光源から送出される光が入射する第1の1/2波長板と、前記第1の1/2波長板を透過した光が入射する偏光ビームスプリッタとを用いて、前記偏光ビームスプリッタを透過した第1の光ビームと、前記偏光ビームスプリッタによって反射された第2の光ビームとを前記ホログラム材料に照射して干渉縞を形成するものであり、前記第1の1/2波長板への入射光の偏光方向と前記第1の1/2波長板の速軸とがなす角度をθとすると、前記第1の1/2波長板を回転することにより、前記第1の1/2波長板の回転角度を0°<θ<45°の範囲に設定してホログラムの記録を行ったときに、前記第1の1/2波長板の回転角度を45°<θ<90°の範囲に設定してホログラムの消去を行うか、あるいは、前記第1の1/2波長板の回転角度を45°<θ<90°の範囲に設定してホログラムの記録を行ったときに、前記第1の1/2波長板の回転角度を0°<θ<45°の範囲に設定してホログラムの消去を行うことを特徴とする。
【0022】
この方法によると、第1の1/2波長板の回転角度が0°<θ<45°のときと、45°<θ<90°のときとでは、干渉縞の位相が離散的にπ異なるため、位相ずれの誤差を生じることがなく、ホログラムの消去を正確に行うことができる。また、ホログラムの記録時と消去時において、干渉縞を形成するための光ビームは同一の光路上を伝播するため、特段に光路調整を行う必要がなく、簡便な方法で、大面積で精細なホログラムデータの消去を行うことができる。
【0023】
本発明のホログラム記録・消去方法においては、前記ホログラム材料に対する記録は多重記録であり、前記ホログラム材料に対する記録の消去は前記ホログラム材料に対する記録の一部のみを消去する選択的消去とすることができる。
【0024】
本発明のホログラム記録・消去方法においては、前記偏光ビームスプリッタを透過した第1の光ビームの光路中に第2の1/2波長板を配置して前記第1の光ビームの偏光状態を変換することができる。
これにより、ホログラム材料に干渉縞を形成する2つの光ビームである、第1の光ビームと第2の光ビームとの偏光方向を揃えることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、特段に光学系の調整を必要とすることなく、小型でかつ簡単な装置構成でホログラムの記録、消去、再書き込みを行うことができ、特に多重ホログラムの選択的消去を正確に行うことが可能なホログラム記録・消去装置およびホログラム記録・消去方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明をその実施形態に基づいて説明する。
図1(a)に、本発明のホログラム記録・消去装置の基本構成を示す。
光源から送出される入射光1は、第1の1/2波長板2を透過した後、偏光ビームスプリッタ3によって2つの光ビームに分けられる。この分割された2つの光ビームのうち、偏光ビームスプリッタ3を透過した第1の光ビーム4は、第2の1/2波長板5を透過した後第1のミラー6によって反射されて進行方向が変えられる。一方、偏光ビームスプリッタ3によって反射された第2の光ビーム7は、第2のミラー8によって反射されて進行方向が変えられる。第1の光ビーム4と第2の光ビーム7とがホログラム材料であるフォトリフラクティブ媒質中で干渉して干渉縞9が形成されることによって、フォトリフラクティブ媒質中にホログラムが記録される。また、後に詳述する手法により、干渉縞9とは空間的に位相がπラジアンずれた干渉縞10が、上述した第1の光ビーム4と第2の光ビーム7とによって、消去対象となるホログラムに上書きされてホログラムが消去される。
【0027】
第1の1/2波長板2は、これに取り付けられた回転手段によって回転できるようになっており、この回転手段の一例を図1(b)に示す。
ここでは、第1の1/2波長板2は、ステッピングモータ駆動ステージとして機能するホルダ40に保持されており、ステッピングモータによって回転部41が回転することにより、第1の1/2波長板2が回転する。この回転手段により、第1の1/2波長板2を任意の角度で回転させることができる。
本発明は、第1の1/2波長板2の回転角を所定範囲の角度に設定してホログラムの記録を行うとともに、第1の1/2波長板2の回転角を他の範囲の角度に設定してホログラムの選択的消去を行うものである。回転手段としてはこの他に、エンコーダを取り付けたサーボモータによるもの等とすることができる。図1(a)における回転角度θは、後述するように、入射光1の偏光方向と第1の1/2波長板2の結晶軸の1つである速軸とがなす角度である。
【0028】
図1(a)に示す光学系において、第1の1/2波長板2と偏光ビームスプリッタ3とは、ホログラム記録時及び消去時の干渉縞の位相ずれ生成機能を担うものである。一方、第2の1/2波長板5は第1の光ビーム4と第2の光ビーム7との偏光方向を揃えるために配置されており、位相ずれ生成には寄与しない。
【0029】
以下に、この位相ずれの詳細について説明する。
まず、図2に基づいて、1/2波長板の一般的な機能について説明する。
1/2波長板には速軸と遅軸と呼ばれる2つの結晶軸があり、遅軸方向に偏光した光波の光学的距離が速軸方向に偏光した光波のそれと比べて、複屈折現象により1/2波長分だけ長くなるように、その厚さが設計されている。図2においては、1/2波長板への入射光は鉛直方向へ偏光したS波としており、入射光は紙面手前側から奥側へ向かって伝播するものとしている。また、1/2波長板を回転させることによって、入射光の偏光方向と1/2波長板の速軸とはθの角度をなしているものとする。
【0030】
図2(a)は、1/2波長板の入射端での偏光状態を示しており、入射光は1/2波長板の速軸方向成分と遅軸方向成分とを有している。図2(b)は、1/2波長板の出射端での偏光状態を示しており、光波が1/2波長板中を伝播して出射端に達したとき、上述した光学的距離の差によって、遅軸方向成分は速軸方向成分と比べて1/2波長分、すなわちπラジアン遅れている。その結果、図2(b)に示すように、1/2波長板の出射端における速軸方向成分と遅軸方向成分の合成である出射光は、1/2波長板の回転角θに対して2θだけ回転することになる。
【0031】
上述した1/2波長板の機能に基づいて、本発明における第1の1/2波長板2による干渉縞のπラジアンの位相ずれ生成法について説明する。
図1に示す光学系においてS波が入射したときに、第1の1/2波長板2を透過した光波は、第1の1/2波長板2の回転角θに対して2θ回転した斜め直線偏光となる。図3は、第1の1/2波長板2の回転角θが0°<θ<45°のときの、第1の1/2波長板2からの出射光のS波成分とP波成分とを示している。このうち、P波成分は偏光ビームスプリッタ3を透過し、S波成分は偏光ビームスプリッタ3で反射されて、この2つの成分の交差領域に干渉縞が形成される。偏光ビームスプリッタ3を透過したP波成分は、第2の1/2波長板5によってS波方向に変えられる。
【0032】
第1の1/2波長板2の回転角θが0°<θ<45°のときは、図3に示すように、第1の1/2波長板2を透過した光波の偏光方向が第一象限の範囲内となる。ここで、θ=0°のときは、出射光はS偏光のみとなり、θ=45°のときは、出射光はP偏光のみとなって、光ビームの交差領域には第1の光ビーム4か第2のビーム7のみが存在することになり、干渉縞を形成することができないため除外している。
【0033】
一方、図4は、第1の1/2波長板2の回転角θが45°<θ<90°のときの、第1の1/2波長板2からの出射光のS波成分とP波成分とを示している。このときも、第1の1/2波長板2を透過した光波は、第1の1/2波長板2の回転角θに対して2θ回転した斜め直線偏光となるため、図4に示すように、第1の1/2波長板2を透過した光波の偏光方向は、90°<2θ<180°の範囲内、すなわち第四象限の範囲内となる。
【0034】
この場合においても、P波成分は偏光ビームスプリッタ3を透過し、S波成分は偏光ビームスプリッタ3で反射されて、この2つの成分の交差領域に干渉縞が形成される。偏光ビームスプリッタ3を透過したP波成分は、第2の1/2波長板5によってS波方向に変えられる。
【0035】
図4に示すものは、図3に示すものに対して、S波成分の方向が反対方向となっており、第1の1/2波長板2の回転角θが0°<θ<45°のときと45°<θ<90°のときとでは、S波成分の位相がπラジアンずれていることを意味する。そのため、第1の光ビーム4と第2のビーム7とによって形成される干渉縞もπラジアンずれることとなる。
【0036】
図5に、第1の1/2波長板2の回転角に対する規格化光強度と干渉縞のビジビリティの計算値を示す。
図5において、第1の1/2波長板2の回転角θが、0°<θ<45°のときと45°<θ<90°のときとでは、干渉縞の位相はπラジアンずれており、第1の1/2波長板2の回転角が0°<θ<45°の範囲で記録されたホログラムを、第1の1/2波長板2の回転角を45°<θ<90°の範囲として干渉縞を上書きすることにより、ホログラムを選択的に消去することが可能である。また、これとは反対に、第1の1/2波長板2の回転角が45°<θ<90°の範囲で記録されたホログラムを、第1の1/2波長板2の回転角を0°<θ<45°の範囲として干渉縞を上書きすることにより、ホログラムを選択的に消去することが可能である。
【0037】
本発明のホログラム記録・消去装置においては、位相ずれに関しては第1の1/2波長板2の回転角が45°のときを境に、離散的に0とπの2値のみを取り得るが、第1の光ビーム4と第2の光ビーム7の光強度と、この2つの光ビームの干渉によって形成される干渉縞のビジビリティは、第1の1/2波長板2の回転角に対して連続的に変化する。図5はその一例を計算値として示したものであり、実際の光学系においては、使用するフォトリフラクティブ媒質等の状況に応じて最適な光強度比やビジビリティを選択することが可能である。
【0038】
このようにして選択的に消去された位置に新たなホログラムを再書込みする場合には、第1の1/2波長板2の回転角は、0°<θ<45°の範囲であってもよく、あるいは45°<θ<90°の範囲であってもよい。
また、以上の説明においては、図1に示す光学系においてS波が入射したときを前提としているが、これに限定されるものではなく、本発明の手法は入射光の偏光状態によって制限されるものではない。
【0039】
以下に、具体的な実施例を示す。
この実施例においては、ホログラム材料としてフォトリフラクティブ結晶(10mm×10mm×10mmの0.03mol%Fe添加LiNbO3結晶)を用い、光源として波長532nmの単一周波数Nd:YVO4レーザを用いている。
【0040】
図6に、第1実施例の光学系の構成を示す。
この第1実施例は、ホログラムの多重記録方式としてスペックル多重記録を用いた場合の実施例である。
図6において、光源11から出射した波長532nmのレーザ光は、シャッター12を通ってミラー13によって反射され、1/2波長板14を透過して偏光ビームスプリッタ15に到達し、偏光ビームスプリッタ15によって参照光と物体光とに分離される。1/2波長板14は、図1(b)に示すように、自動回転ステージにマウントされており、これにより1/2波長板14の回転角が制御されている。本実施例での記録時における1/2波長板14の回転角度は18°であり、選択的消去時における回転角度は66°である。また、物体光と参照光の入射パワーはそれぞれ334μW、33mWである。1/2波長板14は、図1における第1の1/2波長板2に相当し、偏光ビームスプリッタ15は、図1における偏光ビームスプリッタ3に相当する。
【0041】
偏光ビームスプリッタ15によって反射されて得られる参照光は、シャッター16を通ってミラー17によって反射され、アクチュエータに搭載されて移動可能なすりガラス18に入射する。本実施例では、多重記録方式としてスペックル多重記録を採用しており、記録時にホログラム毎にすりガラス18を参照光の伝播方向に対して垂直水平方向に5μm変位させて、3枚のホログラムを記録材料中の同一箇所に多重記録している。参照光はその後、レンズ19、レンズ20によってビーム径が絞られてフォトリフラクティブ結晶21に照射される。
【0042】
一方、偏光ビームスプリッタ15を透過して得られる物体光は、シャッター22を通り、対物レンズ23、ピンホール24によって光ビームのノイズ成分が除去される。その後レンズ25によってコリメートされ、偏光子付きの液晶空間光変調器26によって2次元的な画像情報が付加されるとともに、P偏光をS偏光に変換して、物体光の偏光状態が変えられる。従って、液晶空間光変調器26は、図1における第2の1/2波長板5の機能を有している。なお、液晶空間光変調器26以外のものであっても、2次元的な画像情報を付加する機能を有するものであれば、物体光へ画像情報を付加する手段として用いることができる。
【0043】
物体光はレンズ27によってフーリエ変換され、ミラー28によって反射された後、ピンホール29を通過することにより光ビームのノイズが除去される。その後、レンズ30により逆フーリエ変換され、レンズ31によってビーム径が絞られてフォトリフラクティブ結晶21に照射される。フォトリフラクティブ結晶21の背後には、再生像を撮影するためのCMOSカメラ32が配置されている。本実施例におけるフーリエ変換を伴う手法によるノイズの低減は、特に多重記録において多重数が多い場合に有効である。
【0044】
図7に、第1実施例のスペックル多重ホログラムの撮影像を示す。
図7(a)は3多重記録後の像であり、(b)は2枚目を選択的に消去した後の像であり、(c)は2枚目の更新記録後の再生像である。再生時には物体光はシャッター22により遮断されており、参照光のみがホログラム材料であるフォトリフラクティブ結晶21に入射している。また、多重ホログラムのうち、再生時のすりガラス18の位置が記録時のそれと一致しているホログラムのみが選択的に再生される。
【0045】
ここで、2次元バーコード様の記録画像は、縦800ピクセル×横600ピクセルの液晶空間光変調器26によって物体光に与えられており、明部をデジタルデータの1、暗部をデジタルデータの0に対応させた場合に、縦75ビット×横100ビット=7,500ビットの情報量を有したランダムな明暗パターンで構成されている。また、ホログラムの消去の程度を把握しやくするために、ランダムな明暗パターンの周囲に四角い枠を配置して、この部分は消去を行わないようにしている。
【0046】
図7に示す撮影像により、比較的大面積かつ高精細な多重ホログラムデータを選択的に消去し、かつ更新することに成功していることが実証されている。
【0047】
図8に、第2実施例の光学系の構成を示す。
この第2実施例は、ホログラムの多重記録方式として角度多重記録を用いた場合の実施例である。この実施例においても、レーザ光源やホログラム記録材料は第1実施例と同一である。
【0048】
図8に示す構成では、図6に示すスペックル多重記録の光学系において配置されていた参照光路上のすりガラス18、レンズ19、レンズ20は取り外されており、ガウス形状の光ビームを参照光として用いている。また、角度多重記録であるため、ホログラム記録材料であるフォトリフラクティブ結晶21はピエゾ回転ステージの上に配置され、ホログラム毎にフォトリフラクティブ結晶21の回転角を水平面内で微小に変化させて、角度多重記録を行っている。
【0049】
この実施例においても、3枚のホログラムを角度多重記録し、2枚目のホログラムのみを選択的に消去し,さらに消去した2枚目のホログラムの上に異なるホログラムデータを上書きした。本実施例では、記録時の1/2波長板14の回転角度は33°であり、選択的消去時の回転角度は52°である。第1実施例のスペックル多重記録の場合と同様に、1/2波長板14は、図1(b)に示すように、自動回転ステージにマウントされており、1/2波長板14の回転角度はステッピングモータにより制御されている。また、記録時の物体光と参照光の入射パワーはそれぞれ2.2mWと15mWである。
【0050】
図9に、第2実施例の角度多重ホログラムの撮影像を示す。
図9(a)は3多重記録後の像であり、(b)は2枚目を選択的に消去した後の像であり、(c)は2枚目の更新記録後の再生像である。角度多重ホログラムにおいては、多重ホログラムのうち、再生時のピエゾ回転ステージの回転角が記録時の回転角と一致しているホログラムのみが選択的に再生される。
図9に示す結果から、角度多重記録を用いた場合にも、ホログラムの記録、選択的消去、および更新記録が正確になされていることが実証されている。
【0051】
以上の2つの実施例では、多重記録の代表例としてスペックル多重記録と角度多重記録について説明したが、波長多重、球面参照光シフト多重、位相コード多重等の他の多重記録方式も用いることができる。本発明におけるホログラム記録に対する選択的消去と再書き込みの手法は、多重記録の種類に拘わらず有効であるから、多重記録の方式に限定されずに用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、小型でかつ簡単な装置構成で多重ホログラムの選択的消去を正確に行うことが可能なホログラム記録・消去装置として、ホログラフィックデータストレージ(HDS)システムにおける記録データの消去・再書き込み等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明のホログラム記録・消去装置の基本構成を示す図である。
【図2】(a)は、1/2波長板の入射端での偏光状態を示す図であり、(b)は、1/2波長板の出射端での偏光状態を示す図である。
【図3】第1の1/2波長板の回転角θが0°<θ<45°のときの、第1の1/2波長板からの出射光の偏光方向を示す図である。
【図4】第1の1/2波長板の回転角θが45°<θ<90°のときの、第1の1/2波長板からの出射光の偏光方向を示す図である。
【図5】第1の1/2波長板の回転角に対する規格化光強度と干渉縞のビジビリティの計算値を示す図である。
【図6】ホログラムの多重記録方式としてスペックル多重記録を用いた第1実施例を示す図である。
【図7】第1実施例のホログラムの撮影像を示す図である。
【図8】ホログラムの多重記録方式として角度多重記録を用いた第2実施例を示す図である。
【図9】第2実施例のホログラムの撮影像を示す図である。
【図10】記録時の干渉縞と空間的に位相がπラジアンずれた干渉縞を形成するための装置の構成を示す図である。
【図11】規格化回折効率の時間応答特性を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 入射光
2 第1の1/2波長板
3 偏光ビームスプリッタ
4 第1の光ビーム
5 第2の1/2波長板
6 第1のミラー
7 第2の光ビーム
8 第2のミラー
9 干渉縞
10 干渉縞
11 光源
12 シャッター
13 ミラー
14 1/2波長板
15 偏光ビームスプリッタ
16 シャッター
17 ミラー
18 すりガラス
19 レンズ
20 レンズ
21 フォトリフラクティブ結晶
22 シャッター
23 対物レンズ
24 ピンホール
25 レンズ
26 液晶空間光変調器
27 レンズ
28 ミラー
29 ピンホール
30 レンズ
31 レンズ
32 CMOSカメラ
40 ホルダ
41 回転部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホログラム材料に対して物体光と参照光とが照射されて形成される干渉縞によってホログラムが記録され、あるいは消去されるホログラム記録・消去装置において、光源から送出される光が入射する第1の1/2波長板と、前記第1の1/2波長板を透過した光が入射する偏光ビームスプリッタとを備え、前記偏光ビームスプリッタを透過した第1の光ビームと、前記偏光ビームスプリッタによって反射された第2の光ビームとが前記ホログラム材料に照射されて干渉縞を形成するものであり、前記第1の1/2波長板には回転手段が設けられており、前記第1の1/2波長板への入射光の偏光方向と前記第1の1/2波長板の速軸とがなす角度をθとすると、前記回転手段によって前記第1の1/2波長板が回転することにより、前記第1の1/2波長板の回転角度を0°<θ<45°の範囲に設定してホログラムの記録がなされたときに、前記第1の1/2波長板の回転角度を45°<θ<90°の範囲に設定してホログラムの消去がなされるか、あるいは、前記第1の1/2波長板の回転角度を45°<θ<90°の範囲に設定してホログラムの記録がなされたときに、前記第1の1/2波長板の回転角度を0°<θ<45°の範囲に設定してホログラムの消去がなされることを特徴とするホログラム記録・消去装置。
【請求項2】
前記ホログラム材料に対する記録は多重記録であり、前記ホログラム材料に対する記録の消去は前記ホログラム材料に対する記録の一部のみを消去する選択的消去であることを特徴とする請求項1記載のホログラム記録・消去装置。
【請求項3】
前記偏光ビームスプリッタを透過した第1の光ビームの光路中に第2の1/2波長板が配置されていることを特徴とする請求項1または2記載のホログラム記録・消去装置。
【請求項4】
前記回転手段はステッピングモータにより制御されるものであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のホログラム記録・消去装置。
【請求項5】
ホログラム材料に対して物体光と参照光とを照射して形成される干渉縞によってホログラムを記録し、あるいは消去するホログラム記録・消去方法において、光源から送出される光が入射する第1の1/2波長板と、前記第1の1/2波長板を透過した光が入射する偏光ビームスプリッタとを用いて、前記偏光ビームスプリッタを透過した第1の光ビームと、前記偏光ビームスプリッタによって反射された第2の光ビームとを前記ホログラム材料に照射して干渉縞を形成するものであり、前記第1の1/2波長板への入射光の偏光方向と前記第1の1/2波長板の速軸とがなす角度をθとすると、前記第1の1/2波長板を回転することにより、前記第1の1/2波長板の回転角度を0°<θ<45°の範囲に設定してホログラムの記録を行ったときに、前記第1の1/2波長板の回転角度を45°<θ<90°の範囲に設定してホログラムの消去を行うか、あるいは、前記第1の1/2波長板の回転角度を45°<θ<90°の範囲に設定してホログラムの記録を行ったときに、前記第1の1/2波長板の回転角度を0°<θ<45°の範囲に設定してホログラムの消去を行うことを特徴とするホログラム記録・消去方法。
【請求項6】
前記ホログラム材料に対する記録は多重記録であり、前記ホログラム材料に対する記録の消去は前記ホログラム材料に対する記録の一部のみを消去する選択的消去であることを特徴とする請求項5記載のホログラム記録・消去方法。
【請求項7】
前記偏光ビームスプリッタを透過した第1の光ビームの光路中に第2の1/2波長板を配置して前記第1の光ビームの偏光状態を変換することを特徴とする請求項5または6記載のホログラム記録・消去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−175591(P2009−175591A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16095(P2008−16095)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年10月21日 光メモリ国際シンポジウム事務局発行の光メモリ国際シンポジウム2007 講演予稿集
【出願人】(598015084)学校法人福岡大学 (114)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】