説明

ホース及びその製造方法

【課題】優れた柔軟性を備えるとともに、十分な高温時の特性(耐キンク性、耐久性、耐引抜性)を備え、耐塩素性に非常に優れた、例えば、シャワーホースなどとして好適なホースを提供すること。
【解決手段】補強管と、該補強管の内周に配置されるインナーチューブとからなるホースにおいて、上記インナーチューブは、内層がポリエチレンとエチレン系共重合体を重量比で70:30〜99:1で混合したものからなり、外層がポリエチレンとエチレン系共重合体を重量比で1:99〜35:65で混合したものからなり、上記内層の80℃,10Hzでの引張貯蔵弾性率が30〜200MPaであり、上記外層の80℃,10Hzでの引張貯蔵弾性率が2〜25MPaであり、上記外層のDSCによる吸熱ピークが少なくとも40℃〜70℃と90℃〜130℃にあるホース。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、洗面台、流し台等に取り付けられる引出式水栓等に用いられるシャワーホースなどとして使用されるホースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
流し台、洗面台等の水栓金具に取り付けられ、他端に吐出口を有するヘッドが取り付けられるシャワーホースとして、例えば、樹脂や金属帯を蛇腹状に成形し可撓性を持たせた構造の補強管と、その内側に挿入されたインナーチューブから構成されたものが知られている。このようなホースは、例えば流し台のシャワーのように、シャワーヘッドを水栓金具より引き出して操作することとなるため、操作し易いように柔軟性に特に優れている必要がある。そのため、インナーチューブとして、可塑剤により柔軟性を向上させた軟質塩化ビニル樹脂が使用されていた。
【0003】
しかしながら、上記のような軟質塩化ビニル樹脂によるインナーチューブの場合、通水によって可塑剤が溶出してインナーチューブが硬化してしまうという問題点があった。
【0004】
そのため、軟質塩化ビニル樹脂の代替となる材料について種々検討がなされているが、その一つとしてインナーチューブとしてポリオレフィン系樹脂を使用したホースが考えられている。(例えば、特許文献1〜3参照)
【0005】
尚、本発明に関連する当該特許出願人による発明として、特許文献4〜7が出願されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−47268号 (ブリヂストン)
【特許文献2】特開2010−71382号 (ブリヂストン)
【特許文献3】特開2010−84836号 (ブリヂストン)
【特許文献4】特開2006−52772号 (クラベ)
【特許文献5】特開2009−403195号(クラベ)
【特許文献6】特開2009−156356号(クラベ)
【特許文献7】特開2009−156357号(クラベ)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、インナーチューブとして従来公知の硬いポリオレフィン系樹脂を使用した場合には、望まれているだけの柔軟性を得ようとすると肉厚を薄くせざるを得ない。そうすると、ホースの曲げによって、インナーチューブがキンクしてしまい、必要な流量が得られなくなるという問題が生じてしまう。また、単に柔軟性を向上させるために柔らかい材料を用いると、高温で軟化し易くなり、高温での耐久性と引抜強度について満足する性能を得ることができなくなってしまうことが考えられる。これに対して上記特許文献1〜3においては、ポリオレフィン系樹脂の内層と、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーの外層からなるインナーチューブが開示されている。しかし、このようなインナーチューブは、ホースを小さな半径で曲げた状態で熱湯を通水した際に、熱によって外層のオレフィン系熱可塑性エラストマーが軟化してしまうため、キンクしてしまう恐れがあるという問題があった。これらのような問題があると、シャワーヘッドを手に持って吐出方向や吐出位置を操作することが非常に困難となってしまうことが考えられる。
【0008】
本発明は、このような従来技術の欠点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、優れた柔軟性を備えるとともに、十分な高温時の特性(耐キンク性、耐久性、耐引抜性)を備え、耐塩素性に非常に優れた、例えば、流し台、洗面台等の水栓金具に取り付けられ、他端に吐出口を有するヘッドが取り付けられるシャワーホースなどとして好適なホースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するべく、本発明の請求項1によるホースは、補強管と、該補強管の内周に配置されるインナーチューブとからなるホースにおいて、上記インナーチューブは少なくとも内層と外層からなり、
上記内層と外層は共に架橋ポリオレフィンからなり、上記内層の80℃における10Hzでの引張貯蔵弾性率が30MPa以上200MPa以下であり、上記外層の80℃における10Hzでの引張貯蔵弾性率が2MPa以上25MPa以下であり、上記外層のDSCによる吸熱ピークが少なくとも40℃〜70℃と90℃〜130℃にあることを特徴とするホース。
また、請求項2記載のホースは、内層がポリエチレンとエチレン系共重合体を重量比で70:30〜99:1で混合したものからなり、外層がポリエチレンとエチレン系共重合体を重量比で1:99〜35:65で混合したものからなることを特徴とするものである。
また、請求項3記載のホースは、内層が老化防止剤を0.25〜1.5%含み、外層の老化防止剤が内層の老化防止剤の1.04倍以上3倍以下であることを特徴とするものである。
また、請求項4記載のホースは、内層の厚さが0.1mm以上0.6mm以下であることを特徴とするものである。
また、請求項5記載のホースは、補強管が金属製又は樹脂製のコイル状管、蛇腹状管、又は、編み上げ状管であることを特徴とするものである。
また、請求項6記載のホースの製造方法は、上記インナーチューブの内層と外層とを、共押出成形した後、電子線照射によって同時に架橋することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた柔軟性を備えるとともに、十分な高温時の特性(耐キンク性、耐久性、耐引抜性)を備え、耐塩素性に非常に優れたホースを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例を示した図であり、補強管にインナーチューブを挿入した構成を示す一部切欠斜視図である。
【図2】本発明の実施例を示した図であり、インナーチューブの構成を示す一部切欠斜視図である。
【図3】半径50mmの曲げ反力測定の方法を示した概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係るホースについて説明をする。実施の形態において用いられるホースは、補強管とインナーチューブからなり、インナーチューブは少なくとも内層と外層からなり、ともに架橋ポリオレフィン樹脂からなるものである。
【0013】
本発明における内層に使用されるポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレンや各種のエチレン系共重合体が挙げられる。ポリエチレン樹脂は、従来種々のものが公知である。また、ポリエチレン樹脂は、元来耐塩素性に優れた性質を有しているため、移送する水に殺菌のための次亜塩素酸が注入されていたとしても、塩素によるホースの劣化を防止することができる。エチレン系共重合体は、エチレンと他のコモノマー成分を共重合させたものであり、ポリエチレン樹脂に対して、柔軟性に優れていることは良く知られている。エチレン系共重合体に使用されるコモノマー成分としては、例えば、α−オレフィン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、などが挙げられる。また、このエチレン系共重合体は、上記コモノマー成分のほかに第3成分としてジエン成分を共重合したものも考えられる。これらの中でも、エチレンとα−オレフィンを共重合させたエチレン−α−オレフィン共重合体は、特に柔軟性に優れた共重合体が得られ、無味無臭であることから移送させる水に味や臭いを移さないため、飲料水用のホースの組成物としても特に好適に使用することができる。α−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘプテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、デセン−1、ドデセン−1などが挙げられる。本発明における組成物には、これらの中でも、エチレンとオクテン−1が共重合された、エチレン−オクテン共重合体が含有されることが好ましい。このエチレン−オクテン共重合体は、特に柔軟性に優れる材料である。尚、エチレン系共重合体は各種市販されているので、それらを適宜に選択して組合せて使用しても良い。これらポリオレフィン樹脂は、複数を組合せて配合させても良いが、柔軟性、機械的強度、耐塩素性を優れたものとするため、ポリエチレンとエチレン系共重合体を適宜配合することが好ましい。また、ポリオレフィン樹脂は、可塑剤やオイルを含有しないことが好ましい。可塑剤やオイルを含有していると、高温時での実使用に耐え得る十分な耐圧性を得ることが困難となる可能性があり、また熱により可塑剤やオイルが滲み出してきて柔軟性を損なったり内部の流体を汚染したりする可能性がある。
【0014】
本発明における内層は、架橋を施す必要がある。架橋を施すことによって、高温での耐圧性を高めることができ、且つ、高温時に外力がかかった場合も変形し難くなるため、高温時の物性(耐キンク性、耐久性、耐引抜性)を向上させることができる。
【0015】
本発明における内層に使用される架橋ポリオレフィンとしては、80℃における10Hzでの引張貯蔵弾性率が30MPa以上200MPa以下であることが必要である。このようなものとして、ポリエチレンとエチレン系共重合体を重量比で70:30〜99:1で混合して架橋させたものが挙げられる。
【0016】
本発明における外層に使用される架橋ポリオレフィンとしては、上記内層で使用される架橋ポリオレフィンと同様のものが挙げられる。本発明における外層に使用される架橋ポリオレフィンとしては、80℃における10Hzでの引張貯蔵弾性率が2MPa以上25MPa以下であり、DSCによる吸熱ピークが少なくとも40℃〜70℃と90℃〜130℃に有することが必要である。このようなものとして、ポリエチレンとエチレン系共重合体を重量比で1:99〜35:65で混合したものが挙げられる。
【0017】
上記の80℃における10Hzでの引張貯蔵弾性率とは、80℃における剛性を表す。引張貯蔵弾性率の試験方法はJIS−K−7244−4に準拠して行う。
【0018】
上記のように、80℃における10Hzでの引張貯蔵弾性率が、内層は30MPa以上200MPa以下、外層は2MPa以上25MPa以下としているのは、優れた柔軟性を有していながら、優れた高温時の物性(耐キンク性、耐久性、耐引抜性)を有するインナーチューブを得るためである。内層の引張貯蔵弾性率が30MPa未満であったり、外層の引張貯蔵弾性率が2MPa未満であったりすると、高温時の物性(耐キンク性、耐久性、耐引抜性)の何れかが劣ることになる。特に、外層の引張貯蔵弾性率が2MPa未満であると、高温時の耐キンク性及び耐引抜性が格段に劣ることになり、内層の引張貯蔵弾性率が30MPa未満であると、高温時の耐キンク性及び耐久性が格段に劣ることになる。また、内層の引張貯蔵弾性率が200MPaを超えたり、外層の引張貯蔵弾性率が25MPaを超えたりすると、優れた柔軟性が得られない。特に、外層の引張貯蔵弾性率が25MPaを超えると、柔軟性が格段に劣ることとなる。また、外層のDSCによる吸熱ピークが少なくとも40℃〜70℃と90℃〜130℃に有するものとしているのは、40℃〜70℃のDSCによる吸熱ピークを有することにより優れた柔軟性が得られ、90℃〜130℃のDSCによる吸熱ピークを有することにより優れた高温時の物性(耐キンク性、耐久性、耐引抜性)が得られるためである。ポリエチレンは上記した様に耐塩素性に優れるが、柔軟性については十分なものではない。一方、エチレン系共重合体は上記した様に柔軟性に優れるが、高温時に変形しやすいものである。内層として、ポリエチレンとエチレン系共重合体を重量比で70:30〜99:1で混合して架橋させたものを使用するのが好ましいのは、ポリエチレンを70〜99%含むことで耐塩素性と高温時の変形を防ぎ、柔軟性に優れるエチレン系共重合体を1〜30%含むことで、耐塩素性を良好に保ちつつ柔軟性を十分なものとすることができるためである。外層として、ポリエチレンとエチレン系共重合体を重量比で1:99〜35:65で混合して架橋させたものを使用するのは、結晶の少ないエチレン系共重合体を65〜99%含むことで、柔軟性が良好で、冷熱サイクルが加わった際の癖付きを防ぎ、融点の高いポリエチレンを1〜35%含むことで柔軟性を良好に保ちつつ高温時の変形を防ぐことができるためである。本実施の形態によるインナーチューブの内層と外層は、ポリエチレンとエチレン系共重合体をその目的に応じた混合をして積層させて成形するため、耐塩素性と高温時の物性(耐キンク性、耐久性、耐引抜性)を十分満足した上で優れた柔軟性を得ることができる。また、柔軟性が向上されているので、インナーチューブの総肉厚を厚くすることができ、耐キンク性も向上する。
【0019】
内層と外層には老化防止剤を適宜配合することが好ましい。内層と外層に配合する老化防止剤としては特に限定しないが、例えば、アルデヒド・アミン反応生成物、ケトン・アミン反応生成物、アミン系、フェノール系、イミダゾール系、ワックス系等が挙げられる。この老化防止剤を内層又は外層に直接配合しても良いし、高濃度の老化防止剤を含有する熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、又はゴム等のマスターバッチを作り、これを内層又は外層に少量配合しても良い。老化防止剤の濃度は、層全体の重量に対する老化防止剤の配合重量で計算される。内層の老化防止剤濃度が0.25〜1.5%であり、外層の老化防止剤濃度が内層の老化防止剤濃度の1.04倍以上3倍以下であることが好ましい。内層の老化防止剤濃度が0.25%より少ないと耐塩素性や耐熱性が十分得られないおそれが有り、1.5%より多いと内層中に老化防止剤を保持しきれずに表面に出てきてしまうブルーム現象が起こったり、コストが高くなったりしてしまうおそれがある。外層の老化防止剤濃度を内層の老化防止剤濃度の1.04倍以上にすることで、内層の老化防止剤が水中の塩素や熱によって消費された場合に外層側から移行することで補充する効果が得られるが、3倍を超えると外層中に老化防止剤が保持しきれずに表面に出てきてしまうブルーム現象が起こったり、コストが高くなったりしてしまうおそれがある。内層と外層の老化防止剤は同系のものであれば、効率よく上述の補充効果が得られる。外層は内層よりもエチレン系共重合体を多く含有しているため、老化防止剤の保持力が高く、老化防止剤を多く配合することができる。老化防止剤を上記のように内層の老化防止剤濃度を設定し、内層と外層の老化防止剤濃度の比率を設定すれば、コストの上昇を抑えつつ非常に優れた耐塩素性を有することとなり、従って、内層に硬い樹脂を用いなくても良く、内層を薄くすることが可能となり、柔軟性が向上する。混合方法としては、成形時に老化防止剤又はそれらのマスターバッチをポリオレフィン樹脂と一緒に押出機に入れても良いし、成形前にポリオレフィン樹脂と、老化防止剤、又はそれらのマスターバッチとを、ニーダー、バンバリー、二軸押出機等で事前に混合しておいても良い。
【0020】
本実施の形態では、上記の構成材料を押出成形等の公知の成形手段で管状に成形することができる。内層と外層の成形は、別個に行っても良いし、共押出成形によって同時に行っても良いが、共押出成形による同時成形を行うことが好ましい。共押出成形を行うことによって、内層と外層の材料が相互に溶融状態で接触するため、それぞれの材料が強固に接着されるからである。また、内層及び外層は同系の材料であるため、より強固に接着一体化することは言うまでも無い。
【0021】
内層の肉厚は0.1〜0.6mmで、特に0.2〜0.5mmの範囲で成形するのが好ましい。肉厚が薄いと、実使用に耐え得る十分な耐熱性と耐塩素性を得ることが困難となったり、成形できなかったりする可能性がある。また、肉厚が厚いと、ホースの柔軟性が低下して曲げ難くなってしまい、本発明によって得られるホースの取扱性や施工性が悪くなってしまう可能性がある。また、内層の肉厚が厚い場合、温度変化による癖付きの度合いも大きくなるため、上記範囲の肉厚にすることが好ましい。また、インナーチューブ全体の肉厚は、0.6〜3mmでの範囲とすることが好ましい。肉厚が0.6mm未満では、ホースを曲げた時にインナーチューブがキンクし易くなったり、実使用に耐え得る十分な耐圧性を得ることが困難となったりする可能性がある。一方、肉厚が3mmを超えると、柔軟性が低下して曲げ難くなってしまい、本発明によって得られるホースの取扱性や施工性が悪くなってしまう可能性がある。
【0022】
本実施の形態では、上記のように成形したインナーチューブに、架橋を施す必要がある。架橋手段としては、例えば、過酸化物架橋、シラン架橋、電子線架橋などが挙げられるが、これらの中でも電子線架橋を採用することが好ましい。この理由としては、過酸化物架橋やシラン架橋のように架橋剤等の他の材料を配合する必要がなく、自由度の高い材料の選択が可能であるためある。更には、電子線架橋は、過酸化物架橋よりも処理速度が速く、シラン架橋と違い連続的な架橋が可能であることから、生産性に優れる。内層と外層は同時に架橋されることが好ましい。それは、内層と外層が架橋により強固に接着するためである。尚、上記のようなポリオレフィン系樹脂の内層と、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーの外層からなるインナーチューブの場合、内層のポリオレフィン系樹脂を電子線架橋することが非常に困難である。内層の外周に外層を形成した後に電子線架橋を行うと、一般的なポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは分子が崩壊し、機械的強度が大きく低下してしまうことになる。一方、内層のみを成形し架橋した場合、架橋したポリオレフィン系樹脂は接着性に乏しいため、特別な接着処理等を行わないと、その外周に外層のポリオレフィン系熱可塑性エラストマーを押出被覆しても、内層と外層との間に剥離が生じてしまう可能性がある。また、内層は薄くする必要があるが、ポリオレフィン系樹脂を薄肉で成形したり電子線架橋したりすることは非常に困難である。
【0023】
このようにして得られたインナーチューブの外周には、耐圧性を付与する目的や、屈曲・押圧・磨耗などによる損傷を防止する目的や、外観向上の目的で、補強管が形成される。補強管は、金属又は樹脂製であることが望ましい。補強管に金属を使用するとその強度から高い耐圧力が得られる。また、補強管は耐腐食性の面からステンレスにするのが望ましい。補強管における耐腐食性に対しては樹脂が優れている。但し、補強管が熱可塑性樹脂の場合、高温にて耐圧性が低下することから、金属製、樹脂製は使用環境と温度により適宜選択することとなる。
【0024】
前記補強管は、コイル状、蛇腹状、及び編み上げ状に形成されたものから選ばれる形態が望ましい。前記補強管がコイル状、又は蛇腹状の場合、円筒形状を固く保持することが可能であることから補強管へのインナーチューブの挿入が容易である。ただし、コイル状、又は蛇腹状の場合、補強管とインナーチューブとが密着していないため補強管内でインナーチューブが擦れて磨耗したり、隙間が大きいと補強管内でインナーチューブが膨れて耐圧力が得られなくなったりインナーチューブに径方向の繰り返しストレスがかかったりしやすいが、編上げ状にすると補強管はある程度拡縮可能であることから拡大した状態でインナーチューブを挿入し、挿入後は縮小させて両端を口金具で固定してインナーチューブとの密着を確保できる。また、編上げ状の場合、柔軟性が得られることも特徴であるが、形状保持力がない分ホースそのものが外力により折れたり潰れたりする場合がある。また、編上げ状の場合、編上げるために元の補強管の素材は比較的細い形状となるため耐腐食性や耐磨耗性に劣り、さらに外被が必要となる場合がある。したがって、用途や使用環境等に応じて、補強管としてコイル状、蛇腹状、及び編み上げ状の形態を選定すべきである。
【0025】
このようにして得られたホースの多くは、その両端に相手部材に接続するための接続継手が取り付けられて実使用に供される。接続継手としては、金属や樹脂などにより圧入加工やかしめ加工されたものが公知である。
【0026】
このようにして得られたホースは、優れた柔軟性を備えるとともに、十分な高温時の特性(耐キンク性、耐久性、耐引抜性)を備え、耐塩素性に非常に優れたものであり、例えば、流し台、洗面台等の水栓金具に取り付けられ、他端に吐出口を有するヘッドが取り付けられるシャワーホースなどとして好適に使用できるホースを得ることができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施の形態に対応した実施例1〜13と比較例1〜4を説明する。説明に際しては、適宜図1,2を参照する。1は補強管であり、金属製のコイル状管である。2はインナーチューブであり、内層2aと外層2bとからなる。3はホースであり、補強管1の内周にインナーチューブ2を配置したものである。
【0028】
(実施例)内層2aは、ポリエチレンとエチレン系共重合体(エチレン−オクテン共重合体)を表1及び表2に示す重量比で混合し、表1及び表2に示す濃度で老化防止剤を混合したものからなる。外層2bは、ポリエチレンとエチレン系共重合体(エチレン−オクテン共重合体)を表1及び表2に示す重量比で混合し、表1及び表2に示す濃度で老化防止剤を混合したものからなる。これら内層2aと外層2bを表1及び表2に示す厚さで内径7.0mmの管状に共押出成形し、内層2aと外層2bを同時に100kGyで電子線を照射して架橋を施して、インナーチューブ2とした。また、補強管1の内径は11mmとした。
【0029】
(比較例)内層2aは、ポリエチレンとエチレン系共重合体(エチレン−オクテン共重合体)を表1に示す重量比で混合し、表1に示す濃度で老化防止剤を混合したものからなる。外層2bは、ポリエチレンとエチレン系共重合体(エチレン−オクテン共重合体)を表1に示す重量比で混合し、表1に示す濃度で老化防止剤を混合したものからなる。これら内層2aと外層2bを表1に示す厚さで内径7.0mmの管状に共押出成形し、内層2aと外層2bを同時に100kGyで電子線を照射して架橋を施して、インナーチューブ2とした。また、補強管1の内径は11mmとした。
【0030】
このようにして得られた実施例1〜13及び比較例1〜4の17種類のホース3に接続継手を付けたものを試料として、各試験よる評価を行った。柔軟性の評価として、曲げ反力の測定を行った。高温時の耐キンク性評価として、熱キンク試験を行った。高温時の耐久性評価として、高温ウォーターハンマー試験を行った。高温時の耐引抜性の評価として、高温引抜試験を行った。耐塩素性の評価として、塩素通水試験を行った。試験結果については表1及び表2に併せて示す。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
まず、柔軟性の確認を行うために、曲げ反力の測定を行った。曲げ反力の測定は、図3に示すように、半径が50mmになるまでホース3をU字形に曲げ、そのときに必要な力Fを測定した。
【0034】
ホース3の端部に吐出口を有するヘッドが取り付けられ、このヘッド部を手に持って吐出方向や吐出位置を操作する場合、軽微な力でホース3を曲げられることが必要である。そのため、本試験による曲げ反力が小さい方が良く、特に、曲げ反力が5N以下となるような柔軟性を有することが好ましい。実施例1〜13によるホース3は、曲げ反力が5N以下となっており、優れた柔軟性を有していることが確認された。それに対して、内層の80℃における10Hzでの引張貯蔵弾性率が200MPa超である比較例1、及び外層の80℃における10Hzでの引張貯蔵弾性率が25MPa超である比較例4によるホース3は、曲げ反力が5Nを超えており、柔軟性が悪いことが確認された。
【0035】
次に、高温時の耐キンク性の確認を行うために、熱キンク試験を行った。ホース3に接続継手を付けたものをR=30mmに曲げて、80℃気相中に1時間放置した後、インナーチューブ2を取り出してインナーチューブ2のキンク発生の有無を確認した。インナーチューブ2にキンクが発生しないものを○、キンクが発生したものを×とした。
【0036】
熱によりインナーチューブ2が補強管1の内部でキンクしてしまうと、流量が低下し、更にはキンク部分におけるインナーチューブが劣化や破損してしまうことが考えられる。そのため、キンクは発生しないことが好ましい。実施例1〜13のインナーチューブ2はキンクが発生しておらず、キンクの発生し難いものであることが確認された。それに対して、内層の80℃における10Hzでの引張貯蔵弾性率が30MPa未満である比較例2、及び、外層の80℃における10Hzでの引張貯蔵弾性率が2MPa未満である比較例3のインナーチューブ2はキンクが発生しており、キンクが発生し易いものであることが確認された。
【0037】
次に、高温時の耐久性の確認を行うために、高温ウォーターハンマー試験を行った。高温ウォーターハンマー試験は、次のようにして行った。ホース3に、60℃の温水にて、内圧0.5MPaの加圧と放圧の1秒毎繰り返しを30万回行った後、インナーチューブの内面状態を目視により観察し、変化がなかったものを○、内面に亀裂等が生じたものを×とした。実施例1〜13の試料に関しては何の変化も認められず、十分な高温時の耐久性を有していることが認められた。それに対して、内層の80℃における10Hzでの引張貯蔵弾性率が30MPa未満である比較例2の試料においては、内層に亀裂が入っているのが確認され、ホース3の耐久性について不安が残るものであった。
【0038】
次に、高温時の耐引抜性の確認を行うために、高温引抜試験を行った。高温引抜試験は、80℃雰囲気下においてホースを引っ張り、接続継手からインナーチューブが抜けるか、それともインナーチューブが破断するかを確認する。本試験では、インナーチューブが継手から抜けるよりも、抜けずにインナーチューブが破断した方が良いため、インナーチューブが破断したものを○、インナーチューブが接続継手から抜けたものを×とした。実施例1〜13の試料については、インナーチューブが破断するという結果となり、優れた高温時の耐引抜性を有していることが確認された。それに対して、内層の80℃における10Hzでの引張貯蔵弾性率が30MPa未満である比較例2、及び外層の80℃における10Hzでの引張貯蔵弾性率が2MPa未満である比較例3の試料については、インナーチューブが抜けてしまっており、高温時の耐引抜性について不安が残るものであった。
【0039】
また、耐塩素性の確認を行うために、塩素通水試験を行った。試験は、両端に接続継手を取り付けた各試料内に、液温:90℃、塩素濃度:50ppm、pH:6.6、流量:3L/分の条件で塩素水を循環させ、破壊に至るまでの時間を確認した。破壊に至るまでの時間が7,000時間を越えているものは◎、4,000時間以上7,000時間以下のものは○、4,000時間未満で破壊したものは×とした。実施例1〜9,11,13の試料に関しては非常に優れた耐塩素性を有していることが確認された。一方で、内層の老化防止剤濃度が0.25%未満である実施例10、外層の老化防止剤濃度が内層の1.04倍未満である実施例12、及び、80℃における10Hzでの引張貯蔵弾性率が30MPa未満である比較例2に関しては、耐塩素性について、実使用上問題のない程度ではあるが、やや劣る結果となった。尚、内層の老化防止剤濃度が1.5%を超える実施例11と、外層の老化防止剤濃度が内層の3倍を超える実施例12は、耐塩素性については優れていたものの、老化防止剤のブルームが確認された。
【0040】
このように、本発明の実施の形態に対応した実施例1〜17によるホース3は、優れた柔軟性を備えるとともに、十分な高温時の特性(耐キンク性、耐久性、耐引抜性)を備え、耐塩素性に優れていることが示された。よって、これら実施例は、種々の特性において優れたものであり、実用上十分に機能するものであることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によるホースは、優れた柔軟性を備えるとともに、十分な高温時の特性(耐キンク性、耐久性、耐引抜性)を備え、耐塩素性に非常に優れたものである。従って例えば、流し台、洗面台等の水栓金具に取り付けられ、他端に吐出口を有するヘッドが取り付けられるシャワーホースなどとして好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 補強管
2 インナーチューブ
2a 内層
2b 外層
3 ホース
F 曲げ反力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強管と、該補強管の内周に配置されるインナーチューブとからなるホースにおいて、上記インナーチューブは少なくとも内層と外層からなり、
上記内層と外層は共に架橋ポリオレフィンからなり、上記内層の80℃における10Hzでの引張貯蔵弾性率が30MPa以上200MPa以下であり、上記外層の80℃における10Hzでの引張貯蔵弾性率が2MPa以上25MPa以下であり、上記外層のDSCによる吸熱ピークが少なくとも40℃〜70℃と90℃〜130℃にあることを特徴とするホース。
【請求項2】
請求項1記載のホースにおいて、上記内層がポリエチレンとエチレン系共重合体を重量比で70:30〜99:1で混合したものからなり、上記外層がポリエチレンとエチレン系共重合体を重量比で1:99〜35:65で混合したものからなることを特徴とするホース。
【請求項3】
請求項1又は2記載のホースにおいて、上記内層が老化防止剤を0.25〜1.5%含み、上記外層の老化防止剤が上記内層の老化防止剤の1.04倍以上3倍以下であることを特徴とするホース。
【請求項4】
請求項1乃至3記載のホースにおいて、上記内層の厚さが0.1mm以上0.6mm以下であることを特徴とするホース。
【請求項5】
請求項1乃至4記載のホースにおいて、上記補強管が金属製又は樹脂製のコイル状管、蛇腹状管、又は、編み上げ状管であることを特徴とするホース。
【請求項6】
請求項1乃至5記載のホースの製造方法において、上記インナーチューブの内層と外層とを、共押出成形した後、電子線照射によって同時に架橋することを特徴とするホースの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−31974(P2012−31974A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173849(P2010−173849)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000129529)株式会社クラベ (125)
【Fターム(参考)】