説明

ボイド内立体駐車装置およびその建設方法

【課題】 建物躯体の建設工事の進捗に大きく影響されることなく、そのボイド内に駐車装置の構築を一気に連続且つ集中的に行うことができる建設方法を提供する。
【解決手段】 ボイド3の内壁3aコンクリートの型枠が撤去され、且つ、ボイド天井が吹き抜けの状態において、ボイド3の最上部に吊り下げ用のビーム31を架設するビーム架設工程と、この吊り下げ用ビーム31からゴンドラ38を昇降可能に吊り下げる作業台吊持工程と、前記吊り下げ用ビーム31から揚重具としての電動ウインチ40を吊り下げる揚重具吊持工程と、前記ゴンドラ38に搭乗した作業者が、電動ウインチ40によって鉄塔用材料を搬送して、立体駐車装置1の駐車塔4を下層から上層にかけて建造する鉄塔建造工程と、建造された駐車塔4の内部に、収容される車両を搬送する搬送機を含む機械類を据え付ける据付工程とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物躯体のボイド内に建設される実質的に塔状の鉄骨構造体である駐車塔を有した立体駐車装置、および、この立体駐車装置を建設する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、予め建物に内部空洞(以下、「ボイド」という)を形成し、そのボイド内に立体駐車装置を設置する形態が多くなっている(たとえば、特許文献1および特許文献2を参照)。
【0003】
高層建物の建築工事においては、基礎工事が完了した後、種々の建築工法によって下層階から上層階にかけて順次、柱、梁、ブレース等から構成される鉄骨構造体が構築されていく。これと同時に立体駐車装置が組み込まれるボイド部分の骨組みも構築されていく。この鉄骨構造体の施工が完了すると、鉄骨建ての進行に応じて下層階から順次床スラブが施工され、同時に、ボイドを構成する耐力、耐火性の内壁(側壁とも呼ばれる)も施工されていく。
【0004】
従来、ボイド内への駐車塔の構築は、建物側の構築の進捗に併せて断続的に行われている。すなわち、各階層に対応するボイド内壁(コンクリート)の養生期間が終了して内壁の型枠が外されるごとに、下層鉄骨節から上層鉄骨節へと順次断続的に駐車塔を構築している。その際、駐車塔用の建築資材は、もともとボイド内に組まれている建物の建築仮設足場および建物の建築に供されているタワークレーン等の各種揚重機を利用して搬送している。
【0005】
しかしながら、この鉄骨建て方では、ボイド内に建築用の仮設足場が残った状態のままで鉄骨組立施工を行わなければならないので、このボイド内という狭い領域では相当の難工事となる。
【0006】
さらに、一般的には、建物躯体の工事事業者(建設業者)と鉄骨駐車塔の工事事業者(立体駐車設備業者)とは別体である。したがって、鉄骨駐車塔の構築時期には建物躯体側の工事が中断され、逆に、ボイド内壁の養生期間中は鉄骨駐車塔の構築を中断しなければならない。結果的に、鉄骨駐車塔の構築作業が断続的となり、工事開始から竣工までの全体の工期の長期化を招いている。加えて、鉄骨駐車塔の工事事業者にとっては、鉄骨資材の調達、搬入および作業者の人員計画を含めた段取りを、建物躯体の工事進捗に合わせるように調整しなければならない。これは非常に煩雑となり、工期の長期化と相俟って工費の高騰を招く結果となっている。
【0007】
前述のとおり、ボイド内立体駐車装置自体については特許文献に種々紹介されているが、その効率的な構築法を紹介した文献等は知られていない。特許文献3には、塔状鉄骨構造体の組立方法が開示されているが、これはボイド内での構築法ではない。この構築法をボイド内立体駐車装置の構築に適用すれば、常に建物側のクレーンを必要とし、前述のとおり建物側の建築工事の進捗に追従する必要がある。その結果、鉄骨駐車塔の構築が断続的にならざるを得ない。
【特許文献1】特開2005−155161号公報
【特許文献2】特開2004−316186号公報
【特許文献3】特開平4−350271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる事情を鑑みてなされたものであり、建物ボイド内に立体駐車装置を構築するに際して、建物側の建設工事の進捗に大きく左右されないことにより、工事開始から竣工に至るまでの全体の工期の長期化が回避される建設方法を提供することを目的としており、さらに、この建設方法によって建設された立体駐車装置を提供することをも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のボイド内立体駐車装置の建設方法は、
建物の建設中に当該建物のボイドに立体駐車装置を建設する方法であって、
前記ボイドの内壁コンクリートの型枠が撤去され、且つ、ボイド天井が吹き抜けの状態において、ボイドの最上部に吊り下げ用ビームを架設するビーム架設工程と、
この吊り下げ用ビームから作業台を昇降可能に吊り下げる作業台吊持工程と、
前記吊り下げ用ビームから揚重具を吊り下げる揚重具吊持工程と、
前記昇降作業台に搭乗した作業者が、前記揚重具によって鉄塔用材料を搬送して、立体駐車装置の駐車塔を下層から上層にかけて建造する鉄塔建造工程と、
建造された駐車塔の内部に、収容される車両を搬送する搬送機を含む機械類を据え付ける据付工程と、を含んでいる。
【0010】
前記揚重具とはたとえばウインチ、チェーンブロック等である。前記車両の搬送機とは、たとえばエレベータ式駐車装置であればエレベータ、垂直循環式駐車装置であれば対のスプロケット、チェーン、ケージ等である。
【0011】
この建設方法によれば、ボイドの内壁の養生期間が終了すれば、特段の障害もなく駐車装置の構築専用の吊り下げ用ビーム、昇降作業台、揚重具がボイド内に設置される。したがって、その後はこれらを使用することにより、建物躯体の建設工事の進捗に左右されずに立体駐車装置の構築を円滑に連続して進めることができる。
【0012】
前記建設方法に、収容車両を搬送するための搬送機を含む機械類を駐車塔の内部に据え付ける据付工程を含めることができる。その際、前記昇降作業台および揚重具の少なくとも一方を使用する。
【0013】
前記ビーム架設工程において、吊り下げ用ビームのための資材を、吹き抜け状態の天井部分を通してボイド内へ搬入するために、建物の建設に用いられた揚重機を利用することができる。前記揚重機とは、たとえば、高層建造物の建設に一般的に用いられるタワークレーン、自走式の小型クレーン車、チェーンブロック等である。
【0014】
前記ビーム架設工程において、吊り下げ用ビームをボイドの内壁面間に架け渡すように架設するために、建物のボイド内壁の構築に用いられた仮設足場を利用することができる。この場合、前記鉄塔建造工程の開始前に、建物のボイド内壁の構築に用いられた仮設足場を撤去すればよい。
【0015】
前記ビーム架設工程に、前記ボイドの少なくとも二つの内壁面それぞれに上下方向に沿って支柱を固定し、ボイドを跨ぐようにこれら支柱間にビームを架け渡す工程を含むことができる。ビームの架設に支柱を用いることには、ビームを望ましい高さ位置に取り付ける上での以下の利点がある。すなわち、ボイドの内壁面のうちの固定に適した位置(たとえば鉄骨梁のある部分)に予め長さを調整した支柱を取り付け、この支柱にビームを架け渡すことができる。また、取り付けた支柱のうちの所望の高さ位置にビームを架け渡すことができる。こうすることにより、ボイド内壁の構造に拘わらずビームを所望の高さ位置に架設することができる。
【0016】
本発明のボイド内立体駐車装置は、
建物躯体に形成されたボイド内に設置される立体駐車装置であって、
その内部に駐車機構が組み込まれた駐車塔と、
この駐車塔の上方に、ボイドの内壁面間に架け渡された吊り下げ用ビームとを備えている、前述したうちのいずれか一の建設方法によって建設された立体駐車装置である。
【0017】
かかる駐車装置によれば、その保守、点検、改造等に際して、その駐車塔の上方に架設されている吊り下げ用ビームを利用することにより、各種揚重具、親綱、昇降作業台を容易に設置することができ、これらを前記保守、点検、改造等に使用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、建物のボイドの内壁コンクリートの型枠が撤去された後で、且つ、ボイド天井が吹き抜けの状態で、建物躯体の建設工事の進捗に大きく影響されることなくボイド内立体駐車装置の構築を一気に連続且つ集中的に行うことができる。その結果、工事開始から竣工に至るまでの全体の工期の長期化が回避され、工費が節減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照しながら本発明の実施形態にかかる建物ボイド内の立体駐車装置(以下、単に駐車装置という)、およびその建設方法を説明する。
【0020】
図1は、高層建物のボイド内に駐車装置が設置されている状態を概略的に示す正面図である。図2は図1のII−II線断面図であり、図1における高層建物の地上階(入出庫階)を上から見た図である。図3は図1のIII−III線断面図であり、駐車装置を示す正面図である。図4は図3のIV−IV線断面図であり、駐車装置の駐車階を上から見た図である。
【0021】
図1および図2に示すように、本実施形態にかかる駐車装置1は、いわゆるビル内鉄塔型のものであり、居住空間(住居部分、オフィス等)を擁するビルの建物躯体2に形成された平面視矩形のボイド3の内部に立設されている。ボイド3は地上から建物躯体2の第N階の床面までの高さを有している。したがって、この駐車塔4の天井は上記第N階の床スラブの直下に位置している。
【0022】
また、駐車塔4は、その前後左右の四面が建物躯体2によって囲まれているが、その入出庫階5では、入出庫口6(図2および図3参照)から外部へ通じる入出通路7に対向する範囲が開放されている。もちろん、その左右両側面および後面が建物躯体2によって囲まれ、前面4Fの全体が外部へ開放されたものでもよい。このような形態で、高層マンション等の高層建物の中央部ボイド内に立体駐車装置を設置するケースが多くなっている。この種のボイドは、一般にその周囲がコンクリート製の耐震耐火壁から構成された隔壁(以下、内壁とも呼ぶ)8に囲まれている。また、この隔壁8の外周に形成された回廊状の共有廊下9が、住戸10等を駐車装置用のボイド3からさらに隔てている。したがって、機械式の駐車機構を内蔵した駐車塔4が前記隔壁内面8aに直接接触していても住戸10への騒音や振動の影響は極めて少ない。
【0023】
図3および図4に示すように、本実施形態においてはエレベータ式駐車装置を例示している。この駐車装置1は車両Mを搬送するためのエレベータ11を備えている。エレベータ11の昇降路12に沿ってその左右両側に多数段の駐車棚13が配設されている。各駐車棚13には車両Mを搭載するためのパレット14が配置されている。エレベータ11はワイヤーロープ15によって吊り下げられており、このワイヤーロープ15の他端にはカウンターウエイト16が連結されている。エレベータ11の上面にはパレット14を載置し、且つ、その横行を案内するレール11aが敷設されている。エレベータ11の下面には、パレット14を持ち上げて旋回させる旋回機能と、このパレット14を前記駐車棚13との間で受け渡しする移載機能を併せ持った旋回移載機構17が設けられている。図4には、この旋回移載機構17によって90°旋回させられたパレット14の一部が示されている。
【0024】
地上階(地下階であってもよい)である入出庫階5には入出庫口6が形成されている。また、駐車装置1の最上階である機械室18には、ワイヤーロープ15を巻き上げ繰り出してエレベータ11を昇降させる昇降駆動装置19が設置されている。
【0025】
この駐車塔4は、ボイド3の四隅に立設された主柱20と、主柱20間の適宜箇所に水平に架け渡された梁21とによって塔状に組み立てられたものである。駐車塔4の所定位置には主棚柱22と副棚柱23とが立設されている。副棚柱23はエレベータ昇降路12の四隅に立設されている。駐車棚13には、この主棚柱22に突設された棚受け部材13aと副棚柱23に突設された棚受け部材13aとの間にレール13bが架け渡されている。このレール13bの上に前記パレット14が格納されている。また、主柱20と梁21とが形成する四角面の対角を結ぶように補強用斜材(ブレス)24が交差して設けられている。
【0026】
図3および図4に示すように、各主柱20の上下方向に所定間隔をおいた複数所には、水平サポート装置(以下、単にサポート装置とも呼ぶ)25が取り付けられている。このサポート装置25は、主柱20上の各取付箇所において互いに水平面内にほぼ90゜をなす外向きの二方向それぞれに突出した一対のサポート装置25a、25bから構成されている(図4参照)。このように、平面視矩形の駐車塔4の四隅それぞれに、互いにほぼ90゜をなす方向にサポート装置25を突設しているため、いずれの方向の横揺れに対しても、いずれかのサポート装置25がボイド内壁面8aに当接することによって有効に作用する。
【0027】
また、図3に示すように、駐車塔4の上方におけるボイド3の対向する二つの内壁面8a間に吊り下げ用ビーム31が架け渡されている(図7も併せて参照)。これは、後述するように、ボイド3内に本駐車装置1を建設する際に使用されたものを残留させているのである。この吊り下げ用ビーム31を、駐車装置1の保守、点検、改造等の作業に利用することができる。すなわち、この吊り下げ用ビーム31に、後述する電動ウインチ40、親綱43、ゴンドラ38等を設置することができ、その使用が可能となる。この吊り下げ用ビーム31も駐車装置1の重要な一構成部材となる。
【0028】
図5の鉄骨建て方のフローチャート、並びに、図6および図7の作業手順図を参照しながら、上記駐車装置1の建設方法の一例を説明する。図5のフローチャートは、「建物躯体の建築工事」の範疇(図中左端)と、「建物ボイド内における鉄骨駐車塔の建て方」の範疇(図中中央)と、「駐車装置の機械据え付けおよび付帯工事」の範疇(図中右端)とに分けて示している。なお、図5に記載された作業ブロック(1)〜(13)の順に従って説明する。
【0029】
まず、建物躯体2の建築工事については、
(1) 対象の建物躯体2が地上階(第1階)から第N階以上の階まで完成している状態である。
(2) したがって、ボイド3は既に完成している。そして、ボイド3の天井部分の第N階の床が未だスラブで閉止されておらず、吹き抜けの状態である。すなわち、図6(a)に示すように、ボイド3の天井部に開口3aが存在している。
(3) また、ボイド3全体の内壁8の養生期間は終了している。そして、
(4) ボイド内壁8の型枠が全て撤去されている。
【0030】
以上の段階で、ボイド3内における鉄骨駐車塔4の組み立て工事については、
(5) まず、ボイド3最上部への吊り下げ用ビーム31の架設が行われる。すなわち、図6(a)に示すように、建物躯体の建設に用いられているタワークレーン34、建物躯体の各階のスラブ上を自走する小型クレーン車(図示せず)、第N階またはそれ以上の階に仮設したチェーンブロック(図示せず)等、利用できる揚重機を用いて、吊り下げ用ビーム31用の鉄骨資材、たとえば、後述する支柱32やビーム本体33をボイド上端の開口3aからボイド3内へ搬入する。さらに、種々の建設用資材(後述する揚重具40、ワイヤーロープ39等)も同時に搬入しておいてもよい。また、後述する作業台38はボイド3地上部の開口(入出通路)から搬入してもよく、また、上述のタワークレーン34を用いて搬入してもよい。なお、前記自走小型クレーン車やチェーンブロックを使用する場合には、あらかじめ鉄骨資材をタワークレーン34によってボイド3より上方の階に荷揚げしておけばよい。そして、作業者は、ボイド3内の建築工事に用いられた仮設足場35や仮設階段36を利用して、複数組の吊り下げ用ビーム31をボイド3の最上部に取り付ける。
【0031】
ここで、吊り下げ用ビーム31は一対の支柱32とビーム本体33とから構成された門形状を呈したものである(図7も併せて参照)。まず、ボイド3の最上部における対向する二内壁面8aそれぞれに沿って、複数本の支柱32を横方向に適宜間隔をおいて同一高さ位置に固定する。各支柱32はその長手方向が鉛直方向となるようにし、その下部を後打ちアンカーセットによって内壁面8aの特に鉄骨梁が延設されている部分に固定支持する(図6(a))。ついで、図6(b)に示すように、前記開口3aからビーム本体33を搬入する。このビーム本体33をボイド3に水平に架け渡すように、その両端部を対向配置された対の支柱32の上端部それぞれに固定する。このようにして必要数の吊り下げ用ビーム31がボイド3最上部に架設される。内壁面8a間にビーム本体33を取り付けるために支柱32を用いるのは、固定位置を常に内壁面8aのうちの梁が存在する部分に固定することができ、そのうえで、支柱32の長さを調節することによってビーム本体33の高さ位置を調整できるからである。また、このように支柱32を取り付けておくことにより、複雑な形状構造である前記開口3a近傍にビーム本体を直接取り付けるという厄介な作業が不要になるからである。
【0032】
図3に示すように、吊り下げ用ビーム31が架設されるのは、建物躯体2の第N階の床と駐車塔4の機械室18との間の空間である。この空間の高さ寸法は建設される建物躯体2および駐車装置1によって様々である。したがって、この空間の高さ寸法に応じて支柱32の長さを変更する必要がある。また、可能であれば、支柱32を用いずに固定用ブラケット等を介装してビーム本体33の両端部をボイド内壁面8a、特に梁の部分に固定してもよい。
【0033】
本実施形態では6組の吊り下げ用ビーム31が架設されているが、とくにこの組数に限定されることはない。また、ビーム本体33がボイド3の対向する二つの内壁面8a間に架け渡されているが、対向二面間に限定されない。たとえば、必要に応じて隣接二面間に架け渡してもよい。
(6) その後は、鉄骨駐車塔4の組み立て工事にとってボイド3天井部の前記開口3aは不要となる。したがって、適時にスパンコンクリート37を打設することによって開口3aを封鎖する。もちろん、ボイド3を吹き抜け状態のままにする建物もあるので、その場合にはスパンコンクリート37の打設は行わない。
(7) 図6(c)および図7に示すように、前記吊り下げ用ビーム31に、作業台(以下、ゴンドラともいう)38を昇降可能に吊り下げるためのワイヤーロープ39を吊持する。また、揚重具としての電動ウインチ(たとえばチルクライマー、実用新案登録第3015292号公報参照)40を複数個取り付ける。さらに、各電動ウインチ40に昇降用のワイヤーロープ41を装着する。具体的には、電動ウインチ40の巻きドラム(図示せず)にワイヤーロープ41を滑ることなく巻き掛けて係合させる。このワイヤーロープ41の両端には抜け止め部材兼用の吊りフック42を装着する。また、吊り下げ用ビーム31に作業者の安全のための親綱としてのワイヤーロープ43を吊持する。その他、必要な建設用道具をこの吊り下げ用ビーム31に取り付ける。
【0034】
図7に示すように、本実施形態では、6組の吊り下げ用ビーム31のうち、最前(1本目)および最奧(6本目)の各ビームの左右両端部近傍それぞれに、計4台の電動ウインチ40を取り付け、各電動ウインチ40には前述のとおり昇降用のワイヤーロープ41を装着している。2本目および5本目の各ビームの左右両端部近傍それぞれに、ゴンドラ38吊持用のワイヤーロープ39を計4本取り付ける。中央の2本(3本目と4本目)の各ビームの左右両端部近傍それぞれに、親綱として計4本のワイヤーロープ43を床面に届く長さで取り付ける。作業者は自己の安全帯の係止金具をこの親綱43に係止して落下等を防止する。なお、親綱は吊り下げ用ビーム31から垂下したもののみならず、建設工事中に必要に応じて主柱20や梁21等に張り巡らせてもよい。
(8) 前述のとおり、ボイド3内へゴンドラ38や揚重具を搬入したので、もはや仮設足場35や仮設階段36は不要である。また、その後の作業にとって邪魔にもなるのでこれら35、36を解体して撤去する。これにより、ボイド3はほとんど障害物のない空洞として形成され、鉄骨建方にとって安全で施工しやすい環境が整う。
(9) 図7に示すように鉄骨建方の準備作業を行う。入出庫階5において、ゴンドラ38に装備されている昇降用の電動ウインチ46に前記ワイヤーロープ39の下端近傍を取り付ける。具体的には、前述したと同様に、この電動ウインチ46の巻きドラム(図示せず)にワイヤーロープ39を滑ることなく巻き掛けて係合させる。ワイヤーロープ39の下端には抜け止め機能を兼備した錘39aを取り付けておく。この錘39aが床面に置かれ、ワイヤーロープ39は鉛直に垂れた状態にある。駆動モータによって巻きドラムを正逆方向に回転させることにより、ワイヤーロープ39を巻き込みまたは送り出してゴンドラ38を昇降させる。図7には二台のゴンドラ38が使用されているが、とくに二台には限定されない。また、電動ウインチ40の個数や昇降用ワイヤーロープ41の本数も必要に応じて変更すればよい。
【0035】
図7に示すように、複数個の電動ウインチ40から垂下された複数本のワイヤーロープ41のうちの一部(図中の最前のもの)は、他のワイヤーロープ41(図中の最奥のもの)の吊り位置調整のために、その先端の吊りフック42を当該他のワイヤーロープ41に係止している。係止した前記一部のワイヤーロープ41を電動ウインチ40によって引くことにより、当該他のワイヤーロープ41は手前に引き寄せられる。
(10) 以上により、鉄骨建方の準備作業を終える。そして、作業者は、ゴンドラ38に搭乗して昇降し、電動ウインチ40等を用いて主柱20、梁、ブレース24等を搬送しながら、地上の入出庫階における第1節から最上部の第n節にかけて順次鉄骨駐車塔4を連続して一気に建造する。いわゆるゴンドラ工法である。吊り下げ用ビーム31やゴンドラ38に取り付けられた電動ウインチ40は一般的には遠隔で操作する。
(11) 鉄骨駐車塔4の枠組みは、第1節から第n節までの主柱20を立設し相互に接続しつつ、梁21を架け渡し、火打ち梁44やブレース24を取り付ける。本実施形態のようにエレベータ式の駐車装置の場合には棚柱22、23を同時に取り付け、さらに、水平サポート装置25を装着して完成する(図3および図4参照)。
(12) 引き続き、駐車塔4内に機械類の据え付けを行う。すなわち、本実施形態の場合、駐車塔4の最上部である機械室18にエレベータ11用の昇降駆動装置19を設置し、エレベータ11昇降用のワイヤーロープ15(図3および図4参照)のローピング、このワイヤーロープ15へのエレベータ本体11およびカウンターウエイト16の取り付け、各駐車棚13へのパレット14の配備等を行う。さらに、入出庫口6用の三方枠6aおよび入出庫扉6bを設置する(図4参照)。これらの工事に対しても、前述した電動ウインチ40、親綱43、ゴンドラ38等を使用することができる。
(13) ついで、運転制御盤45(図4参照)の設置、電気工事および消火設備工事の施工、前記機械類の調整作業を経て、立体駐車装置1の竣工に至る。
【0036】
ここで、前述した吊り下げ用ビーム31は撤去せずに残留させておく。そうすることにより、駐車装置1の保守、点検、改造等に際して、この吊り下げ用ビーム31を利用することができる。その結果、前述した電動ウインチ40、親綱43等の使用が可能になり、さらにはゴンドラ38も使用可能となる。駐車塔4はボイド3内に立てられるため、その天井部を含めて外壁パネルが一切貼着されていない。したがって、各種のワイヤーロープ39、41を駐車塔4内に垂下することができるのである。
【0037】
以上のとおり、この駐車装置の建設方法によれば、ボイド内壁8の養生期間が終了して型枠が撤去された後は、建物躯体の建設工事の進捗に合わせる必要はない。ゴンドラ38や揚重具の設置等の準備作業を含めて、鉄骨駐車塔4の建方から機械類据付工事、電気工事等を経て竣工に至るまで一気に集中して行うことができる。その結果、資材の調達および搬入、人員計画、工程段取り等が効率的となり、全体の工期が大幅に短縮され、それに伴って工費も節減される。しかも、仮設足場35や仮設階段36を完全撤去しているため、ボイド3内はほとんど障害物のない空洞となり、工事が安全且つ円滑に進行する。
【0038】
本発明の駐車装置およびその建設方法の対象はエレベータ式駐車装置には限定されない。たとえば、垂直循環式駐車装置等を含むタワー式(鉄骨駐車塔を有するもの)の機械式駐車装置に対して適用可能である。また、本実施形態では、駐車装置1を建設するボイド3は入出通路7による開口を除いて周囲四面が壁等によって閉塞された空洞であるが、一面または二面が外部に露出するように開放されたボイドに建設する場合にも適用可能である。
【0039】
上述した駐車装置およびその建設方法は一実施形態であり、本願発明の要旨を損なわない範囲での種々の変更は可能であり、本願発明は上述した実施形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、建物躯体の建設工事の進捗に大きく影響されることなく立体駐車装置の構築を一気に連続且つ集中的に行うことができる。したがって、建物躯体の建設とともに行うボイド内の立体駐車装置の建設にとって有用である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の建設方法が適用されうる駐車装置が高層建物のボイド内に設置されている状態を概略的に示す正面図である。
【図2】図1のII−II線断面図であり、図1における高層建物の地上階を上から見た図である。
【図3】図1のIII−III線断面図であり、本発明の駐車装置の一実施形態を示す正面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図であり、駐車装置の駐車階を上から見た図である。
【図5】本願発明の駐車装置の建設方法の一実施形態を示すフローチャートであり、「建物躯体の建築工事」の範疇(図中左端)と、「建物ボイド内における鉄骨駐車塔の建て方」の範疇(図中中央)と、「駐車装置の機械据え付けおよび付帯工事」の範疇(図中右端)とに分けて示している。
【図6】図6(a)は、図5に示す建設方法の一部についての作業手順図であり、図6(b)は、図5に示す建設方法の他の一部についての作業手順図であり、図6(c)は、図5に示す建設方法のさらに他の一部についての作業手順図である。
【図7】図5に示す建設方法のさらに他の一部を示す透視斜視図である。
【符号の説明】
【0042】
1 … 駐車装置
2 … 建物躯体
3 … ボイド
4 … 駐車塔
5 … 入出庫階
6 … 入出庫口
7 … 入出通路
8 … 内壁
9 … 共有廊下
10 … 住戸
11 … エレベータ
12 … 昇降路
13 … 駐車棚
14 … パレット
15 … ワイヤーロープ
16 … カウンターウエイト
17 … 旋回移載機構
18 … 機械室
19 … 昇降駆動装置
20 … 主柱
21 … 梁
22 … 主棚柱
23 … 副棚柱
24 … ブレス
25 … 水平サポート装置
31 … 吊り下げ用ビーム
32 … 支柱
33 … ビーム本体
34 … タワークレーン
35 … 仮設足場
36 … 仮設階段
37 … スパンコンクリート
38 … ゴンドラ(作業台)
39 … (ゴンドラ用)ワイヤーロープ
40 … 電動ウインチ
41 … (電動ウインチ用)ワイヤーロープ
42 … 吊りフック
43 … 親綱
44 … 火打ち梁
45 … 運転制御盤
46 … 電動ウインチ
M … 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の建設中に当該建物のボイドに立体駐車装置を建設する方法であって、
前記ボイドの内壁コンクリートの型枠が撤去され、且つ、ボイド天井が吹き抜けの状態において、ボイドの最上部に吊り下げ用のビームを架設するビーム架設工程と、
この吊り下げ用ビームから作業台を昇降可能に吊り下げる作業台吊持工程と、
前記吊り下げ用ビームから揚重具を吊り下げる揚重具吊持工程と、
前記昇降作業台に搭乗した作業者が、前記揚重具によって鉄塔用材料を搬送して、立体駐車装置の駐車塔を下層から上層にかけて建造する鉄塔建造工程と、を含んでいるボイド内立体駐車装置の建設方法。
【請求項2】
前記昇降作業台および揚重具の少なくとも一方を使用して、収容車両を搬送するための搬送機を含む機械類を前記駐車塔の内部に据え付ける据付工程をさらに含んでいる請求項1記載のボイド内立体駐車装置の建設方法。
【請求項3】
前記ビーム架設工程において、建物の建設に用いられた揚重機を利用して吊り下げ用ビームのための資材を、吹き抜け状態の天井部分を通してボイド内へ搬入する請求項1記載のボイド内立体駐車装置の建設方法。
【請求項4】
前記ビーム架設工程において、建物のボイド内壁の構築に用いられた仮設足場を利用して、吊り下げ用ビームをボイドの内壁面間に架け渡すように架設する請求項1記載のボイド内立体駐車装置の建設方法。
【請求項5】
前記鉄塔建造工程の開始前に建物のボイド内壁の構築に用いられた仮設足場を撤去する請求項4記載のボイド内立体駐車装置の建設方法。
【請求項6】
前記ビーム架設工程が、前記ボイドの少なくとも二つの内壁面それぞれに上下方向に沿って支柱を固定し、ボイドを跨ぐようにこれら支柱間にビームを架け渡す工程を含む請求項1記載のボイド内立体駐車装置の建設方法。
【請求項7】
建物躯体に形成されたボイド内に設置される立体駐車装置であって、
その内部に駐車機構が組み込まれた駐車塔と、
この駐車塔の上方に、ボイドの内壁面間に架け渡された吊り下げ用ビームとを備えている、請求項1〜6のうちのいずれか一の項に記載の建設方法によって建設されたボイド内立体駐車装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−215806(P2009−215806A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61581(P2008−61581)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(593139271)新明和エンジニアリング株式会社 (109)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【Fターム(参考)】