説明

ボイラの蒸気発生量算出方法

【課題】稼働中のボイラにおいても、大掛かりな工事などを必要とせずに蒸気発生量を算出する蒸気発生量算出方法を提供する。
【解決手段】燃料の燃焼を行うことで熱を発生して蒸気の供給を行っている蒸気ボイラ1において、ボイラ1の燃焼排ガスを流す煙道2内の全圧と静圧を測定し、全圧と静圧の差から煙道内の排ガス流速を測定するピトー管による排ガス流速計3と、燃焼排ガスの温度を測定する排ガス温度計4を設け、前記測定装置にて測定した値と、蒸気ボイラが持つ固有値により、蒸気ボイラの燃料使用量を演算により算出し、演算で求めた燃料使用量を用いて蒸気使用量を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボイラの蒸気発生量算出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許第2737753号公報に記載があるように、ボイラで発生する蒸気量を測定する蒸気流量計は、ボイラにとって必ずしも必要な装置ではないために設置していない場合が多くある。しかしその場合であっても、ボイラの入替え時などで蒸気発生量の把握が必要になることがある。近年は既設の大型ボイラを撤去し、替わりに小型ボイラを複数台設置するということが多く行われているが、大型ボイラの蒸気発生能力は必要蒸気量よりも大幅に大きなものであることがよくある。そのため、ボイラの更新時には必要な蒸気量を把握して入替えを行わないと、新設ボイラの能力に過不足が発生することになってしまう。
【0003】
蒸気発生量の把握が必要となって蒸気流量計を設置する場合、蒸気流量計を設置するためには大掛かりな工事が必要となり、大きな費用と時間を要することになる。そこで特許273753号では、燃料流量を測定し、燃料流量から蒸気発生量を演算で算出する発明が行われた。燃料流量計で燃料流量を測定しておけば、特許第2733753号の詳細な説明にあるように、ボイラの固定値と他の測定値を用いて蒸気発生量を演算によって算出することができる。燃料の場合、蒸気に比べると流量は大幅に少なくなるため、燃料流量計の設置工事は蒸気流量計の設置工事に比べると、工事の規模が小さくなり、工事の費用と時間を削減することができる。しかし、燃料流量は蒸気流量に比べると少ないとしても、燃料流量計を設置するためには既設の燃料配管に燃料流量計を切り込む必要があり、工事の費用と時間は依然として大きなものであった。また、燃料流量計を設ける場合、特にガス燃料の場合には供給圧力及び流量範囲等、種類多く流量計を準備する必要があるという問題もあった。
【特許文献1】特許2737753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、稼働中のボイラにおいても、大掛かりな工事などを必要とせずに蒸気発生量を算出する蒸気発生量算出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、燃料の燃焼を行うことで熱を発生して蒸気の供給を行っている蒸気ボイラにおいて、ボイラの燃焼排ガスを流す煙道内の全圧と静圧を測定し、全圧と静圧の差から煙道内の排ガス流速を測定するピトー管による排ガス流速計と、燃焼排ガスの温度を測定する排ガス温度計を設け、前記測定装置にて測定した値と、蒸気ボイラが持つ固有値により、蒸気ボイラの燃料使用量を演算により算出し、演算で求めた燃料使用量を用いて蒸気使用量を算出することを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、燃料の燃焼を行うことで熱を発生して蒸気の供給を行っている蒸気ボイラにおいて、ボイラの燃焼排ガスを流す煙道内の全圧と静圧を測定し、全圧と静圧の差から煙道内の排ガス流速を測定するピトー管による排ガス流速計、燃焼排ガスの温度を測定する排ガス温度計、燃焼排ガスの酸素濃度を測定する酸素濃度計を設け、測定装置にて測定した煙道内静圧(Ps)、排ガス流速(V)、排ガス温度(T)、排ガス中酸素濃度(O2)と、対象ボイラの固有値である煙道断面積(A)、流量補正係数(K)、燃料の低位発熱量(HI)を用い、
W=K×A×V*273/(273+T)×(10332+Ps)/10332×3600の式による排ガス流量(W)の算出と、
m=21/(21−O2)の式による空気比(m)の算出を行い、
SO=W/{(15.75+12.38×(m−1))×HI/10000−3.91−1.36×(m−1)}の式にて燃料使用量(SO)を算出し、演算で求めた燃料使用量を用いて蒸気使用量を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
燃焼排ガスの流速を測定する排ガス流速計や、燃焼排ガスの温度を測定する排ガス温度計、また燃焼排ガスの酸素濃度を測定する酸素濃度計は、燃焼排ガスを流す煙道内に検出部を挿入することで測定が可能である。煙道には排ガス測定口を付けることが標準的に行われており、これらの測定装置を取り付ける場合には、燃焼配管に燃料流量計を切り込む場合のような大掛かりな工事は必要なく、また多くの測定機材を準備する必要もない。容易に測定することができるこれらの測定装置を用いて測定した値を用い、演算により蒸気発生量を算出するようにすることで、ボイラの蒸気発生量を容易に算出することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の一実施例を図面を用いて説明する。図1は本発明を実施するボイラの説明図、図2は蒸気発生量算出式の全体像を示した説明図である。ボイラ1は、燃料の燃焼を行うことで発生した熱を用いて缶水を加熱し、蒸気を発生する。ボイラ1には、缶水を加熱した後の燃焼排ガスを戸外へ排出する煙道2を接続しており、燃焼排ガスは煙道2を通じて戸外へ排出する。ボイラ1への給水は、ボイラ1内の缶水部と接続している給水経路6を通じて行い、給水経路6の途中に給水温度を測定する給水温度計7を設ける。ボイラ1で発生した蒸気は、蒸気供給経路8を通じて蒸気必要箇所へ送るようにしており、ボイラ1での蒸気圧力を測定する蒸気圧力計9を設けている。ボイラ室にはボイラ室温度計10を設けることでボイラ室の温度を測定する。
【0009】
煙道2には、排ガス流速計3、排ガス温度計4、酸素濃度計5を設ける。排ガス流量計3はピトー管を使用して排ガスの流速を算出するものであり、ピトー管は先端に穴の開いた内管と側面に穴の開いた外管からなる2重管であって、先端を煙道内の流れに正対させて設置する。ピトー管による排ガス流速計3は、先端に穴の開いた内管で測定する全圧(Pa)と、側面に穴の開いた外管で測定する静圧(Ps)から流体の速度を算出するものであり、排ガス流の全圧(Pa)から静圧(Ps)を引くことで動圧を算出し、算出した動圧を使用して排ガス流速(V)を算出する。排ガス流速計3で算出した排ガス流速(V)と、排ガス静圧(Ps)は後の演算に使用する。
【0010】
前記測定装置のうち、蒸気圧力計9はボイラの運転制御に必要なものであるため、ボイラには必ず設置されている。給水温度計7、ボイラ室温度計10、排ガス流速計3、排ガス温度計4、酸素濃度計5は、設置されていなければ後から設置することになるが、その場合であっても、簡単な工事で設置することができる。給水温度計7は給水経路6の途中にある給水タンクに設置し、ボイラ室温度計10はボイラ室内の適当な所に設置するだけでよいため、ごく簡単な作業で設置することができる。また、排ガス流速計3、排ガス温度計4、酸素濃度計5は、排ガス測定口から煙道2内に検出部を挿入する必要があるために、ある程度の作業は必要となる。しかし、煙道2には排ガス測定口が初めから付けられていることが多く、これらの測定装置は、排ガス測定口を通じて煙道2内に差し込むことで測定を行うことができるものであるため、燃料供給経路に燃料流量計を切り込む場合に比べると作業量は大幅に少なくなる。そのため、これらの測定装置は、後からでも簡単に取り付けることができる。
【0011】
蒸気発生量の算出は、上記の測定装置による測定値とボイラの固有値を用い、演算により算出する。演算式は図2に記載している通りであり、式(1)から式(7)によって、蒸気発生量(Ga)を算出する。
m=21/(21−O2)の式(1)は、空気比mを算出するものである。空気比(m)は酸素濃度計5によって測定した排ガス中酸素濃度があれば算出することができる。
G=(15.75+12.38×(m−1))×HI/10000−3.91−1.36×(m−1)の式(2)は、実際排ガス量(G)を算出するものである。実際排ガス量(G)は、式(1)で算出した空気比(m)と、ボイラの固定値である燃料の低位発熱量(HI)が定まれば算出することができる。
Q=0.33×G×(T−t0)の式(3)は、排ガス熱損失(Q)を算出するものである。排ガス熱損失(Q)は、式(2)で算出した実際排ガス量(G)と、排ガス温度計4によって測定する排ガス温度(T)と、ボイラ室温度計10によって測定するボイラ室温度(t0)が定まれば算出することができる。
η=(1−Q/HI)×100−αの式(4)は、ボイラ効率(η)を算出するものである。ボイラ効率(η)は、式(3)で算出した排ガス熱損失(Q)と、ボイラの固定値である燃料の低位発熱量(HI)及びボイラ効率その他損失(α)が定まれば算出することができる。
【0012】
W=K×A×V*273/(273+T)×(10332+Ps)/10332×3600の式(5)は、排ガス流量(W)を算出するものである。排ガス流量(W)は、ボイラの固定値である流量補正係数(K)及び煙道断面積(A)と、排ガス流速計3によって測定した排ガス流速(V)及び排ガス静圧(Ps)、排ガス温度計4によって測定した排ガス温度(T)が定まれば算出することができる。
SO=W/{(15.75+12.38×(m−1))×HI/10000−3.91−1.36×(m−1)}の式(6)は、燃料使用量(SO)を算出するものである。燃料使用量(SO)は、式(5)で算出した排ガス流量(W)と、式(1)で算出した空気比(m)と、ボイラの固定値である燃料の低位発熱量(HI)が定まれば算出することができる。
【0013】
Ga=S0×η×HI/{(h''−h')×X/100+(h'−h)}/100の式(7)は、蒸気発生量(Ga)を算出するものである。蒸気発生量(Ga)は、式(6)で算出した燃料使用量(SO)及び式(4)で算出したボイラ効率(η)と、ボイラの固有値である燃料の低位発熱量(HI)及び蒸気乾き度(X)と、蒸気圧力計9にて測定した蒸気圧力値から算出できる飽和蒸気のエンタルピ(h'')及び飽和水のエンタルピ(h’)と、給水温度計7にて測定した給水温度から算出できる給水のエンタルピ(h)が定まれば算出することができる。
【0014】
上記式による演算を行うことで、蒸気流量計や燃料流量計を使用しなくてもボイラの蒸気発生量を連続的に算出することができる。蒸気発生量を容易に算出することができるため、ボイラ更新時の必要ボイラ容量を容易に決定することができ、適切な容量のボイラに入れ替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を実施するボイラの説明図
【図2】蒸気発生量算出式の全体像を示した説明図
【符号の説明】
【0016】
1 ボイラ
2 煙道
3 排ガス流速計
4 排ガス温度計
5 酸素濃度計
6 給水経路
7 給水温度計
8 蒸気供給経路
9 蒸気圧力計
10 ボイラ室温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料の燃焼を行うことで熱を発生して蒸気の供給を行っている蒸気ボイラにおいて、ボイラの燃焼排ガスを流す煙道内の全圧と静圧を測定し、全圧と静圧の差から煙道内の排ガス流速を測定するピトー管による排ガス流速計と、燃焼排ガスの温度を測定する排ガス温度計を設け、前記測定装置にて測定した値と、蒸気ボイラが持つ固有値により、蒸気ボイラの燃料使用量を演算により算出し、演算で求めた燃料使用量を用いて蒸気使用量を算出することを特徴とするボイラの蒸気発生量算出方法。
【請求項2】
燃料の燃焼を行うことで熱を発生して蒸気の供給を行っている蒸気ボイラにおいて、ボイラの燃焼排ガスを流す煙道内の全圧と静圧を測定し、全圧と静圧の差から煙道内の排ガス流速を測定するピトー管による排ガス流速計、燃焼排ガスの温度を測定する排ガス温度計、燃焼排ガスの酸素濃度を測定する酸素濃度計を設け、測定装置にて測定した煙道内静圧(Ps)、排ガス流速(V)、排ガス温度(T)、排ガス中酸素濃度(O2)と、対象ボイラの固有値である煙道断面積(A)、流量補正係数(K)、燃料の低位発熱量(HI)を用い、
W=K×A×V*273/(273+T)×(10332+Ps)/10332×3600の式による排ガス流量(W)の算出と、
m=21/(21−O2)の式による空気比(m)の算出を行い、
SO=W/{(15.75+12.38×(m−1))×HI/10000−3.91−1.36×(m−1)}の式にて燃料使用量(SO)を算出し、
演算で求めた燃料使用量を用いて蒸気使用量を算出することを特徴とするボイラの蒸気発生量算出方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−139207(P2010−139207A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318258(P2008−318258)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000130651)株式会社サムソン (164)
【Fターム(参考)】