説明

ボランエーテル錯体

本発明は置換テトラヒドロフランエーテルを有する新規のボラン錯体、および置換テトラヒドロフランエーテルを有する新規のボラン錯体の有機反応への使用方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は置換テトラヒドロフランエーテルを有する新規ボラン錯体、および置換テトラヒドロフランエーテルを有する新規ボラン錯体の有機反応への使用方法に関する。
発明の背景
ジボラン(B26)は即座に加水分解且つ酸化される毒性且つ自燃性ガスである。それは最大限に注意を払って取り扱わなければならず、且つ−20℃より低い温度で輸送及び貯蔵しなければならない。ジボランの危険を減らすために、ドナー分子、例えばテトラヒドロフラン、スルフィド、アミンおよびホスフィンを有するボラン(BH3)の錯体が常に有機反応、特に官能基の還元、およびアルケンおよびアルキンでのヒドロホウ素化反応に使用される。前記のボラン錯体によって還元させる官能基はアルデヒド、ケトン、ラクトン、エポキシド、エステル、アミド、オキシム、イミンおよびニトリル基を含む。
【0002】
最も使用されるボラン源は、ボラン−テトラヒドロフラン(THF)錯体のTHF溶液であり、それは市販で通常1mol/lの濃度である。しかしながら、ボラン−THF錯体はテトラヒドロフラン環のエーテル開裂によって熱分解する傾向があり、ブトキシボランおよび最終的には分解生成物としてトリブチルボレートに至る。US6,048,985号によれば、THF溶液中でのボラン−THF錯体の貯蔵安定性は、より高い濃度を有する溶液であっても低温で著しく増加する。
【0003】
テトラヒドロフランが直鎖エーテル、例えばジエチルエーテルあるいはエチレングリコールから誘導されたグリムの系列よりも強い錯体をボランと形成することはよく知られている。五員環構造を有する他のエーテルは今までのところ調査されていない。他の錯化剤を有するボラン試薬が利用可能であるが、しかし固有の欠点に苦労している。例えば、スルフィドボランは高く濃縮されているが、しかしそれらの商業用途はそれらの強い臭気のために限定される。アミンボランの反応性はしばしば特定の官能基を還元するのに充分でない。さらには、前記の錯化剤は時として反応混合物から除去するのが難しく、所望の生成物の分離が面倒であることがある。
【0004】
基質によって、ボラン試薬を使用するヒドロホウ素化および還元反応をしばしば室温あるいはより低い温度で実施して選択性を上げられる。しかしながら、ボラン試薬は時として反応容器内で基質(即ち、ボラン試薬と反応する化合物)と共にボラン試薬を加熱して、発生した気体のジボランの反応容器からの離脱を阻止して用いられる。いくつかのボラン試薬の低い熱安定性および気体のジボランの損失の可能性のために、通常、過剰なボラン試薬が前記の変換において使用される。反応が終了したとき、反応混合物は典型的には、例えばアルコールなどを用いて反応停止され、後処理の前に残留ボラン試薬を破壊する。錯化剤の性質が、反応が行われる圧力および温度および後処理工程と同様に、ボラン試薬の安定性および反応性に強く影響するのは明らかである。
【0005】
従って、改善した安定性および反応特性を有した新規のボラン試薬、および該ボラン試薬を用いた有機変換のためのより良い効率を達する使用方法を開発することが望ましい。
【0006】
発明の要約
本発明は、錯化剤および溶剤として、置換テトラヒドロフランを含む、新規ボランエーテル錯体を提供する。本発明のさらなる課題は、有機反応のための新規ボランエーテル錯体の使用方法の開発であった。
【0007】
従って、化学式1
【化1】

[式中、
1〜R4は互いに独立に水素、C1〜C10−アルキル、C3〜C6−シクロアルキル、フェニル、ベンジル、置換フェニルあるいは化学式CH2OR5の置換基を表し、
前記式中、
5はC1〜C10−アルキル、C3〜C6−シクロアルキル、あるいは−[−CHR6CH2O−]n−R7であり、
前記式中、
6は水素あるいはメチルであり、R7はC1〜C10−アルキルであり、且つnは1〜20の整数
あるいは、2つの隣接した置換基R1〜R4は一緒になって−CH2CH2−、−CH(CH3)CH2−、−CH2CH2CH2−、−CH(CH3)CH(CH3)−、−CH(CH2CH3)CH2−、−C(CH32C(CH32−、−CH2C(CH32CH2−、および−(CH26−からなる群から選択される二価の基であり、テトラヒドロフラン環の−CH−CH−部分と共に環状構造を形成する
ただし、置換基R1〜R4の少なくとも1つが水素ではない]
の新規ボランエーテル錯体が見出された。
【0008】
本発明の新規ボランエーテル錯体は、ボラン−テトラヒドロフラン錯体の合成に使用するのと類似の方法によって製造される。1つの方法は、それぞれの置換テトラヒドロフランにおける水素化ホウ素ナトリウムおよび三フッ化ホウ素からのボランの、その場での生成を含む(A. Pelter,K. Smith,H.C. Brown,"Borane Reagents" ,pp.421−422,Academic Press 1988を参照)。好ましくは、新規ボランエーテル錯体を気体のジボランのそれぞれの置換テトラヒドロフランへの直接添加によって、高純度で製造する。
【0009】
本発明の新規ボランエーテル錯体を多数の有機変換に用いることができる。例は、官能基の還元およびアルケンおよびアルキンでのヒドロホウ素化反応である。前記のボラン錯体で還元される官能基は、例えばアルデヒド、ケトン、ラクトン、エポキシド、エステル、アミド、オキシム、イミン、カルボン酸およびニトリル基を含んでよい。
【0010】
本発明の新規ボランエーテル錯体は、公知の非置換テトラヒドロフランのボラン錯体と比較して多くの利点を提供する。一般的に、非置換テトラヒドロフランと比較して置換テトラヒドロフランのより高い沸点(例えば2−メチルテトラヒドロフランでは78℃であるのに対して、THFでは66℃)および引火点(例えば2−メチルテトラヒドロフランでは−11℃であるのに対して、THFでは−17℃)のおかげで、化合物はより低い引火危険性を有する。該新規化合物1の五員環に取り付けられた置換基の性質、数および位置によって、新規ボランエーテル錯体はより低い極性およびエーテル性の錯化剤であり、非置換テトラヒドロフランと比較して減少した水混和性を示し、それは反応混合物の後処理工程を容易にする。さらには、該新規化合物の熱分解において放出されるエネルギーはほとんどの場合、ボラン−テトラヒドロフランよりも非常に低く、それは該新規化合物の重要な安全性の利点に至る。
【0011】
メチル置換キラルオキサアザボロリジン触媒を用いたケトンのエナンチオ選択性還元に使用する場合(MeCBS触媒として知られる、Corey、E.J.et al.,Angew. Chem. Int. Ed.,37,1986−2012(1998)参照)、驚くべきことに新規ボランエーテル錯体を用いて得られたエナンチオマー過剰率は、ボラン−テトラヒドロフランを用いた場合よりも高いことが見出された。
【0012】
図面の簡単な説明
図1は、水素化ホウ素ナトリウムの添加をした場合としない場合の、(実施例1で製造された)ボラン−2−メチルテトラヒドロフランを2−メチルテトラヒドロフラン中に溶かした0.88M溶液の室温での貯蔵安定性あるいは分解の調査を説明する。
【0013】
図2は、(実施例1で製造された)ボラン−2−メチルテトラヒドロフランを2−メチルテトラヒドロフラン中に溶かした0.88M溶液の室温および0〜5℃での貯蔵安定性あるいは分解の調査を説明する。
【0014】
図3は、水素化ホウ素ナトリウムの添加をした(実施例1で製造された)ボラン−2−メチルテトラヒドロフランを2−メチルテトラヒドロフラン中に溶かした0.88M溶液の室温および0〜5℃での貯蔵安定性あるいは分解の調査を説明する。
【0015】
図4は、水素化ホウ素ナトリウムの添加をした場合としない場合の、(実施例1で製造された)ボラン−2−メチルテトラヒドロフランを2−メチルテトラヒドロフラン中に溶かした0.88M溶液の0〜5℃での貯蔵安定性あるいは分解の調査を説明する。
【0016】
図5は、水素化ホウ素ナトリウムの添加をした場合としない場合の、ボラン−2−メチルテトラヒドロフランを2−メチルテトラヒドロフラン中に溶かした、およびボラン−テトラヒドロフランをテトラヒドロフラン中に溶かした1M溶液の室温での貯蔵安定性あるいは分解の調査を比較する。
【0017】
図6は、室温でのボラン−2,5−ジメチルテトラヒドロフランを2,5−ジメチルテトラヒドロフラン中に溶かした溶液の分解を説明する。
【0018】
発明の詳細な説明
本発明の新規ボランエーテル錯体は、一般式1
【化2】

[式中、
1〜R4は互いに独立に水素、C1〜C10−アルキル、C3〜C6−シクロアルキル、フェニル、ベンジル、置換フェニルあるいは化学式CH2OR5の置換基を表し、
前記式中、
5はC1〜C10−アルキルC3〜C6−シクロアルキル、あるいは−[−CHR6CH2O−]n−R7であり、
前記式中、
6は水素あるいはメチルであり、R7はC1〜C10−アルキルであり、且つnは1〜20の整数であり
あるいは、2つの隣接した置換基R1〜R4は一緒になって−CH2CH2−、−CH(CH3)CH2−、−CH2CH2CH2−、−CH(CH3)CH(CH3)−、−CH(CH2CH3)CH2−、−C(CH32C(CH32−、−CH2C(CH32CH2−、および−(CH26−からなる群から選択される二価の基であり、テトラヒドロフラン環の−CH−CH−部分と共に環状構造を形成する
ただし、置換基R1〜R4の少なくとも1つが水素ではない]
による化学構造を有する。
【0019】
ここで使用される場合、用語"C1〜C10−アルキル"は、1〜4つの炭素原子を含む分岐あるいは非分岐飽和炭化水素基を意味する。例は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ヘキシルおよびオクチルである。
【0020】
用語"C3〜C6−シクロアルキル"は、単環あるいは多環構造部分を含む、3〜6つの炭素原子を含む飽和炭化水素基を意味する。例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルである。
【0021】
用語"置換フェニル"は、少なくとも1つの水素原子がハロゲン化原子、例えばフッ素、塩素、臭素あるいはヨウ素によって、あるいはC1〜C8−アルコキシ基によって置き換えられたフェニル基を意味する。
【0022】
用語"C1〜C8−アルコキシ"は、1〜8つの炭素原子を含む、分岐あるいは非分岐の脂肪族モノアルコールから誘導された基を意味する。例は、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシおよびn−ペントキシである。
【0023】
用語"隣接"は、3つの結合だけ離れた2つの基の相対位置を意味する。
【0024】
化学式1による化合物内の五員環に存在する1つより多い置換基R1〜R4が水素でない場合、全ての立体異性体が含まれることが強調されるべきである。
【0025】
本発明の新規ボランエーテル錯体はジボランのそれぞれの置換テトラヒドロフランとの反応によって製造される。この反応を可能にするため、ジボランを例えばアルカリ金属のホウ化水素からのその場での形成を含む任意の方法で、それぞれの置換テトラヒドロフランと接触させられる。本発明の新規ボランエーテル錯体を、好ましくは気体のジボランをそれぞれの置換テトラヒドロフランに直接添加することによって高純度で製造する。この合成において、置換テトラヒドロフランは通常、ジボランと比較して多くの過剰率で存在し、従って、ボランのための錯化剤、および新規に形成されたボランエーテル錯体のための溶剤の両方としてはたらく。当然、少なくとも部分的にそれぞれの置換テトラヒドロフランと混和性のあるボランより錯体化能力が乏しい他の溶剤、例えば直鎖エーテル類、例えばジエチルエーテルあるいは炭化水素、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、トルエンあるいはキシレンもまた存在できる。
【0026】
溶剤あるいは溶剤混合物を含有するそれぞれの置換テトラヒドロフラン中での、新規ボランエーテル錯体の濃度は、一般に0.01〜3mol/l、好ましくは0.1〜1.5mol/l、最も好ましくは0.5〜1.25mol/lの範囲内である。
【0027】
本発明の新規ボランエーテル錯体の形成反応は、通常発熱性である。一般に、ボランエーテル錯体の熱的不安定性のおかげで、反応の中で反応混合物の温度を制御するのが賢明である。副反応および不純物の形成を避けるために、反応混合物の温度は室温より下、好ましくは0℃より下、および最も好ましくは−30℃より下であるべきである。
【0028】
気体のジボランをエーテル性溶液と接触させる様式は、従ってボラン錯体形成の発熱反応を制御するのに極めて重要である。エーテル性溶液の表面より下に浸された浸漬管あるいはノズルを、気体のジボランを溶液に添加するのに使用する場合、力強い攪拌およびゆっくりした添加速度と共に、強力な冷却をして集中的な加熱を防ぐことが推奨される。必要なエーテル性溶液を含有する反応容器のヘッドスペースにジボランを添加する場合にも同じことが当てはまるが、しかしこの場合は反応が気相および液相表面全体で生じるであろう。必要であれば、エーテル性の錯化剤と接触させる前に、ジボランを不活性ガス、例えば窒素あるいはアルゴンで希釈してもよい。低温貯蔵されたジボランからのエーテル性のボラン試薬の製造により、その場での方法で製造するよりも高い純度のボラン試薬が得られる。さらには、水素化ホウ素ナトリウムからのエーテル性ボラン試薬の製造は、水素化ホウ素ナトリウムおよびテトラフルオロホウ酸ナトリウム不純物をもたらし、それは不斉還元に好ましくない。
【0029】
エーテル性ボラン錯体が熱分解を受ける傾向があることはよく知られている。公知のボラン−テトラヒドロフラン錯体では、熱分解はテトラヒドロ環のエーテル開裂によって起こる。ボラン−テトラヒドロフラン錯体は、反応中あるいは不適当に貯蔵されていればその間に、熱的に分解し得る。5℃より上の貯蔵温度は、数週間ではっきりわかるほどの分解に至らしめる。貯蔵の間の分解の第一モードはテトラヒドロフラン開環(エーテル開裂)による。第一の中間生成物、モノブトキシボランは、ボラン−テトラヒドロフラン錯体の部分的に分解した溶液の11B NMRスペクトルでは決して観察されない。明らかに、それは特定のボラン−テトラヒドロフランおよびジブトキシボランに即座に不均化を起こさせる(DiMare, M.,J.Org.Chem. 1996,61(24)、8378−8385)。ジブトキシボランはゆっくりとだけ不均化を起こすか、あるいはさらに反応し、そして11B NMRスペクトルにおいてδ=27ppmで二重線として観察される(1J(111H)=159Hz)。トリブチルボレートは最終的に3つのボラン(B−H)結合すべてが反応した後の最終生成物である。
【0030】
異なる濃度での、公知のボラン−テトラヒドロフラン錯体溶液の貯蔵安定性は、低温で溶液を保持することによって(US6,048,985号参照)および/または少量(通常、1mol/lより少なく、好ましくは0.001〜0.02mol/lの間)の水素化物源、例えば水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウムあるいはアルカリ金属の水素化物、例えばリチウム水素化物、ナトリウム水素化物、あるいはカリウム水素化物の添加によって(US3,634,277号)増加され得る。我々の11B NMRスペクトル調査から、ボラン−テトラヒドロフラン錯体溶液への水素化物の添加が、実際の安定剤としてはたらくB38-陰イオンの形成を生じさせることが明らかである。
【0031】
従って、本発明の新規ボランエーテル錯体溶液の様々な条件下での貯蔵安定性の調査を行っている。例えば、図1〜4は水素化ホウ素ナトリウムの添加をした場合としない場合の、様々な温度(室温あるいは0〜5℃)での2−メチルテトラヒドロフラン中のボラン−2−メチルテトラヒドロフランの0.88M溶液の貯蔵安定性あるいは分解の調査結果を示す。貯蔵安定性の増加は、水素化ホウ素ナトリウムの添加よりも、温度を低下した場合により顕著である。図5は、水素化ホウ素ナトリウムの添加をした場合としない場合の、2−メチルテトラヒドロフラン中のボラン−2−メチルテトラヒドロフランおよびテトラヒドロフラン中のボラン−テトラヒドロフランの1M溶液の室温での貯蔵安定性あるいは分解の調査を比較している。このデータから、2−メチルテトラヒドロフラン中のボラン−2−メチルテトラヒドロフラン錯体が市販のテトラヒドロフラン中のボラン−テトラヒドロフラン錯体よりもわずかに安定であることがわかる。
【0032】
2,5−ジメチルテトラヒドロフランのボラン錯体は、より安定性が低く、且つ室温で一日あたり約1%の速度で、より速く分解する(図6を参照)。
【0033】
ボランの高エネルギー含量のために、本発明のいくつかの新規ボランエーテル錯体の熱分解におけるエネルギー放出を示差走査熱量測定(DSC)によって調査し、市販のテトラヒドロフラン中のボラン−テトラヒドロフラン錯体のデータと比較した。結果を表1にまとめる:
表1:種々のボラン誘導体のエネルギー放出
【表1】

*MeTHF=2−メチルテトラヒドロフラン、EMTHF=2−(エトキシメチル)−テトラヒドロフラン
4℃/分の昇温速度で、密閉したカップ内でDSC測定を行った。起きている分解は、錯化剤のエーテル環のエーテル開裂である。新規のボラン−2−メチルテトラヒドロフラン錯体の約1Mの溶液に関して、エネルギー放出はボラン−テトラヒドロフランのエネルギー放出の三分の一より低く、より低い分解エネルギー放出のため、新規化合物に標準的な市販のテトラヒドロフラン錯体を超える著しい安定性の利点を与える。さらには、低い濃度の水素化ホウ素リチウムを含有する2−メチルテトラヒドロフラン中のボラン−2−メチルテトラヒドロフラン錯体の試料に関して、より高い開始温度では、より低いエネルギーさえも放出した。
【0034】
恒温DSCを、55℃で3000分、2−メチルテトラヒドロフラン中のボラン−2−メチルテトラヒドロフラン錯体の1.3M溶液12mgについて行い、熱事象の発生を観察した。この時間範囲において、熱事象は見られなかった。
【0035】
本発明はさらに、新規ボランエーテル錯体の有機反応への使用方法を提供する。前記方法は、反応容器内でのボランエーテル錯体と基質との接触、および発生した気体のジボランの反応容器からの離脱を防ぐ工程を含む。好ましくは、ボランエーテル錯体および基質を含有する反応容器は、背圧調節器が装備されており、且つ、およそ大気圧よりも高い圧力に維持されている。より好ましくは、前記圧力は大気圧よりおよそ300mbarからおよそ7000mbarの範囲内で高い。さらにより好ましくは、前記圧力は大気圧よりおよそ300mbarからおよそ2500mbarの範囲内で高い。反応容器からのジボランの離脱を防ぐことによって提供される利点は、ボランのより効率的な使用、それによる過剰なボランの使用の必要をなくすこと、および反応中の副生成物が少なくなることを含む。
【0036】
適した基質の存在下で、本発明の新規ボランエーテル錯体は即座に且つ優先的に所望の化合物と反応する。それらの条件の下で、熱分解と開環反応は無視でき、ほんの少量の副生成物のみを生成する。
【0037】
本発明によれば新規ボランエーテル錯体が用いられ得る有機反応は、特にアルケンおよびアルキンによる官能基の還元反応およびヒドロホウ素化反応を含む。さらには、新規ボランエーテル錯体との還元反応に使用するのに適した基質は、アルデヒド、ケトン、ラクトン、エポキシド、エステル、アミド、オキシム、イミン、カルボン酸およびニトリル基を有する有機化合物を含む。有利なことに、新規ボランエーテル錯体を、キラルオキサアザボロリジン触媒、例えばMeCBS(Corey、BakshiおよびShibataにちなんで名付けられたメチル置換キラルオキサアザボロリジン、Corey,E.J. et al.,Angew.Chem.Int.Ed.,37,1986−2012(1998)を参照)の存在中でのプロキラルケトンおよびプロキラルイミンのエナンチオ選択性還元に使用できる。
【0038】
キラルオキサアザボロリジン触媒を使用した不斉還元は、高いエナンチオマー過剰中での第二級アルコール合成のための優れたツールである(Catalysis of Fine Chemical Synthesis、 Roberts, S.M.; Poignant, G., (Eds.), Wiley, & Sons, Ltd.: New York 2002)。キラルオキサアザボロリジン化合物によって触媒されたプロキラルケトンのエナンチオ選択性ボラン還元は、酵素および遷移金属で触媒された水素化反応と事実上匹敵し、なぜなら、穏やかな反応条件、高いエナンチオ選択性、予測精度および高い収率のためである。前記還元は高効率且つ作業が容易であり、従って産業上の設定によく適する。いくつかのオキサアザボロリジン化合物は薬学的化合物の増大に使用されている。例えばUS4,943,635号、US5,189,177号、US5,264,574号、US5,264,585号、US5,552,548号、US6,005,133号およびUS6,037,505号といった特許が、オキサアザボロリジン触媒の合成および使用を対象としている。
【0039】
還元の精密な立体制御は、ルイス酸性ボロンとの配位を介してオキサアザボロリジンがケトンを保持し、一方で、ボランが触媒のアミンによって近接して保持されている環状の遷移状態から生じる。一般に2〜10モル%のオキサアザボロリド(oxazaborolide)触媒を、ボラン源、例えばボラン−テトラヒドロフラン、ボラン−ジメチルスルフィドあるいはボラン−ジエチルアニリン錯体と共に使用する。ケトンは通常、触媒およびボランの混合物にゆっくりと添加する。触媒へのボランおよびケトンの同時の添加は、エナンチオ選択性の最適化にも効率的である。ボラン−テトラヒドロフラン錯体を用い、MeCBS触媒されたケトン還元のエナンチオ選択性に影響するいくつかの要素について、US6,218,585号内に概略が述べられている。市販のボラン−テトラヒドロフランにおける安定剤としての水素化ホウ素ナトリウムの存在は、オキサアザボロリジン触媒された還元のエナンチオ選択性に好ましくないことが示されている。典型的には、水素化ホウ素ナトリウム安定化ボラン−テトラヒドロフラン錯体をアセトフェノンのMeCBS触媒された還元において使用するとき、85〜99%eeのエナンチオ選択性が還元において得られる。ホウ化水素はケトン還元のための非選択性触媒に匹敵し(Jockel, H.; Schmidt, R., J.Chem.Soc.Perkin Trans.2(1997)2719−2723)、従ってボラン−テトラヒドロフランを使用する場合、高いエナンチオ選択性のために酸性化合物を用いた水素化ホウ素ナトリウムの不活性化が不可欠である。US6,218,585号に開示されているMatosおよび共同研究者らの研究に対して、我々はボラン−2−メチルテトラヒドロフラン溶液中の安定剤としての水素化ホウ素リチウムの存在がオキサアザボロリジン触媒されたケトンの還元のエナンチオ選択性に好ましくない影響を有さないことを見出した。(例えば、表2の結果を参照)。当然、類似の結果が触媒の両方のエナンチオマー、即ち(R)−MeCBSおよび(S)−MeCBSを用いて得られている。
【0040】
水素化ホウ素リチウムを含有するボラン−2−メチルテトラヒドロフランを使用した還元は、水素化ホウ素を用いないボラン−2−メチルテトラヒドロフランと比較して速くもある。実施例9および10は16〜17%のアセトフェノンを含有し、一方で実施例11は完全な還元を示した。水素化ホウ素リチウムを用いないでボラン−2−メチルテトラヒドロフランを使用する還元が、ケトンの添加後にさらに20分間攪拌されるとき、前記の還元は完了に達し、且つエナンチオ選択性が優れている(実施例13)。ケトンの添加時間を2時間から30分に短縮することも、アセトフェノン還元において優れたエナンチオ選択性を付与する(実施例14)。
【0041】
還元剤として水素化ホウ素ナトリウム安定化ボラン−テトラヒドロフランを使用した標準的な文献の工程と比較して、本発明の新規ボランエーテル錯体による還元においては、より高いエナンチオマー過剰率が観察される。水素化ホウ素ナトリウムの存在が実質的にボラン−2−メチルテトラヒドロフラン錯体およびMeCBSによるケトン還元のエナンチオ選択性を減少させもしない(実施例15)。
【0042】
表2:
【表2】

*ケトン添加後30分でサンプル化された
**ケトン添加時間30分および冷却前に2時間保持
本発明より前には、オキサアザボロリジン触媒されたケトンの不斉還元で使用するためのボラン−テトラヒドロフラン錯体は、安定化していない形態では市販されていなかった。本発明は2−メチルテトラヒドロフラン錯体としての安定化されたおよび安定化されていないボラン溶液の製造を可能にし、それはオキサアザボロリジン触媒されたケトンおよびイミンの不斉還元の優れた結果と共に用いることができる。
【0043】
実施例
以下の実施例は本発明を説明するが、それに限定するものではない。ボラン濃度は、Brown,H.C.;Kramer,G.W.;Levy,A.B.;Midland,M.M.によってOrganic Synthesis via Boranes, John Wiley and Sons, Inc., New York 1973, pp241−244内に記載された方法によって酸を用いたボランの滴定によって測定した。
【0044】
実施例1:2−メチルテトラヒドロフランのボラン錯体の合成
ガラス製の反応器を窒素でパージし、そして(カリウムから蒸留された)422.6gの2−メチルテトラヒドロフランを装入した。容器の内容物を0℃に冷却した。反応器の背圧調節器を4400mbarに設定した。ジボラン(8g)を40分の時間にわたって反応器の中に気泡導入した。反応器の温度が最大4.5℃、およびヘッドの圧力が1400mbarに達した。ジボラン添加の完了次第、反応器の溶液を一晩攪拌した。11B NMRスペクトルは、δ=−1.2ppm(95%、1J(11B,1H)=106Hz)に生成物に当たる四重線、およびδ=18ppm(5%、一重線)に、ボレート不純物に当たる二次信号を示した。溶液の密度は22℃で0.848g/mlであり、且つボラン濃度は0.88Mであった。
【0045】
その後、溶液を二等分に分割した。溶液の半分をNaBH4(0.05g)で安定化した。NaBH4の添加後、溶液を24時間攪拌してNaBH4を溶解した。安定化させた半分と安定化させていない半分との両方を、その後、室温および0〜5℃での安定化の調査のために、2つの部分に等分した(図1〜4参照)。
【0046】
実施例2:2−メチルテトラヒドロフランのボラン錯体の合成
ガラス製の反応器を窒素でパージし、そして430gの2−メチルテトラヒドロフラン(Aldrich、受け取ったままで使用)を装入した。容器の内容物を0℃に冷却した。反応器の背圧調節器を4400mbarに設定した。ジボラン(10g)を37分の時間にわたって反応器の中に気泡導入した。反応器の温度が最大4.6℃、およびヘッドの圧力が1700mbarに達した。水素化ホウ素ナトリウム(0.99g)を溶液に添加した。11B NMRスペクトルは、δ=−1.0ppm(95%、1J(11B,1H)=106Hz)に四重線、δ=−18ppm(4.5%、一重線)にボレートおよびδ=−26ppmに微量のNaB38を示した。溶液の密度は22℃で0.848g/mlであった。ボラン濃度は0.94Mであった。
【0047】
実施例3:2,5−ジメチルテトラヒドロフランのボラン錯体の合成
ジボラン(0.2g、14mmolのBH3)を氷浴中でフラスコ内で2,5−ジメチルテトラヒドロフラン(4.9g、5.9ml)の試料に添加した。混合物の11B NMRスペクトルは、δ=−1.5ppm(q、1J(11B,1H)=104Hz)に2,5−ジメチルテトラヒドロフラン(62%)のボラン錯体、およびδ=17.9ppm(1J(11B,1H)=120、60Hz)に多重線としての溶解されたジボラン(24%)も明らかに示した。最初に生成したジアルコキシボランの量は約14%(δ=28ppm、d、1J(11B,1H)=104Hz)であった。過剰なボランはパージせず、試料を0℃に維持した。0℃で6日間にわたる試料のモニタリングでは、錯体化したボランが、11B NMRで約60%を保持しており、比較的少ない変化を示した。その後、試料を室温で放置し、エーテル開環をモニターした(図6参照)。
【0048】
実施例4:2−(エトキシメチル)−テトラヒドロフランのボラン錯体の合成
ジボラン(1.3g、94mmolのBH3)を0℃で100mlの2−(エトキシメチル)−テトラヒドロフランに添加した。混合物の11B NMRスペクトルは、δ=−0.96ppm(幅広いq、1J(11B,1H)=96Hz、71%)に2−(エトキシメチル)−テトラヒドロフランのボラン錯体だけでなく、δ=17.9ppm(1J(11B,1H)=120、60Hz、26%)に多重線としての溶解したジボラン、およびジアルコキシボランに当たるδ=29ppm(d、1J(11B,1H)=177Hz、3%)にも第三の信号を明らかに示した。スペクトルの積分および添加されたジボランの量に基づいて、2−(エトキシメチル)−テトラヒドロフランのボラン錯体の濃度は0.66Mである。溶解されたジボランの濃度は約0.12Mである。追加の2−(エトキシメチル)−テトラヒドロフラン(100ml)を添加して溶解したジボランを錯体化した。混合物の11B NMRスペクトルは、今や79.6%のボラン−2−(エトキシメチル)−テトラヒドロフラン錯体、6.1%のジアルコキシボランおよびほんの14%の溶解されたジボランを示した。従って、ボラン−2−(エトキシメチル)−テトラヒドロフラン錯体の濃度はおよそ0.37Mであった。
【0049】
実施例5:2−メチルテトラヒドロフランのボラン錯体の合成
反応器を窒素でパージし、そして423gの2−メチルテトラヒドロフラン(Penn Specialty Lot#2−5613)を装入した。容器の内容物を−12℃に冷却した。反応器の背圧調節器を4400mbarに設定した。ジボラン(16g)を95分の時間にわたって反応器に添加した。反応器の温度が最大8.9℃、およびヘッドの圧力が2000mbarに達した。ジボラン添加の完了次第、添加された過剰ジボランを測定し、ボラン滴定は1.48Mを示した。反応器の溶液を追加の2−メチルテトラヒドロフラン(250ml)で希釈し、濃度を1Mに下げ、そして一晩攪拌した。11B NMRスペクトルは、2.1%のボレート濃度を示した。その後、溶液を二等分に分割した。溶液の半分をLiBH4(0.037g)で安定化した。LiBH4はゆっくりと溶解し、11B NMRスペクトルでδ=−29ppmにB38-Li+の小さいピークが見られた。安定化させた半分と安定化させていない半分との両方を、その後、室温および0℃での安定化の調査のために、シリンダー内でディップゲージを用いて2つの部分に等分した。11B NMRスペクトルはδ=−1.5ppm(1J(11B,1H)=106Hz)に四重線を示した。無色透明な溶液の密度は22℃で0.842g/mlであった。濃度は0.96Mであった。
【0050】
実施例6:2−メチルテトラヒドロフランのボラン錯体の合成
ガラス製の反応器を窒素でパージし、そして430gの2−メチルテトラヒドロフラン(Penn Specialty Lot#2−5613)を装入した。容器の内容物を−3℃に冷却した。反応器の背圧調節器を4400mbarに設定した。ジボラン(10g)を60分の時間にわたって反応器の中に気泡導入した。反応器の温度が最大−0.8℃、およびヘッドの圧力が1800mbarに達した。ジボラン添加の完了次第、それを11B NMRによって測定し、5.5%のボレート不純物が存在した。
【0051】
実施例7:2−メチルテトラヒドロフランのボラン錯体の合成
ガラス製の反応器を窒素でパージし、そして423gの2−メチルテトラヒドロフラン(Penn Specialty Lot#2−5613)を装入した。容器の内容物を−3℃に冷却した。反応器の背圧調節器を4400mbarに設定した。ジボラン(10g)を60分の時間にわたって反応器のヘッドスペースに送り込んだ。反応器の温度が最大−0.5℃、およびヘッドの圧力が2000mbarに達した。ジボラン添加の完了次第、それを11B NMRによって測定し、5%のボレート不純物が存在した。密度は0.844g/mlであると測定された。ボラン濃度は1.3Mであった。
【0052】
実施例8:2−メチルテトラヒドロフランのボラン錯体での1−オクテンのヒドロホウ素化
室温でトルエン内における2−メチルテトラヒドロフランのボラン錯体(4mmol、安定化していない)の1−オクテン(1.3g、11.6mmol、BH3のアルケンに対するモル比1:3)との反応は、30分後にボラン−2−メチルテトラヒドロフランの生成物への100%の転化率を示した。反応は発熱性であった。11B NMRスペクトルにおいて、トリアルキルボラン(99%)がδ=89ppmに見られた。
【0053】
実施例9−12:アセトフェノンの不斉還元
アセトフェノンの不斉還元のために以下の方法を使用し、結果を表2に示す。アセトフェノンを2時間にわたって、それぞれのボラン錯体(例えば10mlの1M溶液)および5mol%(アセトフェノンに関して)の(R)−MeCBSをトルエン中に溶かした10mmol溶液に、室温でシリンジポンプによって添加した(17mlのTHF中に2ml、即ち17mmol)。10分の攪拌の後、ケトンの添加に続いて、HCl(1M、10ml)を添加して前記の反応物を反応停止した。フェネタノール(phenethanol)およびあらゆる未反応のアセトフェノンを20mlの無水ジエチルエーテルで抽出した。有機層を飽和KCl溶液および飽和NaHCO3溶液で洗浄し、その後、Na2SO4の上で乾燥させた。キラルGC解析は、表2に%eeとして報告するように、(残留していれば)アセトフェノンの面積%および(R)−フェネタノールの(S)−フェネタノールに対する比を示した。
【0054】
実施例13および15:より長い保持時間でのアセトフェノンの不斉還元
アセトフェノンを2時間にわたって、それぞれのボラン錯体(例えば11.4mlの0.88M溶液)および5mol%(アセトフェノンに関して)の(R)−MeCBSをトルエンに溶かした10mmol溶液に、室温でシリンジポンプによって添加した(17mlのTHF中に2ml、即ち17mmol)。30分の攪拌の後、ケトンの添加に続いて、HCl(1M、10ml)を添加して前記の反応物を反応停止した。フェネタノールおよびあらゆる未反応のアセトフェノンを20mlの無水ジエチルエーテルで抽出した。有機層を飽和KCl溶液および飽和NaHCO3溶液で洗浄し、その後、Na2SO4の上で乾燥させた。キラルGC解析は、(残留していれば)アセトフェノンの面積%および(R)−フェネタノールの(S)−フェネタノールに対する比を示した(表2参照)。
【0055】
実施例14:より長い保持時間でのアセトフェノン(急速な添加)の不斉還元
アセトフェノンを30分にわたって、ボラン錯体(7.7mlの1.3M溶液)および5mol%(アセトフェノンに関して)の(R)−MeCBSをトルエン中に溶かした10mmol溶液に、室温でシリンジポンプによって添加した(17mlのTHF中に2ml、即ち17mmol)。2時間の攪拌の後、ケトンの添加に続いて、HCl(1M、10ml)を添加して前記の反応物を反応停止した。フェネタノールおよびあらゆる未反応のアセトフェノンを20mlの無水ジエチルエーテルで抽出した。有機層を飽和KCl溶液および飽和NaHCO3溶液で洗浄し、その後、Na2SO4の上で乾燥させた。キラルGC解析は、(残留していれば)アセトフェノンの面積%および(R)−フェネタノールの(S)−フェネタノールに対する比を示した(表2参照)。
【0056】
実施例16:2−メチルテトラヒドロフランのボラン錯体を用いた安息香酸の還元
40mlの2−メチルテトラヒドロフラン中の12.21g(0.1mol)の安息香酸を1時間にわたって、125mlのBH3−2−MeTHF(0.125mol)の1M溶液に、0℃でシリンジを介して添加した。添加が完了し、且つ水素の放出が終わった後、混合物を室温に温めた。2時間の攪拌の後、2mlの水を添加し、そして100mlのNa2CO3の飽和水溶液で混合物を抽出した。有機層の解析では、ベンジルアルコールの収率が97.1%、および水分が5.3%であった。
【0057】
実施例17(比較):テトラヒドロフランのボラン錯体を用いた安息香酸の還元
20mlのテトラヒドロフラン中の12.21g(0.1mol)の安息香酸を1時間にわたって、125mlのBH3−THF(0.125mol)の1M溶液に、0℃でシリンジを介して添加した。添加が完了し、且つ水素の放出が終わった後、混合物を室温に温めた。2時間の攪拌の後、2mlの水を添加し、100mlのNa2CO3の飽和水溶液で混合物を抽出した。有機層の解析では、ベンジルアルコールの収率が62.0%、および水分が11.0%であった。
【0058】
実施例18:2−メチルテトラヒドロフランのボラン錯体を用いたプロピオン酸の還元
15mlの2−メチルテトラヒドロフラン中の7.41g(0.1mol)のプロピオン酸を1時間にわたって、125mlのBH3−2−MeTHF(0.125mol)の1M溶液に、0℃でシリンジを介して添加した。添加が完了し、且つ水素の放出が終わった後、混合物を室温に温めた。1時間の攪拌の後、2mlの水を添加し、そして100mlのNa2CO3の飽和水溶液で混合物を抽出した。水層を100mlの2−メチルテトラヒドロフランで抽出した。合わせた有機層の解析では、n−プロパノールの収率が96.5%、および水分が5.0%であった。
【0059】
実施例19(比較):テトラヒドロフランのボラン錯体を用いたプロピオン酸の還元
15mlのテトラヒドロフラン中の7.41g(0.1mol)のプロピオン酸を1時間にわたって、125mlのBH3−THF(0.125mol)の1M溶液に、0℃でシリンジを介して添加した。添加が完了し、水素の放出が終わった後、混合物を室温に温めた。1時間の攪拌の後、2mlの水を添加し、100mlのNa2CO3の飽和水溶液で混合物を抽出した。水層を100mlの2−メチルテトラヒドロフランで抽出した。合わせた有機層の解析では、n−プロパノールの収率が73.6%、および水分が20.4%であった。
【0060】
実施例20:2−メチルテトラヒドロフランのボラン錯体を用いたヘプタンニトリルの還元
10mlの2−メチルテトラヒドロフラン中の0.02molのヘプタンニトリルを1時間にわたって、25mlのBH3−2−MeTHF(0.025mol)の1M溶液に、0℃でシリンジを介して添加した。添加が完了した後、混合物を加熱して3時間還流させた。再度0℃に冷却した後、0.8mlのメタノールをゆっくりと添加し、水素の放出が終わった後、20mlの1Mの塩化水素を添加し、そして混合物を再度還流した。30分後、混合物を室温に冷却し、そして40mlのNa2CO3の飽和水溶液で抽出した。水層を40mlのジエチルエーテルで抽出した。合わせた有機層の解析では、ヘプチルアミンの収率が84.5%、および水分が5.9%であった。
【0061】
実施例21(比較):テトラヒドロフランのボラン錯体を用いたヘプタンニトリルの還元
10mlのテトラヒドロフラン中の0.02molのヘプタンニトリルを1時間にわたって、25mlのBH3−THF(0.025mol)の1M溶液に、0℃でシリンジを介して添加した。添加が完了した後、混合物を加熱して3時間還流させた。再度0℃に冷却した後、0.8mlのメタノールをゆっくりと添加し、水素の放出が終わった後、20mlの1Mの塩化水素を添加し、そして混合物を再度還流した。30分後、混合物を室温に冷却し、そして40mlのNa2CO3の飽和水溶液で抽出した。水層を40mlのジエチルエーテルで抽出した。合わせた有機層の解析では、ヘプチルアミンの収率が80.7%、および水分が30.0%であった。
【0062】
実施例22:2−メチルテトラヒドロフランのボラン錯体を用いたN,N−ジメチルベンズアミドの還元
98mlのBH3−2−MeTHF(0.098mol)の1M溶液を1分間にわたって、100mlの2−メチルテトラヒドロフラン中の11.48g(0.085mol)のN,N−ジメチルベンズアミドに、室温で添加し、そして12時間攪拌した。0℃に冷却した後、8mlのメタノールをゆっくりと添加し、その後、100mlのNa2CO3の飽和水溶液で混合物を抽出した。有機層を硫酸ナトリウムの上で乾燥させた。有機層の解析では、ジメチルベンジルアミンの収率が96.3%であった。
【0063】
実施例23(比較):テトラヒドロフランのボラン錯体を用いたN,N−ジメチルベンズアミドの還元
98mlのBH3−THF(0.098mol)の1M溶液を1分間にわたって、100mlのテトラヒドロフラン中の11.48g(0.085mol)のN,N−ジメチルベンズアミドに、室温で添加し、そして12時間攪拌した。0℃に冷却した後、8mlのメタノールをゆっくりと添加し、その後、100mlのNa2CO3の飽和水溶液で混合物を抽出した。有機層を硫酸ナトリウムの上で乾燥させた。有機層の解析では、ジメチルベンジルアミンの収率が95.1%であった。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】水素化ホウ素ナトリウムの添加をした場合としない場合の、(実施例1で製造された)ボラン−2−メチルテトラヒドロフランを2−メチルテトラヒドロフラン中に溶かした0.88M溶液の室温での貯蔵安定性あるいは分解の調査を説明する図である。
【図2】(実施例1で製造された)2−メチルテトラヒドロフラン中のボラン−2−メチルテトラヒドロフランの、0.88M溶液の室温および0〜5℃での貯蔵安定性あるいは分解の調査を説明する図である。
【図3】水素化ホウ素ナトリウムの添加をした(実施例1で製造された)ボラン−2−メチルテトラヒドロフランを2−メチルテトラヒドロフラン中に溶かした0.88M溶液の室温および0〜5℃での貯蔵安定性あるいは分解の調査を説明する図である。
【図4】水素化ホウ素ナトリウムの添加をした場合としない場合の、(実施例1で製造された)ボラン−2−メチルテトラヒドロフランを2−メチルテトラヒドロフラン中に溶かした0.88M溶液の0〜5℃での貯蔵安定性あるいは分解の調査を説明する図である。
【図5】水素化ホウ素ナトリウムの添加をした場合としない場合の、ボラン−2−メチルテトラヒドロフランを2−メチルテトラヒドロフラン中に溶かした、およびボラン−テトラヒドロフランをテトラヒドロフラン中に溶かした1M溶液の室温での貯蔵安定性あるいは分解の調査を比較する図である。
【図6】室温でのボラン−2,5−ジメチルテトラヒドロフランを2,5−ジメチルテトラヒドロフラン中に溶かした分解を説明する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式1
【化1】

[式中、
1〜R4は互いに独立に水素、C1〜C4−アルキル、C3〜C6−シクロアルキル、あるいは化学式CH2OR5の置換基を表し
前記式中、
5はC1〜C4−アルキルあるいはC3〜C6−シクロアルキルを表し、
あるいは、2つの隣接した置換基R1〜R4は一緒になって−CH2CH2−、−CH(CH3)CH2−、−CH2CH2CH2−、−CH(CH3)CH(CH3)−、−CH(CH2CH3)CH2−、−C(CH32C(CH32−、−CH2C(CH32CH2−、および−(CH26−からなる群から選択される二価の基であり、テトラヒドロフラン環の−CH−CH−部分と共に環状構造を形成する
ただし、置換基R1〜R4の少なくとも1つが水素ではない]
のボランエーテル錯体。
【請求項2】
1がメチルであり、且つR2〜R4がそれぞれ水素であることを特徴とする、請求項1に記載のボランエーテル錯体。
【請求項3】
請求項1に記載の少なくとも1つのボランエーテル錯体および少なくとも1つの溶剤を含む溶液。
【請求項4】
溶剤が、化学構造1を有するボランエーテル錯体において、ボランを錯体化するのに使用されるエーテルを含む、請求項3に記載の溶液。
【請求項5】
ボランエーテル錯体の濃度が、0.01〜3mol/lの範囲である、請求項3あるいは4のいずれか1項に記載の溶液。
【請求項6】
有機反応のための、請求項1に記載のボランエーテル錯体の使用方法。
【請求項7】
有機反応が、還元反応あるいはヒドロホウ素化反応であることを特徴とする、請求項6に記載のボランエーテル錯体の使用方法。
【請求項8】
ボランエーテル錯体と基質とを反応容器内で接触させる工程、および発生した気体のジボランの反応容器からの離脱を阻止する工程を含む、請求項1に記載のボランエーテル錯体の使用方法。
【請求項9】
追加的にキラル触媒の使用を含む、プロキラルケトン、イミンあるいはオキシムの不斉還元のための、請求項1に記載のボランエーテル錯体の使用方法。
【請求項10】
追加的にキラルオキサアザボロリジン触媒の使用を含む、プロキラルケトン、イミンあるいはオキシムの不斉還元のための、請求項1に記載のボランエーテル錯体の使用方法。
【請求項11】
安定剤として、少なくとも1つのアルカリ金属のホウ水素化物の添加を含む、請求項9あるいは10のいずれか1項に記載のボランエーテル錯体の使用方法。
【請求項12】
安定剤として、水素化ホウ素リチウムの添加を含む、請求項11に記載のボランエーテル錯体の使用方法。
【請求項13】
安定剤として、水素化ホウ素ナトリウムの添加を含む、請求項11に記載のボランエーテル錯体の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−541418(P2009−541418A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−517125(P2009−517125)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【国際出願番号】PCT/EP2007/056171
【国際公開番号】WO2008/000678
【国際公開日】平成20年1月3日(2008.1.3)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】