説明

ボンディングワイヤの巻取り装置および巻取り方法

【課題】ワイヤの巻取りにおいて、従来のプーリー等による機械的張力付与機構および張力付与機構により生じていた急峻なワイヤ張力の変動や過度なワイヤ張力によるワイヤ走行経路の逸脱、ワイヤの変形、表面損傷、破断を無くし、安定的にスプールへの巻取りを可能とする。
【解決手段】ワイヤを静電吸着力によって巻取りスプールに吸着した状態で、ワイヤに空気抵抗力や重力を働かせることによって非接触でワイヤに張力を付与しながら、スプールに巻き取る。巻取り後に、除電機構によってワイヤに帯電した電荷を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子上の電極と外部リードとを接続するために用いるボンディングワイヤ(以下、「ワイヤ」と略す。)の製造において、当該ワイヤをスプールに巻き取る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子上の電極と外部リードとを接続するために用いるワイヤは、近年、半導体パッケージの小型化に伴い、細線化が進んでおり、ワイヤ径は、現行の0.020mmから0.008〜0.010mmに移行する見込みである。
【0003】
このようなワイヤの細線化はその曲げ剛性や引張りに対する破断強度を減少させ、製造工程におけるワイヤの取り扱い性に大きな影響を与える。ワイヤを製造工程でスプールに巻く際には巻き取った後の巻き崩れを防止するために、張力を掛けながら巻く必要がある。巻き取り途中で張力がワイヤの破断強度を上回ると、ワイヤは断線し、巻き取るべき所定の長さに満たない不良品となるといった問題があった。
従来の巻取り装置においては、10〜15mNの張力がワイヤに負荷される。線径が0.020mmの従来ワイヤは80mN程度の破断強度を有しているので、上記の張力に対して破断することは稀である。しかし、線径が0.008〜0.010mmの極細線の破断強度は20mN程度しかなく、10〜15mNと記した上記張力がさらにばらついた場合には、断線が生じることがある。
【0004】
このような極細線には、その破断強度を考慮して、巻き取り時に付与する張力を低減すべきである。しかし、従来の巻き取り装置では、極細線に対応する微弱な張力を発生させることが困難であった。以下、図1を用いて従来の巻き取り装置とその張力発生の特性を詳細に説明する。
図1において、供給スプール1と巻取りスプール4は互いに間隔を置いて設置された図示しない回転駆動装置の一組の回転軸にそれぞれ脱着可能に装着されている。ワイヤは供給スプール1から巻き出されて巻き取りスプール4に巻き取られる。張力の付与機構およびワイヤのガイド機構として、供給スプール1と巻取りスプール4の間を走行するワイヤの直線状走行経路上に、軸位置が固定された2個のプーリーを回動自在に設置し、これらのプーリーの下方に、ばねに付勢された遥動可能なテンションアーム2を設置し、テンションアーム2の先に軸支されたプーリー3を設置する。
供給スプールから巻き出されたワイヤは、軸位置が固定された2個のプーリー溝を通して巻取りスプール4に架け渡し、これらプーリーの間に架け渡されたワイヤを下方に引き出し、プーリー3の溝に掛けることにより、高さが可変のV字形の走行経路を得る。
このような従来の巻き取り装置を使用してワイヤを巻き取る場合、巻き取りが進むにつれて供給スプール1上のワイヤの巻き径は減少する一方、巻き取りスプール4上のワイヤの巻き径は増加し、両スプール間のワイヤは供給不足のために緊張する。ワイヤの走行経路上でワイヤが緊張したときは、一時的に、V字形経路の最下部に位置するプーリー3が、これを下方に負勢するばねの力に抗して上方に引き上げられ、V字形経路の高さが短縮されることによりワイヤの緊張を緩和しようとする。
しかし、上記V字形経路の短縮によって巻き出し量と巻き取り量の差の増大に対応し続けることはできない。そこで従来技術では、図1に示す上記の張力の付与機構とともに、スプール駆動軸の回転速度の制御も行っている。すなわちワイヤの巻き出し量と巻取り量の均衡を得ようとスプールの回転速度を調整するのである。しかし、回転速度制御精度不足等の原因により定常的に完全に均衡を得ることはできず、増減を繰り返しながら平均的には均衡する状態が得られる。この2種のスプール間を走行するワイヤの量の増減を、上記プーリー3の昇降動作が吸収している。
このようなプーリー3の昇降動作は、ばねで懸架されたテンションアーム2の遥動によって実現されており、ワイヤがプーリー3を引き上げる張力の大きさ、プーリー3を下方に負勢するばねの強さと、これらの力の差により遥動するプーリー等の慣性質量の大小によりプーリー3の昇降動作の素早さが決まる。プーリー等の慣性力に対し、ワイヤ張力やばねの力が十分大きければ、プーリー3はワイヤから離れず動くことができ、ワイヤがプーリー溝から外れて脱線する問題はない。
しかし、ワイヤが細線化すると、ワイヤの破断強度が減少し、ワイヤに負荷できる張力が減少するのに応じて、プーリー3を下方に負勢するばねの力も弱くする必要が生じる。プーリー等の慣性力に対し、ワイヤ張力やばね力が小さくなれば、プーリー3の追従性は悪化する。場合によってはワイヤはプーリー3との接触がなくなり、プーリー溝から外れることは上記のとおりである。テンションアームやプーリー等を用いた従来の接触式張力付与手段は、ワイヤよりはるかに大きな質量を有するこれらの機構が持つ慣性力を小さくすることに限界があり、ワイヤの細線化に適応できなくなるといった問題を有する。
【0005】
そこで、発明者は上記した従来の機械式張力調整機構を根本から見直し、ワイヤとの接触を廃する新たな張力調整機構を模索した。非接触で対象物に力を与える手段として重力、磁力、静電気力等がある。この中で、磁力はAu、Cu等の磁化しない対象物には使用できず、重力は限定された方向に作用するもので利用方法に制約が生じるのに対し、静電気力は互いに引き付け合う物体同士に作用するものであり、円筒状のスプールにワイヤを巻き取る際に、スプールにワイヤを吸着保持する手段として好適であると考えた。
【0006】
静電気を利用した公知の技術を調査したところ、絶縁性で軟質の長尺物をロール等で搬送する技術がある。例えば特許文献1に静電気を応用してフィルムをラミネートする技術が開示されている。しかし、この技術はワイヤと比べ、寸法的、強度的に余裕のある樹脂製のテープ状の材料に対して適用されるものである。この方法は、静電気による吸着の目的は達成できるが、吸着対象が静電気を安定して保持しづらい導電性を有するものに対する技術は開示されておらず、極細で導電性のワイヤに適用するには不十分な技術であるといった問題があった。
【0007】
吸着対象物が導電性を有する物に関する公知の技術としては、金属シートと合紙シートを互いに吸着し搬送する技術が、特許文献2に開示されている。しかし、この技術は印刷技術に属するものであり、剛性のない吸着対象物を多重に巻き取る必要のあるワイヤには適用できない技術である。
【0008】
これらの文献公知発明は、搬送等の目的において、吸着対象物を一時的に吸着する技術である。したがって、巻取りの終了後は、速やかに静電気を除去しなければならない本願発明の要求に対し、これを満足する技術が開示されていないものであるといった問題があった。
【特許文献1】特開2003−206450号公報
【特許文献2】特開平11−43259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、極細ワイヤの巻取り時にワイヤに生ずる張力の集中、バラツキを低減し、かつその絶対値を低く抑えてワイヤを損傷無く高速で巻き取る装置および方法を提供することを課題とする。
【0010】
また、従来の静電気吸着技術の問題であった導電性の吸着対象であるワイヤを安定して吸着し、かつ、巻き取ったワイヤおよびスプールに、半導体機器に有害な静電気が残らないワイヤの巻取り装置および方法を提供することも解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願第1の発明は、ワイヤ製造工程においてワイヤ供給スプールから巻き出されたワイヤを巻き取りスプールに巻き取る巻取り装置であって、
1)ワイヤ供給スプールと、巻取りスプールとを、それぞれ脱着可能に装着し軸支する、間隔をおいて設置された2つの回転駆動装置と、
2)ワイヤ供給スプールに巻かれたワイヤと少なくとも巻取りスプールとを電気的に絶縁状態を維持し、
ワイヤ供給スプールから巻き出されたワイヤを静電気によって巻取りスプールへ吸着する吸着機構と、
3)ワイヤ供給スプールと巻取りスプールの間を走行するワイヤに非接触で張力を付与する張力付与機構とを備え、さらに
4)静電気が帯電したワイヤから静電気を除去する除電機構と
を備えたことを特徴とするワイヤの巻取り装置である。
【0012】
本願第2の発明は、上記第1の発明において、
1)静電気によるワイヤの吸着機構は、巻取り時に、巻取りスプールを帯電させる帯電機構であり、
2)ワイヤから静電気を除去する除電機構は、帯電したワイヤと巻取りスプールの両方を巻取り終了後にアースに地絡させる導通機構であり、
3)かつ、帯電機構と導通機構は共通の切替スイッチによりそのいずれかを巻取りスプールと選択的かつ排他的に電気接続される
ことを特徴とするワイヤの巻取り装置である。
【0013】
本願第3の発明は、上記第1および第2の発明において、ワイヤ供給スプールと巻取りスプールのうち、
1) 少なくとも巻取りスプールは、全体を導電性材料により形成し、かつ、
2) その表面層のうち少なくとも巻き取られるワイヤが接触する巻胴部分を極薄い絶縁層とした
ことを特徴とするワイヤの巻取り装置である。
【0014】
本願第4の発明は、上記第1、第2および第3の発明において、ワイヤ供給スプールと、巻取りスプールの間を走行するワイヤに非接触で張力を付与する張力付与機構であって、
ワイヤに張力を付与するための加圧方向と少なくともこれと垂直な2方向の合計3方向から圧縮空気をワイヤに向かって噴出し、空気抵抗によってワイヤに張力を付与することを特徴とするワイヤの巻取り装置である。
【0015】
本願第5の発明は、上記第1ないし第4の発明において、ワイヤ供給スプールと、巻取りスプールの間を走行するワイヤの撓み量を検出する撓み量検出機構を備え、
ワイヤの撓み量の検出信号をワイヤ供給スプールと、巻取りスプールの回転を制御する回転駆動制御装置にフィードバックすることにより、ワイヤの撓み量が一定範囲に納まるように制御することを特徴とするワイヤの巻取り装置である。
本願第6の発明は、上記第1ないし第5の発明において、ワイヤの巻取り装置によりワイヤを静電気力を用いてスプールに吸着し、かつ非接触で張力を付与し、またスプール間を走行するワイヤの撓み量の検出信号を用いて撓み量が一定範囲内となるようにスプールの回転駆動速度を制御しながら巻取りを行うことを特徴とするワイヤの巻取り方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、急峻な力の集中や変動を生じるプーリー等の機械的張力付与機構およびガイド機構を廃し、これに代わってワイヤを静電吸着力によって巻取りスプールに吸着した状態で、空気抵抗やワイヤに働く重力によってワイヤに張力を付与して、ワイヤを巻き取る機構を採用しており、また、巻き替え作業の進行に伴う巻き半径の変化等を原因とする巻き出し量と巻取り量の不均衡に対してはワイヤの撓み量検出機構からのフィードバック信号がスプールの回転制御機構に送られ、上記の不均衡を是正するように構成されているので、当初の巻き替え作業におけるワイヤの走行状態が巻き終わりまで維持されて、巻き替え作業の終始、ワイヤに加わる力の変動が極めて少なく、またその値が低くなる。さらに、上記撓み量検出機構は非接触でワイヤを検出するため、検出機構によりワイヤに不当な張力が付与されることがない。
これによって、極細ワイヤに従来生じていた走行経路の逸脱、ワイヤの変形、表面損傷、破断が無くなり、安定したスプールへの巻取りが可能となる。また、巻取り後には巻取りスプールとこれに巻き付けられたワイヤのいずれもが除電されるため、保管や搬送中に塵埃等を吸着することが無く、また、ワイヤを結線する装置やワイヤが組みつけられる電子素子等に静電気による障害を与える心配がない。
【0017】
そのため、極細線において、上記の不具合により指定の巻取り長さに満たない事で製品化されずに収率低下を生じるようなスプール巻取り品の発生を防止する効果がある。また、従来必要であった巻取り装置の、ワイヤに接触する消耗部品補修に要するコストが不要となり、また、これら保全作業のために生じていた工程の休止損失がなくなるといった効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
まず、本発明の巻取り装置を構成するに当たって、ワイヤ供給スプール用の回転駆動装置を絶縁物を介して巻取り装置架台に設置する。一方、巻取りスプール用のスピンドルを有する回転駆動装置は、これをスプールの軸方向に往復直線移動をさせる移動台を介して、電気的に絶縁した状態で巻取り装置架台に設置する。移動台は、ワイヤの巻径が巻取りスプールの巻胴の幅方向に一様になるように巻くために設置するものである。
また、静電気発生装置を巻取り装置架台に電気的に絶縁した状態で固定する。巻取り装置架台には絶縁材を介して切替スイッチを固定する。切替スイッチの共通端子は上記巻取りスプール用の回転駆動装置のスピンドルに電気的に接続する。切替スイッチの一方の接続端子は静電気発生装置の出力端子と電気的に接続し、他方の端子はアースに導通させる。即ち切替スイッチを切替ることにより、巻取りスプールはスピンドルを介して静電気発生装置またはアースのいずれかと導通することを選択できるように回路を構成する。
次に空気圧を利用した張力付与機構の構成を説明する。張力付与機構は断面がコの字型の溝型ブロック状に形成し、巻取り装置架台に設置する。溝の内面には、コの字断面に現れる3辺それぞれに、いずれもコの字の中心に向けて取り付けた圧縮空気ノズルを配置したノズル列を、少なくとも溝の先後端近傍を含む溝の長手方向に複数組配置する。ワイヤの断面を含む平面上で張力付与機構を設置する位置は、ワイヤが2種類のスプール間に撓み無く張り渡された状態で、コの字断面の略中心をワイヤが通る位置とし、またワイヤの長手方向の張力付与機構の設置位置は、2種類のスプールの取付け間隔の略中央位置とする。コの字の開放端は巻取りスプールの軸と垂直な方向に向けて設置する。こうすることで、張力調整機構内でのワイヤの撓み方向が巻取りスプールの軸方向と直交することになり、ワイヤの撓み量の多寡が巻取りスプール上に巻かれて並ぶワイヤの巻きピッチに影響することを避けることができる。
さらに、非接触式のワイヤ検出器が、張力付与機構におけるワイヤの撓み量の許容範囲に応じて位置決めされ、複数組内蔵される撓み量検出機構を、張力付与機構の溝の長手方向の略中央位置に取り付ける。
次にスプールの構成について説明する。まず、巻取りスプールは導電材料を用いて成形し、ワイヤが接触するスプール巻胴部の表面部分に薄い絶縁被膜を形成する。巻取りスプールの内径部分およびフランジ部分は絶縁被膜を設けない。巻胴の内径部に絶縁皮膜を設けない理由は、ここに接触するスピンドルを介して巻取りスプールを、静電気発生装置またはアースに電気的に接続するためである。また、フランジの外側部に絶縁皮膜を設けない理由は、ワイヤを巻き取った後、ワイヤの巻き終わり端をフランジの外側部に接触させることにより、ワイヤ、巻取りスプール、スピンドル、切替スイッチをこの順に通して、ワイヤを地絡させて除電を行うためである。巻取りスプールのその他の部分に絶縁被膜を形成するのは、ワイヤを巻き取る際に、巻取りスプールを帯電させてその巻胴部にワイヤを吸着する方法を採用するが、接触するワイヤとスプールが導通すると、両者が同電位となり、吸着力が消失するので、導通を避ける必要があるためである。
一方、ワイヤ供給スプールは絶縁材料を用いて形成する。これは、静電気発生装置により帯電した巻取りスプールとの静電誘導作用でワイヤに生じた電気分極状態を安定的に維持するのに適した材料であるためである。これら2種類のスプールをそれぞれの回転駆動装置に着脱自在に取り付ける。
ワイヤ供給スプール回転駆動装置および巻取りスプール回転駆動装置の回転を協調制御する制御装置をこれら駆動装置と接続し、また、ワイヤ検出器からの信号が制御装置に伝達されるよう、これらを接続する。
以上のように構成した本発明のワイヤの巻取り装置の使用において、切替スイッチを巻取りスプールと静電気発生装置が導通するように切替えておき、静電気発生装置を作動させて巻取りスプールを帯電させる。静電気発生装置により得られる帯電電圧は−2〜−11KVの範囲で、対象とするワイヤ等の特性に応じて調整する。
静電気発生装置の発生電圧が安定するまでの間に、線引き加工を終了したワイヤが巻付けられて前工程から搬入されたワイヤ供給スプールを、ワイヤ供給スプール用の回転駆動装置のスピンドルに取り付ける。また、空の巻取りスプールを巻取りスプール用の回転駆動装置のスピンドルに取り付ける。
ワイヤ供給スプールに巻き取られているワイヤの巻き終わり端を巻き戻して、張力付与機構のコの字形の溝を通し、帯電している巻取りスプールの巻胴部表面に吸着させる。
【0019】
帯電を維持したまま、制御装置により低速で2種のスプールを駆動し、ワイヤの端部を巻取りスプールに一定量巻き付けた後、張力付与機構から圧縮空気を噴出し、ワイヤに張力を付与した状態で、2種のスプールの回転速度を高め、ワイヤ供給スプールに巻き取られているワイヤを巻取りスプールに全て巻き替える。巻取りスプールの回転中は巻き取られるワイヤがスプールの軸方向に一様に分散して巻かれるように移動台を制御し、回転駆動装置に装着された巻取りスプールを、その軸方向に往復直線運動させる。巻き替え終了後、両回転駆動装置の回転を停止し、圧縮空気の噴出を停止し、静電気発生装置を停止する。
巻取り作業中は制御装置の働きにより、ワイヤ供給スプール回転駆動装置は、基本的には巻取りスプール回転駆動装置の回転速度に同調して回転するが、巻取りの進行に従って両スプールに巻かれたワイヤの巻き半径の変化等による巻き出し量と巻取り量の不一致が生じる。この巻き出し量と巻取り量の不一致は、走行するワイヤの撓み量の変化となって現れる。
撓み量検出機構は、張力付与機構内で走行するワイヤの位置を検出することにより、走行するワイヤの撓み量が許容される上限、下限を超えたときに制御装置に信号を送信する。撓み量の上限を超えてワイヤが撓んだときは、制御装置はこれに対応する信号をワイヤ供給スプール回転駆動装置に送信し、この信号によりワイヤ供給スプールの回転速度を低減するように制御する。逆に撓み量の下限を超えてワイヤが走行したときは、制御装置はこれに対応する信号をワイヤ供給スプール回転駆動装置に送信し、この信号によりワイヤ供給スプールの回転速度を増加するように制御する。
【0020】
巻き取られたワイヤの終端は、巻取りスプールの部分的に絶縁が除去された導通部にテープ等で固定する。
【0021】
この後、巻取りスプールと静電気発生装置を接続した切替スイッチを切替えて、巻取りスプールを地絡させることで、巻取りスプールおよびこれとワイヤの末端で導通しているワイヤの除電を行う。除電を行うことによって巻取りスプールを保管する時に塵埃を吸着する心配が無くなり、またこの巻取りスプールをボンディング装置に取り付けた際に静電気による障害を招く恐れがなくなる。
【0022】
巻取り中にワイヤに張力を付与する方法として、圧縮空気の噴射で張力を付与する方法以外に、2種のスプール間に渡された部分のワイヤ自身の重量でワイヤに張力を付与する方法を採用しても良い。前者の方法は、圧縮空気圧の調整により懸架された部分のワイヤの自重の範囲を超えて強い張力を付与できるので、極細線の中でも比較的線径の大きな、強度のあるワイヤに適し、後者の方法は、強い張力をかけられない細線に適している。この後者の方法を採用する場合にも、前者と同様の撓み量検出機構を用い、制御装置が撓み量検出機構からのワイヤの位置検出信号によりワイヤ供給スプールの回転速度を制御することは、圧縮空気により張力付与を行う前者の場合の回転制御と同じである。
【実施例】
【0023】
本実施例は、図示しない溶解鋳造設備にて直径25mmの円筒型インゴットを作成し、それをロール加工した後、ダイスによる伸線加工と中間焼鈍とを繰り返すことにより得られた直径0.010mmのワイヤを巻き替え処理するものである。
【0024】
巻取り対象として選択したサンプルは2N(金の純度99質量%の)合金ワイヤと4N(金の純度99.99質量%の)ワイヤであり、伸びは最終熱処理により1〜3.5%となるよう調整した。
【0025】
以下、図2に示す実施例により本発明を詳細に説明する。本発明の巻取り装置は、前工程にて、伸線加工、最終熱処理加工により製造されたワイヤ7を巻き取る供給スプール1を取り付けてこれを巻き出す駆動装置6と、ここから巻き出されたボンディングワイヤ7を巻き取る巻取りスプール4を取り付けるスピンドル11とこれを回転駆動および軸方向に往復直線駆動する駆動装置12を、それぞれのスプールの中心間距離を上下方向に約300mm離して設ける。スピンドル11には切替スイッチ9の共通端子を接続し、切替スイッチ9の開閉端子の内の一つを静電気発生装置8と接続し、他の一つをアース10に接続する。
さらにそれぞれ駆動装置に取り付けられた両スプールの間を走行するワイヤ7の経路上に、ワイヤの走行方向に長さ40mmのコの字型断面を有する張力付与機構5を、コの字の開放端が巻取りスプール4の軸と垂直な方向に向けて設置する。張力付与機構5にはコの字型断面の内部に圧縮空気の流路を形成し、コの字の3辺には各辺に略垂直に、コの字の内部を通過するワイヤに向けて圧縮空気のノズルを取り付ける。このようなノズルの組をワイヤの走行方向に20mm間隔で2組取り付ける。2組のノズルの間に、ワイヤの走行位置を検知する2組の投光・受光式検出器を備えた撓み量検出機構14を設置する。それぞれの組の投光・受光式検出器はワイヤの走行方向と垂直で、コの字の平行な2辺に並行な方向に2組が独立して移動・位置決めできるように取り付ける。それぞれの組の投光・受光式検出器は、ワイヤの許容できる走行領域の幅、すなわちワイヤの走行経路の撓み量の上下限を検出できる位置に固定する。
【0026】
本発明に用いる供給スプール1はポリエチレン製のものである。この材質は、帯電したワイヤ7の電荷を安定的に維持するのに好都合な絶縁性を有し、安価に製作できるものである。
【0027】
一方、巻取りスプール4は軽量であるアルミ材を用い表面をアルマイト処理する。巻取りスプール4は従来製品出荷用に用いられているものと同一寸法とし、巻胴の直径が50.3mmのものとした。ただし、その巻胴の内径部分およびフランジの外側面はアルマイト皮膜を設けない。
【0028】
以上のように構成した本実施例の装置にて巻取りを行う際には、切替スイッチ9によってスピンドル11を介して静電気発生装置8と巻取りスプール4を導通させ、静電気発生装置8を作動させる。静電気発生装置が発生する帯電電圧は−5KVと設定した。
【0029】
前工程で伸線加工を完了したワイヤ7が巻き付けられた供給スプール1を駆動装置6に取り付ける。また、空の巻取りスプール4を駆動装置12のスピンドル11に取り付ける。これによって、巻取りスプール4は帯電する。
【0030】
供給スプール1に巻き付けられたワイヤ7の末端を巻き出して、張力付与機構5のコの字形の溝を通した後、帯電させたワイヤ巻取りスプール4の巻胴に接触させ、吸着させる。
【0031】
駆動装置6と駆動装置12をともに巻胴の周速度が2m/分の低速で回転させ、ワイヤ7を巻取りスプール4の巻胴に10〜20巻き分、巻き付ける。この後、張力付与機構5に圧縮空気を供給し、ガイドするワイヤ7を、コの字断面の互いに垂直な3面から吹き付ける空気圧で張力付与機構5の構成物に接触させることなく支持するとともに、ワイヤがスプールから離れる方向に受ける空気抵抗によりワイヤに一定の張力を与える。撓み量検出機構14はワイヤ7の位置を検知し、この信号を駆動装置6、12の制御装置13に送る。制御装置13は撓み量検出機構14が検出するワイヤ7の走行位置が所定の撓み量の許容範囲内に収まるよう駆動装置6および12の回転数を制御すると共に、駆動装置12を回転軸方向に往復直線運動させ、巻き付けられたワイヤ7を巻胴の幅に亘って一層づつ積層するクロス巻きを形成する。
【0032】
低速での巻き付けを行ったところで、両駆動装置の回転を加速し、巻胴の周速度が50m/分の高速の巻取りを、ワイヤ7がすべて巻き取られるまで継続する。ワイヤ7が全て巻き取られたのち、両駆動装置を停止させ、圧縮空気の供給を停止し、静電気発生装置を停止する。
【0033】
ワイヤ7の終端を巻取りスプール4のフランジ外側部にテープ止めする。最後に、切替スイッチ9を切替て、帯電した巻取りスプール4をスピンドル11を介してアース10に接続する。これによって、巻取りスプール4は除電され、これとワイヤ終端で導通しているワイヤ7も除電される。巻取りスプール4をスピンドル11から取り外し、出荷梱包を行う。
【0034】
以下に、従来の巻取り方法との比較における条件及びデータを示す。
実施比較試験条件
〔テンション条件〕
条件1 従来のプーリとテンションアームによるテンション:14.7mN
条件2 従来のプーリとテンションアームによるテンション:9.8mN
条件3 本発明方法によるテンション:張力付与機構5に供給したの圧縮空気
圧によるテンション(20mm間隔で上下2箇所に設置した各々互いに垂直な3方向からワイヤ7を指向するノズルを用い、1L毎分の流量に設定した。)
〔巻胴の周速度〕
従来例、実施例とも今回の全ての試験において50m/min(高速回転時)とした。
表1に評価試験の条件と結果の一覧を示す。本発明の実施例ではワイヤの全長に亘って不良を発生することなく巻き取れた。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、ワイヤへの応用に留まらず、損傷しやすい長尺物で、静電気の残留が問題となるものの巻取り等の取り扱いを行う上で利用できる技術である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】は従来技術を説明する巻取り装置の要部斜視図、
【図2】は本発明の実施例を示す巻取り装置の斜視図である。
【符号の説明】
【0038】
1.供給スプール
2.テンションアーム
3.プーリー
4.巻取りスプール
5.張力付与機構
6.駆動装置
7.ボンディングワイヤ
8.静電気発生装置
9.切替スイッチ
10.アース
11.スピンドル
12.駆動装置
13.制御装置
14.撓み量検出機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボンディングワイヤ製造工程においてワイヤ供給スプールから巻き出されたワイヤを巻き取りスプールに巻き取る巻取り装置であって、
1)ワイヤ供給スプールと、巻取りスプールとを、それぞれ脱着可能に装着し軸支する、間隔をおいて設置された2つの回転駆動装置と、
2)ワイヤ供給スプールに巻かれたワイヤと、少なくとも巻取りスプールとを電気的に絶縁状態に維持し、
ワイヤ供給スプールから巻き出されたワイヤを静電気によって巻取りスプールへ吸着する吸着機構と、
3)ワイヤ供給スプールと巻取りスプールの間を走行するワイヤに非接触で張力を付与する張力付与機構とを備え、さらに
4)静電気が帯電したワイヤから静電気を除去する除電機構と
を備えたことを特徴とするワイヤの巻取り装置
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤの巻取り装置において、
1)静電気によるワイヤの吸着機構は、巻取り時に、巻取りスプールを帯電させる帯電機構であり、
2)ワイヤから静電気を除去する除電機構は、帯電したワイヤと巻取りスプールの両方を巻取り終了後にアースに地絡させる導通機構であり、
3)かつ、帯電機構と導通機構は共通の切替スイッチによりそのいずれかを巻取りスプールと選択的かつ排他的に電気接続される
ことを特徴とするワイヤの巻取り装置
【請求項3】
請求項1または2に記載のワイヤの巻取り装置において、
ワイヤ供給スプールと巻取りスプールのうち、
1) 少なくとも巻取りスプールは、全体を導電性材料により形成し、かつ、
2) その表面層のうち少なくとも巻き取られるワイヤが接触する巻胴部分を極薄い絶縁層とした
ことを特徴とするワイヤの巻取り装置
【請求項4】
請求項1ないし3に記載のワイヤの巻取り装置において、
ワイヤ供給スプールと、巻取りスプールの間を走行するワイヤに、非接触で張力を付与する張力付与機構であって、
ワイヤに張力を付与するための加圧方向と少なくともこれと垂直な2方向の合計3方向から圧縮空気をワイヤに向かって噴出し、空気抵抗によってワイヤに張力を付与することを特徴とするワイヤの巻取り装置
【請求項5】
請求項1ないし4に記載のワイヤの巻取り装置において、
ワイヤ供給スプールと、巻取りスプールの間を走行するワイヤの撓み量を検出する撓み量検出機構を備え、
ワイヤの撓み量の検出信号をワイヤ供給スプールと、巻取りスプールの回転を制御する回転駆動制御装置にフィードバックすることにより、ワイヤの撓み量が一定範囲に納まるように制御することを特徴とするワイヤの巻取り装置
【請求項6】
請求項1ないし5に記載のワイヤの巻取り装置において、
ワイヤの巻取り装置によりワイヤを静電気力を用いてスプールに吸着し、かつ非接触で張力を付与し、またスプール間を走行するワイヤの撓み量の検出信号を用いて撓み量が一定範囲内となるようにスプールの回転駆動速度を制御しながら巻取りを行うことを特徴とするワイヤの巻取り方法


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−308265(P2007−308265A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−139340(P2006−139340)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】