説明

ボンディングワイヤの接合構造及びその形成方法

【課題】複層銅ボンディングワイヤの実用化における従来技術の問題を解決して、ボール部の形成性、接合性を改善し、ウェッジ接続の接合強度を高め、工業生産性にも優れたボンディングワイヤの接合構造及びその形成方法を提供する。
【解決手段】ボンディングワイヤは銅を主成分とし、ボール接合部に銅以外の導電性金属の濃度が高い濃化層を形成した。ボール接合部の表面近傍、又はボール接合部の界面に濃化層を形成した。導電性金属の濃度が0.05〜20mol%である領域の厚さが0.1μm以上であり、濃化層における導電性金属の濃度は、濃化層以外のボール接合部における導電性金属の平均濃度の5倍以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子上の電極とリードフレーム、基板、テープなどの回路配線基板を配線するために用いられるボンディングワイヤの接合構造及びその形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体素子上の電極と外部端子との間を接合するボンディングワイヤとして、線径20〜50μm程度の細線(ボンディングワイヤ)が主として使用されている。ボンディングワイヤの接合には超音波併用熱圧着方式が一般的であり、汎用ボンディング装置や、ボンディングワイヤをその内部に通して接続に用いるキャピラリ冶具等が用いられる。ワイヤ先端をアーク入熱で加熱溶融し、表面張力によりボールを形成させた後に、150〜300℃の範囲内で加熱した半導体素子の電極上に、このボール部を圧着接合せしめ、その後で、直接ボンディングワイヤを外部リード側に超音波圧着により接合させる。
【0003】
近年、半導体実装の構造・材料・接続技術等は急速に多様化しており、例えば、実装構造では、現行のリードフレームを使用したQFP(Quad Flat Packaging)に加え、基板、ポリイミドテープ等を使用するBGA(Ball Grid Array)、CSP(Chip Scale Packaging)等の新しい形態が実用化され、ループ性、接合性、量産使用性等をより向上したボンディングワイヤが求められている。そうしたボンディングワイヤの接続技術でも、現在主流のボール/ウェッジ接合の他に、狭ピッチ化に適したウェッジ/ウェッジ接合では、2ヶ所の部位で直接ボンディングワイヤを接合するため、細線の接合性の向上が求められる。
【0004】
ボンディングワイヤの接合相手となる材質も多様化しており、シリコン基板上の配線、電極材料では、従来のAl合金に加えて、より微細配線に好適なCuが実用化されている。また、リードフレーム上には、Agメッキ、Pdメッキ等が施されており、また、樹脂基板、テープ等の上には、Cu配線が施され、その上に金等の貴金属元素及びその合金の膜が施されている場合が多い。こうした種々の接合相手に応じて、ボンディングワイヤの接合性、接合部信頼性を向上することが求められる。
【0005】
ボンディングワイヤの素材は、これまで高純度4N系(純度>99.99mass%)の金が主に用いられている。しかし、金は高価であるため、材料費が安価である他種金属のボンディングワイヤが所望されている。
【0006】
ワイヤボンディング技術からの要求では、ボール形成時に真球性の良好なボールを形成し、そのボール部と電極との接合部で十分な接合強度を得ることが重要である。また、接合温度の低温化、ボンディングワイヤの細線化等に対応するためにも、回路配線基板上の配線部にボンディングワイヤをウェッジ接続した部位での接合強度、引張り強度等も必要である。
【0007】
高粘性の熱硬化エポキシ樹脂が高速注入される樹脂封止工程では、ボンディングワイヤが変形して隣接ワイヤと接触することが問題となり、しかも、狭ピッチ化、長ワイヤ化、細線化も進む中で、樹脂封止時のワイヤ変形を少しでも抑えることが求められている。ワイヤ強度の増加により、こうした変形をある程度コントロールすることはできるものの、ループ制御が困難となったり、接合時の強度が低下する等の問題が解決されないと実用化は難しい。
【0008】
こうした要求を満足するワイヤ特性として、ボンディング工程におけるループ制御が容易であり、しかも電極部、リード部への接合性も向上しており、ボンディング以降の樹脂封止工程における過剰なワイヤ変形を抑制すること等の、総合的な特性を満足することが望まれている。
【0009】
材料費が安価で、電気伝導性に優れ、ボール接合、ウェッジ接合等も高めるために、銅を素材とするボンディングワイヤ(以下、銅ボンディングワイヤという)が開発され、特許文献1等が開示されている。しかし、銅ボンディングワイヤでは、ワイヤ表面の酸化により接合強度が低下することや、樹脂封止されたときのワイヤ表面の腐食等が起こり易いことが問題となる。これが銅ボンディングワイヤの実用化が進まない原因ともなっている。
【0010】
銅ボンディングワイヤでは、ワイヤ先端を溶融してボール部を形成する際に、酸化を抑制するために、窒素ガスまたは水素を含有する窒素ガスをワイヤ先端に吹付けながらボンディングが行われる。現在は銅ボンディングワイヤのボール形成時の雰囲気ガスとして、水素5%を含有する窒素ガスが一般的に使用されている。特許文献2には、銅線を銅または銅合金リードフレームに接続する際に、5%H2+N2の雰囲気で接続することが開示されている。また非特許文献1では、銅ボンディングワイヤのボール形成には、5%H2+N2ガスではボール表面の酸化を抑制できるため、N2ガスよりも望ましいことが報告されている。
【0011】
銅ボンディングワイヤの表面酸化を防ぐ方法として、特許文献3には、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、コバルト、クロム、チタン等の貴金属や耐食性金属で銅を被覆したボンディングワイヤが提案されている。また、ボール形成性、メッキ液の劣化防止等の点から、特許文献4には、銅を主成分とする芯材、該芯材上に形成された銅以外の金属からなる異種金属層、及び該異種金属層の上に形成され、銅よりも高融点の耐酸化性金属からなる被覆層の構造をしたボンディングワイヤが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭61-99645号公報
【特許文献2】特開昭63-24660号公報
【特許文献3】特開昭62-97360号公報
【特許文献4】特開昭62-97360号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】“Copper Ball Bonding for Fine Pitch, High I/O Devices”: P. Devlin, Lee Levine, 38th International Symposium on Microelectronics (2005), P.320-324.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
銅ボンディングワイヤの実用では、高温、高湿等の実使用環境での銅ボンディングワイヤと電極との接合部において電気抵抗が増加したり、接合強度が低下したりする等、長期信頼性が低下することが問題となる。こうした不良は、通常の半導体に多用されるAl電極との接合部を樹脂封止された場合に頻繁に発生する。CuとAlの接合部での腐食反応、ボイド発生等が一因であると考えられる。従来のICの使用環境では、銅ボンディングワイヤの接合信頼性の問題はあまり知られておらず、最近のパワーIC、車載用IC等の過酷な環境で問題となってきている。また、銅ボンディングワイヤでは、従来の金ボンディングワイヤと比較して、ワイヤ表面が酸化し易いこと、ボール接合部の形状不良及び接合強度の低下等が起こり易いという懸念がある。
【0015】
銅ボンディングワイヤの表面酸化を防ぐ手段として、ワイヤ表面に貴金属や耐酸化性の金属を被覆することが可能である。半導体実装の高密度化、小型化、薄型化等のニーズを考慮して、本発明者らが評価したところ、銅ボンディングワイヤの表面を銅と異なる金属で覆った複層構造の銅ボンディングワイヤ(以下、複層銅ワイヤと記す)を従来のワイヤボンディング方法で使用すると、実用上の問題が多く残されていることが確認された。
【0016】
従来の単層構造の銅ボンディングワイヤ(以下、単層銅ワイヤと記す)では、銅の酸化を抑制するためボール形成用ガスを吹付けながらボールを形成し、そのボール部を電極上に接続する手法が用いられている。ボール形成用ガスでは、窒素を主体とするガスが多く使用され、最近は水素5%を含有する窒素ガスが標準ガスとして最も多く使用されている。このボンディング方法を用いて複層銅ワイヤに適用すると、ボール接合性に関連した不具合が起こり、単層銅ワイヤあるいは現在主流の金ボンディングワイヤを使用した場合よりも半導体の使用性能を低下させる原因となる。
【0017】
複層銅ワイヤの先端にボールを形成した場合、ボール接合部の形状不良及び接合強度の低下等が起こり易いことが実用上の問題となる。具体的な不良事例では、真球からずれた扁平ボールの形成、ボールがボンディングワイヤに対して傾いて形成される芯ずれ等が発生したり、ボール内部に溶融されないワイヤが残ったり、気泡(ブローホール)が生成することが問題となる場合もある。こうした正常でないボール部を電極上に接合すると、ワイヤ中心からずれてボールが変形する偏芯変形、真円からずれる形状不良として楕円変形、花弁変形等が生じることで、電極面から接合部のはみ出し、接合強度の低下、チップ損傷、生産管理上の不具合等の問題を起こす原因となる。こうした初期接合の不良は、前述した長期信頼性の低下を誘発する場合もある。
【0018】
こうしたボールの接合性の問題に取組むだけでなく、使用実績の少ない複層銅ワイヤを実用化するには、現行の銅ボンディングワイヤを置き換えるだけの性能の優位性が必要となる。例えば、ウェッジ接合における接合強度の上昇、接合歩留まりの向上等、又は、銅ボンディングワイヤの保管寿命を向上できる表面酸化の低減等、単層銅ワイヤよりも改善されていることが求められる。
【0019】
今後、銅ボンディングワイヤの実用化を推進するには、パワーIC用途で金ワイヤではあまり用いられない50μm径以上の太線、一方で、銅の高導電性を活用する20μm径以下の細線に十分適応し、特性では、太線の接合性向上、狭ピッチの小ボール接合、低温接合、積層チップ接続の逆ボンディング等より厳しい要求への適応が必要となる。
【0020】
そこで、本発明では、上述したような銅ボンディングワイヤの実用化における従来技術の問題を解決して、ボール部の形成性、接合性を改善し、ウェッジ接続の接合強度を高め、工業生産性にも優れたボンディングワイヤの接合構造及びその形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の請求項1記載のボンディングワイヤの接合構造は、ボール接合部を介して半導体素子の電極に接続されるボンディングワイヤの接合構造であって、前記ボンディングワイヤは銅を主成分とし、前記ボール接合部に銅以外の導電性金属の濃度が高い濃化層が形成されたことを特徴とする。
【0022】
本発明の請求項2記載のボンディングワイヤの接合構造は、請求項1において、前記濃化層は、前記ボール接合部の界面近傍に形成されたことを特徴とする。
【0023】
本発明の請求項3記載のボンディングワイヤの接合構造は、請求項2において、前記濃化層は、前記導電性金属の濃度が0.05〜20mol%である領域の厚さが0.1μm以上であることを特徴とする。
【0024】
本発明の請求項4記載のボンディングワイヤの接合構造は、請求項1において、前記濃化層は、前記ボール接合部の表面に形成されたことを特徴とする。
【0025】
本発明の請求項5記載のボンディングワイヤの接合構造は、請求項4において、前記導電性金属の濃度が0.05〜10mol%である領域の厚さが0.1μm以上であることを特徴とする。
【0026】
本発明の請求項6記載のボンディングワイヤの接合構造は、請求項1〜5のうちいずれか1項において、前記濃化層における前記導電性金属の濃度は、前記濃化層以外の前記ボール接合部における前記導電性金属の平均濃度の5倍以上であることを特徴とする。
【0027】
本発明の請求項7記載のボンディングワイヤの接合構造は、請求項1〜6のうちいずれか1項において、前記ボンディングワイヤは、銅を主成分とする芯材と、前記導電性金属を主成分とし前記芯材を被覆する外皮層とからなることを特徴とする。
【0028】
本発明の請求項8記載のボンディングワイヤの接合構造は、請求項1〜7のうちいずれか1項において、前記導電性金属は、パラジウム又は白金であることを特徴とする。
【0029】
本発明の請求項9記載のボンディングワイヤの接合構造は、請求項7又は8において、前記外皮層の厚さが0.002〜0.8μmであることを特徴とする。
【0030】
本発明の請求項10記載のボンディングワイヤの接合構造は、請求項7〜9のうちいずれか1項において、前記芯材と前記外皮層との間に、銅と前記導電性金属が濃度勾配を有する拡散層を有することを特徴とする。
【0031】
本発明の請求項11記載のボンディングワイヤの接合構造は、請求項1〜10のうちいずれか1項において、前記ボール接合部の内部に、直径10μm以上の気泡が含まれていないことを特徴とする。
【0032】
本発明の請求項12記載のボンディングワイヤの接合構造は、請求項1〜11のうちいずれか1項において、前記ボール接合部の表面に、直径10μm以上の気泡痕が含まれていないことを特徴とする。
【0033】
本発明の請求項13記載のボンディングワイヤの接合構造の形成方法は、請求項1〜12のうちいずれか1項記載のボンディングワイヤの接合構造の形成方法であって、ボンディングワイヤと放電トーチとの間でアーク放電を形成することで、前記ボンディングワイヤの先端を溶融して前記ボール接合部を形成することを特徴とする。
【0034】
本発明の請求項14記載のボンディングワイヤの接合構造の形成方法は、請求項13において、前記ボンディングワイヤの長手方向に対する前記ボンディングワイヤの先端と前記放電トーチの先端とを結んだ線のなす角度を60度以内に保ちながら前記ボール接合部を形成することを特徴とする。
【0035】
本発明の請求項15記載のボンディングワイヤの接合構造の形成方法は、請求項13において、前記ボンディングワイヤの先端近傍に、不活性ガス又は還元性ガスを2方向以上から、或いはリング状に吹き付けながら前記ボール接合部を形成することを特徴とする。
【0036】
本発明の請求項16記載のボンディングワイヤの接合構造の形成方法は、請求項13において、水素を0.02〜20%含有するアルゴンの雰囲気下で前記ボール接合部を形成することを特徴とする。
【0037】
本発明の請求項17記載のボンディングワイヤの接合構造の形成方法は、請求項13において、アルゴンを5〜50%含有する窒素の雰囲気下で前記ボール接合部を形成することを特徴とする。
【0038】
本発明の請求項18記載のボンディングワイヤの接合構造の形成方法は、請求項14において、水素を0.02〜20%含有するアルゴンの雰囲気下で前記ボール接合部を形成することを特徴とする。
【0039】
本発明の請求項19記載のボンディングワイヤの接合構造の形成方法は、請求項14において、アルゴンを5〜50%含有する窒素の雰囲気下で前記ボール接合部を形成することを特徴とする。
【0040】
本発明の請求項20記載のボンディングワイヤの接合構造の形成方法は、請求項13〜19のうちいずれか1項において、前記ボンディングワイヤの先端近傍に、不活性ガス又は還元性ガスを0.00005〜0.005m/分の流量で吹き付けながら前記ボール接合部を形成することを特徴とする。
【0041】
本発明の請求項21記載のボンディングワイヤの接合構造は、請求項2において、前記ボール接合部の界面に形成された前記濃化層の少なくとも一部が、前記電極の主成分と銅とを主成分とする前記拡散層または前記金属間化合物のうち少なくともどちらかの内部に形成されていることを特徴とする。
【0042】
本発明の請求項22記載のボンディングワイヤの接合構造は、請求項21において、前記濃化層の少なくとも一部が前記拡散層または前記金属間化合物のうち少なくともどちらかの内部に形成され、前記導電性金属の濃度が0.5〜30mol%である領域の厚さが0.01μm以上であることを特徴とする。
【0043】
本発明の請求項23記載のボンディングワイヤの接合構造は、請求項2において、前記濃化層は、前記ボール接合部を175℃で200時間加熱した後に前記ボール接合部の界面に形成され、前記導電性金属の濃度が1mol%以上である領域の厚さとして0.2μm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0044】
本発明では、高温保管での接合信頼性に優れ、さらに材料費が金より安価で、ボール接合性、ワイヤ接合性等も改善することで、狭ピッチ用細線化、パワー系IC用途の太径化にも適応できる、ボンディングワイヤの接合構造及びその形成方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】ボンディングワイヤ装置の一部で、ボンディングワイヤの先端にボールを形成する工程である。
【図2】ボンディングワイヤ装置の上方から見た投影図で、ボンディングワイヤの先端にボールを形成する工程である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
銅系ボンディングワイヤの高温での接合信頼性を改善する方策として、接合部の界面又は表面に導電性金属の濃化層(それぞれ界面濃化層、表面濃化層と記す)を形成することが有効であることを見出した。これら濃化層を形成する材料の一つとして、銅を主成分とする芯材と、銅以外の導電性金属を含有する外皮層とで構成された複層銅ワイヤ(以下、複層銅ワイヤと記す)が有効であることを確認した。複層銅ワイヤの外皮層の組成、膜厚、複層構成等を適正化することが重要である。さらに、複層銅ワイヤの信頼性を総合的に高めるには、ボール接合部の内部及び表面に気泡、気泡痕等を抑制することが必要であり、現行主流の単層構造の銅ボンディングワイヤ(以下、単層銅ワイヤと記す)とは異なるガス雰囲気、放電条件等の適正化が有効である。以下に、本発明の詳細を説明する。
【0047】
前記濃化層とは、ボール接合部の中心部における導電性金属の濃度よりも相対的に濃度が高い領域のことである。好ましくは、濃化層に含まれる導電性金属の濃度が、ボール接合部の中心部の濃度に比べて1.2倍以上であれば、濃化層としての特徴が獲られる。さらに好ましくは、該比率が2倍以上であれば、濃化層による改善効果をより高めることが容易となる。ボール接合部の界面または表面における濃化層の形態が、層状に形成されている場合が多いことら、本願では濃化層と称する。濃化層の形態について、必ずしも連続的な層状に限定されるわけでなく、濃化層の一部が不連続(断続的)に形成されていている場合も含むものである。
【0048】
銅を主成分とするボンディングワイヤの接合構造においては、該ボンディングワイヤにより形成されたボール接合部において電極との界面近傍に、それ以外の部分よりも銅以外の導電性金属の濃度が高い濃化層である界面濃化層を有することが望ましい。ここでの界面とは、ボールと電極とが接合されたボール接合部の境界近傍のことである。銅ボンディングワイヤとアルミ電極との接合部が高温加熱されると、接合界面にCu-Al系金属間化合物が形成される。この金属間化合物の成長に伴い、ボイドが発生したり、又は封止樹脂から放出されるガスや、イオン等により金属間化合物が腐食されることが、信頼性低下をもたらす。ボールと電極とを接続した界面近傍に導電性金属の界面濃化層が形成されることで、接合界面でのCu原子とAl原子の拡散を制御し、金属間化合物を接合界面全体に均一成長させると同時に、腐食の進展、ボイドの成長を抑えることで、接合部の長期信頼性が高められる。こうした界面濃化層の作用は、アルミ電極の限りではなく、電極材がAu、Ag、Pd、Ni等でも、同様に接合信頼性を向上させる効果が得られる。
【0049】
界面濃化層の銅以外の導電性金属の濃度が0.05〜20mol%である領域の厚さが0.1μm以上であることが望ましい。これは0.05mol%未満では信頼性の改善効果が小さく、20mol%を超えるとボール部が硬化してチップ損傷を与えるという懸念がある。好ましくは、0.2〜10mol%であれば、半導体の代表的な加速加熱である150℃加熱試験において、長期信頼性を向上する、より高い効果が得られる。また好ましくは、0.1〜5mol%であれば、低温でも初期の接合強度を高めることができるため、BGA、CSP等の基板の接続に有利である。上記濃度範囲の領域の厚さが0.1μm以上であれば上述した作用効果が得られ、0.1μm未満では改善効果が安定しないためである。
【0050】
界面濃化層の厚さは0.2μm以上であれば、長期信頼性を向上する効果が高められ、より好ましくは0.5μm以上であれば、高温でのボール接合部の寿命を延長させるより高い効果が得られる。界面濃化層の厚さの上限はボール接合部の圧着高さの60%以下、また表面濃化層の厚さの上限がボール直径の40%以下であれば、接合性等に悪影響を及ぼすことなく、良好な接合性が確保される。
【0051】
ボール接合部と電極との界面では、電極の主成分と銅とが相互拡散することで、拡散層や金属間化合物が形成される場合が多い。ボール接合部に拡散層または金属間化合物が形成される場合であっても、界面濃化層を形成することにより、高温での接合信頼性を向上する効果が高められる。特に、ボール接合部の界面に形成された界面濃化層の少なくとも一部が、電極の主成分と銅とを主成分とする拡散層または金属間化合物の少なくともどちらかの内部に形成されたボンディングワイヤの接合構造であることが望ましい。前記拡散層または金属間化合物の内部に形成された導電性金属の界面濃化層(以下、総称して化合物濃化層と呼ぶ)は、接合界面での銅および電極の主成分の相互拡散を制御する機能を果たすことにより、信頼性試験での耐熱性を10℃以上高めることができる。前述した不良機構である金属間化合物の腐食などにより接合強度が低下したり、電気抵抗が増加したりする不良が発生する。化合物濃化層は不良発生時間を延長するのに有効であり、その役割のひとつに、樹脂から発生したガスまたはイオンなどがボール接合部の界面に移動するのを遮断するバリア機能を果たすと考えられる。接合部の界面近傍において、導電性金属が濃化する領域が拡散層または金属間化合物に限られる場合、すなわち導電性金属が主として前記化合物濃化層に集中する場合でも、十分な高温信頼性が得られる。さらに拡散層または金属間化合物に濃化する化合物濃化層と、接合界面に近い銅ボールに形成される濃化領域とが共存することにより、接合信頼性の改善効果がより一層高められる。
【0052】
また、前記濃化層の少なくとも一部が拡散層または金属間化合物の少なくともどちらかの内部に形成され、前記導電性金属の濃度が0.5〜30mol%である領域の厚さが0.01μm以上であることにより、加熱による金属間化合物の腐食などを抑制して接合信頼性を向上する効果が得られる。化合物濃化層における前記導電性金属の濃度が0.5mol%以上であれば腐食を抑制する十分なバリア作用がある。一方、化合物濃化層における前記導電性金属の濃度が30mol%を超えるためには、銅ボンディングワイヤに含まれる導電性金属の濃度を著しく高くするなど特殊な材料とする必要があり、接合性が低下するなど弊害も多く、ワイヤボンディングの要求特性を満足できない場合がある。好ましくは、前記濃度範囲が2〜20mol%ある領域の厚さが0.01μm以上であることにより、接合信頼性を向上する効果がさらに高められる。上記濃度範囲の領域の厚さが0.01μm以上であれば上述した十分な作用効果が得られ、0.01μm未満では信頼性を改善する効果が安定しないためである。
【0053】
好ましくは、濃化層を含有する拡散層または金属間化合物の位置は、銅ボールに近い側に形成されることにより、電極直下への損傷を低減する効果も高い。これは、銅ボールから遠いチップ側の界面に形成された拡散層または金属間化合物が濃化層を含有することで、熱膨張差、残留歪みなどにより電極直下にクラック、界面剥離などの不良が発生するのに対し、銅ボールに近い側の拡散層または金属間化合物の内部に濃化する場合には、電極直下への悪影響を軽減できるためである。
【0054】
前記の拡散層とは、電極の主成分と銅とにより主に構成される不規則合金で、濃度勾配を有する場合が多い。前記拡散層に含まれる電極の主成分の濃度は1〜30mol%の範囲であることが望ましい。この理由は、1mol%未満であれば、濃化層が拡散層内に形成されても、前述した接合信頼性を向上する効果が小さく、一方、30mol%を超えて固溶する拡散層の形成は不安定となる場合があるためである。拡散層の内部に濃度勾配を有することも望ましい。これは、濃度勾配が熱応力の集中を緩和させることで、封止樹脂の熱膨張などの外力にも耐えて、ボール接合部が十分な接合強度を維持できるるためである。例えば、電極がアルミ合金(Al−Si、Al−Cu、Al−Si−Cu)の場合には、拡散層とは、Alを3〜22mol%の領域で含有するAlとCuと導電性金属であることが望ましい。Alを3〜22mol%含有するCu−Al系の拡散層は、比較的容易に成長させることができ、導電性金属を濃化しても安定しており、接合信頼性を向上する効果も高いためである。
【0055】
前記金属間化合物とは、電極の主成分と銅とにより主に構成される規則合金であり、この規則性を有する点が拡散層とは異なる。平衡状態図で存在が知られている金属間化合物のうちいずれかの相が、ボール接合部でも形成される場合がほとんどである。電極の主成分と銅とを主成分とする2元系の金属間化合物相が導電性金属を含有する場合と、または、電極の主成分と銅と導電性金属との3元系の金属間化合物相が形成される場合に分類され、どちらでも良好な接合信頼性が得られる。特に、濃化層が金属間化合物の内部に形成されていれば、接合信頼性を向上させる高い効果を得ることができ、なかでも、高温高湿加熱であるPCT試験(Pressure Cocker Test)での信頼性を向上させる効果が高く、例えばPCT試験での寿命を1.2倍以上に延長することも可能である。改善機構の詳細はまだ不明ではあるが、金属間化合物の内部に形成された濃化層が、ボール接合部への水分の侵入を防いだり、接合界面での拡散および金属間化合物の成長に影響を及ぼすことで、PCT試験の信頼性が向上していると考えられる。また、濃化層が金属間化合物の内部に限定されている場合でも、高温加熱とPCT試験の両者ともに高い信頼性を得ることができる。
【0056】
具体的な事例として、例えば最も一般的な材質として、電極がアルミ合金(Al−Si、Al−Cu、Al−Si−Cu)の場合には、金属間化合物相としては、2元系の金属間化合物相ではCuAl、CuAl、CuAl4相であることが望ましく、これらの金属間化合物の少なくともどれか一つの相の内部に導電性金属を濃化させることで接合信頼性が向上する。また、前記アルミ合金の電極上のボール接合部において、アルミと銅と該導電性金属との3元系の金属間化合物相が形成される場合には、この3元系の金属間化合物相の内部に導電性金属が濃化されていることで、PCT試験などの接合信頼性がさらに向上する。好ましくは、前記導電性金属の濃度が1〜20mol%であることにより、PCT試験での接合信頼性を向上させる高い効果が得られる。
【0057】
これらの濃度解析手法について、接合断面においてEPMA(電子線マイクロ分析法)、EDX(エネルギー分散型X線分析法)、AES(オージェ分析)等を用いて点分析又は線分析する手法が利用できる。分析面積は、直径0.1μm以上のエリア内での平均濃度で示すことが望ましく、より好ましくは1μm以上のエリア内での平均濃度であれば分析精度が向上する。濃化の場所が特定できない場合などには、接合界面の近傍における線分析が望ましい。界面濃化層の位置が明確である場合には、点分析は簡便な手法である。点分析で濃化の有無を評価するためには、濃化領域と、ボール接合部の内部で接合界面から十分離れた領域との少なくとも2箇所で分析することが望ましい。
【0058】
線分析は、基本的には、接合界面近傍をはさんだ領域を分析することが必要であり、線分析の始点、終点に関しては、拡散層または金属間化合物が生成している場合と、生成していない場合に分けて説明する。拡散層または金属間化合物が生成している場合には、該拡散層または金属間化合物の全ての層を挟んだ領域で線分析を行い、その始点、終点は、拡散層および金属間化合物の全ての層の両端からボール側および電極側に少なくとも2μm以上離れたところであることが望ましい。一方、拡散層または金属間化合物が生成していないか、またはその存在が明確でない場合には、ボール接合部の初期の接合界面からボール側および電極側に少なくとも2μm以上離れたところを線分析の始点または終点とすることが望ましい。こうした線分析の手法により、ボール接合部の界面に形成された濃化層を、比較的容易に確認することができる。
【0059】
前記界面濃化層の分析は、出荷された半導体の最終製品、又は電子機器に装着されて実際に使用されている半導体のいずれで行ってもよい。即ち、濃化層の濃度あるいは厚さは、前者の出荷の段階または使用された段階のいずれの半導体を用いて接合部の観察を行っても、本発明の範囲内であれは、その作用効果を奏するものである。
【0060】
また、ボール接合部の表面に表面濃化層を形成することで接合部の酸化を防止できる。即ち、銅を主成分とするボンディングワイヤと電極とを接続したボンディングワイヤの接合構造においては、該ボンディングワイヤにより形成されたボール接合部の表面に、それ以外の部分よりも銅以外の導電性金属の濃度が高い濃化層である表面濃化層を有することが望ましい。表面濃化層の形成により、樹脂封止された後の銅ボール部への酸素の侵入、水分の吸着等を抑える保護機能が働き、ボール表面での酸化膜の成長又は銅の腐食等を抑制する。また別の実用効果では、ボンディング中の高温ステージ上での加熱、封止工程及びその後の熱処理等で加熱されても、接合部表面の酸化抑制による接合信頼性を高められる。
【0061】
ボール接合部の表面の表面濃化層において、銅以外の導電性金属の濃度が0.05〜10mol%の範囲の領域が0.1μm以上であることが望ましい。表面濃化層が該濃度範囲であれば、PCT試験等の高温高湿環境でも接合部信頼性を向上する十分な効果が得られる。0.05mol%未満では酸化を抑制する効果が小さく、10mol%を超えると、電極との初期の接合強度が低下するためである。好ましくは、0.2〜4mol%であれば、ボール接合部の花弁変形を抑制することで真円性を向上できる。好ましくは、0.3〜4mol%であれば、高温高湿環境での信頼性をさらに向上する効果が高められる。上記濃度範囲の領域が0.1μm以上であれば、信頼性を向上することが可能である。また表面濃化層の厚さは、0.5μm以上であれば信頼性を向上する作用が高められ、より好ましくは1μm以上であれば、ボール表面の酸化が軽減される、より高い効果が得られる。
【0062】
ボール接合部の表面濃化層の確認は、EPMA、EDX、オージェ分光分析等を利用して、ボール表面を分析することで評価できる。ボール接合部の表面での濃度分布がある場合には、同一接合部の表面の2箇所以上の濃度で判定することができる。オージェ分光分析では、表面をスパッタしながら深さ方向に分析することが、上記組成、膜厚の評価に有効である。
【0063】
以上では、濃化層内での濃度値を利用したが、注目する導電性金属の濃化層内での濃度がボール内部での濃度に対する割合が、濃化の度合いを示す重要な尺度となる。即ち、ボール接合部の電極との界面近傍に形成された界面濃化層、又はボール接合部の表面に形成された表面濃化層に含有される銅以外の導電性金属の濃度が、ボール接合部の内部における濃化層以外においての該導電性金属の平均濃度に対する濃度比が5倍以上である半導体素子であることが望ましい。該濃度比が5倍以上であることで、接合部の長期信頼性とウェッジ接合性の向上を同時に満足することが可能である。より好ましくは、該濃度比が10倍以上であれば、接合部の長期信頼性とチップ損傷の低減を両立する効果が高められる。表面濃化層はボール表面の濃度測定を行い、ボール内部の濃度では、例えばボール接合部の研磨断面の3箇所以上で測定した濃度の平均値を利用できる。
【0064】
界面濃化層又は表面濃化層において濃化する導電性金属として、Pd、Pt、Au、Ag、Rh、P、Sn等が有効である。これらの導電性金属であれば、接合部での金属間化合物の成長を損なうことなく、信頼性を向上する高い効果が得られる。より好ましくは、濃化層の主成分がPd、Pt、Rhの少なくとも1種と銅の合金であれば、接合信頼性を向上する改善効果が顕著である。さらにより好ましくは、主成分がPdと銅の合金であれば、より厳しい高温環境での長期信頼性も向上する効果が高められる。具体例として、銅中にPdが濃化した界面濃化層の厚さが0.5μm以上であれば、車載IC用途の厳しい評価である175℃での加熱評価でも信頼性を向上することができる。
【0065】
前述した界面濃化層又は表面濃化層を有する接合構造について、ループを形成する通常のワイヤボンディング方法で形成したボール接合部であるか、またはスタッドバンプ法で形成したボール接合部のどちらでも構わない。両者の相違はループを形成するかどうかであり、ともにボール接合部の構造、要求される信頼性などはほぼ同じである。
【0066】
半導体の接合部の長期信頼性に関して、不良の発生が確認されるのは、半導体が実際に長期間使用されているときであり、製造直後に不良を検出することは困難な場合が多い。そこで、半導体の信頼性試験では、評価の短縮のために加速評価試験を行うことが一般的である。具体的には、高温加熱試験、高温高湿信試験(PCT)、熱サイクル試験(TCT)などが広く実施され、それぞれの試験で信頼性の要求基準などが規格化されている。半導体では製造直後は問題なくても、信頼性試験で不良が確認される場合が多い。従って、加速評価試験での優劣を判定の指標に用いる場合が多く、接合部の信頼性についても加速加熱してから評価することができる。
【0067】
加速加熱処理をした後に接合部を調査して、前記界面濃化層を観察する手法は、さらに効率的で有効な評価法である。濃化層が形成されているかどうかの可否を決定するのは、あくまでボンディングワイヤを電極に接合した段階の界面構造であり、その後の加速加熱処理の役割は、界面濃化層を厚くさせて観察の効率、精度を高めているだけである。加速加熱処理をした後に界面濃化層を観察する手法では、界面濃化層の評価および解析が容易となることが利点である。
【0068】
ボール接合部を175℃で200時間加熱した後に、ボール接合部の界面に形成された濃化層が、導電性金属の濃度が1mol%以上である領域の厚さとして0.2μm以上であるボンディングワイヤの接合構造であることが望ましい。175℃で200時間加熱することにより濃化層を厚くさせており、1mol%以上であれば濃度測定が比較的容易であり、1mol%以上である領域の厚さが0.2μm以上であれば、良好な接合信頼性が得られるためである。前述した、ボンディングワイヤの接合部は、導電性金属の濃度が0.05〜20mol%である領域の厚さが0.1μm以上であり、このボンディングワイヤの接合部が175℃で200時間加熱したときに観察される濃化層に相当すると考えられる。
【0069】
ここで、加速加熱処理の目的は界面濃化層を厚くさせることであり、加熱温度、時間は上記の限りではない。濃化層は拡散律速であるため、濃化層の厚さは加熱時間の平方根に比例することから、加熱時間が変化しても、前記濃化層の厚さを算出することが可能である。例えば、上記した加熱時間が2倍の400時間になれば、濃化層の厚さは21/2倍で、0.28μm以上であることが望ましい。また加熱温度を高めることで評価時間を短縮できる利点があるため、250℃加熱も有効である。上記の加熱条件と拡散層の関係を200℃で換算すると、200℃で100時間加熱した後に、導電性金属の濃度が2mol%以上である領域の厚さが0.4μm以上であることに置き換えられることを確認した。
【0070】
上記濃化層を形成する材料として、銅を主成分とする芯材と、該芯材の上に芯材と成分の異なる導電性金属を主成分とする外皮層を有する複層銅ワイヤにより接続されることが望ましい。導電性金属を添加して合金化させた単層銅ワイヤでも、接合信頼性を高めることができるが、さらに複層銅ワイヤを用いることで、接合信頼性を向上する効果がより一層高められ、加えてワイヤ表面の酸化を抑制する効果も得られる。単層銅ワイヤで前述した界面濃化層又は表面濃化層を形成するために、ワイヤ中の合金元素の添加濃度を増加させれば、ボール部が硬化して接合時にチップ損傷を与えることが問題となる場合が多い。それに対して、複層銅ワイヤでは、外皮層厚さ、組成、構造等を適正化することで、ボンディングワイヤ性能を総合的に向上できる利点もある。
【0071】
外皮層を構成する導電性金属は、Au、Pt、Pd、Rh等の貴金属元素を主成分とすることで、ワイヤ表面の酸化を抑制する効果が得られる。接合性、ループ形状等の総合特性を向上させるため、ボンディングワイヤの使用性能を総合評価したところ、なかでも外皮層を構成する導電性金属がPd、Ptの少なくとも1種であることが特性向上に有利であることが確認された。
【0072】
前記外皮層を構成する主要な導電性金属がPd、Ptの少なくとも1種であるボンディングワイヤを用いることで、接合信頼性を高める顕著な効果が得られると同時に、ボール接合性、ウェッジ接合性、ボンディングワイヤの長寿命化等を総合的に満足することができる。即ち、銅を主成分とする芯材と、該芯材の上にPd、Ptの少なくとも1種を主成分とする外皮層を有するボンディングワイヤを用い、接合界面の界面濃化層又はボール表面の表面濃化層を有する接合部である半導体素子であることが望ましい。ここでの主成分とは、濃度が20mol%以上の場合に相当する。より好ましくはPdの方がより優れたウェッジ接合性が得られ、ウェッジ接合部の初期の接合強度を単層銅ワイヤよりも1.5〜3倍まで増加できる。
【0073】
好ましくは、外皮層の表面における銅以外の導電性金属の濃度が30mol%以上であれば、量産におけるボール形成時の放電が安定化して、初期ボールの真球性を向上することができる。より好ましくは60mol%以上であれば、初期ボールの表面凹凸を減少させて平滑な表面性状を得る効果が確認された。
【0074】
外皮層の厚さは0.002〜0.8μmの範囲であることが好ましく、これは良好なウェッジ接合性が得られ、ボール接合性の向上効果も高められるためである。厚さが0.002μm未満では、銅ボンディングワイヤの酸化抑制、接合性等が単層銅ワイヤよりも向上する効果が得られず、また薄過ぎて膜厚を正確にコントロールすることが困難であり、0.8μm超ではボール部が硬化してチップ損傷を与えることが懸念される。より好ましくは、外皮層の厚さが0.01〜0.5μmの範囲であれば、ウェッジ接合強度を増加させる効果が増進し、ワイヤ削れ等の低減によるキャピラリ寿命を長くする効果も得られる。さらにより好ましくは、外皮層の厚さが0.01〜0.2μmの範囲であれば、ウェッジ接合性を高めつつ、ボール接合部のチップ損傷を低減する効果をさらに高められる。こうした膜厚と特性との関連は、外皮層を構成する導電性金属がPd、Ptの少なくとも1種である場合に、より顕著となる。
【0075】
芯材と外皮層の間に濃度勾配を有する拡散層を形成することで、両立が難しいとされていたループ制御性とウェッジ接合性を同時に高める効果が期待される。即ち、芯材の主成分が銅で、外皮層を構成する導電性金属がPd、Ptのうち少なくとも1種であり、芯材と外皮層の間にPd、Ptのうち少なくとも1種と銅が濃度勾配を有する拡散層を含有するボンディングワイヤを用い、接合界面の界面濃化層又はボール表面の表面濃化層を有する接合部である半導体素子であることが望ましい。
【0076】
外皮層は、銅と導電性金属を含有する合金から構成され、さらに、外皮層内部に導電性金属と銅が濃度勾配を有する拡散層が含まれていることが有効である。即ち、外皮層内において、ワイヤ径方向に導電性金属と銅の濃度勾配を有する拡散層の厚さが0.001〜0.5μmであるボンディングワイヤであることが好ましい。濃度勾配を有することで、導電性金属は外皮層全体に均一濃度である場合より、芯材と外皮層の密着性と、複雑な塑性変形を受けるループ時の制御性を同時に向上できる。
【0077】
ここで、拡散層が表面まで達して、外皮層が全て拡散層で形成されることで、ループのばらつきを抑える効果が一層高められる。この拡散層を表面まで形成することは、前述した外皮層の表面におけるPd濃度の調整にも有効である。
【0078】
外皮層内の濃度勾配は、深さ方向への濃度変化の程度が1μm当り10mol%以上であることが望ましい。好ましくは、0.1μm当り10mol%以上であれば、外皮層と芯材の異なる特性を損なうことなく、相互に利用する高い効果が期待できる。濃度勾配を有する外皮層と芯材との境界について、濃度勾配の両端における濃度値の差分の中間濃度に相当する部位を境界とすることが望ましい。
【0079】
導電性金属の濃度勾配の領域は、必ずしも外皮層全体でなく、部分的であっても構わない。また複数の導電性金属を有する場合には、少なくとも1種以上の導電性金属が濃度勾配を有すれば、接合性、ループ制御等の特性向上が得られ、含まれる導電性金属により濃度勾配の挙動が異なることで、単独の導電性金属の場合よりさらに特性を向上できる場合もある。
【0080】
濃度勾配は、表面から深さ方向に向けて濃度が低下する傾向であれば、外皮層と芯材との密着性の向上等に有利である。この濃度勾配の形成法について、導電性金属元素と銅元素との拡散により形成された領域であることが望ましい。これは、拡散で形成された層であれば、局所的な剥離、クラック等の不良発生の可能性が低いこと、連続的な濃度変化の形成等が容易であること等の利点が多いためである。
【0081】
生産性及び品質安定性等の面から、外皮層内の濃度勾配は連続的に変化していることが好適である。即ち、濃度勾配の傾きの程度は、外皮層内で必ずしも一定である必要はなく、連続的に変化していて構わない。例えば、外皮層と芯材との界面又は最表面近傍等での濃度変化の傾きが外皮層の内部と異なっていたり、指数関数的に濃度変化していたりする場合でも良好な特性が得られる。
【0082】
外皮層の濃度分析について、ボンディングワイヤの表面からスパッタ等により深さ方向に掘り下げていきながら分析する手法、あるいはワイヤ断面でのライン分析又は点分析等が有効である。前者は、外皮層が薄い場合に有効であるが、厚くなると測定時間がかかり過ぎる。後者の断面での分析は、外皮層が厚い場合に有効であり、また、断面全体での濃度分布や、数ヶ所での再現性の確認等が比較的容易であることが利点であるが、外皮層が薄い場合には精度が低下する。ボンディングワイヤを斜め研磨して、拡散層の厚さを拡大させて測定することも可能である。断面では、ライン分析が比較的簡便であるが、分析の精度を向上したいときには、ライン分析の分析間隔を狭くするとか、界面近傍の観察したい領域に絞っての点分析を行うことも有効である。これらの濃度分析に用いる解析装置では、EPMA、EDX、オージェ分光分析法、透過型電子顕微鏡(TEM)等を利用することができる。また、平均的な組成の調査等には、表面部から段階的に酸等に溶解していき、その溶液中に含まれる濃度から溶解部位の組成を求めること等も可能である。
【0083】
本発明のボンディングワイヤを製造するに当り、芯材と外皮層の形成する工程と、銅元素の外皮層内の濃度勾配及び最表面への露出する熱処理工程が必要となる。
【0084】
外皮層を銅の芯材の表面に形成する方法には、メッキ法、蒸着法、溶融法等がある。メッキ法では、電解メッキ、無電解メッキ法のどちらでも製造可能である。ストライクメッキや、フラッシュメッキと呼ばれる電解メッキでは、メッキ速度が速く、下地との密着性も良好である。無電解メッキに使用する溶液は、置換型と還元型とに分類され、膜が薄い場合には置換型メッキのみでも十分であるが、厚い膜を形成する場合には置換型メッキの後に還元型メッキを段階的に施すことが有効である。無電解法は装置等が簡便であり、容易であるが、電解法よりも時間を要する。
【0085】
蒸着法では、スパッタ法、イオンプレーティング法、真空蒸着等の物理吸着と、プラズマCVD等の化学吸着とを利用することができる。いずれも乾式であり、膜形成後の洗浄が不要であり、洗浄時の表面汚染等の心配がない。
【0086】
メッキ又は蒸着を施す段階について、狙いの線径で導電性金属の膜を形成する手法と、太径の芯材に膜形成してから、狙いの線径まで複数回伸線する手法とのどちらも有効である。前者の最終径での膜形成では、製造、品質管理等が簡便であり、後者の膜形成と伸線の組み合わせでは、膜と芯材との密着性を向上するのに有利である。それぞれの形成法の具体例として、狙いの線径の銅線に、電解メッキ溶液の中にワイヤを連続的に掃引しながら膜形成する手法、あるいは、電解又は無電解のメッキ浴中に太い銅線を浸漬して膜を形成した後に、ワイヤを伸線して最終径に到達する手法等が可能である。
【0087】
上記手法により形成された外皮層と芯材を用い、外皮層中に銅の濃度勾配及び最表面に銅を露出させる工程として、加熱による拡散熱処理が有効である。これは、外皮層と芯材の界面で、銅と導電性金属との相互拡散を助長するための熱処理である。ワイヤを連続的に掃引しながら熱処理を行う方法が、生産性、及び品質安定性に優れている。しかし、単純にワイヤを加熱しただけでは、外皮層の表面及び内部での銅の分布を制御できる訳ではない。通常のワイヤ製造で用いられる加工歪取り焼鈍をそのまま適用しても、外皮層と芯材との密着性の低下によりループ制御が不安定になったり、キャピラリ内部にワイヤ削れ屑が堆積して詰まりが発生したり、また、表面に露出した銅が酸化して接合強度が低下する等の問題を完全に解決することは困難である。そこで、熱処理の温度、速度、及び時間等の制御が重要である。
【0088】
好ましい熱処理法として、ワイヤを連続的に掃引しながら熱処理を行い、しかも、一般的な熱処理である炉内温度を一定とするのでなく、炉内で温度傾斜をつけることで、本発明の特徴とする外皮層及び芯材を有するボンディングワイヤを量産することが容易となる。具体的な事例では、局所的に温度傾斜を導入する方法、温度を炉内で変化させる方法等がある。ボンディングワイヤの表面酸化を抑制する場合には、N2やAr等の不活性ガスを炉内に流しながら加熱することも有効である。
【0089】
こうした温度傾斜又は温度分布のある熱処理は、生産性の点では最終線径で施すことが望ましいが、一方で、熱処理の後に伸線を施すことで、表面の酸化膜を除去して低温での接合性を向上したり、さらに伸線と歪み取り焼鈍を併用することで、キャピラリ内部でのワイヤ削れを低減したりする効果等も得られる。
【0090】
また、溶融法では、外皮層又は芯材のいずれかを溶融させて鋳込む手法であり、1〜50mm程度の太径で外皮層と芯材を接続した後に伸線することで生産性に優れていること、メッキ、蒸着法に比べて外皮層の合金成分設計が容易であり、強度、接合性等の特性改善も容易である等の利点がある。具体的な工程では、予め作製した芯線の周囲に、溶融した導電性金属を鋳込んで外皮層を形成する方法と、予め作製した導電性金属の中空円柱を用い、その中央部に溶融した銅又は銅合金を鋳込むことで芯線を形成する方法に分けられる。好ましくは、後者の中空円柱の内部に銅の芯材を鋳込む方が、外皮層中に銅の濃度勾配等を安定形成することが容易である。ここで、予め作製した外皮層中に銅を少量含有させておけば、外皮層の表面での銅濃度の制御が容易となる。また、溶融法では、外皮層にCuを拡散させるための熱処理作業を省略することも可能であるが、外皮層内のCuの分布を調整するために熱処理を施すことで更なる特性改善も見込める。
【0091】
さらに、こうした溶融金属を利用する場合、芯線と外皮層の少なくとも一方を連続鋳造で製造することも可能である。この連続鋳造法により、上記の鋳込む方法と比して、工程が簡略化され、しかも線径を細くして生産性を向上させることも可能となる。
【0092】
前述した、ボール接合部の界面に形成された界面濃化層の少なくとも一部が、電極の主成分と銅とを主成分とする拡散層または金属間化合物の少なくともどちらかの内部に形成されたボンディングワイヤの接合構造を形成する手段として、銅を主成分とする芯材と導電性金属を主成分とする外皮層とを有する、前記の複層銅ワイヤにより接続することが有効である。これは、複層銅ワイヤであれば、外皮層の成分、厚み、濃度勾配、組成などを調整することで、接合界面での濃化層の分布厚みなどを制御することが容易なためである。例えば、界面濃化層を金属間化合物の内部に形成するには、外皮層の厚みを増したり、導電性金属の比率を高めたり、また、外皮層と芯材との界面を形成した拡散層の組成を制御すること、などが有効な場合が多い。また、金属間化合物の内部における界面濃化層の形成を助長する接続技術として、ボール形成時の雰囲気ガスに窒素ガスを用いることが有効である。これはボールを形成するためのアーク放電において、ボール表面の酸化を抑えつつ、ボール表面への導電性金属の偏析を促進することが、接合部に成長する金属間化合物の内部における濃化層の形成を促進に繋がるためと考えられる。
【0093】
複層銅ワイヤの接合信頼性をさらに精査することで、解決すべき問題としてボール接合部の偏芯変形が起こり易いこと、気泡及び気泡痕が生成することが確認され、それぞれの不良で異なる改善方法が有効であることが判明した。偏芯の低減には放電条件の適性化が有効であること、接合部の気泡及び気泡痕の発生を抑制するには、ボール形成時の雰囲気ガスの選定が有効であることを見出した。それぞれの不良現象、改善方法を後述する。いずれも単層銅ワイヤでも効果は認められるが、特に複層銅ワイヤに適用することで作用効果が高められる。
【0094】
ボンディングワイヤの先端と放電トーチの先端とのなす角度がワイヤ長手方向から60度以内であり、その放電トーチとワイヤ先端との間でアーク放電を形成してボール部を形成するボンディングワイヤの接合構造の形成方法が望ましい。図1には、ボールを形成する工程に係わるワイヤボンディング装置の一部を示しており、ワイヤ1と放電トーチ2との間にアーク放電を生じさせ、ワイヤ先端を溶融してボールを形成する。銅の溶融時の酸化を抑制するために、ガスノズル4から不活性ガスまたは還元性ガスを矢印方向に吹き付けて、ワイヤ1と放電トーチ2の周囲にガス雰囲気を形成する。ここで、前述した角度は図1の角度aに相当し、ワイヤ1の先端と放電トーチ2の先端とを結ぶ直線と、ワイヤ長手方向とのなす角度(以下、トーチ角度と記す)のことである。
【0095】
ボール接合部の偏芯を抑制するには、ボールがボンディングワイヤに対して傾いて形成される芯ずれ不良を低減することが必要である。芯ずれ不良を低減するには、ボンディングワイヤの長手方向に対するアーク放電の入射角が重要であり、それを支配するのがボンディングワイヤと放電トーチとの位置関係であることを見出した。トーチ角度aが60度を超えると、ボンディングワイヤの片側にのみ放電が生じること等で芯ずれが起きるためである。より好ましくは、この角度が40度以内であれば、接合部の偏芯の発生率をさらに低減することができる。さらに好ましくは、ボンディングワイヤの先端と放電トーチの先端との距離Lについて、0.5〜2.5mmの範囲であれば、芯ずれを改善するより高い効果が得られ、安定した量産性を確保することが容易となる。ここで、距離Lが0.5mm未満ではキャピラリが降下するときに放電トーチに接触する危険性があり、2.5mm超ではアーク放電が不安定となり、ボールサイズがばらつき易くなるためである。
【0096】
小ボール形成における偏芯不良を抑制するのに、ボンディングワイヤに対するアーク放電方向とガス吹付け方向の位置関係が、芯ずれの抑制に有効である。具体的には、ボンディング装置の上方からの投影面において、ワイヤ先端と放電トーチの先端とを結ぶ直線と、ワイヤ先端とシールド用ガス配管の先端を結ぶ直線とのなす角度(以下、ガス吹き付け角度と記す)が40〜150度の範囲であることが望ましい。装置上方からの投影面を図示した図2で説明すると、ワイヤ1が点で表示され、ワイヤ1と放電トーチ2の先端とを結ぶ直線と、ワイヤ1とシールド用ガス配管4の先端とを結ぶ直線とのなす角度bが、前述したガス吹き付け角度に相当する。シールド用ガス配管が2本以上の場合には、1本でも上記のガス吹き付け角度を満足すれば期待される効果が得られる。ガス吹き付け角度が40〜150度の範囲であれば、例えばワイヤ径に対するボール径の比率が1.5倍以下の小ボールを形成したときでも、芯ずれボールの発生を低減し、結果として接合部での偏芯を抑える効果がより高められる。上記角度が40度未満ではボールの表面酸化が問題となり、150度超では真球性が低下することが懸念される。好ましくは、60〜130度の範囲であれば、芯ずれ及び偏芯を抑制するより高い効果が得られる。
【0097】
さらにより好ましくは、銅を主成分とする芯材と、該芯材の上に芯材と成分の異なる導電性金属を主成分とする外皮層を有するボンディングワイヤを接続する方法であって、ボンディング装置の上方からの投影面において、ワイヤ先端と放電トーチの先端とを結ぶ直線と、ワイヤ先端とシールド用ガス配管の先端とを結ぶ直線とのなす角度(ガス吹き付け角度)が45〜150度の範囲であるワイヤボンディング方法であることが望ましい。こうした、ガス吹き付け角度の効果については、単層銅ワイヤよりも、偏芯発生頻度が多くなる複層銅ワイヤでは格段の作用効果が得られるためである。
【0098】
また、小ボール形成のサイズ安定性を改善するのに、不活性ガス又は還元性ガスを2方向以上又はリング状にワイヤ先端に吹き付けながら形成したボール部を接合することが望ましい。ガス吹付けが2方向以上であるか、ワイヤ先端を囲むようにリング状にガス噴出口を配置することで、放電の方向性を安定化させて、初期ボール径のばらつきを低減する効果が高められる。ワイヤ径に対するボール径の比率が1.5倍以下の小ボールの形成では、1方向からの吹き付けでは安定したボール形成が難しい場合もあるのに対して、2方向以上又はリング状の吹き付けでは、ボール径が安定化することが可能である。より好ましくは、2方向の吹付けの場合に吹付け方向の角度が40〜180度の範囲とすることで、小ボールのサイズ、真球性等を安定化するより高い効果が得られる。
【0099】
上述した偏芯を抑制する方策である、ボンディングワイヤと放電トーチとの位置関係、ガス吹付け方向等の改善効果は、いずれのガス種でも有効である。具体的には、窒素ガス、水素と窒素の混合ガス、Arガス、水素とArの混合等でも同様の効果が得られ、例えば、5%水素と窒素の混合ガスでも十分な効果があることを確認した。
【0100】
ボール形成における不活性ガス又は還元性ガスの雰囲気について、ガスをワイヤ先端近傍に0.00005〜0.005m3/minの流量を吹付けながら、ボンディングワイヤを溶融してボールを形成することが望ましい。ワイヤ先端が溶融されて凝固するまでの間に上記ガス雰囲気であることが必要であり、ワイヤ先端近傍に0.00005〜0.005m3/minの流量を吹付けることで、量産での安定した連続接合性が確保される。ここで、ガス流量が0.00005m3/min未満では周囲の大気が混じって連続ボール接合時に未接合等が発生することが問題であり、0.005m3/min以上の高速流量ではアーク切れ等によりボールが形成できなかったり、極端に小さいボール等が発生したりする場合があるためである。より好ましくは、流量が0.0001〜0.002m3/minの範囲であれば、通常の初期ボール径での連続接合性等の歩留まり向上に有効である。さらにより好ましくは、0.0001〜0.001m3/minの範囲であれば、ボール径のばらつきを低減することで、ボール接合部のサイズを安定化させる高い効果が得られる。
【0101】
ボール接合部の表面に気泡痕が発生したり、ボール内部に気泡が発生したりすることで、結果としてボール形状不良や接合強度の低下をもたらす。気泡、気泡痕の抑制が、複層銅ワイヤの接合信頼性の向上には有効である。複層銅ワイヤでは、従来の単層銅ワイヤと比べて、ボール形成時に気泡、気泡痕等の不良発生する頻度が大幅に上昇する。これは、芯材の主成分である銅と、外皮層の主成分である導電性金属とは、融点、融解熱、酸化性、及びぬれ性等で多くの特性が異なることから、複層銅ワイヤを溶融させたときにアーク放電の広がり、溶融状態、凝固挙動、及び両金属の合金化等に複雑に影響を及ぼすことで、単層銅ワイヤとはボール形成挙動が大きく異なっているため、気泡、気泡痕が発生すると考えられる。
【0102】
複層銅ワイヤのボール接合部の表面に10μm以上の気泡痕、又はボール接合部の内部に10μm以上の気泡が含まれない接合部である半導体素子であることが望ましい。これは、ボール接合部の表面の気泡痕が10μm以上であれば、ボール形状が悪化し、樹脂封止されたときに気泡痕で樹脂との密着性が低下するためである。また、ボール接合部の内部の気泡が10μm以上であれば、電極材料との接合強度を低下させ、IC動作時の長期信頼性を低下させる原因となるためである。好ましくは、気泡痕又は気泡のサイズを6μm以下に抑えられれば、それぞれの信頼性の向上効果が一層高められる。
【0103】
気泡痕の評価は、ボール接合部を光学顕微鏡(以下、光顕という)、SEM(走査型電子顕微鏡)等で観察することで確認でき、気泡の評価では、チップ又は電極表面に垂直方向又は水平方向にボール接合部を断面研磨して、その研磨断面を光顕、SEM等で観察することで確認できる。接合部を50個以上観察して、上述した気泡、気泡痕を判定することが好ましい。
【0104】
接合部の気泡及び気泡痕の発生を抑制するには、ボール形成時の雰囲気ガスの適正化が有効であることを見出した。即ち、水素を0.02〜20%の範囲で含有するArガスの雰囲気で、複層銅ワイヤの先端を溶融して形成したボール部を接合するワイヤボンディング方法であることが望ましい。
【0105】
水素を0.02〜20%の範囲で含有するArガスを用いることで、アーク放電を安定にして、ガスの悪影響も抑えることにより、ボールの真球性が良好で、ボール内部の気泡及びボール接合部表面の気泡痕の発生も抑えられ、単層銅ワイヤ及び金ワイヤと同等の良好なボール接合形状及び接合強度が得られる。水素は、アーク放電の安定化、酸化抑制等に有効に作用していると考えられる。単層銅ワイヤに多く使用される水素と窒素の混合ガス中でボールを形成すると、ボール内部の気泡、ボール接合表面の気泡痕が発生するため、ボール形状不良や接合強度の低下をもたらす。上記の水素とArガスの作用効果について、単層銅ワイヤでも効果はあるが、さらに複層銅ワイヤではより高い改善効果が得られる。水素濃度の範囲の理由は、0.02%未満であれば気泡、気泡痕の発生を低減する作用が十分でないためであり、20%を超えるとボール径のばらつき、ボール接合部の径のばらつき等の問題が起きるためである。より好ましくは、水素濃度が0.1〜10%の範囲であれば、初期ボールの内部に発生する気泡が小さくなり、ボール接合部の内部の気泡を微小化する効果が高められる。さらにより好ましくは、水素濃度が0.3〜5%の範囲であれば気泡、気泡痕の発生を抑える効果がさらに高まり、接合前の初期のボール部でも気泡、気泡痕の発生を低減させることができることが観察された。ボール形成用雰囲気ガスの選定にはワイヤ構造が深く関係しており、水素とArの混合ガスは単層銅ワイヤには必ずしも適さないのに対して、複層銅ワイヤには非常に有効である。
【0106】
こうした複層銅ワイヤの気泡、気泡痕の抑制には、水素とArの混合ガス最も有効であった。ガス流量について前述と同様の効果が得られることから、水素を0.02〜20%の範囲で含有するArガスをワイヤ先端近傍に0.00005〜0.005m3/minの流量を吹付けながらボンディングワイヤを溶融してボールを形成することが望ましい。ガス吹付け方向として、少なくとも1方向以上からガスを吹付けることが必要である。2方向以上からの吹き付け、またはリング状にガス噴出する方法であれば、シールド効果がより高まることで量産安定性が向上し、またコスト低減のためにガス流量を減少させることも可能である。ここで、上述したガス流量について、2方向以上から吹付ける場合にはトータルのガス流量に相当する。
【0107】
ボール接合部の表面近傍の気泡痕を抑制し、接合形状を安定化させるのに、Arと窒素の混合ガスが有効であることを確認した。即ち、Arを5〜50%の範囲で含有する窒素ガスの雰囲気で、銅ボンディングワイヤの先端を溶融して形成したボール部を接合するワイヤボンディング方法であることが望ましい。ボール溶融で溶解されたガス成分が凝固時に放出されないで取り残されることで気泡痕が発生するが、Arと窒素の混合ガスでは、その凝固時にガス放出を助長する効果があると考えられる。上記のArと窒素の混合ガスの作用効果について、単層銅ワイヤでも効果はあるが、さらに複層銅ワイヤではより高い改善効果が得られる。複層銅ワイヤで問題となるケースが多いボール接合部の楕円変形について、純Ar又は純窒素ではやや楕円変形する傾向が認められるのに対して、水素とArの混合ガスでは発生頻度は減少するもののまだ完全に抑えることは困難であるが、Arと窒素の混合ガスでは、楕円変形を抑制する高い効果が得られた。Ar濃度について、5%未満では改善効果が小さく、Ar50%を超えるとボールサイズが不安定になることが分かった。流量、吹付け方法についても、上述した条件で同様の効果が確認された。
【0108】
銅ボンディングワイヤの先端と放電トーチの先端とのなす角度がワイヤ長手方向から60度以内であり、且つ、水素を0.02〜20%の範囲で含有するArガスの雰囲気で、該放電トーチとワイヤ先端との間でアーク放電を形成してボール部を形成するワイヤボンディング方法であれば、芯ずれの抑制と気泡の抑制を同時に満足する高い効果が得られる。これは、ガスとボンディングワイヤの組合せを精査することで、水素とArの混合ガスは複層銅ワイヤの初期ボールの芯ずれ、接合部の偏芯の不良を誘発する作用に対しても、トーチ角度を上記範囲に調整すれば、芯ずれは抑制することが可能であることを見出した。
【0109】
より好ましくは、銅を主成分とする芯材と、前記芯材の上に芯材と成分の異なる導電性金属を主成分とする外皮層を有するボンディングワイヤを接続する方法であって、ボンディングワイヤの先端と放電トーチの先端とのなす角度がワイヤ長手方向から60度以内であり、水素を0.02〜20%の範囲で含有するArガスの雰囲気でボンディングワイヤの先端を溶融して形成したボール部を接合するワイヤボンディング方法であることが望ましい。こうした、トーチ角度の効果については、単層銅ワイヤよりも、複層銅ワイヤでは格段の作用効果が得られるためである。単層銅ワイヤでは、元来の芯ずれの発生頻度が比較的少なく、放電電流・時間等により調整可能であるためでもある。複層銅ワイヤでは、表皮層の膜厚、組成等がワイヤ断面内で必ずしも均等でないため、それが芯ずれを増進する原因となる。こうした不均一な表皮層を有する場合でも、トーチ角度を上記範囲に調整することで、ワイヤ溶融、ボール形成を安定化する高い効果が得られる。さらに、水素とArの混合ガスを用いて、複層銅ワイヤでボール形成した場合に、トーチ角度の改善効果が著しく増幅される。
【0110】
銅ボンディングワイヤの先端と放電トーチの先端とのなす角度がワイヤ長手方向から60度以内であり、且つ、Arを5〜50%の範囲で含有するN2ガスの雰囲気で、該放電トーチとワイヤ先端の間でアーク放電を形成してボール部を形成するワイヤボンディング方法であれば、芯ずれの抑制と接合部表面の気泡痕の抑制を同時に満足する高い効果が得られる。
【0111】
銅ボンディングワイヤの先端と放電トーチの先端とのなす角度がワイヤ長手方向から60度以内であり、且つ、水素を0.02〜20%の範囲で含有する窒素ガスの雰囲気で、前記放電トーチとワイヤ先端との間でアーク放電を形成してボール部を形成するワイヤボンディング方法であれば、芯ずれの抑制に加えて、ボール接合部のサイズ、真円度の安定化を同時に満足する高い効果が得られる。
【実施例】
【0112】
以下、実施例について説明する。
【0113】
ボンディングワイヤの原材料として、銅は純度が約99.99質量%以上の高純度の素材を用い、外皮層用のPt、Pd、Au、Rhの素材には、純度99.99質量%以上の原料を用意した。単層銅ワイヤでは、所定の合金元素を添加して溶解してインゴットを作製した。複層銅ワイヤの作製では、ある線径まで細くした高純度銅ワイヤを芯材として予め準備して、そのワイヤ表面に異なる金属の外皮層を形成するために、電解メッキ法、無電解メッキ法、蒸着法、溶融法等を行った。濃度勾配を形成する場合は、熱処理を施した。最終の線径で外皮層を形成する場合と、ある線径で外皮層を形成してからさらに伸線加工により最終線径まで細くする方法を利用した。電解メッキ液、無電解メッキ液は、半導体用途で市販されているメッキ液を使用し、蒸着はスパッタ法を用いた。直径が約50〜200μmのワイヤを予め準備し、そのワイヤ表面に蒸着、メッキ等により被覆し、最終径の15〜75μmまで伸線して、最後に加工歪みを取り除き伸び値が4%程度になるように熱処理を施した。必要に応じて、線径30〜100μmまでダイス伸線した後に、拡散熱処理を施してから、さらに伸線加工を施した。
【0114】
溶融法を利用する場合には、予め作製した芯線の周囲に、溶融した金属を鋳込む方法と、予め作製した中空円柱の中央部に溶融した銅又は銅合金を鋳込む方法を採用した。その後、鍛造、ロール圧延、ダイス伸線等の加工と、熱処理を行い、ボンディングワイヤを製造した。
【0115】
本発明例のワイヤの熱処理について、ワイヤを連続的に掃引しながら加熱した。局所的に温度傾斜を導入する方式、温度を炉内で変化させる方式等を利用した。この温度差は30〜200℃の範囲とし、温度分布、ワイヤ掃引速度等を適正化して、引張伸びが4%前後になるように調整した。熱処理の雰囲気では、大気の他に、酸化を抑制する目的でN2、Ar等の不活性ガスも利用した。比較例の熱処理工程について、伸線後のCuワイヤに熱処理を施してからメッキ層を形成した場合と、熱処理を伸線後と、メッキ層の形成後で2回施した場合で、試料を準備した。
【0116】
複層銅ワイヤの表面の膜厚測定にはAESによる、表面分析、深さ分析を行った。ワイヤ中の導電性金属濃度は、ICP分析、ICP質量分析等により測定した。
【0117】
ボンディングワイヤの接続には、市販の自動ワイヤボンダー(ASM製Eagle60-AP型)を使用して、ボール/ウェッジ接合を行った。アーク放電によりワイヤ先端にボールを作製し、それをシリコン基板上の電極膜に接合し、ワイヤ他端をリード端子上にウェッジ接合した。ボール溶融時の酸化を抑制するために、ワイヤ先端に所定の雰囲気ガスを吹き付けながら、放電させた。ボンディングワイヤの先端と放電トーチの先端との角度及び距離は、前述した範囲で適正化した。その距離は1〜1.5mmの範囲になるように調整することで、アーク放電を安定化させ、上記角度、シールドガスパイプ取り付けの調整を容易にした。
【0118】
接合相手としては、シリコン基板上の電極膜の材料である、厚さ1μmのAl合金膜(Al-1%Si-0.5%Cu膜、Al-0.5%Cu膜)を使用した。一方、ウェッジ接合の相手には、表面にAgメッキ(厚さ:1〜4μm)したリードフレーム、又はAuメッキ/Niメッキ/Cuの電極の樹脂基板を使用した。
【0119】
初期ボール形状の評価では、ボール径/ワイヤ径の比率が、1.8〜2.5倍の範囲の小径ボールを20本採取し、光顕又はSEMで観察して、真球性、芯ずれ、ボール表面の3点を評価した。真球性の評価では、異常形状のボール発生が4本以上であれば不良であるため×印、異形が1〜3本で、ボンディングワイヤに対するボール位置の芯ずれが顕著である個数が3個以上である場合には△印、芯ずれが1〜3個であれば実用上の大きな問題はないと判断して○印、芯ずれ、異形の合計が1個以下である場合は、ボール形成は良好であるため◎印で表記した。
【0120】
ボール表面の評価では、20本のボール部をSEM観察して、表面に10μm以上の粗大な凹凸、異物付着等があるボール数が5本以上であれば不良であるため×印、粗大な凹凸が1〜4本で、且つ5μm以下の気泡等の微小な凹凸が5個以上の場合には△印、粗大な凹凸はないが、微小な凹凸が2〜4個の範囲では実用上は問題ないと判断して○印、微小な凹凸が1個以下である場合は、ボール表面は良好であるため◎印で表記した。
【0121】
初期ボール部の気泡を観察するため、10個のボールの断面研磨を行い、ワイヤ方向に平行でボール中心部を通る断面で、10μm以上の気泡が2個以上であれば×印、10μm以上の気泡が1個以下、6μm以上の気泡が5個以上であれば△印、6μm以上の気泡が2〜4個であれば○印、6μm以上の気泡が1個以下であれば◎印で表記した。
【0122】
ボール接合部の接合形状の判定では、接合されたボールを500本観察して、不良形態により偏芯、楕円状変形、花弁状変形に区別して、それぞれ評価した。接合ボール径/ワイヤ径の比率が、2.3以上3.5倍の範囲の通常ボール径の場合の評価に加え、偏芯の評価に限り1.6〜2.3倍の範囲の小径ボールの場合でも評価した。偏芯の評価では、顕著な偏芯が10本以上であれば不良と判定して×印、顕著な偏芯が3〜9本の範囲であれば、必要に応じて改善が望ましいから△印、顕著な偏芯が2本以下で、軽微な偏芯が4〜10本の範囲であれば実用上は問題ないと判断して○印、軽微な偏芯が3本以下であれば良好であるため◎印で表記した。楕円状変形、花弁状変形についても、同様の発生頻度で不良判定を行った。
【0123】
ボール接合部のサイズ安定性の評価では、100個のボール接合部のサイズを超音波に平行方向と超音波方向で測定した。接合ボール径/ワイヤ径の比率が、2.3以上3.5倍の範囲の通常ボール径の場合と、1.6〜2.3倍の範囲の小径ボールの場合の2水準で評価した。
ボール径の偏差が3μm以上であればバラツキが問題であり×印、偏差が1μm以上3μm未満の範囲でしかも極端なサイズ異常が3本以上の場合には必要に応じて改善が望ましいから△印、偏差が0.5μm以上1μm未満であれば実用上は問題ないと判断して○印、偏差が0.5μm未満であればサイズは非常に安定しているため◎印で表記した。
【0124】
ボール接合部の表面における気泡痕の評価では、400個のボール接合部を光顕で観察して、10μm以上の気泡痕が4個以上であれば×印、10μm以上の気泡痕が3個以下で6μm以上の気泡痕が10個以上であれば△印、10μm以上の気泡痕はなく且つ6μm以上の気泡痕が3〜9個であれば実用上は問題ないと判断して○印、10μm以上の気泡痕はなく且つ6μm以上の気泡痕が2個以下であれば良好であるため◎印で表記した。
【0125】
ボール接合部の内部における気泡の評価では、40個のボール接合部でチップ表面と垂直方向に断面研磨を行い、10μm以上の気泡が4個以上であれば×印、10μm以上の気泡が3個以下で6μm以上の気泡が10個以上であれば△印、10μm以上の気泡はなく且つ6μm以上の気泡が3〜9個であれば実用上は問題ないと判断して○印、10μm以上の気泡はなく且つ6μm以上の気泡が2個以下であれば良好であるため◎印で表記した。
【0126】
ボール接合部の連続ボンディング性の評価では、1000本のワイヤ接続を行い、ボール接合部の剥離回数で評価した。加速評価のため、荷重、超音波振動を量産条件よりも若干低く設定した。ワイヤ径に対する接合ボール径の比率が小さくなるほど連続ボンディングが困難となるため、接合ボール径/ワイヤ径の比率が、2.3以上3.5倍の範囲の通常ボール径の場合と、1.6〜2.3倍の範囲の小径ボールの場合の2水準で評価した。ボール径の各水準において、剥離数が6回以上であれば、接合が不十分であるため×印、3〜5回であれば△印で表記し、1〜2回であれば接合条件の適正化により実用性があると判断して○印、剥離がゼロであれば十分な接合強度であることから◎印で表記した。
【0127】
チップへの損傷の評価では、ボール部を電極膜上に接合した後、電極膜をエッチング除去して、絶縁膜又はシリコンチップへの損傷をSEMで観察した。電極数は400箇所を観察した。損傷が認められない場合は◎印、5μm以下のクラックが2個以下の場合は問題ないレベルと判断して○印、5μm以上20μm未満のクラックが2個以上の場合は懸念されるレベルと判断して△印、20μm以上のクラック又はクレータ破壊等が1個以上の場合は懸念されるレベルと判断して×印で記載する。
【0128】
ウェッジ接合の評価用に、合計1000本のボンディングワイヤを175℃の低温接合を行った試料を用いた。評価基準として、ウェッジ接合部での不良により連続ボンディング動作が2回以上中断した場合にはウェッジ接合性が悪いため×印で示し、ボンディング中断が1回以下で光顕観察により剥離等の不良現象が5本以上の場合にはウェッジ接合性が不十分であるため△印、連続ボンディングは可能でも剥離が1本認められた場合には、接合条件の変更で対応できるため○印、連続ボンディングで不良が認められない場合には、ウェッジ接合性は良好であると判断し◎印で示した。
【0129】
ボール接合強度の評価には、150℃の低温で接合した試料を用いた。20本のボール接合部のシェア試験を行い、そのシェア強度の平均値を測定し、ボール接合部の面積の平均値を用いて計算した、単位面積当たりのシェア強度を用いた。単位面積当たりのシェア強度が、70MPa未満であれば接合強度が不十分であるため×印、70以上90MPa未満の範囲であれば若干の接合条件の変更で改善できるため△印、90以上110MPa未満の範囲であれば実用上は問題ないと判断して○印、110MPa以上の範囲であれば良好であるため◎印で表記した。
【0130】
ボンディング工程でのループ形状安定性について、ワイヤ長が2mmの汎用スパンと4mmの長スパンの2種類で、台形ループを作製し、それぞれ400本のボンディングワイヤを投影機により観察し、ボンディングワイヤの直線性、ループ高さのバラツキ等を判定した。ワイヤ長4mmで台形ループの形成では、高さのバラツキを低減するには、より厳しいループ制御が必要となる。ワイヤ長2mmで、直線性、ループ高さ等に不良が5本以上ある場合は、問題有りと判断して×印で表し、ワイヤ長2mmで不良が2〜4本で、且つ、ワイヤ長4mmで不良が5本以上の場合には、改善が必要と判断して△印で表し、ワイヤ長2mmで不良が1本以下、且つ、ワイヤ長4mmで不良が2〜4本の場合には、ループ形状は比較的良好であるため○印で示し、ワイヤ長4mmで不良が1本以下の場合にはループ形状は安定であると判断し◎印で表した。不良原因の一つに、芯線と外皮層の界面の密着性が十分でないこと、断面での特性バラツキ等が想定される。
【0131】
キャピラリ寿命の評価では、ボンディングワイヤを5万本接続した後、キャピラリ先端の汚れ、磨耗等の変化で判定した。表面が清浄であれば○印、不着物等が少しある場合には通常の操業には問題ないため△印、不着物の量や大きさが顕著である場合には×印で表記した。
【0132】
加熱後の接合信頼性について、ボンディング後に樹脂封止された試料を、150℃と175℃と185℃で1500hr加熱した後に、40本のボンディングワイヤの電気特性を評価した。150℃、175℃、185℃の加熱は、それぞれ汎用IC向け、車載IC用途で行なわれる加熱条件を想定した。電気抵抗が初期の3倍以上に上昇したボンディングワイヤの割合が30%以上の場合には接合不良のため×印、電気抵抗が3倍以上に上昇したボンディングワイヤの割合が5%以上30%未満の範囲の場合には信頼性要求が厳しくないICには使用可能なため△印、電気抵抗が3倍以上に上昇したボンディングワイヤの割合が5%未満で且つ1.5倍以上に上昇したボンディングワイヤの割合が10%以上30%未満の場合には実用上は問題ないため○印、電気抵抗が1.5倍以上に上昇したボンディングワイヤの割合が10%未満であれば良好であるため◎印で表記した。
【0133】
PCT試験(プレッシャークッカーテスト)では、121℃、2気圧、湿度100%の高温高湿環境で200時間または500時間加熱した。その後に、40本のボンディングワイヤの電気特性を評価した。電気抵抗が初期の3倍以上に上昇したボンディングワイヤの割合が30%以上の場合には接合不良のため×印、電気抵抗が3倍以上に上昇したボンディングワイヤの割合が5%以上30%未満の範囲の場合には信頼性要求が厳しくないICには使用可能なため△印、電気抵抗が3倍以上に上昇したボンディングワイヤの割合が5%未満で且つ1.5倍以上に上昇したボンディングワイヤの割合が10%以上30%未満の場合には実用上は問題ないため○印、電気抵抗が1.5倍以上に上昇したボンディングワイヤの割合が10%未満であれば良好であるため◎印で表記した。
【0134】
ボンディングワイヤのボール接合部の表面分析及び接合界面の濃度分析には、主にEPMA、EDX、オージェ分光分析による点分析、線分析等を行った。直径0.1μm以上の領域で分析を行い、最高濃度、又は平均濃度等を利用した。実際の半導体の製造、使用等では、ボール接合した後の工程、履歴等は多種であることから、工程、熱履歴の異なる幾つかの試料で分析を実施した。例えば、ボール接合の直後、樹脂封止及びキュア加熱後、加熱試験など信頼性評価後等の試料を用いた。また、加速加熱処理をしてから界面濃化層を観察する場合には、半導体素子を175℃で200h加熱した後に、上記の解析手法により調査した。
【0135】
表1〜6には、本発明に係わる銅ボンディングワイヤを接続した半導体素子の評価結果と比較例を表記している。表1及び2は単層銅ワイヤについて、表3及び4は複層銅ワイヤについて分けて示した。表5及び6には、ボール接合部の界面近傍を精査し、拡散層または金属間化合物に形成される濃化層を区別して示しており、なかでも表6は半導体素子を半導体素子を175℃で200h加熱した後のボール接合部を用いて、拡散層または金属間化合物の形成について調査した。
【0136】
第2請求項又は第3請求項に係わるボンディングワイヤは実施例A1〜A13、B1〜B22であり、第4請求項又は第5請求項に係わるボンディングワイヤは実施例A2〜A13、B1〜B22、第7請求項に係わるボンディングワイヤは実施例B1〜B22、第8請求項に係わるボンディングワイヤは実施例B1〜B8、B10〜B22、第9請求項に係わるボンディングワイヤは実施例B1〜B9、B11〜B22、第10請求項に係わるボンディングワイヤは実施例B2〜B22、第11請求項又は第12請求項に係わるボンディングワイヤは実施例A1〜A13、B1〜B12、B15〜B22、第14請求項に係わるボンディングワイヤは実施例A1〜A3、A5〜A9、A11〜A13、B1〜B5、B7〜B10、B12〜B18、B20〜22、第15請求項に係わるボンディングワイヤは実施例A1〜A3、A6、A8、A9、A11、A13、B2〜B5、B7〜B9、B11、B13、B15〜B17、B19〜B21、第16請求項に係わるボンディングワイヤは実施例A2、A4、A8、A10、A13、B1、B2、B4、B6〜B12、B17、B19、B20、B22、第17請求項に係わるボンディングワイヤは実施例A3、A9、A11、B5、B16、B18、B21、第18請求項に係わるボンディングワイヤは実施例A2、A8、A13、B1、B2、B4、B7〜B10、B12、B17、B20、B22、第19請求項に係わるボンディングワイヤは実施例A3、A9、A11、B5、B16、B18、B21、第20請求項に係わるボンディングワイヤは実施例A1〜A4、A6〜A13、B1〜B22、第21、22請求項に係わるボンディングワイヤは実施例C1〜C9、第23請求項に係わるボンディングワイヤは実施例C11〜C19に相当する。
【0137】
【表1】

【0138】
【表2】

【0139】
【表3】

【0140】
【表4】

【0141】
【表5】

【0142】
【表6】

【0143】
それぞれの請求項の代表例について、評価結果の一部を説明する。
【0144】
実施例A1〜A13、B1〜B22では、本発明に係わる、ボール接合部の電極との界面近傍に導電性金属の界面濃化層が形成され、その濃化層内の濃度が0.05〜20mol%の範囲であることにより、高温加熱されても十分な接合信頼性が確保されていた。ここでの接合界面近傍の濃化層の厚さは、0.05μm以上であった。より好ましくは、実施例A1〜A3、A5、A6、A8〜A13、B2〜B12、B15〜B21では、濃化層内の濃度が0.2〜10mol%の範囲であり、且つ10μm以上の気泡が認められないことから、150℃加熱後の接合信頼性が向上した。また、界面濃化層の厚さが0.5μm以上で、且つ10μm以上の気泡が認められない接合部である場合である実施例A2、A9、A10、A12、B2〜B6、B11、B12、B16〜B18、B20〜B22では、175℃のより厳しい高温環境でも接合信頼性を向上することができた。比較例X1〜X5、Y1〜Y4では、界面濃化層が形成されていないか、又は濃化層はあっても濃化層の濃度が0.05mol%未満である場合であるため、高温加熱の接合信頼性は大きく低下していた。
【0145】
実施例A2〜A13、B1〜B22では、本発明に係わる、ボール接合部の表面に導電性金属の濃化が形成された接合部であることにより、PCT試験により高温高湿環境での高い信頼性が確認された。より好ましくは、濃化層内の濃度が0.2〜4mol%の範囲である実施例A3、A5〜A13、B3〜B5、B7〜B12、B14〜B22では、花弁変形を低減する効果が高められた。比較例X1〜X5、Y1〜Y4では、表面濃化層が形成されていないか、又は濃化層はあっても濃化層の濃度が0.05mol%未満である場合であるため、PCT試験での接合信頼性は大きく低下していた。
【0146】
実施例B1〜B22では、本発明に係わる、銅を主成分とする芯材と銅以外の導電性金属を主体とする外皮層により構成された複層銅ワイヤを用いることで、実施例A1〜A13である単層銅ワイヤと比較して、高いウェッジ接合性が得られた。さらに、実施例B1〜B6、B10〜B18、B20〜B22では、外皮層を構成する導電性金属がPdである複層銅ワイヤを用いることで、150℃の低温接続でウェッジ接合性を向上させる高い効果が得られた。
【0147】
実施例B2〜B22では、本発明に係わる、芯材と外皮層の間に濃度勾配を有する拡散層を含有する複層銅ワイヤを用いることにより、ループ制御性とウェッジ接合性を同時に高める効果が得られた。
【0148】
実施例B1〜B9、B11〜B22では、本発明に係わる、外皮層の厚さが0.002〜0.8μmの範囲である複層銅ワイヤを用いることにより、ウェッジ接合性を向上させる効果が確認された。より好ましくは、外皮層の厚さが0.01〜0.5μmの範囲である実施例B3〜B5、B7〜B9、B11〜B17、B19〜B22では、キャピラリの汚れ等を減らして使用寿命を長くする効果が高められた。さらに、外皮層の厚さが0.2μm未満である実施例B1〜B4、B7、B9〜B15、B17、B20〜B22では、チップ損傷を低減する効果も確認された。
【0149】
実施例B1〜B11、B13〜B21では、本発明に係わる、外皮層における銅以外の導電性金属の表面濃度が30mol%以上である複層銅ワイヤを用いることにより、初期ボールの形状で良好な真球性が得られた。より好ましくは、実施例B1、B3〜B6、B8、B9、B11、B14〜B17、B20では、上記の表面濃度が60mol%以上である複層銅ワイヤを用いることにより、初期ボールの表面における性状、平滑性が良好であることが確認された。
【0150】
実施例A1〜A4、A6〜A13、B1〜B22では、本発明に係わる、アーク放電時のガス形成では、ワイヤ先端近傍に0.00005〜0.005m3/minの流量を吹付けながらボンディングワイヤを溶融してボールを形成したボール部を接合することにより、通常ボール径での安定した連続接合性が確認された。ガス流が該範囲から外れている比較例X2、X3では、連続動作中に装置が停止する不具合が発生した。より好ましくは、上記流量が0.0001〜0.002m3/minの範囲である実施例A1〜A4、A7〜A13、B1〜B8、B10、B11、B13〜B16、B18〜B21では、小径のボール接合部における連続ボンディング性を向上する効果が得られ、さらにより好ましくは、上記流量が0.0001〜0.001m3/minの範囲である実施例A2〜A4、A7〜A13、B1、B4〜B8、B10、B13〜B16、B18、B20、B21、B24〜B26では、ボール接合部のサイズが安定化することが確認された。
【0151】
さらに、実施例A1〜A3、A6、A8、A9、A11、A13、B4、B5、B7、B8、B13、B15、B16、B19〜B21では、本発明に係わる、ボール形成時のガス吹付けが2方向以上又はリング状であるボンディング方法であり、且つ上記流量が0.0001〜0.001m3/minの範囲であることにより、小径ボールでのボール接合部のサイズが安定化させる高い効果が確認された。
【0152】
実施例A1〜A3、A5〜A9、A11〜A13、B1〜B5、B7〜B10、B12〜B18、B20〜22では、本発明に係わる、ボンディングワイヤの長手方向と放電トーチの先端との角度(トーチ角度)が60度以内であるボンディング方法であることにより、比較的大きなボール径での偏芯の不良を低減する高い効果が得られた。また、実施例A1、A2、A4〜A7、A9、A11〜A13、B1〜B4、B6〜B11、B13〜B17、B19〜B22では、本発明に係わる、ガス吹き付け角度が40〜150度の範囲であることにより、小径ボールでの偏芯不良を低減するより高い効果が確認された。ここで、シールド用ガス配管が2本以上の場合には、少なくとも1本が上記の角度であることにより効果が得られることを確認した。
【0153】
実施例A1〜A13、B1〜B12、B15〜B22では、本発明に係わる、接合部の内部に10μm以上の気泡及びボール接合部の表面に10μm以上の気泡痕が含まれない接合部であることにより、電極材料との接合強度、IC動作時の長期信頼性等を総合的に向上していた。これに対して、気泡痕及び気泡が形成されていた実施例B13、B14では、高温加熱試験、PCT試験等の長期信頼性がやや低下する傾向であった。
【0154】
実施例A2、A4、A8、A10、A13、B1、B2、B4、B6〜B12、B17、B19、B20、B22では、本発明に係わる、水素を0.02〜20%の範囲で含有するArガスの雰囲気で該ボンディングワイヤの先端を溶融して形成したボール部を接合することにより、初期ボール部での気泡の発生を抑制し、ボール接合性が向上される。それに対して雰囲気ガスが、水素とArの混合ガス以外で形成された初期ボールである実施例A1、A3、A5〜A7、A9、A11、A12、B3、B5、B13〜B16、B18、B21では、ボール内部又はボール接合部における気泡が一部発生していることを確認した。好ましくは、上記水素濃度が0.1〜10%の範囲である、実施例A2、A4、A8、A13、B1、B2、B4、B6〜B10、B17、B19、B20、B22では、ボール接合部の内部の気泡を微小化する効果が高く、比較として水素濃度が0.03%であるB11では改善効果が小さかった。
【0155】
実施例A3、A9、A11、B5、B16、B18、B21では、本発明に係わる、Arと窒素の混合ガスを吹き付けながらボンディングすることにより、楕円変形の不良を抑制する効果が得られた。
【0156】
実施例A2、A8、A13、B1、B2、B4、B7〜B10、B12、B17、B20、B22では、本発明に係わる、トーチ角度がワイヤ長手方向から60度以内であり、且つ、水素を0.02〜20%の範囲で含有するArガスの雰囲気でボール部を形成することにより、芯ずれの抑制と気泡の抑制を同時に満足することができた。より好ましくは、上記のトーチ角度及びガスの条件を満足し、且つ複層銅ワイヤである実施例B1、B2、B4、B7〜B10、B12、B17、B20、B22では、芯ずれの抑制と気泡の抑制を同時に満足させるより高い効果が得られた。比較としてトーチ角度が60度超である実施例B6、B11、B19では偏芯が確認された。
【0157】
実施例C1〜C10では、本発明に係わる、請求項1および4に相当することで、それぞれの作用効果を満足している。なかでも実施例C2〜C9では、ボール接合部の界面に形成された界面濃化層の少なくとも一部が、電極の主成分と銅とを主成分とする拡散層または金属間化合物の少なくともどちらかの内部に形成されていることにより、高温での接合信頼性が向上することを確認できた。その内訳を分類すると、実施例C1〜C6では、濃化金属がPdであり、且つ、界面濃化層が前述した拡散層または金属間化合物の内部に形成されているため、185℃の超高温での接合信頼性を向上する高い効果が確認された。実施例C7〜C9では、濃化金属はPdでないため接合信頼性を向上させるのが難しい175℃の高温での信頼性において、界面濃化層が前述した拡散層または金属間化合物の内部に形成されているため、接合信頼性が向上していることを確認した。比較として、実施例C10では、界面濃化層が拡散層および金属間化合物の内部には形成されていないため、185℃の超高温での接合信頼性は必ずしも十分ではなかった。また、実施例C2〜C6、C8、C9では、界面濃化層の少なくとも一部が金属間化合物の内部に形成されていることにより、PCT試験では500時間の長時間まで不良発生がなく、良好な高温高湿特性が確認された。
【0158】
実施例C11〜C19では、半導体素子を175℃で200h加熱した後に接合部を解析したもので、ボール接合部の界面に形成された界面濃化層の少なくとも一部が、電極の主成分と銅とを主成分とする拡散層または金属間化合物の少なくともどちらかの内部に形成されていることにより、高温での接合信頼性が向上することを確認できた。その内訳を分類すると、実施例C11〜C16では、濃化金属がPdであり、且つ、界面濃化層が前述した拡散層または金属間化合物の内部に形成されているため、185℃の超高温での接合信頼性を向上する高い効果が確認された。実施例C17〜C19では、濃化金属はPdでないため接合信頼性を向上させるのが難しい175℃の高温での信頼性において、界面濃化層が前述した拡散層または金属間化合物の内部に形成されているため、接合信頼性が向上していることを確認した。比較として、実施例C20では、175℃で200h加熱されたボール接合部において界面濃化層が拡散層および金属間化合物の内部には形成されていないため、185℃の超高温での接合信頼性は必ずしも十分ではなかった。また、実施例C12〜C16、C18、C19では、界面濃化層の少なくとも一部が金属間化合物の内部に形成されていることにより、PCT試験では500時間の長時間まで不良発生がなく、良好な高温高湿特性が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボール接合部を介して半導体素子の電極に接続されるボンディングワイヤの接合構造であって、前記ボンディングワイヤは銅を主成分とし、前記ボール接合部に銅以外の導電性金属の濃度が高い濃化層が形成されたことを特徴とするボンディングワイヤの接合構造。
【請求項2】
前記濃化層は、前記ボール接合部の界面近傍に形成されたことを特徴とする請求項1記載のボンディングワイヤの接合構造。
【請求項3】
前記濃化層は、前記導電性金属の濃度が0.05〜20mol%である領域の厚さが0.1μm以上であることを特徴とする請求項2記載のボンディングワイヤの接合構造。
【請求項4】
前記濃化層は、前記ボール接合部の表面に形成されたことを特徴とする請求項1記載のボンディングワイヤの接合構造。
【請求項5】
前記導電性金属の濃度が0.05〜10mol%である領域の厚さが0.1μm以上であることを特徴とする請求項4記載のボンディングワイヤの接合構造。
【請求項6】
前記濃化層における前記導電性金属の濃度は、前記濃化層以外の前記ボール接合部における前記導電性金属の平均濃度の5倍以上であることを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか1項記載のボンディングワイヤの接合構造。
【請求項7】
前記ボンディングワイヤは、銅を主成分とする芯材と、前記導電性金属を主成分とし前記芯材を被覆する外皮層とからなることを特徴とする請求項1〜6のうちいずれか1項記載のボンディングワイヤの接合構造。
【請求項8】
前記導電性金属は、パラジウム又は白金であることを特徴とする請求項1〜7のうちいずれか1項記載のボンディングワイヤの接合構造。
【請求項9】
前記外皮層の厚さが0.002〜0.8μmであることを特徴とする請求項7又は8記載のボンディングワイヤの接合構造。
【請求項10】
前記芯材と前記外皮層との間に、銅と前記導電性金属が濃度勾配を有する拡散層を有することを特徴とする請求項7〜9のうちいずれか1項記載のボンディングワイヤの接合構造。
【請求項11】
前記ボール接合部の内部に、直径10μm以上の気泡が含まれていないことを特徴とする請求項1〜10のうちいずれか1項記載のボンディングワイヤの接合構造。
【請求項12】
前記ボール接合部の表面に、直径10μm以上の気泡痕が含まれていないことを特徴とする請求項1〜11のうちいずれか1項記載のボンディングワイヤの接合構造。
【請求項13】
請求項1〜12のうちいずれか1項記載のボンディングワイヤの接合構造の形成方法であって、ボンディングワイヤと放電トーチとの間でアーク放電を形成することで、前記ボンディングワイヤの先端を溶融して前記ボール接合部を形成することを特徴とするボンディングワイヤの接合構造の形成方法。
【請求項14】
前記ボンディングワイヤの長手方向に対する前記ボンディングワイヤの先端と前記放電トーチの先端とを結んだ線のなす角度を60度以内に保ちながら前記ボール接合部を形成することを特徴とする請求項13記載のボンディングワイヤの接合構造の形成方法。
【請求項15】
前記ボンディングワイヤの先端近傍に、不活性ガス又は還元性ガスを2方向以上から、或いはリング状に吹き付けながら前記ボール接合部を形成することを特徴とする請求項13記載のボンディングワイヤの接合構造の形成方法。
【請求項16】
水素を0.02〜20%含有するアルゴンの雰囲気下で前記ボール接合部を形成することを特徴とする請求項13記載のボンディングワイヤの接合構造の形成方法。
【請求項17】
アルゴンを5〜50%含有する窒素の雰囲気下で前記ボール接合部を形成することを特徴とする請求項13記載のボンディングワイヤの接合構造の形成方法。
【請求項18】
水素を0.02〜20%含有するアルゴンの雰囲気下で前記ボール接合部を形成することを特徴とする請求項14記載のボンディングワイヤの接合構造の形成方法。
【請求項19】
アルゴンを5〜50%含有する窒素の雰囲気下で前記ボール接合部を形成することを特徴とする請求項14記載のボンディングワイヤの接合構造の形成方法。
【請求項20】
前記ボンディングワイヤの先端近傍に、不活性ガス又は還元性ガスを0.00005〜0.005m/分の流量で吹き付けながら前記ボール接合部を形成することを特徴とする請求項13〜19のうちいずれか1項記載のボンディングワイヤの接合構造の形成方法。
【請求項21】
前記ボール接合部の界面に形成された前記濃化層の少なくとも一部が、前記電極の主成分と銅とを主成分とする前記拡散層または前記金属間化合物のうち少なくともどちらかの内部に形成されていることを特徴とする請求項2記載のボンディングワイヤの接合構造。
【請求項22】
前記濃化層の少なくとも一部が前記拡散層または前記金属間化合物のうち少なくともどちらかの内部に形成され、前記導電性金属の濃度が0.5〜30mol%である領域の厚さが0.01μm以上であることを特徴とする請求項21記載のボンディングワイヤの接合構造。
【請求項23】
前記濃化層は、前記ボール接合部を175℃で200時間加熱した後に前記ボール接合部の界面に形成され、前記導電性金属の濃度が1mol%以上である領域の厚さとして0.2μm以上であることを特徴とする請求項2記載のボンディングワイヤの接合構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−146754(P2011−146754A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103829(P2011−103829)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【分割の表示】特願2008−554026(P2008−554026)の分割
【原出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(306032316)新日鉄マテリアルズ株式会社 (196)
【出願人】(595179228)株式会社日鉄マイクロメタル (38)
【Fターム(参考)】