説明

ボンド磁石の製造方法および当該製造方法に使用する射出成形用金型

【課題】冷熱衝撃による割れを生じない、十分な強度のボンド磁石を得る。
【解決手段】円環状のキャビティ1内へ周方向の複数位置に設けたゲート2から薄細片状の磁性粉を含む溶融樹脂材4を射出してリング状ボンド磁石を製造する方法において、各ゲート2から射出される溶融樹脂材4を、キャビティ1の同一周方向へ向けて射出するようにする。上記ゲート2はキャビティ1の周方向と直交する方向から20度〜45度の範囲で傾斜させてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボンド磁石の製造方法および当該製造方法に使用する射出成形用金型に関し、特に、希土類系磁性粉を使用したリング状ボンド磁石における強度向上を図ったボンド磁石の製造方法および当該製造方法に使用する射出成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
Nd−Fe−B系やSm−Fe−N系の希土類系磁性粉を使用したボンド磁石はフェライト系磁性粉を使用したボンド磁石に比べて格段に優れた磁気特性を有することから注目されているが、上記希土類系磁性粉は純鉄を含むために酸化して磁気性能の低下を生じ易い。このため磁性粉を微粒にまで粉砕することなく、粗大な薄細片(フレーク)の状態で使用することが多い。なお、フレーク状磁性粉は、原料成分をルツボで溶融して、これを回転する冷却ロール上へオリフィスより滴下させてフィルム状とし、当該フィルムを熱処理後、粉砕して得ることができる。フレーク状磁性粉の一例は、厚みが30μm、平均粒径D50が60μmのものである。ここで、平均粒径D50はレーザ式粒度分布測定法による50%メディアン径である。なお、特許文献1にはリング状ボンド磁石を射出成形するための金型が開示されている。
【特許文献1】特開2001−162652
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、自動車用の電装品等に使用するリング状のボンド磁石は、フレーク状磁性粉をPPS等の熱可塑性樹脂材と混合し混練して、寸法精度の良い射出成形によって製造されているが、例えば−40℃〜120℃の冷熱衝撃試験を行うと割れを生じるという問題があった。
【0004】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、冷熱衝撃による割れを生じない、十分な強度のリング状ボンド磁石を得ることができるボンド磁石の製造方法および当該製造方法に使用する射出成形用金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者等は従来の射出成形によって割れが生じる原因を鋭意検討した結果、以下の事実が判明した。すなわち、図4に示すように、リング状のボンド磁石を成形する場合には、金型内に形成された円環状のキャビティ1内へ、キャビティ1頂面を構成する型面31(図5)の周方向の複数位置に設けたゲート6から磁性粉を含む熱可塑性樹脂の溶融樹脂材を射出する(図4の矢印)。ゲート6は図5に示すように金型3内に形成されたランナ32の軸線Lに沿って延びており、溶融樹脂材は各ゲート6から、キャビティ1の周方向と直交する方向である下方へ向けて射出される(上記特許文献1参照)。
【0006】
各ゲート6からキャビティ1内へ射出された溶融樹脂材4は図4の矢印で示すようにその略半分づつが互いに反対方向の周方向へ分岐して流れ、隣接するゲート6から射出された樹脂流は両者の中間位置Yで衝突する。そして、この中間位置Yでは図6に模式的に示すように、本来ランダムに方向を変えて配列しているフレーク状磁性粉5が、周方向と直交する同一方向を向いて配列して、いわゆる湯境面を生じる。このため、ゲート間中間位置Yではボンド磁石の強度がゲート直下位置Xに比して大きく低下するために上記中間位置Yで冷熱衝撃による割れを生じ易い。
【0007】
本発明は以上の知見に基づいてなされたもので、円環状のキャビティ(1)内へ周方向の複数位置に設けたゲート(2)から薄細片状の磁性粉(5)を含む溶融樹脂材(4)を射出してリング状ボンド磁石を製造する方法において、各ゲート(2)から射出される溶融樹脂材(4)を、キャビティ(1)の同一周方向へ向けて射出するようにする。この場合、上記ゲート(2)をキャビティ(1)の周方向と直交する方向から20度〜45度の範囲で傾斜させて溶融樹脂材(4)をキャビティ(1)の同一周方向へ向けて射出すると良い。また、上記ボンド磁石の製造方法に使用する射出成形用金型は、円環状のキャビティ(1)を形成した型面(31)の、周方向の複数箇所にキャビティ(1)の同一周方向へ向けてゲート(2)を開口させて、各ゲート(2)から射出される溶融樹脂材(4)を、キャビティ(1)の同一周方向へ向けて射出させるようにしてある。なお、上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【0008】
本発明において、溶融樹脂材は各ゲートからキャビティの周方向へ向けて射出され、射出された溶融樹脂材は大部分が周方向の同方向へ流れるから、隣接するゲートから射出された樹脂流はその大部分が衝突することなく同方向への旋回流となる。これにより、樹脂流の衝突は弱まり、溶融樹脂材中の薄細片(フレーク)状の磁性粉は、ゲート直下位置や隣接するゲート間の中間位置を含めていずれの位置でもランダムに方向を変えて配列して湯境面の発生が抑えられる。これにより、ボンド磁石の強度低下が避けられて、冷熱衝撃による割れの発生が防止される。ここで、ゲートの傾斜角を20度〜45度の範囲に設定すると、湯境面の発生が抑えられるとともに、ランナからゲートに至る溶融樹脂材の円滑な流れが保証される。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明のボンド磁石の製造方法および当該製造方法に使用する射出成形用金型によれば、冷熱衝撃による割れを生じない、十分な強度のリング状ボンド磁石を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1に示すように、金型内に形成された円環状のキャビティ1内へ、キャビティ1頂面を構成する型面31(図2)の周方向の複数位置に設けたゲート2から磁性粉を含む熱可塑性樹脂の溶融樹脂材4が射出されて(図1の矢印)、リング状のボンド磁石が成形される。本実施形態における各ゲート2は図2に示すように金型3内に形成されたランナ32の軸線Lに対し一定の角度θで周方向の同一方向へ傾斜させてある。これにより、溶融樹脂材4は各ゲート2から、傾斜角θでキャビティ1の周方向へ向けて射出される。各ゲート2からキャビティ1内へ射出された溶融樹脂材4は、一部が反対方向へ分岐するものの大部分は周方向の同方向へ流れるから(図1の矢印)、隣接するゲート2から射出された樹脂流はその大部分が衝突することなく同方向への旋回流となる。
【0011】
これにより、樹脂流の衝突は弱まり、図3に模式的に示すように、溶融樹脂材中のフレーク状の磁性粉5は、ゲート直下位置Xや隣接するゲート間の中間位置Yを含めていずれの位置でもランダムに方向を変えて配列して湯境面の発生が抑えられる。これにより、ボンド磁石の強度低下が避けられて、冷熱衝撃による割れの発生が防止される。
【0012】
なお、上記傾斜角θを大きくするほど旋回流は強くなって湯境面の発生が抑制されるが、傾斜角θを45度より大きくすると、ランナ32からゲート2への溶融樹脂材の円滑な流れが阻害されてボンド磁石の安定な成形が困難になるから、上記傾斜角θは45度以下とするのが好ましい。なお、上記熱可塑性樹脂としてはPPS、ナイロン12、ナイロン6等が使用できる。
【0013】
(実施例)
表1は、フレーク厚みが30μmで、平均粒径D50(レーザ式粒度分布測定法による50%メディアン径)が60μmのNd−Fe−B系磁性粉を混合したPPS熱可塑性樹脂の溶融樹脂材を、ゲート2の傾斜角θを変えて環状キャビティ1内へ射出し、成形されたリング状ボンド磁石について、隣接するゲート2間の中間位置Y(図3参照)における曲げ強度(MPa)とゲート直下位置X(図3参照)における曲げ強度(MPa)を測定したものである。なお、成形されたリング状ボンド磁石は、外径が30mm、内径27mm、高さが13mmのものであり、曲げ強度の測定は、上記ゲート間中間位置Yとゲート直下位置Xのそれぞれの箇所から幅(リング状ボンド磁石の周方向)20mm、長さ(リング状ボンド磁石の高さ方向)13mmの寸法に切り出し、幅方向の中間点を毎分1mmの速度で加圧して行った。
【0014】
表1から明らかなように、ゲート傾斜角θが0度、すなわち溶融樹脂材を各ゲート穴から、キャビティ周方向と直交する方向へ射出する従来の方法(比較例)では、湯境面が生じることによって、ゲート間中間位置Yにおける曲げ強度がゲート直下位置Xにおける曲げ強度に比して大きく低下し、冷熱衝撃によるゲート間中間位置Yでの割れの発生が懸念される。これに対して、ゲート傾斜角θを大きくするほど(実施例1〜4)、湯境面の発生が効果的に抑制されてゲート間中間位置Yにおける曲げ強度の低下が小さく抑えられており、これにより割れの発生が防止される。特に、ゲート傾斜角θを20度以上にするとゲート間中間位置Yにおける曲げ強度の低下を十分小さくすることができる。
【0015】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態を示す、リング状ボンド磁石成形用のキャビティの概略透視斜視図である。
【図2】金型のゲート部の断面図である。
【図3】射出された溶融樹脂材中の磁性粉を模式的に示す図である。
【図4】従来例を示す、リング状ボンド磁石成形用のキャビティの概略透視斜視図である。
【図5】金型のゲート部の断面図である。
【図6】射出された溶融樹脂材中の磁性粉を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0017】
1…キャビティ、2…ゲート、3…金型、31…型面、4…溶融樹脂材、5…磁性粉。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状のキャビティ内へ周方向の複数位置に設けたゲートから薄細片状の磁性粉を含む溶融樹脂材を射出してリング状ボンド磁石を製造する方法において、各ゲートから射出される溶融樹脂材を、前記キャビティの同一周方向へ向けて射出するようにしたことを特徴とするボンド磁石の製造方法。
【請求項2】
前記ゲートを前記キャビティの周方向に直交する方向から20度〜45度の範囲で傾斜させて前記溶融樹脂材を前記キャビティの同一周方向へ向けて射出するようにした請求項1に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項3】
円環状のキャビティを形成した型面の、周方向の複数箇所に前記キャビティの同一周方向へ向けてゲートを開口させて、各ゲートから射出される溶融樹脂材を、前記キャビティの同一周方向へ向けて射出させるようにした請求項1に記載のボンド磁石の製造方法に使用する射出成形用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−137138(P2009−137138A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−315364(P2007−315364)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(595181210)株式会社ダイドー電子 (41)
【Fターム(参考)】